説明

中空シリカ粉末、その製造方法及び用途

【課題】 本発明は、耐アルカリ性が優れた中空シリカ粉末、その製造方法及び用途を提供するものである。
【解決手段】 シリカ(SiO)を主成分とし、平均粒子径が5〜120nm、シェルの厚さが1〜35nm、シラノール基(≡Si−OH基)の数が1〜10個/nmである中空シリカ粉末。コアとなる有機ポリマー粒子は、重合性モノマーを主成分としてこれにイオン性コモノマーをモル比で150:1〜2:1の割合で共重合させてなるソープフリー重合によって平均粒子径5〜90nmの粒子を製造し、陽イオン性水溶性高分子と非イオン性水溶性高分子を加え、コア粒子を含む液体を水からアルコールに置換した後、アルコキシシラン、水及び塩基性物質を添加してシリカを被覆し、平均粒子径5〜120nm、シリカシェルの厚さ1〜35nmのコアシェル粒子からなる粉末を製造し、その後コアを除去する中空シリカ粉末の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空シリカ粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、中空粉末は低屈折率、低誘電率、高空隙率であるため、反射防止材、低誘電率材、断熱材等の充填材、ドラッグデリバリーシステムのための担体などとして、種々検討されている。シリカ等のシリコン化合物からなる中空粉末は化学的安定性に優れるが、粒子サイズが数〜数十ナノメートルの中空シリカ粉末は、さらに透明性、流動性及び充填性にも優れるため、特に重用されている。
【0003】
粒子サイズが数〜数十ナノメートルの中空粉末の製造方法としては、種々の方法が提案されているが、外殻(シェル)がシリカであるコア−シェル粒子のコア粒子を除去することで、内部が空洞であるシリカ粉末を得る方法が一般的である。かかる方法は、コア粒子をあたかも型板(テンプレート)のように利用するため、テンプレート法と呼ばれる。さらに、コア粒子として無機化合物を用いる方法は無機テンプレート法、有機ポリマーを用いる方法は有機テンプレート法と呼ばれる。
【0004】
無機テンプレート法においては、コア粒子として、酸又は酸性カチオン交換樹脂による溶解除去が可能な、シリカと他の無機化合物の複合物を用いる方法(特許文献1〜2)、炭酸カルシウムを用いる方法(特許文献3〜4)又は酸化亜鉛を用いる方法(特許文献5)が提案されている。有機テンプレート法においては、コア粒子としてスチレン重合体またはスチレン/ジビニルベンゼン共重合体を用いる方法(特許文献6)、スチレン重合体またはメラミン−ホルムアルデヒド共重合体を用いる方法(特許文献7)、スチレン、メタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステルの重合体を用いる方法(特許文献8)が提案されている。
【0005】
テンプレート法においては、粒子を中空化するためにコアの除去が必要になる。コア除去の具体的な方法は、無機テンプレート法においては酸(特許文献1〜4)あるいは酸性カチオン交換樹脂(特許文献5)によるコアの溶解除去である。また、有機テンプレート法においては、コア−シェル粒子を500〜600℃で加熱することによる有機ポリマーコアの熱分解、燃焼による除去(特許文献6〜7)又は加熱した液体酸化剤による酸化除去である(特許文献8)。
【0006】
しかしながら、これら従来のテンプレート法は、以下に示す問題点を有していた。無機テンプレート法のコア除去法は、酸あるいは酸性カチオン交換樹脂によるコアの溶解除去が一般的である。かかる酸性条件下のコア除去を経た場合、シェルを構成するシリカの末端にはシラノール基(Si−OH基)が形成される。一方、有機テンプレート法においては無機テンプレート法と異なりコア除去時にシラノール基が形成されることは少ないが、コアの有機ポリマー粒子は一般に乳化重合法によって形成される場合が多く、かかる粒子をコアに用いると、シリカシェル形成の初期にコア粒子とシリカシェルの界面に乳化剤が存在する。この乳化剤の成分は、イオン性界面活性剤である場合が多いため、シリカシェルもイオン性を帯びやすくなる。その結果、形成初期のシリカシェルには多くのシラノール基が含まれる。このように、従来のテンプレート法は、無機テンプレート、有機テンプレートの何れの方法においても、シリカシェル中に多くのシラノール基が形成されていた。
【0007】
シラノール基は、中空シリカ粒子の表面処理(シランカップリング処理)を行う際に反応の起点となるため、適度に存在することは必要である。しかし、過度に存在する場合は、酸性の官能基であり塩基性物質と反応しやすいため、中空シリカ粉末をアルカリ水溶液に浸した際にシリカシェルが溶解しやすくなってしまう。中空シリカ粉末を反射防止材として用いる場合、中空シリカ粉末と被膜形成用マトリックスとを含んでなる塗料が基材表面上に塗布されて被膜が形成されるが、この被膜表面の汚れを除去するためにアルカリ性洗剤で洗浄を行う場合、溶解しやすいシェルからなる中空シリカ粉末では、シェルが溶解して孔が開いてしまい、被膜の劣化が促進されてしまう。このため、従来の反射防止材は、洗浄効果が高いアルカリ性洗剤を用いることができないという問題点を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−233611号公報
