説明

不飽和ハロゲン化アリールアルキルエーテル成分を含む歯科用組成物

本発明は、a)少なくとも1個のアリールアルキルエーテル部分と、前記アリールアルキルエーテル部分の各アリール残基に結合された少なくとも1個のハロゲン原子と、少なくとも2個の不飽和部分とを含むハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)と、b)Si−H官能性成分(B)と、c)開始剤(C)と、d)任意に充填剤(D)と、e)任意に、変性剤、染料、顔料、チキソトロープ剤、流動改善剤、高分子増粘剤、界面活性剤、芳香物質、希釈剤および香料から選択された成分(E)とを含む歯科用組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は不飽和ハロゲン化アリールアルキルエーテル成分を含む硬化性歯科用組成物に関する。本組成物は改善された特性を有し、例えば歯科充填用材料として用いることが可能である。
【背景技術】
【0002】
市場にある歯科充填用材料は、複合材、樹脂変性ガラスイオノマーセメントおよびガラスイオノマーセメント(GIZ)に一般に分類することが可能である。複合材は、不飽和成分、特に(メタ)アクリレートの光誘導ラジカル重合を経由して通常硬化する。ガラスイオノマーセメントがセメント固化反応によって硬化するのに対して、樹脂変性ガラスイオノマーセメント両硬化は、硬化は両方のメカニズムを用いて達成される。
【0003】
歯科用組成物の硬化が歯腔を充填するために特に有用であるグラスイオノマーセメントに比べて非常に硬い材料をもたらす歯科用組成物は特に興味深い。しかし、市場にある歯科用組成物の周知された欠点は、硬化すると組成物が縮むことである。更なる欠点は、歯科用複合材料の成分の一部が加水分解に対してあまり安定でない、および/または同等の親水性であることであり、従って有害な物質が硬化した組成物から長年にわたって発生し得る。
【0004】
上述した問題を解決しようとする試みが行われた。
【0005】
この点に関して、米国特許第6,653,375B2号明細書(特許文献1)には、1,3−ビス(1−イソシアナト−1−1メチルエチル)ベンゼンのウレタンジ(メタ)アクリレート誘導体が記載されている。このモノマーが従来の歯科用充填材料の屈折率に適合する屈折率を有し、変色に向けた傾向がなく、材料の機械的特性を損なわずに歯科用材料中のビス−GMAに取って代わることが可能であることが述べられている。
【0006】
米国特許第6,624,236B1号明細書(特許文献2)は、シクロシロキサン系架橋性モノマー、それらのモノマー製造および重合性材料中でのそれらのモノマーの使用、特にゾルゲル縮合性シクロシロキサン(メタ)アクリレートからのポリシロキサンならびに樹脂組成物に関連している。
【0007】
米国特許第6,566,413B1号明細書(特許文献3)は、歯科用組成物のために有用な硬化性シロキサン化合物に基づく重合性材料に関連している。用いられるシロキサン化合物が低粘度を示し、高い充填剤取込みを可能にし、低い重合収縮を有する組成物につながることが記載されている。
【0008】
国際公開第01/92271A1号パンフレット(特許文献4)において、多環式セグメントまたは芳香族セグメントを有するプレポリマー(メタ)アクリレートは、歯科用材料の調製のために有用であると記載されている。シロキサンモノマーが高い分子量(例えば600g/モルを上回る)を有し、高い(メタ)アクリレート官能性および低い粘度を有すると言われている。
【0009】
国際公開第01/095862A1号パンフレット(特許文献5)は、ジ(メタ)アクリレートまたはポリ(メタ)アクリレート、アルコキシル化ビスフェノールジメタクリレート、重合性モノマー、重合開始剤および/または増感剤、安定剤および充填剤の混合物を含む低収縮重合性歯科用材料に関連している。重合中の体積の収縮は2体積パーセント未満であることが言及されている。
【0010】
EP第0451709A2号明細書(特許文献6)には、(メタ)アクリレート部分を含む基を含むことが可能である特定の式のシランが開示されている。このシランがそれ自体でまたは塗料組成物、バルク材料、接着剤および射出成形用の組成物のための添加剤として用いることが可能であることが記載されている。
【0011】
しかし、上述した解決策では完全には満足とは言えない。
【0012】
従って、代替品が必要とされている。改善された特性を有する代替材料が特に必要とされている。
【0013】
【特許文献1】米国特許第6,653,375B2号明細書
【特許文献2】米国特許第6,624,236B1号明細書
【特許文献3】米国特許第6,566,413B1号明細書
【特許文献4】国際公開第01/92271A1号パンフレット
【特許文献5】国際公開第01/095862A1号パンフレット
【特許文献6】EP第0451709A2号明細書
【特許文献7】米国特許第5,145,886号明細書
【特許文献8】米国特許第6,046,250号明細書
【特許文献9】米国特許第6,376,569号明細書
【特許文献10】米国特許第3,715,334号明細書
【特許文献11】米国特許第3,775,352号明細書
【特許文献12】米国特許第3,814,730号明細書
【特許文献13】米国特許第3,933,880号明細書
【特許文献14】米国特許第3,971,754号明細書
【特許文献15】EP第0238025A1号明細書
【特許文献16】米国特許第5,322,440A1号明細書
【特許文献17】米国特許第4,391,590号明細書
【特許文献18】米国特許第5,165,890号明細書
【非特許文献1】フーベン−ウェイル(Houben−Weyl)著、「有機化学の方法(Methoden der Organischen Chemie)」、ゲオルグ・ティエメ・ベルラグ(Georg Thieme Verlag)発行、シュツッツガルト(Stuttgart)、1965、第4版。
【非特許文献2】ターベル(Tarbell,D.S.)、ウィルソン(Wilson,J.W.)著、J.Am.Chem.Soc.、1942、64(5)、1066〜1070。
【非特許文献3】マルシニエク(Marciniec,B)著、「ヒドロシリル化に関する包括的ハンドブック(Comprehensive Handbook on Hydrosilylation)」、p8ff、ペルガモンプレス(Pergamon Press)発行、オックスフォード(Oxford)、1992。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明の目的は上述した問題の1つ以上を軽減することである。
本発明の目的は、歯科分野で用いられる場合、美的組成物を提供することでもある。
本発明のもう1つの目的は親油性組成物を提供することである。
本発明のもう1つの目的は、改善された特性を有する組成物、特に、低い収縮値を有する組成物を提供することを可能にする組成物を提供することである。
以下のテキストで記載された組成物を提供することにより上述した目的の1つ以上を達成することが可能であることが見出された。
【0015】
驚くべきことに、不飽和基などの重合性基を含むハロゲン化アリールアルキルエーテル誘導体を使用すると、改善された特性を有する硬化性歯科用組成物を提供することを可能にすることが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0016】
従って、本発明は、
a)少なくとも1個のアリールアルキルエーテル部分と、
前記アリールアルキルエーテル部分の各アリール残基に結合された少なくとも1個のハロゲン原子と、
少なくとも2個の不飽和部分と、
を含むハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)と、
b)Si−H官能性成分(B)と、
c)開始剤(C)と、
d)任意に充填剤(D)と、
e)任意に、変性剤、染料、顔料、チキソトロープ剤、流動改善剤、高分子増粘剤、界面活性剤、芳香物質、希釈剤および香料から選択された成分(E)と、
を含む歯科用組成物に関する。
【0017】
本発明は以下に記載されたように組成物を製造する方法にも関連する。
更に、本発明は以下に記載されたように組成物を使用する方法に関連する。
【0018】
ハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)は、他の反応性化合物および/または非反応性化合物も必要ならば含んでもよい歯科用材料中の反応性化合物として単独で、または他の不飽和成分との混合物中で用いることが可能である。
【0019】
ハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)は、提供された歯科用組成物が優れた不透明度を有し得るように、従って非常に美的であるように、同等に低い粘度と合わせて同等に高い屈折率をしばしば示す。更に、本組成物は、市場にある他の歯科用組成物と比べて、硬化後に同等に低い収縮ならびに(例えば、コーヒー、お茶、赤ワインからの)水および/または水溶性染料の低い取込みをしばしば示す。
【0020】
本発明の意味内の「含む(comprise)」および「含む(contain)」という用語は、機能の網羅的でないリストを導入する。同様に、「1つの」または「a」という単語は「少なくとも1つ」の感覚で理解されるべきである。
【0021】
本発明による「歯科用組成物」という用語は、通常は数グラムの少量で種々の目的のために歯科分野で用いられるべき硬化性組成物である。
【0022】
本発明による「Si−H官能性成分」という用語は、分子内で少なくとも1個のSi原子およびSi原子に直接結合された少なくとも1個のH原子を各々が含む物質または物質の混合物である。
【0023】
本発明による「開始剤」という用語は、硬化反応、好ましくはヒドロシリル化硬化反応を開始できる物質または物質の混合物である。
【0024】
本発明による「不飽和部分」という用語は、特にヒドロシリル化反応を経由して重合可能である部分であって、好ましくは末端オレフィン基を含む部分を意味する。
【0025】
ハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)は、フェノール前駆体の、例えばエーテル化反応(フーベン−ウェイル(Houben−Weyl)著、「有機化学の方法(Methoden der Organischen Chemie)」、ゲオルグ・ティエメ・ベルラグ(Georg Thieme Verlag)発行、シュツッツガルト(Stuttgart)、1965、第4版。(非特許文献1)の第VI/3巻、p49ffを参照すること)を経由して合成することが可能である。
【0026】
エーテル化反応は、スキーム(I)で示された触媒の存在下で求電子体(ii)の脱離基LGをフェノール求核体(i)が置換し、新たなC−O単結合を形成するとともにエーテル化合物(iii)を与える求核性置換反応である。
【0027】
【化6】

