説明

不織布の製造方法

【課題】良好な風合いを維持しつつ、不織布の強度を高くすることができる不織布の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の不織布の製造方法においては、熱融着性複合繊維を含むウエブに熱風処理を施して該繊維どうしの交点を融着させる。前記複合繊維は、第1樹脂成分及びそれよりも融点又は軟化点が低い第2樹脂成分からなり、第2樹脂成分が繊維表面の少なくとも一部を長さ方向に連続して存在している。第1樹脂成分の融点T1未満で且つ第2樹脂成分の融点T2以上の温度T3で前記ウエブを熱風処理して繊維どうしの交点を融着させた後、更に温度T3よりも高く且つT1未満の温度である温度T4で熱風処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は不織布の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱融着性複合繊維を含むウエブに熱風を吹き付けて繊維の交点を融着し、不織布を製造する方法が知られている。例えば、エチレン系重合体が主体成分の鞘部と、プロピレン系重合体の芯部とを有し、単糸繊度が0.2〜1デニールの芯鞘型複合短繊維から構成されたカードウエブを熱風により熱処理して、繊維どうしの接触点を接着させる熱接着不織布の製造方法が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1の記載によれば、この製造方法で製造された不織布は、細繊度の芯鞘型複合短繊維から構成されていることに起因して、不織布強力が高く、嵩高で保水性が優れているとされている。
【0003】
前記の技術とは別に、構成繊維として熱伸長繊維を用いた不織布の製造方法が知られている(特許文献2参照)。この製造方法では、潜在的自発伸長性を有する高収縮性ポリエステル繊維のウエブに交絡処理を施した後、収縮熱処理を施して交絡密度を増大させている。特許文献2の記載によれば、交絡密度の増大によりシート強力が高くなるとされている。しかしその反面、交絡密度の増大はシートの風合いを硬くする原因になる。そこで特許文献2では、収縮熱処理を施した後にシートに対して自発伸長熱処理を施すことで、シートのドレープ性を向上させている。
【0004】
【特許文献1】特開平7−70899号公報
【特許文献2】特開昭53−58074号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、前述した従来技術の方法よりも、得られる不織布の各種特性が向上した不織布の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、熱融着性複合繊維を含むウエブに熱風処理を施して該繊維どうしの交点を融着させる不織布の製造方法において、
前記複合繊維は、第1樹脂成分及びそれよりも融点又は軟化点が低い第2樹脂成分からなり、第2樹脂成分が繊維表面の少なくとも一部を長さ方向に連続して存在しており、
第1樹脂成分の融点T1未満で且つ第2樹脂成分の融点T2以上の温度T3で前記ウエブを熱風処理して繊維どうしの交点を融着させた後、更に温度T3よりも高く且つT1未満の温度である温度T4で熱風処理する不織布の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、良好な風合いを維持しつつ、不織布の強度を高くすることができる。特に不織布の構成繊維として熱伸長性複合繊維を用いた場合には、不織布の強度を高くすることができる上に、不織布を嵩高にすることができる。また不織布の表面が立体的な外観を呈するようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本実施形態の不織布の製造方法は、(イ)ウエブ形成工程、(ロ)圧接着部形成工程、(ハ)第1の熱風処理工程、及び(ニ)第2の熱風処理工程の四つに大別される。以下、それぞれの工程について説明する。
【0009】
ウエブ形成工程において用いられるウエブ形成手段としては、ウエブの構成繊維に応じ適宜適切なものが選択される。ウエブが例えば短繊維からなる場合には、カード機を用いて短繊維を開繊するカード法や、短繊維を空気流に搬送させてネット上に堆積させる方法(エアレイ法)を採用することができる。カードの場合、短繊維の繊維長は30〜70mmとすることが適切である。エアレイ法の場合、短繊維の繊維長は3〜30mmとすることが適切である。一方、ウエブが例えば長繊維からなる場合には、スパンボンド法、メルトブローン法、スピニングブローン法などを採用することができる。
