説明

下痢性毒オカダ酸・ジノフィシストキシン群または脂溶性毒ペクテノトキシン群の製造方法

【課題】下痢性毒OA(オカダ酸)・DTX(ジノフィシストキシン)群または脂溶性毒PTX(脂溶性毒ペクテノトキシン)群の製造方法の提供。
【解決手段】Dinophysis属プランクトンの大量培養またはDinophysis属プランクトンが毒を効率的に生産する培養条件により、Dinophysis属プランクトンを原料とする下痢性毒オカダ酸・ジノフィシストキシン群または脂溶性毒ペクテノトキシン群の製造方法を提供する。更に、Dinophysis属プランクトンが、D.fortii、D.acuminata、D.caudataまたはD.infundibulusのいずれかである下痢性毒オカダ酸群または脂溶性毒ペクテノトキシン群の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下痢性毒オカダ酸(okadaic acid;以下、OAと示すことがある)・ジノフィシストキシン(Dinophysistoxin;以下、DTXと示すことがある)群または脂溶性毒ペクテノトキシン(Pectenotoxin;以下、PTXと示すことがある)群の製造方法に関する。さらに詳しくは、有毒渦鞭毛藻Dinophysis属プランクトンを大量培養することによる下痢性毒OA・DTX群または脂溶性毒PTX群の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二枚貝による食中毒である下痢性貝中毒は、わが国をはじめ世界的に問題になっている。これは、二枚貝が有毒渦鞭毛藻Dinophysis属プランクトンを含むプランクトンを餌として摂取した場合に、Dinophysis属プランクトンが生産する下痢性毒OA・DTX群及び脂溶性毒PTX群によって毒化されることによる。
この食中毒を避けるために、現在、二枚貝の貝毒検査として動物試験が実施されている。しかし、実験動物を用いるため倫理的な問題等により、近年、非動物試験による検査が導入されようとしている。
【0003】
このような非動物試験として、OAが有するタンパク脱リン酸化酵素2A(PP2A)等の酵素活性を阻害する性質を利用し、OAによる酵素活性阻害の度合いを検出することで試料中の毒の存在および量を検出する方法(例えば、特許文献1参照)や、OAに特異的に反応するモノクローナル抗体を用いて下痢性毒を免疫学的に検出する方法(例えば、特許文献2参照)等が開発されている。
また、貝毒の原因となるDinophysis属プランクトンの大量発生の早期予測を目的とする有毒渦鞭毛藻類検出用核酸断片及びそれを用いた有毒渦鞭毛藻類の検出法(例えば、特許文献3参照)等が得られている。また、非動物試験のひとつとして機器分析等も行われているが、分析において必須とされる分析用標準毒が、二枚貝を原料に精製されてきているために、大量に確保できないという問題があった。
【0004】
そこで、本発明者らは、有毒渦鞭毛藻Dinophysis属プランクトンを原料として、分析用標準毒を製造する方法を検討してきた。本発明者らは、2006年に韓国で開発されたDinophysis acuminata(以下、D.acuminataと示すことがある)の培養方法(例えば、非特許文献1参照)を利用し,Dinophysis培養株を用いた本属の毒生産能を世界で初めて確認した(例えば、非特許文献2参照)。また、Dinophysis属プランクトンのうち、Dinophysis caudata(以下、D.caudataと示すことがある)、Dinophysis fortii(以下、D.fortiiと示すことがある)、Dinophysis infundibulus(以下、D.infundibulusと示すことがある)の培養方法(例えば、非特許文献3〜5参照)を確立した。しかし、これらの培養方法においては、分析用標準毒の製造において十分な量の毒を得るために、Dinophysis属プランクトンが毒を効率的に生産する培養条件等の検討がされておらず、また、Dinophysis属プランクトンを大量に培養することもできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4021682号
【特許文献2】特許第3576184号
【特許文献3】特開2004−298103号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Park et al.,Aquat.Microb.Ecol.,45,101−106
