説明

中空容器の内面殺菌装置およびその内面殺菌方法

【課題】中空容器、例えば、プラスチックボトル,プラスチックカップ,プラスチックトレイ,紙容器,紙カップ,紙トレイ,その他中空のプラスチック成型品等の内面を殺菌する中空容器の内面殺菌装置およびその内面殺菌方法に関する。
【解決手段】
高周波又はマイクロ波のような電気エネルギーを発生する電源と、その電気エネルギーを伝送できる導波管と、その導波管の内側から外側まで貫通した無電極ランプを有する中空容器の内面殺菌装置であって
前記無電極ランプの少なくとも導波管の外側に出ている部位の材質が石英ガラスであり、その表面が凹凸や継ぎ目がない形状を有することを特徴とする中空容器の内面殺菌装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空容器、例えば、プラスチックボトル,プラスチックカップ,プラスチックトレイ、紙容器、紙カップ、紙トレイ、その他中空のプラスチック成型品等の内面を殺菌する中空容器の内面殺菌装置およびその内面殺菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中空容器は、食品分野や医薬品分野等の様々な分野で多用されている。このため、中空容器の品質面における機能等が種々要求されている。
【0003】
前記中空容器の中でも、プラスチック容器は、軽量、低コストとしての利便性から、広く用いられるようになってきている。このため、内容物の保護、保存面から、中空容器に対して、殺菌処理が通常行われている。前記殺菌処理として、例えば、加温充填や薬剤等を用いたアセプティック充填などが挙げられる。
【0004】
しかし、前記加温充填は、耐熱仕様の中空容器が必要となり、容器のコストが上昇する。また、アセプティック充填は、容器内を薬液で殺菌するため、薬液導入、排水、洗浄、排水及び排水処理等の工程が必要となる。そして、時間、設備面の高負担が避けられない。
【0005】
さらに、加温充填は、アセプティック充填以外の殺菌手段である、放射線殺菌、電子線殺菌等も設備面や容器ダメージの両面からその用途が限られている。
【0006】
上記した中で、紫外線ランプを用いたプラスチック容器の殺菌方法が知られている。(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
以下に先行技術文献を示す。
【特許文献1】特開2003−210555号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した殺菌処理方法においては、ランプの電極の劣化が問題となっている。また、特許文献1のようなランプは一般的に電極を有する。さらに、ランプ内ではフィラメント等から自身の電極間の電位差によって発生する熱加速電子をランプ内のガスに当てることで励起させる。そして、内部にある電極自身のON/OFF動作の繰り返しによる劣化、励起されたガスの衝突による物理的劣化、化学反応による劣化等が避けられない。
【0009】
このため、無電極ランプを用いる解決方法も考えられている。例えば、図3に示すような電気エネルギーを伝送するための方形導波管(4)と殺菌を施すための電気エネルギーを共振させる部位(共振器)(8)を設けた装置である。この装置の欠点としては、前記共振器(8)が電気エネルギーを共振させるために電波的な密封性が必要になる。このため、装置が複雑になり、且つ、中空容器(1)の出し入れの時間がかかるという問題がある。
【0010】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、ランプの劣化の原因となる電極を持たないことにより、劣化を防止し、さらに、電気エネルギーを共振させて電波的な密封性が必要になる共振器を必要としない中空容器の内面殺菌
装置およびその内面殺菌方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題点を解決するために、本発明の請求項1に係る発明は、
高周波又はマイクロ波のような電気エネルギーを発生する電源と、その電気エネルギーを伝送できる導波管と、その導波管の内側から外側まで貫通した無電極ランプを有する中空容器の内面殺菌装置であって
前記無電極ランプの少なくとも導波管の外側に出ている部位の材質が石英ガラスであり、その表面が凹凸や継ぎ目がない形状を有することを特徴とする中空容器の内面殺菌装置である。
【0012】
次に、本発明の請求項2に係る発明は、
前記無電極ランプの少なくとも導波管の外側に出ている部位の中心軸とその軸を共有する中空容器固定部位を有することを特徴とする請求項1に記載の中空容器の内面殺菌装置である。
【0013】
次に、本発明の請求項3に係る発明は、