【0010】
ウエブにはその構成繊維として熱融着性複合繊維が含まれている。ウエブは、熱融着性繊維のみから構成されていてもよく、或いは熱融着性繊維を含むと共に他の種類の繊維を含んで構成されていてもよい。ウエブがその構成繊維として熱融着性複合繊維以外の繊維を含む場合、ウエブ中における熱融着性複合繊維の割合(この割合は、目的とする不織布中の熱融着性複合繊維の割合でもある)は、50〜95重量%、特に70〜95重量%であることが好ましい。一方、熱融着性複合繊維以外の繊維の割合は、好ましくは5〜50重量%、更に好ましくは20〜30重量%である。熱融着性複合繊維以外の繊維としては、本来的に熱融着性を有さない繊維(例えばコットンやパルプ等の天然繊維、レーヨンやアセテート繊維など)が挙げられる。
【0011】
ウエブは、一般には熱融着性複合繊維を含む単層構造のものである。しかし、このことはウエブが単層構造に限定されることを意味するものではない。例えば、ウエブは熱融着性複合繊維を含む一層以上の層と、熱融着性複合繊維を含まない一層以上の層とを適宜重ね合わせた多層構造のものであってもよい。或いは、ウエブは熱融着性複合繊維を含む一層以上の層と、該熱融着性複合繊維とは異なる種類の熱融着性複合繊維を含む一層以上の層とを適宜重ね合わせた多層構造のものであってもよい。更に、ウエブは、熱融着性複合繊維を含む一層以上の層と、該熱融着性複合繊維とは異なる種類の熱融着性複合繊維を含む一層以上の層と、熱融着性複合繊維を含まない一層以上の層とを適宜重ね合わせた多層構造のものであってもよい。
【0012】
ウエブの坪量は、目的とする不織布の具体的な用途に応じて適切な範囲が選択される。ウエブの坪量は10〜80g/m2、特に15〜60g/m2であることが好ましい。なお、ウエブの坪量は、最終的に得られる不織布の坪量とほぼ一致している。
【0013】
ウエブに含まれる熱融着性複合繊維は、2種以上の材料から構成されている。熱融着性複合繊維は、一般的には2種の材料から構成されている2成分系複合繊維である。熱融着性複合繊維が2成分系複合繊維である場合、該複合繊維は、第1樹脂成分及びそれよりも融点又は軟化点が低い第2樹脂成分からなり、第2樹脂成分が繊維表面の少なくとも一部を長さ方向に連続して存在している形態をしている。このような形態を有する複合繊維としては、芯鞘型複合繊維や、繊維の周方向に第1樹脂成分と第2樹脂成分とが交互に配置されているタイプの複合繊維が挙げられる。前者の複合繊維は、同心型のものと、偏心型のものに分類できる。後者の複合繊維はサイド・バイ・サイド型のものと、分割型のものに分類できる。
【0014】
熱融着性複合繊維の繊度に特に制限はない。目的とする不織布の具体的用途に応じて適切な値が選択される。一般的な範囲として1.0〜10dtex、特に1.7〜8.0dtexであることが、繊維の紡糸性やコスト、カード機通過性、生産性、コスト等の点から好ましい。
【0015】
熱融着性複合繊維を構成する第1樹脂成分及び第2樹脂成分としては、繊維形成可能な種々の樹脂を用いることができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−αオレフィン共重合体などのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂などを、それらの融点又は軟化点に応じて適宜組み合わせて用いることができる。
【0016】
特に、熱融着性複合繊維として、第1樹脂成分の融点よりも低い温度において熱によって伸長可能になっている熱伸長性複合繊維を用いると、得られる不織布の強度を高くすることができる上に、不織布を嵩高にすることができ、また不織布の表面が立体的な外観を呈するようにできるので好ましい。この熱伸長性複合繊維の詳細については後述する。
【0017】
ウエブ形成工程で得られたウエブは、次いで図1に示すようにヒートエンボス装置21に送られ、そこでヒートエンボス加工が施される。ヒートエンボス装置21は、一対のロール22,23を備えている。ロール22は周面が平滑となっている平滑ロールである。一方、ロール23は周面に多数の凸部が形成されている彫刻ロールである。各ロール22,23は所定温度に加熱可能になっている。
【0018】