式中、
1=芳香族部分または(環式)脂肪族芳香族部分、ここで、C原子および/またはH原子は、例えばO原子、Br原子およびCl原子によって置換されていることも可能である。
2、R3、R4=脂肪族部分または芳香族部分、ここで、C原子および/またはH原子は、例えばO原子、Br原子およびCl原子によって置換されていることも可能である。
【0028】
すなわち、本発明のハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)は、例えば(非特許文献1)の第VI/3巻、p57(第1の調製実施例)またはp56(第1の調製実施例)におけるアリルフェニルエーテルまたはBut−2−エニル−(2−メトキシフェニル)エーテルのような、または例えば、ターベル(Tarbell,D.S.)、ウィルソン(Wilson,J.W.)著、J.Am.Chem.Soc.、1942、64(5)、1066〜1070(非特許文献2)によって記載されたアリル−(2−クロロフェニル)エーテルのようなアリールアルキルエーテル化合物のために記載されたようにフェノール前駆体(i)を求核体(ii)と反応させることによりスキーム(I)によるエーテル化反応を経由して得ることが可能である。
【0029】
2,2−ビス[3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル]プロパンまたは2,2−ビス[3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル]プロパンのような可能なフェノール前駆体(i)は市販されているか、または例えば(非特許文献2)によって記載された2−アリル−6−クロロフェノールのように合成することが可能である。
【0030】
3−ブロモ−プロペン、4−ブロモ−ブテン、5−ブロモ−ペンテンまたは6−ブロモ−ヘキセンのような可能な求電子体(ii)は市販されている。
【0031】
本発明組成物のハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)は、好ましくは以下の化学部分を含む。
−アリールアルキルエーテル部分:1、2、3または4個、
−各アリールアルキルエーテル部分のアリール残基に結合されたハロゲン原子:少なくとも1、2、3または4個、
−不飽和部分:少なくとも2、3または4、
【0032】
本発明組成物のハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)は、通常はSi原子を含まない。
【0033】
ハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)の量は、硬化した組成物を基準にして約1重量%ほどに低い、または約3重量%ほどに低い、あるいは約10重量%ほどに低いことが可能である。
【0034】
ハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)の量は、硬化した組成物を基準にして約90重量%ほどに高い、または約65重量%ほどに高い、あるいは約30重量%ほどに高いことが可能である。
【0035】
Si−H官能性成分(B)の量は、硬化した組成物を基準にして約1重量%ほどに低い、または約3重量%ほどに低い、あるいは約10重量%ほどに低いことが可能である。
【0036】
Si−H官能性成分(B)の最大量は、硬化した組成物を基準にして約90重量%ほどに高い、または約65重量%ほどに高い、あるいは約30重量%ほどに高いことが可能である。
【0037】
開始剤(C)の量は、硬化した組成物を基準にして約0.00005重量%ほどに低い、または約0.0002重量%ほどに低い、あるいは約0.002重量%ほどに低いことが可能であり、元素金属として計算することが可能であり、成分(A)〜(E)に関して存在する材料の全重量に関連付けることが可能である。
【0038】
開始剤(C)の量は、硬化した組成物を基準にして約1.0重量%ほどに高い、または約0.5重量%ほどに高い、あるいは約0.1重量%ほどに高いことが可能であり、元素金属として計算することが可能であり、成分(A)〜(E)に関して存在する材料の全重量に関連付けることが可能である。
【0039】
任意の充填剤(D)の量は、硬化した組成物を基準にして約3重量%ほどに低い、または約25重量%ほどに低い、あるいは約50重量%ほどに低いことが可能である。
【0040】
充填剤(D)の量は、硬化した組成物を基準にして約90重量%ほどに高い、または約80重量%ほどに高い、あるいは約75重量%ほどに高いことが可能である。
【0041】
任意の成分(E)は、硬化した組成物を基準にして約25重量%の量に至るまで、約15重量%の量に至るまで、または約3重量%の量に至るまで存在することが可能である。
【0042】
本発明の歯科用組成物は、好ましくは以下の特徴の少なくとも1つを満たす。
【0043】
ハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)の粘度は、約0.1Pa*s以上、または約1Pa*s以上、あるいは約2Pa*s以上であることが可能である。
【0044】
ハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)の粘度は、通常、約80Pa*sを超えず、約20Pa*s以下または約5Pa*s以下であることが可能である。
【0045】
ハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)の屈折率は、約1.530以上、または約1.560以上、あるいは約1.590以上であることが可能である。
【0046】
ハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)の屈折率は、通常、約1.680を超えず、約1.650以下または約1.620以下であることが可能である。
【0047】
硬化した歯科用組成物の不透明度は、約10%以上、または約40%以上、あるいは約70%以上であることが可能である。
【0048】
硬化した歯科用組成物の不透明度は、通常は約92%を超えず、約90%以下または約88%以下であることが可能である。
【0049】
ハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)の分子量(Mw)は、約400以上、または約600以上、あるいは約800以上であることが可能である。
【0050】
分子量(Mw)は、通常は約10,000を超えず、約5,000以下または約2,000以下であることが可能である。
【0051】
特に指示がない限り、測定は以下で記載した方法により標準温度および標準圧力(「STP」すなわち23℃および1023hPa)で行った。
【0052】
カルボシラン含有成分(A)の屈折率は、「クルエス(Kruess)」AR4D装置(アッベの測定原理による屈折計)で測定される。屈折率は20.0℃で測定される。屈折率は589nmの波長で測定される。
【0053】
カルボシラン含有成分(A)の粘度は、「ハーケ・ロトビスコ(Haake RotoVisco)」RV1装置(ステータP61と合わせて8000mPa*s以下の粘度に関してロータC60/1または8000mPa*sを上回る粘度に関してロータC20/1)で測定される。粘度は2つの平面と平行板(すなわち、ステータおよびロータ)との間で23℃で測定される。システムの活性化および修正後に、適切なロータを設置する。その後、ロータを下げ、ステータとロータとの間の距離を粘度測定のために(ソフトウェア「レオウィン・プロジョッブ・マネージャ・ソフトウェア・バージョン(RheoWin Pro Job Manager Softoware Version)」2.94を用いて)0.052mmに調節する。その後、ロータを上げ、測定しようとする材料をステータ上に置く(ロータ60/1で1.0mlまたはロータC20/1で0.04ml)。甚だしく遅れずに、ロータを予備調節した測定位置に下げて戻す。測定しようとする材料を23.0℃で調合する。測定のための剪断速度を少なくとも5000μNmのトルクを生じさせる値に調節する(従って、測定しようとする材料の粘度に応じて100、200、500または1000s-1の剪断速度を通常は用いる)。測定を開始し、60秒にわたり行う。粘度値(Pa*s)を測定の開始から20秒後に記録し、記録した値の平均値を粘度として与える。
【0054】
カルボシラン含有成分(A)の分子量(Mw)はGPCで決定される。適切な方法は専門家によって知られている。更に、分子量の決定は核磁気共鳴分光分析法(末端基の決定)を用いて可能である。
【0055】
硬化した歯科用組成物の不透明度は、規定高さ3.6(±0.1)mmおよび直径20(±0.1)mmの試験片によって測定される。これらは、測定しようとする材料を適切に高い環に均一に且つ泡フリーで充填し、平らで透明でシリコーン油処理されたガラススライドの間に標準温度または50℃で一晩貯蔵することにより材料を化学的に硬化させることによって調製される。その後、米国のハンター・ラブ・アソーシエーツ・ラボラトリー(Hunter Lab Associates Laboratory,Inc.)の色測定装置「ハンターラブ・ラブスキャン・スペクトラルカラリメータ(HanterLab LabScan Spectralcolorimeter)」(ソフトウェア、「スペックウェア・ソフトウェア・バージョン(SpecWare Software Version)」1.01)で不透明度を測定し、装置によって%値で与える。
【0056】
圧縮強度および曲げ強度は、ISO4049に準拠してそれぞれISO9917と同等に測定される。圧縮強度の測定のために、各材料の10個の試験片(3×3×5mm)を製造者の推奨により調製し、ユニバーサル試験機(「ズウィック(Zwick)」Z010、クロスヘッド速度4mm/分)を用いて測定をISO9917と同等に行われた。圧縮強度はMPaで与えられる。曲げ強度の測定は、ユニバーサル試験機(「ズウィック(Zwick)」Z010、クロスヘッド速度2mm/分)を用いてISO4049に準拠して行う。曲げ強度はMPaで与えられる。
【0057】
本発明組成物のハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)は、構造要素(1):
【0058】
【化7】

