説明

両親媒性金属ポルフィリン錯体、及びそれを用いた医薬組成物

【課題】強力な抗酸化作用を有し、且つ脳組織に親和性を有する新規な金属ポルフィリン錯体、及び該錯体を含有する医薬組成物の提供。
【解決手段】次の一般式(1)


(式中、MはMnなどの金属原子を示し、Ar1ないしAr4はそれぞれ独立して置換基を有してもよい炭素環式又は複素環式芳香族基を示し、Ar1ないしAr4のうちの2個はピリジル基などのカチオン性の親水性基であり、残りの2個はフェニル基などの親油性基である。)で表される金属ポルフィリン錯体、並びに該錯体を含有する医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性の基と親油性の基を有する両親媒性金属ポルフィリン錯体、及びそれを用いた医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの重要な高次機能を司る脳は、全身の酸素消費量の約20%を消費しており、酸素消費量の最も多い組織である。脳においても他の組織と同様に酸素消費に伴う活性酸素が発生している。活性酸素の約90%は細胞内のミトコンドリアで発生しており、ミトコンドリアでのエネルギー代謝に伴う酸素消費量の約2〜4%が活性酸素となっているとされている。一方、脳の細胞は、細胞膜成分として多量の多価不飽和脂防酸を含有しており、また脳内にはカテコールアミンなどの酸化に弱い脳内物質が多数存在しており、活性酸素などのフリーラジカルに脆弱であるとされている。このために、脳における活性酸素は主に細胞障害をもたらす因子とされ、パーキンソン病、アルツハイマー症、遅発性ジスキネジア、セロイドリポフステン蓄積症、ダウン症候群などをはじめ、脳卒中や脳梗塞、運動神経疾患などの多くの神経疾患が、活性酸素による細胞障害に関連しているとされてきている。
このように脳の細胞は活性酸素に脆弱であるとされているにもかかわらず、脳の細胞は酸素消費が著しく高く、多量の活性酸素の発生にさらされている。しかし、脳には発生した活性酸素を除去する制御機能が備わっており、脳の細胞が活性酸素による障害を受けないようになっている。例えば、活性酸素の1種であるスーパーオキシド(O・)は、スーパーオキシドジスミターゼ(SOD)を多量に含有している脳ホモジネートの添加により、用量依存的に消去されることが報告されている。このように脳内では、脳内の抗酸化機構により速やかに消去され、活性酸素による脳細胞の細胞障害を防御している。しかし、脳内の活性酸素と抗酸化機構とのバランスがひとたび崩壊すれば、脳の細胞は重篤な酸化ストレスにさらされることになり、重篤な中枢神経疾患が発症することになる。
例えば、一過性の脳虚血が発生した場合には、虚血に伴うエネルギー代謝障害による脳細胞の壊死が起こるだけでなく、虚血再灌流後においても虚血に伴う酸化ストレスにより神経細胞が死滅する遅発性神経細胞死(DND)が発生する。これは、虚血部位での活性酸素と抗酸化機構とのバランスが虚血により崩壊し、虚血再灌流後に重篤な酸化ストレスにさらされることになった脳の細胞が、活性酸素による細胞障害に耐えきれず、神経細胞障害を起こすためであると考えられている。
【0003】
また、一酸化窒素(NO)は、L−アルギニンからNO合成酵素(NOS)により生成される半減期の極めて短いフリーラジカルである。脳の神経細胞には、神経細胞に特有のNOSがあり、グルタミン酸レセプターの興奮によりNOSが活性化され、大量の一酸化窒素(NO)が発生する。脳内における一酸化窒素(NO)は、細胞保護作用や神経情報伝達の補助作用を有しているが、反面、神経細胞障害作用も有している。一酸化窒素(NO)による神経細胞障害は、一酸化窒素(NO)が活性酸素の1種であるスーパーオキシド(O・)と反応して、パーオキシナイトライト(ONOO)を生成し、これがヒドロキシラジカル(HO・)を発生させ、これらが細胞膜成分の不飽和脂防酸に作用して脂質過酸化反応により神経細胞死を誘導すると考えられている。
このように脳の細胞は活性酸素に脆弱であるにもかかわらず、脳の細胞は大量の酸素を消費し、多量の活性酸素を発生しているのであるが、脳内の抗酸化機構により活性酸素による細胞障害を防御している。しかし、虚血などにより、ひとたび脳内の抗酸化機構が障害を受けると、虚血後に再灌流が始まったとしても、脳内の活性酸素と抗酸化機構とのバランスが崩れ、重篤な神経細胞障害が発生する。従って、脳内の活性酸素などのフリーラジカルを標的とした抗酸化剤は、脳酸化障害を抑制する有効な治療法になると考えられている。
【0004】
一方、ポルフィリンは、4個のピロール核が4個のメチレン基で結合した環状テトラピロール構造(ポルフィン)の誘導体であり、多くの金属元素と金属錯体を形成する。鉄ポルフィリンはヘムと称されて、ヘモグロビンなどの構成要素となっている。ポリフィリンは光増感作用を有し、光記録装置や光による造影装置などにも応用されている。
本発明者らは、既に、金属ポルフィリン錯体がSOD活性と、パーオキシナイトライト(ONOO)消去活性を有し、優れた抗酸化剤になりうることを報告してきた(特許文献1参照)。また、これらをカタラーゼと複合体にしたもの(特許文献2参照)、これをリポソームに包埋したもの(特許文献3参照)、ヘモグロビンをPEGで修飾したもの(特許文献4参照)なども報告してきた。さらに、ポルフィリンに4個のピリジン骨格が結合した誘導体(特許文献5参照)、4個のイミダゾール骨格やベンゼン骨格が結合した誘導体(特許文献6及び7参照)が抗酸化作用を有していることも報告されている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−247978号公報
【特許文献2】特開2007−75058号公報
【特許文献3】特開2005−41869号公報
【特許文献4】特開2005−27512号公報
【特許文献5】特表2006−501163号公報
【特許文献6】特表2004−520380号公報
【特許文献7】特表平11−509180号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、強力な抗酸化作用を有し、且つ脳組織に親和性を有する新規な金属ポルフィリン錯体、及びそれを用いた医薬組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、脳においてより効果的なフリーラジカル消去剤を開発するために、フリーラジカルの発生源となるスーパーオキシド(O・)を消去し、かつ脳構成要素から放出されるNOとスーパーオキシド(O・)との迅速な反応により形成されるパーオキシナイトライト(ONOO)をも消去可能である抗酸化能を有する抗酸化剤の開発を検討してきた。従来の開発は抗酸化能の大きな物質を探索するということであったが、本発明者らは、さらに発想を転換して、生体内における抗酸化能の発現という観点から、脂質の豊富な脳内へ効率的に移行し、酸化に対して脆弱な部位において抗酸化作用を発現することができる抗酸化剤の開発を検討することにした。即ち、脂質の豊富な脳組織、特に不飽和脂肪酸に親和性を有し、かつ細胞内において優れた抗酸化能を発現できる物質を探索してきた。その結果、親水性の基と親油性の基を同時に有する両親媒性の金属ポルフィリン錯体が、脂質親和性に優れていると同時に、細胞におけるスーパーオキシド(O・)及びパーオキシナイトライト(ONOO)に対して極めて優れた抗酸化作用を有し、脂質親和性が高く脳内へ効率的な移行が可能であることから、これらの両親媒性の金属ポルフィリン錯体が優れた脳酸化障害の抑制作用を有することを見出した。
【0008】
即ち、本発明は、次の一般式(1)
【0009】
【化3】

【0010】