ヒートエンボス加工は、ウエブ20中の熱融着性複合繊維における第2樹脂成分の融点T2以上で且つ第1樹脂成分の融点T1未満の温度で行われる。ヒートエンボス加工によって、ウエブ20中の熱融着性複合繊維が圧接着される。これによってウエブ20に多数の圧接着部が形成される。個々の圧接着部は面積が0.1〜3.0mm2程度の円形、三角形、矩形、その他の多角形、或いはそれらの組み合わせであり、ウエブ20の全域に亘って規則的に形成されている。また、圧接着部は幅が0.1〜3.0mm程度の連続した直線、曲線などでもよく、目的に応じて適宜選択することができる。熱融着性複合繊維として熱伸長性複合繊維を用いて、目的とする不織布に立体賦形を発現させるためには、圧接着されていない状態の熱融着性複合繊維がある程度存在している必要がある。この観点からエンボス率は1〜25%、更に好ましくは2〜15%であることが好ましい。
【0019】
圧接着部とは、ウエブ20の構成繊維が圧着又は接着されることで形成された結合部をいう。繊維を圧着する手段としては、熱を伴うか又は伴わないエンボス加工、超音波エンボス加工などが挙げられる。一方、繊維を接着する手段としては各種接着剤による結合が挙げられる。本実施形態においては熱を伴うエンボス加工によって圧接着部を形成している。
【0020】
図2(a)にはヒートエンボス加工された後のウエブ20の断面の状態が模式的に示されている。ヒートエンボス加工によって、ウエブ20には多数の圧接着部26が形成されている。圧接着部26においては、熱及び圧力の作用によって熱伸長性複合繊維が圧着されているか、或いは溶融固化して融着している。一方、圧接着部26以外の部分においては、熱伸長性複合繊維は圧着・融着等を起こしていないフリーな状態になっている。
【0021】
再び図1に戻ると、ウエブ20は第1熱風吹き付け装置24に搬送され、第1の熱風処理工程に付される。熱風吹き付け装置24においてはウエブ20は、それに含まれる熱融着性複合繊維における第1樹脂成分の融点T1未満で且つ第2樹脂成分の融点T2以上の温度である温度T3で熱風処理される。具体的には、温度T3に加熱された熱風が、ブロア等の吹き付け装置(図示せず)によってウエブに吹き付けられる。ウエブ20に吹き付けられた熱風はウエブを貫通し、その下に設置されているサクションボックス(図示せず)によって吸引される。吸引された熱風は元の温度T3まで加熱されてブロアへ循環する。このように本実施形態においては、熱風は貫通方式、即ちエアスルー方式でウエブに吹き付けられる。温度T3の熱風の吹き付けによって、熱融着性複合繊維における第2樹脂成分が溶融して該複合繊維どうしの交点が融着する。
【0022】
第1熱風吹き付け装置24における熱風の吹き付け圧、風速、吹き付け時間等の条件は、ウエブを構成する熱融着性複合繊維の種類や、ウエブの坪量等に応じ適切な値が選択される。
【0023】
第1熱風吹き付け装置24において第1の熱風処理工程に付されたウエブ20は、引き続き第2熱風吹き付け装置25に搬送され、第2の熱風処理工程に付される。第2熱風吹き付け装置25は、先に述べた第1熱風吹き付け装置24と同様の構造を有している。第2熱風吹き付け装置25においてウエブ20は、先の熱風処理工程における温度T3よりも高く且つ第1樹脂成分の融点T1未満の温度である温度T4で熱処理される。なお図1においては、第1熱風吹き付け装置24と第2熱風吹き付け装置25とは、別体の装置として表されているが、本発明はこれに限定されず、例えばひとつの吹き付け装置内において、熱風の吹き付け温度を別個に設定して、第1の熱風処理工程と第2の熱風処理工程とを連続的に行うことも可能である。熱風処理を連続的に行う場合、第1の熱風処理工程から第2の熱風処理工程へは、温度がステップ状に変化してもよく、或いは連続的に変化してもよい。
【0024】
先に行った第1熱風吹き付け工程に付される前のウエブ20は、その構成繊維どうしが融着していないフリーな状態にある。このフリーな状態にあるウエブ20に熱風処理が施されると、熱風の吹き付け圧に起因してウエブ20の嵩は、熱風処理前に比較すると低くなる。つまり繊維の目が詰まり、繊維どうしが近接する。このような状態にあるウエブ20が、第2の熱風吹き付け工程に付されると、熱風の吹き付け圧に起因して、ウエブを構成する繊維の目が一層詰まり、繊維どうしが一層近接する。その結果、繊維どうしの交点の数が一層増加して、融着点の数が一層増加する。それによって、得られる不織布10の強度が向上する。このように本実施形態においては、熱風処理を少なくとも2段階で行うことで、構成繊維どうしの融着点の数を増加させて、不織布の強度向上を図っている。しかも、構成繊維どうしの融着にはエアスルー方式の熱風吹き付けを採用しているので、得られる不織布の肌触りが過度に硬くなることが防止される。
【0025】
