説明

不織布および衛生用品

【解決手段】本発明の不織布は、再生セルロースと、該再生セルロース100重量部に対して3〜30重量部の範囲内の量で配合された高度分岐環状デキストリンとからなる組成物を紡糸してなる繊維から形成されてなることを特徴としており、さらにこの不織布を用いた本発明の衛生用品は、水解して処理することができる。
【効果】本発明の不織布は、乾燥条件では高い引っ張り強度を有するが、湿潤時には溶出した高度分岐環状デキストリンによって引っ張り強度が低下して、優れた水解性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿潤時においては充分な引っ張り強度を保持し、水流中で開繊して溶解分散する性質を有する湿潤応答性不織布およびこの不織布を使用した衛生用品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、介護用品、生理用品、おむつ、清拭布、ウエットティッシュ、ガーゼ、マスク、医療用あるいは介護用着衣等(以下これらを総称して、「衛生用品」と記載することもある)は布等を使用して形成されていたが、近時、布に代わって紙、不織布が使用されることが多くなってきている。こうした紙、不織布からなる上記衛生用品は一回使い切りであり、非常に便利であることから、今後益々その需要の増大が予想される。
【0003】
こうした衛生用品には、例えば尿等の水分を良好に吸収することが必要であり、従って、こうした衛生用品として使用される紙、不織布類は、水分を含有しても、紙、不織布類の形態が維持されることが必要である。このため実際にこうした衛生用品は耐水性を有する紙、不織布類を用いて形成されている。従って、こうした衛生用品は水に不溶であることから、これらを使用した後に水洗トイレ等に流して処理することはできず、一般ゴミとして処理されていた。
【0004】
しかしながら、一度使用された衛生用品は汚物を含んでおり、使用後はできるだけ速やかに処理することが望まれる。こうした使用後の衛生用品を処理する方法として、水洗トイレに流して処理することができれば非常に好適である。
【0005】
ところが、上述のように衛生用品は使用する段階では耐水性が必要であることから、使用された後の衛生用品も当然に優れた耐水性があり、こうした優れた耐水性を有する衛生用品を水洗トイレに流して処理することはできなかった。このように衛生用品において、使用時に必要となる耐水性と使用後に望まれる開繊性とは相反する特性であり、両特性を有する衛生用品の製造は非常に困難であるとされていた。
【0006】
これに対して、特許文献1(特開平4-216889号公報)には、上水及び体液に対
して溶解しにくく、下水に対して溶解しやすい水崩壊性の不織布およびバインダーが開示されている。
【0007】
この公報には、具体的に以下のような組成のバインダーが開示されている。エチレン性不飽和カルボン酸あるいはその無水物と、架橋性単量体と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを必須成分とする平均分子量5000〜10000の共重合体であって、カルボキシル基を一価のアルカリで中和したバインダーである。ここで架橋性不飽和単量体は、N-メチロール(メタ)アクリルアミドまたはそのエーテル化合物であることが示されている。
【0008】
しかしながら、このバインダーは、カルボキシル基が一価のアルカリで中和されているために、含水するとこの一価のアルカリ成分が解離し、この解離した一価のアルカリ成分は皮膚に対する刺激性を有している。また、下水に対して崩壊可能にするためには、上記の重合体の塩を用いる場合には、形成される架橋構造の量および構造が極めて重要な要素となり、こうした樹脂の溶解性を制御するための架橋構造の形成は著しく難しい。
【0009】
また、特許文献2(特開2000−159931号公報)、特許文献3(特開2000−248422号公報)、特許文献4(特開2000−248451号公報)、特許文献
