説明

下部ステッチ部を有するズボンおよびその製造方法

【課題】使用者の身体に合わせて裾長を調節した状態においても、裾長調節前の状態と同
じ続一性のとれた風合いを維持することができる構成の裾に下部ステッチ部を有するズボ
ンを提供することを課題とする。
【解決手段】ズボン本体10の裾長H1と裾端部材20の下端部折曲線23から地縫線2
1までの長さH2とを加えると、目標裾長Hとなるように地縫線11,21を設定する。
地縫線21は下部ステッチ部3の若干上側に設定する。ズボン本体10に縫代部12が形
成され、裾端部材20に縫代部22が形成されるように切断線C1,C2で切断する。縫
代部12と縫代部22とが中表状態になるようにして地縫線11,21に沿って縫い付け
てズボンを完成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジーンズのズボン等のように裾の下端部付近に装飾性のある下部ステッチ部
を有するズボンおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図11は、従来から店頭に展示されているジーンズのズボンの構成を示した構成図であ
る。
【0003】
このようなジーンズのズボン1の裾2には、通常、ズボン1の生地の色とは異なった色
の糸によって形成されるステッチ部が設けられており、このステッチ部がジーンズのズボ
ン1の装飾性を高めるものとなっている。図11に示したジーンズのズボン1の裾2には
、その下端部付近に全周に亘る下部ステッチ部3が設けられており、また、その内股側に
は側部ステッチ部4が設けられている。
【0004】
この側部ステッチ部4は、図11に表されている前側の生地と図11の裏面側に位置す
る後側の生地とを縫い付ける糸によって形成されている。また裾2の外側には、前側の生
地と後側の生地とを中表状態にして地縫いしてある側部地縫部5が形成されている。
【0005】
下部ステッチ部3は、裾2を構成する生地の端部を内側に折り返した状態で縫い付ける
糸によって形成されている。
【0006】
以上のように構成されたジーンズのズボン1は、その購入を希望する使用者の身体に合
わせて裾長を調節した状態にして使用者に販売されている。
【0007】
このような裾長の調節は以下のようにして行われる。先ず、図12に示すように、目標
とする裾長Hに、内側に折り曲げる折曲部6の幅Rを加えた長さの位置で裾2を切断する

【0008】
次に、折曲部6を内側に折り曲げて、この折り曲げた折曲部6を図13に示す下部ステ
ッチ部3を形成する糸を用いて全周に亘って縫い付けて裾長の調節を終了する。この図1
3は、左側の裾2の裾長のみを調節した状態を示したものであり、右側の裾2の裾長の調
節も同様にして行なわれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このようなジーンズのズボン1においては、その装飾性をより高めるために、使い古し
たような風合いに加工する所謂「中古加工」が施されているものがある。ここで、「中古
加工」が施されているジーンズのズボン1の裾長の調節を、先に説明した従来の方法で行
なった場合には以下のような問題が生じる。
【0010】
即ち、「中古加工」が施されたジーンズのズボン1の場合、図11に示した展示状態で
は、下部ステッチ部3付近のような端部においてその色落ちが顕著に表れている。しかし
ながら、従来の裾長調節の方法では、あまり色落ちしていない生地の部分によって裾の端
分が新たに形成されることになるために、図14に示したように使用者がこのようなジー
ンズのズボン1を着用したときには、下部ステッチ部3付近の部分の風合いが他の部分の
風合いと異なってしまいファッションの続一性が損なわれるという問題が生じてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の問題を解決するために本発明に係る下部ステッチを有するズボンは、ズボンの裾
の下端部付近に、その全周に亘って形成されている下部ステッチ部を有するズボンにおい
て、前記ズボンは、前記下部ステッチ部を含む左右の裾端部材とズボン本体との3体によ
って構成され、前記裾端部材は、前記ズボンの裾の下端部を形成する下端部折曲線を介し
て連設されている表側部材と裏側部材とによって構成され、前記表側部材の前記下部ステ
