説明

不斉還元触媒、その溶液、その調製方法並びにそれを用いた光学活性アルコール類の製造方法

【課題】 工業的に有用な不斉還元触媒を提供する。
【解決手段】 一般式(1)又は一般式(2)
【化1】


【化2】


(式中R、Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜10の直鎖状、分岐状若しくは環式のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、炭素数3〜10の直鎖状、分岐状若しくは環式のアルコキシ基、フェニル基、置換フェニル基、トリフルオロメチル基又はハロゲン原子を示し、m及びnは各々独立して0〜5の整数を示す)
で示されるラクタムアルコール誘導体、p−ハロゲン化フェノ−ル及びボラン類からなる不斉還元触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は不斉還元触媒、その溶液並びにそれを用いた光学活性アルコール類の製造方法に関する。不斉還元により得られる光学活性アルコール類は医農薬の製造中間体として有用である。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、光学活性プロリンより誘導される下記式(4)
【0003】
【化1】

【0004】
で示される不斉還元触媒が知られており、これを用い、非対称ケトン類の不斉還元により光学活性アルコール類を得る方法が知られている(例えば、非特許文献1、2参照)。
【0005】
また、下記一般式(1)又は一般式(2)
【0006】
【化2】

【0007】
【化3】

【0008】
[上記一般式(1)又は一般式(2)中、R、Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜10の直鎖状、分岐状若しくは環式のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、炭素数3〜10の直鎖状、分岐状若しくは環式のアルコキシ基、フェニル基、置換フェニル基、トリフルオロメチル基又はハロゲン原子を示し、m及びnは各々独立して0〜5の整数を示す。]。
で示される光学活性ラクタムアルコールで示されるラクタムアルコール誘導体とボラン類からなる不斉還元触媒溶液も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−339207号公報。
【非特許文献1】E.J.Corey,et.,al.,J.Org.Chem.,53,2861−2863(1988)。
【非特許文献2】E.J.Corey,et.,al.,J.Am.Chem.Soc.,109,5551−5553(1987)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記式(4)で示される触媒や、上記一般式(1)又は一般式(2)で示される光学活性ラクタムアルコール誘導体とボラン類からなる不斉還元触媒溶液は、アセトフェノンに代表される非対称芳香族−アルキルケトン類の不斉還元反応については、95%ee以上の高い光学選択性を発現するものの、下記一般式(3)
【0010】
【化4】

【0011】
(式中Rはエチル基、炭素数3〜10の直鎖状、分岐状若しくは環式のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、炭素数3〜10の直鎖状、分岐状若しくは環式のアルコキシ基、フェニル基、置換フェニル基、フェニル基若しくは置換フェニル基が結合した炭素数3〜10の直鎖状、分岐状若しくは環式のアルキル基、トリフルオロメチル基又はハロゲン原子を示し、Rは水素原子又はメチル基を示す。)
で示される非対称第一級アルキル−アルキルケトン類に対しては性能が劣り、60%ee以下の光学選択性に留まっていた。
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、様々な非対称ケトン類に対しても高い光学選択性を有する不斉還元触媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、還元試剤としてボラン類を用い、様々な非対称ケトン類に対して高い光学選択性を発現する不斉還元触媒について、鋭意検討を行った結果、下記一般式(1)又は一般式(2)で示されるラクタムアルコール誘導体、p−ハロゲン化フェノ−ル及びボラン類からなる不斉還元触媒が、従来の触媒又は触媒溶液では低い光学選択性に留まる非対称第一級アルキル−アルキルケトン類の不斉還元に対しても高い光学選択性を発現することを見出し、その結果として様々な非対称ケトン類の不斉還元に幅広く使用可能な有効な触媒であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち本発明は、以下に示すとおりの不斉還元触媒、その溶液、その調製方法並びにそれを用いた光学活性アルコール類の製造方法である。
【0015】
[1]下記一般式(1)又は一般式(2)
【0016】
【化5】