特に、熱融着性複合繊維として熱伸長性複合繊維を用いると、第2の熱風処理工程において、ウエブ20に嵩高さが付与される。この理由は次のとおりである。第1熱風吹き付け工程に付された後のウエブ20に、温度T4で熱風処理が施されると、ウエブ20における圧接着部26以外の部分に存する熱伸長性複合繊維が伸長する。熱伸長性複合繊維はその一部が圧接着部26によって固定されているので、伸長するのは圧接着部26間の部分である。そして、熱伸長性複合繊維はその一部が圧接着部26によって固定されていることによって、伸長した熱伸長性複合繊維の伸び分は、ウエブ20の平面方向への行き場を失い、該ウエブ20の厚み方向へ移動する。これによって、圧接着部26間に凸部が形成される。その結果、最終的に得られる不織布10は嵩高になる。また該凸部の形成によって、不織布の表面が立体的な外観を呈するようになる。この状態を図2(b)に示す。この図から明らかなように、立体的な外観とは、不織布10の表面が凹凸形状になっていることをいう。
【0026】
熱融着性複合繊維として熱伸長性複合繊維を用いた場合には、温度T3と温度T4の差を5℃以上、特に5〜15℃とすることが好ましい。その理由は、第2樹脂成分を溶融させることによる繊維どうしの融着、つまり第1熱風吹き付け工程における繊維どうしの交点の融着と、繊維の熱伸長、つまり第2熱風吹き付け工程による交点間の繊維の熱伸長とを個別に制御しやすくなるからである。
【0027】
本製造方法においては、図1に示すように、第2の熱風処理工程を、第1の熱風処理工程と分けて別工程で行うと、第1の熱風処理工程において熱伸長性複合繊維における第2樹脂成分が一旦溶融するので、第2樹脂成分が繊維を収縮させようとする内部歪みが取り除かれる。この状態下に第2の熱風処理工程に付されるので、第1樹脂成分の熱伸長性が阻害されないという利点がある。
【0028】
一方、第1の熱風処理工程と第2の熱風処理工程とが連続的に行われると、第1の熱風処理工程によって第2の樹脂成分を溶融状態としたままで第2の熱風処理に付すことができるので、熱エネルギを効率よく使えるという利点がある。
【0029】
本製造方法によって得られた不織布10を図3に示す。不織布10はその一面10aがほぼ平坦となっており、他面10bが多数の凸部11及び凹部12を有する凹凸形状となっている。凹部12は、不織布10の構成繊維が圧着又は接着されて形成された圧接着部を含んでいる。凸部11は凹部12間に位置している。凸部11内は、不織布10の構成繊維で満たされている。凸部11と凹部12とは、不織布の一方向(図3中X方向)に亘って交互に配置されている。更に当該一方向と直交する方向(図3中Y方向)に亘っても、交互に配置されている。凸部11と凹部12とがこのように配置されていることで、不織布10を例えば使い捨ておむつや生理用ナプキンなどの使い捨て衛生物品の分野における表面シートと用いた場合に、着用者の肌との接触面積が低減して蒸れやかぶれが効果的に防止される。
【0030】
以上の説明から明らかなように、熱融着性複合繊維として熱伸長性複合繊維を用いた不織布10においては、圧接着部26において、熱伸長性複合繊維が圧接着されていると共に、圧接着部26以外の部分、具体的には主として凸部において、熱伸長性複合繊維どうしの交点が圧接着以外の手段であるエアスルー方式によって熱融着で接合している。その結果、不織布10は三次元的な凹凸形状を有し、柔軟なものでありながら、凸部における繊維間の接合強度が高く、毛羽立ちが起こりにくくなっている。その上、本製造方法は、不織布の製造方法として極めて一般的な方法であるヒートボンド法とエアスルー法とを組み合わせただけのものであり、特殊な工程を含んでいない。従って製造工程が簡便であり、しかも製造効率が高い。更に、前述の製造方法を用いれば、不織布10が低坪量であっても三次元的な凹凸形状を容易に形成することができる。また従来の凹凸不織布と異なり、不織布が単層であっても立体形状を容易に形成することができる。
【0031】
熱伸長性不織布が含まれている不織布10の凹凸形状を更に顕著なものとする観点から、第1熱風吹き付け工程及び第2熱風吹き付け工程のうち、少なくとも第1熱風吹き付け工程における熱風の吹き付けを、前記ヒートエンボス加工において用いた平滑ロールに対向する面から行うことが好ましい。
【0032】
このようにして得られた不織布10は、その風合いや及び高強度を生かした種々の分野に適用できる。特に不織布10に熱伸長性複合繊維が含まれている場合には、その凹凸形状、嵩高さ及び高強度を生かした種々の分野に適用できる。例えば使い捨ておむつや生理用ナプキンなどの使い捨て衛生物品の分野における表面シート、セカンドシート(表面シートと吸収体との間に配されるシート)、裏面シート、防漏シート、或いは対人用清拭シート、スキンケア用シート、更には対物用のワイパーなどとして好適に用いられる。
