説明

中子支持構造

【課題】鋳造用の中子支持構造において、中子を確実に支持できるようにする。
【解決手段】固定側鋳造金型62と可動側鋳造金型61との間で形成されるキャビティ63内に設けられ、キャビティ63内に溶湯が供給されると、該部分が空洞として形成される中子64を備える中子支持構造80において、中子64には、可動側鋳造金型61の移動方向に延びる穴部64aを設け、可動側鋳造金型61には、穴部64aに嵌合することにより中子64を支持するピン部66bを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造用の中子支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ウォータージャケットを備えたエンジンのシリンダブロックのような中空部を有するものを鋳造する場合には、この中空部の形成に中子が用いられる(例えば、特許文献1参照)。中子は鋳造の際に金型内で動かないように支持する必要があり、特許文献1には、シリンダブロックのウォータージャケットを形成する中子の支持構造において、シリンダブロックの上下方向に延びる中子の側面部に突出した巾木部に、シリンダブロックの側面側を貫通するピン部材を係合させて中子を支持した例が開示されている。
【特許文献1】特開2003−191051号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の中子の支持構造においては、中子はその側面に突出して形成された巾木部でしか支持されていないため、鋳造時の溶湯の圧力によって金型内部で中子の配置がずれてしまうおそれがあった。
【0004】
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、鋳造用の中子支持構造において、中子を確実に支持できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述課題を解決するため、本発明は、固定側鋳造金型と可動側鋳造金型との間で形成されるキャビティ内に設けられ、前記キャビティ内に溶湯が供給されると、該部分が空洞として形成される中子を備える中子支持構造において、前記中子には、可動側鋳造金型の移動方向に延びる穴部を設け、いずれか一方の金型には、前記穴部に嵌合することにより前記中子を支持するピン部を設けたことを特徴とする中子支持構造を提供する。
この構成によれば、中子の穴部には、固定側鋳造金型及び可動側鋳造金型のいずれかに設けられたピン部が嵌合し、中子は、中子の内部まで入り込んで嵌合したピン部により支持されるため、確実に支持される。
【0006】
また、上記構成において、いずれか他方の金型に、前記ピン部と対向するケレンを設けた構成としても良い。
この構成によれば、他方の金型に設けられたケレンによって、中子をピン部の反対側から支持するため、中子を確実に支持できる。
また、上記構成において、前記ピン部は前記中子の穴部を貫通し、前記ピン部の先端部が、前記ケレンの嵌合穴に嵌合する構成としても良い。
この構成によれば、ピン部が中子を貫通するため、ピン部と穴部との接触部分を大きくすることができ、中子を確実に保持できる。また、ピン部の先端部がケレンの嵌合穴に嵌合するため、ピン部を強固に支持でき、中子をより確実に支持できる。
【0007】
また、前記ピン部は、前記可動側鋳造金型に設けられても良い。
この場合、可動側鋳造金型を移動させることで、ピン部を、可動側鋳造金型の移動方向に延びる穴部から抜くことができるため、ピン部を中子から容易に抜くことができる。
さらに、前記ピン部は、前記固定側鋳造金型に設けられても良い。
この場合、中子を固定側鋳造金型に設けられたピン部に嵌合させて中子を金型に容易にセッティングできる。
【0008】
また、前記金型がクローズドデッキ型のシリンダブロックの鋳造用の金型であり、前記中子によって、前記シリンダブロックのウォータージャケットが形成されても良い。
この場合、ウォータージャケット用の中子を確実に支持して、ウォータージャケットを有するクローズドデッキ型のシリンダブロックを精度良く鋳造できる。
【0009】
さらに、前記シリンダブロックの端面に、前記ウォータージャケットに連通し、エンジンの冷却水が通る長穴状の開口部を備え、前記中子が砂中子であり、鋳造後に、前記開口部から前記中子の前記穴部に当該穴部の径よりも大きい壊し棒を入れ、前記中子を壊すようにしても良い。
この場合、シリンダブロックの開口部から中子の穴部にこの穴部の径よりも大きい壊し棒を入れて中子を壊すことができる。これにより、中子の穴部に効果的に力を加え、この穴部を起点にして中子を壊すことができるため、中子を容易にシリンダブロックから排出できる。この結果、従来、シリンダブロックに振動を加えて中子を崩していた作業と比較して、作業時間を短縮することができる。
