説明

不織布及び二次電池用セパレータ

【課題】微小な空隙を多数有し、電池の高容量化を達成することが可能であり、かつ薄膜化が可能で、シャットダウン性能にも優れた不織布及び該不織布からなる二次電池用セパレータを提供する。
【解決手段】平均繊維径が10〜3000nmであるナノファイバーを0.5質量%以上含有する不織布であって、不織布中に酸変性ポリオレフィン樹脂を含有し、酸変性ポリオレフィン樹脂の含有量が0.1〜95質量%であることを特徴とする不織布。また、ナノファイバーがポリビニルアルコールを含有するものである前記不織布。さらには、前記不織布からなるものである二次電池用セパレータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布を構成する繊維としてナノファイバーを含有し、かつ酸変性ポリオレフィン樹脂を不織布中に含有する不織布及び該不織布からなる二次電池用セパレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やデジタルカメラなどの携帯電子機器の小型軽量化や高機能化の要求に伴い、高性能電池の開発が積極的に進められており、充電により繰り返し使用が可能な二次電池の需要が大きく伸びている。特に、リチウムイオン電池は、携帯電話やノートパソコンなどの用途に加え、電気自動車用途への展開も進められ、その利用範囲は非常に拡大している。
【0003】
リチウムイオン電池は、正極と負極との間にセパレータを介して作製された電極を電解液(リチウムイオンポリマー電池の場合は、液状電解液の代わりにゲル状もしくは全固体型の電解質)と共に容器内に収納した構造を有するものである。
リチウムイオン電池のセパレータは、電池の中で正極と負極を隔離し、かつ電解液を保持して正極と負極との間のイオン伝導性を確保するために、また、温度上昇が起こった場合、伝導イオンの動きをシャットダウンするために用いられる。そして、従来、セパレータとしては、フィルムに多数の微細孔を有する微多孔膜が使用されることが多かった。
なお、「シャットダウン」とは、電池内の温度が上昇した際に、セパレータ(微多孔膜)を構成するポリマーが溶融することによってその連通孔が閉塞され、これにより膜の電気抵抗が増大してリチウムイオンの流れが遮断される現象である。
したがって、リチウムイオン電池セパレータには、(1)充電時に負極側にリチウムデントライトが生成しても微小短絡しないように、孔径は0.1μm以下で、かつ、複雑な経路を有すること、(2)微小短絡で温度上昇が起こった場合、130℃前後で微多孔を閉じて伝導イオンの動きをシャットダウンする機能があること、(3)有機電解液を保持して高いイオン伝導性を確保するために、高多孔構造を有し、かつ、薄膜であること、(4)有機電解液に対して化学的に安定であること、などが要求される。
【0004】
従来、エネルギー密度の大きなリチウムイオン二次電池セパレータとしては、微多孔膜の中でも、ポリオレフィン系の微多孔膜が広く利用されている。このようなポリオレフィン系の微多孔膜が主として使用されるのは、ポリオレフィンが有機溶媒中で使用可能なことに加え、電池が短絡などによって異常発熱した場合に適切な温度(130℃前後)でポリオレフィンが溶融し、連通孔が閉塞することによるシャットダウン性能を有しているためであった
しかしながら、近年のリチウムイオン電池の高容量化の流れにより、セパレータにはさらなる薄膜化・高多孔化等が求められており、従来のポリオレフィン系の微多孔膜をセパレータに使用した電池では、十分な電池特性を有するものが得られず、シャットダウン性能を有し、かつ高容量化が可能な二次電池セパレータというものが求められている。
【0005】
そこで、特許文献1には、ポリオレフィン微多孔膜の片面又は両面に、湿式塗工法により芳香族アラミド等の耐熱性高分子からなる耐熱性多孔質層を積層したセパレータが提案されている。しかしながら、これらのセパレータは、シャットダウン性能は有しているものの、高多孔化がなされたわけではなく、電池の高容量化を達成することはできないものであった。
【0006】
また特許文献2には、ポリアクリルニトリルのナノファイバーからなる不織布で構成されたセパレータが提案されている。ナノファイバーからなる不織布は構成するナノファイバー間の空隙が孔となるため、微小な空隙を多数有するセパレータとなり、電池の高容量化を達成することができるものであった。しかしながら、ポリアクリルニトリルは融点が高く、このセパレータはシャットダウン性能を有していなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−355938号公報
【特許文献2】WO2006/049151号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題点を解決するものであって、微小な空隙を多数有し、電池の高容量化を達成することが可能であり、かつ薄膜化が可能で、シャットダウン性能にも優れた不織布及び該不織布からなる二次電池用セパレータを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記のような課題を解決するために検討した結果、本発見に到達した。
すなわち、本発明は以下の(1)〜(2)を要旨とするものである。
(1)平均繊維径が10〜3000nmであるナノファイバーを0.5質量%以上含有する不織布であって、不織布中に酸変性ポリオレフィン樹脂を含有し、酸変性ポリオレフィン樹脂の含有量が0.1〜95質量%であることを特徴とする不織布。
(2)(1)記載の不織布からなるものであることを特徴とする二次電池用セパレータ。
【発明の効果】
【0010】
本発明の不織布は、ナノファイバーを0.5質量%以上含有する不織布であるため、微小な空隙を多数有し、薄膜化が可能となるものである。また、不織布中に酸変性ポリオレフィン樹脂を含有するものであるため、高温時に微小な空隙を閉塞することができ、本発明の不織布からなる二次電池用セパレータは、優れたシャットダウン性能を有するものとなる。したがって、本発明の二次電池用セパレータは電池の高容量化、薄膜化が可能で、優れたシャットダウン性能を有しており、小型かつ軽量で安全性に優れた二次電池を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の不織布は、平均繊維径が10〜3000nmであるナノファイバーを0.5質量%以上含有する不織布であって、不織布中に酸変性ポリオレフィン樹脂を含有するものである。
不織布中に酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する本発明の不織布の形態としては、(X)酸変性ポリオレフィン樹脂を含有するナノファイバーを用いるもの、(Y)酸変性ポリオレフィン樹脂を含有しないナノファイバーを用いるものとがある。
【0012】
酸変性ポリオレフィン樹脂を含有するナノファイバーを用いる場合(形態Xの場合)、このようなナノファイバーとしては、以下のようなものが挙げられる。
