説明

中空糸膜モジュール、燃料電池システム

【課題】中空糸膜モジュールにおいて、流体をシールするための構成を簡略化する。
【解決手段】加湿膜モジュール22においては、複数の中空糸膜が束ねられた加湿膜56は円筒形状の外周をもつ加湿膜ケース34に収納されており、加湿膜ケース34は円筒形状の内周をもつアセンブリケース24に収納されている。アセンブリケース24には、加湿膜56の中空部に流す空気を取り込む入口孔28と排出する出口孔26、及び、加湿膜56の隙間に流すオフガスを取り込む入口孔30と排出する出口孔32が設けられている。これらの空気及びオフガスは、加湿膜ケース34とアセンブリケース24とを利用して作られた流路を流れるが、加湿膜ケース34とアセンブリケース24との間には、環状のシール部材36,38,40,42が設けられており、加湿膜56以外の箇所で混合することはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜を用いて流体間で流体組成物を移動させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
中空糸膜モジュールは、中空糸膜の中空部に流す流体と、中空糸膜の外側に流す流体との間で、流体組成物を移動させるためのモジュールである。
【0003】
下記特許文献1には、両流体間で流体の漏れが生じないように、ガスケットを設ける技術が開示されている。この技術では、中空糸膜束の両端付近に出っ張ったヘッド部を設け、ヘッド部よりも中央側を包む第1ケースとヘッド部との間をガスケットで面シールするとともに、ヘッド部よりも外側を包む第2ケースとヘッド部との間もガスケットで面シールしている。そして、この文献には、ガスケットでシールするため、ケースの断面形状を四角形にできる旨が記載されている。
【0004】
下記特許文献2には、中空糸膜モジュールを、六面体(断面が四角)の円筒形状のケースを用いて構築する技術が開示されている。この技術では、両流体間をシールするため、ケース内にポッティング層を設けている。
【0005】
なお、下記特許文献3,4には、中空糸膜の外側を流れる流体の均一化するための技術が開示されている。下記特許文献3に開示された技術は、中空糸膜の外側の流体が中空糸膜に直交する方向に流れるように、中空糸膜を囲むケースを設け流体を誘導するものである。また、下記特許文献4に記載された技術では、中空糸膜の側面をケースで囲み、ケース内に対角に流体を流すにあたり、中空糸膜束の幅と長さを適当な比に設定している。
【0006】
【特許文献1】特開2005−224719号公報
【特許文献2】特開2004−202478号公報
【特許文献3】特開2001−201122号公報
【特許文献4】特開2002−219339号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1の技術では、ガスケットを用いてシールを行うため、ヘッド部を設け、ヘッド部を別々のケースで挟み込む必要がある。また、上記特許文献2の技術では、ケース内でのシールを、広い領域にわたってポッティングにより行う必要がある。
【0008】
本発明の目的は、中空糸膜モジュールにおいて、流体をシールするための構成を簡略化することにある。
【0009】
本発明の別の目的は、中空糸膜束の断面形状を該四角形にした場合において、流体のシールを従来とは異なる態様で実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の中空糸膜モジュールは、複数の中空糸膜が束ねられた中空糸膜束を備え、長さ方向の全部の位置において外周を円筒に形成された中空糸膜束体と、中空糸膜束体を包む筒部を有するケースであって、長さ方向の全部の位置において筒部の内周を円筒に形成された外ケースと、外ケースを利用して形成され、中空糸膜束体の一端において中空糸膜の中空部へと第1の流体を導き入れ、中空糸膜束体の他端において中空糸膜の中空部から第1の流体を導き出す第1流路と、外ケースを利用して形成され、中空糸膜束体の側面において中空糸膜間へと第2の流体を導き入れ、中空糸膜束体の側面において中空糸膜間から第2の流体を導き出す第2流路と、中空糸膜束体の円筒の外周と外ケースの円筒の内周との間に設けられ、第1流路側と第2流路側とをシールする環状のシール部材と、を備え、第1の流体と第2の流体との間で、中空糸膜を介して流体組成物の移動が行われる。
