説明

不飽和ポリエステル樹脂

本発明は、イタコン酸エステルを反応性不飽和部位として含む不飽和ポリエステル樹脂であって、樹脂の酸価が25〜125の範囲内であり、ヒドロキシル末端基とカルボン酸末端基とのモル比が0.33〜3の範囲内である不飽和ポリエステル樹脂に関する。1つの実施形態では、ヒドロキシル末端基とカルボン酸末端基とのモル比が0.33〜0.9の範囲内である。別の実施形態では、ヒドロキシル末端基とカルボン酸末端基とのモル比が1.1〜3の範囲内である。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、構造部品の製造に用いるのに適した、樹脂中に反応性不飽和部位(reactive unsaturations)としてイタコン酸エステルを含む不飽和ポリエステル樹脂に関する。
【0002】
構造物用に適した不飽和ポリエステル(UP)樹脂組成物は、反応性希釈剤として共重合性モノマーを含む。構造部品を得るのに現在用いられている不飽和ポリエステル樹脂組成物は、共重合性反応性希釈剤として相当量のスチレンを含むことが多い。スチレンが存在するため、製造および硬化時だけでなく、想定される長期のその使用時においてさえスチレンが漏出し得、また不快なにおいを生じ、ことによると毒性作用さえももたらす。したがって、スチレンの放出を減少させることが望ましい。不飽和ポリエステル樹脂では共重合のみが可能であるという事実ゆえに、スチレン含有樹脂中のスチレンの量は、硬化複合材の機械的性質に悪影響を及ぼすことなくさらに減らすことはできない。それゆえに、単独重合性(homopolymerizable)の不飽和ポリエステル樹脂が必要とされている。
【0003】
国際公開第9727253A号パンフレットは、単独重合性であるイタコン酸系(itaconic based)粉体塗料樹脂の合成について記載している。この公開公報では、標準的なUP合成手順(樹脂の原料すべてを混合し、高温で縮合させる)が用いられていない。単独重合性のイタコン酸系不飽和ポリエステルは、ヒドロキシル官能性ポリマーまたはオリゴマーを第2ステップにおいてイタコン酸によって変性させ、酸価が低くかつヒドロキシル価の高いものに縮合させるプレポリマー法を用いるか、あるいはヒドロキシル官能性ポリマーをイタコン酸無水物で変性させて、ヒドロキシル価の低い高酸価の樹脂を得る無水物法のいずれかを用いて製造されてきた。
【0004】
国際公開第9727253A号パンフレットに記載の樹脂は、構造物用に適していないことがこのほど見出された。それは硬化樹脂が軟らかすぎるかまたは脆すぎるためである。硬化樹脂が軟らかすぎると、硬化部品は外力に抵抗するための十分な機械的結着性がない。硬化樹脂が脆すぎると、硬化部品は容易に破損するであろう。
【0005】
目的は、構造物用に用いるのに適している、イタコン酸エステルを反応性不飽和部位として含む不飽和ポリエステル樹脂を提供することである。
【0006】
本発明者らは、驚くべきことに、イタコン酸エステルを反応性不飽和部位として含み、酸価が25〜125mgKOH/g(樹脂)の範囲内であり、ヒドロキシル末端基とカルボン酸末端基とのモル比が0.33〜3の範囲内である不飽和ポリエステル樹脂によってこれを達成できることを見出した。
【0007】
更なる利点は、本発明による不飽和ポリエステルが、樹脂用の原料すべてが高い温度で混合および縮合される標準的な不飽和ポリエステル合成法を用いて合成され得ることである。
【0008】
理論に縛られるわけではないが、本発明による樹脂が構造物用に適しているのは、ヒドロキシル基と酸基が同時に存在しているおかげであるということはあり得る。
【0009】
本発明による不飽和ポリエステル樹脂の酸価は、好ましくは30〜100mgKOH/g(樹脂)の範囲内、より好ましくは35〜75mgKOH/g(樹脂)の範囲内である。ここで使用される樹脂組成物の酸価は、ISO 2114−2000に従って滴定法で求める。
【0010】
本発明の1つの実施形態では、本発明による不飽和ポリエステル樹脂のヒドロキシル末端基とカルボン酸末端基とのモル比は、0.33〜0.9の範囲内である。別の好ましい実施形態では、本発明による不飽和ポリエステル樹脂のヒドロキシル末端基とカルボン酸末端基とのモル比は、1.1〜3の範囲内である。不飽和ポリエステル樹脂のヒドロキシル末端基とカルボン酸末端基とのモル比が1.1〜3の範囲内であるのが好ましいが、それは本発明の有益な効果がさらにいっそう明白だからである。