【0010】
また、前記中子は、単気筒内燃機関用のシリンダブロックの鋳造に用いられる中子であって、その4隅に前記ピン部が嵌合する前記穴部が設けられても良い。
この場合、中子はその4隅を支持され、安定して支持されるため、シリンダブロックの鋳造性が向上する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る中子の支持構造では、中子の内部まで入り込んで嵌合したピン部により中子を支持するため、中子を確実に支持できる。
また、他方の金型に設けられたケレンによって、中子をピン部の反対側から支持するため、中子を確実に支持できる。
また、ピン部が中子を貫通するため、ピン部と穴部との接触部分を大きくすることができ、中子を確実に保持できる。さらに、ピン部の先端部がケレンの嵌合穴に嵌合するため、ピン部を強固に支持でき、中子をより確実に支持できる。
【0012】
さらに、可動側鋳造金型を移動させることでピン部を穴部から抜くことができ、ピン部を中子から容易に抜くことができる。
さらにまた、中子を固定側鋳造金型に設けられたピン部に嵌合させて中子を金型に容易にセッティングできる。
また、ウォータージャケット用の中子を確実に支持して、ウォータージャケットを有するクローズドデッキ型のシリンダブロックを精度良く鋳造できる。
また、シリンダブロックの開口部から中子の穴部に壊し棒を入れて中子を簡単に壊すことができる。
さらに、中子はその4隅を支持され、安定して支持されるため、シリンダブロックの鋳造性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を添付の図面を参照しながら説明する。
[第1の実施の形態]
図1は、本発明を適用した第1の実施の形態に係る中子支持構造を用いて製造されるシリンダブロックを備えたオフロード系自動2輪車の側面図である。
この自動二輪車の車体フレーム1は、ヘッドパイプ2、メインフレーム3、センターフレーム4、ダウンフレーム5及びロアフレーム6を備え、これらをループ状に連結し、その内側にエンジン7を支持している。エンジン7はシリンダ8とクランクケース9を備える。メインフレーム3、センターフレーム4及びロアフレーム6はそれぞれ左右一対で設けられ、ヘッドパイプ2及びダウンフレーム5は車体中心に沿って1本で設けられる。
【0014】
メインフレーム3は、エンジン7の上方を直線状に斜め下がり後方へ延び、エンジン7の後方を上下方向へ延びるセンターフレーム4の上端部へ連結している。ダウンフレーム5は、エンジン7の前方を斜め下がりに下方へ延び、その下端部でロアフレーム6の前端部へ連結している。ロアフレーム6はエンジン7の前側下部からエンジン7の下方へ屈曲して略直線状に後方へ延び、後端部でセンターフレーム4の下端部と連結している。
【0015】
エンジン7の上方には、メインフレーム3によって燃料タンク13が支持されている。燃料タンク13の後方に配置されたシート14は、センターフレーム4の上端から後方へ延びるシートレール15上に支持される。シートレール15の下方には、リアフレーム16が配置されている。シートレール15とリアフレーム16には、エアクリーナ17が支持され、スロットルボディ18を介してシリンダヘッド11へ車体後方側から吸気される。
【0016】
シリンダ8の前部には、排気管20が接続されている。排気管20は、シリンダ8の前部からクランクケース9の前方へ延出し、右側へ曲げられた後に車体右側を後方に向かって引き回されている。排気管20からは、マフラー22が後方へ延出している。マフラー22の後端部は、リアフレーム16によって支持されている。
【0017】
ヘッドパイプ2にはフロントフォーク23が支持され、その下端部に支持された前輪24がハンドル25で操向される。センターフレーム4にはリヤアーム27の前端部がピボット軸26を介して連結され、リヤアーム27が揺動自在に支持されている。後輪28は、リヤアーム27の後端部に支持され、エンジン7のドライブスプロケット7aと後輪28の従動スプロケット28aとに巻き掛けられた駆動チェーン19によって駆動される。
また、リヤアーム27とセンターフレーム4の後端部との間には、リヤサスペンションのクッションユニット29が設けられている。
ダウンフレーム5には、ダウンフレーム5を跨いで左右にラジエタ42が配設されている。ラジエタ42は、ダウンフレーム5に沿って、ヘッドパイプ2の下部からシリンダヘッド11の前方にかけて上下方向に設けられている。
【0018】