【0017】
【化6】

【0018】
[上記一般式(1)又は一般式(2)中、R、Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜10の直鎖状、分岐状若しくは環式のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、炭素数3〜10の直鎖状、分岐状若しくは環式のアルコキシ基、フェニル基、置換フェニル基、トリフルオロメチル基又はハロゲン原子を示し、m及びnは各々独立して0〜5の整数を示す。]。
で示されるラクタムアルコール誘導体、p−ハロゲン化フェノール及びボラン類からなる不斉還元触媒。
【0019】
[2]上記一般式(1)又は一般式(2)で示されるラクタムアルコール誘導体のR,Rが各々独立して、水素原子、メチル基、メトキシ基、tert−ブチル基、トリフルオロメチル基又はフッ素原子を示し、m=n=1又は2の整数を示すことを特徴とする上記[1]に記載の不斉還元触媒。
【0020】
[3]p−ハロゲン化フェノールがp−ブロモフェノール又はp−ヨードフェノールであることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の不斉還元触媒。
【0021】
[4]上記[1]乃至[3]のいずれかに記載の不斉還元触媒が溶解した不斉還元触媒溶液。
【0022】
[5]上記一般式(1)又は一般式(2)で示されるラクタムアルコール誘導体、ボラン類及びp−ハロゲン化フェノールを反応させることを特徴とする上記[1]乃至[3]のいずれかに記載の不斉還元触媒の製造方法。
【0023】
[6]有機溶媒中、上記一般式(1)又は一般式(2)で示されるラクタムアルコール誘導体、ボラン類及びp−ハロゲン化フェノールを反応させることを特徴とする上記[4]に記載の不斉還元触媒溶液の製造方法。
【0024】
[7]上記[1]乃至[3]に記載の不斉還元触媒を用い、非対称ケトン類を不斉還元することを特徴とする光学活性アルコール類の製造方法。
【0025】
[8]上記[4]に記載の不斉還元触媒溶液を用い、非対称ケトン類を不斉還元することを特徴とする光学活性アルコール類の製造方法。
【0026】
[9]非対称ケトン類が下記一般式(3)で示される第一級アルキル−アルキルケトン類であることを特徴とする上記[7]または[8]に記載の光学活性アルコール類の製造方法。
【0027】
【化7】

