説明

主リザーバ別置型マスタシリンダ

【課題】主リザーバ別置型マスタシリンダにおいて、主リザーバと補助リザーバの高低差が小さくせざるを得ない場合にもエアー抜きを確実に行えるようにする。
【解決手段】マスタシリンダ1に取り付ける補助リザーバ3の上部に、ブリーダバルブ8を取り付けたエアー抜きポート7を設け、さらに、そのエアー抜きポート7よりも下側において補助リザーバ3に作動液導入ポート6を設け、マスタシリンダ1から独立した位置に設置する主リザーバ2の作動液供給ポート5と前記作動液導入ポート6をホース4で接続するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用の液圧ブレーキ装置に採用するマスタシリンダ、詳しくは、主リザーバをマスタシリンダから独立した位置に設ける主リザーバ別置型マスタシリンダに関する。
【背景技術】
【0002】
首記の主リザーバ別置型マスタシリンダの従来例としては、例えば、下記特許文献1に開示されたものがある。
【0003】
主リザーバ別置型マスタシリンダは、図6に示すように主リザーバ2をマスタシリンダ1から独立した位置に設置し、マスタシリンダ1に取り付けた補助リザーバ3にホース4で接続して主リザーバ2から補助リザーバ3に作動液の供給を行う。
【0004】
この主リザーバ別置型マスタシリンダは、主リザーバ2と補助リザーバ3の高低差Hを利用して自然の力で主リザーバ2内の作動液を補助リザーバ3に流すようにしており、円滑な作動液供給のために主リザーバ2と補助リザーバ3との間に十分な高低差を採ることが不可欠となっている。
【0005】
ところが、最近では車両のデザイン面や歩行者保護の観点などからマスタシリンダと別置主リザーバとの間に大きな高低差をつけることが難しくなってきている。歩行者保護の面からは車両のボンネットからエンジンルーム内の主リザーバまでの間隔を大きくすることが要求されており、マスタシリンダの位置は変わらないため、主リザーバの位置を下げた分、前述の高低差が小さくなってしまう。
【0006】
主リザーバ2と補助リザーバ3の高低差が十分にとれず、主リザーバ2の作動液供給ポートよりも補助リザーバ3の作動液導入ポートの位置が高くなるような事態が生じると、液圧ブレーキ装置の回路に作動液を充填するときのエアー抜きができなくなってしまう。
【0007】
そのエアー抜きのために、主リザーバ2と補助リザーバ3の高低差を要求に応えられるところまで小さくすることができないと言う問題があった。
【特許文献1】実開平2−81265号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は、主リザーバと補助リザーバの高低差が小さくてもエアー抜きを確実に行えるようにして上記の高低差をより小さくした主リザーバ別置型マスタシリンダを実現できるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、この発明においては、マスタシリンダに取り付ける補助リザーバの上部に、ブリーダバルブを取り付けたエアー抜きポートを設け、さらに、前記補助リザーバの前記エアー抜きポートよりも下側に作動液導入ポートを設け、マスタシリンダから独立した位置に設置する主リザーバの作動液供給ポートと前記作動液導入ポートをホースで接続して主リザーバ内の作動液を補助リザーバに供給するようにした。
【0010】
なお、エアー抜きポートに取り付けるブリーダバルブは、ねじ込み量を変化させてエアー抜きポートを開閉する一般的なねじ込み式のものでもよいが、それよりは、外周に第1係合部とこの第1係合部に対して軸方向に変位した第2係合部を設け、先端側を前記エアー抜きポートの出口部にスライド自在に差し込むようにしたものが好ましい。このように構成したブリーダバルブは、前記エアー抜きポートを構成する筒部の外周に係止させて軸方向相対移動を阻止するバルブ固定具を設け、このバルブ固定具の一端の係止部をブリーダバルブの外周の第1係合部又は第2係合部に着脱自在に係止させて前記エアー抜きポートを閉鎖する第1の差し込み位置と、前記エアー抜きポートを開放する第2の差し込み位置に選択的に固定することができる。
【発明の効果】
【0011】
