説明

不斉合成法

本発明は、第VIII副族の金属と非共有結合を介して二量化することのできる配位子との錯体少なくとも1種を包含しているキラル触媒の存在下での、不斉合成法、そのような触媒並びにその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第VIII副族の金属と非共有結合を介して二量化することのできる配位子との錯体少なくとも1種を含有するキラル触媒の存在における不斉合成法、このような配位子及び触媒並びにそれらの使用に関する。
【0002】
不斉合成とは、プロキラル原子団からキラル原子団を生じる反応を称し、この反応では立体異性生成物(エナンチオマー又はジアステレオマー)が等しくない量で生じる。屡々特定の光学活性異性体のみが治療活性であるので、この不斉合成は、特に薬剤工業の分野で重要性が増している。従って、新規の不斉合成法及び特定の立体中心の大きい不斉感応を有する特定の触媒が常に必要である、即ちこの合成は、所望の異性体を高い光学純度でかつ高い化学的収率でもたらすべきである。
【0003】
反応の重要な1群は、炭素−炭素−及び炭素−ヘテロ原子−多重結合への付加である。この場合にC=X−二重結合(X=C、ヘテロ原子)の双方の隣接原子への付加は、1,2−付加とも称される。加えて付加反応は付加される基の種類によって特徴付けられ、この際、水素原子の付加はヒドロ−付加と、炭素含有フラグメントの付加はカルボ−付加と称される。従って、1−ヒドロ−2−カルボ−付加とは、水素及び炭素含有基の付加を称する。これら反応の重要な代表は、例えばヒドロホルミル化、ヒドロシアン化及びカルボニル化である。炭素−炭素−及び炭素−ヘテロ原子−多重結合へのもう一つの非常に重要な付加は、水素化である。プロキラルなエチレン系不飽和化合物への不斉付加反応のための、良好な触媒活性及び高い立体選択性を有する触媒の需要がある。
【0004】
ヒドロホルミル化又はオキソ合成は重要な工業的方法であり、オレフィン、一酸化炭素及び水素からのアルデヒドの製造に使用されている。このアルデヒドは、場合により同じ操作工程で水素によって相応するオキソ−アルコールまで水素化されうる。不斉ヒドロホルミル化は、キラルアルデヒドの合成のための重要な方法であり、かつ芳香物質、化粧品、植物保護剤及び医薬品の製造のためのキラル構成単位への到達手順として重要である。ヒドロホルミル化反応それ自体は強い発熱性であり、一般に高圧下にかつ高温度で触媒の存在下に進行する。触媒としては、活性及び/又は選択性に影響するN−、P−、As−又はSb−含有配位子で変性されていてよい、Co−、Rh−、Ir−、Ru−、Pd−又はPt−化合物又は−錯体が使用される。2個より多いC−原子を有するオレフィンのヒドロホルミル化反応の場合には、二重結合の双方のC−原子の各々への可能なCO−付加に基づき、異性アルデヒドの混合物の形成が可能である。加えて、少なくとも4個の炭素原子を有するオレフィンの使用の場合には、二重結合異性化によって異性オレフィンの及び場合によっては異性アルデヒドの混合物の形成も起こりうる。従って、有効な不斉ヒドロホルミル化を達成するためには次の条件が満たされるべきである:
1.触媒の高い活性、2.所望のアルデヒドに関する高い選択性及び3.所望の異性体に好適な高い立体選択性。
【0005】
ロジウム触媒−低圧−ヒドロホルミル化の場合の触媒金属の安定化及び/又は活性化のために燐含有配位子が使用されることは公知である。好適な燐含有配位子は、例えばホスフィン、ホスフィナイト、ホスホナイト、ホスファイト、ホスホルアミダイト、ホスホール及びホスファベンゼンである。現在最も広く提供されている配位子は、トリアリールホスフィン、例えばトリフェニルホスフィン及びスルホン化されたトリフェニルホスフィンである。それというのもこれらは反応条件下に充分な安定性を有するからである。
【0006】
配位可能な基2個を有するキレート配位子の使用は、不斉ヒドロホルミル化反応で達成される立体選択性に有利に作用することは公知である。例えば、M.M. H.Lambers-Verstappen und J.de Vries は、 Adv. Synth. Catal. 2003, 345, Nr.4, S.478-482に、不飽和ニトリルのロジウム触媒作用ヒドロホルミル化を記載しており、ここでは不斉BINAPHOS−配位子を用いる場合にのみ満足しうる不斉ヒドロホルミル化が可能であった。更にキレート配位子の使用は、ヒドロホルミル化の際の達成されるn−選択性に有利に作用することも公知である(Moulijn, van Leeuwen und van Santen, Catalysis, Bd. 79, S.199-248,Elsvier 1993参照)。しかしながら、キレート配位子の使用に付随する欠点は、その調製のために非常に経費のかかる合成が必要であり、かつ/又はそれが劣悪な収率でのみ得られることである。
【0007】
M.Akazome et.al.は、J.Org.Chem.2000,65, S.6917-6921に、2−ピロリドン環を有するホスフィンの合成、固体構造及び凝集特性を記載している。G.R.Newkome und D.C.Hagerは、J.Org.Chem.1978,43,S.947-949に、ピリジルジフェニルホスフィンの製造法を記載している。これらの文献中には、遷移金属触媒中の配位子としての使用は記載されていない。US4786443及びUS4940787中には、パラジウム−触媒の存在下におけるアセチレン系不飽和化合物のカルボニル化法が記載されている。配位子として、ヘタリール基少なくとも1個、例えば置換又は非置換のピリジル基を有するホスフィンが使用される。配位子としての、非共有結合を形成することのできる基少なくとも1個を有するホスフィンの使用は記載されていない。
【0008】
WO80/01690は、P−原子にアリール基2個及びアルキレン橋1個を介してヘテロ原子含有基を結合しているホスフィン配位子少なくとも1個を含有するロジウム触媒を記載している。このヘテロ原子含有基は、多くの種々異なる基であってよく、この際、特にカルボン酸アミド基含有基も挙げられる。しかしながらこの文献は、分子間非共有結合を形成することのできる官能基を有する配位子の使用を教示してはいない。即ちカルボン酸アミド含有配位子に関する特有の実施例は、(N−2−ピロリジノニルエチル)ジフェニルホスフィン(これは、アミド基の間で分子間非共有結合を形成することができない)に関する。US4687874は、WO80/01690に匹敵する開示内容を有している。
【0009】
未公開ドイツ特許出願P10313319.4明細書は、高いn−選択性で1−オレフィンをヒドロホルミル化するために好適であるヒドロホルミル化法を記載している。ここでは、分子間非共有結合を形成することのできる単一燐配位子をベースとするヒドロホルミル化触媒が使用されている。このような配位子は原則的に、分子間非共有結合を介して二量化して、プソイドキレート錯体を形成することができる。
【0010】
B.Breit und W.Seicheは、J.Am.Chem.Soc.2003,125,6608-6609に、水素橋結合を介する一座配位子の二量化による二座ドナー配位子の形成及び高いレギオ選択性を有するヒドロホルミル化触媒中でのその使用を記載している。
【0011】
先に挙げられている文献のいずれも、不斉合成で使用するためのキラル配位子又は触媒に関するものではない。
【0012】
EP−A−0614870は、ヒドロホルミル化触媒としての、1,1’−ビナフチレン−骨格を有する非対称燐原子含有配位子を有するロジウム錯体の存在下におけるプロキラル1−オレフィンのヒドロホルミル化により光学活性アルデヒドを製造する方法を記載している。この非対称燐原子含有配位子の製造は高い合成経費と結び付いている。EP−A−0614901、EP−A−0614902、EP−A−0614903、EP−A−0684249及びDE−A−19853748は、比較可能な構造を有する非対称燐原子含有配位子を記載している。
【0013】
WO93/03839(EP−B−0600020)は、配位子としての光学活性プニコゲン化合物を包含している光学活性金属−配位子−錯体−触媒及びこのような触媒の存在下での不斉合成法を記載している。
【0014】
本発明は、高い立体選択性を有するキラル化合物の製造法を提供する課題を有する。更に、この所望の異性体を高い収率でも得るべきである。本発明の特別な1課題は、高い立体選択性で炭素−炭素−及び炭素−ヘテロ原子−多重結合の水素化のために好適である方法を提供することである。本発明のもう一つの特別な課題は、高い立体選択性でオレフィンのヒドロホルミル化のために好適であるヒドロホルミル化法を提供することである。この方法では有利に、その配位子が容易にかつ良好な収率で製造可能である触媒を使用すべきである。
【0015】
意外にも、この課題は、分子間非共有結合を形成することのできるモノプニコゲン配位子又はモノプソイドプニコゲン配位子をベースとするキラル触媒の提供によって解決されることが判明した。このような配位子は、原則的に分子間非共有結合を介して二量化することができ、従ってプソイドキレート錯体を形成することができる。
【0016】
従って本発明の課題は、それぞれプニコゲン原子含有基又はプソイドプニコゲン原子含有基1個及び分子間非共有結合を形成することのできる官能基少なくとも1個を有する配位子を有する遷移金属錯体少なくとも1種を包含するキラル触媒の存在下における、エチレン系不飽和二重結合少なくとも1個を有するプロキラル化合物と基質との反応によって、キラル化合物を製造する方法であり、この際、この錯体は分子間非共有結合を介して二量化された配位子を有する。
【0017】
更に本発明は、それぞれプニコゲン原子含有基又はプソイドプニコゲン原子含有基1個及び分子間非共有結合を形成することのできる官能基少なくとも1個を有する配位子並びにキラル触媒に関する。
【0018】
概念「プニコゲン原子」とは、元素の周期律表の第V主族の原子を表す。有利なプニコゲン原子はN、P、As及びSbであり、N及びPが特に有利である。プニコゲン原子が窒素原子である場合には、これは有利に、イミン(=N−)として存在し、即ちこれは隣接原子に対して1個の二重結合を有する。プニコゲン原子としてP−原子が特別に使用される。
【0019】
概念「プソイドプニコゲン原子」とは、プニコゲン原子と同等な作用をする原子を表す。有利なプソイドプニコゲン原子は、カルベン炭素原子である。相応して、「プソイドプニコゲン原子含有基」は、プニコゲン原子含有基と同等な作用をする基である。有利なプソイドプニコゲン原子含有基は、W.A.Herrmann により Angew. Chem. 2002, 114, S.1342 -1363に記載されているようなN−ヘテロ環式カルベンである。この文献の開示は充分に参照されうる。
【0020】
本発明の範囲における「キラル化合物」とは、少なくとも1個のキラリティ中心(即ち少なくとも1個の不斉原子、殊に少なくとも1個の不斉C−原子又はP−原子)、キラリティ軸、キラリティ面又は螺旋巻きを有する化合物である。
【0021】
本発明の範囲で、概念「キラル触媒」は広く理解される。これには、キラル配位子少なくとも1個を有する触媒も、非共有交換作用の結果としての配位子の配置及び/又は錯結合された形の配位子の配置に基づく中心キラリティ、軸キラリティ、面キラリティ又は螺旋性を有する固有のそれ自体アキラルな配位子を有する触媒も包含される。
「アキラル化合物」とは、キラルではない化合物である。
「プロキラル化合物」とは、プロキラル中心少なくとも1個を有する化合物であると理解される。「不斉合成」とは、プロキラル中心少なくとも1個を有する化合物からキラリティ中心少なくとも1個、1キラリティ軸、キラリティ面又は螺旋巻きを有する化合物を生じる反応を称しており、この際、立体異性生成物が等しくない量で生じる。
【0022】
「立体異性体」とは、同じ構成成分であるが立体空間で異なる原子配置をしている化合物である。
【0023】
「エナンチオマー」とは、相互に鏡像関係にある立体異性体である。この場合に、不斉合成で得られる「エナンチオマー過剰」(enantiomeric excess、ee)は、次の式:
ee[%]=(R−S)/(R+S)×100にって従って得られる。R及びSは、双方のエナンチオマーのCIP−システムの記述子であり、不斉原子に付いている絶対配置を示している。エナンチオマー純粋な化合物(ee=100%)は、「ホモキラル化合物」とも称される。
【0024】
本発明の方法は、特定の1立体異性体で富化されている生成物をもたらす。得られる「エナンチオマー過剰」(ee)は、通常は少なくとも20%、有利には少なくとも50%、特に少なくとも80%である。
【0025】
「ジアステレオマー」は、相互にエナンチオマーでない立体異性体である。
【0026】
意外にも、モノプニコゲン配位子又はモノプソイドプニコゲン配位子(1分子当たり1個のみのプニコゲン原子含有基又はプソイドプニコゲン原子含有基を有する配位子)を有する錯体少なくとも1種を含有し、分子間非共有結合を介して二量体(この二量体において、双方のプニコゲン原子/プソイドプニコゲン原子の間の間隔は、キレート配位子に通常であるような範囲である)を形成することのできるキラル触媒は、この不斉合成での使用の場合に、さもなければキレート配位子を用いる場合にのみ得られるような高い立体選択性を達成することが判明した。更にこの触媒を用いることにより、一般にキレート配位子に典型的なレギオ選択性をも得ることができる。従って例えば、ヒドロホルミル化においてそれが使用される場合には、キレート配位子を用いてのみ得られるようなレベルの高いn−選択性が達成される。
【0027】
