説明

中空糸膜モジュール

【課題】中空糸膜の偏平や閉塞といった品質不良品の発生を抑えながら、中空糸膜モジュールの偏流を防止し、安定した高い透過性能の発現が可能となるような中空糸膜モジュールを提供する。
【解決手段】本発明は、クリンプが付与された中空糸膜を充填した中空糸膜モジュールであって、(a)内径基準の膜面積1.5m2の中空糸膜モジュール5本を用いて、透析液流量500ml/minで測定した際の尿素クリアランスをCL500とし、透析液流量2000ml/minで測定した際の尿素クリアランスから総括物質移動係数を介して透析液流量500ml/min時の値に換算した尿素クリアランスをCL2000としたとき、CL2000−CL500で表される偏流値の平均が7ml/min未満であり、(b)薬液を用いた逆圧洗浄後の前記偏流値の平均が13ml/min未満であることを特徴とする中空糸膜モジュールである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜モジュールに関するものである。より詳しくは、中空糸膜モジュール内の透析液の偏流(チャンネリング)を効果的に抑制することによって透析効率に優れ、かつ透析性能の耐洗浄性に優れ、紡糸工程上の制約やコストアップがなく、また中空糸膜モジュール組立性に優れた中空糸膜モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
平膜に比較して、大きな膜面積を小型のモジュールに納めることのできる中空糸膜は、容積効率に優れており、液体処理関係の様々な分野で活用されており、特に血液浄化処理分野においてはその主流を占めている。
【0003】
血液浄化用中空糸膜は、1000本〜20000本を束ねた状態でモジュールと呼ばれるハウジング内に納められ、血液浄化用中空糸膜モジュールとして組み立てられる。血液浄化用中空糸膜モジュールの性能は、構成する中空糸膜自体の透過性能に左右されることはもちろんであるが、その構造による影響も無視できない。
【0004】
血液浄化用中空糸膜モジュールは、その使用に際し、血液は中空糸膜の内側を流れ、透析液は中空糸膜の外側、つまり中空糸膜同士の隙間を流れることにより、血液と透析液との間で膜を介して血液中の不要物質を透析液側に除去する仕組みをとっている。このとき、外部還流液である透析液が全ての中空糸膜間を均一に流れず、ある一部分のみに流れると、透析液が流れない部分の中空糸膜は有効に活用されないため、透析効率が著しく低下し、血液浄化用中空糸膜モジュールとしての透過性能が十分に発現されない。この現象を偏流またはチャンネリングと呼んでいるが、特に尿素などの低分子物質の除去能に多大な悪影響を与えることが知られている。
【0005】
一方、上記のような中空糸膜間の間隙が十分でない中空糸膜束は、モジュール組み立て時の接着性に不良が生じやすいという問題もある。すなわち、モジュール組み立て工程において、中空糸膜端部とモジュール端部を樹脂によって接着する際に、中空糸膜間の間隙が不十分であるとその間に樹脂が入り込まずに空間が生じ、微小リークやス抜けと呼ばれる接着不良が発生する。そこで、上述したような偏流現象や接着不良を回避するために、これまで多くの工夫がなされてきた。
【0006】
例えば、中空糸膜外側、長手方向に複数のフィンを形成させ、中空糸膜同士の密着を防止することにより、中空糸膜の間隙を保つ技術が開示されている。(特許文献1参照)。また、中空糸膜にスペーサーヤーンを巻き付け、スペーサーヤーンの広がりの力を利用することで、中空糸膜間の間隙を確保する技術が示されている。(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、前者の技術は特殊な口金が必要であり、操業面や紡糸条件にも制約がかかり、真円状の中空糸膜ほどの透過性能を発現させることは困難であり、現実的ではない。また、後者の技術は、スペーサーヤーンを巻き付ける工程が必要となるためコスト高となるだけでなく、嵩高さが増すためにコンパクトなモジュールを得ることができないという問題がある。
【0007】
そこで、操業面や紡糸条件に対する制約も少なく、低コストで簡略に偏流現象や接着不良を防ぐ方法として、中空糸膜にクリンプと呼ばれる捲縮を付与することで、隣り合う中空糸膜同士の密着を防ぐ技術が開示されている。(例えば、特許文献3参照)。該文献に開示の技術は紡糸された中空糸膜をボビンに特定の綾角で巻きとることにより上下に重なる中空糸膜同士が点接触した状態になる。この巻き取られたチーズを熱セットすることにより点接触した部分を支点とした波形の形状(クリンプ)を中空糸膜に固定することができる。この方法は確かに有効な技術であるが、クリンプを熱固定するために、紡糸後に別途、特殊な条件で加熱処理するための工程が必要となり、それに伴う所要時間やコストが無視できない。また、ボビン巻き状態での処理に限定され、ボビン巻きができない中空糸膜には適用できないという問題がある。さらに、ボビンの内層と外層において、単位長さ当たりのクリンプ数を同レベルにそろえることが困難であるため、ボビン外層部の中空糸膜のみを用いて作製されたモジュールとボビン内層部の中空糸膜のみを用いて作製されたモジュールとの間で性能差が生じるという問題がある。
【0008】
近年になって、上記のクリンプの効果が再確認されるようになり、ボビン巻き以外の形態で製造される中空糸膜に対してもクリンプを付与するための試みがなされてきた。特に近年は、中空糸膜の内側に緻密なスキン層を持つ非対称構造を有する中空糸膜が注目を浴びている。非対称構造膜は、中空糸膜の内側にスキン層を形成するために芯液としてポリマーに対して凝固性を有する液体、特に水溶液を用いて製造される。このような中空糸膜をボビンに巻き取ると水を含む芯液が入った状態になるので、クリンプ固定のために加熱処理すると、水の蒸発に伴う表面張力の影響により膜が潰れてしまう。
【0009】
非対称構造の中空糸膜にクリンプを付与する方法としては、相対するギア間に中空糸膜を蛇行させながら通過させることにより、機械的に中空糸膜にウェーブを形成するといった処理を行うことが試行されている。しかしながら、このような機械的な処理では、特に血液浄化に用いられるようなデリケートな中空糸膜に対しては、これまで有効なクリンプを付与することができていないのが現状である。というのは、効果的な強いクリンプを付与するためには機械的な外力をより強く中空糸膜に与える必要があるため、中空糸膜を変形、閉塞させてしまったり、膜を破損してしまったりする可能性が非常に高くなるからである。
【0010】
したがって、従来の技術では極力中空糸膜にダメージを与えないよう、クリンプ間ピッチの長い大波のウェービング構造のものしか製品とすることができていない。しかしながら、このような大波のウェービング構造では、隣り合う中空糸膜同士の間隙を確保する効果が十分ではないため、これだけでは偏流を完全に回避することはできず、モジュールのハウジング構造の改良など、他の技術との併用によって対応しているのが現実である。
【0011】
また、例えば特許文献4では、波長10mm以上、振幅0.2mm以上のクリンプを付与することで上記問題の解決を図っているが、偏流抑制効果の安定性に問題があり、多数のモジュールを作製した際には本来の透過性能を発現できないモジュールが混在してしまうことがあった。
【0012】
