説明

乗客案内装置

【課題】乗合車両の乗客を円滑かつ安全に案内する案内装置を提供する。
【解決手段】前部乗客案内装置1は、乗降口のステップ22のステップ最上部28に設けられた案内表示部43、ステップ上段29に設けられた案内表示部44、ステップ下段30に設けられた案内表示部45を具備する。案内表示部43〜45は、LEDを内蔵する発光部43a〜45aを備え、運転士のドア開閉スイッチの操作に基いて、発光部43a〜45aは上から下へと順番に点灯し、ステップ22の各段の視認性を高めるとともに、ステップ22を備える乗降口が、降車のための乗降口であることを乗客に示唆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の乗降時に乗客を案内するための乗客案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道やバス等の公共交通機関において、複数の乗降口を有する車両では、乗降に利用する乗降口が異なる場合がある。鉄道では、駅によって開閉される乗降口が異なっており、乗客は、乗車した乗降口とは違う乗降口から降車することがしばしばある。また、バスでは、一般に乗車用乗降口及び降車用乗降口が区別されているが、事業者や路線によって車体前部の乗降口と車体後部の乗降口とのどちらが乗車用であり、どちらが降車用であるかが異なっている。このような状況に対し、乗客の利便性を高めるために、停留所や駅が近づいたときに、次の停留所または駅でいずれの乗降口が開閉されるか、あるいはいずれの乗降口から降車可能かということを音声で乗客に知らせる音声案内装置が利用されていた。
【0003】
しかし、従来の音声案内装置では、聴覚障害者や高齢者にとっては案内音声をうまく聞き取ることができないという問題があった。また、外国人の乗客には日本語音声による案内では理解できない虞があった。
【0004】
これに対し、視覚的で目立つ発光表示を行うことで、乗客に視覚的に乗降口の開閉を知らせる技術が知られている(特許文献1を参照)。特許文献1の技術によれば、鉄道車両の乗降口付近に発光装置を内蔵する手摺を設け、当該手摺を発光させることで、乗客にどの乗降口のドアが開放されるかを知らせることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−230380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、バスや一部の鉄道などの乗合車両には、車両構造の都合上、乗降口付近など車内にステップや段差を有するものがある。このような乗合車両においては、乗客は、降車のために車内を移動するときに足元に注意する必要があった。しかし、特許文献1のように手摺を発光させるようにすると、床よりも高い位置にある手摺を注視しているために乗客が段差に気づかずに踏み外し、段差で転倒する虞があった。
【0007】
本発明の目的は、降車しようとする乗客が、安全かつ円滑に車内を移動できるように案内する乗客案内装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の乗客案内装置は、「複数の乗降口を備える乗合車両における乗客案内装置であって、車室床に設けられ、少なくとも第一の表示状態、及び該第一の表示状態よりも視覚的刺激の強い第二の表示状態を含む複数通りの表示状態に変化させることが可能であり、前記第一の表示状態から前記第二の表示状態に変化させ、降車する乗客の移動方向を示唆する案内表示部を具備する」ことを特徴とする。
【0009】
ここで、「表示状態」とは、乗客に視覚的に認識される態様のことであり、例として、電球やLED等の発光装置の点灯・消灯状態や、発光装置が発する色や光量の状態を挙げることができる。また、「視覚的刺激」とは、例えば、発光装置の発する光量、発光色の彩度、明度等を挙げることができる。
【0010】
本発明によれば、乗合車両の車室床には案内表示部が設けられており、夫々の案内表示部は、第一の表示状態から、より視覚的刺激の強い第二の表示状態へと変化させることが可能である。これにより、乗客は、降車時に車内を移動するときに、足元を見て段差の有無を確認しながら、案内表示部の表示状態によって降車すべき乗降口を知ることができ、安全かつ円滑に移動することができる。
