説明

中空樹脂筐体用樹脂組成物および中空樹脂筐体

【課題】半導体チップを内部に収容する中空樹脂筐体において、加熱による変形に起因する信頼性の低下を抑制する。
【解決手段】中空樹脂筐体1の成形に用いられる中空樹脂筐体用樹脂組成物は、液晶ポリエステルとフィラーとを含む。この液晶ポリエステルは、その流動開始温度が320〜400℃である。フィラーの含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して100質量部以下である。これにより、中空樹脂筐体の耐熱性が高まり、加熱時の寸法安定性が向上する。その結果、はんだリフローなどの加熱工程を通じても、中空樹脂筐体の変形に起因する信頼性の低下を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体チップを内部に収容するための中空樹脂筐体の成形に用いられる樹脂組成物、つまり中空樹脂筐体用樹脂組成物と、この中空樹脂筐体用樹脂組成物から成形される中空樹脂筐体とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代の電子デバイス技術として、小型のアクチュエータ、各種のセンサー(例えば、イメージセンサー、加速度センサー)などに関するMEMS(メムス、Micro Electro Mechanical Systems)技術が期待されている。このMEMS技術が用いられた小型のアクチュエータ、各種のセンサーなどの半導体素子においては、中空筐体の内部に半導体チップが収容されている。この中空筐体は、一般に、半導体チップを載置するための容器部に蓋部が封着されて内部が気密封止された構造を有している。そして、この中空筐体は、はんだリフローなどの加熱工程を通じて基板や回路などに接続されることが多い。
【0003】
従来、この中空筐体においては、その材質として、金属、セラミックス、ガラスその他が採用され、シーム溶接や焼結などの手法を用いて、容器部と蓋部とが接合されていた(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
また、最近では、この中空筐体の材質として、成形性、軽量性、製造コストなどの観点から、合成樹脂が注目されている。こうした合成樹脂製の中空筐体、つまり中空樹脂筐体においては、レーザ溶着法などの手法を用いて、容器部と蓋部とが接合されている(例えば、特許文献3、4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−223606号公報
【特許文献2】特開2008−271491号公報
【特許文献3】特表平9−510930号公報
【特許文献4】特許第4214730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような中空樹脂筐体では、その材質が汎用の合成樹脂である場合、金属に比べて耐熱性(高温時の剛性)が劣るため、はんだリフローなどの加熱工程において、中空樹脂筐体の内部に存在する気体が熱膨張(体積膨張)して中空樹脂筐体が変形してしまう。その結果、基板や回路と中空樹脂筐体との間に接続不良が生じたり、中空樹脂筐体の内部に搭載された半導体チップと中空樹脂筐体との間に接続不良が生じたりして、製品としての信頼性が低下する恐れがあった。
【0007】
そこで、本発明は、このような事情に鑑み、はんだリフローなどの加熱工程を通じても、中空樹脂筐体の変形に起因する信頼性の低下を抑制することが可能な中空樹脂筐体用樹脂組成物を提供することを第1の目的とする。また、このような中空樹脂筐体用樹脂組成物からなる中空樹脂筐体を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するため、本発明者は、鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、請求項1に記載の発明は、半導体チップを内部に収容するための中空樹脂筐体の成形に用いられ、液晶ポリエステルとフィラーとを含む中空樹脂筐体用樹脂組成物であって、前記液晶ポリエステルは、その流動開始温度が320〜400℃であることを特徴としている。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記液晶ポリエステルが、下記式(1)で表される繰返し単位を有することを特徴としている。
(1)−O−Ar1 −CO−
(Ar1 は、フェニレン基、ナフチレン基またはビフェニリレン基を表す。Ar1 で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
【0011】
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の構成に加え、前記液晶ポリエステルが、下記式(2)で表される繰返し単位と、下記式(3)で表される繰返し単位とを有することを特徴としている。
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−X−Ar3 −Y−
(Ar2 およびAr3 は、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基または下記式(4)で表される基を表す。XおよびYは、それぞれ独立に、酸素原子またはイミノ基(−NH−)を表す。Ar2 またはAr3 で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar4 −Z−Ar5
(Ar4 およびAr5 は、それぞれ独立に、フェニレン基またはナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはアルキリデン基を表す。)
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の構成に加え、前記フィラーの含有量が、前記液晶ポリエステル100質量部に対して100質量部以下であることを特徴としている。
【0013】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の中空樹脂筐体用樹脂組成物を溶融成形して得たことを特徴としている。
【0014】
さらに、請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の構成に加え、前記半導体チップを載置するための容器部に蓋部が封着されて内部が気密封止された構造を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、中空樹脂筐体の材質が、所定の流動開始温度を有する液晶ポリエステルを含む樹脂組成物であるため、中空樹脂筐体の耐熱性が高まり、加熱時の寸法安定性が向上する。その結果、はんだリフローなどの加熱工程を通じても、中空樹脂筐体の変形に起因する信頼性の低下を抑制することができる。
【0016】
