説明

乗客コンベアの異常検出装置

【課題】精度良くトラスにコンベア用品を固定するボルトの弛みを検出することができる乗客コンベアの異常検出装置を提供する。
【解決手段】ボルト22によって乗客コンベアのトラス4にコンベア用品Aとともに固定されボルト22の弛みを検出する検出部35と、ボルト22に設けられ外部機器と非接触通信可能なICタグ34と、ICタグ34と非接触通信可能であり、ICタグ34から検出部35の検出結果を読み取る読み取り部36とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、乗客コンベアの異常検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エスカレータや動く歩道などの乗客コンベアは、チェーンにより無端状に連結された多数の踏段を、トラス内部に配設されたガイドレールに沿ってモータ駆動により循環移動させるとともに、トラスの上面の左右位置に立設した一対の欄干の外周部に沿って手摺ベルトを踏段と同期して走行させて、踏段に搭乗した乗客を一方の乗降口から他方の乗降口へと搬送する構造である。
【0003】
このような構造の乗客コンベアでは、欄干の下部を覆うスカートガードパネルや、踏段の移動を案内するガイドレールや、手摺ベルトの走行を案内する手摺レールなどのコンベア用品がボルトを用いてトラスに固定されているが、ボルトによってトラスにコンベア用品をしっかりと固定したとしても、例えば、ガイドレール上を移動する踏段から伝わる振動や、温度湿度の変化等により経時的にボルトが弛んで締結力が低下することが知られている。
【0004】
そこで、トラス内部に設けたマイクで集音した乗客コンベアの稼働音からボルトの弛みによって生じる異常音を検出することで、トラスにコンベア用品を固定するボルトの弛みを検出する乗客コンベアの異常検出装置が知られている(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−101664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような乗客コンベアの異常検出装置では、周囲の雑音によって異常音を正確に検出することが難しく、精度良くボルトの弛みを検出することが困難であるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記の問題を考慮してなされたものであり、周囲の雑音に影響されることなく精度良くトラスにコンベア用品を固定するボルトの弛みを検出することができる乗客コンベアの異常検出装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る乗客コンベアの異常検出装置は、乗客コンベアのトラスにコンベア用品を固定するボルトによって前記トラスに固定され、前記ボルトの弛みを検出する検出部と、前記ボルトに設けられ、外部機器と非接触通信可能なICタグと、前記ICタグと非接触通信可能であり、前記ICタグから前記検出部の検出結果を読み取る読み取り部とを備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る異常検出装置を備えた乗客コンベアの全体構成を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る異常検出装置を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る異常検出装置が備える検出部の動作を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0011】
本実施形態に係る異常検出装置は、図1に例示するような建物の上下階に跨って傾斜して設置され、建物の上階部梁2と下階部梁3とに締結されて上下階の間に傾斜して設置されたトラス4によって支持されている乗客コンベア(エスカレータ)1に適用されるものである。検出対象となる乗客コンベア1は、上階部梁2側のトラス4内に乗客コンベアの駆動装置5が設置されている。駆動装置5は、制御盤6によって動作制御され、駆動チェーン7を介して駆動スプロケット8を駆動する。また、下階部梁3側のトラス4内には、駆動スプロケット8と対をなす従動スプロケット9が設置されており、これら駆動スプロケット8と従動スプロケット9との間に踏段チェーン10が巻き掛けられている。そして、この踏段チェーン10に多数の踏段11が連結されており、駆動装置5が駆動スプロケット8を回転させることで踏段チェーン10が駆動スプロケット8と従動スプロケット9との間を周回し、多数の踏段11がガイドレール12に沿って上階側乗降口と下階側乗降口との間で循環移動する構造となっている。
【0012】