【0028】
[上記一般式(3)中、Rはエチル基、炭素数3〜10の直鎖状、分岐状若しくは環式のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、炭素数3〜10の直鎖状、分岐状若しくは環式のアルコキシ基、フェニル基、置換フェニル基、フェニル基若しくは置換フェニル基が結合した炭素数3〜10の直鎖状、分岐状若しくは環式のアルキル基、トリフルオロメチル基又はハロゲン原子を示し、Rは水素原子又はメチル基を示す。]
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、様々な非対称ケトン類を高光学選択的に不斉還元することが可能となり、相当する高光学純度の光学活性アルコール類を得ることが工業的に可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明を以下詳細に説明する。
【0031】
本発明の不斉還元触媒は、上記一般式(1)又は一般式(2)で示されるラクタムアルコール誘導体、p−ハロゲン化フェノール及びボラン類からなる。
【0032】
本発明の不斉還元触媒は、例えば、反応に不活性な溶媒中、所定量のボラン類にp−ハロゲン化フェノールを添加し反応させた後、上記一般式(1)又は一般式(2)で示されるラクタムアルコール誘導体を添加して調製される。
【0033】
上記一般式(1)又は(2)のR、Rにおける「置換フェニル基」とは、各々独立して、メチル基、エチル基、炭素数3〜10の直鎖、分岐若しくは環化したアルキル基で核が1〜5置換されたフェニル基、メトキシ基、エチル基、炭素数3〜10の直鎖、分岐若しくは環化したアルコキシ基で核が1〜5置換されたフェニル基、フッ素原子、塩素原子、ヨウ素原子で核が1〜5置換されたフェニル基、フェニル基で核が1〜2置換されたフェニル基を表す。
【0034】
本発明において、上記一般式(1)で示されるラクタムアルコール誘導体としては、例えば、(S)−5−[ヒドロキシジフェニルメチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3−メチルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−メチルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3,5−ジメチルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3−エチルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−エチルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3,5−ジエチルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3−n−プロピルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−n−プロピルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3,5−ジ−n−プロピルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3−iso−プロピルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−iso−プロピルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3,5−ジ−iso−プロピルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−n−ブチルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−tert−ブチルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−n−ブチルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−n−ヘキシルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−n−ヘプチルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−n−オクチルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−n−ノニルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−n−デシルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3−メトキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−メトキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3,5−ジメトキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3−エトキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−エトキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3,5−ジエトキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3−n−プロポキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−n−プロポキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3,5−ジ−n−プロポキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3−iso−プロポキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−iso−プロポキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3,5−ジ−iso−プロポキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−n−ブトキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−tert−ブトキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−n−ペントキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−n−ヘキシルオキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−n−ヘプチルオキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−n−オクチルオキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−n−ノニルオキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−n−デシルオキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3−フルオロフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−フルオロフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3,5−ジフルオロフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3−トリフルオロメチルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−トリフルオロメチルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−ビフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3,5−ジフェニルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン等が挙げられる。
【0035】