したがって、本発明に係る中空樹脂筐体用樹脂組成物および中空樹脂筐体は、これから樹脂化が進むと予想されるMEMS関連製品を始めとして、製造時に加熱工程を含む製品において、極めて有用となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態1に係る中空樹脂筐体を示す断面図である。
【図2】実施例におけるリフロー試験の温度プロファイルを模式的に表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[発明の実施の形態1]
【0019】
図1には、本発明の実施の形態1を示す。
【0020】
この実施の形態1に係る中空樹脂筐体1は、図1に示すように、六面体状の容器部2を有しており、容器部2内には半導体チップ4が載置されている。また、容器部2の上側には長方形板状の蓋部3がレーザー溶着で封着されている。そのため、中空樹脂筐体1の内部は、容器部2および蓋部3によって気密封止された状態となっている。
【0021】
ここで、容器部2および蓋部3はいずれも、液晶ポリエステル樹脂組成物を溶融成形して得たものである。この液晶ポリエステル樹脂組成物は、以下に述べる特定の液晶ポリエステルに、フィラー(充填剤)その他の成分を配合したものである。
【0022】
すなわち、この液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示すポリエステルであり、液晶ポリエステルアミドであってもよく、液晶ポリエステルエーテルであってもよく、液晶ポリエステルカーボネートであってもよく、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0023】
液晶ポリエステルの典型的な例としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミンおよび芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合(重縮合)させてなるもの、複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミンおよび芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合させてなるもの、およびポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルと芳香族ヒドロキシカルボン酸とを重合させてなるものが挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミンおよび芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部または全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0024】
芳香族ヒドロキシカルボン酸および芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基またはアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、およびカルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオールおよび芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシアミンおよび芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0025】
液晶ポリエステルは、下記式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」という。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」という。)と、下記式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」という。)とを有することがより好ましい。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−X−Ar3 −Y−
(Ar1 は、フェニレン基、ナフチレン基またはビフェニリレン基を表す。Ar2 およびAr3 は、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基または下記式(4)で表される基を表す。XおよびYは、それぞれ独立に、酸素原子またはイミノ基(−NH−)を表す。Ar1 、Ar2 またはAr3 で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar4 −Z−Ar5
(Ar4 およびAr5 は、それぞれ独立に、フェニレン基またはナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはアルキリデン基を表す。)
【0026】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられる。前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基およびn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜10である。前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基および2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、通常6〜20である。前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar1 、Ar2 またはAr3 で表される前記基ごとに、それぞれ独立に、通常2個以下であり、好ましくは1個以下である。
【0027】
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基および2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は通常1〜10である。