(式中、Mは錯体を形成するための金属原子を示し、Ar、Ar、Ar、及び、Arはそれぞれ独立して置換基を有してもよい炭素環式又は複素環式芳香族基を示し、Ar、Ar、Ar、及び、Arのうちの2個はカチオン性の親水性の基であり、残りの2個は親油性の基である。)
で表される親水性の基と親油性の基を有する両親媒性金属ポルフィリン錯体に関する。
また、本発明は、前記一般式(1)で表される親水性の基と親油性の基を有する両親媒性金属ポルフィリン錯体の少なくとも1種、及び製薬上許容される担体を含有してなる医薬組成物に関する。
さらに、本発明は、前記一般式(1)で表される親水性の基と親油性の基を有する両親媒性金属ポルフィリン錯体の少なくとも1種の有効量を患者に投与してなる、脳の細胞の酸化障害による疾患の予防又は治療する方法に関する。また、本発明は、脳の細胞の酸化障害による疾患の予防又は治療用の医薬組成物を製造するための、前記一般式(1)で表される親水性の基と親油性の基を有する両親媒性金属ポルフィリン錯体の使用(use)に関する。
本発明をより詳細に説明すれば以下のとおりとなる。
(1) 次の一般式(1)
【0011】
【化4】

【0012】
(式中、Mは錯体を形成するための金属原子を示し、Ar、Ar、Ar、及び、Arはそれぞれ独立して置換基を有してもよい炭素環式又は複素環式芳香族基を示し、Ar、Ar、Ar、及び、Arのうちの2個はカチオン性の親水性の基であり、残りの2個は親油性の基である。)
で表される親水性の基と親油性の基を有する両親媒性金属ポルフィリン錯体。
(2)前記一般式(1)におけるAr、Ar、Ar、及び、Arのうちの2個が、N−低級アルキル−ピリジニウム基からなるカチオン性の親水性の基であり、残りの2個が置換基を有してもよいフェニル基からなる親油性の基である前記(1)に記載の両親媒性金属ポルフィリン錯体。
(3)前記一般式(1)で表されるカチオン性金属ポルフィリン錯体が、次の一般式(2)、
【0013】
【化5】

【0014】
(式中、Mは錯体を形成するための金属原子を示し、R及びRはそれぞれ独立して炭素数1〜20のアルキル基を示し、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、又は炭素数1〜20のアルコキシ基を示す。)
で表される両親媒性金属ポルフィリン錯体である前記(1)に記載の両親媒性金属ポルフィリン錯体。
(4)前記一般式(1)におけるAr及びArが、N−低級アルキル−ピリジニウム−4−イル基からなるカチオン性の親水性の基であり、Ar及びArが、フェニル基からなる親油性の基である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の両親媒性金属ポルフィリン錯体。
(5)N−低級アルキル−ピリジニウム−4−イル基が、N−メチル−4−ピリジニウム基である前記(4)に記載の両親媒性金属ポルフィリン錯体。
(6)前記一般式(1)又は(2)におけるMが、鉄原子、銅原子又はマンガン原子である前記(1)〜(5)のいずれかに記載の両親媒性金属ポルフィリン錯体。
(7)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の両親媒性金属ポルフィリン錯体の少なくとも1種、及び製薬上許容される担体を含有してなる医薬組成物。
(8)医薬組成物が、脳の細胞の酸化障害による疾患の予防又は治療用である前記(7)に記載の医薬組成物。
(9)脳の細胞の酸化障害が、スーパーオキシド(O・)及び/又はパーオキシナイトライト(ONOO)に起因するものである前記(8)に記載の医薬組成物。
(10)脳の細胞の酸化障害が、脳虚血再灌流後における酸化障害である前記(8)又は(9)に記載の医薬組成物。
(11)前記一般式(1)で表される親水性の基と親油性の基を有する両親媒性金属ポルフィリン錯体の少なくとも1種の有効量を患者に投与してなる、脳の細胞の酸化障害による疾患の予防又は治療する方法。
(12)脳の細胞の酸化障害が、スーパーオキシド(O・)及び/又はパーオキシナイトライト(ONOO)に起因するものである前記(11)に記載の方法。
(13)脳の細胞の酸化障害が、脳虚血再灌流後における酸化障害である前記(11)又は(12)に記載の方法。
(14)脳の細胞の酸化障害による疾患の予防又は治療用の医薬組成物を製造するための、前記一般式(1)で表される親水性の基と親油性の基を有する両親媒性金属ポルフィリン錯体の使用(use)。
(15)脳の細胞の酸化障害が、スーパーオキシド(O・)及び/又はパーオキシナイトライト(ONOO)に起因するものである前記(14)に記載の使用(use)。
(16)脳の細胞の酸化障害が、脳虚血再灌流後における酸化障害である前記(14)又は(15)に記載の使用(use)。
【0015】
本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体は、ポルフィン骨格に4個の芳香族基を有するものであり、かつ、4個の芳香族基のうちの2個がカチオン性の親水性の基であり、残りの2個は親油性の基であることを特徴とするものである。4個の芳香族基は、それぞれ独立して、炭素環式のものであっても複素環式のものであってもよく、単環式のもでも多環式のものであってもよい。芳香族基としては、炭素環式のものとしては炭素数6〜30、好ましくは6〜18、6〜12の単環式、多環式、又は縮合環式の炭素環式芳香族基が挙げられ、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環などから誘導される基が挙げられる。複素環式のものとしては、1個又は2個以上の窒素原子、酸素原子又は硫黄原子を有する5〜10員の単環式、多環式又は縮合環式の複素環式芳香族基が挙げられ、例えば、ピリジン環、ピリミジン環、イミダゾール環などのアゾール環などから誘導される基が挙げられる。好ましい芳香族基としては、フェニル基、2−ピリジル基、3−ピリジル基、4−ピリジル基、イミダゾリル基、4−イミダゾリル基などが挙げられる。
【0016】
これらの芳香族基は抗酸化作用や脳に対する親和性に悪影響を与えない置換基を有していてもよい。芳香族基における置換基としては、炭素数1〜20、好ましくは1〜10、1〜5の直鎖又は分枝状の低級アルキル基、アミノ基、水酸基、ハロゲン原子、前記した低級アルキル基で置換されているアミノ基、前記した低級アルキル基からなる低級アルコキシ基などが挙げられる。
【0017】
前記一般式(1)におけるカチオン性の親水性の基である芳香族基としては、置換基としてアンモニウム基やスルホニウム基などのカチオン性の基を有する芳香族基又は複素環式芳香族基を形成する異種原子としての窒素原子や硫黄原子がアルキル化されてカチオン性になっている複素環式芳香族基が挙げられる。好ましくは複素環式芳香族基を形成する異種原子としての窒素原子がアルキル化されて第四級アンモニウム基を形成しているカチオン性の複素環式芳香族基が挙げられる。このような複素環式芳香族基としては、ピリジル基、イミダゾリル基などが挙げられる。本発明のカチオン性の親水性の基である芳香族基の例としては、例えば、4−N,N,N−トリメチルアンモニウム−フェニル基、4−N,N,N−トリエチルアンモニウム−フェニル基などの4−N,N,N−トリ低級アルキルアンモニウム−フェニル基;N,N’−ジメチル−イミダゾリニウム基、N,N’−ジエチル−イミダゾリニウム基;N−メチル−4−ピリジニウム基、N−エチル−4−ピリジニウム基、N−メチル−3−ピリジニウム基、N−エチル−3−ピリジニウム基、N−メチル−2−ピリジニウム基、N−エチル−2−ピリジニウム基などのN−低級アルキル−ピリジニウム基などが挙げられる。
【0018】
