説明

中種コーティング用酸性水中油型乳化物

【課題】中種(食品素材)に均一にコーティングさせることができ、且つ、コーティングしたフライ種をフライした際に、ソフトで歯切れがよいフライ食品類を得ることができ、該フライ種を焼成、電子レンジ加熱等のフライ以外の方法で加熱調理したフライ様食品であっても、焦げが生じにくく、フライ食品類と同様の食感を得ることができる中種コーティング液、及び、中種コーティング液を使用したソフトで歯切れがよいフライ食品類やフライ様食品を提供すること。
【解決手段】 食用油脂5〜40質量%、卵黄類1〜20質量%及び糖類1〜30質量%を含有し、10〜40℃の全ての温度において、粘度が100mPa・s以上且つ5000mPa・s以下であることを特徴とする中種コーティング用酸性水中油型乳化物、及び、中種に対し、該中種コーティング用酸性水中油型乳化物をコーティングした後、加熱調理したことを特徴とする食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライ食品類やフライ様食品を得る際に使用される卵液やバッター液の代替として使用することのできる、中種コーティング用酸性水中油型乳化物に関する。
【背景技術】
【0002】
フライ食品類は、食品素材をそのままフライ油中でフライする素揚げを除き、衣とよばれる外皮で被覆されていて、その衣の種類によって、一般に、フライ食品、てんぷら、から揚げに分類される。

【0003】
コロッケ、メンチかつ、エビフライなどのフライ食品は、中種(食品素材)を、卵液、あるいは、小麦粉や片栗粉などの澱粉類と水を主体としたバッター液に浸漬後、パン粉等のブレッダー類を付着させたフライ種をフライ油でフライして得られるものであり、主に、付着させたブレッダー類が高温のフライ用油脂でフライされることにより硬化し、パリパリした食感が得られ、これが特徴となっている。
【0004】
てんぷらは、中種を、卵液、あるいは、小麦粉や片栗粉などの澱粉類と水を主体としたバッター液に浸漬したフライ種を、フライ油でフライして得られるものであり、卵液やバッター液に含まれる澱粉や蛋白質が高温のフライ用油脂でフライされることにより硬化し、サクサクした食感が得られ、これが特徴となっている。
【0005】
から揚げは、中種に、澱粉類や蛋白質を粉体のまま付着させたフライ種を、フライ油でフライして得られるものであり、澱粉類や蛋白質が高温のフライ用油脂でフライされることにより硬化し、カリカリした食感が得られ、これが特徴となっている。
【0006】
このようにフライ食品類は、澱粉類や蛋白質を粉体のまま使用するから揚げはもちろん、卵液やバッター液や被覆液などの液状物(以下、中種コーティング液という)で中種をコーティングしてフライするものであっても、液状物中の澱粉類や蛋白質や、付着させたブレッダー類が硬い食感を生じさせるものであるため、ソフトな食感よりは、硬く、歯切れのよい食感が好まれてきた。
【0007】
しかし、これらのフライ食品類の硬く、歯切れのよい食感は、時間が経過するにつれ、中種に含まれる水分からの水分移行や、空気中の水分の吸湿により徐々に失われ、べたついた食感になったり、さらにはヒキのでた食感になってしまったりして、フライ直後の食感とは大きく異なる食感となってしまう問題があった。
【0008】
また、最近は、消費者の嗜好の多様化により、ソフトであるが歯切れがよい食感のフライ食品類も求められるようになってきた。
【0009】
このような問題の解決を目的とする発明として、例えば、卵類や澱粉類などの加熱セット性を有する原料を含有し約20〜50%の液状油脂と水相からなる水中油型乳化型のバッター液を使用する方法(例えば特許文献1参照)、10℃における固体脂含有量が15〜35%且つ15℃における固体脂含有量が0〜10%である油脂組成物を含有するバッター液を使用する方法(例えば特許文献2参照)や、温度5〜20℃での固体脂含有率が2〜10%となる流動状食用油脂と、融点が45℃以上の食用油脂とを所定割合で混合した油脂組成物を含有するバッター液を使用する方法(例えば特許文献3参照)、25℃における固体脂含量が1〜5%であり、且つ、構成脂肪酸中、炭素数20〜22の飽和脂肪酸を0.3〜4質量%含有することを特徴とするバッター用油脂組成物を使用する方法(例えば特許文献4参照)、メチルセルロース及び酵素処理卵黄を含有することを特徴とするバッター液を使用する方法(例えば特許文献5参照)、ホエー蛋白を含有する被覆液を使用する方法(例えば特許文献6参照)等が知られている。
【0010】
