説明

乗客コンベア装置

【課題】高度の入力軸加工精度、センサーの高い取付け精度も不要であり、さらにはわざわざ専用の入力軸の回転を検出するための検出体を設置することもなく、低コスト化を図ることができる乗客コンベア装置を得る。
【解決手段】この発明に係る乗客コンベア装置は、近接センサー23は、先端部がインナーディスク18に形成された検出穴22に指向して検出穴22の単位時間当たりの数を検知することで入力軸7の回転速度を検出するようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、踏段を駆動させる駆動力を発生させるモータからの駆動力が伝達される入力軸を有し、入力軸の回転速度を減速させる減速機と、この減速機に取付けられ入力軸の回転を制動するディスクブレーキ装置とを備えた乗客コンベア装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、踏段を駆動させる駆動力を発生させるモータからの駆動力が伝達される入力軸を有し、入力軸の回転速度を減速させる減速機と、この減速機に取付けられ入力軸の回転を制動するディスクブレーキ装置と、ディスクブレーキ装置を中心軸線に沿って貫通した前記入力軸の先端部に取付けられ入力軸の回転速度を検出するエンコーダとを備えた乗客コンベア装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-21090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この乗客コンベア装置の場合、減速機の入力軸をディスクブレーキ装置から外部に突出して延長した端部にエンコーダが取り付けられており、次のような問題点があった。
イ.入力軸を長くしなければならず、また入力軸にエンコーダを取付けるために精度の高い軸加工を施さなければならず、材料増、加工増によりコストが嵩む。
ロ.入力軸の端部にエンコーダを取付ける際、それぞれの中心軸線を一致させて取付けなければならず、取付けに手間がかかる。
ハ.減速機の入力軸の軸線方向の寸法が大きくなる。
【0005】
この発明は、上記のような問題点を解決することを課題とするものであって、入力軸が短縮化されて減速機が小型化され、また高度の入力軸加工精度、センサーの高い取付け精度も不要であり、さらにはわざわざ専用の入力軸の回転を検出するための検出体を設置することもなく、低コスト化を図ることができる乗客コンベア装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る乗客コンベア装置は、踏段を駆動させる駆動力を発生させるモータと、このモータからの駆動力が伝達される入力軸を有し、入力軸の回転速度を減速させる減速機と、この減速機に固定され前記入力軸の回転を制動するディスクブレーキ装置と、このディスクブレーキ装置に設けられ前記入力軸の前記回転速度を検出する近接センサーとを備え、
前記ディスクブレーキ装置は、前記入力軸が中心軸線に設けられたコイルと、このコイルと対向して設けられたアマチュアと、前記入力軸に軸線方向に沿って移動可能であって前記アマチュアに対向して設けられたインナーディスクと、このインナーディスクに前記アマチュアの反対側で対向して設けられたアウターディスクとを有し、
前記アマチュアは、前記アウターディスク側に付勢された弾性体の弾性力で前記インナーディスクを前記アウターディスク側に押圧してアウターディスクと面接触させることで前記入力軸の回転を拘束し、
また前記アマチュアは、前記コイルへの給電による電磁力で前記弾性体の弾性力に逆らってコイル側に吸引され、前記インナーディスクが前記アウターディスクから離間して前記入力軸の回転を可能にする乗客コンベア装置であって、
前記近接センサーは、先端部が前記インナーディスクに形成された検出部に指向して検出部の単位時間当たりの数を検知することで前記入力軸の回転速度を検出するようになっている。
【発明の効果】
【0007】
この発明に係る乗客コンベア装置によれば、インナーディスクに形成された検出部に、近接センサーの先端部が指向して入力軸の回転速度を検出しているので、入力軸が短縮化されて小型化され、また高度の入力軸の加工精度、近接センサーの高度の取付け精度も不要であり、さらにわざわざ専用の入力軸の回転を検出するための検出体を設置することもなく、低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の実施の形態1のエスカレーターを示す部分側面図である。
【図2】図1のII-II線に沿った矢視断面図である。
【図3】図2のIII-III線に沿った矢視断面図である。
【図4】この発明の実施の形態2のエスカレーターを示す要部側断面図である。
【図5】図4のV-V線に沿った矢視断面図である。
【図6】この発明の実施の形態3のエスカレーターを示す要部正断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明の各実施の形態について図に基づいて説明するが、各図において、同一、または相当部材、部位については同一符号を付して説明する。