(式中、互いから独立して選択されて、
A=C1〜C30を有する(シクロ)アルキルまたはアリール(シクロ)アルキルあるいはアルケニル、ここで、C原子および/またはH原子は、Br、Cl、NまたはOによって置換されていることが可能であり、
B=H、Brまたはアリル(好ましくは、アリルまたはCl)、
D=BrまたはCl、
E=H、C1〜C100を有する(シクロアルキル)またはアリール(シクロ)アルキル、ここで、C原子および/またはH原子は、Br、Cl、NまたはOによって置換されていることが可能であり、
a=1、2、3または4、e=1と合わせて好ましくは3、より好ましくは1または2、
e=1、2、3または4、a=1と合わせて好ましくは3、より好ましくは2、
Br=臭素原子、
C=炭素原子、
Cl=塩素原子、
H=水素原子、
N=窒素原子、
O=酸素原子である)
によって表すことが可能である。
【0059】
本発明組成物のハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)は、同等に高い親油性および同等に高い分子量に加えて、同等に低い粘度と合わせて同等に高い屈折率を有し得る。
【0060】
特定のいかなるメカニズムにも限定されること望まないで、ハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)内の芳香族部分のゆえに、屈折率および親油性は同等に高いことが考えられ、それは、適切な美的性を達成するとともに(例えば、コーヒー、お茶、赤ワインからの)水および/または水溶性染料の取込みによる汚れおよび/または膨潤を避けるために歯科用材料に関して多少重要である。
【0061】
更に、特定のいかなるメカニズムにも限定されること望まないで、ハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)の同等に高い分子量および/またはハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)内の使用された不飽和部分Bの異なる反応性のゆえに、誘導された歯科用組成物の体積収縮が従来の(メタ)アクリレート複合材と比べて減少されることが考えられる。
【0062】
好ましい実施形態において、ハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)は、ハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)の分子構造およびハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)内の構造要素(I)のアリールアルキルエーテル部分の数値aまたはeに応じて式(I〜III)によって特徴付けることが可能である。
【0063】
好ましい実施形態おいて、ハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)は、分子内で一度のみの構造要素(1)および部分Aとしてアルケニル残基を含み(すなわち、a=1およびe=1ならびにA=C1〜C12を有するアルケニル、ここで、C原子および/またはH原子は、Br、Cl、N、Oによって置換されていることが可能である)、式(I)(指標は上で定義された通りである)によって特徴付けられることが可能である。
【0064】
【化8】