【0011】
また、本発明は、「前記案内表示部は複数設けられており、該複数の案内表示部は、降車時に利用される乗降口に対して遠い側から近い側へと順に前記第一の表示状態から前期第二の表示状態へ変化させ、降車する乗客の移動方向を示唆する」構成とすることができる。
【0012】
本構成によれば、案内表示部は、降車時に利用される乗降口から遠い側から近い側へと順に表示状態を変化させる。例えば、案内表示部が発光装置を備えているものであれば、乗降口から遠い側から近い側へと順番に発光装置を点灯させることで、乗客に対して移動方向を示唆する。これにより、降車する乗客は、いずれの乗降口に向けて移動すべきかを直観的に把握することができる。
【0013】
また、本発明は、「前記複数の案内表示部の一部または全部が、車室床の段差の突出部に設けられている」構成とすることができる。
【0014】
バスや鉄道等の乗合車両の場合、車体構造上の制約により車室床に段差を有する場合がある。本構成によれば、複数の案内表示部の一部または全部が、車室床の段差の突出部に設けられているので、局所的に段差の視認性を向上させる。これにより、乗客が段差でつまづいたり空踏みしたりして転倒する虞を防ぐことができる。なお、段差の「突出部」とは、段差の踏面と蹴上面との境界にあたる稜線部の周辺である。
【0015】
また、本発明は、「前記案内表示部は、前記突出部の稜線部に並行する帯状を呈する」構成としてもよい。
【0016】
本構成によれば、案内表示部は、突出部の稜線部に並行する帯状を呈しており、稜線部の形状に沿って延びる案内表示部の形状によって段差の位置と形状を示し、段差の視認性を高めることができる。これにより、乗客を乗降口へ誘導しつつ、段差の見落としによる転倒の恐れを防ぎ、さらに安全に乗客を乗降口へと案内することができる。
【0017】
また、本発明は、「車室床との間に階段状のステップが設けられた複数の乗降口を備える乗合車両における乗客案内装置であって、
前記ステップの幅方向に延びる帯状を呈し、少なくとも第一の表示状態、及び該第一の表示状態よりも視覚的刺激の強い第二の表示状態に変化させることが可能であり、夫々前記ステップの各段の突出部に設けられた複数の案内表示部を具備し、
降車用の乗降口近くの前記ステップに設けられた前記複数の案内表示部は、前記ステップの上側の前記案内表示部から下側の前記案内表示部へと順に前記第一の表示状態から前期第二の表示状態へ変化させ、降車する乗客の移動方向を示唆し、
乗車用の乗降口近くの前記ステップに設けられた前記複数の案内表示部は、前記ステップの前記乗車用の乗降口側の前記案内表示部から前記車室床側の前記案内表示部へと順に前記第一の表示状態から前期第二の表示状態へ変化させ、乗車する乗客の移動方向を示唆する」構成としてもよい。
【0018】
本構成によれば、降車用及び乗車用の各乗降口付近の階段状のステップに設けた案内表示部の表示状態によって乗降する乗客を案内する。これにより、降車のための乗降口及び乗車のための乗降口を明確に示し、安全かつ円滑な乗客の移動を促すことができる。また、停留所等で乗車を希望して待っていた客にも、降車用の乗降口と乗車用の乗降口とを区別して認識させることができるので、誤って降車用の乗降口から乗車しようとして乗客の動線が錯綜する虞を防ぐことができる。
【0019】
また、本発明は、「前記案内表示部は、発光ダイオードを備える」構成としてもよい。
【0020】
本構成によれば、案内表示部は発光ダイオード(LED)を備えており、発光によって表示状態を変化させることができる。また、発光ダイオードは小型であって狭小なスペースにも配設可能であるので、光源として発光ダイオードを用いることで案内表示部の大型化を防ぎ、車室床に対する加工をごく小さく留めることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明の乗客案内装置によれば、車室床に設けられた案内表示部の表示状態の変化で降車する乗客の移動方向を示唆することにより、乗客が、安全かつ円滑に乗降口に移動できるように案内することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態における乗客案内装置の概略を平面的に示す説明図。
