両眼視能評価装置、両眼視能評価方法、およびプログラム
【課題】 融像能及び立体視能についての体系的な評価を行うことが可能な両眼視能評価装置を提供する。
【解決手段】 被験者に、融像能及び立体視能に関する検査を実行して検査結果を取得する検査実行手段と、前記検査結果を所定の範囲で階級に分けるための予め定められた基準範囲を記憶する記憶手段と、前記検査結果と前記基準範囲とから、被験者の融像能及び立体視能を前記階級として判定する判定処理手段と、を備える。
【解決手段】 被験者に、融像能及び立体視能に関する検査を実行して検査結果を取得する検査実行手段と、前記検査結果を所定の範囲で階級に分けるための予め定められた基準範囲を記憶する記憶手段と、前記検査結果と前記基準範囲とから、被験者の融像能及び立体視能を前記階級として判定する判定処理手段と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は個々の視能を特定し、評価する為の両眼視能評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体や液晶表示素子の微細化や高速処理性能の向上などを背景に、立体画像情報(静止画や動画)の表示技術に関する研究開発が急速に進んできている。これら一連の技術確立の成果として立体画像情報呈示機器の開発、実用化とその普及し始めた。しかし、奥行知覚(depth perception)の手掛かりが得られる画像情報の呈示に関するいろいろな手法が確立しても、それらの技術を活用した呈示機器を利用する視聴者(利用者)が不特定であることや視聴者の両眼立体視機能の個人差が大きいこと、想定する視聴者の両眼視機能の呈示限界や疲労の程度、そして脳機能に至る一連の融像機能への影響に関する視覚刺激情報が過度となる懸念が増大し始めている。具体的には、両眼視野闘争( binocular rivalry )など取得情報の質や程度、そして情報処理系への影響の懸念である。
【0003】
視能とは、両眼視機能の回復のための矯正訓練及びこれに必要な検査(視能訓練士法第17条)の範囲に限定した事項を意味する。両眼立体視の映像呈示は、いわゆる融像可能な(範囲)閾値を、負担の少ない方向に軽減して調節させるなどの両眼立体視能( binocularity)への負担を少なくする(左右眼への呈示像の視差/ binocular parallaxを少なくするなど)調節( accommodation)・輻輳(conver-gence)や、強度の負荷の連続呈示時間を制限するなどの工夫をした呈示情報の製作が行われる傾向にある。視聴者保護や安全性を確保する目的である。しかし、このことが多くの人が呈示情報の物足りなさを感じる原因となって毎回繰返される短命な3D(3−dimensional)ブームが繰返される原因の一つとなっているようにも思われる。新たな立体画像情報の呈示と取得の試みが、その時々の最新の情報呈示技術を活用した画像情報視聴方法の確立や発展といった取り組みとなっているにも関わらず、残念ながら周期性を持った短期間の流行物になり、期待感や感動も薄れやすく、持続性や継続性を保てない理由の一つとなっている。
【0004】
人間の情報取得の手段として視覚情報が取得情報量の85%程を占めるといわれる。その視覚情報であるが、両眼立体視の実態は十分に解明され、把握されているとは言い難い状況にある。過去の実験研究の結果からの推定では、両眼視が不得手で、いわゆる単一視(binocular single vision)ではなく単眼視(monocular vision)をしている人の割合は5〜7%程度を占めているものと考えられる。しかし、その多くは立体視能の訓練不足を原因とする単眼視機能活用(片眼抑制/ sup-pressed eye, vergence/motor fusion)が多く存在している。そして、これらの人の多くは、適切な両眼(立体)視能(融像機能; retina/sensory fusion)の訓練によって、立体視を短期間の訓練で取得でき、多数の人がその視能の活用を継続できるように変わることが確認されている。これらの研究成果に基づく訓練などを行っても両眼立体視能が得られない人の割合は、3%未満程度存在するものと想定する。このように、両眼立体視能が得られない人の中でも両眼視機能は有しながら訓練不足などが原因で両眼立体視能を十分に活用しきれていない人を含めても、想定視聴者数の1割以下である視聴者の視能への影響を懸念した立体画像のコンテンツが作成されていることも、3Dブームが一過性となっている原因の一つと考える。
【0005】
視聴者の立体感や奥行感の知覚は、過去の経験などから奥行きや位置関係を学習し、記憶していることで、位置関係などのおおよそは把握できてしまうことから、3D視が感動を与えるものになりきれない原因となることも容易に想定される。しかし、できることならば人によって異なる両眼立体視能の程度(強度や耐性)の違いを、個別に把握して、それぞれの視能に対応した立体視提示方法を提供できることが望ましい。個人差の大きな機能である視能の快適性を追求する試みとしては、発達や加齢を含めて、視力に始まる視能を個別に獲得する取組が歴史的にも行われてきた。両眼立体視能についても、それぞれの視能に適した快適な視聴方法を提案する検討が必要なことは論を待たないものと考えられる。
【0006】
他にも従来の研究成果を十分に活かしきれない背景として、視能計測方法の多様性や特定の実験装置の存在などが考えられる。即ち、視能測定装置の入手や活用の容易さ、そして測定方法が簡便な測定システムの確立や普及が前提条件となる。日本では3Dコンテンツのガイドラインが既に示されているが、立体画像呈示機器の急速な普及に対して、両眼立体視能の把握を促す仕組みの普及が追いつかない状況にある。また、脳の発達途中にある年齢層(5〜14歳前後)への発育障害の懸念などの問題も残っている。
【0007】
そこで、入手や測定が容易で簡便な仕組みの構築を図り、立体視(3D)情報呈示機器を利用しようとする視聴者が容易に自己の視能の判定が可能な仕組みと、その視能に適した3D刺激値によるコンテンツ制作を可能とする視能程度の分類方法(leveling)が望まれている。
【0008】
特に近年、視聴者に立体感や奥行感を認知させる立体画像(静止画や動画)を提供する技術が普及してきている。これには様々な呈示方式が存在するが、例えば、以下のような方式が知られている。
【0009】
ラインバイライン方式は、画面を右眼用画像用のラインと左目用画像用のラインとに交互に区切ることによって、同一面に右眼用画像と左目用画像を混在させて再生するものである。同様に、チェッカーサンプリング方式では、左右の映像を画素ごとに千鳥配置することで、右眼用画像と左目用画像を混在させて再生する。一方、フレームシーケンシャル方式は、左眼用画像と右眼用画像を高速で交互に再生するとともに、映像と同期して左右のレンズを交互に開閉する専用の眼鏡を着用するものである。フレームシーケンシャル方式によれば、片眼あたりの画素数が損なわれないため、高品位な立体画像の取得が可能となる。
【0010】
しかしながら、このような立体映像を知覚し得る能力(両眼視能)は、必ずしも万人が持ち得るものではない。一般的に両眼視能は、網膜に映る左右眼用の異なった像を統合して同時に視る機能である同時視、左右眼それぞれの網膜対応点上に映る略同じ網膜像を融合させ一つの物体として知覚する機能である融像、融像が成立した上で両眼視差による像のずれから立体感を知覚する機能である立体視に分類されるが、これらが不良である視聴者は立体画像を楽しむことができない。また、このような視知覚事象は個人的かつ自覚的なものであるため、他者と共有・比較することが難しく、本人がそれを認識できなかったり、認識していても他人には言い出せずに諦めてしまったりするという問題も起こりうる。
【0011】
また、近年ではVDT(Visual Display Terminals)作業の一般化による作業者の急増に伴って、VDT作業者の健康管理が問題となっている。その取り組みの一環としては、例えばVDT作業における衛生労働管理のためのガイドラインが策定されていることが挙げられる(「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」;2002年;厚生労働省)。このようなガイドラインでは、作業内容や作業時間等に応じた作業区分ごとに安全衛生管理のあり方が提示されている。その中で推奨される検査に、眼位検査がある。これは、例えば斜位の場合、正位に比べて視線制御に余分な眼筋運動を要するため、特に長時間のタスクにおいての疲れが解消され難く、所謂疲労状態に至る眼精疲労が起こり易いためである。このような両眼視能に関わる検査は、各作業区分に適した人材の配置や作業環境の提供、及び適正な屈折矯正に重大な意味を持つ。
【0012】
例えば特許文献1には、偏光メガネを用いることによって、自然視に近い状態で検査が行える両眼視能検査装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2000−325310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1に記載の両眼視能検査装置は、斜視・弱視による視野闘争の結果生じる、視野中の網膜対応領域における限局性の感度低下部分(抑制暗点)を定量的に測定するものである。
【0015】
しかし、必ずしもこのような両眼視能の不良が器質的な問題によるものとは限らない。例えば、単に外眼筋調節運動の未熟による場合も多く存在するものと考えられる。ところが、両眼視能、特に融像能及び立体視能には明確な評価基準が確立されていないため、体系的な評価を行うことが難しかった。
【0016】
そこで本発明は、融像能及び立体視能についての体系的な評価を行うことが可能な両眼視能評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
すなわち、本発明に係る両眼視能評価装置は、両眼視能評価のための複数の検査項目に対する利用者の検査結果を収集する検査処理部と、前記各検査項目に応じた検査結果を、所定の基準範囲から定まる階級にそれぞれ分類し、前記各階級から、前記利用者の両眼視能を評価する判定処理部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
融像能及び立体視能についての体系的な評価を行う両眼視能評価装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る両眼視能評価システム1の構成を説明する為の概略構成図である。
【図2】被験者情報1210の概略説明図である。
【図3】判定表1230の概略説明図である。
【図4】得点表1241と、重み係数表1242の概略説明図である。
【図5】総合判定表1250の概略説明図である。
【図6】判定画面200の概略図である。
【図7】制御部110の実行する処理を説明するためのフローチャートである。
【図8】判定処理部113の実行する判定処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】両眼視能評価装置1のハードウェア構成を説明するためのブロック図である。
【図10】(a)調節時間測定試験の視標である。(b)左右眼旋回角測定試験の視標である。(c)VASテストの一例である。
【図11】(a)〜(f)実施例1における評価検査項目毎のレベル別の視能分布を示す分布図である。
【図12】実施例2における疲労が増加した者の出現人数のレベル別分布をみる分布図である。
【図13】(a)実施例1におけるレベルと総合得点(重み付け前)との関係を示す分布図である。(b)実施例1におけるレベルと総合得点(重み付け後)との関係を示す分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1は、両眼視能評価システム1の構成を説明するための概略構成図である。本発明に係る両眼視能評価システム1は、図1に示すように、両眼視能評価装置10と、該両眼視能評価装置10と直接、或いは図示しないネットワークを介して接続される1つ或いは複数の検査装置20と、を具備している。
【0022】
両眼視能評価装置10は、両眼視能に関する検査の結果を集収し、そのデータを基に被験者の両眼視能、特に融像能及び立体視能を体系的、総合的に評価する装置である。両眼視能評価装置10は図示するように、制御部110と、記憶部120と、表示部130と、入力部140と、入出力インターフェース部(以下、I/F部と称する)150と、を備えている。
【0023】
表示部130は、制御部110で生成されたグラフィックス情報を表示する。
【0024】
入力部140は、ユーザーからの操作指示を受け付けて、操作情報を制御部110へと送出する。
【0025】
I/F部150は、両眼視能評価装置10の各装置及び機能部間、及び両眼視能評価装置10と外部装置間を、信号の送受信可能に接続する。また、図示しないネットワークや各機能部間におけるインターフェースを提供する。
【0026】
記憶部120は、被験者情報記憶領域121と、検査情報記憶領域122と、判定情報記憶領域123と、を有している。
【0027】
被験者情報記憶領域121には、被験者に関する情報である被験者情報1210が記憶されている。図2は、被験者情報1210の概略説明図である。
【0028】
被験者情報1210は例えば、被験者を特定するための情報である被験者IDを格納する被験者ID格納領域1211と、後述の各検査項目ごとの検査結果が格納される検査結果格納領域1212と、を有している。
【0029】
被験者情報1210は、新たな被験者が登録される度に、新たなレコードが作成されて一意の被験者IDが付与される。各レコードには複数の検査結果を格納するための検査結果格納領域1212が用意されており、各検査項目に応じた検査結果を受け付けると、随時その値が更新される。
【0030】
検査項目は、両眼視能の評価基準として利用可能なものであればどのようなものでもよい。ここでは、7つの視能に関する数値で表現可能な検査項目を挙げ、判定パラメータとして利用する。即ち、基本的な立体視能を判断するためのステレオテスト、調節時間測定試験、耐性力及び生理学的基本要素を判断するためのフリッカーテスト、継続時間測定試験、破断強度測定試験、左右眼回旋角測定試験、深視力測定試験の7つの検査項目で両眼視能を測定するものとする。
【0031】