5(特開2001−138424号公報)および特許文献6(特開2001−206818号公報)には、再生セルロースとカチオン性樹脂とアニオン性樹脂とを含有する不織布の発明が開示されている。ここで使用されるカチオン性樹脂の例としてカチオン化デキストリンを使用することが開示されている。
【0010】
一般に、イオン性樹脂を使用せずに再生セルロースだけを用いて製造された繊維、たとえばレーヨン繊維は、親水性が強いため、水を介して繊維が相互に結合するので、湿潤状態で、繊維を引っ張ると、繊維が軋むため、レーヨン繊維から形成された不織布は、水解性を示すとはいえない。
【0011】
しかし、ここにカチオン性樹脂およびアニオン性樹脂を配合した組成物を紡糸して得られた繊維を用いて得られた不織布は水解性を有することが開示されている。このような再生セルロースを紡糸する際には、紡糸液として硫酸と各種金属塩を用いるのが一般的である。しかしながら、上記のようなイオン性樹脂が配合された再生セルロースを紡糸すると、イオン性樹脂と紡糸液中の金属塩とが反応し生産に不具合を生じる場合がある。
【特許文献1】特開平4−216889号公報
【特許文献2】特開2000−159931号公報
【特許文献3】特開2000−248422号公報
【特許文献4】特開2000−248451号公報
【特許文献5】特開2001−138424号公報
【特許文献6】特開2001−206818号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、再生セルロースを用いた水解性を有する新規な不織布を提供することを目的としている。さらに本発明は、この水解性を有する不織布を用いた衛生用品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の不織布は、再生セルロースと、該再生セルロース100重量部に対して3〜30重量部の範囲内の量で配合された高度分岐環状デキストリンとからなる組成物を紡糸してなる繊維から形成されてなることを特徴としている。
【0014】
ここで使用される高度分岐環状デキストリンは、非極性の高度分岐環状デキストリンであり、通常は20℃の水1000mlに対して200g以上の溶解度を有している。
また、本発明の衛生用品は、上記の不織布を用いて形成されている。
【0015】
本発明の不織布は、再生セルロースに所定量の高度分岐環状デキストリンを配合した組成物を紡糸してなる繊維から形成されている。この再生セルロース中の高度分岐環状デキストリンは、水の存在しない乾燥状態では、固体のまま繊維中に含有されており、再生セルロース繊維の特性に特段の影響を及ぼすことはない。しかしながら、本発明の不織布が多量の水と接触すると、この高度分岐環状デキストリンの少なくとも一部が繊維内から溶出する。こうして溶出した高度分岐環状デキストリンが、繊維に対して潤滑剤的に作用することにより、湿潤状態の再生セルロース繊維間に生じている軋みを取り去り、繊維間に生じて不織布を構成させていた係合力を著しく低下させ、個々の繊維を引き抜き易くする。具体的には湿潤したときの不織布の引っ張り強度が、乾燥時の引っ張り強度に比べて著しく低下する。
【0016】
このように本発明では、上記のような高度分岐環状デキストリン含有再生セルロース繊維の湿潤時における溶出高度分岐環状デキストリンによってもたらされる繊維相互の係合
力の低下を利用して、不織布に水解性を付与しているのである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の不織布は、上記のように、非極性の高度分岐環状デキストリンを再生セルロース中に含有する繊維から形成されているので、良好な水解性を有する。
従って、本発明の不織布を用いて形成された衛生用品を用いることにより、汚物を含む表面不織布を水解性を有していない部分から分離して水洗トイレなどで水解処理することができる。
【0018】
さらに、本発明の不織布は、これを形成する繊維が極性基を含有していないので、皮膚に対する刺激性もない。