【特許文献2】WO2006/009132号公報
【特許文献3】特開2006−263550号公報
【特許文献4】特開2006−256921号公報
【特許文献5】特開2006−335605号公報
【特許文献6】特開平6−142491号公報
【特許文献7】特表2003−522621号公報
【特許文献8】WO2008/061670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、耐アルカリ性の優れた中空シリカ粉末、その製造方法及び用途を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)シリカ(SiO)を主成分とし、平均粒子径が5〜120nm、シェルの厚さが1〜35nm、単位表面積当たりのシラノール基(≡Si−OH基)の数が1〜10個/nmであることを特徴とする中空シリカ粉末。
(2)表面をシランカップリング剤で処理してなる、前記(1)に記載の中空シリカ粉末。
(3)コアが有機ポリマー、シェルがシリカであるコアシェル粒子からなる粉末を製造した後にコアを除去する中空シリカ粉末の製造方法において、
(A)コアとなる有機ポリマー粒子は、重合性モノマーを主成分としてこれにイオン性コモノマーをモル比で150:1〜2:1の割合で共重合させてなるソープフリー重合によって平均粒子径5〜90nmの粒子を製造し、
(B)その後この有機ポリマー粒子を含む液体に、陽イオン性水溶性高分子を加えた後、非イオン性水溶性高分子を加え、さらにコア粒子を含む液体を水からアルコールに置換した後、アルコキシシラン、水及び塩基性物質を添加してシリカを被覆し、平均粒子径が5〜120nm、シリカシェルの厚さが1〜35nmのコアシェル粒子からなる粉末を製造し、その後コアを除去することを特徴とする中空シリカ粉末の製造方法。
(4)重合性モノマーがスチレン、イオン性コモノマーがp−スチレンスルホン酸塩であることを特徴とする、前記(3)に記載の中空シリカ粉末の製造方法。
(5)陽イオン性水溶性高分子が分子量1000〜15000のポリアリルアミン塩酸塩、非イオン性水溶性高分子が分子量10000〜1000000のポリビニルピロリドンであることを特徴とする、前記(3)又は前記(4)に記載の中空シリカ粉末の製造方法。
(6)前記(1)又は前記(2)に記載の中空シリカ粉末5〜40質量%を含有し、スラリー中の中空シリカ粉末と有機溶媒の合計が90〜99.9質量%であり、残部は主として水であることを特徴とするスラリー。
(7)有機溶媒が25℃で液体のアルコール及び/又は25℃で液体のケトンであることを特徴とする前記(6)に記載のスラリー。
(8)前記(1)又は前記(2)に記載の中空シリカ粉末と、被膜形成用マトリックスとを含んでなる透明被膜形成用塗料。
(9)前記(1)又は前記(2)に記載の中空シリカ粉末と、被膜形成用マトリックスとを含んでなる被膜が、単独でまたは他の被膜とともに基材表面上に形成された被膜付き基材。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐アルカリ性に優れ、微細な中空シリカ粒子からなる粉末、これを含んでなる被膜形成用塗料及びこれを含んでなる被膜付き基材が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の中空粒子からなる粉末の主成分はシリカ(SiO)である。他の成分として、原材料に含まれる金属不純物の残留物、コアの有機ポリマーや水溶性ポリマーに由来する炭素成分の残留物等が極微量含まれる場合があるが、これらの不純物は中空粒子からなる粉末の性質に影響を及ぼさない。
【0013】
本発明の中空粒子からなる粉末の平均粒子径は5〜120nm、好ましくは5〜65nmである。平均粒子径は、透過型電子顕微鏡又は動的光散乱法による粒子径測定装置によって測定できるが、動的光散乱法による粒子径は、測定に供するスラリー(粉末を溶媒に分散させた液)の粒子濃度や粘度、あるいは溶媒組成の影響を受けて変動しやすいため、本発明においては特に透過型電子顕微鏡を用いて得た粒子像の最大長(Dmax:粒子画像の輪郭上の2点における最大長さ)、及び最大長垂直長(DV−max:最大長に平行な2本の直線で画像を挟んだ時、2直線間を垂直に結ぶ最短の長さ)を測長し、その相乗平均値(Dmax×DV−max)1/2 を粒子径とした。この方法で100〜200個の粒子の粒子径を測定し、その算術平均値を平均粒子径とした。平均粒子径が5nmよりも小さいと、中空状の粒子形態の維持が困難になる。また平均粒子径が120nmを超えると、反射防止材の充填材として用いた場合に透明性が維持できなくなる。このため、何れも本発明に適さない。
【0014】
本発明の中空粒子からなる粉末のシェルの厚さは、1〜35nm、好ましくは1〜20nmである。シェルの厚さは以下の方法で測定した。中空粒子の透過型電子顕微鏡像は、シェルの部分(外縁)の色が濃く、空洞部分(内部)の色が薄い、二重のコントラストを有する像として得られる。コントラストが薄い空洞部分の最大長(IDmax)、及び最大長垂直長(IDV−max)を、前項の粒子像と同様にして測長し、その相乗平均値(IDmax×IDV−max)1/2 を空洞部分の径とした。前項にて粒子径を測定した100〜200個の粒子像について、空洞部分の径を測定し、その算術平均値を平均空洞径とした。平均粒子径と平均空洞径から、{(平均粒子径)−(平均空洞径)}÷2 を算出し、これをシェルの厚さとした。シェルの厚さが1nmよりも小さいと、シェルが破れやすくなり、中空の粒子形態の維持が困難になる。シェルの厚さが35nmよりも大きいと、粒子の屈折率が増大し、反射防止材の充填材として用いた場合に、充分な反射防止性能が得られなくなる。このため、何れも本発明に適さない。