前記中空容器の内面殺菌装置の、無電極ランプの少なくとも導波管の内側に形成されている部位の中心から電源とそのランプを介して反対側に位置する導波管の終端面までの距離(d)が管内波長をλgとすると、n×λg/4±10mmとなる位置(n=1、3、5・・・)になることを特徴とする請求項1または2に記載の中空容器の内面殺菌装置である。
【0014】
次に、本発明の請求項4に係る発明は、
請求項1〜3に記載のいずれか1項の中空容器の内面殺菌装置を用いて中空容器の内面を殺菌する中空容器の内面殺菌方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の中空容器の内面殺菌装置およびその内面殺菌方法は以上の構成からなるので、
紫外線ランプに一般的に用いられるランプが電極の劣化のない無電極ランプを用いるため、多数回の照射を繰り返した場合にも均一な安定した殺菌、滅菌を施すことができる。
【0016】
さらに、本発明の中空容器の内面殺菌装置は電気エネルギーを共振させて電波的な密封性が必要になる共振器を設けなくても良い。このため、殺菌する中空容器の出し入れの高速化がはかれる。そして、安価で、生産効率良く中空容器を殺菌することができる中空容器の内面殺菌方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の中空容器の内面殺菌装置およびその内面殺菌方法を実施の形態に沿って以下に図面を参照にしながら詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の中空容器の内面殺菌装置の一実施例の概略を示す概略図である。
【0019】
図1に示すように、本発明の本発明の中空容器の内面殺菌装置の電気エネルギーの伝送に用いられる方形導波管(4)は、ランプ(2)が方形導波管(4)の内側から外側に貫通して形成されている。
【0020】
前記ランプ(2)が方形導波管(4)の内側から外側に貫通して形成されていることで方形導波管(4)の内側、すなわち方形導波管(4)内にあるランプ(2)(無電極ランプ)が共振する。そして、最適な電磁界分布に位置することで、その電気エネルギーによ
りランプ(2)内のガスが励起する。
【0021】
前記励起されたガスは方形導波管(4)の外側に貫通したランプ(2)内のガスまでも同様に励起する。このため、方形導波管(4)の外側にあるランプ(2)を特に図3に示すような共振器(8)等で覆う必要がない。
【0022】
また、このランプ(2)は少なくとも方形導波管(4)の外側に出ている部位の中心軸と、その軸を共有する中空容器固定部位(6)を有し、該固定部位(6)の高さが可変であることからランプの長さを変える必要がない。そして、様々な長さの中空容器(1)の殺菌を1つのランプ(2)で兼用して行なうことが可能となる。
【0023】
さらに、このランプ(2)の中心軸とその軸を共有するように中空容器固定部位(6)を有していることから中空容器(1)の内面の殺菌が均一にできるように形成されている。
【0024】
また、中空容器(1)の内面を殺菌する殺菌方法は、方形導波管(4)の外側に形成されているランプ(2)先端に中空容器(1)の口元を倒立した状態で挿入する。そして、中空容器(1)の口元を保持する中空容器固定部位(6)に中空容器(1)を倒立状態に載置する。そして、電気エネルギーによりランプ(2)内のガスが励起することにより、中空容器(1)の内面が殺菌される。
【0025】
前記中空容器(1)の基材樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート以外に、ポリエチレン、ポリプロピレン等を選ぶことができる。そして、ブロー成形・射出成形・押出成形等により容器の形状に成形される。
【0026】
また、図1に示すように電気エネルギーの発生器として、例えば、マイクロ波を発生する電源(5)を用いた場合、インピーダンスマッチングを行うインピーダンス整合器(3)を介して、方形導波管(4)にマイクロ波が伝送される。
【0027】
前記マイクロ波が方形導波管(4)の終端面(7)からランプ(2)内のガス(主ガス:キセノンまたは他のガスとの混合も可)を十分に励起してプラズマ化されるようにランプ(2)の中心から終端面までの距離が設定されている。
【0028】
前記距離は、図1に示すように方形導波管(4)の終端面からランプ(2)の中心までの距離(R)のことであり、λg/4、3λg/4のように管内波長をλgとすると、n×λg/4となる位置(n=1、3、5・・・)に置かれたランプ(2)が最もインピーダンス整合がとり易い。そして、ランプ(2)内のガスを効率良く励起させて殺菌が可能な発光強度を得ることができる。
【0029】
また、この位置から外れると電源から供給した電気エネルギーのインピーダンス整合がとり難くなり反射電力が大きくなる。このため、殺菌に必要な電気エネルギーを過剰に供給しないと目的の電力を伝送することができなくなり、効率が悪い。
