説明

乗客コンベア

【課題】手巻き装置の取り外し忘れがある場合には、運転ができない乗客コンベアを提供する。
【解決手段】モータ20の回転軸34に係合する筒状の軸部44と、軸部44に設けられたハンドル50と、軸部44に設けられ回転軸34と係合しているときに動作するリミットスイッチ54と、リミットスイッチ54に接続され、軸部44から延びているケーブル62とを有する手巻き装置36である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エスカレータや動く歩道などの乗客コンベアに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、乗客コンベアの据付作業や点検作業時に、踏段チェーンを無通電状態で、作業員が、モータ又は減速機などの回転軸にハンドルを装着し、このハンドルを手動で回転させて、踏段及び踏段チェーンを回転させる手巻き装置がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−324950号公報
【特許文献2】特開平9−2773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような手巻き装置において、据付作業や点検作業が終わった後は、この手巻き装置をモータなどから取り外す。しかし、この手巻き装置の取り外しを忘れたまま、モータに電源が印加され回転させてしまうと、手巻き装置のハンドルなどの突出物が回転して、作業員に危険な状態となる。また、その回転によりハンドルが外れた場合でも、作業員にとって危険である。
【0005】
ところが、従来においてはこの手巻き装置の取り外し忘れに対する安全手段が設けられていなかった。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、手巻き装置の取り外し忘れがある場合には、運転ができない乗客コンベアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態は、(1)乗客コンベアを駆動させるモータの回転軸、又は、前記モータの減速機の回転軸に係合する筒状の軸部と、(2)前記軸部を回転させるために前記軸部に設けられたハンドルと、(3)前記軸部に設けられ、前記回転軸と係合しているときに動作するスイッチと、(4)前記スイッチに接続され、前記軸部から延びているケーブルと、を有する手巻き装置と、前記ケーブルを介して前記スイッチが動作したときに遮断される安全回路と、前記安全回路が遮断されたときに前記モータを停止させる制御装置と、を有することを特徴とする乗客コンベアである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】一実施形態のエスカレータの縦断面図である。
【図2】モータの正面図である。
【図3】モータの一部欠裁平面図である。
【図4】手巻き装置の正面図である。
【図5】手巻き装置の平面図である。
【図6】図5におけるA−A線断面図である。
【図7】手巻き装置をモータに取り付けた状態の正面図である。
【図8】手巻き装置をモータに取り付けた状態の一部欠裁平面図である。
【図9】安全回路の回路図である。
【図10】制御回路の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、一実施形態の乗客コンベアについて図面に基づいて説明する。本実施形態の乗客コンベアとしては、エスカレータ10を例に説明する。
【0010】
(1)エスカレータ10の構造
本実施形態のエスカレータ10について、図1に基づいて説明する。
【0011】
エスカレータ10は、建屋に設置されたトラス12の上階側の端部に機械室14が設けられている。機械室14内部には、駆動装置16が設けられている。駆動装置16は、台18の上に設置されたモータ20と、このモータ20の減速機22が設置されている。減速機22の出力軸には、小駆動スプロケット24が取り付けられている。また、トラス12の上階側には、不図示の大駆動スプロケットが取り付けられ、大駆動スプロケットと前記した小駆動スプロケット24とが、駆動チェーン26を介して連結されている。
【0012】
トラス12の下階側の機械室にも大駆動スプロケットが設けられ、上階側の大駆動スプロケットとの間に無端の踏段チェーンが掛け渡されている。この踏段チェーンには、複数の踏段28が取り付けられている。
【0013】
踏段28の左右両側部には、左右一対の欄干30が設けられ、この欄干30に踏段28と同期して移動する手すりベルト32が設けられている。
【0014】
モータ20の減速機22側の出力軸とは反対側の回転軸34には、モータ20の回転軸34を手動で回転させるための手巻き装置36が取付け可能となっている。この手巻き装置36については後から詳しく説明する。
【0015】
機械室14の壁面には、エスカレータ10を制御するための制御装置38が設けられている。
【0016】
(2)手巻き装置36の構造
次に、手巻き装置36の構造について、図2〜図6に基づいて説明する。
【0017】
図2はモータ20の正面図であり、図3はモータ20の一部欠裁平面図である。
【0018】
図2と図3に示すように、モータ20の回転軸34が、モータ20のモータ本体40から突出し、回転軸34の先端部にのみ、軸方向に沿って係合溝42が設けられている。モータ本体40には、ボルト孔92が開口している。