【0010】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1のエスカレーターを示す部分側面図である。
乗客コンベア装置であるエスカレーターでは、建物の階床間には、主枠1が掛け渡されている。主枠1内の上端部には、踏段(図示せず)を駆動させる駆動力を発生させるモータ2、このモータ2からの回転速度を減速させる減速機3、この減速機3からの駆動力により回転する駆動スプロケット4が設けられている。
モータ2の回転軸5には、モータプーリ6が取付けられている。
減速機3は、入力軸7及び出力軸8を有している。入力軸7に取付けられた入力軸プーリ9とモータプーリ6との間は、複数本のベルト10が巻き掛けされている。
入力軸7と出力軸8との間は、複数のギヤ(図示せず)を介して連結しており、入力軸7の回転力は、ギアを介して出力軸8に伝達される。
出力軸8には、チェーンスプロケット11が取付けられている。このチェーンスプロケット11と駆動スプロケット4との間には、駆動チェーン12が巻き掛けられている。
駆動スプロケット4の中心軸には、上踏段スプロケット13が取付けられている。この上踏段スプロケット13と駆動スプロケット4とは、一体になって回転する。
【0011】
主枠1内の下端部には、下踏段スプロケット(図示せず)が設けられている。この下踏段スプロケットと上踏段スプロケット13との間には、踏段チェーン14が巻き掛けられている。この踏段チェーン14には、乗客を乗せるための複数の踏段(図示せず)が連続して取付けられている。
【0012】
図2は図1のエスカレーターのII-II線に沿った矢視断面図、図3は図2のIII-III線に沿った矢視断面図である。
減速機3には、中心軸線に入力軸7が位置するようにディスクブレーキ装置15が取付けられている。
ディスクブレーキ装置15は、入力軸7にキー16を介して嵌着されたスプラインハブ17と、このスプラインハブ17にスプライン結合されているとともに、軸線方向に沿って移動可能なインナーディスク18と、このインナーディスク18と
対向して設けられたアウターディスク19と、このアウターディスク19の反対側でインナーディスク18と対向して設けられたアマチュア21と、このアマチャア21と対向して設けられ、給電による電磁力でアマチュア21を吸引するコイル20とを備えている。
アウターディスク19は、コイル20に複数のネジ(図示せず)及びナット(図示せず)によりコイル20に対して一定の距離が確保された状態で固定されている。
【0013】
アマチュア21は、ばね(図示せず)により常にアウターディスク19側に付勢しており、エスカレーターの運転が停止し、コイル20に給電されていないときには、ばねの弾性力によりインナーディスク18をアウターディスク19側に押圧してアウターディスク19と面接触させることで入力軸7の回転を拘束している。
また、アマチュア21は、コイル20への給電による電磁力でばねの弾性力に逆らってコイル20側に吸引され、インナーディスク18がアウターディスク19から離間して入力軸7の回転を可能にする
【0014】
インナーディスク18は、芯板18aと、この芯板18aの両面に接着されたライニング18bとから構成されている。
インナーディスク18は、平面に半径一定であって周方向に等分間隔で検出部である検出穴22が形成されている。
アウターディスク19の反インナーディスク18側には、ブラケット24を介して近接センサー23が固定されている。磁気形の近接センサー23の先端部は、インナーディスク18に形成された検出穴22に指向している。
この近接センサー23は、ディスクブレーキ装置15とともに、踏段の運転速度を制御する速度制御部(図示せず)と接続されている。
【0015】
上記実施の形態によるエスカレーターでは、入力軸7の回転に伴いインナーディスク18も回転するが、近接センサー23の先端部の指向先では、検出穴22と検出穴22のない部分が交互に通過し、近接センサー23もそれに合わせてパルス状の信号を発生する。
よって、速度制御部では、単位時間当たりのパルス数を計数することで入力軸7の回転速度を検出することが可能となり、この回転速度の値からエスカレーターの踏段の運転速度を知ることができる。
また、近接センサー23からの速度検出信号に基づいて、モータ2から入力軸7への駆動力の伝達の異常、例えばベルト10の異常を検出することができる。
【0016】
上記構成のエスカレーターによれば、近接センサー23は、先端部がインナーディスク18に形成された検出部である検出穴22に指向して検出穴22の単位時間当たりの検出穴22の数を計測することで、入力軸7の回転速度を検出し、エスカレーターの踏段の運転速度を知ることができる。
従って、入力軸7の回転速度を検出する速度検出器のために、入力軸7を長くする必要性はなく、減速機3の寸法が増大することはない。
また、近接センサー23は、先端部が検出穴22に指向するようにアウターディスク19に取付ければよく、近接センサー23を取付けるに当たり高度の取付け精度が不要である。
さらに、検出部は、インナーディスク18に形成された検出穴22であり、わざわざ専用の検出体を新たに設置する必要性もなく、低コスト化を図ることができる。
【0017】
実施の形態2.