【0011】
本発明による不飽和ポリエステル樹脂のヒドロキシル価は、好ましくは25mgKOH/g(樹脂)より大きく、より好ましくは40mgKOH/g(樹脂)より大きい。ここで使用されるイタコネート含有ポリエステルのヒドロキシル価は、ISO 4629−1996に従って測定する。
【0012】
好ましくは、イタコン酸エステル単位を反応性不飽和部位として含む不飽和ポリエステルの分子量は、少なくとも300ダルトン、好ましくは少なくとも500ダルトン、より好ましくは少なくとも750ダルトンである。好ましくは、イタコン酸エステル単位を反応性不飽和部位として含む不飽和ポリエステルの分子量Mnは、10.000ダルトン以下、より好ましくは5000ダルトン以下である。分子量(Mn)は、ISO 13885−1に従い、ポリスチレン標準物質(polystyrene standards)および分子量決定用に設計された適切なカラムを用いたGPCを使用し、テトラヒドロフランで求めた。
【0013】
本発明の好ましい実施形態では、分子量は750〜5000ダルトンの範囲である。
【0014】
不飽和ポリエステルのガラス転移温度Tは、好ましくは少なくとも−70℃で、かつ100℃以下である。構造物用に不飽和ポリエステルを用いる場合、本発明による樹脂組成物中に存在する不飽和ポリエステル樹脂のガラス転移温度Tは、好ましくは少なくとも−70℃、より好ましくは少なくとも−50℃、さらにより好ましくは少なくとも−30℃である。本発明による樹脂組成物中に存在する不飽和ポリエステル樹脂のTは、好ましくは70℃以下、より好ましくは50℃以下、さらにより好ましくは30℃以下である。ここで使用されるTは、DSC(加熱速度:5℃/分)によって求める。
【0015】
本発明による不飽和ポリエステルは、構成単位として以下の構造式を有するイタコン酸エステル単位を含む。
【化1】



イタコン酸エステル単位(イタコン酸構成単位とも呼ぶ)は、共重合性モノマーとの共重合が可能なエチレン性不飽和部位(ethylenic unsaturation)を含み、この場合に不飽和ポリエステルは希釈されていてもよい。本発明による不飽和ポリエステルは、少なくとも1種のポリオールと不飽和ジカルボン酸としてのイタコン酸またはイタコン酸無水物とを重縮合させて製造することができる。重縮合は、反応性不飽和部位を含む他のジカルボン酸(例えばマレイン酸または無水物およびフマル酸など)の存在下で、および/または飽和脂肪族ジカルボン酸または無水物(例えば、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸のようなもの)の存在下で、および/または芳香族飽和ジカルボン酸または無水物(例えば、フタル酸または無水物およびイソフタル酸のようなもの)の存在下で行わせることもできる。重合では、二官能性または多官能性のアルコールがさらに使用される。好ましくは、例えば、1,2−プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、水素化ビスフェノールA、またはエトキシル化/プロポキシル化ビスフェノールAなどのジオールを使用する。
【0016】
好ましい実施形態によれば、不飽和ポリエステル樹脂中のジオールの分子量は60〜250ダルトンの範囲内である。好ましい実施形態では、不飽和ポリエステル樹脂は、イソソルビドおよび/または1,3−プロパンジオール構成単位(好ましくは、例えばトウモロコシのような、化石以外の源に由来する)をさらに含む。
【0017】
本発明による不飽和ポリエステル樹脂では、好ましくは少なくとも25重量%のジカルボン酸構成単位がイタコン酸構成単位である。より好ましくは、本発明による不飽和ポリエステル中の少なくとも55重量%のジカルボン酸構成単位がイタコン酸構成単位である。
【0018】
好ましくは少なくとも25重量%(より好ましくは少なくとも55重量%)の不飽和ジカルボン酸構成単位が、イタコン酸構成単位である。
【0019】
好ましい実施形態では、イタコン酸またはイタコン酸無水物の少なくとも一部は、化石以外の源(例えば、トウモロコシ)に由来する。
【0020】