しかも、本発明の不織布を形成する繊維を構成する成分単位として、通常条件下では実質的にイオン性基を有する成分は含まれていないので、再生セルロースの紡糸浴中にある金属塩と高度分岐環状デキストリンとが反応することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に本発明の不織布および衛生用品について、具体的に説明する。
本発明の不織布は、イオン性基を有しない高度分岐環状デキストリンが特定量配合された再生セルロース繊維から形成されている。
【0020】
本発明の不織布を形成する繊維は、基材樹脂として再生セルロースを用いて形成されている。
本発明で基材樹脂として使用される再生セルロースとしては、ビスコースレーヨン、ポリノジックレーヨン、キュプラおよび鹸化アセテートがあり、本発明ではこれらの樹脂の中から選択して使用する。
【0021】
従って、本発明では、上記樹脂を単独で使用することもできるし、組み合わせて使用することもできる。
特に本発明ではビスコースレーヨンを単独であるいは他の再生セルロースと組み合わせて使用することが好ましい。
【0022】
たとえば、ビスコースレーヨンの製造に際しては、原料となるセルロースを水酸化ナトリウムで処理して、セルロースの6位のヒドロキシル基をナトリウム塩としたアルカリセルロースを形成する。
【0023】
【化1】

【0024】
これを二硫化炭素と混合して放置すると、セルロースキサントゲン酸ナトリウムになって分子間の水素結合を失い、溶解してコロイド溶液となる(ビスコース)。
【0025】
【化2】

【0026】
このビスコースを細い穴から希硫酸中に噴出させて湿式紡糸をすれば、セルロースキサントゲン酸ナトリウムは、セルロースに戻って分子間の水素結合により繊維として再生する。
【0027】
【化3】

【0028】
ただし上記式において、nは、それぞれ独立に、1000〜10000000の範囲内にある。
本発明で使用する再生セルロースは、ビスコースレーヨン、ポリノジックレーヨン、キュプラおよび鹸化アセテートのいずれかであり、たとえば上記のようにビスコースをノズルから紡糸浴中に吐出することにより得られる。
【0029】
本発明においては、上述のように、例えば、ビスコースレーヨンを製造する際に、紡糸されるビスコースに所定量の高度分岐環状デキストリンを配合して紡糸する。
本発明で使用する高度分岐環状デキストリンは、一般に知られているデキストリンとは異なり、環状構造を有する高度に分岐した高分子のデキストリンであり、分子量が高いのにも拘わらず、水に対する溶解性に優れている。
【0030】
本発明で使用する高度分岐環状デキストリンの平均分子量は、通常は105〜107の範囲内にある。本発明で使用する高度分岐環状デキストリンは、多数の分岐を有するとともに環状構造を有しており、この化合物の平均分子量は相当高いが、この平均分子量が、この化合物の水に対する溶解性が及ぼす影響は小さく、上記のような平均分子量を有する任意の高度分岐環状デキストリンは高濃度で水に溶解する。また、本発明で使用する高度分岐環状デキストリンは、従来から使用されていたデキストリンとは異なり、分子量分布が狭いという特性を有しており、本発明で好適に使用される高度分岐環状デキストリンの90%以上の分子が、上記範囲内の分子量を有している。
【0031】
本発明で使用する高度分岐環状デキストリンは、従来から使用されているデキストリンと比較して、長いブドウ糖鎖を有しており、特に、この高度分岐環状デキストリンの分岐中には、ブドウ糖が11個〜17個結合した分子鎖が多く存在する。このような長いブドウ糖鎖は、水中で螺旋構造を採り易く、こうした構造によって、本発明の高度分岐環状デキストリンが高濃度で水に溶解すると考えられる。そして、本発明で使用する高度分岐環状デキストリンが上記のような構造を有して水に安定に溶解するために、不織布を水に浸漬すると速やかに溶解し、交絡を形成している繊維の周囲に纏わりついて繊維交絡部分に生ずる繊維相互の軋みを取り除く潤滑剤のように作用して、本発明の不織布に優れた水解性を付与すると考えられる。
【0032】
