説明

中性子検出器のカソードおよびその製造方法

【課題】中性子検出器のカソード基材とウラン酸化物コーティング層との密着性を向上させた中性子検出器のカソードおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るカソードは、カソード基材1と、前記カソード基材1に形成された金属中間層2と、前記金属中間層に形成されたウラン酸化物コーティング層3を備え、前記金属中間層2の形成後及びウラン酸化物コーティング層3の形成後に熱処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電プラント等の放射線取扱施設で用いられる中性子検出器のカソードおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラント、例えば沸騰水型原子炉では、原子炉の出力を監視するために中性子検出器を炉内に設置して原子炉内の中性子束を計測している。
このような従来の中性子検出器を図7により説明する。中性子検出器30は、本体ケース31の内周に設置された円筒状のカソード33と、中心部に設置された棒状のアノード32と、絶縁支持部材34と、本体ケース内に封入された充填ガス35と、計装配管36等から構成される。カソード33は例えばNi基合金からなり内面にウラン酸化物が塗布され、ウラン酸化物コーティング層37を形成している。この中性子検出器に中性子が入射するとカソード33内面のウラン酸化物コーティング層37中に含まれるウランが核分裂し、核分裂の際に放出された電離放射線により充填ガス35が電離し、その電離電流を計測することで中性子を検出している。
【0003】
このような中性子検出器を長期に亘って安定的に使用するために、ウラン酸化物がカソード内面から剥離したり、部分的に脱落しないように、ウラン酸化物コーティング層とカソード内面との密着性を高める必要がある。
【0004】
そのために、ウラン酸化物コーティング層が形成されるカソード基材に対し、カソード基材の前処理として、カソード基材の表面に凹凸を付与しアンカー効果によるウラン酸化物コーティングの密着性向上を図るために表面ブラスト処理を行うことが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−57583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ブラスト処理を用いた従来のカソードでは、ブラスト粒子がカソード基材の表面に不均一に残留しており、使用中にカソード基材の表面から脱離したブラスト粒子により、本来であれば絶縁状態にあるアノードとカソード間が短絡する不具合が生じる可能性がある。
【0007】
また、中性子検出器は使用中、高温になることからカソード基材とウラン酸化物コーティング層の熱膨張差に起因する応力により、ウラン酸化物コーティング層がカソード基材表面から剥離し、その結果、中性子検出器の寿命が低下する恐れがある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、中性子検出器のカソード基材とウラン酸化物コーティング層との密着性を向上させた中性子検出器のカソードおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る中性子検出器のカソードは、カソード基材と、前記カソード基材に形成された金属中間層と、前記金属中間層に形成されたウラン酸化物コーティング層を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る中性子検出器のカソードは、カソード基材と、前記カソード基材に形成された金属分散層と、前記金属分散層に形成されたウラン酸化物コーティング層を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る中性子検出器のカソードの製造方法は、前記金属中間層又は金属分散層の形成後及びウラン酸化物コーティング層の形成後に熱処理を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、中性子検出器のカソード基材とウラン酸化物コーティング層との密着性を向上させることにより、ウラン酸化物の剥離や脱落が抑制され、これにより中性子検出器を長期にわたって安定的に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1の実施形態に係るカソードの断面構成図。
【図2】第2の実施形態に係るカソードの断面構成図。
【図3】第3の実施形態に係るカソードの断面構成図。
【図4】第4の実施形態に係るカソード製造装置の例。
【図5】第4の実施形態に係るカソード製造装置の変形例。
