説明

不死化肝細胞

本発明は、ウイルスによって不死化された肝細胞系に関するものであり、この肝細胞系は、正常な初代ヒト肝細胞に由来し、無血清培地中で増殖することができ、非腫瘍形成性であり、且つタンパク質を産生する。こうした細胞系は、潜在的治療用薬物及び化学物質の毒性試験のために使用することができる。この細胞系はまた、治療用血漿タンパク質を産生するために使用することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2003年10月10日出願の米国特許仮出願第60/510,509号の利益を主張するものであり、その全体を参照により本明細書に組み込む。
【0002】
本発明は、一部が、米国商務省の先端技術計画(Advanced Technology Program)によって与えられた助成番号70−NANB7H3070として米国政府の支援によってなされた。米国政府は、本発明において何らかの権利を有する。
【0003】
本発明は、ウイルスによって不死化された新規な非腫瘍形成性の正常ヒト肝細胞系、並びにこうした細胞系の、潜在的治療用薬物及び化合物(chemical entity)の毒性試験及び代謝試験、ウイルスの複製、及び治療用血漿タンパク質の産生のための使用に関するものである。
【背景技術】
【0004】
潜在的治療用薬物及び化合物の毒性試験及び代謝試験
薬物によって誘導される肝毒性は臨床上重要な問題であり、数種の薬物が稀ではあるが重篤な(致死の場合さえある)肝毒性を引き起こす特性により市場から撤退した。トランスポーターを含む、チトクロムP450(CYP)及び関係する薬物代謝酵素(DME)の誘導は、臨床上重要な薬物間相互作用の原因として良く認識されており、また効力の喪失(薬物動態学的耐性)又は自己誘導(薬物がそれ自体の肝代謝を誘導する過程)の原因でもある。創薬の際に、誘導物質を回避し、肝臓による薬物クリアランスの増大に起因する薬物間相互作用の潜在的可能性を特徴付けるためにin vitro試験を使用することができる。in vitro誘導研究では、従来から選択マーカー化合物と共に、肝細胞初代培養及び酵素活性が使用されている。
【0005】
CYPは、主に肝臓での薬物代謝に関与している。例えば、CYP3A遺伝子発現の誘導は、リファンピン、フェノバルビタール、クロトリマゾール、及びデキサメタゾンを含む市販の様々な薬物によって引き起こされ、いくつかの一般的な薬物間相互作用の基礎となっている(Meunierら、「ヒト肝細胞の初代培養物におけるCYP1A1/1A2、CYP2A6、及びCYP3A4の発現及び誘導:10年間の追跡調査(Expression and induction of CYP1A1/1A2,CYP2A6 and CYP3A4 in primary cultures of human hepatocytes:a 10 year follow−up)」,Xenobiotica 30(6):589−607,2000;Sahiら、「ヒト及びラットの肝細胞におけるチトクロムP450酵素に対するトログリタゾンの作用(Effect of troglitazone on cytochrome P450 enzymes in primary cultures of human and rat hepatocytes)」,Xenobiotica 30(3):273−284,2000;Luoら、「薬物によるCYP3A4の誘導:ヒト肝細胞におけるプレグナンX受容体レポーター遺伝子アッセイとCYP3A4発現との相関(CYP3A4 induction by drugs:correlation between a pregnane X receptor reporter gene assay and CYP3A4 expression in human hepatocytes)」,Drug Metab.Dispos.30(7):795−804,2002;Madanら、「ヒト培養肝細胞におけるシトクロムP450発現に対するミクロソーム酵素誘導物質プロトタイプの影響(Effects of prototypical microsomal enzyme inducers on cytochrome P450 expression in cultured human hepatocytes)」,Drug Metab.Dispos.31(4):421−431,2003)。
【0006】
in vitroでの酵素誘導を評価するためのガイドラインは、Tuckerら(「創薬の最適化:薬物代謝/トランスポーター相互作用の可能性を評価するための戦略−コンセンサスに向けて(Optimizing drug development:Strategies to assess drug metabolism/transporter interaction potential−toward a consensus)」,Pharmaceutic.Res.18:1071−1080,2001)及びBjorssonら(「in vitro及びin vivoでの薬物間相互作用の研究の実施:PhRMAによる展望(The conduct of in vitro and in vivo drug−drug interaction studies:A PhRMA perspective)」,J.Clin.Pharmacol:43:443−469,2003)に要約されている。これら2つの「コンセンサスレポート」では、化合物及び薬物候補の酵素誘導能を評価するための選択方法、すなわち至適基準(gold standard)としてヒト肝細胞の初代培養物が同定されている。薬物は、種特異的な酵素誘導を引き起こすことが知られているので、ヒト由来の試験系に基づくこのin vitro手法は、実験動物での試験に基づくin vivo手法よりも優れている。例えば、2つのプロトタイプの誘導物質、すなわちオメプラゾール及びリファンピンは、ヒトCYP1A2及びCYP3A4の有効な誘導物質であるが、ラット及びマウスでは対応する酵素を誘導しない。
【0007】
ヒト肝細胞は、前臨床の創薬においていくつかの重要な役割を果たしている。これらの細胞は、肝臓に対する薬物候補の作用(例えば、誘導及び細胞毒性)を臨床的に意義のある形で評価するために使用することができ、逆に、化合物に対する肝臓の作用(例えば、薬物代謝及び種間比較)を評価するために使用することもできる。ヒト肝細胞の初代培養物は、CYPアイソフォームの種特異的な誘導を示すという別の利点がある。しかし、凍結保存又は培養されるヒト初代肝細胞の有用性は、ヒトの肝臓の供給が限られており不安定であることによって、またDMEの発現及び毒物に対する応答の有意な個体間差によって制限される。
【0008】
HepG2やH4IIEなどの腫瘍細胞由来の細胞系が、候補化合物のin vitroでの毒性を比較するために日常的に使用されている。このような細胞が、in vivoでの細胞特異的毒性を予見させる因子のうちの多く又はほとんどを保持している可能性は低い。例えば、大部分の腫瘍由来細胞は高度に分化しない。すなわち、これらの細胞は培養物中で急速に増殖し、それには莫大なエネルギー(ATP消費)が必要であり、細胞傷害に対するこれら細胞の感受性が非増殖性細胞に比べて高くなる可能性がある。
【0009】
したがって、正常ヒト肝細胞の特性、すなわち代謝機能及びトランスポーター機能を保持しながら、再現性があり無制限に利用できるという別の利点を提供する、非腫瘍形成性の不死化ヒト肝細胞系が求められている。
【0010】
治療用血漿タンパク質
アルブミン、α1アンチトリプシン(AAT)、血液凝固第VIII因子及び第IX因子、インターαタンパク質性インヒビター(IαIP)などの治療用血漿タンパク質(TPP)に対して非常に大きな需要が存在する。細胞ベースの系によりTPPが産生されれば、ウイルス又は他の病原体による潜在的な汚染など、血液に由来する産物の有する危険が回避されるはずである。
【0011】
現在、臨床用及び治療用に認可されているタンパク質の大多数は、組換えタンパク質技術によって大量生産されている。こうした製品は安全で有効であることが確認されているが、すべてが、それらの自然の対応物と同じ挙動を示すとは限らない。例えば、組換え第VIII因子及び第IX因子(rF)は、注入後その血漿由来の対応物よりも急速に排泄される。Shapiro,A.、E.Berntorp及びM.Morfini、「組換え第IX因子を処置した未治療患者における増分回復評価、並びに体重及び年齢の影響(Incremental recovery assessment and effects of weight and age in previously untreated patients treated with recombinant factor IX)」,Blood,2000.96(suppl 1):p.265a。最近の知見において、これは不完全な、又は不適当な翻訳後修飾の結果であることが示唆されている。
【0012】
血友病A(第VIII因子の欠乏)は、米国で男性5,000〜10,000人に1人の割合で発生する。一方、血友病B(第IX因子の欠乏)の発生率は、男性10,000人に0.25人である。現在、血友病の生涯治療に血漿由来及び組換えによる第VIII因子及び第IX因子濃縮物が使用されている。これらのTPPは不足しているため、世界中の血友病人口の4分の3が治療をほとんど、又は全く受けられないと推定されている。したがって、組換え体の、又は血液由来のTPPの欠点を克服した、完全に機能的で完全に自然の血液凝固因子が明らかに必要である。
【0013】
α1アンチトリプシン(AAT)はヒトの血液タンパク質である。欧州及び米国で約150,000〜200,000の人が重篤なAAT欠乏症(遺伝性肺気腫)を罹っていると考えられている。AATの先天的欠乏症、嚢胞性線維症、及び慢性閉塞性肺疾患を含む、多くの呼吸器疾患が肺でのAATとエラスターゼの不均衡を特徴としている。補充のAATの投与は、こうした疾患で生じる肺への有害な影響を軽減させる点で臨床上有効である。
【0014】
現在、米国で認可されている、血漿由来のAATが1つだけあるが、供給が非常に限られている。したがって、組換え体の、又は血液由来のTPPの欠点を克服することができる、完全に機能的で完全に自然のAATが明らかに必要である。
【0015】
敗血症は、感染に対する激しい全身応答を特徴とする疾患であり、誰もが罹る恐れがあり、肺炎、外傷、外科手術、熱傷などの事象によって、或いは癌又はAIDSなどの疾患によって誘発される恐れがある。米国では、敗血症は、非心臓系の集中治療室での死因の第1位であり、死因全体の第11位である。現在、感染により器官機能障害が生じた場合、敗血症の治療は、潜在する感染を管理する試み及び支持療法に限られている。集中的な治療にもかかわらず、いまだ患者の最大50%がこの疾患で死亡している。
【0016】
インターαタンパク質性インヒビター(IαIP)は、血漿中に比較的高濃度で存在する自然のセリンプロテアーゼインヒビターであり、炎症、創傷治癒、及び癌転移においていくつかの役割を果たしている。Bost,F.、M.Diarra−Mehrpour及びJ.P.Martin、「細胞外マトリックスに結合し、これを安定化させるインターαトリプシンインヒビタープロテオグリカンファミリーα群のタンパク質(Inter−αalpha−trypsin inhibitor proteoglycan family−α group of proteins binding and stabilizing the extracellular matrix)」,Eur J Biochem,1998.252:p.339−346。IαIPは、敗血症患者の予測因子として有効であると考えられている。Lim,Y.P.ら、「インタートリプシンインヒビター:敗血症患者における血漿レベルの低下及び実験的敗血症モデルにおけるその薬効(Inter−trypsin inhibitor:decreased plasma levels in septic patients and its beneficial effects in an experimental sepsis model)」,Shock,2000.13(Suppl.):p.161。敗血症ラットモデルを使用したin−vivoでの動物研究で、IαIPを投与すると生存率が劇的に改善されることが示されている。Yang Sら、「敗血症の際にヒトインターαインヒビターを投与すると、血行動態の安定性が維持され、生存率が改善される(Administration of human interalpha−inhibitors maintains hemodynamic stability and improves survival during sepsis)」,Crit Care Med.2002 Mar;30(3):617−22。この結果は、重篤な敗血症の管理においてIαIPが治療の潜在能力をもつことを強く支持する。しかし、敗血症患者に投与するためのIαIPの供給は準備が整っていない。したがって、組換え体の、又は血液由来のTPPの欠点を克服した、完全に機能的で、完全に自然のIαIPが明らかに必要である。
【0017】
不死化細胞系について記載する特許及び刊行物がいくつかある。すなわち、米国特許第6107043号(Jauregui)、米国特許第5665589号(Harris)、米国特許出願公開第2002/0045262A1号(Prachumsri)、及び国際公開WO99/55853号(Namba)である。しかし、今まで、とりわけ先行技術の細胞系は、機能的な治療用血漿タンパク質の産生において決定的に重要である、グリコシル化などのタンパク質の翻訳後修飾を安全、効果的、且つ費用効率良く実施するとともに、多数の治療用血漿タンパク質、特に第VIII因子タンパク質又は第IX因子を同時に産生し、また活性なレベルのチトクロムP450酵素の無血清培地中での連続的な発現を維持する手段を提供していない。したがって、正常ヒト肝細胞の特性を保持しており、適切に処理された治療用血漿タンパク質を産生するのに使用することができる、非腫瘍形成性の不死化ヒト肝細胞系が求められている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、無血清培地中で維持することができ、アルブミン、α1アンチトリプシン、血液凝固第VIII因子及び第IX因子、インターαタンパク質性インヒビター(IαIP)などの内因性血漿タンパク質を産生する、ウイルスによって不死化された非腫瘍形成性のヒト肝細胞系に関する。好ましい一実施形態では、非腫瘍形成性の不死化細胞系は、Fa2N−4(ATCC受託番号5566)及びEa1C−35(ATCC受託番号5565)細胞系を含む。この細胞系は、ブダペスト条約(Budapest Treaty)に従って、2003年10月6日に米国12301メリーランド州Rockville、Parklawn DriveのATCC(American Type Culture Collection米国基準菌株保存機構)に寄託されている。
【0019】
本発明の好ましい一実施形態では、この細胞系はヒト肝細胞に由来する。好ましくは、この細胞系は正常ヒト肝細胞に由来する。より好ましくは、この細胞系は凍結保存された正常ヒト初代肝細胞に由来する。
【0020】
本発明の別の好ましい実施形態では、この細胞系は培地中で容易に増殖する。好ましくは、この細胞系は、無血清培地中で容易に増殖する。より好ましくは、この細胞系はMFE培地(MultiCell Technologies社製、米国ロードアイランド州Providence;XenoTech,LLC社製、米国カンザス州Lenexa)中で増殖する。
【0021】
本発明の別の好ましい実施形態では、この細胞系は実質的に純粋なSV40DNAを含む。好ましくは、このSV40DNAは、野生型のSV40ラージT抗原及びスモールt抗原(TAg)をコードしている。より好ましくは、このDNAは、野生型TAgをコードしており、他のSV40遺伝子産物をコードしていない。
【0022】
本発明の別の好ましい実施形態では、この細胞系は、無血清培地中でその肝機能を保持している。好ましくは、肝機能は、酵素活性を発現し、タンパク質を産生し続ける能力である。より好ましくは、肝機能は、チトクロムP450(CYP)酵素活性を維持し、無血清培地中で完全に機能的な治療用血漿タンパク質(TPP)を産生し続ける能力を含む。
【0023】
本発明の別の好ましい実施形態では、この細胞系は、肝臓に対する薬物候補の作用を評価するために使用することができる。好ましくは、この細胞系は、酵素誘導及び細胞毒性を評価するために使用される。
【0024】
本発明の別の好ましい実施形態では、この細胞系は、化合物に対する肝臓の作用を評価するために使用することができる。好ましくは、この細胞系は、薬物代謝及び種間比較を評価するために使用される。
【0025】
本発明の別の好ましい実施形態では、この細胞系はタンパク質を産生し続ける。好ましくは、この細胞系は血漿タンパク質を自然に産生し続ける。より好ましくは、この細胞系は、アルブミン、α1アンチトリプシン、血液凝固第VIII因子及び第IX因子、トランスフェリン、並びにインターαタンパク質性インヒビター(IαIP)を含むTPPを自然に産生し続ける。
【0026】
本発明の別の好ましい実施形態では、この細胞系によるTPPの産生が測定される。好ましくは、この細胞系によるTPPの産生は、無血清培地中でその存在を検出することによって測定される。より好ましくは、この細胞系によるTPPの産生は、mRNAレベルではなくタンパク質レベルで測定される。
【0027】
本発明の別の好ましい実施形態では、この細胞系は無血清培地中でTPPを産生する。好ましくは、この細胞系は、無血清培地中で複数のTPPを同じ画分から同時に産生する。より好ましくは、この細胞系は、ウイルス汚染の危険なしに無血清培地中で複数のTPPを同じ画分から同時に産生する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
略語及び用語
本発明に従い本明細書において使用する時、以下の用語及び略語は、特に明記しない限り以下の意味をもつと定義される。こうした説明は例示的なものにすぎない。これらの説明は、本明細書で記載又は参照される際用語を限定することを意図するものではない。そうではなく、こうした説明は、本明細書で記載し請求する際、任意の追加の態様及び/又は用語の例を含むことを意図する。
以下の略語を本明細書で使用する。
AAT=α1アンチトリプシン
DME=薬物代謝酵素
IαIp=インターαタンパク質性インヒビター
MCT=MultiCell Technologies社
MFE=Multi−Functional Enhancing(多機能増強)培地
RT−PCR=逆転写ポリメラーゼ連鎖反応
SV40=シミアンウイルス40
SV40 TAg=シミアンウイルス40T抗原及びt抗原
SV40 tAg=シミアンウイルス40t抗原
TPP=治療用血漿タンパク質
【0029】
用語「細胞系」とは、in vitroでの何代かの継代培養の後に一緒に増殖する共通起源の細胞の集団又は混合物を指す。同じ培地及び培養条件で一緒に増殖することにより、細胞系の各細胞は、通常、類似する増殖速度、温度、気相、栄養要求、及び表面要求についての特徴を分かち合う。細胞系においてある種の物質、例えばアルブミンを発現する細胞の存在を、この系の細胞がすべてではないが十分な割合で、測定可能な量の物質を産生することを条件として確かめることができる。濃縮された細胞系とは、ある種の特徴を有する、例えばアルブミンを発現する細胞が、1代又は複数代の継代培養段階の後、元々の細胞系よりも大きな割合で存在する細胞系である。
【0030】
用語「クローン細胞」とは、単細胞に由来する細胞である。現実の問題として、哺乳動物細胞の純粋なクローン化細胞培養物を得ることは困難である。代を重ねて細胞を繰り返し濃縮することにより高度の細胞純度を得ることができる。本明細書では、細胞群のうち少なくとも80%が定義された1組の特徴を有する細胞培養物をクローン化細胞培養物と称する。好ましくは、細胞群のうち少なくとも90%が定義された1組の特徴を有する細胞培養物をクローン化細胞培養物と称する。より好ましくは、細胞群のうち少なくとも98%が定義された1組の特徴を有する細胞培養物をクローン化細胞培養物と称する。本発明で請求するFa2N−4細胞系及びEa1C−35細胞系はクローン細胞系である。
【0031】
用語「不死化」は、無限の増殖能の獲得と定義される。不死化は、初代培養細胞及び有限継代性の細胞系において、テロメラーゼ、癌遺伝子、又はSV40ラージT抗原のトランスフェクションにより、又はSV40による感染により誘導することができる。不死化は、必ずしも悪性転換ではないが、悪性転換の構成要素である可能性がある。
【0032】
用語「不死化された」とは、適当な増殖培地中でin vitroで培養すると、老化せずに絶えず増殖する細胞系を指す。
【0033】
用語「ウイルスによって不死化された」とは、野生型又は突然変異型のウイルスのゲノムのすべて若しくは一部をトランスフェクトし、又はそれに感染させた肝細胞を指す。好ましくは、このウイルスはDNAウイルスである。より好ましくは、このウイルスは、p53及びRb腫瘍抑制タンパク質に結合し、その腫瘍抑制経路の不活性化をもたらすSV40である。
【0034】
用語「実質上純粋な」とは、自然に存在している状態では隣接する配列を除去して精製されたあるDNA、すなわちその断片に通常は隣接する配列、例えばその断片が自然に存在しているゲノム中でその断片に隣接する配列から切り出されたあるDNA断片、並びにDNAに自然に付随する他の成分を除去して実質的に精製されたあるDNA、例えば、細胞内でDNAに自然に付随するタンパク質を除去して精製されたDNAを指す。
【0035】
用語「肝細胞」とは、肝臓の塊(liver mass)の喪失(例えば、肝毒性の過程、疾患、又は外科手術によって)に応答してかなり再生することができ、肝臓の細胞集団の約80%を占める肝臓細胞を指す。これらは、大きな多角細胞であり、大きさが20〜30μmである。肝細胞は、細胞質での一般的な多くの代謝活性で産生される過酸化水素の分解に関与するペルオキシソームを各細胞あたり200〜300個有する。さらに、ペルオキシソームは、糖新生、並びにプリン、アルコール及び脂質の代謝における特異的な酸化機能を有する。肝細胞中の滑面小胞体(sER)は、毒素及び薬物の分解及び抱合に関与する酵素を含む。薬物、毒素又は代謝刺激物による肝細胞へのチャレンジの条件下では、このsERは、細胞の中で主役の細胞小器官となることがある。肝細胞は、ホメオスタシスに決定的に重要である多数の微調整された機能を果たしている。哺乳動物の体内における様々な細胞型のうち、肝細胞だけが、炭水化物、脂質、アミノ酸、タンパク質、核酸及び補酵素の合成経路と分解経路を同時に働かせて、独特の生物学的な役割を果している。
【0036】
用語「単離された肝細胞」とは、その自然環境においてそれが付着している他の細胞から物理的に分離された肝細胞を指す。
【0037】
用語「初代肝細胞」とは、無傷の肝組織から最近新たに単離された肝細胞を指す。
【0038】
用語「正常ヒト初代肝細胞」とは、健常なヒト肝臓に由来し、適当な培地中で培養すると有限期間in vitroで維持される肝細胞を指す。
【0039】
用語「凍結保存されたヒト肝細胞」とは、適当な培地中で培養する前に凍結保存された正常な初代ヒト肝細胞を指す。
【0040】
用語「代謝活性」とは、異化(分解)及び同化(構築)を含めて、ある細胞内で進行する化学反応の総体を指す。肝細胞における代謝活性には、それだけには限らないが、潜在的に毒性の化合物、例えば薬物又は内在性代謝産物を処理して、毒性の少ない、又は無毒の化合物とする能力が含まれる。
【0041】