【0033】
前記のような用途に用いられる場合、不織布10は、その坪量が15〜60g/m2、特に20〜50g/m2であることが好ましい。またその厚みが1〜5mm、特に2〜4mmであることが好ましい。但し、用途により適切な厚みは異なるため、目的に合わせ適宜調整される。
【0034】
次に、本製造方法に好適に用いられる熱伸長性複合繊維について説明する。熱伸長性複合繊維における第1樹脂成分は該繊維の熱伸長性を発現する成分であり、第2樹脂成分は熱融着性を発現する成分である。第1樹脂成分はその配向指数が好ましくは30〜60%になっており、更に好ましくは35〜55%になっている。一方、第2樹脂成分はその配向指数が好ましくは40%以上になっており、好ましくは50%以上になっている。第2樹脂成分の配向指数の上限値に特に制限はなく、高ければ高いほど好ましいが、70%程度であれば、十分に満足すべき効果が得られる。配向指数は、繊維を構成する樹脂の高分子鎖の配向の程度の指標となるものである。そして、第1樹脂成分及び第2樹脂成分の配向指数がそれぞれ前記の値であることによって、熱伸長性複合繊維は、加熱によって伸長するようになる。
【0035】
第1樹脂成分及び第2樹脂成分の配向指数は、熱伸長性複合繊維における樹脂の複屈折の値をAとし、樹脂の固有複屈折の値をBとしたとき、以下の式(1)で表される。
配向指数(%)=A/B×100 (1)
【0036】
固有複屈折とは、樹脂の高分子鎖が完全に配向した状態での複屈折をいい、その値は例えば「成形加工におけるプラスチック材料」初版、付表 成形加工に用いられる代表的なプラスチック材料(プラスチック成形加工学会編、シグマ出版、1998年2月10日発行)に記載されている。
【0037】
熱伸長性複合繊維における複屈折は、干渉顕微鏡に偏光板を装着し、繊維軸に対して平行方向及び垂直方向の偏光下で測定する。浸漬け液としてはCargille社製の標準屈折液を使用する。浸漬け液の屈折率はアッベ屈折計によって測定する。干渉顕微鏡により得られる複合繊維の干渉縞像から、以下の文献に記載の算出方法で繊維軸に対し平行及び垂直方向の屈折率を求め、両者の差である複屈折を算出する。
「芯鞘型複合繊維の高速紡糸における繊維構造形成」第408頁(繊維学会誌、Vol.51、No.9、1995年)
【0038】
熱伸長性複合繊維は、第1樹脂成分の融点よりも低い温度において熱によって伸長可能になっている。そして熱伸長性複合繊維は、第2樹脂成分の融点又は軟化点より10℃高い温度での熱伸長率が0.5〜20%、特に3〜20%であることが好ましい。このような伸長率の繊維を原料として不織布を製造すると、該繊維の伸長によって不織布が嵩高くなり、或いは立体的な外観を呈する。例えば不織布表面の凹凸形状が顕著なものになる。
【0039】
また、熱伸長性複合繊維は、温度T3における伸長率(%)よりも、温度T4における伸長率(%)の方が3ポイント以上、特に3.5ポイント以上大きいものであることが好ましい。その理由は、第2樹脂成分を溶融させることによる繊維どうしの融着、つまり第1熱風吹き付け工程における繊維どうしの交点の融着と、繊維の熱伸長、つまり第2熱風吹き付け工程による交点間の繊維の熱伸長とを個別に制御しやすくなるからである。
【0040】
熱伸長率は次の方法で測定される。熱機械分析装置TMA−50(島津製作所製)を用い、平行に並べた繊維をチャック間距離10mmで装着し、0.025mN/texの一定荷重を負荷した状態で10℃/minの昇温速度で昇温させる。その際の繊維の伸長率変化を測定し、第2樹脂成分の融点又は軟化点より10℃高い温度での伸長率を読み取って繊維の熱伸長率とする。熱伸長率を前記の温度で測定する理由は、繊維の交点を熱融着させて不織布を製造する場合には、第2樹脂成分の融点又は軟化点以上で且つそれらより10℃程度高い温度までの範囲で製造するのが通常だからである。本発明では、この熱伸長率が正の値となる(熱で伸長する)繊維を熱伸長性繊維と呼び、それ以外の、熱で伸長しない繊維を通常繊維としている。
【0041】
熱伸長性複合繊維における各樹脂成分が前記のような配向指数を達成するためには、例えば融点の異なる第1樹脂成分及び第2樹脂成分を用い、引き取り速度2000m/分未満の低速で溶融紡糸して複合繊維を得た後に、該複合繊維に対して加熱処理及び/又は捲縮処理を行えばよい。これに加えて、延伸処理を行わないようにすればよい。
【0042】