この発明の主リザーバ別置型マスタシリンダは、補助リザーバに新たにエアー抜きポートを設け、そのエアー抜きポートよりも下側に作動液導入ポートを設けたので、作動液導入ポートの位置が従来に比べて低くなった分、主リザーバの位置を従来よりも下に下げて主リザーバから補助リザーバに作動液を流入させることができる。
【0012】
また、補助リザーバの上部にエアー抜きポートを設けたので、主リザーバと補助リザーバの高低差が制限された結果、補助リザーバの上部の内部空間を主リザーバの作動液供給ポートよりも上側に置かざるを得ない状況が仮に発生したとしても、補助リザーバ内のエアー抜きを支障なく行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明のマスタシリンダの実施形態を添付図面の図1〜図5に基づいて説明する。図1の1はマスタシリンダ、2はマスタシリンダ1とは別箇所に設置する主リザーバ、3はマスタシリンダ1の上部に取り付けた補助リザーバである。マスタシリンダ1は、圧力室(図示せず)内の作動液をピストン(これも図示せず)で加圧してブレーキ液圧を発生させる周知のマスタシリンダであるので詳細説明は省く。このマスタシリンダ1が非作動状態にあるときに、補助リザーバが圧力室に連通し、圧力室に対する作動液の補充がなされる。
【0014】
主リザーバ2は作動液供給ポート5を、また、補助リザーバ3は作動液導入ポート6を
それぞれ有し、その作動液供給ポート5と作動液導入ポート6との間をホース4で接続して主リザーバ2から補助リザーバ3に作動液を供給(補充)するようにしている。
【0015】
作動液供給ポート5は、従来同様、主リザーバ2の最下部に設けられている。一方、作動液導入ポート6は、従来は補助リザーバ3の最上部に設けていたが、この発明ではこの作動液導入ポート6をリザーバ底部側に偏った位置に設け、この作動液導入ポート6よりも上側にエアー抜きポート7を新たに付加している。作動液導入ポート6よりも上側にエアー抜きポート7を設けると、主リザーバ2から作動液を送り込んでブレーキ回路のエアー抜きを行うときに、エアー抜きポート7を開いて補助リザーバ3に流入したエアーを補助リザーバ3の上部から回路外に排出することができる。
【0016】
主リザーバ2と補助リザーバ3の高低差Hが従来よりも小さくなっても、主リザーバ2内の作動液の液面がエアー抜きポート7の設置点よりも高い位置にあるように主リザーバ2の高さ位置を設定してエアー抜きポート7からエアーを抜きながらブレーキ回路に対する作動液の充填を行うことで、補助リザーバ3の内部空間の作動液導入ポート6よりも高い位置にある部分にも作動液を充填することができる。
【0017】
例示のマスタシリンダでは、エアー抜きポート7を補助リザーバ3の最上部に設けている。また、そのエアー抜きポート7に、ポートを開閉するブリーダバルブ8を取り付けている。9はバルブ固定具、10はブリーダバルブ8の出口に装着するキャップである。ブリーダバルブ8は、先端側にOリングを装着した小径の弁部8cを、その弁部8cよりも後方に排気孔8dをそれぞれ有しており、弁部8cがエアー抜きポート7の小径ポート部から抜け出した第2の位置(図2参照)でエアー抜きポート7を開放する。また、弁部8cがエアー抜きポート7の小径ポート部に差し込まれた第1の位置(図3参照)でエアー抜きポート7を閉鎖する。
【0018】
図2、図3に示すように、エアー抜きポート7を形成する筒部11の外周には、係合部(環状溝)11aを設けている。また、ブリーダバルブ8の外周には、係合部(環状溝)11aと同様の構造の第1係合部8aと第2係合部8bを軸方向に位置を変えて設けている。
【0019】
バルブ固定具9は、筒部11の外周に添わせる半円筒状の基部9aを有しており、図4に示すように、その基部9aの一端に、第1係合部8a又は第2係合部8bに着脱自在に係止させる係止部9bを、他端に筒部11の外周に嵌めて係合部11aに係止させる係止部9cをそれぞれ設けている。係止部9b,9cは、係合部11aや第1係合部8a(又は第2係合部8b)の外周に圧入して係合させる。この係止部9b,9cの入り口は係合部11aや第1、第2係合部8a,8bの外径よりも狭く、その入り口を、係止部9b,9cを弾性変形させて押し広げて係止部9b,9cを係合部11aや第1、第2係合部8a,8bの外周に嵌める。係止部9b,9cは、その後に弾性復元し、入り口が縮んでバルブ固定具9の装着状態が維持される。