このような本実施形態の被験者情報1210の検査結果格納領域1212には、ステレオテストの結果が格納される視差角格納領域1212a、調節時間測定試験の結果が格納される調節時間格納領域1212b、フリッカーテストの結果が格納されるフリッカー値格納領域1212c、継続時間測定試験の結果が格納される継続時間格納領域1212d、破断強度測定試験の結果が格納される破断強度格納領域1212e、左右眼回旋角測定試験の結果が格納される回旋角格納領域1212f、深視力測定試験の結果が格納される深視力格納領域1212gと、が設けられている。検査内容の詳細については、後述する。
【0032】
なお、上記検査項目については、必ずしもこの限りではなく、自由にアレンジすることができる。即ち、立体視力の判定に上記の検査項目が必須とされる訳ではない。例えば、左右眼回旋角測定試験や深視力測定試験の項目については設けずともよく、逆に、内斜位、外斜位、上斜位、下斜位等の検査をさらに加えることもできる。
【0033】
検査情報記憶領域122には、制御部110によって実行される検査プログラムを実行するために必要な情報が記憶されている。例えば、視標となる映像、画像、文書等の情報である。
【0034】
判定情報記憶領域123には、各検査項目における基本レベルを評価するための基準となる判定表1230と、各検査項目における基本レベルを得点に換算するための得点表1241及び重み係数表1240と、該得点から立体視能の総合レベルを判断するための総合判定表1250と、が予め記憶されている。
【0035】
図3は、判定表1230の概略説明図である。判定表1230は、上記各検査項目における検査項目に基づく基本レベルの判定に参照されるものであり、任意の階級としての基本レベルが格納されるレベル格納領域1231と、該基本レベルに応じた各検査項目における検査結果の基準範囲が格納される基準範囲格納領域1232と、を有している。
【0036】
判定パラメータとしての検査項目は上記と同様であり、基準範囲格納領域1232には、ステレオテストの基準範囲が格納される視差角格納領域1232a、調節時間測定試験の基準範囲が格納される調節時間格納領域1232b、フリッカーテストの基準範囲が格納されるフリッカー値格納領域1232c、継続時間測定試験の基準範囲が格納される継続時間格納領域1232d、破断強度測定試験の基準範囲が格納される破断強度格納領域1232e、左右眼回旋角測定試験の基準範囲が格納される回旋角格納領域1232fと、深視力測定試験の基準範囲が格納される平均誤差格納領域1232gと、が設けられている。
【0037】
基本レベルとは、検査結果の値を基準範囲ごとに分けたものである。なお、本実施形態では基本レベルをi〜vの5段階に分けるものとし、レベルvが最も検査結果が良好であり、レベルiが最も不良である。
【0038】
なお、各基本レベルにおける基準範囲は、母集団に一般人を想定した分布による検査、即ち、一般人を対象とする集団に対して行った検査結果を、相対度数に基づいて階級に分けることで決定した。具体的に、レベルiは全体の5%程度を占め、立体視ができていないと考えられるグループである(単眼視能は有している)。レベルiiは全体の15%程度を占め、極めて短時間(10分未満)は努力して立体視できる、若しくは、訓練を行うことで立体視能を高めることが可能であると考えられるグループである。レベルiiiは全体の30%程度を占め、短時間(15〜30分程度)の立体視が問題なく行えると考えられるグループである。レベルivは全体の40%を占め、中時間(30〜60分程度)の立体視が問題なく行えると考えられるグループである。レベルvは、全体の10%を占め、長時間(1時間以上)の立体視が問題なく行えると考えられるグループである。なお、ここでいう立体視とは静止画を対象としているが、もちろん動画を対象として基本レベル設定を行ってもよい。
【0039】
このように基本レベルとはあくまでも検査結果の基準範囲から定まるものであり、必ずしも上記に挙げた階級数である必要はない。もちろんこれは基準範囲や、後述する指標についても同様である。医学的所見や経験、累積データの統計等から、これらを任意で設定することができる。
【0040】
図4は、得点表1241と、重み係数表1242との概略説明図である。得点表1241は、各基本レベルが格納される基本レベル格納領域1241aと、該基本レベルに応じた仮得点が格納される得点格納領域1241bと、を有している。一方、重み係数表1242には、各検査項目が格納される検査項目格納領域1242aと、該検査項目に応じた重み係数が格納される重み係数格納領域1242bと、を有している。これらは、総合得点を算出する際に用いられるものである。
【0041】
総合得点は、得点表1241を用いて検査項目毎の各基本レベルに応じて算出された各仮得点に、各検査項目に応じた重み係数を乗じて足し合わせて得られる解をいう。具体的に、得点表1241では、レベルiでは仮点数が0点、レベルvでは100点であることを示す。すなわち、本実施形態においては7つの検査項目が規定されているため、各検査項目における仮得点の合計は700点となる(全ての項目で基本レベルがvの場合)。このような各検査項目における仮得点に、重み係数表1242に記憶される重み係数を乗じ、全て足し合わせたものが総合得点となる。
【0042】
このように重み係数表に記憶される重み係数を各基本レベルに乗じることで、最終的に各検査項目の重要度が異なるようになっている。例えば本実施形態に係る重み係数表1242では、立体視能に着目した重み付けがなされている。即ち、主に立体視能に関わる検査項目である第一のグループの検査(ステレオテスト、及び調節時間測定試験)の結果は、総合得点全体の70%を占め、残りの耐性力及び生理要素に関わる検査項目である第二のグループの検査(フリッカーテスト、継続時間測定試験、破断強度測定試験、左右眼回旋角測定試験、及び深視力試験)の結果は、総合得点全体の30%にすぎない(総合得点は100点満点となるよう調整されている)。これにより、立体視能に重点をおいた評価が可能となる。
【0043】
しかしながら、他にも様々な視能に重点をおいた評価が考えられる。そこで、重み係数表を複数備えておき、検査目的によってこれを切り替えることも可能である。もちろん、検査項目の分類とその重み係数についても、医学的所見や経験、累積データの統計等から任意で設定することができる。
【0044】
また、ここでは各検査項目ごとに重み係数が設定されているが、上記検査項目のグループごとに重み係数を設定し、そこから総合得点を算出してもよい。
【0045】
図5は、総合判定表1250の概略説明図である。総合判定表1250は、総合的な立体視能を表す総合レベルが格納される総合レベル格納領域1251と、該総合レベルに応じた総合得点の基準範囲が格納される総合得点基準範囲格納領域1252と、総合レベルに応じた指標を示す情報が格納される指標格納領域1253と、を有している。
【0046】
総合レベルは、各検査項目における基本レベルから換算された総合得点から判断される両眼視能の評価レベルである。本実施形態においては、総合レベルはI〜Vの5段階からなり、レベルIが最も立体視能が良好であり、レベルIが最も不良である。例えば図5では、総合得点が80点以上であれば総合レベルV、20点未満であれば総合レベルIに分類される。
【0047】
指標とは、被験者の立体視力を具体的に表す情報であり、様々なものを用いることができる。図5では、1回に可能とされる3D画像及び映像の視聴時間と、1日に可能とされるVDTの総視聴時間と、を採用した例を示す。例えば、総合レベルがVであれば、1回に連続して1時間以上の3D映像の視聴が可能とされるが、一日のVDTの総視聴時間は、8時間未満に抑えられることが推奨される。逆に、総合レベルがIであれば、3D映像の視聴は両眼視が成立しないため行うことはできない。一日のVDTの総視聴時間は、2時間未満に抑えられることが推奨される。
【0048】
指標としてはこれだけでなく、どのようなものを用いてもよい。例えば、「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(2002年,厚生労働省)で規定されるA〜Cの作業区分を採用することもできる。これによれば、作業区分Aは最も負担が大きく、作業区分Cでは最も負担が小さい。従って本実施形態では、高レベルに分類される作業者ほど負担の大きな作業(A)に向いていると言える。このように、既に科学的、生理学的根拠に基づいたガイドラインが示されている部分については、論拠を含めて合理性を勘案し、これらを踏襲してもよい。
【0049】
次に、制御部110について説明する。制御部110は、全体的な情報管理を行う情報管理部111と、検査プログラムを実行して検査結果を収集する検査処理部112と、検査結果から立体視能の判定を行う判定処理部113と、を備えている。なお、ここでは操作を行う人間は被験者自身であるものとしているが、被験者以外(例えば医療関係者等)が操作を行い、被験者に検査を指導してもよい。
【0050】
情報管理部111はプログラムが開始されると、まず、新規の被験者か否かを確認する。これには例えば、ログイン画面を表示部130に表示させ、被験者IDやパスワード等の被験者を特定するための情報を入力させることで実現できる。
【0051】
被験者が新規である場合には、情報管理部111は登録処理を実行する。具体的に、情報管理部111は、被験者情報1210に新たなレコードを作成して一意に定まる被験者IDを付与し、被験者ID格納領域1211に格納する。
【0052】
被験者が新規でない場合には、情報管理部111は、被験者を特定するための情報を受付けてログイン画面からログインさせ、どのような処理を実行するのかを選択させる。これは例えば、メニュー画面を表示して、画面上から各検査の実行や両眼視能の判定等のメニューを選択できるようにすることで実現できる。
【0053】
なお、ここでは両眼視能の判定を選択した場合について説明するが、他の検査メニューを選択できるような構成としてもよい。選択されたメニューに応じて、検査項目や、利用される重み係数表が自動的に変更される。
【0054】
被験者が各検査の実行を選択した場合には、情報管理部111は、被験者IDと検査項目とを含む検査要求を検査処理部112へと出力する。なお、利用者が両眼視能の判定を選択した場合には、被験者IDを含む判定要求を判定処理部113へと出力する。
【0055】
検査処理部112は検査要求を受け付けると、検査要求に含まれる検査項目に関する検査処理を開始する。以下、検査処理において実行される検査方法の例について詳細に説明する。なお、両眼視能に関する検査であれば、下記に挙げるもの以外の検査でもかまわない。
【0056】
まず、基本的な立体視能を判断するためのステレオテスト、及び調節時間測定試験について説明する。
【0057】
<ステレオテスト>
ステレオテストとは、チトマスステレオテストに代表される立体視能の有無を測定するテストである。ここでは、交差性又は平行性の視差を有する右眼用画像及び左眼用画像を混在させた視標画像(一般的なチトマスステレオテストに利用される画像)を専用の偏光メガネで左右の画像に分離して見せ、被験者が脳で立体感を知覚できるか否かを測定する。視差角が小さいものを立体視できるほど高レベルに分類される。
【0058】
検査処理部112は、視差を有する視標画像を表示部130に表示させ、被験者が立体的に見えているか否かを問う。これは例えば、視標画像と通常画像を混在させて表示部130に表示し、立体的に見えている画像を、入力部140を介して選択させることで実現できる。なお、視標画像に視差角の異なる(例えば、40”〜3600”)ものを複数視標として用いることで、被験者の立体視能を数値として取得する。即ち、検査処理部112は、被験者が判断可能であった最大の視標画像の視差角を、視差角格納領域1212aに格納する。
【0059】
<調節時間測定試験>
調節時間測定試験とは、立体視にかかる時間を測定するものである。ここでは、上記のような視差を有する視標画像を専用の偏光メガネで見た被験者が、脳に立体感を知覚するまでの時間を測定する。調節時間が短いほど高レベルに分類される。
【0060】
検査処理部112は、視差を有する視標画像を表示部130に表示させ、被験者が立体的に見えるまでの時間を計測する。これは例えば、視標画像をランダムに表示し、被験者に飛び出て見えるか、へこんで見えるか(即ち、交差性又は平行性の何れの視差を有する視標画像であるか)を入力部140を介して選択させ、被験者が選択に要した時間を計測することで実現できる。検査処理部112は、各視標の立体視にかかった時間の平均値を、調節時間格納領域1212bに格納する。なお、視差角についてはどのようなものを用いてもよいが(例えば、1800”程度)、全ての被験者に対して同様のものを用いることが望ましい。
【0061】
次に、耐性力及び生理学的基本要素を判断するためのフリッカーテスト、継続時間測定試験、破断強度測定試験、左右眼回旋角測定試験、及び深視力試験について説明する。
【0062】
<フリッカーテスト>
フリッカーテストとは疲労測定法の一つであり、光を明滅させた点滅視標に対し、断続する光が弁別できず連続する光に見えるようになる閾値(フリッカー値)を測定するものである。これは眼精疲労の生じ難さの基準とも言え、フリッカー値が大きいほど高レベルに分類される。
【0063】
検査処理部112は、表示部130に点滅視標を表示させ、被験者が連続する光に見える周波数を測定する。これは例えば、徐々に点滅視標の周波数を変化させ、光が連続して見えた時点を入力部140を介した操作で回答させる。そして、この時点での周波数をフリッカー値として取得することで実現できる。検査処理部112は、取得したフリッカー値を、フリッカー値格納領域1212cに格納する。
【0064】
なお、一定の負荷をかけた前後でのフリッカー値の差を取ってもよい。負荷には例えば、上記の調節時間測定試験のようなものが挙げられる。この場合、差が小さい被験者ほど高レベルに分類される。また、正しい測定値を得るためには、視標から被験者までの距離や周囲の明るさが、全ての被験者に対して一定であることが望ましい。
【0065】
<継続時間測定試験>
継続時間測定試験とは、融像が解けるまで(破断するまで)の時間を測定するものである。ここでは、視差を有さない視標画像を専用のプリズムメガネで見た被験者が、複視を知覚(融像破断)するまでの時間を測定する。継続時間が長いほど高レベルに分類される。
【0066】
検査処理部112は、視差を有さない視標画像を表示部130に表示させ、被験者が複視を知覚するまでの時間を計測する。これは例えば、複視が出現した時点に入力部140を介した操作を行わせて融像破断までの時間を取得することで実現できる。検査処理部112は、取得した時間を、継続時間格納領域1212dに格納する。
【0067】
