説明

中空糸膜型医療用具

【課題】電子線滅菌処理において、絶縁破壊を効果的に防止可能な中空糸膜型医療用具を提供する。
【解決手段】筒状容器9と、この筒状容器9の長手方向に沿って装填され、両端部が筒状容器9の両端部に固定されている中空糸膜3の束と、中空糸膜3の束を筒状容器9の両端部で包埋固定しているポッティング樹脂8と、中空糸膜3の両端面に対向し、前記筒状容器9の両端部に設けられており、それぞれ流体の出入口となるノズルを具備するヘッダー2、2’と、筒状容器9の側面部に設けられており、流体の出入口となるポート6、7と、ノズル4、5から着脱可能なノズル用栓体と、ポート6、7から着脱可能なポート用栓体とを具備し、このポート用栓体は体積抵抗率が、5×1013Ω・cm以下である高分子材料からなる部分を有しており、電子線照射されている中空糸膜型医療用具を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜型医療用具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、中空糸膜技術の医学への応用が進歩しており、慢性腎不全患者の血液透析療法に用いられる人工腎臓、患者の血漿を廃棄して新鮮凍結血漿やアルブミン溶液と置換する血漿交換療法に用いられる血漿分離器、患者の血漿中の高分子量物質を除去する二重濾過血漿交換療法に用いられる血漿分画器等において、中空糸膜型医療用具が多用されている。
【0003】
中空糸膜型医療用具は、血液等、患者の体液と接触する医療用具であるため、使用の際には滅菌処理がなされている必要がある。
医療用具の滅菌方法としては、熱滅菌、化学滅菌、照射滅菌などがあるが、これらの処理方法は、医療用具の熱的、化学的性質に鑑みて選択されている。
特に、照射滅菌のうちの電子線滅菌は、医療用具が熱滅菌のように高温にさらされることも無く、化学滅菌のように薬剤が医療用具に残留することも無く、また、照射滅菌のうちのγ線滅菌のように放射性物質を大量に保管する必要も無いので、有用性の高い有望な滅菌方法であると言える(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
しかし、電子線はγ線と比較して物体への透過力が小さく、その透過距離は照射される物質の密度に依存する。
そのため、従来より医療用具としては、電子線滅菌の実用化は手術用手袋や手術着などの比較的形状が均一で、単一部材からなるものが主である。
例えば、肉厚で高密度の部分を有する中空糸膜型医療用具に電子線を照射すると、透過力が不足する部分が生じ、一製品中の各部位間の線量分布(最大線量と最小線量の比)が大きくなる。その結果、材料劣化や溶出物などの問題が顕在化することがある。
具体的には、照射基準を最大線量に合わせると、最小線量位置での滅菌が不十分になり、反対に、照射基準を最小線量部位に合わせて確実に滅菌しようとすると最大線量位置で過大照射となり、材料の劣化や着色が生じてしまう。
材料劣化が親水性高分子で起こると、中空糸膜の親水性が損なわれる結果、血液適合性の低下を招来する。
このように、被照射物によっては、電子線を均一に照射することは容易ではなく、照射ムラに基づく問題を伴っている。
【0005】
そこで、複雑な形状の物体に電子線を均一に照射する対策としては、材料化学的なアプローチと滅菌工程からのアプローチの、主として2通りの観点から検討がなされている。
材料化学的なアプローチとしては、ラジカルトラップ剤や酸化防止剤のような添加剤を樹脂材料に混錬したり、樹脂の近傍に共存させたりする技術が数多く知られており、電子線を含めた放射線照射時の劣化抑制方法として広く検討されている。
これらの材料化学的な放射線照射時の劣化抑制方法によれば、照射設備を大幅に改修する必要がなく、照射のタクトタイムを延長しなくても効率よく生産できるなどの利点がある。
しかしながら、添加剤には、安全性の面から体外循環式の血液浄化装置には採用できないものが多く、中空糸膜型医療用具に限定すると、専らγ線滅菌時の材料劣化に対する改善策として具体化されたものが殆どである(例えば、特許文献2、3参照。)。
【0006】
一方、滅菌工程からのアプローチとしては、近年は加速電圧を高くすることで医療用具などを電子線滅菌可能とする方法が注目されている。
例えば、中空糸膜型の透析装置や人工肺を電子線滅菌する際に、高い加速電圧で照射するとともに、シールド材を用いて線量分布を小さくする技術(例えば、特許文献4参照。)や、全体照射工程と部分遮蔽工程とを組み合わせた照射方法(例えば、特許文献5参照。)が開示されている。
【0007】
また、特許文献1には、中空糸膜型のモジュールに電子線照射する際に、特定の密度と厚みの積を有する場合には、3方向以上から照射する技術が開示されている。
【0008】
上述した従来の方法により、線量分布を小さくすると言う課題は克服されたが、いずれも作業性が悪く、大量生産品の滅菌方法としては採用しがたいものである。
【0009】
上記のように、従来より添加剤などの材料化学的アプローチに加え、電子線照射に特有の吸収線量の均一化という工程改善的アプローチの両面から、電子線照射による材料劣化を防止すべく検討が進められている。