特許文献5には、フィンを有する中空糸膜に緩い特定のクリンプを付与することで、フィンとクリンプの相乗効果により極めて優れた偏流防止効果を発揮できる技術が開示されている。しかし、中空糸膜にフィンを形成するためには特殊な口金が必要となるし、さらにクリンプを付与するとなると製造条件面で相当の制約を受けるため、偏流を抑制することができても、高い透過性能を持つ中空糸膜を製造することはより一層困難であり、製造コストアップや歩留まり低下の課題が生ずる懸念が大きい。また、このような中空糸膜を用いてモジュールを作成する際には、中空糸膜束が嵩高くなるため、所定の膜面積を得るためにモジュールケースを大きくする必要があるなどの問題も生ずる。
【0013】
特許文献6には、特許文献1記載のようなフィン付き中空糸膜において、外側に緻密層を持たせた非対称構造とすることにより、透析液の偏流抑制と膜厚増加による透過性能の低下の回避を両立する技術が開示されている。そして、実施例には、透析液流量が500ml/min時のリンクリアランスと透析流量が2000ml/min時のリンクリアランスの換算値との差である偏流値が15〜16であったことが記載されている。しかし、この技術においても、紡糸条件への制約が大きいことは変わらないし、中空糸膜外側に緻密層を有するため、実際に血液透析に供した際に中空糸膜内部から外側にかけて詰まりが生じていくことにより、透過性能が徐々に低下していく懸念が大きい。
【0014】
特許文献7には、長さ10cmあたりの捲縮数が20〜40個の中空繊維と10cmあたりの捲縮数が20個未満の中空繊維とを特定の比率で混在させた血液透析用モジュールとすることにより、透析液の偏流を抑制し、かつモジュールのコンパクト性を両立する技術が開示されている。しかしながらこの技術では、異なった捲縮数の中空繊維を得るために、異なった巻き取り張力や熱処理条件にて別々に中空糸繊維を製造する必要があり、そののちに、それぞれの中空繊維を特定の比率で混在させて中空繊維束を作製する工程が必要となるため、相応の手間を要する。
【特許文献1】特開昭61−119274号公報
【特許文献2】特開平05−041979号公報
【特許文献3】特開昭58−182722号公報
【特許文献4】特開2005−348784号公報
【特許文献5】特開平09−266947号公報
【特許文献6】特開平09−276400号公報
【特許文献7】特開2003−79721号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで本発明は、従来技術の問題点に鑑み、中空糸膜の品質不良の発生リスクを抑制しつつ、外部環流液の偏流を防止し、安全でかつ、安定して高い透過性能を発現可能な中空糸膜モジュールを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決することができる本発明の中空糸膜モジュールは、以下の構成よりなる。
(1)クリンプが付与された中空糸膜を充填した中空糸膜モジュールであって、
(a)内径基準の膜面積1.5m2の中空糸膜モジュール5本を用いて、透析液流量500ml/minで測定した際の尿素クリアランスをCL500とし、透析液流量2000ml/minで測定した際の尿素クリアランスから総括物質移動係数を介して透析液流量500ml/min時の値に換算した尿素クリアランスをCL2000としたとき、CL2000−CL500で表される偏流値の平均が7ml/min未満であり、
(b)薬液を用いた逆圧洗浄後の前記偏流値の平均が13ml/min未満である
ことを特徴とする中空糸膜モジュール。
(2)クリンプの振幅をA(mm)、クリンプ数をX(個/cm)、中空糸膜の外径をD(mm)としたときに、A×X2/Dで表されるクリンプ指数が0.30〜10であることを特徴とする(1)に記載の中空糸膜モジュール。
(3)中空糸膜のクリンプの振幅(A)が0.1〜1.0mm、中空糸膜長さ当たりのクリンプ数(X)が0.5〜2.0個/cm、外径が0.1〜0.5mmである(1)または(2)に記載の中空糸膜モジュール。
(4)中空糸膜の充填率が45〜75%である(1)〜(3)いずれかに記載の中空糸膜モジュール。
(5)薬液を用いた逆圧洗浄前後での中空糸膜のクリンプ指数の保持率が70%以上である(1)〜(4)いずれかに記載の中空糸膜モジュール。
(6)薬液が過酸化水素、過酢酸、酢酸から選ばれる1種以上を含むものである(1)〜(5)いずれかに記載の中空糸膜モジュール。
【発明の効果】
【0017】
本発明の中空糸膜モジュールは、中空糸膜製造時に機械的にクリンプを付与する際、中空糸膜の偏平や閉塞、破損などの不良製品の発生を抑制しており、かつモジュール化した際に、中空糸膜同士の接触を効果的に低減させることにより、安定した高い透過性能を発現可能な中空糸膜を高い歩留まりで得ることが可能である。また、中空糸膜製造時に機械的にクリンプを付与する際、中空糸膜の各点に応力を集中させる配慮をしているので、中空糸膜モジュールの洗浄操作等の過酷な使用状態においてクリンプの緩和や消失を最小限に抑制できるという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明の中空糸膜モジュールについて説明する。
【0019】
本発明者らは、熱固定法以外の従来のクリンプ付与技術では中空糸膜に十分な数のクリンプを強固に付与できない原因について、詳細に調査、検討を行った。
【0020】
まず、中空糸膜モジュールにおいて、中空糸膜間の間隙を確保し、間隙を流れる流体の偏流を防止するために重要なクリンプの要素について検討した。中空糸膜に付与された波状またはそれに類する形状のものであって、中空糸膜を鉛直に自然に垂らした程度では波状の形態を保持するものをクリンプと呼んでいるが、その特性値として、クリンプの数(中空糸膜単位長さあたりに存在する個数)と振幅(中空糸膜が長さ方向と垂直に振れている大きさ)で評価される。これら双方について検討したところ、クリンプの振幅よりも単位長さ当たりのクリンプ数がより重要であることを見出した。すなわち、比較的クリンプ数の少ない中空糸膜からなるモジュールは、中空糸膜同士の接触が多くなるため、外部灌流液のチャンネリングが生じやすい。一方、比較的振幅の大きいクリンプを有する中空糸膜の場合、中空糸膜同士の接触を低減する効果は大きくなるが、中空糸膜束の径が大きくなるためモジュールのサイズを大きくしなければならないことがある。本発明者が鋭意検討した結果、振幅は比較的小さくても、クリンプ数を特定の範囲とすることにより中空糸膜同士の接触を効果的に抑制でき、偏流防止に有効であることを見出した。さらに、熱固定されていないクリンプは、クリンプ付与後の後工程やモジュール化工程において中空糸膜に加えられる張力その他の外力によってその形状や機能が失われることがあるが、クリンプ数が多いほど、一つのクリンプにかかる外力の影響が少なくなるため、よりクリンプ形状や機能を保持しやすいというメリットもある。
【0021】
そこで、クリンプ付与装置について検討を加えたところ、図8に示すような従来装置では、加工精度・組立て精度・動作の遊びなどの技術的な問題から、クリンプ数を増加させるのに有効なピッチを狭めることが困難であることが判明した。さらに調査、検討を進め、図7に示すような方式にて、設備的には有効なピッチを確保することに成功したが、特に膜厚が薄く比較的強度の弱い中空糸膜に対してはどうしても有効なクリンプを付与させることができなかった。また、無理にクリンプを付与しようとすると、中空糸膜に偏平や閉塞、さらには膜の破損が発生し、中空糸膜の品質や機能が失われてしまうという致命的な問題があった。
【0022】
このクリンプの消失や弛緩について詳細に調査した結果、1つにはクリンプ付与工程の後方の工程で中空糸膜が引っ張られることにより、クリンプ付与装置のギアにより挟まれた部分で中空糸膜が滑っているということが分かった。すなわち、中空糸膜にかかる応力が一点に集中せず中空糸膜長さ方向に分散した結果、付与されたようにみえたクリンプが巻き取り工程やバンドル化工程、洗浄工程、乾燥工程、バンドル形態での保存期間中にクリンプが伸びてしまい、中空糸膜モジュール作製の歩留まりが低下したり、中空糸膜モジュールの性能を十分発現することができないなどの問題が生じていることがわかった。
