説明

不織布、不織布の製造方法およびバグフィルター

【課題】
本発明は、不織布の引張剛性が高く、寸法安定性の良い不織布およびバグフィルターを、供給不足の心配なく、安定して提供せんとするものである。
【解決手段】
本発明の不織布は、ポリフェニレンスルフィド樹脂からなり、ベンゼン環の数が2個のオリゴマー類がポリフェニレンスルフィドポリマー主鎖にグラフトされており、かつポリフェニレンスルフィドポリマー主鎖同士は架橋していない、ポリフェニレンスルフィド繊維を含むことを特徴とするものである。
また、A.分子量分布において、重量平均分子量をMw、数平均分子量をMnとしたときのMw/Mnが3.5以上、4.0以下である。
B.繊維色調を示すL値が50以上75以下である。
C.メルトフローレートが100g/10分以上、500g/10分以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンスルフィド(以下PPSと略す)繊維からなる不織布に関する。特に、高温下で固体と気体を分離する、耐熱集塵装置に使用される耐熱バグフィルターに関する。中でも、石炭ボイラープラント、ゴミ焼却プラント、セメント焼成プラント、アスファルト製造プラントなどの、多量の粉塵を高温ガスから分離するための耐熱バグフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
PPS樹脂は、耐熱性や耐薬品性の良好なエンジニアリングプラスチックである。さらに、溶融紡糸法にて繊維を製造できることから、PPS繊維を用いた不織布は、耐熱性と耐薬品性を活かして、耐熱バグフィルターとして広く用いられている。
【0003】
ところが、PPS樹脂にはクエンチ法とフラッシュ法の2つのタイプが有り、溶融紡糸繊維製造においては、フラッシュ法は用いることができず、クエンチ法のみが用いられている。何故なら、フラッシュ法PPS樹脂は、ポリマー中のオリゴマー成分が比較的多く、オリゴマー成分が溶融紡糸時に揮発して口金汚れとなり糸切れなどを誘発するので、収率良く溶融紡糸することができないからである。
【0004】
一方、PPS繊維製の耐熱バグフィルターは世界的に需要が増大している。従来技術ではクエンチ法PPS樹脂しか溶融紡糸できなかったので繊維供給量に限度があり、PPS繊維不織布製バグフィルターの供給にも限度があり、増大する需要に供給が追いつかない状況である。
【0005】
従って、フラッシュ法PPS樹脂を用い、かつ、良好に溶融紡糸できる技術が熱望されていた。
【0006】
本発明は、特定の条件で熱酸化処理を行うことによって、かかる揮発性成分が大きく減少することを見いだし、溶融紡糸性が大きく改善されたPPS繊維およびその製造方法を見いだし、該PPS繊維を用いて不織布を製造することによって、供給不足の心配の無いバグフィルターを製造できることを見出したものである。
【0007】
PPS樹脂を熱酸化処理することは以前より行われている。例えば特許文献1には、ポリマー粘度が5000〜16000ポイズ(500〜1600Pa・s)(310℃、剪断速度200/秒)の範囲で、非ニュートニアン係数nが1.5〜2.1になるようにPPS樹脂にキュアリングを施し、これを溶融押し出しして得られる押出成形物が開示されている。しかし、5000ポイズ以上ではメルトフローレイトに換算すると100以下となり、かかるPPS樹脂は溶融粘度が高すぎるために紡糸時の圧力が高くなりすぎ、溶融紡糸には不向きである。また該特許文献1に開示されているPPS樹脂は熱酸化処理度合いが大きく、かかる熱酸化処理度合いが大きすぎると、ポリマー主鎖同士の架橋を促進してしまい、溶融紡糸時に架橋ゲル化物が口金フィルターに詰まりやすく、口金濾圧の急激な上昇を招き、口金パックライフが短くなってしまう難点がある。また、開示されているPPS成型物は被覆電線であり一般的な繊維に関しては記載されていない。
【0008】
特許文献2には、酸化架橋前のメルトフローレイトが500以下のPPSをメルトフローレイトが100以下に到達するまで酸化架橋を施すPPSの硬化方法が開示されている。しかし、メルトフローレイト値が100以下のPPSは溶融粘度が高すぎるために、上記特許文献1と同様に、溶融紡糸には不向きである。また、実施例に示されるような長時間の酸化処理を行うことは、ポリマー主鎖同士の架橋を促進してしまい、架橋ゲルの影響により、口金濾圧が時間と共に増大し口金パックライフが大幅に短くなってしまう問題がある。
【0009】
一方、特許文献3には、1分間に10℃の昇温速度で測定したときの示差熱分析計による結晶化温度が120℃未満であり、かつ融点が285℃以上であることを特徴とするポリフェニレンスルフィド繊維について開示されている。しかしながら、繊維化前後の揮発成分に関する記載はなく、また、分子量分布や溶解後の残査物(架橋ゲルの影響)についても言及されていない。
【0010】
さらに、特許文献4には、灰分が0.15%以下であり、結晶化温度が200℃以上であり、メルトフローレートが10〜200であることを特徴とするPPSモノフィラメントについて開示されている。灰分を規定して屈曲摩耗性改善を目指すものであるが、揮発成分での汚れなどに関しては言及されていない。
【特許文献1】特開昭63−207827号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平5−43692号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開昭58−31112号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開平4−65517号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、フラッシュ法PPS樹脂を用いても、紡糸工程での加熱、溶融時の揮発性成分の発生量が少なく、揮発性成分による口金汚れが少なく、溶融紡糸時に単位時間あたりの糸切れ回数が少なく、また、ポリマー主鎖同士の架橋ゲル化物による口金濾圧上昇が低いなどフラッシュ法PPS樹脂による繊維製造時の問題を解消することができるPPS繊維を用いて不織布を製造・提供することによって、供給不足の心配の無いバグフィルターを提供しようとするものである。
【0012】
すなわち、本発明は、不織布の引張剛性が高く、寸法安定性の良い不織布およびバグフィルターを、供給不足の心配なく、安定して提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明の不織布は、ポリフェニレンスルフィド樹脂からなり、ベンゼン環の数が2個のオリゴマー類がポリフェニレンスルフィドポリマー主鎖にグラフトされており、かつポリフェニレンスルフィドポリマー主鎖同士は架橋していない、ポリフェニレンスルフィド繊維を含むことを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の不織布は、以下の特徴を有するポリフェニレンサルファイド繊維を含むことを特徴とするものである。
A.分子量分布において、重量平均分子量をMw、数平均分子量をMnとしたときのMw/Mnが3.5以上、4.0以下である。
B.繊維色調を示すL値が50以上75以下である。
C.メルトフローレートが100g/10分以上、500g/10分以下である。
【0015】
また、本発明の不織布は、ポリフェニレンスルフィド樹脂にあらかじめ熱酸化処理を施して、メルトフローレートを100g/10分以上、500g/10分以下としたものを紡糸してなるポリフェニレンスルフィド繊維を含むことを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の不織布の製造方法は、ポリフェニレンスルフィド樹脂に熱酸化処理を施して当該樹脂のメルトフローレートを100g/10分以上、500g/10分以下に調整する工程と、前記メルトフローレートを調整したポリフェニレンスルフィド樹脂を用いてポリフェニレンスルフィド繊維を溶融紡糸する工程と、前記ポリフェニレンスルフィド繊維を少なくとも一部に用いて不織布を製造する工程とをこの順に含むことを特徴とするものである。
【0017】
また本発明のバグフィルターは、本発明の不織布または本発明の不織布の製造方法により製造される不織布からなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、不織布の引張剛性が高く、寸法安定性の良い不織布およびバグフィルターを、供給不足の心配なく、安定して提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、前記課題、つまり不織布の引張剛性が高く、寸法安定性の良い不織布およびバグフィルターを、供給不足の心配なく、安定して提供することについて、鋭意検討し、紡糸可能な粘度のPPS樹脂を、比較的軽度に熱酸化処理してみたところ、上記した繊維製造時の問題を解消することができる上に、前記不織布特性をも満たすことを究明し、本発明に到達したものである。
【0020】
本発明におけるPPS樹脂およびPPS繊維は、下記構造式(I)で示される繰り返し単位を有する重合体からなる。
【0021】
【化1】

【0022】
耐熱性の観点からは、上記構造式で示される繰り返し単位を含む重合体を70モル%以上、更には90モル%以上含む重合体が好ましい。また本発明のPPS繊維はその繰り返し単位の30モル%未満程度が、下記の構造を有する繰り返し単位等で構成されていてもよい。
【0023】
【化2】

【0024】
上記のPPS樹脂には、クエンチ法とフラッシュ法の2種類の樹脂がある。クエンチ法の樹脂は重合後ポリマーを徐々に冷却することにより、オリゴマー類が析出しやすい。さらにクエンチ法の樹脂は溶剤によって洗浄を実施することにより、オリオマー類をポリマー中から除去することが可能である。PPS繊維の溶融紡糸においては、ポリマーの加熱溶融時にオリゴマー類が揮発し口金汚れとなり糸切れが発生することが問題である。従って、PPS繊維の溶融紡糸においては、クエンチ法PPS樹脂を用いることが必要である。ところが、クエンチ法PPS樹脂は、重合後の徐冷や溶剤の洗浄によって生産性が悪く、供給樹脂量が限られるという問題がある。一方のフラッシュ法PPS樹脂は、重合後のポリマーを急冷し、水による洗浄を実施する。従って、生産性が高く供給樹脂量も豊富である。ところがフラッシュ法PPS樹脂は、ポリマー中のオリゴマー類の残留が多く、溶融紡糸時に口金汚れによる糸切れが多発するので、PPS繊維の溶融紡糸には用いることができなかった。本発明で言うオリゴマー類とは、ベンゼン環の数が1以上3以下のオリゴマー類であるが、特にベンゼン環の数が2個のオリゴマー類は、溶融紡糸時の熱で揮発化しやすい上に冷却後には粘度の高い液体となって口金面に目ヤニ状態となって付着しやすく、口金汚れを誘起しやすい。このベンゼン環の数が2個のオリゴマーの代表例を下記構造式で示す。