【非特許文献2】Kamiyama & Suzuki 2009,Harmful Algae 8,312−317
【非特許文献3】Nishitani et al.2008.Plankton&Benthos Research,3:78−85
【非特許文献4】Nagai et al.2008.J.Phycology,44:909−922
【非特許文献5】Nishitani et al.2008.Aquat. Microb. Ecol.,52:209−221
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、下痢性毒OA・DTX群または脂溶性毒PTX群の製造方法の提供を課題とする。更に詳しくは、Dinophysis属プランクトンを大量培養することによる下痢性毒OA・DTX群または脂溶性毒PTX群の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、Dinophysis属プランクトンの大量培養を可能とし、また、Dinophysis属プランクトンが毒を効率的に生産する培養条件を見出したことにより、Dinophysis属プランクトンを原料とする下痢性毒OA・DTX群または脂溶性毒PTX群を極めて高い量で製造できる製造方法を完成するに至った。
Dinophysis属プランクトンの大量培養には、Dinophysis属プランクトンの餌となる生物である繊毛虫Myrionecta rubra(以下、M.rubraと示すことがある)を大量に得ることが必要となるが、本発明において、M.rubraの高密度培養および継代培養を可能としたことから、この点を解決することができた。
M.rubraの培養においては、M.rubraの餌となる小型クリプト藻Teleaulax amphioxeia(以下、T.amphioxeiaと示すことがある)を加えて培養を行う必要がある。しかし、T.amphioxeiaは増殖速度が著しく速いため、添加量によってはM.rubraを駆逐してしまうという問題があった。また、M.rubraにおいても、食欲も不定期に変化する特性を有しているため、植え継ぐ際に、T.amphioxeiaの添加量を検討する必要があった。
そこで本発明者らは、T.amphioxeiaの添加量を調整することで、M.rubraの高密度培養および継代培養を可能とし、これによって、M.rubraを餌とするDinophysis属プランクトンの大量培養を可能とした。
さらに、本発明者らは、Dinophysis属プランクトンが毒を効率的に生産する培養条件を検討し、これを見出したことにより、1ヶ月程度の培養で、培養液約10LからPTX2標準毒原料約10mgという、極めて高い量の毒を得ることも可能とした。
【0009】
すなわち、本発明は次の(1)〜(5)の下痢性毒OA・DTX群または脂溶性毒PTX群の製造方法等に関する。
(1)Dinophysis属プランクトンの大量培養方法を用いることによる下痢性毒OA・DTX群または脂溶性毒PTX群の製造方法。
(2)Dinophysis属プランクトンの大量培養方法において、培養温度を10〜22℃とする上記(1)に記載の下痢性毒OA・DTX群または脂溶性毒PTX群の製造方法。
(3)Dinophysis属プランクトンが、D.fortii、D.acuminata、D.caudataまたはD.infundibulusのいずれかである上記(1)または(2)に記載の下痢性毒OA・DTX群または脂溶性毒PTX群の製造方法。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法によって製造され得る下痢性毒OA・DTX群または脂溶性毒PTX群。
(5)上記(4)に記載の下痢性毒OA・DTX群または脂溶性毒PTX群を用いる分析用標準毒。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、下痢性毒OA・DTX群または脂溶性毒PTX群の製造方法によって、大量の下痢性毒OA・DTX群または脂溶性毒PTX群を得ることができ、これらを用いた分析用標準毒の提供が容易となった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】D.fortiiの培養温度による細胞密度を示した図である(実施例2)。
【図2】D.fortiiの培養温度による脂溶性毒PTX2の生産能を示した図である(実施例2)。
【図3】Dinophysis属プランクトンから精製したOAを示した図である(実施例3)。
【図4】Dinophysis属プランクトンから精製したDTX1を示した図である(実施例3)。