式中、互いから独立して選択されて、
A=(以下の構造式で表される)
【0065】
【化9】

B=アリル、
(ここで、AおよびBは上述した構造要素(1)に関連する)
D=BrまたはCl、
E=H、BrまたはCl(好ましくはBrまたはCl)、
F=H、C1〜C6を有するアルキルまたはアリール、ここで、C原子および/またはH原子は、Br、Cl、NまたはO(好ましくはH)によって置換されていることが可能であり、
G=H、C1〜C6を有するアルキルまたはアリール、ここで、C原子および/またはH原子は、Br、Cl、NまたはO(好ましくはH)によって置換されていることが可能であり、
l=アルキル(C1〜C2)、
a=1、
c=0または1、
d=1〜10、5以下、好ましくは4以下、より好ましくは2〜3、
e=1であり、
他の指標は上で定義された通りである。
【0066】
式(I)によると、以下の構造式はハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)の好ましい例である。
【0067】
【化10】

式中、A=C3、d=1、c=0、F=H、G=H、B=アリル、D=Cl、E=H
【0068】
【化11】

式中、A=C3、d=1、c=0、F=H、G=H、B=アリル、D=Cl、E=Cl
【0069】
【化12】

式中、A=C4、d=2、c=0、F=H、G=H、B=アリル、D=Cl、E=H
【0070】
【化13】

式中、A=C4、d=2、c=0、F=H、G=H、B=アリル、D=Cl、E=Cl
【0071】
【化14】

式中、A=C5、d=3、c=0、F=H、G=H、B=アリル、D=Cl、E=H
【0072】
【化15】

式中、A=C5、d=3、c=0、F=H、G=H、B=アリル、D=Cl、E=Cl
【0073】
【化16】

式中、A=C6、d=2、c=1、F=H、G=H、l=C1、B=アリル、D=Cl、E=H
【0074】
【化17】

式中、A=C6、d=2、c=1、F=H、G=H、l=C1、B=アリル、D=Cl、E=Cl
【0075】
【化18】

式中、A=C6、d=4、c=0、F=H、G=H、B=アリル、D=Cl、E=H
【0076】
【化19】

式中、A=C6、d=4、c=0、F=H、G=H、B=アリル、D=Cl、E=Cl
【0077】
以下の化合物は、式(I)による要求事項を満たすハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)の合成のためにスキーム(I)により用いられるフェノール前駆体(i)の好ましい例である。
【0078】
【化20】

【0079】
以下の化合物は、式(I)による要求事項を満たすハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)の合成のためにスキーム(I)により用いられる求電子体(ii)の好ましい例である。
【0080】
【化21】

【0081】
好ましい実施形態において、ハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)は、分子内で一度を上回る構造要素(1)および部分Bとしてアリル残基(すなわち、a≧2およびe=1ならびにB=アリル)を含み、式(II)(指標は上で定義された通りである)によって特徴付けられることが可能である。
【0082】
【化22】

