説明

中空シリカ粒子

【課題】極めて微細な中空シリカ粒子、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】〔1〕レーザ回折/散乱法によって測定される体積平均粒子径が0.05〜0.45μmで、最大粒子径が体積平均粒子径の5倍以内であり、空孔率が20〜70体積%、BET比表面積が30m2/g未満、98質量%以上がSiO2である中空シリカ粒子、及び〔2〕疎水性有機化合物(a)と、第四級アンモニウム塩(b)、及び加水分解によりシラノール化合物を生成するシリカ源(c)を含有する水溶液を調製する工程(I)、得られた水溶液を10〜100℃の温度で撹拌して、シリカから構成される外殻を有し、かつ核に疎水性有機化合物(a)を有するコアシェル型シリカ粒子の水分散液を調製する工程(II)、得られたコアシェル型シリカ粒子を分離し、950℃以上の温度で焼成して、中空シリカ粒子を得る工程(III)を有する中空シリカ粒子の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空シリカ粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微小中空シリカ粒子は、非中空シリカ粒子に比べて比重が小さく、中空粒子という形態に起因して低誘電率化効果を有することから、多層プリント基板や電線被覆材、半導体封止材等の低誘電率化ニーズがある分野での利用が期待されている。
微小中空シリカ粒子については、種々の提案が行われている。例えば、特許文献1には、平均粒径が8μm以下、平均球形度が0.85以上、50%破壊圧力が10MPa以上、平均中空率が20〜70体積%である微細化された球状シリカ中空粉体が開示されている。
しかしながら、特許文献1の中空シリカ粒子の平均粒径は、具体的態様において0.5〜8μmであり、実施例では1.2〜7.8μmである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−206436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、多層プリント基板等の低誘電率化ニーズがある分野では、回路の微細化等に伴い、絶縁膜の平滑性、さらに薄膜化が望まれている。したがってその構成材料として用いられる粒子にも更なる微細化が望まれている。
本発明は、極めて微細な中空シリカ粒子、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、次の〔1〕及び〔2〕を提供する。
〔1〕レーザ回折/散乱法によって測定される体積平均粒子径が0.05〜0.45μmで、最大粒子径が体積平均粒子径の5倍以内であり、空孔率が20〜70体積%、BET比表面積が30m2/g未満、98質量%以上がSiO2である中空シリカ粒子
〔2〕下記工程(I)〜(III)を有する前記〔1〕の中空シリカ粒子の製造方法。
工程(I):疎水性有機化合物(a)と、第四級アンモニウム塩(b)、及び加水分解によりシラノール化合物を生成するシリカ源(c)を含有する水溶液を調製する工程
工程(II):工程(I)で得られた水溶液を10〜100℃の温度で撹拌して、シリカから構成される外殻を有し、かつ核に疎水性有機化合物(a)を有するコアシェル型シリカ粒子の水分散液を調製する工程
工程(III):工程(II)で得られた水分散液からコアシェル型シリカ粒子を分離し、950℃以上の温度で焼成して、中空シリカ粒子を得る工程
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、レーザ回折/散乱法によって測定される体積平均粒子径が0.45μm以下で、十分に低い誘電率、誘電正接を有する中空シリカ粒子、及びその効率的な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[中空シリカ粒子]
本発明の中空シリカ粒子は、レーザ回折/散乱法によって測定される体積平均粒子径が0.05〜0.45μmで、最大粒子径が体積平均粒子径の5倍以内であり、空孔率が20〜70体積%、BET比表面積が30m2/g未満、98質量%以上がSiO2であることを特徴とする。
本発明の中空シリカ粒子は、その98質量%以上、好ましくは99質量%以上がSiO2である。シリカ以外の成分としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、カルシア等が挙げられるが、強度、低熱膨張性、電気絶縁性の観点から、中空シリカ粒子の純度は98質量%以上であることが必要である。シリカ純度は、例えばプラズマ発光分光分析装置(ICP)、蛍光X線分析装置(XRF)、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)、原子吸光光度計(AAS)等を用いて測定することができる。