【図5】Dinophysis属プランクトンから精製したPTX2を示した図である(実施例3)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の「下痢性毒OA・DTX群または脂溶性毒PTX群の製造方法」は、Dinophysis属プランクトンの大量培養方法を用いて、下痢性毒OA・DTX群または脂溶性毒PTX群が製造できる方法であれば、いずれの方法も用いることができる。
ここで、「Dinophysis属プランクトンの大量培養方法」とは、下痢性毒OA・DTX群または脂溶性毒PTX群を産生し得るDinophysis属プランクトンの藻類を大量に培養できる培養方法のことをいう。
「Dinophysis属プランクトンの大量培養方法」において、Dinophysis属プランクトンが下痢性毒OA・DTX群または脂溶性毒PTX群を大量に生産できる温度でDinophysis属プランクトンを培養することが好ましい。この温度は、これらの毒を大量に産生し得る温度であればいずれの温度でもよいが、例えば、10〜22℃とすることが好ましく、特に18〜22℃とすることが好ましい。
本発明の「下痢性毒OA・DTX群または脂溶性毒PTX群の製造方法」においては、「Dinophysis属プランクトンの大量培養方法」を用いることによって、Dinophysis属プランクトンがその体内に蓄積した下痢性毒OA・DTX群または脂溶性毒PTX群を抽出し、精製することでこれらの毒を製造することができる。
【0013】
本発明の培養に用いる「Dinophysis属プランクトン」としては、下痢性毒OA・DTX群または脂溶性毒PTX群を産生し得る「Dinophysis属プランクトン」に属する藻類であればいずれのものでもよく、例えば、D.fortii、D.acuminata、D.caudataまたはD.infundibulus等が挙げられる。
これらの「Dinophysis属プランクトン」が産生し得る下痢性毒OA・DTX群または脂溶性毒PTX群のうち、下痢性毒OA・DTX群としてはOA、DTX1、DTX2、脂溶性毒PTX群としてはPTX2、PTX11等が挙げられる。
【0014】
本発明の「下痢性毒OA・DTX群または脂溶性毒PTX群の製造方法」によって得られたこれらの毒は、「分析用標準毒」等に用いることができる。
この「分析用標準毒」とは、Dinophysis属プランクトン等の藻類や、二枚貝を試料として、その中に含まれる下痢性毒OA・DTX群または脂溶性毒PTX群等の毒を分析するために機器等を用いた場合に、標準として用いる毒のことをいう。
本発明の「下痢性毒OA・DTX群または脂溶性毒PTX群の製造方法」によって得られるこれらの毒が、下痢性毒OA・DTX群および脂溶性毒PTX群のうち、複数の毒の混合物として得られる場合には、OA、DTX1、DTX2、PTX2、またはPTX11のようにそれぞれの毒に分けて調整することもできる。また、使用の目的によっては、複数の毒が混合した物を調整して用いることもできる。
【0015】
「下痢性毒OA・DTX群または脂溶性毒PTX群の製造方法」によって得られる毒を精製する方法としては、従来知られているいずれの方法も用いることができる。培養株から毒を精製する場合は、二枚貝から精製する場合と比較して、煩雑な精製手順を省略することができ、例えば次の手順によって、毒を簡単に精製することができる。
即ち、
1)本発明に記載の方法で培養したDinophysis属プランクトンを海水または蒸留水に凍結保存し解凍する。この際、Dinophysis属プランクトン内に蓄積された毒が水溶液中に溶出するが、さらに超音波によってDinophysis属プランクトンの細胞を完全に破砕することで、毒を水に溶解させることができる。
2)水溶液に溶出した毒をダイヤイオンHP20(三菱化学)充填ガラスカラムまたはSep−Pak C18 plus(ウォーターズ社)カートリッジカラム等に通して固相抽出する。
固相抽出に用いる毒を溶解した水溶液の液量が多いときにはダイヤイオンHP20(三菱化学)充填ガラスカラムを利用し、少ない場合にはSep−Pak C18 plus(ウォーターズ社)カートリッジカラムを用いることが好ましい。
3)蒸留水で脱塩した後、毒を含水メタノール(20%メタノール、50%メタノール、70%メタノール、100%メタノール)で順次溶出させる。
4)70%メタノール画分等の毒を含む画分から高速液体クロマトグラフィーにより各毒を精製する。