用語「チトクロムP450酵素」又は「CYP」とは、肝臓において主にみられる、ヘムベースの酸化酵素ファミリーを指す。これらの酵素は、毒素に対する防御の最前線をなしており、疎水性薬物、発癌物質、並びに他の、潜在的に毒性の化合物、及び血液中を循環している代謝産物の代謝に関与している。これらの酵素は、小胞体の表面に繋がれていることが分かっており、そこで化学ハンドル(chemical handle)を、炭素に富んだ毒素に付着させる。次いで、他の酵素がこの化合物をさらに修飾して、分子全体をより水溶性にすることができる。これにより毒素を泌尿器系及び消化器系によって除去することが可能となる。CYPファミリーは、サブファミリーに分けられ、それには、それだけには限らないが、CYP1A、CYP2A、CYP2C、CYP2D、CYP2E、及びCYP3Aが含まれる。こうしたサブファミリーの中には、「アイソザイム」又は「アイソフォーム」と称されることが多いヒトCYP酵素が多数ある。ヒトCYP3A、CYP2D6、CYP2C、及びCYP1Aアイソフォームは、薬物代謝において重要であることが知られている。例えば、Murray,M.、23 Clin.Pharmacokinetics 132−46(1992)を参照のこと。CYP3A4は、ヒトの肝臓及び小腸における極めて主要なアイソフォームであり、それらの組織中でそれぞれ、CYP450総タンパク質のうちの30%及び70%を占める。主にin vitroでの研究に基づくと、ヒトで使用されるすべての薬物のうちの40%〜50%の代謝に、CYP3A4によって触媒される酸化が関与していると推定されている。Thummel,K.E.及びWilkinson,G.R.、「ヒトCYP3Aが関与しているin vitro及びin vivoでの薬物相互作用(In Vitro and In Vivo Drug Interactions Involving Human CYP 3A)」,38 Ann.Rev.Pharmacol.Toxicol.,389−430(1998)を参照のこと。
【0042】
用語「肝機能」とは、肝臓に特異的な生体機能を指し、その機能には、それだけには限らないが、(1)糖新生、(2)グリコーゲンの合成、貯蔵、及び分解、(3)それだけには限らないが、アルブミン、ヘモペキシン、セルロプラスミン、血液凝固因子(それだけには限らないが、第V因子、第VII因子、第VIII因子、第IX因子、第X因子、プロトロンビン、及びフィブリノーゲンが含まれる)、α1アンチトリプシン、トランスフェリン、及び抗トロンビンIIIを含めた血清タンパク質の合成、(4)胆汁酸の抱合、(5)ヘムの胆汁色素への変換、(6)リポタンパク質合成、(7)ビタミンの貯蔵及び代謝、(8)コレステロール合成、(9)尿素合成及びグルタミン合成を含めたアンモニア代謝、(10)芳香族アミノ酸の代謝変換及び再利用を含めたアミノ酸代謝、並びに(11)解毒及び薬物代謝が含まれる。
【0043】
不死化ヒト肝細胞系
本発明は、ウイルスによって不死化された肝細胞系に関するものであり、この細胞系は、正常ヒト初代肝臓細胞に由来するものでよく、無血清培地中で増殖する能力を有し、非腫瘍形成性であり、アルブミン、α1アンチトリプシン、血液凝固第VIII因子及び第IX因子、トランスフェリン、インターαタンパク質性インヒビター(IαIp)などの内在性血漿タンパク質を産生することができるがタンパク質レベルで測定するとαフェトプロテインを発現していない。好ましい一実施形態では、非腫瘍形成性の不死化細胞系は、ブダペスト条約に従って、2003年10月6日に、米国12301メリーランド州Rockville、Parklawn DriveのATCCに寄託された、Fa2N−4(ATCC受託番号PTA−5566)及びEa1C−35(ATCC受託番号PTA−5565)細胞系を含む。
【0044】
本発明の好ましい一実施形態では、この細胞系は正常肝細胞に由来する。好ましくは、この細胞系は正常ヒト肝細胞に由来する。より好ましくは、この細胞系は凍結保存された正常ヒト初代肝細胞に由来する。
【0045】
本発明の別の好ましい実施形態では、この細胞系は培地中で容易に増殖する。好ましくは、この細胞系は無血清培地中で容易に増殖する。より好ましくは、この細胞系はMFE培地(MultiCell Technologies社製、米国ロードアイランド州Providence;XenoTech,LLC社製、米国カンザス州Lenexa)中で容易に増殖する。
【0046】
本発明の別の好ましい実施形態では、この細胞系は実質上純粋なSV40DNAを含む。好ましくは、このSV40DNAは、野生型SV40ラージT及びスモールt抗原(TAg)をコードしている。より好ましくは、このDNAは野生型のTAgをコードし、他のSV40遺伝子産物をコードしていない。
【0047】
本発明者らは、特許権のある多数の不死化されたヒト肝細胞系を開発してきた。こうした細胞系の大多数は、SV40 TAgを不死化遺伝子として使用して作製された。SV40 TAgをヒト細胞にトランスフェクトすると、この細胞がウイルス感染に対して半許容的であるため、細胞の寿命の延長、及び非腫瘍形成性の不死化をもたらすことができるので、この戦略が選択された。Cascio,S.、「ヒト肝細胞の不死化のための新規戦略(Novel strategies for immortalization of human hepatocytes)」,Artificial Orgs,2001.25:p.529−538。
【0048】
SV40 TAg不死化細胞系は、初代の細胞型に伴う様々なレベルの分化型の特徴を保持していることが多く、in vitroでの大規模な継代培養の前に腫瘍形成性を示さない。Kuroki,T.及びN.Huh、「なぜヒト細胞はin vitroで悪性細胞形質転換に抵抗性があるのか(Why are human cells resistant to malignant cell transformation in vitro?)」,Jpn J Cancer Res,1993.84:p.1091−1100。
【0049】
正常ヒト肝臓の初代細胞にSV40 TAg遺伝子をトランスフェクトすることにより、この細胞を連続的に増殖させることができる。トランスフェクション又は感染は、SV40 TAg遺伝子を含むウイルス又はプラスミドを使用することによって達成することができ、細胞系の形質転換を導くことができる。また、パピローマウイルス又はエプスタインバーウィルスなど他の形質転換ベクターも有用であると思われる。連続的なヒト細胞系を作成するための技法は、以下の参考文献に記載されている:Grahm.F.L.、Smiley J.、Russell,W.C.及びNairn,R.、「ヒトアデノウイルス5型のDNAによって形質転換されたヒト細胞系の特徴(Characteristics of a human cell line transformed by DNA from human adenovirus type 5)」,J.Gen.Virol.,36:59−72(1977);Zur Hansen,H.、「発癌性のヘルペスウイルス(Oncogenic herpes viruses)」,In:J.Tooze(ed.),DNA tumor viruses,Rev.Ed.2,pp 747−798.Cold Spring Harbor,N.Y.,Cold Spring Harbor Press(1981);Popovic,M.、Lange−Wantein,G.、Sarin,P.S.,Mann,D.及びGallo,R.C.、「ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)によるヒト臍帯血T細胞の形質転換(Transformation of a human umbilical cord blood T−cells by human T−cell leukemia/lymphon virus(HTLV))」,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80:5402−5406(1983);DiPaolo,J.A.、Pirisi,L.、Popeseu,N.C.、Yasumoto,S.及びPoniger,J.、「ヒトパピローマウイルス16型DNAによりヒト及びマウスの細胞において誘導された進行性の変化(Progressive changes induced in human and mouse cells by human Papillomavirus Type−16 DNA)」,Cancer Cells 5:253−257,(1987)。
【0050】
カルシウムを含まない酸素飽和緩衝液の37℃での前灌流により、ドナーであるヒトの肝臓の消化をin vitroで実施した。肝臓が白くなるまで前灌流を継続し、次いで肝臓が完全に消化されるまで(およそ45分)、コラゲナーゼ酸素飽和緩衝液を用いて灌流を行った。
【0051】
細胞を回収するために、肝臓を細かく切って1cm片にし、得られた懸濁液を#10ワイヤースクリーンでろ過し、次いで253μmナイロンメッシュで再びろ過した。この懸濁液を20×g、4℃で5分間遠心分離して、無傷の実質細胞を沈殿させた。このペレットを4℃で再懸濁させ、洗浄緩衝液で洗浄して(3回)、コラゲナーゼをすべて除去した。この細胞ペレットを150ml組織培養液中で再懸濁させて、細胞3〜4×10個/mlの密度の最終液量400〜500mlを得た。この懸濁液のアリコートについてトリパンブルー及び乳酸脱水素酵素による生存率評価を実施した。
【0052】
上記の通りドナーの肝臓から単離した新鮮分離ヒト肝細胞を、50×gで5分間遠心分離することにより、洗浄緩衝液で3回洗浄した。この細胞ペレットを冷却した凍結用培地(無血清MFE培地:FBS:DMSO(8:1:1))中、5×10個/mlの最終細胞密度で再懸濁させた。この細胞懸濁液のアリコートを、Nunc社製クライオバイアル(Cryovial)に移した(1.0ml/1.5mlクライオバイアル、4.5ml/5mlクライオバイアル)。クライオバイアル中のこの細胞を4℃で15〜30分間平衡化させ、次いでこのクライオバイアルを発泡スチロール容器中に−80℃で少なくとも3時間置いた。次いでこのバイアルを保存のために液体窒素中に浸けた。
【0053】
凍結保存されたヒト肝細胞を42℃の水浴中で急速に解凍し、MCT社製MFE培地中で洗浄及び培養した。2日後、この細胞中に、リポフェクションによって媒介されるトランスフェクションにより不死化遺伝子を導入した。
【0054】
Ea1C−35細胞系(ATCC受託番号PTA−5565)を、ラージ−T抗原及びスモール−t抗原を共に含み、その発現がSV40初期プロモーターによって駆動される、SV40ゲノムの2.5kbの初期領域を含む不死化ベクターを用いるトランスフェクションによって得た。この初期領域をStratagene社製pBluescript SKベクターのバックボーン中に挿入し、pBlueTagと名付けた。neoプラスミドの同時トランスフェクションにより、ネオマイシン耐性をトランスフェクトされる細胞に選択マーカーとして付与した。最初にG418含有培地中で増殖できるかどうかに基づいてクローンを選択した。Ea1C−35細胞系を樹立し、CSM培地中で維持した。
【0055】
Fa2N−4細胞系(ATCC受託番号PTA−5566)を、リポフェクションによって媒介される単一不死化ベクターのトランスフェクションによって不死化させた。pBlueTagベクター中に含まれるSV40ゲノムの初期領域をInvivoGen社製pGT60mcsプラスミドに基づくバックボーン中に挿入し、pTag−1と名付けた。SV40 TAgコード領域は、ハイブリッドのhEF1−HTLVプロモーターの影響下にある。また、このベクターは、薬剤選択マーカーとしてハイグロマイシン抵抗性遺伝子をコードしている。ハイグロマイシン含有培地中で増殖できるかどうかに基づいてクローンを選択した。Fa2N−4細胞系を樹立し、MFE培地中で維持した。
【0056】
Fa2N−4(ATCC受託番号PTA−5566)及びEa1C−35(ATCC受託番号PTA−5565)細胞系は、ブダペスト条約に従って、2003年10月6日にATCC、米国12301メリーランド州Rockville、Parklawn Driveに寄託された。
【0057】
Fa2N−4(ATCC受託番号PTA−5566)及びEa1C−35(ATCC受託番号PTA−5565)細胞系はどちらも、150回の集団倍加によって最高18カ月間培地中で維持された。こうした細胞系はどちらも、継代15〜20代の間に危機段階(crisis stage)を経た。得られた不死化細胞系は、MCT社製無血清MFE培地中で維持すると増殖し機能し、損傷なしに無期限で凍結保存することができる。また、この細胞系は他の無血清培地中でも増殖し機能する。また、Ea1C−35細胞系は血清培地中でも増殖し機能する。この細胞系は、倍加時間が72〜96時間である。ヌードマウスへの移植研究の結果から、Fa2N−4(ATCC受託番号PTA−5566)及びEa1C−35(ATCC受託番号PTA−5565)細胞系はどちらも非腫瘍形成性であることが示されている。
【0058】
潜在的治療用薬物及び化合物の毒性試験及び代謝試験
本発明の別の好ましい実施形態では、この細胞系は、無血清培地中で肝機能を保持している。好ましくは、肝機能は、酵素活性を発現し続ける能力である。より好ましくは、肝機能は、チトクロムP450(CYP)酵素活性及び無血清培地中で他の薬物代謝酵素(DME)を維持し続ける能力が含まれる。
【0059】
本発明の別の好ましい実施形態では、この細胞系は、肝臓に対する薬物候補の作用を評価するために使用することができる。好ましくは、この細胞系は、酵素誘導及び細胞毒性を評価するために使用される。
【0060】
本発明の別の好ましい実施形態では、この細胞系は、化合物に対する肝臓の作用を評価するために使用することができる。好ましくは、この細胞系は、薬物代謝及び種間比較を評価するために使用される。
【0061】
Fa2N−4(ATCC受託番号PTA−5566)及びEa1C−35(ATCC受託番号PTA−5565)細胞系を使用して、酵素誘導を研究し、また化合物が細胞毒性を引き起こすことができるかどうか検討することができる。CYP1A2及びCYP3A4の活性は、Fa2N−4及びEa1C−35のどちらの細胞においても誘導可能であり、この活性によりこれらの細胞系が他の肝細胞系と区別される。CYP1A2、CYP2B6、CYP2C9、及びCYP3A4の活性はFa2N−4において誘導可能であり、この活性によりこの細胞系がEa1C−35細胞系と区別される。本発明の不死化肝細胞系は、酵素活性、並びにmRNAレベルの測定に基づいて評価するのに十分な、酵素誘導のためのCYPを発現する。さらに、本発明の細胞系は、アセトアミノフェンをグルクロン酸及び/又は硫酸塩で抱合させることが示されている。したがって、これら細胞系は、薬物候補の代謝安定性を評価するのに使用することができる。
【0062】
培養によるFa2N−4細胞は、ヒト肝細胞の初代培養物と形態的にも機能的にも類似する。酵素誘導物質に対するこの細胞系の応答は、培養された初代ヒト肝細胞において観察されるものと酷似しており、薬物候補の酵素誘導能を評価するためのin vitro選択系、すなわち至適基準と考えられている。Fa2N−4細胞は、初代ヒト肝細胞に勝る有利な点がいくつかあり、そのうちのいくつかにより、Fa2N−4細胞が、化合物のよりハイスループットなスクリーニングのための有望なin vitro試験系となる。
【0063】
供給が限られており不安定であるヒト肝臓とは対照的に、Fa2N−4細胞は、供給に制限なく入手可能である。新鮮なヒト肝細胞を入手できるかどうかは、適当な肝組織ドナーを利用できるかどうかにかかっているので、ある化合物が誘導物質であることを確認するために3つの異なる肝臓から単離した肝細胞を使用して実験を行うには長い時間がかかる。さらに、新鮮な肝細胞のプレーティング効果は予測できないので、適当なドナーを有するが、プレーティング効果が低く、細胞の健全性が標準以下であるためその細胞を使用できないことが分かっていることは珍しいことではない。
【0064】
Fa2N−4細胞は、継代することができ、主要なDMEの活性を保持しながら数代にわたって使用することができる。新鮮なヒト肝細胞では、細胞は1回しか使用することができず、したがって研究間でデータを比較することは難しくなる。凍結保存された培養可能な初代ヒト肝細胞は、理論的には1人のドナーについて様々な時点で多数の実験を行うこと、或いは潜在的に1度に多数のドナーを使用することが可能となる点での改善となる。しかし、凍結保存された培養可能な初代肝細胞は供給が限られている。新鮮な初代肝細胞、及び凍結保存された培養可能な肝細胞はどちらも、遺伝的特徴、環境、及び同時治療(co−medication)の影響によってドナー間で変わりやすい。ドナーのDMEプロファイルは非常に大きな違いが見られ、そのため、化学物質が潜在的に誘導可能かどうかの結論に達するまでに、3人のドナーからデータを得ることが現在推奨されている。
【0065】
Fa2N−4細胞におけるCYP酵素活性の誘導は、ヒト肝細胞よりも再現性が高い。さらに、Fa2N−4細胞におけるCYP誘導は、96ウェルプレートを含めて、様々な細胞培養フォーマットで測定することができるが、ヒト肝細胞に関してはそれがいつも可能であるとは限らない。したがって、本発明の不死化肝細胞、すなわちFa2N−4細胞は、誘導研究における新鮮なヒト肝細胞の適切な代用物であり、よりハイスループットな研究に適しているという属性をさらに提供することができる。Fa2N−4細胞は、多様な遺伝子の誘導を示すので、以前から公開されている不死の細胞系よりも優れている。こうした細胞を使用して、ある薬物の誘導の潜在的可能性を判定することができ、その知見は初代ヒト肝細胞において酵素活性が増大するというモニター結果と一致する。mRNAという指標によるよりハイスループットな細胞培養及び分析により、より多くの化合物を試験することが可能となり、化合物あたりのコストが下がるという創薬アッセイにとって好ましい2つの特徴が得られる。
【0066】
本発明の細胞系は、それだけには限らないが以下のものを含めて、多くのin vitroでの用途及び試験に比類なく適している。
【0067】
(1)潜在的な化学療法薬物の同定:こうした細胞は、試験すべき化学物質を含有する培地中でそれらの細胞をin vitroで増殖し、次いで適当な暴露期間の後、細胞毒性が生じたかどうか、或いはどの程度まで生じたかを判定することにより、例えば、すべて当技術分野で周知の標準の技法であるが、トリパンブルー排除試験又は関連する試験(Paterson、Methods Enzymol,58:141(1979))により、或いはコロニー形成率などの増殖試験(MacDonaldら、Exp.Cell.Res.,50:417(1968))により、癌及び関連する疾患を治療するのに適した化学物質をスクリーニングするのに有用である。
【0068】
(2)新たな薬物標的の同定。生物学的薬剤及び化学的薬剤を、それらが遺伝子及び代謝経路を誘導又は阻害できるかどうかについてスクリーニングすることにより、新たな潜在的な薬物標的を同定することができる。化学物質及び生物学的物質をこうした肝臓細胞の増殖培地に添加し、次いで適当な期間の後、DNA合成の停止、遺伝子発現の誘導又は阻害(RT−PCR分析又はゲノムの発現プロファイリングによって測定する)、及び肝臓特異的タンパク質の産生(免疫化学的手法によって判定する)を含めて、複合的変化が起こるかどうかを判定することにより、それらが遺伝子発現又は代謝経路を誘導又は阻害できるかどうかについてスクリーニングする。遺伝子発現及び代謝経路の誘導又は阻害に対する化学物質及び生物学的物質の影響の同定は、癌などの疾患を治療するための新たな薬物標的を同定する1つの方法である。
【0069】
(3)発癌物質及び他の生体異物の代謝研究:発癌物質及び他の生体異物をこうした細胞の増殖培地に添加し、薄層クロマトグラフィー、又は高速液体クロマトグラフィーなどの技法により、こうした化合物の代謝産物の出現をモニターすることができ、化合物及び/又はそれらの代謝産物とDNAとの相互作用が決定される。
【0070】
(4)DNA変異誘発の研究:変異誘発物質であることが既知の、又は疑わしい物質を、細胞の増殖培地に添加することができ、次いで、例えば薬剤耐性変異体の細胞コロニーの出現を検出することにより、変異を検査することができる(Thompson、Methods Enzymol,58:308,1979)。
【0071】
(5)染色体損傷作用物質の研究:DNA又は染色体の損傷を引き起こすことが既知の、又は疑わしい物質を、こうした細胞系の培地に添加することができ、次いで、姉妹染色分体交換の頻度の測定など、当技術分野で周知の技法により染色体損傷の程度を測定することができる(Lattら、In:Tice,R.R.and Hollaender,A.,Sister Chromatic Exchanges,New York:Plenum Press,pp,11 ff.(1984))。姉妹染色分体を識別する方法は多数あるが、簡単な技法がほんのいくつかあればほとんどの研究に間に合う。代表的な技法である、ヘキスト(Hoechst)33258による蛍光(S.A.Lattら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 70:3395(1973);S.A.Lattら、Cytochem.25:913(1977))を使用する技法、或いはヘキスト33258を使用し、続いて順次、照射、SSCでのインキュベート、及びギムザ染色(出典P.Perry及びS.Wolff、Nature 261:156(1974);S.Wolff(1981)、「哺乳動物における姉妹染色分体交換の測定(Measurement of sister chromatid exchange in mammalian cells)」,In DNA Repair:A Laboratory Manual of Research Procedures,Vol.1,Part B(E.C.Friedberg及びP.C.Hanawalt編),Dekker,N.Y.)を行う技法は、使用することができるこのような技法のほんの2つの例である。
【0072】
(6)薬物、化合物、発癌物質、及び生体異物の細胞毒性の研究:薬物、化合物、発癌物質、及び生体異物を細胞の増殖培地に添加することができ、遺伝子発現プロファイリング、色素排除法、酵素の漏出、コロニー形成率などの検査を使用して、暴露時間に応じた細胞の生存率を確認することができる。
【0073】
(7)遺伝子発現の研究:薬物及び化合物を細胞の培地に添加することができ、RNA及びタンパク質発現を生物学的指標として使用して、暴露に応じた遺伝子発現の変化をモニターすることができる。各変化は、特異的な遺伝子の誘導又は阻害のいずれかを反映している可能性がある。例えば、薬物及び化合物と共に細胞を培養して、それだけには限らないが、CYP3A4若しくはCYP1A2と呼ばれるCYP、多剤耐性遺伝子、胆汁トランスポーター、グルクロニルトランスフェラーゼ、グルタチオントランスフェラーゼ、スルファターゼなどを含めた薬物代謝酵素の発現を調節するこうした薬剤を同定することができる。
【0074】
(8)不死化細胞を使用して、新たな薬物を同定し、それによりC型肝炎ウイルス(HCV)による感染を治療することができる。本発明者らは、EA1C−35細胞系及びFa2N−4細胞系がどちらもCD81を発現していることを示した。CD81は、HCVによって媒介されるウイルス感染に必要である(Cormierら、PNAS,101:7270−7274,2004)。細胞をHCV陽性血清と共に培養することにより、細胞系に感染させることができる。HCVウイルスを増殖させる細胞系を使用して、この慢性感染を治療するための新たな薬物をスクリーニングすることができる。
【0075】
治療用血漿タンパク質(TPP)
本発明の別の好ましい実施形態では、この細胞系はタンパク質を産生し続ける。好ましくは、この細胞系は血漿タンパク質を自然に産生し続ける。より好ましくは、この細胞系は、アルブミン、α1アンチトリプシン、血液凝固第VIII因子及び第IX因子、トランスフェリン、並びにインターαタンパク質性インヒビター(IαIP)を含む治療用血漿タンパク質を自然に産生し続ける。
【0076】
本発明の別の好ましい実施形態では、この細胞系によるTPPの産生が測定される。好ましくは、この細胞系によるTPPの産生は、無血清培地中でその存在を検出することによって測定される。より好ましくは、この細胞系によるTPPの産生は、mRNAレベルではなくタンパク質レベルで測定される。
【0077】
本発明の好ましい別の実施形態では、この細胞系は無血清倍地中でTPPを産生する。好ましくは、この細胞系は、無血清培地中で複数のTPPを同じ画分から同時に産生する。より好ましくは、この細胞系は、ウイルス汚染の危険なしに無血清培地中で複数のTPPを同じ画分から同時に産生する。
【0078】