式中、互いから独立して選択されて、
A=C1〜C12を有する(シクロ)アルキルまたはアリール(シクロ)アルキル、ここで、C原子および/またはH原子は、Br、Cl、NまたはOによって置換されることが可能であり、
B=アリル、
D=BrまたはCl、好ましくはBr、より好ましくはCl、
E=H、BrまたはCl(好ましくはBr、より好ましくはCl)、
a=2、3、4、好ましくは2または3、
e=1であり、
指標Bおよびeは上述した構造要素(1)に関連する。
【0083】
式(II)によると、以下の構造式はハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)の好ましい例である。
【0084】
【化23】

式中、A=C3、a=2、B=アリル、D=Cl、E=H、
【0085】
【化24】

式中、A=C3、a=2、B=アリル、D=Cl、E=HがClによって置換されているH、
【0086】
【化25】

式中、A=C5、a=2、B=アリル、D=Cl、E=H、
【0087】
【化26】

式中、A=C5、a=2、B=アリル、D=Cl、E=HがClによって置換されているH、
【0088】
【化27】

式中、A=C8、a=2、B=アリル、D=Cl、E=H、
【0089】
【化28】

式中、A=C8、a=2、B=アリル、D=Cl、E=HがClによって置換されているH、
【0090】
【化29】

式中、A=C9、a=3、B=アリル、D=Cl、E=H、
【0091】
【化30】

式中、A=C9、a=3、B=アリル、D=Cl、E=HがClによって置換されているH、
【0092】
【化31】

式中、A=C5、a=3、B=アリル、D=Cl、E=H、
【0093】
【化32】

式中、A=C5、a=3、B=アリル、D=Cl、E=HがClによって置換されているH、
【0094】
【化33】

式中、A=C6、a=4、B=アリル、D=Cl、E=H、
【0095】
【化34】

式中、A=C5、a=4、B=アリル、D=Cl、E=HがClによって置換されているH、
【0096】
以下の化合物は、式(II)による要求事項を満たすハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)の合成のためにスキーム(I)により用いられるフェノール前駆体(i)の好ましい例である。
【0097】
【化35】

【0098】
以下の化合物は、式(II)による要求事項を満たすハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)の合成のためにスキーム(I)により用いられる求電子体(ii)の好ましい例である。
【0099】
【化36】

【0100】
もう1つの好ましい実施形態において、ハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)は、分子内で一度を上回る構造要素(1)および部分Aとしてアルケニル残基(すなわち、a=1およびe≧2ならびにA=C1〜C12を有するアルケニル、ここで、C原子および/またはH原子は、Br、Cl、N、Oによって置換されていることも可能である)を含み、式(III)(指標は上で定義された通りである)によって特徴付けられることが可能である。
【0101】
【化37】

式中、互いから独立して選択されて、
A=(以下の構造式で表される)
【0102】
【化38】

B=H、BrまたはCl、好ましくはBrまたはCl、
D=BrまたはCl、好ましくはBrまたはCl、
E=C1〜C80を有する(シクロ)アルキルまたはアリール(シクロ)アルキル、ここで、C原子および/またはH原子は、Br、Cl、NまたはOによって置換されていることが可能であり、
F=H、C1〜C6を有するアルキルまたはアリール、ここで、C原子および/またはH原子は、Br、Cl、NまたはO(好ましくはH)によって置換されていることが可能であり、
G=H、C1〜C6を有するアルキルまたはアリール、ここで、C原子および/またはH原子は、Br、Cl、N、O(好ましくはH)によって置換されていることが可能であり、
l=アルキル(C1〜C2)、
a=1、
c=0または1、好ましくは0、
d=1〜10、5以下、好ましくは4以下、より好ましくは2または3、
e=2、3または4であり、
指標Aおよびaは上述した構造要素(1)に関連する。
【0103】
式(III)によると、以下の構造式はハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)の好ましい例である。
【0104】
【化39】

式中、A=C3、d=1、c=0、F=H、G=H、e=2、B=Br、D=Br、E=C3
【0105】
【化40】

式中、A=C3、d=1、c=0、F=H、G=H、e=2、B=Cl、D=Cl、E=C3
【0106】
【化41】

式中、A=C4、d=2、c=0、F=H、G=H、e=2、B=Br、D=Br、E=C3
【0107】
【化42】

式中、A=C4、d=2、c=0、F=H、G=H、e=2、B=Cl、D=Cl、E=C3
【0108】
【化43】

式中、A=C5、d=3、c=0、F=H、G=H、e=2、B=Br、D=Br、E=C3
【0109】
【化44】

式中、A=C5、d=3、c=0、F=H、G=H、e=2、B=Cl、D=Cl、E=C3
【0110】
【化45】

式中、A=C6、d=2、c=1、F=H、G=H、l=C1、e=2、B=Br、D=Br、E=C3
【0111】
【化46】

式中、A=C6、d=2、c=1、F=H、G=H、l=C1、e=2、B=Cl、D=Cl、E=C3
【0112】
【化47】

式中、A=C6、d=4、c=0、F=H、G=H、e=2、B=Br、D=Br、E=C3
【0113】
【化48】

式中、A=C6、d=4、c=0、F=H、G=H、e=2、B=Cl、D=Cl、E=C3
【0114】
【化49】

式中、A=C3、d=1、c=0、F=H、G=H、e=2、B=Br、D=Br、E=CおよびHがBrおよびOによって部分的に置換されているC27
【0115】
【化50】

式中、A=C3、d=1、c=0、F=H、G=H、e=2、B=Cl、D=Cl、E=CおよびHがClおよびOによって部分的に置換されているC27
【0116】
【化51】

式中、A=C4、d=2、c=0、F=H、G=H、e=2、B=Br、D=Br、E=CおよびHがBrおよびOによって部分的に置換されているC28
【0117】
【化52】

式中、A=C4、d=2、c=0、F=H、G=H、e=2、B=Cl、D=Cl、E=CおよびHがClおよびOによって部分的に置換されているC28
【0118】
【化53】

式中、A=C5、d=3、c=0、F=H、G=H、e=2、B=Br、D=Br、E=CおよびHがBrおよびOによって部分的に置換されているC29
【0119】
【化54】

