説明

乗り物の情報取得システム

【課題】乗り物に搭載されたEDR等のメモリから所定の情報を容易に取得できるようにするとともに、その情報の信憑性を担保する。
【解決手段】一例として自動二輪車1のような乗り物に搭載されて、この乗り物に関する所定の乗り物情報(イベントデータ、ヒストリデータ等)が記録される不揮発性メモリ35と、乗り物には搭載されず、人間が携帯可能に構成され、不揮発性メモリ35から乗り物情報を読み取って暗号化して記憶するとともに、この暗号化された情報を出力可能な携帯読取装置40と、乗り物には搭載されず、携帯読取装置40とは別体に構成され、当該携帯読取装置40から出力された暗号化情報を解読して乗り物情報に復号可能な解析装置42と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗り物の所定の情報を取得するためのシステムに関連し、特に、乗り物に搭載されたメモリから情報を読み取って、解析装置等に提供する手法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、運転に関する情報を記録するために自動車に搭載されるイベントデータレコーダ(以下、EDRと略称する)は知られている(特許文献1を参照)。EDRは、例えば加速度センサにより所定以上の衝撃を検知すると、自動車に搭載された各種機器の衝撃検知前後における出力をROM(メモリ)に記録する。こうして記録した情報を解析すれば、所定以上の衝撃や急ブレーキ、車速の急変等、自動車の通常の走行状況とは異なる、いわば異常な状態について把握することが可能で、これに基づいて運転状況の解析を行うことが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−310764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、前記特許文献1に記載のシステムにおいてEDRの情報を取得するためには、自動車をメンテナンス会社等の特定の施設に持ち込んで、診断用コネクタにコンピュータ装置を接続し、メモリからデータ(情報)をダウンロードする必要がある。このように自動車を特定の施設まで移動させるには手間がかかり、特に自動車が故障ないし損傷している場合は自力で走行できないこともあるので、前記のような施設への移動には困難を伴うことが多い。
【0005】
この点について、例えばノートPCのように携帯可能な機器を用いてEDRのメモリからデータをダウンロードすることも考えられるが、この場合には携帯可能な機器にダウンロードした情報が誤って書き換えられてしまったり、その情報の一部が失われたりするおそれがある。つまり、情報の信憑性が損なわれ、自動車の運転状況を正確に解析できなくなることが懸念される。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、乗り物に搭載されたEDR等のメモリから所定の情報を容易に取得できるようにするとともに、その情報の信憑性を担保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成すべく本発明は、乗り物に搭載されて、この乗り物に関する所定の乗り物情報が記録される不揮発性メモリと、前記乗り物には搭載されず、人間が携帯可能に構成されて、前記不揮発性メモリから前記乗り物情報を読み取って暗号化して記憶するとともに、この暗号化された情報を出力可能な携帯読取装置と、前記乗り物には搭載されず、前記携帯読取装置とは別体に構成されて、当該携帯読取装置から出力された前記暗号化情報を解読して前記乗り物情報に復号可能な解析装置と、を備える乗り物の情報取得システムである。
【0008】
前記のシステムによれば、まず、乗り物に搭載された不揮発性メモリに所定の乗り物情報が記録される。乗り物の主電源が切られても不揮発性メモリの情報は消えることがなく、保持される。この乗り物情報を取得するには、携帯読取装置を用いて不揮発性メモリから情報を読み取って記憶させればよいので、乗り物自体は特定の施設などに移動しなくても済み、乗り物情報を容易に取得することができる。
【0009】
しかも、前記のように不揮発性メモリから読み取られた乗り物情報は暗号化され、携帯読取装置には暗号化情報として記憶されるので、この暗号化情報が解読装置に提供されて解読(復号)されるまでは、不用意に書き換えられたり情報の一部が失われたりする心配はない。つまり、情報の信憑性が極めて高い。なお、携帯読取装置には解読プログラムはインストールされていない。
【0010】
ここで、前記の乗り物情報としては運転状況の解析を行うためのものに限らず、一例としてユーザの乗り方と燃費との相関関係を調べたり、異音などの不具合が発生する状況を特定するなど、用途に応じて好適な種々の情報を記録してもよい。例えば不揮発性メモリには、前記乗り物情報として前記乗り物の異常な状態に関する異常時情報と、当該乗り物の識別に利用可能な識別情報とを記録してもよい。
【0011】
なお、異常な状態とは、例えば自動二輪車の場合、転倒による衝撃などが考えられるが、それだけでなく過度の急制動、急操舵のように、通常の移動中には起こりにくい操作に対応して、結果として転倒に関連し得る乗り物の移動状態としてもよい。また、公知のトラクション制御やアンチロック制御の介入に基づいて異常な状態と判定するようにしてもよい。異常時情報に基づいて転倒時などの状況を把握し、その解析を行うことが可能になる。一方、識別情報は一例として乗り物の機種、仕向地の他、車体番号などとしてもよく、この識別情報が含まれることで、乗り物情報の信憑性がさらに高くなる。
【0012】
前記不揮発性メモリは前記乗り物の運転制御のためのコントローラに着脱不能に配設してもよく、例えば半導体メモリをコントローラの基盤に配設してもよい。こうすれば、コントローラの制御プログラムに乗り物情報を記録するためのルーチン等を追加するだけでよく、専用の記録装置は不要なので、省スペース化および低コスト化に有利になる。この場合、識別情報としてはコントローラの型番などとしてもよい。
【0013】