分子間非共有結合を介して二量体を形成することができる配位子は、本発明の範囲ではプソイドキレート配位子とも称される。
【0028】
本発明によれば、分子間非共有結合を形成することのできる官能基を有する配位子が使用される。この結合は有利に水素架橋結合又はイオン結合、殊に水素架橋結合である。有利な1実施形ではこの官能基は、互変異性可能な基であってもよい。分子間非共有結合を形成することのできる官能基は、配位子を会合可能にする、即ちジマーの形で凝集体を形成させることができる。
【0029】
分子間非共有結合を形成することのできる2個の配位子の官能基対は、本発明の範囲では「相補的官能基」と称される。「相補的化合物」とは、相互に相補的な官能基を有する配位子/配位子−対である。このような対は、会合可能である、即ち凝集体を形成することができる。
【0030】
分子間非共有結合を形成することのできる官能基は、有利に次のものから選択される:ヒドロキシル−、1級、2級及び3級アミノ−、チオール−、ケト−、チオケトン−、イミン−、カルボン酸エステル−、カルボン酸アミド−、アミジン−、ウレタン−、尿素−、スルホキシド−、スルホキシイミン−、スルホン酸アミド−及びスルホン酸エステル基。
【0031】
これらの官能基は、いわゆる自己相補的官能基であるのが有利である、即ち非共有結合の形成は使用配位子の2個の同じ官能基の間で起こる。互変異性可能である官能基は、二量体中にそれぞれ同じ又は異なる異性体(互変異性体)の形で存在することができる。従って例えば、ケト−エノール−互変異性の場合には、双方のモノ(プソイド)プニコゲン配位子がケト形で、双方がエノール形で又は一方がケト形で、かつ一方がエノール形で存在することができる。勿論この配位子/配位子−対が2種の異なる配位子から形成されていてもよい。
【0032】
二量化された配位子のプニコゲン原子含有基又はプソイドプニコゲン原子含有基の遷移金属に配位している原子の間の間隔は、最大で5Åであるのが有利である。これは、有利には2.5〜4.5Å、特に有利には3.5〜4.2Åの範囲である。
【0033】
使用配位子がジマーを形成することが可能であるか否かを測定するための好適な方法には、結晶構造分析、核磁気共鳴分光法並びに分子−モデリング−法が包含される。この場合に通常は、非錯結合形の配位子を利用することがこの測定のために充分である。このことは殊に分子−モデリング−法に当てはまる。更に、固体で実施される結晶構造分析も、溶液中での核磁気共鳴分光法によっても、気相の構造の計算によっても、一般に、触媒反応の反応条件下での使用配位子の特性に関する信頼できる予想を提供することが判明した。従って例えば、記載の測定法により二量体を形成することが可能である配位子は、通常はそれが使用される反応の条件下でも、さもなければキレート配位子にのみ通常であるような特性を有する。このような特性には、殊にプロキラルオレフィンの水素化及びヒドロホルミル化の場合の高い選択性の獲得が挙げられる。更に、この反応時に配位子間の分子間非共有結合の形成が酸又はプロトン性溶媒、例えばメタノールの添加によって妨げられる場合には、もはやこの高い立体選択性は得られないことが判明した。
【0034】
1配位子が本発明の方法に好適であるか否かを測定するための好適な処置法では、先ず分子−モデリング−プログラム曲線を用いて、配位子及びその互変異性体の可能な全てのH橋−結合ジマーを形成させる。次いでこの二量体構造は化学的定量法により至適化される。このためには、密度汎関数理論(Dichtefunktionaltheorie:DFT)を、例えばファンクショナルスB−P86(A.D.Becke, Phys.Rev.A 1988, 38, 3098; J.P.Perdew, Phys. Rev.B 1986,33,8822; 同書1986,34,7406(E) 及びベースシスSV(P)(A. Schaefer,H.Horn,R.Ahlrichs,J.Chem.Phys. 1992,97,251) の使用下に、プログラムパッケージ・ターボモル(R.Ahlrichs,M.BaerM.Haeser,H.Horn.C.Koelmel, Chem.Phys Lett.1989,162,165; M.v.Arnim, R.Ahlrichs; J.Comput.Chem. 1998,19,1746) (Karlsruhe大学から入手可能)中で用いるのが有利である。市場で得られる好適な分子−モデリング−パッケージは、ガウシアン98(M.J.Frisch,L.A.Pople .et al.,Gaussian 98,Revision A.5, Gaussian Inc. Pittsburgh(PA) 1998)である。
【0035】
プソイドキレート配位子としては、計算された二量体構造中で配位原子、例えばP−原子の間隔が5Åより小さいものが特に好適である。
【0036】
本発明の説明のために、表現「アルキル」には、直鎖及び分枝鎖のアルキル基が包含される。この場合にこれは有利に、直鎖又は分枝したC〜C20−アルキル、好ましくはC〜C12−アルキル−、特に好ましくはC〜C−アルキル−、全く特別好ましくはC〜C−アルキル基である。アルキル基の例は殊に次のものである:メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、2−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、2−ペンチル、2−メチルブチル、3−メチルブチル、1,2−ジメチルプロピル、1,1−ジメチルプロピル、2,2−ジメチルプロピル、1−エチルプロピル、n−ヘキシル、2−ヘキシル、2−メチルペンチル、3−メチルペンチル、4−メチルペンチル、1,2−ジメチルブチル、1,3−ジメチルブチル、2,3−ジメチルブチル、1,1−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル、1,1,2−トリメチルプロピル、1,2,2−トリメチルプロピル、1−エチルブチル、2−エチルブチル、1−エチル−2−メチルプロピル、n−ヘプチル、2−ヘプチル、3−ヘプチル、2−エチルペンチル、1−プロピルブチル、n−オクチル、2−エチルヘキシル、2−プロピルヘプチル、ノニル、デシル。
【0037】
表現「アルキル」には、一般に1、2、3、4又は5個、有利には1、2又は3個、特に好ましくは1個の置換基を有する置換アルキル基も包含される。これらは、有利にアルコキシ、シクロアルキル、アリール、ヘタリール、ヒドロキシル、ハロゲン、NE、NE3+、カルボキシレート及びスルホネートから選択される。有利なペルフルオロアルキル基はトリフルオロメチルである。
【0038】
本発明の意味で表現「アルキレン」は、炭素原子数1〜5を有する直鎖又は分枝鎖のアルカンジイル−基を表す。
【0039】
本発明の意味で表現「シクロアルキル」には、非置換の又は置換されているシクロアルキル基、有利にはC〜C−シクロアルキル基、例えばシクロペンチル、シクロヘキシル又はシクロヘプチル基が包含される。これらが置換されている場合には一般に、置換基1、2、3、4又は5個、好ましくは1、2又は3個、特に好ましくは1個を有することができる。これら置換基は、アルキル、アルコキシ、NE、NE3+及びハロゲンから選択されるのが有利である。
【0040】
本発明の意味で表現「ヘテロシクロアルキル」には、一般に4〜7個の、有利には5又は6個の環原子を有する飽和の環式脂肪族基が包含され、ここで環炭素原子の1又は2個は、酸素、窒素及び硫黄元素から選択されるヘテロ原子により換えられており、かつ場合によっては置換されていてよく、ここで、置換の場合には、このヘテロ環式脂肪族基は、置換基1、2又は3個、有利には1又は2個、特に好ましくは1個を有していてよい。これら置換基は、有利にはアルキル、アルコキシ、アリール、COOR、COO、ヒドロキシル、ハロゲン及びNEから選択されており、特に好ましくはアルキル基である。このようなヘテロ環式脂肪族基の例には、ピロリジニル、ピペリジニル、2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジニル、イミダゾリジニル、ピラゾリニジル、オキサゾリジニル、モルホリジニル、チアゾリジニル、イソチアゾリジニル、イソオキサゾリジニル、ピペラジニル、テトラヒドロチオフェニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、ジオキサニルが挙げられる。
【0041】
本発明の意味で表現「アリール」には、非置換の又は置換されているアリール基が包含され、有利には次のものを表す:フェニル、トリル、キシリル、メシチル、ナフチル、フルオレニル、アントラセニル、フェナンスレニル又はナフタセニル、特に好ましくはフェニル又はナフチル、この際、これらのアリール基が置換基を有する場合には、一般に基アルキル、アルコキシ、カルボキシレート、トリフルオロメチル、スルホネート、NE、アルキレン−NE、ニトロ、シアノ又はハロゲンから選択される置換基1、2、3、4又は5個、有利には1、2又は3個、特に好ましくは1個を有していてよい。好ましいペルフルオロアリール基はペンタフルオロフェニルである。
【0042】
本発明の意味で表現「ヘタリール」には、非置換の又は置換されたヘテロ環式芳香族基、有利には基フリール、チオフェニル、ピリジル、キノリニル、アクリジニル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、インドリル、プリニル、インダゾリル、ベンゾトリアゾリル、1,2,3−トリアゾリル、1,3,4−トリアゾリル及びカルバゾリルが包含される。これらヘテロ環式芳香族基が置換されている場合には、一般に基アルキル、アルコキシ、ヒドロキシル、カルボキシレート、スルホネート、NE、アルキレン−NE又はハロゲンから選択される置換基1、2又は3個を有することができる。
【0043】
本発明の範囲でカルボキシレート及びスルホネートは、有利にカルボン酸官能基又はスルホン酸官能基の誘導体、殊に金属カルボキシレート又は−スルホネート、カルボン酸エステル−又はスルホン酸エステル官能基又はカルボン酸−又はスルホン酸アミド官能基を表す。これには、例えばC〜C−アルカノール、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、s−ブタノール及びt−ブタノールとのエステルが挙げられる。
【0044】
表現「アルキル」、「シクロアルキル」、「アリール」、「ヘテロシクロアルキル」及び「ヘタリール」に関する前記の説明は、表現「アルコキシ」、「シクロアルコキシ」、[アリールオキシ」「ヘテロシクロアルコキシ」及び「ヘタリールオキシ」にも当てはまる。
【0045】
本発明の意味における表現「アシル」は、一般に炭素原子数2〜11、有利に2〜8を有するアルカノイル−又はアロイル基、例えばホルミル−、アセチル−、プロパノイル−、ブタノイル−、ペンタノイル−、ヘキサノイル−、ヘプタノイル−、2−エチルヘキサノイル−、2−プロピルヘプタノイル−、ベンゾイル−又はナフトイル−基を表す。
【0046】
基E〜E12は相互に無関係に、水素、アルキル、シクロアルキル及びアリールから選択される。基NE、NE、NE及びNE1011は、有利にN,N−ジメチルアミノ、N,N−ジエチルアミノ、N,N−ジプロピルアミノ、N,N−ジイソプロピルアミノ、N,N−ジ−n−ブチルアミノ、N,N−ジ−t−ブチルアミノ、N,N−ジシクロヘキシルアミノ又はN,N−ジフェニルアミノから選択される。
【0047】
ハロゲンは、弗素、塩素、臭素及びヨウ素、好ましくは弗素、塩素及び臭素を表す。
【0048】
は、1カチオン当量、即ち1価のカチオン又は多価カチオンの正の1荷電に相当する部分を表す。このカチオンMは、単に、負に荷電された置換基、例えばCOO又はスルホネート−基の中和のための対イオン(Gegenion)として作用し、原則的に任意に選択することができる。従って、有利にアルカリ金属−、殊にNa、K−、Li−イオン又はオニウム−イオン、例えばアンモニウム−、モノ−、ジ−、トリ−、テトラアルキルアンモニウム−、ホスホニウム−、テトラアルキルホスホニウム−又はテトラアリールホスホニウム−イオンが使用される。
【0049】
同様なことが、単に正に荷電された置換基、例えばアンモニウム基の対イオンとして作用し、1価のアニオン及び多価アニオンの負の1荷電に相当する部分から任意に選択できるアニオン当量Xにも当てはまり、この際一般に、ハロゲニドイオンX、殊にクロリド及びブロミドが好ましい。
【0050】
x及びyの値は、1〜240、有利には2〜120の整数を表す。
【0051】
本発明の範囲における概念「多環式化合物」には、広い概念で、環がどのように結合しているかには無関係に、少なくとも2環を有する化合物が包含される。この場合にこれは、炭素環及び/又はヘテロ環である。これらの環は単結合又は二重結合を介して結合していてよく(多環化合物)、融合により結合していてよく(縮合環系)、又は架橋していてよい(「架橋環」、「籠形化合物」)。有利な多環式化合物は、縮合環系である。
【0052】
縮合環系は、融合により結合された(縮合した)芳香族、ヒドロ芳香族及び環状の化合物であってよい。縮合環系は、2個、3個又は3個以上の環から成っている。結合形式に応じて、縮合環系では、オルト−融合(即ち各々の環が各々の隣接環とそれぞれ1個の縁部又は2個の原子を共通して有している)及びペリ−融合(1個の炭素原子が2個以上の環に属している)の間で区別される。縮合環系では、オルト縮合環系が好ましい。
【0053】
本発明により使用される配位子/配位子−対は、次の一般式Iによって表すことができる:
【0054】
【化1】