【0028】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Ar1 がp−フェニレン基であるもの(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、およびAr1 が2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0029】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Ar2 がp−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Ar2 がm−フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Ar2 が2,6−ナフチレン基であるもの(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、およびAr2 がジフェニルエーテル−4,4’−ジイル基であるもの(ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0030】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミンまたは芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Ar3 がp−フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p−アミノフェノールまたはp−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、およびAr3 が4,4’−ビフェニリレン基であるもの(4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニルまたは4,4’−ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。
【0031】
繰返し単位(1)の含有量は、全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、通常30モル%以上、好ましくは30〜80モル%、より好ましくは40〜70モル%、さらに好ましくは45〜65モル%である。繰返し単位(2)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常35モル%以下、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは15〜30モル%、さらに好ましくは17.5〜27.5モル%である。繰返し単位(3)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常35モル%以下、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは15〜30モル%、さらに好ましくは17.5〜27.5モル%である。繰返し単位(1)の含有量が多いほど、溶融流動性や耐熱性や強度・剛性が向上しやすいが、あまり多いと、溶融温度や溶融粘度が高くなりやすく、成形に必要な温度が高くなりやすい。
【0032】
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、通常0.9/1〜1/0.9、好ましくは0.95/1〜1/0.95、より好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0033】
なお、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下である。
【0034】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、XおよびYがそれぞれ酸素原子であるものを有すること、すなわち、所定の芳香族ジオールに由来する繰返し単位を有することが、溶融粘度が低くなりやすいので、好ましく、繰返し単位(3)として、XおよびYがそれぞれ酸素原子であるもののみを有することが、より好ましい。
【0035】
液晶ポリエステルは、それを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(以下、「プレポリマー」という。)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよく、この触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモンなどの金属化合物や、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、1−メチルイミダゾールなどの含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0036】
また、この液晶ポリエステルは、その流動開始温度が、320〜400℃であり、340〜380℃であることが好ましい。液晶ポリエステルの流動開始温度がこの範囲内である場合、液晶ポリエステル自体の耐熱性が十分に発現され、成形時に液晶ポリエステルの熱分解を生じる恐れもなく、成形が一層容易になる点で好ましい。流動開始温度がこの範囲内である液晶ポリエステルは、前述した固相重合を用いて容易に製造することができる。
【0037】
なお、流動開始温度とは、フロー温度または流動温度とも呼ばれ、内径1mm、長さ10mmのノズルを持つ毛細管レオメータを用い、9.8MPa(100kgf/cm2 )の荷重下において、昇温速度4℃/分で液晶ポリエステルの加熱溶融体をノズルから押し出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポアズ)を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(例えば、小出直之編「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」第95〜105頁、(株)シーエムシー出版、1987年6月5日発行を参照)。
【0038】
液晶ポリエステル樹脂組成物は、フィラー、添加剤、液晶ポリエステル以外の樹脂などの他の成分を1種以上含んでもよい。
【0039】
フィラーは、繊維状フィラーであってもよく、板状フィラーであってもよく、繊維状および板状以外で、球状その他の粒状フィラーであってもよい。また、フィラーは、無機フィラーであってもよく、有機フィラーであってもよい。繊維状無機フィラーの例としては、ガラス繊維;パン系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維などの炭素繊維;シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維などのセラミック繊維;およびステンレス繊維などの金属繊維が挙げられる。また、チタン酸カリウムウイスカー、チタン酸バリウムウイスカー、ウォラストナイトウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、窒化ケイ素ウイスカー、炭化ケイ素ウイスカーなどのウイスカーも挙げられる。繊維状有機フィラーの例としては、ポリエステル繊維およびアラミド繊維が挙げられる。板状無機フィラーの例としては、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ガラスフレーク、硫酸バリウムおよび炭酸カルシウムが挙げられる。マイカは、白雲母であってもよく、金雲母であってもよく、フッ素金雲母であってもよく、四ケイ素雲母であってもよい。粒状無機フィラーの例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、ガラスビーズ、ガラスバルーン、窒化ホウ素、炭化ケイ素および炭酸カルシウムが挙げられる。