また、不揮発性メモリは書き換え不能なものとしてもよく、例えばPROM(Programable ROM)、EPROM(Erasable Programable ROM)等の半導体メモリを用いることができる。こうすれば、不揮発性メモリに乗り物情報を記録するプログラムにおいて情報の書き換えや上書きを禁止するのみならず、不揮発性メモリ自体が情報の書き換えや上書きを受け付けないので、記録されている乗り物情報の信憑性がさらに高くなる。
【0014】
また、不揮発性メモリには、乗り物情報として前記異常時情報だけでなく、乗り物の正常な状態に関する正常時情報も記録してもよい。正常時情報とは、前記した異常時情報に含まれない情報全般であってもよく、例えばユーザの通常の乗り方を表す運転操作や移動速度、さらにはその履歴のような情報であってもよい。このような正常時情報を前記の異常時情報などと組み合わせることで、転倒など運転状況の解析の精度を高めることができる。
【0015】
その場合に正常時情報の時間あたりの記録量は、異常時情報に比べて少なくしてもよく、こうすれば、不揮発性メモリの限られた記録容量の範囲で有用な情報をなるべく多く記録することができる。また、異常時情報の記録回数は予め設定した回数に制限してもよく、こうすれば、設定回数を超えた異常情報の上書きを防止できるとともに、正常時情報の記憶容量を確保する上で有利になる。
【発明の効果】
【0016】
以上、説明したように本発明に係る乗り物の情報取得システムによると、乗り物情報を取得するために乗り物自体を特定の施設などに移動する必要がなく、携帯読取装置を用いて読み取った乗り物情報を容易に解読装置に提供することができる。乗り物情報は乗り物の不揮発性メモリに記録されており、携帯読取装置によって読み取られるときに暗号化されるので、解読装置において解読(復号)されるまで不用意に書き換えられたり、失われたりする心配がなく、信憑性は高い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る自動二輪車の左側面図である。
【図2】図1に示す自動二輪車に搭載されたEDRを説明するブロック図である。
【図3】図2に示すEDRの動作を説明するフローチャートである。
【図4】イベントデータおよびヒストリデータの記録される期間を模式的に示す説明図である。
【図5】一例としてヒストリデータに含まれる車速域の分布について説明する図面である。
【図6】イベントデータおよびヒストリデータの取得システムの構成の説明図である。
【図7】図6に示すデータ取得システムの動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一または相当する要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。また、以下の説明で用いる方向の概念は乗り物に乗車した運転者を基準とする。
【0019】
図1は、本発明の実施の形態に係る自動二輪車1(乗り物)の左側面図である。図1に示すように自動二輪車1は前輪2と後輪3とを備え、前輪2は、略上下方向に延びる左右一対のフロントフォーク4の下端部に回転自在に支持されている。左右のフロントフォーク4の上部は、図示は省略するが、アッパおよびロワの一対のブラケットによって互いに連結されるとともに、ステアリングシャフト(図示せず)を介して車体側のヘッドパイプ5に回転自在に支持されている。また、アッパブラケットには、左右へ延びるバー型のハンドル6が取り付けられており、このハンドル6を回動操作することによって運転者は、前記ステアリングシャフトを回動軸として前輪2を所望の方向へ転向させることができる。
【0020】
また、運転者の右手により把持されるハンドル6の右側のグリップは、手首のひねりにより回動させて走行速度を調節するスロットルグリップ(図示せず)となっており、反対側の左側のグリップの前方にはクラッチレバー8が設けられている。ハンドル6の左右の中央部の前方には、走行速度やエンジン回転数を表示するメータを有するメータユニット9が配設されている。
【0021】
一方、ハンドル6の後方のヘッドパイプ5からは左右一対のメインフレーム10が若干下方に傾斜しながら後方へ延びており、その後部に左右一対のピボットフレーム11が接続されている。ピボットフレーム11には略前後方向に延びるスイングアーム12の前端部が枢支されており、このスイングアーム12の後端部に駆動輪である後輪3が回転自在に軸支されている。メインフレーム10の上方には燃料タンク13が設けられており、その後方に騎乗用のシート14が設けられている。
【0022】
メインフレーム10の下方には、このメインフレーム10およびピボットフレーム11に支持された状態でエンジンEが搭載されている。一例としてエンジンEの後側には、左右のメインフレーム10に挟まれてスロットル装置15が配設され、このスロットル装置15の上部にはエアクリーナボックス16が接続されている。一方、エンジンEの前側には排気管17が接続され、エンジンEの下方を潜って後方へと延びている。この排気管17を含めてエンジンE等を車体前方から両側にかけて覆うようにカウリング19が設けられている。
【0023】
また、本実施形態の自動二輪車1では、主にエンジンEなどの運転制御を行うためのECU18(運転制御のためのコントローラ)が設けられており、一例としてシート14の下方に収容されている。このECU18の本来の機能は、自動二輪車1に設けられた種々のセンサからの入力情報に基づいて予め定められた制御プログラムを実行し、エンジンEの種々のアクチュエータに駆動指令を与えて、エンジンEの運転制御を行うための制御装置である。一例としてECU18は、スロットル開度センサ、車速センサ、吸気圧センサ、ギヤポジションセンサからの情報に基づいて、燃料噴射装置および点火装置に駆動指令を与えるものであり、これによってエンジンEは、各種の運転状態に適した動作を行なう。
【0024】
それに加えて本実施形態のECU18は、以下に述べるように所定の乗り物情報を記録するイベントデータレコーダとしての機能も有しており、一例として転倒センサ21により自動二輪車1の転倒が検出されたときに、その状況を把握するために有用なイベントデータを記録するようになっている。転倒センサ21は、自動二輪車1の前後軸回りの加速度または姿勢を検出するものを用いることができる。姿勢検知する場合には転倒センサ21は、振り子式のムーブメントが内蔵されており、ムーブメントが所定角度以上の回動状態を検知すると検知信号を出力する検知回路を有している。