なお、図1において、符号32、33はエンジンマウント部、34はエンジンハンガ、35は電装品ケースである。なお、エンジン7は、ピボット軸26にてもセンターフレーム4へ支持されている。
【0019】
図2は、エンジン近傍の側面断面図である。
エンジン7は水冷4サイクル式の単気筒エンジン(内燃機関)であり、シリンダ8は、そのシリンダ軸線が略垂直になる直立状態でクランクケース9の前部に設けられ、下から上へ順に、シリンダブロック10、シリンダヘッド11、ヘッドカバー12を備える。
【0020】
シリンダヘッド11の車体後側には、スロットルボディ18からの混合気がエンジン7内へ供給される吸気口30を備えている。この吸気口30は、ヘッドカバー12に設けられたカム31、バルブリフター32によって上下動する吸気バルブ33を介して開閉され、吸気口30から混合気が燃焼室内に供給される。同様に、シリンダヘッド11の車体前側には、燃焼室内で燃焼した混合気を排出する排気口(図示略)が設けられている。
シリンダブロック10には、ピストン34が上下方向(より正確には、前方斜め上側に若干傾いた方向)に往復移動可能なシリンダ部36が形成されている。
【0021】
クランクケース9には、ピストン34の上下運動に伴い回転するクランクシャフト40と、複数のシャフト及び歯車群により構成される動力伝達機構50が設けられている。クランクシャフト40の回転による動力は、動力伝達機構50を介して後輪28を駆動する駆動チェーン19に伝達される。
【0022】
クランクケース9の上面には、シリンダブロック10が取り付けられる円形の開口9aが形成されている。シリンダブロック10の下部には、円筒状のシリンダ部36から下方に延びるスカート部37が形成され、シリンダブロック10は、スカート部37が開口9aに嵌合した状態で複数のボルト(図示略)によりクランクケース9に固定されている。
また、クランクケース9とシリンダブロック10との合わせ面、及び、シリンダブロック10とシリンダヘッド11との合わせ面にはそれぞれガスケット(図示略)が設けられている。
【0023】
シリンダブロック10には、エンジン7の冷却水が循環するウォータージャケット38が形成されている。また、シリンダヘッド11には、ウォータージャケット38を通過した冷却水が通る水路39が形成されている。さらに、シリンダブロック10とクランクケース9との合わせ面においてクランクケース9側には、ウォータージャケット38と連通する冷却水通路(図示略)が形成され、この冷却水通路はクランクケース9側に設けられたウォーターポンプ(図示略)に繋がっている。エンジン7においては、冷却水は、上記ウォーターポンプにより上記冷却水通路を経てウォータージャケット38に供給され、シリンダヘッド11の水路39を通り、次いで、ラジエタ42を通り、再びウォーターポンプに戻って循環する。
【0024】
図3は、シリンダブロック10の平面図である。図4は、図3においてシリンダブロック10をA−A線で切断した断面図である。
図3に示すように、シリンダブロック10は、円筒状に形成されたシリンダ外壁51を有し、シリンダ外壁51には、周囲のシリンダ外壁51よりも厚肉に形成された厚肉部52が形成されている。厚肉部52は、シリンダ外壁51の外側に突出した曲面形状に形成され、シリンダ外壁51の周上に略等間隔をあけて4箇所に形成されている。
【0025】
ウォータージャケット38は、シリンダ外壁51とシリンダ部36との間に形成された円筒状の中空部であり、シリンダ部36の全周を覆っている。シリンダブロック10において、シリンダヘッド11と合わさるシリンダブロック上端面53には、ウォータージャケット38に連通する長穴状の開口部54が6箇所に形成されている。開口部54は、平面視において、円筒状のウォータージャケット38に重なるように形成されている。
また、シリンダブロック10において、クランクケース9と合わさるシリンダブロック下面55には、ウォータージャケット38に連通する孔56が4箇所に形成されている。孔56の各々は、シリンダブロック10の4隅に位置する厚肉部52の近傍に設けられ、平面視において、開口部54と重なる位置に形成されている。孔56の一部はウォーターポンプに繋がる上記冷却水通路に連通し、孔56の残りは、シリンダブロック10とクランクケース9との間に設けられたガスケットにより塞がれている。
【0026】
このように、シリンダブロック10は、シリンダブロック上端面53及びシリンダブロック下面55において、冷却水が通る開口部54及び孔56を除いた部分がウォータージャケット38を塞いだ、いわゆる、クローズドデッキ型のシリンダブロックである。このため、シリンダブロック10はシリンダ部36の剛性が高く、高出力なエンジンに対応できる。