本発明による不飽和ポリエステル樹脂は、有利には、カルボン酸銅(copper carboxylate)、ベンゾキノン、アルキル置換ベンゾキノン、ヒドロキノンおよび/またはメチル置換ヒドロキノンから選択される少なくとも1種のラジカル禁止剤(radical inhibitor)の存在下で製造する。好ましい実施形態では、本発明による不飽和ポリエステルは、(i)イタコン酸および/またはイタコン酸無水物、および任意選択的に、他の二酸、少なくとも1種のジオール、および少なくとも1種のラジカル禁止剤(カルボン酸銅、ベンゾキノン、アルキル置換ベンゾキノン、ヒドロキノンおよび/またはメチル置換ヒドロキノンから選択されるもの)を、反応器に充填し、
(ii)形成される不飽和ポリエステルの酸価が60未満になるまで、180〜200℃の温度まで反応器を加熱し、
(iii)形成された樹脂を、好ましくは20から120℃までの温度に冷却し、さらに
(iv)任意選択により、樹脂を反応性希釈剤で希釈する
ことによって製造する。
【0021】
好ましくは、本発明による不飽和ポリエステル樹脂は、禁止剤としてのヒドロキノン、2−メチルヒドロキノン、ベンゾキノン、または2−メチルベンゾキノンの存在下で、より好ましくは禁止剤としての2−メチルヒドロキノンの存在下で、さらにより好ましくは禁止剤としてのヒドロキノンおよび2−メチルヒドロキノンの存在下で製造する。
【0022】
イタコン酸エステル単位を反応性不飽和部位として含む不飽和ポリエステルは、好ましくは、33〜66モル%のグリコールモノマー、10〜66モル%のイタコン酸モノマー、0〜65モル%の不飽和二酸モノマー(イタコン酸モノマー以外のもので、例えばフマル酸およびマレイン酸モノマーのようなもの)および0〜65モル%の二酸(不飽和二酸モノマー以外のもの)(好ましくは0〜50モル%の二酸(不飽和二酸モノマー以外のもの))からなる。
【0023】
1つの実施形態では、本発明による不飽和ポリエステル樹脂は粉体塗料樹脂として用いることができる。粉体塗料組成物の製造については、Misevにより‘‘Powder Coatings,Chemistry and Technology’’(pp.224−300;1991,John Wiley)(参照により本明細書に援用する)に記載されている。したがって本発明はまた、本発明による不飽和ポリエステルを含む粉体塗料組成物に関する。本発明による不飽和ポリエステルを粉体塗料組成物に使用する場合、不飽和ポリエステル樹脂のガラス転移温度Tは、好ましくは少なくとも20℃、より好ましくは少なくとも25℃、さらにより好ましくは少なくとも30℃であり、かつ100℃以下、より好ましくは80℃以下、さらにより好ましくは60℃以下である。
【0024】
粉体塗料組成物を製造する一般的方法は、別個に量り分けられた成分をプレミキサーで混合し、得られたプレミックスを、例えば混練機で(好ましくは押出機で)加熱して押出物を得、得られた押出物を固化するまで冷却し、さらにそれを破砕して顆粒またはフレークにし、その顆粒またはフレークをさらに粉砕して粒径を低減し、その後に適切な分級を行って適正な粒径の粉体塗料組成物を得るというものである。それゆえに、本発明はまた、
a.本発明による不飽和ポリエステルを含む粉体塗料組成物の成分を混合してプレミックスを得るステップと、
b.得られたプレミックスを、好ましくは押出機中で加熱して、押出物を得るステップと、
c.得られた押出物を冷却して固化した押出物を得るステップと、
d.得られた固化した押出物を小粒子に砕いて粉体塗料組成物を得るステップと
を含み、好ましくはそうして製造された粉末粒子をふるいで分級して90μm未満の粒径のふるい分級物を回収する更なるステップを含む、本発明による粉体塗料組成物の製造方法に関する。
【0025】
本発明の粉体塗料組成物は、任意選択により、例えば充填剤/顔料、脱気剤(degassing agents)、流動剤(flow agents)、または(光)安定剤などの通常の添加剤を含んでもよい。流動剤の例には、Byk 361 Nが含まれる。好適な充填剤/顔料の例には、金属酸化物、シリケート、カーボネートまたはサルフェートが含まれる。好適な安定剤の例には、例えばホスホニト(phosphonites)、チオエーテルまたはHALS(ヒンダードアミン光安定剤)などの紫外線安定剤が含まれる。脱気剤の例には、ベンゾインおよびシクロヘキサンジメタノールビスベンゾエート(cyclohexane dimethanol bisbenzoate)が含まれる。摩擦帯電性(tribo−chargeability)を改善するための添加剤など、他の添加剤も加えてもよい。