肝細胞由来のタンパク質は、治療用のネイティブな血漿タンパク質を産生するためのより安全でより再現性の高い手法を提供する。この知見は本出願人のデータに基づいたものであり、このデータは、その特許権がある不死化ヒト肝細胞系が、インターαタンパク質性インヒビター、すなわち異なる4つの遺伝子から産生される異なる3つのポリペプチドによって形成される、血漿タンパク質の複合ファミリーを産生し続けることを実証している。Salier,J.−P.ら、「インターαインヒビターファミリー:構造から調節まで(The inter−α−inhibitor family:from structure to regulation)」、Biochem J,1996.351:p.1−9。
【0079】
チャイニーズハムスター卵巣細胞などの哺乳動物細胞における遺伝的組換えによって産生された異種タンパク質とは対照的に、本発明の細胞系に由来するTPPは、完全な機能に必要な第2の翻訳後修飾がネイティブな肝細胞による産生過程で行われるので、より正常に挙動する。本発明の細胞を使用してTPPを産生することの重要な利点は、それを産生する細胞系が、ヒトに由来し、したがってより自然なタンパク質をもたらすことである。したがって、複数のTPPがヒト肝細胞によって合成されるので、本発明の細胞系のヒト肝細胞ベースの発現系を使用して、TPPをその「ネイティブな」形で産生することができる。
【0080】
TPPの翻訳後修飾は、生物活性、in vivoクリアランス率、免疫原性、及び/又は安定性に影響を与えることがある。本発明の不死化肝細胞系は、機能的なTPPを産生する上で決定的に重要である、グリコシル化などのタンパク質修飾を自然に実施する。この細胞系は、培養により多数のTPPを同時に産生し、したがってタンパク質の順次精製スキームにより、ウイルス汚染が再び起こる危険なしに血漿由来のタンパク質に類似する多数の産物が産生される。
【0081】
本発明の肝細胞ベースの発現系によって分泌されるTPPは、組換え体対応物よりも自然に挙動する。例えば、本発明者らは、その不死化ヒト肝細胞系が、生物活性のあるIαIPを産生し、したがって現在組換え技術によって産生することができないこのタンパク質の強力な市販の供給源であることを実証した。したがって、本発明者らによる「ネイティブな」形のIαIPの産生は、敗血症など、生命にかかわる疾患を治療するためのより効果的で、安全で、且つ費用効果の高い解決法をもたらす。
【0082】
肝細胞由来の本発明のTPPは、先行技術の欠点を克服したネイティブなTPPを市販用に産生するための、安全で、効果的で、且つ費用効率の良い戦略を提供する。
【0083】
本発明の細胞系を産生用プラットホームとして使用する例には、それだけには限らないが以下のものが含まれる。
【0084】
(1)肝細胞由来のタンパク質の産生。適当な培地中で維持された細胞は、血液凝固因子(例えば、第VIII因子及び第IX因子)、アルブミン、α1アンチトリプシン、トランスフェリン、インターαタンパク質、増殖因子などのタンパク質を自然に発現し、それを精製し使用することができる。
【0085】
(2)対象のタンパク質を産生するための組換えDNA発現ベクターの使用。例えば、治療上価値のあるタンパク質をコードしている遺伝子を、制御用の(すなわち、エンハンサー配列を伴う、又は伴わないプロモーターを含む)DNA断片で組み換え、細胞中に導入し、次いで、産生されたタンパク質を、当技術分野で周知の常用の手順により培養上清又は細胞抽出物から回収することができる。
【0086】
これは、(1)発現されるタンパク質、発現されるタンパク質のサブユニット、又は発現されるタンパク質の前駆体をコードしている遺伝子、及び(2)遺伝子に作動可能に連結しており、遺伝子の転写に影響を与える少なくとも1種の制御エレメントを含む1種又は複数の組換えベクターを使用することによって実施することができる。この制御エレメントは通常、プロモーター、又はプロモーターとエンハンサーの組合せである。また、適当なベクターの特徴には、(1)複製起点、(2)所望の遺伝子をコードしているDNAの挿入を可能にする制限エンドヌクレーゼ切断部位、(3)通常は抗生物質耐性を与えるものである選択マーカーが含まれる。特に好ましい一実施形態では、制御エレメントは、少なくとも1つのプロモーター及び少なくとも1つのエンハンサーを含む。
【0087】
適当な組換えベクターには、それだけには限らないが、SV40由来ベクター、マウスポリオーマウイルス由来ベクター、BKウイルス由来ベクター、エプスタインバーウィルス由来ベクター、アデノウイルス由来ベクター、アデノ随伴ウイルス由来ベクター、バキュロウイルス由来ベクター、ヘルペスウイルス由来ベクター、レンチウイルス由来ベクター、レトロウイルス由来ベクター、アルファウイルス由来ベクター、ワクチニアウイルス由来ベクターなどが含まれる。このようなベクターは通常、強力で、構成的なプロモーター、発現されるべきDNA中にある少なくとも1つのイントロン、及び転写する配列の3’末端にあるポリアデニル化シグナルを含む。グリコシル化などの適切な翻訳後修飾を確実にするために、シグナルペプチドを追加することが望ましい可能性がある。こうしたベクター及びベクターの特徴は、すべてこの参照により本明細書に組み込む、S.B.Primroseら、「遺伝子操作の原理(Principles of Gene Manipulation)」(6th ed.,2001,Blackwell,Oxford,England),pp.174−201;G.L.Buchschacher、「レンチウイルスベクター(Lentiviral Vectors)」(1th ed,2003,Landes Bioscience,Georgetown,TX);T.A.Brown、「遺伝子クローニング及びDNA解析:序論(Gene Cloning and DNA Analysis:An Introduction)」(4th ed.,2001,Blackwell,Oxford,England)に記載されている。
【0088】
また、発現される血漿タンパク質をコードしているDNAを単離し、このようなDNAをこうしたベクターに挿入する方法も当技術分野で周知である。こうした方法は、例えば、参照により本明細書に組み込むS.B.Primrose、「遺伝子操作の原理(Principles of Gene Manipulation)」(6th ed.,Blackwell,Oxford,2001)に記載されている。一般に、クローニング用の適当なDNAは、特異的なmRNAの逆転写によって得ることができ、続いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を利用してそのDNAを増幅することができる。このようなDNAは一般に、cDNAとして知られている。特異的な制限エンドヌクレアーゼでのベクターの切断、及び切断部位でのDNAの挿入を通常含む技法により、DNAをベクター中に挿入することができる。
【0089】
ウイルスによって不死化されたヒト肝細胞を形質転換、又はそれにトランスフェクトする方法は当技術分野で周知であり、本明細書でさらに詳細に記載する必要はない。一般に、このような方法には、それだけには限らないが、リポフェクション、リン酸カルシウムによって媒介されるトランスフェクション、DEAEデキストランによって媒介されるトランスフェクション、電気穿孔法によるトランスフェクション、微粒子銃によるトランスフェクション、及びポリブレンを使用したトランスフェクションが含まれる。こうしたトランスフェクション法は、この参照により本明細書に組み込むJ.Sambrook及びD.W.Russell、「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)」(3d ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,2001),vol.3,ch.16に記載されている。
【0090】
多くの場合、1種又は複数のレポーター遺伝子をベクター中に組み込んで、トランスフェクション効率を評価することが望ましい。最適の遺伝子は、強力で遍在する、プロモーターとエンハンサーの組合せの制御下にある。こうした組合せには、ヒトサイトメガロウイルスの前初期遺伝子、ラウス肉腫ウイルスの末端反復配列、又はヒトβアクチン遺伝子由来のものが含まれる。適当なレポーター遺伝子の例は、大腸菌(Escherichia coli)トランスポゾン中に存在するクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子である。蛍光の検出、又は放射性生成物の検出など様々な技法により、レポーター遺伝子の発現の検出を実施することができる。レポーター遺伝子及びその試験は、この参照により本明細書に組み込むM.A.Aitkenら、「高等真核生物の組織培養細胞における遺伝子の導入及び発現(Gene Transfer and Expression in Tissue Culture Cells of Higher Eukaryotes)」 in Molecular Biomethods Handbook(R.Rapley & J.M.Walker,ed.,Humana Press,Totowa,New Jersey,1998),pp.235−250にさらに記載されている。
【0091】
タンパク質が発現されると、その発現されたタンパク質を単離することが必要である。これは通常、標準のタンパク質精製方法によって実施される。こうした方法には、それだけには限らないが、硫酸アンモニアなどの塩での沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、等電点電気泳動、クロマトフォーカシング、及び/又はプロテアーゼ活性などの容易に確認される任意の特性を利用してタンパク質を検出するイムノアフィニティークロマトグラフィーが含まれる。また、他の精製方法も当技術分野で知られている。タンパク質精製方法は、例えば、この参照により本明細書に組み込むR.K.Scopes、「タンパク質精製:原理及び実施(Protein Purification:Principles and Practice)」(3d ed.,Springer−Verlag,New York,1994)に記載されている。
【0092】
場合によっては、発現されるタンパク質を細胞から周辺の培地中に分泌させることができる。この方法の効率は、タンパク質が受ける、グリコシル化などの転写後修飾のパターンに依存する。このパターンは、小胞体及びゴルジ装置内のタンパク質のプロセシング、並びにその後の分泌に影響を与える。これは、この参照により本明細書に組み込むA.J.Dorner及びR.J.Kaufman、「哺乳動物細胞で発現されるタンパク質の合成、プロセシング、及び分泌の分析(Analysis of Synthesis,Processing,and Secretion of Proteins Expressed in Mammalian Cells)」in Gene Expression Technology(D.V.Goeddel,ed.,Academic Press,San Diego,1991),pp.577−598に記載されている。また、発現されるタンパク質が、タンパク質精製を容易にするために使用することができるタグと呼ばれる別のタンパク質と融合するように、クローニングベクターを選択することができる。タグの例には、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、マルトース結合タンパク質MalE、及びポリヒスチジン配列が含まれる。次いで、得られた融合タンパク質を特異的なタンパク質分解によって切断してタグを除去し、精製されたタンパク質が得られる。
【0093】
ウイルスによって不死化された非腫瘍形成性の肝細胞系の他の使用
本発明の細胞系を使用する他の例には、それだけには限らないが、以下のものが含まれる。
【0094】
(1)足場非依存性増殖や、無胸腺ヌードマウスにおける腫瘍形成などの標準の試験を使用した、化学的、物理的、且つウイルス性の作用物質、並びに癌遺伝子、及び腫瘍からの高分子量ゲノムDNAを含めた導入遺伝子による悪性形質転換の研究。例えば、リン酸ストロンチウムトランスフェクションを使用して、クローン化された、ウイルスの癌遺伝子k−ras(多くの肝細胞癌に存在する癌遺伝子)を肝細胞中に導入することができる。新たにトランスフェクトした細胞が、続いてマウスにおいて腫瘍を形成し、且つ足場非依存的に増殖することができるかどうか評価することができる。
【0095】
(2)潜在的な化学療法剤、特に、特定の癌遺伝子又は癌遺伝子の組合せの活性化によって形質転換された細胞に特異的である可能性があるものをスクリーニングする(上記の節「潜在的治療用薬物及び化合物の毒性試験及び代謝試験」の段落(1)に記載の技法により)ための、この節の上記の段落(1)の場合と同様の、癌遺伝子の導入によって改変された細胞の使用。
【0096】
(3)細胞増殖、並びにそれだけには限らないが、この節の上記の段落(1)と(2)及び上記の節「潜在的治療用薬物及び化合物の毒性試験及び代謝試験」の段落(1)から(5)に記載のものを含めた外因性因子の作用と相関する、細胞内のpH及びカルシウムレベルの変化を含めた細胞生化学の研究。細胞内のpH及びカルシウムレベルを研究するために、適当な培養容器中の細胞を蛍光指示色素に曝露し、次いで蛍光発光を蛍光分光光度計で検出する(Grynkiewiczら、J.Biol.Chem.,260:3440−3450(1985))。
【0097】
(4)増殖因子に対する細胞応答及び増殖因子の産生の研究:ヒト肝臓の肝細胞の増殖及び分化に重要な増殖因子の同定及び精製。こうした細胞は、無血清培地中で増殖するので、このような用途に特に有用である。したがって、増殖因子に対する応答を、正確に定義された増殖培地において研究することができ、血清の存在で複雑化することなしに細胞によって産生された因子を同定及び精製することができる。
【0098】
(5)in vitroで増殖する細胞がギャップ結合を介して情報伝達することができるかどうか判定するための、例えば色素スクレープローディング試験(dye scrape loading assay)による、細胞内情報伝達の研究。増殖培地中蛍光色素の存在下で、例えば円刃刀で培養物に傷を付けることができる。この傷の端にある細胞は、機械的に破壊されており、したがって色素を取り込む。細胞内情報伝達が起こっているかどうかは、傷から離れたところにある細胞も色素を含有しているかどうか判定することによって確認することができる。
【0099】
(6)細胞表面抗原の特徴付け:細胞を、対象の細胞表面抗原に対する抗体と共にインキュベートし、次いで蛍光色素と結合する二次抗体と反応させる。次いで、この細胞が蛍光を発し、したがって細胞表面抗原を有するかどうか判定するために、蛍光標示式細胞分取装置を使用してこの細胞を評価する。
【0100】
(7)腫瘍抑制活性を同定するための細胞間雑種の研究(Stranbridgeら、Science,215:252−259(1982))。こうした細胞系が癌抑制遺伝子を含んでいるかどうか判定するために、こうした細胞を悪性腫瘍細胞と融合させる。癌抑制遺伝子の存在は、例えば、無胸腺ヌードマウスにおいて腫瘍を形成できなくなることの検出による、雑種細胞における悪性度の喪失によって示される。
【0101】
(8)標準の分子生物学的技法(Davisら、Methods in Molecular Biology,New York:Elsevier(1986))、並びにcDNAサブトラクションクローニング及び類似の方法などの技法を使用した、この節の上記の段落(1)に記載の、自然に発生する癌における形質転換遺伝子、この節の上記の段落(4)に記載の増殖因子遺伝子、この節の上記の段落(7)に記載の癌抑制遺伝子を含めた新規遺伝子の同定。
【0102】
(9)複製する肝炎ウイルス(例えば、HBV、HCV、非A非B型、HAV、及び他の肝臓親和性の(livertropic)ウイルス、例えばCMV)の増殖。ヒト肝臓の癌細胞系のための確立されたトランスフェクション方法を使用した、複製する肝炎ウイルスを含むヒト肝臓肝細胞のクローン細胞系の樹立(Sells,M.A.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.,84:444−448)。HBVを含むヒト肝臓の肝細胞を使用して、HBV単独の、またアフラトキシンBなど、肝臓の化学発癌物質と併用した能力を、足場非依存性増殖試験、並びに無胸腺ヌードマウスにおける増殖を使用して、悪性形質転換について評価することができる。この節の上記の段落(7)のものと類似する細胞間雑種技術を使用して、悪性細胞との融合による癌抑制遺伝子の可能な不活性化をHBVトランスフェクションの前後で評価することができる。このスクリーニングキットは、細胞系と、他の常用の構成要素及び試験を実施するための標識の使用説明書とを含む他のスクリーニングキットのように容易に組み立てられる。
【0103】
(10)不死化細胞を使用して、C型肝炎ウイルス(HCV)感染を治療するための新たな薬物を同定することができる。本発明者らは、EA1C−35及びFa2N−4細胞系はどちらも、CD81を発現していることを示した。CD81は、HCVによって媒介されるウイルス感染に必要である(Cormierら、PNAS,101:7270−7274,2004)。細胞をHCV陽性血清と共に培養することにより、細胞系に感染させることができる。HCVウイルスを増殖させる細胞系を使用して、この慢性感染を治療するための新たな薬物をスクリーニングすることができる。
【0104】
(11)不死化細胞は、どちらも移植され体外である肝移植片及び肝機能補助装置のために細胞を増殖する一方法として使用することができる。また、こうした細胞は、遺伝性代謝障害、特に肝臓の悪化(hepatic degradation)を伴うこうした疾患(すなわち、ある種の疾患は、特定の遺伝子の欠失又は異常に起因する)を治療するための器官移植のためにこれらの細胞中にトランスフェクトし/感染させた追加の遺伝子を有することができる。次いで、この遺伝子を細胞中にトランスフェクトし、次いでこの細胞を器官移植のために増殖させることができるはずである。
【0105】
(12)肝臓寄生虫の研究:不死化肝細胞系が、それだけには限らないが、アメーバ症、マラリア、線虫、及び回虫を含めて、肝細胞に侵入する寄生虫の生活環を研究するのに有効であることを証明することができるはずである。
【0106】
(13)肝疾患の研究:不死化肝細胞系を使用して、それだけには限らないが、感染性肝疾患(住血吸虫症、黄熱、包虫嚢胞(echinococcal cyst)、アメーバ症、ウイルス性肝炎など);薬物によって誘導される肝疾患(トランキライザー(フェノチアジン)、抗生物質(イソニアジド)、及び麻酔薬(ハロタン)による疾患など);脂肪肝(通常エタノールの形でのカロリー過剰摂取、肝臓毒(CCl及びPO)、及びコントロール不良の糖尿病、妊娠中毒症などの全身性代謝障害による疾患など);肝硬変(食事要因(通常アルコール)による疾患、ウイルス性肝炎による大量壊死の後、色素沈着を伴うもの、胆管の疾患を伴うもの、その他の肝硬変など);腫瘍;並びにヘモクロマトーシス(鉄代謝のまれな障害)を含めた、肝臓の疾患を研究することができるはずである。
【実施例】
【0107】
以下の実施例は、本発明の範囲を何ら限定することなく本発明の特定の実施形態を説明するために提供するものである。
【0108】
(実施例1)
不死化ヒト肝細胞の特徴付け
ヒト肝細胞に、SV40初期プロモーターの制御下にある、SV40ラージT抗原及びスモールt抗原の遺伝子をトランスフェクトすることにより、100を越える数のヒト肝細胞クローン細胞系を樹立した。Ea1C−35及びFa2N−4と呼ばれる2つの細胞系についてを説明する。
【0109】
どちらの細胞系も、凍結保存された初代ヒト肝細胞へのSV40ラージT抗原及びスモールt抗原を含むベクターの、リポフェクションによって媒介されるトランスフェクションによって作製した。Ea1C−35細胞系は、凍結保存されたヒト肝細胞への、Blue Tagを含む不死化ベクター、すなわち野生型SV40の初期領域を含む組換えプラスミドのトランスフェクションによって導き出した。Blue Tagベクターを以下の通り構築した。PBR/SV(ATCC)を制限酵素KpnI及びBamHIで消化して、SV40初期プロモーター、並びにスモールt抗原及びラージT抗原のコード領域を含む2338bpの断片(239〜2468bpの断片を捨て、残りを置いておく。番号付けはFiers,Wら、Science,273:113−120に従う。)を放出させた。このKpnI/BamHI断片をBluescript SKベクター(Stratagene社製)中に挿入して、Blue Tag、すなわちSV40プロモーターを使用してT抗原の発現を駆動させるBluescriptベースのベクターを産生させた。この初期領域をStratagene社製pBluescript SKベクターのバックボーン中に挿入し、pBlueTagと名付けた。neoプラスミドの同時トランスフェクションにより、トランスフェクトされる細胞に選択マーカーとしてネオマイシン耐性を与えた。最初にG418含有培地中で増殖できるかどうかに基づいてクローンを選択した。Ea1C−35細胞系をMCTが特許権をもつ血清含有培地CSM中で樹立した。Ea1C−35細胞系は、CSM又はMFEのいずれかで維持することができる。
【0110】
Fa2N−4細胞系を、リポフェクションによって媒介される、単一の不死化ベクターのトランスフェクションによって不死化させた。pBlueTagベクター中に含まれるSV40ゲノムの初期領域をInvivoGen社製pGT60mcsプラスミドに基づくバックボーン中に挿入し、pTag−1と名付けた。T抗原コード領域は、ハイブリッドのhEF1−HTLVプロモーターの影響下にある。このベクターはまた、薬剤選択マーカーとしてハイグロマイシン耐性遺伝子をコードしている。ハイグロマイシン含有培地中で増殖できるかどうかに基づいてクローンを選択した。Fa2N−4細胞系を樹立し、MFE培地中で維持した。
【0111】
(実施例2)
肝臓特異的転写因子の発現
肝臓特異的転写因子を保持することは肝機能の発現に必須であるので、最初にクローン細胞系を、ヒトのHNF1、HNF3、HNF4α、HNF4γ及びC/EBP、並びにアルブミン用のプライマーを使用したRT−PCRによってスクリーニングした。簡単に言えば、Brennerら(「MAPPing(Message amplification phenotypingメッセージ増幅表現型分析):少数の細胞からの多数のmRNAを同時に測定する技法(Message amplification phenotyping(MAPPing):a technique to simultaneously measure multiple mRNAs from small numbers of cells)」,Biotechniques 7(10):1096−1103,1989)のマイクロアイソレーション法(micro−isolation method)を使用して、各クローン細胞系の10個の細胞から全RNAを調製した。50μgの大腸菌(E.coli)rRNA(Sigma社製)をキャリアとして使用して、少数の細胞からのRNAの単離を容易にした。Perkin Elmer Cetus社製GeneAmp RNA PCRキットを使用して、RT−PCR反応を実行した。供給元の使用説明書に従って、ランダムヘキサマー及び逆転写酵素M−MLVを使用して、1μgの全RNAを逆転写した。各転写因子に独特のヌクレオチド断片を定義するオリゴヌクレオチドプライマーを使用して、PCR反応を実施した。このプライマーは、Cruachem社(Fisher Scientific社)によって市販用に合成され精製されたものである。アニール温度58℃、1分間のPCR反応を30サイクル実施した。PCR産物を臭化エチジウムで染色した後、1%アガロースゲル中で視覚化した。陽性対照の試料を、新鮮分離したヒト肝細胞の全RNAのRT−PCR分析に含めた(示さず)。下記の表1に示すように、どちらの細胞系でも5つの肝細胞関連転写因子がすべて発現された。肝細胞特異的遺伝子発現の指標としてアルブミンの産生を測定した。下記の表1に示すように、ヒトアルブミンを認識する抗体を使用したELISA試験による検出によれば、どちらの細胞系でも無血清条件の培地中にアルブミンが分泌される。
【表1】