なお、プリズムメガネに用いられるプリズムは、どのようなプリズム強度(ディオプター値)のものを用いてもよいが、全ての被験者に対して同様のものを用いることが望ましい。また、輻輳・開散の双方向における継続時間を測定してその平均値を出してもよく、輻輳・開散それぞれの測定値を別々に格納してもよい。その場合には、判定表1230においても輻輳・開散の双方向で別々の基準範囲を設ける。
【0068】
<破断強度測定試験>
破断強度測定試験とは、融像が解ける(破断する)プリズム強度を測定するものである。ここでは、視差を有さない視標画像を専用のプリズムメガネで見た被験者が、複視を知覚(融像破断)したときのプリズム強度(ディオプター値)を測定する。プリズム強度が高いほど高レベルに分類される。
【0069】
検査処理部112は、視差を有さない視標画像を表示部130に表示し、プリズムメガネのプリズム強度を連続的に変化させて、被験者が複視を自覚した際のプリズム強度を取得する。これは例えば、被験者が複視を知覚した時点を入力部140を介した操作で回答させ、当該時点におけるプリズムメガネのプリズムディオプター値を取得することで実現できる。検査処理部112は、左右及び上下方向における融像破断時のプリズムディオプター値を、破断強度格納領域1212eに格納する。なお、輻輳・開散の双方向における破断強度を測定してその平均値を出してもよく、輻輳・開散それぞれの測定値を別々に格納してもよい。その場合には、判定表1230においても輻輳・開散の双方向で別々の基準範囲を設ける。
【0070】
上記のプリズムメガネはどのようなものであってもよく、例えば検眼枠にプリズムを嵌めて利用することができるが、ロータリープリズムメガネを用いる事でより適切に検査を行うことができる。ロータリープリズムメガネとは、同形状、同屈折力の対となる平面プリズムを備え、対となるプリズムを互いに逆方向へ等角度回転させることで、偏角を連続的に変化させられるものである。例えば、これを外部の検査装置20として備え、任意のプリズム回転機構を検査処理部112に制御させればよい。その場合、対となるプリズムの屈折力と、該屈折力を実現する際のプリズムの偏角(回転量)との関係を規定した相関表を記憶させておけば、自由にプリズムの屈折力を変化させることができる。これにより、被験者の視線に任意の偏角を連続的に付与し、厳密なプリズムディオプター値を取得することが可能となる。
【0071】
<左右眼回旋角試験>
左右眼回旋角試験とは、眼球が時計回りあるいは反時計回りに回転するようにずれを生じる回旋斜位の有無、及び回旋量を測定するものである。ここでは、一般的な回旋斜位視標として、2つの片眼用視標(十字視標と円状視標)を組み合わせた、いわゆる時計視標画像を専用のメガネで片眼ずつに分離して見せ、被験者が知覚したそれらのずれ量(回旋量)を測定する。回旋量が少ないほど高レベルに分類される。
【0072】
検査処理部112は、上記時計視標画像を表示部130に表示し、被験者が知覚した視標のずれ量を取得する。これは例えば、十字視標の指している円状視標の目盛を入力部140を介して入力させることで実現できる。検査処理部112は、取得した時間を、回旋角格納領域1212fに格納する。
【0073】
<深視力測定試験>
深視力測定試験とは、三稈法に代表される立体視能の検査である。三稈法とは、2本の固定稈と該固定稈に挟まれて奥行き方向に往復動する移動稈とが、一列に並んだと知覚した位置と、実際の位置との誤差を測定するものである。誤差が少ない程、高レベルに分類される。
【0074】
なお、本実施形態に係る両眼視能評価装置10は、外部の検査装置20として上記のような従来の三桿法の奥行き知覚検査機と接続され、当該装置から送信される検査結果を取得するものとする。例えば、検査処理部112は、外部の検査装置20での測定を促す画面を表示部130に表示させ、検査終了後に当該装置から検査結果を受信して深視力格納領域1212gに格納する。
【0075】
以上、検査処理部112の実行する検査について説明した。このように、負荷刺激の刺激量に対するストレス耐性を検出することで、その強度範囲毎に、個々に異なる立体視能、融像視能を数値的に評価できるようになる。
【0076】
なお、本実施形態では、深視力測定試験のみ外部装置である検査装置20で行われ、それ以外の検査項目は両眼視能評価装置10上で行われるものとしたが、これは単に深視力測定試験を既存の装置で行った場合を例示したにすぎない。検査の実行についてはこの限りではなく、両眼視能評価装置10及び検査装置20のどちらで、どのような検査を行うかについては、自由に決定できる。
【0077】
例えば、両眼視能評価装置10に検査手段を設けず、検査は全て外部の検査装置20で行ってもよい。その場合検査結果は、直接或いはネットワークを介して接続された両眼視能評価装置10に集約される。もちろん、検査結果を入力するための入力画面を表示部130に表示させ、測定者が入力部140を介して入力することで、両眼視能評価装置10に検査結果を蓄積してもよい。
【0078】
次に、被験者がメニュー画面上で両眼視能の判定を選択した場合について説明する。被験者が両眼視能の判定の実行を選択した場合には、情報管理部111は、被験者IDを含む判定要求を判定処理部113へと出力する。
【0079】
判定処理部113は判定要求を受け付けると、判定要求に含まれる被験者IDから特定される被験者の立体視能の判定処理を開始する。
【0080】
具体的に、判定処理部113は、図6に示すような判定画面200を生成するための処理である。まず、判定処理部113は、被験者情報1210から判定要求に含まれる被験者IDと被験者ID格納領域1211に格納される被験者IDが一致するレコードを抽出する。そして、当該レコードの検査結果格納領域1212に格納される各検査の結果を、判定画面200の検査結果表示領域201にそれぞれ配置する。
【0081】
また、判定表1230を参照し、基準範囲から各検査項目における基本レベルを判定して、基本レベル表示領域202に配置する。なお、測定値が格納されていない検査項目が存在するには、基本レベル判定や以下の処理は行わず、メッセージ表示領域204に「○○検査を行って下さい」等の警告を表示させる。また、レベルがii以下の検査項目がある場合には、目立つよう色を換える等して表示するようにしてもよい。
【0082】
次に判定処理部113は、各基本レベルから被験者の総合的な両眼視能を判定する。具体的に、判定処理部113はまず、上記で判定した各検査結果に応じた基本レベルを仮得点に換算する。仮得点への換算処理は、図4に記載の得点表1241を参照することで実行可能である。
【0083】
さらに、判定処理部113は、上記で導かれた各仮得点に、重み係数表1242を参照して各検査項目に応じた重み係数を乗じ、その値を合計して総合得点を得る。図6に記載の例では、(75×0.5)+(100×0.2)+(75×0.06)+(100×0.08)+(100×0.08)+(75×0.05)+(25×0.03)=82.5(総合得点)となる。
【0084】
そして、判定処理部113は、総合判定表1250の総合得点基準範囲格納領域1252を参照して、総合得点から総合レベルを判定する。判定処理部113は、このようにして求めた総合レベルを総合レベル表示領域203に、指標格納領域1253に格納される当該レベルに応じた指標からメッセージを生成してメッセージ表示領域204に表示する。その際、基本レベルがii以下であった項目の警告メッセージを表示してもよい。警告メッセージとしては、例えば「専門家に相談して下さい」や、「訓練を行って下さい」等、任意で設定できる。また、総合得点を表示すれば、被験者はさらに詳細な立体視能を把握できる。
【0085】
なお、基本レベルがiの項目が一項目でもあった場合、総合レベルをIと判断してもよい。また、特定の項目(例えば、ステレオテスト及び調節時間測定試験)の基本レベルがiの場合にのみ、この処理を行ってもよい。
【0086】
また、重み係数を設けずに仮得点の合計を総合得点とし、直接総合レベルを判断する構成としてもよい。
【0087】
なお、得点の換算法は上記に限らず、各検査結果の数値と得点の相関表を保持しておき、検査結果から直接算出してもよい。さらに、各検査項目のレベルのうち最も高かったレベルや低かったレベルを、総合レベルとしてもよい。
【0088】
ここで、両眼視能評価装置10のハードウェア構成について説明する。図9は両眼視能評価装置10の電気的な構成を示すブロック図である。
【0089】
図9に示すように、両眼視能評価装置10は、各部を集中的に制御するCPU(Central Processing Unit)901と、各種データを書換え可能に記憶するメモリ902と、各種のプログラム、プログラムの生成するデータ等を格納する外部記憶装置903と、液晶ディスプレイや有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ等で構成される表示装置904と、キーボードやマウス、タッチパネル等で構成される入力装置905と、通信ネットワークに接続するためのNIC(Network Interface Card)等の通信装置906これらを接続するバス907と、を備える。
【0090】
例えば、制御部110は、外部記憶装置903に記憶されている所定のプログラムをメモリ902にロードしてCPU901で実行することで実現可能であり、記憶部120は、CPU901がメモリ902又は外部記憶装置903を利用することにより実現可能であり、表示部130は、CPU901が表示装置904を利用することで実現可能であり、入力部140は、CPU901が入力装置905を利用することで実現可能であり、I/F部150は、CPU901が通信装置906を利用することで実現可能である。
【0091】
なお、上記した各構成要素は、両眼視能評価装置10の構成を理解容易にするために、主な処理内容に応じて分類したものである。処理ステップの分類の仕方やその名称によって、本発明が制限されることはない。両眼視能評価装置10が行う処理は、処理内容に応じて、さらに多くの構成要素に分類することもできる。また、1つの構成要素がさらに多くの処理を実行するように分類することもできる。
【0092】
また、各機能部は、ハードウェア(ASICなど)により構築されてもよい。また、各機能部の処理が一つのハードウェアで実行されてもよいし、複数のハードウェアで実行されてもよい。
【0093】
以上のように構成される本実施形態にかかる両眼視能評価装置10を、図7及び図8に示すフローチャートを用いて説明する。図7は、本実施形態に係る両眼視能評価装置10の実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【0094】
まず、情報管理部111はプログラムが開始されると、表示部130にログイン画面を表示させて、被験者が新規か否かを確認する(S2100)。被験者が新規被験者であった場合には(YES)、ステップS2101の処理を開始する。被験者が新規被験者でなかった場合には(NO)、ステップS2102の処理と進む。
【0095】
被験者が新規被験者の場合(S2100でYES)、情報管理部111は、被験者の登録処理を行う(S2101)。具体的に、情報管理部111は、被験者情報1210に新たなレコードを作成すると共に、当該被験者を特定するための被験者IDを付与する。そして、当該被験者IDを被験者ID格納領域1211に格納し、ステップS2102の処理へと進む。
【0096】
被験者が新規被験者でなかった場合(S2100でNO)、及び、被験者の登録処理が終了した場合、情報管理部111は、表示部130にメニュー画面を表示させて(ステップS2102)、検査の実行、或いは、両眼視能の判定の何れかの処理の選択を受け付ける(ステップS2103)。
【0097】
被験者が検査の実行を選択した場合(S2103で『検査』)、情報管理部111は、被験者IDと検査項目とを含む検査要求を検査処理部112へと出力する。利用者が両眼視能の判定を選択した場合には(S2103で『判定』)、被験者IDを含む判定要求を判定処理部113へと出力する。
【0098】
検査処理部112は、検査要求を受け付けると、検査要求に含まれた検査項目に関する検査処理を開始する(S2104)。そして、検査処理部112は、得られた検査結果を被験者情報1210の検査結果格納領域1212に登録し(S2105)、ステップS2102へと戻って処理を繰り返す。
【0099】
判定処理部113は判定要求を受け付けると、判定処理を開始する(S2106)。り、図8は、判定処理部113の実行する判定処理の流れを示すフローチャートである。
【0100】
まず、判定処理部113は、判定要求に含まれる被験者IDから特定される被験者の被験者情報1210から各検査結果を抽出し、判定表1230を参照して、各検査結果に応じた基本レベルを判定する(S1061)。次に、判定処理部113は、基本レベルがiの項目があるか否かを判断する(S1062)。基本レベルiの項目がある場合には(S1062でYES)総合レベルをIと判断して(S1063)、判定処理を終了しステップS2107へと進む。
【0101】
基本レベルiの項目がない場合には(S1062でNO)、判定処理部113は、得点表1241を参照して各基本レベルを仮得点に換算する(S1064)。次に、判断処理部113は、導かれた各仮得点に、重み係数表1242を参照して重み係数を乗じ、それらの値を合計して総合得点を得る(S1065)。そして、判定処理部113は総合判定表1250を参照して総合レベルを決定し(S1066)、判定処理を終了すると共にステップS2107へと進む。
【0102】
最後に、判定処理部113は、判定処理で導かれた総合レベルから定まる指標を特定して定画面200を生成する。そして、当該判定画面200を表示部130に表示させ(S2107)、処理を終了する。
【0103】
なお、上記したフローの各処理単位は、制御部110の処理を理解容易にするために、主な処理内容に応じて分割したものである。構成要素の分類の仕方やその名称によって、本発明が制限されることはない。また、制御部110の構成は、処理内容に応じて、さらに多くの構成要素に分割することもできる。また、1つの構成要素がさらに多くの処理を実行するように分類することもできる。
【0104】
以上、両眼視能評価システム1の一実施形態について説明した。このように、本発明の両眼視能評価システム1によれば、各種検査の結果から、総合的に両眼視能、特に融像能及び立体視能を評価することができる。これにより、被験者は自分の融像能及び立体視能を具体的に把握することができ、能力が不足している被験者には訓練を促すことができる。
【0105】
