説明

中性子吸収作用を有するホウ素含有金属基複合材料及びその製造方法

【課題】 中性子吸収能を持ち、しかも、従来材と比較してコストや加工性の面でも優れている、中性子吸収能を備えたアルミニウム複合材とアルミニウム合金のサンドイッチ構造からなる板材を提供する。
【解決手段】 本発明による中性子吸収能を備えた板材は、Al又はAl合金母相中に中性子吸収能を有するB4Cを含有し、非加圧焼結されたことを特徴としているアルミニウム複合材とその両側に加工容易なアルミニウム層を一体化させたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再臨界防止作用や中性子吸収作用を有し、中性子を放射する使用済み核燃料の輸送容器や貯蔵容器等の素材として有用な炭化ホウ素含有金属基複合材料とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
使用済み核燃料を再臨界状態とすることなく、且つ放射線を過度に漏洩させることなく安全に輸送及び貯蔵するための手段として、その容器自体(例えば、燃料集合体を収納するためのバスケットなど)の設計や、用いる材料に関して種々の検討が行われている。これらの用途に用いられる材料には、材料自体に中性子などの吸収能力があること、及び使用済み核燃料を効率よく冷却できること、等の特性が要求される。中性子吸収用材料としては、従来からホウ素を含有させたAl基合金や複合材料、ホウ素含有物質をAl板でサンドイッチしたボラールと呼ばれている材料が多用されており、使用済み核燃料の輸送容器や貯蔵容器等の構成材料として用いられている。
【0003】
特許文献1で開示されている方法は、中性子線吸収能の高い同位体ホウ素10Bの濃度を高めることより、Al中への総ホウ素量を抑え、合金材料の中性子線吸収作用と機械的特性の両立を図っている。しかしながら、同位体ホウ素10Bは価格的にも高価である点が問題となっている。また、古くから使用されているボラールと称される材料は、ホウ素含有層の強度不足により、使用済み核燃料の輸送或いは貯蔵容器に使用するには不安がある。特許文献2で開示されている方法は、ホウ素源として安価なB4Cを用い、Al粉と加圧焼結することで目的とする複合材料を作成している。
【特許文献1】特開2003−268471号
【特許文献2】特開2001−042089号
【0004】
一般に金属基複合材料の安価な製造方法としては、特許文献3で紹介されている非加圧浸透法がある。これは金属マトリックスに強化材を複合させたものである。この方法は強化材の体積比率が50%以上のものに適しており、伸びなど、ここで要求されている機械的特性を満たすには強化材の体積比率が高すぎるし、B4Cを強化材として用いると中性子線吸収能に関しては過剰である。非加圧浸透法で強化材の濃度の低いものを作成する方法は、特許文献4に開示されており、40〜50%程度の複合材を非加圧浸透法で作成し、それを再度溶解し、所定の量にマトリックスの合金で希釈するというものである。この手法は強化材がSiCの場合には実用化されているものの、B4Cに適用すると、B4Cとマトリックス金属であるアルミニウムの間で反応するらしく、非加圧浸透によりB4CとAlの複合材料はできるものの、それを希釈するために再度溶解しようとして加熱しても、溶解しないという問題があった。非加圧浸透法において、強化材の充填率を可変にする方法としては、特許文献5がある。この方法でB4Cを含む複合材料を作成することは可能だが、必要な板形状にするためには、加工しにくい複合材料の加工が必要で、安価な製造方法とはいいがたい。
【特許文献3】特許第2641901号
【特許文献4】特許第2905520号
【特許文献5】特許第2905521号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、ホウ素を含むAl合金は、中性子吸収能を高めるために、極めて高価な濃縮ボロンを使用するなど、生産コストを大幅に上昇させる前提条件が多く、工業レベルでの実用化は困難であった。また、B4Cの含有量が30〜40重量%と高いボラールは、加工性に問題があって構造材としては使用できない状況にある。このような背景から、Bの含有量を増して高い中性子吸収能を有するのは勿論のこと、引張強さや伸び等の機械的性質にも優れていて、加工が容易で構造材として使用可能な中性子吸収能を備えたAl基複合材料及びその安価な製造方法が望まれていた。
そこで本発明は、上記のような現状に鑑み、研磨材あるいは耐火物材料として市中で安価に流通している通常のB4Cを使用し、必要な中性子遮蔽能と強度特性をバランスよく満たすAl基複合材料を、非加圧浸透法を利用して安価に製造する方法を創出したものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため以下の手段を採用した。