なお、中空シリカ粒子の物性は、実施例記載の方法により測定される。
【0008】
中空シリカ粒子の体積平均粒子径は0.05〜0.45μmであるが、低誘電特性等の観点から、好ましくは0.08〜0.42μm、より好ましくは0.10〜0.40μm、更に好ましくは0.15〜0.40μmである。
また、中空シリカ粒子の最大粒子径は、体積平均粒子径の5倍以内であり、好ましくは4.5倍以内、より好ましくは4倍以内、更に好ましくは3.5倍以内である。
体積平均粒子径の測定には、株式会社堀場製作所製のレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置「LA−920」、ベックマンコールター社製のレーザー回折散乱法粒度分布測定装置「LS 13 320」等が使用できる。
中空シリカ粒子としては、充填率を向上させるために体積平均粒子径の異なる複数種の中空粒子を混合して、粒子径分布を広くして使用することもできるし、強度等の観点から粒子径分布の狭いものを複数組み合わせて使用することもできる。
【0009】
中空シリカ粒子の空孔率は20〜70体積%である。空孔率が20体積%未満では、中空シリカ粒子の特徴である軽量性、断熱性、低誘電特性等の効果を十分に発現せず、70体積%を超えると、粒子の殻厚が薄くなり強度が低下して、粉体のハンドリング中や樹脂との混練中に粒子が破壊するおそれがある。該空孔率は、用途等を考慮して適宜調整しうるが、誘電特性向上等の観点から、好ましくは15〜65%、より好ましくは20〜60%、更に好ましくは、25〜55%である。
空孔率を同じにした場合、体積平均粒子径が大きい方が高い強度が期待できる。
粒子強度を重視する場合、中空シリカ粒子の全体の80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95%質量以上が体積平均粒子径±30%以内の粒子径を有しており、非常に揃った粒子径の粒子群から構成されていることが望ましい。さらに強度を重視する場合、中空シリカ粒子以外のフィラーを添加してもよい。
【0010】
中空シリカ粒子の外殻部の平均厚みは、中空シリカ粒子が担体としての強度を維持できる範囲で薄い方が好ましく、中空部の平均直径(平均容積)は、空孔率を高くする観点から大きい方が好ましい。これらの観点から、外殻部の平均厚みは、通常0.5〜150nm、好ましくは2〜120nm、より好ましくは3〜100nmである。
〔外殻部の平均厚み/中空シリカ粒子の平均粒子半径〕の比は、通常0.13〜0.47、好ましくは0.16〜0.42、より好ましくは0.18〜0.37である。
中空シリカ粒子の体積平均粒子径、外郭部の平均厚みは、後述するプロトコアシェル型シリカ粒子の製造条件、中空部位形成材料の粒子径、焼成条件等により適宜調整することができる。
【0011】
中空シリカ粒子のBET比表面積は30m2/g未満であり、低誘電特性等の観点から、好ましくは25m2/g以下、より好ましくは20m2/g以下、更に好ましくは18m2/g以下である。
中空シリカ粒子の50%破壊圧力は100MPa以上であることが好ましい。50%破壊圧力が100MPa未満では、種々の用途において使用するために、例えば樹脂と混合して使用する場合等に破壊する粒子が多くなるため好ましくない。ここで、50%破壊圧力とは、例えば、日機装株式会社製の冷間等方圧プレス装置や、株式会社神戸製鋼所製の冷間等方加圧装置により粉体を加圧し、平均中空率が半減した圧力として定義される。より具体的には、実施例記載の方法により測定される。
中空シリカ粒子は、粉末X線回折(XRD)測定において、低誘電特性等の観点から、結晶格子面間隔(d)が1nm未満の範囲に相当する回折角(2θ)にピークを示さないものであることが好ましい。
また、中空シリカ粒子は、細孔径分布において、実質的に1nm以上に細孔分布を示さないことが好ましい。
【0012】
本発明の中空シリカ粒子は、固体29Si−NMRスペクトルによるQ2+Q3+Q4のシグナル面積に対する(Q2×2+Q3)のシグナル面積の比[(Q2×2+Q3)/(Q2+Q3+Q4)]が0.15以下であることが好ましい。