また、別の理由として、中空糸膜がクリンプ付与装置のギアやロールの噛み込み部に挟み込まれる際にも、中空糸膜の滑りを避けることができない。特に、前工程より中空糸膜がフリーに走行してきた場合、噛み込み部での滑りはより大きくなり、応力が1点に集中せず、中空糸膜にクリンプが固定されない原因となっていると考えられた。
そこで、本発明者らはクリンプ付与装置での中空糸膜の滑り防止について鋭意検討した結果、クリンプ付与装置において、少なくとも一対のロール間に中空糸膜が挟み込まれる前後でロール外周面に中空糸膜を一定距離以上沿わせるように走行させることで、ロッドと中空糸膜との滑りを抑制し、ロッドの圧力を中空糸膜の一点に集中させることにより、熱などのエネルギーを加えなくとも非常に良好なクリンプを中空糸膜に固定できることを見出し、ついに本発明を完成した。
【0023】
本発明におけるクリンプ付与は、外周面上に多数のロッドを備えた少なくとも一対のロール間の噛み合わせ部に中空糸膜を挟み込むことによりクリンプを付与することが好ましい。少なくとも一対のロールは、それぞれ等速で回転し、ロールの外周面に多数のロッドが配されて構成されており、ロール上のロッドを互いにギア状に噛み込ませることができるが、ロッド同士が接触しないように構成されている。そして、該ロール間に中空糸膜を挟み込ませることによりクリンプを付与することができる。ロッドは平行に配されることが好ましいが、幾何学的に完全に平行でなくとも、該ロールを噛み込ませたときに中空糸膜が押し潰されない程度の間隙を設けることができれば、多少のずれは許容できることもある。本発明において、中空糸膜へのクリンプの付与は一対のロール間を略S字状に一回通せばよいが、一対のロールを用いて8の字状に中空糸膜を走行させても良いし、ロールを3つ以上組み合わせたものを用いて、ロールの回転に沿ってそれぞれの噛み合わせ部分を順次通過させる方法をとることも本願発明の範囲内である。
【0024】
本発明において、ロールの径は特に限定されないが、あまり大きすぎると設備コストが増大するだけでなく、中空糸膜をロール間に通す際の作業性の低下や走行中の中空糸膜の弛みや糸切れが生じることがある。また、小さすぎると十分な数のロッドをロールに備えることが難しくなるし、中空糸膜のスリップを抑制できないことがあるだけでなく、クリンプ付与部分の条件設定がセンシティブになりすぎる可能性がある。したがって、例えば、外径0.1〜0.5mmの中空糸膜へのクリンプ付与を前提とすれば、ロール外径は10〜50cmφ程度が適当である。このようなロールを2つ以上組み合わせてクリンプ付与に用いる。
【0025】
また、ロッドまたは突起の数は、ロールの大きさやどのような波長、振幅のクリンプを得るかにより変わるものであり特に限定されないが、極度に少ない場合は物理的に中空糸膜を挟み込むことが困難となり有効なクリンプを付与できない可能性がある。逆に、極度に多い場合は設備が巨大化してしまうだけでなく、走行中の中空糸膜の弛みや糸切れといった操業上の問題が発生することがある。したがって、好ましくは20個以上1000個以下、より好ましくは50個以上300個以下である。
【0026】
本発明においてロールの外周面上に備えられたロッドは、一方のロールのロッド間の溝部分に他方のロールのロッド部分を互いにギア状に噛み込ませることができれば、その構成は特に問わない。多数のロッドを平行に外周面上に配置してもよいし、ロッドの代わりにロールの外周面を削り出すことにより平行に多数の溝と突起部を形成せしめてもよい。ただし、ロッドまたは削りだしによって形成された突起部の外周部は、中空糸膜に直接接触するので、中空糸膜を傷つけないよう、外周面に配するロッドは円柱形が好ましく、または突起部は中空糸膜の進行方向に沿って円弧状となるように形成されているのが好ましい。ロッドおよび突起の中空糸膜に接触する表面は中空糸膜との接触により中空糸膜に傷をつけないよう、また中空糸膜が滑らないように鏡面加工されているのが好ましい。また、ロッドの場合には中空糸膜の走行に沿って回転するように設計されると中空糸膜へのダメージがより軽減されるのでさらに好ましい。ロッドおよび突起の材質については特に限定されないが、加工性や入手のしやすさからステンレス製またはアルミニウム製であることが好ましく、ステンレス製が耐久性の面から、より好ましい。また、表面に耐蝕性や滑り止め、耐摩耗性向上のためのコーティング処理が施されたものを使用することも本発明の範囲内である。
【0027】
本発明において、クリンプ付与装置に備えられるロッドまたは突起間のピッチは、目的とするクリンプ数により適宜設定すればよいが、有効なクリンプ数を確保するためにはできるだけピッチが狭い方が好ましい。しかし、狭すぎると加工性、耐久性の低下や中空糸膜を挟み込む隙間の確保が困難になるため、1mm以上20mm以下が好ましく、より好ましくは3mm以上17mm以下、さらに好ましくは4mm以上15mm以下である。ロッドまたは突起間のピッチは等間隔である方が製作上やメンテナンス上都合がよいが、互いにギア状に噛み込ませることができれば意図的に間隔を変えてもよい。また、ロッドまたは突起は、円筒部分の回転軸に対して平行に配するのが製作やメンテナンス上都合がよいが、これも互いにギア状に噛み込ませることができれば意図的に変えてもよい。あまり大きく変えすぎると操業上の不都合が生じることがあるが、円筒部分の回転軸に対して平行からわずかにずらして配することにより、複数の中空糸膜を同時に平行走行させるときにはクリンプの位相をずらす効果が見込まれるため、より高い偏流防止効果も期待できる。
【0028】
ロッドまたは溝の削りだしによって形成された突起部の径については、大きすぎると上記のピッチを確保することが困難となり、また小さすぎると中空糸膜が折れてしまうというようなリスクが増大する。中空糸膜の強力や伸度にもよるが、好ましくは0.5〜8.0mmφであり、より好ましくは1.5〜6.0mmφである。
【0029】
本発明において、中空糸膜にクリンプを付与する際、ロールの噛み込み部分の前後においてロール(ロッド)の外周面に沿って中空糸膜を走行させることが重要なポイントである。このような走行形態をとることによって、中空糸膜がロールの噛み込み部分でスリップすることなく把持され、中空糸膜の一点にロッドまたは突起の応力が集中し、有効なクリンプを付与できる。この点について更に検討の結果、中空糸膜がクリンプ付与装置に接触してからロール間の噛み合わせ部分を通過しクリンプ付与装置を離れるまで、ある程度の区間が必要である。その好ましい区間を、中空糸膜が接触しつつ走行するクリンプ付与装置の回転軸を中心にした角度で表すと、およそ延べ90°以上あれば足りるといえる。噛み込み前後で各々45°以上取るのがより好ましい。接触しつつ走行する区間が少ない場合には、巻取りやその後の工程から受ける張力により、ロール間の噛み合わせ部分を通過する中空糸膜がスリップすることがあり、効果的なクリンプが得られないことがある。また、接触しつつ走行する区間が延べ720°を超えるような糸道は、設備が複雑化するだけでなく、クリンプ付与装置に中空糸膜を通す際の作業性や糸の弛み、糸切れといった操業面でのリスクが増大する可能性がある。したがって、中空糸膜が本発明のクリンプ付与装置のロール外周面に沿って走行する区間は、ギアの噛み込み部分の前後で延べ90°以上720°以下が好ましく、より好ましくは、180°以上540°以下である。
【0030】