a)充填材としてホウ素又はホウ素化合物(例えばB4C)を用い、
b)マトリックス金属(例えばアルミニウム粉末)を前記充填材と混合すること及び(又は)前記充填材にマトリックス金属を被覆することによって通気性素材を形成し、
c)前記通気性素材の上下及び/又は左右の両側に隣接するように、浸透後も十分に残る程度の過剰のマトリックス金属源を配し、
d)前記マトリックス金属をその融点を上回る温度領域まで加熱して溶融マトリックス金属を形成し、そして
e)浸透雰囲気を、当該プロセスの間の少なくともある時点で、かつ浸透増進剤又は浸透増進剤前駆体の少なくとも一方を供給して、前記溶融マトリックス金属を前記通気性素材に自発的に浸透させること、
f)更には、浸透後に残された加工しやすいマトリックス金属層を加工すること
により、所定の厚さになるホウ素−金属複合材料(例えばB4C−Al複合材)とマトリックス金属(例えばAl)のサンドイッチ構造を有する材料を形成する方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
上述した本発明の中性子吸収能を備えた金属基複合材の製造方法によれば、以下の効果を奏する。アルミニウム又はアルミニウム合金粉末に中性子吸収能を有するB4Cの粉末を添加して混合した後、非加圧浸透法を用いて製造した金属マトリックス複合材は、従来の溶解法や加圧焼結法に比べて低コストでの製造が可能になる。また、浸透に必要な量より過剰のAlを複合材の両側に用意することにより、浸透後に複合材より易加工のAl層が一体化されて形成されるため、浸透後の加工が容易となる。すなわち、本発明を用いることで、高い中性子吸収能を有するのみならず、低価格で構造部材として好適な金属マトリックス複合材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
定義
本明細書で使用する「アルミニウム」とは、実質的に純粋な金属(例えば、比較的純粋で市販されている未合金化アルミニウム)又は不純物及び/若しくは鉄、珪素、銅、マグネシウム、マンガン、クロム、亜鉛等の合金成分を有する市販の金属等の他のグレードの金属及び金属合金を意味するとともにそれらを含む。この定義で用いているアルミニウム合金は、アルミニウムが主成分である合金又は金属間化合物である。
本明細書で使用される「浸透雰囲気(Infiltrating atmosphere)」とは、マトリックス金属及び/又は充填材及び/又は浸透増進剤前駆体及び/又は浸透増進剤と相互作用し、マトリックス金属の自発浸透を生じさせ又は促進させる存在雰囲気を意味する。
本明細書で使用される「浸透増進剤(Infiltration Enhancer)」とは、マトリックス金属が充填材に自発浸透するのを促進又は補助する物質を意味する。浸透増進剤は、例えば、浸透増進剤前駆体を浸透雰囲気と反応させて、(1)ガス状物及び/又は(2)浸透増進剤前駆体と浸透雰囲気との反応生成物及び/又は(3)浸透増進剤前駆体と充填材との反応生成物を生成することにより製造できる。更に、浸透増進剤は、充填材及び/又はマトリックス金属及び/又は浸透雰囲気の少なくとも一つに直接供給して、浸透増進剤前駆体と別の種との間の反応で生成させた浸透増進剤と実質的に同様の方法で作用させてもよい。基本的には、少なくとも自発浸透中は、浸透増進剤は自発浸透を達成するために充填材の少なくとも一部分に位置していなければならない。
本明細書において使用される「浸透増進剤前駆体(Infiltration Enhancer Precurcor)」とは、マトリックス金属及び/又は浸透雰囲気と組み合わせて使用すると、マトリックス金属の充填材への自発浸透を誘発又は補助する物質を意味する。特別な原理又は説明には限定されないが、浸透増進剤前駆体が浸透雰囲気及び/又は充填材及び/又は金属と相互作用できる位置に、浸透増進剤前駆体が配置若しくは移動できることが必要である。例えば、あるマトリックス金属/浸透増進剤前駆体/浸透雰囲気系では、浸透増進剤前駆体が、マトリックス金属の溶融温度、その近くの温度又は場合によってはそれよりもいくらか高い温度で揮発することが望ましい。このような揮発により、(1)浸透増進剤前駆体と浸透雰囲気との反応による、マトリックス金属による充填材の湿潤を増進するガス状物の生成;及び/又は(2)浸透増進剤前駆体と浸透雰囲気との反応による、充填材の少なくとも一部に湿潤を増進する固体状、液状又はガス状浸透増進剤の生成;及び/又は(3)充填材の少なくとも一部分内において湿潤を増進する固体状、液状又はガス状浸透増進剤を生成する充填材の浸透増進剤前駆体の反応が生じる。
