説明

乗客コンベア

【課題】 展示会場などに設置されても、乗客の一箇所への滞留や集中を防ぐことができる乗客コンベアを得る。
【解決手段】 欄干1の踏板側に任意の間隔で複数の乗客センサ3を配置し、乗客センサ3からの乗客の有無の信号を信号処理装置5により処理し、信号処理装置5は、いずれかの乗客センサ3から乗客有りの信号を規定時間連続して受信したとき、乗客が滞留していると判定し、欄干1に配置されたスピーカー4を有する音声案内装置は、信号処理装置5による乗客の滞留の判定に基づき、スピーカー4により警告音または注意アナウンスを発するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、乗客の一箇所への滞留や集中を防ぎ、展示会場などに設置しても安全に運転することができる乗客コンベアに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エスカレーターや動く歩道等の乗客コンベアは、大量の乗客を連続して輸送できることから駅やショッピングセンター等の建物に設置して使用されることが一般的である。
特許文献1には、動く歩道の側壁に、乗客の転倒などの異常行動を検知するセンサ(赤外線センサなど)を配置し、このセンサの検知内容に基づき、音声制御装置などを制御して、現場のスピーカーによるアナウンスや、動く歩道の停止などを行うものが、記載されている。
また、特許文献2には、センサにより乗客コンベアの移動方向に逆行する乗客を検出し、この検出した乗客に対して報知器(スピーカー)により注意を促すようにしたものが記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−118967号公報(第3〜6頁、図4)
【特許文献2】特開平11−292449号公報(第2頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
乗客コンベアは、乗客を連続して輸送できるという特徴から、展示会場などでの順路として設置、使用されることもある。この場合、特に注目される展示物の前の順路として乗客コンベアが配置されると、その展示物をよく見るために乗客が同じ位置を保とうとし、乗客コンベアの踏板上を逆行する可能性がある。そうすると後続の乗客と、どちらも展示物に集中しているために衝突する可能性があり、損傷したり転倒したりすることが考えられる。
また、乗客が同じ位置に留まっているところへ後続から大量の乗客が踏板上を輸送される場合では、急に渋滞となることから、将棋倒しのような危険な事象が発生する恐れがある。
特許文献1のものでは、乗客の転倒など異常な行動を検出するものであり、一箇所への滞留や集中を検出するものではなかった。
また、特許文献2では、乗客コンベアの移動方向に逆行する乗客に対して、報知器(スピーカー)により注意を促すだけであり、これも、一箇所への滞留や集中を検出し、それに対処するものではなかった。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、展示会場などに設置されても、乗客の一箇所への滞留や集中を防ぐことができる乗客コンベアを得ることを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係わる乗客コンベアにおいては、欄干に配置され、それぞれ乗客の有無を検知する複数の乗客センサ、及びこの乗客センサからの乗客の有無の信号を処理し、いずれかの乗客センサから乗客有りの信号を第一の規定時間連続して受信したとき、乗客が滞留していると判定する信号処理装置を備え、信号処理装置は、乗客の滞留を判定したとき、乗客コンベアを滞留防止運転に移行させるものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明は、以上説明したように、欄干に配置され、それぞれ乗客の有無を検知する複数の乗客センサ、及びこの乗客センサからの乗客の有無の信号を処理し、いずれかの乗客センサから乗客有りの信号を第一の規定時間連続して受信したとき、乗客が滞留していると判定する信号処理装置を備え、信号処理装置は、乗客の滞留を判定したとき、乗客コンベアを滞留防止運転に移行させるので、展示会場等で展示物の前の順路として適用される場合に、展示物の前で乗客が同じ位置を保とうと滞留していることを検知し、同じ位置に留まろうとする乗客の滞留を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による乗客コンベアを示す概要図である。
図1において、乗客コンベアの欄干1の乗客が乗る踏板2側に、任意の個数の乗客センサ3(3a〜3fは個別の乗客センサ)が任意の間隔で設けられている。また、乗客コンベアの欄干1の乗客が乗る踏板2側に、任意の個数のスピーカー4(4a〜4cは個別のスピーカー)が任意の間隔で設けられ、一箇所への乗客の滞留や集中時に警告音または注意アナウンスを行う。
【0009】
図2は、この発明の実施の形態1による乗客コンベアを示す構成図である。
図2において、乗客センサ3は、一方の欄干1に投光器31を設け、対向する欄干1に受光器32を設ける透過型光電スイッチを用い、両者間に乗客が進入して光線が遮られた時に乗客有りの信号を、乗客コンベア内に装備された信号処理装置5に発する。信号処理装置5は、乗客センサ3からの信号が入力されている時間の計測を行う他、既定の条件により乗客コンベアの他機器へ動作指令を出す機能を有する。この機能には、乗客コンベアを滞留防止運転に移行させることも含まれる。