2、Q3、及びQ4のシグナル面積は、固体29Si−NMR測定を行い、その結果に基づいて算出する。固体29Si−NMR測定データの解析(ピーク位置の決定)は、例えば、ガウス関数を使用した波形分離解析等により、各ピークを分割して抽出する方法で行うことができる。より具体的には、実施例記載の方法により行うことができる。
上記のようにピーク分割して求めた化学シフトを以下のように帰属させる。
2:−88〜−94ppmに発現するピークのシグナル面積
3:−94〜−103ppmに発現するピークのシグナル面積
4:−103〜−115ppmに発現するピークのシグナル面積
ここで、Q2に帰属するピークは、ケイ素原子に4個の酸素原子が結合しており、2個の酸素原子がシロキサン結合、2個の酸素原子がシラノール基であることに由来する。
3に帰属するピークは、ケイ素原子に4個の酸素原子が結合しており、3個の酸素原子がシロキサン結合、1個の酸素原子がシラノール基であることに由来する。
4に帰属するピークは、ケイ素原子に4個の酸素原子が結合しており、4個の酸素原子がシロキサン結合であることに由来する。つまり[(Q2×2+Q3)/(Q2+Q3+Q4]はOH/Siを意味すると考えられる。
上記により得られたQ2、Q3、及びQ4の各シグナルの面積を用い、その比[(Q2×2+Q3)/(Q2+Q3+Q4]を算出する。
[(Q2×2+Q3)/(Q2+Q3+Q4)]の比は、低誘電特性等の観点から出来る限り小さいことが望ましく、好ましくは0.15以下、より好ましくは0〜0.14、更に好ましくは0〜0.13である。
【0013】
本発明の中空シリカ粒子は、前記特定の構造を有することにより、その誘電率、誘電正接の低下が図られる。
中空シリカの誘電率は、例えば、5.8GHzの周波数では、2.8以下が好ましく、2.5以下がより好ましく、2.3以下が更に好ましく、1.2〜2.0が特に好ましい。なお、誘電率の測定は、空洞共振器摂動法等を用いて、常法により行うことができる。
また、中空シリカの誘電正接は、例えば、実施例に記載の測定条件において、0.01以下が好ましく、0.009以下がより好ましく、0.008以下が更に好ましい。
【0014】
[中空シリカ粒子の製造方法]
本発明の中空シリカ粒子の製造方法に特に制限はないが、下記の工程(I)〜(III)を有する方法によれば、効率的に製造することができる。
工程(I):疎水性有機化合物(a)と、第四級アンモニウム塩(b)、及び加水分解によりシラノール化合物を生成するシリカ源(c)を含有する水溶液を調製する工程
工程(II):工程(I)で得られた水溶液を10〜100℃の温度で撹拌して、シリカから構成される外殻を有し、かつ核に疎水性有機化合物(a)を有するコアシェル型シリカ粒子の水分散液を調製する工程
工程(III):工程(II)で得られた水分散液からコアシェル型シリカ粒子を分離し、950℃以上の温度で焼成して、中空シリカ粒子を得る工程
以下、工程(I)〜(III)の詳細とそこで用いる各成分等について説明する。
【0015】
<工程(I)>
工程(I)は、疎水性有機化合物(a)と、第四級アンモニウム塩(b)、及び加水分解によりシラノール化合物を生成するシリカ源(c)を含有する水溶液を調製する工程である。
工程(I)は、疎水性有機化合物(a)を0.1〜100ミリモル/Lと、下記一般式(1)及び(2)で表される第四級アンモニウム塩から選ばれる1種以上(b)を0.1〜100ミリモル/L、及び加水分解によりシラノール化合物を生成するシリカ源(c)を0.1〜100ミリモル/L含有する水溶液を調製する工程とすることが好ましい。
[R1(CH33N]+- (1)
[R12(CH32N]+- (2)
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に炭素数4〜22の直鎖状又は分岐状アルキル基を示し、Xは1価陰イオンを示す。)
【0016】
(疎水性有機化合物(a))
本発明において、疎水性有機化合物(a)とは、水に対する溶解性が低く、水と分相を形成する化合物を意味する。好ましくは、前記の第四級アンモニウム塩の存在下で分散可能な化合物である。このような疎水性有機化合物としては、LogP値が1以上、好ましくは2〜25の化合物が挙げられる。
疎水性有機化合物(a)としては、例えば、炭素数7〜22の炭化水素化合物、エステル化合物、炭素数7〜22の脂肪酸、炭素数7〜22のアルコール及びシリコーンオイル等の油剤や、香料、農薬、医薬等の各種基材等を挙げることができる。