【0011】
中空糸膜は、内側を中空状に形成され、外側壁面を微細な孔をもつ膜により形成されたものであり、典型的には樹脂によって作られる。中空糸膜は、内側の中空部と外側との間で、孔よりも小さな物質を透過させたり、孔よりも大きな物質を透過させなかったりするフィルタ機能をもつ。中空糸膜束は、複数の中空糸膜が束ねられたものである。また、中空糸膜束体は、中空糸膜束を備え、必要に応じて他の部材が取り付けられるなどしたものである。例えば、中空糸膜束体は、両端から(両端へと)中空糸膜間に流体が流れないように、中空糸膜束の両端を樹脂でポッティングされて形成されたものであってもよい。ただし、このように中空糸膜束を加工して中空糸膜束体を形成する場合、その加工手順は特に限定されるものではなく、例えば、加工後に外ケースに収納されてもよく、外ケースに収納後に加工されてもよい。
【0012】
中空糸膜は、長さ方向の全部の位置において外周を円筒に形成されている。長さ方向とは、中空糸膜の糸長の方向である。つまり、中空糸膜は、ある糸長方向の位置、または全ての糸長方向の位置で切断した場合に、断面の外周が円筒に形成されている。ここで、円筒とは、略真円の柱体である。
【0013】
外ケースは、中空糸膜束体を包む筒部を有するケースである。そして、長さ方向の全部の位置において筒部の内周を円筒に形成されている。第1流路は、その少なくとも一部が、外ケースの少なくとも一部を利用して形成された流路であり、第1の流体が流される。具体的には、第1流路は、中空糸膜束体の一端において外部から中空糸膜の中空部へと第1の流体を導き入れる機能と、中空糸膜束体の他端において中空糸膜の中空部から外部へと第1の流体を導き出す機能とを果たす。第1の流体は、気体でも液体でもよく、液体と気体が混合したものであってもよい。また、第1流路は、その少なくとも一部が、内ケースの少なくとも一部を利用して形成されてもよい。
【0014】
第2流路は、その少なくとも一部が、外ケースの少なくとも一部を利用して形成される。そして、第2流路は、中空糸膜束体の側面において、外部から中空糸膜間へと第2の流体を導き入れる機能と、中空糸膜束体の同一又は異なる側面において中空糸膜間から外部へと第2の流体を導き出す機能を果たす。第2の流体は、気体でも液体でもよく、液体と気体が混合したものであってもよい。また、第2の流体は、第1の流体と同様の流体であってもよいし、異なる流体であってもよい。さらに、第2流路は、その少なくとも一部が、内ケースの少なくとも一部を利用して形成されてもよい。
【0015】
シール部材は、第1流路側と第2流路側とをシールする環状の部材である。具体的には、シール部材は、中空糸膜束体の端部側に位置する第1流路の側と、中空糸膜束体の中央側に位置する第2流路の側とをシールし、第1の流体と第2の流体の混合を防ぐ。シール部材は、中空糸膜束体の円筒の外周と外ケースの円筒の内周との間に設けられ、両者の隙間を埋めることで、シール機能を達成する。このため、中空糸膜束体の外周の円筒形状と、外ケースの内周の円筒形状を相似形とし、内周と外周の間隔を周方向にわたってほぼ一定(シール部材の変形可能範囲内)にして、シールの安定性を高めることが望ましい。そして、環状のシール部材の形状は、典型的には、内周及び外周に対応した形状に作成される。しかし、シール部材を、弾性変形容易な樹脂(ゴム)で作る場合には、その変形範囲内で内周や外周の形状と異なっていても、シール機能を確保することができる。なお、シール部材の環の断面は、一般的には、円形や楕円の形状に作成され、これにより線シールが行われる。しかし、シール性能が確保されるのであれば、断面形状を矩形など他の形状にしてもよい。