本発明において、上記一般式(2)で示されるラクタムアルコール誘導体としては、例えば、(R)−5−[ヒドロキシジフェニルメチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(3−メチルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(4−メチルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(3,5−ジメチルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(3−エチルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(4−エチルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(3,5−ジエチルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(3−n−プロピルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(4−n−プロピルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(3,5−ジ−n−プロピルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(3−iso−プロピルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(4−iso−プロピルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(3,5−ジ−iso−プロピルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(4−n−ブチルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(4−tert−ブチルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(4−n−ブチルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(4−n−ヘキシルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(4−n−ヘプチルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(4−n−オクチルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(4−n−ノニルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(4−n−デシルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(3−メトキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(4−メトキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(3,5−ジメトキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(3−エトキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(4−エトキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(3,5−ジエトキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(3−n−プロポキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(4−n−プロポキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(3,5−ジ−n−プロポキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(3−iso−プロポキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(4−iso−プロポキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(3,5−ジ−iso−プロポキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(4−n−ブトキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(4−tert−ブトキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(4−n−ペントキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(4−n−ヘキシルオキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(4−n−ヘプチルオキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(4−n−オクチルオキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(4−n−ノニルオキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(4−n−デシルオキシフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(3−フルオロフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(4−フルオロフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(3,5−ジフルオロフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(3−トリフルオロメチルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(4−トリフルオロメチルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(4−ビフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン、(R)−5−[ヒドロキシビス(3,5−ジフェニルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン等が挙げられる。
【0036】
本発明の不斉還元触媒において、上記一般式(1)又は一般式(2)で示されるラクタムアルコール誘導体の使用量としては、特に限定するものではないが、例えば、非対称ケトン類を不斉還元する場合には、反応に用いるケトン類に対して、通常0.5モル%〜100モル%の範囲で使用可能であり、収率及び経済性を考慮すると、好ましくは1モル%〜20モル%の範囲である。
【0037】
本発明の不斉還元触媒の調製に当って、不斉還元触媒中の、上記一般式(1)又は一般式(2)で示されるラクタムアルコール誘導体の濃度は特に限定するものではないが、0.01重量%〜50重量%の範囲で実施することが好ましい。
【0038】
本発明の不斉還元触媒の調製に適用可能な溶剤としては、反応に不活性なものであればあらゆるものが使用可能であるが、例えば、テトラヒドロフラン(以下THFと略す)、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類が挙げられる。
【0039】
本発明の不斉還元触媒の調製に適用可能なボラン類としては、特に限定するものではないが、具体的には、ジボラン、ボラン−アンモニア錯体、ボラン−tert−ブチルアミン錯体、ボラン−N,N−ジメチルアニリン錯体、ボラン−ジメチルアミン錯体、ボラン−ジフェニルフォスフィン錯体、ボラン−4−エチルモルフォリン錯体、ボラン−メチルスルフィド錯体、ボラン−ジオキサン錯体、ボラン−ピリジン錯体、ボラン−テトラヒドロフラン錯体(以下、ボラン−THF錯体と略す。)、ボラン−トリエチルアミン錯体等が例示され、これら単独で又はこれらボラン類を反応に不活性な溶剤に希釈し溶液としたものを用いることができる。
【0040】
本発明の不斉還元触媒の調製に適用可能なボラン類の使用量としては、理論的には一般式(1)または一般式(2)で示されるラクタムアルコール類に対して1.5モル量の使用で十分であるが、安定に触媒を発生させるため、一般式(1)または一般式(2)で示されるラクタムアルコール類に対して2モル量以上である。さらに、例えば、次反応の非対称ケトン類の不斉還元を引き続き実施する場合、反応操作を簡略化するため触媒調製に必要なボランと不斉還元反応に必要なボランを合わせて仕込むことが可能である。この場合のボランの使用量としては、理論的には、反応に用いるケトン類1モルに対して0.5モルと、上記一般式(1)又は一般式(2)で示されるラクタムアルコール誘導体1モルに対して1.5モルとを合わせた量以上であるが、反応を円滑に行い高い収率を得るためには、ケトン類1モルに対して0.6モル〜10モルと、上記一般式(1)又は一般式(2)で示されるラクタムアルコール誘導体1モルに対して2モルとを合わせた量を使用することが好ましい。
【0041】