炭素数7〜22の炭化水素化合物としては、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、テトラデカン、ヘキサデカン、オクタデカン、イコサン、ドコサン等の直鎖又は分岐の飽和脂肪族炭化水素、又はそれらと基本骨格が同じ不飽和脂肪族炭化水素、又はシクロヘキサン、シクロオクタン等の環状炭化水素、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。これらの中では、炭素数7〜16の直鎖又は分岐の飽和脂肪族炭化水素が好ましく、炭素数8〜14の直鎖又は分岐の飽和脂肪族炭化水素がより好ましい。
中空シリカ粒子の体積平均粒子径や中空部分の大きさは、疎水性有機化合物(a)の液滴の大きさに影響されるので、該疎水性有機化合物(a)の融点、反応温度、攪拌速度、使用する界面活性剤等により適宜調整することができる。
【0017】
(第四級アンモニウム塩(b))
第四級アンモニウム塩(b)は、メソ細孔の形成と疎水性有機化合物(a)の分散のために用いられる。
前記一般式(1)及び(2)におけるR1及びR2は、炭素数4〜22、好ましくは炭素数6〜18、更に好ましくは炭素数8〜16の直鎖状又は分岐状のアルキル基である。炭素数4〜22のアルキル基としては、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ドデシル基、各種テトラデシル基、各種ヘキサデシル基、各種オクタデシル基、各種エイコシル基、各種ドコシル基等が挙げられる。
一般式(1)及び(2)におけるXは、高い結晶性を得るという観点から、好ましくはハロゲンイオン、水酸化物イオン、硝酸化物イオン等の1価陰イオンから選ばれる1種以上である。Xとしては、より好ましくはハロゲンイオンであり、更に好ましくは塩素イオン又は臭素イオンである。
【0018】
一般式(1)で表されるアルキルトリメチルアンモニウム塩としては、ブチルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキシルトリメチルアンモニウムクロリド、オクチルトリメチルアンモニウムクロリド、デシルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、ブチルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘキシルトリメチルアンモニウムブロミド、オクチルトリメチルアンモニウムブロミド、デシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ステアリルトリメチルアンモニウムブロミド等が挙げられる。
一般式(2)で表されるジアルキルジメチルアンモニウム塩としては、ジブチルジメチルアンモニウムクロリド、ジヘキシルジメチルアンモニウムクロリド、ジオクチルジメチルアンモニウムクロリド、ジヘキシルジメチルアンモニウムブロミド、ジオクチルジメチルアンモニウムブロミド、ジドデシルジメチルアンモニウムブロミド、ジテトラデシルジメチルアンモニウムブロミド等が挙げられる。
これらの第四級アンモニウム塩(b)の中では、規則的なメソ細孔を形成させる観点から、特に一般式(1)で表されるアルキルトリメチルアンモニウム塩が好ましく、アルキルトリメチルアンモニウムブロミド又はアルキルトリメチルアンモニウムクロリドがより好ましく、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド又はドデシルトリメチルアンモニウムクロリドが特に好ましい。
【0019】
(シリカ源(c))
シリカ源(c)は、アルコキシシラン等の加水分解によりシラノール化合物を生成するものであり、下記一般式(3)〜(7)で示される化合物を挙げることができる。
SiY4 (3)
3SiY3 (4)
32SiY2 (5)
33SiY (6)
3Si−R4−SiY3 (7)
(式中、R3はそれぞれ独立して、ケイ素原子に直接炭素原子が結合している有機基を示し、R4は炭素原子を1〜4個有する炭化水素基又はフェニレン基を示し、Yは加水分解によりヒドロキシ基になる1価の加水分解性基を示す。)
より好ましくは、一般式(3)〜(7)において、R3がそれぞれ独立して、水素原子の一部がフッ素原子に置換していてもよい炭素数1〜22の炭化水素基であり、具体的には炭素数1〜22、好ましくは炭素数4〜18、より好ましくは炭素数6〜18、特に好ましくは炭素数8〜16のアルキル基、フェニル基、又はベンジル基であり、R4が炭素数1〜4のアルカンジイル基(メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロパン−1,2−ジイル基、テトラメチレン基等)又はフェニレン基であり、Yが炭素数1〜22、より好ましくは炭素数1〜8、特に好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基、又はフッ素を除くハロゲン基である。