【0112】
(実施例3)
mRNA転写物の発現についての逆転写ポリメラーゼ連鎖反応分析
Ea1C−35及びFa2N−4と呼ばれる2つの不死化ヒト肝細胞系においてRT−PCR分析を実施した。細胞をI型コラーゲンコートディッシュ上に蒔き、MFE培地中で維持した。培養細胞にリファンピン(10μM)又は等しい容量のDMSO(対照)を3日間処理した。
【0113】
以下のプライマー、すなわちアルブミン、アシアロ糖タンパク質II受容体、HNF−1α、HNF−3、HNF−4α、HNF4γ、c/EBP、UGT1A1、UGT2B4、SXR、RXRα、RXRβ、CAR、CYP1A2、CYP2A6、CYP2C9、CYP3A4、CYP2D6、CYP2E1、チトクロムc、及びNADPHをRT−PCR分析に使用した。
【0114】
2つの不死化ヒト肝細胞系Ea1C−35及びFa2N−4においてRT−PCR分析を実施して、肝細胞特異的転写因子(例えば、HNF−1α、HNF−3、HNF−4α、HNF4γ、C/EBP)、肝臓特異的遺伝子(例えば、アルブミン及びアシアロ糖タンパク質受容体)、薬物代謝遺伝子を制御する転写因子(例えば、SXR、RXRα、RXRβ、CAR)、並びに第I相及び第II相のDME(例えば、それぞれCYP1A2、CYP2A6、CYP2C9、CYP3A4、CYP2D6及びCYP2E1、並びにUGT1A1及びUGT2B4)の発現についてスクリーニングした。
【0115】
CYP3A4発現の既知の薬理学的誘導物質であるリファンピンに暴露し、又は暴露せずに分析を実施した。
【0116】
図1〜図8に示すように、RT−PCR分析により、検査されたすべての転写産物が、様々なレベルであるがどちらの細胞系によっても発現されることが分かった。リファンピン誘導によりCYP3A4転写物の発現が増大した。図1〜図8のゲルローディングの順序の説明の概要を下記の表2及び表3に示す。
【表2】

