説明

不飽和炭化水素ガスの検知溶液及び測定方法並びに測定装置

【課題】より簡便に精度良く不飽和炭化水素ガスが測定できるようにする。
【解決手段】フクシンより作製されたシッフ試薬5.0mlとリン酸1mlとを水5.0mlに溶解した検知溶液101を作製し、これをガラスなどの透明で検知溶液101と反応しない材料から構成された容器102の中に収容する。次に、検知溶液101を用いた不飽和炭化水素ガスの測定方法について説明すると、まず、容器102に収容された検知溶液101の吸光度を測定する。次に、1ppmの濃度の1,3−ブタジエンが存在する測定対象の空気に、バブリングにより検知溶液101が曝された状態とする。以上のようにして、測定対象の空気に検知溶液101を曝した後、容器102に収容された検知溶液101の吸光度を再び測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン結合などを備える不飽和炭化水素ガスを測定する不飽和炭化水素の検知溶液及び測定方法並びに測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、光化学オキシダントによる大気汚染は、大都市のみならず、大都市の周辺の地域にまで拡大しており、環境に対する影響が問題とされている。光化学オキシダントは、オゾンなどの強い酸化性を持った物質を主成分とし、工場や事業所や自動車から排出されるNOxやVOC(揮発性有機化合物)などの汚染物質が太陽光線の照射を受けて光化学反応により生成されたものであり、光化学スモッグの原因となっている。
【0003】
上述した光化学スモッグの原因物質であるVOCには数百種類が存在しているが、この中で最近注目が高まっている物質に1,3−ブタジエンが挙げられる。従来、VOCは上述したように光化学スモッグの原因物質として注目を集めてきたが、近年、VOCによる発がんリスクが定量的に評価されており、VOC自体の危険性が注目されている。1,3−ブタジエンは、米カリフォルニア州EPAの評価によれば、10-5発がんユニットリスク値が0.06μg/m3と非常に低い値である。なお、発がんユニットリスク値とは、例えば、10-5発がんユニットリスク値の場合、70年間曝されていた場合に発がん確率が10-5上昇する濃度のことを示しており、欧米では環境リスクの限界許容濃度の指標として用いられることが多い。
【0004】
1,3−ブタジエンは、自動車など内燃機関を原動力として用いる移動体からの排出が多く、環境基準が設定されているベンゼンなどよりも総合的なリスクが高いという報告がある(非特許文献1参照)。日本では石油化学コンビナート周辺の測定(千葉県市原市岩崎西)において測定期間中の濃度範囲が0.02〜290μg/m3、平均2.0μg/m3という報告例がある(非特許文献2参照)。上述した値は、前述の10-5発がんユニットリスク値の30倍以上の濃度であり、周辺住人が非常に高い発がんリスクに曝されていることを示している。このため、発がんリスク管理・回避のために、できるだけ多地点で、1,3−ブタジエンのリアルタイム連続モニタリングを行うことが望まれている。
【0005】
現在、1,3−ブタジエンは、各都道府県の測定局において月1回24時間の平均値が測定されている。この測定は、ガスクロマトグラフにより行われており、1,3−ブタジエン濃度測定では、サブppbレベルの微量なガスの測定が可能である。しかしながら、ガスクロマトグラフは、高価な装置であり、かつ精度維持のための整備が常に必要であり、簡便に用いることができる装置ではない。また、現在の測定は、月に1回24時間の平均値が測定されているのみであり、測定期間外に高濃度の1,3−ブタジエンに暴露された状態は把握できない。
【0006】
また、上述の測定はリアルタイムモニタリングではないので、高濃度になった場合に警報を発するなどなどの対策をとることも不可能である。ガスクロマトグラフによる連続測定は不可能ではないが、機器の大きさや経費などの点から、研究調査用途に限られ、多地点での常時連続モニタリングには適してしていない。1,3−ブタジエン検知・測定が可能なものとして、他には検知管が挙げられるが、毎回人が測定する必要がある上に、1回の測定で使い捨てるため、多地点での連続測定は現実的ではない。