【0025】
そして、転倒センサ21は、自動二輪車1が左右方向に所定角度(例えば65度)以上に傾倒したことを検知するようになっており、図1の例ではエンジンEの後方で左側のメインフレーム10の内側面に固定されている。この転倒センサ21からの入力情報に基づいてECU18は、自動二輪車1の転倒を判定するとエンジンEが停止するように各種アクチュエータに指令する。これによって転倒後もエンジンEが動作することを防ぐことができる。
【0026】
−イベントデータレコーダ−
図2は、図1に示す自動二輪車1に搭載されたイベントデータレコーダ20(以下、EDR20と略称)を説明するためのブロック図である。本実施形態のEDR20は、ECU18の演算機能を利用して構成されており、ECU18には前記の転倒センサ21の他、それ以外の各種センサ22および各種スイッチ23が少なくとも接続されている。また、ECU18にはエンジンEの吸気装置15や燃料噴射装置および点火装置等が少なくとも接続されている。
【0027】
個々には図示しないが前記の各種センサ22としては、エンジン回転数センサ、スロットルポジションセンサ、ギヤポジションセンサ、前輪2および後輪3の各車速センサ、加速度センサ、ジャイロセンサ(バンク角検知装置)、GPSセンサ、サスペンションストロークセンサ、タイヤ空気圧センサ、グリップ感圧センサ、シート感圧センサ、水温センサ、油圧センサ、運転者監視センサ、二人乗り検知センサ等が設けられている。また、前記の各種スイッチ23としては、ブレーキスイッチ、クラッチスイッチ、スタンドスイッチ等が設けられている。
【0028】
そして、ECU18は、前記の転倒センサ21および各種センサ22、並びに各種スイッチ23からの出力を受けて、エンジンEの運転制御などを行うとともに、それらの出力を所定時間毎に更新しながら記憶しておき、そのうちのいずれかのデータを自動二輪車1に関する所定の乗り物情報として記録する。さらに、ECU18にはシステムの診断用のコネクタ26が設けられており、詳しくは後述するが、その診断用コネクタ26に通信線39(図6参照)を介して携帯読取装置40が接続され、前記の乗り物情報のデータの読み取りが行われる。
【0029】
そのデータの記録について、より詳しくは、前記の各種センサおよびスイッチ21〜23からの出力は、自動二輪車1の電源がONになっている間、ECU18のデータ出力制御部32によってRAM34(電源供給されないとデータ消去してしまう一時記憶装置)に時系列のデータとして記憶され、所定時間毎に更新される。そして、自動二輪車1の通常の使用状況に対応する所定のデータ(正常時情報)がヒストリデータとして、電源供給されなくてもデータ消去されない不揮発性メモリ35に記録される。また、例えば自動二輪車1が転倒すれば、これに関連し得る所定のデータ(異常時情報)がイベントデータとして不揮発性メモリ35に記録される。
【0030】
すなわち、一例としてECU18は、転倒判定部30、トリガ生成部31、データ出力制御部32および時刻生成部33を有している。転倒判定部30は、転倒センサ21の出力に基づいて自動二輪車1が転倒状態であるか否かを判定する機能を有する。トリガ生成部31は、転倒判定部30により自動二輪車1が転倒したと判定された場合に、データ出力制御部32にトリガーを送信する機能を有する。そして、データ出力制御部32は、トリガ生成部31からトリガーを受信した際に、RAM34からイベントデータを読み出して不揮発性メモリ35に上書不可能に記録する機能を有する。なお、時刻生成部33は、現在時刻をデータ出力制御部32に適宜送信するタイマー機能を有する。
【0031】
また、ECU18の回路基盤には半導体メモリからなるRAM34と、一例としてEPROM等の一度記憶したデータの書き換えが不能な半導体メモリからなる不揮発性メモリ35とが、例えばハンダ付けされて着脱不能に取付けられている。データ出力制御部32は、前記のようにイベントデータを不揮発性メモリ35に記録する際に、ヒストリデータもRAM34から読み出して、不揮発性メモリ35に記録するようにしてもよいが、これ以外にも、転倒判断と無関係にヒストリデータを不揮発性メモリ35に記録するようにしてもよい。一例として、自動二輪車1の電源がOFFされたときにも一定期間、電源供給を維持してRAM34からヒストリデータを読み出して、不揮発性メモリ35に記録するようにしてもよい。
【0032】
こうしてEDRトリガー発生とは異なる時点にヒストリデータの不揮発性メモリ35への記憶を実行することで、ヒストリデータの不揮発性メモリ35への記憶回数を減らすことができるとともに、転倒時に記憶するデータ量を少なくすることができ、安定してイベントデータを不揮発性メモリ35に記憶することができる。さらに電源OFF時からEDRトリガー発生時までのヒストリデータについて、イベントデータと共に不揮発性メモリ35に記憶することが好ましい。これによって転倒直前でのヒストリデータについても不揮発性メモリ35に記憶できる。
【0033】
一例として不揮発性メモリ35には、ヒストリーデータの記憶領域とイベントデータの記憶領域とが別々に設定されていて、特にイベントデータについては、いわゆるミラーリングを行うための2つの記憶領域が設定されている。よって、前記のように自動二輪車1の転倒をトリガーとしてデータ出力制御部32がイベントデータを不揮発性メモリ35に記録するときに、転倒の際の衝撃などによってシステムが電気的に不安定になったとしても、2つの記憶領域のデータを対比することでその信憑性を確かめることができる。
【0034】
なお、不揮発性メモリ35には、前記のイベントデータおよびヒストリデータと併せて、自動二輪車1の識別に利用可能な識別情報のデータも記録されている。一例として識別情報は、ECU18の型番であってもよいし、自動二輪車1の機種や仕向地などの情報であってもよい。また、前記のヒストリデータに含まれる工場出荷からの自動二輪車1の通算の運転時間なども識別情報として利用可能である。
【0035】
−イベントデータレコーダの動作−