しかし、材料化学の観点に立つと、材料の保護だけに着目するあまり、電子線の吸収線量分布を小さくして改善すると言う観点が抜けてしまい、反対に吸収線量の均一化という観点に立つと、被照射物を個別に照射する方法やその為の設備に着目するあまり、被照射物を効率よく処理する視点が欠けてしまっている。
【0010】
そこで、かかる問題点に対応した技術として、中空糸膜型医療用具の梱包形態に着目し、中空糸膜型医療用具を含まない特定密度の空隙層と、筒状の中空糸膜型医療用具を並列させた特定密度の体液処理器層とからなる積層構造体として、電子線透過性ケース内に収容した後、電子線照射滅菌を行うと言ったアプローチにより、中空糸膜型医療用具自体の材料を保護しつつ、吸収線量を均一化する技術が開示されている(例えば、特許文献6参照。)。
【0011】
以上のように、中空糸膜型医療用具のように形状が複雑で、大きな密度差がある被照射物へ電子線の照射を行うときの照射ムラや、材料劣化に関する問題は、梱包形態を工夫したり、加速電圧を高くしたり、多方向から照射したりすることにより対応が図られている。
【0012】
しかし、中空糸膜型医療用具に電子線照射滅菌を採用する際には、もう一つの問題を検討しておく必要がある。
中空糸膜型医療用具の構成部材の一部として、ポリオレフィン系樹脂などの絶縁性の高分子材料が使用されることは一般的である。
これらの絶縁性の高分子材料は、電子線の照射により電荷が蓄積してしまい、一定以上の電荷を蓄積すると絶縁破壊が生じることが知られている(例えば、特許文献7、8参照。)。
中空糸膜型医療用具の一部で絶縁破壊が起こると、無菌性が失われる危険があるばかりでなく、中空糸膜型医療用具の被施術者に甚大な害をもたらす可能性がある。
また、中空糸膜型医療用具の様に複雑な形状を持つ医療用具などへの電子線照射実用化の例は少なく、これまで、その様な複雑な形態を持つ被照射物に電子線を照射したときの材料、もしくは被照射物全体への電荷の蓄積と放散といった問題に関しては充分な検討がなされてきていない。
【0013】
また、上述のように中空糸膜型医療用具のように形状が複雑で、大きな密度差がある被照射物へ電子線を照射する際の照射ムラの解決手段として、従来においては、梱包形態を工夫したり、加速電圧を高くしたり、多方向から照射したりするといった方策がとられているが、これらの方策の一部は、絶縁性の構成部材を含む被照射物の一部、あるいは被照射物全体への電荷の蓄積を助長する懸念がある。
【0014】
すなわち、中空糸膜型医療用具に電子線照射滅菌を行う場合には、照射ムラに関する問題を解決するだけではなく、その一方で、電荷の蓄積に関する問題発生の有無を同時に検討しておく必要がある。
【0015】
本発明者らは、中空糸膜型医療用具の電子線照射滅菌について種々検討を行なった。
中空糸膜型医療用具を放射線滅菌する場合、部材の劣化と無菌性を鑑みて照射線量が決定されるが、一般的には、ドライタイプ、セミドライタイプで15〜20kGy程度、ウェットタイプでも25kGy程度である。
【0016】
本発明者らは、電荷の蓄積に関する問題を検討する為に、過剰となる35kGyの電子線を照射したセミドライタイプの中空糸膜型医療用具を試験作製し、よく観察したところ、滅菌後の中空糸膜型医療用具の一部に絶縁破壊が起こった痕跡を発見した。
【0017】
具体的には、ポリスルホンとポリビニルピロリドンを含む紡糸原液を用いて乾湿式紡糸法により得られた中空糸膜にグリセリン水溶液を抱液させた中空糸膜束を用い、透析器を作製し、ノズルとポート夫々には、ポリエチレン製の栓体を被着させ、ポリエチレン/ナイロン二層構造の滅菌袋で包装した上で、35kGyの電子線を照射した。
照射後、透析器に、電子線照射自体、もしくは一時的電荷の蓄積からくる副次発生的な異常がないかを検査したところ、筒状容器側面のポートに被着した栓体の天板中央部分に絶縁破壊が起こった痕跡のあるものが発見された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2000−325434号公報
【特許文献2】特許第3076080号公報
【特許文献3】特許第3432240号公報
【特許文献4】特開平8−275991号公報
【特許文献5】特開2000−334028号公報
【特許文献6】国際公開第2009/017227号
【特許文献7】特開2000−001561号公報
【特許文献8】特開2001−324656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上述したように、電子線照射滅菌においては、高圧蒸気滅菌、γ線滅菌などでは起こらなかった新たな課題として、上記絶縁破壊の問題が浮上している。
【0020】
そこで、本発明においては、上記のような従来技術の問題点に鑑み、電子線滅菌しても絶縁破壊の発生を効果的に防止できる中空糸膜型医療用具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、中空糸膜型医療用具を構成する部品、特に、栓体の少なくとも一部の体積抵抗率を特定することにより、絶縁破壊の発生を防止できることを見出し、本発明を得るに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0022】
〔1〕