精製用カラムとしてMightysil RP−18(10mmi.d.x250mm)(関東化学株式会社)を用い、移動相溶媒としてアセトニトリル/蒸留水(71:29)含0.05%酢酸を用いる。この条件によりOA、DTX1、PTX2をそれぞれ単離することができる。毒は50%メタノール画分や100%メタノール画分にも含まれるため、これらの画分からも上記の条件で毒を精製する。
5)4)で分画した各毒の画分をロータリーエバポレーターによりアセトニトリルのみを除き、残留した水に溶解している毒をSep−Pak C18 plus(ウォーターズ社)カートリッジカラムで固層抽出する。ロータリーエバポレーターで溶媒を除去する際、水まで除去すると酢酸が濃縮され、酸触媒反応によりPTX2が異性化し、PTX2b等の異性体が生成され毒の回収率が落ちる。したがって、アセトニトリルのみを速やかに除去し、水の濃縮は行わないように注意することにより、PTX2の回収率を上げることができる。
6)蒸留水でカラムを洗浄して酢酸を除去した後、毒をメタノールで溶出させ、溶媒をロータリーエバポレーターで除去する。
【0016】
上記のように分離・精製した各毒について、標準毒を調整する方法としては、従来知られているいずれの方法も用いることができるが、例えば次の手順によって、各毒の標準毒を調整することができる。
即ち、上記のように精製して得られた各毒について、液体クロマトグラフィー/質量分析法等により精製した毒の保持時間及びマススペクトルを既存の標準毒と比較することにより、毒を同定する。更に既知量の標準毒のピーク面積との比較により含量を決定する。各毒の純度は、トータルイオンクロマトグラム(TIC)により、混入した不純物含有率(%)を調べることができるため、ここで毒の純度を決定する。また、液体クロマトグラフィー/ダイオードアレイ検出法、核磁気共鳴法等により不純物のスペクトルを検出することにより、純度を確認することもできる。精製した各毒について溶媒を完全に蒸発させた後、化学天秤により重量を測定し、液体クロマトグラフィー/質量分析法等により測定された精製重量との間で齟齬がないことを確認する。
これを、一定量のメタノールに溶解することで、標準毒または標準毒原液を調整することができる。
このように調整され標準毒または標準毒原液は、溶媒を窒素により除去した後に−20度で保管することができる。
【0017】
以下、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0018】
Dinophysisの大量培養方法
1.M.rubraの継代培養方法
1)M.rubraの取得
2007年2月に大分県猪串湾(131o53’E,34o47’N)からマイクロピペットを用いてM.rubraを分離し、0.5mLの1/3濃度のf/2培地(参考文献1、2、以下同じものを用いた)を入れた48ウェルマイクロプレートに1細胞ずつ入れた。温度18℃、光強度100μmol/m2/s、12hL:12hDの明暗周期の光条件下で培養し、良好に増殖したものを継代培養した。
2)M.rubraの継代培養方法
300mL容の三角フラスコ(Corning社製)を用いて、100mLのf/6培地(参考文献1、2、以下同じものを用いた)に上記1)のM.rubra culture(7.0−9.0x10×3cells/mL)50mLを添加した。これに、餌となる100μLのT.amphioxeia(1.0−2.0x10×4cells)をそれぞれの初期密度(0,25,50,100μL)で100mLのf/6培地に添加し継代培養を行った。
継代培養の培養温度は14−18℃、光強度100μmol/m2/s、明暗周期12hL:12hDに設定した。また、継代培養のための植え継ぎは、1週間に一回行った。
参考文献
1.Guillard,R.R.L.1975.p26−60.Culture of phytoplankton for feeding marine invertebrates.In Culture of Marine Invertebrate Animals(Eds.W.L.Smith&M.H.Chanley),Plenum Press,New York,USA.
2.Nagai S,Matsuyama Y,Oh Seok−Jin,Itakura S.Effect of nutrients and temperature on encystment of the toxic dinoflagellate Alexandrium tamarense(Dinophyceae)isolated from Hiroshima Bay,Japan.Plankton Biology& Ecology,51(2):103−109(2004).