【0117】
(実施例4)
SV40によって媒介される増殖活性
初代ヒト肝細胞は、培養すると増殖活性が限られてくる。この特徴を克服するために、SV40ラージT抗原及びスモールt抗原をゲノム中に導入した。引き続いて、得られたクローン細胞系Fa2N−4及びEa1C−35を培養物中で最高18カ月間維持した。どちらの不死化系統も、MFE培地中で維持すると増殖及び機能しており、凍結保存し、貯蔵することができる。ラージT抗原及びアルブミンに対する多価抗体を使用した間接免疫蛍光染色により、これらの細胞系が、核に局在する不死化遺伝子を発現し(図9a)、且つ分化型の機能に特徴的な肝細胞特異的遺伝子を発現し(図9b)続けることが実証された。Ea1C−35細胞系の形態を下記に示す(図9c)。
【表3】

【0118】
Fa2N−4細胞の免疫染色をアルブミン発現について実施した。細胞をI型コラーゲン上に蒔き、無血清培地中で72時間培養した。蛍光に結合する2次抗体を用いた間接免疫蛍光によりアルブミンを視覚化した。下記の図9bに示すように、すべての細胞で実質的にアルブミンが発現している。
【0119】
(実施例5)
薬物代謝データ
どちらの細胞系も、モデル物質の代謝に基づいて、単層培養物中で第I相(CYP)及び第II相の抱合反応を触媒し続ける。最も重要な第I相の酵素のうちの1つはCYP3A4であり、これは全ての薬物のうちのおよそ50%の代謝の原因である。CYP3A4の発現は、このCYPの発現を全体にわたって誘導又は阻害することができる、多剤摂取を含めた多くの要素によって調節することができる。したがって、ある薬物の治療有効量は部分的に一部がCYP3A4発現によって決まる。
【0120】
CYP3A4修飾物質は、その遺伝子の転写応答をモニターすることによって、またモデル物質(すなわちテストステロン)に対する酵素活性を測定することによって同定することができる。例えば、CYP3A4のcDNAを検出するための特異的プライマーを使用したRT−PCRにより、CYP3A4誘導物質の薬理学的プロトタイプ(すなわちリファンピン)に対する転写応答を試験することができる。また、リファンピンによって誘導されるCYP3A4酵素活性は、細胞をテストステロンと共にインキュベートした場合の6β−OH−テストステロン代謝物の産生によって測定することができる。下記の表4に示すように、Fa2N−4細胞系は、Ea1C−35細胞系よりもCYP誘導物質に対して感受性が高い。
【0121】
細胞系が第II相の抱合酵素を発現し続けることを実証するために、細胞をアセトアミノフェンに24時間曝露し、馴化条件培地を回収し、アセトアミノフェングルクロン酸抱合物又はアセトアミノフェン硫酸抱合物の産生について分析した。アセトアミノフェングルクロン酸抱合物及びアセトアミノフェン硫酸抱合物の産生をHPLC分析によって測定した。その結果を表4に示した。継代数の影響を判定するために、11代、14代、27代、32代、40代、及び41代の継代の後のアセトアミノフェングルクロン酸及びアセトアミノフェン硫酸の産生をFa2N−4細胞について測定した。継代第41代については、窒素代謝の指標としてアンモニアクリアランスも測定した。その結果を表5に示す。こうした結果から、どちらのDME抱合経路も損なわれておらず、Fa2N4細胞はアンモニアを除去できることが示される。
【表4】


*細胞をビヒクル又はリファンピンに72時間曝露した。データを、ビヒクルを処理した対照と比べて表す。
**細胞をビヒクル又はリファンピンに72時間曝露し、次いでテストステロンと共に24時間インキュベートした。6β−OH−テストステロン代謝物の産生をHPLC分析によって定量し、データを全細胞タンパク質(mg)あたりで表す。
【表5】


ND=未測定
【0122】
(実施例6)
CYP誘導物質を同定及びランク付け分類するための不死化肝細胞の使用
2つの系の証拠から、不死化ヒト肝細胞を使用してCYP3A4誘導物質を「誘導能」に基づいて同定及びランク付け分類できることが示される。
【0123】
第1に、Fa2N−4細胞をリファンピン(10μM)に曝露した結果、下記の図10に示すように、6−βテストステロン代謝物の産生が、デキサメタゾン(50μM)又はフェノバルビタール(1mM)などのより弱いCYP3A4誘導物質で処理した細胞よりも増大した。
【0124】
第2に、イムノブロット分析により、各細胞系をリファンピン又はフェノバルビタールに48〜72時間曝露すると、ビヒクル処理対照に比べてCYP3A4タンパク質の発現が増大することが図11で示された。ただし、リファンピンに曝露すると、CYP3A4タンパク質の発現がさらに増大する。イムノブロットでの上方のバンドは非特異的であり、したがって、CYP1A誘導物質であるBNFはCYP3A4タンパク質発現を誘導しない。
【0125】
全体として総合すれば、こうした結果から、不死化ヒト肝細胞系は、構成的で誘導可能なCYP3A4発現を検出するための極めて貴重なモデルを提供することが明確に示される。
【0126】
(実施例7)
初代培養物との形態的且つ機能的類似性
培養Fa2N−4細胞は、形態的にも機能的にも新鮮なヒト肝細胞の初代培養物と比類なく類似している。図12は、ヒト肝細胞(上図)とFa2N−4細胞(下図)との間の密接なこの形態的類似を示す。CYP1A2、CYP2B6、CYP2C9、及びCYP3A4を含めて、多数のCYPがFa2N−4細胞において誘導可能である。Fa2N−4細胞における酵素誘導を評価するための手順は、ヒト肝細胞の初代培養物のものに非常に類似している。
【0127】
Fa2N−4細胞を、コラーゲン基質上、MFE支持培地(MFE Support Medium)中で増殖させた。この細胞をトリプシン処理によって剥離し、遠心分離によって分離し、所望のフォーマット(例えば、6ウェル、12ウェル、24ウェル、又は96ウェルのプレート)のコラーゲンに再び付着させた。2日の適応期間の後、この細胞を試験物質、又は適当な陰性及び陽性対照で3日間連続して1日1回処理した。最後の処理の後、酵素誘導を24時間評価した。培養肝細胞から調製したミクロソーム中で測定されるCYP活性(in vitroでの活性)を、ヒト肝臓から直接調製したミクロソーム中で測定されるもの(ex vivoでの活性)と比較した。
【0128】
細胞をフェナセチン(CYP1A2の測定用)、ブプロピオン(CYP2B6の測定用)、ジクロフェナク(CYP2C9の測定用)、又はミダゾラム(CYP3A4の測定用)と共にインキュベートすることにより、Fa2N−4細胞における酵素誘導を評価した。いずれの場合においても、物質の最終濃度は100μMであった。代謝産物の生成を、LC/MS/MSによりアリコートの細胞培地を様々な時点で(最高8時間)試験することによって判定した。様々な条件下での様々なCYP活性の比較を容易にするために、その結果を、8時間の時点で判定された対照の活性に比べて表した。
【0129】
Fa2N−4細胞は酵素誘導物質に対して適切に応答する。ヒト肝細胞の場合と同様のように、CYP1A2は、Ah受容体を活性化するこれらの作用物質によって高度に誘導可能であるが、PXR及び/又はCARを活性化するこれらの作用物質は、CYP3A4の誘導を、また並びに程度はより低いがCYP2B6及びCYP2C9の誘導を引き起こす。図13に示すように、Fa2N−4細胞(6ウェルプレートで培養)を100μMのオメプラゾールで処理すると、著しいCYP1A2活性の誘導が引き起こされるが、20μMのリファンピンで処理すると、CYP3A4の活性が、また並びに程度はより低いがCYP2B6及びCYP2C9の活性が誘導される。
【0130】
Fa2N−4細胞における酵素誘導は、実験毎に、また様々なサイズのマルチウェルプレートにわたり再現可能である。図14は、リファンピンによるCYP2B6(ブプロピオンヒドロキシラーゼ)活性の誘導の再現性を3種の異なるプレートのフォーマットにわたって比較した結果を示す。複数の細胞継代にわたるCYP1A2及びCYP3A4の誘導の再現性も評価し、こうした結果を図15に示す。継代第32〜47代にわたる誘導の程度は、どちらのCYP酵素についても非常に再現性が高く、ヒト肝細胞の個々の調製物で通常見られる誘導よりも再現性に優れている。図16に示すように、Fa2N−4細胞におけるリファンピンによるCYP2B6の誘導は、6ウェル、12ウェル、及び24ウェルのプレートで同じである。CYP2C9についても同一の結果が得られた(結果は示さず)。こうした結果から、不死化肝細胞の分化型の特性が非常に安定していることが示される。再現性に関しては、本発明の不死化肝細胞系の方がヒト肝細胞の初代培養よりも優れているが、CYP誘導の程度は調製毎に大幅に変化し得る。
【0131】
ヒト肝細胞の初代培養物における酵素誘導は、細胞培養フォーマットによって影響を受ける。したがって、ウェルサイズが小さくなるにつれて、ヒト肝細胞の初代培養物における酵素誘導の程度が低くなる。
【0132】
図17は、オメプラゾールによるCYP1A2の誘導、及びリファンピンによるCYP3A4の誘導に対する細胞培養フォーマットの影響を示す。誘導の程度が12ウェル、24ウェル、及び96ウェルのフォーマットよりも6ウェル中の方が大きいという点から、細胞培養フォーマットは、CYP1A2誘導に対してわずかな影響を与えるように思われる。しかし、すべての場合において、オメプラゾールにより、対照の少なくとも9倍のCYP1A2活性が誘導された。また、図17は、CYP3A4の場合、リファンピンによる誘導は6ウェル、12ウェル、24ウェル、及び96ウェルのフォーマットで類似していることを示す。したがって、本発明の細胞系は、多くの細胞培養フォーマットにわたり、ヒト肝細胞の初代培養物よりも信頼性の高い酵素誘導を提供する。
【0133】
Fa2N−4細胞におけるCYP1A2及びCYP3A4の誘導の経時変化は、ヒト肝細胞の初代培養物において観察されるものと類似する。図18は、Fa2N−4細胞におけるCYP1A2及びCYP3A4の誘導の経時変化を示す。
【0134】
Fa2N−4細胞における酵素誘導は、適当な範囲の誘導物質濃度にわたって生じる。Fa2N−4細胞におけるオメプラゾールによるCYP1A2誘導及びリファンピンによるCYP3A4誘導についての濃度応答曲線を図19に示す。ヒト肝細胞においても類似の結果が得られる。
【0135】
Fa2N−4細胞は、ヒト肝細胞においてCYP酵素を誘導し、又は誘導しないこうした化合物に対して適切に応答する。例えば、図20に示すように、ヒト肝細胞においてPXRを活性化し、CYP3A4を誘導することが以前に示されている化合物(Luoら、「薬物によるCYP3A4誘導:ヒト肝細胞におけるプレグナンX受容体レポーター遺伝子アッセイとCYP3A4発現との相関(CYP3A4 induction by drugs:Correlation between a pregnane X receptor reporter gene assay and CYP3A4 expression in human hepatocytes)」,Drug Metab.Dispos.30:795−804,2002)は、ヒト肝細胞の場合と同様のようにFa2N−4細胞においてCYP3A4活性を誘導するが、Ah受容体アゴニストはこれを誘導しない。クロトリマゾールはCYP3A4の誘導物質でも阻害物質でもあり、したがってCYP3A4誘導はその阻害作用によって遮断されることに留意されたい。また(図20に示すように)、ヒト肝細胞の場合と同様のように、CYP1A2は、Ah受容体を活性化するこうした作用物質によって高度に誘導可能である。
【0136】
表6は、Fa2N−4細胞、及びヒト肝細胞の初代培養物におけるCYP1A2、CYP2B6、CYP2C9、及びCYP3A4の誘導の程度をまとめて示したものである。CYP1A2の場合、Fa2N−4細胞における誘導の程度は、ヒト肝細胞における平均誘導倍率よりも大きかった。CYP2B6、CYP2C9、及びCYP3A4の場合、Fa2N−4細胞における誘導の程度は、ヒト肝細胞における誘導倍率中央値に匹敵するが、その平均誘導倍率よりも低い。ヒト肝細胞において誘導中央値が平均誘導値とかなり異なるのは、後者は、極めて高い値の誘導倍率を有する偶発的な試料によって著しく影響を受けるからである。このことは、0(1.5倍未満)〜145倍の範囲にわたるCYP3A4誘導についての図21に示される。ヒト肝細胞におけるCYP3A4の平均誘導倍率は10倍であるが、より有意義なコンパレータである誘導中央値は約4倍である。
【表6】