[式中、Pnは、相互に無関係に選択されたプニコゲン原子又はプソイドプニコゲン原子含有基の配位原子を表し、
A及びBは、それらの間に非共有結合性の相互作用がある相互に相補的な官能基を有する基を表し、
は、単結合又は二重結合した有機基を表し、
は、単結合した有機基を表し、
aは、プニコゲン原子の又はプソイドプニコゲン原子含有基の配位原子の価数及び基Rの結合性に依存して、0又は1であり、
この際、プニコゲン原子又はプソイドプニコゲン原子含有基の配位原子は、それらに結合している基R、R及びA又はBの少なくとも2個と一緒になった環系の一部分であっってもよい]。
【0055】
式I中のPn−原子は相互に無関係に、N、P、As、Sb及びカルベン−炭素原子から選択されるのが有利である。
【0056】
第1の実施形では、プニコゲン−又はプソイドプニコゲン原子含有基は、式R−A又はR−Bのカルベン基である。この場合に、このカルベン炭素原子は好ましくは、一般式I.1:
【0057】
【化2】

[式中、Gは、NR又はCRを表し、ここで、R、R及びRは相互に無関係に、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール又はヘタリールを表し、この際、R又はRは、二重結合の1結合当量を表すこともでき、
は、側面の結合の間に原子1〜5個を有する2価の架橋基を表し、
は、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール又はヘタリールを表す、
この際、基R、R、R、Rの1個又は基Qに付いている基1個は、分子間非共有結合を形成することのできる官能基を表すか又はこのような基を含有している]の環系の一部分である。
【0058】
式I.1の化合物は好ましくは、式I.1a〜I.1dのN−ヘテロ環式カルベンから選択される:
【0059】
【化3】

[式中、R、R、R、R及びRは相互に無関係に、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール又はヘタリールを表し、この際、これらの基の一つは分子間非共有結合を形成することのできる官能基を表すか又はこのような基を含有している]の環系の一部分である。
【0060】
式I.1a〜I.1dの化合物中で、分子間非共有結合を形成することのできる基を表さないか又はこのような基を含有していない基R、R、R、R及びRは、非置換の又は1個以上の置換基を有するアルキル−又はアリール基を表すのが好ましい。
【0061】
式I.1a〜I.1dの化合物中で、基Rは分子間非共有結合を形成することのできる官能基を表すか又はこのような基を含有しているのが好ましい。
【0062】
第2の実施形において、プニコゲン−又はプソイドプニコゲン原子含有基は、式:
=N−A又はR=N−Bのイミン基である。この場合に好ましくは、このイミン基は、一般式I.2:
【0063】
【化4】

[式中、Qは側面の結合の間に原子1〜5個を有する2価の架橋基を表し、
、R及びRは相互に無関係に、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール又はヘタリールを表し、
この際、基R、R、Rの一つ又は基Qに付いている基は、分子間非共有結合を形成することのできる官能基を表すか又はこのような基を含有している]の環系の一部分である。
【0064】
好ましくは、式I.2中の基Qは、C〜C−アルキレン基を表し、これらは有利にO、S又はNR(R=水素、アルキル、シクロアルキル、アリール)から選択されるヘテロ原子又はヘテロ原子含有基1個を有することができる。
【0065】
好ましくは、式I.2の化合物は、下記の式I.2a又はI.2bの環状イミンから選択される:
【0066】
【化5】

[式中、Gは、O又はNRを表し、ここで、Rは水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール又はヘタリールを表し、
、R、R及びRは相互に無関係に、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール又はヘタリールを表し、
この際、基R、R、R、R及びRの一つは分子間非共有結合を形成することのできる官能基を表すか又はこのような基を含有している]。
【0067】
式I.2a又はI.2bの化合物中の基Rは、分子間非共有結合を形成することのできる官能基を表すか又はこのような基を含有するのが好ましい。
【0068】
式I.2a又はI.2bの化合物中で、基Rはアルキル、殊にメチル、エチル、イソプロピル又はt−ブチル、アリール、殊にフェニル又はアリールアルキル、殊にベンジルを表すのが好ましい。
【0069】
式I.2a又はI.2bの化合物中で、基R及びRは水素を表すのが好ましい。
【0070】
式I.2a又はI.2bの化合物中で、基GはO又はNRを表すのが好ましい。
【0071】
第3の実施形において、プニコゲン−又はプソイドプニコゲン原子含有基は、一般式
I.3:
【0072】
【化6】

[式中、Pnは、N、P、As又はSb、有利にPを表し、
及びRは相互に無関係に、アルキル、アルコキシ、シクロアルキル、シクロアルコキシ、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルコキシ、アリール、アリールオキシ、ヘタリール又はヘタリールオキシを表すか又は
及びRはそれらが結合している隣原子と一緒になって4〜8員のヘテロ環式基を表し、これは場合により付加的に1、2又は3個のシクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール又はヘタリールと融合しており、この際、ヘテロ環が存在する場合には、この融合した基は相互に無関係に、それぞれ、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘタリール、COOR、COO、SO、SO、PO(R)(R)、(PO2−(M、NE、(NE、OR、SR、(CHRCHO)、(CHO)e、(CHCHNE、ハロゲン、ニトロ、アシル又はシアノから選択される置換基1、2、3又は4個を有していてよく、
ここで、R及びRはそれぞれ、水素、アルキル、シクロアルキル、アリール又はヘタリールから選択される同じ又は異なる基を表し、
、E4、、Eはそれぞれ、水素、アルキル、シクロアルキル、アリール又はヘタリールから選択される同じ又は異なる基を表し、
は、水素、メチル又はエチルを表し、
は、1カチオン当量を表し、Xは、1アニオン当量を表し、yは、1〜240の整数を表す]の基から選択されている。
【0073】
第1の有利な実施形によれば、一般式I.3の基中の基R及びRは相互に架橋されていない。この場合には、R及びRは有利に相互に無関係に、先に定義されているようなアルキル、シクロアルキル、アリール及びヘタリールから選択されている。
【0074】
基R及びRの少なくとも1個、特に好ましくはR及びRの双方がアリールを表すのが有利である。その場合には例えば、基RとRの1方はフェニルを表し、他方はナフチルを表すか又はRとRの双方がフェニルを表すか又はRとRの双方がナフチルを表す。有利なナフチル基は1−ナフチル基である。
【0075】
もう一つの有利な実施形によれば、一般式I.3の基中で基R及びRは、相互に架橋している。この場合にプニコゲン原子含有基は、有利に次式の基を表す:
【0076】
【化7】

[式中、Pnは、P、As又はSb、有利にPを表し、r及びsは相互に無関係に、0又は1を表し、
Dは、それに結合している燐原子及び/又は酸素原子と一緒になって4〜8員のヘテロ環を表し、これは場合により1個、2個又は3個のシクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及び/又はヘタリールと融合しており、この際、融合した基は相互に無関係に、それぞれアルキル、アルコキシ、ハロゲン、スルホネート、NE、アルキレン−NE、ニトロ、シアノ及びカルボキシレートから選択される置換基1、2、3又は4個を有していてよく、及び/又はDは、アルキル、ヒドロキシ、アルコキシ、置換又は非置換のシクロアルキル及び置換又は非置換のアリールから選択される置換基1、2、3又は4個を有していてよく、及び/又はDは、置換又は非置換のヘテロ原子1、2又は3個により中断されていてよい]。
【0077】
基Dは、アリール1個又は2個と融合しており、及び/又はアルキル、置換又は非置換のシクロアルキル及び置換又は非置換のアリールから選択される置換基1個を有していてよく、及び/又は置換又は非置換のヘテロ原子1個により中断されていてよいC〜C−アルキレン橋を表すのが有利である。
【0078】
基Dの融合されたアリーレンは、好ましくはベンゼン又はナフタリンである。融合されたベンゼン環は、非置換であるのが有利であるか又は置換基1、2又は3個、殊に1又は2個を有し、これらは有利に、アルキル、アルコキシ、ハロゲン、スルホネート、NE、アルキレン−NE、トリフルオロメチル、ニトロ、カルボキシレート、アルコキシカルボニル、アシル及びシアノから選択される。融合したナフタリンは、有利には非置換であるか又は非融合環及び/又は融合環中にそれぞれ先の融合ベンゼン環の場合に挙げられている置換基1、2又は3個、殊に1又は2個を有する。融合したアリールの置換基は、アルキル、有利にはC〜C−アルキル、殊にメチル、イソプロピル及びt−ブチルを表す。この場合にアルコキシは、有利にC〜C−アルコキシ、殊にメトキシを表す。アルコキシカルボニルは、有利にはC〜C−アルコキシカルボニルを表す。
【0079】
基DのC〜C−アルキレン橋が置換又は非置換のヘテロ原子1、2又は3個により中断されている場合には、これらはO、S又はNRから選択されているのが有利であり、この際、Rはアルキル、シクロアルキル又はアリールを表す。
【0080】
基DのC〜C−アルキレン橋が置換されている場合には、これは有利にアルキル、アルコキシ、ヒドロキシ、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘタリールから選択される置換基1、2、3又は4個、殊に2又は4個を有し、この際、シクロアルキル−、ヘテロシクロアルキル−、アリール−及びヘタリール置換基は、それぞれ、先にこれらの基に好適であるとして挙げられている置換基1、2又は3個を有していてよい。
【0081】
基Dは、先に記載のように融合され及び/又は置換され及び/又は置換又は非置換のヘテロ原子により中断されているC〜C−アルキレン橋を表すのが有利である。殊に基Dは、1又は2個のフェニル及び/又はナフチルと融合されているC〜C−アルキレン橋を表し、この際、フェニル−又はナフチル基は、先に記載の置換基1、2又は3個を有していてよい。
【0082】
基Dは、それが結合している燐原子及び/又は酸素原子と一緒になって4〜8員のヘテロ環を表すのが有利であり、この際、Dは式II.1〜II.4:
【0083】
【化8】

[式中、TはO、S又はNRを表し、ここで、Rはアルキル、シクロアルキル又はアリールを表すか又は
Tは二重結合1個及び/又はアルキル−、シクロアルキル−又はアリール置換基1個を有していてよいC〜C−アルキレン橋を表し、この際、アリール置換基はアリールについて先に挙げられている置換基1、2又は3個を有していてよいか又は
TはO、S又はNRにより中断されているC〜C−アルキレン橋を表し、
、RII、RIII、RIV、R、RVI、RVII、RVIII、RIX、R、RXI及びRXIIは相互に無関係に、水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、アルコキシ、ハロゲン、スルホネート、NE、アルキレン−NE、トリフルオロメチル、ニトロ、アルコキシカルボニル又はシアノを表す]の基から選択される基を表す。
【0084】
特に好ましい1実施形では、一般式I.3の基中の基R及びRは相互に架橋して、式:
【0085】
【化9】

の燐原子含有基がキラルヘテロ環を表している。この場合に架橋基Dは有利に、式II.1及びII.3の群から選択され、この際、
、RII、RIII、RIV、R、RVI、RVII、RVIII、RIX、R、RXI及びRXIIは相互に無関係に、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘタリール、ヒドロキシ、チオール、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンイミン、アルコキシ、ハロゲン、SOH、スルホネート、NE、アルキレン−NE、トリフルオロメチル、ニトロ、アルコキシカルボニル、カルボキシル、アシル又はシアノを表し、ここで、E及びEはそれぞれ、水素、アルキル、シクロアルキル及びアリールから選択される同じ又は異なる基を表す。
【0086】
更に、Yは式II.1(ここで、RIV及びRは相互に無関係に、C〜C−アルキル又はC〜C−アルコキシを表す)の基を表すのが有利である。RIV及びRはメチル、エチル、イソプロピル、t−ブチル及びメトキシから選択されるのが有利である。この化合物中でR、RII、RIII、RVI、RVII及びRVIIIは水素を表すのが有利である。
【0087】
更にYは、式II.1の基(ここで、R及びRVIIIは相互に無関係にC〜C−アルキル又はC〜C−アルコキシを表す)を表すのが有利である。R及びRVIIIがt−ブチルを表すのが特に好ましい。この化合物中でRII、RIII、RIV、R、RVI、RVIIが水素を表すのが特に有利である。更に好ましくは、これらの化合物中でRIII及びRVIは相互に無関係に、C〜C−アルキル又はC〜C−アルコキシを表す。RIII及びRVIは相互に無関係に、メチル、エチル、イソプロピル、t−ブチル及びメトキシから選択されるのが特別有利である。
【0088】
更にYは式II.1の基(ここで、RII及びRVIIは水素を表す)を表すのが有利である。この化合物中でR、RIII、RIV、R、RVI及びRVIIIは相互に無関係に、C〜C−アルキル又はC〜C−アルコキシを表すのが有利である。特に好ましくは、R、RIII、RIV、R、RVI及びRVIIIは相互に無関係に、メチル、エチル、イソプロピル、t−ブチル及びメトキシから選択される。
【0089】
更に、Yは式II.3の基(ここで、R〜RXIIは水素を表す)を表すのが有利である。
【0090】
更に、Yは式II.3の基(ここで、R及びRXIIは相互に無関係に、C〜C−アルキル又はC〜C−アルコキシを表す)を表すのが有利である。殊にR及びRXIIは相互に無関係に、メチル、エチル、イソプロピル、t−ブチル、メトキシ及びアルコキシカルボニル、好ましくはメトキシカルボニルから選択される。この化合物中で、基RII〜RIXは水素を表すのが特別有利である。
【0091】
一般式I.3の好ましいキラル基には、次のものが挙げられる:(2R,3S,4R,5S)−2,5−ジメチル−3,4−ジヒドロキシホスホラノ−及び(2S,3R,4S,5R)−2,5−ジメチル−3,4−ジヒドロキシホスホラノ基並びに(R)−1,1’−ビナフチレン−2,2’−ジイルジオキシホスフィノ−、(S)−1,1’−ビナフチレン−2,2’−ジイルジオキシホスフィノ−、(S)−1,1’−ビフェニレン−2,2’−ジイルジオキシホスフィノ−及び(S)−1,1’−ビフェニレン−2,2’−ジイルジオキシホスフィノ基、これらは非置換であるか又は前記のように置換されていてよい。
【0092】
本発明により使用される配位子の少なくとも1個は、互変異性可能で、かつ分子間非共有結合を形成することのできる基1個を有するのが有利である。これは、有利に次式の基:
【0093】
【化10】