【0019】
2.T.amphioxeiaの継代培養方法
1)T.amphioxeiaの取得
2007年2月に大分県猪串湾(131o53’E,34o47’N)からマイクロピペットを用いてT.amphioxeiaを分離し、0.5mLのM.rubra培養細胞(1.5x10×3ells)を入れた48ウェルマイクロプレートに1細胞ずつ入れた。温度18℃、光強度100μmol/m2/s、12hL:12hDの明暗周期の光条件下で培養し、良好に増殖したものを継代培養した。
2)T.amphioxeiaの継代培養方法
300mL容のプラスチック製三角フラスコを用いて、100mLのf/6培地に上記1)のT.amphioxeia(7.0−8.0x10×4cells/mL)0.3mLを添加し培養を行った。培養における培養液の組成、培養温度、光強度、明暗周期条件は、上記1.のM.rubra培養時の条件と同じであった。
1週間培養した後、新たなフラスコを用いて、増殖したT.amphioxeiaを上記と同じ培養条件で培養した。この操作を2週間ごとに繰り返すことで、T.amphioxeiaの継代培養を行った。
【0020】
3.D.fortiiの継代培養方法
1)D.fortiiの取得
2007年7月に鳥取県赤崎港(133o66’E,35o51’N)からマイクロピペットを用いてD.fortiiを分離し、0.5mLの1/3濃度のf/2培地を入れた48ウェルマイクロプレートに1細胞ずつ入れた。温度18℃、光強度100μmol/m2/s、12hL:12hDの明暗周期の光条件下で培養し、良好に増殖したものを継代培養した。
2)D.fortiiの継代培養方法
上記1.と同様の方法でM.rubra(2−3x10×3cells/mL)を培養しているフラスコ(培養液:150mL)にD.fortii(3−5x10×3cells程度)2−3mLを添加し培養を行った。培養液の組成、培養温度、光強度、明暗周期条件は、上記1.のM.rubra培養時の条件と同じであった。
【0021】
4.D.fortiiの大量培養方法
D.fortiiの大量培養方法として、上記3.と同様の培養条件で40本のフラスコを用いて培養を約1ヶ月間行った。または、さらに大きめの500−1,000mL容のプラスチック製三角フラスコ20本を用いて培養を約1ヶ月間行った。これらの培養液の組成、培養温度、光強度、明暗周期条件は、M.rubraの条件と同じである。
培養開始時のD.fortiiの細胞密度は2.0x10cells/mLであったが、培養終了時におけるD.fortiiの細胞密度は、1.5−4.0x10×3cells/mLであった。
【実施例2】
【0022】
Dinophysis属プランクトンが毒を効率的に生産し得る培養方法
1)M.rubraおよびD.fortiiの前培養
M.rubraおよびD.fortiiを10,14、18、22度の温度条件下で、実施例1と同様の方法でそれぞれ3週間継代培養した。
2)D.fortiiの培養
前培養終了後、100mLのf/6培地に上記1)において各温度で培養したM.rubra culture(6.0x10×3cells/mL)50mLをそれぞれ添加し、300mL容の三角フラスコ(Corning社製)に入れた。
これに、上記1)において各温度で培養したD.fortiiを、同じ温度で前培養したM.rubra culture が添加されたフラスコに2.0x10cells/mLの初期密度となるように1mL添加し(3x10×3cells/mL)、それぞれ10,14、18、22度の温度で、光強度100μmol/m2/s、明暗周期12hL:12hDの条件下で1ヶ月間、培養を行った。
3日毎に、D.fortii細胞密度(図1)と脂溶性毒PTX群の生産量(図2)を測定した結果、図2に示したように、いずれの温度でも高い脂溶性毒PTX群の生産を示したが、18、22度で培養したM.rubraおよびD.fortiiを用いた場合に、特に脂溶性毒PTX群の生産量が高くなることが確認された。
【実施例3】
【0023】
標準毒の調整方法
実施例1.4に記載のD.fortiiの大量培養方法によって培養したD.fortiiより、D.fortiiが生産したOA、DTX1およびPTX2を精製した。
即ち、
1)実施例1.4に記載のD.fortiiを海水または蒸留水に凍結保存し解凍した。この際、D.fortii内に蓄積された毒が水溶液中に溶出するが、さらに超音波によってD.fortiiの細胞を完全に破砕することで、毒を水に溶解させた。
2)水溶液に溶出した毒をダイヤイオンHP20(三菱化学)充填ガラスカラムまたはSep−Pak C18 plus(ウォーターズ社)カートリッジカラムに通して固相抽出した。
3)蒸留水で脱塩した後、毒を含水メタノール(20%メタノール、50%メタノール、70%メタノール、100%メタノール)で順次溶出させた。