しかし、これらの中種コーティング液を使用する方法は、おもに、融点の高い油脂や、高分子の糊料を使用する方法であるため、中種に均一にコーティングさせることが難しく、また、得られるフライ食品は口溶けが悪いものであったり、ソフトではあるがねちゃついた食感になってしまうという問題があった。
【0011】
また、フライ食品類は油脂を多く含有するものであることから、その油脂含量を低下させる目的で、フライ食品と同様の外観と食感を有するがフライ以外の加熱調理方法で得られた、いわゆるフライ様食品も多く見られるようになった。このフライ以外の加熱調理方法としては、フライ油中でフライする代わりに、フライパンに多めの油脂をはって、その上でフライ種を転動させながら焼成する方法や、フライ種をオーブン等で焼成する方法、さらにはフライ種をコーティングして電子レンジ加熱する方法などが行なわれている。
【0012】
しかし、このようなフライ様食品の加熱調理方法は、フライに比べて加熱温度が低いことから、長時間の加熱調理を必要とし、内部まで火がとおるような加熱調理を行なうと、表面が焦げてしまう問題があり、かといって、更に加熱温度を下げると、表面においしそうな焼色がつかなかったり、中種に十分な熱がとおらず生焼けになったり、さらにはヒキの強い食感になってしまうなどの問題があり、フライ食品と同様の食感を得ることは困難であった。
【0013】
【特許文献1】特開平1−144939号公報
【特許文献2】特開平9−94074号公報
【特許文献3】特開平10−248487号公報
【特許文献4】特開2001−128617号公報
【特許文献5】特開2001−112427号公報
【特許文献6】特開平6−22708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明の目的は、中種に均一にコーティングさせることができ、且つ、コーティングしたフライ種をフライした際に、ソフトで歯切れがよいフライ食品類を得ることができ、該フライ種を焼成、電子レンジ加熱等のフライ以外の方法で加熱調理したフライ様食品であっても、焦げが生じにくく、フライ食品類と同様の外観と食感を得ることができる中種コーティング液を提供することにある。

【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、中種コーティング液に関する前述の問題点を解決すべく鋭意研究検討を重ねた結果、特定の油脂含量、卵黄類含量及び糖類含量であり、且つ特定温度域において特定の粘度を有する酸性水中油型乳化物が、上記目的を達成し得ることを知見した。
【0016】
本発明は、上記知見に基づきなされたもので、食用油脂5〜40質量%、卵黄類1〜20質量%及び糖類1〜30質量%を含有し、10〜40℃の全ての温度において、粘度が100mPa・s以上且つ5000mPa・s以下であることを特徴とする中種コーティング用酸性水中油型乳化物を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の中種コーティング用酸性水中油型乳化物は、中種に均一にコーティングさせることができ、且つ、コーティングしたフライ種をフライした際に、ソフトで歯切れがよいフライ食品類を得ることができる。また、該フライ種を焼成、電子レンジ加熱等のフライ以外の方法で加熱調理したフライ様食品であっても、焦げが生じにくく、フライ食品類と同様の外観と食感を得ることができる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の中種コーティング用酸性水中油型乳化物について詳述する。
【0019】
本発明の中種コーティング用酸性水中油型乳化物で使用される食用油脂としては、食用に適する油脂であればよく、その代表例としては、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ひまわり油等の常温で液体の油脂が挙げられるが、その他に、パーム油、パーム核油、ヤシ油、サル脂、マンゴ脂、乳脂等の常温で固体の油脂も挙げられ、更に、これらの食用油脂の硬化油、分別油、エステル交換油等の物理的又は化学的処理を施した油脂を使用することもできる。
【0020】
これらの食用油脂の中でも、20℃において液状である油脂を使用することが好ましく、具体的には、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ひまわり油、パーム分別軟部油、及びこれらの油脂の微水添油脂の中から選択される1種、又は2種以上の混合油脂が好ましく使用される。
【0021】
また、上記食用油脂には、トコフェロール等の酸化防止剤や、βカロチン等の着色剤の如き、油脂に溶解する成分や添加剤を加えてよい。