筒状容器と、当該筒状容器の長手方向に沿って装填され、両端部が前記筒状容器の両端部に固定されている中空糸膜の束と、当該中空糸膜の束を、前記筒状容器の両端部で包埋固定しているポッティング樹脂と、前記中空糸膜の両端面に対向し、前記筒状容器の両端部に設けられており、それぞれ流体の出入口となるノズルを具備するヘッダーと、前記筒状容器の側面部に設けられており、流体の出入口となるポートと、前記ノズルから着脱可能なノズル用栓体と、前記ポートから着脱可能なポート用栓体と、
を、具備し、
前記ポート用栓体は、体積抵抗率が、5×1013Ω・cm以下である高分子材料からなる部分を有しており、
電子線照射されている中空糸膜型医療用具。
【0023】
〔2〕
前記ポート用栓体は、体積抵抗率が5×1013Ω・cm以下である高分子材料からなる前記〔1〕に記載の中空糸膜型医療用具。
【0024】
〔3〕
前記ノズル用栓体は、体積抵抗率が5×1013Ω・cm以下である高分子材料からなる部分を有している前記〔1〕又は〔2〕に記載の中空糸膜型医療用具。
【0025】
〔4〕
前記ノズル用栓体は、体積抵抗率が5×1013Ω・cm以下である高分子材料からなる前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一に記載の中空糸膜型医療用具。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、電子線照射滅菌処理工程における絶縁破壊の発生を効果的に防止できる、信頼性の高い中空糸膜型医療用具を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施形態の中空糸膜型医療用具の一例の概略構成図を示す。
【図2】本実施形態の中空糸膜型医療用具を構成するポートの概略構成図を示す。
【図3】(a)ポート用栓体の一例の概略断面図を示す。(b)ポート用栓体をポートに取り付けた状態の概略断面図を示す。
【図4】本実施形態の中空糸膜型医療用具を構成するノズルの概略断面図を示す。
【図5】ノズル用栓体の一例の概略断面図を示す。
【図6】(a)ポート用栓体の他の一例の概略断面図を示す。(b)他の一例のポート用栓体をポートに取り付けた状態の概略断面図を示す。
【図7】(a)〜(t)ポート用栓体の具体例の概略断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について、図を参照して説明する。
本発明は、以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
なお、図面中、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとし、さらに図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。
【0029】
〔中空糸膜型医療用具〕
本実施形態の中空糸膜型医療用具は、下記の構成を有している。
筒状容器と、当該筒状容器の長手方向に沿って装填され、両端部が前記筒状容器の両端部に固定されている中空糸膜の束とを有している。
また、前記中空糸膜の束を、前記筒状容器の両端で包埋固定しているポッティング樹脂を有している。
また、前記中空糸膜の両端面に対向し、前記筒状容器の両端部に設けられており、それぞれ流体の出入口となるノズルを具備するヘッダーと、前記筒状容器の側面部に設けられており、流体の出入口となるポートとを有している。
また、前記ノズルから着脱可能なノズル用栓体と、
前記ポートから着脱可能なポート用栓体とを具備しており、前記ポート用栓体は、体積抵抗率が、5×1013Ω・cm以下である高分子材料からなる部分を有している。
本実施形態の中空糸膜型医療用具は、電子線照射されている。
【0030】
図1に、本実施形態の中空糸膜型医療用具の一例の概略構成図を示す。
なお、図1中に示す一点鎖線の右側部分においては、中空糸膜型医療用具の概略断面図を示し、一点鎖線の左側部分においては、中空糸膜型医療用具の概略側面図を示す。
中空糸膜型医療用具1は、筒状容器9の長手方向に沿って中空糸膜の束3が装填されている。
中空糸膜の内側と外側とを隔絶するように、中空糸膜3の束の両端部が、ポッティング樹脂8により包埋され、筒状容器9の両端部に固定されている。
中空糸膜の内側が開口されたポッティング樹脂8の端面には、流体出入口となるノズル4、5をもつヘッダー2、2’が設けられている。
筒状容器9の側面には、少なくとも一つの、流体出入口となるポート6、7が設けられている。
ノズル4、5及びポート6、7には、それぞれ後述するノズル用栓体、ポート用栓体が取り付けられるようになされており、中空糸膜の内側とヘッダー内表面との間にできた第一の空間11と、中空糸膜の外側と筒状容器内表面との間にできた第二の空間12を備えている。
【0031】
本実施形態の中空糸膜型医療用具を構成する筒状容器9の側面に設けられたポート6、7の概略側面図を図2に示す。
ポート6、7は、例えば、JIS T 3250:2005(血液透析器、血液透析ろ(濾)過器、血液ろ(濾)過器及び血液濃縮器)の4.4.4(血液透析器及び血液透析ろ(濾)過器の透析液側接続部分)に記載の構造を有している。
ポート6、7は、図2中の破線で示すように、内部に筒状容器9内と連通する中空部を有し管状となっており、それぞれ、後述するポート用栓体の着脱により、開閉可能となっている。
図3(a)に、ポート6、7から着脱可能で、これにより開閉可能とするポート用栓体20の概略断面図を示し、図3(b)に、ポート用栓体20をポートに取り付けた状態の概略断面図を示す。