【0019】
図4は手巻き装置36の正面図であり、図5は手巻き装置36の平面図であり、図6は図5のA−A線断面図である。
【0020】
図4と図5に示すように、手巻き装置36は、筒状の軸部44を有している。この筒状の軸部44は、回転軸34に係合可能となっている。軸部44は、ハンドル軸部46とスイッチ軸部48とから構成されている。
【0021】
軸部44の先端部側にあるハンドル軸部46には、L字状のハンドル50が外方に突出している。ハンドル軸部46の内周面、すなわち、回転軸34が係合する内周面には、回転軸34の係合溝42と係合する係合突条52が軸方向に突出している。ハンドル軸部46は、スイッチ軸部48と独立して回転可能である。また、ハンドル軸部46は、ラチェット構造であって、ハンドル軸部46は一方向にしか回転せず(例えば、図4において時計回りの方向)、かつ、小刻みにしか回転できない。
【0022】
軸部44の基部側にあるスイッチ軸部48は、その外周部にb接点型のリミットスイッチ54が取り付けられている。リミットスイッチ54の動作部56は、スイッチ軸部48を貫通し、スイッチ軸部48の内周面から突出している。スイッチ軸部48に回転軸34を挿入したときに、回転軸34によって動作部56が押され、リミットスイッチ54はON状態からOFF状態となる。スイッチ軸部48の内周面には、係合突条は設けられていない。リミットスイッチ54とスイッチ軸部48とは、支持板58に固定されている。支持板58には、ボルト孔60が開口している。また、リミットスイッチ54からは、このリミットスイッチ54のON/OFFの信号を出力するためのケーブル62が延びており、制御装置38に接続されている。
【0023】
次に、ハンドル軸部46とスイッチ軸部48の連結構造について、図6に基づいて説明する。
【0024】
スイッチ軸部48とハンドル軸部46との間には、ベアリング53が設けられている。ベアリング53の外輪側には、スイッチ軸部48が取り付けられ、内輪側にはハンドル軸部46が取り付けられている。これにより、ハンドル軸部46とスイッチ軸部48とは、軸方向に固定され、かつ、ハンドル軸部46とスイッチ軸部48とは互いに独立して回転可能となっている。
【0025】
(3)制御装置38の構造
次に、制御装置38の構造について、図9及び図10に基づいて説明する。
【0026】
図9は、制御装置38内部に設けられた安全回路64の回路図であり、図10は制御装置38内部に設けられた制御回路65の回路図である。
【0027】
安全回路64には、エスカレータ10に設けられているインレット安全装置などのb接点型のリミットスイッチ66、68、70が直列に接続され、更に上記で説明した手巻き装置36のb接点型のリミットスイッチ54と安全装置動作検出リレー(CC)72が直列に接続されている。
【0028】
次に、図10の制御回路65について説明する。
【0029】
制御回路65は、作業員が運転操作スイッチ74を上方向(UP)に操作すると、上方向運転コンタクタ76が励磁され、a接点型のリミットスイッチ78がON状態となり、下方向運転コンタクタ82と直列に接続されたb接点型のリミットスイッチ80がOFF状態となる。これにより、モータ20は上方向に踏段28を移動させるように回転させる。
【0030】
一方、作業員が運転操作スイッチ74を下方向(DWON)に操作すると、下方向運転コンタクタ82が励磁され、a接点型のリミットスイッチ84がON状態となり、上方向運転コンタクタ76と直列に接続されたb接点型のリミットスイッチ86がOFF状態となる。これにより、モータ20が踏段28を下方向に移動させるように回転する。
【0031】
安全回路64が遮断されていない場合、すなわち、全てのリミットスイッチ66〜70及び手巻き装置36のリミットスイッチ54がON状態のときのみ、検出リレー(CC)72のa接点型のリレースイッチ88,88は、ON状態となり制御回路65が動作する。
【0032】
(4)手巻き装置36の使用状態
次に、手巻き装置36の使用状態について図7と図8に基づいて説明する。
【0033】
作業員が、手巻き装置36をモータ20に取り付けていない場合には、リミットスイッチ54の動作部56がスイッチ軸部48から突出した状態となっているため、b接点型のリミットスイッチ54はON状態となっている。そのため、安全回路64は遮断されず、制御回路65によってモータ20を動作させることができる。
【0034】
次に、作業員が、エスカレータ10の据付作業や点検作業時に踏段チェーンを無通電状態で移動させる場合には、作業員が、モータ20の回転軸34に手巻き装置36を取り付ける。この場合に、筒状の軸部44に回転軸34を挿入する。図7及び図8に示すように、回転軸34の先端部にのみ係合溝42が設けられているため、この係合溝がハンドル軸部46の係合突条52と係合する。一方、回転軸34の基部には係合溝42が設けられておらず、かつ、スイッチ軸部48の内周面にも係合突条が設けられていないため、その取付けを容易にすることができる。スイッチ軸部48に回転軸34を挿入すると、回転軸34によってリミットスイッチ54の動作部56が外方に押され、b接点型のリミットスイッチ54がON状態からOFF状態となる。リミットスイッチ54がOFF状態になると、安全回路64が遮断され、手巻き装置36による作業中においては、制御回路65によってモータ20は回転しない。