【0026】
別の態様では、本発明は、基材を被覆するための方法であって、
1)本発明による粉体塗料組成物を、基材が部分的または完全に塗膜で被覆されるように基材に塗布するステップと、
2)得られた部分的または完全に被覆された基材を、その塗膜が少なくとも部分的に硬化されるような時間、またそのような温度まで加熱するステップと
を含む、基材を被覆するための方法に関する。
【0027】
本発明の粉体塗料組成物は、当業者に知られている手法を用いて、例えば静電吹付または静電流動層を用いて塗布してもよい。
【0028】
本発明はさらに、本発明による不飽和ポリエステルを含みかつ反応性希釈剤をさらに含む樹脂組成物に関する。
【0029】
本発明による樹脂組成物中のそのような反応性希釈剤の量は、普通は(樹脂組成物中に存在する不飽和ポリエステルおよび反応性希釈剤の総量を基準にして)5〜75重量%の範囲、好ましくは20〜60重量%の範囲、もっとも好ましくは30〜50重量%の範囲内である。樹脂組成物をいっそう取り扱いやすくするために、例えば、樹脂組成物の粘度を下げるため希釈剤が用いられるであろう。分かりやすくするため、反応性希釈剤は、不飽和ポリエステル樹脂と共重合できる希釈剤である。エチレン性不飽和化合物は、反応性希釈剤として有利に使用できる。好ましくは、スチレン、イタコン酸ジメチルおよび/またはメタクリレート含有化合物が反応性希釈剤として使用される。本発明の1つの実施形態では、スチレン、α−メチルスチレン、4−メチルスチレン、(メタ)アクリレート含有化合物、N−ビニルピロリドンおよび/またはN−ビニルカプロラクタムを反応性希釈剤として使用する。この実施形態では、好ましくはスチレンおよび/または(メタ)アクリレート含有化合物を反応性希釈剤として使用し、より好ましくは(メタ)アクリレート含有化合物を反応性希釈剤として使用する。別の実施形態では、イタコン酸またはイタコン酸のエステルを反応性希釈剤として使用する。いっそう好ましい実施形態では、反応性希釈剤は、イタコン酸のエステルと、少なくとも別のエチレン性不飽和化合物(例えば、スチレン、α−メチルスチレン、4−メチルスチレン(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドンおよび/またはN−ビニルカプロラクタムなど)を含む。この実施形態では、樹脂組成物は、好ましくは、反応性希釈剤としてのイタコン酸のエステルおよび反応性希釈剤としてのスチレンまたは反応性希釈剤としてのメタクリレート含有化合物を含む。好ましいイタコン酸のエステルは、イタコン酸ジメチルである。
【0030】
樹脂組成物は好ましくは、樹脂組成物のラジカル硬化用の共開始剤(co−initiator)を、(樹脂組成物中に存在する不飽和ポリエステルおよび反応性希釈剤の総量を基準にして)0.00001〜10重量%の量だけさらに含む。好ましい共開始剤は、アミンまたは遷移金属化合物である。
【0031】
組成物中に存在してよいアミン共開始剤は、好ましくは、芳香族アミン、さらにより好ましくは芳香族第三アミンである。好適な促進剤には、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン;トルイジン類およびキシリジン類(N,N−ジイソプロパノール−p−トルイジンなど);N,N−ジメチル−p−トルイジン;N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)キシリジンおよび−トルイジンが含まれる。樹脂組成物中のアミンの量(樹脂組成物中に存在する不飽和ポリエステルおよび反応性希釈剤の総量を基準にして)は一般に、少なくとも0.00001重量%、好ましくは少なくとも0.01重量%、より好ましくは少なくとも0.1重量%である。一般に、樹脂組成物中のアミンの量は、10重量%以下、好ましくは5重量%以下である。
【0032】
共開始剤としての好適な遷移金属化合物の例は、原子番号が22〜29の範囲または原子番号が38〜49の範囲または原子番号が57〜79の範囲である遷移金属の化合物(バナジウム、鉄、マンガン、銅、ニッケル、モリブデン、タングステン、コバルト、クロムの化合物)である。好ましい遷移金属は、V、Cu、Co、MnおよびFeである。