【図6】第4の実施形態に係るカソード製造装置の他の変形例。
【図7】従来の中性子検出器の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、上記課題を解決するために、カソード基材とウラン酸化物コーティング層との間に中間層を設け、コーティング後の熱処理により、カソード基材及びウラン酸化物コーティング層と中間層との間の相互拡散により拡散層を形成させ、ウラン酸化物コーティング層を化学的に密着させることにより、各層相互の密着性を向上させたことを特徴としている。
【0015】
中間層はカソード基材であるNi基合金及びウラン酸化物コーティング層とそれぞれ化合物を形成する材質とする。また、中間層はカソード基材表面全体を覆うような均質な薄膜状であっても、微粒子を均一にカソード表面に分散させた分散層であってもよい。
以下、本発明に係る中性子検出器のカソードおよびその製造方法について説明する。
【0016】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る中性子検出器のカソードを図1により説明する。
本実施形態のカソードは、例えばNi基合金からなるカソード基材1、金属中間層2及びウラン酸化物コーティング層3から構成される。
【0017】
金属中間層2の材質として、鉄、ニッケル又はシリコンのいずれかの金属又はそれらの合金が用いられる。カソード基材1に金属中間層2を形成した後、その表面にウラン酸化物をコーティングしウラン酸化物コーティング層3を形成する。
【0018】
各層を形成した後に熱処理を行い、カソード基材1及びウラン酸化物コーティング層3と金属中間層2との間でそれぞれ拡散層を形成する。これにより各層は化学的に密着し、カソード基材とウラン酸化物コーティング層の密着性が向上する。
【0019】
本実施形態によれば、中性子検出器のカソード基材とウラン酸化物コーティング層との間に金属中間層を介在させることで、カソード基材とウラン酸化物コーティング層との密着性を向上させることが可能となり、これにより、ウラン酸化物の剥離や脱落が抑制され、中性子検出器を長期にわたって安定的に使用することができる。
【0020】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る中性子検出器のカソードを図2により説明する。
本実施形態のカソードは、カソード基材1、金属中間層2a、金属中間層2b、及びウラン酸化物コーティング層3から構成される。
【0021】
金属中間層2a、2bの材質として、カソード基材1側の金属中間層2aはニッケルが用いられ、ウラン酸化物コーティング層3側の金属中間層2bは鉄又はシリコンが用いられる。
【0022】
各層を形成した後に熱処理を行い、金属中間層2aはカソード基材1と、金属中間層2bはウラン酸化物コーティング層3とそれぞれ拡散層を形成する。これにより各層は化学的に密着し、カソード基材とウラン酸化物コーティング層の密着性が向上する。
【0023】
本実施形態によれば、中性子検出器のカソード基材とウラン酸化物コーティング層との間に2層の金属中間層を介在させることで、カソード基材とウラン酸化物コーティング層との密着性をより向上させることが可能となる。
【0024】
(第3の実施形態)
第3の実施形態に係る中性子検出器のカソードを図3により説明する。
本実施形態のカソードは、カソード基材1、金属分散層4、及びウラン酸化物コーティング層3から構成される。
【0025】
金属分散層4は、被膜状ではなく、粒径が10μm以下の微粒子がカソード基材1の表面に均一に分散した状態である。
これは、ウラン酸化物コーティング層3は、約10μmの大きさの微粒子が約2μmの間隔で均一に分布しているため、10μm以上の粒径を有する金属分散層ではウラン酸化物コーティング層3の多数の微粒子を効果的に密着させることが困難となるためである。
【0026】
金属分散層4の材質は鉄、ニッケル、シリコンのいずれかの金属又はそれらの合金が用いられる。
金属分散層4をカソード基材1に形成する場合は、当該金属分散層の材質で作製したノズルを用い、ノズルから酸化物微粒子をカソード内面に高速噴射することで、ノズル先端部から脱離した金属微粒子がカソード内面に均一に付着し、これにより金属分散層4が形成される。
【0027】
また、各層を形成した後に熱処理を行い、金属分散層3の微粒子はウラン酸化物コーティング層3及びカソード基材1との間に拡散層を形成する。これにより、表面形状によるアンカー効果と合わせてウラン酸化物コーティング層3とカソード基材1との密着性が向上する。
【0028】
本実施形態によれば、中性子検出器のカソード基材とウラン酸化物コーティング層との間に金属分散層を介在させることで、カソード基材とウラン酸化物コーティング層との密着性をより向上させることが可能となる。