*Madenら、「培養ヒト肝細胞におけるチトクロムP450発現に対するミクロソーム酵素誘導物質プロトタイプに対する影響(Effects of prototypical microsomal enzyme inducers on cytochrome P450 expression in cultured human hepatocytes)」,Drug Metab.Dispos.31:421−431,2003からのデータ。
**BNF(β−ナフトフラボン)はヒト肝細胞のための誘導物質であったが、オメプラゾールはFa2N−4細胞のための誘導物質であった。
***7−エトキシ−4−トリフルオロメチルクマリンO−脱アルキル(4倍)又はS−メフェニトインN−脱メチル(13倍)に基づいたCYP2B6活性。
【0137】
(実施例8)
毒性研究における不死化肝細胞系の使用
Fa2N−4及びEa1C−35細胞は、細胞ベースの毒性試験をin vitroで実施するための、ヒト肝細胞に由来する系を提供する。図22は、毒性試験におけるFa2N−4細胞の使用を例示する。
【0138】
毒性のある濃度(最高100μM)の数種の薬剤(すなわち、3−メチルコラントレン、メトトレキセート、メナジオン、ロテノン、及びトログリタゾン)で細胞を処理すると、膜の完全性が損なわれ、その結果、細胞内酵素、すなわちαグルタチオンS−トランスフェラーゼ(αGST)が培地中に放出された。これをBiotrin High Sensitivity Alpha GST EIA(Biotrin International社製、アイルランドDublin)を用いて測定した。それとは対照的に、毒性のない濃度のオメプラゾール、アセトアミノフェン、プロベネシド、フェルバメート、又はリファンピンで処理したFa2N−4細胞からは、αGSTがほとんど、又は全く放出されなかった。
【0139】
アセトアミノフェン及びフェルバメートなど、こうした薬剤の一部は、高用量の場合だけではあるが(したがって、図22で示す研究で使用するものよりもさらに高い濃度で)、臨床上重要な肝毒性を引き起こすことに留意されたい。例えば、アセトアミノフェン毒性は、4g/日を超える用量、並びに他の併存する環境条件と関連している。不死化肝細胞を既知の毒物である、3−メチルコラントレン、メトトレキサート、メナジオン、ロテノン、及びトログリタゾンに曝露すると、細胞からのα−GSTの放出が著しく増大する。
【0140】
追加の研究を実施して、構造的に異なる22種の化学物質での処理の後のFa2N−4細胞の応答を初代ヒト肝細胞のものと比較した。乳酸脱水素酵素(LDH)の培地中への放出、及びミトコンドリアの呼吸の途絶を(レサズリン還元の低下に基づいて)測定することにより毒性を評価した。下記の表7にまとめて示すように、大部分の化合物については、Fa2N−4及び初代肝細胞の毒性プロファイルは類似していた。2つの細胞型の応答の違いがいくつか観察された。Fa2N−4細胞は、初代肝細胞よりもトログリタゾン、ハイパーフォリン、及びベンゾ[a]ピレンに対して感受性が高かったが、メナジオンに対しては感受性が低かった。
【表7】


*ヒト肝細胞よりも感受性の高いFa2N−4細胞
**ヒト肝細胞よりも感受性の低いFa2N−4細胞
したがって、こうした不死化肝細胞は、特異的なin vitro毒性スクリーニングに適している。さらに、不死化肝細胞は、再現性及び入手方法についての異なる利点を提供する。
【0141】
(実施例9)
Fa2N−4細胞系を使用した薬物代謝酵素(DME)及び多剤耐性1(MDR1)の誘導
プレーティングの48時間後にFa2N−4細胞への薬物処理を開始した。RNA定量のために、細胞を薬物に48時間曝露した。mRNA転写物を定量するための強力であるが簡単なハイスループットシステムであるインベーダーアッセイ法(Invader assay)(Third Wave Technologies社製、米国ウィスコンシン州Madison)により、Fa2N−4細胞における遺伝子発現をモニターした。既知の一群団の誘導物質で処理したFa2N−4細胞の全RNA抽出物から、CYP1A2、CYP3A4、CYP2C9、UGT1A、及びMDR1転写物を定量し、ビヒクル対照と比較した。
【0142】
また、酵素活性試験を使用して、CYP1A2、CYP2C9、及びCYP3A4の誘導をモニターした。酵素活性研究のために、細胞を薬物に72時間曝露した。質量分析法によりテストステロンからの6β−ヒドロキシテストステロン形成の程度を測定することによりCYP3A4活性を求めた。4’−ヒロドキシジクロフェナク生成の程度を測定することによりCYP2C9活性を求めた。7−エトキシレゾルフィンのO−脱アルキルの程度を測定することによりCYP1A2活性を求めた。測定値を標準曲線と比較することにより代謝産物を定量した。
【0143】
Fa2N−4細胞は、初代ヒト肝細胞と同じように応答した。10μMリファンピンで処理した結果、CYP3A4のmRNA(17倍)及び活性(6β−ヒドロキシテストステロン生成、9倍)、またCYP2C9のmRNA(4倍)及び活性(4’−ヒロドキシジクロフェナク生成、2倍)が増大した。50μMのβ−ナフトフラボンで処理した結果、CYP1A2のmRNA(15倍)及び活性(7−エトキシレゾルフィン O−脱アルキル、27倍)が増大した。UGT1AのmRNAはβ−ナフトフラボン(2倍)によって誘導され、MDR1(P−糖タンパク質)のmRNAはリファンピン(3倍)によって誘導された。表8は、初代肝細胞における公開されているデータに比べてのmRNAの増加倍率として表した、Fa2N−4細胞における3つのCYPの誘導データをまとめて示すものである。
【表8】

【0144】
単一濃度の薬物の誘導効果を検査するのに加えて、Fa2N−4細胞を使用して、用量と反応の関係を検討することもできる。例えば、100nM〜50μMの範囲にわたる複数濃度のリファンピンを投与したFa2N−4細胞の応答に基づいてEC50値を計算した。図23は、CYP3A4転写物の値の増加(図23A)、並びにCYP3A4酵素活性の増大(図23B)を使用した、Fa2N−4細胞についてのEC50のグラフを含む。転写物及び酵素活性について計算したEC50は、それぞれ0.43μM(r=92)及び0.77μM(r=94)であった。さらに、計算した最大誘導(Imax)値は、転写物指標では13倍であり、酵素活性指標では9.7倍であった。
【0145】
複数の継代数のFa2N−4細胞をCYP3A4誘導について試験した。図24は、弱い応答を有するCYP3A4誘導物質(50μMデキサメタゾン−網掛けの棒)及び強い応答を示すCYP3A4誘導物質(10μMリファンピン−黒色の棒)に対する複数の継代数のFa2N−4細胞の応答を示すものである。空白の棒は、DMSOビヒクルのみを処理した細胞の値を示す。デキサメタゾンで処理すると、CYP3A4転写物は、継代第21代及び第36代でそれぞれ1.6倍及び1.5倍増加した。10μMリファンピンで処理すると、CYP3A4転写物は、継代第21代及び第36代でそれぞれ17倍及び16倍増加した(図24A)。CYP3A4酵素活性は、継代第28代及び第36代でそれぞれ、デキサメタゾンについては2.1倍及び2.0倍、10μMリファンピンについては8.9倍及び4.9倍増大した(図24B)。
【0146】
図25は、様々なマルチウェルフォーマットを比較したものである。プレートのフォーマットにかかわらず、Fa2N−4細胞は、リファンピンに対する相当なCYP3A4誘導応答を示す。CYP3A4転写物の倍率変化は、24ウェルプレートを使用した場合は17.1倍、48ウェルプレートを使用した場合は6.6倍、96ウェルプレートを使用した場合は5.7倍であった。
【0147】
こうした結果は、本発明の不死化肝細胞系、特にFa2N−4細胞が、初代ヒト肝細胞の信頼性の高い代用物となることができ、またDME及びトランスポーターの誘導の信頼性の高い評価をもたらすことができることを示している。
【0148】
(実施例10)
Fa2N−4及びEa1C−35細胞系による血漿タンパク質の発現
こうした細胞系の十分に分化した性質は、それらの細胞系が成体肝細胞機能に特異的な血漿タンパク質を持続的に分泌することによってさらに裏付けられる(図26)。60mmプレート又はローラーボトルのいずれかに蒔いたFa2N−4及びEa1C−35細胞から培地を回収し、ウエスタンブロット分析によって解析した。限外ろ過により培地を50倍に濃縮し、アルブミン(全タンパク質10μg/レーン)を除き40μgの全タンパク質を各レーンに添加した。ブロットを、アルブミン、α1アンチトリプシン、並びに第VIII因子及び第IX因子に対する、モノクローナル抗体又はアフィニティー精製したポリクローナル抗体のいずれかと共にインキュベートし、ホースラディッシュペルオキシダーゼに結合させた2次抗体を使用し、続いてそれをDAB基質と共にインキュベートして視覚化した。下記の図26に示すように、どちらの細胞系も、プレートで維持する培養物のようにローラーボトル中で維持すると、プレートで維持する培養物のように、アルブミン、α1アンチトリプシン、及び第IX因子を1mlあたり類似のレベルで発現し続ける。第VIII因子の発現は様々で、細胞系及び培養条件に大きく依存している。第IX因子のプロセッシングは不均質であったが、これはヒト血漿由来タンパク質においても観察された。
【0149】
AAT及びIαIpはどちらも、トリプシンのタンパク質分解活性を阻害する血漿タンパク質である。下記の図26に示すように、イムノブロット分析により、両方の細胞系の馴化条件培地中にAATが存在することが明確に実証された。
【0150】
全体として総合すれば、上記の実施例はすべて、本発明の不死化ヒト肝細胞系は、それだけには限らないがFa2N−4及びEa1C−35細胞系を含めて、肝細胞に特徴的な多くの機能属性をin vivoで維持しており、TPPを産生するための非常に重要なin vitro系であることを強く示唆している。
【0151】
(実施例11)
アルブミンの産生
Fa2N−4細胞をT−150フラスコの無血清培地中で増殖させてコンフルエントにし、ELISA試験によりアルブミン産生を測定した。この試験の結果は下記の表9でみられる。継代第13代及び第16代のFa2N−4細胞では、およそ3μg/mlのアルブミンが産生された。継代第33代のFa2N−4細胞では、およそ9μg/mlのアルブミンが産生され、また継代第41代のFa2N−4細胞では、およそ6μg/mlのアルブミンが産生された。したがって、本発明の不死化肝細胞系、特にFa2N−4細胞は、TPPであるアルブミンを産生するための潜在的な供給源である。
【表9】

【0152】
(実施例12)
インターαタンパク質性インヒビター(IαIp)の発現
血漿中に比較的高濃度で存在する天然のセリンプロテアーゼインヒビターである、インターαタンパク質性インヒビター(IαIp)は、炎症、創傷治癒、及び癌転移において及びいくつかの役割を果たしている。IαIpは、肝細胞によって生成及び分泌される血漿タンパク質のファミリーである。IαIpの主要な形態は、インターαインヒビター(IαI、ビクニンと呼ばれる1本の軽鎖及び2本の重鎖を含有)及びプレαインヒビター(PαI、1本の軽鎖及び1本の重鎖を含有)である。最近、Prothera Biologics社(米国ロードアイランド州Providence)の科学者により、ヒトIαIpの軽鎖を認識するモノクローナル抗体(MAb69.31)が開発された。競合ELISAにおいてMAb69.31を使用すると、重篤な敗血症患者の血漿IαIpレベルが、健常な対照に比べて有意に低下することがこうした研究者らによって実証された(Lim YP、Bendelja K、Opal SM、Siryaporn E、Hixson DC、Palardy IF、「重篤な敗血症患者の死亡率と、血漿中インターαインヒビターレベルとの相関(Correlation Between Mortality and the Levels of Inter−alpha Inhibitors in Plasma of Severely Septic Patients)」,Journal of Infectious Disease,188:919−926,2003)。
【0153】
MAb69.31を使用したウエスタンブロット分析により、Fa2N−4及びEa1C−35細胞系はどちらも免疫反応性IαIpを合成し続けることが明らかに分かった(データは示さず)。その後、ELISA試験により、条件培地中に分泌されるIαIpの量を定量した(下記の実施例14参照)。したがって、Fa2N−4及びEa1C−35細胞は、TPPであるIαIpを産生するための潜在的な供給源である。
【0154】
(実施例13)
不死化ヒト肝細胞によるトランスフェリンの産生
様々な継代数のEa1C−35及びFa2N−4細胞によってトランスフェリンが生成及び分泌されるかどうかを判定するために、この細胞をトランスフェリンを含まない無血清培地中で7日間培養した。7日後、馴化条件培地を回収し、市販の抗トランスフェリン抗体を使用してイムノブロット分析を実施した。ヒト血漿を陽性対照として使用した。図27に示すように、抗トランスフェリン抗体を使用したイムノブロットにより、すべての継代の細胞でこの血漿タンパク質が発現し続けることが分かった。レーン2〜5は、様々な継代数のEalC−35細胞で、血漿由来のトランスフェリンとほぼ同一のトランスフェリンが産生されることを示す。レーン6〜9は、様々な継代数のFa2N−4細胞で、血漿由来のトランスフェリンとほぼ同じトランスフェリンが産生されることを示す。したがって、ここで特許請求する不死化肝細胞は、それだけには限らないがEa1C−35及びFa2N−4細胞系を含めて、トランスフェリンを産生するための潜在的な供給源である。
【0155】
(実施例14)
馴化条件培地中に存在するインターαタンパク質性インヒビター(IαIp)のトリプシン阻害試験及び定量
馴化条件培地の全トリプシン阻害活性には、主要なセリンプロテアーゼインヒビターであるα1アンチトリプシン及びIαIpの活性が含まれる。色素のトリプシン基質L−BAPA(N(α)−ベンゾイル−L−アルギニン−4−ニトロアニリド塩酸塩、Fluka Chemicals社製)を使用して、Ea1C−35及びFa2N−4細胞から馴化条件培地中に分泌されるトリプシン阻害活性の量を測定した(表10参照)。この試験は、セリンプロテアーゼインヒビターがL−BAPAの加水分解を阻害することができるかどうかに基づくものである。410nmでのδ吸光度/分という速度の低下により阻害をモニターすることができる。細胞内タンパク質1μgあたりの生物活性に基づいて、特異的活性を計算した。Ea1C−35細胞では115TIU/mgのタンパク質が発現し、Fa2N−4細胞では45TIU/mgのタンパク質が発現した。
【表10】