音声再生装置6は、警告音や注意メッセージが予め登録されており、信号処理装置5の指令に基づき、滞留防止運転時には、スピーカー4に警告音や注意アナウンスを行わせる。この音声再生装置6とスピーカー4とで、音声案内装置を形成する。速度変換制御装置7は、例えば可変電圧可変周波数制御方式により、信号処理装置5の指令に基づき、滞留防止運転時には、乗客コンベアの速度を変換するように、すなわち、速度の低下または乗客コンベアを停止するように制御する。
【0010】
なお、乗客センサ3は、透過型光電スイッチの他、物体の検出ができるものであれば反射型光電スイッチやその他のものでもよい。
また、図1では、乗客センサ3は、乗客コンベア全長に亘って配置しているが、展示物の位置などにより乗客の滞留が予め予測できる場合は、その予測できる辺りにのみ集中して配置することもできる。
図3は、この発明の実施の形態1による乗客コンベアの動作を示すフローチャートである。
【0011】
次に、動作について説明する。
通常、乗客が単一の踏板2上に立ち、ある一つの乗客センサ3前を通過するときは、乗客コンベアの踏板2の速度0.5m/sec、乗客の体幅0.5mとすると、通過に要する時間は1secである。よって、例えば予め信号処理装置5に、1.5sec以上の乗客有り信号が乗客センサ3から連続して入力される場合は、乗客が同じ位置を保とうとしている、すなわち滞留していると判定するよう設定する。
通常では、上述のとおり、乗客が乗客センサ3前を通過する時間は、1secなので、この場合には、信号処理装置5は、乗客が滞留なくスムーズに流れていると判定する。
例えば乗客センサ3cの前に注目の展示物があり、乗客がその位置を保とうと踏板2上を逆行し、乗客センサ3cの前に2sec存在した場合、信号処理装置5は、乗客が同じ位置を保とうとしていると判定する。
または、同様に乗客センサ3cの前に注目の展示物があり、乗客がその位置を保とうと踏板2上を逆行し、後続の乗客がそれに気付いて乗客センサ3dの前で後ずさりした場合でも、乗客センサ3dから1.5sec以上の乗客有り信号が連続して入力されれば、信号処理装置5は、乗客が同じ位置を保とうとしていると判定し、乗客コンベアを滞留防止運転に移行させることができる。
【0012】
次に、スピーカー4を用いた警告音または注意アナウンスについて説明する。
乗客コンベアの欄干1の乗客が乗る踏板2側に、任意の間隔で設けられたスピーカー4a〜4cは、音声再生装置6と接続され、両者にて音声案内装置を形成する。音声再生装置6は、信号処理装置5と接続され、信号処理装置5からの指令により、予め設定された警告音または注意アナウンスを発する機能を有する。
信号処理装置5は、上述のように、乗客が同じ位置を保とうとしていると判定した後、音声再生装置6に音声を発するよう指令を出す。音声再生装置6には予め何らかの警告音、または例えば「同じ位置に留まらず踏板と一緒に前へお進みください」など注意メッセージが登録されており、信号処理装置5の指令に従がい音声を発する。これにより、同じ位置を保とうとしている乗客に前方へ進むよう促し、乗客が滞留するのを防ぐ。
【0013】
乗客コンベアは、さらに速度変換制御装置7を備えている。この速度変換制御装置7は、例えば可変電圧可変周波数制御方式であり、速度変換をスムーズに行うことができることから、乗客に衝撃を与えることなく運転中に踏板2の速度を変換することができる。この速度変換制御装置7は、信号処理装置5と接続され、信号処理装置5からの指令により、予め設定された値に速度を低下する機能を有する。
信号処理装置5は、上述のように、乗客が同じ位置を保とうとしていると判定した後、速度変換制御装置7へ速度を低下するよう指令を出す。速度変換制御装置7には、予め低速度の設定、例えば踏板2の定格速度が0.5m/secの場合、その半分の0.25m/secが設定されており、信号処理装置5の指令に従がい、速度を低下させる。これにより、同じ位置を保とうとしている乗客がいる場合、その後続の乗客がその位置へ接近するまでの時間を遅らせ、乗客がその位置で滞留するのを防ぐ。
【0014】
また、速度変換制御装置7には、予め0速度の設定、つまり速度を徐々に低下させ停止させる設定をすることもできる。この場合には、信号処理装置5の指令に従がい、乗客コンベアを停止させるように制御する。これにより、同じ位置を保とうとしている乗客がいる場合、その後続の乗客がその位置へ接近しないよう乗客コンベアを停止し、乗客がその位置で滞留するのを確実に防ぐことができる。
【0015】
次に、図3に基づき、乗客コンベアの乗客の滞留に対する段階的な対応について説明する。図3は、主として信号処理装置5の処理である。
図3で、まず、停止待機状態(ステップS1)から運転操作(ステップS2)し、乗客コンベアを定格速度で運転する(ステップS3)。
乗客が踏板2上へ乗り込んできて、乗客センサ3前を通過するたびに、乗客センサ3は、乗客検知を行い(ステップS4)、乗客有り信号を信号処理装置5へ伝送し、信号処理装置5は、検知時間を計測する。
計測した検知時間の内、一つでも規定時間(第一の規定時間)以上のものがあれば、信号処理装置5は、乗客の滞留有りと判定し(ステップS5)、音声案内装置へ警告音または注意アナウンスを発するよう指令し、これを受けて、音声案内装置は、警告音または注意アナウンスを発する(ステップS6)。