従来、熱固定せずに機械的にクリンプを付与しただけの中空糸膜は、その後の洗浄処理や乾燥処理、モジュール作製、保存期間中にクリンプが弛緩してしまったり、消失してしまったりといった課題の発生を抑えることが出来なかった。この理由について詳細はわからないが、フリーで走行してきた中空糸膜がクリンプ付与装置のギアやベルトの噛み合わせ部に進入する際に、噛み合わせ部での中空糸膜のスリップが大きくなる。このようにスリップを起こすと、応力が中空糸膜の一点に集中しないために、後に中空糸膜が受ける外力や後処理においてクリンプが緩和してしまう現象が生ずるものと考えている。
本発明においては、クリンプ付与装置の噛み合わせ部に中空糸膜が進入する際のスリップを防止する配慮を施したことにより、熱固定せずとも強固で長時間のクリンプ保持性の良好なクリンプ付与ができたものと推測している。
【0031】
本発明において、中空糸膜1cm当たりのクリンプ数は0.50個以上が好ましい。本発明者らの先行技術において、ボビン巻きし、熱固定を施すことによりクリンプを付与した中空糸膜を用いて作製した中空糸膜モジュールの偏流抑制効果は臨床の現場において実績がある。このボビン巻き品のクリンプ数を目標とし、クリンプ数の下限を前記範囲とした。0.60個/cm以上がより好ましく、0.65個/cm以上がさらに好ましい。クリンプ数が多いことで特に大きな問題が生じることはないが、あまりにも多すぎると中空糸膜束としたときに嵩高くなり、ひいては中空糸膜モジュールのコンパクト性が失われるし、クリンプ付与装置の製造コストや技術的難易度と得られる効果を考慮すると、現実的なクリンプ数として、2.0個/cm以下で十分な効果が得られるといえる。
【0032】
本発明の中空糸膜に付与されているクリンプの振幅は0.1mm以上が好ましく、より好ましくは0.15mm以上である。中空糸膜の振幅が小さすぎる場合、モジュール組み立て工程において中空糸膜のずれによりモジュール組み立て性が悪化したり、使用の際に中空糸膜同士の密着及び透析液の偏流により特に尿素等の小分子量物質の透過性能の低下が発生することがある。一方、クリンプの振幅が大きくなりすぎてもメリットはなく、モジュール組み立て工程で、中空糸膜の束(バンドル)をモジュールケースに挿入する際の抵抗が大きくなることにより中空糸膜表面が傷ついてしまいリークが発生する可能性が増大するし、大きく蛇行することとなるのでより多くの中空糸膜原料を必要とするためコスト高となる。また、モジュールケースを大きくしなければならないようなこともある。したがって、クリンプの振幅は1.0mm以下が好ましく、より好ましくは0.7mm以下、さらに好ましくは0.5mm以下、さらにより好ましくは0.3mm以下である。
【0033】
また、本発明者は鋭意検討の結果、クリンプの強さは次のクリンプ指数を指標にできることを見出した。すなわち、中空糸膜に付与されたクリンプの振幅をA(mm)、クリンプ数をX(個/cm)、中空糸膜の外径をD(mm)としたとき、クリンプ指数は、A×X2/Dで表され、このクリンプ指数が小さいときには、効果的なクリンプが付与できていないことを確認した。したがって、本発明におけるクリンプ指数は0.30以上が好ましく、より好ましくは0.35以上、さらに好ましくは0.40以上、さらにより好ましくは0.45以上である。クリンプ指数を大きくすることでより強固なクリンプが得られるが、あまり大きくしすぎると、モジュール組み立て時に中空糸膜束が嵩高くなりすぎてリーク発生の要因となることが考えられるし、真の長さが長くなってしまうことで原料コストがかさむなどの問題が発生する。また、設備的な技術的難易度や製造コストなども勘案すると、10以下が適当であり、好ましくは5以下、より好ましくは3以下、さらに好ましくは2以下である。
【0034】
本発明の中空糸膜を用いて作製した中空糸膜モジュールは、5本の中空糸膜モジュールを用いて測定した尿素クリアランスの平均値が170ml/min/m2であり、かつ標準偏差が10.0未満である。すなわち、高い偏流抑制効果により中空糸膜の持つ透過性能をロスなく発揮できるようになるので、高い尿素クリアランスを発現でき、かつバラツキが少ないことを意味している。尿素クリアランスの平均値が170ml/min/m2を下回ると、例えば血液透析を行った際に、取り除きたい小分子物質が効率よく除去できず、臨床効果が低くなってしまうことが考えられるし、それによる患者への負担が懸念される。尿素クリアランスの平均値は、175 ml/min/m2がより好ましい。また、標準偏差が10.0以上となると、バラツキが大きくなるため、高い尿素クリアランスを発現できるモジュールもあれば、非常に低い尿素クリアランスとなるモジュールもあるということであり、例えば、血液透析時の臨床効果をあらかじめ予想するということが非常に困難となるため、実使用に支障をきたす可能性がある。標準偏差は8.0未満がより好ましく、7.0未満がさらに好ましい。前述のクリンプ指数と尿素クリアランスの平均値および標準偏差との関係における一般的傾向を図10に示す。
【0035】
本願発明において、薬液を用いた逆圧洗浄前後での中空糸膜のクリンプ指数の保持率が70%以上であることが好ましい。薬液洗浄後のクリンプ指数が洗浄前に対して70%以上であるということはすなわち、洗浄時に施される水洗や薬液充填、洗浄、リンス処理といった様々な処理による外力が加わってもクリンプの消失度合いが少ないということであり、中空糸膜に強固でパーマネント性の高いクリンプが付与されているということである。これにより、中空糸膜が薬液を用いた逆圧洗浄後でも十分なクリンプを有しており、中空糸膜モジュールをリユースする際にも高い透過性能を保持できるため好ましい。クリンプ指数の保持率が70%を下回ると、薬液による逆圧洗浄によってクリンプが緩和あるいは消失してしまうということであり、中空糸膜モジュールをリユースに供した際に、偏流によって透過性能が低下してしまい、ひいては中空糸膜モジュールごとの性能のバラツキが大きくなる可能性が生じる。クリンプ指数の保持率は75%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましい。
【0036】
本願発明における洗浄方法の一例として、過酸化水素水17重量%、過酢酸9重量%、酢酸7重量%、水67重量%からなる薬液を用いて、下記に示すような工程での洗浄が挙げられる。
1)中空糸膜外側を250mlの無菌水で水洗する。
2)中空糸膜内側を無菌水で流量6L/minの速度で20秒間水洗する。
3)2重量%に希釈した薬液で35秒間逆洗する。
4)2重量%に希釈した薬液で中空糸膜内側をリンスする。
5)中空糸膜内側に2重量%に希釈した薬液を120秒間充填する。
6)中空糸膜外側を無菌水で流量1L/minの速度で15秒間リンスする。
7)中空糸膜内側を無菌水で流量6L/minの速度で30秒間リンスする。
8)中空糸膜内側を無菌水で流量1L/minの速度で40秒間リンスする。
9)無菌水の水抜きを行う。
10)中空糸膜外側を無菌水で流量1L/minの速度で15秒間リンスする。
11)中空糸膜内側を無菌水で流量6L/minの速度で6秒間リンスする。
12)中空糸膜外側を3.25重量%に希釈した薬液700mlでリンスする。
13)中空糸膜内側を3.25重量%に希釈した薬液700mlでリンスする。
【0037】
洗浄後のクリンプ指数の保持率が70%以上であれば、洗浄後の尿素クリアランスの平均を170ml/min以上を一応保つことができる。図11に本願実施例と比較例のデータを用いて洗浄後のクリンプ指数の保持率と尿素クリアランスの平均との関係を示す。図11より、洗浄後のクリンプ指数の保持率が高くなれば、尿素クリアランスの平均を高く保つことができることがみてとれる。これは洗浄後の偏流値の平均を低く抑えているために、中空糸膜モジュール間での性能のばらつきを小さくすることができることにつながり、そして洗浄によっても異なる中空糸膜モジュール間で一様の性能を発現できることにつながる。