【図2】乗客案内装置の構成を示す斜視図。
【図3】乗客案内装置の斜視図及び断面を示す説明図。
【図4】案内表示方法の一例を示す説明図。
【図5】案内表示方法の一例を示す説明図。
【図6】案内表示方法の一例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態である乗客案内装置1について、図1〜図6に基き説明する。図1は、バスに設けられた乗客案内装置の概略を平面的に示す説明図であり、図2は、乗客案内装置の構成を示す斜視図であり、図3は、乗客案内装置の斜視図及び断面を示す説明図である。図4は、乗客案内装置を用いた案内表示方法の一例を示す説明図であり、図5は、乗客案内装置を用いた案内表示方法の他の一例を示す説明図であり、図6は、乗客案内装置を用いた案内表示方法のさらに異なる一例を示す説明図である。
【0024】
図1に示すように、バス10は、概略において一般的な路線バスと同様の車体構成を有しており、運転席34付近の車体前部に前部乗降口8、及び車体中央後部寄りの位置に後部乗降口9と、乗客が乗降するための乗降口を車体左側面10aの前後2箇所に備えている。車室13の中には座席14、二人用座席15、及び横長座席16が多数設置されている。バス10のエンジンや車輪懸架機構など(いずれも図示しない)が車体後部に備えられているため、それらの機構の上に位置する車室13の後部は前部よりも高くなっており、車室床4には段差20,21が設けられ、前部車室床17、後部車室床18、最後部車室床19の順に、階段状に床面が高くなっている。ここで、バス10が、本発明の乗合車両に相当する。また、前部車室床17、後部車室床18、及び最後部車室床19が、本発明の車室床に相当する。
【0025】
前部乗降口8には前部ドア11が設けられており、車外から乗り込みやすい高さに設けられている。そして、前部乗降口8よりも高い前部車室床17に乗客が乗り込めるように、二段の階段状のステップ22が前部乗降口8と前部車室床17との間に設けられている。同様に、後部乗降口9には後部ドア12が設けられており、後部乗降口9と前部車室床17との間には、二段の階段状のステップ23が設けられている。ここで、前部乗降口8及び後部乗降口9が、本発明の乗降口に相当し、ステップ22及びステップ23が、本発明の段差に相当する。
【0026】
ステップ23の右側には、後方の客席15との間を仕切る仕切板33が立設されており、仕切板33の前側には整理券発券機31が設置されている。本例のバス10では、整理券発券機31は、後部乗降口9から乗車する乗客に整理券を発券する。
【0027】
前部乗降口8と運転席34との間には、運賃箱32が設置されている。本例のバス10では、運賃箱32は、一般的な運賃箱であり、降車する乗客は、整理券及び運賃相当の貨幣を運賃箱32に投入して運賃を精算する。
【0028】
図1及び図2に示すように、前部車室床17の端部からステップ22の下段にかけて、ステップ22の各段の踏面の端部には、前部乗客案内装置1を構成する三個の案内表示器43,44,45が、上から下に順番に装着されている。案内表示部43〜45は、いずれも同等品である。ステップ22と同様に、前部車室床17の端部からステップ23の下段にかけて、ステップ23の各段の踏面の端部には、後部乗客案内装置2を構成する三個の案内表示器46,47,48が、上から下に順番に装着されている。案内表示器46〜48もまた、案内表示器43〜45と同等品である。ここで、前部乗客案内装置1及び後部乗客案内装置2が、本発明の乗客案内装置に相当する。
【0029】
