説明

乗客コンベアの運転制御装置

【課題】乗客コンベアの混雑度合いを精度良く検出し、実際の混雑度合いに適した運転制御を行うことができるようにする。
【解決手段】乗客コンベアの乗降口の床板10に作用する荷重を検出する荷重検出装置11と、床板10に作用する振動を検出する振動検出装置12とを設置する。また、演算装置13により、荷重検出装置11及び振動検出装置12の双方の検出結果に基づき、乗客コンベアの混雑度合いを判定する。そして、常時は所定の通常運転制御を行うとともに、演算装置13によって所定の混雑度合いが判定された場合は、所定の異常時運転制御を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、乗客コンベアの運転を混雑度合いに応じて制御する運転制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乗客コンベアでは、利用者が多く混雑してしまうと、利用者の安全を保てなくなってしまう恐れがある。
このような事情に鑑み、乗客コンベアでは、混雑度合いに応じた運転制御を実施するものも提案されている(例えば、特許文献1参照)。この乗客コンベアでは、乗客コンベアの乗降口に荷重検出装置を設置することにより、その検出値から混雑度合いを判断し、判断結果に応じた運転制御を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−200177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の乗客コンベアでは、乗降口に設置した荷重検出装置の検出値のみ、即ち、乗降口の床板に掛かる荷重のみに基づいて混雑度合いを判断しているため、その判断結果に高い精度を期待することができないといった問題があった。
【0005】
即ち、特許文献1に記載のものでは、利用者が乗客コンベアによって重い荷物を運ぼうとしている場合や、体重の重い利用者が少人数で乗客コンベアを利用する場合等、実際には混雑していない状況であっても、床板に掛かる荷重が大きいと乗客コンベアが混雑していると判断されてしまう。また、逆に、子供のような体重の軽い利用者が大人数で乗客コンベアを利用する場合等、実際には混雑している状況であっても、床板に掛かる荷重が小さいと、乗客コンベアが混雑していないと判断してしまう。
【0006】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、乗客コンベアの混雑度合いを精度良く検出し、実際の混雑度合いに適した運転制御を行うことができる乗客コンベアの運転制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る乗客コンベアの運転制御装置は、乗客コンベアの乗降口に設けられた床板と、床板に作用する荷重を検出する荷重検出装置と、床板に作用する振動を検出する振動検出装置と、荷重検出装置及び振動検出装置の双方の検出結果に基づいて、乗客コンベアの混雑度合いを判定する演算装置と、常時は所定の通常運転制御を行い、演算装置によって所定の混雑度合いが判定された場合に、所定の異常時運転制御を行う制御装置と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、乗客コンベアの混雑度合いを精度良く検出し、実際の混雑度合いに適した運転制御を行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態1における乗客コンベアの運転制御装置を示す構成図である。
【図2】図1に示す乗客コンベアの要部構成図である。
【図3】図1に示す振動検出装置の動作例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
この発明をより詳細に説明するため、添付の図面に従ってこれを説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0011】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1における乗客コンベアの運転制御装置を示す構成図、図2は図1に示す乗客コンベアの要部構成図である。
図1及び図2において、1は上下階床間に架け渡された乗客コンベア(エスカレーター)の主枠、2は下部乗降口、3は上部乗降口、4は下部乗降口2の上方等に設けられたアナウンス装置、5は上部乗降口3の上方等に設けられたアナウンス装置である。なお、アナウンス装置4は下部乗降口2及び下部乗降口2の近傍にいる利用者に対して音声案内を行うため、また、アナウンス装置5は上部乗降口3及び上部乗降口3の近傍にいる利用者に対して音声案内を行うために備えられている。
【0012】
6は下部乗降口2及び上部乗降口3間を循環移動する踏段である。乗客コンベアの利用者は、踏段6に乗って下部乗降口2及び上部乗降口3間を移動する。7は踏段6の両側に設けられた移動手摺、8は踏段6や移動手摺7を駆動するための駆動装置、9は駆動装置8やアナウンス装置4及び5の制御等、乗客コンベアの各種運転制御を司る制御装置である。踏段6や移動手摺7の走行速度や加減速といった各種制御は、上記制御装置9によって行われる。
【0013】