【0022】
上記食用油脂の配合割合は、酸性水中油型乳化の安定化のため及び風味や食感を良くするために、5〜40質量%であり、好ましくは10〜30質量%である。上記食用油脂の配合割合が40質量%より大きいと、粘度が高くなり過ぎることに加え、乳化安定性が低下し、得られるフライ食品類やフライ様食品の食感がべとついたり、油分離を起こす問題がある。また、5質量%より小さいと、得られるフライ食品類やフライ様食品の食感がソフトなものにならないという問題がある。
【0023】
また、本発明の中種コーティング用酸性水中油型乳化物では、卵黄類を1〜20質量%、好ましくは3〜15質量%、より好ましくは5〜15質量%使用する。卵黄類の配合割合が20質量%より大きいと、得られる中種コーティング用酸性水中油型乳化物の粘度が著しく上昇し、また、1質量%より小さいと、水中油型乳化が不安定である。
【0024】
上記の卵黄類としては、全卵、卵黄、加塩卵黄、加塩全卵、加糖全卵、加糖卵黄、乾燥全卵、乾燥卵黄、凍結全卵、凍結卵黄、凍結加糖全卵、凍結加糖卵黄、酵素処理全卵、酵素処理卵黄等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。なお、上記卵黄類に糖分が含まれる場合は、該糖分は、下記糖類の含有量に算入する。また、上記卵黄類に含まれる油脂分は卵黄由来でないものについてのみ、上記食用油脂の含有量に算入する。
【0025】
また、本発明の中種コーティング用酸性水中油型乳化物では、糖類を1〜30質量%、好ましくは5〜20質量%、より好ましくは5〜15質量%使用する。糖類の配合割合が30質量%より大きいと、得られる中種コーティング用酸性水中油型乳化物の粘度が著しく上昇し、また、1質量%より小さいと、風味を損ね、また酸性水中油型乳化が不安定である。
【0026】
上記の糖類としては、上白糖、グラニュー糖、粉糖、蔗糖、液糖、はちみつ、ブドウ糖、果糖、黒糖、麦芽糖、乳糖、シクロデキストリン、酵素糖化水飴、酸糖化水飴、還元ポリデキストロース、還元乳糖、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、パラチニット、ラクチトール、直鎖オリゴ糖アルコール、分岐オリゴ糖アルコール、高糖化還元水飴、還元麦芽糖水飴、還元水飴、異性化液糖、ショ糖結合水飴、オリゴ糖、キシロース、トレハロース、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、アラビノース、パラチノースオリゴ糖、アガロオリゴ糖、キチンオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ヘミセルロース、モラセス、イソマルトオリゴ糖、マルトオリゴ糖、カップリングシュガー、ラフィノース、ラクチュロース、テアンデオリゴ糖、ゲンチオリゴ糖等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0027】
本発明の中種コーティング用酸性水中油型乳化物においては、上記糖類の一部又は全部、具体的には50〜100質量%が糖アルコールであることが好ましい。糖アルコールを使用することにより、得られるフライ食品類やフライ様食品の焦げつきを大きく減じることができる。該糖アルコールとは、単糖、単糖が2〜10分子結合したオリゴ糖、あるいは、デキストリン、水飴、デンプン等を、発酵や水素添加により還元して得られるものであり、具体的には、還元ポリデキストロース、還元乳糖、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、パラチニット、ラクチトール、直鎖オリゴ糖アルコール、分岐オリゴ糖アルコール、高糖化還元水飴、還元麦芽糖水飴、還元水飴等が挙げられ、これらの中でも、高糖化還元水飴、還元麦芽糖水飴及び還元水飴から選択された1種以上を使用することにより、広い温度域で酸性水中油型乳化物の粘度が安定し、特に好ましい効果が得られる。また、上記糖アルコールの形態は、粉末状でもよく、糖アルコールを水に溶解させてシロップ状とした糖アルコール組成物でもよい。
【0028】
また、本発明の中種コーティング用酸性水中油型乳化物は、10〜40℃の全ての温度において、粘度が、100mPa・s以上、好ましくは200Pa・s以上であり、且つ5000mPa・s以下、好ましくは3000mPa・s以下である。
【0029】