次に、図3に示すフローチャートを参照しながらEDR20の動作について説明する。一例として図2および図3に示すように、まず、運転者が電源をONすると、ECU18のデータ出力制御部32は、転倒センサ21、各種センサ22および各種スイッチ23の出力をRAM34に記憶して所定時間毎に更新する。即ちRAM34の記憶容量を超える分については最も古いデータの領域から順に上書き保存していく。なお、RAM34に記憶されるイベントデータの更新は、所定時間毎ではなく所定データ量の記憶毎に更新してもよく、予め定める条件に従って古いデータが消去されて新しいデータが記憶される構成であればよい。そして、例えば後輪3の速度センサの出力を参照することなどによって、自動二輪車が走行状態であるか否かが判断され(ステップSA1:走行中?)、判断がNoの場合はステップSA1に戻る。
【0036】
これに対し、走行状態であるYesと判断されれば、今度はステップSA2において転倒判定部30により、転倒センサ21からの出力に基づいて自動二輪車1が転倒したか否かが判断される。この判定がNoで自動二輪車1は転倒していないのであれば、RAM34に保存されている前記のセンサおよびスイッチ23の出力のデータからヒストリデータが演算され(ステップSA3)、RAM34のヒストリデータの記憶領域に記憶されて、ステップSA1に戻る。
【0037】
一方、自動二輪車1が転倒し、車体が継続して所定角度以上に傾斜することにより、転倒センサ21から検知状態に相当する出力が所定時間にわたり連続して出力されると、前記のステップSA2で転倒しているYesと判断され、続いてこの転倒の判断が予め設定した回数n未満か否か判断される(ステップSA4)。そして、転倒回数i<nでYesと判断されれば、データ出力制御部32によりRAM34からイベントデータおよびヒストリデータが読み出されて、不揮発性メモリ35に上書き不能に記録される(ステップSA5)。その後、ステップSA6で転倒判断の累積回数iがインクリメントされ(i←i+1)、ステップSA1に戻る。
【0038】
一方、自動二輪車1が転倒して前記のように転倒の判断がなされても(ステップSA2でYes)、この転倒の判断の累積回数iが設定回数n以上の場合は(ステップSA4でNo)、不揮発性メモリ35へのイベントデータの記録は行わない。この場合は、データ出力制御部32によりRAM34からヒストリデータのみが読み出されて、不揮発性メモリ35に上書き不能に記録され(ステップSA7)、その後、ステップSA1に戻る。
【0039】
すなわち、前記したように不揮発性メモリ35は書き換え不能なものであり、その記憶容量は限られているので、データ量の非常に多いイベントデータは、その記録回数を設定回数n(例えばn=3〜5とすればよい)に制限している。図4に模式的に示すように、イベントデータDeは、トリガー受信時点とそこから所定時間(例えば8秒間)遡った過去の時点との間の各種センサ22および各種スイッチ23の出力のデータであり、サンプリング時間が短いことから、時間間隔が短くてもデータ量は非常に多い。
【0040】
一方、ヒストリデータDhは、一例として過去の車速(後輪車速)の最大値や電源ONの回数等であり、その時間あたりのデータ量はイベントデータに比べて格段に少ない。よって、不揮発性メモリ35におけるヒストリデータの記憶領域はあまり大きく設定しなくても、概ね10年以上に亘ってヒストリデータを記録することができる。
【0041】
つまり、本実施形態では、自動二輪車1の転倒時の状況を表すためにデータ量が非常に多くなるイベントデータについては、その記録回数を制限し、工場出荷時点から現在に至るヒストリデータの記憶容量を確保するようにしており、不揮発性メモリ35の限られた記録容量の範囲内において有用な情報をなるべく多く記録することができる。なお、前記したようにイベントデータの記録の制限回数を超えてもヒストリデータの記録は継続され、その中には転倒回数も含まれている。
【0042】
−イベントデータ−
具体的にイベントデータは、少なくとも乗物の運転者の操作に関連する情報を含み、転倒の状況を把握し、その解析が可能となりやすい情報であって、通常の運転中には起こりにくい運転者の操作に関連し、結果として転倒につながるような情報であってもよい。すなわち、イベントデータは、転倒要因として挙げられる過度の急制動、急操舵、急加速などのように、通常の移動中には起こりにくい運転者の操作に関連し、結果として転倒に繋がるような情報を得るためのものであればよいが、運転者の操作に関連していなくても転倒状況の把握、解析に有用なものであればよい。
【0043】
イベントデータは、複数のセンサからの出力値の情報が予め定める時間間隔毎に記憶される。各情報は、時間変化の大小から記憶される時間間隔が異なるように設定されてもよい。例えば時間経過に対する変化が小さい情報は、時間経過に対する変化が大きい情報に比べて、時間間隔が長く設定される。また各情報は、注目する時点でそれぞれの情報を対比可能となるように、時間経過が同期するように記憶してもよい。またセンサの出力値の時間変化が判断可能となるように、注目するセンサからの出力値が時間経過に応じて複数記憶される。例えばサンプリング期間をsとすると、記憶される期間は、トリガー発生からさかのぼって、s×mとして設定される(mは自然数)。
【0044】
このようにイベントデータは、トリガー発生から所定期間さかのぼった期間まで、センサ・ECUの出力値の情報量をそのまま記憶することで、転倒状況の解析をしやすくすることができる。またイベントデータとして記憶される期間をトリガー発生からさかのぼった所定期間の間に制限することで、データ量が不所望に増加することを防ぐことができる。一例としてイベントデータは、自動二輪車1の転倒の際の状況を把握し、その原因などについて解析できるように、0.1〜0.5秒のサンプリング時間でRAM34に記憶させ、RAM34の記憶容量に対応して例えば10秒くらいの間隔でデータを更新するようにしてもよい。
【0045】
【表1】

【0046】
表1に一例を示すようにイベントデータは、前輪車速、後輪車速、スロットル開度、ギヤポジション、クラッチスイッチの出力、エンジン回転数、燃料噴射量、エラーフラグの他に、自動二輪車1の各種モード等々であってもよい。また、図示はしないが、二輪車特有の出力事項として、ジャイロセンサにより出力される車体のバンク角や、グリップ感圧センサにより出力される運転者のグリップ把持圧力などが挙げられる。転倒時の自動二輪車1のバンク角の遷移が記録されていれば、転倒の際の姿勢の変化を解析する上で有用である。