本発明の不斉還元触媒の調製に適用可能なp−ハロゲン化フェノールとしては、具体的には、p−フルオロフェノール、p−クロロフェノール、p−ブロモフェノール、p−ヨードフェノールが例示されるが、光学選択性を考慮すると、好ましくはp−ブロモフェノール、p−ヨードフェノールである。
【0042】
本発明の不斉還元触媒の調製に適用可能なp−ハロゲン化フェノールの使用量としては、上記一般式(1)又は一般式(2)で示されるラクタムアルコール誘導体に対して、理論的には等量で十分であるが、安定した触媒を発生させ、なおかつ高い光学選択性を得るために、通常使用するボラン類に対して0.9〜2モル量使用する。
【0043】
本発明の不斉還元触媒は、具体的には、ボラン類とp−ハロゲン化フェノールを−20℃〜50℃の範囲で混合し、0.1〜4時間攪拌した後、ラクタムアルコール誘導体を添加し、さらに1分〜10時間の反応させることにより容易に調製することができる。
【0044】
本発明の不斉還元触媒又はその溶液は、例えば、非対称ケトン類を不斉還元し、光学活性アルコール類の製造に使用される。本発明の不斉還元触媒又はその溶液は、調製後、直ちに次反応の非対称ケトン類の還元に用いても良いし、保存し、必要に応じて分割して用いても良い。
【0045】
本発明の不斉還元反応に適用可能な非対称ケトン類としては、上記一般式(3)で示される化合物であるが、一般式(3)のRにおいて、「置換フェニル基」とは、メチル基、エチル基、炭素数3〜10の直鎖、分岐若しくは環化したアルキル基で核が1〜5置換されたフェニル基、メトキシ基、エチル基、炭素数3〜10の直鎖、分岐若しくは環化したアルコキシ基で核が1〜5置換されたフェニル基、フッ素原子、塩素原子、ヨウ素原子で核が1〜5置換されたフェニル基、フェニル基で核が1〜2置換されたフェニル基を表す。
【0046】
一般式(3)で示される非対称ケトン類として、具体的には、3,3−ジメチル−2−ブタノン、3−メチル−2−ペンタノン、4−メチル−2−ヘキサノン、2,2−ジメチル−3−ペンタノン、2−メチル−3−ヘキサノン、2,2−ジメチル−3−ヘキサノン、シクロヘキシルメチルケトン、アセトフェノン、フェニルエチルケトン、(4−クロロフェニル)メチルケトン、フェニル(クロロメチル)ケトン、1−インダノン、α−テトラロン、2−ブタノン、2−ペンタノン、2−ヘキサノン、2−ヘプタノン、2−オクタノン、2−ノナノン、2−デカノン、2−ウンデカノン、2−ドデカノン、2−トリデカノン、4−メチル−2−ペンタノン、4−メチル−2−ヘキサノン、4−メチル−2−ヘプタノン、4−メチル−2−オクタノン、4−メチル−2−ノナノン、4−メチル−2−デカノン、4−メチル−2−ウンデカノン、4−メチル−2−ドデカノン、4−メチル−2−トリデカノン、5−メチル−2−ヘキサノン、6−メチル−2−ヘプタノン、7−メチル−2−オクタノン、8−メチル−2−ノナノン、9−メチル−2−デカノン、10−メチル−2−ウンデカノン、11−メチル−2−ドデカノン、4,4−ジメチル−2−ペンタノン、3−シクロヘキシル−2−プロパノン、3−メトキシ−2−プロパノン、3−エトキシ−2−プロパノン、3−n−プロポキシ−2−プロパノン、3−n−ブトキシ−2−プロパノン、3−n−ペントキシ−2−プロパノン、3−n−ヘキシルオキシ−2−プロパノン、3−n−ヘプチルオキシ−2−プロパノン、3−n−オクチルオキシ−2−プロパノン、3−n−ノニルオキシ−2−プロパノン、3−n−デシルオキシ−2−プロパノン、3−n−ウンデシルオキシ−2−プロパノン、3−n−ドデシルオキシ−2−プロパノン、3−n−トリデシルオキシ−2−プロパノン、3−iso−プロポキシ−2−プロパノン、3−tert−ブトキシ−2−プロパノン、3−シクロヘキシルオキシ−2−プロパノン3−ヘキサノン、3−ヘプタノン、3−オクタノン、3−ノナノン、3−デカノン、3−ウンデカノン、3−ドデカノン、3−トリデカノン、5−メチル−3−ヘキサノン、5−メチル−3−ヘプタノン、5−メチル−3−オクタノン、5−メチル−3−ノナノン、5−メチル−3−デカノン、5−メチル−3−ウンデカノン、5−メチル−3−ドデカノン、6−メチル−3−ヘプタノン、7−メチル−3−オクタノン、8−メチル−3−ノナノン、9−メチル−3−デカノン、10−メチル−3−ウンデカノン、11−メチル−3−ドデカノン、5,5−ジメチル−3−ヘキサノン、4−シクロヘキシル−3−ブタノン、4−メトキシ−3−ブタノン、4−エトキシ−3−ブタノン、4−n−プロポキシ−3−ブタノン、4−n−ブトキシ−3−ブタノン、4−n−ペントキシ−3−ブタノン、4−n−ヘキシルオキシ−3−ブタノン、4−n−ヘプチルオキシ−3−ブタノン、4−n−オクチルオキシ−3−ブタノン、4−n−ノニルオキシ−3−ブタノン、4−n−デシルオキシ−3−ブタノン、4−n−ウンデシルオキシ−3−ブタノン、4−n−ドデシルオキシ−3−ブタノン、4−n−トリデシルオキシ−3−ブタノン、4−iso−プロポキシ−3−ブタノン、4−tert−ブトキシ−3−ブタノン、4−シクロヘキシルオキシ−3−ブタノン、3−フェニル−2−プロパノン、3−(4−メトキシフェニル)−2−プロパノン、3−(2−メトキシフェニル)−2−プロパノン、3−(4−クロロフェニル)−2−プロパノン、3−(2−クロロフェニル)−2−プロパノン、3−(4−フルオロフェニル)−2−プロパノン、3−(2−フルオロフェニル)−2−プロパノン、3−クロロ−2−プロパノン、4,4,4−トリフルオロ−2−ブタノン、4−フェニル−3−ブタノン、4−(4−メトキシフェニル)−3−ブタノン、4−(2−メトキシフェニル)−3−ブタノン、4−(4−クロロフェニル)−3−ブタノン、4−(2−クロロフェニル)−3−ブタノン、4−(4−フルオロフェニル)−3−ブタノン、4−(2−フルオロフェニル)−3−ブタノン、5−フェニル−2−ペンタノン、6−フェニル−2−ヘキサノン、7−フェニル−2−ヘプタノン、8−フェニル−2−オクタノン、9−フェニル−2−ノナノン、10−フェニル−2−デカノン、11−フェニル−2−ウンデカノン、12−フェニル−2−ドデカノン、13−フェニル−2−トリデカノン、5−フェニル−3−ペンタノン、6−フェニル−3−ヘキサノン、7−フェニル−3−ヘプタノン、8−フェニル−3−オクタノン、9−フェニル−3−ノナノン、10−フェニル−3−デカノン、11−フェニル−3−ウンデカノン、12−フェニル−3−ドデカノン、13−フェニル−3−トリデカノン、14−フェニル−3−テトラデカノン、4−クロロ−3−ブタノン、5,5,5−トリフルオロ−3−ペンタノン等が挙げられる。
【0047】
本発明の不斉還元反応で得られる光学活性アルコール類としては、一般式(3)に対応する光学活性アルコール類であり、具体的には、(S)−3,3−ジメチル−2−ブタノール、(S)−3−メチル−2−ペンタノール、(S)−4−メチル−2−ヘキサノール、(S)−2,2−ジメチル−3−ペンタノール、(S)−2−メチル−3−ヘキサノール、(S)−2,2−ジメチル−3−ヘキサノール、(S)−1−シクロヘキシルエタノール、(S)−1−フェニルエタノール、(S)−1−フェニルプロパノール、(S)−1−(4−クロロフェニル)エタノール、(S)−1−フェニル−2−クロロエタノール、(S)−1−インダノール、(S)−α−テトラロール、(S)−2−ブタノール、(S)−2−ペンタノール、(S)−2−ヘキサノール、(S)−2−ヘプタノール、(S)−2−オクタノール、(S)−2−ノナノール、(S)−2−デカノール、(S)−2−ウンデカノール、(S)−2−ドデカノール、(S)−2−トリデカノール、(S)−4−メチル−2−ペンタノール、(S)−4−メチル−2−ヘキサノール、(S)−4−メチル−2−ヘプタノール、(S)−4−メチル−2−オクタノール、(S)−4−メチル−2−ノナノール、(S)−4−メチル−2−デカノール、(S)−4−メチル−2−ウンデカノール、(S)−4−メチル−2−ドデカノール、(S)−4−メチル−2−トリデカノール、(S)−5−メチル−2−ヘキサノール、(S)−6−メチル−2−ヘプタノール、(S)−7−メチル−2−オクタノール、(S)−8−メチル−2−ノナノール、(S)−9−メチル−2−デカノール、(S)−10−メチル−2−ウンデカノール、(S)−11−メチル−2−ドデカノール、(S)−4,4−ジメチル−2−ペンタノール、(S)−3−シクロヘキシル−2−プロパノール、(S)−3−メトキシ−2−プロパノール、(S)−3−エトキシ−2−プロパノール、(S)−3−n−プロポキシ−2−プロパノール、(S)−3−n−ブトキシ−2−プロパノール、(S)−3−n−ペントキシ−2−プロパノール、(S)−3−n−ヘキシルオキシ−2−プロパノール、(S)−3−n−ヘプチルオキシ−2−プロパノール、(S)−3−n−オクチルオキシ−2−プロパノール、(S)−3−n−ノニルオキシ−2−プロパノール、(S)−3−n−デシルオキシ−2−プロパノール、(S)−3−n−ウンデシルオキシ−2−プロパノール、(S)−3−n−ドデシルオキシ−2−プロパノール、(S)−3−n−トリデシルオキシ−2−プロパノール、(S)−3−iso−プロポキシ−2−プロパノール、(S)−3−tert−ブトキシ−2−プロパノール、(S)−3−シクロヘキシルオキシ−2−プロパノン3−