【0016】
この中空糸膜モジュールは、第1の流体と第2の流体との間で、中空糸膜を介して流体組成物の移動を行わせる。流体組成物とは、典型的には流体を主として構成する気体や液体であるが、流体に混合された固体が含まれてもよい。第1の流体と第2の流体は、その流路がともに外ケースを利用して作成されているにもかかわらず、シール部材を用いてシールされているため、互いに混合しない。しかも、ガスケットやポッティングによってシールを行う必要がないため、比較的容易にシールを行うことが可能となる。なお、シール部材は、第1流路と第2流路とを直接隔てるものであってもよいが、第1流路と第2流路の一方または両方の壁を構成せず、補助的あるいは予備的に設けられるものであってもよい。また、シール部材は、複数個備えられていてもよい。
【0017】
本発明の中空糸膜モジュールの一態様においては、第1流路は、中空糸膜束の一端側に形成され、第1の流体を中空糸膜束の一端へと導き入れる第1入口流路と、中空糸膜束の他端側に形成され、第1の流体を中空糸膜の他端から導き出す第1出口流路とを備え、シール部材は、第1入口流路側と第2流路側とをシールする、または第1出口流路側と第2流路側とをシールする。もちろん、第1入口流路側と第2流路側とをシールするシール部材、及び、第1出口流路側と第2流路側とをシールするシール部材の両方が設けられていてもよい。
【0018】
本発明の中空糸膜モジュールの一態様においては、中空糸膜束体は中空糸膜束の側面を包む筒部を有する内ケースを備え、この内ケースの筒部が長さ方向の全部の位置において外周を円筒に形成されている。内ケースは、中空糸膜束を着脱可能に収納するものであってもよいし、中空糸膜束と一体化したものであってもよい。これにより、内ケースの形状を所定の形状に設定しさえすれば、中空糸膜の形状を様々に設定することが可能となる。
【0019】
本発明の中空糸膜モジュールの一態様においては、第2流路は、長さ方向のある位置で内ケースの側面を貫いて、中空糸膜束の側面に第2の流体を導き入れる第2入口流路と、長さ方向の別の位置で内ケースの側面を貫いて、中空糸膜束の側面から第2の流体を導き出す第2出口流路とを備え、内ケースの円筒の外周と外ケースの円筒の内周との間に設けられ、第2入口流路側と第2出口流路側とをシールする環状のシール部材をさらに備える。
【0020】
本発明の中空糸膜モジュールの一態様においては、中空糸膜と内ケースは、互いの熱膨張差を吸収可能な同一または異なる種類の樹脂を用いて作られ、外ケースは金属を用いて作られ、環状シール部材は、内ケースと外ケースの熱膨張差を吸収可能な圧縮性素材によって作られる。外ケースは、内部を保護する観点からすれば頑強であることが望ましく、ここでは金属素材を採用した。一般的に、金属は熱膨張しやすいため、熱膨張しにくい樹脂製の内ケースとの距離が変動する。そこで、シール部材として、この熱膨張差を吸収できる程度に弾性変形可能な素材を用いることにした。
【0021】
本発明の中空糸膜モジュールの一態様においては、第2入口流路における内ケースと中空糸膜束との間には、第2の流体を筒軸方向に拡げて中空糸膜束の側面に導く孔付仕切板が設けられている。なお、第2出口流路にも同様に孔付仕切板を設けてもよい。また、本発明の中空糸膜モジュールの一態様においては、孔付仕切板の孔は、内ケースを貫いて導き入れられる第2の流体が直撃する付近には設けられていない、または他に比べて孔面積が小さくなるように設けられている。ここで、孔面積とは、単位面積あたりの孔の面積をいう。孔の大きさが同じでも孔の数が少なければ孔面積が小さくなり、孔の数が同じでも孔が小さければ小面積となる。さらに、本発明の中空糸膜モジュールの一態様においては、孔付仕切板の孔面積は、内ケースを貫いて導き入れられる第2の流体が直撃する付近から長さ方向に離れるほど大きく設定されている。これにより、遠いところにも十分に第2の流体を供給することが可能になる。
【0022】
