説明

不透明溶融樹脂の気泡検出方法

【課題】不透明な溶融樹脂内に存在する、所望の大きさの範囲にある気泡を、可視化によって容易に検出する不透明溶融樹脂の気泡検出方法を提供する。
【解決手段】溶融した樹脂コンパウンド中に存在する気泡の内、検出対象とする最小の気泡を観察する方向の気泡厚み未満の厚みを有する流路で、且つ少なくとも壁面の一面が透明部材で形成された流路に溶融した樹脂コンパウンドを流動させて前記透明部材に気泡が接することにより可視化された気泡を観察する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不透明溶融樹脂の気泡検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形における成形不具合の一つに、成形品に残留する「ボイド」がある。このボイドの主原因の一つは、成形用の樹脂コンパウンドを溶融した時の樹脂コンパウンド中の気泡(気泡の成分は、エアや該樹脂コンパウンドからの揮発物質とされている。)である。そのため、このボイド防止には、溶融した樹脂コンパウンド中の気泡の量、挙動を評価することが必要となっている。その従来技術として、ガラス型等を用いた可視化評価が常道となっている。しかし、この手法では、透明あるいは半透明な樹脂にとっては有効であるが、不透明樹脂や、着色されたり、充填材が配合されたりして不透明となった樹脂では溶融した樹脂コンパウンド中の気泡を検出できないという問題がある。
一方、不透明な樹脂でも気泡を可視化する技術として、軟X線を用いた方法が開発されている(例えば、非特許文献1参照。)。この手法は、密度差による軟X線影像の濃淡によって溶融樹脂中の気泡を検出するものである。
【非特許文献1】小池、他、「モールドパッケージング可視化解析技術」、第15回エレクトロニクス実装学術講演大会予稿集、p.157-158(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、この方法は、溶融した樹脂コンパウンド部に特殊な軟X線装置を設ける必要があり、多大な費用を要するという問題がある。
本発明は、不透明な溶融状態の樹脂コンパウンド中に存在する気泡に対して、容易に所望の大きさの範囲にある気泡を検出する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は以下に関する。
(1)溶融した樹脂コンパウンド中に存在する気泡の内、検出対象とする最小の気泡を観察する方向の気泡厚み未満の厚みを有する流路で、且つ少なくとも壁面の一面が透明部材で形成された流路に溶融した樹脂コンパウンドを流動させて前記透明部材を通して可視化された気泡を観察することを特徴とする不透明溶融樹脂の気泡検出方法。
(2)流路厚みが、複数段階の厚みに形成されている前記(1)に記載した不透明溶融樹脂の気泡検出方法。
(3)流路厚みが、スロープ状に変化する厚みに形成されている前記(1)に記載した不透明溶融樹脂の気泡検出方法。
【発明の効果】
【0005】
本発明の気泡検出方法は、不透明な溶融状態の樹脂コンパウンド中に存在する所望の大きさの範囲にある気泡の検出に好適である。さらに、気泡を複数の大きさの段階別に、または連続的な大きさ別に、容易に分類して検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
図1に、本発明による溶融状態の樹脂コンパウンド(以下、溶融樹脂という。)中の気泡検出の原理を概略図で示す。本発明は、不透明な溶融樹脂内に存在する気泡を可視化によって検出する気泡検出方法に関し、その原理を図1によって説明する。
図1の流路金型1は、壁面の少なくとも一面に透明部材で形成された透明壁面2を有する矩形断面の流路3を有する流路金型である。気泡4の厚みの最大値(厚み方向の内径)を気泡厚みdとする。ここで、厚みとは透明壁面2を通して観察する方向における長さであり、厚み方向とは、観察方向と平行な方向であり、図1中では上下方向を示す。この気泡4が存在する溶融樹脂5が、該流路3を図中の矢印方向(図1中の右方向)に流動する場合、流路3の第一の厚みt1が気泡厚みdより厚いか同じである部分(t1≧d)では、図1に示すように透明壁面2を通して観察しても前記気泡4を可視化して検出することは困難である。一方、流路3の第二の厚みt2が気泡厚みdより薄い部分(流路厚みt2<d)では、図1に示すように気泡4が透明壁面2に接して可視化されるため、該透明壁面を通して観察して流路厚みt2より大きい気泡厚みdの気泡4を検出することができる。
【0007】
透明部材2としては、例えば石英ガラス、透明エポキシ樹脂、耐熱アクリル樹脂等が挙げられ、耐熱性、強度、耐久性の点で石英ガラスが好ましい。
気泡検出の対象である不透明な樹脂コンパウンドは、例えば半導体封止用のエポキシ樹脂コンパウンドが挙げられる。その主な組成は、エポキシ樹脂の他、フェノール樹脂、芳香族アミン、酸無水物等の硬化剤、シリカ、アルミナ、硼酸亜鉛等のフィラ、シラン系等のカップリング剤、硬化促進剤、離型剤、カーボンブラック等の着色剤、応力緩和剤などである。
【0008】
本発明における流路厚みに関して、1種類の一様な厚みの他に、複数段階の厚みあるいは連続的に変化する厚みにすることによって、検出する気泡の大きさを分別できる。