【0035】
次に、作業員は、ボルト90を支持板58のボルト孔60と、モータ20の表面に設けられたボルト孔92に挿入して、支持板58をモータ20の表面に固定する。これによって、スイッチ軸部48とリミットスイッチ54が回転しない。
【0036】
次に、作業員は、ハンドル50を回転させると、スイッチ軸部48から独立したハンドル軸部46がラチェット構造により一方向に、かつ、小刻みに回転し、係合突条52と係合溝42が係合していることにより回転軸34が回転し、踏段チェーンが移動する。このときに、手巻き装置36のハンドル50を回転させても、スイッチ軸部48がモータ20に固定され、ハンドル軸部46のみが回転するため、ケーブル62が捩れたりすることがない。
【0037】
次に、作業員が、手巻き装置36による作業を終えて、手巻き装置36を回転軸34から取り外すと、リミットスイッチ54の動作部56を押さえていた回転軸34が外れ、b接点型のリミットスイッチ54がOFF状態からON状態となる。リミットスイッチ54がON状態になると安全回路64の遮断状態が解除され、制御回路65によってモータ20の回転が可能となる。
【0038】
一方、作業員が、作業を終えた後でも、手巻き装置36の取り外しを忘れた場合には、リミットスイッチ54がOFF状態のままであって安全回路64は遮断されており、モータ20は回転しない。そのため、作業員が危険な状態になることがない。
【0039】
(5)効果
以上により、本実施形態によれば、作業員が手巻き装置36を取り外し忘れしたときには、モータ20が回転せず、危険な状態になることがない。
【0040】
また、ハンドル軸部46がスイッチ軸部48に対し独立して回転し、スイッチ軸部48は固定されているため、ケーブルが捩れたりすることがない。
【0041】
(6)変更例
上記実施形態では、乗客コンベアとしてエスカレータ10で説明したが、これに代えて動く歩道で適用してもよい。
【0042】
また、上記実施形態では、モータ20の回転軸34に手巻き装置36を取り付けたが、これに代えて減速機22の回転軸に手巻き装置36を取り付けてもよい。
【0043】
上記では本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の主旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0044】
10・・・エスカレータ、20・・・モータ、22・・・減速機、34・・・回転軸、36・・・手巻き装置、38・・・制御装置、40・・・モータ本体、42・・・係合溝、44・・・軸部、46・・・ハンドル軸部、48・・・スイッチ軸部、50・・・ハンドル、52・・・係合突条、54・・・リミットスイッチ、56・・・動作部、58・・・支持板、64・・・安全回路、65・・・制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)乗客コンベアを駆動させるモータの回転軸、又は、前記モータの減速機の回転軸に係合する筒状の軸部と、
(2)前記軸部を回転させるために前記軸部に設けられたハンドルと、
(3)前記軸部に設けられ、前記回転軸と係合しているときに動作するスイッチと、
(4)前記スイッチに接続され、前記軸部から延びているケーブルと、
を有する手巻き装置と、
前記ケーブルを介して前記スイッチが動作したときに遮断される安全回路と、
前記安全回路が遮断されたときに前記モータを停止させる制御装置と、
を有することを特徴とする乗客コンベア。
【請求項2】
前記軸部は、
前記スイッチが設けられ、前記ケーブルが延びているスイッチ軸部と、
前記ハンドルが設けられ、かつ、前記スイッチ軸部と独立して前記回転軸と共に回転するハンドル軸部と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項3】
前記ハンドル軸部がラチェット構造を有する、
ことを特徴とする請求項2に記載の乗客コンベア。
【請求項4】
前記ハンドル軸部と前記スイッチ軸部とが、ベアリングを介して連結されている、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の乗客コンベア。
【請求項5】
前記ハンドル軸部の内周面に係合突条が設けられ、
前記ハンドル軸部に対応する前記回転軸に前記係合突条と係合する係合溝が設けられ、
前記スイッチ軸部の内周面は前記係合突条が設けられていない、
ことを特徴とする請求項2乃至4のいずれか一項に記載の乗客コンベア。
【請求項6】
前記スイッチ軸部が、前記モータ、又は、前記減速機に固定されている、
ことを特徴とする請求項2乃至5のいずれか一項に記載の乗客コンベア。
【請求項7】
前記スイッチの動作部が、前記スイッチ軸部の内周面から進退自在に突出している、
ことを特徴とする請求項2乃至6のいずれか一項に記載の乗客コンベア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−1497(P2013−1497A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133426(P2011−133426)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】