【0033】
本発明による不飽和ポリエステルを反応性希釈剤で希釈した後、更なるラジカル禁止剤を加えてもよい。それらのラジカル禁止剤は、好ましくは、フェノール化合物、ベンゾキノン類、ヒドロキノン類、カテコール類、安定ラジカルおよび/またはフェノチアジン類の群から選択される。加えることのできるラジカル禁止剤の量は、かなり広範囲内で様々であってもよく、実現したいゲル化時間の第一指標(first indication)として選択してもよい。
【0034】
本発明による樹脂組成物に使用できるラジカル禁止剤の好適な例は、例えば、2−メトキシフェノール、4−メトキシフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,4,6−トリメチル−フェノール、2,4,6−トリス−ジメチルアミノメチルフェノール、4,4’−チオ−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンジフェノール、2,4−ジ−t−ブチルフェノール、6,6’−ジ−t−ブチル−2,2’−メチレンジ−p−クレゾール、ヒドロキノン、2−メチルヒドロキノン、2−t−ブチルヒドロキノン、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、2,6−ジ−t−ブチルヒドロキノン、2,6−ジメチルヒドロキノン、2,3,5−トリメチルヒドロキノン、カテコール、4−t−ブチルカテコール、4,6−ジ−t−ブチルカテコール、ベンゾキノン、2,3,5,6−テトラクロロ−1,4−ベンゾキノン、メチルベンゾキノン、2,6−ジメチルベンゾキノン、ナフトキノン、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−オール(TEMPOLとも呼ばれる化合物)、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−オン(TEMPONとも呼ばれる化合物)、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチル−4−カルボキシル−ピペリジン(4−カルボキシ−TEMPOとも呼ばれる化合物)、1−オキシル−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン、1−オキシル−2,2,5,5−テトラメチル−3−カルボキシルピロリジン(3−カルボキシ−PROXYLとも呼ばれる)、ガルビノキシル、アルミニウム−N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン、ジエチルヒドロキシルアミン、フェノチアジンおよび/または誘導体あるいはこれらの化合物のいずれかの組合わせである。
【0035】
有利には、本発明による樹脂組成物中のラジカル禁止剤の量は、(樹脂組成物中に存在する不飽和ポリエステルおよび反応性希釈剤の総量を基準にして)0,0001〜10重量%の範囲内である。より好ましくは、樹脂組成物中の禁止剤の量は、0,001〜1重量%の範囲内である。当業者は、選択した禁止剤のタイプに応じて、それがどれくらいの量であれば、本発明にしたがった良好な結果になるかを実に簡単に判断できる。
【0036】
本発明はさらに、本発明による樹脂組成物のラジカル硬化方法であって、上述のように開始剤を樹脂組成物に加えることによって硬化を行わせる、樹脂組成物のラジカル硬化方法に関する。好ましくは、硬化は、−20〜+200℃の範囲、好ましくは、−20〜+100℃の範囲、もっとも好ましくは−10〜+60℃の範囲(いわゆる自然乾燥)で行わせる。開始剤は、光開始剤、熱開始剤および/またはレドックス開始剤である。
【0037】
ここで意味する光開始剤は、照射されると硬化を開始することができる。光開始は、好適な波長の光の照射を(光照射)を用いた硬化と理解される。これは光硬化とも呼ばれる。
【0038】
光開始系は、光開始剤自体から構成されていてもよいか、あるいは光開始剤と増感剤との組合わせであってもよいか、あるいは光開始剤の混合物(任意選択で、1種または複数種の増感剤と組み合わせたもの)であってもよい。
【0039】