【0047】
より具体的にイベントデータとして、トリガー発生からさかのぼった所定期間のエンジン回転数のほか、走行速度または駆動輪車速が所定期間毎に複数記憶されることで、転倒直前での駆動輪のスリップ状況を解析することができる。同様に、走行速度および従動輪車速が所定期間毎に複数記憶されることで、転倒直前での従動輪のスリップ状況を解析することができる。
【0048】
また、イベントデータとして、各種センサ・アクチュエータのエラーフラグが記憶されることで、転倒直前での各種センサ・アクチュエータの異常状態の有無を判断することができ、異常状態が転倒に影響したかどうか解析することができる。また、イベントデータとして、各種エンジン制御モードの有無が記憶されることで、各種モードに起因する転倒かどうか解析することができる。例えば出力制限制御、燃費優先制御、スリップ判断時の出力抑制制御許、前後輪ロック時のABS制御許などの許可・不許可と、転倒との関係を判断することができる。
【0049】
さらに、イベントデータとして、減速時の燃料カット制御、スリップ時の出力抑制制御またはブレーキロック時のABS制御状態など、運転操作を支援するための制御の実行状態の有無を記憶してもよい。これによって転倒直前でのECUによる制御状態が転倒に影響したかどうか解析することができる。その他、バンク角、操舵角、ブレーキ圧、加速度、燃料情報などの時間変化、ターンシグナル動作情報、ヘッドランプのハイビーム有無、ハザードランプ、がイベントデータに含まれてもよい。
【0050】
−ヒストリデータ−
一方、ヒストリデータは、自動二輪車1の走行移動状態に関連する情報を含み、例えば運転者の運転操作の傾向を示すものである。以下の表2に一例を示すようにヒストリデータは、車速(後輪車速)の最大値、工場出荷からn回目のEDRトリガ発生までの電源ONの回数、n回目のEDRトリガ発生から読み出しまでの電源ONの回数の他に、TRC制御(Traction Control)の累積時間等々であってもよく、さらに車速の分布、スロットル開度の分布等やエンストの回数、転倒(立ちゴケを含む)の回数であってもよい。これらは、自動二輪車1のユーザの通常の使用状況を表しており、イベントデータを併せて自動二輪車1の転倒の原因などの解析に用いられる。
【0051】
【表2】

【0052】
また、ヒストリデータは、乗物移動速度の最大値、移動速度分布(全工場出荷時から計測された移動速度を速度域毎に累積し、累積結果を速度域ごとに示したもの)、転倒回数の累積値なども含んでいてもよい。ヒストリデータは、各センサ・ECUの出力値の累積値・極値を用いて、情報量を削減するように情報処理されて記憶されることで、データ取得期間が長期にわたる場合でも、出力値をそのまま記憶する場合に比べて、データ容量を削減することができる。
【0053】
例えばヒストリデータとして、工場出荷時から累積演算される自動二輪車1の電源ON回数・電源ON期間のほか、工場出荷時からn回目のEDRトリガー発生まで累積演算される電源オン回数・電源オン期間が記憶されることで、転倒に至るまでの運転者の操作傾向を分析することができる。
【0054】
また、自動二輪車1の走行移動速度の分布、スロットル開度の分布、最大車速等がヒストリデータとして記憶されることで、運転者の運転操作傾向を判断することができ、転倒原因の解析に利用できる。転倒判断時においてエンジン停止制御を実行した回数、スリップ判断時の出力抑制制御を実行した累積実行期間(トラコン制御の累積実行期間)などを記憶することで同様に運転者の運転操作傾向を判断できる。
【0055】
さらに、ヒストリデータとして、エンジンストップ回数、スリップ判断時の出力抑制制御を実行した回数(トラコン制御回数)、ABS制御回数、ABS制御の累積実行期間、ブレーキ圧の最大値、故障フラグ発生回数、故障フラグ発生累積期間、リザーブタンク使用回数、バッテリ上がり回数、スロットル開度時間変化率の最大値、ブレーキ圧時間変化率の最大値、最大バンク角など、各種センサ出力値の累積値・極値・平均値を含んでもよい。
【0056】
さらにまた、本実施形態ではヒストリデータとして、生データの加工値(累積値・極値・平均値)を用いることで、情報量を圧縮するとしているが、他の方法を用いて情報量を圧縮してもよい。例えばイベントデータに比べてサンプリング間隔を広げてもよい。
【0057】
前記ヒストリデータの一例として図5には、自動二輪車1の走行移動速度の分布、即ち車速域の分布について具体的に示す。これは、新車時からの車速のデータを累積し、一例として第1〜第6の車速域に分類して累積の使用時間として保存したものである。この例では第3車速域での運転頻度が一番高く、それに次いで第4車速域での運転頻度が高い。また、アイドルを含む第1車速域での運転時間が比較的長い。このことから、市街地走行が多く、ユーザはあまり高速走行をしないと考えられる。
【0058】
以上の構成により本実施形態のEDR20によると、自動二輪車1の例えば転倒をトリガーとしてイベントデータおよびヒストリーデータが記録され、これらのデータに含まれる情報に基づいて転倒時の状況を把握し、その解析を行うことが可能になる。なお、前記の実施形態のように転倒センサ21からの出力に基づいて自動二輪車1の転倒を判定するのではなく、例えば加速度センサや前輪2のタイヤ空気圧センサ等、他のセンサからの出力に基づいて自動二輪車1の衝突などを判断し、これに応じてデータを記録するようにしてもよい。
【0059】
また、自動二輪車1のハンドル6の左右のグリップに設けられたグリップ感圧センサやシート14に設けられた着座センサ等からの出力に基づいて、自動二輪車1の走行中にもかかわらず運転者が乗り物から離れた場合に、自動二輪車1の転倒に伴い運転者が当該自動二輪車1から投げ出されたと判断し、これに応じてデータを記録するようにしてもよい。
【0060】
−データ読み取りシステム−