図2に、本発明における流路金型の一例を、図3に別の一例を、縦断面概略図で示す。
図2のように流路金型1aの流路厚みを、1段目の流路6、2段目の流路7、3段目の流路8aと、順に薄くなるように複数段階に変化させて形成することにより、気泡を複数の厚みの段階別に、容易に分類して検出できる。
また、図3の流路金型1bのように、3段目の流路8bとして流路厚みを連続的に薄くなるようにスロープ状に変化させて形成することによって、気泡を連続的な厚みに容易に分類して検出できる。各流路を流動し終わった溶融樹脂は、流路末端の樹脂溜め9に排出される。
【0009】
以上のように、本発明の気泡検出方法には、少なくとも一面が透明壁面の流路で、且つ流路厚みを検出の対象とする最小の気泡の厚み、言い換えれば検出したい最小の気泡厚みより小さくした部分を有する流路を用いることができる。そして、該流路に不透明溶融樹脂を流動させることにより、溶融樹脂内に存在する流路厚みより大きい厚みの気泡を可視化して検出するものである。このような流路を具体化するには、流路金型を封止成形装置に組み込むことが挙げられる。
【0010】
図4に、本発明による封止成形装置及び周辺機器の一例を一部断面概略図で示す。図4では図2、3に示すような流路を有する前記流路金型1が、封止成形装置10に組み込まれている。これらによる溶融樹脂中の気泡検出を説明する。
図4に示す封止成形装置10のポット部11に樹脂コンパウンドのタブレット(タブレット径φ13mm)12を投入し、加熱ヒータ13によって一定時間加熱後プランジャ14をサーボモータ15により下降駆動させて、溶融状態の樹脂コンパウンド(溶融樹脂)5を該流路金型1の流路内に流動させる。流動は、前記溶融樹脂が全て流動し終わるか、あるいは硬化反応によって粘度が上昇して流動停止するまで行われる。封止成形装置10には、透明壁面2側にCCDカメラ16が設けてあり、該CCDカメラ16によって流動開始から終了までの状態を撮影し、CRTモニタ17によるモニタリングとビデオ装置18による録画が行われる。これにより、本発明では、流動開始から終了までの気泡4の検出とその挙動を観察が可能である。
【0011】
流動温度は通常の封止成形条件である170℃から180℃が望ましいが、それに限定されるものではない。また、流動速度も個々の封止成形条件に呼応して適宜定めれば良いが、少なくとも流路金型を通過する時間が樹脂のゲル化時間(硬化による流動停止時間)を超えないように定めることが好ましい。
【0012】
以上、本発明を半導体封止用樹脂コンパウンドの気泡検出について述べたが、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂の不透明な溶融樹脂の気泡検出にも同様に適用できる。
【実施例】
【0013】
以下、実施例により本発明を説明する。
表1に、本発明の実施例1〜4による気泡検出のための実施内容を一覧した。なお、表中の%、ppm表示は質量比率である。
【0014】
【表1】

【0015】
(実施例1〜4共通評価条件) 実施例1〜4での気泡検出の対象とした樹脂コンパウンドは、エポキシ樹脂系半導体封止用樹脂コンパウンドである。その主な組成は表1に示すように、エポキシ樹脂8質量%、硬化剤6質量%、シリカフィラ85質量%、その他シランカップリング剤、硬化促進剤、離型剤、カーボンブラックなどである。前記半導体封止用樹脂コンパウンドは、カーボンブラックが添加されているので、黒色で不透明な樹脂コンパウンドである。実施例1〜4では、気泡の一要因である加熱溶融時に発生する揮発物質の発生量の異なる樹脂コンパウンド(具体的には、シランカップリング剤の加水分解によって発生するメタノールの量を制御した。)の気泡の検出を行った。ここでの「揮発物質の発生量」とは、200℃で1時間加熱した間に気体となって放出される物質の総質量である。したがって、残留するシランカップリング剤が、高温保持状態で加水分解して発生するメタノールの量も含んでいる。
【0016】
実施例1〜4で用いた流路金型は片側壁面が石英ガラスである透明壁面2で形成されている。その流路形状は、幅15mmの矩形断面で、表1及び図2、3に示すように、1段目の流路6は厚み1.5mmで長さ(溶融樹脂の流動方向)10mm、2段目の流路7は厚み0.4mmで長さ10mmとした。図2に示すように3段目の流路8aが、厚み0.2mmで長さ15mmである流路金型1a(実施例1)、厚み0.1mmで長さ15mmである流路金型1a(実施例2、3)、及び図3に示すように別の3段目の流路8bとして厚みを0.2mmから0.1mmに直線的にスロープ状に変化させた長さ15mmの流路金型1b(実施例4)の三種類とした。実施例1〜4は、最終的に気泡の大きさを厚み0.2mmより大きいものと、厚み0.1mmより大きいものを分別検出する目的で実施した。
【0017】
前記流路金型1を、図4に示すように封止成形装置10に組み込み、以下のように溶融樹脂中の気泡検出に供した。図4に示す封止成形装置10のポット部11に樹脂コンパウンドのタブレット(タブレット径φ13mm)12を投入し、加熱ヒータ13によって一定時間加熱後プランジャ14をサーボモータ15により下降駆動させて、溶融状態の樹脂コンパウンド(溶融樹脂)5を該流路金型1の流路内に流動させた。