本発明との関連において使用できる光開始系は、当業者に知られている多数の光開始系から選ぶことができる。膨大な数の好適な光開始系が、例えば、‘‘Chemistry and Technology of UV and EB Formulations’’,2nd Edition,by K.Dietliker and J.V.Crivello(SITA Technology,London;1998)のVolume 3に載っている。
【0040】
熱開始剤は、アゾ化合物(例えば、アゾイソブチロニトリル(AIBN)のようなもの)、C−Cの不安定な化合物(例えば、ベンゾピナコールのようなもの)、過酸化物、およびそれらの混合物から選択できる。熱開始剤は、好ましくは1種類の有機過酸化物、または2種以上の有機過酸化物の組合わせである。
【0041】
レドックス開始剤は、好ましくは、有機過酸化物を、上に挙げた共開始剤の少なくとも一種と組み合わせたものである。好適な過酸化物の例は、例えば、ヒドロペルオキシド、(−OC(O)OO−という式の)ペルオキシカーボネート、(−C(O)OO−という式の)ペルオキシ酸エステル、(−C(O)OOC(O)−という式の)ジアシルペルオキシド、(−OO−という式の)ジアルキルペルオキシドなどである。
【0042】
本発明はさらにまた、上述の不飽和ポリエステル樹脂組成物から上述の開始剤による硬化によって製造される、硬化された物体または構造部品に関する。ここで使用する構造用樹脂組成物により、構造物用に適した構造部品を得ることが可能である。一般にはそのような樹脂組成物は非水系である。それらは、5重量%以下の水(主に、樹脂製造時に反応によって生じたもの)を含む。ここで意味する構造部品は、硬化後に適切な機械的性質を有し、厚さが少なくとも0.5mmであると見なされる。本発明による樹脂組成物を用いることのできる目的用途(end segments)は、例えば自動車部品、ボート、化学アンカー(chemical anchoring)、屋根材、構造物、容器、取り替え用裏張り(relining)、パイプ、タンク、床材、風車の羽根である。
【0043】
本発明は特に、本発明による樹脂組成物を開始剤(好ましくは過酸化物を含む)で硬化させて得られる硬化された物体または構造部品に関する。1つの実施形態によれば、硬化は成形で行い、より好ましくは、硬化は圧縮成形で行って、特にSMCまたはBMC部品を得る。成形は、好ましくは、少なくとも130℃、より好ましくは少なくとも140℃の温度で、かつ170℃以下、より好ましくは160℃以下の温度で行う。
【0044】
これから本発明を、一連の実施例および比較例によって示す。実施例はすべて請求項の範囲を支持するものである。しかし、本発明は、実施例に示されている特定の実施形態に限定されない。
【0045】
[標準的な樹脂合成]
ジオール、二酸および/または無水物、任意選択の禁止剤、および触媒を、充填カラム、温度測定装置および不活性ガス注入口を備えた容器に充填した。混合物は、普通の方法でゆっくり加熱して200℃にした。混合物は、水の蒸留が終わるまで200℃に維持した。充填カラムを取り外し、酸価がある特定値に達するまで混合物を減圧状態に維持した。次いで、真空を不活性ガスで和らげ、混合物を冷やして130℃以下にした。固体のUP樹脂をこのようにして得た。次に固体の樹脂を80℃未満の温度で反応性希釈剤中に溶かした。
【0046】
[硬化の監視]
硬化は、標準的なゲル化時間装置(gel time equipment)によって監視した。これは、示されている過酸化物で樹脂を硬化させる場合に、ゲル化時間(TgelまたはT25−>35℃)およびピーク時間(TpeakまたはT25−>peak)の両方を、DIN 16945の方法に従って発熱量測定(exotherm measurements)によって求めたことを意味することを意図する。
【0047】
[機械的性質の測定]
機械的性質を測定するために、4mmの注型物を作った。16時間後に注型物を金型から取り出し、60℃で24時間、その後80℃で24時間保って後硬化させた。
【0048】
硬化物体の機械的性質はISO 527−2に従って求めた。熱変形温度(HDT)をISO 75−Aに従って測定した。
【0049】
溶解した樹脂の粘度は、23℃で物理量測定器を用いて求めた。
【0050】
バーコル硬さは、DIN EN59に従って求めた。
【0051】
[実施例1〜2および比較実験A〜C]