本発明の燃料電池システムは、供給される水素と酸素に対し、水を生成する化学反応を起こさせ、電力を取り出す燃料電池と、を備え、前記第1の流体と前記第2の流体の一方は、燃料電池に供給される酸素を含む流体であり、他方は、燃料電池で生成された水を含む流体であり、前記中空糸膜モジュールは、前記燃料電池で生成された水の少なくとも一部を、前記燃料電池に供給される酸素を含む流体に移動させ加湿させる。典型的には、燃料電池に供給される酸素を含む流体は空気であり、カソードに供給される。そして、燃料電池で生成された水(水蒸気の形態をとっていてもよい)を含む流体は、カソードから排出されるガス(オフガス)である。中空糸膜モジュールによって、オフガス中の水が、カソードに供給されるガスへと移動するため、湿潤なガスがカソードに供給され、燃料電池の動作が良好なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1は、燃料電池システム10の概略的な構成を示す図である。燃料電池システム10は、例えば燃料電池車に搭載され、燃料電池車の駆動源となるシステムである。燃料電池システム10には、主たる構成要素として、燃料電池12と加湿膜モジュール22が含まれている。燃料電池12のアノードには、水素ガスが水素供給路14を通じて供給され、使用済みのガスが水素排出路16を通じて排出される。また、燃料電池12のカソードには、加湿膜モジュール22から空気供給路18を通じて空気が供給され、使用済みのガス(オフガス)が空気排出路20を通じて排出される。燃料電池12では、水素ガスと酸素ガスの化学反応を利用して電力を取りだし、図示していないモータ等に供給する。この化学反応においては、水(液体の水または水蒸気)が生成される。水は、空気排出路20を通じて、オフガスとともに排出される。
【0024】
断面図で示した加湿膜モジュール22は、中空糸膜モジュールとしての装置であり、燃料電池12から排出された高湿(水分含有度が高い)なオフガスでもって、燃料電池12に供給する空気を加湿する。加湿膜モジュール22には、その外観が、アルミニウムなどでできたアセンブリケース24で覆われている。そして、アセンブリケース24には、空気の出口孔26と入口孔28、オフガスの入口孔30と出口孔32の各孔が開けられている。
【0025】
図2は、加湿膜モジュール22を、図1のAA’について図示した断面図である。この図からわかるように、アセンブリケース24は、円環状の断面をもつ。つまり、アセンブリケース24は、円筒状に作られている。
【0026】
アセンブリケース24の内部には、外周を円筒状に作られた樹脂製の加湿膜ケース34が収納されている。そして、加湿膜ケース34の外周と、アセンブリケース24の内周との間には、ゴムでできた管状のシール部材36,38,40,42が設置され、線シールが行われている。このシールは、アセンブリケース24内において、空気やオフガスを所定の領域に留めるために行われている。
【0027】
図1と図2からわかるように、加湿膜ケース34には、アセンブリケース24の入口孔30に面した付近に、整流格子付き貫通孔44が設けられており、その内側の薄い直方体状の空間48に通じている。整流格子付き貫通孔44には、空間48に近づくにつれ下方に下がるような傾斜がつけられている。この傾斜は、オフガスを空間48の奥側に送り込みやすくするためのものである。また、加湿膜ケース34には、アセンブリケース24の出口孔32に面した付近に、貫通孔46が設けられており、その内側の薄い直方体状の空間50に通じている。これらの薄い直方体状の空間48,50の内側には、薄い直方体状の板52,54が設置されている。そして、この板52,54に挟まれるようにして、直方体状の加湿膜56が設置されている。加湿膜56は、細長い中空糸膜を束ねて作られており、その上端付近と下端付近では、接着剤を用いたポッティングにより、中空糸膜間の隙間が埋められている。また、加湿膜ケース34と板52,54との間も、隙間が生じないように、密に接着されている。
【0028】