ヘキサノール、(S)−3−ヘプタノール、(S)−3−オクタノール、(S)−3−ノナノール、(S)−3−デカノール、(S)−3−ウンデカノール、(S)−3−ドデカノール、(S)−3−トリデカノール、(S)−5−メチル−3−ヘキサノール、(S)−5−メチル−3−ヘプタノール、(S)−5−メチル−3−オクタノール、(S)−5−メチル−3−ノナノール、(S)−5−メチル−3−デカノール、(S)−5−メチル−3−ウンデカノール、(S)−5−メチル−3−ドデカノール、(S)−6−メチル−3−ヘプタノール、(S)−7−メチル−3−オクタノール、(S)−8−メチル−3−ノナノール、(S)−9−メチル−3−デカノール、(S)−10−メチル−3−ウンデカノール、(S)−11−メチル−3−ドデカノール、(S)−5,5−ジメチル−3−ヘキサノール、(S)−4−シクロヘキシル−3−ブタノール、(S)−4−メトキシ−3−ブタノール、(S)−4−エトキシ−3−ブタノール、(S)−4−n−プロポキシ−3−ブタノール、(S)−4−n−ブトキシ−3−ブタノール、(S)−4−n−ペントキシ−3−ブタノール、(S)−4−n−ヘキシルオキシ−3−ブタノール、(S)−4−n−ヘプチルオキシ−3−ブタノール、(S)−4−n−オクチルオキシ−3−ブタノール、(S)−4−n−ノニルオキシ−3−ブタノール、(S)−4−n−デシルオキシ−3−ブタノール、(S)−4−n−ウンデシルオキシ−3−ブタノール、(S)−4−n−ドデシルオキシ−3−ブタノール、(S)−4−n−トリデシルオキシ−3−ブタノール、(S)−4−iso−プロポキシ−3−ブタノール、(S)−4−tert−ブトキシ−3−ブタノール、(S)−4−シクロヘキシルオキシ−3−ブタノール、(S)−3−フェニル−2−プロパノール、(S)−3−(4−メトキシフェニル)−2−プロパノール、(S)−3−(2−メトキシフェニル)−2−プロパノール、(S)−3−(4−クロロフェニル)−2−プロパノール、(S)−3−(2−クロロフェニル)−2−プロパノール、(S)−3−(4−フルオロフェニル)−2−プロパノール、(S)−3−(2−フルオロフェニル)−2−プロパノール、(S)−3−クロロ−2−プロパノール、(S)−4,4,4−トリフルオロ−2−ブタノール、(S)−4−フェニル−3−ブタノール、(S)−4−(4−メトキシフェニル)−3−ブタノール、(S)−4−(2−メトキシフェニル)−3−ブタノール、(S)−4−(4−クロロフェニル)−3−ブタノール、(S)−4−(2−クロロフェニル)−3−ブタノール、(S)−4−(4−フルオロフェニル)−3−ブタノール、(S)−4−(2−フルオロフェニル)−3−ブタノール、(S)−5−フェニル−2−ペンタノール、(S)−6−フェニル−2−ヘキサノール、(S)−7−フェニル−2−ヘプタノール、(S)−8−フェニル−2−オクタノール、(S)−9−フェニル−2−ノナノール、(S)−10−フェニル−2−デカノール、(S)−11−フェニル−2−ウンデカノール、(S)−12−フェニル−2−ドデカノール、(S)−13−フェニル−2−トリデカノール、(S)−5−フェニル−3−ペンタノール、(S)−6−フェニル−3−ヘキサノール、(S)−7−フェニル−3−ヘプタノール、(S)−8−フェニル−3−オクタノール、(S)−9−フェニル−3−ノナノール、(S)−10−フェニル−3−デカノール、(S)−11−フェニル−3−ウンデカノール、(S)−12−フェニル−3−ドデカノール、(S)−13−フェニル−3−トリデカノール、(S)−14−フェニル−3−テトラデカノール、(S)−4−クロロ−3−ブタノール、5,5,5−トリフルオロ−3−ペンタノール等が挙げられ、またこれらに対して鏡像体である立体配置が(R)であるものも含まれる。上記一般式(1)で示されるラクタムアルコール誘導体を用いた場合はフェニル(クロロメチル)ケトン還元体以外は通常(R)体の生成物を与え、上記一般式(2)で示されるラクタムアルコール誘導体を用いた場合はフェニル(クロロメチル)ケトンの還元体以外は通常(S)体の生成物を与える。
【0048】
本発明の不斉還元反応の実施に当っては、前記調製したラクタムアルコール誘導体、p−ハロゲン化フェノール及びボラン類からなる不斉還元触媒に、還元に必要な量のボラン類を添加した後、ケトン類を添加し反応を実施しても良いし、前述の触媒調製時に不斉還元反応に必要なボラン類を一括で仕込んだ不斉還元触媒とボラン類の混合溶液に基質を滴下し反応を行っても良い。
【0049】
本発明の不斉還元反応に用いるボラン類としては、前述の不斉還元触媒に調製したボラン類が適用可能あり、触媒調製時と不斉還元反応時のボラン類が同じあっても良いし又異なっても良い。
【0050】
本発明の不斉還元反応に用いるボラン類の量としては、ケトン類に対して0.5モル量以上で実施可能であるが、反応を円滑に行うために、0.6モル量以上を通常用いる。
【0051】
本発明の不斉還元反応に適用可能な溶剤としては、反応に不活性な溶剤であればあらゆるものが使用可能で、また前記不斉還元触媒調製に用いた溶剤と異なった溶剤を用いても良く、例えば、THF、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類が挙げられるが、反応成績より好ましくは、THF、ジエチルエーテル、ジイソプロオイルエーテル等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素類である。
【0052】
本発明の不斉還元反応の基質濃度としては、特に規定はないが、使用する溶剤の総量に対して、0.5重量%〜30重量%の範囲であるが、反応成績及び生産効率より好ましくは3〜15重量%の範囲である。
【0053】
本発明の不斉還元反応の基質の滴下時及び熟成時の温度としては、基質の種類により異なるが、通常−30℃〜50℃の温度範囲で、より好ましくは−30℃〜30℃の範囲である。
【0054】
本発明の不斉還元反応の基質の滴下時間は、基質の種類及び反応温度により異なるため、特に限定するものではないが、通常10分〜4時間の範囲で実施する。
【0055】
本発明の不斉還元反応の熟成時間は、基質の種類及び反応温度により異なるため、特に限定するものではないが、通常10分〜10時間の範囲内で反応は完結する。
【0056】
反応終了後の後処理としては、特に限定するものではないが、例えば、塩酸水溶液を添加した後、有機溶剤で抽出し、p−ハロゲン化フェノール類の除去、乾燥、シリカゲルカラム等で精製することにより目的物の光学活性アルコール類を得る。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。なお、光学純度の測定に当っては、ダイセル化学製キラルセルODカラムを用い、HPLCで測定した。絶対構造について、HPLC分析値及び文献既知の値より決定した。
【0058】
実施例1 (R)−4−フェニル−2−ブタノールの調製:
マグネット攪拌子を備えた25mlの丸底フラスコに4−ヨードフェノール(105.6mg、0.48mmol)を入れ、アルゴンで置換した後、室温下、THF(0.8ml)を加え溶解させ、次いでボラン−THF錯体(1M−THF溶液、0.48ml、0.48mmol)を加え、同温度で1時間攪拌した。
【0059】
1時間攪拌の後、特開2004−339207号公報に記載の方法に準じて調製した(−)−(S)−5−[ヒドロキシビス(3,5−ジメチルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン(12.9mg、0.04mmol)を添加し、さらに室温下で1時間攪拌し、不斉還元触媒及びボランからなるTHF溶液を得た。
【0060】
得られた不斉還元触媒及びボランからなるTHF溶液を−20℃に冷却した後、4−フェニル−2−ブタノン(ベンジルアセトン、60μl、0.4mmol)のTHF(0.6ml)溶液をシリンジポンプを用いて、1時間かけてゆっくり滴下し、さらに同温度で2時間攪拌した。
【0061】
反応終了後、室温に戻し、1N−塩酸を添加、酢酸エチルで抽出(5ml×3回)、1N−NaOH水溶液−飽和重曹水溶液(2:1 vol/vol)の混合液で洗浄(5ml×3回)、硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過、濃縮することにより残査を得た。
【0062】
得られた残査を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=5/1 vol/vol)で精製することにより、目的物の(R)−4−フェニル−2−ブタノール(48.1mg、収率80%、光学純度83%ee)を得た。
【0063】
実施例2 (R)−4−フェニル−2−ブタノールの調製:
実施例1と同じ反応装置を用い、p−ヨードフェノールをp−ブロモフェノールに替えた以外、実施例1と同じ操作を行い(R)−4−フェニル−2−ブタノール(51.1mg、収率85%、光学純度76%ee)を得た。
【0064】
実施例3〜実施例5:
実施例1と同じ反応装置を用い、表1に示した条件以外は実施例1と同じ条件で反応を行った。結果を表1中にあわせて示す。なお、生成物の絶対配置は全て(R)体であった。
【0065】
【表1】