【0025】
【化3】

【0026】
本発明に用いるPPS樹脂の最大のポイントは、フラッシュ法PPS樹脂にあらかじめ酸素存在下で熱酸化処理を施して、ポリマー中の残留オリゴマー類を主鎖にグラフトさせ、不揮発化することにある。すなわち、供給量の豊富なフラッシュ法PPS樹脂を、繊維の溶融紡糸が可能な揮発分まで減少させることにある。かつ、ポリマー中の主鎖同士の架橋は防止し、架橋ゲル化物の発生を防止することが必要である。オリゴマー類が主鎖にグラフトし、かつ主鎖同士は架橋していない状態の代表例を下記構造式で示す。
【0027】
【化4】

【0028】
本発明で言うオリゴマー類が主鎖にグラフトされている状態とは、本発明に用いるPPS繊維のベンゼン環の数が2個のオリゴマー類の揮発量がフラッシュ法で回収されたPPS樹脂からなる繊維より少ない状態を言う。
溶融紡糸したときの口金汚れによる糸切れ回数が、フラッシュ法で回収されたPPS樹脂を溶融紡糸したときに比較して少ないことによって判断できる。
また、本発明の不織布から取り出したPPS繊維1.0gを耐熱ガラスの試験管に入れ、315℃で10分間溶融加熱したときの発生ガスを、ガスクロマトグラフィーで定性定量分析して、オリゴマー類の代表例であるClφSφOHの発生量が、フラッシュ法で回収された樹脂からなる繊維に比較して少ないこと0で判断できる。このガスクロマトグラフィーによる評価方法によれば、ClφSφOHの発生量は、フラッシュ法で回収された樹脂からなる繊維に比較して、好ましくは1/2、さらに好ましくは1/3、特に好ましくは1/4である。また、簡易的な評価方法ではTG−DTAにて320℃までの減量を確認し、減量前の質量との100分率を求め減量率とすることも可能である。減量率が大きい方が揮発量が大きい。
【0029】
本発明で言うポリマーの主鎖同士の架橋が無い状態というのは、溶融紡糸する前のPPS樹脂0.1gを、1−クロロナフタレン1gに250℃で5分間溶解した時に、目視観察により、沈殿物が無い状態を言う。熱酸化処理を過度に実施すると、ポリマー主鎖同士の架橋が起こり非溶解物として残るため、沈殿物となる。沈殿物の発生するようなPPS樹脂を溶融紡糸すると口金フィルターの目詰まりが発生し、濾圧上昇を引き起こし、短時間しか溶融紡糸出来ない。
【0030】
本発明に用いるPPS繊維の原料となるPPS樹脂は、あらかじめ熱酸化処理を施して、メルトフローレート(ASTM D−1238−70に準ずる。温度315.5℃、荷重5000gにて測定。単位g/10分)を100g/10分以上、500g/10分以下に制御した後、紡糸して製造されることを特徴とする。メルトフローレートが100g/10分未満であると繊維強度は高くなりやすいものの、粘度が高いため紡糸時の温度を高くせざるをえなく溶融紡糸時に揮発成分が多くなる傾向にある。一方メルトフローレートが、500g/10分を越えると、分子量が低いため強度が出ない傾向にある。より好ましいメルトフローレート範囲は110以上、400以下、さらに好ましくは120以上、250以下である。
【0031】
本発明に用いるPPS繊維の原料となるPPS樹脂の第2のポイントは、熱酸化処理を軽微に施すことにある。フラッシュ法PPS樹脂に過度の熱酸化処理を施すと、主鎖同士の3次元架橋が発生し、熱溶融しない成分が発生する。ポリマー中の3次元架橋成分は、溶融紡糸時に異物として口金フィルターに捕捉され、口金濾圧の上昇を引き起こす。従って主鎖同士の3次元架橋が発生しない程度の軽微な熱酸化処理を施すことが肝要である。
熱酸化処理は1時間以上、5時間以下であることが好ましい。加熱処理時間が1時間未満であると酸化処理が不十分となりやすく揮発性分が充分に不揮発化しない。また、加熱処理時間が5時間を超えると、酸化処理によって主鎖同士の架橋構造が多くなり、口金濾圧の上昇を引き起こすとともに、紡糸性、物性に悪影響をあたえる可能性がでてくる。より好ましくは1時間以上、3時間以下である。
【0032】
さらに、熱酸化処理は大気中160℃以上、260℃以下で行われることが好ましい。さらに好ましくは、170℃以上、250℃以下、より好ましくは180℃以上、220℃以下である。
【0033】
加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よくしかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのが好ましい。
【0034】
本発明に用いるPPS繊維の原料となるPPS樹脂は、前述したように、フラッシュ法によって回収されたPPS樹脂であることが好ましい。
【0035】
PPS樹脂は、一般に熱酸化処理を施すことによってメルトフローレートは減少する。本発明に用いるPPS繊維の原料となるPPS樹脂は、軽微に熱酸化処理を施すことが肝要であるので、メルトフローレートの減少幅は、好ましくは20g/10分以上100g/10分以下が好ましい。減少幅20g/10分未満であれば、熱酸化処理不足であり、揮発性成分が充分にグラフトしない。減少幅100g/10分より大きければ主鎖同士の架橋が発生し、ゲル化物となる。さらに好ましい減少幅は30g/10分以上80g/10分以下であり、特に好ましくは30g/10分以上60g/10分以下である。
【0036】
本発明に用いるPPS繊維の原料となるPPS樹脂は、軽微に熱酸化処理する前の状態の分子量は30000以上80000以下であることが好ましい。30000未満であれば、分子量が低すぎて、溶融紡糸により得られた繊維の強度が弱くなる。80000を超えると溶融粘度が高すぎて、溶融紡糸が出来なくなる。より好ましい分子量は40000以上60000以下である。
【0037】
また熱酸化処理の前後に、熱酸化架橋を抑制し、揮発分除去を目的として乾式熱処理を行うことも可能である。その温度は130〜250℃が好ましく、160〜250℃の範囲がより好ましい。また、この場合の酸素濃度は5体積%未満、更には2体積%未満とすることが望ましい。乾式熱処理時間は、0.5〜50時間が好ましく、1〜20時間がより好ましく、1〜10時間がさらに好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よくしかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
本発明の不織布に使用されるPPS繊維を溶融紡糸法によって製造するに当たって、上記軽度に熱酸化処理されたフラッシュ法PPS樹脂とクエンチ法PPS樹脂とをブレンドして溶融紡糸しても構わない。そのブレンド率は、5:95から95:5まで任意に調節することができる。いかようにブレンドしても、溶融紡糸性に問題は出ず、しかも供給量豊富なフラッシュ法PPS樹脂を活用できることの目的は達成できる。好ましいブレンド率は熱酸化処理されたフラッシュ法PPS樹脂が30wt%以上であり、さらに好ましくは50wt%以上であり、特に好ましくは70wt%以上である。熱酸化処理されたフラッシュ法樹脂のブレンド率を高くすればするほど、供給不足の不安のないPPS繊維が得られるからである。
【0038】
また、クエンチ法樹脂に熱酸化処理したPPS樹脂を用いて溶融紡糸することも構わない。もともとクエンチ法樹脂はオリゴマー類の揮発成分が少ないが、熱酸化処理することによりさらに揮発成分の少ないPPS樹脂となり、さらに糸切れの少ない良好な溶融紡糸性を得ることができる。
【0039】
次に、本発明の不織布について説明する。
【0040】
本発明の不織布は、上記フラッシュ法PPS樹脂をあらかじめ適度に熱酸化処理してから溶融紡糸して得られたPPS繊維を含むことを特徴とするものである。
【0041】
本発明の不織布に含まれるPPS繊維は、分子量分布において、Z平均分子量をMz、重量平均分子量をMw、数平均分子量をMnとしたときの多分散度Mw/Mnが3.5以上、4.0以下であることが好ましい。より好ましいMw/Mnは3.5以上、3.8以下である。また、多分散度Mz/Mwは2.0以下であることが好ましい。ここで、Mw/Mnは低分子量側への広がりの指標となる多分散度であり、Mz/Mwは高分子量側への広がりの指標となる多分散度である。Mw/Mnが小さければ低分子量ポリマーが少なく、Mz/Mwが小さければ高分子量ポリマーが少ないことをあらわす。オリゴマー類は低分子量であるので、オリゴマーがグラフトされたPPS繊維のMw/Mnは、オリゴマーの残存するPPS繊維のMw/Mnよりも小さくなる。分子量分布の測定方法を以下に示す。1−クロロナフタレン(以下1−CNと略す)に活性アルミナ(1−CNに対して1/20重量)を加え、6時間攪拌した後、G4グラスフィルターで濾過した。これを超音波洗浄機にかけながらアスピレーターを用いて脱気し、容離液を調整する。サンプル調製は、PPSサンプル約5mg、1−CN約5gをサンプル瓶に計り取り、210℃に設定した高温濾過装置(センシュー科学製SSC−9300)に入れ、5分間(1分間予備加熱、4分間攪拌)加熱し、高温濾過装置から取り出し、室温になるまで放置する。
GPC測定条件は以下のとおりである。
装置 : センシュー科学 SSC−7100
カラム名 : センシュー科学 GPC3506×1
溶離液 : 1−クロロナフタレン(1−CN)
検出器 : 示差屈折率検出器
検出器感度 : Range 8
検出器極性 : +
カラム温度 : 210℃
プレ恒温槽温度 : 250℃
ポンプ恒温槽温度 : 50℃
検出器温度 : 210℃
サンプル側流量 : 1.0mL/min
リファレンス側流量 : 1.0mL/min
試料注入量 : 300μL
検量線作成試料 : ポリスチレン
多分散度Mw/Mnが3.5を下回るには、クエンチ法で重合されたPPSが必要となるが、クエンチ法はフラッシュ法PPSに比較して工程時間が長く、さらに洗浄や溶媒回収などの工程も複雑となってしまい、供給樹脂量が限られる。また、一般的なフラッシュ法PPS繊維のMw/Mnは4.1程度であり、本発明のPPS繊維よりも低分子量への広がりが大きく、揮発性ガスが多くなる。多分散度Mw/Mnが3.5を下回るには、クエンチ法で重合されたPPSが必要となり、クエンチ法はフラッシュ法PPSに比較して工程時間が長く、さらに洗浄や溶媒回収などの工程も複雑となってしまい、供給樹脂量が限られる。Mw/Mnが4.1よりも大きい場合には、熱酸化処理していないフラッシュ法PPSのように、口金汚れの原因である揮発成分のオリゴマー類が充分少ないとはいえず、溶融紡糸性が良好でないPPS繊維を用いていることになる。