本発明の高度分岐環状デキストリンは、コーンスターチなどのアミロペクチンにブランチングエンザイムなどの酵素を作用させることにより、酵素をアミロペクチンのクラスター構造の継ぎ目に作用させて、環状化を行いながら分解することにより製造することができる。このようにブランチングエンザイムのような酵素を用いることにより、得られる高度分岐環状デキストリンには、デンプンの基本的な構造単位であるクラスター構造をそのまま保持されている。
【0033】
このような高度分岐環状デキストリンとしては、上記のようにして合成したものを使用することもできるし、クラスターデキストリン(登録商標、江崎グリコ(株)製)などの市販品を使用することもできる。
【0034】
本発明では、上記のように高度分岐環状デキストリンを使用するものであるが、本発明の不織布の特性を損なわない範囲内、たとえば、配合するデキストリン類総重量100重量部中に5〜30重量部の範囲内の量で、でアミロデキストリン(温水可溶性)、エリトロデキストリン(冷水可溶性)、アクロデキストリン(冷水可溶性)などの環状構造を有
しない低分子量のデキストリンを併用することもできる。
【0035】
高度分岐環状デキストリンは、セルロースキサントゲン酸ナトリウムになって溶解したコロイド溶液(ビスコース)に添加して攪拌することにより、ビスコース中に容易に混合することができる。
【0036】
上記のような高度分岐環状デキストリンは、20℃の水1000mlに対して通常は200g以上の溶解度を有しており、さらに好適な高度分岐環状デキストリンは、20℃の水1000mlに対して通常は200〜990gの範囲内の溶解度を有する。
【0037】
本発明では上記のような高度分岐環状デキストリンを、再生セルロース100重量部に対して通常は3〜30重量部の範囲内の量、好ましくは3〜10重量部の範囲内の量になるようにビスコースに添加して紡糸する。
【0038】
上記のように練り込み剤を含有するビスコースを紡糸浴で紡糸する場合、練り込み剤が紡糸浴に溶出する。そのためイオン性樹脂を用いた場合、樹脂と紡糸浴中の金属塩とが反応する場合がある。
【0039】
しかしながら、本発明で使用される再生セルロースには、配合されている高度分岐環状デキストリンはイオン性基を形成するようなイオン性の成分単位を含有しておらず、反応することがない。
【0040】
本発明で使用することができる再生セルロースである、ポリノジックレーヨン、キュプラおよび鹸化アセテートも上記と同等の方法により製造することができ、上記と同様の問題がある。
【0041】
本発明の不織布を形成する繊維は、上記のような高度分岐環状デキストリンを含有するビスコースを細い穴から希硫酸中に噴出させて湿式紡糸することにより製造することができる。
【0042】
本発明で使用するビスコース中には、得られる繊維を通常条件下でカチオン化し得るようなイオン性の成分単位を含有しておらず、上記のような紡糸浴での反応がない。
本発明の不織布を形成する繊維は、上記のように高度分岐環状デキストリンを含有するビスコースを、通常の方法に準じて、ノズルから紡糸浴中に吐出することにより製造することができる。
【0043】
このときの繊維径は、通常は1.1〜5.5dtexの範囲内、好ましくは3.3〜5.5dtexの範囲内にある。繊維径を上記範囲内にすることにより、好適な水解性を得ることが
できる。
【0044】
上記のようにして形成された繊維を、カード機を用いて繊維ウェブを形成する。このようにウエブを形成することにより、繊維に多数の交絡を形成することができ、得られた不織布の乾燥時における引っ張り強度を高くすることができる。
【0045】
また、上記のようにして形成された繊維の長さは、長いほど、湿潤時における不織布の水解性が低くなり、短いほど、湿潤時の不織布の水解性は良好になる。しかしながら、繊維長が極端に短いと、乾燥時不織布の引っ張り強度が充分に発現せず、長すぎると、湿潤時における不織布に水解性が発現しないことがある。
【0046】
本発明においては、上記のような乾燥時における不織布の強度と湿潤時における水解性
とを考慮して、平均繊維長を通常は100mm以下、好ましくは30mmを超え50mm以下にすることが望ましい。