【0016】
その後、反応していた乗客センサ3が乗客を検知しなくなれば(ステップS7)、警告音または注意アナウンスを停止して(ステップS8)、通常運転(ステップS3)へ復帰するが、引続き乗客を検知し、規定時間(第二の規定時間)、例えば1secが経過すると(ステップS7)、信号処理装置5は、速度変換制御装置7へ速度の低下を指令し、乗客コンベアは、低速運転に移行する(ステップS9)。このとき警告音または注意アナウンスは、発したままとなる。
その後、反応していた乗客センサ3が、乗客を検知しなくなれば(ステップS10)、警告音または注意アナウンスを停止して(ステップS8)、通常運転(ステップS3)へ復帰するが、引続き乗客を検知し、規定時間(第三の規定時間)、例えば1secが経過すると(ステップS10)、信号処理装置5は、速度変換制御装置7へ0速度化を指令し、乗客コンベアは、停止し(ステップS11)、待機状態(ステップS1)へ戻る。このとき警告音または注意アナウンスも停止する(ステップS12)。
以上により、信号処理装置5による制御を段階的に行うことにより、乗客の滞留を確実に防ぐとともに、乗客コンベアの停止をなるべく避けて利便性を損なわない運用を行うことができる。
【0017】
実施の形態1によれば、特に展示会場等で展示物の前の順路として適用されるような乗客コンベアにおいて、展示物の前で乗客が同じ位置を保とうと滞留(実際には踏板上を逆行)していることを自動的に検知することができ、この検知により、同じ位置に留まろうとする乗客に対し、注意を発し、踏板速度に従って前へ進むことを促し、乗客が滞留することを防ぐことができる。
また、乗客コンベアの速度を低下させることにより、後続の乗客が滞留位置へさらに集中してしまうことを抑えることができる。
さらに、滞留した乗客に注意警告し、その効果が顕れない時は、注意警告しつつ後続の乗客がその位置に詰まらないよう運転速度を低下し、さらに効果が顕れない時は、それ以上その場所に乗客が詰まるのを避けるため、乗客コンベアの運転を停止するように、段階的に制御することにより、乗客密集による将棋倒し等の最悪の事態を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の実施の形態1による乗客コンベアを示す概要図である。
【図2】この発明の実施の形態1による乗客コンベアを示す構成図である。
【図3】この発明の実施の形態1による乗客コンベアの動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0019】
1 欄干
2 踏板
3 乗客センサ
31 投光器
32 受光器
4 スピーカー
5 信号処理装置
6 音声再生装置
7 速度変換制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
欄干に配置され、それぞれ乗客の有無を検知する複数の乗客センサ、及びこの乗客センサからの乗客の有無の信号を処理し、いずれかの乗客センサから乗客有りの信号を第一の規定時間連続して受信したとき、上記乗客が滞留していると判定する信号処理装置を備え、上記信号処理装置は、上記乗客の滞留を判定したとき、乗客コンベアを滞留防止運転に移行させることを特徴とする乗客コンベア。
【請求項2】
欄干に配置されたスピーカーを有する音声案内装置を備え、上記信号処理装置は、上記乗客の滞留を判定したとき、上記滞留防止運転として、上記音声案内装置に上記スピーカーにより警告音または注意アナウンスを発せさせることを特徴とする請求項1記載の乗客コンベア。
【請求項3】
乗客コンベアの運転速度を変換するように制御する速度変換制御装置を備え、上記信号処理装置は、上記信号処理装置が上記乗客の滞留を判定した後、上記滞留防止運転として、上記速度変換制御装置に上記運転速度の低下または上記乗客コンベアの運転停止を行わせることを特徴とする請求項1記載の乗客コンベア。
【請求項4】
欄干に配置されたスピーカーを有する音声案内装置、及び乗客コンベアの運転速度を変換するように制御する速度変換制御装置を備え、上記信号処理装置は、上記いずれかの乗客センサから上記第一の規定時間連続して乗客有りの信号を受信したとき、上記音声案内装置に警告音または注意アナウンスを発する指令を送り、上記いずれかの乗客センサから上記第一の規定時間連続して乗客有りの信号を受信した後、上記乗客センサからさらに乗客有りの信号を第二の規定時間連続して受信したとき、上記速度変換制御装置に上記乗客コンベアの運転速度を低下させる指令を送ると共に、上記乗客センサから上記第二の規定時間連続して乗客有りの信号を受信した後、上記乗客センサからさらに乗客有りの信号を第三の規定時間連続して受信したとき、上記速度変換制御装置に上記乗客コンベアの運転を停止させる指令を送ることを特徴とする請求項1記載の乗客コンベア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−282307(P2006−282307A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−102981(P2005−102981)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】