【0156】
MAb69.31(例えば、ヒトIαIpに対して特異的なポリクローナル抗体)を使用した競合ELISAにより、培地中のIαIpの量を測定した。以下の通りELISAを実施した。96ウェルImmunolon−4プレート(Dynex社製、米国)を50mM炭酸緩衝液pH9.6中の精製されたIαIp(300ng)でコーディングし、4℃で一晩インキュベートした。1%ラット血清を含有するPBS中の精製されたヒト血漿由来IαIpの段階希釈法を使用して、標準曲線を確定した。培地中のIαIpレベルの定量分析のために、50μLの培地又は段階希釈したIαIpを96ウェルプレートの個々のウェルに添加した。50μLのMAb69.31を各ウェルに添加した後、プレートを37℃で1時間インキュベートし、続いて自動プレート洗浄器(automated plate washer)(Labsystem社製)を使用して洗浄した。HRPに結合したヤギ抗マウスIgG(ヒト吸収)(Biosource社製、米国カリフォルニア州Camarillo)を37℃、1時間で添加することにより、結合したMAb69.31を検出した。洗浄後、100μLの1−Step ABTS(Pierce社製、米国イリノイ州Rockford)を各ウェルに添加し、ELISAプレートリーダー(ELISA plate reader)(BioTek社製)を用いて405nmでの吸光度を測定した。各試料につき3回繰り返して試験した。非馴化条件培地を基準対照として使用した。この結果を表10にまとめて示す。Ea1C−35細胞では20μg/mlのIαIpが発現し、Fa2N−4細胞では4μg/mlのIαIpが発現した。
【0157】
こうした結果から、本発明の不死化肝細胞は、AAT、IαIpなどのTPPを産生するための潜在的な優れた供給源であることが実証される。
【0158】
(実施例15)
二次元ゲル分析
2Dゲル電気泳動分析を使用して、Fa2N4及びEa1C35細胞系の分泌タンパク質を分離した。Invitrogen社製のZOOM IPGRunnerシステムを使用して、固定化pH勾配ストリップ(pH3〜10の範囲)を用いてタンパク質の第1のIEF分離を実施し、続いて4〜12%トリス−グリシンSDS−PAGEを用いて二次元目の分離を行った。どちらの細胞系においても、TPPの可能な候補としてタンパク質の多数のスポットを同定することができた(図28A:Fa2N4、図28B:Ea1C35)。2次元ゲル分離の後、Ea1C35細胞系の分泌タンパク質をニトロセルロース上に移し、抗第IX因子抗体を使用したウエスタンブロット分析を実施した。MWが70KDで、pIが6.5〜7.0の反応性のタンパク質を検出した(図28C)。したがって、本発明で特許請求する不死化肝細胞系は、第IX因子などのTPPの潜在的な供給源である。
【0159】
(実施例16)
細胞系の増殖、及び血漿タンパク質分泌の定量
培養不死化ヒト肝細胞を産生細胞として使用した、TPPの経済的な産生は、この細胞が培養物の塊中で増殖する場合に、こうしたTPPを生成及び分泌し続けない限り達成することができない。最初にこの問題を評価するために、Fa2N−4細胞をT25、T75、及びT150培養フラスコ中で増殖させてコンフルエントにし、ELISA試験を、アルブミン、AAT、又はIαIpを認識する捕獲抗体と組み合わせて使用して、分泌される血漿タンパク質を定量した。最初に1cmあたりそれぞれ500万個、1500万個、及び3000万個となるように相当数の細胞を蒔いた。3日間馴化条件培地を回収し、貯蔵し、限外ろ過によって10倍に濃縮し、試験した。下記の図29に示すように、各血漿タンパク質の全発現は、ほぼ細胞数に比例していた。値は、同じ3組の平均+/−SDを表す。T150フラスコ中で3日間にわたり培養した細胞は、およそ200μgのアルブミン、500ngのIαIp、及び150ngのAATを産生した。これは、本発明において特許請求する不死化肝細胞系がTPPを産生するための潜在的な供給源であることを示す。
【0160】
(実施例17)
アルブミン分泌に対する培養期間の影響
不死化ヒト肝細胞を、TPPを市販用に産生するためのバイオファクトリーとして使用する計画がある。したがって、TPP分泌が長期間の培養で有意に減少してはならないことが必須である。この問題を評価するために、前記の実施例に記載の通りFa2N−4細胞をT25、T75、及びT150培養フラスコ中で増殖させ、アルブミン産生を全タンパク質分泌の指標として測定する研究を最近開始した。3日目に馴化条件培地を回収し、細胞に栄養を再補給し6日目にこれを試料として再回収した。ELISA試験によりアルブミン分泌を分析した。この結果から、アルブミン分泌がプレーティングのフォーマットとは無関係に6日間の回収期間にわたって増加し続けることが示される(図30参照)。特に留意すべきことは、細胞をT75及びT150フラスコ中で培養すると、アルブミンが劇的に増加することである。細胞内全タンパク質は培養の時間と共に有意に増加しないので(データは示さず)、こうした結果は、培養条件への適応の結果として産生が増強されたことが原因であり、フラスコあたりの細胞数が劇的に増加した結果ではない可能性が高いように思われる。
【0161】
(実施例18)
血漿タンパク質分泌に対する腫瘍壊死因子α(TNFα)の影響
一部の血漿タンパク質の産生は、TNFαなどの急性期タンパク質によってin vivoで調節することができる。AATの分泌に対するTNFα処理の影響を研究した。Fa2N4細胞を、特許権のある、TNFα(0、1、5、又は10ng/ml)を含有する無血清MFE培地中で3日間維持した。下記の表11に示すように、ATTの分泌は、無血清培地中に5ng/mlのTNFαを含めることによって最も顕著に増大した。値は、2組の同じ試料の平均である。したがって、このサイトカインを使用するとATT産生を増大させることができる可能性がある。したがって、本発明の不死化肝細胞系のTNFαによる処理は、TPPの産生を増大させる有効な一方法である可能性がある。
【表11】

【0162】
(実施例19)
不死化ヒト肝細胞による血漿タンパク質の発現に対するデキサメタゾンの影響
アルブミン発現は一部が、デキサメタゾン誘導可能プロモーターによって部分的に調節される(Nakmuraら、J Biol Chem,261:16883−16888,1986)。不死化ヒト肝細胞によるアルブミンの産生及び分泌に対するデキサメタゾンの影響を試験するために、Fa2N−4細胞(継代第32代)をI型コラーゲンディッシュ上、デキサメタゾンを含む、又は含まない培地中で48時間培養し、ELISA試験によりアルブミン発現を測定した。値は2組の同じ試料の平均を表す。下記の表12にまとめて示すように、アルブミンの分泌は、デキサメタゾンを含まない場合に有意に減少した。
【0163】
したがって、デキサメタゾンでの処理は、本発明で特許請求する不死化肝細胞系においてTPPの産生を増大させる有効な一方法となる可能性がある。
【表12】

【0164】
(実施例20)
治療用血漿タンパク質(TPP)を産生及び発現できる能力
Fa2N−4細胞系で免疫反応性TPPを適切に産生できるかどうかを、免疫反応性ヒト成長ホルモン(hGH)の産生によって示した。一時的トランスフェクションの前日に、Fa2N−4細胞を、10%NBCS−MFE培地を使用したNunc社製6ウェルプレートの各ウェルに、Fa2N−4細胞を0.5〜0.8×10個の細胞密度で蒔いた。トランスフェクションの日に、この細胞を1回洗浄して血清を除去し、Invitrogen社製Lipofectamine Plus又はQiagen社製Effecteneトランスフェクション試薬キットのいずれかを使用して、hGHの完全cDNAを含む、CMVベースのプラスミドを、Fa2N−4細胞中に一時的にトランスフェクトした。製造元のプロトコール通りにトランスフェクションを実施した。
【0165】
24時間後及び/又は48時間後、馴化条件培地を各ウェルから回収し、続いてELISAべースの免疫検出試験のために使用した。このELISA試験は、分泌されるhGHを定量するための、サンドイッチELISA法の原理を利用した比色酵素免疫測定法である。hGHに対する抗体を事前に結合させたマイクロリットルプレートに、条件培地中に含まれる分泌hGHが結合する。その後、馴化条件培地中に含まれ、マイクロタイタープレート上に固定されたhGHペプチドの第2エピトープに、ジゴキシゲニン標識hGH抗体が結合する。次いで、ペルオキシダーゼに結合した抗ジゴキシゲニン抗体を添加し、続いてペルオキシダーゼ基質ABTSを添加する。基質をペルオキシダーゼで触媒切断することにより、着色した反応産物が得られ、これはマイクロタイタープレートリーダーを使用して容易に検出することができる。
【0166】
こうした結果から、いずれかのトランスフェクションキットを使用し、トランスフェクションの24時間後又は48時間後に馴化条件培地を回収すると、Fa2N−4細胞で、二重免疫検出されたhGHが異常に大量に産生されるが、LacZでのトランスフェクション又はプラスミドを含まない陰性対照では、hGHが検出可能なレベルで産生されないことが確認される。ELISAプレート1及びプレート2の写真をそれぞれ図31及び図32に示す。図31及び図32の略語表を下記の表13に示す。
【表13】


略語表
Blank=基質
Std X=Xng/mlのhGHの標準
XQLacZ Y=Qiagen社製キットを使用して、LacZ対照プラスミドを0.5×10(6)細胞中にトランスフェクトしたX日後に得られた試料Y
XQ(1:Y)Z=Qiagen社製キットを使用して、DNAとEffectene試薬を1:Yの比で0.5×10(6)細胞中にトランスフェクトしたX日後に得られた試料Z
XNeg Y’=Qiagen社製キットを使用して、DNAを含まないものを0.8×10(6)細胞中にトランスフェクトしたX日後に得られた試料Y
XQ(1:Y)Z’=Qiagen社製キットを使用して、DNAとEffectene試薬を1:Yの比で0.8×10(6)細胞中にトランスフェクトしたX日後に得られた試料Z
ILacZ X=Invitrogen社製キットを使用して、LacZ対照プラスミドを0.7×10(6)細胞中にトランスフェクトした翌日に得られた試料X
I(X)Y=Invitrogen社製キットを使用して、XugのDNAを0.7×10(6)細胞中にトランスフェクトした翌日に得られた試料Y
Blank’=緩衝液
【0167】
(実施例21)
EA1C−35及びFa2N−4細胞系の免疫表現型の特徴付け
Ea1C−35(継代第26代)及びFa2N−4(継代第30代)細胞系の表現型を、様々な肝細胞又は胆管のマーカー、並びにSV40不死化遺伝子に対する一群団の抗体を使用した間接免疫蛍光分析によって分析した。その分析結果を下記の表14にまとめて示す。
【表14】