式中、A=C5、d=3、c=0、F=H、G=H、e=2、B=Cl、D=Cl、E=CおよびHがClおよびOによって部分的に置換されているC29
【0120】
【化55】

式中、A=C6、d=2、c=1、F=H、G=H、l=C1、e=2、B=Br、D=Br、E=CおよびHがBrおよびOによって部分的に置換されているC30
【0121】
【化56】

式中、A=C6、d=2、c=1、F=H、G=H、l=C1、e=2、B=Cl、D=Cl、E=CおよびHがClおよびOによって部分的に置換されているC30
【0122】
【化57】

式中、A=C6、d=4、c=0、F=H、G=H、e=2、B=Br、D=Br、E=CおよびHがBrおよびOによって部分的に置換されているC30
【0123】
【化58】

式中、A=C6、d=4、c=0、F=H、G=H、e=2、B=Cl、D=Cl、E=CおよびHがClおよびOによって部分的に置換されているC30
【0124】
【化59】

式中、A=C3、d=1、c=0、F=H、G=H、e=2、B=Br、D=Br、E=CおよびHがBrおよびOによって部分的に置換されているC51
【0125】
【化60】

式中、A=C3、d=1、c=0、F=H、G=H、e=2、B=Cl、D=Cl、E=CおよびHがClおよびOによって部分的に置換されているC51
【0126】
【化61】

式中、A=C4、d=2、c=0、F=H、G=H、e=2、B=Br、D=Br、E=CおよびHがBrおよびOによって部分的に置換されているC53
【0127】
【化62】

式中、A=C4、d=2、c=0、F=H、G=H、e=2、B=Cl、D=Cl、E=CおよびHがClおよびOによって部分的に置換されているC53
【0128】
【化63】

式中、A=C5、d=3、c=0、F=H、G=H、e=2、B=Br、D=Br、E=CおよびHがBrおよびOによって部分的に置換されているC55
【0129】
【化64】

式中、A=C5、d=3、c=0、F=H、G=H、e=2、B=Cl、D=Cl、E=CおよびHがClおよびOによって部分的に置換されているC55
【0130】
【化65】

式中、A=C6、d=2、c=1、F=H、G=H、l=C1、e=2、B=Br、D=Br、E=CおよびHがBrおよびOによって部分的に置換されているC57
【0131】
【化66】

式中、A=C6、d=2、c=1、F=H、G=H、l=C1、e=2、B=Cl、D=Cl、E=CおよびHがClおよびOによって部分的に置換されているC57
【0132】
【化67】

式中、A=C6、d=4、c=0、F=H、G=H、e=2、B=Br、D=Br、E=CおよびHがBrおよびOによって部分的に置換されているC57
【0133】
【化68】

式中、A=C6、d=4、c=0、F=H、G=H、e=2、B=Cl、D=Cl、E=CおよびHがClおよびOによって部分的に置換されているC57
【0134】
以下の化合物は、式(III)による要求事項を満たすハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)の合成のためにスキーム(I)により用いられるフェノール前駆体(i)の好ましい例である。
【0135】
【化69】

【0136】
以下の化合物は、式(III)による要求事項を満たすハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)の合成のためにスキーム(I)により用いられる求電子体(ii)の好ましい例である。
【0137】
【化70】