10〜40℃のいずれかの温度において粘度が5000mPa・sを超えると、中種に対し均一にコーティングさせることが困難になることに加え、中種に付着した際に膜厚になるため、前述した本発明の目的を達することができない。また、使用したフライ食品やフライ様食品が油分離をおこしやすく、また経日的に食感が変化しやすいという問題もある。
【0030】
10〜40℃のいずれかの温度において粘度が100mPa・s未満であると、流動性が高すぎて中種に付着した際に膜薄になるため、前述した本発明の目的を達することができない。また、フライ様食品の加熱調理時に流れ出したり、表面が焦げる等の弊害があり、また、中種コーティング用酸性水中油型乳化物の保存時に油分離等が発生する危険性もある。
【0031】
本発明の中種コーティング用酸性水中油型乳化物は、食用の酸や酸味料、必要に応じ水を使用して、水相のpHを酸性とする。酸性とすることで、フライ食品やフライ様食品に良好な歯切れ感を付与することが可能となる。また、中種コーティング用酸性水中油型乳化物の保存性も向上させるこことができるメリットもある。
【0032】
上記のpHの調整に用いる酸や酸味料としては、乳酸、クエン酸、グルコン酸、アジピン酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、食酢(酢酸)、果汁、発酵乳等が挙げられ、これらを単独で用いるか又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
本発明の中種コーティング用酸性水中油型乳化物は、最適な風味と物性を達成する上で、pHが、好ましくは2.0〜5.5、より好ましくは2.5〜5.0、最も好ましくは2.8〜4.5の範囲である。pHが2.0未満であると、得られるフライ食品類やフライ様食品の酸味が強すぎて異味を感じるおそれがあり、また、pHが5.5を超えると、得られるフライ食品類やフライ様食品が良好な歯切れ感がでなくなるおそれがある。
【0034】
本発明の中種コーティング用酸性水中油型乳化物において、上記の酸や酸味料の使用量及び水の使用量は、水相のpHが酸性となるように、好ましくは酸性水中油型乳化物のpHが2.0〜5.5となるように、使用する酸の種類等に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは、水分含量が20〜70質量%、より好ましくは30〜70質量%となるように調整するとよい。
【0035】
また、本発明においては、酸性水中油型乳化物に使用されることが知られている副原料を、本発明の目的を損なわない限り、任意に使用することができる。該副原料としては、澱粉、化工澱粉、穀粉、蛋白質、増粘安定剤、トマト、チーズ、カレー粉、胡椒等の香辛料や香辛料抽出物といった風味原料や、レシチン、リゾレシチン、グリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤、消泡剤、香料、食塩着色料、ピクルス等の野菜類等が挙げられる。
【0036】
上記化工澱粉としては、コーン、ワキシーコーン、タピオカ、馬鈴薯、甘薯、小麦、米等の澱粉を起源とし、これらの澱粉をアミラーゼ等の酵素で処理したものや、酸やアルカリ、エステル化、リン酸架橋化、加熱、湿熱処理等の物理的、化学的処理を行ったものが挙げられ、更に、これら化工澱粉を、水に溶解し易い様にあらかじめ加熱処理により糊化させたものが挙げられる。
【0037】
上記穀粉としては、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉、全粒粉などの小麦粉類、ライ麦粉、米粉などのその他の穀粉が挙げられる。
【0038】
また、上記蛋白質としては、カゼイン、ホエイ蛋白質、乳脂肪球被膜蛋白質等の乳蛋白質、大豆蛋白質等の植物蛋白質等が挙げられる。
【0039】
上記増粘安定剤としては、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸、ペクチン、グアーガム、タラガントガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、ゼラチン、微小繊維状セルロース等が挙げられる。
【0040】
上記副原料の使用量は、使用目的等に応じて適宜選択することができるが、本発明の中種コーティング用酸性水中油型乳化物において好ましくは合計で15質量%以下とする。ただし、澱粉及び化工澱粉については、中種コーティング用酸性水中油型乳化物の粘度が高くなりやすく、また加熱調理後の食感が悪くなりやすいため、使用しないか又は使用量を極力少量(具体的には2質量%以下)とすることが好ましい。
【0041】