ここで、図3を用いて、図1に示した板52の構造を示す。この板52は、加湿膜ケース34と同質の樹脂で作られており、加湿膜ケース34とともに、加湿膜56を包むケースとしてとして機能している。そして、板52には、オフガスを流すための五つの長方形の孔72,74,76,78,80が開けられている。これらの孔の大きさと分布は非一様である。具体的には、整流格子付き貫通孔44に面した部分には、孔がない板領域70が設けられている。この板領域70は、整流格子付き貫通孔44から流れ込むオフガスが直接加湿膜56に衝突しないように遮蔽する役割と、オフガスを空間48内に行き渡らせる役割を果たしている。この板領域70の上下に設けられた孔72,74は比較的小さい。これは、この付近のオフガスは、その周囲に比べて高圧であるため、小さな孔からでも、加湿膜56に流れ込む流量が比較的大きくなるためである。逆に、板領域70から離れた下方の三つの孔76,78,80は比較的大きく作られており、低圧ながらも十分な流量を加湿膜56に流すように配慮されている。
【0029】
続いて、図4を用いて、図1に示した整流格子付き貫通孔44について説明する。図4は、整流格子付き貫通孔44を、加湿膜ケース34の外側から覗き込む角度から模式的に描いた図である。整流格子付き貫通孔44には、多数の小さな孔82,84,86,....を有する格子が設けられている。この格子は、図の奥行き方向に長く続いており、ここを通過するオフガスの流れを整流する。すなわち、一般に乱れた流れであるオフガスを層流化することで、空間48に入り込むオフガスの流れを安定化させる。
【0030】
ここで、図1に戻って、加湿膜モジュール22の動作について説明する。加湿膜モジュール22には、圧縮された空気が、入口孔28から、アセンブリケース24内へと送り込まれる。ここでは、空気が入り込む空間を空気入口流路58と呼ぶことにする。空気入口流路58に送られた高圧の空気は、加湿膜56の下端から、個々の中空糸膜の中空部に入り込む。これは、空気入口流路58には、空気が流れ出す他の出口がないためである。例えば、加湿膜ケース34とアセンブリケース24の隙間には、シール部材42が設けられているため、シール部材42を超えて空気が漏れ出すことはない。
【0031】
加湿膜56の下端から侵入した空気は、中空糸膜内を進むにつれ、膜を通って染み込む水(あるいは水蒸気)を吸収し、湿潤化する。そして、加湿膜56の上端から流れ出して、加湿膜ケース34の上端面と、アセンブリケース24の上壁下面との間に作られた空気出口流路60に充満する。空気出口流路60に充満した空気は、シール部材36によるシールのために、このシール部材36を超えて漏れ出すことはなく、全て上側の出口孔26から流れ出す。そして、空気供給路18を通じて、燃料電池12に供給される。
【0032】
燃料電池12から吐き出される高湿なオフガスは、空気排出路20を通じて、加湿膜モジュール22の入口孔30に導かれ、ここから、加湿膜56の側面に至るオフガス入口流路62を満たすことになる。このとき、オフガスは、両側に設置されたシール部材36,38のためにその外側に漏れ出すことはなく、全て整流格子付き貫通孔44を通って、内側の空間48に流れ込む。そして、流れ込んだオフガスは、板52の板領域にぶつかって空間48内に拡がり、板52の孔を通って加湿膜56の側面に到達する。
【0033】
オフガスは、加湿膜56を構成する複数の中空糸膜の隙間を通って、反対側の側面に到達する。この過程で、膜を通じて水分が中空糸膜の内部に移動することになる。そして、加湿膜56から流れ出たオフガスは、出口孔32へと至るオフガス出口流路64を流れる。具体的には、板54の孔を通り、空間50、貫通孔46を経由して、出口孔32に到達する。この過程でも、オフガスは、シール部材40,42のために、アセンブリケース24と加湿膜ケース34との間を通って、オフガス出口流路64の外に漏れ出すことはない。
【0034】