図6には、前記のように構成されたEDR20からヒストリデータやイベントデータを取得するためのシステムを示す。この図6では、自動二輪車1のECU18に通信線39を介して携帯読取装置40を接続し、ECU18の不揮発性メモリ35からイベントデータやヒストリデータを読み取る状況を模式的に示している。携帯読取装置40は、一例としてマイコン、メモリ、I/O等を備え、診断用コネクタ26を介してECU18にデータの授受可能に接続される既存の診断用タブレットを利用すればよい。本実施形態では診断用タブレットに、ECU18のデータ出力制御部32と交信して不揮発性メモリ35からデータを読取り、暗号化して記憶する専用のプログラムをインストールしている。
【0061】
前記の診断用タブレットは本来、ECU18に記憶されるプログラム、データ情報などを読出すためのものなので、イベントデータやヒストリデータ以外の情報も読み出し可能である。イベントデータやヒストリデータ以外の情報は暗号化されてなくてもよく、携帯読取装置40に表示したり、携帯読取装置40で変更可能に構成されていてもよい。例えば通常走行用に設定されるエンジン制御プログラムを、サーキット走行用のエンジン制御プログラムへ変更可能としてもよい。そのほか、運転者または整備者によって、任意にECUプログラムを変更したり、ECU18に記憶される情報を読み出したりすることができるように、ECU18が構成される。
【0062】
そうして既存の診断用タブレットを利用して携帯読取装置40を構成し、ECU18に設けられるシステム診断用のコネクタ26を介してイベントデータやヒストリデータを読み出すことができるので、別途、専用のインターフェースを設ける必要がなく、部品点数を削減することができる。
【0063】
本実施形態において携帯読取装置40の前面にはディスプレー40aおよびスイッチ40bが設けられ、通信線39のコネクタ39aをECU18の診断用コネクタ26に接続して所定の操作をすると、ECU18の不揮発性メモリ35からイベントデータおよびヒストリデータを読み取ることができる。読み取られたデータは、一例としてAES(Advanced Encryption Standard)等の既知の方式により暗号化され、暗号化データファイルとして保存される。携帯読取装置40には解読プログラムはインストールされていないので、イベントデータなどの内容を表示することはできない。なお、暗号化手法はAESに限らず、他の一般的なものを採用することができる。
【0064】
図6の例では携帯読取装置40には、一例としてSDカードリーダ/ライタのような外部記録媒体装着部40cも設けられており、前記の暗号化データファイルをSD(Secure Digital)カードメモリのような外部記録媒体41に書き込んで、保存することができる。外部記憶媒体41としてはSDメモリのほかに、USBメモリ、CD、DVD、マイクロチップなどを使用可能であり、不揮発性のものであれば特に限定されない。好ましくは書き換え不能な記憶媒体であることが好ましい。汎用製品での記憶媒体を用いることで、読取装置・外部記憶媒体を安価に構成することができる。また、イベントデータやヒストリデータの読み出しのために、汎用製品とは異なる専用構造に構成されてもよい。これによってデータ読出しできる装置が限られることになり、さらに情報の書き換えを防ぐことができる。
【0065】
前記の携帯読取装置40は自動二輪車1には搭載されておらず、一例として自動二輪車1の販売店やサービス拠点の従業員のみが携帯し使用することを許可されている。また、一部のサービス拠点や自動二輪車1のメーカーの開発拠点のような特定の施設には、携帯読取装置40とは別体のコンピュータ装置からなる解析装置42が用意されている。一例として解析装置42は、暗号キーを有する解読プログラムを汎用のパーソナルコンピュータにインストールして構成することができる。前記の外部記録媒体41を媒介として解析装置42に暗号化データファイルを提供し、これを解読して元のイベントデータおよびヒストリデータに復号すれば、これらのデータに基づいて転倒などの状況を把握し、その解析を行うことができる。
【0066】
−データ読み取りシステムの動作−
次に、図7のフローチャートを参照してEDR20からデータを取得する手順を具体的に説明する。まず、図6を参照して上述したように、自動二輪車1の販売店等の従業員が携帯読取装置40を携帯して自動二輪車1の保管されている場所、例えば転倒現場などに出向く。なお、転倒現場以外にユーザの自宅等でもよいし、ユーザが修理のために自動二輪車1を持ち込んだ販売店等でもよい。仮に転倒した自動二輪車1が自走できなくなっていても、ECU18の不揮発性メモリ35のデータは保持されている。
【0067】
そして、前記の従業員がECU18の診断用コネクタ26に携帯読取装置40の通信線39のコネクタ39aを接続し、自動二輪車1および携帯読取装置40の両方の電源をONにする。それから携帯読取装置40のスイッチ40bなどを用いて所定のダウンロード操作を行うと、図7の左側のフローのステップSB1に示すように、携帯読取装置40においてダウンロード操作が行われたYesと判断され、通信線39を介してEDR20へ、即ちECU18にダウンロード指令が出力される(ステップSB2)。
【0068】
このダウンロード指令を受けたECU18のデータ出力制御部32は、ダウンロード指令有りと判断して(ステップSC1でYes)、まず、不揮発性メモリ35からヒストリデータおよびイベントデータを読み出す(ステップSC2)。この際、データ出力制御部32は、不揮発性メモリ35の2つの記憶領域からそれぞれ読み出したイベントデータを対比して、ミラーリングされている2つのデータが同じか否か判断する(ステップSC3:イベントデータにエラーなし?)。
【0069】
2つのデータが同じであればYesと判断され、ヒストリデータおよびイベントデータがRAM34に一時記憶される(ステップSC4)。また、2つのデータに差異があれば、不揮発性メモリ35への書き込みのタイミングが早い方のイベントデータにエラー情報が付加されて、ヒストリデータと共にRAM34に一時記憶される(ステップSC5)。そうしてRAM34に一時記憶されたヒストリデータおよびイベントデータは、データ出力制御部32により通信線39を介して携帯読取装置40へと送信される(ステップSC6)。
【0070】
前記のデータを受信するまでは携帯読取装置40は待機しており(ステップSB3でNo)、データを受信するとYesと判断して、この受信したデータを暗号化して記録する。すなわち、生成された暗号化データファイルが携帯読取装置40の内部メモリに書き込まれるとともに、外部記録媒体41にも書き込まれて保存される(ステップSB4)。なお、暗号化データファイルは内部のメモリに書き込むのみとし、別途、操作が行われたときに外部記録媒体41に書き込むように構成してもよい。