【0047】
本発明で使用する繊維は、上記のようにイオン性基を有していない高度分岐環状デキストリンが含有されているが、高度分岐環状デキストリンの他にも、繊維にイオン性を付与しない他の成分を配合することができる。
【0048】
本発明では、上記のような再生セルロース繊維を用いて不織布を製造する。
本発明の不織布は、種々の方法により製造することができるが、たとえば、上記のようなウェブが形成された再生セルロースを高速水流噴射法(ウォータージェット法)を採用して不織布を製造することができる。
【0049】
上記のように高速水流噴射法(ウォータージェット法)を採用する場合、噴射する水流の圧力を、たとえば30〜80kg/cm2の圧力で、水とともに上記繊維を噴射させて、繊維を選択的に捕捉して交絡を形成させ、捕捉された繊維の集合体を適当な温度、たとえば90〜150℃の範囲内の温度で乾燥させることにより、本発明の不織布を製造することができる。
【0050】
本発明の不織布は、たとえば上記のようにして製造することができるが、本発明の不織布の目付が、30〜80g/m2の範囲内、好ましくは40〜50g/m2の範囲内にすることにより、皮膚の表面に直接接触した場合に、非常に肌触りのよい不織布とすることができる。
【0051】
上記のようにして製造された不織布は、イオン性基を有していない高度分岐環状デキストリンを含む再生セルロースで形成されており、乾燥時には、繊維に含まれる高度分岐環状デキストリンは特に不織布に対して影響は及ぼさない。この不織布は、乾燥時には、繊維が相互に軋むことから、不織布を形成する再生セルロースが引き抜かれることがほとんどなく、高い引っ張り強度を有している。ところが、この不織布が多量の水を含むと繊維中に含まれる高度分岐環状デキストリンの少なくとも一部が溶出して再生セルロース繊維の周囲に潤滑剤的に作用し、再生セルロース繊維間に生じている軋みを緩和して不織布を形成する繊維が引き抜かれやすくなり、水流によって不織布が水解性を有するようになる。
【0052】
このように本発明の不織布を構成する繊維自体は、カチオン性あるいはアニオン性を有していないが、再生セルロース繊維中に含まれる高度分岐環状デキストリンが、水が存在すると溶出することによって、再生セルロース繊維相互に生じている軋みを緩和して、繊維の引き抜きを容易にすることにより、再生セルロース繊維を用いた不織布が水解性を有するようになる。こうした水解性の付与のメカニズムは、短繊維を用いて水解性を付与する方法、繊維に極性基を導入して、水の存在下に極性基を有する繊維の水解性を発現させる方法とも異なるものである。
【0053】
本発明の不織布は、たとえば上記のようにして得られた再生セルロースをカード機を用いて繊維ウエブを形成し、次いでこの繊維ウエブを高速水流噴射法(ウォータージェット法に供し、噴射する水流の圧力を所定の圧力、たとえば30〜80kg/cm2、好適には40〜50kg/cm2の範囲内の水圧で繊維ウエブに交絡を形成させた後、適当な温度、たとえば100〜150℃の温度、好適には110〜130℃の範囲内の温度で乾燥させることにより、本発明の不織布が得られる。なお、上記の説明はウォータージェット法により本発明の不織布を製造する例を示したが、本発明の不織布はウォータージェット法以外の通常採用されている方法により製造することができるのは勿論である。
【0054】
上記のようにして製造された本発明の不織布は、乾燥状態では、練り込まれた高度分岐環状デキストリンがこの不織布に特に影響を及ぼすことはなく、再生セルロースの有する軋みに起因した高い引っ張り強度は保持され、しかも再生セルロースが本質的に有している良好な使用感が損なわれることはない。
【0055】