案内表示器43は、前部車室床17の端部であってステップ22のステップ最上部28に装着され、案内表示部44は、ステップ上段29に装着され、案内表示器45は、ステップ下段30に装着される。同様に後部乗客案内装置2の案内表示器46は、前部車室床17の端部であってステップ23のステップ最上部に装着され、案内表示器47は、ステップ上段に装着され、案内表示器48は、ステップ下段に装着される。ここで、ステップ最上部28、ステップ上段29、及びステップ下段30が、本発明の突出部に相当する。
【0030】
また、段差20,21には、段差注意表示装置3を構成する二個の案内表示器49が、夫々、車室後部床18及び車室最後部床19の境界の段差21と、車室前部床17及び車室後部床18の境界の段差20とに装着されている。ここで、段差注意表示装置3が、本発明の乗客案内装置に相当する。
【0031】
以上のように、案内表示器は、いずれも車内通路乃至ステップ上であって相互に離隔した位置に設けられている。
【0032】
案内表示器43〜48は相互に同等品であるので、以下、案内表示器43を代表として図3に基き説明する。図3(a)は、案内表示器43の概要を示す斜視図であり、(b)は、発光部43aの部分における案内表示器43の縦断面を示した説明図である。案内表示器43は、上面板54がステップの踏面に略平行であって、蹴上面保護板57が上面板54の稜線側端部から下方に延びる断面略L字状を呈する長尺の基材43bに、LED50を光源として発光する発光部43aが組み付けられて構成されている。基材43bはアルミニウム合金製であり、基材43bの上面には、表面に起伏のある滑り止め部材55が2本装着されている。基材43bの上面の先端部、すなわち蹴上面保護板57の上端部には発光部収容溝58が凹設されており、発光部43aのレンズ部分を構成するプラスチック製の導光体51を収容する。
【0033】
発光部収容溝58は、ステップ最上部28に装着されたときに稜線部36に平行に延びる向きに直線的に形成されており、発光部収容溝58に沿って収容可能なようにLED基板53は長尺であって、多数のLED50がLED基板53上に長手方向に一列に並んで配設されている。LED50は、赤、青、緑の3色に発光可能である。導光体51は、発光部収容溝58に嵌め込むことが可能な長尺の部材であり、発光部収容溝58の下方の蹴上面保護板57内に長手方向に延びる溝状に形成された光源収容部56の所定の位置にLED基板53が配設され、発光部収容溝58内に上部からの水滴の進入を防ぐように導光体51が発光部収容溝58に嵌め込まれて接着される。LED50が発光させられると、LED50の発した光が導光体51を透過し拡散されて導光体51から放射され、発光部43aを全体的に光らせる。
【0034】
LED50に給電するための配線52は、光源収容部56を通され、案内表示器43の側方に引き出される。配線52は、一般的なバス車内用電装品と同様に、車室内壁面等に設けられた孔を通して配線スペース(図示しない)に引き込まれ、運転席周辺に設置されたドア開閉制御基板(図示しない)に接続されている。室内壁面の孔は、案内表示器43〜45によって隠れる位置であり、組み付け後はバス10の室内には表れない。
【0035】
案内表示器43は、上面板54の底面側54a及び蹴上面保護板57の裏面側57aをステップ最上部28に当接させて螺子(図示しない)でステップ最上部28に固定され、ステップ最上部28の稜線部36を保護する。基材43bは、アルミニウム合金で形成されており、稜線部36〜38の部分が靴底や傘の石突などで繰り返し擦られても磨耗しにくい。また、基材43bは酸化皮膜を有しており水分に対する反応性が低いので、水滴が付着した場合にも腐食しない。発光部43aは先述のように導光体51によって密封されており、内部に浸水して短絡が生じる虞を防ぐ。
【0036】
段差注意表示装置3は、段差20,21に夫々案内表示器49を備えている。段差20,21に設けられた案内表示器49は、案内表示器43と同様の構成であり、詳細な説明は省略する。
【0037】
次に、図4に基き、前部乗客案内装置1の動作について説明する。運転士がドア開閉スイッチ(図示しない)によって、閉鎖されていた前部ドア11を開放する操作を行うと、ドア開閉制御基板は、前部ドア11の駆動部(図示しない)を制御し前部ドア11を開放させ、あわせて前部乗客案内装置1に対する電力の供給を制御し、案内表示部43〜45の点灯及び消灯を切り換えて表示状態を変化させる。