【0168】
コネキシン32の発現は密度に依存していた。細胞をコンフルエントな単層になるまで増殖させると、Ea1C−35及びFa2N−4細胞の小集団で、成体肝組織中の肝細胞によってのみ発現されるギャップ結合タンパク質が発現する。
【0169】
すべての細胞で不死化遺伝子であるSV40 T抗原が発現した。免疫検出可能なSV40 T抗原の発現は、特に核に局在していた。不死化肝臓細胞の十分に分化した性質が、成体肝細胞に特異的な系統マーカーであるアルブミン及びコネキシン32の強力な発現、並びに胎児の肝細胞マーカーであるαフェトプロテインの欠如によって示される。この細胞では胆管マーカーであるCD49fは発現しない。この細胞では、C型肝炎ウイルス糖タンパク質によって媒介されるウイルス感染の推定上の受容体であるCD81が発現する。CD81を免疫染色したFa2N−4細胞の顕微鏡写真を図33に示す。CD81の発現は原形質膜に局在していることに留意されたい。
【0170】
他の実施形態
上記のすべての参考文献の全体をあらゆる目的のために参照により本明細書に組み込む。本発明を好ましいその実施形態に関して具体的に示し、説明してきたが、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神及び範囲から逸脱せずに、その形態及び詳細を様々な形で変更できることは当分野の技術者であれば理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0171】
【図1】Ea1C−35及びFa2N−4細胞におけるいくつかのmRNA転写物の発現分析のためのRT−PCR産物を示す図である。ゲルローディングの順序の説明の概要を上記の表1及び表2に示す。
【図2】Ea1C−35及びFa2N−4細胞におけるいくつかのmRNA転写物の発現分析のためのRT−PCR産物を示す図である。ゲルローディングの順序の説明の概要を上記の表1及び表2に示す。
【図3】Ea1C−35及びFa2N−4細胞におけるいくつかのmRNA転写物の発現分析のためのRT−PCR産物を示す図である。ゲルローディングの順序の説明の概要を上記の表1及び表2に示す。
【図4】Ea1C−35及びFa2N−4細胞におけるいくつかのmRNA転写物の発現分析のためのRT−PCR産物を示す図である。ゲルローディングの順序の説明の概要を上記の表1及び表2に示す。
【図5】Ea1C−35及びFa2N−4細胞におけるいくつかのmRNA転写物の発現分析のためのRT−PCR産物を示す図である。ゲルローディングの順序の説明の概要を上記の表1及び表2に示す。
【図6】Ea1C−35及びFa2N−4細胞におけるいくつかのmRNA転写物の発現分析のためのRT−PCR産物を示す図である。ゲルローディングの順序の説明の概要を上記の表1及び表2に示す。
【図7】Ea1C−35及びFa2N−4細胞におけるいくつかのmRNA転写物の発現分析のためのRT−PCR産物を示す図である。ゲルローディングの順序の説明の概要を上記の表1及び表2に示す。
【図8】Ea1C−35及びFa2N−4細胞におけるいくつかのmRNA転写物の発現分析のためのRT−PCR産物を示す図である。ゲルローディングの順序の説明の概要を上記の表1及び表2に示す。
【図9a】不死化細胞のゲノムDNA中へのSV40 DNAの組込みを確認するための、ラージT抗原についてのEa1C−35不死化肝細胞系の免疫染色を示す図である。
【図9b】増殖細胞でアルブミンが発現し続けることを実証するための、培養Fa2N−4細胞の免疫染色を示す図である。
【図9c】正常初代肝細胞の特性である、明確に定義される核小体及び顆粒状細胞質を有する不死化細胞の形態を示す図である。
【図10】Fa2N−4細胞を様々なCYP3A4誘導物質で処理した後のテストステロン代謝の誘導能を示す図である。
【図11】Fa2N−4及びEa1C−35をリファンピン(RIF)、β−ナフトフラボン(BNF)、及びフェノバルビタール(PB)で処理した結果として起こるCYP3A4の誘導を実証するイムノブロットを示す図である。Cは未処理対照である。上方のバンドは非特異的であり、CYP1A誘導物質であるBNFは、CYP3A4タンパク質発現を誘導しないことに留意されたい。
【図12】ヒト肝細胞(上図)及びFa2N−4細胞(下図)の形態を光学顕微鏡レベルで示す図である。Fa2N−4細胞はヒト肝細胞に非常に類似していることに留意されたい。
【図13】6ウェルプレートで培養したFa2N−4細胞におけるオメプラゾール及びリファンピンによるCYP酵素の誘導を示す図である。
【図14】リファンピンで処理したFa2N−4細胞におけるCYP2B6誘導の再現性を示す図である。
【図15】数代の継代にわたるFa2N−4細胞におけるCYP酵素誘導の再現性を示す図である。点線は、新鮮なヒト肝細胞における誘導倍率中央値を表す。
【図16】Fa2N−4細胞におけるCYP2B6の誘導に対する細胞培養フォーマットの影響を示す図である。
【図17】Fa2N−4細胞におけるCYP1A2及びCYP3A4の誘導に対する細胞培養フォーマット(6ウェル、12ウェル、24ウェル、又は96ウェルプレート)の影響を示す図である。
【図18】Fa2N−4細胞におけるCYP1A2及びCYP3A4の誘導の経時変化を示す図である。
【図19】Fa2N−4細胞におけるCYP1A2及びCYP3A4の誘導の濃度応答曲線を示す図である。
【図20】Fa2N−4細胞におけるCYP1A2及びCYP3A4活性に対する様々な酵素誘導物質の影響を示す図である。
【図21】ヒト肝細胞の初代培養物におけるCYP3A4誘導の範囲を示す図である。誘導中央値と平均誘導値の差に留意されたい。
【図22】化合物への曝露の72時間後のα−GSTの培地中への放出を測定することにより毒物を非毒物と区別する上でのFa2N−4細胞の有用性を示す図である。
【図23】Fa2N−4細胞におけるリファンピンによるCYP3A4誘導についての用量と反応の依存関係を示す図である。100nM〜50μMのリファンピンで処理したFa2N−4細胞におけるCYP3A4の誘導の測定を実施した。3−パラメータS字状曲線(3−parameter sigmoidal curve)を使用したSigmaPlot(8版)を使用して、データを調整した。(A)全RNAを分析してCYP3A4転写物のレベルを求め、次いでビヒクル対照と比較して誘導倍率を求めた。データは、3組の同じ試料のデータの平均±SDを表す。(B)CYP3A4活性を、テストステロン代謝産物である6β−ヒドロキシテストステロンの形成によって測定し、次いでビヒクル対照と比較して誘導倍率を求めた。データは、3組の同じ試料のデータの平均±SDを表す。
【図24】様々な継代数のFa2N−4細胞におけるCYP3A4の誘導を示す図である。様々な継代数のFa2N−4細胞を24ウェルプレートに蒔き、0.1%DMSOビヒクル(空白の棒)、50μMデキサメタゾン(網掛けの棒)、及び10μMリファンピン(黒色の棒)に曝露した。(A)単離した全RNAからCYP3A4転写物のレベルを定量した。プロットは、4組の同じ試料のデータの平均±SDを表す。(B)CYP3A4活性をテストステロン代謝産物である6β−ヒドロキシテストステロンの形成によって測定した。プロットは、2組の同じ試料の平均を表す。すべての化合物で、ビヒクル対照処理に比べて、転写物の統計的に有意な増加が示された(スチューデントのt検定、p<0.05)。
【図25】様々なマルチウェルプレートフォーマットにおけるCYP3A4誘導の比較を示す図である。10μMリファンピン(黒色の棒)への曝露の48時間後の、ビヒクル(空白の棒)と比較したFa2N−4細胞におけるCYP3A4転写物の誘導。データは、図に示すように各マルチウェルプレートフォーマットにおいて実施された研究からのものである。プロットは、4組の同じ試料のデータの平均±SDを表す。すべての化合物で、ビヒクル対照処理に比べて、転写物の統計的に有意な増加が示された(スチューデントのt検定、p<0.05)。
【図26】以下のレーン、すなわち1)ヒト血漿;2)プロテインマーカーライン(Protein Marker Line);3)培地(対照);4)初代ヒト肝細胞(72時間培養);5)Ea1C−35単層、72時間培養;6)Ea1C−35、ローラーボトル、7日間培養;7)Ea1C−35、ローラーボトル/14日間培養;8)Fa2N−4単層/72時間培養;9)Fa2N−4、ローラーボトル/7日間培養;10)Fa2N−4、ローラーボトル/14日間培養を示す図である。
【図27】以下のレーン、すなわち1)マーカー;2)Ea1C−35 p15;3)Ea1C−35 p24;4)Ea1C−35 p29;5)Ea1C−35 p43;6)Fa2N−4 p10;7)Fa2N−4 p23;8)Fa2N−4 p31;9)Fa2N−4 p39;10)ヒト血漿により、抗トランスフェリン抗体を使用したイムノブロットを示す図である。
【図28】Fa2N−4及びEa1C−35細胞系の分泌タンパク質の2次元ゲル分析、並びに抗第IX因子抗体を用いた、Ea1C−35ゲルのウエスタンブロット分析を示す図である。
【図29】T25、T75、及びT150フラスコ中で増殖させたFa2N−4細胞における血漿タンパク質であるアルブミン、IαIp、及びAATの発現を示す図である。
【図30】T25、T75、及びT150フラスコ中での培養の3日後及び6日後のFa2N−4細胞による全アルブミン分泌を示す図である。
【図31】分泌されるhGHを定量するための、サンドイッチELISA法の原理を利用した比色酵素免疫測定法を含むELISAプレート1の写真を示す図である。このプレートの略語表を上記の表13に示す。
【図32】分泌されるhGHを定量するための、サンドイッチELISA法の原理を利用した比色酵素免疫測定法を含むELISAプレート2の写真を示す図である。このプレートの略語表を上記の表13に示す。
【図33】CD81を免疫染色したFa2N−4細胞の顕微鏡写真を示す図である。CD81の発現は原形質膜に局在していることに留意されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルスによって不死化された肝細胞であって、
(a)正常肝臓細胞に由来し、
(b)非腫瘍形成性であり、且つ
(c)内因性治療用血漿タンパク質(TPP)を自然に産生する
肝細胞。
【請求項2】
ヒト肝臓細胞に由来する、請求項1に記載の肝細胞。
【請求項3】
凍結保存された初代ヒト肝細胞に由来する、請求項1に記載の肝細胞。
【請求項4】
実質上純粋なシミアンウイルス40(SV40)のDNAを含む、請求項1に記載の肝細胞。
【請求項5】
前記DNAが野生型SV40ラージT抗原及びスモールt抗原(TAg)をコードしている、請求項4に記載の肝細胞。
【請求項6】
前記SV40 TAgが癌抑制因子と相互作用する、請求項5に記載の肝細胞。
【請求項7】
前記癌抑制因子がヒトRbを含む、請求項6に記載の肝細胞。
【請求項8】
前記癌抑制因子がヒトp53を含む、請求項6に記載の肝細胞。
【請求項9】
無血清培地中で維持することができる、請求項1に記載の肝細胞。
【請求項10】
前記無血清培地が、MCT社製無血清培地である、請求項9に記載の肝細胞。
【請求項11】
前記MCT社製無血清培地が、MFE(Multi−Functional Enhancing多機能増強)培地である、請求項10に記載の肝細胞。
【請求項12】
肝機能を保持する、請求項1に記載の肝細胞。
【請求項13】
前記肝機能が、肝酵素活性を発現し続ける能力である、請求項12に記載の肝細胞。
【請求項14】
前記肝酵素活性がチトクロムP450(CYP)酵素活性である、請求項13に記載の肝細胞。
【請求項15】
前記肝細胞の前記肝酵素活性を、肝臓に対する化合物の作用を評価するために使用することができる、請求項13に記載の肝細胞。
【請求項16】
前記肝細胞の前記肝酵素活性を、肝臓に対する薬物候補の作用を評価するために使用することができる、請求項13に記載の肝細胞。
【請求項17】
前記肝細胞の前記肝酵素活性を、酵素誘導を評価するために使用することができる、請求項13に記載の肝細胞。
【請求項18】
前記肝細胞の前記肝酵素活性を、細胞毒性を評価するために使用することができる、請求項13に記載の肝細胞。
【請求項19】
前記肝細胞の前記肝酵素活性を、化合物に対する肝臓の作用を評価するために使用することができる、請求項13に記載の肝細胞。
【請求項20】
前記肝細胞を、薬物代謝を評価するために使用することができる、請求項19に記載の肝細胞。
【請求項21】
前記肝細胞を、種間比較を評価するために使用することができる、請求項19に記載の肝細胞。
【請求項22】
前記肝機能が、アセトアミノフェン抱合物を形成する能力である、請求項12に記載の肝細胞。
【請求項23】
前記TPPが、アルブミン、α1アンチトリプシン、血液凝固因子、トランスフェリン、及びインターαタンパク質性インヒビター(IαIP)からなる群から選択される、請求項1に記載の肝細胞。
【請求項24】
前記TPPが、少なくとも有効な量のアルブミンからなる、請求項23に記載の肝細胞。
【請求項25】
前記TPPが、少なくとも有効な量のα1アンチトリプシンからなる、請求項23に記載の肝細胞。
【請求項26】
前記TPPが、少なくとも有効な量の血液凝固因子からなる、請求項23に記載の肝細胞。
【請求項27】
前記血液凝固因子が第VIII因子又は第IX因子である、請求項26に記載の肝細胞。
【請求項28】
前記TPPが、有効な量のトランスフェリンからなる、請求項23に記載の肝細胞。
【請求項29】
前記TPPが、少なくとも有効な量のインターαタンパク質性インヒビター(IαIP)からなる、請求項23に記載の肝細胞。
【請求項30】
前記肝細胞が、
(1)足場非依存性増殖、又は無胸腺ヌードマウスにおける腫瘍形成などの標準の試験を使用した、化学的、物理的、且つウイルス性の作用物質、並びに癌遺伝子、及び腫瘍からの高分子量ゲノムDNAを含めた導入遺伝子による悪性転換の研究、
(2)潜在的な化学療法剤をスクリーニングするための、癌遺伝子の導入によって改変された細胞の使用、
(3)細胞増殖と外因性因子の作用と相互に関係付けた、細胞内のpH及びカルシウムレベルの変化を含めた細胞生化学の研究、
(4)増殖因子に対する細胞応答及び増殖因子の産生の研究、
(5)細胞内情報伝達の研究、
(6)細胞表面抗原の特徴付け、
(7)癌抑制活性を同定するための細胞間雑種の研究、
(8)新規遺伝子の同定、
(9)複製する肝炎ウイルス(例えば、HBV、HCV、非A非B型、HAV、及び他の肝臓親和性のウイルス、例えばCMV)の増殖、
(10)C型肝炎ウイルス(HCV)感染を治療するための新たな薬物の同定、
(11)移植の、また体外の肝移植片及び肝機能補助装置のための細胞の増殖、
(12)肝臓寄生虫の研究、
(13)肝疾患の研究、
(14)潜在的治療用薬物の同定、
(15)新たな薬物標的の同定、
(16)最終分化を誘導する生物学的薬剤及び化学的薬剤の同定、
(17)発癌物質及び他の生体異物の代謝の研究、
(18)DNA変異誘発の研究、
(19)染色体損傷作用物質の研究、
(20)薬物、化合物、発癌物質、及び生体異物の細胞毒性の研究、
(21)肝細胞由来のタンパク質の産生、並びに
(22)対象のタンパク質を産生するための組換えDNA発現ベクターの使用
からなる群から選択される手順を実施するために使用することができる、請求項1に記載の肝細胞。
【請求項31】
Fa2N−4(ATCC受託番号5566)である、請求項1に記載の肝細胞。
【請求項32】
Ea1C−35(ATCC受託番号5565)である、請求項1に記載の肝細胞。
【請求項33】
ウイルスによって不死化されたヒト初代肝細胞系Fa2N−4(ATCC受託番号5566)。
【請求項34】
ウイルスによって不死化されたヒト初代肝細胞系Ea1C−35(ATCC受託番号5565)。
【請求項35】
肝臓に対する化合物の作用を評価するために、請求項1に記載の不死化肝細胞を使用する方法。
【請求項36】
前記化合物が薬物候補である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記肝細胞が肝機能を保持する、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記肝機能が肝酵素活性を発現する能力を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記肝酵素活性がチトクロムP450(CYP)酵素活性を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記不死化肝細胞が、Ea1C−35細胞系(ATCC受託番号5565)及びFa2N−4細胞系(ATCC受託番号5566)からなる群から選択される、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
酵素誘導を評価するために、請求項1に記載の不死化肝細胞を使用する方法。
【請求項42】
前記肝細胞が肝機能を保持する、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記肝細胞が肝酵素活性を発現する能力を含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記肝酵素活性がチトクロムP450(CYP)酵素活性を含む、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記不死化肝細胞が、Ea1C−35細胞系(ATCC受託番号5565)及びFa2N−4細胞系(ATCC受託番号5566)からなる群から選択される、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
細胞毒性を評価するために、請求項1に記載の不死化肝細胞を使用する方法。
【請求項47】
前記肝細胞が肝機能を保持する、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記肝機能が肝酵素活性を発現する能力を含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記肝酵素活性がチトクロムP450(CYP)酵素活性を含む、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記不死化肝細胞が、Ea1C−35細胞系(ATCC受託番号5565)及びFa2N−4細胞系(ATCC受託番号5566)からなる群から選択される、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
化合物に対する肝臓の作用を評価するために、請求項1に記載の不死化肝細胞を使用する方法。
【請求項52】
前記肝細胞が肝機能を保持する、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記肝機能が肝酵素活性を発現する能力を含む、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記肝酵素活性がチトクロムP450(CYP)酵素活性を含む、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記不死化肝細胞が、Ea1C−35細胞系(ATCC受託番号5565)及びFa2N−4細胞系(ATCC受託番号5566)からなる群から選択される、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記化合物に対する肝臓の作用が薬物代謝を含む、請求項51に記載の方法。
【請求項57】
前記薬物代謝をアセトアミノフェン抱合物の形成によって測定する、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
(1)足場非依存性増殖、又は無胸腺ヌードマウスにおける腫瘍形成などの標準の試験を使用した、化学的、物理的、且つウイルス性の作用物質、並びに癌遺伝子、及び腫瘍からの高分子量ゲノムDNAを含めた導入遺伝子による悪性転換の研究、
(2)潜在的な化学療法剤をスクリーニングするための、癌遺伝子の導入によって改変された細胞の使用、
(3)細胞増殖と外因性因子の作用と相互に関係付けた、細胞内のpH及びカルシウムレベルの変化を含めた細胞生化学の研究、
(4)増殖因子に対する細胞応答及び増殖因子の産生の研究、
(5)細胞内情報伝達の研究、
(6)細胞表面抗原の特徴付け、
(7)癌抑制活性を同定するための細胞間雑種の研究、
(8)新規遺伝子の同定、
(9)複製する肝炎ウイルス(例えば、HBV、HCV、非A非B型、HAV、及び他の肝臓親和性のウイルス、例えばCMV)の増殖、
(10)C型肝炎ウイルス(HCV)感染を治療するための新たな薬物の同定、
(11)移植の、また体外の肝移植片及び肝機能補助装置のための細胞の増殖、
(12)肝臓寄生虫の研究、
(13)肝疾患の研究、
(14)潜在的治療用薬物の同定、
(15)新たな薬物標的の同定、
(16)最終分化を誘導する生物学的薬剤及び化学的薬剤の同定、
(17)発癌物質及び他の生体異物の代謝の研究、
(18)DNA変異誘発の研究、
(19)染色体損傷作用物質の研究、
(20)薬物、化合物、発癌物質、及び生体異物の細胞毒性の研究、
(21)肝細胞由来のタンパク質の産生、並びに
(22)対象のタンパク質を産生するための組換えDNA発現ベクターの使用
からなる群から選択される手順を実施するために、請求項1に記載の不死化肝細胞を使用する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9a】
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【図9b】
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【図9c】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図10】
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【図11】
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【図26】
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【図27】
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【公表番号】特表2007−518426(P2007−518426A)
【公表日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−506132(P2007−506132)
【出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【国際出願番号】PCT/US2004/033091
【国際公開番号】WO2006/041488
【国際公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(506118777)マルチセル テクノロジーズ、インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】