【0042】
本発明の不織布に含まれるPPS繊維は、色調を示すL*値(スガ試験機社製SM−3カラーコンピュータ)が50以上、70以下であることが好ましい。L*値の測定に当たっては、下地板の色が見えないように、多量のPPS繊維を下地板に巻きつけて測定する。ここでのL*値は単純な色評価だけでなく酸化グラフトの程度の指標として用いることができる。一般的にPPS樹脂は熱酸化処理を施すと茶色に着色が起こりL*値が低下する、この低下度合いは酸化処理の深さにより変化し、酸化処理が浅ければL*値の低下度合いが小さく、酸化処理が深ければ低下度合いが大きい。本発明者は、PPS酸化処理条件とPPS繊維のL*値の関係を検討し、L*値が上記範囲内であれば、強度、製糸性に影響なく、さらに揮発成分が酸化反応により繊維中の主鎖にグラフトされて閉じこめられ、溶融紡糸性が良好なフラッシュ法樹脂からなるPPS繊維であることを見いだした。L*値が50未満すなわち、過度の熱酸化処理を施すと、ゲル化物が生じ易くなり、強度が落ちるばかりか、連続溶融紡糸中にゲル化物が口金やフィルターに詰まり、口金濾圧の上昇を引き起こしやすくなる。また、L*値が70を越えると酸化処理が浅すぎ、揮発成分が酸化処理前と変わらずに多く発生するため、紡糸時の口金汚れによる製糸性悪化などが起こりやすい。
【0043】
本発明の不織布に含まれるPPS繊維は、酸化処理したフラッシュ法PPS樹脂と通常のクエンチ法PPS樹脂とをブレンドして、溶融紡糸したPPS繊維も用いることができる。
【0044】
さらに本発明の不織布に含まれるPPS繊維は、引張破断伸度が20%以上50%以下であることが好ましい。熱酸化処理されたフラッシュ法PPS樹脂によって溶融紡糸されたPPS繊維は、同一工程条件によって得られたクエンチ法PPS樹脂からなるPPS繊維に比較して、引張破断強度は同一のまま引張破断伸度が小さくなることを発明者は発見した。延伸後の熱処理工程において緊張下で熱処理を実施することによりさらに引張破断伸度が小さいPPS繊維を得ることができることも発明者は発見した。引張破断伸度が小さいことは同一強度であれば引張剛性が高いことであり、寸法安定性に劣る不織布において、このような繊維を用いることは、不織布の寸法安定性を向上する効果が高く極めて有意義なことである。好ましい引張破断伸度は20%以上50%以下であり、さらに好ましくは20%以上40%以下であり、特に好ましくは30%以上40%以下である。
【0045】
以下に、本発明の不織布における好ましい不織布の形態を説明する。
【0046】
本発明の不織布は、バグフィルターとして好ましく使用される。かかるバグフィルター濾布として用いられるPPS繊維からなる不織布は、目付が200g/m以上1000g/m以下で、見掛け密度が0.25g/cm以上0.70g/cm以下であることが好ましい。目付けが200g/mよりも小さいと捕集効率が低くなりすぎ、1000g/mよりも大きいと圧力損失が大きくなりすぎるので、バグフィルター濾布として適当では無い。また、見かけ密度が0.25g/cmより小さいと捕集効率が低くなりすぎ、0.70g/cmより大きいと圧力損失が大きくなりすぎるので、バグフィルター濾布としては適当では無い。
【0047】
また、バグフィルター濾布として使用するにあたっては、織物、編物、不織布のいずれの布帛形態でも使用することができるが、小さな粒径のダストを捕集する捕集効率という面から、本発明では、不織布の形態で使用する。織物や編物であると、織り目や編み目に必ず大きな空隙が発生し、ダストが捕集されずに通過するためである。
【0048】
かかる不織布の製造方法は、特に限定されることもない。不織布の製造方法としては、捲縮の付与されたPPSステープル繊維を、カーディングして繊維を分繊かつ繊維方向を揃え、クロスラッパーで積層してウェブとし、該ウェブを交絡あるいは一体化させて不織布とすることができる。交絡の方法としては、ニードルを打って交絡させるニードルパンチ方法や、水流を与えて交絡させるウォータージェットパンチ方法などが、好ましく用いられる。あるいは一体化の方法としては、熱プレスや熱エンボスプレスによって、部分的に押し固めて一体化する方法なども用いられる。
【0049】
また、本発明の好ましい不織布の形態としては、該不織布が、ウェブと織布とから構成されているのがよい。すなわち、バグフィルターには、捕集効率の向上と寸法安定性の向上という二つの特性が要求される。捕集効率の向上には、織布や編布では織り目や編み目の部分に大きな空隙が形成されるために、不織布が好適に用いられるものである。しかし寸法安定性という面では、不織布では引張剛性が小さいので、織布の方が好ましい。そこで本発明では、この両特性を同時に満足するために、織布とウェブを組み合わせて濾布を構成することが好ましい。ここでいうウェブとは、少なくとも布帛面内にランダムな繊維方向を有する繊維構造体を言う。織布とウェブの組合せの方法は、ウェブ/織布/ウェブの3層構造としても良いし、ウェブ/織布の2層構造としても差し支えない。かかる製造方法としては、いかなる方法でも構わないが、繊維絡合前のウェブと織布とを積層しておいて、ニードルパンチやウォータージェットパンチなどにより、ウェブの絡合と織物との一体化を達成する製造方法が好ましい。このように、バグフィルター濾布を構成する本発明によるPPS繊維不織布に、織布を挿入することにより、熱クリープや熱収縮を生じにくい、寸法安定性の良いバグフィルター濾布を得ることができる。本発明の引張破断伸度が20%以上50%以下の本発明によるPPS繊維を、織物とウェブの少なくとも一方に用いることにより、極めて寸法安定性の良いバグフィルター濾布を得ることが出来る。
【0050】
また、さらに、本発明の好ましい不織布の形態として、本発明に用いる寸法安定性を高めるための織布として、本発明によるPPS繊維は、もちろんのこと、他の素材による繊維からなる織布が好ましく用いられる。例えば、フッ素繊維、ガラス繊維、シリカ繊維、炭素繊維などが好ましく用いられる。フッ素繊維は有機繊維ではあるが極めて耐熱性が高い繊維であり、ガラス繊維、シリカ繊維、炭素繊維は無機繊維であって、やはり極めて耐熱性の高い繊維である。これらの耐熱性の高い繊維を織布として用いることにより、より高温下に暴露されるプラントのバグフィルターとして使用された場合においても、さらに耐熱性が高く、高温下でも破断の生じにくいバグフィルター濾布を得ることができる。何故なら、本発明によるPPS繊維が熱により強度劣化を生じた場合にも、本発明によるPPS繊維は捕集効率の向上の機能を主に分担するウェブ部分に存在するため、強度劣化は捕集効率の低下に大きく影響することなく、強度や寸法安定性の機能を分担する織布には、より耐熱性の高い素材からなる繊維が用いられているからである。
【0051】
なお、上記以外の耐熱性の高い素材からなる繊維を織布に用いても差し支えなく、例えば、PBO繊維や液晶ポリエステル繊維や、m−アラミド繊維やp−アラミド繊維も用いることができるが、これらの繊維は耐薬品性が充分ではないので、NOXやSOXの発生する高温バグフィルターに用いるときには、充分な検討をした上で用いる必要がある。
【0052】
なお、本発明の不織布は、ウェブを本発明によるPPS繊維100%で構成することもできるが、ガラス繊維、シリカ繊維、フッ素繊維、炭素繊維から選ばれる少なくとも1種からなる異種繊維と本発明によるPPS繊維との混綿ウェブであってもよい。すなわち、これらの異種繊維との混綿とすることにより、摩耗などの機械的強度の向上したバグフィルター濾布を提供することができる。本発明によるPPS繊維は、耐熱性や耐薬品性といった化学的劣化には極めて強いのであるが、機械的劣化にはきわめて強いとは言えず、脆く衝撃に弱いという性質を持っている。本発明の不織布が使用されるバグフィルターにおいては、ダストの飛来によるダストの濾布への衝突による衝撃や圧力空気による逆洗パルスによる衝撃や逆洗パルス噴射後のリテーナ(金属製骨組み)への衝突による衝撃など、多くの衝撃が不織布のウェブ部分に発生する。その衝撃によりウェブ部分の繊維が機械的に劣化して脱落し、捕集効率の向上という機能を果たさなくなることを防止するために、異種繊維との混綿が好ましい。ただし、混綿される異種繊維としては、耐熱性の高い繊維である必要があり、ガラス繊維、シリカ繊維、フッ素繊維、炭素繊維の中から選択される少なくとも1種の繊維と混綿されることが好ましい。
【0053】
なお、上記以外の耐熱性の高い素材からなる繊維を混綿相手の繊維に用いても差し支えなく、例えば、PBO繊維や液晶ポリエステル繊維やm−アラミド繊維やp−アラミド繊維も用いることができるが、これらの繊維は耐薬品性が充分ではないので、NOXやSOXの発生する高温バグフィルターに用いるときには、充分な検討をした上で用いる必要がある。
【0054】
また、本発明の不織布として、ウェブを複数層にし、少なくとも最表面の層のウェブを異種繊維との混綿ウェブで構成されたものも好ましく用いられる。本発明の不織布がウェブと織布からなる場合には、ウェブ/織物/ウェブの3層構造をとる場合もあり、この3層構造の場合ウェブの層は2層であり複数層となる。この3層構造のうち、織物の上流側のウェブの層をこの場合の最表面の層と呼ぶ。また、ウェブ/織物/ウェブの3層構造のうち、織物の上流側のウェブの層を2層とし、ウエブ/ウェブ/織物/ウェブの構造とする場合もあり、この場合の最表面の層とは最も上流側のウェブ層となる。さらに、織物の上流側のウェブの層を3層以上の多数の複数層としても良いが、最表面の層とは最も上流側のウェブの層を言う。一方、織物の挿入されていない不織布の場合には、ウェブだけでバグフィルター濾布が構成されるが、このウェブを複数層にしても構わず、この場合、最も上流側のウェブの層が最表面のウェブの層となる。
【0055】
これらの最表面のウェブの層は、ガラス繊維、シリカ繊維、フッ素繊維、炭素繊維から選ばれる少なくとも1種からなる異種繊維と本発明によるPPS繊維との混綿ウェブであるのがよい。すなわち、これらの異種繊維との混綿とすることにより、高温下での摩耗などの機械的強度の向上したバグフィルター濾布を提供することができる。このように最表面のウェブの層を異種繊維との混綿ウェブとすることにより、ダストの飛来によるダストの濾布への衝突による衝撃に対する耐久性の高いバグフィルター濾布を得ることができる。ただし、混綿される異種繊維は、耐熱性の高い繊維である必要があり、ガラス繊維、シリカ繊維、フッ素繊維、炭素繊維の中から選択される少なくとも1種の繊維と混綿されることが好ましい。なお、上記以外の耐熱性の高い素材からなる繊維を混綿相手の繊維に用いても差し支えなく、例えば、PBO繊維や液晶ポリエステル繊維やm−アラミド繊維やp−アラミド繊維も用いることができるが、これらの繊維は耐薬品性が充分ではないので、NOXやSOXの発生する高温バグフィルターに用いるときには、充分な検討をした上で用いる必要がある。