【0038】
前部乗客案内装置1は、前部ドア11が閉鎖されているときは消灯しているが、前部ドア11を開放する信号が発するときに、ドア開閉制御基板は、あわせて前部乗客案内装置1をの案内表示器43〜45を発光させる制御を開始する。まず、ドア開閉制御基板は、案内表示器43に電流を供給し案内表示器43を点灯させる。その後に、ドア開閉制御基板は、案内表示器44を、案内表示器43より所定の待機時間(例えば0.5秒)遅れたタイミングで点灯させる。さらに、ドア開閉制御基板は、案内表示器45を同様に、案内表示器44より所定の待機時間遅れたタイミングで点灯させる。案内表示器43〜45は、いずれも所定の点灯時間(例えば1.0秒)を経過すると、ドア開閉制御基板によって消灯させられる。そして、所定の待機時間が経過すると、再度所定の点灯時間にわたって点灯させられる。この点灯及び消灯について、次の点灯の直前までを1サイクルとし、以後、前部ドア11が開放されている間、このサイクルを繰り返し続けて行う。これにより、前部乗客案内装置1は、案内表示器43〜45の順に発光部が移動していくかのように見える発光表示を行う。
【0039】
運転士が前部ドア11を閉鎖する操作を行うと、ドア開閉制御基板は、前部ドア11の駆動部を制御して前部ドア11を閉鎖させる。前部ドア11を閉鎖する信号が発せられたときに点灯状態であった案内表示器43〜45は、ドア開閉制御基板の制御に基き消灯される。一方、閉鎖する信号が発せされたときに消灯状態であった案内表示器43〜45は、そのまま消灯状態とされ、案内表示器43〜45が全て消灯される。
【0040】
後部乗客案内装置2も、前部乗客案内装置1と同様に、運転士の操作に基きドア開閉制御基板によって後部ドア12が開閉されるのに連動して作動状態が制御される。後部乗客案内装置2は、前部乗客案内装置1とは異なり、乗降口9に最も近いステップ下段30に装着された案内表示器48から、ステップ上段29の案内表示器47、ステップ最上部28の案内表示器46の順に点灯・消灯させられる。点灯及び消灯のサイクルについては、前部乗客案内装置1と同様である。
【0041】
次に、前部乗客案内装置1を用いた第二の案内表示方法について図5に基き説明する。第二の案内表示方法によれば、前部ドア11を開放するときには、運転士の操作に基きドア開閉制御基板が、前部ドア11を開放する信号を発し制御部に前部ドア11を開放させ、あわせて案内表示器43〜45を全て点灯させる。そして、前部ドア11を閉鎖するときには、運転士の操作に基きドア開閉制御基板は、前部ドア11の駆動部に対して前部ドア11を閉鎖する信号を送り、前部ドア11を閉鎖する。このとき、ドア開閉制御基板は直ちに案内表示器43〜45を消灯させず、運転士の操作に基きドアを閉鎖する信号を発してから所定時間L(例えば7秒間)にわたり遅延させて案内表示器43〜45を消灯させる。所定時間Lは、ドア開閉制御基板の有するタイマ及びROMを参照して取得する。
【0042】
第二の案内表示方法によれば、前部乗降口8の位置及びステップ22の各段を視認しやすくすることができ、乗客を安全かつ円滑に前部乗降口に案内し、乗降しやすくすることができる。また、ドア閉鎖後も所定時間Lの間は案内表示器43〜45が点灯しているので、前部ドア11を閉鎖すると同時に消灯する場合よりも唐突な印象を与えない。また、案内表示器43〜45が点灯していることによって照明効果が得られるので、例えば、乗客が、乗車後や降車後に前部乗降口8付近にいるうちに財布をかばんに仕舞ったり、停留所の表示等を確認したりしやすくすることができる。このように、第二の案内表示方法によれば、前部ドア11が閉鎖された途端に案内表示器43〜45が消灯される場合よりも乗客の快適性を増すことができる。
【0043】
また、段差注意表示装置3も、運転士の操作による前部ドア11及び後部ドア12の開閉に合わせて、ドア開閉制御基板によって点灯・消灯が制御される。段差注意表示装置3は、段差20,21に夫々案内表示器49を備えており、いずれかのドアが開放されると点灯され、ドアが閉鎖されると消灯される。