及びその互変異性体[式中、YはO、S又はNRを表し、ここで、Rは水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール又はヘタリールを表す]から選択されている。
【0094】
それぞれの互変異性平衡の位置は、特に基Y並びに互変異性可能な基に付いている置換基に依存する。これらは例えば、ケト−エノール−互変異性及びイミン−エナミン−互変異性について次のように記述される:
【0095】
【化11】

【0096】
本発明により使用される配位子は、有利に少なくとも1個の一般式I.a又はI.b:
【0097】
【化12】

[式中、Pn、R、R及びaは前記と同様に定義され、
は、水素、アルキル、アルコキシ、シクロアルキル、シクロアルコキシ、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルコキシ、アリール、アリールオキシ、ヘタリール又はヘタリールオキシを表し、
Xは、側面の結合の間に架橋原子1〜5個を有する2価の架橋基を表し、
Yは、O、S又はNRを表し、ここで、Rは水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール又はヘタリールを表し、
この際、基X及びR〜Rの2個以上は、それらが結合している式I.a又はI.bの構造要素と一緒になって、単環−又は多環式化合物を表すことができる]の構造要素又はその互変異性体を有する。
【0098】
好適かつ有利な基R及びRに関しては、先の実施態様が参照されうる。
【0099】
式I.a及びI.bの化合物中で、好ましくはPnはN、P、As又はSb、特に好ましくはP、As又はSb、殊にPを表す。
【0100】
式I.a及びI.bの化合物中の2価の架橋性基Xは、側面の結合の間に1〜4個、特に好ましくは1〜3個の架橋原子を有するのが好ましい。
【0101】
2価の架橋基Xは好ましくは、C〜C−アルキレン−橋を表し、これは架橋原子の数に依存して1個又は2個の二重結合を及び/又はアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘタリール、カルボキシレート、スルホネート、ホスホネート、NE(E、E=水素、アルキル、シクロアルキル、アシル又はアリール)、ヒドロキシ、チオール、ハロゲン、ニトロ、アシル又はシアノから選択される置換基1、2、3又は4個を有していてよく、この際、シクロアルキル−、アリール−及びヘタリール−置換基は付加的に、アルキル、アルコキシ、ハロゲン、トリフルオロメチル、ニトロ、アルコキシカルボニル又はシアノから選択される置換基1、2又は3個を有していてよく、及び/又はC〜C−アルキレン橋Xの1個又は2個の非隣接架橋原子は、ヘテロ原子又はヘテロ原子含有基1個で換えられていてよく、及び/又はアルキレン−橋Xは、アリール及び/又はヘタリール1又は2個と融合していてよく、この際、融合したアリール−及びヘタリール基は、それぞれ、アルキル、シクロアルキル、アリール、アルコキシ、シクロアルコキシ、アリールオキシ、アシル、ハロゲン、トリフルオロメチル、ニトロ、シアノ、カルボキシル、アルコキシカルボニル又はNE(E及びE=水素、アルキル、シクロアルキル、アシル又はアリール)から選択される置換基1、2又は3個を有していてよく、及び/又はC〜C−アルキレン−橋Xの2個以上の架橋原子は、それらが結合している式I.a又はI.bの構造要素と一緒になって単環−又は多環式化合物を表してよい。
【0102】
好ましいXは、二重結合1又は2個を有していてよいC〜C−アルキレン−橋を表す。更に好ましくは、橋Xの架橋原子2個以上はそれに結合している式I.a又はI.bの構造要素と一緒になって単環−又は多環式結合を表すことができる。
【0103】
本発明により使用される配位子は、一般式I.a又はI.bの構造要素(ここで、基X及び基Rは、それらが結合している基−NH−C(=Y)と一緒になって、5〜8員環、有利には6員環を表す)少なくとも1個を有するのが有利である。この環は、1、2又は3個の二重結合を有することができ、この際、この二重結合の一つは互変異性基−N=C(YH)をベースとすることができる。互変異性を考慮して3個の二重結合を有する6員環が好ましい。互変異性体の1つが芳香族環系を形成できるこのような環系は、特別安定である。記載の環は、非置換であるか又は前記の置換基1、2、3、4又は5個を有することができる。これらは有利に、C〜C−アルキル、特に好ましくはメチル、エチル、イソプロピル又はt−ブチル、C〜C−アルコキシ、殊にメトキシ、エトキシ、イソプロポキシ又はt−ブトキシ並びにアリール、有利にはフェニルから選択される。好適な1実施形で、記載の環は少なくとも1個の二重結合を有し、この際、この二重結合に結合している基は、他の環1、2又は3個を有する縮合環系を表す。この場合にこれは、好ましくはベンゼン又はナフタリン環である。融合したベンゼン環は、有利には非置換であるか又はアルキル、ヒドロキシ、アルコキシ、カルボキシレート、スルホネート、ハロゲン、NE、トリフルオロメチル、ニトロ、アルコキシカルボニル、アシル及びシアノから選択される置換基1、2又は3個を有する。融合したナフタリン環は、有利には非置換であるか又は非融合及び/又は融合環中に、それぞれ、融合ベンゼン環の場合に挙げられている置換基1、2又は3個を有している。
【0104】
本発明により使用される配位子は、有利に、一般式I.A〜I.C:
【0105】
【化13】

[式中、基R〜Rの一つは、先に定義されているようなプニコゲン−又はプソイドプニコゲン原子含有基を表し、
プニコゲン−又はプソイドプニコゲン原子含有基を表わさない基R〜Rは、相互に無関係に、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、へタリール、WCOOR、WCOO、W(SO)R、W(SO、WPO(R)(R)、W(PO2−(M、WNE、W(NE、WOR、WSR、(CHRCHO)、(CHNE、(CHCHNE、ハロゲン、ニトロ、アシル又はシアノを表し、ここで、
Wは、単結合、ヘテロ原子、ヘテロ原子含有基又は架橋原子1〜20を有する2価の架橋基を表し、
及びRはそれぞれ、アルキル、シクロアルキル、アシル又はアリールから選択される同じ又は異なる基を表し、
、E、E、Eはそれぞれ、水素、アルキル、シクロアルキル、アシル又はアリールから選択される同じ又は異なる基を表し、
は、水素、メチル又はエチルを表し、
は1カチオン当量を表し、Xは1アニオン当量を表し、
xは、1〜240の整数を表し、
この際、隣接基R〜Rの2個は縮合した環系を表すこともでき、かつ
及びRは、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール又はヘタリールを表し、ここで、Rはアシルを表すこともできる]の化合物及びそれらの互変異性体から選択される。
【0106】
化合物(I.A)〜(I.C)の好適なプニコゲン−又はプソイドプニコゲン原子含有基は、先に記載の基I.1、I.2及びI.3である。これらの基の好適かつ有利な実施形が参照されうる。
【0107】
化合物(I.A)〜(I.C)のプニコゲン−又はプソイドプニコゲン原子含有基は、好ましくは、式 −W’−PnRの基(式中、PnはN、P、As又はSb、殊にP、As又はSb、殊にPを表し、W’は単結合、ヘテロ原子、ヘテロ原子含有基又は側面の結合の間に架橋原子1〜4個を有する2価の架橋基を表し、R及びRは前記のものを表す)から選択される。
【0108】
式I.A〜I.Cの化合物中でプニコゲン−又はプソイドプニコゲン原子含有基を表さない基R〜Rから選択される2個の隣接基が縮合環系を表す場合には、これらは有利に基R及びRである。好ましくは、縮合環はベンゼン−又はナフタリン環である。
【0109】
融合ベンゼン環は、有利に非置換であるか又は有利にはアルキル、ヒドロキシ、アルコキシ、カルボキシレート、スルホネート、ハロゲン、NE、トリフルオロメチル、ニトロ、アルコキシカルボニル、アシル及びシアノから選択される置換基1、2又は3個を有する。融合ナフタリン環は有利には、非置換であるか又は非融合及び/又は融合環中にそれぞれ、先の融合ベンゼン環の場合に挙げられている置換基1、2又は3個を有する。
【0110】
式I.Bの化合物中の基Rがアシルを表す場合には、このアシル基は、有利に式
−C(=O)−Rの基(ここで、Rは水素、アルキル、シクロアルキル、アリール又はヘタリールを表す)から選択される。Rは好ましくはC〜C−アルキル、殊にメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル及びt−ブチルを表す。好ましいアシル基Rはピバロイル基である。
【0111】
式I.A〜I.Cの化合物は、分子間非共有結合を形成することができるか否かに無関係に、不斉合成用の触媒中の配位子として好適である。従って本発明の課題は、前記のように定義されている一般式I.A〜I.Cの化合物から選択される配位子を有する遷移金属錯体少なくとも1種を包含するキラル触媒の存在における、少なくとも1個のエチレン系不飽和二重結合を有するプロキラル化合物と基質との反応によって、キラル化合物を製造する方法でもある。
【0112】
有利に本発明により使用される配位子は、一般式I.i〜I.iii:
【0113】
【化14】

[式中、bは0又は1を表し、
Pnは、プニコゲン−又はプソイドプニコゲン原子含有基、好ましくはN、P、As又はSb、殊にP、As又はSb、特にPを表し、
及びRは、前記のように定義され、
〜Rは相互に無関係に、水素、C〜C−アルキル、C〜C−アルコキシ、アリール、ヘテロアリール、アシル、ハロゲン、C〜C−アルコキシカルボニル又はカルボキシレートを表し、
この際、隣接基R〜Rの二つが縮合した環系を表すこともでき、かつ
及びRは、水素、アルキル、シクロアルキル又はアリールを表し、ここで、Rはアシルを表すこともできる]の化合物及びこれらの互変異性体から選択される。
【0114】
式I.i〜I.iiiの化合物中の基R及びRは相互に無関係に、C〜C−アルキル、例えばメチル、エチル、イソプロピル及びt−ブチル、C〜C−シクロアルキル、例えばシクロヘキシル又はアリール、例えばフェニルを表すのが有利である。基R及びRが双方ともアリールを表すのが好ましい。特別には、基R及びRの一方がフェニルを表し、他方がナフチルを表すか、又はRとRが双方ともフェニルを表すか又はRとRが双方ともナフチルを表す。好ましいナフチル基は1−ナフチル基である。
【0115】
更に、式中の基R及びRが相互に架橋していて、それが式:
【0116】
【化15】

(式中Pn、D、r及びsは前記のものを表す)のプニコゲン含有基を表している、式I.i〜I.iiiの化合物が有利である。
【0117】
特別な1実施形でプニコゲン含有基は、先に記載されているようなキラルなプニコゲン含有基である。基II.1及びII.3に関する実施態様が参照されうる。
【0118】
化合物I.i〜I.iii中の基R、R、R及びRは相互に無関係に、水素、C〜C−アルキル、C〜C−アルコキシ、アリール、ヘテロアリール、カルボキシレート、スルホネート、NE、ハロゲン、トリフルオロメチル、ニトロ、アルコキシカルボニル、アシル及びシアノから選択されるのが有利である。R、R、R及びRは水素、アリール又はヘテロアリールを表すのが好ましい。
【0119】
更に、化合物I.i〜I.iii中の基R及びRは縮合環系を表すのが好ましい。
【0120】
式I.iiの化合物中で基Rは、水素、C〜C−アルキル、C〜C−シクロアルキル又はC〜C10−アリールを表すのが好ましい。更に、式I.ii中の基Rは、先に定義されているようなアシルを表すのが有利である。殊にRは、−C(=O)−R(ここで、RはC〜C−アルキル、殊にt−ブチルである)を表す。
【0121】
式I.iiiの化合物中の基Rは、好ましくは水素、C〜C−アルキル、C〜C−シクロアルキル又はC〜C10−アリール又はヘタリールを表す。
【0122】
式I.iの好ましい配位子は、次のもの及びその互変異性体である:
【0123】
【化16】