【0027】
図5は、本発明の中子支持構造80を備えた金型60を示す断面図である。
シリンダブロック10は、上下一対に分かれて構成された金型60を用いて高圧鋳造(HPDC)により製造される。金型60は、その高さ方向の略中央で上型と下型とに分割され、図5中の上側に位置する金型は上下に移動可能な可動側鋳造金型61であり、下側に位置する金型は固定側鋳造金型62である。そして、金型60を閉じる際には、固定された固定側鋳造金型62に対し可動側鋳造金型61が下降し、金型60を開く際には、固定側鋳造金型62から可動側鋳造金型61が上方向に離れる。
【0028】
金型60には、溶湯が充填される空間であるキャビティ63が形成されている。溶湯は、可動側鋳造金型61と固定側鋳造金型62との間に挟まれるようにして設けられた溶湯供給部49からキャビティ63に加圧充填される。ここで、第1の実施の形態では、シリンダブロック10はアルミ合金製であり、溶湯はアルミ合金を溶融したものである。
また、キャビティ63内には、ウォータージャケット38を形成する中子64が設けられている。中子64が配置された部分は鋳造後に空洞として形成される。
【0029】
可動側鋳造金型61には、鋳造の際にシリンダ部36の空洞を形成する円柱状の上ボアピン65と、中子64を支持するピン部材66とが設けられている。
一方、固定側鋳造金型62には、鋳造の際にシリンダ部36の空洞を形成する円柱状の下ボアピン67と、ピン部材66の反対側から中子64を支持するケレン68とが設けられている。
キャビティ63の一部は、上ボアピン65、下ボアピン67、中子64、ピン部材66、及び、ケレン68により埋められており、キャビティ63の残りの部分に溶湯が充填され、その後、冷却されて溶湯が凝固することでシリンダブロック10が形成される。
【0030】
図6は、ピン部材66、中子64及びケレン68の関係を示す分解斜視図である。
図5及び図6に示すように、ピン部材66は、ブロック状の基部66aと、この基部66aから可動側鋳造金型61の移動方向に延びるピン部66bとを備えている。また、図6に示すように、ピン部材66は中子64の上方の4箇所に円を形成する並びで設けられ、基部66aのみで構成されるブロック66cは、ピン部材66に隣接して2箇所に設けられている。そして、ピン部材66及びブロック66cは、可動側鋳造金型61に埋め込まれて固定され、ピン部66bと、基部66aの端部69とは、キャビティ63内に突出している。シリンダブロック10の6箇所の開口部54は、鋳造の際にこの端部69により形成される空洞である。
【0031】
中子64は、シリンダ部36の軸方向に延在する円筒形状に形成され、この円筒形状の軸方向に延びる穴部64aをその4隅に有している。穴部64aは、可動側鋳造金型61の移動方向に延びる貫通孔であり、ピン部66bの位置に対応して設けられ、穴部64aには4本のピン部66bがそれぞれ嵌合する。また、中子64において、穴部64aが設けられた4隅には、その周囲の部分よりも板厚が厚く形成された厚部64bが形成され、ピン部66bが嵌合する部分の強度が確保されている。中子64は、砂を押し固めて成形される砂中子であり、中子64の成形後にピン部66bに嵌合されて金型60にセッティングされる。
【0032】
ケレン68は、円柱状に形成され、この円柱の端には、中子64を貫通したピン部66bの先端が嵌合する嵌合穴68aが形成されている。そして、ケレン68は、固定側鋳造金型62に埋め込まれて設けられ、ピン部66bと対向する位置に配設されている。ケレン68は、ピン部66bの先端部66dが嵌合穴68aに嵌合するようにピン部66bに対応した位置に設けられ、嵌合穴68aが形成された端部70は、キャビティ63内に突出している。シリンダブロック10の4隅にそれぞれ設けられた孔56は、鋳造の際にこの端部70により形成される空洞である。
また、ケレン68が配設された位置は、シリンダブロック10の孔56が配設された位置である。つまり、ケレン68と穴部64aとピン部66bとは、孔56の位置に一致して同軸上に設けられている。
【0033】
ここで、第1の実施の形態では、一例として、ピン部66bの直径は5(mm)であり、ケレン68の直径は9(mm)である。また、中子64の穴部64aの直径は、ピン部66bの直径よりも僅かに大きく形成され、中子64は、穴部64aに嵌合したピン部66bとの摩擦により、ピン部材66に保持される。
【0034】
そして、図5に示すように、中子64は、上ボアピン65及び下ボアピン67の周囲を囲うように中子支持構造80によって支持され、中子支持構造80は、中子64、可動側鋳造金型61、固定側鋳造金型62、ピン部材66及びケレン68を備えている。