【0038】
本願発明において、中空糸膜の真円度は0.75以上が好ましい。中空糸膜の真円度が低くなると、中空部への被処理液流入時に無駄な圧力損失が生じることになり、中空糸膜モジュールとしての性能が低下してしまうことがある。よって、真円度は高いほど好ましく、0.80以上がより好ましい。
【0039】
本願発明の中空糸膜モジュール端面で観察される中空糸膜の潰れの数は、全数の1.0%以下であることが好ましい。中空糸膜に潰れがあると、前述したような無駄な圧力損失が生じるだけでなく、ひどい場合には中空部を被処理液がほとんど通過できなくなり、著しい膜性能低下や残血を引き起こす可能性がある。よって、中空糸膜の潰れは少ないほど好ましい。
【0040】
本願発明における中空糸膜の径および膜厚は、モジュール設計や膜素材などによって適当に選択されるが、径が大きすぎるとクリンプ付与装置のロッド間の隙間の確保が難しく、また径が小さすぎると膜面積を確保するためにコストが上がってしまうなどの問題があるため、好ましい外径は0.1mm以上0.5mm以下であり、より好ましくは0.15mm以上0.3mm以下、さらに好ましくは0.2mm以上0.3mm以下である。
【0041】
また、膜厚を薄くしすぎると本願発明を適用しても有効なクリンプ付与と中空糸膜の品質維持が困難となり、逆に厚くしすぎると原料コストがかかることや膜モジュールとしての性能の低下の懸念があるため、好ましい膜厚は10μm以上150μm未満であり、より好ましくは15μm以上100μm未満、さらに好ましくは15μm以上70μm未満、さらにより好ましくは20μm以上40μm未満である。
【0042】
本発明における中空糸膜の構造については、(外側細孔径)/(内側細孔径)で表される中空糸膜の内側と外側の細孔径の比が、2以上であることが好ましい。すなわち、外側と内側の細孔径が異なる非対称膜は、芯液として一般に水溶液を用いられるためチーズ形態での生産が難しく、従来技術では有効なクリンプを付与することが困難であったことから、本発明の効果がより高く得られるため好ましい。
【0043】
本発明において、(真の長さ)/(見た目の長さ)で表される中空糸膜の真の長さと見た目の長さの比は、1.0以上かつ1.2以下である。クリンプが付与されることによって中空糸膜は小刻みに蛇行するため、真の長さは見た目の長さよりも実質的に若干長くなる。しかしながら、長さの比が1.2を超えるほど蛇行の大きなクリンプを付与すると、嵩高くなりすぎてモジュール組み立て時のリーク発生の要因となることや、原料コストがかさむなどの問題が発生する。
【0044】
本発明において、内径基準の膜面積1.5m2の中空糸膜モジュール5本を用いて、透析液流量500ml/minで測定した際の尿素クリアランスをCL500とし、透析流量2000ml/minで測定した際の尿素クリアランスから総括物質移動係数を介して透析液流量500ml/min時の値に換算した尿素クリアランスをCL2000としたとき、CL2000−CL500で表される偏流値の平均が7ml/min未満であることが好ましい。偏流値は、透析液の流れの偏り(淀み)をみるための指標であり、透析液流量を高めると中空糸膜間を流れる透析液の線速が高まるため流れの淀みが生じにくくなる。このようなことから、通常の透析液流量(500ml/min)のときのクリアランスと透析液流量を高めたときのクリアランスの換算値とを比較することにより、おおよその偏流状態を知ることができる。透析液が偏流を起こすと、中空糸膜自体の性能は高くても、その性能を十分に発現することができず、特に低分子量の除去対象物質の透過性に顕著に影響を与える。
偏流値と中空糸膜モジュール間の尿素クリアランスのばらつきとの関係について、本願実施例と比較例のデータを用いて示したのが図12である。偏流値が小さくなるに従い、中空糸膜モジュール間での性能のばらつきが小さくなる傾向にあることが読み取れる。そして、偏流値がおよそ7ml/min未満であれば、中空糸膜モジュール間での性能のばらつきが非常に小さい集合に集束しており、このような偏流値に臨界的意義があることが容易に理解できる。
【0045】
本発明において、クリンプ付与装置が中空糸膜を挟み込む噛み合わせ部の深さは、ロッドまたは突起部の径、またはそれらのピッチ、さらには中空糸膜の強度や伸度、外径、所望するクリンプの振幅などにより適宜設定すればよい。噛み合わせ部の深さが浅すぎる場合には、有効なクリンプを付与できず、逆に深すぎる場合には中空糸膜の偏平や走行中の弛み、糸切れなどの問題を引き起こすため、好ましい噛み合わせ部の深さは0.5mm以上5.0mm以下である。
【0046】
また、中空糸膜が完全に弛緩した状態では有効なクリンプを付与することができないため、クリンプ付与部分には適度な張力を与える必要があるが、これについても、その強さはクリンプ付与装置のロッドまたは突起部の径、またはそれらのピッチ、中空糸膜の強度や伸度、外径などにより適宜適当な強さが選択される。クリンプ付与装置の回転速度および噛み込み深さによって調整可能であり、効果的にクリンプを付与するために、最も変形を受ける部位が膜の降伏強度以上、破断強度未満となるよう設定することが好ましい。具体的には、中空糸膜1本当り0.5〜50gfの張力を与えるのが好ましい。
【0047】
本発明において、クリンプ付与装置を走行する中空糸膜の速度は、中空糸膜の巻き取りに問題のない速度であれば特に規定されないが、血液浄化用の中空糸膜の場合、中空糸膜性能への影響なども考慮し5〜200m/minが適当である。
【0048】
また、本発明において、クリンプ付与装置を通過させる中空糸膜は、複数本まとめた状態で走行させてもよいが、まとめる本数が多すぎると、見かけ上の径が太くなるため、クリンプ付与装置のロッド間の隙間が十分に確保されず、偏平や閉塞が発生しやすくなる。また、まとめた状態でクリンプを付与しても、クリンプの位相が同調しているためバラケにくく、本発明の効果が得られないことがある。したがって、クリンプ付与装置を走行させる際の中空糸膜をまとめる際は、10本以下が好ましく、より好ましくは4本以下である。まとめずに単糸で走行させることがさらに好ましい。
【0049】
本発明における中空糸膜の素材は特に限定されず、セルロース誘導体またはポリスルホン系もしくはポリアクリロニトリル系高分子、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート、エチレンビニルアルコール共重合体などが挙げられるが、市場における普及率や高い透過性能が発現できる点などからセルロース誘導体またはポリスルホン系もしくはポリアクリロニトリル系高分子が本発明の効果が高く、好適に使用できる。
【0050】
また、本発明によって得られた中空糸膜は、1000本〜20000本を束ねた状態で中空糸膜モジュールとして組み立てられるが、モジュールのハウジング径と中空糸膜の外径により適当な本数が選定される。充填率を(中空糸膜外形)×(中空糸膜本数)/(モジュールハウジング端部内径)×100(%)と定義したとき、好ましい充填率は30%〜75%である。充填率が30%を下回るほど小さくなると、モジュールサイズに対して有効な膜面積が稼げないため非効率的であり、本発明の効果も小さい。また逆に、充填率が75%を超えるほど大きくなると、モジュールハウジング内における中空糸膜同士が密着し、物理的に中空糸膜間の間隙を得ることが困難となるだけでなく、ケースに挿入する際の接触により膜を傷つけてしまうなど、他の問題の要因ともなる。充填率は40〜70%がより好ましく、45〜70%がさらに好ましく、52〜65%がさらにより好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例にて本発明の好ましい実施態様を説明する。ただし、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0052】