【0071】
前記のように暗号化データファイルが保存されると、携帯読取装置40のディスプレー40aには「データ読取り完了」などのメッセージが表示される(ステップSB5)。そこで、携帯読取装置40の外部記録媒体装着部から外部記録媒体41を取り外して、解析装置42の用意されている施設に搬送する。携帯読取装置40を携帯する販売店等の従業員が外部記録媒体41を施設に帯行してもよいし、一例として郵送してもよい。外部記録媒体41を受け取った施設の解析担当者は、それを解析装置42に装着して暗号化データファイルを解読し、元のイベントデータおよびヒストリデータに復号する。このデータに基づいて自動二輪車1の転倒などの状況を把握し、その解析を行うことができる。
【0072】
上述したように本実施形態にかかるデータ読み取りシステムでは、まず、自動二輪車1の運転制御を行うECU18の演算機能を利用してEDR20を構成し、転倒等の状況を表すイベントデータや通常の使用状況を表すヒストリデータなど(乗り物情報)を不揮発性メモリ35に記録する。そして、これらのデータは、販売店等の従業員が携帯読取装置40を用いて不揮発性メモリ35から読み取って暗号化し、外部記録媒体41等に保存することができる。
【0073】
よって、転倒などした自動二輪車1を特定の施設に移動させることなく、イベントデータやヒストリデータを外部記録媒体41を介して容易に取得することができ、これを解読装置42に提供して転倒等の状況を把握し、解析することが可能になる。転倒等の状況を表すイベントデータだけでなく、ユーザの通常の使用状況を表すヒストリデータも取得できるので、両者を組み合わせて転倒等の解析の精度を高めることができる。
【0074】
しかも、携帯読取装置40は、ダウンロードしたイベントデータ等を暗号化データファイルとして保存するものであり、それを解読する機能は備えていないから、データの内容を表示することも変更することもできない。よって、解析装置42において暗号化データファイルが解読(復号)されるまでは、イベントデータ等が不用意に書き換えられたり、データの一部が失われたりする心配はなく、データ(情報)の信憑性が極めて高い。
【0075】
また、本実施形態では、ECU18の回路基盤にEPROM等の書き換え不能な不揮発性メモリ35を着脱不能に配設しているので、衝撃・熱・電気的ノイズ等に対する保護性が強いとともに、ECU18が不所望に交換されないように工夫された防犯性が強い位置に配置されることで、不揮発性メモリ35の故障や意図しない取外しを防ぐことができるとともに、車載状態でもイベントデータ等が書き換えられたり、上書きされたりする心配がなく、この点でもデータの信憑性は高い。また、転倒情報を意図的に記憶しない目的で不揮発性メモリ35がECU18から取外された状態で、エンジン駆動が行なわれることも防止できる。特にイベントデータについてはミラーリングしていることも、その信憑性を高める上で有利になる。なお、不揮発性メモリ35はECU基盤のソケットに着脱可能に取付けてもよい。
【0076】
さらに、前記のように乗り物(自動二輪車1)に搭載されない携帯読取装置を介してイベントデータやヒストリデータを読み出すようにしているので、乗り物側に情報読取装置を搭載する必要がなく、乗り物の部品点数の増加を防ぎ、その搭載スペースを有効活用することができる。このことは、車体が小さい鞍乗り型の車両において得に効果的である。また、一般に乗り物に情報読取装置を搭載する場合には、振動・防水・熱・電磁ノイズ等の対策等を施す必要があるが、本実施形態のように乗り物とは別体の携帯読取装置40を用意することで、乗り物に読取装置を搭載する場合に比べて構造を簡単化することができ、安価に構成することができる。
【0077】
さらにまた、本実施形態では、本来、自動二輪車1の運転制御を行うECU18の演算機能を利用してEDR20を構成しており、省スペース化および低コスト化にも有利になる。また、携帯読取装置40についてもハードウエアとしては既存の診断用タブレットを利用し、これに専用のプログラムをインストールすることで、比較的低コストで構成できる。携帯読取装置40の携帯および使用は販売店等の従業員のみに許可することで、イベントデータ等の信憑性をさらに高めることができる。
【0078】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態について種々、説明したが、本発明は前記の実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の改良、変更、修正が可能である。例えば、前記の実施形態では自動二輪車1のECU18を利用して一体的にEDR20を構成しているが、これに限らず、必要な演算回路等を別途、設けてECU18とは別体のEDRを構成してもよい。
【0079】
また、前記の実施形態のEDR20は、自動二輪車1の転倒判断をトリガーとしてデータの記録を開始するようになっているが、トリガーは加速度の判断など他の情報に基づいて発生させてもよく、EDR動作開始に用いられる一般的な方法を用いることができる。
【0080】
また、前記の実施形態のEDR20は、不揮発性メモリ35を書き換え不能な半導体メモリによって構成しているが、これは書き換え可能な半導体メモリを用いてもよい。その場合には、ECU18のデータ出力制御部32により不揮発性メモリ35にイベントデータやヒストリデータを記録する際に、データの上書きを禁止すればよい。
【0081】
また、前記の実施形態では携帯記録装置40に外部記録媒体装着部40cが設けられ、暗号化データファイルを外部記憶媒体41に保存し、これを介して暗号化された情報を解析装置42へ送るようにしたが、これに限らない。例えば携帯読取装置40には、外部記録媒体装着部40cは設けず、有線または無線による通信手段を有して、インターネットまたはイントラネットなどのネットワークを介して暗号化された情報を解析装置42へ送信するようにしてもよい。また、暗号化データファイルを内部メモリに記録した携帯記録装置40を、解析装置42のある施設に持ち込んでもよい。