しかしながら、本発明の不織布が、多量の水と接触することにより、再生セルロース中に練り込まれていた高度分岐環状デキストリンの少なくとも一部が溶出して繊維に纏わり付き繊維間で潤滑剤的に作用して再生セルロース間に生じていた軋みを低下させて、交絡を形成して不織布を構成している再生セルロースが引き抜きやすくなる。すなわち、不織布が水を多量の水を含むことにより、繊維を拘束して不織布を形成している繊維相互の軋みが低下して繊維が引き抜きやすくなり、多量の水を含んだ状態の不織布の引っ張り強度は著しく低下する。このために本発明の不織布は、乾燥時には高い強度を有するが、多量の水の存在によって、この強度が低下して不織布を形成する繊維が引き抜かれやすくなり、水流によって開繊して水解するという特性、すなわち湿潤応答性を有するようになる。
【0056】
上記のような特性を有する本発明の不織布は、水流に対して水解するという特性を利用して、衛生用品として使用することができる。
本発明の不織布を用いて形成される衛生用品としては、介護用品、乳幼児用品、生理用品、おむつ、清拭布、ウエットティッシュ、ガーゼ、マスクおよび医療用あるいは介護用着衣などがあり、従来これらの衛生用品は布で形成されていたが、これを本発明の不織布を用いることにより、用尽された衛生用品を廃棄物としてストックすることなく、用尽された衛生用品を即座に水洗トイレ等に流して水解させて処理することができる。
【0057】
従って、汚れた衛生用品あるいは細菌学的に汚染された衛生用品を容易に水解して廃棄処理することができるので、医療、育児、介護などの現場環境を常に清潔に保つことができる。しかも、本発明の不織布は、再生セルロースと高度分岐環状デキストリンとから形成されており、開繊後、不織布を形成する成分は、微生物によって分解されるので、土中、水中で微生物により分解され環境に対する負荷が少ない。
【実施例】
【0058】
次に本発明の不織布および衛生用品について、実施例を示して具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
〔実施例1〕
常法に従って、セルロースを水酸化ナトリウムで処理し、次いで二硫化炭素と混合して放置してコロイド状のビスコースを調製した。
【0059】
このビスコースの固形分に95重量部に対して5重量部の高度分岐環状デキストリン(江崎グリコ(株)製、クラスターデキストリン、平均分子量:5×106、20℃の水1
000mlに対する溶解度400g)を添加して、混合した。
【0060】
このコロイド溶液を常法に従いノズルから紡糸浴に押し出して平均繊維径が3.3dtexの高度分岐環状デキストリン含有ビスコースレーヨンを製造し、最終的に38mm長さのビスコースレーヨン繊維を得た。
【0061】
上記のようにして得られたビスコースレーヨンをカード機にかけてウエブを形成し、こうしてウエブが形成された繊維を、ウォータージェット法により不織布を製造した。このときの水圧は50kg/cm2に設定した。
【0062】
得られた水を含む不織布を120℃で約1分間加熱して、水を除去して本発明の不織布を得た。
この不織布の目付は、40g/m2であり、柔らかであった。
【0063】
この不織布から幅50mmの試験片を作成し、チャック間隔が100mmに引っ張り強度測定装置に試験片を装着し、引っ張り速度300mm/分の速度で縦方向及び横方向に延伸し
て最大荷重を測定し、乾燥時引っ張り強度とした。
【0064】
同様にして調製した試験片を、大過剰の水に5分間浸漬して、上記と同様にし縦方向及び横方向に延伸して最大荷重を測定し、湿潤時引っ張り強度とした。
結果を表1に示す。
【0065】
〔比較例1〕
実施例1において、高度分岐環状デキストリンを加えなかった以外は同様にしてビスコースレーヨンを製造し、これを用いて同様にして不織布を製造した。
【0066】
得られた不織布について、実施例1と同様にして、乾燥時引っ張り強度、湿潤時引っ張り強度を測定した。
結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
上記表1からも明らかなように、本発明の不織布の湿潤時の引っ張り強度は、乾燥時の引っ張り強度よりも著しく低くなる。
これは、湿潤時には繊維から高度分岐環状デキストリンの少なくとも一部が溶出して繊維に纏わり付き、繊維相互の軋み状態を低下させることにより、繊維の引き抜きが容易になると考えられる。