【0029】
(第4の実施形態)
第4の実施形態に係る中性子検出器のカソードの製造方法を図4により説明する。
本実施形態では、金属中間層2、2a、2bをメッキ又は物理蒸着法によりカソード基材1に形成する。メッキは、電解メッキ又は無電解メッキが用いられる。
【0030】
物理蒸着法により、金属中間層を形成する場合は、図4に示すように、発熱体であるタングステンコイル7に蒸着源8として中間層材質からなる箔をのせ、これをカソード基材1の中心に設置し、真空中で通電過熱することでカソード基材1の内周面にのみ金属中間層2、2a、2bを形成する。
【0031】
また、変形例として、図5に示すように中間層材質からなる蒸着源8を付着又は被覆させたタングステンワイヤ9を用いてもよい。この場合、タングステンワイヤ9が発熱体兼蒸着源となる。
【0032】
さらに、他の変形例として、スパッタリング法により金属中間層2、2a、2bを形成してもよい。この場合、図6に示すように、絶縁セラミックス10によりカソード基材1を保持し、カソード基材1内に希ガスを封入して、カソード基材1の中心にスパッタリングターゲットとして中間層材質からなるワイヤ13を設置する。カソード基材1を正極、中間層物質のワイヤ13を陰極として電圧を印加し、希ガスをプラズマ化することでカソード基材1の内周面に金属中間層2、2a、2bを形成する。
【0033】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、組み合わせ、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0034】
1…カソード基材、2、2a、2b…金属中間層、3…ウラン酸化物コーティング層、4…金属分散層、7…タングステンコイル、8…蒸着源、9…タングステンワイヤ、10…絶縁セラミックス、11…希ガス、12…電源、13…スパッタリングターゲット、30…中性子検出器、31…本体ケース、32…アノード、33…カソード、34…絶縁支持部材、35…充填ガス、36…計装配管、37…ウラン酸化物コーティング層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード基材と、前記カソード基材に形成された金属中間層と、前記金属中間層に形成されたウラン酸化物コーティング層を備えることを特徴とする中性子検出器のカソード。
【請求項2】
前記金属中間層の材質が鉄、ニッケル、シリコンのいずれかの金属又はそれらの合金からなることを特徴とする請求項1記載の中性子検出器のカソード。
【請求項3】
前記中金属間層は2層からなることを特徴とする請求項1記載の中性子検出器のカソード。
【請求項4】
前記2層の金属中間層のカソード基材側の材質がニッケルであり、ウラン酸化物コーティング層側の材質が鉄又はシリコンであることを特徴とする請求項3記載の中性子検出器のカソード。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれかに記載の中性子検出器のカソードの製造方法において、前記金属中間層をメッキ、真空蒸着法又はスパッタリング法で形成することを特徴とする中性子検出器のカソードの製造方法。
【請求項6】
カソード基材と、前記カソード基材に形成された金属分散層と、前記金属分散層に形成されたウラン酸化物コーティング層を備えることを特徴とする中性子検出器のカソード。
【請求項7】
前記金属分散層の材質が鉄、ニッケル、シリコンのいずれかの金属又はそれらの合金からなることを特徴とする請求項6記載の中性子検出器のカソード。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の中性子検出器のカソードの製造方法において、前記金属分散層の材質からなるノズルから酸化物微粒子を噴射することにより前記金属分散層を形成することを特徴とする中性子検出器のカソードの製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至8いずれかに記載の中性子検出器のカソードの製造方法において、前記金属中間層又は金属分散層の形成後及びウラン酸化物コーティング層の形成後に熱処理を行うこと特徴とする中性子検出器のカソードの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−50386(P2013−50386A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188544(P2011−188544)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】