(ア)酸変性ポリオレフィン樹脂からなるナノファイバー(単一型)。
(イ)酸変性ポリオレフィン樹脂以外のポリマー(以下、他ポリマーと称することがある)と酸変性ポリオレフィン樹脂を混合したポリマーで構成されたナノファイバー(単一型)。
(ウ)他ポリマーと酸変性ポリオレフィン樹脂を芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型等に配置したナノファイバー(複合型)。
(エ)他ポリマーからなるナノファイバーの表面に酸変性ポリオレフィン樹脂を付着させた(コーティングした)ナノファイバー。
【0013】
酸変性ポリオレフィン樹脂を含有しないナノファイバーを用いる場合(形態Yの場合)は、他ポリマーからなるナノファイバーを含有する不織布中に酸変性ポリオレフィン樹脂が存在するものである。例えば、他ポリマーからなるナノファイバーを含有する不織布に酸変性ポリオレフィン樹脂を付着させたものや、他ポリマーからなるナノファイバーを含有する不織布中に酸変性ポリオレフィン樹脂が粒子状(直径0.1〜10μm程度)に存在するものが挙げられる。
そして、他ポリマーからなるナノファイバーを含有する不織布としては、ナノファイバー以外の繊維状物を含むものであってもよい。
【0014】
本発明の不織布は、ナノファイバーを用いて構成されるものであるため、微小な空隙を多数有し、かつ薄膜化が可能となるものである。そして、酸変性ポリオレフィン樹脂を含有することにより、高温時に該樹脂が溶融し、微小な空隙を閉塞することが可能となり、シャットダウン性能に優れた電池用セパレータとすることが可能となるものである。
【0015】
本発明の不織布中に含有される酸変性ポリオレフィン樹脂の含有量は、0.1〜95質量%であり、中でも5〜90質量%であることが好ましく、さらには10〜80質量%であることが好ましい。含有量が0.1質量%未満であると、溶融した際に不織布の微小な空隙を十分に閉塞することができず、シャットダウン性能に優れた電池セパレータを得ることができない。一方、含有量が95質量%を超えると、高温時に溶融する部分が多くなり、不織布としての機械的強度を保持することが困難となる。
【0016】
まず、本発明の不織布中に含有される酸変性ポリオレフィン樹脂について説明する。後述するように、本発明における酸変性ポリオレフィン樹脂は、水性媒体中に分散させた水性分散体として使用することが好ましいため、酸変性したものとするものであり、不飽和カルボン酸成分(A1)とオレフィン成分(A2)とを含有するものであることが好ましい。
【0017】
酸変性ポリオレフィン樹脂を構成する不飽和カルボン酸成分(A1)は、不飽和カルボン酸や、その無水物により導入されるものである。不飽和カルボン酸成分としては、分子内に少なくとも1個のカルボキシル基または酸無水物基を有する化合物であり、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でも、水性分散体への分散化の容易さという観点から、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、特に無水マレイン酸が好ましい。なお、酸変性ポリオレフィン樹脂中に導入された酸無水物は、樹脂が乾燥している状態では、隣接するカルボキシル基が脱水環化した酸無水物構造を形成しているが、後述する水性媒体中では、その一部、または全部が開環してカルボン酸、あるいはその塩の構造をとる場合がある。
【0018】
また、酸変性ポリオレフィン樹脂を構成するオレフィン成分(A2)としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等の炭素数2〜6のオレフィン類が挙げられ、中でも、樹脂の柔軟性、水性媒体中への分散化の容易さ、接着性の観点から、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン等の炭素数2〜4のオレフィンが好ましく、エチレン、プロピレンがより好ましい。これらのモノマーは2種以上を併用してもよい。
【0019】
本発明における不飽和カルボン酸成分(A1)とオレフィン成分(A2)とを含有する酸変性ポリオレフィン樹脂は、例えば、これらの成分をランダム共重合、ブロック共重合、グラフト法、熱減成法等を行って得られたものである。
【0020】
酸変性ポリオレフィン樹脂における不飽和カルボン酸成分(A1)の含有量は、樹脂の水性媒体中への分散化、電解液に対する耐性を満足させる点から、0.1〜20質量%であることが好ましく、0.3〜15質量%であることがより好ましく、0.5〜12質量%であることがさらに好ましく、1〜10質量%であることが特に好ましい。不飽和カルボン酸成分(A1)の含有量が0.1質量%未満では、樹脂の水性媒体中への分散化が困難になりやすく、20質量%を超えると電解液に対する耐性が低下する場合がある。
【0021】
酸変性ポリオレフィン樹脂におけるオレフィン成分(A2)の含有量は、樹脂の水性媒体中の分散化、溶融した際に不織布の微小な空隙を十分に閉塞するために、50〜98質量%であることが好ましく、60〜98質量%であることがより好ましく、70〜98質量%であることがさらに好ましく、75〜95質量%であることが特に好ましい。オレフィン成分(A2)の含有量が50質量%未満では、溶融時に微小な空隙の閉塞が十分に行えない場合があり、一方、98質量%を超えると、不飽和カルボン酸成分の含有量が低下してしまうため、樹脂の水性媒体中の分散化が困難になる場合がある。
【0022】
また、酸変性ポリオレフィン樹脂は、不飽和カルボン酸成分(A1)とオレフィン成分(A2)に加えて、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル成分を含有していてもよい。その具体例としては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル等の、アクリル酸またはメタクリル酸とアルコールとのエステル化物を挙げることができ、この中でも工業的に入手し易い点から、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチルが好ましく、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルがより好ましい。またアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル成分は、ポリオレフィン樹脂中に共重合されていればよく、その形態は限定されず、例えばランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等が挙げられる。
【0023】