ポート用栓体20は、例えば、図3(a)に示すように、ポート6、7の外側面に合致する円筒状の突起部、ポート6、7の中空部に合致する円筒状の突起部を具備するものであってもよい。
ポート用栓体20は、ポート6、7に取り付けたとき、図3(b)に示すように、ポート6、7の略根元まで覆うようになされる。
この状態で、後述するように滅菌されることにより、中空糸膜型医療用具を使用する直前まで、第二の空間12およびポート6、7の外側面の滅菌状態を保持することができる。
【0032】
図4に、ヘッダー2、2’のノズル4、5の概略断面図を示す。
ノズル4、5は、例えば、JIS T 3250:2005(血液透析器、血液透析ろ(濾)過器、血液ろ(濾)過器及び血液濃縮器)の4.4.3(血液透析器、血液透析ろ(濾)過器及び血液ろ(濾)過器の血液側接続部分)に記載の構造を有している。
ノズル4、5に、図5に示すノズル用栓体30を取り付けて滅菌することにより、第一の空間11の滅菌状態を保持することができる。
【0033】
本実施形態の中空糸膜型医療用具を構成する中空糸膜は、形状、寸法、分画特性に関し、特に限定されるものではなく、使用目的に照らして適切に選択することができる。
中空糸膜の材質としては、セルロース系高分子、ポリスルホン系高分子、ポリアクリロニトリル系高分子、ポリメチルメタクリレート系高分子、エチレンビニルアルコール共重合体を含むポリビニル系高分子、ポリアミド系高分子、ポリエステル系高分子、ポリオレフィン系高分子などが挙げられる。
中でも、ポリスルホン系高分子は、芳香族化合物であることから放射線耐性に特に優れており、また、熱や化学的処理にも非常に強く、安全性にも優れている。
従って、様々な製膜条件を採択できるとともに電子線滅菌が可能となり、中空糸膜型医療用具に用いる中空糸膜の材質として特に好ましいが、特にこれらに限定するものではない。
【0034】
中空糸膜は、従来公知の技術により製造できる。
また、中空糸膜の基材に疎水性高分子を使用する場合は、膜に親水性を付与する為に親水性高分子をブレンドして製膜することが一般的である。
親水性高分子としては、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられる。
特に、ポリビニルピロリドンが親水化の効果や安全性の面より好ましいが、特にこれらに限定するものではない。
先ず、基材用の高分子材料と親水性高分子とを、共通溶媒に溶解し、紡糸原液を調製する。
このような共通溶媒としては、親水性高分子がPVPの場合、例えば、ジメチルアセトアミド(以下、DMACと称する。)、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、スルホラン、ジオキサン等の溶媒、あるいは上記溶媒を2種類以上混合した溶媒等が挙げられる。目的とする中空糸膜の孔径制御のため、紡糸原液には水などの添加物を加えてもよい。
中空糸膜の製膜に際しては、チューブインオリフィス型の紡糸口金を用い、紡糸口金のオリフィスから紡糸原液を、チューブから該紡糸原液を凝固させる為の中空内液と同時に空中に吐出させる。
中空内液としては、水、又は水を主体とした凝固液が使用でき、目的とする中空糸膜の透過性能に応じてその組成等を決定すればよい。一般的には、紡糸原液に使用した溶剤と水との混合溶液が好適に使用される。例えば、0〜65質量%のDMAC水溶液などが用いられる。
紡糸口金から中空内液とともに吐出された紡糸原液は、空走部を走行させ、紡糸口金下部に設置した水を主体とする凝固浴中へ導入、浸漬して凝固を完了させ、洗浄工程等を経て、湿潤状態の中空糸膜巻き取り機で巻き取り、中空糸膜の束を得、その後乾燥処理を行う。あるいは、上記洗浄工程を経た後、乾燥機内にて乾燥を行い、中空糸膜の束を得てもよい。
【0035】
本実施形態の中空糸膜型医療用具において、上記中空糸膜の束は、筒状容器9の長手方向に沿って装填され、両端部が筒状容器9の両端部に固定されている。
例えば、中空糸膜3の束を、流体の出入口を持つ筒状容器9へ挿入し、中空糸膜3の束の両端部に、ポッティング樹脂を注入して、筒状容器9の長手方向中心を軸として遠心回転させることにより、中空糸膜3の束両端部にポッティング層を形成して両端をシールすることにより、固定できる。
なお、上記中空糸膜3の束を固定した後、余分なポッティング樹脂を切断除去して、中空糸膜の端面を開口させ、流体の出入口を持つヘッダー2、2’を取り付けることにより、中空糸膜の束が筒状容器9に充填され、中空糸膜の内側とヘッダー内表面との間にできた第一の空間11と、中空糸外側と筒状容器9の内表面との間にできた第二の空間12を備える中空糸膜型医療用具が製造できる。
【0036】
中空糸膜の束の両端部をシールするポッティング樹脂の材質としては、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂などが挙げられるが、特にこれらに限定するものではない。
【0037】
筒状容器9とヘッダー2、2’の材質としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ナイロン6樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、スチレン・ブタジエン共重合体樹脂などが挙げられる。
特に、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、スチレン・ブタジエン共重合体樹脂は、樹脂コストが安価であり、医療用部材の分野での汎用性が高く、高い安全性が確認されているので好ましく、スチレン・ブタジエン共重合体樹脂が特に好ましいが、特にこれらに限定するものではない。
【0038】
また、一般的に中空糸膜型医療用具は、中空糸膜の中空内部や容器との隙間が水性媒体で満たされたウェットタイプと、水性媒体で満たされていない非ウェットタイプとに大別され、後者は、さらに膜の含水率が数パーセント程度に低いドライタイプと、膜が水分や保湿剤などによって適度に湿潤化されているセミドライタイプ(ハーフウェットタイプと称されることもある。)に区分されることがあるが、本実施形態の中空糸膜型医療用具は、目的に応じていずれのタイプの中空糸膜型医療用具とすることもできる。
【0039】
本実施形態の中空糸膜型医療用具がウェットタイプである場合、水性媒体としては、純水や溶媒に、抗酸化剤や緩衝液を混合させたものが一般的に使用できる。
抗酸化剤としては、ピロ亜硫酸ナトリウム、アセトンソジウムバイサルファイト、ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート、ソジウムハイドロサルファイト、1−アスコルビン酸などが挙げられ、緩衝液としては、リン酸緩衝液、トリスヒドロキシメチルアミノメタン緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液およびホウ酸緩衝液などが挙げられるが、特にこれらに限定するものではない。
また、溶媒としては、メタノール、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、イソプロパノールなどが挙げられるが、特にこれらに限定するものではない。
本実施形態の中空糸膜型医療用具がセミドライタイプである場合、保湿剤としては、親水性高分子の劣化保護機能を有しつつ適度な粘性を帯びて膜表面に保持されやすく、疎水性高分子や親水性高分子とは強固な化学結合を形成せず、しかも生理的水溶液により洗浄されやすいという要件を同時に満たすものが好ましく使用できる。
例えば、グリセリン、マンニトール、グリコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラエチレングリコール)、ポリグリコール類(例えば、ポリエチレングリコール)などの多価アルコール類などが挙げられる。
特に、血液浄化用中空糸膜の孔径保持剤や表面改質剤として実績がある点で、グリセリンまたはポリエチレングリコールの水溶液がより好ましく、グリセリン水溶液が特に好ましいが、特にこれらに限定するものではない。
【0040】
栓体の形状としては、例えばポート6、7に取り付けるポート用栓体を具体例として説明すると、図3(a)に示すように、ポート6、7全体を包み込む形状の包み栓と、図6(a)、(b)の栓体200に示すように、ポート6、7の内部空間(第二の空間12)の内壁面に、ポート用栓体200の一部を接面させることで密閉性を得る形状の押し込み栓とがある。
図3(a)のように、ポート6、7全体を包み込む形状の包み栓の方が、滅菌状態を保持する機能としては優れているが、本実施形態の中空糸膜型医療用具のポート6、7と、ヘッダー2、2’のノズル4、5に取り付ける各栓体は、いずれのタイプであってもよく、また、これら以外のタイプの栓体も用いることができる。
【0041】
栓体20、30、200の材質は、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、シリコン樹脂などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
特に、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂は、適度な硬さに基づく密着性や施栓性があって、包み栓型や押し込み栓型の栓体として既に汎用されており好ましい。
【0042】
(滅菌処理)
本実施形態の中空糸膜型医療用具は、電子線の照射によって滅菌されているものとする。照射線量は5〜60kGy(キログレイ)が好ましく、15〜50kGyがより好ましく、15〜45kGyがさらに好ましい。
【0043】
本実施形態の中空糸膜型医療用具は、筒状容器9の側面のポート6、7と、ヘッダー2、2’のノズル4、5には、それぞれ、ポート用栓体20、ノズル用栓体30が取り付けられてから滅菌処理がなされることを特徴とする。
また、電子線照射による滅菌処理は、滅菌袋に包装されている状態で行うことが好ましい。
滅菌袋に包装されていない状態や、栓体を取り付けないで滅菌袋に包装した状態で、滅菌処理を行うこともできるが、中空糸膜型医療用具を使用直前まで滅菌状態で保持する観点、あるいは医療現場ですぐに使用できるように、栓体を取り付けた状態で、滅菌袋に包装された状態で、滅菌処理を行うことが好ましい。
【0044】
本実施形態の中空糸膜型医療用具を電子線照射により滅菌処理する際に包装用に用いる滅菌袋の材質としては、例えば、ポリ塩化ビニリデン製フィルム、ポリビニルアルコール製フィルム、二軸延伸ポリビニルアルコール製フィルム、ポリ塩化ビニリデンコート二軸延伸ポリアルコール製フィルム、ポリエステル/アルミニウム/ポリエチレンのラミネートシート、アルミ箔、ポリエチレン/ナイロン二層構造フィルムなどが挙げられる。
特に、ポリエチレン/ナイロン二層構造フィルムをラミネート加工によりシールする方法が製袋性やコストの観点から好ましいが、特にこれらに限定するものではない。
【0045】
(栓体の体積抵抗率)
本実施形態の中空糸膜型医療用具においては、ポート6、7に取り付けられているポート用栓体20、200が、少なくともその一部に、体積抵抗率が5×1013Ω・cm以下である高分子材料からなる部分を有している。
また、本実施形態の中空糸膜型医療用具は、上記ポート用栓体に加え、ヘッダー2、2’のノズル4、5に取り付けるノズル用栓体30も、少なくともその一部に、体積抵抗率が5×1013Ω・cm以下である高分子材料からなる部分を有していることが好ましい。
上述した樹脂を単体、あるいは組み合わせることにより、体積抵抗率が5×1013Ω・cm以下となる高分子材料を得ることができれば、栓体の材料として使用することができるが、帯電防止剤や導電性の高分子材料を組み合わせることにより、より簡便に本発明の目的に合った栓体の材料を得ることができる。
【0046】
栓体を構成する体積抵抗率が5×1013Ω・cm以下である高分子材料からなる部分について、図7(a)〜図7(t)を示して説明する。
栓体の少なくともその一部に、体積抵抗率が5×1013Ω・cm以下である高分子材料からなる部分を有するとは、栓体を構成する部品の全部、あるいは一部が、体積抵抗率5×1013Ω・cm以下である高分子材料により形成されていることを言う。
図7(a)〜(t)中の、符号21及び符号210の部分は、体積抵抗率が5×1013Ω・cm以下である高分子材料よりなる部分を示し、符号22及び符号220の部分は体積抵抗率が5×1013Ω・cmより大きい高分子材料よりなる部分を示す。
いずれも、1つの部品のみであっても、複数の部品から構成されていてもよい。
【0047】
本実施形態の中空糸膜型医療用具においては、電子線照射により本体内に溜まった電荷が、本体外に放散されることにより、中空糸膜型医療用具の絶縁破壊が効果的に防止される。
そのため、栓体を構成する部分のうち、体積抵抗率が5×1013Ω・cm以下である高分子材料により形成された部分は、中空糸膜型医療用具を構成する第二の空間12に接するように設けられており、かつ、その部分が途切れることなく中空糸膜型医療用具の本体外の空間にも接していることが望ましい。
これにより、中空糸膜型医療用具の本体内に溜まった電荷が、体積抵抗率が5×1013Ω・cm以下である高分子材料により形成された部分のみを通過して、中空糸膜型医療用具の本体外の空間に放散することができる。
しかし、体積抵抗率が5×1013Ω・cm以下である高分子材料により形成された部分が、中空糸膜型医療用具の第二の空間12と本体外の空間の片方、あるいは両方に接していなくても、栓体の一部にその部分を設けることにより、中空糸膜型医療用具の本体内に溜まった電荷が本体外に十分に放散されやすくなり、中空糸膜型医療用具の絶縁破壊の効果的な防止に寄与する。
【0048】
本実施形態の中空糸膜型医療用具を構成する、前記栓体以外の構成部材についても、上述した材料を単体で、もしくは適宜組み合わせて形成することにより、体積抵抗率を5×1013Ω・cm以下にしてもよい。
この場合、必要に応じて市販されている帯電防止剤や導電性の高分子材料を組み合わせることにより、比較的容易に体積抵抗率が5×1013Ω・cm以下とすることができる。
【0049】
本実施形態の中空糸膜型医療用具を構成する、前記栓体やその他の部品の体積抵抗率は、体積固有抵抗値ともいい、具体的には、JIS K6911に準拠し、100×100mmの試験片を用い、所定の測定装置、例えば、ADVANTEST製のULTRA HIGH RESISTANCE METER R8340A、TEST FIXTURE R12702Aにより、22℃、湿度60%RHの雰囲気下で測定することができ、単位はΩ・cmである。
上述したように、本実施形態の中空糸膜型医療用具において、少なくともポートに取り付けられているポート用栓体は、少なくともその一部に体積抵抗率が5×1013Ω・cm以下の高分子材料からなる部分を有している。
体積抵抗率が5×1013Ω・cmを超えると、滅菌処理において行われる電子線照射により、中空糸膜型医療用具の本体内に蓄積した電荷を充分に放散することができず、蓄積した電荷により中空糸膜型医療用具に絶縁破壊が起こり易くなる。
また、体積抵抗率が小さい値であるほど、中空糸膜型医療用具の本体内に蓄積した電荷を放散し易くなり、絶縁破壊防止効果が得られやすくなるので、本実施形態の中空糸膜型医療用具を構成する栓体は、少なくともその一部に、出来るだけ体積抵抗率が小さい高分子材料からなる部分を有していることが好ましい。
なお、体積抵抗率が十分に小さい高分子材料は、通常、製造コストが高く、機械的強度が弱くポートへの取り付けがしにくくなるなどの問題が起こる場合があるため、目的に応じて材料選択を行うことが好ましい。
【0050】
上記の問題が起こらない様に絶縁破壊を防止するためには、中空糸膜型医療用具を構成する栓体の少なくとも一部において体積抵抗率が1×10-2〜5×1013Ω・cmであることが好ましく、5×104〜5×1013Ω・cmであることがより好ましい。
高分子材料の体積抵抗率を5×1013Ω・cm以下にする方法としては、体積抵抗率が5×1013Ω・cm以下の樹脂そのものを用いる方法や、その他、市販の帯電防止剤を構成部品の表面に塗布する方法や、市販の帯電防止剤や導電性の高分子材料を熱可塑性樹脂にブレンドする方法が比較的簡便な方法として挙げられ、所望の体積抵抗率を容易に得ることができる。
なお、中空糸膜型医療用具が、取り扱う体液と接触するという性質を有するため、安全性の観点から帯電防止剤を構成部品の表面に塗布する方法よりも、所定の樹脂に帯電防止剤をブレンドし、これを所定の部品に成形する方法が好ましい。
【0051】
熱可塑性樹脂にブレンドする帯電防止剤としては、ポリオキシアルキレン鎖を有する帯電防止剤(例えば、特開平03−255161号公報、特開平03−258850号公報)、オキシエチレン基を有するポリエーテルとオキシエチレン基を有しないポリエーテルの共重合体であり、オキシエチレン基部分の結晶化度を特定の範囲にした帯電防止剤(例えば、特開2009−108259号公報)、ポリエーテルを親水性セグメントとしたブロック型ポリマーからなる帯電防止剤(市販品)などの高分子型帯電防止剤、界面活性剤型帯電防止剤、導電性フィラー(カーボンブラックなど)、導電性ABS樹脂などが挙げられる。
【0052】
(中空糸膜型医療用具の利用分野)
本実施形態の中空糸膜型医療用具は、各種医療用具に幅広く利用可能である。
例えば、血液透析器、血液透析濾過器、血液濾過器、持続血液透析濾過器、持続血液濾過器、血漿分離器、血漿成分分画器、血漿成分吸着器、ウイルス除去器、ウイルス吸着器、血液濃縮器、血漿濃縮器、腹水濾過器、腹水濃縮器、等が挙げられ、中空糸膜の持つ、濾過特性、選択吸着特性(被吸着物質と相互作用をなすリガンドを中空糸膜に固定したものを含む)を利用した各種医療用具に利用できる。
【実施例】
【0053】
以下、具体的な実施例と、これとの比較例を挙げて説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
先ず、実施例に用いた各種測定方法について説明する。
【0054】
〔絶縁破壊発生率の測定〕
(目視観察)
電子線照射により絶縁破壊が発生した場合の、中空糸膜型血液浄化器の絶縁破壊発生箇所について、黒く焦げた痕の有無を目視により確認した。
(水中陽圧試験)
中空糸膜型血液浄化器全体を水中に沈め、中空糸膜型血液浄化器の内部に空気を送り込んで150kPaの圧力をかけて30秒間保持することによって、絶縁破壊発生箇所からの気泡の発生を観察し、絶縁破壊の発生を確認した。
この水中陽圧試験は、中空糸膜型血液浄化器の第一の空間、第二の空間のそれぞれで行った。
上記(目視観察)、(水中陽圧試験)のいずれかの方法で、絶縁破壊の発生が確認された場合、その中空糸膜型血液浄化器は絶縁破壊が発生したものと判断し、作製した中空糸膜型血液浄化器の全数に対する絶縁破壊が発生した中空糸膜型血液浄化器の数の割合を百分率で示した。
〔栓体の体積抵抗率の測定方法〕
後述する実施例1〜3、比較例1〜2のポート用栓体の材料を100×100mmの試験片に加工し、JIS K6911に準拠し、ADVANTEST製の「ULTRA HIGH RESISTANCE METER R8340A、TEST FIXTURE R12702A」により、22℃、湿度60%RHの雰囲気下で測定した。
【0055】
〔実施例1〕
ポリスルホン(ソルベイ・アドバンスド・ポリマーズ社製、P−1700):17質量部
PVP(アイ・エス・ピー社製、K−90):4質量部
ジメチルアセトアミド(以下、DMAC):79質量部
からなる均一な紡糸原液を作製した。
中空内液にはDMACの42%水溶液を用い、前記紡糸原液とともに、紡糸口金から吐出させた。
その際、乾燥後の膜厚を35μm、内径を185μmに合わせるように、紡糸原液及び中空内液の吐出量を調整した。
吐出した紡糸原液を50cm下方に設けた水よりなる60℃の凝固浴に浸漬し、30m/分の速度で凝固工程、水洗工程を通過させた後に乾燥機に導入し、160℃で乾燥後、クリンプを付与したポリスルホン系中空糸膜を巻き取った。
次に、巻き取った16000本の中空糸膜からなる束を、中空糸膜の有効膜面積が2.5m2となるように設計したスチレン−ブタジエン共重合体(旭化成ケミカル株式会社製、登録商標 アサフレックス)製の筒状容器に装填し、その両端部をウレタン樹脂(三洋化成工業株式会社製)で接着固定し、両端面を切断して中空糸膜の開口端を形成した。
開口端から濃度63%のグリセリン(和光純薬工業(株)製 特級)水溶液を中空糸膜内に5秒間注入し、0.2MPaのエアーで10秒間フラッシュさせた後、両端部にスチレン−ブタジエン共重合体(旭化成ケミカル株式会社製、登録商標 アサフレックス)製のヘッダーキャップを取り付けた。
血液流出入側ノズルにはポリエチレン製のノズル用栓体を被着し、本体のポートには、ポリエチレン(プライムポリマー社製、登録商標 ハイゼックス)チップを87%、ポリエチレン−b−ポリエーテルブロックポリマー(三洋化成工業株式会社製、ペレスタット)チップを13%の混合比で射出成型機に投入して成型した一つの部品からなるポート用栓体を被着した。
その後、ポリエチレン/ナイロン二層構造の滅菌袋で包装し、照射量として35kGyになるように電子線を照射して、セミドライタイプの中空糸膜型血液浄化器とした。
この中空糸膜型血液浄化器の絶縁破壊発生率と本体のポートに被着したポート用栓体の体積抵抗率を、下記表1に示した。
【0056】
〔実施例2〕
本体のポートに、ポリオレフィン樹脂に導電性カーボンを配合して成型した一つの部品からなるポート用栓体を被着した。その他の条件は実施例1と同様とし、セミドライタイプの中空糸膜型血液浄化器を得た。
この中空糸膜型血液浄化器の絶縁破壊発生率と本体のポートに被着したポート用栓体の体積抵抗率を、下記表1に示した。
【0057】
〔実施例3〕
本体のポートに、ポリエチレン(プライムポリマー社製、登録商標 ハイゼックス)チップを85%、ポリエチレン−b−ポリエーテルブロックポリマー(三洋化成工業株式会社製、ペレスタット)チップを15%の混合比で射出成型機に投入して成型した一つの部品からなるポート用栓体を被着して、照射量として57kGyになるように電子線を照射した。
その他の条件は、実施例1と同様とし、セミドライタイプの中空糸膜型血液浄化器を得た。
この中空糸膜型血液浄化器の絶縁破壊発生率と本体のポートに被着したポート用栓体の体積抵抗率を、下記表1に示した。
【0058】
〔比較例1〕
本体のポートに、ポリエチレン(プライムポリマー社製、登録商標 ハイゼックス)製の一つの部品からなるポート用栓体を被着した。
その他の条件は、実施例1と同様とし、セミドライタイプの中空糸膜型血液浄化器を得た。
この中空糸膜型血液浄化器の絶縁破壊発生率と本体のポートに被着したポート用栓体の体積抵抗率を、下記表1に示した。
【0059】
〔比較例2〕
本体のポートに、ポリエチレン(プライムポリマー社製、登録商標 ハイゼックス)チップを92%、ポリエチレン−b−ポリエーテルブロックポリマー(三洋化成工業株式会社製、ペレスタット)チップを8%の混合比で射出成型機に投入して成型した一つの部品からなるポート用栓体を被着した。
その他の条件は、実施例1と同様とし、セミドライタイプの中空糸膜型血液浄化器を得た。
この中空糸膜型血液浄化器の絶縁破壊発生率と本体のポートに被着したポート用栓体の体積抵抗率を、下記表1に示した。
【0060】
【表1】

【0061】
表1に示すように、栓体が、体積抵抗率、5×1013Ω・cm以下である高分子材料により形成されている実施例1〜3においては、いずれも絶縁破壊発生率を効果的に防止することができた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の中空糸膜型医療用具は、医療現場に於いて、血液透析、血液透析濾過、血液濾過、持続血液透析濾過、持続血液濾過、血漿交換、二重濾過血漿交換、ウイルス除去、血液濃縮、腹水濾過・濃縮、吸着、などの各種医療用の技術として、産業上の利用可能性を有している。
【符号の説明】
【0063】
1 中空糸膜型医療用具
2、2’ ヘッダー
3 中空糸膜
4、5 ノズル
6、7 ポート
8 ポッティング樹脂
9 筒状容器
11 第一の空間
12 第二の空間
20、200 ポートに取り付けられるポート用栓体
21、210 ポートに取り付けられる栓体を構成する部分の内、体積抵抗率が5×10 13Ω・cm以下である高分子材料からなる部分
22、220 ポートに取り付けられる栓体を構成する部分の内、体積抵抗率が5×10 13Ω・cmより大きい高分子材料からなる部分
30 ノズルに取り付けられるノズル用栓体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状容器と、
当該筒状容器の長手方向に沿って装填され、両端部が前記筒状容器の両端部に固定されている中空糸膜の束と、
当該中空糸膜の束を、前記筒状容器の両端部で包埋固定しているポッティング樹脂と、
前記中空糸膜の両端面に対向し、前記筒状容器の両端部に設けられており、それぞれ流体の出入口となるノズルを具備するヘッダーと、
前記筒状容器の側面部に設けられており、流体の出入口となるポートと、
前記ノズルから着脱可能なノズル用栓体と、
前記ポートから着脱可能なポート用栓体と、
を、具備し、
前記ポート用栓体は、体積抵抗率が、5×1013Ω・cm以下である高分子材料からなる部分を有しており、
電子線照射されている中空糸膜型医療用具。
【請求項2】
前記ポート用栓体は、体積抵抗率が5×1013Ω・cm以下である高分子材料からなる請求項1に記載の中空糸膜型医療用具。
【請求項3】
前記ノズル用栓体は、体積抵抗率が5×1013Ω・cm以下である高分子材料からなる部分を有している請求項1又は2に記載の中空糸膜型医療用具。
【請求項4】
前記ノズル用栓体は、体積抵抗率が5×1013Ω・cm以下である高分子材料からなる請求項1乃至3のいずれか一項に記載の中空糸膜型医療用具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−167459(P2011−167459A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36339(P2010−36339)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000116806)旭化成クラレメディカル株式会社 (133)
【Fターム(参考)】