詳細には、鋳造時において中子64は、シリンダ部36の軸方向に貫通したピン部66bを有するピン部材66と、ピン部66bに対向する位置で中子64の下部を支持する4本のケレン68とにより支持されている。この状態では、ピン部66bが穴部64aに嵌合しており、中子64はピン部66bの軸方向と直交する向きにほとんど移動できないため、中子64は確実に支持される。さらに、穴部64aを貫通したピン部66bの先端部66dは、ケレン68の嵌合穴68aに嵌合するため、ピン部66bの振れを抑えることができ、より確実に中子64を支持できる。また、ケレン68の端部70とピン部材66の端部69とにより、中子64を上下方向から押さえているため、中子64の上下方向の移動を抑えて中子64を確実に支持できる。また、中子64は、その4隅を支持されているため安定して支持される。
【0035】
上記のように中子64が支持されたキャビティ63内に溶湯を供給し、その後の冷却により溶湯を凝固させ、次いで、可動側鋳造金型61を上昇させて金型60を開き、シリンダブロック10の鋳造品を固定側鋳造金型62から抜くことにより、シリンダブロック10の鋳造品単体を得ることができる。そして、シリンダブロック10の鋳造品単体は機械加工に移され、シリンダ部36のホーニング加工や各部の面取り加工等が施されてシリンダブロック10が仕上げられる。中子支持構造80によれば、可動側鋳造金型61を上昇させて金型60を開く際に、ピン部66bが可動側鋳造金型61とともに上昇して穴部64aから抜けるため、ピン部66bを中子64から容易に抜くことができる。
【0036】
また、ピン部66b及びケレン68は、シリンダブロック10における冷却水が通る開口部54及び孔56を利用して設けられ、中子64を支持するためだけに用いる穴が形成されない。例えば、従来の中子支持構造では、中子の側面部に突出した巾木部に、シリンダブロックの側面側を貫通するピン部材を係合させて中子を支持したものがある。この場合、上記ピン部材が貫通したシリンダブロックの側面の穴を後工程で埋める必要があった。中子支持構造80によれば、シリンダブロック10の側面の穴を埋める工程が必要ないため、工数を削減できる。
【0037】
さらに、ピン部66bが中子64の内側に延在する穴部64aに嵌合して中子64を支持するため、中子64の表面側には中子64の支持部材が存在しない。例えば、中子の表面側の一部に当接する支持部材によって中子を支持する場合、支持部材の近傍にかかる溶湯の圧力が周囲の圧力と異なることになり、中子に偏った圧力が生じて中子が変形することが考えられる。しかし、中子支持構造80によれば、中子64の内側に延在するピン部66bにより中子64を支持するため、中子64のいずれの位置においても均一な溶湯の圧力がかかることとなり、中子64の変形を防止できる。
【0038】
また、シリンダブロック10の鋳造後においては、ウォータージャケット38には中子64が残った状態であるため、中子64を壊して中子64を排出する必要がある。従来、中子64を壊して排出する方法の一例として、シリンダブロック10に振動を与えて砂中子を壊す方法があるが、この方法は比較的時間がかかっていた。中子支持構造80では、図5に示すように、シリンダブロック10の開口部54からは穴部64aが臨み、図5に示す開口部54の大きさXは、穴部64aの直径Yよりも大きく形成されている。これにより、シリンダブロック10の開口部54から穴部64aに穴部64aの直径Yよりも大きい壊し棒を入れて中子64を壊すことができる。このため、穴部64aに効果的に力を加え、穴部64aを起点にして中子64を簡単に壊すことができる。また、中子64が壊れて生じた砂は開口部54及び穴部64aから容易に排出できる。
【0039】
以上説明したように、本発明を適用した第1の実施の形態によれば、中子64の穴部64aには、可動側鋳造金型61に設けられたピン部66bが嵌合する。これにより、中子64は、中子64の内部まで入り込んで嵌合したピン部66bにより支持されるため、確実に支持される。この結果、中子によりシリンダブロックにウォータージャケットを形成する場合において、ウォータージャケット38を精度良く形成することができるため、エンジン7内の冷却を設計通りに効果的に行なうことができる。
また、固定側鋳造金型62に設けられたケレン68によって、中子64をピン部66bの反対側から支持できるため、中子64を確実に支持できる。
【0040】
また、ピン部66bが中子64を貫通するため、ピン部66bと穴部64aとの接触部分を大きくすることができ、中子64を確実に保持できる。また、ピン部66bの先端部66dがケレン68の嵌合穴68aに嵌合するため、ピン部66bを強固に支持でき、中子64をより確実に支持できる。