前記一般式(1)における親油性の基である芳香族基としては、脳の細胞の細胞膜成分として多量に存在している不飽和脂防酸に親和性を有する芳香族基であれば特に制限はない。好ましい親油性の基である芳香族基としては、芳香族炭化水素基が挙げられる。好ましい親油性の基である芳香族基としては、炭素数6〜30、好ましくは6〜18、6〜12の単環式、多環式、又は縮合環式の炭素環式芳香族基、及びこれらの炭素環式芳香族基に炭素数1〜20、好ましくは1〜10、1〜5の直鎖又は分枝状の低級アルキル基、前記した低級アルキル基からなる低級アルコキシ基などの置換基が置換した、置換炭素環式芳香族基が挙げられる。具体的には、例えば、フェニル基、4−トリル基、4−エチルフェニル基等が挙げられる。
【0019】
前記した一般式(1)で表される両親媒性金属ポルフィリン錯体は、ポルフィリン骨格に2個の親水性の芳香族基と2個の親油性の芳香族基を有していることを特徴とするものであり、これにより両親媒性となり、抗酸化作用と同時に脳の細胞に対する親和性を有することになる。2個の親水性の芳香族基は、前記した一般式(1)におけるAr、Ar、Ar、及び、Arのうちのいずれの位置であってもよいが、好ましい位置としては、Ar及びArの位置が挙げられる。
したがって、本発明における好ましい一般式(1)で表される両親媒性金属ポルフィリン錯体としては、次の一般式(2)、
【0020】
【化6】

【0021】
(式中、Mは錯体を形成するための金属原子を示し、R及びRはそれぞれ独立して炭素数1〜20のアルキル基を示し、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、又は炭素数1〜20のアルコキシ基を示す。)
で表される両親媒性金属ポルフィリン錯体が挙げられる。さらに、好ましい一般式(1)で表される両親媒性金属ポルフィリン錯体としては、次の一般式(3)、
【0022】
【化7】

【0023】
(式中、Mは錯体を形成するための金属原子を示し、R及びRはそれぞれ独立して炭素数1〜20のアルキル基を示し、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、又は炭素数1〜20のアルコキシ基を示す。)
で表される両親媒性金属ポルフィリン錯体が挙げられる。
前記した一般式(2)及び(3)における好ましいR及びRとしては、メチル基、エチル基などの炭素数1〜20、好ましくは1〜10、1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基が挙げられる。前記した一般式(2)及び(3)における好ましいR及びRとしては、水素原子、又はメチル基、エチル基などの炭素数1〜20、好ましくは1〜10、1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基が挙げられる。
【0024】
本発明の前記してきた一般式(1)、一般式(2)、又は一般式(3)で表される両親媒性金属ポルフィリン錯体の例としては、例えば、金属−5,10−ビス(N−メチル−4−ピリジル)−15,20−ジフェニルポルフィリン(金属−MPyPと表記することがある。)、金属−5,10−ビス(N−メチル−3−ピリジル)−15,20−ジフェニルポルフィリン、金属−5,10−ビス(N−メチル−2−ピリジル)−15,20−ジフェニルポルフィリン;金属−5,10−ビス(N−エチル−4−ピリジル)−15,20−ジフェニルポルフィリン、金属−5,10−ビス(N−エチル−3−ピリジル)−15,20−ジフェニルポルフィリン、金属−5,10−ビス(N−エチル−2−ピリジル)−15,20−ジフェニルポルフィリン;金属−5,15−ビス(N−メチル−4−ピリジル)−10,20−ジフェニルポルフィリン、金属−5,15−ビス(N−メチル−3−ピリジル)−10,20−ジフェニルポルフィリン、金属−5,15−ビス(N−メチル−2−ピリジル)−10,20−ジフェニルポルフィリン;金属−5,15−ビス(N−エチル−4−ピリジル)−10,20−ジフェニルポルフィリン、金属−5,15−ビス(N−エチル−3−ピリジル)−10,20−ジフェニルポルフィリン、金属−5,15−ビス(N−エチル−2−ピリジル)−10,20−ジフェニルポルフィリン;金属−5,10−ビス(N,N’−ジメチル−イミダゾリル)−15,20−ジフェニルポルフィリン、金属−5,10−ビス(N,N’−ジエチル−イミダゾリル)−15,20−ジフェニルポルフィリン;金属−5,15−ビス(N,N’−ジメチル−イミダゾリル)−10,20−ジフェニルポルフィリン、金属−5,15−ビス(N,N’−ジエチル−イミダゾリル)−10,20−ジフェニルポルフィリン;金属−5,10−ビス(N,N’−ジメチル−イミダゾール−4−イル)−15,20−ジフェニルポルフィリン、金属−5,10−ビス(N,N’−ジエチル−イミダゾール−4−イル)−15,20−ジフェニルポルフィリン;金属−5,15−ビス(N,N’−ジメチル−イミダゾール−4−イル)−10,20−ジフェニルポルフィリン、金属−5,15−ビス(N,N’−ジエチル−イミダゾール−4−イル)−10,20−ジフェニルポルフィリンなどが挙げられる。
【0025】
本発明の前記してきた一般式(1)、一般式(2)、又は一般式(3)で表される両親媒性金属ポルフィリン錯体における中心金属Mとしては、抗酸化作用と同時に脳の細胞に対する親和性を示すものであれば特に制限はなく、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、イリジウム(Ir)等が挙げられるが、このなかでも鉄原子(Fe)、銅原子(Cu)又はマンガン原子(Mn)などが好ましく、マンガン原子(Mn)がさらに好ましい。
したがって、本発明の前記してきた一般式(1)、一般式(2)、又は一般式(3)で表される両親媒性金属ポルフィリン錯体の例としては、前記した金属ポルフィリン錯体の金属部分がマンガンになっている錯体、例えば、マンガン−5,10−ビス(N−メチル−4−ピリジル)−15,20−ジフェニルポルフィリン(Mn−MPyPと表記することがある。)、マンガン−5,10−ビス(N−エチル−4−ピリジル)−15,20−ジフェニルポルフィリン、マンガン−5,15−ビス(N−メチル−4−ピリジル)−10,20−ジフェニルポルフィリン、マンガン−5,15−ビス(N−エチル−4−ピリジル)−10,20−ジフェニルポルフィリンなどが挙げられる。
【0026】
本発明の前記してきた一般式(1)、一般式(2)、又は一般式(3)で表される両親媒性金属ポルフィリン錯体は、例えば、K. Kalyanasundaram, Inorg. Chem., 23, 2453(1984)、 A. D. Adler et al., J. Inorg. Nucl. Chem., 32, 2443(1970)、 T, Yonetani et al., J. Biol. Chem., 245, 2988(1970)、 P. Hambright, Inorg. Chem., 15, 2314(1976)等に記載の方法に準じて製造することができる。例えば、ピロールと芳香族アルデヒドとを反応させてポリフィリン環部分を製造することができる。しかし、4個の芳香族基が同一の基である従来のポルフィリンでは、原料となる芳香族アルデヒドが1種類であり、単一のポルフィリンを製造することができるが、本発明のポルフィリンでは、2種又は2種以上の芳香族基を有することになるので、原料となる芳香族アルデヒドが2種又は2種以上となり、生成物は混合物となる。この方法で得られた混合物をカラムクロマトグラフィーなどの分離手段により、分離することにより、目的の本発明のポルフィリンを得ることができる。