【0124】
式I.iiの好ましい配位子は、次のもの及びこれらの互変異性体である:
【0125】
【化17】

【0126】
本発明による及び本発明により使用可能な配位子/配位子−対は、同じ又は異なる配位子の対であってよい。
【0127】
本発明により使用可能な配位子の例は、次の構造である:
【0128】
【化18】

【0129】
【化19】

【0130】
【化20】

【0131】
本発明により有利に使用可能な配位子の例には次のものが挙げられる:
6−[(R)−1,1’−ビナフチレン−2,2’−ジイルジオキシホスフィノ]−1−H−ピリジン−2−オン、6−[(S)−1,1’−ビナフチレン−2,2’−ジイルジオキシホスフィノ]−1−H−ピリジン−2−オン及び6−(3,5−ジオキサ−4−ホスファシクロヘプタ[2,1−a,3,4−a]ジナフタレン−4−イルオキシ)−1H−ピリジン−2−オン。
【0132】
本発明により使用可能な配位子の製造は、当業者に公知の慣用法により行うことができる。
【0133】
本発明のもうひとつの目的物は、前記のようなキラル触媒である。好適かつ好ましい配位子に関する前記の実施態様は完全に参照されうる。
【0134】
本発明によるかつ本発明により使用されるキラル触媒は、有利に配位子として先に記載の化合物2種以上を有する。この場合に、好ましくは少なくとも2個の配位子が二量化された形(配位子/配位子−対)で存在する。ここで、配位子/配位子−対は同じ又は異なる配位子であってよい。先に記載の配位子に加えて、これらはなお、有利に、ハロゲニド、アミン、カルボキシレート、アセチルアセトネート、アリール−又はアルキルスルホネート、ヒドリド、CO、オレフィン、ジエン、シクロオレフィン、ニトリル、N−含有ヘテロ環式化合物、芳香族化合物及びヘテロ芳香族化合物、エーテル、RF、ホスホール、ホスファベンゼン並びに1座−、2座−及び多座のホスフィン−、ホスフィナイト−、ホスホナイト−、ホスファラミド−及びホスファイト配位子から選択される少なくとももう一つの配位子を有することができる。
【0135】
遷移金属とは、好ましくは、元素の周期律系の第I族、第VI、VII、VIII副族の金属である。第VIII副族の金属(即ちFe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt)から選択される遷移金属が特に好ましい。殊に遷移金属は、イリジウム、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム又は白金である。
【0136】
本発明は、先に記載のようなキラル触媒の存在下における、少なくとも1個のエチレン系不飽和二重結合を有するプロキラル化合物と基質との反応によって、キラル化合物を製造するための全く一般的な方法に関する。この場合には、使用される配位子の少なくとも1つ又は触媒活性種(die katalytisch aktive Spezies)が全体としてキラルであることのみが必要である。一般にキラル化合物を製造する個々の方法の反応条件下に、触媒活性種として特定の遷移金属錯体が形成される。例えばヒドロホルミル化条件下に、その都度使用される触媒又は触媒前駆物から、一般式H(CO)の触媒活性種(ここで、Mは遷移金属を表し、Lはプニコゲン原子含有化合物を表し、q、x、y、zは金属の価数及び種類及び配位子Lの結合性に依存して、整数を表す)が形成される。z及びqは相互に無関係に、少なくとも1の値、例えば1、2又は3を表すのが有利である。zとqとからの合計は、1〜5の値が好ましい。この場合にこの錯体は、所望の場合には付加的になお先に記載の他の配位子少なくとも1個を有することができる。ここに、それぞれの触媒活性種が二量化された配位子(プソイドキレート)をも有する理由がある。
【0137】
この触媒活性種は、有利に適当な溶剤中に均一な単相溶液として存在する。この溶液は付加的に遊離の配位子を含有することができる。
【0138】
好ましい、キラル化合物を製造するための本発明による方法は、水素化、ヒドロホルミル化、ヒドロシアン化、カルボニル化、ヒドロアシル化(分子内及び分子間)、ヒドロアミド化、ヒドロエステル化、ヒドロシリル化、ヒドロホウ素化、アミノ分解(ヒドロアミノ化)、アルコール分解(ヒドロキシ−アルコキシ−付加)、異性化、トランスファー水素化、メタセシス、シクロプロパン化、アルドール縮合、アリルアルキル化又は[4+2]−シクロ付加(ジールス−アルダー反応)である。
【0139】
特に好ましい、キラル化合物の本発明による製造法は、1,2−付加、殊に水素化又は1−ヒドロ−2−カルボ−付加である。本発明の範囲で1,2−付加とは、C=X−二重結合(X=C、ヘテロ原子)の双方の隣接原子のところで付加が行われることを意味する。1−ヒドロ−2−カルボ−付加とは、その反応により二重結合の1原子に水素が、かつ他方に炭素原子含有基が結合する付加反応を意味する。この場合に付加の間に二重結合異性化が可能である。本発明の範囲内で、非対称基質の場合の1−ヒドロ−2−カルボ−付加は、C2−原子への炭素フラグメントの優先的付加をも称するものではない。それというのも、付加の方向(Orientierung)に関する選択性は、通常は、付加すべき試薬及び使用触媒に依存するからである。その限りにおいて「1−ヒドロ−2−カルボ−」は、「1−カルボ−2−ヒドロ−」と同等の意味である。
【0140】
キラル化合物を製造するための本発明による方法の反応条件は、使用されるキラル触媒を除き、通常は、相応する不斉方法のそれに一致する。従って当業者は、好適な反応器及び反応条件を、それぞれの方法についての関連文献から引き出すことができ、かつ常法により適合させることができる。好適な反応温度は、一般に−100〜500℃の範囲、有利には−80〜250℃の範囲である。好適な反応圧は、一般に0.0001〜600バール、好ましくは0.5〜300バールの範囲である。この方法は一般に連続的、半連続的又は断続的に行うことができる。連続的反応のための好適な反応器は当業者には公知であり、例えば、Ullmanns Enzyklopaedie der technischen Chemie,Bd.1,3.Aufl.,1951, S.743ffに記載されている。好適な耐圧性反応器は当業者には同様に公知であり、例えばUllmanns Enzyklopaedie der technischen Chemie,Bd.1,3.Auflage.,1951,S.769ffに記載されている。
【0141】
本発明による方法は、その都度の反応条件下に好適な不活性の溶剤中で実施することができる。通常、好適な溶剤は、例えば芳香族化合物、例えばトルエン及びキシレン、炭化水素又は炭化水素の混合物である。更に、ハロゲン化された、殊に塩素化された炭化水素、例えばジクロロメタン、クロロホルム又は1,2−ジクロロエタンが好適である。更なる溶剤は、脂肪族カルボン酸とアルカノールとのエステル、例えば酢酸エステル又はテキサノール(Texanol(R))、エーテル、例えばt−ブチルメチルエーテル、ジオキサン−1,4及びテトラヒドロフラン並びにジメチルホルムアミドである。充分に親水性化された配位子の場合には、アルコール、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、ケトン、例えばアセトン及びメチルエチルケトン等も使用できる。更に溶剤としていわゆる「イオン液体」も使用できる。この場合にこれは、液状塩、例えばN−ブチル−N’−メチルイミダゾリウム塩のようなN,N’−ジアルキルイミダゾリウム塩、テトラ−n−ブチルアンモニウム塩のようなテトラアルキルアンモニウム塩、n−ブチルピリジニウム塩のようなN−アルキルピリジニウム塩、トリスヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム塩のようなテトラアルキルホスホニウム塩、例えばテトラフルオロボレート、アセテート、テトラクロロアルミネート、ヘキサフルオロホスフェート、クロリド及びトシレートである。溶剤としては、その都度の反応の出発物質、生成物又は副産物も使用可能である。
【0142】
本発明の方法のためのプロキラルエチレン系不飽和化合物としては、原則的にエチレン系不飽和炭素−炭素−又は炭素−ヘテロ原子−二重結合1個以上を有する全てのプロキラル化合物がこれに該当する。これには一般に、プロキラルオレフィン(ヒドロホルミル化、分子間ヒドロアシル化、ヒドロシアン化、ヒドロシリル化、カルボニル化、ヒドロアミド化、ヒドロエステル化、アミノ分解、アルコール分解、シクロプロパン化、ヒドロホウ素化、ジールス−アルダー反応、メタセシス)、非置換の及び置換されたアルデヒド(分子内ヒドロアシル化、アルドール縮合、アリルアルキル化)、ケトン(水素化、ヒドロシリル化、アルドール縮合、トランスファー水素化、アリルアルキル化)及びイミン(水素化、ヒドロシリル化、トランスファー水素化、マンニッヒ−反応)が挙げられる。
【0143】
好適なプロキラルエチレン系不飽和オレフィンは、一般に次式の化合物である:
【0144】
【化21】