また、このような指標や検査結果は、コンテンツを提供する製作者や提示機器を製作する企業、及び人工的な立体視能が求められる作業に従事する作業者の安全管理等にとって、有意な指標となる。具体的には、立体視能が要求されるメディアや機器の単なる視聴や、これらを利用した作業を適切に行う上で、呈示刺激強度を視聴対象者に合わせたものに設定することができるため、安心かつ安全な立体視環境を作ることが可能となる。また、VDT作業等の視覚に負担がかかる作業への適性を、同じ判定基準で一律に判断することもできる。
【0106】
さらに、被験者の屈折補正に加えて、融像能及び立体視能に密接な関連をもつ斜位や不等像視などを適正に矯正した場合には、矯正の前後に本装置を使用することによって、これら能力の向上を実感するとともに的確に把握することができる。
【0107】
なお、当該装置の使用においては、測定前の安静位(10分から15分)が必要であることは当然であるが、睡眠時間の減少が光刺激に対する応答特性を減衰させることが知られており、立体視能という特性を勘案すると、測定直近までの睡眠時間も重要な要因となる。ガイドラインとしては、測定前1週間(7日間)の睡眠時間が合計40時間、乃至1日平均5.7時間であることが望ましい。
【0108】
また上記の実施形態は、本発明の要旨を例示することを意図し、本発明を限定するものではない。本発明の技術的思想の範囲内で様々な変形が可能である。
【0109】
例えば、音声や画面上で検査のガイダンスを行うことにより、被験者が一人でも簡便に検査を行うことができるようにしてもよい。
【0110】
また、検査に使用するディスプレイと偏光メガネには、フレームシーケンシャル方式が採用された一般的な3Dディスプレイと3D用メガネを用いてもよい。その場合、視標は左眼用画像と右眼用画像を高速で交互に再生されるものを利用することができる。
【実施例】
【0111】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。ただし本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0112】
(実施例1)
上記7つの判定項目を使って、実際に両眼視能の評価を行った。被験者は24〜38歳(平均年齢30歳)の男子20名で、眼科的な疾患の無いことを確認済みの者とした。事前の確認では、特に両眼立体視能に影響を与えると考えられる要因を中心に確認すると同時に、その他の視機能の確認も済ませた後に実験を行った。具体的な確認事項の主なものは、視力並びに矯正後の視力、眼屈折力、調節能力、輻輳開散能力、眼位測定、不等像視の有無確認、色覚異常の有無、利き目、単眼視像と両眼視像の判定方法の確認と説明などを含めたものとなっている。実験環境は、人工光による照明環境とし、照度は200lxに設定した。気温20〜23度、湿度50〜60%の環境下にて実験を行った。被験者には、普段の眼鏡、又はコンタクトを装用した状態にて実験を実施した。
【0113】
<ステレオテスト>
ステレオテストは、チトマス社のステレオフライテストを用い、眼前40cmに置き、所定の方法に従ってテストを行って、視差角を測定した。
【0114】
<調節時間測定試験>
調節時間測定試験は、65インチ3DTVを2.4m位置より見て、画面に対して視差角が+1度から−2度に瞬時に変わる3D画像を提示して、立体に見えるまでの時間(調節時間: duration ad-justment)を測定した。立体画像として、図10(a)に示すような図形を用いた。数回練習したのち、3回繰り返してその平均値を採用した。
【0115】
<フリッカーテスト>
フリッカーテスト(flicker test)は、フリッカー測定器(柴田科学株式会社製デジタルフリッカー測定器DF-1型)を用い、周波数を次第に低くしていき、ちらつきが見え始めた時点(フリッカー値:flicker fusion frequency)の計測を行った。数回練習したのち、3回繰り返してその平均値を採用した。
【0116】
<継続時間測定試験>
継続時間測定試験は、検眼レンズの10〜12プリズムを片眼に連続装用して、被験者が複視を知覚するまでの時間(継続時間: fusion rup-ture time)を測定した。
【0117】
<破断強度測定試験>
破断強度測定試験は、ロータリープリズムで複視を知覚するまで連続的にプリズムを可変させ、破断強度の測定を行った。
【0118】
<左右眼旋回角測定試験>
左右眼旋回角測定試験は、65インチ3DTVを2.4m位置より見て、右眼に十字視標、左眼に円状視標を組み合わせた、図10(b)に示すようないわゆる時計視標画像を3DTV上に写して、回転角を計測した。
【0119】
<深視力試験>
三桿式深視力検査器用いて3回測定を行い、平均値を用いて深視力(visual acuity for depth)を算出した。
【0120】
(実施例2)
実施例1の実験終了後に、一連の実験結果に基づく総合判定の結果を確認する目的で、画像呈示時に視差角が可変(vision disparity)な動画像による映像を呈示して、その動画の視聴を被験者に実施して、判定結果の妥当性や的確性、そして判定精度の確認検証を試みた。判定のための画像は65インチ3DTVを2.4m位置に提示し、図10(a)に記載の視標と同等の単純3D図形による視差角プラス1.5度からマイナス2度に、1度につき5秒の視差角で変動させた。またプラス1度に戻るという動きを繰り返す3D動画を作成して、最長60分間連続視聴を行った。被験者による回答方法は自覚判定(アンケートへの回答)のVAS(Vizual Analogue Scale)によるアンケート方法を用いた。VASは疲労感の主観評価として、紙に書かれた10cmの直線状に疲労の程度を記入するものである(図10(c)参照)。回答方法は、直線状に記入された×の位置に応じて0(疲労がない)〜100(疲れ切った状態)に数値化している。被験者には視聴前と、視聴中10分間隔で記入を行ってもらい、被験者のVASスコアが10点以上増加した場合を疲労状態と見なした。なお、被験者のスコアが増加した場合は、その時点で視聴を中止した。
【0121】
<判定結果>
実施例1の結果を、図11(a)〜11(g)に示す。図11(a)〜11(g)は、被験者20名による評価検査項目毎の結果について、レベル別の視能分布を示す分布図である。
【0122】
各評価指標において若干の違いはあるが、何れの指標もレベルIV付近に最も人数が多く分布しており、レベルIに5%、レベルIIに15%、レベルIIIに30%、レベルIVに40%、レベルVに10%の分布があるという結果が得られた。なお、被験者の中に両眼視不可の被験者がいないことを確認した後に実施していること、また実験結果からも確認できることからレベルI相当の被験者はいないと判断した。この結果から、図3に記載の判定表によって被験者の視能が適切に評価されていることが確認できた。
【0123】
実施例2の結果を、図12に示す。図12は、VASのアンケートのスコアが10点以上増加した時点を疲労が顕著に出現したものと判断し、経過時間ごとの出現人数のレベル別分布をみる分布図である。視聴時間10分でVASスコアが視聴前に比べて10点以上増加(疲労が増えたと判断)した人は1名で、その総合得点は33点であったことからレベルIIの被験者であると判定した。視聴時間30分でVASスコアが視聴前に比べ10点以上増加(疲労が増えたと判断)した人は5名で、その総合得点(重み付け後)は46点〜62点であったことからレベルIIIの被験者であると判定した。同様に、視聴時間40分で1名、50分で4名、60分で4名、合計9名の総合得点(重み付け後)は56〜76点であり平均66点であったことから、これらの被験者はレベルIVの被験者であると判定した。1名の被験者は視聴時間60分でも疲労を生じることなく、総合得点(重み付け後)は80点であったことからレベルVの被験者であると判定した。その結果、視能のレベルと自覚疲労が生ずるまでの視聴時間とには関連性が認められた。
【0124】
また、図13(a)にレベルと総合得点(重み付け前)との関係を示す分布図を、図13(b)にレベルと総合得点(重み付け後)との関係を示す分布図を示す。図13(a)の総合得点(重み付け前)では、レベルIIIとレベルIVの総合得点には有意差は顕著ではないが、図13(b)の総合得点(重み付け後)は、図13(a)の重み付け前に比べて有意差が顕著となり、図4に記載の重み付け表により重み付けの効果が表れることが確認された。
【0125】
以上の結果から、次のような知見が得られた。
(1)7つの汎用的な両眼立体視能による立体視能の判定・評価の方法として、各レベルが適切に視能を表していることを確認できた。
(2)視聴時間と複合視能強度判定のための総合得点との関係は、図5の総合判定表における総合得点基準範囲設定が適切であることが検証された。即ち、3D視聴時間の指標に関する視能の評価・判定方法として、総合得点の階層化とレベル別けによる分類方法の有効性が検証された。
(3)7つの判定・評価項目の測定結果に重み付けをした総合視能強度を求め、その結果で両眼立体視能を総合判定する方法の有効性が確認できた。
(4)両眼立体視能強度を両眼視能の限界(閾値)と耐性を基準として、両眼立体視能を層別にレベル別けして段階的にランク付けすることが可能であることが確認できた。
【符号の説明】
【0126】
1・・・両眼視能評価システム、10・・・両眼視能評価装置、110・・・制御部、111・・・情報管理部、112・・・検査処理部、113・・・判定処理部、120・・・記憶部、121・・・被験者情報記憶領域、1210・・・被験者情報、1211・・・被験者ID格納領域、1212・・・検査結果格納領域、1212a・・・視差角格納領域、1212b・・・調節時間格納領域、1212c・・・フリッカー値格納領域、1212d・・・継続時間格納領域、1212e・・・破断強度格納領域、1212f・・・回旋角格納領域、1212g・・・深視力格納領域122・・・検査情報記憶領域、123・・・判定情報記憶領域、1230・・・判定表、1231・・・レベル格納領域、1232・・・基準範囲格納領域、1232a・・・視差角格納領域、1232b・・・調節時間格納領域、1232c・・・フリッカー値格納領域、1232d・・・継続時間格納領域、1232e・・・破断強度格納領域、1232f・・・回旋角格納領域、1241・・・得点表、1242・・・重み係数表、1250・・・総合判定表、1251・・・総合レベル格納領域、1252・・・総合得点基準範囲格納領域、1253・・・指標格納領域、130・・・表示部、140・・・入力部、150・・・I/F部、20・・・検査装置、200・・・判定画面、201・・・検査結果表示領域、202・・・レベル表示領域、203・・・総合レベル表示領域、204・・・メッセージ表示領域。
【技術分野】
【0001】
本発明は個々の視能を特定し、評価する為の両眼視能評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体や液晶表示素子の微細化や高速処理性能の向上などを背景に、立体画像情報(静止画や動画)の表示技術に関する研究開発が急速に進んできている。これら一連の技術確立の成果として立体画像情報呈示機器の開発、実用化とその普及し始めた。しかし、奥行知覚(depth perception)の手掛かりが得られる画像情報の呈示に関するいろいろな手法が確立しても、それらの技術を活用した呈示機器を利用する視聴者(利用者)が不特定であることや視聴者の両眼立体視機能の個人差が大きいこと、想定する視聴者の両眼視機能の呈示限界や疲労の程度、そして脳機能に至る一連の融像機能への影響に関する視覚刺激情報が過度となる懸念が増大し始めている。具体的には、両眼視野闘争( binocular rivalry )など取得情報の質や程度、そして情報処理系への影響の懸念である。
【0003】
視能とは、両眼視機能の回復のための矯正訓練及びこれに必要な検査(視能訓練士法第17条)の範囲に限定した事項を意味する。両眼立体視の映像呈示は、いわゆる融像可能な(範囲)閾値を、負担の少ない方向に軽減して調節させるなどの両眼立体視能( binocularity)への負担を少なくする(左右眼への呈示像の視差/ binocular parallaxを少なくするなど)調節( accommodation)・輻輳(conver-gence)や、強度の負荷の連続呈示時間を制限するなどの工夫をした呈示情報の製作が行われる傾向にある。視聴者保護や安全性を確保する目的である。しかし、このことが多くの人が呈示情報の物足りなさを感じる原因となって毎回繰返される短命な3D(3−dimensional)ブームが繰返される原因の一つとなっているようにも思われる。新たな立体画像情報の呈示と取得の試みが、その時々の最新の情報呈示技術を活用した画像情報視聴方法の確立や発展といった取り組みとなっているにも関わらず、残念ながら周期性を持った短期間の流行物になり、期待感や感動も薄れやすく、持続性や継続性を保てない理由の一つとなっている。
【0004】
人間の情報取得の手段として視覚情報が取得情報量の85%程を占めるといわれる。その視覚情報であるが、両眼立体視の実態は十分に解明され、把握されているとは言い難い状況にある。過去の実験研究の結果からの推定では、両眼視が不得手で、いわゆる単一視(binocular single vision)ではなく単眼視(monocular vision)をしている人の割合は5〜7%程度を占めているものと考えられる。しかし、その多くは立体視能の訓練不足を原因とする単眼視機能活用(片眼抑制/ sup-pressed eye, vergence/motor fusion)が多く存在している。そして、これらの人の多くは、適切な両眼(立体)視能(融像機能; retina/sensory fusion)の訓練によって、立体視を短期間の訓練で取得でき、多数の人がその視能の活用を継続できるように変わることが確認されている。これらの研究成果に基づく訓練などを行っても両眼立体視能が得られない人の割合は、3%未満程度存在するものと想定する。このように、両眼立体視能が得られない人の中でも両眼視機能は有しながら訓練不足などが原因で両眼立体視能を十分に活用しきれていない人を含めても、想定視聴者数の1割以下である視聴者の視能への影響を懸念した立体画像のコンテンツが作成されていることも、3Dブームが一過性となっている原因の一つと考える。
【0005】