【0007】
また近年、エチレンガスが、未熟な青果物を追熟させるためのホルモンとして使用されている。しかし、エチレンは多くの種類の青果物自体からも自然に発生することが知られており、青果物の保存時にはその作用により保存可能期間を著しく短縮させてしまう。このため、青果物を保管する倉庫にはエチレン除去剤などを配置し、保存可能期間の短縮を防ぐことがしばしばある。しかし、実際に倉庫内のエチレン濃度は不明なことが多く、エチレン濃度の把握に熱心な事業者でも、一定期間毎にガスクロマトグラフで分析する程度であり、エチレンの濃度はリアルタイムには把握されていない。
【0008】
このためエチレン除去剤の効果が低下して倉庫内のエチレン濃度が高くなったことの把握、及び、青果物が出荷までに受けた総濃度の把握などは不可能である。エチレンの検知・測定が可能なものとして、検知管があるが、前述したように毎回人が測定する必要がある上に、1回の測定で使い捨てるため、多地点での連続測定は現実的ではない。また、エチレン暴露の蓄積量を表示し、青果物の成熟度を表示できる品質表示ラベルが存在するが、使用開始〜観察時の蓄積量がわかるのみであり、特定時点での濃度が不明であるため、リアルタイムモニタリング用途には適していない。
【0009】
【非特許文献1】国立環境研究所編集委員会、2002,環境儀No.5,http://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/05/5.pdf.
【非特許文献2】中西基晴、水上雅義、「石油化学コンビナート周辺における大気中の揮発性有機化合物(VOCs)の連続測定(II)、千葉県環境研究センター年報、pp.57−60,2003年発行。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上をまとめると、従来では、ppbオーダーで精度良くエチレン結合やアセチレン結合を備える不飽和炭化水素ガスを測定しようとすると、高価で大掛かりな装置構成が必要となり、また手間がかかって容易に不飽和炭化水素ガスが測定できないという問題があった
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、より簡便に精度良く不飽和炭化水素ガスが測定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る不飽和炭化水素ガスの検知溶液は、シッフ試薬及び酸が溶解した水溶液から構成されたものである。検知溶液は、1,3−ブタジエンやエチレンなどの不飽和炭化水素と反応して吸収スペクトルが変化する。
【0012】
上記不飽和炭化水素ガスの検知溶液において、シッフ試薬は、フクシンより作製されたものである。また、酸は、リン酸及び硫酸の中から選択されたものであればよい。
【0013】
また、本発明に係る不飽和炭化水素ガスの測定方法は、シッフ試薬及び酸とが溶解した水溶液からなる検知溶液の光透過率を測定して第1の透過率を求める第1工程と、検知溶液を測定対象の気体中に所定時間曝す第2工程と、第2工程の後、検知溶液の光透過率を測定して第2の透過率を求める第3工程とを少なくとも備え、第1の透過率と第2の透過率の差により測定対象の気体中の不飽和炭化水素ガスを測定するようにしたものである。検知溶液は、予め作製しておけばよい。この方法においては、測定対象に含まれている1,3−ブタジエンやエチレンなどの不飽和炭化水素との反応による検知溶液の吸収スペクトルの変化が、第1の透過率と第2の透過率の差により検出される。
【0014】
上記不飽和炭化水素ガスの測定方法において、第2工程では、測定対象の気体の気泡を検知溶液中に導入することで検知溶液を測定対象の気体中に所定時間曝すとよい。また、シッフ試薬は、フクシンより作製されたものであり、酸は、リン酸及び硫酸の中から選択されたものであればよい。
【0015】