本発明の中種コーティング用酸性水中油型乳化物は、例えば以下の様にして得ることができる。まず、水に、加塩卵黄等の卵黄類、食酢等の酸味料、食塩、水飴等の糖類、コショウ等の香辛料等を分散溶解させた水相を調製し、また、大豆油等の油脂に、増粘安定剤等を分散させた油相を調製する。次いで、水相を撹拌しつつ油相を加え、水中油型予備乳化物を得る。該水中油型予備乳化物をコロイドミル等の乳化機、ホモゲナイザー等の均質化機で処理し仕上げ乳化を行ない、本発明の中種コーティング用酸性水中油型乳化物が得られる。
【0042】
また、本発明の中種コーティング用酸性水中油型乳化物中の油粒子の平均粒径は、20μm以下が好ましく、10μm以下がさらに好ましく、5μm以下が最も好ましい。20μmを超えると、中種コーティング用酸性水中油型乳化物の乳化安定性が低下し、保存時に油分離等が発生する危険性もあることに加え、粘度が低下して流動状になり、中種に付着した際に膜薄となるため、前述した本発明の目的を達することができない恐れがある。さらには、使用したフライ食品やフライ様食品がべたついた食感の悪いものとなりやすいという問題もある。なお、上記平均粒径は、例えば、島津製作所のレーザー回折式粒度分布測定機(SALD-2100型)や光学顕微鏡で測定することができる。
次に、本発明の食品について述べる。
【0043】
本発明の食品は、中種に対し、本発明の中種コーティング用酸性水中油型乳化物をコーティングし、その後、必要に応じ、成型したり、パン粉等のブレッダーを付着させたフライ種を、加熱調理することによって得られる。
【0044】
上記中種としては、特に限定されるものではなく、従来のフライ食品類やフライ様食品に使用される中種を使用することができ、例えば牛肉、豚肉、鶏肉などの畜肉類、たら、鮭、いわし、エビ、いかなどの魚介類、じゃが芋やかぼちゃなどの野菜類、メンチカツなどの畜肉加工食品類、ピーマンの肉詰めなどの調理食品類、ホワイトソースなどのソース類等が挙げられる。
【0045】
なお、中種として、澱粉類や蛋白質等を付着させた中種、また、バッタリング後にパン粉のブレッダーを付着させた中種を使用することはもちろん可能であるし、また、冷凍品の中種を使用することももちろん可能である。
【0046】
本発明の中種コーティング用酸性水中油型乳化物の、上記中種へのコーティングの方法は、特に限定されるものではないが、本発明の中種コーティング用酸性水中油型乳化物を好ましくは、加温して10〜40℃、より好ましくは15〜25℃とし、浸漬、スプレー、塗布等の方法によって、上記中種に付着させることができる。なお、浸漬する場合は、例えば、本発明の中種コーティング用酸性水中油型乳化物を入れたバットに、中種を、片面ずつ浸漬したり、あるいは完全にどぶ漬けすることができる。
【0047】
本発明の中種コーティング用酸性水中油型乳化物のコーティング量、すなわち、中種へのコーティング量は、特に限定されるものではないが、中種100質量部に対し、好ましくは25〜100質量部、より好ましくは25〜70質量部、さらに好ましくは30〜40質量部である。25質量部未満であると、食感の改良効果が得られないおそれがある。また、100質量部を超えると、得られる食品が軟らかくなりすぎ、水っぽい食感となりやすいことに加え、保存性も悪化しやすくなる。
【0048】
なお、コロッケ、メンチカツ、エビフライ等のフライ食品の場合は、本発明の中種コーティング用酸性水中油型乳化物のコーティング後、パン粉などのブレッダーをさらに付着させたフライ種とする。なお成型は、ブレッダーを付着させる前であっても後であっても、又、両方であってもよい。
【0049】
なお、本発明の中種コーティング用酸性水中油型乳化物は、上記フライ種や、フライ食品類やフライ様食品は冷凍してもよい。
【0050】
また、上記加熱調理の方法としては、従来のフライ食品類やフライ様食品と同様の方法を使用することができ、例えば、フライ食品類の場合は、加熱したフライ油中でフライする方法が挙げられ、また、フライ様食品の場合は、フライパンに多めの油脂をはって、その上でフライ種を転動させながら焼成する方法や、フライ種をオーブン等で焼成する方法、さらにはフライ種を電子レンジ加熱する方法などが挙げられる。
【0051】
このようにして得られた本発明の食品は、ソフトな食感でありながら、歯切れが良好であり、また、良好な酸性風味を有しており、また、経日的に硬くなったり、ヒキがでるなどの食感の変化がおきにくいという特徴を有する。
【実施例】
【0052】
次に、実施例及び比較例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、これらは本発明を何ら制限するものではない。
【0053】