また、循環移動する踏段11の左右両側にはスカートガードパネル13及び欄干パネル14からなる欄干15が立設されており、欄干15の外周に手摺ベルト16が装着されている。手摺ベルト16は、踏段11上に搭乗している乗客が把持する手摺であり、例えば不図示の駆動チェーンを介して駆動スプロケット8に接続された手摺ベルト駆動装置40により欄干15の外周に沿って踏段11と同期して走行される。
【0013】
また、乗降口付近のスカートガードパネル13には操作盤17が設置されており、この操作盤17に、乗客コンベア1の起動・停止を行うための運転スイッチなどの乗客コンベア1の管理者や保守作業員が操作するための各種の操作スイッチ17aや、乗客コンベア1の異常を報知する表示部17bが設けられている。この操作盤17に設けられた各種の操作スイッチ17a及び表示部17bは、制御盤6に接続されている。
【0014】
制御盤6は、乗客コンベア1の運転を制御する運転回路を備えており、例えば、上階部梁2側のトラス4内部に設けられている。制御盤6は、スカートガードパネル13に設けられた操作スイッチ17aのスイッチ操作に従って運転回路により駆動装置5内のモータに対する電源供給を制御して、乗客コンベア1の上昇・下降・停止の運転制御を行う。また、制御盤6は、監視装置20に接続されており、この監視装置20から運転・停止の制御指令が出力されると、この制御指令に従って乗客コンベア1の上昇・下降・停止の運転制御を行うようになっている。
【0015】
このように構成される乗客コンベア1では、欄干パネル14の下部を覆うスカートガードパネル13や、踏段11の循環移動を案内するガイドレール12や、欄干15の下方を走行する手摺ベルト16を案内する手摺レール24等の乗客コンベア1を構成するコンベア用品Aが複数個のボルト22を用いることによりトラス4に固定されている。そして、監視装置20と、後述する圧電素子30と、記憶部32と、ICタグ34と、読み取り部36とから、コンベア用品Aをトラス4に固定するボルト22の弛みを検出する異常検出装置が構成されている。
【0016】
詳細には、図2に示すように、トラス4に穿設されたボルト孔4aとコンベア用品Aに穿設されたボルト孔Aaとにボルト22の軸部22aを挿通し、ボルト22と螺合するナット26にて共締めすることで、トラス4に対してコンベア用品Aが固定されている。ボルト22の頭部22bとコンベア用品Aとの間には、バネ座金28及び平座金29とともに圧電素子30が介装されている。この圧電素子30は、コンベア用品Aとボルト22の頭部22bとの間に生じる圧縮力からボルト22とナット26による締め付け圧力を検出するものである。
【0017】
ボルト22の頭部22bには、圧電素子30の検出値を読み取り、その検出値に基づいて判断されるボルト22の締結状態に関する情報、つまり、ボルト22がコンベア用品Aを締め付けた状態及びボルトが弛んだ状態のいずれの状態であるのかを示す情報を記憶する記憶部32と、外部機器と非接触通信可能なICタグ34とが設けられている。本実施形態では、圧電素子30及び記憶部32が、トラス4にコンベア用品Aを固定するボルト22の弛みを検出する検出部35を構成する。
【0018】
なお、記憶部32には、上記したボルト22の締結状態に関する情報以外に、記憶部32が設けられたボルト22を識別するためのボルトID情報も記憶されている。
【0019】
また、ガイドレール12に沿って上階側乗降口と下階側乗降口との間で循環移動する多数の踏段11のうち少なくともいずれか1つを点検踏段11aとしている。この点検踏段11aには、ボルト22に設けられたICタグ34と非接触通信可能な読み取り部36が設置されている。読み取り部36は、点検踏段11aとともに循環移動しながらボルト22に設けられたICタグ34と非接触通信を行って、記憶部32に記憶されたボルト22の締結状態に関する情報を読み取り、無線信号として監視装置20に入力する。
【0020】
監視装置20は、読み取り部36から送信された圧電素子30の検出値あるいはボルト22の締結状態に関する情報を受信し、トラス4にコンベア用品Aを固定するボルト22に弛みがあるか否かについて乗客コンベア1の異常を診断する。
【0021】
具体的には、図2に示すように、トラス4のボルト孔4aとコンベア用品Aのボルト孔Aaとに挿通されたボルト22の軸部22aにナット26を螺合させてトラス4に対してコンベア用品Aを固定する。
【0022】
すると、図3に示すように、ボルト22の頭部22bとコンベア用品Aとの間に介装された圧電素子30は、ボルト22とナット26の間で生じた締め付け圧力を受けて、締め付け圧力に応じた電圧が生じる。そして、経時的にボルト22が弛んで締結力が低下すると圧電素子30から出力される電圧も低下する。
【0023】
ボルト22の頭部22bに設けられた記憶部32は、圧電素子30から出力される電圧値を読み取り、その電圧値が所定値より大きければボルト22が弛んでおらずコンベア用品Aを締め付けた状態にあることを示す情報を記憶し、所定値以下であればボルト22が弛んでいることを示す情報を記憶する。
【0024】