また、本発明に係る不飽和炭化水素ガスの測定装置は、光を放出する発光部と、発光部の光放出面に受光面を対向して配置されて受光面が受光した光量に応じた電気信号を出力する光検出部と、発光部と光検出部との間に配置された検知溶液と、光検出部が出力した電気信号の状態を測る電気計器とを少なくとも備え、検知溶液は、シッフ試薬及び酸が溶解した水溶液から構成されて測定対象の気体に曝されるものである。
【0016】
上記測定対象の気体を輸送するエアポンプと、エアポンプに輸送された測定対象の気体を検知溶液中に導入して放出することで検知溶液に測定対象の気体の気泡を導入させる気泡導入手段とを備えるようにしてもよい。また、発光部は発光ダイオードから構成され、光検出部はフォトトランジスタから構成され、加えて、発光ダイオード及びフォトトランジスタに電源を供給する電池と、発光ダイオード及びフォトトランジスタに電池からの電源の供給をオンオフするスイッチと、フォトトランジスタと電池との間に接続された電気計器としての電圧計と、発光ダイオード,フォトトランジスタ,電池,スイッチ,及び,電圧計の各々を結線するための端子を備えた端子板と、発光ダイオード,フォトトランジスタ,電池,スイッチ,電圧計,及び,端子板を配置した基板とを備えるものである。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、シッフ試薬及び酸が溶解した水溶液から構成された検知溶液を用い、測定対象に含まれている1,3−ブタジエンやエチレンなどの不飽和炭化水素との反応による検知溶液の吸収スペクトルの変化により、不飽和炭化水素ガスを測定するようにしたので、より簡便に精度良く不飽和炭化水素ガスが測定できるようになるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。本発明では、リン酸や硫酸などの酸とともにシッフ試薬が溶解した検知溶液を用いて不飽和炭化水素ガスを測定するようにしたものである。
【0019】
はじめに、本発明の実施の形態における不飽和炭化水素ガスの測定方法について、検知溶液の作製方法とともに説明する。まず、不飽和炭化水素ガスの検知溶液の作製方法について説明すると、フクシンより作製されたシッフ試薬5.0mlとリン酸1mlとを水5.0mlに溶解することで、検知溶液が作製できる。ここで、シッフ試薬について説明する。まず、塩基性フクシン0.2gを120mlの熱水(熱湯)に溶解させ、これらを冷却した後、無水亜硫酸ナトリウム2.0g及び濃塩酸(例えば12N)2mlを加えて水で200mlに希釈して上記シッフ試薬とすればよい。
【0020】
次に、検知溶液101を用いた不飽和炭化水素ガスの測定方法について説明する。まず、図1(a)に示すように、上述したように作製した検知溶液101を、これと反応しない材料から構成された容器102の中に収容し、この状態で検知溶液101の吸光度を測定する。検知溶液101は、予め作製しておいたものを用いてもよく、測定開始時に作製して用いるようにしても良い。この吸光度の測定では、例えば、図1(a)に示すように、容器102の横方向より光強度I0の入射光を透過させた透過光の強度Iを測定し、これらより吸光度(=log10(I0/I))を求める。
【0021】
次に、例えば、1ppmの濃度の1,3−ブタジエン(測定対象の不飽和炭化水素ガス)が存在する測定対象の空気(気体)に、検知溶液101が曝された状態とする。例えば、次に示すように、上記測定対象の空気を検知溶液101の中にバブリングする。図1(b)に示すように、測定対象の空気をエアポンプ104により輸送管105を介して検知溶液101の中に輸送し、輸送した空気を液中に放出して多数の気泡を形成させる。なお、エアポンプ104は、例えば、シリコーン性のチューブを用いたチューブポンプである。このように、測定対象の空気が輸送される経路が、測定対象の不飽和炭化水素ガスが吸着しない材料から構成されているエアポンプが好適である。
【0022】