【0056】
また、圧力空気による逆洗パルスによる衝撃や逆洗パルス噴射後のリテーナへの衝突による衝撃に対する耐久性を向上させるためには、上述で定義した最表面の反対側である最裏面のウェブ層を、異種繊維との混綿ウェブとすることが効果的であることは言うまでもない。
【0057】
かかる本発明の不織布において、繊度の大きい本発明によるPPS繊維と繊度の小さい本発明によるPPS繊維との、異繊度の混綿ウェブで構成されたウェブからなる不織布が好ましい。かかる不織布で構成されたバグフィルター濾布は、繊度の大きい本発明によるPPS繊維のみを使用した場合に比較して、不織布を厚さ方向に貫通する穴の大きさであるポアサイズが小さいので、ダストの捕集効率が高い性能を有するものを提供することができる。かかる不織布をさらに3種類以上の繊度のポリアリーレンスルフィド酸化物繊維を混綿して構成することもできる。かかる不織布には織物が挿入されている不織布であっても、織物が挿入されていない不織布であっても構わない。さらには、前述の異種繊維と繊度の大きい本発明によるPPS繊維と繊度の小さい本発明によるPPS繊維との混綿であっても差し支えない。
【0058】
また、かかる本発明の不織布として、ウェブを複数層にし、少なくとも最表面の層のウェブを異繊度との混綿ウェブとする不織布も好ましく用いられる。かかる不織布が、ウェブと織布からなる場合には、ウェブ/織物/ウェブの3層構造をとる場合もあり、この3層構造の場合、ウェブの層は2層となる。この3層構造のうち、織物の上流側のウェブの層を、この場合の最表面の層と呼ぶ。また、ウェブ/織物/ウェブの3層構造のうち、織物の上流側のウェブの層を2層とし、ウェブ/ウェブ/織物/ウェブの構造とする場合もあり、この場合の最表面の層とは最も上流側のウェブ層となる。さらに、織物の上流側のウェブの層を3層以上の多数の複数層としても良いが、最表面の層とは最も上流側のウェブの層を言う。一方、織物の挿入されていない不織布の場合には、ウェブだけでバグフィルター濾布が構成されるが、このウェブを複数層にしても構わず、この場合、最も上流側のウェブの層が最表面のウェブの層となる。
【0059】
バグフィルターの場合、捕集効率を左右する層は、ダストがまず最初に遭遇する最表面の層であるから、この最表面の層を捕集効率の高い異繊度との混綿ウェブにすることが好ましい。さらには、前述の、異種繊維と繊度の大きい本発明によるPPS繊維と繊度の小さい本発明によるPPS繊維との混綿で構成しても構わない。
【0060】
かかる不織布を構成する複数層のウェブのうち、少なくとも最表面の層のウェブの本発明によるPPS繊維の平均繊度が、他の層のウェブの本発明によるPPS繊維の平均繊度よりも小さい不織布とするのが好ましい。
【0061】
例えば、本発明の不織布がウェブと織布からなる場合には、ウェブ/織物/ウェブの3層構造をとる場合もあり、この3層構造の場合ウェブの層は2層であり複数層となる。この3層構造のうち、織物の上流側のウェブの層をこの場合の最表面の層と呼ぶ。この最表面のウェブの層を単糸繊度1dtexの本発明によるPPS繊維から構成し、反対側のウェブの層を単糸繊度2dtexの本発明によるPPS繊維から構成することができる。また、最表面のウェブの層を単糸繊度1dtexの本発明によるPPS繊維から構成し、反対側のウェブの層を単糸繊度8dtexの本発明によるPPS繊維から構成することもできる。また、最表面のウェブの層を単糸繊度1dtexの本発明によるPPS繊維と2dtexの本発明によるPPS繊維との混綿から構成し、反対側のウェブの層を単糸繊度8dtexの本発明によるPPS繊維から構成することもできる。また、最表面のウェブの層を単糸繊度1dtexの本発明によるPPS繊維から構成し、反対側のウェブの層を単糸繊度2dtexの本発明によるPPS繊維と8dtexの本発明によるPPS繊維との混綿から構成することもできる。このように、単糸繊度が一種類であろうが、二種類の混綿であろうが、3種類以上の混綿であろうが、全く構わない。
【0062】
また、ウェブ/ウェブ/織物/ウェブの4層構造をとる場合には、ウェブの層は3層であり複数層となる。この4層構造のうち、織物の上流側の最も上流側のウェブの層をこの場合の最表面の層と呼ぶ。例えば、本ウェブ3層において、最表面のウェブの層を単糸繊度1dtexの本発明によるPPS繊維から構成し、2番目の層を単糸繊度2dtexの本発明によるPPS繊維から構成し、織物を挟んで反対側の3番目の層も2dtexの本発明によるPPS繊維から構成しても構わない。また、本ウェブ3層において、最表面のウェブの層を単糸繊度1dtexの本発明によるPPS繊維から構成し、2番目の層を単糸繊度2dtexの本発明によるPPS繊維から構成し、織物を挟んで反対側の3番目の層を8dtexの本発明によるPPS繊維から構成し、厚さ方向に繊度勾配を付けても構わない。また、本ウェブ3層において、最表面のウェブの層を単糸繊度1dtexと2dtexの本発明によるPPS繊維の混綿から構成し、2番目の層を単糸繊度2dtexの本発明によるPPS繊維から構成し、織物を挟んで反対側の3番目の層を2dtexと8dtexの本発明によるPPS繊維の混綿から構成したウェブを用いることもできる。
【0063】
さらには、ウェブ/ウェブ/織物/ウェブ/ウェブの5層構造であっても、さらには6層以上の構造であっても、上記と同様に、少なくとも最表面の層のウェブの本発明によるPPS繊維の平均繊度が、他の層のウェブの本発明によるPPS繊維の平均繊度よりも小さければ、本発明に含まれる。
【0064】
また、織物が無い場合においても、ウェブを2層以上とし、上記と同様に、少なくとも最表面の層のウェブの本発明によるPPS繊維の平均繊度が、他の層のウェブの本発明によるPPS繊維の平均繊度よりも小さければ、本発明に含まれる。
【0065】
少なくとも最表層のウェブの本発明によるPPS繊維の平均繊度を、他の層の本発明によるPPS繊維の平均繊度より小さくしたり、ウェブに繊度勾配を設け、風上側のウェブの繊度を小さく、風下側のウェブの繊度を大きくすることにより、捕集効率が高くかつ圧力損失の低いバグフィルター濾布を得ることができる。何故なら、バグフィルターは、濾布であるフェルトの表面にダストケーキを堆積させ、逆洗によって、堆積したダストケーキを払い落とすことによって、清浄な濾布のフェルト面を再生することを繰り返して使用される。ダストが濾布の厚みの内部に侵入することは好ましくなく、濾布の表面に留まることが好ましい。すなわち、濾布の最表面の本発明によるPPS繊維の平均繊度を小さくして、繊維間空隙を小さく保つことにより、捕集効率を向上することができる。また、濾布の厚みの内部にダストが侵入することを防げるので、圧力損失の上昇を防止することができる。
【0066】
このように、濾布の最表面の層の捕集効率が充分高く、ダストが濾布の厚み内部に侵入しにくい場合には、最表面以外のウェブ層は、捕集効率に寄与する割合が極めて少なくなり、本発明によるPPS繊維の単糸繊度を小さくする意味合いは薄れる。むしろ、本発明によるPPS繊維の単糸繊度を大きくして、繊維間空隙を大きくし、圧力損失を低下させる方が好ましい。以上説明したように、少なくとも最表層のウェブの本発明によるPPS繊維の平均繊度を、他の層の本発明によるPPS繊維の平均繊度より小さくしたり、ウェブに繊度勾配を儲け、風上側のウェブの繊度を小さく、風下側のウェブの繊度を大きくすることにより、捕集効率が高くかつ圧力損失の低いバグフィルター濾布を得ることができる。
【0067】
本発明のバグフィルター濾布を構成する不織布として、該ウェブが、異形断面の本発明によるPPS繊維を含むことが好ましい。異形断面とは、丸断面以外の繊維のことを言い、扁平断面、三角断面、Y型断面、十字断面、5本の枝を有する断面、6本の枝を有する断面、7本以上の枝を有する断面および、湿式紡糸時に自然発生するような定形を持たない断面を含む。すなわち、異形断面とは、丸断面の時と同一断面積である場合に、断面の外周周長が丸断面の時よりも大きくなる断面を言う。
【0068】
かかる異形断面の繊維は、丸断面の繊維に比較して、同一重量で不織布を製造した場合に同一重量当たりの繊維表面積が大きくなり、ダストの捕集効率が高くなるという効果を発揮する。これは、ダストの捕集には、不織布の空隙の小ささが寄与するふるい効果とともに、不織布を構成する繊維の一本一本にダストが吸引吸着されるブラウン拡散効果を有するからである。このブラウン拡散効果は、ダスト重量の小さい、非常に細かいダストの捕集効率向上に対して効果が大きい。以上のように、異形断面の本発明によるPPS繊維を含むことにより、バグフィルター濾布の捕集効率上昇の効果を得ることができる。
【0069】
ウェブを構成する本発明によるPPS繊維に、異形断面の本発明によるPPS繊維を用いるに当たっては、異形断面繊維のみを用いても構わないし、異形断面繊維と丸断面繊維との混綿であっても構わない。
さらには、前述の異種繊維と繊度の大きい本発明によるPPS繊維と繊度の小さい本発明によるPPS繊維と異形断面本発明によるPPS繊維との混綿であっても差し支えない。
【0070】
本発明のバグフィルター濾布を構成する不織布において、かかる異形断面の本発明によるPPS繊維を、該不織布の少なくとも最表面の層のウェブに含ませることが好ましい。すなわち、前述の異種繊維を用いる場合や異繊度の本発明によるPPS繊維を用いる場合と同様に、最表面のウェブの層に、異形断面の本発明によるPPS繊維を用いることが好ましい。該最表面のウェブの層を構成する繊維は、異形断面繊維のみを用いても構わないし、異形断面繊維と丸断面繊維との混綿であっても構わないし、さらには、異種繊維と繊度の大きい本発明によるPPS繊維と繊度の小さい本発明によるPPS繊維と異形断面本発明によるPPS繊維との混綿であっても差し支えない。
【0071】
少なくとも最表層のウェブに異形断面の本発明によるPPS繊維を用いることにより、捕集効率が高くかつ圧力損失の低いバグフィルター濾布を得ることができる。
【0072】