溶融紡糸法は、図4に示すように、押出機1A,2Aとギアポンプ1B,2Bとからなる二系統の押出装置1,2、及び紡糸口金3を備えた紡糸装置を用いて行われる。押出機1A,2A及びギアポンプ1B,2Bによって溶融され且つ計量された各樹脂成分は、紡糸口金3内で合流しノズルから吐出される。紡糸口金3の形状は、目的とする複合繊維の形態に応じて適切なものが選択される。紡糸口金3の直下には巻取装置4が設置されており、ノズルから吐出された溶融樹脂が所定速度下に引き取られる。本実施形態の溶融紡糸法における紡出糸の引き取り速度は好ましくは2000m/分未満であり、更に好ましくは1000〜1800m/分である。また口金の温度(紡糸温度)は、使用する樹脂の種類にもよるが、例えば第1樹脂成分としてポリプロピレンを用い、第2樹脂成分としてポリエチレンを用いる場合には、200〜300℃、特に220〜280℃とすることが好ましい。
【0043】
このようにして得られた繊維は低速で紡糸されたものなので、未延伸糸の状態である。この未延伸糸に対して、加熱処理及び/又は捲縮処理を施す。
【0044】
加熱処理の条件は、複合繊維を構成する第1及び第2樹脂成分の種類に応じて適切な条件が選択される。加熱温度は、第2樹脂成分の融点より低い温度である。例えば、熱伸長性複合繊維が芯鞘型であり、芯成分がポリプロピレンで鞘成分が高密度ポリエチレンである場合、加熱温度は50〜120℃、特に70〜115℃であることが好ましく、加熱時間は10〜1800秒、特に20〜1200秒であることが好ましい。加熱方法としては、熱風の吹き付け、赤外線の照射などが挙げられる。
【0045】
一方、捲縮処理としては、機械捲縮を行うことが簡便である。機械捲縮には二次元状及び三次元状の態様がある。また、偏芯タイプの芯鞘型複合繊維やサイド・バイ・サイド型複合繊維に見られる三次元の顕在捲縮などがある。本発明においては何れの態様の捲縮を行ってもよい。捲縮処理には加熱を伴う場合がある。その場合には、加熱処理と捲縮処理とが同時に施されることになる。また、捲縮処理の際の加熱に加え、別途熱処理を行ってもよい。
【0046】
捲縮処理に際しては繊維が多少引き伸ばされる場合があるが、そのような引き延ばしは本発明にいう延伸処理には含まれない。本発明にいう延伸処理とは、未延伸糸に対して通常行われる延伸倍率2〜6倍程度の延伸操作をいう。
【0047】
熱伸長性複合繊維における第1樹脂成分の融点と第2樹脂成分とは、両樹脂成分の融点差又は両樹脂成分の軟化点との差が20℃以上、特に25℃以上であることが、熱融着による不織布製造を容易に行い得る点から好ましい。また、第1樹脂成分は結晶性を有することが望ましい。結晶性を有する樹脂とは溶融紡糸し通常行われる範囲で延伸した場合、十分な配向と結晶を生成する樹脂を総称し、後に述べる方法で融点を測定すると明確な溶解ピーク温度が測定でき、融点が定義できる樹脂である。第1樹脂成分と第2樹脂成分との好ましい組み合わせとしては、第1樹脂成分をポリプロピレン(PP)とした場合の第2樹脂成分としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などのポリエチレン、エチレンプロピレン共重合体、ポリスチレンなどが挙げられる。また、第1樹脂成分としてポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル系樹脂を用いた場合は、第2成分として、前述した第2樹脂成分の例に加え、ポリプロピレン(PP)、共重合ポリエステルなどが挙げられる。更に、第1樹脂成分としては、ポリアミド系重合体や前述した第1樹脂成分の2種以上の共重合体も挙げられ、また第2樹脂成分としては前述した第2樹脂成分の2種以上の共重合体なども挙げられる。これらは適宜組み合わされる。
【0048】
第1樹脂成分と第2樹脂成分の特に好ましい組み合わせは、第1樹脂成分がポリプロピレンで、第2樹脂成分がポリエチレン、とりわけ高密度ポリエチレンである組み合わせである。この理由は、両樹脂成分の融点差が20〜40℃の範囲内であるため、不織布を容易に製造できるからである。また繊維の比重が低いため、軽量で且つコストに優れ、低熱量で焼却廃棄できる不織布が得られるからである。更にこの組み合わせを用いることで、熱伸長性複合繊維の熱伸長性も高くなる。この理由は次のとおりである。熱伸長性複合繊維は第1樹脂成分の配向係数を特定の範囲に抑え、第2樹脂成分の配向係数を高めた構造である。第2樹脂成分であるポリエチレン、特に高密度ポリエチレンは結晶性が高い物質である。従って熱伸長性複合繊維を加熱していきその温度がポリエチレンの融点に達するまでは、繊維の熱伸長がポリエチレンによって拘束される。繊維をポリエチレンの融点以上まで加熱すると、ポリエチレンが溶融し始め、その拘束が解かれるので、第1樹脂成分であるポリプロピレンの伸長が可能になり、繊維全体が伸長する。