図5は、オフガスが加湿膜ケース34内を流れる様子を模式的に示した断面図である。ここでは、入口孔30から流れ込んだオフガス90は、流れ矢印92で示すように空間48内に行き渡り、各孔から十分な比較的均等に加湿膜56に流れ込む。流れ矢印94,96,98,100,102は、この均等な流れの様子を示している。このように、加湿膜56のあらゆる隙間をほぼ一様にオフガスが流れる場合には、非一様な場合に比べて、膜を通じての水分交換の効率が高められる。なお、図5では断面図においてオフガスの流れを示しているが、紙面の手前及び奥側でも、同様にして、一様にオフガスが流れる。特に、この加湿膜56は、直方体状に形成されているため、オフガスが流れる距離は紙面の手前及び奥側でも同程度となり、紙面の手前側及び奥側でも、同程度の流量が流れることになる。加湿膜56から流れ出たオフガスは、流れ矢印104で示すように、空間50を流れて合流し、貫通孔46から加湿膜ケース34外へと流れ出す。
【0035】
このように、加湿膜モジュール22は、燃料電池12に供給される空気とオフガスとを加湿膜56を介して接触させることで、空気を加湿する。このとき、オフガスと空気は、それぞれ、加湿膜ケース34とアセンブリケース24を用いた流路に導かれて加湿膜56に流れ込み、また加湿膜56から流れ出す。しかし、加湿膜ケース34とアセンブリケース24の間には、シール部材36,38,40,42が設けられているため、各流れがシールされ、互いに混合することはない。
【0036】
なお、加湿膜モジュール22は、典型的には、これらのシール部材36,38,40,42を取り付けた加湿膜ケース34を、アセンブリケース24内に装着することで組み立てられる。装着の過程では、アセンブリケース24との間の摩擦によってシール部材36,38,40,42の位置がずれてしまうこともありえる。そこで、加湿膜ケース34におけるシール部材36,38,40,42の取り付け箇所に、浅い溝を掘って、これらのシール部材36,38,40,42を固定することも有効となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】燃料電池システムの一例を示す概略図である。
【図2】加湿膜モジュールの断面図である。
【図3】孔付きの板の例を示す図である。
【図4】整流格子付き貫通孔の例を示す図である。
【図5】オフガスの流れを示す模式図である。
【符号の説明】
【0038】
10 燃料電池システム、12 燃料電池、14 水素供給路、16 水素排出路、18 空気供給路、20 空気排出路、22 加湿膜モジュール、24 アセンブリケース、26,32 出口孔、28,30 入口孔、34 加湿膜ケース、36,38,40,42 シール部材、44 整流格子付き貫通孔、46 貫通孔、48,50 空間、52,54 板、56 加湿膜、58 空気入口流路、60 空気出口流路、62 オフガス入口流路、64 オフガス出口流路、70 板領域、72,74,76,78,80,82,84,86 孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の中空糸膜が束ねられた中空糸膜束を備え、長さ方向の全部の位置において外周を円筒に形成された中空糸膜束体と、
中空糸膜束体を包む筒部を有するケースであって、長さ方向の全部の位置において筒部の内周を円筒に形成された外ケースと、
外ケースを利用して形成され、中空糸膜束体の一端において中空糸膜の中空部へと第1の流体を導き入れ、中空糸膜束体の他端において中空糸膜の中空部から第1の流体を導き出す第1流路と、
外ケースを利用して形成され、中空糸膜束体の側面において中空糸膜間へと第2の流体を導き入れ、中空糸膜束体の側面において中空糸膜間から第2の流体を導き出す第2流路と、
中空糸膜束体の円筒の外周と外ケースの円筒の内周との間に設けられ、第1流路側と第2流路側とをシールする環状のシール部材と、
を備え、
第1の流体と第2の流体との間で、中空糸膜を介して流体組成物の移動が行われる中空糸膜モジュール。
【請求項2】
請求項1に記載の中空糸膜モジュールであって、
第1流路は、中空糸膜束の一端側に形成され、第1の流体を中空糸膜束の一端へと導き入れる第1入口流路と、中空糸膜束の他端側に形成され、第1の流体を中空糸膜の他端から導き出す第1出口流路とを備え、