このようにして製造された目的のポルフィリンを、ハロゲン化低級アルキルや低級アルキルトシレートなどのアルキル化剤でカチオン化し、次いで金属又は金属化合物、例えば金属ハロゲン化物、金属酢酸塩などを用いて金属錯体とする方法により、本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体を製造することができる。
代表的な製造方法の具体的な例を、Mn−MPyPの製造方法として次の化学反応式で示す。
【0027】
【化8】

【0028】
次に、本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体の種々の特性を測定した。
これらの試験においては、本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体の例としてMn−MPyPを用い、比較としてMn−MPyP(マンガン−5,10,15,20−テトラキス(N−メチル−4−ピリジル)−ポルフィリン)を用いた。これらの試験に用いたcis−Mn−MPyPの化学構造を次に示しておく。
【0029】
【化9】

【0030】
また、比較として用いたMn−MPyPの化学構造を次に示しておく。
【0031】
【化10】

【0032】
これらの錯体のスーパーオキシド(O・)消失活性(SOD活性)を、オオセらの方法(T.Ohse, et al., Porphyrins, 6, 137 (1997))に準じたストップトフロー法により評価した。試験物質のHEPES/HEPES・Na緩衝液(pH8.1)と、スーパーオキシド(O・)の発生剤としてKOのDMSO(ジメチルスルホキサイド)溶液とを37℃で反応させ、スーパーオキシド(O・)の極大吸収波長である245nmの吸光度の減衰から、スーパーオキシド(O・)の消失の二次反応速度定数を算出した。結果を次の表1に示す。
【0033】
表1 スーパーオキシド(O・)の消失の二次反応速度定数
試験物質 二次反応速度定数(M−1・s−1
Mn−MPyP 5.6 × 10
Mn−MPyP 11 × 10
【0034】
次に、同様のストップトフロー法によりパーオキシナイトライト(ONOO)消去活性を試験した。試験物質のPBS緩衝液(pH7.4)と、亜硝酸を用いて発生させたパーオキシナイトライト(ONOO)の水溶液とを、アスコルビン酸の存在下又は不存在下で37℃で反応させて、パーオキシナイトライト(ONOO)の極大吸収波長である302nmにおける1670M−1cm−1との比較により、パーオキシナイトライト(ONOO)の消去速度定数を決定した。結果を次の表2に示す。
【0035】
表2 パーオキシナイトライト(ONOO)の消去速度定数
試験物質 アスコルビン酸 消去速度定数(M−1・s−1
Mn−MPyP 不存在下 5.2 × 10
存在下 2.0 × 10
Mn−MPyP 不存在下 2.8 × 10
存在下 1.8 × 10
【0036】
これらのストップトフロー方法による抗酸化能評価の結果、本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体であるMnMPyPは、SOD活性、及びONOO消去活性を有していることが明らかとなった(前記した表1及び表2参照)。そのONOO消去活性は、Mn(IV)からMn(III)へ還元される速度が律速となり必ずしも高いものではなかったが、アスヒコルビン酸の存在下では、その還元効果により消去活性は50倍以上に増大した。脳内ではアスコルビン酸濃度が高く、脳内でのインビボ(in vivo)の評価では本発明のMnMPyPの高いフリーラジカル消去能が期待できることが明らかになった。
【0037】
次に、本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体の脂質親和性(疎水性)についての評価を、オクタノール/水二相溶媒系における分配係数Pow及びその対数のlog Pow値を決定した。この値はshake flask法により測定した値から算出した。結果を次の表3に示す。
【0038】
表3 脂質親和性(疎水性)の評価
試験物質 分配係数 log Pow
Mn−MPyP −1.24
Mn−MPyP N.D.(検出不能)
【0039】
このように、本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体は、親油性の基が導入されており、オクタノールへの分配が明らかとなったが、親油性の基を有していない従来のMn−MPyPではオクタノールへの分配を検出することができなかった。したがって、本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体は、前記してきたようにSOD活性、及びONOO消去活性を共に有している(前記した表1及び表2参照)だけでなく、脂質親和性(疎水性)をも同時に有していることが明らかになった。
さらに、本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体の脂質親和性(疎水性)により、これらが細胞に取り込まれるか否かをPC12細胞(ラット副腎髄質クロム親和性細胞(NGFの存在下で長い神経線維を伸ばし交感神経節細胞様に分化する))を用いて評価した。細胞膜内への取り込み量の評価は、PC12細胞を用いて、各種Mnポルフィリン錯体を添加し、37℃にて24時間インキュベートし、原子吸光スペクトル測定により細胞内への取り込み量を定量することにより行った。
この結果を図1に示す。図1の横軸は取り込み量(fモル/細胞)を示し、縦軸の上段は従来のポルフィリン錯体であるMn−MPyPの結果を示し、下段は本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体であるMn−MPyPの結果を示す。*印は、p<0.05で有意差が有ったことを示している。この結果は、前記したオクタノールへの分配(前記表3参照)の結果を反映するものであり、親油性の基を有していない従来のMn−MPyPでは細胞への取り込み量が約1.25fモル/細胞であったが、本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体であるMn−MPyPでは約2.15fモル/細胞となり、細胞への取り込み量は約1.72倍増大した。
【0040】
次に、PC12細胞を用いた本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体であるMn−MPyPのスーパーオキシド(O・)障害からの保護作用を検討した。PC12細胞をNGFにより神経様細胞へ分化させた後、パラコート(Methyl viologen dichloride hydrate)を用いてPC12細胞を刺激し、細胞内にスーパーオキシド(O・)を生成させて障害を引き起こした後、それぞれの細胞の生存率(%)を測定した。対照として金属ポルフィリン錯体が不存在の細胞を用いた。
結果を図2に示す。図2の縦軸は細胞の生存率(%)を示し、横軸は左側から金属ポルフィリン錯体不存在の対照群(O・damage)、従来のポルフィリン錯体であるMn−MPyPの存在群(MnMPyP)、本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体であるMn−MPyPの存在群(cis−MnMPyP)を示す。図2の*印は、p<0.005又はp<0.00001で有意差が有ったことを示す。