上述したように、エアポンプ104により輸送された測定対象空気により、検知溶液101中に形成された気泡は、検知溶液101の中を徐々に上昇し、この過程で一部が検知溶液101に溶解し、他は気液界面を経て外部空間に到達する。本例では、測定対象空気の気泡は、検知溶液101中に浸漬された輸送管105の先端部から生成されることになり、この輸送管105の先端部が、気泡導入手段となる。このバブリングさせる際の気泡は、測定対象の空気の検知溶液101への溶解性を増すため、径ができるだけ小さいことが好ましい。例えば、直径が50μm以下、好ましくは10μm以下のマイクロバブルとして検知溶液101に吹き込む(導入する)と、検知液101との接触面積が増し、空気に含まれる想定対象の不飽和炭化水素ガスの検知溶液101への溶解速度の高い向上が期待できる。例えば、輸送管105の先端部に、複数の孔を備えた多孔構造体を配置し、この多孔構造体からなる気泡導入手段を用いることで、より微細な系の気泡が導入可能である。
【0023】
以上のようにして、測定対象の空気に検知溶液101を曝した後、図1(f)に示すように、容器102に収容された検知溶液101の吸光度を再び測定する。はじめに測定した吸光度(第1の透過率)と、暴露後に測定した吸光度(第2の透過率)との差により、後述するように、測定対象の空気(気体)中の不飽和炭化水素ガスが測定できる。
【0024】
上述した2回の吸光度の測定(吸光光度分析)結果を図2に示す。なお透過光測定波長350nm以下の吸収は、容器102を構成するガラス自体の吸収である。図2では、測定対象の空気に暴露する(曝す)前の吸光度の測定結果を破線で示し、暴露した後の吸光度の測定結果を実線で示す。図2に示すように、波長350〜600nmの範囲、特に波長430nm及び波長570nm付近において、実線と破線との間に大きな違いが見られる。
【0025】
1,3−ブタジエンが含まれる空気に検知溶液101を暴露した後の吸光度の測定(実線)では、波長550nm付近の吸収が増加している。これは、検知溶液101に含まれているシッフ試薬が、1,3−ブタジエンと反応して色を変化させたことを示し、検知溶液101を構成している色素が別の色素に変化したものと考えられる。言い換えると、1,3−ブタジエンと反応することで、検知溶液101を構成している色素分子の構造と電子状態が変化して可視〜近赤外領域の吸収スペクトルが変化したものと考えられる。
【0026】
従って、検知溶液101における、測定対象空気に対する暴露前後の色(透過率)の変化(差)をみることで、不飽和炭化水素ガスの測定及び定量などの測定が可能となる。ここで、吸光度変化が暴露濃度×暴露時間に比例するものと仮定すると、図2に示す結果より、本実施の形態における検知溶液を用いた1,3−ブタジエンの測定方法では、約4ppbが検出下限と考えられる。
【0027】
次に、上述した検知溶液101と同様に作製した検知溶液を直径100mm程度の円形のシャーレに収容し、これを0.1ppmの濃度のエチレンが存在する測定対象の空気中に24時間放置して上記検知溶液を測定対象空気に曝すことで、エチレンの測定を行った結果について説明する。この測定においても、測定対象の空気に曝す前と後とで、前述同様に検知溶液の吸光度を測定した。ただし、この測定では、検知溶液に対して測定対象の空気のバブリングは行わず、上記シャーレを測定対象の空気が収容されたデシケータの中に載置することで、検知溶液を測定対象空気に曝す。この場合、2回の吸光度の測定により、図3に示すような透過光測定結果が得られた。図3においても、測定対象の空気に暴露する前の吸光度の測定結果を破線で示し、暴露した後の吸光度の測定結果を実線で示す。
【0028】
図3においても、波長350〜600nmの範囲、特に波長550nm付近において、実線と破線との間に大きな違いが見られる。エチレンが含まれる空気に検知溶液を暴露した後の吸光度の測定(実線)でも、波長550nm付近の吸収が増加している。これも、検知溶液が、エチレンと反応して自身の色を変化させたことを示しており、前述同様に、検知溶液を構成している色素が、別の色素に変化したものと考えられる。ただし、吸光度の差は大きくない。前述したように、検知溶液に対して測定対象の空気をバブリングした方が、より高い感度が得られることが分かる。