【0044】
次に、前部乗客案内装置1を用いた第三の案内表示方法について、図6に基き説明する。なお、以下に示す第三の案内表示方法においては、ドア開閉制御基板は、LED用の調光回路を備えており、該調光回路は、周期性をもたせて電圧を制御することで、案内表示器43〜45に設けられたLEDの輝度を漸増的及び漸減的に変動させることが可能である。
【0045】
第三の案内表示方法によれば、第一の案内表示方法と同様に、前部乗客案内装置1は、前部ドア11が閉鎖されているときは消灯しており、前部ドア11を開放する信号が発せられると、ドア開閉制御基板は、案内表示器43を点灯させる。このとき、ドア開閉制御基板は、調光回路によって案内表示器43の輝度を漸増的に上昇させる。その後に、ドア開閉制御基板は、案内表示器44を、案内表示器43より所定の待機時間(例えば0.5秒)遅れたタイミングで点灯させ、同様に漸増的に輝度を上昇させる。さらに、ドア開閉制御基板は、同様に案内表示器45を、案内表示器44より所定の待機時間遅れたタイミングで点灯させ、漸増的に輝度を上昇させる。案内表示器43〜45は、いずれも所定の時間(例えば0.5秒間)にわたって電圧が上昇させられ輝度を上昇させられた後に、ドア開閉制御基板の調光回路によって漸減的に輝度が低下させられ、やがて消灯させられる。そして、所定の待機時間が経過すると、再度点灯されて漸増的に輝度が上昇させられた後に、漸減的に輝度が低下させられ消灯させられる。この点灯から消灯までの1サイクルは、調光回路の制御に基いて所定の点滅時間(例えば1.5秒間)にわたって行われる。以後、前部ドア11が開放されている間、前部乗客案内装置1の案内表示器43〜45は、このサイクルを繰り返し続ける。これにより、前部乗客案内装置1は、案内表示器43〜45の順に滑らかに発光部が移動していくかのように見える発光表示を行う。前部ドア11が閉鎖されるときの制御は、第一の案内表示方法と同様に、前部ドア11の閉鎖と連動した消灯であるので、詳細な説明は省略する。
【0046】
以上のように、本発明の実施形態である前部乗客案内装置1によれば、バス10のステップ22,23、及び段差20,21に案内表示部43〜49が複数設けられており、夫々の案内表示部は、発光部のLEDを消灯状態から点灯状態へと変化させて乗客の注意を喚起することができる。これにより、乗客は、降車のために車内を移動するときに、高所ではなく足元を見て段差の有無や降車すべき乗降口を知ることができ、安全かつ円滑に移動することができる。
【0047】
また、前部乗客案内装置1によれば、案内表示部43〜45は、ステップ最上部28に設けられた案内表示部43から、ステップ上段29に設けられた案内表示部44、ステップ下段30に設けられた案内表示部45へと、前部乗降口8から遠い側から近い側へと順番にLEDが点灯されることで乗客に対して移動方向を示唆する。これにより、降車する乗客は、前部乗降口8に向けて移動すべきであると直観的に把握することができる。
【0048】
バス10は、車体構造上の制約により車室床4に段差20,21を有する。案内表示部43〜49はいずれも車室床4の段差及びステップの突出部に設けられており、段差及びステップの視認性を向上させる。これにより、乗客が段差またはステップでつまづいたり空踏みしたりして転倒する虞を防ぐことができる。
【0049】
また、前部乗客案内装置1によれば、案内表示部43〜49は、突出部の稜線部に略平行な帯状を呈しており、夫々の設けられた段差の位置と形状とを明瞭に示して段差等の視認性を高めることができる。
【0050】
また、前部乗客案内装置1によれば、ステップ22,23に設けた案内表示部43〜48の表示状態によって乗車または降車するための乗降口をさらに明確に示すことができる。また、停留所等で乗車を希望して待っていた客にも前部乗降口8を降車用の乗降口であると認識させることができる。また、同様に後部乗客案内装置2の案内表示により、後部乗降口9を乗車用の乗降口であると認識させることができる。これにより、乗客が誤って前部乗降口8から乗車しようとしたり、後部乗降口9から降車しようとしたりして乗客の動線が錯綜する虞を防ぐことができる。