【0066】
ラクタムアルコール誘導体A:(−)−(S)−5−[ヒドロキシビス(3,5−ジメチルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン。
ラクタムアルコール誘導体B:(−)−(S)−5−(ヒドロキシジフェニルメチル)ピロリジン−2−オン。
【0067】
実施例6,実施例7
実施例1と同じ反応装置を用い、表2に示した溶剤に変更し、反応温度を0℃とした以外は実施例1と同じ条件で反応を行った。結果を表2中にあわせて示す。なお、生成物の絶対配置は全て(R)体であった。
【0068】
【表2】

【0069】
ラクタムアルコール誘導体A:(−)−(S)−5−[ヒドロキシビス(3,5−ジメチルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン。
【0070】
実施例8〜実施例10
実施例1と同じ反応装置を用い、表3に示した非対称ケトンに変更した以外は実施例1と同じ条件で反応を行った。結果を表3中にあわせて示す。なお生成物の絶対配置は全て(R)体であった。
【0071】
【表3】

【0072】
比較例1〜比較例3
実施例1と同じ反応装置を用い、p−ヨードフェノールを用いずに触媒を調製し、温度20℃で反応を行った以外、実施例1と同じ操作で反応を行った。結果を表4中にあわせて示す。なお、生成物の絶対配置は全て(R)体であった。
【0073】
【表4】