<中種コーティング用酸性水中油型乳化物の製造>
【0054】
〔実施例1〕
水36質量部、還元水飴(糖分70質量%、水分30質量%)20質量部、食酢10質量部、食塩3質量部、グルタミン酸ナトリウム0.3質量部、からし粉0.4質量部及び加塩卵黄10質量部を混合して水相を調製した。別に、菜種サラダ油20質量部、キサンタンガム0.1質量部及びゼラチン0.2質量部を混合して油相を調製した。次いで、水相を撹拌しつつ油相を加え、水中油型予備乳化物を得、これをホモゲナイザーにて均質化し、pHが3.5である本発明の中種コーティング用酸性水中油型乳化物1を得た。得られた中種コーティング用酸性水中油型乳化物1は、光学顕微鏡下で測定したところ、油粒子の平均粒径が3μm以下であり、また、ビスコメーター(TOKIMEC社製、1号ローター使用)で粘度を測定したところ、10℃における粘度が1200mPa・s、40℃における粘度が1000mPa・sであった。

【0055】
〔実施例2〕
水54.1質量部、還元水飴(糖分70質量%、水分30質量%)10質量部、食酢12質量部、食塩3質量部、グルタミン酸ナトリウム0.2質量部、荒挽き胡椒0.4質量部及び酵素処理卵黄8質量部を混合して水相を調製した。別に、大豆油12質量部、キサンタンガム0.1質量部及びゼラチン0.2質量部を混合して油相を調製した。次いで、水相を撹拌しつつ油相を加え、水中油型予備乳化物を得、これをコロイドミルにて乳化し、pHが3.0である本発明の中種コーティング用酸性水中油型乳化物2を得た。得られた中種コーティング用酸性水中油型乳化物2は、光学顕微鏡下で測定したところ、油粒子の平均粒径が3μm以下であり、また、ビスコメーター(TOKIMEC社製、1号ローター使用)で粘度を測定したところ、10℃における粘度が600mPa・s、40℃における粘度が600mPa・sであった。

【0056】
〔比較例1〕
水3質量部、食酢10質量部、食塩1質量部、グルタミン酸ナトリウム0.2質量部、加塩卵黄10質量部及び辛子粉0.1質量部を混合して水相を調製した。次いで、水相を撹拌しつつ油相として大豆油75.7質量部を加え、水中油型予備乳化物を得、これをコロイドミルにて乳化し、pHが3.5である比較例の中種コーティング用酸性水中油型乳化物3を得た。得られた中種コーティング用酸性水中油型乳化物3は、光学顕微鏡下で測定したところ、油粒子の平均粒径が3μm以下であり、また、ビスコメーター(TOKIMEC社製、6号ローター使用)で粘度を測定したところ、10℃における粘度が60,000mPa・s、40℃における粘度が50,000mPa・sであった。

【0057】
<フライ食品の製造>
上記実施例1、実施例2、比較例1で得られた中種コーティング用酸性水中油型乳化物1〜3、及び、割卵して解き解した卵液〔ビスコメーター(TOKIMEC社製、6号ローター使用)で粘度を測定したところ、10℃における粘度が60,000mPa・s、40℃における粘度が50,000mPa・s〕の4品を中種コーティング液として使用して、下記の製造方法で、フライ食品、及び、フライ様食品を製造した。
【0058】
〔実施例3〜4及び比較例3〜4〕
背綿を除去した生エビ(10g)を中種として、中種コーティング液に浸漬し、パン粉7gを付着させたフライ種(20g)を得た。このフライ種を急速冷凍し、−20℃で1週間冷凍保管したのち、冷凍のまま180℃のフライ油(菜種油使用)で4分間フライしてフライ食品を得た。得られたフライ食品の外観(焼色及び油分離)について、下記評価基準に従って5段階で評価した。さらに、フライ直後及びフライ5時間後の食感(ソフト性及び歯切れ)について、下記評価基準に従って4段階で評価した。これらの結果を表1に記載した。

【0059】
〔実施例5〜6及び比較例5〜6〕
生タラの切り身(20g)を中種として、中種コーティング液に浸漬し、フライ種(25g)を得た。このフライ種をただちに180℃のフライ油(菜種油使用)で4分間フライしてフライ食品を得た。得られたフライ食品の外観(焼色及び油分離)について、下記評価基準に従って5段階で評価した。さらに、フライ直後及びフライ5時間後の食感(ソフト性及び歯切れ)について、下記評価基準に従って4段階で評価した。これらの結果を表2に記載した。
【0060】
<フライ様食品の製造>
【0061】
〔実施例7〜8及び比較例7〜8〕
背綿を除去した生エビ(10g)を中種として、中種コーティング液に浸漬し、パン粉7gを付着させたフライ種(20g)を得た。このフライ種を急速冷凍し、−20℃で1週間冷凍保管した。冷凍のまま200℃のオーブンで8分間焼成し、フライ様食品を得た。得られたフライ様食品の外観(焼色及び油分離)について、下記評価基準に従って5段階で評価した。さらに、焼成直後及び焼成5時間後の食感(ソフト性及び歯切れ)について、下記評価基準に従って4段階で評価した。これらの結果を表3に記載した。