さらに、可動側鋳造金型61を移動させることで、ピン部66bを、可動側鋳造金型61の移動方向に延びる穴部64aから抜くことができるため、鋳造後にピン部66bを中子64から容易に抜くことができる。
【0041】
さらにまた、ウォータージャケット38用の中子64を確実に支持して、ウォータージャケット38を有するクローズドデッキ型のシリンダブロック10を精度良く鋳造できる。
また、シリンダブロック10の開口部54から中子64の穴部64aに穴部64aの径よりも大きい壊し棒を入れて中子64を壊すことができる。これにより、中子64の穴部64aに効果的に力を加え、穴部64aを起点にして中子64を壊すことができるため、中子64を容易にシリンダブロック10から排出できる。この結果、従来、シリンダブロックに振動を加えて中子64を崩していた作業と比較して、作業時間を短縮することができる。
また、中子64はその4隅を支持され、鋳造の際にも安定して支持されるため、シリンダブロックの鋳造性が向上する。
【0042】
また、上記第1の実施の形態においては、ピン部66bを有するピン部材66は可動側鋳造金型61に設けられるものとして説明したが、本願発明はこれに限定されるものではなく、ピン部を固定側鋳造金型に設けても良い。この場合について、変形例として説明する。
【0043】
[変形例]
図7は、第1の実施の形態の変形例としての中子支持構造90の断面図である。
図7に示す変形例において上記第1の実施の形態と同様の部分には、同一の符号を付して説明を省略する。
この変形例では、下型の固定側鋳造金型162に設けられたピン部材168がピン部168bを有し、上型の可動側鋳造金型161に設けられたケレン166が嵌合穴166aを有する点が上記第1の実施の形態と異なる。
【0044】
変形例で示す金型160は、上型の可動側鋳造金型161と下型の固定側鋳造金型162とを備えて構成される。可動側鋳造金型161は、固定された固定側鋳造金型162に対し上下に移動可能である。
固定側鋳造金型162は、中子64を下方から支持する4本のピン部材168を有し、ピン部材168は、固定側鋳造金型162に埋め込まれる柱状のピン部材本体168aと、ピン部材本体168aから可動側鋳造金型161の移動方向に延びるピン部168bとを有している。また、ピン部材本体168aは、キャビティ63内に突出し鋳造の際に孔56を形成する端部170を有している。
可動側鋳造金型161は、円柱状のケレン166を4本有し、ケレン166の端にはピン部168bの先端部168cが嵌合する嵌合穴166aが形成されている。また、ケレン166は、キャビティ63内に突出し鋳造の際に開口部54を形成する端部169を有している。
【0045】
中子64は中子支持構造90により支持され、中子支持構造90は、中子64、可動側鋳造金型161、固定側鋳造金型162、ピン部材168及びケレン166を備えている。
鋳造時において中子64は、穴部64aを4本のピン部168bが嵌合した状態で、ピン部材168の端部170とケレン166の端部169とにより上下から挟まれて支持されている。これにより、中子64は、ピン部168bの軸方向と直交する向き及び上下方向にほとんど動かないため、確実に支持される。
【0046】
このように、ピン部168bを下型の固定側鋳造金型162に設けた場合においても、中子64の穴部64aにピン部168bを嵌合させて中子64を確実に支持できる。すなわち、この変形例及び第1の実施の形態で示したように、中子64の穴部64aに嵌合して中子64を支持するピン部は、可動側鋳造金型及び固定側鋳造金型のいずれか一方の金型に設ければ良い。また、ピン部と対向して設けられるケレンは、ピン部が設けられた一方の金型と対の他方の金型に設ければ良い。
また、ピン部168bを下型の固定側鋳造金型162に設けた場合、固定側鋳造金型162から上方向に突出したピン部168bに対し、中子64をピン部168bの上方から下降させて穴部64aを嵌合させることができ、作業性が良く、さらに、中子64がその自重によりピン部材168に押し付けられて支持されるため、中子64が自重で落下するおそれが無く、中子64のセッティングが容易である。
【0047】