【0015】
本発明の中空シリカ粉末は、高い耐アルカリ性を有する。具体的には温度20〜30℃、pH12のアルカリ性水溶液に24時間浸漬しても、シリカシェルが溶解せずに中空の粒子形態を維持するため、1.30以下の低い屈折率を維持することができる。
【0016】
本発明の中空シリカ粉末は、そのまま反射防止材の充填材として用いることも可能であるが、マトリックス樹脂との親和性を向上させ、高い分散性を発揮させるためには、粉末粒子の表面をシランカップリング剤で処理することが好ましい。シランカップリング剤としては、メタクリロキシシラン系カップリング剤、エポキシシラン系カップリング剤等が適するが、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(MPTMS)、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等が特に好適である。
【0017】
本発明の中空シリカ粒子からなる粉末の製造方法としては、例えば以下の方法が採用される。コアが有機ポリマー、シェルがシリカであるコアシェル粒子からなる粉末を製造した後にコアを除去する中空シリカ粉末の製造方法において、コアとなる有機ポリマー粒子は、界面活性剤を用いずに、重合性モノマーを主成分としてこれにイオン性コモノマーを、共重合させてなる、ソープフリー重合によって製造される。この際、重合性モノマーとイオン性コモノマーの割合を、モル比で150:1〜2:1とすることによって、平均粒子径5〜90nmの有機ポリマー粒子が形成される。イオン性コモノマー割合が上記よりも少ないと、有機ポリマー粒子の径が90nmよりも大きくなるため、本発明には適さない。反対に上記よりも多いとイオン性コモノマーが乳化重合におけるイオン性界面活性剤と同様に作用してシリカシェルがイオン性を帯びやすくなり、その結果形成初期のシリカシェルには多くのシラノール基が含まれるようになるため、本発明には適さない。
【0018】
本発明に用いられる重合性モノマーは、スチレン、メタクリル酸メチルなどのメタクリル酸エステル、アクリル酸メチルなどのアクリル酸エステルなどであるが、特にスチレンが好ましい。重合製モノマーに、必要に応じて架橋剤であるジビニルベンゼン(DVB)等を微量添加しても良い。また本発明に用いられるイオン性コモノマーは、p−スチレンスルホン酸塩、メタクリル酸塩、アクリル酸塩などであるが、p−スチレンスルホン酸塩、特にp−スチレンスルホン酸ナトリウムが好ましい。
【0019】
ソープフリー重合によるコア粒子の形成方法の一例を示す。混合用の撹拌翼付きセパラブルフラスコ等の反応器を用い、水(脱イオン水、蒸留水又は純水)をフラスコに入れて窒素ガス等の不活性ガスをバブリングして酸素を脱気する。その後p−スチレンスルホン酸ナトリウム(以下p−NaSSという)を含む水溶液を、p−NaSSの水に対する濃度が0.1〜50ミリモル/リットルになるように加えて撹拌した後、スチレンを水に対する濃度が5〜200ミリモル/リットルになるように加えて撹拌を行い、さらに過硫酸カリウム等の重合開始剤を含む水溶液を加え撹拌を続けながら恒温槽等を用いてフラスコを40〜90℃に加熱して重合反応を行い、ソープフリー重合ポリスチレン粒子からなる粉末を得ることができる。
【0020】
ポリスチレン等の有機ポリマー粒子からなる粉末にシリカを被覆する場合、従来は粉末表面をシランカップリング剤で処理した後に被覆する方法が用いられた(特許文献8)。しかし、シランカップリング剤は加水分解してシラノール基を生成するため、被覆後のシリカシェルにシラノール基が残存しやすくなり、中空シリカ粉末をアルカリ水溶液に浸した際にシリカシェルが溶解しやすくなってしまう。本発明においては、シリカ被覆の際にシランカップリング剤は用いずに、陽イオン性水溶性高分子及び非イオン性水溶性高分子を用いることが特徴である。陽イオン性水溶性高分子は、有機ポリマー粒子に緩く吸着し、粒子周囲に存在するため、後に添加するアルコキシシラン(シリカ源物質)を有機ポリマー粒子の周囲に静電気力で引き寄せる。このためアルコキシシランが加水分解して生成する珪酸化合物(SiO・nHO) が、有機ポリマー粒子表面で脱水縮合することによってシリカシェルが形成される。本発明は従来と異なりシランカップリング剤を使用しないため、シリカシェルにシラノール基が残存しにくく、その結果耐アルカリ性に優れたシリカシェルが形成される。シリカシェルに残存するシラノール基量は、以下の方法で測定することができる。中空シリカ粉末約0.5gを、高温水分気化装置(三菱化学社製、VA−122)に入れて加熱する。200℃未満で中空シリカ粉末から発生する水分は物理吸着水に由来するものであるため無視し、200〜900℃で発生する水分をシラノール基由来のものとして、アルゴンガスを用いて、カールフィッシャー電量滴定法水分計(三菱化学社製、CA−100)に導入して定量する。