説明

中層浮藻場

【課題】 昆布などの根が絡み付く種類の海藻だけでなく、ホンダワラなどの横方向に根が張る種類の海藻の生育にも用いることができ、しかも着生部と浮力体5をアンカー3につなぎ止める係留索2の破断を抑制することができる中層浮藻場を提供する
【解決手段】 着生部である海藻生育水平基盤4と、該海藻生育水平基盤4の下部に設けられた浮力体5とが、係留索2を介して所定の水深位置にアンカー3で係留される中層浮藻場であって、係留索2を、比重が大きくしかも耐摩耗性に優れる金属ワイヤー又はチェーンで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着底式の剛構造物の設置による海藻育成促進が困難な海域に海藻群落を形成するために用いられる中層浮藻場に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、中層浮藻場としては、縦綱と横綱を格子状に接合した格子状綱棚の各格子目に、海藻の着生部である網を取り付けたものを、海面上の浮力体から所用の水深位置に吊り下げると共に、海底に設けた固定ブロックなどのアンカーにロープでつないで係留したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、枠状のフレームに、海藻の着生部である網と、浮力体としてのボードとを設けたものを、海底に設けたアンカーにロープでつないで所用の水深位置に係留したものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2003−47364号公報
【特許文献2】特開昭62−36126号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の中層浮藻場は、着生部が、格子状の綱で支持された網で構成されており、しかも海面上の浮力体から吊り下げられていることから、波によって浮力体が上下するに伴って絶えず波打ち、水平を維持しにくい。このため、昆布などのように根が絡み付く種類の海藻(以下「昆布類」という)を生育させることはできるものの、ホンダワラなどのように横方向に根が張る種類の海藻(以下「ホンダワラ類」という)の生育が難しい問題がある。
【0006】
一方、特許文献2に記載の中層浮藻場は、着生部と浮力体がほぼ一体となって共に海中に位置することから、上記特許文献1の中層浮藻場ほど波の影響を受けないが、荒天時に係留索として用いているロープが破断しやすい問題がある。さらに説明すると、中層浮藻場の着生部は、通常、水深10m以浅に設けられるが、20mを超えるような高波が発生する荒天時には、波の谷部の接近によって着生部と浮力体が海面上に露出し、波の谷底に向かって沈み込んだ後、波の峯部の接近によって元の位置まで浮上することが繰り返される。これによって、着生部と浮力体をアンカーにつなぎ止めているロープは、弛んだ状態から一気に緊張した状態へ引っ張られる衝撃を繰り返し受けると共に、弛んだときに垂れ下がって海底に接触する部分が繰り返し海底に擦り付けられて破断するに至ることになる。
【0007】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたもので、昆布類だけでなく、ホンダワラ類の生育にも用いることができ、しかも着生部と浮力体をアンカーにつなぎ止める係留索の破断を抑制することができる中層浮藻場を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的のために、本発明は、海藻生育水平基盤と、該海藻生育水平基盤の下部に設けられた浮力体と、海藻生育水平基盤および浮力体を海底のアンカーに係留するための係留索とからなる中層浮藻場において、係留索が、金属ワイヤー又はチェーンで構成されていることを特徴とする中層浮藻場を提供するものである。
【0009】
また、上記本発明は、係留索の中間部に重りが取り付けられていることをその好ましい態様として含むものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の中層浮藻場は、着生部である海藻生育水平基盤と浮力体が共に所定の水深位置(通常水深10m以浅)に係留されるものであることから、海藻生育水平基盤を水平に保ちやすく、昆布類だけでなく、ホンダワラ類の生育にも用いることができる。
【0011】
また、本発明の中層浮藻場の係留索は、金属ワイヤー又はチェーンで構成されており、比重が大きいことから、荒天時に着生部である海藻生育水平基盤と浮力体が沈み込んでから元の位置へと浮上するときの浮上力を押え、衝撃を緩和することができる。加えて、金属ワイヤー又はチェーンは耐摩耗性に優れていることから、海底との接触による損傷も抑制することができ、これらによって荒天時の破断を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面に基づいて本発明をさらに説明する。なお、以下で説明する各図において、同じ符号は同様の部材又は部位を示す。
【0013】
図1は本発明に係る中層浮藻場の第1の例を示す側面図、図2は図1に示される中層浮藻場の本体部の平面図である。
【0014】
図中、1は本体部、2は係留索、3はアンカーである。
【0015】
本体部1は、海藻の着生部である海藻生育水平基盤4と、浮力体5で構成されている。
【0016】
海藻生育水平基盤4は、図2に明示されるように、直径の異なる複数の環材4aを複数の棒材4bで連結したものとなっている。海藻生育水平基盤4は、水平形状を維持できる剛性を備えたもので、これを構成する環材4aと棒材4bは、例えば繊維強化プラスチックや金属(例えば防食処理を施した鋼材、ステンレススチールなど)などの剛性材料で構成されている。