さらに本発明の本発明によるPPS繊維からなる不織布を、バグフィルター濾布として効果的に使用する好ましい形態として、該不織布の最表面の少なくとも片側に、フッ素繊維からなるウェブが積層されていることがあげられる。
【0073】
ここでいう、該不織布の最表面の少なくとも片側に積層するという意味は、これまで説明した本発明によるPPS繊維からなるバグフィルター濾布を構成する種々のウェブからなる不織布に加えてさらにその表面側に積層する、という意味である。すなわち、本発明によるPPS繊維の単一成分からなる不織布の表面に積層しても良いし、異種繊維や、繊度の違う本発明によるPPS繊維や、異形断面の本発明によるPPS繊維を用いた、あるいは混綿したウェブ層を有する不織布の表面に積層しても差し支えない。
【0074】
バグフィルターとは、逆洗により濾布表面に堆積したダストケーキを剥離脱落させて、清浄な濾布面を繰り返し再生して使用されるので、ダストの剥離のしやすさは、長期間にわたり低圧損のまま集塵機を運転するための、重要な性質となる。ダストの剥離のしやすさを左右する一因として、濾布表面の粘着性があげられる。粘着性の高い濾布表面であれば、パルス圧力空気噴射や空気の逆流付与や機械的振動の付与などの逆洗作用によっても、ダストの一部は濾布表面に残留し、集塵機の圧力損失上昇をもたらす。粘着性の低い濾布表面であれば、逆洗作用によって、ほとんどのダストは剥離してしまい、集塵機は低圧損のまま運転できる。フッ素ポリマーは極めて粘着性の低いポリマーとして有名であり、従って、不織布の表面をフッ素ポリマーからなる層にすることが好ましい。さらに好ましいのは、フッ素繊維からなる層とすることであり、特に好ましいのはフッ素ポリマーからなるウェブ層とする、すなわち不織布層とすることである。不織布には捕集効率を向上させ、ダストを濾布表面に堆積させ、ダストを濾布の厚み方向の内部に侵入させにくいという効果があるからである。
【0075】
フッ素ポリマーには種々の種類があるが、本発明のバグフィルター濾布、特に高温下で運転されるバグフィルター濾布に用いる不織布のためには、耐熱温度の高いフッ素ポリマーである事が好ましく、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PFA(テトラフルオロエチレン−フルオロアルキルビニルエーテル共重合体)などが好ましく、特に好ましいのはPTFEである。
【0076】
PTFE繊維からなるウェブの好ましい形態は、不織布状態であることはすでに述べたが、該不織布を構成するPTFE繊維の形状は、断面形状が四角であっても、丸であっても、また不定形であっても構わない。繊維径もどのような繊度であっても構わないが、好ましくは20dtex以下、さらに好ましくは10dtex以下、もっと好ましくは5dtex以下、特に好ましくは3dtex以下である。この様な細い繊度の繊維状態を得るために、PTFE繊維は分枝構造やフィブリル構造を有していても構わない。
【0077】
本発明のバグフィルター濾布に用いる不織布において、該不織布の最表面の少なくとも片側に、フッ素製微多孔膜が積層されている構成が好ましい。かかるフッ素製微多孔膜としては、フッ素フィルムを延伸するなどして得られる、小さな空隙を多数有するフィルム状のフッ素ポリマー膜が使用される。
【0078】
前述のフッ素繊維からなるウェブと同様に、フッ素製微多孔膜を該不織布の最表面に積層する事により、粘着性の低い濾布表面を作り、逆洗作用によって、ほとんどのダストは剥離させ、集塵機を低圧損のまま運転できるという効果を発揮する。
【0079】
かかるフッ素ポリマーには種々の種類があるが、本発明のバグフィルター濾布、特に高温下で運転されるバグフィルター濾布に用いる不織布のためには、耐熱温度の高いフッ素ポリマーである事が好ましく、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PFA(テトラフルオロエチレン−フルオロアルキルビニルエーテル共重合体)などが好ましく、特に好ましいのはPTFEである。
【0080】
PTFE微多孔膜の空隙の大きさは、種々の大きさが得られるが、バグフィルターの濾布に適用するに当たっては、平均空隙径で、好ましくは50μm以下、さらに好ましくは10μm以下、特に好ましくは5μm以下の、微多孔膜が使用される。
【0081】
本発明のバグフィルターは、以上説明した、種々の好ましい形態を有する不織布を縫製することによって、製造される。
【0082】
かかる縫製方法としては、縫い糸を用いた文字通りの縫製が好ましい。ただし、縫い糸には注意を有し、少なくとも耐熱性の良好な縫い糸を用いる必要があり、m−アラミド繊維からなる縫い糸、ポリイミド繊維からなる縫い糸などを用いることができるが、好ましくは、本発明によるPPS繊維からなる縫い糸やPTFE繊維からなる縫い糸が用いられる。
【0083】
また、縫い糸を用いない場合の縫製方法として、超音波や電気的高周波や熱板による溶融縫製、いわゆるウェルダーも好ましく用いられる。
【実施例】
【0084】
以下、本発明を、実施例を用いてより判りやすく説明する。ただし、下記する実施例は本発明のほんの一部であって、本発明の全体を表したものでは無い。
本実施例で用いる性能評価方法は以下の通りである。
【0085】
[分子量分布]
溶離液調製
1−クロロナフタレン(以下1−CNと略す)に活性アルミナ(1−CNに対して1/20重量)を加え、6時間攪拌した後、G4グラスフィルターで濾過した。これを超音波洗浄機にかけながらアスピレーターを用いて脱気した。
サンプル調製
(1)PPSサンプル約5mg、1−CN 約5gをサンプル瓶に計り取った。
(2)210℃に設定した高温濾過装置(センシュー科学製SSC−9300)に入れ、5分間(1分間予備加熱、4分間攪拌)加熱した。
(3)高温濾過装置から取り出し、室温になるまで放置した。
GPC測定条件
装置 : センシュー科学 SSC−7100
カラム名 : センシュー科学 GPC3506×1
溶離液 : 1−クロロナフタレン(1−CN)
検出器 : 示差屈折率検出器
検出器感度 : Range 8
検出器極性 : +
カラム温度 : 210℃
プレ恒温槽温度 : 250℃
ポンプ恒温槽温度 : 50℃
検出器温度 : 210℃
サンプル側流量 : 1.0mL/min
リファレンス側流量 : 1.0mL/min
試料注入量 : 300μL
検量線作成試料 : ポリスチレン 。
【0086】
[MFR](メルトフローレート)
測定温度315.5℃、5000g荷重とし、ASTM D1238−70に基づいて測定した。
【0087】
[L*値]
スガ試験機社製SM−3カラーコンピュ−ターを用い、金属板に繊維を下地の色がほぼ無視できる程度まで密に積層しL*値を測定した。
【0088】
[糸強度および伸度]
JIS L−1073に従い行った。
【0089】
[耐熱強度保持率]
不織布を、熱風循環型乾燥機において、220℃で2ヶ月間暴露する。暴露後の不織布を常温に戻し、常温の状態でJIS−L−1096に従って引張試験をする。暴露前の試験片の破断強度と、暴露後の試験片の破断強度との比を100分率で求め、耐熱強度保持率(%)とする。なお、引張試験は200mm/minの定速引張で実施し、試験片の幅は50mm、チャック間距離は200mmとする。
【0090】
[摩耗減量]
JIS−L−1096のテーバ式摩耗試験に従い、摩耗減量を求める。摩耗輪No.CS−10、荷重4.9Nで、摩耗回数1000回の摩耗を付与する。摩耗付与前の試験片の質量から摩耗付与後の試験片の質量を差し引いて、摩耗減量(mg)とする。
【0091】
[耐熱クリープ]
5cm幅、30cm長さのサンプルを用意し、9N/5cmの荷重をかける。この状態で試験片の長さ方向に200mm間隔でマークを入れる。この試験片を荷重をかけたまま210℃の熱風循環型乾燥機で1時間処理する。処理後の試験片のマークの間隔を、荷重がかかった状態で読みとる。200mmを越えた長さを、200mmで除した比を100分率で求め、耐熱クリープ(%)とする。
【0092】
[高温下引張強力保持率]
5cm幅、30cm長さのサンプルを用意し、200℃の雰囲気下で引張試験を行う。200℃雰囲気下での破断強度と、常温での破断強度との比を100分率で求め、高温下引張強力保持率(%)とする。なお、引張試験は200mm/minの定速引張で実施し、試験片の幅は50mm、チャック間距離は200mmとする。
【0093】
[JIS集塵性能処理]
JIS−Z−8908−2に基づいて、不織布にダストを付与しながら、逆洗パルスを付与していく。ダストはJIS11種、入り口ダスト濃度は5g/m、濾過風速2m/minでダストを付与する。不織布の前後での圧力損失が1.0kPaに上昇したときに逆洗パルスを付与するように設定し、逆洗パルス30回分を運転する過程を、初期30回とする。濾布通過後の下流においてHEPAフィルターを設置しておき、初期30回の前後のHEPAフィルターの重量を測定しておき、初期30回において濾布を通過したダストの重量を計算しておく。続いて、5秒間に1回逆洗パルスを付与するように設定し、逆洗パルス5000回分を運転する過程を、エージングとする。続いて、不織布の前後での圧力損失が1.0kPaに上昇したときに逆洗パルスを付与するように設定を戻して、逆洗パルス10回分を運転する過程を、安定化とする。続いて、不織布の前後での圧力損失が1.0kPaに上昇したときに逆洗パルスを付与する設定のまま、逆洗パルス30回分を運転する過程を、最後30回とする。濾布通過後の下流においてHEPAフィルターを設置しておき、最後30回の前後のHEPAフィルターの重量を測定しておき、最後30回において濾布を通過したダストの重量を計算しておく。
【0094】
[初期出口ダスト濃度]
上記JIS集塵性能処理の初期30回において、不織布を通過したダストの濃度を初期出口ダスト濃度(mg/m)とする。計算式は、
{初期30回の間にHEPAフィルターに捕捉されたダスト量(mg)}/{濾過面積(m)×濾過風速(m/min)×初期30回の運転時間(min)}
である。
【0095】
[最終出口ダスト濃度]
上記JIS集塵性能処理の最後30回において、不織布を通過したダストの濃度を最終出口ダスト濃度(mg/m)とする。計算式は、
{最後30回の間にHEPAフィルターに捕捉されたダスト量(mg)}/{濾過面積(m)×濾過風速(m/min)×最後30回の運転時間(min)}
である。
【0096】
[初期圧力損失]
上記JIS集塵性能処理の初期30回のダスト供給を開始する前の、濾過風速2m/minにおける不織布前後の圧力損失を、初期圧力損失(kPa)とする。
【0097】