流動条件は、金型温度(溶融樹脂温度)175℃、流動速度はプランジャの速度で1mm/s(プランジャ径φ13.5mm)とした。
流動は、前記溶融樹脂が全て流動し終わるか、あるいは硬化反応によって粘度が上昇して流動停止するまで行われた。該流路を流動し終わった溶融樹脂は、流路末端の樹脂溜め9に排出された。
封止成形装置10には、透明壁面2側にCCDカメラ16を設け、該CCDカメラ16によって流動開始から終了までの状態を撮影し、CRTモニタ17によるモニタリングとビデオ装置18による録画が行われた。これにより、流動開始から終了までの気泡4の検出とその挙動を観察が可能であった。
【0018】
実施例1:加熱溶融時に発生する揮発物質量が500ppmに制御された半導体封止用樹脂コンパウンドを用い、表1の実施例1に記載の3段目の流路厚みが0.2mmの流路金型による気泡の検出を行った。流路金型の透明壁面を通して得られた可視化映像である検出気泡の写真を図5(a)に示す。図5(b)に図5(a)に対応する流路金型の各部分を示す概略図を示す。この図5から、1段目の流路6(厚み1.5mm)では気泡が見られないことから、気泡厚みdが1.5mmより大きい気泡はない、あるいは流動圧力によってつぶされていると判断される。また、2段目の流路7(厚み0.4mm)でもほとんど気泡はなく、0.4mmより大きい気泡はほとんど存在しないと判断される。一方、3段目の流路8(厚み0.2mm)では、多数の気泡が見られ、0.2mmより大きく0.4mmまでの気泡が多いと判断される。
【0019】
実施例2:実施例1と同様に揮発物質の量が500ppmに制御された半導体封止用樹脂コンパウンドを用い、3段目の流路厚み0.1mmの流路金型による気泡検出を行った。その結果の写真を図6に示す。3段目の流路(厚み0.1mm)に非常に多くの気泡が観察され、実施例1の3段目の流路(厚み0.2mm)での気泡の状態と比較すれば、大きさ0.1mmより大きく0.2mm以下の気泡の量が評価できる。
【0020】
実施例3:シランカップリング剤の添加量を半減し、揮発物質の量を200ppmに制御した樹脂コンパウンドを用い、3段目の流路厚み0.1mmの流路金型による気泡検出を行った。その結果の写真を図7(a)に示す。この図から、揮発物質の量を減らすことによって、溶融樹脂中の気泡を低減できることが分かる。
【0021】
実施例4:実施例1と同様の揮発物質の量を含有する樹脂コンパウンドを用い、3段目の流路厚みが0.2mmから0.1mmに直線状に変化した流路金型による気泡の検出を行った。その結果の写真を図7(b)に示す。末端の0.1mmの厚み部では小さい気泡が多い。この手法によって、同一流路内で0.2mmより大きい気泡と0.1mmより大きく0.2mmまでの気泡を評価することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による溶融状態の樹脂コンパウンド中の気泡検出の原理を示す概略図である。
【図2】本発明における流路金型の一例を示す縦断面概略図である。
【図3】本発明における流路金型の別の一例を示す縦断面概略図である。
【図4】本発明による封止成形装置及び周辺機器の一例を示す一部断面概略図である。
【図5】(a)は本発明の実施例1による検出気泡を示す写真であり、(b)は(a)に対応する流路金型の各部分を示す概略図である。
【図6】本発明の実施例2による検出気泡を示す写真である。
【図7】(a)は本発明の実施例3による検出気泡を示す写真であり、(b)は本発明の実施例4による検出気泡を示す写真である。
【符号の説明】
【0023】
1、1a、1b 流路金型 2 透明壁面 3 流路
4 気泡 5 溶融樹脂 6 1段目の流路
7 2段目の流路 8、8a、8b 3段目の流路 9 樹脂溜め
10 封止成形装置 11 ポット部 12 タブレット
13 加熱ヒータ 14 プランジャ 15 サーボモータ
16 CCDカメラ 17 CRTモニタ 18 ビデオ装置
d 気泡厚み t1 流路の第一の厚み t2 流路の第二の厚み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融した樹脂コンパウンド中に存在する気泡の内、検出対象とする最小の気泡を観察する方向の気泡厚み未満の厚みを有する流路で、且つ少なくとも壁面の一面が透明部材で形成された流路に溶融した樹脂コンパウンドを流動させて前記透明部材を通して可視化された気泡を観察することを特徴とする不透明溶融樹脂の気泡検出方法。
【請求項2】
流路厚みが、複数段階の厚みに形成されている請求項1に記載の不透明溶融樹脂の気泡検出方法。
【請求項3】
流路厚みが、スロープ状に変化する厚みに形成されている請求項1に記載の不透明溶融樹脂の気泡検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−226885(P2006−226885A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−42086(P2005−42086)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】