200〜900℃で発生した水分の1個の分子が、1個のシラノール基に由来するものとして、水分量定量値から単位質量当たりの中空シリカ粉末が有するシラノール基由来の水分子数を求める。一方この粉末0.2gを用い、全自動比表面積測定装置(マイクロデータ社製、マイクロソープ4232II)を用いBET一点法によって比表面積を測定する。単位質量当たりの水分子数を比表面積値(単位質量当たりの表面積値)で除することによって、中空シリカ粉末の単位表面積当たりのシラノール基量(個/nm)を測定する。本発明の中空シリカ粉末の単位表面積当たりのシラノール基量は、1〜10個/nmである。シラノール基量がこれよりも少ないと表面処理(シランカップリング処理)を充分に行うことができない。またシラノール基がこれよりも多いと粉末の耐アルカリ性が得られない。このため、何れも本発明に適さない。なお、脱水縮合の際、近接する粒子同士が脱水縮合物で架橋されて凝集することを防ぐために、本発明においてはさらに非イオン性水溶性高分子を立体障害物として用いる。非イオン性水溶性高分子は、陽イオン性水溶性高分子を加えた後、アルコキシシランを加える前に、有機ポリマー粒子を含む液体に加えられる。
【0021】
本発明に用いる陽イオン性水溶性高分子はポリアリルアミン塩酸塩(PAH)、ポリアクリロキシアルキルアンモニウム塩酸塩等であるが、中でも分子量1000〜15000のPAHが好ましく、特に分子量15000のものが好ましい。また本発明に用いる非イオン性水溶性高分子は、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリルアミド(PAM),ポリエチレンオキシド(PEO)等であるが、中でも分子量10000〜1000000のPVPが好ましく、特に分子量360000のものが好ましい。本発明においては、PVPを添加した後、コア粒子を含む液体を水からアルコールに置換するが、アルコールとしてはエタノール、イソプロパノール、エタノール等が好ましく、特にエタノールが好ましい。その後シリカシェル(被覆)を形成するためアルコキシシランを添加するが、アルコキシシランとしてはテトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトライソプロポキシシラン(TiPOS)等が好ましく、特にTEOSが好ましい。さらにその後アルコキシシランを加水分解させるために、水及び塩基性物質を添加するが、塩基性物質としては、アンモニア、水酸化ナトリウム等が好ましく、特にアンモニアが好ましい。
【0022】
シリカシェル形成(シリカ被覆)方法の一例を示す。重合反応終了後のソープフリー重合ポリスチレン粒子を含む液を室温まで冷却後、ポリアリルアミン塩酸塩(以下PAHという)がポリスチレン粒子に過度に吸着することを防ぐために電解質として0.01モル/リットルの水酸化ナトリウムを加えた後、PAHを水1リットル当たり0.1〜2g加えて撹拌する。この時、液のpHはアルカリ性であれば粒子が凝集しにくくなるため好ましい。その後遠心沈降等によりPAHが吸着したポリスチレン粒子を液相から分離して捕集する。水を加えた後、超音波分散等によって粒子を水中へ再分散させた後、PVPを水1リットル当たり1〜20g加えて撹拌する。遠心沈降等により粒子を捕集し、エタノールを加えてコア粒子を含む液体を水からエタノールに置換し、超音波分散によって粒子をエタノール中へ再分散させる。その後、シリカ源としてテトラエトキシシラン、アンモニア及び水を、それぞれエタノール1リットル当たり1〜50ミリモル、0.2〜10モル及び1〜20モル加えて、常温付近(10〜50℃)で数時間保持してコア粒子表面にシリカシェルの被覆を行う。
【0023】
コアシェル粒子を含む液から、遠心沈降等によって粒子を捕集した後、真空乾燥を行い、さらに高温に加熱してコア粒子を分解除去することによって、中空シリカ粒子からなる粉末が得られる。
【0024】
本発明の中空シリカ粉末とは、外殻を有し、内部に単一の空孔(空洞)を有する粒子からなる粉末である。中空粉末は、低屈折率、低誘電率、高空隙率であるため、反射防止材、低誘電率材、断熱材等の充填材、ドラッグデリバリーシステムのための担体などへの適用が考えられるが、大部分の用途において、粉末を構成する粒子が分散していることが必要になる。サイズが数〜数十ナノメートルの中空粒子の群からなる粉末は、乾燥状態では凝集が顕著であり分散粒子は得難いため、分散性が比較的良好なスラリー状にする必要がある。スラリーの溶媒としては水または有機溶媒の何れも用いることができるが、後に添加するマトリックスが有機物である場合は、水よりも有機溶媒が好ましい。
【0025】
スラリー中の粒子の分散性をさらに向上させる方法として、ホモジナイザー又は湿式ジェットミルによる分散を行うことができる。ホモジナイザー装置としては、撹拌式(みづほ工業製、又はエム・テクニック製[商品名クレアミックス])又は超音波式(ブランソン製)等を、湿式ジェットミル装置としては、アルティマイザー、スターバースト(以上、スギノマシン製)、ナノジェットパル(常光製)、ナノメーカー(アドバンスト・ナノ・テクノロジー製)又はマイクロフルイダイザー(マイクロフルイディックス製)等を用いることができる。