ッチ部の若干上側に当該下部ステッチ部と略平行に設定された地縫線より上側の縫代部と
、前記ズボン本体の下端部付近にその全周に亘って設定された地縫線より下側の縫代部と
が中表になった状態で、前記ズボン本体の前記地縫線と前記表側部材の前記地縫線とに沿
って前記ズボン本体と前記表側部材とが地縫糸によって縫い付けられ、前記裾端部材の前
記表側部材と前記裏側部材とが前記下端部折曲線で折り曲げられた状態で、前記下部ステ
ッチ部を構成する糸によって縫い付けられていることを特徴とするものである。
【0012】
また、以上の問題を解決するために本発明に係る下部ステッチを有するズボンの製造方
法は、ズボンの裾(2)の側部に側部ステッチ部(4)と側部地縫部(5)とを有し、裾
(2)の下端部付近に、その全周に亘って形成されている下部ステッチ部(3)を有する
ズボン(1)の裾長を調節して完成品とする下部ステッチ部を有するズボンの製造方法に
おいて、前記下部ステッチ部(3)の若干上側に当該下部ステッチ部(3)と略平行に第
1の地縫線(21)を設定し、当該第1の地縫線(21)の上側に幅W2の縫代部(22
)が形成されるように当該縫代部(22)の上端で切断して裾端部材(20)を形成する
第1の工程と、切り離されたズボン本体(10)の第2の地縫線(11)までの裾長H1
を、前記裾端部材(20)の下端部を形成する下端部折曲線(23)から前記第1の地縫
線(21)までの裾端部長H2と目標とする裾長Hとから算出し、算出された本体裾長H
1に縫代部(12)の幅W1を加えた位置でズボン本体(10)を切断する第2の工程と
、前記裾端部材(20)に含まれる前記側部地縫部(5)を形成する地縫糸と前記下部ス
テッチ部(3)を形成する糸とを全て解き、前記ズボン本体(10)の下端部付近の前記
側部地縫部(5)を形成する地縫糸を解く第3の工程と、前記ズボン本体(10)の前記
縫代部(12)と、前記裾端部材(20)の前記縫代部(22)とを中表状態にした上、
前記第1の地縫線(21)および前記第2の地縫線(11)に沿って地縫糸で縫い付ける
第4の工程と、前記裾端部材(20)の前記下端部折曲線(23)より下側に位置する裏
側部材(20B)を前記下端部折曲線(23)に沿って内側に折り曲げ、当該裏側部材(
20B)と表側に位置する表側部材(20A)とを下部ステッチ部(3)を形成する糸に
よって縫い付ける第5の工程と、前記ズボン本体(10)の下端部付近の前記側部地縫部
(5)の地縫糸が解かれている部分と、これに連設されている前記裾端部材(20)の前
記側部地縫部(5)を形成する部分とを地縫糸で再度縫い付けて前記側部地縫部(5)を
修復する第6の工程とを有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、使用者の身体に合わせて裾長を調節した状態においても、裾長調節前
の状態と同じ続一性のとれた風合いを維持することができる構成の裾に下部ステッチ部を
有するズボンを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を用いて本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明の実施例1の構成を示した構成図である。図1に示すジーンズのズボン
1の左側の裾2は、使用者の身体に合わせて目標となる裾長Hになるように調節が終了し
た状態となっており、右側の裾2は、裾長が末調節な店頭展示状態となっている。
【0016】
本実施例1に係るジーンズのズボン1は、下記ステッチ部3を含む左右の裾2の端部を
構成する2つの裾端部材20とズボン本体10との3体によって構成されている。また、
このジーンズのズボン1の裾2には、従来と同様に側部ステッチ部4と側部地縫部5とが
形成されている。
【0017】
以下、店頭に展示されている裾長が末調節な状態から裾長を調節した完成状態に至る本
実施例1の制作工程について図を用いて説明する。
【0018】
先ず、図1の右側の裾2に示した2つの切断線C1,C2で裾2を切断してズボン本体
10と裾端部材20とを分離した状態にする。
【0019】
この切断線C1,C2の位置の決定方法を裾2の端部付近を拡大して示した図2を用い
て説明する。
【0020】
初めに、分離されたズボン本体10と裾端部材20とを再度縫い付けるときに使用する
地縫線の位置を定める。
【0021】