【0020】
シリカ源(c)の好適例としては、次の化合物が挙げられる。
・一般式(3)において、Yが炭素数1〜3のアルコキシ基であるか、又はフッ素を除くハロゲン基であるシラン化合物。
・一般式(4)又は(5)において、Yが炭素数1〜3のアルコキシ基であるか、又はフッ素を除くハロゲン基であり、R3がフェニル基、ベンジル基、又は水素原子の一部がフッ素原子に置換されている炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜5の炭化水素基であるトリアルコキシシラン又はジアルコキシシラン。
一般式(6)において、Yが炭素数1〜3のアルコキシ基であるか、又はフッ素を除くハロゲン基であり、R3がフェニル基、ベンジル基、又は水素原子の一部がフッ素原子に置換されている炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜5の炭化水素基であるモノアルコキシシラン。
・一般式(7)において、Yがメトキシ基であって、R4がメチレン基、エチレン基又はフェニレン基である化合物。
これらの中では、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、1,1,1−トリフルオロプロピルトリエトキシシランが特に好ましい。
【0021】
工程(I)における水溶液中の疎水性有機化合物(a)(以下、「(a)成分」ともいう)、第四級アンモニウム塩(b)(以下、「(b)成分」ともいう)、及びシリカ源(c)(以下、「(c)成分」ともいう)の含有量は次のとおりである。
(a)成分の含有量は、0.1〜100ミリモル/L、より好ましくは1〜100ミリモル/L、特に好ましくは5〜80ミリモル/Lである。
(b)成分の含有量は、好ましくは0.1〜100ミリモル/L、より好ましくは1〜100ミリモル/L、特に好ましくは5〜80ミリモル/Lであり、(c)成分の含有量は、好ましくは0.1〜100ミリモル/L、より好ましくは1〜100ミリモル/L、特に好ましくは5〜80ミリモル/Lである。
(a)〜(c)成分を含有させる順序に特に制限はないが、水溶液を撹拌しながら(a)成分の懸濁液、(b)成分、(c)成分の順に投入する方法が好ましい。
(a)〜(c)成分を含有する水溶液には、プロトコア−シェル粒子の形成を阻害しない限り、その他の成分として、メタノール等の有機化合物や、無機化合物等の他の成分を添加してもよく、前記のように、シリカや有機基以外の他の元素を担持したい場合は、それらの金属を含有するアルコキシ塩やハロゲン化塩等の金属原料を製造時又は製造後に添加することもできる。
【0022】
なお、本発明方法においては、疎水性有機化合物(a)の代わりにポリマー粒子を0.1〜50グラム/Lを用いて、工程(I)における水溶液を調製し、工程(II)でポリマー粒子を有するコアシェル型シリカ粒子の水分散液を調製し、工程(III)で焼成して、中空シリカ粒子を得ることもできる。ここで用いられるポリマー粒子としては、実質的に水不溶性のカチオン性ポリマーが好ましい。ポリマー粒子の平均粒子径は、目的とする中空シリカ粒子の中空部の径に合わせて適宜選択することができる。
【0023】
<工程(II)>
工程(II)は、工程(I)で得られた水溶液を10〜100℃の温度で撹拌して、シリカから構成される外殻を有し、かつ核に疎水性有機化合物(a)を有するコアシェル型シリカ粒子の水分散液を調製する工程である。
工程(I)で得られる水溶液を10〜100℃、好ましくは10〜80℃の温度で所定時間撹拌した後、静置することで、疎水性有機化合物(a)の表面に、第四級アンモニウム塩(b)とシリカ源(c)によりメソ細孔が形成され、内部に疎水性有機化合物(a)を包含したプロトコアシェル型シリカ粒子が析出した水分散液を得ることができる。撹拌処理時間は温度によって異なるが、通常10〜80℃で0.1〜24時間である。
工程(I)及び/又は(II)において、陽イオン界面活性剤等を用いた場合は、プロトコアシェル型シリカ粒子のメソ細孔には該界面活性剤が詰った状態になるが、酸性溶液と1回又は複数回接触させることにより該界面活性剤等が除去され、メソ細孔構造を表面に有し、疎水性有機化合物(a)を包含するプロトコアシェル型シリカ粒子を得ることができる。
【0024】
<工程(III)>