【0074】
ラクタムアルコール誘導体A:(−)−(S)−5−[ヒドロキシビス(3,5−ジメチルフェニル)メチル]ピロリジン−2−オン。
ラクタムアルコール誘導体B:(−)−(S)−5−(ヒドロキシジフェニルメチル)ピロリジン−2−オン。
ラクタムアルコール誘導体C:下式で示される市販品の(S)−2−メチル−CBS−オキサザボロリジン。
【0075】
【化8】

【産業上の利用可能性】
【0076】
様々な非対称ケトン類を高光学選択的に不斉還元することが可能となり、相当する高光学純度の光学活性アルコール類の工業的製造に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)又は一般式(2)
【化1】

【化2】

[上記一般式(1)又は一般式(2)中、R、Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜10の直鎖状、分岐状若しくは環式のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、炭素数3〜10の直鎖状、分岐状若しくは環式のアルコキシ基、フェニル基、置換フェニル基、トリフルオロメチル基又はハロゲン原子を示し、m及びnは各々独立して0〜5の整数を示す。]。
で示されるラクタムアルコール誘導体、p−ハロゲン化フェノール及びボラン類からなる不斉還元触媒。
【請求項2】
一般式(1)又は一般式(2)で示されるラクタムアルコール誘導体のR,Rが各々独立して、水素原子、メチル基、メトキシ基、tert−ブチル基、トリフルオロメチル基又はフッ素原子を示し、m=n=1又は2の整数を示すことを特徴とする請求項1に記載の不斉還元触媒。
【請求項3】
p−ハロゲン化フェノールがp−ブロモフェノール又はp−ヨードフェノールであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の不斉還元触媒。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の不斉還元触媒が溶解した不斉還元触媒溶液。
【請求項5】
一般式(1)又は一般式(2)で示されるラクタムアルコール誘導体、ボラン類及びp−ハロゲン化フェノールを反応させることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の不斉還元触媒の製造方法。
【請求項6】
一般式(1)又は一般式(2)で示されるラクタムアルコール誘導体、ボラン類及びp−ハロゲン化フェノールを有機溶媒中で反応させることを特徴とする請求項4に記載の不斉還元触媒溶液の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項3記載の不斉還元触媒を用い、非対称ケトン類を不斉還元することを特徴とする光学活性アルコール類の製造方法。
【請求項8】
請求項4記載の不斉還元触媒溶液を用い、非対称ケトン類を不斉還元することを特徴とする光学活性アルコール類の製造方法。
【請求項9】
非対称ケトン類が下記一般式(3)で示される第一級アルキル−アルキルケトン類であることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の光学活性アルコール類の製造方法。
【化3】

[上記一般式(3)中、Rはエチル基、炭素数3〜10の直鎖状、分岐状若しくは環式のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、炭素数3〜10の直鎖状、分岐状若しくは環式のアルコキシ基、フェニル基、置換フェニル基、フェニル基若しくは置換フェニル基が結合した炭素数3〜10の直鎖状、分岐状若しくは環式のアルキル基、トリフルオロメチル基又はハロゲン原子を示し、Rは水素原子又はメチル基を示す。]

【公開番号】特開2008−73591(P2008−73591A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−254141(P2006−254141)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【Fターム(参考)】