視聴者の立体感や奥行感の知覚は、過去の経験などから奥行きや位置関係を学習し、記憶していることで、位置関係などのおおよそは把握できてしまうことから、3D視が感動を与えるものになりきれない原因となることも容易に想定される。しかし、できることならば人によって異なる両眼立体視能の程度(強度や耐性)の違いを、個別に把握して、それぞれの視能に対応した立体視提示方法を提供できることが望ましい。個人差の大きな機能である視能の快適性を追求する試みとしては、発達や加齢を含めて、視力に始まる視能を個別に獲得する取組が歴史的にも行われてきた。両眼立体視能についても、それぞれの視能に適した快適な視聴方法を提案する検討が必要なことは論を待たないものと考えられる。
【0006】
他にも従来の研究成果を十分に活かしきれない背景として、視能計測方法の多様性や特定の実験装置の存在などが考えられる。即ち、視能測定装置の入手や活用の容易さ、そして測定方法が簡便な測定システムの確立や普及が前提条件となる。日本では3Dコンテンツのガイドラインが既に示されているが、立体画像呈示機器の急速な普及に対して、両眼立体視能の把握を促す仕組みの普及が追いつかない状況にある。また、脳の発達途中にある年齢層(5〜14歳前後)への発育障害の懸念などの問題も残っている。
【0007】
そこで、入手や測定が容易で簡便な仕組みの構築を図り、立体視(3D)情報呈示機器を利用しようとする視聴者が容易に自己の視能の判定が可能な仕組みと、その視能に適した3D刺激値によるコンテンツ制作を可能とする視能程度の分類方法(leveling)が望まれている。
【0008】
特に近年、視聴者に立体感や奥行感を認知させる立体画像(静止画や動画)を提供する技術が普及してきている。これには様々な呈示方式が存在するが、例えば、以下のような方式が知られている。
【0009】
ラインバイライン方式は、画面を右眼用画像用のラインと左目用画像用のラインとに交互に区切ることによって、同一面に右眼用画像と左目用画像を混在させて再生するものである。同様に、チェッカーサンプリング方式では、左右の映像を画素ごとに千鳥配置することで、右眼用画像と左目用画像を混在させて再生する。一方、フレームシーケンシャル方式は、左眼用画像と右眼用画像を高速で交互に再生するとともに、映像と同期して左右のレンズを交互に開閉する専用の眼鏡を着用するものである。フレームシーケンシャル方式によれば、片眼あたりの画素数が損なわれないため、高品位な立体画像の取得が可能となる。
【0010】
しかしながら、このような立体映像を知覚し得る能力(両眼視能)は、必ずしも万人が持ち得るものではない。一般的に両眼視能は、網膜に映る左右眼用の異なった像を統合して同時に視る機能である同時視、左右眼それぞれの網膜対応点上に映る略同じ網膜像を融合させ一つの物体として知覚する機能である融像、融像が成立した上で両眼視差による像のずれから立体感を知覚する機能である立体視に分類されるが、これらが不良である視聴者は立体画像を楽しむことができない。また、このような視知覚事象は個人的かつ自覚的なものであるため、他者と共有・比較することが難しく、本人がそれを認識できなかったり、認識していても他人には言い出せずに諦めてしまったりするという問題も起こりうる。
【0011】
また、近年ではVDT(Visual Display Terminals)作業の一般化による作業者の急増に伴って、VDT作業者の健康管理が問題となっている。その取り組みの一環としては、例えばVDT作業における衛生労働管理のためのガイドラインが策定されていることが挙げられる(「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」;2002年;厚生労働省)。このようなガイドラインでは、作業内容や作業時間等に応じた作業区分ごとに安全衛生管理のあり方が提示されている。その中で推奨される検査に、眼位検査がある。これは、例えば斜位の場合、正位に比べて視線制御に余分な眼筋運動を要するため、特に長時間のタスクにおいての疲れが解消され難く、所謂疲労状態に至る眼精疲労が起こり易いためである。このような両眼視能に関わる検査は、各作業区分に適した人材の配置や作業環境の提供、及び適正な屈折矯正に重大な意味を持つ。
【0012】
例えば特許文献1には、偏光メガネを用いることによって、自然視に近い状態で検査が行える両眼視能検査装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2000−325310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1に記載の両眼視能検査装置は、斜視・弱視による視野闘争の結果生じる、視野中の網膜対応領域における限局性の感度低下部分(抑制暗点)を定量的に測定するものである。
【0015】
しかし、必ずしもこのような両眼視能の不良が器質的な問題によるものとは限らない。例えば、単に外眼筋調節運動の未熟による場合も多く存在するものと考えられる。ところが、両眼視能、特に融像能及び立体視能には明確な評価基準が確立されていないため、体系的な評価を行うことが難しかった。
【0016】
そこで本発明は、融像能及び立体視能についての体系的な評価を行うことが可能な両眼視能評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
すなわち、本発明に係る両眼視能評価装置は、両眼視能評価のための複数の検査項目に対する利用者の検査結果を収集する検査処理部と、前記各検査項目に応じた検査結果を、所定の基準範囲から定まる階級にそれぞれ分類し、前記各階級から、前記利用者の両眼視能を評価する判定処理部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
融像能及び立体視能についての体系的な評価を行う両眼視能評価装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る両眼視能評価システム1の構成を説明する為の概略構成図である。
【図2】被験者情報1210の概略説明図である。
【図3】判定表1230の概略説明図である。
【図4】得点表1241と、重み係数表1242の概略説明図である。
【図5】総合判定表1250の概略説明図である。
【図6】判定画面200の概略図である。
【図7】制御部110の実行する処理を説明するためのフローチャートである。
【図8】判定処理部113の実行する判定処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】両眼視能評価装置1のハードウェア構成を説明するためのブロック図である。
【図10】(a)調節時間測定試験の視標である。(b)左右眼旋回角測定試験の視標である。(c)VASテストの一例である。
【図11】(a)〜(f)実施例1における評価検査項目毎のレベル別の視能分布を示す分布図である。
【図12】実施例2における疲労が増加した者の出現人数のレベル別分布をみる分布図である。
【図13】(a)実施例1におけるレベルと総合得点(重み付け前)との関係を示す分布図である。(b)実施例1におけるレベルと総合得点(重み付け後)との関係を示す分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1は、両眼視能評価システム1の構成を説明するための概略構成図である。本発明に係る両眼視能評価システム1は、図1に示すように、両眼視能評価装置10と、該両眼視能評価装置10と直接、或いは図示しないネットワークを介して接続される1つ或いは複数の検査装置20と、を具備している。
【0022】
両眼視能評価装置10は、両眼視能に関する検査の結果を集収し、そのデータを基に被験者の両眼視能、特に融像能及び立体視能を体系的、総合的に評価する装置である。両眼視能評価装置10は図示するように、制御部110と、記憶部120と、表示部130と、入力部140と、入出力インターフェース部(以下、I/F部と称する)150と、を備えている。
【0023】
表示部130は、制御部110で生成されたグラフィックス情報を表示する。
【0024】
入力部140は、ユーザーからの操作指示を受け付けて、操作情報を制御部110へと送出する。
【0025】
I/F部150は、両眼視能評価装置10の各装置及び機能部間、及び両眼視能評価装置10と外部装置間を、信号の送受信可能に接続する。また、図示しないネットワークや各機能部間におけるインターフェースを提供する。
【0026】
記憶部120は、被験者情報記憶領域121と、検査情報記憶領域122と、判定情報記憶領域123と、を有している。
【0027】
被験者情報記憶領域121には、被験者に関する情報である被験者情報1210が記憶されている。図2は、被験者情報1210の概略説明図である。
【0028】
被験者情報1210は例えば、被験者を特定するための情報である被験者IDを格納する被験者ID格納領域1211と、後述の各検査項目ごとの検査結果が格納される検査結果格納領域1212と、を有している。
【0029】
被験者情報1210は、新たな被験者が登録される度に、新たなレコードが作成されて一意の被験者IDが付与される。各レコードには複数の検査結果を格納するための検査結果格納領域1212が用意されており、各検査項目に応じた検査結果を受け付けると、随時その値が更新される。
【0030】
検査項目は、両眼視能の評価基準として利用可能なものであればどのようなものでもよい。ここでは、7つの視能に関する数値で表現可能な検査項目を挙げ、判定パラメータとして利用する。即ち、基本的な立体視能を判断するためのステレオテスト、調節時間測定試験、耐性力及び生理学的基本要素を判断するためのフリッカーテスト、継続時間測定試験、破断強度測定試験、左右眼回旋角測定試験、深視力測定試験の7つの検査項目で両眼視能を測定するものとする。
【0031】
このような本実施形態の被験者情報1210の検査結果格納領域1212には、ステレオテストの結果が格納される視差角格納領域1212a、調節時間測定試験の結果が格納される調節時間格納領域1212b、フリッカーテストの結果が格納されるフリッカー値格納領域1212c、継続時間測定試験の結果が格納される継続時間格納領域1212d、破断強度測定試験の結果が格納される破断強度格納領域1212e、左右眼回旋角測定試験の結果が格納される回旋角格納領域1212f、深視力測定試験の結果が格納される深視力格納領域1212gと、が設けられている。検査内容の詳細については、後述する。
【0032】
なお、上記検査項目については、必ずしもこの限りではなく、自由にアレンジすることができる。即ち、立体視力の判定に上記の検査項目が必須とされる訳ではない。例えば、左右眼回旋角測定試験や深視力測定試験の項目については設けずともよく、逆に、内斜位、外斜位、上斜位、下斜位等の検査をさらに加えることもできる。
【0033】
検査情報記憶領域122には、制御部110によって実行される検査プログラムを実行するために必要な情報が記憶されている。例えば、視標となる映像、画像、文書等の情報である。
【0034】
判定情報記憶領域123には、各検査項目における基本レベルを評価するための基準となる判定表1230と、各検査項目における基本レベルを得点に換算するための得点表1241及び重み係数表1240と、該得点から立体視能の総合レベルを判断するための総合判定表1250と、が予め記憶されている。
【0035】
図3は、判定表1230の概略説明図である。判定表1230は、上記各検査項目における検査項目に基づく基本レベルの判定に参照されるものであり、任意の階級としての基本レベルが格納されるレベル格納領域1231と、該基本レベルに応じた各検査項目における検査結果の基準範囲が格納される基準範囲格納領域1232と、を有している。
【0036】
判定パラメータとしての検査項目は上記と同様であり、基準範囲格納領域1232には、ステレオテストの基準範囲が格納される視差角格納領域1232a、調節時間測定試験の基準範囲が格納される調節時間格納領域1232b、フリッカーテストの基準範囲が格納されるフリッカー値格納領域1232c、継続時間測定試験の基準範囲が格納される継続時間格納領域1232d、破断強度測定試験の基準範囲が格納される破断強度格納領域1232e、左右眼回旋角測定試験の基準範囲が格納される回旋角格納領域1232fと、深視力測定試験の基準範囲が格納される平均誤差格納領域1232gと、が設けられている。
【0037】
基本レベルとは、検査結果の値を基準範囲ごとに分けたものである。なお、本実施形態では基本レベルをi〜vの5段階に分けるものとし、レベルvが最も検査結果が良好であり、レベルiが最も不良である。
【0038】
なお、各基本レベルにおける基準範囲は、母集団に一般人を想定した分布による検査、即ち、一般人を対象とする集団に対して行った検査結果を、相対度数に基づいて階級に分けることで決定した。具体的に、レベルiは全体の5%程度を占め、立体視ができていないと考えられるグループである(単眼視能は有している)。レベルiiは全体の15%程度を占め、極めて短時間(10分未満)は努力して立体視できる、若しくは、訓練を行うことで立体視能を高めることが可能であると考えられるグループである。レベルiiiは全体の30%程度を占め、短時間(15〜30分程度)の立体視が問題なく行えると考えられるグループである。レベルivは全体の40%を占め、中時間(30〜60分程度)の立体視が問題なく行えると考えられるグループである。レベルvは、全体の10%を占め、長時間(1時間以上)の立体視が問題なく行えると考えられるグループである。なお、ここでいう立体視とは静止画を対象としているが、もちろん動画を対象として基本レベル設定を行ってもよい。
【0039】
このように基本レベルとはあくまでも検査結果の基準範囲から定まるものであり、必ずしも上記に挙げた階級数である必要はない。もちろんこれは基準範囲や、後述する指標についても同様である。医学的所見や経験、累積データの統計等から、これらを任意で設定することができる。
【0040】
図4は、得点表1241と、重み係数表1242との概略説明図である。得点表1241は、各基本レベルが格納される基本レベル格納領域1241aと、該基本レベルに応じた仮得点が格納される得点格納領域1241bと、を有している。一方、重み係数表1242には、各検査項目が格納される検査項目格納領域1242aと、該検査項目に応じた重み係数が格納される重み係数格納領域1242bと、を有している。これらは、総合得点を算出する際に用いられるものである。
【0041】
総合得点は、得点表1241を用いて検査項目毎の各基本レベルに応じて算出された各仮得点に、各検査項目に応じた重み係数を乗じて足し合わせて得られる解をいう。具体的に、得点表1241では、レベルiでは仮点数が0点、レベルvでは100点であることを示す。すなわち、本実施形態においては7つの検査項目が規定されているため、各検査項目における仮得点の合計は700点となる(全ての項目で基本レベルがvの場合)。このような各検査項目における仮得点に、重み係数表1242に記憶される重み係数を乗じ、全て足し合わせたものが総合得点となる。