図4はこの発明の実施の形態2のエスカレーターを示す要部側断面図であり、図5は図4のV-V線に沿った矢視断面図である。
この実施の形態では、インナーディスク30の外周端面に周方向に等分間隔で複数の凹部31が形成されている。
アウターディスク19には、L字形状のブラケット32を介して近接センサー23が取付けられている。近接センサー23の先端部は、凹部31に指向している。
他の構成は、実施の形態1のエスカレーターと同じである。
【0018】
この実施の形態のエスカレーターでは、インナーディスク30の回転により、近接センサー23の先端部の指向先は、凹凸が交互に通過、それに合わせて近接センサー23の先端部とインナーディスク30の芯板30aまでの距離も変化するため、近接センサー23の芯板30aの検出もON、OFFが繰り返され、近接センサー23もそれに合わせてパルス状の信号を発生する。
よって、速度制御部では、単位時間当たりのパルス数を計測することで入力軸7の回転速度を検出することが可能となり、この回転速度の値からエスカレーターの踏段の運転速度を知ることができる。
従って、この実施の形態のエスカレーターも実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0019】
実施の形態3.
図6はこの発明の実施の形態3のエスカレーターを示す要部正断面図である。
この実施の形態では、検出穴22に対向して2つの第1の近接センサー23A、第2の近接センサー23Bが設置されている。
この2つの近接センサー23A,23Bは、検出周期が1/4もしくは3/4周期ずれるように周方向に隣接して配置されている。
他の構成は実施の形態1のエスカレーターと同様である。
【0020】
この実施の形態のエスカレーターは、実施の形態1と同様の効果を得ることができるとともに、さらに近接センサー23A,23Bの信号の組合せが「ON−ON」「ON−OFF」「OFF−OFF」「OFF−ON」の4種類となり、これらの順によりエスカレーターが昇り運転か下り運転かを知ることができる。
【0021】
なお、上記各実施の形態では、磁気形の近接センサー23,23A,23Bについて説明したが、勿論この形に限定されるものではなく、超音波形、光電形等であってもよい。
また、近接センサー23,23A,23Bは、減速機3のコイル20に取付けてもよい。
さらに、この発明は、乗客コンベア装置としてエスカレーターの場合について説明したが、移動歩道であってもよい。
【符号の説明】
【0022】
1 主枠、2 モータ、3 減速機、4 駆動スプロケット、5 回転軸、6 モータプーリ、7 入力軸、8 出力軸、9 入力軸プーリ、10 ベルト、11 チェーンスプロケット、12 駆動チェーン、13 上踏段スプロケット、14 踏段チェーン、15 ディスクブレーキ装置、16 キー、17 スプラインハブ、18,30 インナーディスク、18a,30a 芯板、18b ライニング、19 アウターディスク、20 コイル、21 アマチュア、22 検出穴(検出部)、23 近接センサー、23A 第1の近接センサー、23B 第2の近接センサー、24,32 ブラケット、31 凹部(検出部)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
踏段を駆動させる駆動力を発生させるモータと、
このモータからの駆動力が伝達される入力軸を有し、入力軸の回転速度を減速させる減速機と、
この減速機に固定され前記入力軸の回転を制動するディスクブレーキ装置と、
このディスクブレーキ装置に設けられ前記入力軸の前記回転速度を検出する近接センサーとを備え、
前記ディスクブレーキ装置は、前記入力軸が中心軸線に設けられたコイルと、このコイルと対向して設けられたアマチュアと、前記入力軸に軸線方向に沿って移動可能であって前記アマチュアに対向して設けられたインナーディスクと、このインナーディスクに前記アマチュアの反対側で対向して設けられたアウターディスクとを有し、
前記アマチュアは、前記アウターディスク側に付勢された弾性体の弾性力で前記インナーディスクを前記アウターディスク側に押圧してアウターディスクと面接触させることで前記入力軸の回転を拘束し、
また前記アマチュアは、前記コイルへの給電による電磁力で前記弾性体の弾性力に逆らってコイル側に吸引され、前記インナーディスクが前記アウターディスクから離間して前記入力軸の回転を可能にする乗客コンベア装置であって、
前記近接センサーは、先端部が前記インナーディスクに形成された検出部に指向して検出部の単位時間当たりの数を検知することで前記入力軸の回転速度を検出することを特徴とする乗客コンベア装置。
【請求項2】
前記検出部は、前記インナーディスクの平面に周方向に等分間隔で形成された複数の検出穴であることを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベア装置。
【請求項3】
前記検出部は、前記インナーディスクの外周端面に周方向に等分間隔で形成された複数の凹部であることを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベア装置。
【請求項4】
前記近接センサーは、周方向に隣接して一対設けられていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の乗客コンベア装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−1538(P2013−1538A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136347(P2011−136347)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】