さらに、上記成分以外にも下記の成分を酸変性ポリオレフィン樹脂全体の20質量%以下含有していてもよい。例えば、1−オクテン、ノルボルネン類等の炭素数6以上のアルケン類やジエン類、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のマレイン酸エステル類、(メタ)アクリル酸アミド類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル類、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類ならびにビニルエステル類を塩基性化合物等でケン化して得られるビニルアルコール、2−ヒドロキシエチルアクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、置換スチレン、ハロゲン化ビニル類、ハロゲン化ビリニデン類、一酸化炭素、二酸化硫黄、などが挙げられ、これらの混合物を用いることもできる。
【0024】
また、酸変性ポリオレフィン樹脂の分子量は、質量平均分子量が10,000以上であることが好ましく、10,000〜150,000であることがより好ましく、12,000〜120,000であることがさらに好ましく、15,000〜100,000であることが特に好ましく、20,000〜90,000であることが最も好ましい。質量平均分子量が10,000未満の場合は、溶融した際に不織布の微小な空隙を十分に閉塞させることが困難となりやすい。一方、質量平均分子量が150,000を超える場合は、樹脂の水性媒体中への分散化が困難になる傾向がある。なお、樹脂の質量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いてポリスチレン樹脂を標準として求めるものである。
【0025】
上記したような酸変性ポリオレフィン樹脂としては、レクスパールEAAシリーズ(日本ポリエチレン社)、プリマコールシリーズ(ダウ・ケミカル日本社)、ニュクレルシリーズ(三井・デュポンポリケミカル社)、ボンダインシリーズ(アルケマ社)、レクスパールETシリーズ(日本ポリエチレン社)、ユーメックスシリーズ(三洋化成社)等の市販品が挙げられる。また、レクスタック(REXTAC)〔アメリカのレキセン(Rexene)社〕、ベストプラスト408、ベストプラスト708〔ドイツのヒュルス(Huls)社〕、ウベタックAPAO(宇部レキセン社)等の市販の樹脂に不飽和カルボン酸成分を導入した酸変性ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
【0026】
次に、本発明の不織布を構成するナノファイバーについて説明する。本発明の不織布においては、上記したように形態Xの場合と形態Yの場合とがある。
まず、形態Xの場合の酸変性ポリオレフィン樹脂を含有するナノファイバーについて説明する。具体的には上記した(ア)〜(エ)の形態のナノファイバーが好ましい。
【0027】
そして、(ア)〜(エ)の形態のいずれのナノファイバーにおいても、ナノファイバーの表面に酸変性ポリオレフィン樹脂の少なくとも一部が存在することが好ましい。ナノファイバーの表面に酸変性ポリオレフィン樹脂の少なくとも一部が存在することにより、高温時に溶融しやすく、溶融した酸変性ポリオレフィン樹脂により不織布の微小な空隙を閉塞する機能に優れるものとなる。
【0028】
したがって、不織布が形態Xの場合は、ナノファイバーとしては中でも(ア)、(ウ)、(エ)の形態のものが好ましく、ナノファイバーの強度や生産性を考慮すると、(ウ)、(エ)の形態のものが好ましい。
(ウ)の形態の場合は、中でも鞘成分に酸変性ポリオレフィンを配した芯鞘型のものが好ましい。また、(エ)の形態の場合は、後述するように、酸変性ポリオレフィン樹脂を水性媒体中に分散させた水性分散体とし、これを他ポリマーからなるナノファイバーの表面にコーティング等により付着させたものが好ましい。
【0029】
(イ)〜(エ)の形態のナノファイバーにおいて、ナノファイバーを構成する他ポリマーとしては、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ナイロン、アラミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリロニトリル、ポリアリレート、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリウレタン、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフルオロアルコキシフッ素、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクタム、ポリ乳酸-ポリグリコール酸共重合体、セルロース、酢酸セルロース、メチルセルロース、セルロース誘導体、キチン、キチン誘導体、キトサン、キトサン誘導体、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアルキルチオフェン、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4-スチレンスルホン酸)、ポリパラフェニレンビニレン等を用いることができる。
【0030】
次に、形態Yの場合の本発明の不織布は、他ポリマーからなるナノファイバーやナノファイバー以外の繊維状物からなる不織布中に、酸変性ポリオレフィン樹脂が存在するものであるが、ナノファイバーやナノファイバー以外の繊維状物を構成する他ポリマーとしては、上記した(イ)〜(エ)の形態のナノファイバーを構成する他ポリマーと同様のものを用いることができる。
【0031】
上記したようなナノファイバーを構成する他ポリマーとしては、中でも耐熱性に優れ、ナノファイバーとすることが容易で、コスト的にも有利に得ることができるため、ポリビニルアルコールを用いることが好ましい。
【0032】
本発明で用いることができるポリビニルアルコールとは、ビニルアルコール単位を10モル%以上、好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは50モル%以上含有する重合体であり、通常ビニルエステルやビニルエーテルの単独重合体や共重合体を加水分解(ケン化、加アルコール分解など)することによって得られるものである。
【0033】
ビニルエステルとしては、酢酸ビニルが代表例として挙げられ、その他にギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、モノクロロ酢酸ビニル、アジピン酸ジビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニルが挙げられる。ビニルエーテルとしてはt−ブチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0034】
ポリビニルアルコールのケン化度としては、水への溶解性、水溶液の安定性、繊維の機械的強度などによって適宜選択すればよいが、ケン化度は60モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、80モル%以上がさらに好ましい。
【0035】