【0029】
また、上述した検知溶液の吸光度の変化と、暴露した空気中の不飽和炭化水素ガス濃度(量)との関係について検量線を作製することで、不飽和炭化水素ガスの濃度測定(定量)を行うことが可能である。例えば、分光光度計(吸光光度計)により検知溶液の透過光の吸収スペクトルを測定し、また、最も大きな吸光度変化が得られる波長域の光源を利用して透過光をフォトダイオードなどの光測定部で測定すればよい。
【0030】
また、本実施の形態における不飽和炭化水素ガスの検知溶液は、上述したように可視〜近赤外領域の吸収波長が変化し、この変化は目視(肉眼)の観察により認識可能である。従って、測定対象の空気に対して暴露した後の検知溶液の色の変化を目視により観察することによっても、測定対象の空気における不飽和炭化水素ガスのおおまかな濃度を知ることができる。
【0031】
以上に説明したように、本実施の形態における検知溶液及びこの検知溶液を用いた測定によれば、大がかりな装置を必要とせずに、不飽和炭化水素ガスの測定が可能であり、また、連続的な測定が可能である。また、所望とする時点における不飽和炭化水素ガスの測定が可能であり、不飽和炭化水素ガスのリアルタイムモニタリングが容易である。ところで、検知溶液は、測定環境により左右されるが、水分の揮発などにより溶液濃度が変化する。従って、単純には、測定対象の空気(気体)に対する暴露の前後における検知溶液の光透過率の測定は、あまり間隔を開けない方がよい。ただし、溶液の濃度は、検知溶液の光学透過率の状態に反映される。従って、例えば、暴露の後に測定した検知溶液の光学特性の状態により、検知溶液の濃度を求めることができ、この結果を、暴露前後の2回の光学透過率の測定結果の差に反映させれば、検知溶液の濃度変化を考慮した状態での測定が可能である。
【0032】
ところで、上述したように、本実施の形態における不飽和炭化水素ガスの検知溶液は、1,3−ブタジエンやエチレンなどのエチレン結合(C=C2重結合)を備える炭化水素ガス(不飽和炭化水素ガス)が含まれる空気に曝されることで、光学特性が変化する。また、アセチレン結合(C≡C3重結合)を備える炭化水素ガス(不飽和炭化水素ガス)が含まれる空気に曝されることでも同様に、光学特性が変化するものと考えられる。従って、本実施の形態における検知溶液を用いた不飽和炭化水素ガスの測定方法によれば、上述したような不飽和炭化水素ガスの測定が可能である。
【0033】
なお上述では、塩基性フクシンに無水亜硫酸ナトリウム及び濃塩酸を加えてシッフ試薬を作製したがこれに限るものではない。シッフ試薬は、よく知られている方法により、フクシンより作製されていればよい。例えば、塩基性フクシン(フクシン塩素塩)が溶解している水溶液に亜硫酸を加え、これに二酸化硫黄が飽和している水溶液を加えることで脱色して作製してもよい。ここで、シッフ試薬ともに酸(リン酸など)を同時に配置したが、これは、酸が存在しないとフクシンが再生して亜硫酸を加える以前のフクシンの色に戻るためである。リン酸の代わりに硫酸(希硫酸)を用いるようにしても良い。なお、塩酸は、蒸気圧が高いために揮発しやすく、長期の保存に向かない。
【0034】
次に、本発明の実施の形態における不飽和炭化水素ガスの測定装置について説明する。本測定装置は、図4に示すように、例えば、所定の波長(例えば550nm)の光を発するLED(緑色LED)からなる発光部401からの発光光を、検知溶液101に照射し、このことにより検知溶液101を透過した透過光を受光部403で受光する。受光部403では、受光光を光電変換して信号電流を出力する。また、変換増幅部404では、受光部403より出力された信号電流を増幅して電流−電圧変換する。また、A/D変換部405では、変換増幅部404で変換された電圧信号をデジタル信号に変換する。このようにしてA/D変換部405で変換されたデジタル信号が、出力測定部406より測定結果として出力される。
【0035】