【0026】
有機溶媒中で中空粒子の分散性を向上させる方法として、上記分散とは別に、又は上記分散と併せて、粒子表面を、メタクリロキシシラン系カップリング剤、エポキシシラン系カップリング剤等のシランカップリング剤で被覆する方法を用いることもできる。
【0027】
有機溶媒中に中空粒子が分散したスラリーは、中空粒子が5〜40質量%であることが好ましく、10〜30質量%であることが更に好ましい。スラリー中の中空粒子と有機溶媒の合計が90〜99.9質量%が好ましく、95〜99.9質量%であることが更に好ましい。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール、ノルマルブタノール、イソブタノール、ターシャリブタノール等、常用温度である25℃にて液体のアルコール、又はメチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等、25℃にて液体のケトンが好適である。
【0028】
ケトンに分散したスラリーは、上記によって得たアルコールに分散したスラリーを、必要に応じて湿式ジェットミルにて分散し、さらに粒子表面をシランカップリング剤で被覆した後、クロスフロー限外濾過又は蒸留等の方法を用いて、溶媒をアルコールからケトンに置換することによって得られる。シランカップリング剤としては、エポキシシラン系カップリング剤、メタクリロキシシラン系カップリング剤等が好適に用いられる。
【0029】
スラリーに所定量の透明被膜形成用マトリックスが加えられる。透明被膜形成用マトリックス添加量は、中空シリカ粉末と透明被膜形成用マトリックスの合計の体積に対する中空シリカ粉末の体積分率が5〜60体積%、好ましくは8〜55体積%になる量である。粉末がこれよりも少ないと粉末添加の効果が得られず、またこれよりも多いと粒子が凝集してしまうため透明性の高い塗膜が得られない。このため何れも本発明に適さない。マトリックスの材料としては透明性が高い樹脂が好ましく、例えば低分子量のポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂等である。なかでもアクリル系の樹脂が特に好ましい。例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等であるが、特にメタクリル酸メチルが好適に用いられる。これらの樹脂は、ポリマー、モノマーの何れの形態で加えても良い。なお、ポリマー添加後は液を混合しながら50〜100℃に加熱して所定時間保持し、ポリマーを溶媒へ完全に溶解させることが好ましい。この後、粉末、透明被膜形成用マトリックス及び溶媒を含む液を冷却することによって、本発明の透明被膜形成用塗料が得られる。中空シリカ粉末と透明被膜形成用マトリックスの合計量に対する溶媒の量は、塗料の粘度が塗工に適する値(数十〜数万 mPa・s)になるように、適宜調整することが好ましい。
【0030】
本発明の塗料を、樹脂製、ガラス製等の基材上に塗工することによって、透明被膜及び透明被膜付き基材が得られる。塗工の直前に、液に超音波振動を数分間加えることによって粉末の分散を強化しておくことが好ましい。塗工の方法として、スピンコート法、バーコート法、ディップコート法、グラビアコート法又はドクターブレード法等が用いられる。
【0031】
本発明の中空シリカ粉末は分散性が良好であるため、これを用いて透明性が良好な被膜形成用塗料、透明被膜及び透明被膜付き基材を作製することができる。特に本発明の中空シリカ粉末は低屈折率であり、これを含む塗料、透明被膜及び透明被膜付き基材も低屈折率になるため、塗料を基材表面上に塗布してなる被膜付き基材は、優れた反射防止性能を発揮することができる。さらに本発明の中空シリカ粉末は高い耐アルカリ性を有するため、これを含む塗料を基材表面上に塗布してなる被膜付き基材は、洗浄効果が高いアルカリ性洗剤を用いて洗浄することが可能なため、優れた防汚性能を発揮することができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例、比較例をあげて更に具体的に説明する。
実施例1
【0033】
300mLの四つ口カバー付き丸底セパラブルフラスコを反応器に用い、混合用の撹拌翼を上部から挿入した。脱イオン水280mLをフラスコに入れて、室温で窒素ガスを30分間バブリングした後、バブリングを止めて、以後は重合が終了するまでフラスコ内を窒素雰囲気とした。p−スチレンスルホン酸ナトリウム(和光純薬工業製、試薬)0.62g(3ミリモル)を含む水溶液10mLを加えて10分間撹拌した後、スチレン(和光純薬工業製、試薬特級)1.8g(17.4ミリモル)を加えて20分間撹拌を行い、さらに重合開始剤として、過硫酸カリウム(KPS、和光純薬工業製、試薬特級、純度95%)0.4g(1.5ミリモル)を含む水溶液10mLを加えた。なお、スチレンとp−スチレンスルホン酸ナトリウムのモル比は、5.8:1であった。撹拌を続けながらフラスコ内の温度を80℃まで上げて反応を行い、8時間保持することによって、ソープフリー重合ポリスチレン粒子からなる粉末が得られた。粉末を含む液の一部をスポイトで吸引し、微細試料捕集用の膜(コロジオン膜)上に滴下、乾燥後、透過型電子顕微鏡(TEM)観察に供した。TEM観察は日本電子製の透過型電子顕微鏡、2000FXを用い、加速電圧200kV、観察倍率20万倍の条件にて実施した。