また、ポリビニルアルコールは、次の単量体単位を含んでいてもよい。これら単量体単位としては、エチレンを除くプロピレン、1−ブテン、イソブテンなどのオレフィン類;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸などの不飽和酸類あるいはその塩あるいは炭素数1〜18までのモノ又はジアルキルエステル類;アクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、2-アクリルアミドプロパンスルフォン酸あるいはその酸塩あるいはその4級塩などのアクリルアミド類;メタクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、2-メタクリルアミドプロパンスルフォン酸あるいはその塩などのメタクリルアミド類;N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミドなどのN−ビニルアミド類などが挙げられる。
【0036】
さらに、ポリビニルアルコールの平均重合度としては、平均重合度が低すぎると得られるナノファイバーの強度が低下し、また高すぎると水に対する溶解性が低下して生産性が低くなるため、平均重合度が100〜30000であることが好ましく、200〜20000がより好ましく、300〜15000がさらに好ましい。
【0037】
そして、本発明の不織布中のナノファイバーは、平均繊維径が10〜3000nmであり、中でも50〜2000nmであることが好ましく、さらには100〜1000nmであることが好ましい。平均繊維径が10nm未満であるとナノファイバーの機械的強度が低下し、取り扱い性も低下する。一方、平均繊維径が3000nmを超えると、このナノファイバーを用いて得られる不織布は、ナノファイバーを用いることによる特徴である表面積、空隙率などが向上したものとすることが困難となる。
【0038】
また、本発明におけるナノファイバーの長さは、100μm以上であることが好ましく、中でも500μm以上であることが好ましく、さらには1000μm以上であることがより好ましい。ナノファイバーの長さが100μm未満では、ナノファイバーの長さが不十分となり、不織布を製造した場合の繊維同士の絡み合いが不十分になり、不織布の形態を保持することが困難となりやすい。一方、ナノファイバーの長さは、50cm以下とすることが好ましい。ナノファイバーの長さが50cmを超えると、ナノファイバー同士の絡み合いが過剰となり、ナノファイバーの塊状のものが発生し、不織布の均質性が低下する場合がある。
【0039】
そして、本発明の不織布中に含有される上記したようなナノファイバーの割合は、形態X、形態Yの場合ともに、不織布の全質量の0.5質量%以上であり、中でも5質量%以上であることが好ましく、さらには50質量%以上であることが好ましい。ナノファイバーの割合が0.5質量%未満であると、得られる不織布は、ナノファイバーの割合が少なく、ナノファイバーを用いることによる特徴である表面積、空隙率などが向上したものとすることが困難となる。
【0040】
また、本発明の不織布中に上記したようなナノファイバー以外のものが含まれる場合は、ナノファイバー以外の繊維状物を含むことが好ましい。そしてこのような不織布においては、ナノファイバーとそれ以外の繊維状物との合計質量において、10質量%以上がナノファイバーであることが好ましい。ナノファイバーの割合が10質量%未満であると、ナノファイバーを用いることによる特徴である表面積、空隙率などが低下したものとなりやすい。
ナノファイバー以外の繊維状物としては、平均繊維径が3000nmを超えるものであって、短繊維(ステープルファイバー)状のものが好ましい。
【0041】
そして、本発明におけるナノファイバーは、電界紡糸法により得られたものであることが好ましい。電界紡糸法では紡糸溶液に高電圧を印加して帯電させることでナノファイバーを得ることができる。紡糸溶液を帯電させる方法としては、高圧電源装置と接続した電極を紡糸溶液そのものあるいは容器に接続し、1〜100kVの電圧を印加するのが好ましく、さらには、2〜80kVの電圧を印加しているのが好ましく、さらに好ましくは、5〜50kVの電圧を印加しているのが好ましい。
【0042】
電圧の種類としては、直流ないし交流のいずれかの電圧であれば良く、直流の場合の極性は、陽極ないし陰極のいずれかであればよい。
【0043】
具体的な製造方法の例として、金属製ノズルを用いた場合について説明する。前記紡糸溶液を充填した容器に金属ノズルを装着し、ギアポンプなどを用いて溶液を金属ノズル先端まで送りながら、金属ノズルに電圧を印加することで、帯電した紡糸溶液が金属ノズルと対向するように配置した接地あるいは金属ノズルの帯電極性と反対極性を印加した堆積部との間で生じた、静電的な引力が紡糸溶液の表面張力に勝った場合に、紡糸溶液が引き伸ばされる。
【0044】
引き伸ばされて、体積が減少することで電荷密度が増加し、電気的な反発力により微細化・脱溶媒・固化されることにより、ナノファイバーが製造され、堆積部に堆積される。
そして、ナノファイバーが製造され、堆積部に堆積されることにより不織布を得ることができる。
【0045】
堆積部の材質や形態は特に限定されるものではなく、ノズルと堆積部の間または、堆積部と同じ位置に基材を配置することで、基材上にナノファイバーを直接堆積させることも可能である。この場合は、本発明の不織布と基材が一体化した構造体を得ることができる。
【0046】
そして、本発明の不織布が形態Xの場合であって、酸変性ポリオレフィン樹脂を含有するナノファイバーを(ア)〜(ウ)の形態のものとする場合、電界紡糸法によりナノファイバーを製造することが好ましく、このとき、紡糸溶液を得るために、酸変性ポリオレフィン樹脂を水性分散体として用いることが好ましい。
また、本発明の不織布が形態Xの場合であって、酸変性ポリオレフィン樹脂を含有するナノファイバーを(エ)の形態のものとする場合、他ポリマーからなるナノファイバーに、酸変性ポリオレフィン樹脂を付着させる方法としては、酸変性ポリオレフィン樹脂を水性媒体中に分散させた水性分散体を用いて、ナノファイバーの表面にコーティングする方法が好ましい。このようなコーティング法としては、浸漬法、スプレーコート法、バーコート法、スクリーンコート法、グラビアコート法などが挙げられる。
【0047】
さらに、本発明の不織布が形態Yの場合において、他ポリマーからなるナノファイバーやナノファイバー以外の繊維状物からなる不織布中に、粒子状の酸変性ポリオレフィン樹脂が存在する不織布とするには、他ポリマーからなるナノファイバーを電界紡糸する際に、別のノズルに酸変性ポリオレフィンの水性分散体を入れて電界紡糸することにより、得ることが可能である。
また、本発明の不織布が形態Yの場合としては、他ポリマーからなるナノファイバーやナノファイバー以外の繊維状物からなる不織布中に酸変性ポリオレフィン樹脂を付着させた不織布も含まれるが、このような不織布を得る際にも、酸変性ポリオレフィン樹脂を水性媒体中に分散させた水性分散体を用いて、不織布に付着させることが好ましい。付着させる方法としては、浸漬法、スプレーコート法、バーコート法などが挙げられる。