このように対照群では生存率が約47%程度であったが、従来のポルフィリン錯体であるMn−MPyPの存在群では約62%となった。これはMn−MPyPの有しているSOD活性により細胞内に発生したスーパーオキシド(O・)が消去されたためと考えられる。これに対して、本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体であるMn−MPyPの存在群での生存率は約97%程度にまで増加している。前記の試験においては本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体であるMn−MPyPのSOD活性は、従来のポルフィリン錯体であるMn−MPyPに比べて弱かったのであるが(表1参照)、細胞内においては従来のポルフィリン錯体であるMn−MPyPに比較して極めて優れたSOD活性を示す結果となっている。この結果は、単にポルフィリン錯体自体が有するSOD活性の優劣だけでは説明することができず、本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体が有している脂質親和性が細胞内でのSOD活性において極めて重大な寄与をしていることが明らかにされている。即ち、この結果は、細胞内でのSOD活性は、ポルフィリン錯体自体が有するSOD活性だけではなく、当該金属ポルフィリン錯体の細胞内への取り込み量が大きいこと(図1参照)が極めて重要であることを示している。
【0041】
さらに、ヒトグリア芽腫細胞株(A172細胞)を用いて、パーオキシナイトライト(ONOO)障害からの保護作用を検討した。細胞刺激因子としてSIN−1(3-(4-Morpholinyl)sydnonimine, hydrochloride)を用いてA172細胞を刺激し、細胞内にパーオキシナイトライト(ONOO)を生成させて細胞障害を引き起こした後、それぞれの細胞の生存率(%)を測定した。対照として金属ポルフィリン錯体が不存在の細胞を用いた。
結果を図3に示す。図3の縦軸は細胞の生存率(%)を示し、横軸は左側から金属ポルフィリン錯体不存在の対照群(ONOO・damage)、従来のポルフィリン錯体であるMn−MPyPの存在群(MnMPyP)、本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体であるMn−MPyPの存在群(cis−MnMPyP)を示す。図3の*印は、p<0.01で有意差が有ったことを示す。
このように対照群では生存率が約20%程度であったが、従来のポルフィリン錯体であるMn−MPyPの存在群では約24%となった。これはMn−MPyPの有しているパーオキシナイトライト(ONOO)消去活性により細胞内に発生したパーオキシナイトライト(ONOO)が消去されたためと考えられる。これに対して、本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体であるMn−MPyPの存在群での生存率は約38%程度にまで増加している。前記の試験においては本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体であるMn−MPyPのパーオキシナイトライト(ONOO)消去活性は、従来のポルフィリン錯体であるMn−MPyPと同程度であるが(表2参照)、細胞内においては従来のポルフィリン錯体であるMn−MPyPに比較して極めて優れたパーオキシナイトライト(ONOO)消去活性を示す結果となっている。この結果は、前記した細胞内でのSOD活性の場合と同様に、金属ポルフィリン錯体が有している脂質親和性が細胞内での活性において極めて重大な寄与をしており、細胞内でのパーオキシナイトライト(ONOO)消去活性においても、当該金属ポルフィリン錯体の細胞内への取り込み量が大きいこと(図1参照)が極めて重要であることを示している。
【0042】
細胞内でのパーオキシナイトライト(ONOO)の発生は、これがヒドロキシラジカル(HO・)を発生させ、これらが細胞膜成分の不飽和脂防酸に作用して脂質過酸化反応が起こり、細胞膜成分の不飽和脂防酸が酸化されて神経細胞死を誘導すると考えられている。そこで、前記の試験におけるA172細胞の細胞死が細胞膜成分の不飽和脂防酸の脂質過酸化であることを確認するために、チオバルビツール法(TBA法)により過酸化脂質の量を測定した。n−ブタノールで抽出された有機層の535nmでの吸光度の測定値から相対脂質過酸化率(%)を算出した。相対脂質過酸化率(%)は金属ポルフィリン錯体不存在の障害群(ONOO・障害)を100%としている。
結果を図4に示す。図4の縦軸は相対脂質過酸化率(%)を示し、横軸は左側から、パーオキシナイトライト(ONOO)障害が生起されていない細胞群(コントロール)、金属ポルフィリン錯体不存在の障害群(ONOO・障害)、従来のポルフィリン錯体であるMn−MPyPの存在群(MnMPyP)、本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体であるMn−MPyPの存在群(cis−MnMPyP)を示す。図4の*印は、p<0.0001で有意差が有ったことを示す。
このように従来のポルフィリン錯体であるMn−MPyPの存在群では約80%に減少しているが、本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体であるMn−MPyPの存在群では、約10%程度にまで減少している。そして、この値は、パーオキシナイトライト(ONOO)障害が生起されていない細胞群(コントロール群)とほぼ同じ値となっている。即ち、細胞内に過剰のパーオキシナイトライト(ONOO)が発生したとしても、本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体が存在していれば、細胞膜成分の不飽和脂防酸にの脂質過酸化反応は、通常の正常な状態にまで抑制することができることを示している。そして、この結果は、本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体自体のパーオキシナイトライト(ONOO)消去活性だけでなく、本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体が有している脂質親和性が細胞内での活性においても極めて重大な寄与をしており、特に細胞膜成分である不飽和脂防酸との親和性が大きく、細胞膜成分の不飽和脂防酸の脂質過酸化反応を劇的に抑制することができることを明らかにしている。
【0043】
また、一過性の脳虚血が発生した場合には、虚血再灌流後においても虚血に伴う酸化ストレス(低酸素傷害)により神経細胞が死滅することが知られている。そこで、本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体によるA172細胞を用いた低酸素傷害からの保護作用を検討した。アクチノマイシンA(Antimaycin A)を用いて細胞のミトコンドリアの電子伝達系を阻害し、細胞に低酸素障害を引き起こした後、アクチノマイシンAを除去して、一過性の低酸素障害を引き起こした。その後のそれぞれの細胞の生存率(%)を測定した。対照として金属ポルフィリン錯体が不存在の細胞を用いた。
結果を図5に示す。図5の縦軸は細胞の生存率(%)を示し、横軸は左側から金属ポルフィリン錯体不存在の対照群(Antimaycin A・damage)、従来のポルフィリン錯体であるMn−MPyPの存在群(MnMPyP)、本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体であるMn−MPyPの存在群(cis−MnMPyP)を示す。図5の*印は、p<0.01で有意差が有ったことを示す。