また、下部乗降口2及び上部乗降口3に設けられた各床板10には、その裏面側に、荷重検出装置11と振動検出装置12とが設けられている。なお、上記床板10は、下部乗降口2及び上部乗降口3の各上面を形成する部材のことをいう。即ち、乗客コンベアを利用する利用者は、踏段6に乗り込む前に乗り口側の床板10上を通過し、踏段6から降りた後に降り口側の床板10上を通過する。
【0014】
荷重検出装置11は、上記床板10に作用する荷重を検出する機能を有している。この荷重検出装置11は、例えば、床板10裏面の前端と後端(踏段6の走行方向を基準とした前側及び後側の各端部)にそれぞれ設けられ、この2つの荷重検出装置11によって検出された値に基づき、1つの床板10に作用する荷重を検出する。そして、荷重検出装置11は、検出した結果、即ち荷重の検出値を演算装置13に対して送信する。
なお、この荷重検出装置11の構成は単にその一例を示したものであり、上記機能を奏するものであれば、荷重検出装置11の検出方法や具体的な構成及び配置は、如何なるものであっても構わない。
【0015】
また、振動検出装置12は、上記床板10に作用する振動を検出する機能を有している。この振動検出装置12は、例えば、床板10裏面の中央部に設けられ、床板10中央部の上下方向の変位を検出する。そして、振動検出装置12は、検出した結果、即ち振動の検出値を演算装置13に対して送信する。
なお、この振動検出装置12の構成は単にその一例を示したものであり、上記機能を奏するものであれば、振動検出装置12の検出方法や具体的な構成及び配置は、如何なるものであっても構わない。
【0016】
演算装置13は、荷重検出装置11の検出結果と振動検出装置12の検出結果との双方に基づき、乗客コンベアの混雑度合いを判定する。
そして、上記制御装置9は、演算装置13によって判定された混雑度合いに応じて、乗客コンベアの運転制御を適切に行う。具体的に、制御装置9は、常時は、踏段6や移動手摺7を所定の方向に定格速度で走行させる通常運転制御を行う。また、制御装置9は、演算装置13によって所定の混雑度合いが判定されると、上記通常運転制御では行われない動作内容を含む所定の異常時運転制御を実施する。
【0017】
次に、下記表1を参照して、上記構成を有する乗客コンベアの運転制御装置の具体的な動作について説明する。なお、表1は、演算装置13の判定内容と制御装置9の制御内容との具体的な例を示したものである。
【0018】
【表1】

【0019】
表1に示すように、演算装置13は、例えば、荷重検出装置11及び振動検出装置12の各検出結果に基づき、乗客コンベアの混雑度合いをA乃至Gの7段階で判定する。かかる場合、例えば、表1に示すように、荷重検出装置11の検出値に応じて、床板10に作用している荷重のレベルを3段階に設定するとともに、振動検出装置12の検出値に応じて、床板10に作用している振動のレベルを3段階に設定する。そして、演算装置13は、設定された荷重レベルと振動レベルとの組み合わせによって、乗客コンベアの混雑度合いを特定する。
【0020】
具体的には、荷重検出装置11による荷重の検出値として予め標準範囲を設定しておき、実際の検出値がこの標準範囲内である場合を「標準」、標準範囲よりも低い場合を「低」、標準範囲よりも高い場合を「高」とレベル分けする。なお、荷重検出装置11の検出値が上記「標準」、「低」、「高」のどのレベルに該当するのかを判定する機能は、荷重検出装置11側に備えても良いし、演算装置13側に備えても良い。
【0021】
また、振動検出装置12についても同様に、振動検出装置12による振動の検出値として予め標準範囲を設定しておき、実際の検出値がこの標準範囲内である場合を「標準」、標準範囲よりも低い場合を「低」、標準範囲よりも高い場合を「高」とレベル分けする。なお、振動検出装置12の検出値が上記「標準」、「低」、「高」のどのレベルに該当するのかを判定する機能は、振動検出装置12側に備えても良いし、演算装置13側に備えても良い。
【0022】
なお、振動検出装置12による振動の検出は、例えば、床板10の上下方向の変位を常時監視しておき、単位時間当たりの振動波形のピーク数をカウントすることによって実現する。即ち、床板10の振動レベルの高低を、単位時間当たりの振動波形のピーク数の多少によって定義する。これは、振動源が多いほど振動レベルが高く、振動レベルが高いほど利用者が多いという「ピーク数の多寡≒利用者の多寡」との考えに基づくものである。
【0023】
具体的に、上記検出方法を採用する場合は、単位時間当たりの振動波形のピーク数として予め標準範囲を設定しておき、実際のピーク数がこの標準範囲よりも少ない場合を「低」、標準範囲よりも多い場合を「高」とする。なお、図3は図1に示す振動検出装置の動作例を説明するための図である。かかる場合、単位時間当たりのピーク数の標準範囲は3〜4と設定されている。即ち、図3(a)では単位時間当たりのピーク数が2であるため振動レベルは「低」と検出され、図3(b)では単位時間当たりのピーク数が5であるため振動レベルは「高」と検出される。
【0024】
そして、制御装置9は、演算装置13によって特定された混雑度合いに応じて、適切な運転制御を行う。以下に、その具体的な制御内容について説明する。
【0025】
混雑度合いが「A」の場合