[最終圧力損失]
上記JIS集塵性能処理の最後30回を終了した後に、ダスト供給を停止した時の、濾過風速2m/minにおける不織布前後の圧力損失を、最終圧力損失(kPa)とする。
【0098】
[パルス付与後の不織布の様子]
上記JIS集塵性能処理の最後30回を終了した後に、不織布サンプルを取りだし、サンプルの表面状態を目視で観察する。大きな異常が認められない場合には○、リテーナの当たる部分などに部分的に、多少のももけや磨り減りの形跡が認められる場合には△、リテーナの当たる部分などに部分的に、かなりのももけや磨り減りの形跡が認められ、裏面が透けて見えていたり、スクリムが露出しかけている場合には×、をつけて評価した。
【0099】
以下に本実施例に用いたPPS樹脂の調整方法を参考例として説明する。
【0100】
[参考例1]フラッシュ法PPS樹脂の調製
撹拌機および底に弁のついたオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム水溶液8267g(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2925g(70.20モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)13860.00g(140.00モル)、酢酸ナトリウム2187g(26.67モル)、及びイオン交換水10500gを仕込み、常圧で窒素を通じながら240℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14740gおよびNMP280.0gを留出したのち、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.08モルであった。また、硫化水素の飛散量は仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.023モルであった。
【0101】
次に、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)10250g(69.76モル)、NMP6452g(65.17モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、200℃から250℃まで0.8℃/分の速度で昇温し、250℃で70分保持した。次いで、250℃から278℃まで0.8℃/分の速度で昇温し、278℃で78分保持した。オートクレーブ底部の抜き出しバルブを開放し、窒素で加圧しながら内容物を攪拌機付き容器に15分かけてフラッシュし、250℃でしばらく撹拌して大半のNMPを除去した。
【0102】
得られた固形物およびイオン交換水76リットルを撹拌機付きオートクレーブに入れ、70℃で30分洗浄した後、ガラスフィルターで吸引濾過した。次いで70℃に加熱した76リットルのイオン交換水をガラスフィルターに注ぎ込み、吸引濾過してケークを得た。
得られたケークおよびイオン交換水90リットルを、撹拌機付きオートクレーブに仕込み、オートクレーブ内部を窒素で置換した後、192℃まで昇温し、30分保持した。その後オートクレーブを冷却して内容物を取り出した。
【0103】
内容物をガラスフィルターで吸引濾過した後、これに70℃のイオン交換水76リットルを注ぎ込み吸引濾過してケークを得た。得られたケークを窒素気流下、120℃で乾燥することにより、フラッシュ法乾燥PPS樹脂粒子を得た。
【0104】
得られたフラッシュ法PPS樹脂は、MFRが198g/10分であった。
【0105】
[参考例2]クエンチ法PPS樹脂の調整
オートクレーブに、47%水硫化ナトリウム9.44kg(80モル)、96%水酸化ナトリウム3.43kg(82.4モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)13.0kg(131モル)、酢酸ナトリウム2.86kg(34.9モル)、及びイオン交換水12kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら235℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水17.0kgおよびNMP0.3kg(3.23モル)を留出したのち、反応容器を160℃に冷却した。硫化水素の飛散量は2モルであった。
【0106】
次に、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)11.5kg(78.4モル)、1,2,4−トリクロロベンゼン0.007kg(0.04モル)、NMP22.2kg(223モル)を追添加し、反応容器を窒素ガス下に密封し、400rpmで撹拌しながら、200℃から270℃まで0.6℃/分の速度で昇温した。
【0107】
270℃で30分経過後、水1.11kg(61.6モル)を10分かけて系内に注入し、270℃で更に反応を75分間継続した。その後、水1.60kg(88.8モル)を系内に再度注入し、240℃まで冷却した後、210℃まで0.4℃/分の速度で冷却し、その後室温近傍まで急冷した。NMPの使用量は、スルフィド化剤1モルに対し、4.5モルであった。
【0108】
内容物を取り出し、32リットルのNMPで希釈後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別した。得られた粒子を再度NMP38リットルで85℃で洗浄した。その後67リットルの温水で5回洗浄、濾別し、クエンチ法PPS樹脂粒子を得た。これを、60℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥した。得られたクエンチ法PPS樹脂はMFRが169g/10分であった。
以下に、本発明において試作・評価した実施例および比較例を記載する。
【0109】
<実施例1>
適度に熱酸化処理されたフラッシュ法PPS樹脂からなる繊維を用いた不織布を製造した。
【0110】
すなわち、参考例1のフラッシュ法PPS樹脂を用い、200℃でメルトフローレイトが152g/10分になるまで大気中で2.5時間の熱酸化処理を行った。熱酸化処理は、熱風循環式乾燥機(エスペック社SHPS−222)を用い、PPS樹脂をステンレスバットに入れて乾燥機に投入した。得られたPPS粉粒体を、日本製鋼所社製TEX30型2軸ベント付き押出機で、シリンダー設定温度を290℃に設定し、160rpmのスクリュー回転にて溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。その後、165℃で5時間真空乾燥を行った後、該ポリマーを用いて、公知の溶融紡糸設備を用い、紡糸温度320℃、吐出量46.1g/分、引取速度1000m/分にて巻き取り、461dtex、72フィラメントの未延伸糸を得た。この未延伸糸を、延伸倍率3.2倍、第1ホットローラー温度90℃、第2ホットローラー温度150℃の延伸機で延伸をおこない144dtex、72フィラメントの延伸糸を得た。本単糸繊度2dtexの延伸糸を多数引き揃え、押し込み式機械捲縮機で捲縮を付与し、135℃にて無緊張下で熱セットし、51mm長さにカットして、適度に熱酸化処理されたPPSステープル繊維を得た。得られた適度に熱酸化処理されたPPSステープル繊維を、通常の方法に従って、カード、クロスラッパー、ニードルパンチの各工程を経て、目付250g/m、見掛け密度0.35g/cmの不織布を得た。
【0111】
紡糸時の糸切れ頻度は10時間/1回、初期口金濾圧に対する10時間紡糸後の口金濾圧上昇率は2%であった。
【0112】
本不織布から抜き取った繊維は、糸強度3.4cN/dtex、糸伸度65%、L*値55.3であった。この繊維の分子量分布を測定したところMw/Mn=3.83、Mz/Mw=1.93であり、繊維のメルトフローレートは164g/10分、さらに揮発成分を定量化するためTG−DTAにて320℃までの減量を確認したところ減量率は0.2%であった。これらの結果を表1に記載する。
【0113】
この不織布をバグフィルター濾布として、性能評価を行った。得られた結果を、表2に記載する。表2中においてdtexをTと略して表記する。本濾布は、バグフィルター濾布として使用できるだけの性質を備えていた。
【0114】
<実施例2>
適度に熱酸化処理されたフラッシュ法PPS樹脂とクエンチ法PPS樹脂とのブレンドされたペレットからなる繊維を用いた不織布を製造した。
【0115】
すなわち、参考例1のフラッシュ法PPS樹脂を用い、実施例1と同様に熱酸化処理を行った。得られたPPS粉粒体と参考例2のクエンチ法PPS樹脂粉粒体を50:50でブレンドし、実施例1と同様にペレット化した。このペレットのMFRは161g/10分であった。
【0116】
このペレットを用いて、実施例1と全く同じ工程で、適度に熱酸化処理されたフラッシュ法PPS樹脂とクエンチ法PPS樹脂とのブレンドされたペレットからなるPPSステープル繊維を得た。得られたPPSステープル繊維を用いて、実施例1と全く同じ工程で、不織布を得た。
【0117】
紡糸時の糸切れ頻度は9時間/1回、初期樹指圧に対する10時間紡糸後の樹脂内圧上昇率は2%であった。
【0118】
かかる不織布から抜き取った繊維は、糸強度3.4cN/dtex、糸伸度69%、L*値69.3であった。この繊維の分子量分布を測定したところMw/Mn=3.93、Mz/Mw=1.92であり、繊維のメルトフローレートは173g/10分、さらに揮発成分を定量化するためTG−DTAにて320℃までの減量を確認したところ減量率は0.2%であった。これらの結果を表1に記載する。
【0119】
<実施例3>
適度に熱酸化処理されたフラッシュ法PPS樹脂からなる繊維とクエンチ法PPS樹脂からなる繊維との混綿からなる不織布を製造した。
【0120】
実施例1で用いた適度に熱酸化処理されたPPSステープル繊維を用意した。一方、参考例2のクエンチ法PPS樹脂粉粒体を用いて、実施例1と全く同じ工程によって、クエンチ法PPS樹脂からなるPPSステープル繊維を得た。これら2つのステープル繊維を50:50で混綿して、実施例1と全く同じ工程によって、2種類のPPS繊維が混綿された不織布を得た。
【0121】
この不織布は色の薄い繊維と色の濃い繊維からなっており、色の濃い繊維を選択して抜き取って評価したところ、糸強度3.4cN/dtex、糸伸度65%、L*値55.3であった。この繊維の分子量分布を測定したところMw/Mn=3.83、Mz/Mw=1.93であり、繊維のメルトフローレートは164g/10分、さらに揮発成分を定量化するためTG−DTAにて320℃までの減量を確認したところ減量率は0.2%であった。これらの結果を表1に記載する。