732gのイタコン酸、471gの1,2−プロピレングリコールおよび100ppmの2−メチルヒドロキノンを用いて、標準的な合成手順によって樹脂を製造した。樹脂の合成は、表1に示した酸価に達するまで続行した。該当する場合、樹脂は、希釈した後(35重量%のスチレン)、0.5重量%のコバルト溶液(NL−49P)を用い、その後に過酸化物としての2重量%のTrigonox 44Bを用いて硬化させた。
【0052】
【表1】



【0053】
これらの実施例は、酸価が25〜125mgKOH/g(樹脂)の範囲であるイタコネート樹脂を用いた場合にのみ、構造物用に適した機械的性質を有する注型物を得ることができることをはっきり実証している。
(a)バーコル硬さが0であることから分かるように、注型物は軟らかすぎて役立たない。
(b)注型物は室温ですでに柔軟であった。これはHDT<25℃を示す。
【0054】
[比較実験DおよびE]
イタコン酸および1,2−プロピレングリコールの量は別にして実施例1を繰り返して、表2に示す酸価およびヒドロキシル価を有する樹脂を得た。
【0055】
【表2】



【0056】
[比較実験F〜H]
国際公開第9727253A号パンフレットの実施例1、2および3に記載されている樹脂合成を繰り返して、イタコン酸エステルを反応性不飽和部位として含み、以下の酸価(mgKOH/g(樹脂))、ヒドロキシル価(mgKOH/g(樹脂))およびヒドロキシル末端基とカルボン酸末端基とのモル比を有する不飽和ポリエステルを得た。
国際公開第9727253A号パンフレットの樹脂の実施例1(比較実験F):酸価=7.6;ヒドロキシル価=61;モル比=8.03
国際公開第9727253A号パンフレットの樹脂の実施例2(比較実験G):酸価=42;ヒドロキシル価=0;モル比=0
国際公開第9727253A号パンフレットの樹脂の実施例3(比較実験H):酸価=73;ヒドロキシル価=0;モル比=0
【0057】
得られた樹脂をスチレンで希釈し、希釈後(35重量%のスチレン)、0.5%のコバルト溶液(NL−49P)を用い、その後に過酸化物としての2% Trigonox 44Bを用いて硬化させ、注型物を作った。注型物は極めて脆かった。比較実験FおよびH(どちらも35重量%のスチレンを含む)で得られた注型物は、あまりにも脆くて機械的性質を測定できなかった。国際公開第9727253A号パンフレットの実施例2の樹脂(比較実験G)は、注型物を作れるような粘度にするために、さらに希釈してスチレンを52重量%にしなければならない。この注型物は脆すぎるため引張特性を測定できず、曲げ強さはほんの30MPaであった。
【0058】
これらの比較実験は、公開公報で知られている不飽和ポリエステル(反応性不飽和部位としてイタコン酸エステルを含むが、酸価とモル比の両方あるいは酸価またはモル比の一方が特許請求されている範囲外である)では、構造物用に使用できる樹脂組成物は得られなかったことをはっきり実証している。
【0059】
[実施例3および4]
表3に示した成分を用いて、標準的な合成手順で樹脂を製造した。樹脂は、0.5重量%のコバルト溶液(NL−49P)を用い、その後に過酸化物としての2重量%のTrigonox 44Bを用いて硬化させた。硬化は、ゲル化時間装置で監視した。
【0060】
【表3】



【0061】
これらの実施例は、構造物用に適した機械的性質を得るために、イタコン酸エステルのほかに他の二酸または無水物も用いることができることをはっきり示している。さらにこれらの実施例は、ジオールの混合物を本発明に従って用いることができることも示している。
【0062】
[実施例5〜8]
表4に示した成分を用いて、標準的な合成手順で樹脂を製造した。樹脂は、0.5重量%のコバルト溶液(NL−49P)を用い、その後に過酸化物としての1.5重量%のTrigonox 44Bを用いて硬化させた。硬化は、ゲル化時間装置で監視した。
【0063】
【表4】



【0064】
これらの実施例は、イタコネートのほかに、別の不飽和二酸または無水物も本発明に従って用いることができることを実証している。さらに、これらの実施例は、可能な生物材料に基づく再生可能構成単位としてイタコン酸のほかに、生物材料に基づく再生可能構成単位としてイソソルビドも用いることができることを実証している。
【0065】
[実施例9]
表5に示した成分を用いて、標準的な合成手順で樹脂を製造した。樹脂は、0.5重量%のコバルト溶液(NL−49P)を用い、その後に過酸化物としての2重量%のTrigonox 44Bを用いて硬化させた。硬化は、ゲル化時間装置で監視した。