【0040】
フィラーの含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、100質量部以下であることが好ましく、20〜80質量部であることがより好ましく、30〜70質量部であることが特に好ましい。フィラーの使用量がこの範囲内であると、液晶ポリエステル樹脂組成物を溶融押出成形してペレット状に調製する際、押出成形機のスクリューへの噛み込み性が良好となり、ペレット加工時の可塑化が十分となる。しかも、このような方法で作成したペレット状の液晶ポリエステル樹脂組成物を用いて成形すると、得られる成形体の外観が良好になるといった利点がある。
【0041】
添加剤の例としては、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤、難燃剤および着色剤が挙げられる。添加剤の含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、通常0〜5質量部である。
【0042】
液晶ポリエステル以外の樹脂の例としては、ポリプロピレン、ポリアミド、液晶ポリエステル以外のポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミドなどの液晶ポリエステル以外の熱可塑性樹脂;およびフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。液晶ポリエステル以外の樹脂の含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、通常0〜20質量部である。
【0043】
液晶ポリエステル樹脂組成物を調製するには、液晶ポリエステル、フィラーおよび必要に応じて用いられる他の成分を、押出機を用いて溶融混練し、ストランド状に押出成形した後、ペレタイザなどを用いてペレット化する方法を採用するのが好ましい。この押出機としては、シリンダーと、シリンダー内に配置された1本以上のスクリューと、シリンダーに設けられた1箇所以上の供給口とを有するものが、好ましく用いられ、さらにシリンダーに設けられた1箇所以上のベント部を有するものが、より好ましく用いられる。
【0044】
液晶ポリエステル樹脂組成物の成形法としては、溶融成形法が好ましい。この溶融成形法としては、射出成形法、Tダイ法やインフレーション法などの押出成形法、圧縮成形法、ブロー成形法、真空成形法およびプレス成形法を例示することができるが、これらの中でも射出成形法が好ましい。
【0045】
このように、中空樹脂筐体1は、その材質が、所定の流動開始温度を有する液晶ポリエステルを含む樹脂組成物である。そのため、中空樹脂筐体1の耐熱性が高まり、加熱時の寸法安定性が向上する。したがって、はんだリフローなどの加熱工程において、中空樹脂筐体1の内部に存在する気体が熱膨張して中空樹脂筐体1を変形させる力が作用しても、中空樹脂筐体1の変形を抑制することができる。その結果、基板や回路と中空樹脂筐体1との間の接続不良や半導体チップ4と中空樹脂筐体1との接続不良を回避し、製品としての信頼性を維持することが可能となる。
【0046】
したがって、中空樹脂筐体1は、これから樹脂化が進むと予想されるMEMS関連分野を始めとして、高湿度環境下で使用するような用途分野において、極めて有用となる。
【0047】
また、中空樹脂筐体1では、上述したとおり、容器部2と蓋部3とが同種の樹脂(所定の流動開始温度を有する液晶ポリエステルを主成分とする樹脂)から形成されているため、両者の接合強度を高めることができる。
[発明のその他の実施の形態]
【0048】
なお、上述した実施の形態1では、容器部2に蓋部3がレーザー溶着で接合されている中空樹脂筐体1について説明した。しかし、容器部2と蓋部3との接合方法としては、所定の気密性を確保しつつ両者を接合できるものである限り、レーザー溶着以外の接合方法、例えば、接着(接着剤による接合)、熱板溶接、スピン溶着、振動溶着、超音波溶着などを代用または併用することも可能である。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
<製造例1>
【0050】
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)、テレフタル酸358.8g(2.16モル)、イソフタル酸39.9g(0.24モル)、無水酢酸1347.6g(13.2モル)および1−メチルイミダゾール0.2gを入れ、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から150℃まで30分かけて昇温し、150℃を保持して1時間還流させた。
【0051】
その後、副生酢酸および未反応の無水酢酸を留去しながら、320℃まで2時間50分かけて昇温した。そして、トルクの上昇が認められる時点を反応終了として、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却することにより、液晶ポリエステルのプレポリマーを得た。
【0052】
次いで、このプレポリマーを粗粉砕機で粉砕した後、窒素ガス雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から305℃まで5時間かけて昇温し、305℃で3時間保持することにより、固相重合させた後、冷却することにより、粉末状の液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルの流動開始温度は、357℃であった。
【0053】
なお、この流動開始温度は、フローテスター((株)島津製作所製の「CFT−500型」)により、試料約2gを用いて測定した値である。すなわち、このフローテスターを用いて、内径1mm、長さ10mmのダイスを取り付けた毛細管レオメータに試料約2gを充填し、9.8MPa(100kgf/cm2 )の荷重下において、昇温速度4℃/分で溶融させながら押し出し、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポアズ)を示す温度を測定し、この温度を流動開始温度とした。
<製造例2>
【0054】
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)、テレフタル酸299.0g(1.8モル)、イソフタル酸99.7g(0.6モル)、無水酢酸1347.6g(13.2モル)を入れ、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から150℃まで30分かけて昇温し、150℃を保持して1時間還流させた。
【0055】