(中空糸膜の内径、膜厚の測定方法)
中空糸膜断面のサンプルは以下のようにして得ることができる。測定には芯液を洗浄、除去した後、中空糸膜を乾燥させた形態で観察することが好ましい。乾燥方法は問わないが、乾燥により著しく形態が変化する場合には中空形成材を洗浄、除去したのち、純水で完全に置換した後、湿潤状態で形態を観察することが好ましい。中空糸膜の内径、外径および膜厚は、中空糸膜をスライドグラスの中央に開けられた3mmφの孔に中空糸膜が抜け落ちない程度に適当本数通し、スライドグラスの上下面でカミソリによりカットし、中空糸膜断面サンプルを得た後、投影機Nikon-12Aを用いて中空糸膜断面の短径、長径を測定することにより得られる。中空糸膜断面1個につき2方向の短径、長径を測定し、それぞれの算術平均値を中空糸膜断面1個の内径および外径とし、膜厚は(外径−内径)/2で算出した。5断面について同様に測定を行い、平均値を内径、膜厚とした。
【0053】
(クリンプ数の測定方法)
中空糸膜に付与したクリンプ数は、クリンプの波長(クリンプの山から山までの長さ)の逆数であり、次のようにして測定した。中空糸膜を20cm程度切り取り、中空糸膜の長さ方向が向かって垂直となるように置いたとき、波状となっている部分の山の頂上の個数をカウントし(谷の個数はカウントしない)、切り取った中空糸膜の長さから単位長さあたりの個数を算出した。中空糸膜5本について同様に測定し、平均値とした。この際、中空糸膜の長さは、自然な状態で鉛直下方に垂らしたときの見かけの長さを用いる。
【0054】
(クリンプの振幅の測定方法)
中空糸膜に付与したクリンプの振幅は次のようにして測定した。中空糸膜を10〜30cm切り取り、波状となっている部分の、1つの山とその次の谷の長さ方向に対する振れ幅を測定し、その1/2の値を算出した。中空糸膜5本について同様に測定し、平均値とした。
【0055】
(中空糸膜の真円度の測定方法)
中空糸膜の偏平度合いを評価するために、中空糸膜の真円度を測定した。真円度とは中空糸膜断面における中空糸膜内径の短径/長径比のことであり、例えば真円であれば真円度は1である。画像解析ソフト「Image-Pro Plus」(Media Cybernetics社)によって、モジュール端面中任意の100個の中空糸膜断面に関して画像解析による測定を実施し、その平均値を求めた。
【0056】
(中空糸膜の潰れの測定方法)
中空糸膜の閉塞を評価するために、中空糸膜の潰れを測定した。中空糸膜の潰れとは、中空糸膜断面における中空糸内径の短軸/長軸比が1/3未満の偏平の極端なものや実質的に中空部が潰れているものと定義し、モジュール端面中に存在する個数をカウントし、端面に含まれる中空糸膜の総本数からその存在割合を求めた。
【0057】
(中空糸膜の真の長さと見た目の長さの比の測定方法)
中空糸膜の真の長さと見た目の長さの比は次のようにして測定した。中空糸膜を10〜30cm切り取り、張力をかけずに一直線となるように静置し、10〜100倍の倍率で拡大してA4用紙に印刷した。次に、A4用紙上に印刷された中空糸膜に沿わせて糸を当てていき、その糸の長さと測定した部分の直線長さから、中空糸膜の真の長さと見た目の長さの比とした。中空糸膜に糸を沿わせて当てるときは、中空糸膜の径方向の中心に糸を当てていくように測定した。
(真の長さ)/(見た目の長さ)=(中空糸膜に沿わせた糸の長さ)/(直線長さ)
なお、倍率は中空糸膜の径により適宜設定し、用紙の中にクリンプの山が5個以上存在するようにすることが望ましい。
【0058】
(中空糸膜モジュールの尿素クリアランスの測定方法)
中空糸膜モジュールの尿素クリアランスは、日本透析医学会発行のダイアライザー性能評価基準に従って測定し、膜面積1.0m2あたりの値に換算した。
透析液(キンダリー希釈液)に尿素1.0g/Lの濃度で溶解させ測定液とした。モジュールの血液側入口より200ml/minの速度で37℃の測定液(以下B液とする)を導入し、透析液側入口より37℃に保った透析液(以下D液とする)を500ml/minにてB液に対し向流で導入した。B液入口、出口圧(それぞれPBi、PBoとする)およびD液入口、出口圧(それぞれPDi、PDoとする)を計測し、式1で示される膜間圧力差(TMP)100mmHgにて測定を行った。
TMP=(PBi+PBo)/2−(PDi+PDo)/2 (式1)
測定中に流量変化がないことを確認しながら、B液の入口と出口の液とD液の出口の液をサンプリングした。和光純薬製尿素窒素テストワコーBを用いてサンプリング液の濃度を求め、これらの値から式2にてクリアランス(CL)を算出した。
CL=(CBi×QBi−CBo×QBo)/CBi (式2)
ここで、CBiはB液入口溶質濃度(g/ml)、QBiはB液入口流量(ml/min)、CBoはB液出口溶質濃度(g/ml)、QBoはB液出口流量(ml/min)である。なお、これらの値にはマスバランスエラー(MBE)が5%以下であるものを採用した。MBEは以下の式3から算出した。
MBE=(QBi×CBi−QBo×CBo−QDo×CDo)/(QBi×CBi−QBo×CBo) (式3)
ここで、QDoはD液出口流量、CDoはD液出口濃度である。
【0059】
(モジュールの偏流値の測定方法)
中空糸膜モジュールの偏流値は以下の方法で測定した。偏流値は、透析液流量の高い条件(2000ml/min)で尿素(分子量60)のクリアランスC2を測定し、式4で総括物質移動係数KOを計算する。総括物質移動係数KOから式5で500ml/minでの尿素のクリアランスC3を計算する。そして、実際に500ml/minの尿素のクリアランスC1を測定し、計算値との差を比較する。偏流がある場合、透析液流量の高い条件の総括物質移動係数KOから計算された尿素のクリアランスが透析流量の低い条件での実測値より高くなる。すなわち、偏流値=C3−C1と定義する。偏流値が小さいほど、透析液のよどみが少なく、透析効率の高い透析用モジュールである。
【数1】

【数2】

【数3】

QB、QD : 血液流量、透析液流量(ml/min)
KO : 総括物質移動係数(cm/min)
S : 膜面積(内径基準)
【0060】
なお、クリアランス測定はダイアライザー性能評価基準(昭和57年、日本人工臓器学会)に準じ、血液側は尿素100mg/dl生理食塩水溶液、透析液は生理食塩水を用い、温度37℃±1℃で、濾過を生じない条件で測定した。血液流量200ml/minで透析液流量500ml/min、2000ml/minの時の各々のクリアランスC1、C2を実測した。C2の値を用いて式4より総括物質移動係数KOを求めた。血液と透析液とを交流に流す場合の血液中の溶質クリアランスCは式5で表される。式5にC2の値を用いて式4より求めた総括物質移動係数KOを代入して透析流量500ml/minの時のクリアランスC3を計算した。
【0061】
(実施例1)