[式中、Rα及びRβ及び/又はRγ及びRδは、異なる定義の基を表す]。キラル化合物の本発明による製造のために、プロキラルエチレン系不飽和化合物と反応する基質も、並びに状況によってC−C−二重結合の特定のC−原子への特定の置換基の付加に関する立体選択性も、少なくとも1個のキラル炭素原子を生じるように選択されることは自明のことである。
【0145】
前記の条件の考慮の下に、Rα、Rβ、Rγ及びRδは相互に無関係に、有利に次のものから選択され:水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘタリール、アルコキシ、シクロアルコキシ、ヘテロシクロアルコキシ、アリールオキシ、ヘタリールオキシ、ヒドロキシ、チオール、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンイミン、COOH、カルボキシレート、SOH、スルホネート、NE、NE9+、ハロゲン、ニトロ、アシル、アシルオキシ又はシアノ(ここで、E、E及びEはそれぞれ、水素、アルキル、シクロアルキル又はアリールから選択される同じ又は異なる基を表し、Xは1アニオン当量を表す)、
この際、アルキル基は、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘタリール、アルコキシ、シクロアルコキシ、ヘテロシクロアルコキシ、アリールオキシ、ヘタリールオキシ、ヒドロキシ、チオール、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンイミン、COOH、カルボキシレート、SOH、スルホネート、NE1011、NE101112+、ハロゲン、ニトロ、アシル、アシルオキシ又はシアノ(ここで、E10、E11及びE12はそれぞれ、水素、アルキル、シクロアルキル又はアリールから選択される同じ又は異なる基を表し、Xは1アニオン当量を表す)から選択される置換基1、2、3、4又は5個又はそれ以上を有していてよく、
かつこの際、シクロアルキル−、ヘテロシクロアルキル−、アリール−及びヘタリール基Rα、Rβ、Rγ及びRδは、それぞれ、アルキル及び先にアルキル基Rα及びRβ、Rγ及びRδに関して挙げられている置換基から選択される置換基1、2、3、4、5個又はそれ以上を有していてよいか、又は
基Rα、Rβ、Rγ及びRδの2個以上がそれらが結合しているC−C−二重結合と一緒になって単環−又は多環式化合物を表す。
【0146】
好適なプロキラルオレフィンは、炭素原子少なくとも4個及び末端位又は内部位の二重結合を有し、直鎖、分枝鎖の又は環状構造を有するオレフィンである。
【0147】
好適なα−オレフィンは、例えば1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−オクタデセン等である。
【0148】
好適な線状(直鎖)内部オレフィンは、有利にC〜C20−オレフィン、例えば2−ブテン、2−ペンテン、2−ヘキセン、3−ヘキセン、2−ヘプテン、3−ヘプテン、2−オクテン、3−オクテン、4−オクテン等である。
【0149】
好適な分枝した内部オレフィンは、有利にC〜C20−オレフィン、例えば2−メチル−2−ブテン、2−メチル−2−ペンテン、3−メチル−2−ペンテン、分枝した内部ヘプテン混合物、分枝した内部オクテン混合物、分枝した内部ノネン混合物、分枝した内部デセン混合物、分枝した内部ウンデセン混合物、分枝した内部ドデセン混合物等である。
【0150】
ヒドロホルミル化に好適なオレフィンは、更にC〜C−シクロアルケン、例えばシクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン及びこれらの誘導体、例えばアルキル置換基1〜5個を有するこれらのC〜C20−アルキル誘導体である。
【0151】
ヒドロホルミル化に好適なオレフィンは、更に次のものである:ビニル芳香族化合物、例えばスチレン、α−メチルスチレン、4−イソブチルスチレン等、2−ビニル−6−メトキシナフタリン、(3−エテニルフェニル)−フェニルケトン、(4−エテニルフェニル)−2−チエニルケトン、4−エテニル−2−フルオロビフェニル、4−(1,3−ジヒドロ−1−オキソ−2H−イソインドール−2−イル)スチレン、2−エテニル−5−ベンゾイルチオフェン、(3−エテニルフェニル)フェニルエーテル、プロペニルベンゼン、2−プロペニルフェノール、イソブチル−4−プロペニルベンゼン、フェニルビニルエーテル及び環状エナミン、例えば2,3−ジヒドロ−1,4−オキサジン、例えば2,3−ジヒドロ−4−t−ブトキシカルボニル−1,4−オキサジン。ヒドロホルミル化に好適なオレフィンは更に、α,β−エチレン系不飽和モノ−及び/又はジカルボン酸、それらのエステル、半エステル及びアミド、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、3−ペンテン酸メチルエステル,4−ペンテン酸メチルエステル、オレイン酸メチルエステル、アクリル酸メチルエステル、メタクリル酸メチルエステル、不飽和酸ニトリル、例えば3−ペンテンニトリル、4−ペンテンニトリル、アクリロニトリル、ビニルエーテル、例えばビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルプロピルエーテル等、塩化ビニル、塩化アリル、C〜C20−アルケノール、−アルケンジオール及び−アルカンジエノール、例えばアリルアルコール、ヘキセ−1−エン−4−オール、オクテ−1−エン−4−オール、2,7−オクタジエノール−1。好適な基質は更に、孤立又は共役二重結合を有するジ−又はポリエンである。これには例えば1,3−ブタジエン、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,7−オクタジエン、1,8−ノナジエン、1,9−デカジエン、1,10−ウンデカジエン、1,11−ドデカジエン、1,12−トリデカジエン、1,13−テトラデカジエン、ビニルシクロヘキセン、ジシクロペンタジエン、1,5,9−シクロオクタトリエン並びにブタジエンホモ−及び−コポリマーが挙げられる。
【0152】
更なる合成構成ブロックとして重要なプロキラルエチレン系不飽和化合物は、例えば次のものである:p−イソブチルスチレン、2−ビニル−6−メトキシナフタリン、(3−エテニルフェニル)−フェニルケトン、(4−エテニルフェニル)−2−チエニルケトン、4−エテニル−2−フルオロビフェニル、4−(1,3−ジヒドロ−1−オキソ−2H−イソインドール−2−イル)スチレン、2−エチル−5−ベンゾイルチオフェン、(3−エテニルフェニル)フェニルエーテル、プロペニルベンゼン、2−プロペニルフェノール、イソブチル−4−プロペニルベンゼン、フェニルビニルエーテル及び環状エナミド、例えば2,3−ジヒドロ−1,4−オキサジン、例えば2,3−ジヒドロ−4−t−ブトキシカルボニル−1,4−オキサジン。
【0153】
先に記載のオレフィンは、単独で又は混合物の形で使用することができる。
【0154】
有利な1実施形によれば、本発明による及び本発明により使用されるキラル触媒は、この反応のために使用される反応器中でその場で製造される。しかしながら所望の場合には、本発明による触媒を別個に製造し、かつ慣用法で単離することもできる。本発明の触媒の即座製造のためには、例えば本発明で使用される配位子少なくとも1種、遷移金属の化合物又は錯体1種、場合によっては付加的な配位子少なくとももう1種及び場合により活性化剤1種を、不活性の溶剤中で、その都度の反応の条件下(例えばヒドロホルミル化条件下、ヒドロシアン化条件下等)に反応させることができる。好適な活性化剤は、例えば、ブレンステッド酸、ルイス酸、例えばBF、AlCl、ZnCl及びルイス塩基である。
【0155】
触媒前駆物質としては、全く一般的に遷移金属、遷移金属化合物及び遷移金属錯体が好適である。
【0156】
好適なロジウム化合物又は−錯体は、例えば次のものである:ロジウム(II)−及びロジウム(III)−塩、例えば塩化ロジウム(III)、硝酸ロジウム(III)、硫酸ロジウム(III)、硫酸ロジウムカリウム、カルボン酸ロジウム(II)又はカルボン酸ロジウム(III)、酢酸ロジウム(II)及び酢酸ロジウム(III)、酸化ロジウム(III)、ロジウム(III)酸の塩、トリスアンモニウムヘキサクロルローデート(III)等。更に、ロジウム錯体、例えばRh(CO)12、ロジウムビスカルボニルアセチルアセトネート、アセチルアセトナトビスエチレンロジウム(I)等が好適である。
【0157】
同様に、ルテニウム塩又はルテニウム化合物が好適である。好適なルテニウム塩は、例えば塩化ルテニウム(III)、酸化ルテニウム(IV)、酸化ルテニウム(VI)又は酸化ルテニウム(VIII)、ルテニウム酸素酸のアルカリ金属塩、例えばKRuO又はKRuO又は錯化合物、例えばRuHCl(CO)(PPh、(Ru(p−シメン)Cl)、(Ru(ベンゼン)Cl)、(COD)Ru(メタリル)、Ru(acac)である。ルテニウムの金属カルボニル、例えばトリスルテニウムドデカカルボニル又はヘキサルテニウムオクタデカカルボニル又は混合形(ここで、COが部分的に式PRの配位子で換えられている)、例えばRu(CO)(PPhも本発明の方法で使用することができる。
【0158】
好適な鉄化合物は、例えば酢酸鉄(III)及び硝酸鉄(III)並びに鉄のカルボニル錯体である。
【0159】
好適なニッケル化合物は、弗化ニッケル及び硫酸ニッケルである。ニッケル触媒の製造のために好適なニッケル錯体は、例えばビス(1,5−シクロオクタジエン)−ニッケル(0)である。
【0160】
更にイリジウム及びオスミウムのカルボニル錯体、ハロゲン化オスミウム、オスミウムオクトエート、水素化パラジウム及びハロゲン化パラジウム、白金酸、硫酸イリジウム等が好適である。
【0161】
記載の及び他の好適な遷移金属化合物及び−錯体は原則的に公知であり、文献中に充分記載されているか又は、それらは当業者によって、周知の化合物と同様に製造することができる。
【0162】
一般に、反応媒体中の金属濃度は、約1〜10000ppmの範囲である。モノプニコゲン配位子対遷移金属のモル量比は一般に、約0.5:1〜1000:1、有利には1:1〜500:1の範囲である。
【0163】
担体触媒の使用も好適である。先に記載の触媒は、そのために好適な方法で、例えばアンカー基として好適な官能基を介する結合、吸着、グラフト化等によって、例えばガラス、シリカゲル、合成樹脂、ポリマー等からの好適な担体上に固定することができる。更にこれらは、固相触媒としての使用のためにも好適である。
【0164】
第1の好ましい実施形による本発明の方法は、水素化(1,2−H,H−付加)である。この場合に、前記のようなキラル触媒の存在下における、少なくとも1個のエチレン系不飽和二重結合を有するプロキラル化合物と水素との反応によって、単結合1つを有する相応するキラル化合物を得ることができる。プロキラルオレフィンからキラル炭素原子含有化合物が得られ、プロキラルケトンからキラルアルコールが、かつプロキラルイミンからキラルアミンが得られる。
【0165】
好ましいもう一つの実施形による本発明の方法は、以後にヒドロホルミル化と称される一酸化炭素及び水素との反応である。
【0166】
このヒドロホルミル化は、先に挙げられている溶剤の存在下に行うことができる。
【0167】
モノ(プソイド)プニコゲン配位子対第VIII副族の金属のモル量比は、一般に約1:1:〜1000:1、有利には2:1〜500:1の範囲である。
【0168】
ヒドロホルミル化触媒がその場で製造されることを特徴とする方法が好ましく、この際には、本発明で使用可能な配位子少なくとも1種、遷移金属の化合物又は錯体1種及び場合による活性化剤1種を不活性溶剤中でヒドロホルミル化条件下に反応させる。
【0169】
遷移金属は、有利に、元素の周期律表第VIII副族の金属であり、特に好ましくはコバルト、ルテニウム、イリジウム、ロジウム及びパラジウムである。殊にロジウムが使用される。
【0170】
本発明の方法で使用される一酸化炭素と水素とからの合成ガスの組成は、広範囲内で変動可能である。一酸化炭素対水素のモル比は、通常、約5:95〜70:30、好ましくは約40:60〜60:40である。殊に好ましくは一酸化炭素対水素のモル比が約1:1の範囲で使用される。
【0171】
ヒドロホルミル化反応の際の温度は、一般に約20〜180℃、好ましくは約50〜150℃の範囲である。一般に圧力は約1〜700バール、好ましくは1〜600バール、殊に1〜300バールの範囲である。この反応圧は、使用される本発明によるヒドロホルミル化触媒の活性に依存して変えることができる。一般に、燐含有化合物をベースとする本発明による触媒は、例えば約1〜100バールの低い圧力範囲での反応を可能とする。
【0172】
本発明で使用される及び本発明によるヒドロホルミル化触媒は、当業者に公知の慣用法によりヒドロホルミル化反応の排出物から分離することができ、一般に改めてヒドロホルミル化のために使用することができる。
【0173】
本発明の方法による不斉ヒドロホルミル化は、高い立体選択性によって優れている。更に有利に、本発明による及び本発明で使用される触媒は、通常、高いレギオ選択性を示す。更にこの触媒は、一般にヒドロホルミル化条件下で高い安定性を有するので、それを用いると通常は、慣用のキレート配位子をベースとする技術水準から公知の触媒を用いるよりも長い触媒耐用時間が達成される。更に本発明による及び本発明により使用される触媒は、有利に高い活性を示すので、通常は、相応するアルデヒド又はアルコールが良好な収率で得られる。
【0174】
もう一つの重要な1−ヒドロ−2−カルボ−付加は、シアン化水素との反応であり、以後これをヒドロシアン化と称する。
【0175】
ヒドロシアン化のために使用される触媒は、第VIII副族の金属、殊にコバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金、好ましくはニッケル、パラジウム及び白金、全く特別好ましくはニッケルの錯体を包含する。この金属錯体の製造は、前記のように行うことができる。本発明によるヒドロシアン化触媒の即座製造にも同様なことが当てはまる。ヒドロシアン化の方法は、J.March,Advanced Organic Chemistry, 4.Aufl., 811~812頁に記載されており、ここでこれが参照されうる。
【0176】
もう一つの有利な実施形によれば、1−ヒドロ−2−カルボ−付加は、一酸化炭素及び親核性基を有する化合物少なくとも1種との反応であり、以後これをカルボニル化と称する。
【0177】
カルボニル化触媒も、第VIII副族の金属、好ましくはニッケル、コバルト、鉄、ルテニウム、ロジウム及びパラジウム、殊にパラジウムの錯体を包含する。この金属錯体の製造は、前記のように行うことができる。本発明によるカルボニル化触媒の即座製造にも同様なことが当てはまる。
【0178】
水、アルコール、チオール、カルボン酸エステル、1級及び2級アミンから選択される親核性基を有する化合物が有利である。
【0179】
好ましいカルボニル化反応は、一酸化炭素及び水を用いるオレフィンのカルボン酸への変換(ヒドロカルボキシル化)である。
【0180】
このカルボニル化は、活性化剤の存在下に行うことができる。好適な活性化剤は、例えばブレンステッド酸、ルイス酸、例えばBF、AlCl、ZnCl及びルイス塩基である。
【0181】
もう一つの重要な1,2−付加は、ヒドロアシル化である。ここでは分子内不斉ヒドロアシル化の際に、不飽和アルデヒドの反応により光学的活性の環状ケトンを得ることができる。分子間不斉ヒドロアシル化の際に、前記のようなキラル触媒の存在下でのプロキラルオレフィンとハロゲン化アシルとの反応により、キラルケトンを得ることができる。ヒドロアシル化の好適な方法は、J.March,Advanced Organic Chemistry, 4.Aufl .,811頁に記載されており、ここでこれが参照されうる。
【0182】
もう一つの重要な1,2−付加は、ヒドロアミド化である。ここでは、前記のようなキラル触媒の存在下における、少なくとも1個のエチレン系不飽和二重結合を有するプロキラル化合物と一酸化炭素及びアンモニア、1級又は2級アミンとの反応によって、キラルアミドを得ることができる。
【0183】
もう一つの重要な1,2−付加は、ヒドロエステル化である。ここでは、前記のようなキラル触媒の存在下における、少なくとも1個のエチレン系不飽和二重結合を有するプロキラル化合物と一酸化炭素及びアルコールとの反応によって、キラルエステルを得ることができる。
【0184】
もう一つの重要な1,2−付加は、ヒドロホウ素化である。ここでは、前記のようなキラル触媒の存在下における、少なくとも1個のエチレン系不飽和二重結合を有するプロキラル化合物とボラン又はボラン源との反応によって、キラルトリアルキルボランを得ることができ、これは酸化(例えばNaOH/Hを用いて)により1級アルコールに又はカルボン酸にすることができる。好適なヒドロホウ素化の方法は、J.March,Advanced Organic Chemistry, 4.Aufl., 783-789頁に記載されており、ここでこれが参照されうる。
【0185】
もう一つの重要な1,2−付加は、ヒドロシリル化である。ここでは、前記のようなキラル触媒の存在下における、少なくとも1個のエチレン系不飽和二重結合を有するプロキラル化合物とシランとの反応によって、シリル基で官能化されたキラル化合物を得ることができる。プロキラルオレフィンからシリル基で官能化されたキラルアルカンが生じる。プロキラルケトンから、キラルシリルエーテル又は−アルコールが生じる。ヒドロシリル化触媒は、有利にPt、Pd、Rh、Ru及びIrから選択される遷移金属である。この場合に、前記の触媒と他の触媒との組み合わせ物又は混合物を使用するのが有利でありうる。好適な付加的な触媒には、例えば微粉砕形の白金(白金モール)、塩化白金及び白金錯体、例えばヘキサクロロ白金酸又はジビニルジシロキサン−白金−錯体、例えばテトラメチルジビニルジシロキサン−白金−錯体が挙げられる。好適なロジウム触媒は、例えば(RhCl(P(C)及びRhClである。更にRuCl及びIrClが好適である。好適な触媒は更に、ルイス酸、例えばAlCl又はTiCl並びにペルオキシドである。
【0186】
好適なシランは、例えばハロゲン化されたシラン、例えばトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルクロロシラン及びトリメチルシロキシジクロロシラン;アルコキシシラン、例えばトリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルジメトキシシラン、フェニルジメトキシシラン、1,3,3,5,5,7,7−ヘプタメチル−1,1−ジメトキシテトラシロキサン並びにアシロキシシランである。
【0187】
シリル化の際の反応温度は、有利には0〜140℃、特に好ましくは40〜120℃の範囲である。この反応は、通常は常圧下に実施されるが、例えば約1.5〜20バールの範囲の高い圧力でも、又は例えば200〜600ミリバールの低い圧力でも行うことができる。
【0188】
この反応は溶剤なしで又は好適な溶剤の存在下に行うことができる。溶剤としては、例えばトルエン、テトラヒドロフラン及びクロロホルムが好適である。
【0189】
もう一つの重要な1,2−付加は、アミノ分解(ヒドロアミノ化)である。ここでは、前記のようなキラル触媒の存在下における、少なくとも1個のエチレン系不飽和二重結合を有するプロキラル化合物とアンモニア、1級又は2級のアミンとの反応によって、1級、2級又は3級のキラルアミンを得ることができる。ヒドロアミノ化の好適な方法は、J.March,Advanced Organic Chemistry, 4.Aufl.,768-770頁に記載されており、ここでこれが参照されうる。
【0190】
もう一つの重要な1,2−付加は、アルコール分解(ヒドロ−アルコキシ−付加)である。ここでは、前記のようなキラル触媒の存在下における、少なくとも1個のエチレン系不飽和二重結合を有するプロキラル化合物とアルコールとの反応によって、キラルエーテルを得ることができる。このアルコール分解の好適な方法は、J.March, Advanced Organic Chemistry, 4.Aufl.,763-764頁に記載されており、ここでこれが参照されうる。
【0191】
もう一つの重要な反応は、異性化である。前記のようなキラル触媒の存在下での、少なくとも1個のエチレン系不飽和二重結合を有するプロキラル化合物から、キラル化合物を得ることができる。
【0192】
もう一つの重要な反応は、クロロプロパン化である。ここでは、前記のようなキラル触媒の存在下での、少なくとも1個のエチレン系不飽和二重結合を有するプロキラル化合物とジアゾ化合物から、キラルシクロプロパンを得ることができる。
【0193】
もう一つの重要な反応は、メタセシスである。ここでは、前記のようなキラル触媒の存在下における、少なくとも1個のエチレン系不飽和二重結合を有するプロキラル化合物から、キラル炭化水素を得ることができる。
【0194】
もう一つの重要な反応は、アルドール縮合である。ここでは、前記のようなキラル触媒の存在下における、プロキラルケトン又はアルデヒドとシリルエノールエーテルとの反応によって、キラルアルドールを得ることができる。
【0195】
もう一つの重要な反応は、アリルアルキル化である。ここでは、前記のようなキラル触媒の存在下における、プロキラルケトン又はアルデヒドとアリルアルキル化剤との反応によって、キラル炭化水素を得ることができる。
【0196】
もう一つの重要な反応は、[4+2]−シクロ付加である。ここでは、前記のようなキラル触媒の存在下におけるジエンとジエノフィル(その少なくとも1個の化合物はプロキラルである)との反応によって、キラルシクロヘキセン−化合物を得ることができる。
【0197】
本発明のもう一つの課題は、ヒドロホルミル化、ヒドロシアン化、カルボニル化、ヒドロアシル化、ヒドロアミド化、ヒドロエステル化、ヒドロシリル化、ヒドロホウ素化、水素化、アミノ分解、アルコール分解、異性化、メタセシス、シクロプロパン化又は[4+2]−シクロ付加のための、第VIII副族の金属1個と前記のような配位子少なくとも1個との錯体少なくとも1種を包含する触媒の使用である。
【0198】
本発明の方法は、多くの有用な光学活性化合物の製造のために好適である。この場合に立体選択的にキラル中心が得られる。本発明の方法で製造できる光学活性化合物の例は、置換又は非置換のアルコール又はフェノール、アミン、アミド、エステル、カルボン酸又は無水物、ケトン、オレフィン、アルデヒド、ニトリル及び炭化水素である。本発明による不斉ヒドロホルミル化法により製造される光学活性アルデヒドには、有利には例えばS−2−(p−イソブチルフェニル)プロピオンアルデヒド、S−2−(6−メトキシナフチル)プロピオンアルデヒド、S−2−(3−ベンゾイルフェニル)プロピオンアルデヒド、S−2−(p−チエノイルフェニル)プロピオンアルデヒド、S−2−(3−フルオロ−4−フェニル)フェニルプロピオンアルデヒド、S−2−[4−(1,3−ジヒドロ−1−オキソ−2H−イソインドール−2−イル)フェニル]プロピオンアルデヒド、S−2−(2−メチルアセトアルデヒド)−5−ベンゾイルチオフェン等が包含される。更なる本発明の方法(場合による誘導体化も包含)により製造可能な光学活性化合物は、Kirk-Othmer,Encyclopedia of Chemical Technology,Third Edition 1984及びThe Merck Index,An Encyclopedia of Chemicals,Drugs and Biologicals,Eleventh Edition, 1989に記載されており、ここでこれらが参照されうる。
【0199】
本発明の方法は、例えばヒドロホルミル化の際の高いエナンチオ選択性及び必要な場合にはレギオ選択性で光学活性生成物の製造を可能とする。少なくとも50%、好ましくは少なくとも75%、殊に少なくとも90%のエナンチオマー過剰(ee)を得ることができる。
【0200】
得られる生成物の単離は、当業者に公知の慣用法で可能である。これには、例えば溶剤抽出、結晶化、蒸留、例えばワイプド膜蒸発器(Wischblattverdampfer)又は液膜蒸発器中での蒸発が挙げられる。
【0201】
本発明の方法で得られる光学活性化合物は、1以上の後続反応に供することができる。このような方法は、当業者には公知である。これには例えば、アルコールのエステル化、アルコールのアルデヒドまでの酸化、アミドのN−アルキル化、アミドへのアルデヒドの付加、ニトリル還元、エステルを用いるケトンのアシル化、アミンのアシル化等が挙げられる。例えば本発明による不斉ヒドロホルミル化により得られる光学活性アルデヒドを、カルボン酸までの酸化、アルコールまでの還元、α,β−不飽和化合物までのアルドール縮合、アミンまでの還元性アミノ化、イミンまでのアミノ化等に呈することができる。
【0202】
有利な誘導体化には、本発明による不斉ヒドロホルミル化法で製造されたアルデヒドの酸化によって相応する光学活性カルボン酸にすることが包含される。ここでは、多くの薬剤学的に重要な化合物、例えばS−イブプロフェン、S−ナプロキセン、S−ケトプロフェン、S−スプロフェン、S−フルオルビプロフェン、S−インドプロフェン、S−チアプロフェン酸等が製造できる。
【0203】
次の表中に、いくつかの有利な誘導体化が、オレフィン出発物質、アルデヒド中間生成物及び最終生成物と関連して挙げられている。
【0204】
【表1】