【0138】
有用なSi−H官能性成分(B)は、ヒドロシリル化反応を経由してハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)と反応することが可能である。こうしたSi−H官能性化合物(B)は、Si−結合水素原子を有するオルガノポリシロキサンおよび/またはカルボシラン誘導化合物であることが可能である。Si−H官能性化合物(B)は、好ましくは、分子当たり少なくとも2個のSi−結合水素原子を有するオルガノポリシロキサンおよび/または分子当たり少なくとも2個のSi−結合水素原子を有するカルボシランである。
【0139】
有用な開始剤(C)は、Si−H官能性化合物(B)の存在下で組成物のハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)の硬化を開始させることが可能である。こうした開始剤は光硬化性または化学硬化性であることが可能である。開始剤の両方のタイプは当業者に周知されている。
【0140】
こうした開始剤の代表的なものは、例えば、マルシニエク(Marciniec,B)著、「ヒドロシリル化に関する包括的ハンドブック(Comprehensive Handbook on Hydrosilylation)」、p8ff、ペルガモンプレス(Pergamon Press)発行、オックスフォード(Oxford)、1992(非特許文献3)または例えば米国特許第5,145,886号明細書(特許文献7)、米国特許第6,046,250号明細書(特許文献8)、米国特許第6,376,569号明細書(特許文献9)内で記載されたような、例えば、白金の錯体(酸化状態0および/または+2)、パラジウム(酸化状態0および/または+2)またはロジウム(酸化状態0および/または+1)である。
【0141】
開始剤(C)は、好ましくは、テトラメチルジビニルジシロキサンによる還元によりヘキサクロロ白金酸から調製された白金錯体である。これらの化合物は知られている。付加架橋を促進する他の白金化合物も適する。適する白金−シロキサン錯体は、例えば、米国特許第3,715,334号明細書(特許文献10)、米国特許第3,775,352号明細書(特許文献11)および米国特許第3,814,730号明細書(特許文献12)に記載されている。白金触媒は、好ましくは0.00005〜0.5重量%、特に0.0002〜0.2重量%の量で用いられる。それぞれは元素白金として計算され、成分(A)〜(E)に関して存在する材料の全量に関連付けられる。
【0142】
反応性を制御するために、早期架橋を防ぐ禁止剤をエラストマーに添加することが望ましい場合がある。こうした禁止剤は知られており、例えば米国特許第3,933,880号明細書(特許文献13)に記載されている。この例には、3−メチル−1−ブチン−3−オール、1−エチニルシクロヘキサン−1−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オールおよび3−メチル−1−ペンチン−3−オールなどのアセチレン系不飽和アルコールが挙げられる。ビニルシロキサンに基づく禁止剤の例は、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジビニルシロキサンならびにビニル基を含むポリシロキサン、オリゴシロキサンおよびジシロキサンである。
【0143】
本発明の組成物は、充填剤(D)、好ましくは、石英、粉砕ガラス、シリカゲルならびに熱分解法珪酸および沈降珪酸またはそれらの粒体のような無機充填剤も含んでよい。X線不透明充填剤も少なくとも部分的に好ましくは用いられる。これらは、例えばX線不透明ガラス、すなわち、(例えば、米国特許第3,971,754号明細書(特許文献14)による)例えば、ストロンチウム、バリウムまたはランタンを含有するガラスであることが可能である。充填剤の一部は、(例えば、EP第0238025A1号明細書(特許文献15)による)三弗化イットリウム、ヘキサフルオロジルコン酸ストロンチウムまたは希土類金属の弗素化物などのX線不透明添加剤を含有してもよい。ポリマーマトリックスにより良く導入するために、無機充填剤を疎水化することが有益な場合がある。典型的な疎水化剤には、シラン、例えば、(5−ヘキセニル)トリメトキシシランまたは[2−(3−シクロヘキセニル)エチル]トリメトキシシランが挙げられる。充填剤は、好ましくは20μm未満、特に5μm未満、より特に2μm未満の平均粒径および150μm、特に70μm、より特に25μmの上限粒度を有する。こうした充填剤は、組成物の約3〜約90重量%、特に約25〜約80重量%または約50〜約75重量%の量で存在することが可能である。
【0144】
石英、クリストバライト、珪酸カルシウム、珪藻土、珪酸ジルコニウム、ベントナイトなどのモンモリロナイト、ゼオライト、アルミニウム珪酸ナトリウムなどのモレキュラーシーブ、酸化アルミニウムまたは酸化亜鉛あるいはそれらの混合酸化物などの金属酸化物粉末、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、プラスター、ガラスおよびプラスチック粉末などの非強化用充填剤も用いてよい。
【0145】
適する充填剤は、例えば、熱分解法珪酸または沈降珪酸およびシリカアルミナ混合酸化物などの強化用充填剤も含む。上述した充填剤は、例えば、オルガノシランまたはシロキサンで処理することにより、またはヒドロキシル基をアルコキシ基にエーテル化することにより疎水化することが可能である。充填剤の1つのタイプまたは少なくとも2種の充填剤の混合物も用いることが可能である。
【0146】
強化用充填剤と非強化用充填剤の組み合わせは特に好ましい。この点に関して、強化用充填剤の量は、約1から約10重量%まで、特に約2〜約5重量%まで異なることが可能である。
【0147】
指定された全体範囲の差、すなわち約2〜約89%は、非強化用充填剤によって占められる。
【0148】
表面処理によって好ましくは疎水化された熱分解で調製された高度に分散した珪酸は強化用充填剤として好ましい。表面処理は、例えば、ジメチルジクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、テトラメチルシクロテトラシロキサンまたはポリメチルシロキサンで行うことが可能である。
【0149】
特に好ましい非強化用充填剤は、表面処理されることが可能である石英、クリストバライト、炭酸カルシウムおよびアルミニウム珪酸ナトリウムである。表面処理は、強化用充填剤の場合に記載されたのと同じ方法で一般に行うことが可能である。
【0150】
任意に、安定剤、変性剤、染料、顔料、チキソトロープ剤、流動改善剤または希薄剤、高分子増粘剤、界面活性剤および希釈剤のような添加剤(E)を単独で、または混合して添加してもよい。
【0151】
上述したハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)は、不飽和基、特に末端オレフィン基のヒドロシリル化反応を好ましくは経由して硬化可能である歯科用組成物中のモノマーとして用いることが可能である。
【0152】
本発明の歯科用組成物は、例えば、歯科充填用材料、歯冠材料および架工義歯材料、ベニヤ材料、インレーまたはオンレーとして用いることが可能である。
【0153】
本発明は、
a)ハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)を含む歯科用組成物を提供する工程と、
b)前記歯科用組成物を表面に被着させる工程と、
c)前記歯科用組成物を硬化させる工程と、
を含む方法において歯科用材料を調製するためにハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)を用いる方法にも関連する。
【0154】
表面は、通常は歯、歯冠または架工義歯の表面である。
【0155】
本発明の歯科用組成物は、1パート混合物または2パート混合物として提供することが可能である。これは、通常は用いられる開始剤に応じて決まる。開始剤が光硬化性である場合、歯科用組成物は1パート混合物として提供することが可能である。開始剤がレドックス硬化性である場合、歯科用組成物は2パート混合物として提供するべきである。
【0156】
従って、本発明は、ベースパート(I)および触媒パート(II)を含むパーツのキットにも関連する。ここで、ベースパート(I)は、ハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)、Si−H官能性成分(B)および充填剤(D)を含み、触媒パート(II)は開始剤(C)を含む。ここで、成分(E)は、ベースパートまたは触媒パート中に存在するか、あるいはベースパート及び触媒パート中に存在する。
【0157】
本発明の歯科用組成物は、容器またはカートリッジ、好ましくは歯科用コンプル中に通常は包装される。こうしたコンプルの例は、米国特許第5,322,440A1号明細書(特許文献16)、米国特許第4,391,590号明細書(特許文献17)または米国特許第5,165,890号明細書(特許文献18)において記載されている。
【0158】
本発明は、
a)成分(A)、(B)、(C)、任意に(D)および任意に(E)を提供する工程と、
b)工程a)の成分を混合する工程と、
を含む硬化性歯科用組成物を製造する方法にも関連する。ここで、エーテル化反応を経由して成分(A)を得ることができる。
【0159】
エーテル化反応は、上述したようにフェノール前駆体(i)と求電子体(ii)を反応させることを含む。
【実施例】
【0160】
本発明を以後実施例によって説明する。実施例は例示目的のみのためであり、本発明を限定することを意図していない。
【0161】
表1に記載された化合物を上に記載した参考文献により調製し、それらの屈折率および粘度を測定した。
【0162】
【表1】