工程(III)は、工程(II)で得られた水分散液からコアシェル型シリカ粒子を分離し、必要に応じて、酸性水溶液と接触、水洗、乾燥した後、950℃以上の温度で焼成して、中空シリカ粒子を得る工程である。
焼成温度は、細孔を適度に焼き締め、体積平均粒子径を0.05〜0.45μm、空孔率を20〜70体積%、BET比表面積を30m2/g未満にする観点から、好ましくは960〜1500℃であり、より好ましくは970〜1300℃であり、更に好ましくは980〜1200℃である。焼成時間は、焼成温度等により異なるが、通常0.5〜100時間、好ましくは1〜80時間である。得られる中空シリカ粒子は、その外殻部の基本構成は変わらないが、内部の疎水性有機化合物(a)は焼成により除去されている。
本発明方法においては、疎水性有機化合物(a)を包含するコアシェル型シリカ粒子を焼成するため、内包される疎水性有機化合物(a)の形態を所望の状態に予め制御しておくことにより、所望の形態を有する中空シリカ粒子を容易に製造することができる。
本発明においては、一旦中空シリカ粒子を製造した後、更に焼成してBET比表面積のより小さくした中空シリカ粒子を得ることもできる。
本発明の中空シリカ粒子は、低誘電膜や低誘電膜用コーティング剤等の原料として、各種のマトリクス樹脂に分散させることができる。
【実施例】
【0025】
以下の実施例及び比較例において、「%」は「質量%」である。
実施例、比較例で得られた中空シリカ粒子の各種測定は、以下の方法により行った。
(1)中空シリカ粒子の体積平均粒子径、最大粒子径
中空シリカ粒子のエタノール分散液を測定試料とし、株式会社堀場製作所製のレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置「LA−920」を用いて湿式法で測定した。解析には装置に付属のHORIBA LA-920 WET(LA-920) Version 3.02を用い、0.020μmから2000μmの範囲を測定した。分散媒としてエタノールを用い、透過率を70から95%となるようにサンプル導入し、相対屈折率をシリカ/エタノールに相当する1.08と設定し、粒子径基準を体積とし解析した。体積平均粒子径は累計50%に相当するメジアン径とし、最大粒子径は累計100%となる粒子径とした。
(2)中空シリカ粒子の空孔率
空孔率(%)はQUANTACHROME社製のULTRAPYCNOMETER1000を用いて、窒素を測定ガスとして用いた密度とシリカの真密度2.2g/cm3から、下記式により算出した。
空孔率(%)=[1−(窒素ガスによる測定密度/2.2)]×100
(3)中空シリカ粒子のBET比表面積
株式会社島津製作所製の比表面積・細孔分布測定装置「ASAP2020」を用いて、液体窒素を用いた多点法でBET比表面積を測定し、パラメータCが正になる範囲で値を導出した。
(4)シリカ純度
中空シリカ粒子をフッ化水素により酸分解した液体を測定試料とし、アジレント社製のプラズマ発光分光分析装置(7700x ICP-MS)を用いて測定した。
【0026】
(5)中空シリカ粒子の粉末X線回折(XRD)測定
理学電機工業株式会社製の粉末X線回折装置「RINT2500VPC」を用いて、X線源:Cu-kα、管電圧:40mA、管電流:40kV、サンプリング幅:0.02°、発散スリット:1/2°、発散スリット縦:1.2mm、散乱スリット:1/2°、及び受光スリット:0.15mmの条件で粉末X線回折測定を行った。走査範囲を回折角(2θ)1〜20°、走査速度を4.0°/分とした連続スキャン法を用いた。なお、測定は、粉砕した試料をアルミニウム板に詰めて行った。
【0027】
(6)中空シリカ粒子の破壊圧力
中空シリカ粒子5gをイオン交換水300gに分散させた分散液をアズワン株式会社製の2Lテドラーバッグに充填し、開口部をヒートシールし密閉した。この容器を日機装株式会社製の冷間等方圧プレス「CL10−55−40」に挿入し、10分間所定の水圧を印加した。減圧後容器を取り出し、分散液をろ過し粉末を得た。100℃にて12時間乾燥した後、前記(2)の空孔率測定を行い、水圧印加前後の空孔率の変化を確認し、空孔率が半減した圧力を破壊圧力とした。
本発明で得られた中空シリカは、装置の上限圧力である400MPaを印加した後でも空孔率の低下は5%以内であった。
【0028】
(7)中空シリカ粒子の[(Q2×2+Q3)/(Q2+Q3+Q4]]比率