【0034】
TEM観察により、粒子径が50nm以下で、円形又は楕円形のTEM像を有する粒子の生成が確認された。100個の粒子像に対し、粒子像の最大長(Dmax:粒子画像の輪郭上の2点における最大長さ)、及び最大長垂直長(DV−max:最大長に平行な2本の直線で画像を挟んだ時、2直線間を垂直に結ぶ最短の長さ)を測長し、その相乗平均値(Dmax×DV−max)1/2 を粒子径として算出し、さらにこれらの算術平均値を平均粒子径としたところ、平均粒子径は26nmであった。
【0035】
ソープフリー重合ポリスチレン粒子を含む液を室温まで冷却後、ポリアリルアミン塩酸塩(PAH)がポリスチレン粒子に過度に吸着することを防ぐために電解質として水酸化ナトリウム(NaOH、和光純薬工業製、試薬特級)0.17g(4.2ミリモル)を加えた後、分子量15000のPAH(Aldrich製)0.087gを加えて15分間撹拌した。この時、液のpHは12であった。その後、20000回転(38000G)で2時間遠心沈降を行い、PAHで処理したポリスチレン粒子を捕集した。300mLの純水を加えて超音波分散(周波数44kHz、出力320W、1時間)を行い粒子を水中へ再分散させた後、分子量360000のポリビニルピロリドン(PVP、東京化成工業製)1.7gを加えて、15分間撹拌した。38000Gで2時間遠心沈降した後、エタノール(和光純薬工業製、試薬特級)300mLを加えてコア粒子を含む液体を水からエタノールに置換し、超音波分散によって粒子をエタノール中へ再分散させた。
【0036】
その後、シリカ源としてテトラエトキシシラン(TEOS、和光純薬工業製、試薬特級、95質量%)0.15g(0.7ミリモル)、さらにアンモニア5.7g(0.33モル、和光純薬工業製、精密分析用試薬、25%水溶液)及び水17g(0.95モル、前記アンモニア水の溶媒)を加えて、室温(20〜30℃)で3時間保持してコア粒子表面にシリカシェルの被覆を行った。その後38000Gで2時間遠心沈降して粒子を捕集し、70℃で12時間真空乾燥を行い、さらに大気中500℃で3時間加熱して白色粉末を得た。
【0037】
白色粉末の一部を、エタノール(和光純薬工業製、試薬特級)に、5質量%の割合で添加した後、超音波分散(周波数44kHz、出力320W、1時間)を行い、粒子をエタノール中へ分散させた。この液の一部をスポイトで吸引し、コロジオン膜上に滴下、乾燥後、TEM観察に供した。
【0038】
TEM観察により、粒子径が120nm以下で、外形が円形又は楕円形であり、内部に明るいコントラストの空洞部を有する粒子のTEM像が認められ、中空粒子からなる粉末の生成が確認された。100個の粒子像に対し、輪郭の最大長(Dmax:粒子画像の輪郭上の2点における最大長さ)、及び最大長垂直長(DV−max:最大長に平行な2本の直線で画像を挟んだ時、2直線間を垂直に結ぶ最短の長さ)を測長し、その相乗平均値(Dmax×DV−max)1/2 を粒子径として算出し、さらにこれらの算術平均値を平均粒子径としたところ、平均粒子径は39nmであった。
【0039】
次いで、上記100個の粒子像に対し、内部の明るいコントラストの外縁の最大長(IDmax:粒子空洞部の外縁上の2点における最大長さ)、及び最大長垂直長(IDV−max:最大長に平行な2本の直線で画像を挟んだ時、2直線間を垂直に結ぶ最短の長さ)を測長し、その相乗平均値(IDmax×IDV−max)1/2 を空洞径として算出し、さらにこれらの算術平均値を平均空洞径としたところ、平均空洞径は27nmであった。{(平均粒子径)−(平均空洞径)}÷2 により算出されるシリカシェルの厚さは、6nmであった。
【0040】
大気中で加熱して得た白色粉末の一部をメノウ乳鉢を用いて解砕した。低屈折率の液体(住友スリーエム製、フロリナート、FC−72、FC−3283、FC−40)を単独で又は混合して屈折率標準液とし、これに解砕後の粉末を浸し、実体顕微鏡を用いて液浸法により粒子屈折率を測定したところ、1.29であった。またこの粉末約0.5gを、高温水分気化装置(三菱化学社製、VA−122)に入れて加熱し、200〜900℃で発生する水分をカールフィッシャー電量滴定法水分計(三菱化学社製、CA−100)に導入して定量した。200〜900℃で発生した水分の1個の分子が、1個のシラノール基に由来するものとして、水分量定量値から単位質量当たりの中空シリカ粉末が有するシラノール基由来の水分子数を求めた。さらにこの粉末0.2gを用い、全自動比表面積測定装置(マイクロデータ社製、マイクロソープ4232II)を用いBET一点法によって比表面積を測定した。単位質量当たりの水分子数を比表面積値(単位質量当たりの表面積値)で除することによって、中空シリカ粉末の単位表面積当たりのシラノール基量(個/nm)を測定したところ5.7個/nmであった。
【0041】
次いで大気中で加熱して得た白色粉末の一部を、水酸化ナトリウム(関東化学製、試薬特級、97%)を用いてpH12に調整した水中に、10質量%の割合で加え、温度25℃で24時間保持した。その後、遠心沈降と、蒸留水中への超音波分散を5回繰り返して粉末に含まれる水酸化ナトリウムを除去し、6回目の遠心沈降で得た固形分を、70℃で12時間真空乾燥を行って得た白色粉末をメノウ乳鉢で解砕し、液浸法で粒子屈折率を測定したところ、1.29であった。