裾端部材20側の地縫線21は、下部ステッチ部3から若干上方(本実施例1において
は2mm〜3mm)の位置に下部ステッチ部3と略平行になるように設定する。この地縫
線21と、裾端部材20の下端部を形成する下端部折曲線23との距離を裾端部長H2と
する。
【0022】
ズボン本体10側の地縫線11は、この地縫線11までのズボン本体10の裾長H1(
以下、「本体裾長H1」という)と裾端部長H2との和が、図1に示した目標裾長Hとな
るような位置に設定する。
【0023】
ズボン本体10側の切断線C1は、本体裾長H1に、地縫線11の下側に位置する縫代
部12の幅W1を加えた位置に設定し、裾端部材20側の切断線C2は、裾端部長H2に
、地縫線21の上側に位置する縫代部22の幅W2を加えた位置に設定する。
【0024】
ここで、縫代部12の幅W1や縫代部22の幅W2は、特に限定される値ではなく、仕
上がり状態や作業効率等により適宜設定されるものであり、また、後述する工程において
その作業の必要上からその都度減少させることも可能である。
【0025】
以上のように設定された切断線C1,C2によって分離された状態となっているズボン
本体10と、裾端部材20とを図3に示す。
【0026】
図3に示したように、裾端部材20は、下端部折曲線23を介して連設されている表側
部材20Aと裏側部材20Bとによって構成されており、この両者は下部ステッチ部3を
形成する糸によって縫い付けられている。ここで、4は側部ステッチ部であり、5は側部
地縫部である。
【0027】
図3に示した状態において、裾端部材20の下部ステッチ部3を形成している糸を解き
、側部地縫部5を形成している地縫糸を解いて、裾端部材20を、図4に示したように広
げた状態にする。この際、ズボン本体10の側部地縫部5を形成している地縫糸も、後の
作業が行ないやすいように適当な長さだけ解いておく。
【0028】
次に、図5に示したように、裾端部材20の裏側部材20Bの端部にオーバーロックを
施して、表側部材20Aの縫代部22を地縫線5に沿って内側に折り曲げる。また、ズボ
ン本体10の縫代部12を地縫線11に沿って折り曲げる。
【0029】
このように縫代部12と縫代部22とを中表状態にしておき、図6に示すように、ズボ
ン本体10と裾端部材20とを地縫線11,21に沿って地縫糸を用いて縫い付ける。こ
のとき、図4に示す裾端部材20の側部ステッチ部4と、ズボン本体10の側部ステッチ
部4との位置を合わせて、この側部ステッチ部4を始点として左右方向に半周分づつ地縫
糸によって縫い付けることとすれば、上下方向で裾の幅が異なるスリムタイプのズボンや
ベルボトムタイプのズボンにおいても、側部ステッチ部4の位置をずらすことなくズボン
本体10と裾端部材20との縫い付けを行なうことができる。
【0030】
次に、図7に示したように、下端部折曲線23に沿って裏側部材20Bを内側に折り曲
げて、この裏側部材20Bと表側部材20Aとを下部ステッチ部3を形成する糸によって
縫い付け、図8に示した状態にする。
【0031】
最後に、側部地縫部5を地縫糸によって元の状態に縫い付けて修復し、図9に示した状
態にして裾長の調節作業を終了する。
【0032】
ここで、以上説明した実施例においては、図8に示したように下部ステッチ部3を形成
した後に、図9に示したように側部地縫部5を修復する手順となっているが、この手順は
、側部地縫部5を修復した後に下部ステッチ部3を形成する手順としてもよい。
【0033】
さらに、図10(a)〜(c)に示したように、ジーンズのズボン1の内側に位置する
表側部材20Aの縫代部22や裏側部材20Bは、どのように折り曲げられていても本発
明の効果に影響はない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施例1に係るズボンの構成を示した構成図である。
【図2】図1に示したズボンの製造方法の説明図である。
【図3】図1に示したズボンの製造方法の説明図である。
【図4】図1に示したズボンの製造方法の説明図である。
【図5】図1に示したズボンの製造方法の説明図である。
【図6】図1に示したズボンの製造方法の説明図である。
【図7】図1に示したズボンの製造方法の説明図である。
【図8】図1に示したズボンの製造方法の説明図である。
【図9】図1に示したズボンの製造方法の説明図である。