Bruker社製、固体29Si−NMR装置「NMR AVANCE300」を用いて、29Si核(59.6MHz)の測定を行った。測定試料約100mgは、ジルコニア製7.5mmφローターへ密に詰めた。NMR測定法にはDDMAS法(3kHz)を用い、積算回数は640回、待ち時間は120秒とし、基準物質にはヘキサメチルシクロトリシロキサン(−9.66ppm)を用いた。
得られたスペクトルについて波形解析を行い、各シグナルの化学シフト及び積分値を求めた。この化学シフトからQ2、Q3、及びQ4の帰属を行い、各成分の積分値から面積百分率を算出した。この値を用い、[(Q2×2+Q3)/(Q2+Q3+Q4)]比率を算出した。
【0029】
(8)誘電率、誘電正接
(i)中空シリカ粒子の誘電率及び誘電正接は、粒子とエポキシ樹脂からなるコンポジットの誘電率、誘電正接を測定し、以下のMaxwell−Garnet式に基づき粒子そのものの物性値を算出した。
【0030】
【数1】

【0031】
式中のεpは中空シリカ粒子の複素誘電率、εmは樹脂の複素誘電率、εavはコンポジットの複素誘電率、fは粒子の体積分率を意味している。粒子の体積分率は、コンポジットの組成、樹脂の密度、中空シリカの密度より算出できる。また誘電率は複素誘電率の実数部(εr)とし、誘電正接tan dは、複素誘電率の虚数部(εi)と複素誘電率の実数部(εr)の比として下記式により算出できる。
【0032】
【数2】

【0033】
(ii)コンポジットの誘電率、誘電正接の測定は以下の手順で行った。
中空シリカ粒子0.6gをビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製、液状タイプ、グレード:828(2〜3量体)、粘度:12〜15Pa・s(25℃)、エポキシ当量:184〜194)、エポキシ樹脂硬化剤(ジャパンエポキシレジン株式会社製、酸無水物グレード:YH306)、硬化促進剤(ジャパンエポキシレジン株式会社製、2−エチル−4(5)−メチルイミダゾール、グレード:EMI24)を5:6:0.05の質量比で混合したマトリックス樹脂1.4gと混練し、樹脂組成物を製造した。この組成物をテフロン(登録商標)樹脂に幅2mm、深さ1.5mm、長さ120mmの溝を掘った鋳型に流し込み、加熱硬化させ、冷却後、鋳型から取り出し測定サンプルを得た。なお樹脂組成物の硬化は、電気乾燥機中で80℃、3時間加熱、さらに120℃で6時間加熱し行った。
誘電特性評価は、アジレント社製のPNAマイクロ波ネットワーク・アナライザ「E8361A」(10MHz〜67GHz)に、株式会社関東電子応用開発製の誘電率測定装置(共振器、5.8GHz)を接続した装置を使用して、空洞共振器摂動法を用いて、5.8GHzにて測定した。
【0034】
(9)薄膜表面の平滑性
中空シリカ粒子0.6gをビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製、液状タイプ、グレード:828(2〜3量体)、粘度:12〜15Pa・s(25℃)、エポキシ当量:184〜194)、エポキシ樹脂硬化剤(ジャパンエポキシレジン株式会社製、酸無水物グレード:YH306)、硬化促進剤(ジャパンエポキシレジン株式会社製、2−エチル−4(5)−メチルイミダゾール、グレード:EMI24)を5:6:0.05の質量比で混合したマトリックス樹脂1.4gと混練し、樹脂組成物を製造した。この樹脂組成物を、固形分濃度が2%となるように2−ブタノン(和光純薬工業株式会社製)で希釈し薄膜作成用組成物を得た。
上記組成物を、アセトン洗浄したスライドガラス基板(商品名:S−1111、屈折率1.52、松浪硝子工業株式会社製)にスピンコーター(株式会社エイブル製)を用いてスピンコート(1000rpm、30秒)した後、120℃で360分乾燥させることにより、エポキシ樹脂に中空粒子が分散した薄膜を作製した。
この薄膜を電解放射型高分解能走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所社製、商品名:FE−SEM S−4000)を用いて表面の観察を行い、平滑性を確認した。
(評価基準)
○:平滑 △:少し凹凸あり ×:凹凸あり
【0035】
実施例1
500mLフラスコにメタノール(和光純薬工業株式会社製、特級)100g、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド(東京化成工業株式会社製)1.7g、ドデカン(疎水性有機化合物、和光純薬工業株式会社製)1gを入れて撹拌し、A液を調製した。また、500mLフラスコに水300g、25%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液(和光純薬工業株式会社製)0.825gを入れて撹拌し、B液を調製した。