ここで、受光部403は、例えば、フォトトランジスタである。このフォトトランジスタとしては、例えば、190〜1000nmの波長に感度のあるものを用いればよい。また、発光部401と受光部403は、発光部分と受光部分とが対向して配置されている。なお、受光部403には、フォトトランジスタに限らず、フォトダイオードを用いるようにしてもよいことは、いうまでもない。
【0036】
検知溶液101を用いた本測定装置により、前述した方法で1,3−ブタジエン1ppmの濃度の空気及びエチレン0.1ppmの濃度の空気を測定すると、前述したように、測定対象空気への暴露前と後とで前述したような検知溶液101の吸光度変化に対応する出力が、出力測定部406より得られる。このように、検知溶液101を用いることで、不飽和炭化水素ガスの濃度を測定する測定装置が、容易に構成できる。なお、本測定装置にエアポンプを組み合わせ、、前述したように測定対象の空気をエアポンプにより検知溶液101の中に輸送し、輸送した空気を液中に放出して多数の気泡を形成させて溶解させるようにしても良い。
【0037】
次に、本発明の実施の形態における不飽和炭化水素ガスの測定装置についてより詳細に説明する。本測定装置は、図5に示すように、例えば12cm×6cm程度の基板501の上に、波長550nmの光を発するLED502と、LED502の発光面に対向して受光面が配置されるように、フォトトランジスタ503を配置する。フォトトランジスタ503は、400〜1100nmの波長域に光感度を持っている。これらLED502とフォトトランジスタ503には、端子板504を介して直列に接続配置した2つの単3の電池(乾電池)505から電源が供給される構成となっている。
【0038】
また、電池505からの電源の供給は、スイッチ506によりオンオフできるように構成されている。このように、奔走値では、端子板504の端子を利用して回路を組み立てている。端子番号1にフォトトランジスタ503の配線を、端子番号2にスイッチ506の配線を、端子番号3にLED502の配線を、端子番号4にスイッチ506と電池505の配線を、端子番号5に電池505とLED502とフォトトランジスタ503の配線を各々接続してある。また、奔走値では、フォトトランジスタ503からの出力電圧が、1桁(V)のオーダーとなるように、抵抗507,508を設けている。
【0039】
上述したように構成した本装置において、LED502とフォトトランジスタ503との間に検知溶液101を収容した溶液セル511を配置し、端子板504の端子番号1と端子番号2の間に電圧計を接続して電圧を測定することで、本装置で、検知溶液101に溶解した(検知溶液101が曝された)不飽和炭化水素ガスの測定を行う。溶液セル511は、ガラスなどの透明で検知溶液101と反応しない材料から構成すればよい。
【0040】
このように、本実施の形態における測定装置によれば、12cm×6cm程度の面積の中に、精度の良い不飽和炭化水素ガスの測定装置を構成できる。また、一般に市販されている電池を電源として構成できるので、より簡便に不飽和炭化水素ガスの測定ができるようになる。また、本測定装置にエアポンプを組み合わせ、測定対象の空気をエアポンプにより検知溶液101の中に輸送し、輸送した空気を液中に放出して多数の気泡を形成させて溶解させるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施例におけるガス検知溶液の作製方法及びガス測定方法について説明する説明図である。
【図2】本実施の形態におけるガス検知溶液を用いたガス測定方法における、1,3−ブタジエンを測定対象とした2回の吸光度の測定結果を示す特性図である。
【図3】本実施の形態におけるガス検知溶液を用いたガス測定方法における、エチレンを測定対象とした2回の吸光度の測定結果を示す特性図である。
【図4】本発明の実施例における測定装置の概略的な構成を示す構成図である。
【図5】本発明の実施例における測定装置の構成を示す平面図である。
【符号の説明】
【0042】