【0082】
また、前記携帯読取装置40には、情報をやり取りする信号線のほかに、ECU18への電力を供給する電力線を備えていてもよい。これによって携帯読取装置40に搭載される電源からECU18へ電力を供給することができ、自動二輪車1など乗り物の電源からECUへ電力供給ができない場合であっても、イベントデータやヒストリデータなど必要な情報を取得することができる。
【0083】
また、前記携帯読取装置40は、イベントデータやヒストリデータなどとともに自動二輪車1(乗り物)の識別に利用可能な識別情報も暗号化することで、乗物識別情報とイベントデータ等とを相互に関連付けて記憶することができ、転倒状況の解析などを円滑に行うことができる。例えば乗り物の識別情報として、ECUの型番、車体番号、機種情報、仕向け地情報、通産運転時間などの認識情報が与えられてもよい。
【0084】
また、携帯読取装置40は、イベントデータやヒストリデータなどのほかに、携帯読取装置40に個別に設定される携帯読取装置40の識別情報もイベントデータ等と共に暗号化することによって、情報の信憑性をさらに高めることができる。また携帯読取装置40は、イベントデータやヒストリデータなどのほかに、携帯読取装置40を用いて情報読取り操作を行なった操作者毎に設定される識別情報もイベントデータ等と共に暗号化することによって、情報の信憑性をさらに高めることができる。
【0085】
好ましくは携帯読取装置40は、イベントデータやヒストリデータなどと共にECU18、携帯読取装置40、操作者それぞれの識別情報を併せて暗号化することで、さらに信憑性を高めることができる。また携帯読取装置40を用いたイベントデータやヒストリデータなどの読み取りにあたって、予め許可された特定人物のみが把握する暗証番号入力などの始動動作(ロック解除動作)が動作されたことを携帯読取装置40が認識すると、情報読出し処理が許可されるようにしてもよい。
【0086】
また、本実施形態ではイベントデータやヒストリデータなどを受信した携帯読取装置40において、そのデータが暗号化されて内部メモリに書き込まれるとともに、外部記録媒体41にも書き込まれるようになっているが、携帯読取装置40においては受信したデータをそのまま内部メモリに書き込むようにし、ここから読み出して外部記録媒体41に書き込んだり、解析装置42へ送信する際に暗号化してもよい。
【0087】
さらに、前記の実施形態のEDR20では、イベントデータの記録回数を制限しているが、この制限は設けなくてもよい。また、イベントデータとヒストリデータの両方を記録するのではなく、自動二輪車1の転倒時の状況を把握し、その解析を行うという目的からは例えばイベントデータを記憶して、ヒストリデータは記憶しないようにしてもよい。この場合にはヒストリデータの記録を辞めた分、イベントデータの記録容量を増やすようにしてもよい。
【0088】
さらにまた、本発明にかかるEDR20は、前記の実施形態のように転倒等の解析に用いる以外に例えば自動二輪車1の故障分析に用いてもよいし、走行時の燃費や走行距離を競う競技、或いは安全運転を競う競技など種々の性能評価にも利用可能であって、その用いられかたについては限定されない。
【0089】
また、前記の実施形態では自動二輪車を例に説明したが、本発明に係るEDRやそのデータの読取りシステムは、自動二輪車に限らず小型滑走艇(Personal Water Craft:PWC)や乗鞍式不整地走行車両など、搬送するのが難しい重量を有する他の乗り物にも適用することができる。乗り物の動力源は、前記各実施形態のようにエンジンEであってもよいし、電動モータであってもよいし、それらの両方からなるハイブリッド・タイプのものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0090】
以上のように本発明に係る乗り物の情報取得システムは、EDRのデータを容易に取得でき、しかもその信憑性を損なうことがないので、この効果の意義を発揮できる乗り物に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0091】
1 自動二輪車(乗り物)
18 ECU(運転制御のためのコントローラ)
35 不揮発性メモリ
40 携帯読取り装置
42 解析装置
De イベントデータ(異常時情報)
Dh ヒストリデータ(正常時情報)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗り物に搭載されて、この乗り物に関する所定の乗り物情報が記録される不揮発性メモリと、
前記乗り物には搭載されず、人間が携帯可能に構成されて、前記不揮発性メモリから前記乗り物情報を読み取って暗号化して記憶するとともに、この暗号化された情報を出力可能な携帯読取装置と、
前記乗り物には搭載されず、前記携帯読取装置とは別体に構成されて、当該携帯読取装置から出力された前記暗号化情報を解読して前記乗り物情報に復号可能な解析装置と、を備えることを特徴とする乗り物の情報取得システム。
【請求項2】
前記不揮発性メモリには、前記乗り物情報として前記乗り物の異常な状態に関する異常時情報と、当該乗り物の識別に利用可能な識別情報とが記録される、請求項1に記載の情報取得システム。
【請求項3】
前記不揮発性メモリが前記乗り物の運転制御のためのコントローラに着脱不能に配設されている、請求項1または2のいずれかに記載の情報取得システム。
【請求項4】
前記不揮発性メモリが書き換え不能なものである、請求項1〜3のいずれか1つに記載の情報取得システム。
【請求項5】
前記不揮発性メモリには、前記乗り物情報として前記異常時情報だけでなく、前記乗り物の正常な状態に関する正常時情報も記録される、請求項1〜4のいずれか1つに記載の情報取得システム。
【請求項6】
前記正常時情報は、前記異常時情報に比べて時間あたりの記録量が少ない、請求項5に記載の情報取得システム。
【請求項7】
前記異常時情報の記録回数が予め設定された回数に制限されている、請求項2〜6のいずれか1つに記載の情報取得システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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