このように対照群では生存率が約62%程度であったが、従来のポルフィリン錯体であるMn−MPyPの存在群では約70%となった。これはMn−MPyPの有している抗酸化作用によるものと考えられる。これに対して、本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体であるMn−MPyPの存在群での生存率は約85%程度にまで増加している。この結果も、前記の試験と同様に、本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体が有している脂質親和性が細胞内での活性において極めて重大な寄与をしているためであると考えられる。そして、この結果は、本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体が、一過性の脳虚血による酸化ストレス(低酸素傷害)に対して極めて有効な保護作用を有していることを示している。
【0044】
以上のように、本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体は、SOD活性、ONOO消去活性を有するだけでなく、同時に脂質に対する親和性を有し、細胞内に容易に取り込まれるだけでなく、細胞において従来の金属ポルフィリン錯体に比べて予想外に顕著なSOD活性、及びONOO消去活性を示すだけでなく、脂質に対する親和性が大きいことから、脳の細胞に多量に存在する細胞膜成分の不飽和脂防酸に対する脂質過酸化反応を顕著に抑制して脳の細胞の細胞死を防止することができ、また、一過性の脳虚血における酸化ストレス(低酸素傷害)に対して極めて有効な保護作用を有するものである。
このように、本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体は、脳内ROS(reactive oxygen species:活性酸素種)を効果的に消去しうる脳酸化障害抑制能を有している。
【0045】
また、本発明の医薬組成物は、経口又は非経口により投与することができ、その有効投与量は、病態や患者により相違するが、一般的には1μg〜1gを1日数回に分けて投与するか連続的に投与する。本発明の医薬組成物は公知の方法により、製剤化することができ、投与方法や患者により適宜製剤することができる。例えば、本発明の医薬組成物は、本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体の少なくとも1種を有効成分として含有し、これに製薬上許容される担体、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤などと共に公知の方法により製剤化することができる。本発明の医薬組成物は、用量単位の形態、例えば、錠剤、カプセル、または坐剤とすることができる。また、本発明の医薬組成物は、注射または噴霧療法に適する無菌溶液とすることもできる。
本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体、又はこれを有効成分とする本発明の医薬組成物による予防や治療に適する疾患としては、脳の細胞の酸化障害による疾患、特にスーパーオキシド(O・)及び/又はパーオキシナイトライト(ONOO)に起因する疾患が挙げられる。このような疾患の例としては、例えば、パーキンソン病、アルツハイマー症、遅発性ジスキネジア、セロイドリポフステン蓄積症、ダウン症候群などをはじめ、脳卒中や脳梗塞、運動神経疾患などの多くの神経疾患が挙げられる。
特に本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体は、前出してきた薬理試験からも明らかなように、一過性の脳虚血における酸化ストレス(低酸素傷害)に対して極めて有効な保護作用を有するものであり、脳の虚血再灌流後における酸化障害、例えば、遅発性神経細胞死(DND)などの疾患に対して有効である。
したがって、本発明の医薬組成物は、これらの各種の脳神経疾患の予防や治療に有効である。
【発明の効果】
【0046】
本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体は、SOD活性、ONOO消去活性を有するだけでなく、同時に脂質に対する親和性を有し、細胞内に容易に取り込まれるだけでなく、細胞において従来の金属ポルフィリン錯体に比べて予想外に顕著なSOD活性、及びONOO消去活性を示すだけでなく、脂質に対する親和性が大きいことから、脳の細胞に多量に存在する細胞膜成分の不飽和脂防酸に対する脂質過酸化反応を顕著に抑制して脳の細胞の細胞死を防止することができ、また、一過性の脳虚血における酸化ストレス(低酸素傷害)に対して極めて有効な保護作用を有するものである。
このように、本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体は、脳内ROS(reactive oxygen species:活性酸素種)を効果的に消去しうる脳酸化障害抑制能を有しており、これを有効成分として含有してなる本発明の医薬組成物は、各種の脳の細胞の酸化障害による疾患の予防又は治療に有効である。
【0047】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0048】
両親媒性ポルフィリン錯体cis−Mn−MPyPの製造
(1)cis−PyPの合成
500mlの三口フラスコにプロピオン酸250ml、無水酢酸10mlを入れ窒素下で110℃にて30分間撹拌・還流した。温度一定後、ベンズアルデヒド、4−ピリジンカルボアルデヒドをゆっくり加え30分間撹拌・還流させた。最後に、蒸留済みピロールを加え2時間反応させた。
反応終了後、室温まで放冷し、得られた黒色のやや粘性の有る溶液をナスフラスコに移し変え、エバポレーターで濃縮した後、残渣にアンモニア水を少量ずつ加えるて中和し、次いでこれを吸引濾過して、得られた残渣を乾燥した。
乾燥した残渣にTHFを加え、不純物を溶解させて、紫粉末の6種類のポルフィリンからなる混合物を得た。
得られたポルフィリンの混合物を、シリカゲルクロマトグラフィーにより100%CHClで溶出させてTTPおよびPyPを溶出した。次いで、展開溶媒をCHClとMeOHの混合溶媒に変えて、trans−PyPを分離し、最後に目的化合物となるcis−PyPを溶出させた。分画の溶媒を留去し、赤紫色の目的のポルフィリンを得た。
【0049】
(2)cis−MPyPの製造
容量100mlの三口フラスコに、溶媒としてクロロホルム50mlを入れ、前記(1)で得たポルフィリンcis−PyPの0.1gを加えた。約5当量のp−トルエンスルホン酸メチルを加え、窒素下、遮光し35℃で5日間反応させた。
反応混合物を室温まで放冷させた後、これに蒸留水を加えて、水層を分離した。得られた水層にヘキサフルオロリン酸アンモニウムを少量ずつ加え撹拌・沈殿させ、静置後濾過して、残渣を洗浄した後、乾燥した。得られた残渣をアセトンに溶解させた後、テトラエチルアンモニウムクロリドのアセトン飽和溶液をを少量ずつ加え撹拌して沈殿させた。静置後、濾過して、得られた沈殿物をメタノールに溶解して回収した後、溶媒を留去して、目的のメチル体を紫色粉末として得た。
【0050】
cis−MPyPの極大吸収波長: λmax 420nm(ソレー帯)
514nm(Q帯)
556nm(Q帯)
585nm(Q帯)
634nm(Q帯)
cis−MPyPのH−NMR(δ):
-2.98(2H)(環内部の水素原子), 4.69(6H)(メチル基の水素原子),
7.88(6H)(ベンゼン環のメタ位及びパラ位の水素原子),
8.25(4H)(ベンゼン環のオルト位の水素原子),
8.98(12H)(ピリジン環及びピロール環の水素原子)
cis−MPyPのFAB−MS: 計算値 699
実測値 699
【0051】
(3)cis−MPyPへのマンガンの導入
300mlの三口フラスコに、前記の(2)で得られたcis−MPyPの0.10gを入れて、メタノールに溶解させた後、窒素下で80℃にて30分間攪拌・還流した後、これに酢酸マンガン0.24gを素早く入れUV−可視スペクトルを用いてポルフィリンのソレー(soret)帯のシフト、および吸光度変化から金属導入の確認ができるまで反応を行った。