【0205】
実施例
例1:
6−(1−ナフチルフェニルホスフィノ)−2−ピバロイルアミノピリジン(6−NPPAP)の製造:
【0206】
【化22】

【0207】
テトラヒドロフラン(30ml)中の2−ブロム−6−ピバロイルアミノピリジン(1.80g、7.0ミリモル)の溶液に、−100℃で20分かかってn−ブチルリチウム(8.7ml、14.0ミリモル、ヘキサン中の1.6M溶液、2当量)を加え、反応溶液をこの温度で1時間撹拌した。クロル(1−ナフチル)フェニルホスフィン(1.89g、7.0ミリモル、1当量、G.Wittig et al.,のJustus Liebig Ann. Chem. 1971, 17-26の記載に従い製造)の添加の後に、反応溶液を、室温で12時間にわたり加温した。飽和NaHCO−溶液(30ml)の添加により反応を終了させ、水相を分離させ、酢酸エチル(3×20ml)で抽出した。集めた有機相をMgSO上で乾燥させ、溶剤を回転蒸発器で除去した。粗生成物を、固定相としてのシリカゲル及びシクロヘキサン−酢酸エチル−混合物(10:1)を用いるカラムクロマトグラフィにより精製した。
【0208】
表題化合物(1.50g、3.6ミリモル、52%)が、白色固体の形で単離できた。
【0209】
融点:55℃。
【0210】
【化23】

【0211】
rac−6−NPPAP 200mgの分離を、調製用HPLC(Chiralpak AD-H、n−ヘプタン/EtOH 70:30、RT、11.0ml/分、295nm)を用いて行い、この際、個々のエナンチオマーがee>99%で得られた。
【0212】
例2:
ヘテロジマーPt−錯体の製造
【0213】
【化24】

【0214】
CDCl(0.4ml)中のPtCl(1,5−シクロオクタジエン)(14.5mg、3.82・10−2ミリモル、1当量)の溶液に、CDCl(0.4ml)中の3−ジフェニルホスフィノ−2−H−イソキノリン−1−オン(3−DPICオン)(12.6mg、3.82・10−2ミリモル、1当量)及び例1からの6−NPPAP(14.4mg、3.28・10ミリモル、1当量)からの溶液を添加した。ヘテロレプティック錯体の形成が低温−NMR−分光法によって観察された。
【0215】
【化25】

【0216】
例3:
2−アセタミドアクリル酸メチルエステルの不斉水素化
【0217】
【化26】

【0218】
[Rh(COD)]BF(2mg、5.0・10−3ミリモル、1.0モル%)、3−DPICオン(2.1mg、6.4・10−3ミリモル、1.3モル%)及び例1からの(+)−6−NPPAP(2.7mg、6.5・10−3ミリモル、1.3モル%)からの混合物を、無水のかつ脱ガスされたCHCl(5ml)中に溶かし、室温で10分間撹拌した。この触媒溶液に2−アセタミドアクリル酸メチルエステル(71.6mg、0.5ミリモル)を加え、この溶液を鋼オートクレーブ中に移した。このオートクレーブを水素で5回フラッシングし、引き続き室温で48時間、5バールの圧力にした。
【0219】
この反応の終了後に変換率をH−NMR−分光法によって測定し、キラルGC(Hydrodex β-TBCAc)を用いてエナンチオマー過剰を測定した。
【0220】
変換率は定量的であり、エナンチオマー過剰は43%(R)であった。
【0221】
例4:
6−DPPAPのキラルホスホナイト誘導体の製造
a)6−(ビス(ジエチルアミノ)ホスフィノ)−2−ピバロイルアミノピリジンの合成
【0222】
【化27】

【0223】
2−ブロム−6−N−ピバロイルアミノピリジン(1.98g、7.7ミリモル、1当量)をテトラヒドロフラン(50ml)中に溶かした。−100℃でn−ブチルリチウム(10.0ml、ヘキサン中の1.54M、15.4ミリモル、2当量)をゆっくり滴加した。黄色溶液を−100℃で90分間撹拌した。引き続き、J.Sakai,W.B.Scweizer, D.Seebach によりHelv.Chim. Acta 1993,76, 2654-2665に記載されているように製造されたビス−(ジエチルアミノ)−クロロホスファン(1.62g、7.7ミリモル、1当量)を迅速に添加した。その後、反応混合物を室温に一晩加温した。溶剤を真空中で除去し、残分をジエチルエーテル(30ml)中に入れ、脱ガスされた水(0.14g、0.14ml、7.8ミリモル、1当量)を加えた。生じた懸濁液を、保護ガス雰囲気下にセライト及び硫酸マグネシウムを通して濾過した。溶剤を真空中で除去した。粗生成物を球管蒸留を用いて200℃(10−3ミリバール)で精製した。表題化合物が無色の粘稠性液体として得られた(1.41g、4.0ミリモル、52%)。
【0224】
【化28】

【0225】
b)6−(3,5−ジオキサ−4−ホスファシクロヘプタ[2,1−a;3,4−a’]ジナフタレン−4−イル)−2−ピバロイルアミノピリジンの合成
【0226】
【化29】

【0227】
N−(6−(ビス(ジエチルアミノ)ホスフィノ)ピリジン−2−イル)ピバラミド(0.292g、0.60ミリモル、1当量)をトルエン(12ml)中に溶かした。引き続き(S)−BINOL(0.172g、0.60ミリモル、1当量)を加え、反応混合物を還流下に3時間加熱した。溶剤を真空中で除去した。表題化合物が、白色固体の形で得られた(0.276g、0.56ミリモル、93%)。
【0228】
【化30】

【0229】
例5:
ヘテロジマーPt−錯体の製造
【0230】
【化31】

【0231】
CDCl(0.4ml)中のPtCl(1,5−シクロオクタジエン)(10.0mg、2.67・10−2ミリモル、1当量)の溶液に、CDCl(0.4ml)中の3−DPICオン(8.8mg、2.67・10−2ミリモル、1当量)及びアミノピリジン−配位子(13.2mg、2.67・10−2ミリモル、1当量)からの溶液を添加した。ヘテロレプティック錯体の形成がNMR−分光法により観察された。
【0232】
【化32】