101…検知溶液、102…容器、104…エアポンプ、105…輸送管、401…発光部、403…受光部、404…変換増幅部、405…A/D変換部、406…出力測定部、501…基板、502…LED、503…フォトトランジスタ、504…端子板、505…電池、506…スイッチ、507,508…抵抗、511…溶液セル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シッフ試薬及び酸が溶解した水溶液から構成されたことを特徴とする不飽和炭化水素ガスの検知溶液。
【請求項2】
請求項1記載の不飽和炭化水素ガスの検知溶液において、
前記シッフ試薬は、フクシンより作製されたものであることを特徴とする不飽和炭化水素ガスの検知溶液。
【請求項3】
請求項1又は2記載の不飽和炭化水素ガスの検知溶液において、
前記酸は、リン酸及び硫酸の中から選択されたものであることを特徴とする不飽和炭化水素ガスの検知溶液。
【請求項4】
シッフ試薬および酸とのが溶解した水溶液からなる検知溶液の光透過率を測定して第1の透過率を求める第1工程と、
前記検知溶液を測定対象の気体中に所定時間曝す第2工程と、
第2工程の後、前記検知溶液の光透過率を測定して第2の透過率を求める第3工程と
を少なくとも備え、
前記第1の透過率と前記第2の透過率の差により前記測定対象の気体中の不飽和炭化水素ガスを測定する
ことを特徴とする不飽和炭化水素ガスの測定方法。
【請求項5】
請求項4記載の不飽和炭化水素ガスの測定方法において、
前記第2工程では、前記測定対象の気体の気泡を前記検知溶液中に導入することで前記検知溶液を測定対象の気体中に所定時間曝す
ことを特徴とする不飽和炭化水素ガスの測定方法。
【請求項6】
請求項4又は5記載の不飽和炭化水素ガスの測定方法において、
前記シッフ試薬は、フクシンより作製されたものである
ことを特徴とする不飽和炭化水素ガスの測定方法。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項に記載の不飽和炭化水素ガスの測定方法において、
前記酸は、リン酸及び硫酸の中から選択されたものである
ことを特徴とする不飽和炭化水素ガスの測定方法。
【請求項8】
光を放出する発光部と、
前記発光部の光放出面に受光面を対向して配置されて前記受光面が受光した光量に応じた電気信号を出力する光検出部と、
前記発光部と前記光検出部との間に配置された検知溶液と、
前記光検出部が出力した電気信号の状態を測る電気計器と
を少なくとも備え、
前記検知溶液は、シッフ試薬及び酸が溶解した水溶液から構成されて測定対象の気体に曝される
ことを特徴とする不飽和炭化水素ガスの測定装置。
【請求項9】
請求項8記載の不飽和炭化水素ガスの測定装置において、
前記測定対象の気体を輸送するエアポンプと、
前記エアポンプに輸送された前記測定対象の気体を前記検知溶液中に導入して放出することで前記検知溶液に前記測定対象の気体の気泡を導入させる気泡導入手段と
を備えることを特徴とする不飽和炭化水素ガスの測定装置。
【請求項10】
請求項8又は9記載の不飽和炭化水素ガスの測定装置において、
前記発光部は発光ダイオードから構成され、
前記光検出部はフォトトランジスタから構成され、
加えて、
前記発光ダイオードおよびフォトトランジスタに電源を供給する電池と、
前記発光ダイオードおよびフォトトランジスタに前記電池からの電源の供給をオンオフするスイッチと、
前記フォトトランジスタと前記電池との間に接続された電気計器としての電圧計と、
前記発光ダイオード,前記フォトトランジスタ,前記電池,前記スイッチ,および,前記電圧計の各々を結線するための端子を備えた端子板と、
前記発光ダイオード,前記フォトトランジスタ,前記電池,前記スイッチ,前記電圧計,および,前記端子板を配置した基板と
を備えることを特徴とする不飽和炭化水素ガスの測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−275361(P2008−275361A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−116654(P2007−116654)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】