【0042】
このように重み係数表に記憶される重み係数を各基本レベルに乗じることで、最終的に各検査項目の重要度が異なるようになっている。例えば本実施形態に係る重み係数表1242では、立体視能に着目した重み付けがなされている。即ち、主に立体視能に関わる検査項目である第一のグループの検査(ステレオテスト、及び調節時間測定試験)の結果は、総合得点全体の70%を占め、残りの耐性力及び生理要素に関わる検査項目である第二のグループの検査(フリッカーテスト、継続時間測定試験、破断強度測定試験、左右眼回旋角測定試験、及び深視力試験)の結果は、総合得点全体の30%にすぎない(総合得点は100点満点となるよう調整されている)。これにより、立体視能に重点をおいた評価が可能となる。
【0043】
しかしながら、他にも様々な視能に重点をおいた評価が考えられる。そこで、重み係数表を複数備えておき、検査目的によってこれを切り替えることも可能である。もちろん、検査項目の分類とその重み係数についても、医学的所見や経験、累積データの統計等から任意で設定することができる。
【0044】
また、ここでは各検査項目ごとに重み係数が設定されているが、上記検査項目のグループごとに重み係数を設定し、そこから総合得点を算出してもよい。
【0045】
図5は、総合判定表1250の概略説明図である。総合判定表1250は、総合的な立体視能を表す総合レベルが格納される総合レベル格納領域1251と、該総合レベルに応じた総合得点の基準範囲が格納される総合得点基準範囲格納領域1252と、総合レベルに応じた指標を示す情報が格納される指標格納領域1253と、を有している。
【0046】
総合レベルは、各検査項目における基本レベルから換算された総合得点から判断される両眼視能の評価レベルである。本実施形態においては、総合レベルはI〜Vの5段階からなり、レベルIが最も立体視能が良好であり、レベルIが最も不良である。例えば図5では、総合得点が80点以上であれば総合レベルV、20点未満であれば総合レベルIに分類される。
【0047】
指標とは、被験者の立体視力を具体的に表す情報であり、様々なものを用いることができる。図5では、1回に可能とされる3D画像及び映像の視聴時間と、1日に可能とされるVDTの総視聴時間と、を採用した例を示す。例えば、総合レベルがVであれば、1回に連続して1時間以上の3D映像の視聴が可能とされるが、一日のVDTの総視聴時間は、8時間未満に抑えられることが推奨される。逆に、総合レベルがIであれば、3D映像の視聴は両眼視が成立しないため行うことはできない。一日のVDTの総視聴時間は、2時間未満に抑えられることが推奨される。
【0048】
指標としてはこれだけでなく、どのようなものを用いてもよい。例えば、「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(2002年,厚生労働省)で規定されるA〜Cの作業区分を採用することもできる。これによれば、作業区分Aは最も負担が大きく、作業区分Cでは最も負担が小さい。従って本実施形態では、高レベルに分類される作業者ほど負担の大きな作業(A)に向いていると言える。このように、既に科学的、生理学的根拠に基づいたガイドラインが示されている部分については、論拠を含めて合理性を勘案し、これらを踏襲してもよい。
【0049】
次に、制御部110について説明する。制御部110は、全体的な情報管理を行う情報管理部111と、検査プログラムを実行して検査結果を収集する検査処理部112と、検査結果から立体視能の判定を行う判定処理部113と、を備えている。なお、ここでは操作を行う人間は被験者自身であるものとしているが、被験者以外(例えば医療関係者等)が操作を行い、被験者に検査を指導してもよい。
【0050】
情報管理部111はプログラムが開始されると、まず、新規の被験者か否かを確認する。これには例えば、ログイン画面を表示部130に表示させ、被験者IDやパスワード等の被験者を特定するための情報を入力させることで実現できる。
【0051】
被験者が新規である場合には、情報管理部111は登録処理を実行する。具体的に、情報管理部111は、被験者情報1210に新たなレコードを作成して一意に定まる被験者IDを付与し、被験者ID格納領域1211に格納する。
【0052】
被験者が新規でない場合には、情報管理部111は、被験者を特定するための情報を受付けてログイン画面からログインさせ、どのような処理を実行するのかを選択させる。これは例えば、メニュー画面を表示して、画面上から各検査の実行や両眼視能の判定等のメニューを選択できるようにすることで実現できる。
【0053】
なお、ここでは両眼視能の判定を選択した場合について説明するが、他の検査メニューを選択できるような構成としてもよい。選択されたメニューに応じて、検査項目や、利用される重み係数表が自動的に変更される。
【0054】
被験者が各検査の実行を選択した場合には、情報管理部111は、被験者IDと検査項目とを含む検査要求を検査処理部112へと出力する。なお、利用者が両眼視能の判定を選択した場合には、被験者IDを含む判定要求を判定処理部113へと出力する。
【0055】
検査処理部112は検査要求を受け付けると、検査要求に含まれる検査項目に関する検査処理を開始する。以下、検査処理において実行される検査方法の例について詳細に説明する。なお、両眼視能に関する検査であれば、下記に挙げるもの以外の検査でもかまわない。
【0056】
まず、基本的な立体視能を判断するためのステレオテスト、及び調節時間測定試験について説明する。
【0057】
<ステレオテスト>
ステレオテストとは、チトマスステレオテストに代表される立体視能の有無を測定するテストである。ここでは、交差性又は平行性の視差を有する右眼用画像及び左眼用画像を混在させた視標画像(一般的なチトマスステレオテストに利用される画像)を専用の偏光メガネで左右の画像に分離して見せ、被験者が脳で立体感を知覚できるか否かを測定する。視差角が小さいものを立体視できるほど高レベルに分類される。
【0058】
検査処理部112は、視差を有する視標画像を表示部130に表示させ、被験者が立体的に見えているか否かを問う。これは例えば、視標画像と通常画像を混在させて表示部130に表示し、立体的に見えている画像を、入力部140を介して選択させることで実現できる。なお、視標画像に視差角の異なる(例えば、40”〜3600”)ものを複数視標として用いることで、被験者の立体視能を数値として取得する。即ち、検査処理部112は、被験者が判断可能であった最大の視標画像の視差角を、視差角格納領域1212aに格納する。
【0059】
<調節時間測定試験>
調節時間測定試験とは、立体視にかかる時間を測定するものである。ここでは、上記のような視差を有する視標画像を専用の偏光メガネで見た被験者が、脳に立体感を知覚するまでの時間を測定する。調節時間が短いほど高レベルに分類される。
【0060】
検査処理部112は、視差を有する視標画像を表示部130に表示させ、被験者が立体的に見えるまでの時間を計測する。これは例えば、視標画像をランダムに表示し、被験者に飛び出て見えるか、へこんで見えるか(即ち、交差性又は平行性の何れの視差を有する視標画像であるか)を入力部140を介して選択させ、被験者が選択に要した時間を計測することで実現できる。検査処理部112は、各視標の立体視にかかった時間の平均値を、調節時間格納領域1212bに格納する。なお、視差角についてはどのようなものを用いてもよいが(例えば、1800”程度)、全ての被験者に対して同様のものを用いることが望ましい。
【0061】
次に、耐性力及び生理学的基本要素を判断するためのフリッカーテスト、継続時間測定試験、破断強度測定試験、左右眼回旋角測定試験、及び深視力試験について説明する。
【0062】
<フリッカーテスト>
フリッカーテストとは疲労測定法の一つであり、光を明滅させた点滅視標に対し、断続する光が弁別できず連続する光に見えるようになる閾値(フリッカー値)を測定するものである。これは眼精疲労の生じ難さの基準とも言え、フリッカー値が大きいほど高レベルに分類される。
【0063】
検査処理部112は、表示部130に点滅視標を表示させ、被験者が連続する光に見える周波数を測定する。これは例えば、徐々に点滅視標の周波数を変化させ、光が連続して見えた時点を入力部140を介した操作で回答させる。そして、この時点での周波数をフリッカー値として取得することで実現できる。検査処理部112は、取得したフリッカー値を、フリッカー値格納領域1212cに格納する。
【0064】
なお、一定の負荷をかけた前後でのフリッカー値の差を取ってもよい。負荷には例えば、上記の調節時間測定試験のようなものが挙げられる。この場合、差が小さい被験者ほど高レベルに分類される。また、正しい測定値を得るためには、視標から被験者までの距離や周囲の明るさが、全ての被験者に対して一定であることが望ましい。
【0065】
<継続時間測定試験>
継続時間測定試験とは、融像が解けるまで(破断するまで)の時間を測定するものである。ここでは、視差を有さない視標画像を専用のプリズムメガネで見た被験者が、複視を知覚(融像破断)するまでの時間を測定する。継続時間が長いほど高レベルに分類される。
【0066】
検査処理部112は、視差を有さない視標画像を表示部130に表示させ、被験者が複視を知覚するまでの時間を計測する。これは例えば、複視が出現した時点に入力部140を介した操作を行わせて融像破断までの時間を取得することで実現できる。検査処理部112は、取得した時間を、継続時間格納領域1212dに格納する。
【0067】
なお、プリズムメガネに用いられるプリズムは、どのようなプリズム強度(ディオプター値)のものを用いてもよいが、全ての被験者に対して同様のものを用いることが望ましい。また、輻輳・開散の双方向における継続時間を測定してその平均値を出してもよく、輻輳・開散それぞれの測定値を別々に格納してもよい。その場合には、判定表1230においても輻輳・開散の双方向で別々の基準範囲を設ける。
【0068】
<破断強度測定試験>
破断強度測定試験とは、融像が解ける(破断する)プリズム強度を測定するものである。ここでは、視差を有さない視標画像を専用のプリズムメガネで見た被験者が、複視を知覚(融像破断)したときのプリズム強度(ディオプター値)を測定する。プリズム強度が高いほど高レベルに分類される。
【0069】
検査処理部112は、視差を有さない視標画像を表示部130に表示し、プリズムメガネのプリズム強度を連続的に変化させて、被験者が複視を自覚した際のプリズム強度を取得する。これは例えば、被験者が複視を知覚した時点を入力部140を介した操作で回答させ、当該時点におけるプリズムメガネのプリズムディオプター値を取得することで実現できる。検査処理部112は、左右及び上下方向における融像破断時のプリズムディオプター値を、破断強度格納領域1212eに格納する。なお、輻輳・開散の双方向における破断強度を測定してその平均値を出してもよく、輻輳・開散それぞれの測定値を別々に格納してもよい。その場合には、判定表1230においても輻輳・開散の双方向で別々の基準範囲を設ける。
【0070】
上記のプリズムメガネはどのようなものであってもよく、例えば検眼枠にプリズムを嵌めて利用することができるが、ロータリープリズムメガネを用いる事でより適切に検査を行うことができる。ロータリープリズムメガネとは、同形状、同屈折力の対となる平面プリズムを備え、対となるプリズムを互いに逆方向へ等角度回転させることで、偏角を連続的に変化させられるものである。例えば、これを外部の検査装置20として備え、任意のプリズム回転機構を検査処理部112に制御させればよい。その場合、対となるプリズムの屈折力と、該屈折力を実現する際のプリズムの偏角(回転量)との関係を規定した相関表を記憶させておけば、自由にプリズムの屈折力を変化させることができる。これにより、被験者の視線に任意の偏角を連続的に付与し、厳密なプリズムディオプター値を取得することが可能となる。
【0071】
<左右眼回旋角試験>
左右眼回旋角試験とは、眼球が時計回りあるいは反時計回りに回転するようにずれを生じる回旋斜位の有無、及び回旋量を測定するものである。ここでは、一般的な回旋斜位視標として、2つの片眼用視標(十字視標と円状視標)を組み合わせた、いわゆる時計視標画像を専用のメガネで片眼ずつに分離して見せ、被験者が知覚したそれらのずれ量(回旋量)を測定する。回旋量が少ないほど高レベルに分類される。
【0072】
検査処理部112は、上記時計視標画像を表示部130に表示し、被験者が知覚した視標のずれ量を取得する。これは例えば、十字視標の指している円状視標の目盛を入力部140を介して入力させることで実現できる。検査処理部112は、取得した時間を、回旋角格納領域1212fに格納する。
【0073】
<深視力測定試験>
深視力測定試験とは、三稈法に代表される立体視能の検査である。三稈法とは、2本の固定稈と該固定稈に挟まれて奥行き方向に往復動する移動稈とが、一列に並んだと知覚した位置と、実際の位置との誤差を測定するものである。誤差が少ない程、高レベルに分類される。
【0074】
なお、本実施形態に係る両眼視能評価装置10は、外部の検査装置20として上記のような従来の三桿法の奥行き知覚検査機と接続され、当該装置から送信される検査結果を取得するものとする。例えば、検査処理部112は、外部の検査装置20での測定を促す画面を表示部130に表示させ、検査終了後に当該装置から検査結果を受信して深視力格納領域1212gに格納する。
【0075】
以上、検査処理部112の実行する検査について説明した。このように、負荷刺激の刺激量に対するストレス耐性を検出することで、その強度範囲毎に、個々に異なる立体視能、融像視能を数値的に評価できるようになる。
【0076】
なお、本実施形態では、深視力測定試験のみ外部装置である検査装置20で行われ、それ以外の検査項目は両眼視能評価装置10上で行われるものとしたが、これは単に深視力測定試験を既存の装置で行った場合を例示したにすぎない。検査の実行についてはこの限りではなく、両眼視能評価装置10及び検査装置20のどちらで、どのような検査を行うかについては、自由に決定できる。
【0077】
例えば、両眼視能評価装置10に検査手段を設けず、検査は全て外部の検査装置20で行ってもよい。その場合検査結果は、直接或いはネットワークを介して接続された両眼視能評価装置10に集約される。もちろん、検査結果を入力するための入力画面を表示部130に表示させ、測定者が入力部140を介して入力することで、両眼視能評価装置10に検査結果を蓄積してもよい。