【図面の簡単な説明】
【0233】
【図1】図1は、白金錯体の立体図を示す

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれプニコゲン原子含有基又はプソイドプニコゲン原子含有基1個及び分子間非共有結合を形成することのできる官能基少なくとも1個を有する配位子を有する遷移金属錯体少なくとも1種を包含するキラル触媒の存在下での、少なくとも1個のエチレン系不飽和二重結合を有するプロキラル化合物と基質との反応によって、キラル化合物を製造する方法であって、前記錯体が分子間非共有結合を介して二量化された配位子を有している方法。
【請求項2】
配位子は、N、P、As及びSbから選択されているプニコゲン原子少なくとも1個を有している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
配位子は、窒素原子少なくとも1個をイミンの形で有している、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
配位子は、プソイドプニコゲン原子としてカルベン−炭素原子少なくとも1個を有している、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
二量化された配位子のプニコゲン原子含有基又はプソイドプニコゲン原子含有基の遷移金属に配位している原子の間の間隔は最大で5Åである、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
分子間非共有結合を介して二量化された配位子は、式I:
【化1】

[式中、Pnは、相互に無関係に選択されたプニコゲン原子又はプソイドプニコゲン原子含有基の配位原子を表し、
A及びBは、それらの間に非共有相互作用がある、相互に相補的な官能基を有する基を表し、
は、単結合又は二重結合した有機基を表し、
は、単結合した有機基を表し、
aは、プニコゲン原子の又はプソイドプニコゲン原子含有基の配位原子の価数及び基Rの結合性に依存して0又は1であり、
この際、プニコゲン原子又はプソイドプニコゲン原子含有基の配位原子は、それに結合している基R、R及びA又はBの少なくとも2個と一緒になって環系の一部分であってもよい]の配位子/配位子−対から選択されている、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
プニコゲン原子含有基又はプソイドプニコゲン原子含有基はカルベン基であり、このカルベン基は、一般式I.1:
【化2】

[式中、Gは、NR又はCRを表し、ここで、R、R及びRは相互に無関係に、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール又はヘタリールを表し、ここで、R又はRは、二重結合の1結合当量を表すこともでき、
は、側面の結合の間に原子1〜5個を有する2価の架橋基を表し、
は、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール又はヘタリールを表し、
この際、基R、R、R、Rの1個又は基Qに付いている基1個は、分子間非共有結合を形成することのできる官能基を表すか又はこのような基を含有している]の環系の一部分である、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
式I.1の化合物は、式I.1a〜I.1d:
【化3】

[式中、R、R、R、R及びRは相互に無関係に、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール又はヘタリールを表し、この際、これらの基の一つは分子間非共有結合を形成することのできる官能基を表すか又はこのような基を含有している]の化合物から選択されている、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
プニコゲン原子含有基又はプソイドプニコゲン原子含有基は、一般式I.2:
【化4】

[式中、Qは側面の結合の間に原子1〜5個を有する2価の架橋基を表し、
、R及びRは相互に無関係に、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール又はヘタリールを表し、
この際、基R、R、Rの1個又は基Qに付いている基の1個は、分子間非共有結合を形成することのできる官能基を表すか又はこのような基を含有している]の環系の一部分であるイミン基である、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
式I.2の化合物は、式I.2a又はI.2b:
【化5】

[式中、Gは、O又はNRを表し、ここで、Rは水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール又はヘタリールを表し、
、R、R及びRは相互に無関係に、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール又はヘタリールを表し、
この際、基R、R、R、R及びRの1個は分子間非共有結合を形成することのできる官能基を表すか又はこのような基を含有している]の環状イミンから選択されている、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
プニコゲン原子含有基又はプソイドプニコゲン原子含有基は、一般式I.3:
【化6】

[式中、Pnは、N、P、As又はSb、有利にはPを表し、
及びRは相互に無関係に、アルキル、アルコキシ、シクロアルキル、シクロアルコキシ、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルコキシ、アリール、アリールオキシ、ヘタリール又はヘタリールオキシを表すか又は
及びRはそれらが結合している隣原子と一緒になって4〜8員のヘテロ環式基を表し、これは場合により付加的に、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール又はヘタリール1、2又は3個と融合しており、この際、ヘテロ環及び場合により存在する融合した基は相互に無関係に、それぞれ、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘタリール、COOR、COO、SO、SO、PO(R)(R)、(PO2−(M、NE、(NE、OR、SR、(CHRCHO)、(CHO)e、(CHCHNE、ハロゲン、ニトロ、アシル又はシアノから選択されている置換基1、2、3又は4個を有していてよく、
ここで、R及びRはそれぞれ、水素、アルキル、シクロアルキル、アリール又はヘタリールから選択される同じ又は異なる基を表し、
、E4、、Eはそれぞれ、水素、アルキル、シクロアルキル、アリール又はヘタリールから選択される同じ又は異なる基を表し、
は、水素、メチル又はエチルを表し、
は、1カチオン当量を表し、
は、1アニオン当量を表し、かつ
yは、1〜240の整数を表す]の基から選択されている、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
分子間非共有結合を形成することのできる官能基は、ヒドロキシル−、1級、2級及び3級アミノ−、チオール−、ケト−、チオケトン−、イミン−、カルボン酸エステル−、カルボン酸アミド−、アミジン−、ウレタン−、尿素−、スルホキシド−、スルホキシイミン−、スルホン酸アミド−及びスルホン酸エステル基から選択されている、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
分子間非共有結合を形成することのできる官能基は、互変異性可能である基から選択されている、請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
配位子は、一般式I.a又はI.b:
【化7】

[式中、Pn、R、R及びaは、請求項6に定義されているものを表し、
は、水素、アルキル、アルコキシ、シクロアルキル、シクロアルコキシ、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルコキシ、アリール、アリールオキシ、ヘタリール又はヘタリールオキシを表し、
Xは、側面の結合の間に架橋原子1〜5個を有する2価の架橋基を表し、
Yは、O、S又はNRを表し、ここで、Rは水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール又はヘタリールを表し、
この際、基X及びR〜Rの2個以上は、それらが結合している式I.a又はI.bの構造要素と一緒になって単環−又は多環式結合を表すことができる]の構造要素又はそれらの互変異性体少なくとも1個を包含している、請求項1から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
この際、配位子I.a又はI.b中のR及びRは、それらが結合している燐原子と一緒になって5−ないし8員のヘテロ環を表し、これは、場合により付加的に、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール又はヘタリール1、2又は3個と融合しており、この際、ヘテロ環及び場合により存在する融合した基は相互に無関係に、それぞれ、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘタリール、COOR、COO、SO、SO、PO(R)(R)、(PO2−(M、NE、(NE、OR、SR、(CHRCHO)、(CHNE、(CHCHNE、ハロゲン、ニトロ、アシル又はシアノから選択される置換基1、2、3又は4個を有していてよく、
ここで、R及びRはそれぞれ、アルキル、シクロアルキル、アリール又はヘタリールから選択される同じ又は異なる基を表し、
、E、E、Eはそれぞれ、水素、アルキル、シクロアルキル、アシル、アリール又はヘタリールから選択される同じ又は異なる基を表し、
は水素、メチル又はエチルを表し、
は、1カチオン当量を表し、
は1アニオン当量を表し、かつ
yは1〜240の整数を表す、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
ヘテロ環はキラルである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
配位子は、一般式I.A〜I.C:
【化8】

[式中、基R〜Rの1個はプニコゲン原子含有基又はプソイドプニコゲン原子含有基を表し、
プニコゲン原子含有基又はプソイドプニコゲン原子含有基を表わさない基R〜Rは相互に無関係に、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘタリール、WCOOR、WCOO、W(SO)R、W(SO、WPO(R)(R)、W(PO2−(M、WNE、W(NE、WOR、WSR、(CHRCHO)、(CHNE、(CHCHNE、ハロゲン、ニトロ、アシル又はシアノを表し、
ここで、Wは単結合、ヘテロ原子、ヘテロ原子含有基又は架橋原子1〜20個を有する2価の架橋基を表し、
及びRはそれぞれ、アルキル、シクロアルキル、アリール又はヘタリールから選択される同じ又は異なる基を表し、
q、1、、Eはそれぞれ、水素、アルキル、シクロアルキル、アシル、アリール又はヘタリールから選択される同じ又は異なる基を表し、
は、水素、メチル又はエチルを表し、
は1カチオン当量を表し、
は1アニオン当量を表し、かつ
xは1〜240の整数を表し、
ここで、隣接基R〜Rの2個は縮合した環系を表すこともでき、かつ
及びRは、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール又はヘタリールを表し、ここで、Rはアシルを表すこともできる]の化合物及びこれらの互変異性体から選択されている、請求項1から16までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
プニコゲン原子含有基又はプソイドプニコゲン原子含有基を表す基R〜Rは、式:−W’−PnR
[式中、Pnは、プニコゲン原子又はプソイドプニコゲン原子を表し、W’は、単結合、ヘテロ原子、ヘテロ原子含有基又は側面の結合の間に架橋原子1〜4個を有する2価の架橋基を表し、R及びRは請求項13又は14に定義されているものを表す]の基を表す、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
一般式I.A〜I.C:
【化9】

[式中、基R〜Rの1個はプニコゲン原子含有基又はプソイドプニコゲン原子含有基を表し、
プニコゲン原子含有基又はプソイドプニコゲン原子含有基を表さない基R〜Rは相互に無関係に、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘタリール、WCOOR、WCOO、W(SO)R、W(SO、WPO(R)(R)、W(PO2−(M、WNE、W(NE、WOR、WSR、(CHRCHO)、(CHNE、(CHCHNE、ハロゲン、ニトロ、アシル又はシアノを表し、
ここで、Wは単結合、ヘテロ原子、ヘテロ原子含有基又は架橋原子1〜20個を有する2価の架橋基を表し、
及びRはそれぞれ、アルキル、シクロアルキル、アリール又はヘタリールから選択される同じ又は異なる基を表し、
、E、E、Eはそれぞれ、水素、アルキル、シクロアルキル、アシル、アリール又はヘタリールから選択される同じ又は異なる基を表し、
は水素、メチル又はエチルを表し、
は1カチオン当量を表し、
は1アニオン当量を表し、かつ
xは1〜240の整数を表し、
ここで、隣接している基R〜Rの2個は縮合環系を表すこともでき、かつ、
及びRは、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール又はヘタリールを表し、ここで、Rはアシルを表すこともできる]の化合物及びこれらの互変異性体から選択されている配位子を有する遷移金属錯体少なくとも1種を包含するキラル触媒の存在下での、少なくとも1個のエチレン系不飽和二重結合を有するプロキラル化合物と基質との反応によって、キラル化合物を製造する方法。
【請求項20】
配位子は、一般式I.i〜I.iii:
【化10】

[式中、bは0又は1を表し、
Pnはプニコゲン原子含有基又はプソイドプニコゲン原子含有基を表し、
及びRは請求項13又は14に定義されているものを表し、
〜Rは相互に無関係に、水素、C〜C−アルキル、C〜C−アルコキシ、アリール、ヘテロアリール、アシル、ハロゲン、C〜C−アルコキシカルボニル又はカルボキシレートを表し、
ここで、隣接基R〜Rの2個は縮合環系を表すこともでき、かつ、
及びRは水素、アルキル、シクロアルキル又はアリールを表し、ここで、Rはアシルを表すこともできる]の化合物及びこれらの互変異性体から選択されている、請求項17から19までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
プロキラル化合物は、オレフィン、アルデヒド、ケトン及びイミンから選択されている、請求項1から20までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
水素化、ヒドロホルミル化、ヒドロシアン化、カルボニル化、ヒドロアシル化、ヒドロアミド化、ヒドロエステル化、ヒドロシリル化、ヒドロホウ素化、アミノ分解、アルコール分解、異性化、メタセシス、シクロプロパン化、アルドール縮合、アリルアルキル化又は[4+2]−シクロ付加である、請求項1から21までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
1,2−付加、有利には1−ヒドロ−2−カルボ−付加である、請求項1から22までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
ヒドロホルミル化である、請求項1から23までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
水素化である、請求項1から24までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
請求項1から20までのいずれか1項に定義されているような配位子。
【請求項27】
請求項1から20までのいずれか1項に定義されているような触媒。
【請求項28】
水素化、ヒドロホルミル化、ヒドロシアン化、カルボニル化、ヒドロアシル化、ヒドロアミド化、ヒドロエステル化、ヒドロシリル化、ヒドロホウ素化、アミノ分解、アルコール分解、異性化、メタセシス、シクロプロパン化、アルドール縮合、アリルアルキル化又は[4+2]−シクロ付加のための、請求項27に記載の触媒の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2007−513883(P2007−513883A)
【公表日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−540371(P2006−540371)
【出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【国際出願番号】PCT/EP2004/013344
【国際公開番号】WO2005/051964
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト (847)
【氏名又は名称原語表記】BASF Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】