その後、副生酢酸および未反応の無水酢酸を留去しながら、320℃まで2時間50分かけて昇温した。そして、トルクの上昇が認められる時点を反応終了として、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却することにより、液晶ポリエステルのプレポリマーを得た。
【0056】
次いで、このプレポリマーを粗粉砕機で粉砕した後、窒素ガス雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から285℃まで5時間かけて昇温し、285℃で3時間保持することにより、固相重合させた後、冷却することにより、粉末状の液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルの流動開始温度は、327℃であった。なお、この流動開始温度は、製造例1と同様の手順で測定した値である。
<実施例1>
【0057】
製造例1で得られた液晶ポリエステル70質量部に、オーウェンスコーニング(株)製のチョップドガラス繊維「CS03JAPX−1」30質量部をフィラーとして混合し、これを(株)池貝製の二軸押出機「PCM−30」で溶融・混錬し、ペレット状にした後、射出成形機にて規定の形状に成形することにより、中空樹脂筐体の容器部および蓋部を得た。そして、これらの容器部および蓋部を互いに接合して、中空樹脂筐体を製造した。
<実施例2>
【0058】
製造例1で得られた液晶ポリエステルの代わりに、製造例2で作成された液晶ポリエステルを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、中空樹脂筐体を製造した。
<リフロー試験による中空樹脂筐体の変形量>
【0059】
実施例1、2の中空樹脂筐体についてそれぞれ、(株)コアーズ製のガラス透過式平坦度測定モジュール「core9030c」を用いて、図2に示す温度プロファイルに従ってリフロー試験を実施した。なお、図2のグラフにおいて、横軸は時間(単位:秒)を表し、縦軸は温度(単位:℃)を表す。
【0060】
その後、(株)ミツトヨ製の非接触3次元測定器「QuickVisionPRO」を用いて、リフロー試験前後の中空樹脂筐体の寸法を測定し、リフロー試験後の寸法からリフロー試験前の寸法を減じることにより、中空樹脂筐体の変位量を算出した。そして、最大の変位を示した部分の変位量を求め、これをリフロー試験による中空樹脂筐体の変形量とした。
【0061】
その結果、リフロー試験による中空樹脂筐体の変形量は、実施例1、2でそれぞれ68μm、132μmとなった。実施例1、2とも、中空樹脂筐体用樹脂組成物に求められる変形量として十分に小さな値であり、耐熱性に優れる結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係る中空樹脂筐体の内部に半導体チップが収容された半導体素子は、様々な用途に用いることができる。例えば、キャパシター、インダクター、抵抗器、トランジスター、ダイオード、集積回路、大規模集積回路、小型のアクチュエータ、各種のセンサー(例えば、イメージセンサー、加速度センサー、角速度センサー、湿度センサーなど)、振動子、圧電素子、発振子その他、特に形状が比較的複雑なものに好適に用いることができる。
【0063】
また、この半導体素子を含む具体的な製品や部品・部材としては、コンピューター関連部品;半導体製造プロセス関連部品;VTR、テレビジョン受像機、アイロン、エアコンディショナー、ステレオ、掃除機、冷蔵庫、炊飯器、照明器具などの家庭電気製品部品;ランプリフレクター、ランプホルダーなどの照明器具部品;CDやDVDのプレーヤー、レーザーディスク(登録商標)プレーヤー、スピーカーなどの音響製品部品;光ケーブル用フェルール、電話機部品、ファクシミリ部品、モデムなどの通信機器部品;複写機関連部品;モーター部品などの機械部品;自動車部品;調理用器具;航空機部品;宇宙機部品;原子炉などの放射線施設部材;海洋施設部材;光学機器部品;バルブ類;医療用機器部品および医療用材料;センサー類部品その他を挙げることができる。
【符号の説明】
【0064】
1……中空樹脂筐体
2……容器部
3……蓋部
4……半導体チップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体チップを内部に収容するための中空樹脂筐体の成形に用いられ、液晶ポリエステルとフィラーとを含む中空樹脂筐体用樹脂組成物であって、
前記液晶ポリエステルは、その流動開始温度が320〜400℃であることを特徴とする中空樹脂筐体用樹脂組成物。
【請求項2】
前記液晶ポリエステルが、下記式(1)で表される繰返し単位を有することを特徴とする請求項1に記載の中空樹脂筐体用樹脂組成物。
(1)−O−Ar1 −CO−
(Ar1 は、フェニレン基、ナフチレン基またはビフェニリレン基を表す。Ar1 で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
【請求項3】
前記液晶ポリエステルが、下記式(2)で表される繰返し単位と、下記式(3)で表される繰返し単位とを有することを特徴とする請求項2に記載の中空樹脂筐体用樹脂組成物。
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−X−Ar3 −Y−
(Ar2 およびAr3 は、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基または下記式(4)で表される基を表す。XおよびYは、それぞれ独立に、酸素原子またはイミノ基(−NH−)を表す。Ar2 またはAr3 で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar4 −Z−Ar5
(Ar4 およびAr5 は、それぞれ独立に、フェニレン基またはナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはアルキリデン基を表す。)
【請求項4】
前記フィラーの含有量が、前記液晶ポリエステル100質量部に対して100質量部以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の中空樹脂筐体用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の中空樹脂筐体用樹脂組成物を溶融成形して得たことを特徴とする中空樹脂筐体。
【請求項6】
前記半導体チップを載置するための容器部に蓋部が封着されて内部が気密封止された構造を有することを特徴とする請求項5に記載の中空樹脂筐体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−188559(P2012−188559A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53739(P2011−53739)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】