【0048】
上記のように、本発明における酸変性ポリオレフィン樹脂は、紡糸溶液とする場合、ナノファイバーにコーティングする場合、不織布に付着させる場合のいずれにおいても、水性媒体中に分散させた水性分散体として用いることが好ましいものである。以下に酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体について説明する。
【0049】
本発明における酸変性ポリオレフィン樹脂を水性分散体とする際には、水性媒体中に酸変性ポリオレフィン樹脂と塩基性化合物を含有させることが好ましい。なお、水性媒体とは、水または、水と有機溶剤との混合物のことをいう。例えば、加圧下、酸変性ポリオレフィン樹脂、塩基性化合物および水性媒体を密閉容器中で加熱、攪拌することで酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体を得ることができる。
【0050】
酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体においては、酸変性ポリオレフィン樹脂の数平均粒子径が、0.01〜1μmであることが好ましく、より好ましくは0.02〜0.5μm、さらに好ましくは0.04〜0.2μm、最も好ましくは0.05〜0.1μmである。数平均粒子径が0.01μm未満の場合は、水性分散体の粘度が高くなりゲル化する場合があり、1μmを超えた場合は、粒子径が大きくなることから、イオン伝導性が悪化し、高容量化が困難となりやすい。
【0051】
また、水性分散体における酸変性ポリオレフィン樹脂の固形分濃度は、1〜50質量%であることが好ましく、5〜40質量%であることがより好ましく、10〜30質量%であることが特に好ましい。固形分濃度が50質量%を超えると分散体の著しい粘度増加が発現したり、固化により取扱い性が低下したりする傾向がある。一方、固形分濃度が1質量%未満では、酸変性ポリオレフィン樹脂をナノファイバー中に含有させる場合や付着やコーティングをする場合ともに、酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体の使用量を多くする必要があり、ナノファイバー化が困難となったり、付着性が悪化したり、コスト的にも不利となる。
【0052】
水性分散体中には塩基性化合物を含有することが好ましいものであるが、塩基性化合物を含有することによって、ポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基は、その一部または全部が中和され、生成したカルボキシルアニオン間の電気反発力によって微粒子間の凝集を抑制することができ、水性分散体に安定性が付与される。
【0053】
塩基性化合物としては、アンモニア、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、イソプロピルアミン、アミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、エチルアミン、ジエチルアミン、イソブチルアミン、ジプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、n−ブチルアミン、2−メトキシエチルアミン、3−メトキシプロピルアミン、2,2−ジメトキシエチルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、ピロール、ピリジン、アルカリ金属化合物などが挙げられる。中でも、分散化の容易さという観点から、アンモニア、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミンが好ましい。
【0054】
塩基性化合物の添加量は、酸変性ポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基に対して0.5〜3.0倍当量であることが好ましく、0.5〜2.8倍当量であることがより好ましく、0.6〜2.5倍当量であることが特に好ましい。0.5倍当量未満では、塩基性化合物の添加効果が認められず、3.0倍当量を超えると、水性分散体の安定性が悪化する場合がある。
【0055】
上記のような酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体の具体的な製造方法としては、上述した酸変性ポリオレフィン樹脂と塩基性化合物と、水と有機溶剤からなる水性媒体とを、80〜280℃の温度で混合する方法が好ましい。この方法により、乳化剤成分や保護コロイド作用を有する化合物等の不揮発性水性分散化助剤を含有しなくとも、分散化を促進し、粒子径が微細で良好な水性分散体を得ることができる。
【0056】
水性媒体を水と有機溶剤とする場合の有機溶剤の含有量は、水性媒体全量に対して、50質量%以下であることが好ましく、1〜45質量%であることがより好ましく、2〜40質量%であることがさらに好ましく、3〜35質量%であることが特に好ましい。有機溶剤量が50質量%を超える場合には、使用する有機溶剤によっては水性分散体の安定性が低下してしまう場合がある。
【0057】
有機溶剤の具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル等のエステル類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体、さらには、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチル、1,2−ジメチルグリセリン、1,3−ジメチルグリセリン、トリメチルグリセリン等が挙げられる。これらの有機溶剤は単独で用いられてもよいし、2種以上を混合して用いられてもよい。
【0058】
上記の有機溶剤の中でも、樹脂の水性化促進に効果が高いという点から、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルが好ましく、これらの中でも水酸基を分子内に1つ有する有機溶剤がより好ましく、少量の添加で樹脂を水性化できる点から、n−プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、エチレングリコールアルキルエーテル類がさらに好ましい。
【0059】
また、本発明の不織布は、湿式不織布、乾式不織布のいずれでもよいが、中でも上記したようにナノファイバーを電界紡糸する際に堆積して得るものとすることが好ましい。
そして、本発明の不織布は、二次電池用セパレータとして用いることが好適なものであり、電解液の保持性、短絡防止性、及びイオン透過性の観点から、目付けは0.1〜10g/m2であるのが好ましく、0.5〜8g/m2であるのがより好ましく、1〜3g/m2であるのがさらに好ましい。また、不織布の厚さは、イオン透過性の観点から、50μm以下であることが好ましく、より好ましくは40μm以下で、さらに好ましくは30μm以下である。なお、厚さが薄すぎると、ナノファイバーを用いて構成されているとはいえ、電流のリーク防止性、短絡防止性及び電解液の保持性が悪くなる傾向があるため、厚さは5μm以上であるのが好ましい。なお、目付けと厚さともに、JIS L 1096に従って測定するものである。