【0030】
また、電気エネルギーの発振器として、マイクロ波発振器の場合、例えば、発振周波数2.45GHzのマグネトロンが用いられているが、他の周波数のマグネトロンであっても良い。
【0031】
また、その電気エネルギーは連続波よりもパルス波を用いることで殺菌可能な高い発光強度を得られる電源が望ましい。
【0032】
前記インピーダンス整合器(3)は、方形導波管(4)での整合器配置位置から、ランプ(2)側をみたインピーダンスと、電源側をみたインピーダンスをマッチングさせる。そして、電源側への反射電力が発生しないようこれらのインピーダンスの整合を取るようにインピーダンス調整を行う。また、インピーダンス整合器(3)は、スリースタブチューナーや、E−Hチューナー(方形導波管の一点においてE面T型分岐及びH面T型分岐を設けて、各々の分岐に稼動短絡器を組み込み、その短絡面を移動させて整合の調整を行う)を用いることができる。
【0033】
また、前記ランプ(2)は、方形導波管(4)の内側のみならず外側に出ていることで形成されているが、方形導波管(4)の外側に出ている部位は中空容器(1)の高さや口元寸法に合わせることができる。
【0034】
さらに、ランプ(2)の材質には石英ガラスを用いるか、または下記の波長領域の透過を妨げないような材質を用いる。これは、殺菌効果のある254nmの殺菌線を含む紫外領域200〜380nmの透過率と、殺菌効果を促進する熱エネルギーの豊富な近赤外領域800〜1000nmの透過率を十分に確保する材質が望ましい。
【0035】
また、この無電極ランプの少なくとも方形導波管(4)の外側に出ている部位の表面形状は200〜380nmと800〜1000nmの殺菌に効果のある透過光の直進性が失われるような凹凸21(図2(b))や継ぎ目22(図2(c))がない、上述した、図2(a)に示すようなランプ(2)が好ましい。これにより中空容器(1)の内面に対してランプ(2)内のガスからの発光が乱反射等で偏ることによりその殺菌効果がばらつくことを防止できる。
【実施例】
【0036】
以下に、本発明の具体的実施例を挙げて、さらに詳しく説明するが、それに限定されるものではない。
【0037】
<実施例1>
中空容器の内面殺菌装置の構成としては、図1に示すように、電気エネルギーの伝送に用いられる方形導波管はWRJ−2(109×54.5mm)を用い、ランプ(ガス種:キセノン、圧力:約2500Pa、外径:Φ10mm、高さ:180mm(方形導波管外から天面までの高さであり、先端はΦ10mmの半球形状)、中空容器の内側底面とのクリアランス:10mm、導波管側のランプ長:54.5mm)がその方形導波管の内・外側に出ていることで形成されている。
【0038】
前記ランプの少なくとも方形導波管の外側に出ている部位の中心軸とその軸を共有する中空容器固定部位(外径:Φ68mm、内径:Φ32mm、高さ:17mm)を有し、中空容器(500ml容量の延伸成形PETボトル、高さ:204mm、側面幅:57mm(4側面)、口内径Φ25mm、平均肉厚0.5mm)内面の殺菌ができるように形成されている。
【0039】
さらに、電気エネルギーの発生器としてマイクロ波を発生する電源(発振周波数2.45GHzのマグネトロンでパルス発振)を用い、インピーダンスマッチングを行うインピーダンス整合器(E−Hチューナー)を介して、方形導波管にマイクロ波が伝送された。そして、前記マイクロ波が方形導波管の終端面からランプ内のキセノンガスを十分に励起してプラズマ化されるようにランプΦ10mmの中心から終端面までの距離が管内波長をλgとするとλg/4に相当する37mmにした。
【0040】
次に、この中空容器の内面殺菌装置の殺菌能力を評価するために、中空容器として、5
00ml容量のPETボトルを用いた。そして、その内表面に108個の黒カビを均一に塗布し実際に電力5kW、約1秒間中空容器内面に照射して殺菌を行い、寒天培地を用いた混釈法で培養し、生菌数を確認した。
【0041】
<測定結果>
生菌数を測定したところ生菌数は300個となった。その測定結果を表1に示す。
【0042】
<実施例2>
方形導波管のランプ中心から終端面までの距離を3λg/4に相当する111mmとした以外は実施例1と同様の方法で殺菌を行った。
【0043】
<測定結果>
生菌数を測定したところ生菌数は300個となった。その測定結果を表1に示す。
【0044】
<実施例3>
方形導波管のランプ中心から終端面までの距離が管内波長λgとするとλg/4+10mmに相当する47mmとした以外は実施例1と同様の方法で殺菌を行った。
【0045】
<測定結果>
生菌数を測定したところ生菌数は900個となった。その測定結果を表1に示す。
【0046】
<実施例4>