なお、上記第1の実施の形態は本発明を適用した一態様を示すものであって、本発明は上記実施の形態に限定されない。例えば、上記実施の形態では、中子支持構造80は、シリンダブロック10のウォータージャケット38を形成する中子64を支持するものとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の鋳造品を鋳造するための中子支持構造にも広く採用することができる。また、上記第1の実施の形態では、中子支持構造80は、単気筒のエンジン7のシリンダブロック10の鋳造に用いられる中子64を支持するものとして説明したが、これに限らず、中子支持構造80を、複数の気筒(例えば、4気筒)を有するエンジンにおけるシリンダブロック用の中子支持構造に適用しても良い。さらに、上記第1の実施の形態では、4本のピン部66bを穴部64aにそれぞれ嵌合させるものとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、4本未満、或いは、5本以上のピン部66bを穴部64aにそれぞれ嵌合させても良い。
【0048】
[第2の実施の形態]
以下、図8及び図9を参照して、本発明を適用した第2の実施の形態について説明する。
なお、この第2の実施の形態において、上記第1の実施の形態と同様に構成される部分については、同符号を付して説明を省略する。
第2の実施の形態では、ピン部266bが中子164の穴部164aを貫通しない点で上記第1の実施の形態と異なっている。
【0049】
図8は、第2の実施の形態の中子支持構造100を備えた金型260を示す断面図である。図9は、ピン部材266、中子164及びケレン268の関係を示す分解斜視図である。
金型260は、上下に移動可能な可動側鋳造金型261と、固定側鋳造金型262とに分割されて構成されている。
可動側鋳造金型261には、中子164を支持するピン部材266が4本設けられている。また、固定側鋳造金型262には、ピン部材266の反対側から中子164を支持するケレン268が4本設けられている。
【0050】
ピン部材266は、可動側鋳造金型261に埋め込まれる円柱状の基部266aと、この基部266aから可動側鋳造金型261の移動方向に延びるピン部266bとを備えている。また、図9に示すように、ピン部材266は中子164の上方の4箇所に設けられている。そして、ピン部材266は、可動側鋳造金型261に埋め込まれて固定され、ピン部266bはキャビティ63内に突出している。
【0051】
中子164は、シリンダ部36の軸方向に延在する円筒形状に形成され、この円筒形状の軸方向に延びる穴部164aを4箇所に有している。穴部164aは、可動側鋳造金型261の移動方向に延びる止まり穴であり、中子164の上面に開口し、中子164の下部まで延びている。また、穴部164aは、ピン部266bの位置に対応して設けられ、穴部164aには4本のピン部266bがそれぞれ嵌合する。さらに、中子164は、厚部64bを有している。
【0052】
中子164の上面には、鋳造の際にシリンダブロック10の開口部54を形成する凸部164cが形成されている。凸部164cは、平面視において、図3に示した長穴状の開口部54と同一の形状及び並びで6箇所に配置されている。そして、可動側鋳造金型261には、凸部164cが嵌合する凹部261aが設けられている。凹部261aは、平面視において凸部164cと同一の形状及び並びで6箇所に形成されている。シリンダブロック10の6箇所の開口部54は、鋳造の際に凸部164cにより形成される空洞である。
【0053】
ケレン268は、円柱状に形成され、ピン部266bと対向する位置に配設されている。ケレン268は、固定側鋳造金型262に埋め込まれて設けられ、中子164の下面を支持する端部270は、キャビティ63内に突出している。シリンダブロック10の4箇所の孔56は、鋳造の際に端部270により形成される空洞である。
また、ケレン268と穴部164aとピン部266bとは、孔56の位置に一致して同軸上に設けられている。
【0054】
そして、図8に示すように、中子164は、中子支持構造100により支持され、中子支持構造100は、中子164、可動側鋳造金型261、固定側鋳造金型262、ピン部材266及びケレン268を備えている。
詳細には、鋳造時において中子164は、シリンダ部36の軸方向に延びるピン部266bを有するピン部材266と、ピン部266bに対向する位置で中子164の下面を支持する4本のケレン268とにより支持されている。この状態では、ピン部266bが穴部164aに嵌合しており、中子164はピン部266bの軸方向と直交する向きにほとんど移動できないため、中子164は確実に支持される。さらに、中子164は、穴部164aに嵌合したピン部266bの先端部266d及びピン部266bの基端部266cと、ケレン268の端部270とによって上下方向から押さえられている。これにより、中子164の上下方向の移動を防止でき、中子164を確実に支持できる。
【0055】