【0060】
また、このような本発明の不織布は、バブルポイント法で測定した平均孔径が0.01〜10μmが好ましく、電解液の保持性、短絡防止性、及びイオン透過性の観点から、中でも平均孔径が0.01〜5μmが好ましく、0.03〜2.0μmがさらに好ましい。
本発明におけるバブルポイント法で測定した平均孔径は、JISK 3832に従い、PMI社のパームポロメーターを用いて測定した。
【0061】
次に、本発明の二次電池用セパレータは、本発明の不織布からなるものである、つまり、本発明の不織布そのものを用いたものや、他素材からなる基材とともに用いたもの(複合構造)が挙げられる。
複合構造体とする際に用いることができる基材としては、板、フィルム、織物、不織布、綿、紙、多孔体等の形態のものが挙げられる。
【0062】
また、本発明の二次電池用セパレータが複合構造体の場合は、基材上に本発明の不織布を設けたもの、二層の本発明の不織布間に基材を設けたもの、二層の基材間に本発明の不織布等の形態のものが挙げられる。
そして、このような複合構造体を得るには、シーラー機、熱プレス機、加熱ロール機、熱風発生機、超音波ウェルダー機、高周波ウェルダー機、レーザー機を用いたり、ニードルパンチ法、ウォーターパンチ法、ステッチボンド法を用いることにより複合化することが好ましい。
【0063】
基材を構成する材料は特に限定されるものではなく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ナイロン、アラミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリロニトリル、ポリアリレート、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリウレタン、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフルオロアルコキシフッ素、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクタム、ポリ乳酸-ポリグリコール酸共重合体、セルロース、酢酸セルロース、メチルセルロース、セルロース誘導体、キチン、キチン誘導体、キトサン、キトサン誘導体、ガラス、シリカ、アルミナ、ゼオライト、カーボン、金属などが挙げられる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。なお、後述する各種の特性値の測定及び評価方法は以下のとおりである。
【0065】
(1)ナノファイバーの平均繊維径
得られた複合化繊維構造体の繊維構造体部分を電界放射形走査電子顕微鏡((株)日立製作所S−4000)を用いて観察し、画像に記載されているスケールバーを元に、ノギスを用いて測定した20本のナノファイバーの繊維径の平均値を平均繊維径とした。
(2)酸変性ポリオレフィン樹脂の構成
オルトジクロロベンゼン(d4)中、120℃にて1H−NMR分析(バリアン社製、300MHz)を行い求めた。
(3)酸変性ポリオレフィン樹脂の不飽和カルボン酸成分の含有量
酸変性ポリオレフィン樹脂の酸価をJIS K5407に従って測定し、その値から不飽和カルボン酸の含有量を求めた。
(4)不織布の目付け、厚さ
得られた不織布の目付けと厚さをJIS L 1096に従って測定した。
(5)平均孔径
上記の方法により測定した。
(6)電解液透過性(セパレータ特性)
〔熱処理前〕
得られた不織布(二次電池用セパレータ)を長さ100mm×幅25mmの短冊状に切り出してサンプルとし、このサンプルをキムワイプの上に置き、サンプルの上に有機電解液(四フッ化ホウ酸リチウムをエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート混合溶媒(質量比1/1)に1モル/リットルの濃度で溶解させたもの)を一滴垂らし、30秒後間放置した。30秒後、キムワイプの濡れが生じていないものを○、キムワイプに濡れが生じたものを×とした。
〔熱処理後〕
得られた不織布(二次電池用セパレータ)を長さ100mm×幅25mmの短冊状に切り出してサンプルとし、このサンプルを熱風乾燥機中に載置して熱処理(150℃で1時間)を行った後、上記の熱処理前のサンプルを用いた場合と同様にして評価した。
(7)シャットダウン性能(電池特性)
黒鉛電極(宝泉社製)とコバルト酸リチウム電極(宝泉社製)と、両極の間に得られた不織布(二次電池用セパレータ)を挟んでコイン型電池を作製し、充放電試験を行った。充放電試験は、25℃環境下、0.2C−4.1V定電流定電圧充電後、0.2C−2.5V定電流放電を行い、放電容量と充電容量を求めた。そして、初期充放電効率を下記式にて算出した。
初期充放電効率(%)=(放電容量/充電容量)×100
次に、この電池を熱風乾燥機中に載置して熱処理(150℃で1時間)を行った後、上記と同様の条件で再度充放電試験を行った。このとき、充電ができなかったものをシャットダウン性能があるものとして○とし、充電や放電が可能であったものをシャットダウン性能を有していないものとして×とした。
【0066】
参考例1
ヒーターつきのオイルバスに攪拌機を備えた3口フラスコを設置し、平均重合度1800、ケン化度88%のポリビニルアルコール160gと、蒸留水840gを加えて室温で15分間攪拌を行った後、攪拌をしたままオイルバスを用いてポリビニルアルコール水溶液の温度が90℃になるまで攪拌する。そのままの状態で30分間攪拌を続けたあと、攪拌しながら室温になるまで空冷することでポリビニルアルコール水溶液を得た。
【0067】
参考例2
ヒーターつきのオイルバスに攪拌機を備えた3口フラスコを設置し、分子量130000のメチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体120gと、蒸留水880gを加えて、室温で15分間攪拌を行った後、攪拌をしたままオイルバスを用いてメチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体水溶液の温度が70℃になるまで攪拌する。そのままの状態で120分間攪拌を続けたあと、攪拌しながら室温になるまで空冷することでメチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体水溶液を得た。
【0068】
参考例3
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、酸変性ポリオレフィン樹脂として表1に示す組成のボンダインHX−8290(アルケマ社製)を60.0g、イソプロパノール(有機溶剤)を48.0g、塩基性化合物としてN,N−ジメチルエタノールアミンを3.9g、蒸留水188.1gをガラス容器内に仕込み、撹拌し、乳白色の均一な酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体「E−1」を得た。