【0009】
本発明においては、ホウ素又はホウ素化合物を充填材として用いる。特に、価格及び入手の容易さの点でB4Cが好ましい。ホウ素又はホウ素化合物は粉末状として用いるのがよいが、顆粒状であってもよい。
【0010】
次に、前記充填材をマトリックス金属と混合すること及び(又は)前記充填材にマトリックス金属を被覆することによって通気性素材を形成する。例えば、充填材と粉末状マトリックス金属を混合した後、単に型に入れて均し充填率の低い通気性素材にするか、加圧成型して板状にしてもよく、また、充填材とマトリックスの混合状態を良くするために、充填材をマトリックス金属で被覆した粉末を使ってもよい。被覆には、メッキ、溶射またはメカノケミカル反応などが利用できる。粉末状の充填材と、粉末状のマトリックス金属を混合するのが簡便であるが、この場合、両者が均一に混ざるようにするため、ともに平均粒径10〜数10μm程度の粉末とするのがよい。
【0011】
ここで、通気性素材の形成にあたっては、通気性素材中のマトリックス金属の含有量が1〜98体積%とするのが好ましい。含有量が1体積%未満では、得られる板材の機械的強度が不足する。また、98体積%を越えると、相対的にホウ素又はホウ素化合物の含有量が小さくなり、中性子吸収の能力が不足する可能性がある。
【0012】
次に、前記通気性素材に上下及び/又は左右の両側に隣接するように、浸透後も十分に残る程度の過剰のマトリックス金属源を配する。すなわち、通気性素材の相対する側面の両側に、該通気性素材をはさむようにマトリックス金属源を配する。例えば、図1に示すように、板状に成型或いは堆積した通気性素材の上面及び下面をマトリックス金属からなる材料(板など)に接触させるのがよい。この際、マトリックス金属源に含まれるマトリックス金属の量が、前記通気性素材へ浸透する量より十分過剰であるようにする。例えば、通気性素材に浸透する理論的な量(通気性素材の嵩密度と作成される金属複合材の理論密度の差から求められる)の2倍程度とするのがよい。
【0013】
次に、マトリックス金属源を配した状態の通気性素材を加熱し、溶融マトリックス金属を形成する。加熱の温度は、マトリックス金属の融点を上回る温度であればよい。加熱の方法は限定されないが、例えば電気炉にマトリックス金属源と通気性素材を入れ、両者を接触させた状態のまま加熱するといった方法がよい。
【0014】
さらに、前記a)からd)までのプロセスにおける少なくともある時点で浸透雰囲気を供給するとともに、浸透増進剤又は浸透増進剤前駆体の少なくとも一方を供給することにより、前記溶融マトリックス金属を前記通気性素材に自発的に浸透させる。浸透雰囲気は、通気性素材を加熱する段階の最初から最後まで連続して供給してもよく、プロセスの途中で供給を止めてもよい。少なくとも、溶融マトリックス金属の形成までに供給し、その後も加熱終了まで供給し続けるのが好ましい。また、前記浸透性雰囲気が浸透の期間の少なくとも一部について前記通気性素材及び前記溶融マトリックス金属の少なくとも一方と連通状態にあることが好ましい。
【0015】
ここで、浸透増進剤又は浸透増進剤前駆体を供給するには、それらをあらかじめ通気性素材に混合しておくか、通気性素材に隣接して配するマトリックス金属源にあらかじめ添加しておくか、又は浸透雰囲気に混合して供給するか、いずれの方法も可能である。
【0016】
本発明で用いるマトリックス金属としては、典型的には金属アルミニウムであるが、アルミニウムを主成分とする合金であってもよい。具体的には、入手しやすい1050合金や5052合金等が挙げられる。また、浸透増進材前駆体としては金属マグネシウムのほか、AlMgも使用することができる。浸透雰囲気としては、窒素が好ましい。
【0017】
さらに、充填材に用いるホウ素化合物は、価格及び入手の容易さから、B4Cがもっとも好ましい。しかし、BNや酸化ホウ素等を用いてもよい。
【0018】
以上のようなプロセスを経て、例えば図3に示すような、内部はホウ素化合物とマトリックス金属からなる金属基複合材料で、外部はマトリックス金属からなる板状材料を得ることができる。この板状材料の外部のマトリックス金属部分は内部の金属基複合材料よりも加工が容易であり、必要に応じてその厚さを切削などの機械加工により調節することができる。この際、あらかじめ外部のマトリックス金属層の厚さを試験的に把握しておき、その厚さの範囲で加工するようにする。このような方法により、内部の金属基複合材料部分を損なうことなく加工することができる。
【実施例1】