反応終了後、室温まで放冷させた後、溶媒を留去して茶褐色の粉末を得た。この粉末を蒸留水に溶解し、NHPFを少量ずつ加え攪拌・沈殿させ、静置後濾過した後、残渣を洗浄して回収し乾燥した。濾紙上の沈殿物をアセトンに溶解させた後、TEACのアセトン飽和溶液を少量ずつ加え攪拌沈殿させた。静置後濾過を行い、濾紙上の沈殿物をメタノールに溶解させて回収し、溶媒を留去して目的のマンガン錯体を茶褐色の粉末として得た。
【0052】
cis−Mn−MPyPの極大吸収波長: λmax 380nm(ソレー帯)
402nm(ソレー帯)
466nm(ソレー帯)
511nm(Q帯)
563nm(Q帯)
【実施例2】
【0053】
ストップトフロー法によるポルフィリン錯体のSOD活性の評価
KOを、無水DMSO(ジメチルスルホキサイド)に飽和させた溶液を片側のシリンジA(0.25μL)に入れ、もう片側のシリンジBには60mMのHEPES/HEPES−Na緩衝液(pH8.1)に溶解したそれぞれの濃度のポルフィリン錯体(0μM,0.25μM,0.5μM,1μM,1.5μM,2μM,2.5μM,3μM,3.5μM,4μM)をセットし、37℃で、20:1の混合比でシリンジA及びシリンジBの溶液を迅速に混合して、発生したスーパーオキシド(O・)がポルフィリン錯体により分解される様子を、スーパーオキシド(O・)の極大吸収波長である245nmで追跡し、二次反応速度定数を算出した。
この実験の結果を、前述した表1に示した。
【実施例3】
【0054】
ポルフィリン錯体のペルオキシナイトライト(ONOO)消去活性の評価
(1)ペルオキシナイトライトの製造。
0.8MのH25mLと、0.8MのNaNO25mLを混合し、氷浴中で冷却した。これに、冷却した1mMのHClを25mL加えた後、迅速に冷却した1.5MのNaOHを25mLを1秒以内で加えた。反応混合溶液が黄色く着色した状態であることを確認し、水を25mL加え、pH12のペルオキシナイトライト水溶液を得た。ペルオキシナイトライトの濃度は極大吸収波長λmax=302nmの1670M−1cm−1を標準溶液として用いて決定した。
(2)ストップトフロー法によるペルオキシナイトライト(ONOO)消去活性の評価
シリンジAに、それぞれの濃度のポルフィリン錯体(0μM,0.25μM,0.5μM,1μM,1.5μM,2μM,2.5μM,3μM,3.5μM,4μM)の50mM PBS緩衝液(pH7.4)溶液を入れ、もう片方のシリンジBに前記(1)で製造したペルオキシナイトライト水溶液(1mM、pH12)を入れた。37℃で、1:1の混合比でシリンジA及びシリンジBの溶液を迅速に混合して、ペルオキシナイトライト(ONOO)の消失をペルオキシナイトライトのλmaxである302nmで追跡し、消失速度定数を算出した。
(3)アスコルビン酸の存在下におけるペルオキシナイトライト(ONOO)消去活性の評価
シリンジAのポルフィリン錯体の50mM PBS緩衝液(pH7.4)溶液に、さらにアスコルビン酸(2mM)を添加した以外は前記(2)と同様にして測定し、消失速度定数を算出した。
これらの実験の結果を、前述した表2に示した。
【実施例4】
【0055】
オクタノール/水分配係数Pの算出
ポルフィリン錯体の疎水性評価は,オクタノール/水二相溶媒系における分配係数P及びlog P値の比較によって行った。この値はshake flask法により測定・算出した。 二相溶媒系として1−オクタノール/50mMリン酸緩衝波(pH7.4)(1:1,v/v)を調製した。試験するポルフィリン錯体1mgを、オクタノール層と水層のそれぞれに1mLに加えて、両者を試験管中で十分に撹拌した後,遠心分離した。分離後の各層をそれぞれメタノールで希釈し,希釈液のソレー帯における吸光度を紫外可視分光光度計を用いて測定し,下式より分配係数P及びlogPを算出した。
log Pow = log(C/C
(式中、Cは1−オクタノール中の濃度を表し、Cは水中の濃度を表す。)
この実験の結果を、前述した表3に示した。
【実施例5】
【0056】
細胞における脂質親和性の評価(細胞集積能評価)
細胞膜内への取り込み量の評価は、PC12細胞(ラット副腎髄質クロム親和性細胞)を用いて行った。
PC12細胞を10%FCS、5%FBS、1%抗生物質含有DMEM培地にて5%CO、37℃の条件での24時間インキュベート内で培養した。細胞培養後、培地を各種のポルフィリン含有培地(ポルフィリン濃度50mM)に交換し、24時間インキュベートした。インキュベート後細胞を回収し、PBS洗浄により細胞膜に付着しているポルフィリンを除去した。最後に回収した細胞凝集体に硝酸(0.5N HNO)を加え、細胞を破壊し、静置した。翌日、細胞凝集体含有硝酸溶液の上清をサンプルとし、細胞内に取り込まれている金属ポルフィリンの中心金属を、原子吸光分析(Varian spectrAA-640)によって定量した。
この実験の結果を、グラフ化して前述した図1に示した。
【実施例6】
【0057】
PC12細胞を用いたスーパーオキシド(O・)障害からの保護作用の評価
PC12細胞の培養はDMEM、10%HS、5%FBS、1%抗生物質、炭酸水素ナトリウム、L−グルタミンを含む培地を用い、36℃で、5%CO条件下で行った。コンフルエントになった細胞を計数して、1×10cells/wellの細胞密度で96ウェルプレート上に播種し接着させた後、NGFを添加し(細胞培養はDMEM、2%HS、1%FBS、1%抗生物質、炭酸水素ナトリウム、L−グルタミンを含む培地)7日間培養を行い、神経様細胞へ分化させた。
Mnポルフィリン錯体(Mn−MPyP、cis−Mn−MPyP)を、それぞれ0〜50μMとなるように添加し、さらに4時間培養後、細胞刺激因子としてパラコート(Methyl viologen dichloride hydrate)(500μM)を用いてPC12細胞を刺激し、細胞内にスーパーオキシド(O・)を生成させて障害を引き起こした。
細胞にROS(reactive oxygen species:活性酸素種)障害を誘発させた場合にMnポルフィリン錯体が示す細胞保護能力を検討することで、細胞内に発生したROSをMnポルフィリン錯体が分解できるかどうかを評価した。評価はアラマーブルー法により吸光度変化から細胞生存率を算出した。
この結果を、グラフ化して前述した図2に示した。
【実施例7】
【0058】
A172細胞を用いたペルオキシナイトライト(ONOO)障害からの保護作用の評価
A172細胞(ヒトグリア芽腫細胞株)の培養はDMEM、10%FBS、1%抗生物質、炭酸水素ナトリウム、L−グルタミン、高グルコース(4.5g)を含む培地を用い、36℃で、5%CO条件下で行った。コンフルエントになった細胞を計数して、5×10cells/wellの細胞密度で96ウェルプレート上に播種し接着させた。Mnポルフィリン錯体(Mn−MPyP、cis−Mn−MPyP)を、それぞれ0〜50μMとなるように添加し、さらに4時間培養後、細胞刺激因子としてSIN−1(3-(4-Morpholinyl)sydnonimine, hydrochloride)(3mM)を用いてA172細胞を刺激し、細胞内にペルオキシナイトライト(ONOO)を生成させて障害を引き起こした。
細胞にROS障害を誘発させた場合にMnポルフィリン錯体が示す細胞保護能力を検討することで、細胞内に発生したROSをMnポルフィリン錯体が分解できるかどうかを評価した。評価はアラマーブルー法により吸光度変化から細胞生存率を算出した。
この結果を、グラフ化して前述した図3に示した。
【実施例8】
【0059】
A172細胞を用いたペルオキシナイトライト(ONOO)障害からの脂質過酸化の抑制作用の評価