【0062】
〔実施例9〜10及び比較例9〜10〕
背綿を除去した生エビ(10g)を卵液に浸漬し、パン粉7gを付着させたフライ種(20g)を急速冷凍し、−20℃で1週間冷凍保管した冷凍フライ種を中種として、中種コーティング液に浸漬し、フライ種(20g)を得た。このフライ種をただちに200℃のオーブンで8分間焼成し、フライ様食品を得た。得られたフライ様食品の外観(焼色及び油分離)について、下記評価基準に従って5段階で評価した。さらに、焼成直後及び焼成5時間後の食感(ソフト性及び歯切れ)について、下記評価基準に従って4段階で評価した。これらの結果を表4に記載した。
【0063】
<外観の評価基準(焼色)>
焼成時の焼色および焦げについて目視により観察した。
◎:均一な美味しそうな焼色である。
○:若干焼色が薄いが均一の着色である。
△:若干斑もようの焼色である。
×:焼色が薄く美味しそうに見えない。
××:焦げの発生がみられた。
【0064】
<外観の評価基準(油分離)>
焼成時の油脂の分離について目視により観察した。
◎:油脂の分離は全く見られない。
○:若干の油脂の分離が見られた。
△:油脂の分離があり、食品表面がややオイリーである。
×:油脂の分離が激しく、食品表面がべとついている。
−:油脂を含まないため評価せず。
【0065】
<食感の評価基準(ソフト性、及び歯切れ)>
ソフト性、及び歯切れについて、それぞれ、パネラー43人にて下記の基準により4段階評価を行った。
◎:8割以上が良好と評価。
○:5割以上8割未満が良好と評価。
△:2割以上5割未満が良好と評価。
×:2割未満が良好と評価。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
【表4】

【0070】
以上の結果からわかるように、本発明の中種コーティング用酸性水中油型乳化物を使用した実施例3〜10のフライ食品やフライ様食品は、外観及び食感が良好であり、また、5時間保存した後の食感の変化も少なく、耐老化性を有していることがわかる。特に、酵素処理卵黄を使用した中種コーティング用酸性水中油型乳化物を使用した実施例4、6、8、10のフライ食品やフライ様食品は、油分離が全く見られず、良好な外観を示していた。
【0071】
これに比べ、通常のマヨネーズを使用した比較例5、7、9のフライ食品やフライ様食品は、油分離の発生が見られ、食感がソフト性、歯切れとも悪いものとなった。特に比較例7、9のフライ様食品は、5時間保存した後にやや食感の変化が見られ、耐老化性が弱いことがわかる。
【0072】
なお、比較例3のフライ食品は、油分離はほとんどみられなかったものの、食感がソフト性、歯切れともやや悪いものとなった。
【0073】
また、普通の卵液を使用した比較例4、6、8、10のフライ食品やフライ様食品は、歯切れは良好であるが、ソフト性が悪いものとなった。また、5時間保存した後に食感の変化が見られ、耐老化性が弱いことがわかる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用油脂5〜40質量%、卵黄類1〜20質量%及び糖類1〜30質量%を含有し、10〜40℃の全ての温度において、粘度が100mPa・s以上且つ2500mPa・s未満であることを特徴とする中種コーティング用酸性水中油型乳化物。
【請求項2】
pHが2.0〜5.5であることを特徴とする請求項1記載の中種コーティング用酸性水中油型乳化物。
【請求項3】
上記糖類の一部又は全部が糖アルコールであることを特徴とする請求項1又は2記載の中種コーティング用酸性水中油型乳化物。
【請求項4】
油粒子の平均粒径が20μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の中種コーティング用酸性水中油型乳化物
【請求項5】
中種に対し、請求項1〜4のいずれかに記載の中種コーティング用酸性水中油型乳化物をコーティングしたフライ種を、加熱調理したことを特徴とする食品。



【公開番号】特開2007−274976(P2007−274976A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106197(P2006−106197)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】