【0020】
例示のブリーダバルブ8とバルブ固定具9を備えるものは、エアー抜きポート7の開閉を、ブリーダバルブ8を非回転で単に第2の位置から第1の位置に、またはその逆にスライドさせる方法で行うことができる。具体的には、ブリーダバルブ8をバルブ固定具9でエアー抜きポート7が開放される位置(図2に示す第2の位置)に保持して補助リザーバ3の内部のエアー抜きを行い、その後にバルブ固定具9を一旦外してブリーダバルブ8をエアー抜きポート7が閉鎖される位置(図3に示す第1の位置)にスライドさせて押し込み、その押し込み状態を、バルブ固定具9を再装着して保持する方法を採ることができ、エアー抜き時の作業が単純化される。
【0021】
なお、使用するブリーダバルブは、図2、図3に示したものが好ましいが、エアー抜きポート7の開閉状態を筒部11に対するねじ込み量を変化させて行うねじ込み式のブリーダバルブ18(図5参照)であってもよい。
【0022】
また、バルブ固定具9の材質は特に問わない。金属で形成されたもののほかに硬質樹脂で形成されたものを使用することも考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明の主リザーバ別置型マスタシリンダの一例の概要を示す側面図
【図2】エアー抜きポートを開放したときのブリーダバルブ取り付け部の拡大断面図
【図3】エアー抜きポートを閉鎖したときのブリーダバルブ取り付け部の拡大断面図
【図4】ブリーダバルブ固定具の斜視図
【図5】ブリーダバルブの他の例を示す断面図
【図6】従来の主リザーバ別置型マスタシリンダの一例の概要を示す側面図
【符号の説明】
【0024】
1 マスタシリンダ
2 主リザーバ
3 補助リザーバ
4 ホース
5 作動液供給ポート
6 作動液導入ポート
7 エアー抜きポート
8 ブリーダバルブ
8a 第1係合部
8b 第2係合部
8c 弁部
8d 排気孔
9 バルブ固定具
9a 基部
9b,9c 係止部
10 キャップ
11 筒部
11a 係合部
H 主リザーバとマスタシリンダの高低差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタシリンダ(1)に取り付ける補助リザーバ(3)の上部に、ブリーダバルブ(
8)を取り付けたエアー抜きポート(7)を設け、さらに、前記補助リザーバ(3)の前記エアー抜きポート(7)よりも下側に作動液導入ポート(6)を設け、マスタシリンダ(1)から独立した位置に設置する主リザーバ(2)の作動液供給ポート(5)と前記作動液導入ポート(6)をホース(4)で接続して主リザーバ(2)内の作動液を補助リザーバ(3)に供給するようにした主リザーバ別置型マスタシリンダ。
【請求項2】
前記ブリーダバルブ(8)の外周に軸方向位置を異ならせて第1係合部(8a)と第2係合部(8b)を設け、このブリーダバルブ(8)の先端側を前記エアー抜きポート(
7)にスライド自在に差し込み、エアー抜きポート(7)を形成する筒部(11)の外周の係合部(11a)に軸方向相対移動不可に係止するバルブ固定具(9)を設け、このバルブ固定具(9)の一端の係止部(9b)をブリーダバルブ(8)の外周の前記第1係合部(8a)又は第2係合部(8b)に着脱自在に係止させて前記ブリーダバルブ(8)を
、前記エアー抜きポート(7)を閉鎖する第1の差し込み位置と、前記エアー抜きポート(7)を開放する第2の差し込み位置に選択的に固定可能となしたことを特徴とする請求項1に記載の主リザーバ別置型マスタシリンダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−15444(P2007−15444A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−196365(P2005−196365)
【出願日】平成17年7月5日(2005.7.5)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】