【0042】
実施例2〜3
表1に示す条件の他は実施例1と同様にして中空シリカ粉末を作製し、平均粒子径、シリカシェルの厚さ、単位表面積当たりのシラノール基量及びアルカリ性水への浸漬前後における粒子屈折率の測定を実施例1と同様にして行い、結果を表2に示した。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
比較例1
容量300mLのセパラブルフラスコに、蒸留水200mL、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS、和光純薬工業製、純度95%)2gを界面活性剤として加え、窒素ガスをバブリングしながら撹拌した。バブリングと撹拌を継続しながら30分経過した時点でスチレン20gを添加し、加熱を開始した。水温が80℃に達した時点でバブリングを止めて、過硫酸カリウム(KPS)0.4gを蒸留水10mLに溶解させて添加した。撹拌を継続しながら80℃で20分保持してスチレンを乳化重合させた後、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業製、シランカップリング剤)1.5gを添加し、撹拌を継続しながら70℃で3時間保持して、生成した有機ポリマー(ポリスチレン)粒子にカップリング処理を実施した。
【0046】
得られた有機ポリマー粒子を含む乳濁液200mLに対しエタノール600mLを加えた後、限外濾過フィルター(ポリエーテルスルフォン製、分画分子量30000、ザルトリウス社製、ビバフロー200)を用いたクロスフロー限外濾過を行って乳濁液が200mLになるまで濾液を排出して濃縮した。さらにエタノール600mLを加えて同様の操作で、200mLまで濃縮した。
【0047】
この乳濁液の一部を乾燥後、透過型電子顕微鏡にて拡大した粒子像を撮影した写真から100個の粒子像に対し、粒子像の最大長(Dmax:粒子画像の輪郭上の2点における最大長さ)、及び最大長垂直長(DV−max:最大長に平行な2本の直線で画像を挟んだ時、2直線間を垂直に結ぶ最短の長さ)を測長し、その相乗平均値(Dmax×DV−max)1/2 を粒子径として算出し、さらにこれらの算術平均値を平均粒子径としたところ、平均粒子径は30nmであった。
【0048】
置換後の乳濁液を25℃まで冷却後150mL分取し、これに濃度25質量%のアンモニア水25mLを加えて撹拌しながら、25℃に保持した3Lのイソプロパノール(和光純薬工業製、99.9%)に徐々に添加した。この際イソプロパノールを満たした容器に超音波振動を加えることによって、乳濁液の分散を促進した。超音波振動印加を継続しながら、テトラエトキシシラン(TEOS)120mLを徐々に滴下した。これにより乳濁液中のポリスチレン粒子に、テトラエトキシシランの加水分解物であるシリカを主成分とするシリコン化合物を被覆し、コアシェル粒子を作製した。
【0049】
その後は実施例1と同様にして中空シリカ粉末を作製し、平均粒子径、シリカシェルの厚さ、単位表面積当たりのシラノール基量及びアルカリ性水への浸漬前後における粒子屈折率の測定を実施例1と同様にして行い、結果を表2に示した。
【0050】
実施例4
実施例1で得た中空シリカ粒子からなる白色粉末を、イソプロパノールに15質量%の割合で添加後、湿式ジェットミル(スギノマシン製、スターバースト)を用いて吐出圧力200MPaにて分散処理を行った。処理後の液体50gを秤り取り、セパラブルフラスコに充填し、マグネティックスターラーを用いて撹拌した。次いでメタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤)を、質量で中空粒子の10分の1に相当する量(0.75g)を加えた後、ウォーターバスで撹拌しながら加熱を行い、70℃にて3時間保持した。冷却後、スラリーの10gを秤り取り、遠心沈降を行って沈殿物を得た。これに8.5gのイソプロパノールを添加・撹拌した後、遠心沈降を行って沈殿物を得る操作を5回繰り返して沈殿物を洗浄した。これを25℃で1日間真空乾燥した後、ガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)を行ったところ、シランカップリング剤に由来するメタクリル酸が検出され、中空粒子がシランカップリング剤で被覆されていることが判った。残りのスラリーを超音波式ホモジナイザー(ブランソン製)にて分散した。
【0051】
シランカップリング剤被覆・分散後のスラリーの30gを秤り取りナス型フラスコに充填した。これにメチルイソブチルケトン(和光純薬工業製、純度99.5%)300gを加え、ロータリーエバポレーターを用いて85℃のウォーターバス中で蒸留を行い、溶媒を置換した。残留物が33gになった時点で加熱を止め、25℃まで冷却してスラリーを得た。このスラリーの水分量をカールフィッシャー法で測定し、これを100質量%から差し引いた残部を中空シリカ粉末と有機溶媒の合計量と見なした結果、合計量は99.6質量%であった。さらに、ガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)によって、メチルイソブチルケトン及びイソプロパノールの含有量を分析した結果、それぞれ75質量%及び9質量%であった。次いでスラリーを超音波式ホモジナイザーにて分散した。