【0017】
浮力体5は、上記海藻生育水平基盤4の下部に、上記海藻生育水平基盤4との間に適宜の隙間をあけて取り付けられている。浮力体5としては、中空構造物、発泡プラスチック成形体、エアバッグなどを用いることができる。
【0018】
係留索2は、比重が大きく、耐摩耗性に優れた金属ワイヤー又はチェーンで構成されている。係留索2を構成する金属としては、例えば防食処理を施した鉄、鋼材やステンレススチール等を用いることができる。
【0019】
前記本体部1と係留索2間は、本体部1を係留索2に対して安定させることができるよう、それぞれ上端が本体部1の異なる位置に取り付けられた複数本の縦連結索6を介して連結されている。縦連結索6としては、複数本を用いることで、全体として係留索2と同等以上の強度が得やすく、しかも係留索6よりも上方に位置し、海底7に擦り付けられる心配もないことから、繊維材料で構成されたロープを用いることができる。
【0020】
係留索2の下端が連結されているアンカー3は、本体部1が流されないように、所定の位置に係留しておくためのもので、通常、コンクリート構造物などの重量物が用いられる。
【0021】
本例の中層浮藻場は、昆布類の生育に適したもので、その生育は、海藻生育水平基盤4に昆布類の種糸を巻き付けた基質をを取り付けておくことで行うことができる。
【0022】
ホンダワラ類の生育に際しては、図3及び図4に示されるように、海藻生育水平基盤4の上面にネット8を張っておき、このネット8にホンダワラ類をくくり付けることが好ましい。くくり付けは、ホンダワラ類下部の二股分岐部をバンドや紐などで縛り付けることで行うことが好ましい。
【0023】
図3に示されるように、海藻生育水平基盤4の内周部分のみにネット8を張ると、外周部分で昆布類を育成すると同時に、内周部分でホンダワラ類の育成を行うことができる。図示される態様とは逆に、ネット8を外周部分にのみに張ることもできる。
【0024】
図4に示されるように、海藻生育水平基盤4の上面前面にネット8を張ることもできる。この場合、主にホンダワラ類を育成するのに適した中層浮藻場となる。
【0025】
図5は本発明に係る中層浮藻場の第2の例を示す側面図である。
【0026】
本例の中層浮藻場は、それぞれ上端が本体部1の異なる箇所に連結された複数の係留索2と、それぞれ係留索2の下端が連結され、しかも間隔をあけて配置された複数のアンカー3を備えたものとなっている。このようにすると、流れの速い海域に設置した場合でも、流れによる倒れ込みを防止しやすくなる。
【0027】
図6は本発明に係る中層浮藻場の第3の例を示す平面図、図7は図6に示される中層浮藻場の側面図である。
【0028】
本例においては、図1で説明した中層浮藻場を1ユニットとして、同じ海域に複数ユニットが併設されており、各ユニットの本体部1間が横連結索9で連結されている。このようにすると、広い領域に中層浮藻場を形成することができると同時に、流れの速い海域でも倒れ込みを防止することができる。
【0029】
図8は本発明に係る中層浮藻場の第4の例を示す側面図である。
【0030】
本例の中層浮藻場は、基本的には図1の第1の例と同様であるが、係留索2の中間部に重り10が取り付けられている点が相違している。この重り10を取り付けておくと、荒天時の高波で本体部1が浮沈を繰り返す際に、重りによって浮上力を大きく抑制することができ、浮上に伴って係留索2に加わる緊張衝撃を大きく緩和することができる。また、設置海域の深さの変動に伴って係留索2の長さが変動し、使用係留索2の全重量も変動するが、これを重り10の交換で調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る中層浮藻場の第1の例を示す側面図である。
【図2】図1に示される中層浮藻場の本体部の平面図である。
【図3】本体部の他の例を示す平面図である。
【図4】本体部のさらに他の例を示す平面図である。
【図5】本発明に係る中層浮藻場の第2の例を示す側面図である。
【図6】本発明に係る中層浮藻場の第3の例を示す平面図である。
【図7】図6に示される中層浮藻場の側面図である。
【図8】本発明に係る中層浮藻場の第4の例を示す側面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 本体部
2 係留索
3 アンカー
4 海藻生育水平基盤
4a 環材
4b 棒材
5 浮力体
6 縦連結索
7 海底
8 ネット
9 横連結索
10 重り

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海藻生育水平基盤と、該海藻生育水平基盤の下部に設けられた浮力体と、海藻生育水平基盤および浮力体を海底のアンカーに係留するための係留索とからなる中層浮藻場において、係留索が、金属ワイヤー又はチェーンで構成されていることを特徴とする中層浮藻場。
【請求項2】
係留索の中間部に重りが取り付けられていることを特徴とする中層浮藻場。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−14236(P2007−14236A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−197100(P2005−197100)
【出願日】平成17年7月6日(2005.7.6)
【出願人】(504196300)国立大学法人東京海洋大学 (83)
【出願人】(390018717)旭化成建材株式会社 (249)
【出願人】(000182030)若築建設株式会社 (39)
【Fターム(参考)】