【0078】
次に、被験者がメニュー画面上で両眼視能の判定を選択した場合について説明する。被験者が両眼視能の判定の実行を選択した場合には、情報管理部111は、被験者IDを含む判定要求を判定処理部113へと出力する。
【0079】
判定処理部113は判定要求を受け付けると、判定要求に含まれる被験者IDから特定される被験者の立体視能の判定処理を開始する。
【0080】
具体的に、判定処理部113は、図6に示すような判定画面200を生成するための処理である。まず、判定処理部113は、被験者情報1210から判定要求に含まれる被験者IDと被験者ID格納領域1211に格納される被験者IDが一致するレコードを抽出する。そして、当該レコードの検査結果格納領域1212に格納される各検査の結果を、判定画面200の検査結果表示領域201にそれぞれ配置する。
【0081】
また、判定表1230を参照し、基準範囲から各検査項目における基本レベルを判定して、基本レベル表示領域202に配置する。なお、測定値が格納されていない検査項目が存在するには、基本レベル判定や以下の処理は行わず、メッセージ表示領域204に「○○検査を行って下さい」等の警告を表示させる。また、レベルがii以下の検査項目がある場合には、目立つよう色を換える等して表示するようにしてもよい。
【0082】
次に判定処理部113は、各基本レベルから被験者の総合的な両眼視能を判定する。具体的に、判定処理部113はまず、上記で判定した各検査結果に応じた基本レベルを仮得点に換算する。仮得点への換算処理は、図4に記載の得点表1241を参照することで実行可能である。
【0083】
さらに、判定処理部113は、上記で導かれた各仮得点に、重み係数表1242を参照して各検査項目に応じた重み係数を乗じ、その値を合計して総合得点を得る。図6に記載の例では、(75×0.5)+(100×0.2)+(75×0.06)+(100×0.08)+(100×0.08)+(75×0.05)+(25×0.03)=82.5(総合得点)となる。
【0084】
そして、判定処理部113は、総合判定表1250の総合得点基準範囲格納領域1252を参照して、総合得点から総合レベルを判定する。判定処理部113は、このようにして求めた総合レベルを総合レベル表示領域203に、指標格納領域1253に格納される当該レベルに応じた指標からメッセージを生成してメッセージ表示領域204に表示する。その際、基本レベルがii以下であった項目の警告メッセージを表示してもよい。警告メッセージとしては、例えば「専門家に相談して下さい」や、「訓練を行って下さい」等、任意で設定できる。また、総合得点を表示すれば、被験者はさらに詳細な立体視能を把握できる。
【0085】
なお、基本レベルがiの項目が一項目でもあった場合、総合レベルをIと判断してもよい。また、特定の項目(例えば、ステレオテスト及び調節時間測定試験)の基本レベルがiの場合にのみ、この処理を行ってもよい。
【0086】
また、重み係数を設けずに仮得点の合計を総合得点とし、直接総合レベルを判断する構成としてもよい。
【0087】
なお、得点の換算法は上記に限らず、各検査結果の数値と得点の相関表を保持しておき、検査結果から直接算出してもよい。さらに、各検査項目のレベルのうち最も高かったレベルや低かったレベルを、総合レベルとしてもよい。
【0088】
ここで、両眼視能評価装置10のハードウェア構成について説明する。図9は両眼視能評価装置10の電気的な構成を示すブロック図である。
【0089】
図9に示すように、両眼視能評価装置10は、各部を集中的に制御するCPU(Central Processing Unit)901と、各種データを書換え可能に記憶するメモリ902と、各種のプログラム、プログラムの生成するデータ等を格納する外部記憶装置903と、液晶ディスプレイや有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ等で構成される表示装置904と、キーボードやマウス、タッチパネル等で構成される入力装置905と、通信ネットワークに接続するためのNIC(Network Interface Card)等の通信装置906これらを接続するバス907と、を備える。
【0090】
例えば、制御部110は、外部記憶装置903に記憶されている所定のプログラムをメモリ902にロードしてCPU901で実行することで実現可能であり、記憶部120は、CPU901がメモリ902又は外部記憶装置903を利用することにより実現可能であり、表示部130は、CPU901が表示装置904を利用することで実現可能であり、入力部140は、CPU901が入力装置905を利用することで実現可能であり、I/F部150は、CPU901が通信装置906を利用することで実現可能である。
【0091】
なお、上記した各構成要素は、両眼視能評価装置10の構成を理解容易にするために、主な処理内容に応じて分類したものである。処理ステップの分類の仕方やその名称によって、本発明が制限されることはない。両眼視能評価装置10が行う処理は、処理内容に応じて、さらに多くの構成要素に分類することもできる。また、1つの構成要素がさらに多くの処理を実行するように分類することもできる。
【0092】
また、各機能部は、ハードウェア(ASICなど)により構築されてもよい。また、各機能部の処理が一つのハードウェアで実行されてもよいし、複数のハードウェアで実行されてもよい。
【0093】
以上のように構成される本実施形態にかかる両眼視能評価装置10を、図7及び図8に示すフローチャートを用いて説明する。図7は、本実施形態に係る両眼視能評価装置10の実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【0094】
まず、情報管理部111はプログラムが開始されると、表示部130にログイン画面を表示させて、被験者が新規か否かを確認する(S2100)。被験者が新規被験者であった場合には(YES)、ステップS2101の処理を開始する。被験者が新規被験者でなかった場合には(NO)、ステップS2102の処理と進む。
【0095】
被験者が新規被験者の場合(S2100でYES)、情報管理部111は、被験者の登録処理を行う(S2101)。具体的に、情報管理部111は、被験者情報1210に新たなレコードを作成すると共に、当該被験者を特定するための被験者IDを付与する。そして、当該被験者IDを被験者ID格納領域1211に格納し、ステップS2102の処理へと進む。
【0096】
被験者が新規被験者でなかった場合(S2100でNO)、及び、被験者の登録処理が終了した場合、情報管理部111は、表示部130にメニュー画面を表示させて(ステップS2102)、検査の実行、或いは、両眼視能の判定の何れかの処理の選択を受け付ける(ステップS2103)。
【0097】
被験者が検査の実行を選択した場合(S2103で『検査』)、情報管理部111は、被験者IDと検査項目とを含む検査要求を検査処理部112へと出力する。利用者が両眼視能の判定を選択した場合には(S2103で『判定』)、被験者IDを含む判定要求を判定処理部113へと出力する。
【0098】
検査処理部112は、検査要求を受け付けると、検査要求に含まれた検査項目に関する検査処理を開始する(S2104)。そして、検査処理部112は、得られた検査結果を被験者情報1210の検査結果格納領域1212に登録し(S2105)、ステップS2102へと戻って処理を繰り返す。
【0099】
判定処理部113は判定要求を受け付けると、判定処理を開始する(S2106)。り、図8は、判定処理部113の実行する判定処理の流れを示すフローチャートである。
【0100】
まず、判定処理部113は、判定要求に含まれる被験者IDから特定される被験者の被験者情報1210から各検査結果を抽出し、判定表1230を参照して、各検査結果に応じた基本レベルを判定する(S1061)。次に、判定処理部113は、基本レベルがiの項目があるか否かを判断する(S1062)。基本レベルiの項目がある場合には(S1062でYES)総合レベルをIと判断して(S1063)、判定処理を終了しステップS2107へと進む。
【0101】
基本レベルiの項目がない場合には(S1062でNO)、判定処理部113は、得点表1241を参照して各基本レベルを仮得点に換算する(S1064)。次に、判断処理部113は、導かれた各仮得点に、重み係数表1242を参照して重み係数を乗じ、それらの値を合計して総合得点を得る(S1065)。そして、判定処理部113は総合判定表1250を参照して総合レベルを決定し(S1066)、判定処理を終了すると共にステップS2107へと進む。
【0102】
最後に、判定処理部113は、判定処理で導かれた総合レベルから定まる指標を特定して定画面200を生成する。そして、当該判定画面200を表示部130に表示させ(S2107)、処理を終了する。
【0103】
なお、上記したフローの各処理単位は、制御部110の処理を理解容易にするために、主な処理内容に応じて分割したものである。構成要素の分類の仕方やその名称によって、本発明が制限されることはない。また、制御部110の構成は、処理内容に応じて、さらに多くの構成要素に分割することもできる。また、1つの構成要素がさらに多くの処理を実行するように分類することもできる。
【0104】
以上、両眼視能評価システム1の一実施形態について説明した。このように、本発明の両眼視能評価システム1によれば、各種検査の結果から、総合的に両眼視能、特に融像能及び立体視能を評価することができる。これにより、被験者は自分の融像能及び立体視能を具体的に把握することができ、能力が不足している被験者には訓練を促すことができる。
【0105】
また、このような指標や検査結果は、コンテンツを提供する製作者や提示機器を製作する企業、及び人工的な立体視能が求められる作業に従事する作業者の安全管理等にとって、有意な指標となる。具体的には、立体視能が要求されるメディアや機器の単なる視聴や、これらを利用した作業を適切に行う上で、呈示刺激強度を視聴対象者に合わせたものに設定することができるため、安心かつ安全な立体視環境を作ることが可能となる。また、VDT作業等の視覚に負担がかかる作業への適性を、同じ判定基準で一律に判断することもできる。
【0106】
さらに、被験者の屈折補正に加えて、融像能及び立体視能に密接な関連をもつ斜位や不等像視などを適正に矯正した場合には、矯正の前後に本装置を使用することによって、これら能力の向上を実感するとともに的確に把握することができる。
【0107】
なお、当該装置の使用においては、測定前の安静位(10分から15分)が必要であることは当然であるが、睡眠時間の減少が光刺激に対する応答特性を減衰させることが知られており、立体視能という特性を勘案すると、測定直近までの睡眠時間も重要な要因となる。ガイドラインとしては、測定前1週間(7日間)の睡眠時間が合計40時間、乃至1日平均5.7時間であることが望ましい。
【0108】
また上記の実施形態は、本発明の要旨を例示することを意図し、本発明を限定するものではない。本発明の技術的思想の範囲内で様々な変形が可能である。
【0109】
例えば、音声や画面上で検査のガイダンスを行うことにより、被験者が一人でも簡便に検査を行うことができるようにしてもよい。
【0110】
また、検査に使用するディスプレイと偏光メガネには、フレームシーケンシャル方式が採用された一般的な3Dディスプレイと3D用メガネを用いてもよい。その場合、視標は左眼用画像と右眼用画像を高速で交互に再生されるものを利用することができる。
【実施例】
【0111】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。ただし本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0112】
(実施例1)
上記7つの判定項目を使って、実際に両眼視能の評価を行った。被験者は24〜38歳(平均年齢30歳)の男子20名で、眼科的な疾患の無いことを確認済みの者とした。事前の確認では、特に両眼立体視能に影響を与えると考えられる要因を中心に確認すると同時に、その他の視機能の確認も済ませた後に実験を行った。具体的な確認事項の主なものは、視力並びに矯正後の視力、眼屈折力、調節能力、輻輳開散能力、眼位測定、不等像視の有無確認、色覚異常の有無、利き目、単眼視像と両眼視像の判定方法の確認と説明などを含めたものとなっている。実験環境は、人工光による照明環境とし、照度は200lxに設定した。気温20〜23度、湿度50〜60%の環境下にて実験を行った。被験者には、普段の眼鏡、又はコンタクトを装用した状態にて実験を実施した。
【0113】
<ステレオテスト>
ステレオテストは、チトマス社のステレオフライテストを用い、眼前40cmに置き、所定の方法に従ってテストを行って、視差角を測定した。
【0114】
<調節時間測定試験>
調節時間測定試験は、65インチ3DTVを2.4m位置より見て、画面に対して視差角が+1度から−2度に瞬時に変わる3D画像を提示して、立体に見えるまでの時間(調節時間: duration ad-justment)を測定した。立体画像として、図10(a)に示すような図形を用いた。数回練習したのち、3回繰り返してその平均値を採用した。
【0115】
<フリッカーテスト>
フリッカーテスト(flicker test)は、フリッカー測定器(柴田科学株式会社製デジタルフリッカー測定器DF-1型)を用い、周波数を次第に低くしていき、ちらつきが見え始めた時点(フリッカー値:flicker fusion frequency)の計測を行った。数回練習したのち、3回繰り返してその平均値を採用した。
【0116】
<継続時間測定試験>
継続時間測定試験は、検眼レンズの10〜12プリズムを片眼に連続装用して、被験者が複視を知覚するまでの時間(継続時間: fusion rup-ture time)を測定した。
【0117】
<破断強度測定試験>
破断強度測定試験は、ロータリープリズムで複視を知覚するまで連続的にプリズムを可変させ、破断強度の測定を行った。
【0118】
<左右眼旋回角測定試験>
左右眼旋回角測定試験は、65インチ3DTVを2.4m位置より見て、右眼に十字視標、左眼に円状視標を組み合わせた、図10(b)に示すようないわゆる時計視標画像を3DTV上に写して、回転角を計測した。
【0119】
<深視力試験>
三桿式深視力検査器用いて3回測定を行い、平均値を用いて深視力(visual acuity for depth)を算出した。
【0120】
(実施例2)