【0019】
以下、本発明に係る中性子吸収能を備えたアルミニウム複合材及びその製造方法の一実施形態を説明する。以下の実施形態では、充填材としてB4C、粉末状のマトリックス金属としてアルミニウム粉末、溶融マトリックス金属の金属源としては1050合金という組成のアルミニウム合金、浸透雰囲気として窒素、浸透増進材前駆体として金属マグネシウム粉末を用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。
約7重量%のB4C、その4重量%に相当するマグネシウム及び残りを有する組成の粉末アルミニウム合金からなる混合物(通気性素材)1を、厚さ約5mmのアルミニウム合金板(マトリックス金属源)2の上に約8mm堆積し、更にその上に同じ合金板3をのせた(図1)。
【0020】
図1に示す状態の通気性素材及びアルミニウム合金版を窒素雰囲気炉において、790℃まで約3時間半で昇温し、2時間キープし、自然冷却することで非加圧浸透を実現した(図2)。作成されたものは、真ん中にB4CとAlからなる金属基複合材料4であり、浸透前の混合物の空隙に上下から更にアルミニウム合金が供給され、金属基複合材料中のB4Cの濃度としては約5%になっていた。また、上下のアルミニウム合金板5及び6は必要な供給量よりはるかに過剰であるため、浸透後も2-3mmの厚さで残っていた。これを両側とも約1mmtに加工することにより、総厚10mmで中央にB4CとAlによる複合体4を含みその両側にAl層5及び6を持つサンドイッチ構造の中性子吸収能を備えた板材を作成することができた(図3)。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例における通気性素材とマトリックス金属源の浸透前のレイアップの略断面図である。
【図2】実施例における通気性素材とマトリックス金属源の浸透後の略断面図である。
【図3】実施例における板状材料の加工後の略断面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 ホウ素化合物と粉末状マトリックス金属の混合層(浸透前)
2 マトリックス金属源(浸透前)
3 マトリックス金属源(浸透前)
4 ホウ素化合物とマトリックス金属の複合層(浸透後)
5 浸透後に残存したマトリックス金属源
6 浸透後に残存したマトリックス金属源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属マトリックス複合体を形成する方法であって、下記の工程:
a)充填材としてホウ素又はホウ素化合物を用い、
b)マトリックス金属を前記充填材と混合すること及び(又は)前記充填材にマトリックス金属を被覆することによって通気性素材を形成し、
c)前記通気性素材の上下及び/又は左右の両側に隣接するように、浸透後も十分に残る程度の過剰のマトリックス金属源を配し、
d)前記マトリックス金属をその融点を上回る温度領域まで加熱して溶融マトリックス金属を形成し、そして
e)浸透雰囲気を、当該プロセスの間の少なくともある時点で、かつ浸透増進剤又は浸透増進剤前駆体の少なくとも一方を供給して、前記溶融マトリックス金属を前記通気性素材に自発的に浸透させること、
を含んでなることを特徴とする金属マトリックス複合体の形成方法。
【請求項2】
前記浸透雰囲気が、前記の浸透の期間の少なくとも一部について、前記通気性素材及び前記溶融マトリックス金属の少なくとも一方と連通状態にある、特許請求の範囲第1項に記載の形成方法。
【請求項3】
前記浸透増進剤前駆体及び前記浸透増進剤の少なくとも一方を、前記溶融金属マトリックス、前記通気性素材及び前記浸透雰囲気の少なくとも1つに供給する、特許請求の範囲第1項又は第2項に記載の形成方法。
【請求項4】
前記通気性素材が1〜98体積%のマトリックス金属を含む、特許請求の範囲第1項〜第3項のいずれか1項に記載の形成方法。
【請求項5】
前記マトリックス金属がアルミニウムを含み、前記浸透増進剤前駆体がマグネシウムを含み、そして前記浸透雰囲気が窒素を含む、特許請求の範囲第1項に記載の形成方法。
【請求項6】
前記充填材のホウ素化合物がB4Cである、特許請求の範囲第1項に記載の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−118952(P2006−118952A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−306340(P2004−306340)
【出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】