導波管内のランプ中心から終端面までの距離が管内波長λgとするとλg/4−10mmに相当する27mmとした以外は実施例1と同様の方法で殺菌を行った。
【0047】
<測定結果>
生菌数を測定したところ生菌数は800個となった。その測定結果を表1に示す。
【0048】
<実施例5>
導波管内のランプ中心から終端面までの距離が管内波長λgとすると2λg/4に相当する74mmとした以外は実施例1と同様の方法で殺菌を行った。
【0049】
<測定結果>
生菌数を測定したところ生菌数は104個となった。その測定結果を表1に示す。
【0050】
<実施例6>
導波管内のランプ中心から終端面までの距離が管内波長λgとするとλg/4+20mmに相当する57mmとした以外は実施例1と同様の方法で殺菌を行った。
【0051】
<測定結果>
生菌数を測定したところ生菌数は103個となった。その測定結果を表1に示す。
【0052】
<実施例7>
導波管内のランプ中心から終端面までの距離が管内波長λgとするとλg/4−20mmに相当する17mmとした以外は実施例1と同様の方法で殺菌を行った。
【0053】
<測定結果>
生菌数を測定したところ生菌数は103個となった。その測定結果を表1に示す。
【0054】
<比較例1>
導波管内のランプ中心から終端面までの距離が管内波長λgとするとλg/4に相当する37mmであり、図2(b)に示す形状のランプを使用したした以外は実施例1と同様の方法で殺菌を行った。
【0055】
<測定結果>
生菌数を測定したところ生菌数は105個となった。その測定結果を表1に示す。
【0056】
<比較例2>
導波管内のランプ中心から終端面までの距離が管内波長λgとするとλg/4に相当する37mmあり、図2(c)に示す形状のランプを使用したした以外は実施例1と同様の方法で殺菌を行った。
【0057】
<測定結果>
生菌数を測定したところ生菌数は105個となった。その測定結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

表1は方形導波管内のランプ中心から終端面までの距離による殺菌と生菌数の測定結果を示す。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の中空容器の内面殺菌装置およびその内面殺菌方法は中空容器の内面殺菌する内面殺菌装置および殺菌方法として優れていることはもとより、食品等の空洞部を有する空洞容器の殺菌に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の中空容器の内面殺菌装置の一実施例の概略を示す概略図である。
【図2】(a)、(b)、(c)は図1のA部のランプ先端を拡大した拡大図である。
【図3】従来の中空容器の内面殺菌装置の概略を示す概略図である。
【符号の説明】
【0061】
(1)…中空ボトル
(2)…ランプ
(3)…インピーダンス整合器
(4)…方形導波管
(5)…電源
(6)…方形導波管の終端面
(7)…中空容器固定部位
(8)…中空容器、ランプを覆う共振器
(21)…ランプの凹凸
(22)…ランプの継ぎ目

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波又はマイクロ波のような電気エネルギーを発生する電源と、その電気エネルギーを伝送できる導波管と、その導波管の内側から外側まで貫通した無電極ランプを有する中空容器の内面殺菌装置であって
前記無電極ランプの少なくとも導波管の外側に出ている部位の材質が石英ガラスであり、その表面が凹凸や継ぎ目がない形状を有することを特徴とする中空容器の内面殺菌装置。
【請求項2】
前記無電極ランプの少なくとも導波管の外側に出ている部位の中心軸とその軸を共有する中空容器固定部位を有することを特徴とする請求項1記載の中空容器の内面殺菌装置。
【請求項3】
前記中空容器の内面殺菌装置の無電極ランプの少なくとも導波管の内側に形成されている部位の中心から電源とそのランプを介して反対側に位置する導波管の終端面までの距離が管内波長をλgとすると、n×λg/4±10mmとなる位置(n=1、3、5・・・)になることを特徴とする請求項1または2記載の中空容器の内面殺菌装置。
【請求項4】
請求項1〜3に記載のいずれか1項の中空容器の内面殺菌装置を用いて中空容器の内面を殺菌する中空容器の内面殺菌方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−125951(P2008−125951A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−316780(P2006−316780)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】