【0069】
さらに、この湿潤時における引っ張り強度を、高度分岐環状デキストリンを配合していない比較例1の不織布と対比してみると、本発明の不織布における湿潤時の引っ張り強度は高い値を示す。
【0070】
これらの結果から、本発明の不織布は、水に浸漬することによって、繊維を交絡点で相互に係合している繊維間の軋みが、溶出した高度分岐環状デキストリンによって滅失し、繊維相互の係合状態が非常に弱くなることがわかる。
【0071】
従って、本発明の不織布は、乾燥時には好適な強度を有するが、多量の水が介在することによって、繊維相互の係合力が低下して水流によって水解性を示すのである。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の不織布は、再生セルロースに高度分岐環状デキストリンを加えて得られた繊維
を用いて形成されていることから、乾燥時には再生セルロース繊維からなる不織布と同等の特性が維持される。しかしながら、本発明の不織布が多量の水を含むことにより、再生セルロース繊維中に存在していた高度分岐環状デキストリンの少なくとも一部が溶出して、不織布を形成する繊維間に生じていた軋みが低下し、繊維が引き抜かれ易くなり、この不織布は水解性を示すようになる。
【0073】
さらに、本発明の不織布を形成する再生セルロースには、実質的にイオン性基を有する繰り返し単位は含有されていないので、紡糸浴中に含まれる金属塩と反応することもない。
【0074】
また、本発明の不織布を用いて形成された衛生用品は、使用し終えたら多量の水に接触させることで、開繊するので、水解処理が可能であり、この不織布を使用する環境を常に清潔な状態に保つことができ、衛生上、大変有用性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生セルロースと、該再生セルロース100重量部に対して3〜30重量部の範囲内の量で配合された高度分岐環状デキストリンとからなる組成物を紡糸してなる繊維から形成されてなることを特徴とする不織布。
【請求項2】
上記高度分岐環状デキストリンの平均分子量が、105〜107の範囲内にあることを特徴とする請求項第1項記載の不織布。
【請求項3】
上記高度分岐環状デキストリンが、25℃の水1000mlに対して200g以上の溶解度を有することを特徴とする請求項第1項または第2項記載の不織布。
【請求項4】
上記再生セルロースが、ビスコースレーヨン、ポリノジックレーヨン、キュプラおよび鹸化アセテートよりなる群から選ばれるいずれかであることを特徴とする請求項第1項記載の不織布。
【請求項5】
上記不織布を形成する繊維の平均繊維長が、100mm以下であることを特徴とする請求項第1項記載の不織布。
【請求項6】
上記不織布の目付が、30〜80g/m2の範囲内にあることを特徴とする請求項第1項記載の不織布。
【請求項7】
上記不織布を形成する繊維径が、1.1〜5.5dtexの範囲内にあることを特徴とする請求項第1項記載の不織布。
【請求項8】
上記不織布を形成する繊維にウエブが形成されていることを特徴とする請求項第1項記載の不織布。
【請求項9】
上記不織布が、 湿潤応答性を有することを特徴とする請求項第1項に記載の不織布。
【請求項10】
上記請求項第1項乃至第9項のいずれかの項記載の不織布を含むことを特徴とする衛生用品。
【請求項11】
上記衛生用品が、介護用品、乳幼児用品、生理用品、おむつ、清拭布、ウエットティッシュ、ガーゼ、マスクおよび医療用あるいは介護用着衣よりなる群から選ばれるいずれかであることを特徴とする請求項第10項記載の衛生用品。

【公開番号】特開2010−100958(P2010−100958A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272260(P2008−272260)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(000112288)ピジョン株式会社 (144)
【Fターム(参考)】