A172細胞(ヒトグリア芽腫細胞株)の培養はDMEM、10%FBS、1%抗生物質、炭酸水素ナトリウム、L−グルタミン、高グルコース(4.5g)を含む培地を用い、36℃で、5%CO条件下で行った。コンフルエントになった細胞を25cmフラスコに播種し接着させコンフルエントになるまで培養した。Mnポルフィリン錯体(Mn−MPyP、cis−Mn−MPyP)を、それぞれ25μMとなるように添加し、4時間培養後、細胞刺激因子としてSIN−1(3-(4-Morpholinyl)sydnonimine, hydrochloride)(1mM)を用いてA172細胞を刺激し、細胞内にペルオキシナイトライト(ONOO)を生成させて脂質過酸化を引き起こした。細胞に脂質過酸化を誘発させた場合にMnポルフィリン錯体の投与により、脂質過酸化が抑制されるかを検討した。評価は、次に示すチオバルビツール法(TBA法)により過酸化脂質の量を測定することで行った。
【0060】
チオバルビツール法(TBA法)
脂質過酸化は、A172細胞中でマロンジアルデヒド(MDA)の容量を測定することにより評価した。細胞をSIN−1に露出した後に、PBSにて洗浄後、細胞を回収し、冷却した1.15%KCl(5%wt/vol)中で均質化した。0.5mlのホモジェネート部分標本に、3mlの1%のリン酸(HPO)及び1mlの0.6%のチオバルビツル酸を添加した。熱湯浴上(100℃)で45分間加熱し、冷水にて冷却後、4mlのN−ブタノールの添加し、20分、2000gで遠心分離した。上部の有機質層の吸光度を、分光光度計似て測定した(535nm)。
この実験の結果を、グラフ化して前述した図4に示した。
【実施例9】
【0061】
A172細胞を用いた低酸素傷害からの保護作用の評価
A172細胞(ヒトグリア芽腫細胞株)の培養は、DMEM、10%FBS、1%抗生物質、炭酸水素ナトリウム、L−グルタミン、高グルコース(4.5g)を含む培地を用い、36℃で、5%CO条件下で行った。コンフルエントになった細胞を計数して、5×10cells/wellの細胞密度で96ウェルプレート上に播種し接着させた。Mnポルフィリン錯体(Mn−MPyP、cis−Mn−MPyP)を、それぞれの濃度が0〜50μMとなるように添加し、さらに6時間培養後、培地をグルコース、FBS共にフリーの培地と交換した後、アクチノマイシンA(Antimaycin A)(10μM)を用い、細胞のミトコンドリアの電子伝達系を阻害し、細胞に低酸素障害を引き起こした。その1〜2時間後、アクチノマイシンAを除去し培地を高グルコース、FBS含有のものと交換し、1日培養した。低酸素傷害からの保護効果効果の評価はアラマーブルー法により吸光度変化から細胞生存率を算出することで行った。
この実験の結果を、グラフ化して前述した図5に示した。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の両親媒性金属ポルフィリン錯体は、スーパーオキシド(O・)やパーオキシナイトライト(ONOO)などの脳内ROS(reactive oxygen species:活性酸素種)を効果的に消去しうる脳酸化障害抑制能を有しており、これを有効成分として含有してなる本発明の医薬組成物は、各種の脳の細胞の酸化障害による疾患に有効な医薬品として有用であり、本発明は製薬産業などにおける産業上の利用可能性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1は、本発明のcis−Mn−MPyP及び従来品のMn−MPyPを用いた、これらの物質の細胞内への取り込み量の評価実験の結果をグラフ化して示したものである。
【図2】図2は、本発明のcis−Mn−MPyP及び従来品のMn−MPyPによる、PC12細胞を用いたスーパーオキシド(O・)障害からの保護作用の評価実験の結果をグラフ化して示したものである。
【図3】図3は、本発明のcis−Mn−MPyP及び従来品のMn−MPyPによる、A172細胞を用いたペルオキシナイトライト(ONOO)障害からの保護作用の評価実験の結果をグラフ化して示したものである。
【図4】図4は、本発明のcis−Mn−MPyP及び従来品のMn−MPyPによる、A172細胞を用いたペルオキシナイトライト(ONOO)障害からの脂質過酸化の抑制作用の評価実験の結果をグラフ化して示したものである。
【図5】図5は、本発明のcis−Mn−MPyP及び従来品のMn−MPyPによる、A172細胞を用いた低酸素傷害からの保護作用の評価実験の結果をグラフ化して示したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(1)
【化1】

(式中、Mは錯体を形成するための金属原子を示し、Ar、Ar、Ar、及び、Arはそれぞれ独立して置換基を有してもよい炭素環式又は複素環式芳香族基を示し、Ar、Ar、Ar、及び、Arのうちの2個はカチオン性の親水性の基であり、残りの2個は親油性の基である。)
で表される親水性の基と親油性の基を有する両親媒性金属ポルフィリン錯体。
【請求項2】
前記一般式(1)におけるAr、Ar、Ar、及び、Arのうちの2個が、N−低級アルキル−ピリジニウム基からなるカチオン性の親水性の基であり、残りの2個が置換基を有してもよいフェニル基からなる親油性の基である請求項1に記載の両親媒性金属ポルフィリン錯体。
【請求項3】
前記一般式(1)で表される両親媒性金属ポルフィリン錯体が、次の一般式(2)、
【化2】

(式中、Mは錯体を形成するための金属原子を示し、R及びRはそれぞれ独立して炭素数1〜20のアルキル基を示し、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、又は炭素数1〜20のアルコキシ基を示す。)
で表される金属ポルフィリン錯体である請求項1に記載の両親媒性金属ポルフィリン錯体。
【請求項4】
前記一般式(1)におけるAr及びArが、N−低級アルキル−ピリジニウム−4−イル基からなるカチオン性の親水性の基であり、Ar及びArが、フェニル基からなる親油性の基である請求項1〜3のいずれかに記載の両親媒性金属ポルフィリン錯体。
【請求項5】
N−低級アルキル−ピリジニウム−4−イル基が、N−メチル−4−ピリジニウム基である請求項4に記載の両親媒性金属ポルフィリン錯体。
【請求項6】
前記一般式(1)又は(2)におけるMが、鉄原子、銅原子又はマンガン原子である請求項1〜5のいずれかに記載の両親媒性金属ポルフィリン錯体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の両親媒性金属ポルフィリン錯体の少なくとも1種、及び製薬上許容される担体を含有してなる医薬組成物。
【請求項8】
医薬組成物が、脳の細胞の酸化障害による疾患の予防又は治療用である請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
脳の細胞の酸化障害が、スーパーオキシド(O・)及び/又はパーオキシナイトライト(ONOO)に起因するものである請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
脳の細胞の酸化障害が、脳虚血再灌流後における酸化障害である請求項8又は9に記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−255011(P2008−255011A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−95381(P2007−95381)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【Fターム(参考)】