ポリエーテルスルホン(住友ケムテック社製スミカエクセル(登録商標)4800P)18.0質量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製コリドン(登録商標)K-90)3.0質量%、非溶媒として水5.5質量%、溶媒にジメチルアセトアミド73.5質量%を均一に溶解したものを紡糸原液とし、44.0質量%ジメチルアセトアミド水溶液を芯液とした。2重管構造の紡糸用口金を用い、外側から紡糸原液を、内側から芯液を、垂直下方に向け吐出し、中空糸膜を形成した。長さ600mmの蒸気雰囲気中を通過させた後、凝固浴に浸漬させ、水洗浴、熱水浴を経た後、クリンプ付与装置を単糸で通過させ、カセによって巻取り速度40m/minで巻き取った。その際、クリンプ付与装置を通過する糸道は図4に示すようにS字状(中空糸膜がクリンプ付与装置のロール噛み込み部の前後でロールに沿って走行する角度:噛み込み前約180°、噛み込み後約180°)とし、その中間部分でクリンプ付与装置にそれぞれピッチ7.9mmで配されたφ2.0mmのロッド間に噛み込み深さ2.5mmで挟み込ませた。なお、クリンプ付与装置における張力は、中空糸膜1本あたり1.0gfであった。
巻き取られた中空糸膜10000本の束をポリエチレン製パイプに挿入し、所定の長さに切断してバンドルとし、乾燥処理した。乾燥後のバンドルから中空糸膜を取り出し、クリンプの測定を行った。また、乾燥後のバンドルをモジュールに組立て、潰れ評価と尿素クリアランス測定を行った。
結果を表1、2に示す。
【0062】
(実施例2)
実施例1と同様に中空糸膜を形成し、カセによって巻取り速度75m/minで巻き取った。クリンプ付与装置を通過する糸道は図5に示すように鉤型状(中空糸膜がクリンプ付与装置のロール噛み込み部の前後でロールに沿って走行する角度:噛み込み前約90°、噛み込み後約90°)とし、その中間部分でクリンプ付与装置にそれぞれピッチ4.8mmで配されたφ2.0mmのロッド間に噛み込み深さ1.0mmで挟み込ませた。なお、クリンプ付与装置における張力は、中空糸膜1本あたり1.6gfであった。
巻き取られた中空糸膜10100本の束をポリエチレン製パイプに挿入し、所定の長さに切断してバンドルとし、乾燥処理した。乾燥後のバンドルから中空糸膜を取り出し、クリンプの測定を行った。また、乾燥後のバンドルをモジュールに組立て、潰れ評価と尿素クリアランス測定を行った。
結果を表1、2に示す。
【0063】
(実施例3)
紡糸原液として、ダイセル化学工業製セルローストリアセテート19.2質量%、Nメチル2ピロリドン68.7質量%、トリエチレングリコール12.1質量%を180℃にて混合溶解したものを用いた。これを2重管構造の紡糸用口金の外側環状部から垂直下方に向け吐出した。同時に内側の管には芯液として水を供給し、中空糸膜を形成した。この中空糸膜は、35mmの蒸気雰囲気中を通過後、凝固浴、水洗浴を経た後、クリンプ付与装置を単糸で通過させ、カセにて巻取り速度60m/minで巻き取った。その際、クリンプ付与装置を通過する糸道は図6のようにS字状(中空糸膜がクリンプ付与装置のロール噛み込み部の前後でロールに沿って走行する角度:噛み込み前約210°、噛み込み後約210°)とし、その中間部分でクリンプ付与装置にそれぞれピッチ7.9mmで配されたφ2.0mmのロッド間に噛み込み深さ3.5mmで挟み込ませた。なお、クリンプ付与装置における張力は、中空糸膜1本あたり1.3gfであった。
巻き取られた中空糸膜10800本の束をポリエチレン製パイプに挿入し、所定の長さに切断してバンドルとし、乾燥処理した。乾燥後のバンドルから中空糸膜を取り出し、クリンプの測定を行った。また、乾燥後のバンドルをモジュールに組立て、潰れ評価と尿素クリアランス測定を行った。
結果を表1、2に示す。
【0064】
(実施例4)
実施例1と同様に中空糸膜を形成し、カセによって巻取り速度45m/minで巻き取った。クリンプ付与装置を通過する糸道は図4に示すようにS字状とし、中空糸膜をφ3.5mmのロッド間に噛み込み深さ3.0mmで挟み込ませた。該ロッド間のピッチは7.9mmであった。なお、クリンプ付与装置における張力は、中空糸膜1本あたり0.9gfであった。
巻き取られた中空糸膜10100本の束をポリエチレン製パイプに挿入し、所定の長さに切断してバンドルとし、乾燥処理した。乾燥後のバンドルから中空糸膜を取り出し、クリンプの測定を行った。また、乾燥後のバンドルをモジュールに組立て、潰れ評価と尿素クリアランス測定を行った。
結果を表1、2に示す。
【0065】
(実施例5)
ポリエーテルスルホン(住友ケムテック社製スミカエクセル(登録商標)4800P)16.5質量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製コリドン(登録商標)K-90)3.0質量%、非溶媒として水6.0質量%、溶媒にジメチルアセトアミド74.5質量%を均一に溶解したものを紡糸原液とし、43.0質量%ジメチルアセトアミド水溶液を芯液とした。2重管構造の紡糸用口金を用い、外側から紡糸原液を、内側から芯液を、垂直下方に向け吐出し、中空糸膜を形成した。長さ500mmの蒸気雰囲気中を通過させた後、凝固浴に浸漬させ、水洗浴、熱水浴を経た後、クリンプ付与装置を単糸で通過させ、カセによって巻取り速度40m/minで巻き取った。その際、クリンプ付与装置を通過する糸道は図4に示すようにS字状(中空糸膜がクリンプ付与装置のロール噛み込み部の前後でロールに沿って走行する角度:噛み込み前約180°、噛み込み後約180°)とし、その中間部分でクリンプ付与装置にそれぞれピッチ4.8mmで配されたφ2.0mmのロッド間に噛み込み深さ1.0mmで挟み込ませた。なお、クリンプ付与装置における張力は、中空糸膜1本あたり1.0gfであった。
巻き取られた中空糸膜10100本の束をポリエチレン製パイプに挿入し、所定の長さに切断してバンドルとし、乾燥処理した。乾燥後のバンドルから中空糸膜を取り出し、クリンプの測定を行った。また、乾燥後のバンドルをモジュールに組立て、潰れ評価と尿素クリアランス測定を行った。
結果を表1、2に示す。
【0066】
(実施例6)
実施例3と同様に中空糸膜を形成し、かせによって巻取り速度60m/minで巻き取った。その際、クリンプ付与装置を通過する糸道は図4に示すようにS字状(中空糸膜がクリンプ付与装置のロール噛み込み部の前後でロールに沿って走行する角度:噛み込み前約180°、噛み込み後約180°)とし、その中間部分でクリンプ付与装置にそれぞれピッチ4.8mmで配されたφ2.0mmのロッド間に噛み込み深さ1.0mmで挟み込ませた。なお、クリンプ付与装置における張力は、中空糸膜1本あたり1.3gfであった。
巻き取られた中空糸膜9600本の束をポリエチレン製パイプに挿入し、所定の長さに切断してバンドルとし、乾燥処理した。乾燥後のバンドルから中空糸膜を取り出し、クリンプの測定を行った。また、乾燥後のバンドルをモジュールに組立て、潰れ評価と尿素クリアランス測定を行った。
結果を表1、2に示す。
【0067】
(比較例1)
実施例1と同様に中空糸膜を形成し、カセによって巻取り速度40m/minで巻き取った。クリンプ付与装置として、図7に示すような、上下に多数のロッドを備えたベルト状の設備を用い、中空糸膜をφ4.5mmのロッド間に噛み込み深さ4.5mmで挟み込ませた。該ロッド間のピッチは20.0mmであった。なお、クリンプ付与装置における張力は、中空糸膜1本あたり2.6gfであった。
巻き取られた中空糸膜10100本の束をポリエチレン製パイプに挿入し、所定の長さに切断してバンドルとし、乾燥処理した。乾燥後のバンドルから中空糸膜を取り出し、クリンプの測定を行った。また、乾燥後のバンドルをモジュールに組立て、潰れ評価と尿素クリアランス測定を行った。
結果を表1、2に示す。
【0068】
(比較例2)