得られたA液を25℃で撹拌しながらB液を添加し、次いでテトラメトキシシラン(東京化成工業株式会社製)1.7g(C液)を加え、25℃で5時間撹拌した。得られた白濁水溶液を5Cのろ紙でろ別し、水洗後、100℃で乾燥機(アドバンテック製、DRM420DA)にて乾燥することにより白色粉末を得た。
得られた白色粉末を、高速昇温電気炉(株式会社モトヤマ製、商品名:SK−2535E)を用いて、エアーフロー(3L/min)しながら1℃/分の速度で600℃まで昇温し、600℃で2時間焼成することにより有機成分を除去し、中空シリカ粒子を得た。このシリカ粒子をアルミナ製るつぼに移し、前記電気炉を用いて、空気下1000℃で72時間焼成した。結果を表1に示す。
【0036】
実施例2
実施例1のドデカン(疎水性有機化合物)をオクタン(和光純薬工業株式会社製)に変えた以外は、実施例1と同様にして中空シリカ粒子を得た。結果を表1に示す。
比較例1
実施例1のドデカン(疎水性有機化合物)をヘキサン(和光純薬工業株式会社製)に変えた以外は、実施例1と同様にして中空シリカ粒子を得た。結果を表1に示す。
比較例2
実施例1において、600℃で2時間焼成しただけで、1000℃での焼成を行わなかった以外は、実施例1と同様にして中空シリカ粒子を得た。
ただし、比較例2では1000℃での焼成を行わなかったため、外殻部が多孔質となっており、密度測定による空孔率は測定不可能であった。したがって空孔率は透過型電子顕微鏡により中空部径、及び外殻厚みを計測し中空部の空孔率を、窒素吸着測定より外殻の多孔質部の空孔率をそれぞれ求め、その合計とした。得られた空孔率は70%であった。
また50%破壊圧力についても分散媒である水が外殻部を通して出入りするため粒子に圧力がかからず、測定が不可能であった。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1から、本発明の中空シリカ粒子を含有する実施例1及び2のエポキシ樹脂をマトリクス樹脂として含む低誘電樹脂組成物は、誘電率および誘電正接が十分低く、さらに比較例1及び2より平滑性の高い薄膜を形成可能であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ回折/散乱法によって測定される体積平均粒子径が0.05〜0.45μmで、最大粒子径が体積平均粒子径の5倍以内であり、空孔率が20〜70体積%、BET比表面積が30m2/g未満、98質量%以上がSiO2である中空シリカ粒子。
【請求項2】
粉末X線回折測定において、結晶格子面間隔(d)が1nm未満の範囲に相当する回折角(2θ)にピークを示さない、請求項1に記載の中空シリカ粒子。
【請求項3】
50%破壊圧力が100MPa以上である、請求項1又は2に記載の中空シリカ粒子。
【請求項4】
固体29Si−NMRスペクトルによるQ2+Q3+Q4のシグナル面積に対する(Q2×2+Q3)のシグナル面積の比(Q2×2+Q3)/(Q2+Q3+Q4)]が0.15以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の中空シリカ粒子。
【請求項5】
誘電率が1.2〜2.0、誘電正接が0.01以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の中空シリカ粒子。
【請求項6】
下記工程(I)〜(III)を有する請求項1〜5のいずれかに記載の中空シリカ粒子の製造方法。
工程(I):疎水性有機化合物(a)と、第四級アンモニウム塩(b)、及び加水分解によりシラノール化合物を生成するシリカ源(c)を含有する水溶液を調製する工程
工程(II):工程(I)で得られた水溶液を10〜100℃の温度で撹拌して、シリカから構成される外殻を有し、かつ核に疎水性有機化合物(a)を有するコアシェル型シリカ粒子の水分散液を調製する工程
工程(III):工程(II)で得られた水分散液からコアシェル型シリカ粒子を分離し、950℃以上の温度で焼成して、中空シリカ粒子を得る工程
【請求項7】
疎水性有機化合物(a)が炭素数7以上の炭化水素である、請求項6に記載の中空シリカ粒子の製造方法。

【公開番号】特開2012−136363(P2012−136363A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288441(P2010−288441)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】