シール部材は、第1入口流路側と第2流路側とをシールする、または第1出口流路側と第2流路側とをシールする中空糸膜モジュール。
【請求項3】
請求項1に記載の中空糸膜モジュールにおいて、
中空糸膜束体は中空糸膜束の側面を包む筒部を有する内ケースを備え、この内ケースの筒部が長さ方向の全部の位置において外周を円筒に形成されている中空糸膜モジュール。
【請求項4】
請求項3に記載の中空糸膜モジュールであって、
第2流路は、長さ方向のある位置で内ケースの側面を貫いて、中空糸膜束の側面に第2の流体を導き入れる第2入口流路と、長さ方向の別の位置で内ケースの側面を貫いて、中空糸膜束の側面から第2の流体を導き出す第2出口流路とを備え、
内ケースの円筒の外周と外ケースの円筒の内周との間に設けられ、第2入口流路側と第2出口流路側とをシールする環状のシール部材をさらに備える当該中空糸膜モジュール。
【請求項5】
複数の中空糸膜が束ねられ、一端から他端へと中空糸膜の中空部に第1の流体が流される中空糸膜束と、
中空糸膜束の側面を包む筒部を有するケースであって、長さ方向の全部の位置において筒部の外周を円筒に形成された内ケースと、
内ケースの側面を包む筒部を有するケースであって、長さ方向の全部の位置において筒部の内周を円筒に形成された外ケースと、
外ケースを利用して形成され、長さ方向のある位置で内ケースの側面を貫いて、中空糸膜束の側面から中空糸膜間に第2の流体を導き入れる第2入口流路と、
外ケースを利用して形成され、長さ方向の別の位置で内ケースの側面を貫いて、中空糸膜束の側面から第2の流体を導き出す第2出口流路と、
内ケースの円筒の外周と外ケースの円筒の内周との間に設けられ、第2入口流路側と第2出口流路側とをシールする環状のシール部材と、
を備え、
第1の流体と第2の流体との間で、中空糸膜を介して流体組成物の移動が行われる中空糸膜モジュール。
【請求項6】
請求項3または5に記載の中空糸膜モジュールであって、
中空糸膜と内ケースは、互いの熱膨張差を吸収可能な同一または異なる種類の樹脂を用いて作られ、
外ケースは金属を用いて作られ、
環状シール部材は、内ケースと外ケースの熱膨張差を吸収可能な圧縮性素材によって作られる中空糸膜モジュール。
【請求項7】
請求項4または5に記載の中空糸膜モジュールであって、
第2入口流路における内ケースと中空糸膜束との間には、第2の流体を筒軸方向に拡げて中空糸膜束の側面に導く孔付仕切板が設けられている中空糸膜モジュール。
【請求項8】
請求項7に記載の中空糸膜モジュールであって、
孔付仕切板の孔は、内ケースを貫いて導き入れられる第2の流体が直撃する付近には設けられていない、または他に比べて孔面積が小さくなるように設けられている中空糸膜モジュール。
【請求項9】
請求項7に記載の中空糸膜モジュールであって、
孔付仕切板の孔面積は、内ケースを貫いて導き入れられる第2の流体が直撃する付近から長さ方向に離れるほど大きく設定されている中空糸膜モジュール。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の中空糸膜モジュールと、
供給される水素と酸素に対し、水を生成する化学反応を起こさせ、電力を取り出す燃料電池と、
を備え、
前記第1の流体と前記第2の流体の一方は、燃料電池に供給される酸素を含む流体であり、他方は、燃料電池で生成された水を含む流体であり、
前記中空糸膜モジュールは、前記燃料電池で生成された水の少なくとも一部を、前記燃料電池に供給される酸素を含む流体に移動させ加湿させる燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−119615(P2008−119615A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−307054(P2006−307054)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】