【0069】
参考例4
プロピレン−ブテン−エチレン三元共重合体(ヒュルスジャパン社製、ベストプラスト708、プロピレン/ブテン/エチレン=64.8/23.9/11.3質量%)280gを、4つ口フラスコ中において、窒素雰囲気下で加熱溶融させた。その後、系内温度を170℃に保って、撹拌下、不飽和カルボン酸としての無水マレイン酸32.0gとラジカル発生剤としてのジクミルパーオキサイド6.0gとをそれぞれ1時間かけて加え、その後1時間反応させた。反応終了後、得られた反応物を多量のアセトン中に投入し、樹脂を析出させた。この樹脂をさらにアセトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸を除去した後、減圧乾燥機中で減圧乾燥して、表1に示す酸変性ポリオレフィン樹脂「P−1」を得た。
酸変性ポリオレフィン樹脂として、「P−1」を用い、「P−1」を60.0g、n−プロパノール(和光純薬社製、特級、沸点97℃)を90.0g、トリエチルアミン(和光純薬社製、特級、沸点89℃)6.2g、蒸留水143.8gをガラス容器内に仕込み、撹拌し、乳白黄色の均一な酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体「E−2」を得た。
【0070】
参考例5
撹拌機とヒーターを備えた密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器に、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)として、表1に示す組成のユーメックス1010を120g、塩基性化合物(B)としてN,N−ジメチルエタノールアミンを12.6g、有機溶剤としてイソプロパノールを120g、蒸留水を347g仕込み、密閉した後、撹拌し、やや黄色で半透明の均一な水性分散体(固形分濃度20質量%)を得た。
前記水性分散体295g、蒸留水50gを1Lのナスフラスコに入れ、エバポレーターに設置し、減圧することにより水性媒体を留去した。約100gの水性媒体を留去したところで、加熱を終了し、冷却した。冷却後、加圧濾過し、やや黄色で半透明の均一な酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体「E−3」を得た。
【0071】
【表1】

【0072】
実施例1
参考例1で得たポリビニルアルコール水溶液と酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体「E−1」と蒸留水を混合して、ポリビニルアルコールの固形分濃度が8.0質量%、酸変性ポリオレフィン樹脂の固形分濃度が2.8質量%の水溶液となるように調製して紡糸溶液を製造した。
内径1mmの金属ノズルをつけた注射器に5mLの紡糸溶液を充填し、金属ノズルに15kVを印加して電界紡糸法によりナノファイバーを製造し、堆積部としてはアルミニウム板を用いて、ナノファイバーを堆積させて不織布〔(イ)のナノファイバーからなる形態Xのもの〕を得た。得られた不織布を二次電池用セパレータとして使用した。
【0073】
実施例2
参考例1で得たポリビニルアルコール水溶液と酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体「E−1」と蒸留水を混合して、ポリビニルアルコールの固形分濃度が2.8質量%、酸変性ポリオレフィン樹脂の固形分濃度が8.0質量%の水溶液となるように調製した以外は、実施例1と同様にして不織布を得た。
【0074】
実施例3
酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体を「E−2」に変更した以外は、実施例1と同様にして不織布を得た。
【0075】
実施例4
酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体を「E−2」に変更した以外は、実施例2と同様にして不織布を得た。
【0076】
実施例5
酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体を「E−3」に変更した以外は、実施例1と同様にして不織布を得た。
【0077】
実施例6
酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体を「E−3」に変更した以外は、実施例2と同様にして不織布を得た。
【0078】
実施例7
参考例1で得た水溶液と参考例2で得た水溶液とを用いて、ポリビニルアルコールの固形分濃度が8.0質量%、メチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体の固形分濃度が2.0質量%の水溶液となるように調製して紡糸溶液を製造した。
内径1mmの金属ノズルをつけた注射器に5mLの紡糸溶液を充填し、金属ノズルに15kVを印加して電界紡糸法によりナノファイバーを製造し、堆積部としてはアルミニウム板を用いて、ナノファイバーを堆積させて不織布を得た。そして、150℃、30分間熱処理することにより50℃の温水に浸漬しても形状を保持可能なナノファイバーを得た。得られた不織布を酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体「E−1」(固形分濃度5質量%)に浸漬した後、プレスローラーで余分な酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体を絞りだし、50℃で3時間乾燥させた後、さらに水分を完全に除去するために50℃で15時間真空乾燥し、不織布(形態Yのもの)を得た。
なお、不織布中のポリビニルアルコールと酸変性ポリオレフィン樹脂の割合については、酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体に浸漬前後の不織布の質量変化から算出した。
【0079】
実施例8
酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体「E−1」の固形分濃度を35質量%に変更した以外は、実施例7と同様にして不織布を得た。
【0080】
実施例9
酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体を「E−2」に変更した以外は、実施例7と同様にして不織布を得た。
【0081】
実施例10
酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体を「E−2」に変更した以外は、実施例8と同様にして不織布を得た。
【0082】
実施例11
酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体を「E−3」に変更した以外は、実施例7と同様にして不織布を得た。