4)70%メタノール画分、50%メタノール画分や100%メタノール画分等の毒を含む画分から、次の条件で高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によりOA、DTX1およびPTX2の各毒を精製した。
HPLC条件
カラム:Mightysil RP−18(10mmi.d.x250mm)(関東化学株式会社)
移動相:A 蒸留水 含0.05%酢酸
B アセトニトリル:蒸留水(95:5v/v)含0.05%酢酸
移動相溶媒:B/A(75:25)含0.05%酢酸
流速:5mL/min
5)4)で分画した各毒の画分をロータリーエバポレーターによりアセトニトリルのみを除き、残留した水に溶解している毒をSep−Pak C18 plus(ウォーターズ社)カートリッジカラムで固層抽出した。
ロータリーエバポレーターで溶媒を除去する際、水まで除去すると酢酸が濃縮され、酸触媒反応によりPTX2が異性化し、毒の回収率が落ちることから、アセトニトリルのみを速やかに除去し、水の濃縮は行わないように注意することで、PTX2の回収率を上げた。
6)蒸留水でカラムを洗浄して酢酸を除去した後、各毒をメタノールで溶出させ、溶媒をロータリーエバポレーターで除去した。
【0024】
上記の方法によって精製されたOA、DTX1およびPTX2の各毒について、LC−MSクロマトグラムとMSスペクトルの結果を下記の条件によって調べ、各毒の純度をトータルイオンクロマトグラム(TIC)のピーク面積百分率(%)により求めることで標準毒の調整を行った。その結果、OA、DTX1、PTX2ともに95%以上の高濃度であり、機器分析等に用いるための分析用標準毒として利用可能であることが確認された。
図3にOAのLC−MSクロマトグラムとMSスペクトルを、図4にDTX1のLC−MSクロマトグラムとMSスペクトルを、図5にPTX2のLC−MSクロマトグラムとMSスペクトルを示した。
いずれの図もA:トータルイオンクロマトグラム(TIC)m/z700−1000、B:各毒のアンモニウム付加イオン[M+NH4+のマスクロマトグラム、C:各毒のマススペクトルを示したものである。
【0025】
LC−MS条件
カラム:Hypersil BDS C8(2.1mmi.d.x50mm)(Keystone Scientific)
移動相:A 蒸留水 含50mMギ酸、2mMギ酸アンモニウム
B アセトニトリル:蒸留水(95:5v/v)含50mMギ酸、2mMギ酸アンモニウム
グラジエント溶出 40%B〜100%B 5分、その後5分間100%Bで溶出
流速:0.2mL/min
イオン化法:電子スプレーイオン化法(陽イオンモード)
イオン化電圧:5kV
イオン源温度:300℃
検出:m/z700−1000 フルスキャン検出
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の製造方法によって得られる下痢性毒OA・DTX群または脂溶性毒PTX群を分析用標準毒として用いることで、分析機器等による二枚貝の貝毒検査が容易となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Dinophysis属プランクトンの大量培養方法を用いることによる下痢性毒オカダ酸・ジノフィシストキシン群または脂溶性毒ペクテノトキシン群の製造方法。
【請求項2】
Dinophysis属プランクトンの大量培養方法において、培養温度を10〜22℃とする請求項1に記載の下痢性毒オカダ酸ジノフィシストキシン群または脂溶性毒ペクテノトキシン群の製造方法。
【請求項3】
Dinophysis属プランクトンが、D.fortii、D.acuminata、D.caudataまたはD.infundibulusのいずれかである請求項1または2に記載の下痢性毒オカダ酸群または脂溶性毒ペクテノトキシン群の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法によって製造され得る下痢性毒オカダ酸・ジノフィシストキシン群または脂溶性毒ペクテノトキシン群。
【請求項5】
請求項4に記載の下痢性毒オカダ酸・ジノフィシストキシン群または脂溶性毒ペクテノトキシン群を用いる分析用標準毒。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−15677(P2011−15677A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275063(P2009−275063)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(501168814)独立行政法人水産総合研究センター (103)
【Fターム(参考)】