【0122】
<比較例1>
熱酸化処理されていないフラッシュ法PPS樹脂からなる繊維を用いた不織布を製造した。
【0123】
参考例1のフラッシュ法PPS樹脂を用い、熱酸化処理を施さなかった以外は、実施例1と同様にペレタイズ、乾燥、紡糸、延伸、捲縮、カットしてステープル繊維を製作し、このステープル繊維から不織布を製作した。
【0124】
この比較例での紡糸時の糸切れ頻度は、1時間/1回、初期口金濾圧に対する10時間紡糸後の口金濾圧上昇率は10%であった。
【0125】
この不織布から抜き取った繊維は、糸強度2.8cN/dtex、糸伸度51%、L*値75.3であった。この繊維の分量分布を測定したところMw/Mn=4.13、Mz/Mw=2.08であり、繊維のメルトフローレートは221g/10分、揮発成分を定量化するためTG−DTAにて320℃までの減量を確認したところ減量率は1.2%であった。
【0126】
<比較例2>
過度に熱酸化処理されたフラッシュ法PPS樹脂からなる繊維を用いた不織布を製造した。
【0127】
参考例1のフラッシュ法PPS樹脂を用い、220℃でメルトフローレートが60g/10分になるまで大気中で15時間の熱酸化処理を行った。得られたPPS樹脂粉粒体を用いて、実施例1と同様にペレタイズ、乾燥、紡糸、延伸、捲縮、カットしてステープル繊維を製作し、このステープル繊維から不織布を製作した。
【0128】
この比較例での紡糸時の糸切れ頻度は、1回/7時間、初期口金濾圧に対する10時間紡糸後の口金濾圧上昇率は50%であった。
【0129】
この不織布から抜き取った繊維は、糸強度3.0cN/dtex、糸伸度45%、L*値47.3であった。この繊維の分量分布を測定したところMw/Mn=3.72、Mz/Mw=2.12であり、繊維のメルトフローレートは83g/10分、揮発成分を定量化するためTG−DTAにて320℃までの減量を確認したところ減量率は0.5%であった。
【0130】
<比較例3>
クエンチ法PPS樹脂からなる繊維を用いた不織布を製造した。
【0131】
参考例2のクエンチ法PPS樹脂粉粒体を用いて、実施例1と全く同じ工程によって、クエンチ法PPS樹脂からなるPPSステープル繊維を得た。このステープル繊維から不織布を製作した。
【0132】
この比較例での紡糸時の糸切れ頻度は、1回/8時間、初期口金濾圧に対する10時間紡糸後の口金濾圧上昇率は1%であった。
【0133】
この不織布から抜き取った繊維は、糸強度3.4cN/dtex、糸伸度74%、L*値79.5であった。この繊維の分量分布を測定したところMw/Mn=3.33、Mz/Mw=1.97であり、繊維のメルトフローレートは175g/10分、揮発成分を定量化するためTG−DTAにて320℃までの減量を確認したところ減量率は0.8%であった。
【0134】
<実施例4>
織物を挿入した複合不織布を製造した。
【0135】
実施例1と同様の方法で、適度に熱酸化処理されたPPSステープル繊維2dtex−51mmを得た。得られたPPSステープル繊維を用いて、通常の方法に従って、カード、スライバー、粗紡、精紡の各工程を経て、20番手のPPS紡績糸を得た。得られたPPS紡績糸を用いて、通常の織布工程を経て、目の粗い目付130g/mの平織りのPPS織布を得た。
【0136】
実施例1で得られたPPSステープル繊維を用いて、カード、クロスラッパーを経て目付約200g/mの2枚の交絡無しのPPウェブを得た。
【0137】
これらのPPウェブを用いて、PPSウェブ/PPS織布/PPSウェブの順に3層を積層し、ニードルパンチ工程を得て、目付530g/m、見掛け密度0.40g/cmの複合不織布を得た。
【0138】
この複合不織布をバグフィルター濾布として、性能評価を行った。得られた結果を、表2に記載する。
【0139】
この濾布は、耐熱クリープが2.0%と、実施例1(15%)から大きく改善している濾布であった。
【0140】
<実施例5>
低引張破断伸度のPPSステープル繊維を用いた不織布を製造した。
【0141】
参考例1のフラッシュ法PPS樹脂を用い、実施例1と同様に熱酸化処理を行いペレタイズ化した。このペレットを用いて、実施例1と同じ工程で延伸糸を得た。得られた延伸糸を多数引きそろえ、ローラー間で緊張状態のまま140℃に加熱し、熱セットを実施した。その後、押し込み式機械捲縮機で捲縮を付与し51mm長さにカットして、緊張熱処理されたPPSステープル繊維を得た。
このときの紡糸時の糸切れ頻度は、10時間/1回、初期口金濾圧に対する10時間紡糸後の口金濾圧上昇率は2%であった。
【0142】
得られた緊張熱処理されたPPSステープル繊維を用いて、実施例4と全く同じ工程で、紡績糸を得、紡績糸織物を得た。さらに、緊張熱処理されたPPSステープル繊維を用いて、実施例4と全く同じ工程で、PPSウェブ/PPS織物/PPSウェブの3層構造の目付530g/m、見かけ密度0.40g/cmの複合不織布を得た。
【0143】
この複合不織布から抜き取った繊維は、糸強度3.4cN/dtex、糸伸度37%、L*値55.3であった。この繊維の分子量分布を測定したところMw/Mn=3.83、Mz/Mw=1.93であり、繊維のメルトフローレートは164g/10分、さらに揮発成分を定量化するためTG−DTAにて320℃までの減量を確認したところ減量率は0.2%であった。これらの結果を表1に記載する。
【0144】
この複合不織布をバグフィルター濾布として、性能評価を行った。得られた結果を、表2に記載する。この濾布は、耐熱クリープが1.5%と実施例4(2.0%から改善しているものであった。
【0145】
<実施例6>
フッ素織物を挿入した複合不織布を製造した。
【0146】
実施例1と同様の方法で、適度に熱酸化処理されたPPSステープル繊維2dtex−51mmを得た。
【0147】
織布として、ゴア社の“ラステックス”(R)織布(ポリテトラフルオロエチレン(以下PTFEと呼称)製フィラメント織布、目付200g/m)を用意した。
【0148】
実施例1で得られたPPSステープル繊維を用いて、カード、クロスラッパーを経て目付約200g/mの2枚の交絡無しのPPSウェブを得た。
【0149】
これらのPPSウェブを用いて、PPSウェブ/PTFE織布/PPSウェブの順に3層を積層し、ニードルパンチ工程を得て、目付600g/m、見掛け密度0.45g/cmの複合不織布を得た。
この複合不織布をバグフィルター濾布として、性能評価を行った。得られた結果を、表2に記載する。この濾布は、耐熱強度保持率が82%と、実施例4(61%)から大きく改善している濾布であった。また、耐熱クリープが1.1%と、実施例4(2.0%)から大きく改善している濾布であった。
【0150】
<実施例7>
混紡糸織物を挿入した複合不織布を製造した。
【0151】
実施例1と同様の方法で、適度に熱酸化処理されたPPSステープル繊維2dtex−51mmを得た。
【0152】
PTFEステープル繊維として、東レ株式会社製“トヨフロン”(R)7.4dtex−50mmを用意した。
【0153】
かかるPPSステープル繊維とPTFEステープル繊維を50:50の重量比で混綿し、通常の方法に従って、カード、スライバー、粗紡、精紡の各工程を経て、16番手の混紡紡績糸を得た。得られた混紡紡績糸を用いて、通常の織布工程を経て、目の粗い目付170g/mの平織りの混紡織布を用意した。
【0154】
実施例4と同様に、PPSステープル繊維を用いて、カード、クロスラッパーを経て目付約200g/mの2枚の交絡無しのPPSウェブを得た。
【0155】
これらのPPSウェブを用いて、PPSウェブ/PPS+PTFE混紡紡績糸織布/PPSウェブの順に3層を積層し、ニードルパンチ工程を得て、目付570g/m、見掛け密度0.45g/cmの複合不織布を得た。
この複合不織布をバグフィルター濾布として、性能評価を行った。得られた結果を、表2に記載する。この濾布は、耐熱強度保持率が75%と、実施例4(61%)から改善している濾布であった。また、耐熱クリープが1.5%と、実施例4(2.0%)から改善している濾布であった。
【0156】
<実施例8>
ウエブにガラス繊維を混綿した複合不織布を製造した。
【0157】
実施例1と同様の方法で、適度に熱酸化処理されたPPSステープル繊維2dtex−51mmを得た。
【0158】
ガラス繊維として、6μm直径、長さ50mmのガラス繊維を用意した。
【0159】
織布として、実施例6と同じ、ゴア社の“ラステックス”(R)織布(PTFEフィラメント織布、目付200g/m)を用意した。
【0160】
実施例1のPPSステープル繊維とガラス繊維を50:50の重量比で混綿し、通常の方法に従って、カード、クロスラッパーを経て目付約200g/mの2枚の交絡無しのPPS+ガラス混綿ウェブを得た。
【0161】
かかる混綿ウェブを用いて、PPS+ガラス混綿ウェブ/PTFE織布/PPS+ガラス混綿ウエブの順に3層を積層し、ニードルパンチ工程を得て、目付600g/m、見掛け密度0.4g/cmの複合不織布を得た。
【0162】
この複合不織布をバグフィルター濾布として、性能評価を行った。得られた結果を、表2に記載する。この濾布は、摩耗減量が21mgと、実施例6(35mg)から改善している濾布であった。また、初期出口ダスト濃度と最終出口ダスト濃度がそれぞれ0.26mg/mと0.012mg/mであり、実施例6(0.46mg/mと0.037mg/m)から改善している濾布であった。
【0163】
<実施例9>
上流側のみにウェブにガラス繊維を混綿した複合不織布を製造した。
【0164】
実施例8と同様の方法で、目付約200g/mの交絡無しのPPS+ガラス混綿ウェブを用意した。
【0165】
実施例8と同様の方法で、織布として、“ラステックス”(R)織布(PTFEフィラメント織布、目付200g/m)を用意した。
【0166】
実施例4と同様の方法で、目付約200g/mの交絡無しのPPSウェブを用意した。
【0167】
かかるPPSウェブを用いて、PPS+ガラス混綿ウェブ/PTFE織布/PPSのみのウェブの順に3層を積層し、ニードルパンチ工程を得て、目付600g/m、見掛け密度0.4g/cmの複合不織布を得た。
【0168】
この複合不織布をバグフィルター濾布として、性能評価を行った。得られた結果を、表2に記載する。この濾布は、初期圧力損失と最終圧力損失がそれぞれ0.07kPaと0.28kPaであり、実施例8(0.09kPaと0.35kPa)から改善している濾布であった。