【0163】
本発明によるハロゲン化アリールアルキルエーテル化合物を含む歯科用組成物および最先端技術を用いた参考文献化合物を含む歯科用組成物を調製し、それらの不透明度を評価した。
【0164】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも1個のアリールアルキルエーテル部分と、
前記アリールアルキルエーテル部分の各アリール残基に結合された少なくとも1個のハロゲン原子と、
少なくとも2個の不飽和部分と、
を含むハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)と、
b)Si−H官能性成分(B)と、
c)開始剤(C)と、
d)任意に充填剤(D)と、
e)任意に、変性剤、染料、顔料、チキソトロープ剤、流動改善剤、高分子増粘剤、界面活性剤、芳香物質、希釈剤および香料から選択された成分(E)と、
を含む歯科用組成物。
【請求項2】
a)成分(A)が約1.530以上の屈折率を有する、
b)成分(A)が約0.1Pa*s以上の粘度を有する、
c)成分(A)が約400以上の分子量を有する、
d)硬化した組成物の不透明度が約10%以上である、
e)硬化した組成物の圧縮強度が約150MPa以上である、
f)硬化した組成物の曲げ強度が約50MPa以上である、
の内の少なくとも1つの要求事項を満たす、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項3】
前記硬化した組成物を基準にして、
a)成分(A)が少なくとも約1重量%の量で存在し、
b)Si−H官能性成分(B)が少なくとも約1重量%の量で存在し、
c)開始剤(C)が元素金属として計算して少なくとも約0.00005重量%の量で存在し、
d)任意の充填剤(D)が少なくとも約3重量%の量で存在し、
e)任意の成分(E)が約25重量%未満の量で存在する、
請求項1または2に記載の歯科用組成物。
【請求項4】
成分(A)が、構造要素(1)
【化1】

(式中、互いから独立して選択されて、
A=(シクロ)アルキルまたはアリール(シクロ)アルキルもしくはアルケニル、ここで、C原子および/またはH原子は、Br、Cl、NまたはOによって置換されていることが可能であり、
B=H、Br、Clまたはアリル、
D=BrまたはCl、
E=Hまたは(シクロ)アルキルあるいはアリール(シクロ)アルキル、ここで、C原子および/またはH原子は、Br、Cl、NまたはOによって置換されていることが可能であり、
a=1、2、3または4、
e=1、2、3または4、
Br=臭素原子、
C=炭素原子、
Cl=塩素原子、
H=水素原子、
N=窒素原子、
O=酸素原子である)
を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項5】
成分(A)が、式(I):
【化2】

(式中、互いから独立して選択されて、
D=BrまたはCl、
E=H、BrまたはCl、
F=Hまたはアルキルまたはアリール、ここで、C原子および/またはH原子は、Br、Cl、NまたはOによって置換されていることが可能であり、
G=Hまたはアルキルまたはアリール、ここで、C原子および/またはH原子は、Br、Cl、NまたはOによって置換されていることが可能であり、
l=アルキル(C1〜C2)、
c=0または1、
d=1〜10である);
式(II):
【化3】

(式中、互いから独立して選択されて、
A=(シクロ)アルキルまたはアリール(シクロ)アルキル、ここで、C原子および/またはH原子は、Br、Cl、NまたはOによって置換されていることが可能であり、
D=BrまたはCl、
E=H、BrまたはCl、
a=2、3または4である);
式(III):
【化4】

(式中、互いから独立して選択されて、
B=H、BrまたはCl、
D=BrまたはCl、
E=(シクロ)アルキルまたはアリール(シクロ)アルキル、ここで、C原子および/またはH原子は、Br、Cl、NまたはOによって置換されていることが可能であり、
F=Hまたはアルキルまたはアリール、ここで、C原子および/またはH原子は、Br、Cl、NまたはOによって置換されていることが可能であり、
G=Hまたはアルキルまたはアリール、ここで、C原子および/またはH原子は、Br、Cl、NまたはOによって置換されていることが可能であり、
l=C1〜C2を有するアルキル、
c=0または1、
d=1〜10、
e=2、3または4である);
の1つによって表される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項6】
成分(A)が
【化5】



から選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項7】
Si−H官能性成分(B)がSi−結合水素原子を有するオルガノポリシロキサン誘導成分および/またはカルボシラン誘導成分から選択される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項8】
開始剤(C)が光硬化開始剤または化学硬化開始剤あるいは両方の組み合わせを含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項9】
充填剤(D)が強化用充填剤または非強化用充填剤あるいは両方の組み合わせを含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項10】
容器またはカートリッジに充填された、請求項1〜9のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項11】
ベースパート(I)および触媒パート(II)を含むパーツのキットであって、ベースパート(I)がハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)、Si−H官能性成分(B)および充填剤(D)を含み、触媒パート(II)が開始剤(C)を含み、成分(E)がベースパートまたは触媒パート中に存在するか、あるいはベースパートおよび触媒パート中に存在するキット。
【請求項12】
a)成分(A)、(B)、(C)、任意に(D)および任意に(E)を提供する工程と、
b)工程a)の成分を混合する工程と、
を含む請求項1〜9のいずれか1項に記載の硬化性歯科用組成物を製造する方法であって、エーテル化反応を経由して成分(A)を得ることができる方法。
【請求項13】
前記エーテル化反応がフェノール前駆体と求電子体との反応を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
歯科充填用材料、歯冠材料および架工義歯材料、ベニヤ材料、インレーまたはオンレーとして請求項1〜9のいずれか1項に記載の歯科用組成物を使用する方法。
【請求項15】
a)ハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)を含む歯科用組成物を提供する工程と、
b)前記歯科用組成物を表面に被着させる工程と、
c)前記歯科用組成物を硬化させる工程と、
を含む方法において歯科用材料を調製するための請求項1〜6のいずれか1項に記載のハロゲン化アリールアルキルエーテル成分(A)の使用。

【公表番号】特表2008−505940(P2008−505940A)
【公表日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−520669(P2007−520669)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【国際出願番号】PCT/EP2004/007747
【国際公開番号】WO2006/005364
【国際公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(504169278)スリーエム イーエスピーイー アーゲー (43)
【Fターム(参考)】