【図10】図1に示したズボンの構成の説明図である。
【図11】従来のズボンの構成を示す構成図である。
【図12】従来のズボンの裾長の調整方法の説明図である。
【図13】従来のズボンの裾長の調整方法の説明図である。
【図14】従来のズボンの説明図である。
【符号の説明】
【0035】
1 ズボン
2 裾
3 下部ステッチ部
4 側部ステッチ部
5 側部地縫部
6 折曲部
10 ズボン本体
11,21 地縫線
12,22 縫代部
20 裾端部材
20A 表側部材
20B 裏側部材
23 下端部折曲線
C1,C2 切断線
H 目標裾長
H1 本体裾長
H2 裾端部長
W1,W2 幅


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ズボンの裾の下端部付近に、その全周に亘って形成されている下部ステッチ部を有する
ズボンにおいて、
前記ズボンは、前記下部ステッチ部を含む左右の裾端部材とズボン本体との3体によっ
て構成され、
前記裾端部材は、前記ズボンの裾の下端部を形成する下端部折曲線を介して連設されて
いる表側部材と裏側部材とによって構成され、
前記表側部材の前記下部ステッチ部の若干上側に当該下部ステッチ部と略平行に設定さ
れた地縫線より上側の縫代部と、前記ズボン本体の下端部付近にその全周に亘って設定さ
れた地縫線より下側の縫代部とが中表になった状態で、前記ズボン本体の前記地縫線と前
記表側部材の前記地縫線とに沿って前記ズボン本体と前記表側部材とが地縫糸によって縫
い付けられ、
前記裾端部材の前記表側部材と前記裏側部材とが前記下端部折曲線で折り曲げられた状
態で、前記下部ステッチ部を構成する糸によって縫い付けられていることを特徴とする下
部ステッチ部を有するズボン。
【請求項2】
ズボンの裾(2)の側部に側部ステッチ部(4)と側部地縫部(5)とを有し、裾(2
)の下端部付近に、その全周に亘って形成されている下部ステッチ部(3)を有するズボ
ン(1)の裾長を調節して完成品とする下部ステッチ部を有するズボンの製造方法におい
て、
前記下部ステッチ部(3)の若干上側に当該下部ステッチ部(3)と略平行に第1の地
縫線(21)を設定し、当該第1の地縫線(21)の上側に幅W2の縫代部(22)が形
成されるように当該縫代部(22)の上端で切断して裾端部材(20)を形成する第1の
工程と、
切り離されたズボン本体(10)の第2の地縫線(11)までの裾長H1を、前記裾端
部材(20)の下端部を形成する下端部折曲線(23)から前記第1の地縫線(21)ま
での裾端部長H2と目標とする裾長Hとから算出し、算出された本体裾長H1に縫代部(
12)の幅W1を加えた位置でズボン本体(10)を切断する第2の工程と、
前記裾端部材(20)に含まれる前記側部地縫部(5)を形成する地縫糸と前記下部ス
テッチ部(3)を形成する糸とを全て解き、前記ズボン本体(10)の下端部付近の前記
側部地縫部(5)を形成する地縫糸を解く第3の工程と、
前記ズボン本体(10)の前記縫代部(12)と、前記裾端部材(20)の前記縫代部
(22)とを中表状態にした上、前記第1の地縫線(21)および前記第2の地縫線(1
1)に沿って地縫糸で縫い付ける第4の工程と、
前記裾端部材(20)の前記下端部折曲線(23)より下側に位置する裏側部材(20
B)を前記下端部折曲線(23)に沿って内側に折り曲げ、当該裏側部材(20B)と表
側に位置する表側部材(20A)とを下部ステッチ部(3)を形成する糸によって縫い付
ける第5の工程と、
前記ズボン本体(10)の下端部付近の前記側部地縫部(5)の地縫糸が解かれている
部分と、これに連設されている前記裾端部材(20)の前記側部地縫部(5)を形成する
部分とを地縫糸で再度縫い付けて前記側部地縫部(5)を修復する第6の工程とを有する
ことを特徴とする下部ステッチ部を有するズボンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−154387(P2007−154387A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−354879(P2005−354879)
【出願日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(500058279)ブルーウェイ株式会社 (1)
【Fターム(参考)】