実施例3と同様に中空糸膜を形成し、カセによって巻取り速度60m/minで巻き取った。クリンプ付与装置を通過する糸道は図8のようにストレートとし、クリンプ付与装置にそれぞれピッチ7.9mmで配されたφ2.0mmのロッド間に噛み込み深さ4.0mmで挟み込ませた。なお、クリンプ付与装置における張力は、中空糸膜1本あたり1.3gfであった。
巻き取られた中空糸膜10800本の束をポリエチレン製パイプに挿入し、所定の長さに切断してバンドルとし、乾燥処理した。乾燥後のバンドルから中空糸膜を取り出し、クリンプの測定を行った。また、乾燥後のバンドルをモジュールに組立て、潰れ評価と尿素クリアランス測定を行った。
結果を表1、2に示す。
【0069】
(比較例3)
実施例3と同様に中空糸膜を形成し、カセによって巻取り速度60m/minで巻き取った。その際、クリンプ付与装置を通過する糸道は図9に示すようにクリンプ付与部分でカーブさせ(中空糸膜がクリンプ付与装置のロール噛み込み部の前後でロールに沿って走行する角度:噛み込み前約30°、噛み込み後約30°)、その中間部分でクリンプ付与装置にそれぞれピッチ7.9mmで配されたφ2.0mmのロッド間に噛み込み深さ3.5mmで挟み込ませた。なお、クリンプ付与装置における張力は、中空糸膜1本あたり1.2gfであった。
巻き取られた中空糸膜10800本の束をポリエチレン製パイプに挿入し、所定の長さに切断してバンドルとし、乾燥処理した。乾燥後のバンドルから中空糸膜を取り出し、クリンプの測定を行った。また、乾燥後のバンドルをモジュールに組立て、潰れ評価と尿素クリアランス測定を行った。
結果を表1、2に示す。
【0070】
(比較例4)
実施例5と同様に中空糸膜を形成し、カセによって巻取り速度40m/minで巻き取った。クリンプ付与装置を通過する糸道も実施例5と同様にS字状(中空糸膜がクリンプ付与装置のロール噛み込み部の前後でロールに沿って走行する角度:噛み込み前約180°、噛み込み後約180°)とし、その中間部分でクリンプ付与装置にそれぞれピッチ4.8mmで配されたφ2.0mmのロッド間に同様に挟み込ませたが、その際の噛み込み深さを0.4mmと浅く設定した。なお、クリンプ付与装置における張力は、中空糸膜1本あたり1.0gfであった。
巻き取られた中空糸膜10800本の束をポリエチレン製パイプに挿入し、所定の長さに切断してバンドルとし、乾燥処理した。乾燥後のバンドルから中空糸膜を取り出し、クリンプの測定を行った。また、乾燥後のバンドルをモジュールに組立て、潰れ評価と尿素クリアランス測定を行った。
結果を表1、2に示す。
【0071】
(比較例5)
実施例3と同様に中空糸膜を形成し、かせによって巻取り速度60m/minで巻き取った。クリンプ付与装置として、図7に示すような、上下に多数のロッドを備えたベルト状の設備を用い、中空糸膜をφ4.5mmのロッド間に噛み込み深さ6.0mmで挟み込ませた。該ロッド間のピッチは20.0mmであった。なお、クリンプ付与装置における張力は、中空糸膜1本あたり2.3gfであった。
巻き取られた中空糸膜9600本の束をポリエチレン製パイプに挿入し、所定の長さに切断してバンドルとし、乾燥処理した。乾燥後のバンドルから中空糸膜を取り出し、クリンプの測定を行った。また、乾燥後のバンドルをモジュールに組立て、潰れ評価と尿素クリアランス測定を行った。
結果を表1、2に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
実施例1〜6、比較例1〜5により明らかなように、本発明を利用することによって、モジュール組立て時の接着不良を防止でき、また、偏平や閉塞といった中空糸膜の品質不良の抑制と安定した高い透析効率の発現を両立できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の中空糸膜の製造方法によれば、中空糸膜モジュール組立て時の接着不良の低減とモジュール使用時の偏流防止に効果的なクリンプを付与できるので、安定した高い透過性能を発現可能な中空糸膜を高歩留まりで得ることが可能となる。また、機械的にクリンプを付与する際、従来は中空糸膜の偏平や潰れ、破損のリスクが大きな問題であったが、本発明の製造方法によりこういった不良製品の発生頻度を抑制することが可能となる。さらには熱固定に必要なエネルギーも不要となるため省コスト、設備の簡略化にも有効である。従って、特に品質保持が強く求められる中空糸膜の製造方法として好適であり、産業界に大きな貢献が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明におけるクリンプの振幅と波長を示す模式図である。
【図2】本発明の中空糸膜製造工程の全体を示す1例である。
【図3】本発明のクリンプ付与装置の1例を示す拡大図である。
【図4】一対のロールの位置関係および中空糸膜の走行経路の1例を示す模式図である。
【図5】本発明の別の実施態様を示す模式図である。
【図6】本発明の別の実施態様を示す模式図である。
【図7】比較例1の実施態様を示す模式図である。
【図8】比較例2の実施態様を示す模式図である。
【図9】比較例3の実施態様を示す模式図である。
【図10】クリンプ指数に対する尿素クリアランスの平均値および標準偏差を示した図である。
【図11】本発明におけるクリンプ指数保持率と洗浄後偏流値との関係を示す模式図。
【図12】本発明における偏流値と性能標準偏差との関係を示す模式図。
【符号の説明】
【0077】
1:ロッド
2:ロッド間ピッチ
3:噛み込み深さ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリンプが付与された中空糸膜を充填した中空糸膜モジュールであって、
(a)内径基準の膜面積1.5m2の中空糸膜モジュール5本を用いて、透析液流量500ml/minで測定した際の尿素クリアランスをCL500とし、透析液流量2000ml/minで測定した際の尿素クリアランスから総括物質移動係数を介して透析液流量500ml/min時の値に換算した尿素クリアランスをCL2000としたとき、CL2000−CL500で表される偏流値の平均が7ml/min未満であり、
(b)薬液を用いた逆圧洗浄後の前記偏流値の平均が13ml/min未満である
ことを特徴とする中空糸膜モジュール。
【請求項2】
クリンプの振幅をA(mm)、クリンプ数をX(個/cm)、中空糸膜の外径をD(mm)としたときに、A×X2/Dで表されるクリンプ指数が0.30〜10であることを特徴とする請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項3】
中空糸膜のクリンプの振幅(A)が0.1〜1.0mm、中空糸膜長さ当たりのクリンプ数(X)が0.5〜2.0個/cm、外径が0.1〜0.5mmである請求項1または2に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項4】
中空糸膜の充填率が45〜75%である請求項1〜3いずれかに記載の中空糸膜モジュール。
【請求項5】
薬液を用いた逆圧洗浄前後での中空糸膜のクリンプ指数の保持率が70%以上である請求項1〜4いずれかに記載の中空糸膜モジュール。
【請求項6】
薬液が過酸化水素、過酢酸、酢酸から選ばれる1種以上を含むものである請求項1〜5いずれかに記載の中空糸膜モジュール。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−46587(P2010−46587A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−211800(P2008−211800)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】