荷重検出装置11による検出値が標準範囲に満たない場合は、乗客コンベアの利用者が著しく少ない或いはいないと判断する。このため、制御装置9は、振動検出装置12の検出結果に関わらず、通常運転を継続する。
【0026】
混雑度合いが「B」「E」の場合
荷重検出装置11による検出値が標準範囲以上であり、且つ、振動検出装置12による検出値が標準範囲に満たない場合は、乗客コンベアの利用者が著しく少ない或いはいないが、床板10上に何らかの貨物が置かれたものと判断する。このため、制御装置9は、乗客コンベアに混雑は発生していないとして、異常時運転を実施せずに通常運転を継続する。
【0027】
混雑度合いが「C」の場合
荷重検出装置11及び振動検出装置12による各検出値が共に標準範囲である場合は、乗客コンベアにある程度の混雑が発生しているものの、踏段6(及び移動手摺7)の走行を変更する程度ではないと判断する。このため、制御装置9は、例えば、アナウンス装置4及び5から所定のアナウンスを流し、利用者に対する注意喚起を行う。
【0028】
混雑度合いが「D」「F」の場合
荷重検出装置11及び振動検出装置12による各検出値の一方が標準範囲内であり、且つ、他方が標準範囲を超えている場合は、上記Cの時よりも乗客コンベアの混雑度合いが上がり、踏段6の走行を変更する必要があると判断する。このため、制御装置9は、例えば、アナウンス装置4及び5から所定のアナウンスを流して利用者に対する注意喚起を行うとともに、低速運転に切り換えて踏段6を減速させる。
【0029】
混雑度合いが「G」の場合
荷重検出装置11及び振動検出装置12による各検出値が共に標準範囲を超えている場合は、乗客コンベアに極端な混雑が発生したと判断する。このため、制御装置9は、例えば、アナウンス装置4及び5から所定のアナウンスを流して利用者に対する注意喚起を行うとともに、踏段6を徐々に減速して運転を停止させる。
【0030】
この発明の実施の形態1によれば、乗客コンベアの混雑度合いを精度良く検出し、実際の混雑度合いに適した運転制御を行うことができるようになる。
【0031】
即ち、上記構成の乗客コンベアの運転制御装置であれば、床板10に掛かる荷重だけでなく、床板10に作用する振動も考慮して、乗客コンベアの混雑度合いを判断できる。上述したように、振動源(利用者)が多ければ多いほど床板10の振動レベルが高くなるため、荷重検出装置11と振動検出装置12との双方の検出結果を考慮することによって、混雑度合いの判定精度を大幅に向上させることが可能となる。
【0032】
具体的には、従来では検出することが困難であった状況、例えば、利用者が乗客コンベアによって重い荷物を運ぼうとしている場合や、体重の重い利用者が少人数で乗客コンベアを利用する場合、子供のような体重の軽い利用者が大人数で乗客コンベアを利用する場合等も確実に検出することが可能となる。このため、混雑度合いの誤判定を低減させて、実際の混雑度合いにより適した運転を行うことができるようになる。
【符号の説明】
【0033】
1 主枠
2 下部乗降口
3 上部乗降口
4、5 アナウンス装置
6 踏段
7 移動手摺
8 駆動装置
9 制御装置
10 床板
11 荷重検出装置
12 振動検出装置
13 演算装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客コンベアの乗降口に設けられた床板と、
前記床板に作用する荷重を検出する荷重検出装置と、
前記床板に作用する振動を検出する振動検出装置と、
前記荷重検出装置及び前記振動検出装置の双方の検出結果に基づいて、乗客コンベアの混雑度合いを判定する演算装置と、
常時は所定の通常運転制御を行い、前記演算装置によって所定の混雑度合いが判定された場合に、所定の異常時運転制御を行う制御装置と、
を備えたことを特徴とする乗客コンベアの運転制御装置。
【請求項2】
演算装置は、荷重検出装置の検出値に応じて設定された床板の荷重レベルと振動検出装置の検出値に応じて設定された床板の振動レベルとの組み合わせに基づき、乗客コンベアの混雑度合いを特定し、
制御装置は、前記演算装置によって特定された混雑度合いに応じて、所定の異常時運転制御を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベアの運転制御装置。
【請求項3】
床板の振動レベルは、振動検出装置の検出値から得られた振動波形の単位時間当たりのピーク数に基づいて設定されることを特徴とする請求項2に記載の乗客コンベアの運転制御装置。
【請求項4】
制御装置は、荷重検出装置によって所定の荷重が検出された場合に、振動検出装置の検出値に応じて、通常運転制御或いは異常時運転制御を行うことを特徴とする請求項1から請求項3に記載の乗客コンベアの運転制御装置。
【請求項5】
制御装置は、振動検出装置によって所定の振動が検出された場合に、荷重検出装置の検出値に応じて、異なる異常時運転制御を行うことを特徴とする請求項1から請求項3に記載の乗客コンベアの運転制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−189097(P2010−189097A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33384(P2009−33384)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】