【0052】
実施例5
実施例4で得たイソプロパノール置換後のスラリー(中空粒子15質量%を含む)4.2g(中空粒子0.63gに相当)を秤り取り、これに被膜形成用マトリックスとしてペンタエリスリトールトリアクリレート(Aldrich製)0.71g、紫外線硬化剤(チバスペシャリティケミカルズ社製、光重合開始剤、商品名:イルガキュア907)0.05g、イソプロパノール54.3gを加えて混合し、透明被膜形成用塗料を調製した。
【0053】
これを、スピンコーター(トキワ真空機材製、SPN−4500V)を用いて回転数1500rpmで回転させた厚さ80μmの透明なトリアセチルセルロース(TAC)基材上に滴下して塗膜を形成した。塗膜を室温で保持して乾燥させた後、UVランプを用いて照射線量200mJ/cmの紫外線を数秒間照射して塗膜を硬化し、被膜(厚さ約100nm)付き基材を作製した。この被膜付き基材のヘーズ(曇り度)をヘーズメーター(日本電色工業製、NDH−5000)を用い、JIS K 1736の方法で測定したところ0.1%であった。この被膜にアルカリ性洗剤(花王マジックリン)を噴霧し、5分間放置した後スポンジで拭き、水洗して洗剤を除去、乾燥後に再度ヘーズを測定したところ、0.1%であった。
【0054】
比較例2
実施例1に代えて比較例1の中空シリカ粉末を使用した他は、実施例4と全く同様にして、比較例1の中空シリカ粉末を含むスラリーを作製し、さらに実施例5と全く同様にして比較例1の中空シリカ粉末と被膜形成用マトリックスとを含む被膜付き基材を作製した。この被膜付き基材のヘーズをヘーズメーターを用いて測定したところ0.2%であった。この被膜にアルカリ性洗剤を噴霧し、5分間放置した後スポンジで拭き、水洗して洗剤を除去、乾燥後に再度ヘーズを測定したところ、0.6%であった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の中空シリカ粉末及びこれを分散してなるスラリーは、反射防止材、低誘電率材、断熱材等の充填材、ドラッグデリバリーシステムのための担体などに好適に用いることができる。
とりわけ、本発明の中空シリカ粉末及びこれを分散してなるスラリーを用いた透明被膜形成用塗料及び被膜付き基材は、優れた耐アルカリ性及び透明性を有する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ(SiO)を主成分とし、平均粒子径が5〜120nm、シェルの厚さが1〜35nm、単位表面積当たりのシラノール基(≡Si−OH基)の数が1〜10個/nmであることを特徴とする中空シリカ粉末。
【請求項2】
表面をシランカップリング剤で処理してなる、請求項1に記載の中空シリカ粉末。
【請求項3】
コアが有機ポリマー、シェルがシリカであるコアシェル粒子からなる粉末を製造した後にコアを除去する、中空シリカ粉末の製造方法において、
(A)コアとなる有機ポリマー粒子は、重合性モノマーを主成分としてこれにイオン性コモノマーを、モル比で150:1〜2:1の割合で共重合させてなるソープフリー重合によって平均粒子径5〜90nmの粒子を製造し、
(B)その後この有機ポリマー粒子を含む液体に、陽イオン性水溶性高分子を加えた後、非イオン性水溶性高分子を加え、さらにコア粒子を含む液体を水からアルコールに置換した後、アルコキシシラン、水及び塩基性物質を添加してシリカを被覆し、平均粒子径が5〜120nm、シリカシェルの厚さが1〜35nmのコアシェル粒子からなる粉末を製造し、その後コアを除去することを特徴とする、中空シリカ粉末の製造方法。
【請求項4】
重合性モノマーがスチレン、イオン性コモノマーがp−スチレンスルホン酸塩であることを特徴とする、請求項3に記載の中空シリカ粉末の製造方法。
【請求項5】
陽イオン性水溶性高分子が、分子量1000〜15000のポリアリルアミン塩酸塩、非イオン性水溶性高分子が、分子量10000〜1000000のポリビニルピロリドンであることを特徴とする、請求項3又は請求項4に記載の中空シリカ粉末の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載の中空シリカ粉末5〜40質量%を含有し、スラリー中の中空シリカ粉末と有機溶媒の合計が90〜99.9質量%であり、残部は主として水であることを特徴とするスラリー。
【請求項7】
有機溶媒が25℃で液体のアルコール及び/又は25℃で液体のケトンであることを特徴とする請求項6に記載のスラリー。
【請求項8】
請求項1又は請求項2に記載の中空シリカ粉末と、被膜形成用マトリックスとを含んでなる透明被膜形成用塗料。
【請求項9】
請求項1又は請求項2に記載の中空シリカ粉末と、被膜形成用マトリックスとを含んでなる被膜が、単独でまたは他の被膜とともに基材表面上に形成された被膜付き基材。


【公開番号】特開2011−42527(P2011−42527A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191591(P2009−191591)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】