また、中子支持構造100によれば、中子164の凸部164cが可動側鋳造金型261の凹部261aに嵌合するため、鋳造の際には、溶湯が凹部261aの隙間から凸部164cの先端付近まで回り込むこととなる。これにより、開口部54の近傍において鋳造により生じるバリは、シリンダブロック10の外側に露出するため、開口部54の近傍に生じるバリを簡単に除去できるという効果が得られる。
【0056】
なお、上記第2の実施の形態は本発明を適用した一態様を示すものであって、本発明は上記第2の実施の形態に限定されない。例えば、上記第2の実施の形態では、ケレン268と穴部164aとピン部266bとは、孔56の位置に一致して設けられるものとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、ピン部266bを孔56からずらした位置に配置しても良い。第2の実施の形態では、ピン部266bとケレン268とが嵌合しないため、ピン部266bとケレン268とを同軸上に配置しない構成も可能である。この場合、ピン部266bの配置の自由度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明を適用した第1の実施の形態に係る中子支持構造を用いて製造されるシリンダブロックを備えたオフロード系自動2輪車の側面図である。
【図2】エンジン近傍の側面断面図である。
【図3】シリンダブロックの平面図である。
【図4】図3においてシリンダブロックをA−A線で切断した断面図である。
【図5】本発明の中子支持構造を備えた金型を示す断面図である。
【図6】ピン部材、中子及びケレンの関係を示す分解斜視図である。
【図7】第1の実施の形態の変形例としての中子支持構造の断面図である。
【図8】第2の実施の形態の中子支持構造を備えた金型を示す断面図である。
【図9】ピン部材、中子及びケレンの関係を示す分解斜視図である。
【符号の説明】
【0058】
7 エンジン
10 シリンダブロック
36 シリンダ部
38 ウォータージャケット
49 溶湯供給部
54 開口部
56 孔
60、160、260 金型
61、161、261 可動側鋳造金型
62、162、262 固定側鋳造金型
63 キャビティ
64、164 中子
64a、164a 穴部
66、266 ピン部材
66b、266b ピン部
68、268 ケレン
68a 嵌合穴
80、90、100 中子支持構造
166 ケレン
166a 嵌合穴
168 ピン部材
168b ピン部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定側鋳造金型と可動側鋳造金型との間で形成されるキャビティ内に設けられ、前記キャビティ内に溶湯が供給されると、該部分が空洞として形成される中子を備える中子支持構造において、
前記中子には、可動側鋳造金型の移動方向に延びる穴部を設け、いずれか一方の金型には、前記穴部に嵌合することにより前記中子を支持するピン部を設けたこと、を特徴とする中子支持構造。
【請求項2】
いずれか他方の金型に、前記ピン部と対向するケレンを設けたこと、を特徴とする請求項1に記載の中子支持構造。
【請求項3】
前記ピン部は前記中子の穴部を貫通し、前記ピン部の先端部が、前記ケレンの嵌合穴に嵌合すること、を特徴とする請求項2に記載の中子支持構造。
【請求項4】
前記ピン部は、前記可動側鋳造金型に設けられたこと、を特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の中子支持構造。
【請求項5】
前記ピン部は、前記固定側鋳造金型に設けられたこと、を特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の中子支持構造。
【請求項6】
前記金型がクローズドデッキ型のシリンダブロックの鋳造用の金型であり、前記中子によって、前記シリンダブロックのウォータージャケットが形成されること、を特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の中子支持構造。
【請求項7】
前記シリンダブロックの端面に、前記ウォータージャケットに連通し、エンジンの冷却水が通る長穴状の開口部を備え、前記中子が砂中子であり、鋳造後に、前記開口部から前記中子の前記穴部に当該穴部の径よりも大きい壊し棒を入れ、前記中子を壊すこと、を特徴とする請求項6に記載の中子支持構造。
【請求項8】
前記中子は、単気筒内燃機関用のシリンダブロックの鋳造に用いられる中子であって、その4隅に前記ピン部が挿入される前記穴部が設けられたこと、を特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の中子支持構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate