説明

中間転写ベルト部材及びその製造方法、画像形成装置

【課題】熱可塑性樹脂を用いた中間転写ベルト部材であって、長時間の画像出力においてもトナー融着の発生しない中間転写ベルト部材を提供する。
【解決手段】少なくとも熱可塑性樹脂と導電剤とを含む樹脂組成物を無端ベルト形状に溶融押出成形し、ついで該ベルト外周面に加速電圧10〜70kVの電子線を照射して、ベルト表層の前記熱可塑性樹脂由来のオリゴマー成分を電子線架橋させてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式の画像形成装置に用いられる中間転写ベルト部材及びその製造方法、画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、複写機、プリンタ等における電子写真方式の画像形成プロセスでは、まず、感光体(潜像保持体)の表面を一様に帯電させ、この感光体に光学系から映像を投射して光の当たった部分の帯電を消去することによって静電潜像を形成し、次いで、この静電潜像にトナーを供給してトナーの静電的付着によりトナー像を形成し、これを紙、OHP、印画紙等の記録媒体へと転写することにより、プリントする方法が採られている。
【0003】
また、電子写真方式のカラー複写機において、基本的には前記プロセスに従ってプリントが行われるが、カラー印刷の場合には、マゼンタ、イエロー、シアン、ブラックの4色のトナーを用いて色調を再現するもので、これらのトナーを所定割合で重ね合わせて必要な色調を得るための工程が必要であり、この工程を行うためにいくつかの方式が提案されているがこのうち中間転写体を用いた中間転写方式が一般的である。
【0004】
この中間転写方式は、感光体上のトナー像を一旦転写保持するベルト状の中間転写体を設け、4つの感光体でそれぞれ形成されるマゼンタによるトナー像、イエローによるトナー像、シアンによるトナー像およびブラックによるトナー像を中間転写体上に直接又は間接的に転写することにより、この中間転写体上にカラー画像を形成し、このカラー画像を紙等の記録媒体上に転写するものである。
【0005】
ここで、中間転写体に使用される材料としては、硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の2種類の樹脂が挙げられる。最近では、これらのうち、熱可塑性樹脂を用いて作製した中間転写ベルト部材が、耐屈曲性等に優れたものとして使用されるようになっている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
しかしながら、このよう熱可塑性樹脂製の中間転写ベルト部材を中間転写体として用いた画像形成装置において画像出力を長時間行った場合、該中間転写ベルト部材表面へのトナー融着を原因とする画像不良が発生することがあった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、熱可塑性樹脂を用いた中間転写ベルト部材であって、長時間の画像出力においてもトナー融着の発生しない中間転写ベルト部材及びその製造方法、並びに該中間転写ベルト部材を用いた画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、熱可塑性樹脂製の中間転写ベルト部材を用いた画像形成装置において画像出力を長時間行った場合に、中間転写ベルト部材表面にトナー融着が発生する原因を調査したところ、熱可塑性樹脂由来のオリゴマー成分(Mw=500〜10000程度)がトナーに対する耐汚染性を劣化させていることが分かった。すなわち、中間転写ベルト部材の製造過程において、中間転写体として適切な電気抵抗に調整するために熱可塑性樹脂と導電剤を混練分散する際、あるいは樹脂組成物を押出し機で成形する際に、熱可塑性樹脂の分子鎖が熱とせん断力によって切断され、ベルト成形後のベルト表面にオリゴマー成分として存在することとなり、その結果、中間転写ベルト部材におけるトナー融着の原因となっていた。
【0009】
ここで、このようなオリゴマー成分生成を抑制するために、樹脂中の水分量を制御したり、劣化(酸化)防止剤などを添加したりする技術が知られている。しかしながら、エステルの加水分解を抑制するために樹脂中の水分量をコントロールや酸化防止剤の添加を行っても、完全にエステル結合の加水分解を抑制することができるものではなかった。また中間転写ベルト部材には、高度な電気特性が求められるため、カーボンブラックなどの導電剤を樹脂中に均一にナノサイズで微分散させなくてはならないことから、高温で長時間混練を行う必要があり、よりオリゴマー成分が生成しやすくなることからオリゴマー成分の抑制はより困難であった。また、オリゴマー成分が生成した後でも分子鎖切断による物性の低下を補うために電子線照射により架橋処理を施す技術が一般的に知られている。しかしながら、従来の方法では成形後の電子線照射による架橋処理によりオリゴマー成分を再結合させることはできるが、同時に照射される電子線により熱可塑性樹脂の分子鎖切断が発生して中間転写ベルト部材の物性が低下してしまうという問題があった。
【0010】
発明者らは、オリゴマー成分が中間転写ベルト部材の表層に偏在しているという知見に基づいて、この問題を解決すべく鋭意検討を行い、本発明を成すに至った。
なお、特開2007−65587号公報では、熱可塑性樹脂と導電剤と架橋剤を配合してなる樹脂組成物を、ベルト形状に押出成形した後、電子線照射することにより架橋処理を施した中間転写ベルトが開示されているが、これは電子線照射による架橋処理により熱硬化性樹脂のものと同等の剛性(耐折れ性、耐セット性)を得ようとするものであり、本発明とは構成が異なる。
【0011】
すなわち前記課題を解決するために提供する本発明は、少なくとも熱可塑性樹脂と導電剤とを含む樹脂組成物を無端ベルト形状に溶融押出成形し、ついで該ベルト外周面に加速電圧10〜70kVの電子線を照射して、ベルト表層の前記熱可塑性樹脂由来のオリゴマー成分を電子線架橋させてなることを特徴とする中間転写ベルト部材である。
【0012】
また前記課題を解決するために提供する本発明は、少なくとも熱可塑性樹脂と導電剤とを含む樹脂組成物を無端ベルト形状に形成する溶融押出成形工程と、前記ベルト外周面に加速電圧10〜70kVの電子線を照射して、ベルト表層の前記熱可塑性樹脂由来のオリゴマー成分を電子線架橋させる電子線照射工程と、を有することを特徴とする中間転写ベルト部材の製造方法である。
【0013】
また前記課題を解決するために提供する本発明は、少なくとも、像担持体上に静電潜像を形成するための静電潜像形成手段と、前記像担持体上に形成された静電潜像をトナーを用いてトナー像とする現像手段と、前記像担持体上のトナー像を中間転写体上に転写する一次転写手段と、前記中間転写体上のトナー像を被記録媒体上に転写する二次転写手段と、該被記録媒体上のトナー像を定着する定着手段と、を備えた画像形成装置であって、前記中間転写体が少なくとも熱可塑性樹脂と導電剤とを含む樹脂組成物を無端ベルト形状に溶融押出成形し、ついで該ベルト外周面に加速電圧10〜70kVの電子線を照射して、ベルト表層の前記熱可塑性樹脂由来のオリゴマー成分を電子線架橋させてなる中間転写ベルト部材であることを特徴とする画像形成装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る中間転写ベルト部材によれば、押出成形された無端ベルト外周面に加速電圧10〜70kVの電子線を照射して、ベルト表層に偏在する熱可塑性樹脂由来のオリゴマー成分を電子線架橋させているので、中間転写ベルト部材の物性を低下させることなく、ベルト表層のオリゴマー成分を再結合(固定化)させることが実現されており、トナーに対する優れた耐汚染性を有する。したがって、この本発明の中間転写ベルト部材を画像形成装置に適用すると、長期間画像出力を行った際にも、ベルト特性が低下することなく、かつ中間転写ベルト部材表面にトナーが融着することなく高品位な画像出力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る中間転写ベルト部材の構成を示す外観図である。
【図2】電子照射装置の加速電圧と到達深度・吸収線量の関係を示す図である。
【図3】本発明に係る電子写真形成装置の構成例(1)を示す断面図である。
【図4】本発明に係る電子写真形成装置の構成例(2)を示す断面図である。
【図5】図4の電子写真形成装置に用いられるタンデム型現像器の構成を示す断面図である。
【図6】試験例1におけるベルト表面のTHF溶出成分のGPC分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係る中間転写ベルト部材の構成について説明する。
図1は、本発明に係る中間転写ベルト部材の構成を示す外観図である。
中間転写ベルト部材1は、略円筒形状の無端状ベルトであるが、ベルトとして可撓性を有しており、自在に変形することができる。図1では、2本のロールに架け渡してベルト外周面の全体形状が長円形となった状態を示している。
【0017】
また中間転写ベルト部材1の寸法として、円筒形状としたときの外径が100〜300mm、幅Wが100〜300mmである。また、中間転写ベルト部材1の厚みtは、50〜200μmである。
【0018】
ここで、中間転写ベルト部材1は、少なくとも熱可塑性樹脂と導電剤とを含む樹脂組成物が無端ベルト形状に溶融押出成形され、ついで該ベルト外周面に10〜70kV、より好ましくは10〜50kVの低加速電圧の電子線を照射して、ベルト表層の前記熱可塑性樹脂由来のオリゴマー成分を電子線架橋させてなるものである。
【0019】
本発明で用いる樹脂組成物は、前記無端ベルト形状に溶融押出成形した場合にベルト成形物が中間転写ベルト部材として所定の電気特性や機械特性を有するようになるものが好ましく、例えば該ベルト成形物の引張弾性率が1500Mpa以上、4000Mpa未満、且つ体積抵抗率が1.0×10Ω・cm以上、1.0×1012Ω・cm未満となるものがよい(条件A)。
【0020】
ここで、ベルト成形物の引張弾性率及び体積抵抗率の測定方法は、例えば次のとおりである。
[引張弾性率の測定方法]
本発明における引張弾性率は、ベルト成形物をスーパーダンベルカッターSDMK−1000−D(株式会社ダンベル製)でJIS K−7127のダンベル形状で打ち抜いてダンベルサンプルを作製し、精密万能試験機オートグラフ AG−X(島津製作所製)を用いて、歪み−応力曲線からベルトの引張弾性率の値を求めた。
【0021】
[体積抵抗率の測定方法]
本発明における体積抵抗率は、ハイレスタUP MCP−HT450型((株)ダイアインスツルメンツ製)を用いて、温度23℃、湿度65%の環境の下、印加電圧を250Vとし、10sec後の値を測定値とした。
【0022】
また、前記樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂としては、一般的に中間転写ベルト部材に用いられる材料を用いることができる。例えば、本発明で用いる熱可塑性樹脂は、エステル結合を有する重合体、すなわちポリエステル系樹脂、カーボネート結合を有する重合体であるポリカーボネート樹脂(PC)、エチレン鎖を有するポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、ポリフェニルサルファイド(PPS)樹脂のいずれかを含むとよい。これらの樹脂は、単独で用いてもよいし、前述したポリエステル系樹脂と混合して用いても良い。
【0023】
また本発明で用いられる熱可塑性樹脂は、これらのうち前記樹脂組成物が前記条件Aを満たすようになる材料であることが好ましく、ポリエステル系樹脂が好適である。このポリエステル系樹脂としては、具体的には例えば、ポリアルキレンナフタレート樹脂およびポリアルキレンテレフタレート樹脂を好適に挙げることができ、このうちポリアルキレンナフタレート樹脂としては、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂やポリブチレンナフタレート(PBN)樹脂等を好適に用いることができる。また、ポリアルキレンテレフタレート樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、グリコール変性PET(PETG)樹脂やポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂を好適に用いることができる。さらに、ポリエステルエラストマー(TPEE)を用いることができる。これらポリエステル系樹脂は単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0024】
本発明で用いられる導電剤は、平均一次粒子径5〜50nmの導電性微粒子である。また、導電剤となる導電性微粒子を構成する材料としては、特に制限されるものではないが、例えばカーボンブラック、黒鉛、天然グラファイト、人造グラファイト、酸化スズ、酸化チタン、酸化亜鉛、ニッケル、銅のいずれか1つ以上を含むことが好ましい。
【0025】
[導電性微粒子の分散]
樹脂材料への導電性微粒子の分散は、樹脂材料に導電性微粒子を濡らす工程、導電性微粒子をせん断力により微分散化する工程からなる。
【0026】
このうち、樹脂材料に導電性微粒子を濡らす工程では、樹脂の溶融粘度を適切にすることで樹脂材料と導電性微粒子の濡れ性を改善したり、樹脂性材料と導電性微粒子の相溶性を向上させたりする方法が挙げられる。
【0027】
また本発明では、樹脂と導電性微粒子に熱をかけながら混練することで導電性微粒子を分散する。分散する際に温度は、樹脂のガラス転移温度(Tg)以上が好ましく、より溶融状態になる温度で混練することがより好ましい。
【0028】
一般に、熱可塑性樹脂に導電性微粒子を溶融混練する場合、凝集した導電性微粒子に高せん断力を加え、導電性微粒子を破壊し、微細化して、溶融した樹脂中へ導電性微粒子を均一に分散させる。このとき、溶融粘度を下げ過ぎると、濡れ性は更に向上するが導電性微粒子を微分散化するためのせん断力が低下することが課題となる。本発明においては、こういった課題に対して、溶融粘度が低い状態で高せん断力を発生させることができる分散機を用いることが好ましい。
【0029】
このような高せん断力を発生させる混練機としては、石臼機構を利用したものや、同方向2軸押出機でスクリューエレメント中に高せん断力のかかるニーディングディスクを導入したものが挙げられる。また、加圧ニーダーのような、高せん断力がかからなくて、時間を掛けて分散が達成できるものや、単軸押出機において特殊なミキシングエレメントを使用することなどが挙げられる。
【0030】
樹脂材料と導電性微粒子の相溶性を向上させる方法としては、導電性微粒子の表面を処理する方法や樹脂材料と導電性微粒子の濡れ性を改善する分散剤、イオン導電剤などを添加する方法が挙げられる。導電性微粒子の表面処理は、分散工程の前に予め処理しておく方法や分散工程で表面処理を同時進行させながら微分散化していく方法などが挙げられる。さらに、樹脂材料を体積平均粒子径が100μm〜1000μm程度に常温あるいは凍結状態で粗粉砕し導電性微粒子と混合した後、溶融混練する方法が挙げられる。
【0031】
導電剤の配合量は、樹脂成分100重量部に対して、通常100重量部以下、例えば1〜100重量部、特には1〜80重量部、とりわけ5〜50重量部である。本発明においては特に、導電剤としてカーボンブラックを用いて、これを樹脂成分100重量部に対し、5〜30重量部にて配合することが好ましい。
【0032】
また、前記樹脂組成物は、架橋剤を含むことが好ましい。本発明で用いられる架橋剤としては、電子線の照射により架橋反応を発現させうるものであれば特に制限されるものではないが、好適には、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレートのいずれか、またはこれらのうちいずれか2種以上の混合物が挙げられる。
【0033】
架橋剤の好適な配合量としては、樹脂成分100重量部に対し0.3〜15重量部、好ましくは0.5〜5重量部程度である。
【0034】
また、本発明の中間転写ベルト部材1には、本発明の効果を損なわない範囲で他の機能性成分を適宜添加することも可能であり、例えば、各種充填材、カップリング剤、酸化防止剤、滑剤、表面処理剤、顔料、紫外線吸収剤、帯電防止剤、分散剤、中和剤、発泡剤、架橋剤等を適宜配合することができる。さらに、着色剤を添加して着色を施してもよい。
【0035】
つぎに、本発明に係る中間転写ベルト部材の製造方法について説明する。
本発明の中間転写ベルト部材の製造にあたっては、少なくとも熱可塑性樹脂と導電剤とを含む樹脂組成物を無端ベルト形状(例えば円筒形状)に形成する溶融押出成形工程と、前記ベルト(円筒)外周面に加速電圧10〜70kV、より好ましくは10〜50kVの電子線を照射して、ベルト(円筒)表層の前記熱可塑性樹脂由来のオリゴマー成分を電子線架橋させる電子線照射工程と、を有するものとする。
【0036】
まず、溶融押出成形工程では、前述した各種成分が配合されてなる樹脂組成物を混練りして、加熱して円筒状に押出成形し、所定幅に裁断することを行う。これにより、所定寸法(外径、幅、厚み)の無端状のベルト形状に形成されることになる(仮に、成形ベルトと称する)。この押出成形については常法に従い行えばよく、特に制限されるものではないが、環状ダイスよりベルト材料を押出してベルト成形する押出し成形方法やインフレーション成形方法が挙げられる。
【0037】
この溶融押出成形工程では、熱可塑性樹脂と導電剤等を混練分散するときや樹脂組成物を押出し機で成形するときに、熱可塑性樹脂の分子鎖が熱とせん断力によって切断され、成形ベルト表層にオリゴマー成分が生成している。このオリゴマー成分が残存した状態では、トナーに対する耐汚染性が低下することとなる。そこで、本発明では次工程である電子線照射工程でその改善を図っている。
【0038】
すなわち電子線照射工程では、例えば金属製円筒体を押出成形された成形ベルトの内径部に挿入して、この円筒体を回転させながら、金属製円筒体の軸方向両側に配置された照射装置から電子線を照射することを行う。この電子線照射装置については特に制限はなく、市販の装置を適宜用いることができる。
【0039】
ここで、電子線照射時の加速電圧を通常の電子線架橋の条件(例えば150kV)とすると、前記溶融押出成形工程において生成されたオリゴマー成分を固定化できるものの、熱可塑性樹脂の分子鎖も切断することとなり、中間転写ベルト部材としてのベルト特性を低下させてしまう。
【0040】
そこで、本発明では、樹脂表面から電子線が到達する深さ(到達深度)は、図2に示すように、電子線の加速度に比例することから、電子線照射時の加速電圧を通常の電子線架橋のとき(例えば150kV)よりも非常に低い70kV以下の超低加速電圧として、成形ベルト外周面の表層のみに電子線が照射されるようにしている。
【0041】
具体的には、このときの電子線の加速電圧を10〜70kVとし、電子線が到達する領域(到達深度)を成形ベルトの外周面表面から5〜60μm程度の深さまでの領域とする。また好ましくは電子線の加速電圧を10〜50kVとし、電子線が到達する領域(到達深度)を成形ベルトの外周面表面から5〜30μm程度の深さまでの領域とする。加速電圧10kV未満では電子線の到達深度が5μm未満となってベルト表層におけるオリゴマー成分の電子線架橋が不十分となり、トナーに対する耐汚染性の改善が十分ではない。また、加速電圧70kVを越えるとベルト表層における電子線照射量(吸収線量)が増大して熱可塑性樹脂の分子鎖を切断するようになり不適である。このようにベルトの深さ方向への分子切断を進行させるとベルトの破断伸度を著しく低下させる。
【0042】
また、電子線の照射量は、前記溶融押出成形工程において熱可塑性樹脂の分子鎖が切断されて生成される(すなわち熱可塑性樹脂由来の)オリゴマー成分が電子線架橋するのに必要十分な量とし、例えば10〜500kGyとする。照射量10kGy未満ではオリゴマー成分の電子線架橋に不十分な量となり、照射量500kGy超では熱可塑性樹脂の分子鎖を切断するようになり不適である。
【0043】
これにより、中間転写ベルト部材としての物性(例えば、繰り返し使用によるベルト端部における耐割れ性)を低下させることなく、ベルト表層のオリゴマー成分を再結合(固定化)させることができる。
【0044】
つぎに、本発明に係る画像形成装置について説明する。
本発明に係る画像形成装置は、少なくとも、像担持体(感光体ドラム10、ブラック用感光体10K、イエロー用感光体10Y、マゼンタ用感光体10M、シアン用感光体10C)上に静電潜像を形成するための静電潜像形成手段(帯電ローラ20,露光装置、帯電ローラ20,露光装置21)と、前記像担持体上に形成された静電潜像をトナーを用いてトナー像とする現像手段(ブラック用現像器45K、イエロー用現像器45Y、マゼンタ用現像器45M、シアン用現像器45C、現像器61)と、前記像担持体上のトナー像を中間転写体(中間転写体50)上に転写する一次転写手段(ローラ51、転写ローラ62)と、前記中間転写体上のトナー像を被記録媒体上に転写する二次転写手段(転写ローラ80、二次転写装置22)と、該被記録媒体上のトナー像を定着する定着手段(定着装置25)と、を備えた画像形成装置であって、前記中間転写体が前述した本発明の中間転写ベルト部材(中間転写ベルト部材1)であることを特徴とするものである。
【0045】
以下、その具体的構成について説明する。
なお、本発明でいう像坦持体とは、以下に示す実施形態において、感光体ドラム10、あるいはブラック用感光体10K、イエロー用感光体10Y、マゼンタ用感光体10M、シアン用感光体10Cのことをいう。
また、本発明でいう静電潜像形成手段とは、帯電ローラ20,露光装置、あるいは帯電ローラ20,露光装置21のことをいう。
また、本発明でいう現像手段とは、ブラック用現像器45K,イエロー用現像器45Y,マゼンタ用現像器45M,シアン用現像器45C、あるいは現像器61のことをいう。
また、本発明でいう中間転写体とは、中間転写体50のことをいう。
また、本発明でいう一次転写手段とは、ローラ51、あるいは転写ローラ62のことをいう。
また、本発明でいう二次転写手段とは、転写ローラ80、あるいは二次転写装置22のことをいう。
また、本発明でいう定着手段とは、定着装置25のことをいう。
【0046】
図3に、本発明の電子写真形成装置の一態様である画像形成装置の構成例(1)を示す。
画像形成装置100Aは、感光体ドラム10と、帯電手段としての帯電ローラ20と、露光手段としての露光装置(不図示)と、現像手段としての現像器(ブラック用現像器45K、イエロー用現像器45Y、マゼンタ用現像器45M、シアン用現像器45C)と、中間転写体50と、クリーニング手段としてのクリーニングブレードを有するクリーニング装置60と、除電手段としての除電ランプ70を有する。
【0047】
中間転写体50は、本発明の中間転写ベルト部材1を適用したものであり、その内側に配置されている3個のローラ51に張り渡されており、矢印方向に移動することができる。3個のローラ51の一部は、中間転写体50へ所定の転写バイアス(一次転写バイアス)を印加することが可能な転写バイアスローラとしても機能する。
また、中間転写体50の近傍には、クリーニングブレードを有するクリーニング装置90が配置されている。更に、記録媒体95にトナー像を転写(二次転写)するための転写バイアスを印加することが可能な転写手段としての転写ローラ80が中間転写体50に対向して配置されている。
また、中間転写体50の周囲には、中間転写体50上のトナー像に電荷を付与するためのコロナ帯電器52が、感光体ドラム10と中間転写体50の接触部と、中間転写体50と記録媒体95の接触部との間に配置されている。
【0048】
ブラック(K)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)及びシアン(C)の各色の現像器(ブラック用現像器45K、イエロー用現像器45Y、マゼンタ用現像器45M、シアン用現像器45C)は、現像剤収容部(42K、42Y、42M、42C)と、現像剤供給ローラ(43K、43Y、43M、43C)と、現像ローラ(44K、44Y、44M、44C)を備える。
【0049】
画像形成装置100Aでは、帯電ローラ20により感光体ドラム10を一様に帯電させた後、露光装置(不図示)により露光光30を感光ドラム10上に像様に露光し、静電潜像を形成する。次に、感光体ドラム10上に形成された静電潜像を、現像器(ブラック用現像器45K、イエロー用現像器45Y、マゼンタ用現像器45M、シアン用現像器45C)から現像剤を供給して現像してトナー像を形成した後、ローラ51から印加された転写バイアスにより、トナー像が中間転写体50上に転写(一次転写)される。更に、中間転写体50上のトナー像は、コロナ帯電器52により電荷を付与された後、記録媒体95上に転写(二次転写)される。なお、感光体ドラム10上に残存したトナーは、クリーニング装置60により除去され、感光体ドラム10は除電ランプ70により一旦、除電される。
【0050】
このように画像形成装置100Aでは、本発明の中間転写ベルト部材を用いるので、長期間画像出力を行った際にも、中間転写体50のベルト特性が低下することなく、かつ中間転写体50表面にトナーが融着することなく高品位な画像出力を得ることができる。
【0051】
図4に、本発明の電子写真形成装置の一態様である画像形成装置の構成例(2)を示す。
画像形成装置100Bは、タンデム型カラー画像形成装置であり、複写装置本体150と、給紙テーブル200と、スキャナ300と、原稿自動搬送装置(ADF)400を有する。
複写装置本体150には、本発明の中間転写ベルト部材1を適用した中間転写体50が中央部に設けられている。中間転写体50は、支持ローラ14、15及び16に架け渡されており、矢印方向に回転することができる。
【0052】
支持ローラ15の近傍には、中間転写体50上に残留したトナーを除去するためのクリーニング装置17が配置されている。また、支持ローラ14と支持ローラ15に張り渡された中間転写体50には、その搬送方向に沿って、イエロー、シアン、マゼンタ及びブラックの4個の画像形成手段18が対向して並置されたタンデム型現像器120が配置されている。
【0053】
各色の画像形成手段18は、図5に示すように、感光体ドラム10と、感光体ドラム10を一様に帯電させる帯電ローラ20と、感光体ドラム10に形成された静電潜像をブラック(K)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)及びシアン(C)の各色の現像剤で現像してトナー像を形成する現像器61と、各色のトナー像を中間転写体50上に転写させるための転写ローラ62と、クリーニング装置63と、除電ランプ64を備える。
【0054】
また、タンデム型現像器120の近傍には、露光装置21が配置されている(図4)。露光装置21は、感光体ドラム10(ブラック用感光体10K、イエロー用感光体10Y、マゼンタ用感光体10M、シアン用感光体10C)上に露光光Lを露光し、静電潜像を形成する。
【0055】
更に、中間転写体50のタンデム型現像器120が配置された側とは反対側には、二次転写装置22が配置されている。二次転写装置22は、一対のローラ23に張り渡されている無端ベルトである二次転写ベルト24からなり、二次転写ベルト24上を搬送される記録媒体と中間転写体50が互いに接触可能となっている。
【0056】
二次転写装置22の近傍には、定着装置25が配置されている。定着装置25は、無端ベルトである定着ベルト26と、定着ベルト26に押圧されて配置される加圧ローラ27を有する。
【0057】
また、二次転写装置22及び定着装置25の近傍に、記録媒体の両面に画像を形成するために記録媒体を反転させる反転装置28が配置されている。
【0058】
次に、画像形成装置100Bにおけるフルカラー画像の形成(カラーコピー)について説明する。まず、原稿自動搬送装置(ADF)400の原稿台130上に原稿をセットするか、あるいは原稿自動搬送装置400を開いてスキャナ300のコンタクトガラス32上に原稿をセットし、原稿自動搬送装置400を閉じる。次に、スタートスイッチ(不図示)を押すと、原稿自動搬送装置400に原稿をセットした時は、原稿が搬送されてコンタクトガラス32上へと移動された後で、コンタクトガラス32上に原稿をセットした時は、直ちにスキャナ300が駆動し、第1走行体33及び第2走行体34が走行する。このとき、第1走行体33により、光源からの光が照射されると共に、原稿面からの反射光を第2走行体34におけるミラーで反射し、結像レンズ35を通して読み取りセンサ36で受光される。これにより、カラー原稿(カラー画像)が読み取られ、ブラック、イエロー、マゼンタ及びシアンの各色の画像情報が得られる。
【0059】
更に、露光装置21により、得られた各色の画像情報に基づいて、各色の静電潜像が感光体ドラム10に形成された後、各色の静電潜像は、各色の現像器61から供給された現像剤で現像され、各色のトナー像が形成される。形成された各色のトナー像は、支持ローラ14、15及び16により回転移動する中間転写体50上に、順次重ねて転写(一次転写)され、中間転写体50上に複合トナー像が形成される。
【0060】
給紙テーブル200においては、給紙ローラ142の1つを選択的に回転させ、ペーパーバンク143に多段に備える給紙カセット144の1つから記録媒体を繰り出し、分離ローラ145で1枚ずつ分離して給紙路146に送り出し、搬送ローラ147で搬送して複写機本体150内の給紙路148に導き、位置決めローラであるレジストローラ49に突き当てて止める。あるいは、手差しトレイ151上の記録媒体を繰り出し、分離ローラ58で1枚ずつ分離して手差し給紙路53に入れ、レジストローラ49に突き当てて止める。なお、レジストローラ49は、一般に接地して使用されるが、記録媒体の紙粉除去のために、バイアスが印加された状態で使用してもよい。
【0061】
そして、中間転写体50上に形成された複合トナー像にタイミングを合わせてレジストローラ49を回転させ、中間転写体50と二次転写装置22の間に記録媒体を送り出し、複合トナー像を記録媒体上に転写(二次転写)する。
複合トナー像が転写された記録媒体は、二次転写装置22により搬送されて、定着装置25に送り出される。そして、定着装置25において、定着ベルト26及び加圧ローラ27により、加熱加圧されて複合トナー像が記録媒体上に定着される。その後、記録媒体は、切換爪55で切り換えて排出ローラ56により排出され、排紙トレイ57上にスタックされる。あるいは、切換爪55で切り換えて反転装置28により反転されて再び転写位置へと導かれて、裏面にも画像を形成した後、排出ローラ56により排出され、排紙トレイ57上にスタックされる。
なお、複合トナー像が転写された後に中間転写体50上に残留したトナーは、クリーニング装置17により除去される。
【0062】
このように画像形成装置100Bでは、本発明の中間転写ベルト部材を用いるので、長期間画像出力を行った際にも、中間転写体50のベルト特性が低下することなく、かつ中間転写体50表面にトナーが融着することなく高品位な画像出力を得ることができる。
【実施例】
【0063】
以下、試験例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の説明は、本発明に対する理解を容易にするためのものであって、本発明を制限するためのものではない。
【0064】
〔試験例1〕
次の条件で、溶融押出成形を行い、その外周表面のオリゴマー成分の有無を調査した。なお、熱硬化性樹脂についてはポリイミド(PI、市販のプリンタで使用されているポリイミド製のベルト)を選択した。
【0065】
(1)樹脂組成物
熱可塑性樹脂(100重量部)と導電剤(8重量部)をニーダーで樹脂の融点以下の温度で加熱しながら、80分混練後、さらに2本ロールを用いて30分間導電剤の分散を行い、ペレタイザーでペレット化することでペレット状の樹脂組成物を得た。なお、熱可塑性樹脂、導電剤はつぎのものを用いた。
・熱可塑性樹脂;つぎの4種類から1つずつ選択。
・ポリブチレンテレフタレート(PBT、商品名ノバデュラン5505S、三菱エンジニアリングプラスチックス社製)
・ポリカーボネート(PC、商品名ユーピロンS3000、三菱エンジニアリングプラスチックス社製)とポリエステルエラストマー(TPEE、商品名ペルプレンS3001N、東洋紡績社製)の混合樹脂(PC/Pes)
・ ポリフッ化ビニリデン(PVDF、商品名KAYNER720、アルケマ社製)
・導電剤;カーボンブラック(CB、デンカブラック粒状品 平均一次粒子径35nm、電気化学社製)
【0066】
(2)押出成形
ペレット状の樹脂組成物を用いて環状ダイスにより円筒状に押出し成形して、厚さ100μmの成形ベルトを作製した。
【0067】
(3)GPC分析
得られた成形ベルトの外周表面を削ったベルト片1gを(テトラヒドロフラン(THF)20g中に1時間浸漬し、その溶出成分をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、島津製作所社製)により分析して、PS換算での重量平均分子量の測定を行い、オリゴマー成分の有無を調査した。
【0068】
GPC分析結果を図6に示す。
図6に示すように、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリカーボネートとポリエステルエラストマーの混合樹脂(PC/Pes)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)でオリゴマー成分の生成が認められた。これは押出成形機のダイから押し出される付近において熱とせん断力で樹脂の分子鎖が切断されて成形ベルト表層にオリゴマー成分が多く生成した結果、さらにはダイから押し出された直後にその表層が空気中の酸素に触れて酸化分解されることによってもオリゴマー成分が生成した結果と考えられる。
【0069】
〔試験例2〕
以下の条件で本発明の中間転写ベルト部材を作製し、評価を行った。
(実施例1)
(1)樹脂組成物
熱可塑性樹脂としてポリブチレンテレフタレート(PBT、商品名ノバデュラン5505S、三菱エンジニアリングプラスチックス社製)100重量部に導電剤として導電性カーボンブラック(デンカブラック粒状品 平均一次粒子径35nm、電気化学社製)8重量部を添加し、ニーダーで150℃、80分混練後、さらに2本ロールを用いて30分間導電剤の分散を行い、ペレタイザーでペレット化することでペレット状の樹脂組成物を得た。
(2)押出成形
ついで、ペレット状の樹脂組成物を用いて環状ダイスにより円筒状に押出し成形して、厚さ100μmの成形ベルトを作製した。
なお、成形ベルトの電気特性をハイレスタUP MCP−HT450型((株)ダイアインスツルメンツ製)を用いて、成形されたベルトの抵抗率の測定を行った。抵抗率は、250V、10sec印加後の値を測定し、複数の測定地点の平均を測定値とした。測定プローブは、URSプローブを用いた。実施例1で成形したベルトの体積抵抗率ρvは、Log(ρv(:250V))=9.3であった。
(3)電子線照射
つぎに、電子照射装置(浜松ホトニクス社製)において、成形ベルトの内径部に金属製円筒体を挿入し、この円筒体を回転させながら、金属製円筒体の軸方向両側に配置された照射装置から電子線を照射して中間転写ベルト部材を得た。このときの照射条件を、加速電圧30kV、照射量100kGyとした。
【0070】
(実施例2)
実施例1において、電子線照射量を200kGyとし、それ以外は実施例1と同じ条件で中間転写ベルト部材を作製した。
【0071】
(実施例3)
実施例1において、電子線照射量を500kGyとし、それ以外は実施例1と同じ条件で中間転写ベルト部材を作製した。
【0072】
(実施例4)
実施例1において、電子線加速電圧を50kVとし、それ以外は実施例1と同じ条件で中間転写ベルト部材を作製した。
【0073】
(実施例5)
実施例1において、電子線加速電圧を50kV、照射量を500kGyとし、それ以外は実施例1と同じ条件で中間転写ベルト部材を作製した。
【0074】
(実施例6)
実施例1において、ニーダーで混練する前に、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、導電性カーボンブラック(CB)とともに、架橋剤としてトリアリルイソシアヌレート(TAIC:日本化薬製)を0.5重量部添加し、それ以外は実施例1と同じ条件で中間転写ベルト部材を作製した。
なお、成形ベルトの電気特性をハイレスタUP MCP−HT450型((株)ダイアインスツルメンツ製)を用いて、成形されたベルトの抵抗率の測定を行った。抵抗率は、250V、10sec印加後の値を測定し、複数の測定地点の平均を測定値とした。測定プローブは、URSプローブを用いた。実施例1で成形したベルトの体積抵抗率ρvは、Log(ρv(:250V))=8.5であった。
【0075】
(実施例7)
実施例6において、電子線加速電圧を50kVとし、それ以外は実施例6と同じ条件で中間転写ベルト部材を作製した。
【0076】
(実施例8)
(1)樹脂組成物
熱可塑性樹脂としてポリカーボネート(PC、商品名ユーピロンS3000、三菱エンジニアリングプラスチックス社製)80重量部、ポリエステルエラストマー(TPEE、ペルプレンS3001N、東洋紡績社製)20重量部、架橋剤としてトリアリルイソシアヌレート(TAIC:日本化薬製)を0.5重量部、導電剤として導電性カーボンブラック(デンカブラック粒状品 平均一次粒子径35nm、電気化学社製)8重量部を添加し、ニーダーで150℃、80分混練後、さらに2本ロールを用いて30分間導電剤の分散を行い、ペレタイザーでペレット化することでペレット状の樹脂組成物を得た。
(2)押出成形
ついで、ペレット状の樹脂組成物を用いて環状ダイスにより円筒状に押出し成形して、厚さ100μmの成形ベルトを作製した。
なお、成形ベルトの電気特性をハイレスタUP MCP−HT450型((株)ダイアインスツルメンツ製)を用いて、成形されたベルトの抵抗率の測定を行った。抵抗率は、250V、10sec印加後の値を測定し、複数の測定地点の平均を測定値とした。測定プローブは、URSプローブを用いた。実施例1で成形したベルトの体積抵抗率ρvは、Log(ρv(:250V))=9.0であった。
(3)電子線照射
つぎに、電子照射装置(浜松ホトニクス社製)において、成形ベルトの内径部に金属製円筒体を挿入し、この円筒体を回転させながら、金属製円筒体の軸方向両側に配置された照射装置から電子線を照射して中間転写ベルト部材を得た。このときの照射条件を、加速電圧70kV、照射量200kGyとした。
【0077】
(実施例9)
実施例8において、電子線照射量を500kGyとし、それ以外は実施例8と同じ条件で中間転写ベルト部材を作製した。
【0078】
(実施例10)
(1)樹脂組成物
熱可塑性樹脂としてポリフッ化ビニリデン(PVDF、商品名KAYNER720、アルケマ社製)100重量部に導電剤として導電性カーボンブラック(デンカブラック粒状品 平均一次粒子径35nm、電気化学社製)8重量部、イオン導電剤(ion、テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩 広栄化学社製)1重量部を添加し、さらに架橋剤としてトリアリルイソシアヌレート(TAIC:日本化薬製)を0.5重量部添加し、ニーダーで150℃、80分混練後、さらに2本ロールを用いて60分間導電剤の分散を行い、ペレタイザーでペレット化することでペレット状の樹脂組成物を得た。
(2)押出成形
ついで、ペレット状の樹脂組成物を用いて環状ダイスにより円筒状に押出し成形して、厚さ100μmの成形ベルトを作製した。
なお、成形ベルトの電気特性をハイレスタUP MCP−HT450型((株)ダイアインスツルメンツ製)を用いて、成形されたベルトの抵抗率の測定を行った。抵抗率は、250V、10sec印加後の値を測定し、複数の測定地点の平均を測定値とした。測定プローブは、URSプローブを用いた。実施例1で成形したベルトの体積抵抗率ρvは、Log(ρv(:250V))=10.7であった。
(3)電子線照射
つぎに、電子照射装置(浜松ホトニクス社製)において、成形ベルトの内径部に金属製円筒体を挿入し、この円筒体を回転させながら、金属製円筒体の軸方向両側に配置された照射装置から電子線を照射して中間転写ベルト部材を得た。このときの照射条件を、加速電圧30kV、照射量100kGyとした。
【0079】
(実施例11)
実施例8において、電子線加速電圧を50kVとし、それ以外は実施例8と同じ条件で中間転写ベルト部材を作製した。
【0080】
(比較例1)
実施例1において、電子線照射の処理は行わず、それ以外は実施例1と同じ条件で中間転写ベルト部材を作製した。
【0081】
(比較例2)
実施例1において、電子線加速電圧を100kVとし、それ以外は実施例1と同じ条件で中間転写ベルト部材を作製した。
【0082】
(比較例3)
実施例1において、電子線加速電圧を150kVとし、それ以外は実施例1と同じ条件で中間転写ベルト部材を作製した。
【0083】
(比較例4)
実施例10において、電子線加速電圧を150kVとし、それ以外は実施例8と同じ条件で中間転写ベルト部材を作製した。
【0084】
(評価項目)
以上のように得られた中間転写ベルト部材を、市販のプリンタ(IPSiO SP C220:株式会社リコー製)に中間転写体として装着し、以下の評価を行った。
(1)画像品質(トナー転写性)
市販のプリンタで、普通紙(T6200:株式会社リコー製)に約200μm間隔の細線の画像出力を行い、細線の画像評価を光学顕微鏡で目視観察し、細線の状態にトナーの飛散りなどの乱れがない場合を○、トナーの飛散りが認められるが細線の状態に乱れがない場合を△、トナーの飛散りが認められ、かつ細線の状態に乱れが認められる状態を×として評価を行った。
(2)ベルトの耐汚染性(ベルト表面へのトナー付着)
市販のプリンタで、普通紙(T6200:株式会社リコー製)に10000枚の印字を行い、中間転写ベルト部材の表面を目視観察した。このとき、ベルト表面にトナー付着が認められない状態を○、僅かにトナー付着が認められる状態を△、ベルト表面に明らかにトナー付着が認められる状態を×として評価を行った。