そして、乗客コンベア1を起動して多数の踏段11を上階側乗降口と下階側乗降口との間で循環移動させる。これにより、点検踏段11aに設けた読み取り部36が、点検踏段11aとともに循環移動しながら、複数個のボルト22に設けられたICタグ34と順次通信を行い、記憶部32に記憶されたボルト22の締結状態に関する情報をボルト22毎に読み取る。読み取った情報は、ボルト22を識別するためのボルトID情報ととともに無線信号として監視装置20に入力する。
【0025】
監視装置20は、読み取り部36からボルト22が弛んでいることを示す情報が入力されると、制御盤6に停止の制御命令が出力され乗客コンベア1の運転を停止させる。
【0026】
また、操作盤17に設けられた表示部17bにコンベア用品Aをトラス4に固定する複数個のボルト22の中に弛んでいるボルトが存在する旨を表示して、管理者や保守作業員に異常を報知する。
【0027】
また、管理者や保守作業員が、故障等の必要なときに乗客コンベア1に接続する持ち運び可能な表示装置(不図示)に、弛んでいるボルトが存在する旨に加えて、弛んでいるボルト22のボルトID情報から当該ボルトがトラス4のどの位置に設けられているのかを表示してもよい。
【0028】
以上のように本実施形態の乗客コンベアの異常検出装置では、読み取り部36がボルト22に設けられたICタグ34から記憶部32に記憶されたボルト22の締結状態に関する情報を読み取ることでボルト22が弛んでいるか否かを判断するため、乗客コンベア1の周囲の環境に影響されにくく精度よくボルト22の弛みを検出することができる。
【0029】
また、本実施形態では、読み取り部36が、上階側乗降口と下階側乗降口との間で循環移動する踏段11に設置されているため、経時的にボルト22が弛んで締結力が低下した場合でも、乗客コンベア1を運転させながら簡単かつ正確にボルト22の弛みを検出することができる。
【0030】
なお、上記した本実施形態では、読み取り部36を踏段11に設ける場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば、持ち運び可能に設けられた端末機器に読み取り部36を組み込んでもよく、これにより、踏段11から離れており点検踏段11aに設けられた読み取り部36と通信できないボルト22に対しても保守作業員などが当該端末を近づけることで、簡単にボルトの弛みを確認することができたり、トラス4に対してコンベア用品Aをボルト22で固定した直後の乗客コンベア1を運転する前に保守作業員がボルト22の弛みを簡単かつ正確に確認することができる。
【0031】
以上、本発明を適用した乗客コンベアの異常検出装置の具体例として上記した実施形態を例示して具体的に説明したが、本発明の技術的範囲は、実施形態の説明で開示した技術事項に限定されるものではなく、以上の開示内容を基に一般的な技術常識も鑑みて当然に導かれる変形例、応用例も含まれるものである。
【符号の説明】
【0032】
1…乗客コンベア
4…トラス
5…駆動装置
6…制御盤
10…踏段チェーン
11…踏段
11a…点検踏段
12…ガイドレール
13…スカートガードパネル
14…欄干パネル
15…欄干
16…手摺ベルト
17…操作盤
17a…操作スイッチ
17b…表示部
20…監視装置
22…ボルト
22a…軸部
22b…頭部
24…手摺レール
26…ナット
28…バネ座金
29…平座金
30…圧電素子
32…記憶部
34…ICタグ
35…検出部
36…読み取り部
40…手摺ベルト駆動装置
A…コンベア用品
Aa…ボルト孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルトによって乗客コンベアのトラスにコンベア用品とともに固定され前記ボルトの弛みを検出する検出部と、
前記ボルトに設けられ外部機器と非接触通信可能なICタグと、
前記ICタグと非接触通信可能であり、前記ICタグから前記検出部の検出結果を読み取る読み取り部とを備えることを特徴とする乗客コンベアの異常検出装置。
【請求項2】
前記読み取り部が前記乗客コンベアの踏段に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベアの異常検出装置。
【請求項3】
前記検出部は、前記コンベア用品と前記ボルトとの間に設けられ前記ボルトによる締め付け圧力を検出する圧電素子と、前記ボルトに設けられ前記圧電素子の検出結果を記憶する記憶部を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の乗客コンベアの異常検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−188267(P2012−188267A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54507(P2011−54507)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】