実施例1の実験終了後に、一連の実験結果に基づく総合判定の結果を確認する目的で、画像呈示時に視差角が可変(vision disparity)な動画像による映像を呈示して、その動画の視聴を被験者に実施して、判定結果の妥当性や的確性、そして判定精度の確認検証を試みた。判定のための画像は65インチ3DTVを2.4m位置に提示し、図10(a)に記載の視標と同等の単純3D図形による視差角プラス1.5度からマイナス2度に、1度につき5秒の視差角で変動させた。またプラス1度に戻るという動きを繰り返す3D動画を作成して、最長60分間連続視聴を行った。被験者による回答方法は自覚判定(アンケートへの回答)のVAS(Vizual Analogue Scale)によるアンケート方法を用いた。VASは疲労感の主観評価として、紙に書かれた10cmの直線状に疲労の程度を記入するものである(図10(c)参照)。回答方法は、直線状に記入された×の位置に応じて0(疲労がない)〜100(疲れ切った状態)に数値化している。被験者には視聴前と、視聴中10分間隔で記入を行ってもらい、被験者のVASスコアが10点以上増加した場合を疲労状態と見なした。なお、被験者のスコアが増加した場合は、その時点で視聴を中止した。
【0121】
<判定結果>
実施例1の結果を、図11(a)〜11(g)に示す。図11(a)〜11(g)は、被験者20名による評価検査項目毎の結果について、レベル別の視能分布を示す分布図である。
【0122】
各評価指標において若干の違いはあるが、何れの指標もレベルIV付近に最も人数が多く分布しており、レベルIに5%、レベルIIに15%、レベルIIIに30%、レベルIVに40%、レベルVに10%の分布があるという結果が得られた。なお、被験者の中に両眼視不可の被験者がいないことを確認した後に実施していること、また実験結果からも確認できることからレベルI相当の被験者はいないと判断した。この結果から、図3に記載の判定表によって被験者の視能が適切に評価されていることが確認できた。
【0123】
実施例2の結果を、図12に示す。図12は、VASのアンケートのスコアが10点以上増加した時点を疲労が顕著に出現したものと判断し、経過時間ごとの出現人数のレベル別分布をみる分布図である。視聴時間10分でVASスコアが視聴前に比べて10点以上増加(疲労が増えたと判断)した人は1名で、その総合得点は33点であったことからレベルIIの被験者であると判定した。視聴時間30分でVASスコアが視聴前に比べ10点以上増加(疲労が増えたと判断)した人は5名で、その総合得点(重み付け後)は46点〜62点であったことからレベルIIIの被験者であると判定した。同様に、視聴時間40分で1名、50分で4名、60分で4名、合計9名の総合得点(重み付け後)は56〜76点であり平均66点であったことから、これらの被験者はレベルIVの被験者であると判定した。1名の被験者は視聴時間60分でも疲労を生じることなく、総合得点(重み付け後)は80点であったことからレベルVの被験者であると判定した。その結果、視能のレベルと自覚疲労が生ずるまでの視聴時間とには関連性が認められた。
【0124】
また、図13(a)にレベルと総合得点(重み付け前)との関係を示す分布図を、図13(b)にレベルと総合得点(重み付け後)との関係を示す分布図を示す。図13(a)の総合得点(重み付け前)では、レベルIIIとレベルIVの総合得点には有意差は顕著ではないが、図13(b)の総合得点(重み付け後)は、図13(a)の重み付け前に比べて有意差が顕著となり、図4に記載の重み付け表により重み付けの効果が表れることが確認された。
【0125】
以上の結果から、次のような知見が得られた。
(1)7つの汎用的な両眼立体視能による立体視能の判定・評価の方法として、各レベルが適切に視能を表していることを確認できた。
(2)視聴時間と複合視能強度判定のための総合得点との関係は、図5の総合判定表における総合得点基準範囲設定が適切であることが検証された。即ち、3D視聴時間の指標に関する視能の評価・判定方法として、総合得点の階層化とレベル別けによる分類方法の有効性が検証された。
(3)7つの判定・評価項目の測定結果に重み付けをした総合視能強度を求め、その結果で両眼立体視能を総合判定する方法の有効性が確認できた。
(4)両眼立体視能強度を両眼視能の限界(閾値)と耐性を基準として、両眼立体視能を層別にレベル別けして段階的にランク付けすることが可能であることが確認できた。
【符号の説明】
【0126】
1・・・両眼視能評価システム、10・・・両眼視能評価装置、110・・・制御部、111・・・情報管理部、112・・・検査処理部、113・・・判定処理部、120・・・記憶部、121・・・被験者情報記憶領域、1210・・・被験者情報、1211・・・被験者ID格納領域、1212・・・検査結果格納領域、1212a・・・視差角格納領域、1212b・・・調節時間格納領域、1212c・・・フリッカー値格納領域、1212d・・・継続時間格納領域、1212e・・・破断強度格納領域、1212f・・・回旋角格納領域、1212g・・・深視力格納領域122・・・検査情報記憶領域、123・・・判定情報記憶領域、1230・・・判定表、1231・・・レベル格納領域、1232・・・基準範囲格納領域、1232a・・・視差角格納領域、1232b・・・調節時間格納領域、1232c・・・フリッカー値格納領域、1232d・・・継続時間格納領域、1232e・・・破断強度格納領域、1232f・・・回旋角格納領域、1241・・・得点表、1242・・・重み係数表、1250・・・総合判定表、1251・・・総合レベル格納領域、1252・・・総合得点基準範囲格納領域、1253・・・指標格納領域、130・・・表示部、140・・・入力部、150・・・I/F部、20・・・検査装置、200・・・判定画面、201・・・検査結果表示領域、202・・・レベル表示領域、203・・・総合レベル表示領域、204・・・メッセージ表示領域。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両眼視能評価のための複数の検査項目に対する利用者の検査結果を収集する検査処理部と、
前記各検査項目に応じた検査結果を、所定の基準範囲から定まる階級にそれぞれ分類し、前記各階級から、前記利用者の両眼視能を評価する判定処理部と、を備えること
を特徴とする両眼視能評価装置。
【請求項2】
請求項1に記載の両眼視能評価装置であって、
前記検査項目は、ステレオテスト、調節時間測定試験、フリッカーテスト、継続時間測定試験、破断強度測定試験、左右眼回旋角測定試験、深視力測定試験から選択されること
を特徴とする両眼視能評価装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の両眼視能評価装置であって、
前記判定処理部は、前記各階級を、階級ごとに定まる所定の得点に換算し、合計することで総合得点を算出すること
を特徴とする両眼視能評価装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の両眼視能評価装置であって、
前記判定処理部は、前記各階級を、階級ごとに定まる所定の得点に換算し、前記各検査項目に応じて定まる所定の重み係数を乗じた積を合計することで総合得点を算出すること
を特徴とする両眼視能評価装置。
【請求項5】
請求項4に記載の両眼視能評価装置であって、
前記検査項目のうち、ステレオテスト及び調節時間測定試験には、他の検査項目よりも大きな重み係数を有していること
を特徴とする両眼視能評価装置。
【請求項6】
請求項1または2に記載の両眼視能評価装置であって、
前記検査項目は、複数のグループに分類され、
前記判定処理部は、前記各階級を、階級ごとに定まる所定の得点に換算して前記グループ毎に合計し、前記各グループに応じて定まる所定の重み係数を乗じた積を合計することで総合得点を算出すること
を特徴とする両眼視能評価装置。
【請求項7】
請求項6に記載の両眼視能評価装置であって、
前記検査項目が、ステレオテスト及び調節時間測定試験からなる第1のグループと、他の検査項目からなる第2のグループと、に分類され、前記第1のグループは、前記第2のグループよりも、大きな重み係数を有していること
を特徴とする両眼視能評価装置。
【請求項8】
請求項3から7の何れか一項に記載の両眼視能評価装置であって、
前記判断処理部は、前記総合得点から前記両眼視能の指標としての総合レベルを判断すること
を特徴とする両眼視能評価装置。
【請求項9】
請求項1から8の何れか一項に記載の両眼視能評価装置であって、
前記基準範囲は、所定の集団に対して行った各検査項目の結果を相対度数に基づいて階級に分けることで設定されていること
を特徴とする両眼視能評価装置。
【請求項10】
コンピュータを、両眼視能の指標を得るための両眼視能評価装置として機能させるプログラムであって、
前記コンピュータに、
両眼視能評価のための複数の検査項目に対する利用者の検査結果を収集する検査処理と、
前記各検査項目に応じた検査結果を、所定の基準範囲から定まる階級にそれぞれ分類し、前記各階級から、前記利用者の両眼視能を評価する判定処理と、を行わせる
ことを特徴とするプログラム。
【請求項11】
両眼視能評価装置が、
両眼視能評価のための複数の検査項目に対する利用者の検査結果を収集するステップと、
前記各検査項目に応じた検査結果を、所定の基準範囲から定まる階級にそれぞれ分類し、前記各階級から、前記利用者の両眼視能を評価するステップと、を行うこと
を特徴とする両眼視能評価方法。
【請求項12】
請求項11に記載の両眼視能評価方法であって、
前記両眼視能評価装置が、
前記各階級を、階級ごとに定まる所定の得点に換算し、合計することで総合得点を算出するステップを、さらに行うこと
を特徴とする両眼視能評価方法。
【請求項13】
請求項11に記載の両眼視能評価方法であって、
前記両眼視能評価装置が、
前記各階級を、階級ごとに定まる所定の得点に換算し、前記各検査項目に応じて定まる所定の重み係数を乗じた積を合計することで総合得点を算出するステップを、さらに行うこと
を特徴とする両眼視能評価方法。
【請求項1】
両眼視能評価のための複数の検査項目に対する利用者の検査結果を収集する検査処理部と、
前記各検査項目に応じた検査結果を、所定の基準範囲から定まる階級にそれぞれ分類し、前記各階級から、前記利用者の両眼視能を評価する判定処理部と、を備えること
を特徴とする両眼視能評価装置。
【請求項2】
請求項1に記載の両眼視能評価装置であって、
前記検査項目は、ステレオテスト、調節時間測定試験、フリッカーテスト、継続時間測定試験、破断強度測定試験、左右眼回旋角測定試験、深視力測定試験から選択されること
を特徴とする両眼視能評価装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の両眼視能評価装置であって、
前記判定処理部は、前記各階級を、階級ごとに定まる所定の得点に換算し、合計することで総合得点を算出すること
を特徴とする両眼視能評価装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の両眼視能評価装置であって、
前記判定処理部は、前記各階級を、階級ごとに定まる所定の得点に換算し、前記各検査項目に応じて定まる所定の重み係数を乗じた積を合計することで総合得点を算出すること
を特徴とする両眼視能評価装置。
【請求項5】
請求項4に記載の両眼視能評価装置であって、
前記検査項目のうち、ステレオテスト及び調節時間測定試験には、他の検査項目よりも大きな重み係数を有していること
を特徴とする両眼視能評価装置。
【請求項6】
請求項1または2に記載の両眼視能評価装置であって、
前記検査項目は、複数のグループに分類され、
前記判定処理部は、前記各階級を、階級ごとに定まる所定の得点に換算して前記グループ毎に合計し、前記各グループに応じて定まる所定の重み係数を乗じた積を合計することで総合得点を算出すること
を特徴とする両眼視能評価装置。
【請求項7】
請求項6に記載の両眼視能評価装置であって、
前記検査項目が、ステレオテスト及び調節時間測定試験からなる第1のグループと、他の検査項目からなる第2のグループと、に分類され、前記第1のグループは、前記第2のグループよりも、大きな重み係数を有していること
を特徴とする両眼視能評価装置。
【請求項8】
請求項3から7の何れか一項に記載の両眼視能評価装置であって、
前記判断処理部は、前記総合得点から前記両眼視能の指標としての総合レベルを判断すること
を特徴とする両眼視能評価装置。
【請求項9】
請求項1から8の何れか一項に記載の両眼視能評価装置であって、
前記基準範囲は、所定の集団に対して行った各検査項目の結果を相対度数に基づいて階級に分けることで設定されていること
を特徴とする両眼視能評価装置。
【請求項10】
コンピュータを、両眼視能の指標を得るための両眼視能評価装置として機能させるプログラムであって、
前記コンピュータに、
両眼視能評価のための複数の検査項目に対する利用者の検査結果を収集する検査処理と、
前記各検査項目に応じた検査結果を、所定の基準範囲から定まる階級にそれぞれ分類し、前記各階級から、前記利用者の両眼視能を評価する判定処理と、を行わせる
ことを特徴とするプログラム。
【請求項11】
両眼視能評価装置が、
両眼視能評価のための複数の検査項目に対する利用者の検査結果を収集するステップと、
前記各検査項目に応じた検査結果を、所定の基準範囲から定まる階級にそれぞれ分類し、前記各階級から、前記利用者の両眼視能を評価するステップと、を行うこと
を特徴とする両眼視能評価方法。
【請求項12】
請求項11に記載の両眼視能評価方法であって、
前記両眼視能評価装置が、
前記各階級を、階級ごとに定まる所定の得点に換算し、合計することで総合得点を算出するステップを、さらに行うこと
を特徴とする両眼視能評価方法。
【請求項13】
請求項11に記載の両眼視能評価方法であって、
前記両眼視能評価装置が、
前記各階級を、階級ごとに定まる所定の得点に換算し、前記各検査項目に応じて定まる所定の重み係数を乗じた積を合計することで総合得点を算出するステップを、さらに行うこと
を特徴とする両眼視能評価方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−63246(P2013−63246A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−76263(P2012−76263)
【出願日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】
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