【0066】
【表5】



【0067】
この実施例は、可能な生物材料に基づく再生可能構成単位としてイタコン酸のほかに、生物材料に基づく再生可能構成単位として1,3−プロパンジオールも用いることができることを実証している。事実、この実施例は、100%生物材料に基づく樹脂を構造物用樹脂として用いることが可能であることを見事に実証している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イタコン酸エステルを反応性不飽和部位として含む不飽和ポリエステル樹脂であって、前記樹脂の酸価が25〜125mgKOH/g(樹脂)の範囲内であり、ヒドロキシル末端基とカルボン酸末端基とのモル比が0.33〜3の範囲内である不飽和ポリエステル樹脂。
【請求項2】
前記酸価が30〜100mgKOH/g(樹脂)の範囲内である、請求項1に記載の不飽和ポリエステル樹脂。
【請求項3】
前記酸価が35〜75mgKOH/g(樹脂)の範囲内である、請求項1に記載の不飽和ポリエステル樹脂。
【請求項4】
ヒドロキシル末端基とカルボン酸末端基との前記モル比が0.33〜0.9の範囲内である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の不飽和ポリエステル樹脂。
【請求項5】
ヒドロキシル末端基とカルボン酸末端基との前記モル比が1.1〜3の範囲内である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の不飽和ポリエステル樹脂。
【請求項6】
前記樹脂のOH価が25mgKOH/g(樹脂)より大きい、好ましくは40mgKOH/g(樹脂)より大きい、請求項1〜5のいずれか一項に記載の不飽和ポリエステル樹脂。
【請求項7】
分子量Mnが750〜5000ダルトンの範囲内である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の不飽和ポリエステル。
【請求項8】
前記不飽和ポリエステルのジカルボン酸構成単位の少なくとも25重量%がイタコン酸構成単位である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の不飽和ポリエステル。
【請求項9】
前記不飽和ポリエステルの不飽和ジカルボン酸構成単位の少なくとも25重量%がイタコン酸構成単位である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の不飽和ポリエステル。
【請求項10】
前記不飽和ポリエステル樹脂が、イソソルビドおよび/または1,3−プロパンジオール構成単位をさらに含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の不飽和ポリエステル樹脂。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の不飽和ポリエステルを含みかつ反応性希釈剤をさらに含む、樹脂組成物。
【請求項12】
請求項11に記載の樹脂組成物を開始剤で硬化させて得られる、硬化された物体または構造部品。
【請求項13】
前記開始剤が過酸化物を含む、請求項12に記載の硬化された物体または構造部品。
【請求項14】
自動車部品、ボート、化学アンカー、屋根材、構造物、容器、取り替え用裏張り、パイプ、タンク、床材または風車の羽根における、請求項13に記載の硬化された物体または構造部品の使用。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の不飽和ポリエステル樹脂を含む粉体塗料組成物。

【公表番号】特表2012−521467(P2012−521467A)
【公表日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−501298(P2012−501298)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【国際出願番号】PCT/EP2010/053848
【国際公開番号】WO2010/108963
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】