【0049】
第1樹脂成分及び第2樹脂成分の融点は、示差走査型熱分析装置DSC−50(島津社製)を用い、細かく裁断した繊維試料(サンプル質量2mg)の熱分析を昇温速度10℃/minで行い、各樹脂の融解ピーク温度を測定し、その融解ピーク温度で定義される。第2樹脂成分の融点がこの方法で明確に測定できない場合は、第2樹脂成分の分子の流動が始まる温度として、繊維の融着点強度が計測できる程度に第2樹脂成分が融着する温度を軟化点とする。
【0050】
熱伸長性複合繊維における第1樹脂成分と第2樹脂成分との比率(重量比)は10:90〜90:10%、特に30:70〜70:30%であることが好ましい。この範囲内であれば繊維の力学特性が十分となり、実用に耐え得る繊維となる。また融着成分の量が十分となり、繊維どうしの融着が十分となる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明の範囲はかかる実施例に制限されるものではない。
【0052】
〔繊維の製造〕
実施例及び比較例に先立ち、実施例及び比較例で用いた繊維の製造について説明する。
(1)繊維A
表1に示した条件にて溶融紡糸を行い同芯タイプの芯鞘型複合繊維を得た。得られた複合繊維に延伸処理は施さず、機械捲縮を施した。更に繊維長51mmの短繊維とした。得られた繊維について、前述の方法で樹脂の配向指数及び融点並びに繊維の伸長率を測定した(熱伸長繊維)。
(2)繊維B
同様に表1に示した条件にて溶融紡糸を行い同芯タイプの芯鞘型複合繊維を得た。得られた複合繊維に2倍の延伸処理と機械捲縮を施した。更に繊維長51mmの短繊維とした。得られた繊維について、同様に樹脂の配向指数及び融点並びに繊維の伸長率を測定した(通常繊維)。
これらすべての結果を表1に示す。なお、表には示していないが、繊維の太さはすべて3.3dtexとした。
【0053】
【表1】

【0054】
〔実施例1〜3及び比較例1〜4〕
繊維A及び繊維Bを用い、図1に示す方法で不織布を製造した。具体的な製造方法は次のとおりである。先ず、カード機を用いて形成したウエブにエンボス加工を施した。エンボス加工は、円形の圧接着部が形成され且つ圧接着部の面積率が3%となるように行った。加工温度は130℃であった。次にエアスルー加工を行った。エアスルー加工は、エンボス加工における平滑ロール対向面から熱風を吹き付ける熱処理を表2の条件で2回行った。エアスルー加工の各熱処理温度における繊維の伸長率も表2に示す。この伸長率は前述の方法で測定した繊維の伸長率変化から各温度の伸長率を読み取った値である。得られた不織布の厚み、坪量、比容積、単位坪量当りの強度を以下の方法で測定した。また立体賦形性を以下の方法で評価した。それらの結果を表2に示す。
【0055】
〔厚み、坪量、比容積〕
測定台上に12cm×12cmのプレートを載置し、この状態でのプレートの上面の位置を測定の基準点Aとする。次にプレートを取り除き、測定台上に測定対象となる不織布試験片を載置し、その上に前記プレートを載置する。この状態でのプレート上面の位置をBとする。AとBの差から測定対象となる不織布試験片の厚みを求める。プレートの重さは測定目的により種々変更可能であるが、ここでは重さ54gのプレートを用いて測定した。測定機器にはレーザー変位計((株)キーエンス製、CCDレーザー変位センサーKL−080)を用いた。これに代えてダイヤルゲージ式の厚み計を用いてもよい。但し、厚み計を用いる場合は不織布試験片に加わる圧力を調整する必要がある。また、上述の方法で測定された不織布の厚みは、その不織布の坪量に大きく依存する。そこで、嵩高さの指標として、厚みと坪量から算出される比容積(cm3/g)を採用している。坪量の測定は任意であるが、厚みを測定する試験片そのものの重さを計量し、測定した試験片の寸法から算出される。
【0056】
〔強度〕
測定対象となる不織布から、機械の流れ方向(MD方向)と直角の方向(CD方向)に長さ100mm、幅25mmの帯片を切り出し、これを試験片とする。この試験片をテンシロン引張試験機に、チャック間75mmで取り付け引張速度300m/minで引張試験を行う。その際の最大強度を不織布強度とする。ここでも、不織布強度はその坪量に大きく依存するため、上述の不織布強度をその坪量で除して得られた値を、単位坪量当りの強度として、不織布の強度を表す指標としている。
【0057】