(3)ベルトの割れ
市販のプリンタで、普通紙(T6200:株式会社リコー製)に10000枚の印字を行い、中間転写ベルト部材の端部を目視観察した。このとき、ベルト端部に割れや亀裂が認められない場合を○、ベルト端部に割れや亀裂が認める場合を×として評価を行った。
以上の評価結果を表1に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
なお、これまで本発明を図面に示した実施形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0087】
1 中間転写ベルト部材
10 感光体ドラム
10K ブラック用感光体
10Y イエロー用感光体
10M マゼンタ用感光体
10C シアン用感光体
14、15、16 支持ローラ
17 クリーニング装置
18 画像形成手段
20 帯電ローラ
21 露光装置
22 二次転写装置
23 ローラ
24 二次転写ベルト
25 定着装置
26 定着ベルト
27 加圧ローラ
28 反転装置
30 露光光
32 コンタクトガラス
33 第1走行体
34 第2走行体
35 結像レンズ
36 読み取りセンサ
42K、42Y、42M、42C 現像剤収容部
43K、43Y、43M、43C 現像剤供給ローラ
44K、44Y、44M、44C 現像ローラ
45K ブラック用現像器
45Y イエロー用現像器
45M マゼンタ用現像器
45C シアン用現像器
49 レジストローラ
50 中間転写体
51 ローラ
52 コロナ帯電器
53 手差し給紙路
55 切換爪
56 排出ローラ
57 排紙トレイ
58 分離ローラ
60 クリーニング装置
61 現像器
62 転写ローラ
63 クリーニング装置
64 除電ランプ
70 除電ランプ
80 転写ローラ
90 クリーニング装置
95 記録媒体
100A、100B 画像形成装置
120 タンデム型現像器
130 原稿台
142 給紙ローラ
143 ペーパーバンク
144 給紙カセット
145 分離ローラ
146 給紙路
147 搬送ローラ
148 給紙路
150 複写装置本体
151 手差しトレイ
200 給紙テーブル
300 スキャナ
400 原稿自動搬送装置
L 露光光
【先行技術文献】
【特許文献】
【0088】
【特許文献1】特開2002−202668号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも熱可塑性樹脂と導電剤とを含む樹脂組成物を無端ベルト形状に溶融押出成形し、ついで該ベルト外周面に加速電圧10〜70kVの電子線を照射して、ベルト表層の前記熱可塑性樹脂由来のオリゴマー成分を電子線架橋させてなることを特徴とする中間転写ベルト部材。
【請求項2】
前記樹脂組成物は、前記無端ベルト形状に溶融押出成形した場合に、該ベルト成形物の引張弾性率が1500Mpa以上、4000Mpa未満、且つ体積抵抗率が1.0×10Ω・cm以上、1.0×1012Ω・cm未満となるものであることを特徴とする請求項1に記載の中間転写ベルト部材。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂は、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリフェニルサルファイド樹脂のいずれかを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の中間転写ベルト部材。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂は、ポリエステル系樹脂を含むことを特徴とする請求項3に記載の中間転写ベルト部材。
【請求項5】
前記樹脂組成物は、架橋剤を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の中間転写ベルト部材。
【請求項6】
前記架橋剤は、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレートのいずれか、またはこれらのうちいずれか2種以上の混合物であることを特徴とする請求項5に記載の中間転写ベルト部材。
【請求項7】
前記導電剤は、平均一次粒子径5〜50nmの導電性微粒子であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の中間転写ベルト部材。
【請求項8】
当該中間転写ベルト部材の厚みが50〜200μmであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の中間転写ベルト部材。
【請求項9】
少なくとも熱可塑性樹脂と導電剤とを含む樹脂組成物を無端ベルト形状に形成する溶融押出成形工程と、
前記ベルト外周面に加速電圧10〜70kVの電子線を照射して、ベルト表層の前記熱可塑性樹脂由来のオリゴマー成分を電子線架橋させる電子線照射工程と、
を有することを特徴とする中間転写ベルト部材の製造方法。
【請求項10】
少なくとも、像担持体上に静電潜像を形成するための静電潜像形成手段と、前記像担持体上に形成された静電潜像をトナーを用いてトナー像とする現像手段と、前記像担持体上のトナー像を中間転写体上に転写する一次転写手段と、前記中間転写体上のトナー像を被記録媒体上に転写する二次転写手段と、該被記録媒体上のトナー像を定着する定着手段と、を備えた画像形成装置であって、
前記中間転写体が請求項1〜8のいずれかに記載の中間転写ベルト部材であることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−230157(P2012−230157A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96889(P2011−96889)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】