【0083】
実施例12
酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体を「E−3」に変更した以外は、実施例8と同様にして不織布を得た。
【0084】
実施例13
参考例1で得た水溶液と参考例2で得た水溶液とを用いて、ポリビニルアルコールの固形分濃度が8.0質量%、メチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体の固形分濃度が2.0質量%の水溶液となるように調製して紡糸溶液を製造した。
内径1mmの金属ノズルをつけた注射器に5mLの紡糸溶液を充填し、金属ノズルに15kVを印加し、堆積部として用いた線径0.05mm、目開き0.077mm、200メッシュのステンレス綾織金網に電界紡糸を行った。そして、150℃、30分間熱処理することにより50℃の温水に浸漬しても形状を保持可能なナノファイバーを得た。ステンレス綾織金網から剥離したナノファイバー0.5gを、500gの蒸留水に加えて、回転数5000rpmのホモジナイザーで10分間攪拌することでナノファイバーの水性分散体を作製した。さらに、ナノファイバーの水性分散体に繊維径15μm、繊維長50mmのポリエチレンテレフタレート(PET)繊維49.5gを分散させたのち、線径0.03mm、目開き0.034mm、400メッシュのステンレス綾織金網を用いて抄紙し、70℃の乾燥機で24間乾燥した。得られた湿式不織布を酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体「E−1」(固形分濃度35質量%)に浸漬した後、プレスローラーで余分な酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体を搾りだし、70℃の乾燥機で24時間乾燥することで、ナノファイバーとPET繊維と酸変性ポリオレフィン樹脂からなる不織布(湿式不織布)を得た。なお、不織布中のナノファイバー、PET繊維、酸変性ポリオレフィン樹脂の含有量については、蒸留水に添加したナノファイバー、PET繊維の割合と、酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体に浸漬前後の不織布の質量変化から算出した。
【0085】
実施例14
蒸留水に添加するPET繊維の質量を変更し、ナノファイバーとPET繊維の質量比が表2記載のものとなるように変更した以外は、実施例13と同様の方法で、ナノファイバーとPET繊維と酸変性ポリオレフィン樹脂からなる不織布を得た。
【0086】
実施例15
蒸留水に添加するPET繊維の質量を変更し、ナノファイバーとPET繊維の質量比が表2記載のものとなるように変更した以外は、実施例13と同様の方法で、ナノファイバーとPET繊維と酸変性ポリオレフィン樹脂からなる不織布を得た。
【0087】
比較例1
実施例7と同様の方法でナノファイバーを堆積させて不織布を製造し、得られたナノファイバーからなる不織布を酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体「E−1」に浸漬しなかった以外は、実施例7と同様にして不織布を得た。
【0088】
比較例2
蒸留水に添加するPET繊維の質量を変更し、ナノファイバーとPET繊維の質量比が表2記載のものとなるように変更した以外は、実施例13と同様の方法で、ナノファイバーとPET繊維と酸変性ポリオレフィン樹脂からなる不織布を得た。
【0089】
比較例3
酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体「E−1」を10倍希釈(固形分濃度3.5質量%)した溶液に浸漬することで、ナノファイバーとPET繊維と酸変性ポリオレフィン樹脂の質量比が表2記載のものとなるように変更した以外は、施例14と同様の方法で、ナノファイバーとPET繊維と酸変性ポリオレフィン樹脂からなる不織布を得た。
【0090】
比較例4
ポリプロピレン製フィルム(多孔膜)のセパレータ(セルガード社製、「セルガード#2400」、厚さ25μm、平均孔径0.1μm)を用い、セパレータ特性と電池特性を評価した。
【0091】
実施例1〜15、比較例1〜3で得られた不織布の特性値及び該不織布からなる二次電池用セパレータ、比較例4のセパレータの評価結果を表2に示す。
【0092】
【表2】

【0093】
表2から明らかなように、実施例1〜15で得られた不織布からなる二次電池用セパレータは、電池とした際の初期充放電効率が高く、二次電池用セパレータとして優れた性能(高いイオン伝導性)を有していた。そして、これらの二次電池用セパレータは熱処理後に電解液が透過しないことから、また、これらの二次電池用セパレータを使用した電池は、熱処理後に充電ができなかったことから、シャットダウン性能を有しているものであった。
一方で、比較例1で得られた不織布は、ポリビニルアルコールからなるナノファイバーのみからなるものであったため、この不織布からなる二次電池用セパレータは、熱処理後に電解液が透過し、また、この二次電池用セパレータを使用した電池は、熱処理後の充電や放電が可能であったことから、シャットダウン性能を有していないものであった。
比較例2で得られた不織布は、ナノファイバーの含有量が少なすぎたため、表面積、空隙率などが低下し、この不織布からなる二次電池用セパレータは、熱処理後に電解液が透過し、また、この二次電池用セパレータを使用した電池は、熱処理後の充電や放電が可能であったことから、シャットダウン性能を有していないものであった。
比較例3で得られた不織布は、酸変性ポリオレフィン樹脂の含有量が少なすぎたため、この不織布からなる二次電池用セパレータは、熱処理後に電解液が透過し、また、この二次電池用セパレータを使用した電池は、熱処理後の充電や放電が可能であったことから、シャットダウン性能を有していないものであった。
比較例4ではポリプロピレン製フィルムを二次電池用セパレータとして用いたものであったため、電池とした際の初期充放電効率が低く、高容量化を図ることができず、電池特性に劣るものであった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が10〜3000nmであるナノファイバーを0.5質量%以上含有する不織布であって、不織布中に酸変性ポリオレフィン樹脂を含有し、酸変性ポリオレフィン樹脂の含有量が0.1〜95質量%であることを特徴とする不織布。
【請求項2】
ナノファイバーがポリビニルアルコールを含有するものである請求項1記載の不織布。
【請求項3】
請求項1又は2記載の不織布からなるものであることを特徴とする二次電池用セパレータ。



【公開番号】特開2011−168935(P2011−168935A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36064(P2010−36064)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】