〔立体賦形性〕
不織布を目視し、次の基準により判定した。
◎:明確な立体形状となっている
○:立体形状となっている
△:殆ど立体形状とは認められない
×:立体形状ではない
【0058】
【表2】

【0059】
表2に示す結果から、実施例の方法で製造した不織布は、嵩高で且つ強度が高いだけでなく、更に立体賦型性にも優れていることが分る。
【0060】
〔実施例4及び5並びに比較例5及び6〕
繊維Bを用い、表3に示す条件で不織布を製造した。具体的な製造方法は次のとおりである。先ずカード機を用いてウエブを形成した。このウエブにエアスルー加工を施した。エアスルー加工は、熱風を吹き付ける熱処理を表3の条件で2回行った。得られた不織布の厚み、坪量、比容積、単位坪量当りの強度を前述の方法で測定し、また風合いを以下の方法で評価した。それらの結果を表3に示す。
【0061】
〔風合い〕
風合いは、5人のモニターによる官能試験により5段階で評価し(5:非常に柔らかい、4:柔らかい、3:普通、2:硬い、1:非常に硬い)、その平均値を算出した。
【0062】
【表3】

【0063】
表3に示す結果から、実施例の方法で製造した不織布は、嵩高と風合いを維持したまま強度が発現できていることが分る。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1は、本発明の製造方法の一実施形態に用いられる装置を示す模式図である。
【図2】図2は、図1に示す装置を用いた不織布の製造過程での状態を示す模式図である。
【図3】図3は、本発明の製造方法の一実施形態に従い製造された不織布の一例を示す斜視図である。
【図4】図4は、溶融紡糸法に用いられる装置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0065】
1,2 押出装置
1A,2A 押出機
1B,2B ギアポンプ
3 紡糸口金
4 巻取装置
10 不織布
11 凸部
12 凹部
20 ウエブ
21 ヒートエンボス装置
22,23 ロール
24 第1熱風吹き付け装置
25 第2熱風吹き付け装置
26 圧接着部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱融着性複合繊維を含むウエブに熱風処理を施して該繊維どうしの交点を融着させる不織布の製造方法において、
前記複合繊維は、第1樹脂成分及びそれよりも融点又は軟化点が低い第2樹脂成分からなり、第2樹脂成分が繊維表面の少なくとも一部を長さ方向に連続して存在しており、
第1樹脂成分の融点T1未満で且つ第2樹脂成分の融点T2以上の温度T3で前記ウエブを熱風処理して繊維どうしの交点を融着させた後、更に温度T3よりも高く且つT1未満の温度である温度T4で熱風処理する不織布の製造方法。
【請求項2】
前記複合繊維は、その第1樹脂成分の配向指数が30〜60%で且つ第2樹脂成分の配向指数が40%以上であり、加熱処理又は捲縮処理が施されており、第1樹脂成分の融点よりも低い温度において熱によって伸長可能になっている熱伸長性複合繊維である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
第1樹脂成分の融点と第2樹脂成分の融点との差、又は第1樹脂成分の融点と第2樹脂成分の軟化点との差が20℃以上である請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
前記熱伸長性複合繊維は、温度T3における伸長率(%)よりも、温度T4における伸長率(%)の方が3ポイント以上大きいものである請求項2又は3記載の製造方法。
【請求項5】
温度T3と温度T4の差を5℃以上とする請求項2ないし4の何れかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記ウエブを部分的に圧着又は接着して多数の圧接着部を形成した後に、温度T3で前記ウエブを熱風処理して繊維どうしの交点を融着させ、次いで温度T4で熱風処理して交点間の繊維の伸長させる請求項2ないし5の何れかに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−101285(P2008−101285A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−283104(P2006−283104)
【出願日】平成18年10月17日(2006.10.17)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】