【0169】
<実施例10>
最表面のウェブにガラス繊維を混綿した複合不織布を製造した。
【0170】
目付約100g/mと目付を小さくした以外は実施例8と同様の方法で、交絡無しのPPS+ガラス混綿ウェブを用意した。
【0171】
目付約100g/mと目付を小さくした以外は実施例6と同様の方法で、交絡無しのPPSのみのウェブを用意した。
【0172】
実施例6と同様の方法で、織布として、“ラステックス”(R)織布(PTFEフィラメント織布、目付200g/m)を用意した。
【0173】
実施例6と同様の方法で、目付約200g/mの交絡無しのPPSのみのウェブを用意した。
【0174】
これらのウェブ、織布を用いて、PPS+ガラス混綿ウェブ(100g/m)/PPSのみのウェブ(100g/m)/PTFE織布/PPSのみのウェブ(200g/m)の順に4層を積層し、ニードルパンチ工程を得て、目付600g/m、見掛け密度0.45g/cmの複合不織布を得た。
【0175】
この複合不織布をバグフィルター濾布として、性能評価を行った。得られた結果を、表3に記載する。この濾布は、摩耗減量が21mgと、実施例6(35mg)から改善している濾布であった。また、初期出口ダスト濃度と最終出口ダスト濃度がそれぞれ0.25mg/mと0.012mg/mであり、実施例6(0.46mg/mと0.037mg/m)から改善している濾布であった。
【0176】
<実施例11>
細繊度をウェブに混綿した複合不織布を製造した。
【0177】
実施例1と同様に適度に熱酸化処理されたPPS樹脂ペレットを用意した。実施例1と同様に乾燥し、吐出量を23g/分とした以外は実施例1と同様に未延伸糸を製作し、実施例1と同じ工程で延伸、捲縮、熱セット、カットし、適度に熱酸化処理されたPPSステープル繊維1dtex−51mmを得た。
【0178】
実施例1で用いたのと同じ、適度に熱酸化処理されたPPSステープル繊維2dtex−51mmも用意した。
【0179】
得られた、1dtexのPPSステープル繊維と2dtexのPPSステープル繊維を50:50の重量比で混綿し、通常の方法に従って、カード、クロスラッパーを経て目付約200g/mの2枚の交絡無しのPPSの1dtex+2dtex混綿ウェブを得た。
【0180】
実施例6と同様の方法で、織布として、“ラステックス”(R)織布(PTFEフィラメント織布、目付200g/m)を用意した。
【0181】
これらのウェブ、織布を用いて、PPSの1dtex+2dtex混綿ウェブ/PTFE織布/PPSの1dtex+2dtex混綿ウェブの順に3層を積層し、ニードルパンチ工程を得て、目付600g/m、見掛け密度0.45g/cmの複合不織布を得た。
【0182】
この複合不織布をバグフィルター濾布として、性能評価を行った。得られた結果を、表3に記載する。この濾布は、初期出口ダスト濃度と最終出口ダスト濃度がそれぞれ0.26mg/mと0.014mg/mであり、実施例6(0.46mg/mと0.037mg/m)から改善している濾布であった。
【0183】
<実施例12>
最表面のウェブに細繊度を混綿し、裏面に太繊度を用いた複合不織布を製造した。
【0184】
実施例11と同様の方法で、PPSステープル繊維1dtex―51mmを用意した。
【0185】
実施例11と同様の方法で、PPSステープル繊維2dtex―51mmを用意した。
【0186】
実施例1と同様に適度に熱酸化処理されたPPS樹脂ペレットを用意した。実施例1と同様に乾燥し、吐出量を180g/分とした以外は実施例1と同様に未延伸糸を製作し、実施例1と同じ工程で延伸、捲縮、熱セット、カットし、適度に熱酸化処理されたPPSステープル繊維8dtex−51mmを得た。
【0187】
実施例11と同様に、織布として、“ラステックス”(R)織布(PTFEフィラメント織布、目付200g/m)を用意した。
【0188】
実施例11と同様の工程により、1dtexのPPSステープル繊維と2dtexのPPSステープル繊維を50:50の重量比で混綿し、通常の方法に従って、カード、クロスラッパーを経て目付約100g/mの目付の小さい交絡無しのPPSの1dtex+2dtex混綿ウェブを得た。
【0189】
実施例10と同様の工程により、目付約100g/mの目付の小さい交絡無しのPPS2dtexのみのウェブを用意した。
【0190】
PPS8dtexステープル繊維を用いて、カード、クロスラッパーを経て目付約200g/mの交絡無しのPPS8dtexウェブを得た。
【0191】
これらのウェブ、織布を用いて、PPSの1dtex+2dtex混綿ウェブ(100g/m)/PPSの2dtexのみのウェブ(100g/m)/PTFE織布/PPSの8dtexのみのウェブの順に4層を積層し、ニードルパンチ工程を得て、目付600g/m、見掛け密度0.45g/mの複合不織布を得た。
【0192】
この複合不織布をバグフィルター濾布として、性能評価を行った。得られた結果を、表3に記載する。この濾布は、初期出口ダスト濃度と最終出口ダスト濃度がそれぞれ0.28mg/mと0.015mg/mであり、実施例6(0.46mg/mと0.037mg/m)から改善している濾布であった。さらに、この濾布は、初期圧力損失と最終圧力損失がそれぞれ0.02kPaと0.16kPaであり、実施例6(0.06kPaと0.23kPa)からも、実施例11(0.07kPaと0.30kPa)からも、改善している濾布であった。
【0193】
<実施例13>
最表面にPTFEウェブを積層した不織布を製造した。
【0194】
実施例6と同じ、PPS2dtexウェブ/PTFE織布/PPS2dtexウェブの順に3層を積層された、目付600g/m、見掛け密度0.45g/cmの複合不織布を準備した。
【0195】
ダイキン工業株式会社製“ポリフロンウェブ”(R)目付50g/mを用意した。“ポリフロンウェブ”(R)は、PTFEフィルムを割線して得られる短繊維からなるウェブで、該短繊維には、分枝やループを含むものであった。
【0196】
PPSの不織布に、最表面層として“ポリフロンウェブ”(R)を積層し、水圧20MPaで、速度2m/minのウォータージェットパンチ工程を経て、絡合一体化した。“ポリフロンウェブ”(R)のPTFE短繊維は、水圧により、さらにフィブリル化していた。
【0197】
この複合不織布に最表面層を積層したものをバグフィルター濾布として、性能評価を行った。得られた結果を、表3に記載する。この濾布は、初期出口ダスト濃度と最終出口ダスト濃度がそれぞれ0.19mg/mと0.009mg/mであり、実施例6(0.46mg/mと0.037mg/m)から大きく改善している濾布であった。
【0198】
<実施例14>
最表面にPTFE微多孔膜を積層した複合不織布を製造した。
【0199】
実施例6と同じ、PPS2dtexウェブ/PTFE織布/PPS2dtexウェブの順に3層を積層された、目付600g/m、見掛け密度0.45g/cmの不織布を準備した。
【0200】
ゴア社のPTFE微多孔膜“ゴアテックス”(R)を用意した。
【0201】
PPSの複合不織布に、最表面層として“ゴアテックス”(R)を積層し、ドット柄の熱エンボス工程を経て、接着一体化した。
【0202】
この複合不織布に最表面層であるPTFE微多孔膜を積層した複合不織布をバグフィルター濾布として、性能評価を行った。得られた結果を、表3に記載する。この濾布は、初期出口ダスト濃度と最終出口ダスト濃度がそれぞれ0.16mg/mと0.007mg/mであり、実施例6(0.46mg/mと0.037mg/m)から大きく改善している濾布であった。
【0203】
【表1】

【0204】
【表2】

【0205】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンスルフィド樹脂からなり、ベンゼン環の数が2個のオリゴマー類がポリフェニレンスルフィドポリマー主鎖にグラフトされており、かつポリフェニレンスルフィドポリマー主鎖同士は架橋していない、ポリフェニレンスルフィド繊維を含むことを特徴とする不織布。
【請求項2】
加熱溶融時に、ベンゼン環の数が2個のオリゴマー類の揮発量がフラッシュ法で回収されたポリフェニレンスルフィド樹脂からなる繊維より少ない、ポリフェニレンスルフィド繊維を含むことを特徴とする請求項1に記載の不織布。
【請求項3】
以下の特徴を有するポリフェニレンスルフィド繊維を含むことを特徴とする不織布。
A.分子量分布において、重量平均分子量をMw、数平均分子量をMnとしたときのMw/Mnが3.5以上、4.0以下である。
B.繊維色調を示すL値が50以上75以下である。
C.メルトフローレートが100g/10分以上、500g/10分以下である。
【請求項4】
該ポリフェニレンスルフィド繊維が、さらに下記特徴を有する請求項3に記載の不織布。
D.引張破断伸度が、20%以上50%以下である。
【請求項5】
ポリフェニレンスルフィド樹脂にあらかじめ熱酸化処理を施して、メルトフローレートを100g/10分以上、500g/10分以下としたものを紡糸してなるポリフェニレンスルフィド繊維を含むことを特徴とする不織布。
【請求項6】
該熱酸化処理が、大気中160℃以上260℃以下、1時間以上5時間以下の条件で行われるものであることを特徴とする請求項5に記載の不織布。
【請求項7】
該ポリフェニレンスルフィド樹脂が、フラッシュ法で回収された樹脂であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の不織布
【請求項8】
ポリフェニレンスルフィド樹脂に熱酸化処理を施して当該樹脂のメルトフローレートを100g/10分以上、500g/10分以下に調整する工程と、前記メルトフローレートを調整したポリフェニレンスルフィド樹脂を用いてポリフェニレンスルフィド繊維を溶融紡糸する工程と、前記ポリフェニレンスルフィド繊維を少なくとも一部に用いて不織布を製造する工程とをこの順に含むことを特徴とする不織布の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の不織布または請求項8記載の不織布の製造方法により製造される不織布からなることを特徴とするバグフィルター。

【公開番号】特開2007−31845(P2007−31845A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−212267(P2005−212267)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】