【0051】
また、前部乗客案内装置1によれば、案内表示部43〜49はLEDの発光によって表示状態を変化させることができる。また、LEDは小型化が容易であり、案内表示部の大型化を防ぎ、車室床に対する加工をごく小さく留めることができる。
【0052】
なお、本発明の実施形態は上記の構成に限定されるものではなく、以下に示すように種々に変更することができる。
【0053】
上記の実施形態においては、案内表示器43〜49は、ステップ22,23及び段差20,21に配設されていたが、車室内のその他の部分に配設されていてもよく、例えば、案内表示器の配設箇所は前部車室床17の平らな床面上であってもよい。
【0054】
また、上記の実施形態においては、バス10は乗降口8,9に夫々2段のステップ22,23を有していたが、これに限定されるものではなく、乗降口に階段状のステップを備えていない、いわゆるノンステップバスに本発明の乗客案内装置を備えるようにしてもよい。
【0055】
上記の実施形態では、乗客は、後部乗降口9から乗車し、整理券を受け取り、降車時に運賃を清算して前部乗降口8から降車する「後乗り後払い」の場合を例示したが、これに限定されるものではなく、前部乗降口から乗車し、定額の運賃を運賃箱に投入し、降車するときは後部乗降口から降車する「前乗り前払い」であってもよい。「前乗り前払い」の場合には、後部乗降口9付近の後部乗客案内装置2が降車する乗客を案内し、前部乗降口8付近の前部乗客案内装置1が乗車する乗客を案内する。バス10を「前乗り前払い」に対応させるには、「後乗り後払い」の場合とほとんど同じ機器構成のままで配線52の結線を変えることによって、前部乗客案内装置1を乗車案内用にし、後部乗客案内装置2を降車案内用にすることができるので、個々のバスやバス事業者の運行方法に応じて乗客案内装置を簡単に適合させることができる。
【0056】
また、上記の実施形態では、乗降口がバス10の左側面の前後2箇所に設けられているものを示したが、これに限定されるものではなく、乗降口を1箇所のみ備えるものであってもよいし、3箇所以上備えるものであってもよい。乗降口が1箇所のみの場合には、例えば観光バスのように、乗客が既に乗車している場合にドアが開くときには降車の案内表示をし、乗客が乗車していない場合には乗車の案内表示をするようにしてもよい。この場合には、乗客の乗車状況に応じて運転士が案内表示を切り替えるようにしてもよいし、人感センサ等によって乗車状況を検出し、検出結果に基いて、ドア開閉制御基板から乗車・降車に応じた表示状態を選択して乗客案内装置を制御するようにしてもよい。運転士が操作するようにすると、状況に応じて適確な案内表示を行うことができる。一方、人感センサによって制御を行うと、運転士の操作の手間を省くことができる。
【0057】
さらに、上記の実施形態では、発光部43aを横一列に三本並べた案内表示部43を備えるものを示したが、これに限定されるものではなく、案内表示部43の構成は種々に変更することができる。例えば、基材43b上に三本の発光部43aを一本ずつ略平行に三列に並べたものであってもよい。この構成によれば、発光部43aが三列に並んでいるので、案内表示部43が一つしか配設されていない場合でも、各発光部43aを後から前、あるいは前から後へと順番に発光状態を変化させることで、乗客の移動方向を示唆する案内表示を行うことができる。
【0058】
また、上記の実施形態では、案内表示部43〜48をLED50によって発光させるものを示したが、これに限定されるものではなく、例えばフィラメント式の電球や冷陰極管を光源として案内表示部を発光させるようにしてもよい。また、LED50の点灯・消灯によって表示状態を変化させるものに限定されるものではなく、発光色を変化させるものであってもよい。前部乗客案内装置1の発光色と後部乗客案内装置2の発光色とを異なるものとすると、乗降口の区別をより容易なものとすることができる。
【0059】
また、上記の実施形態では、LED50が搭載されたLED基板53を導光体51の下方に配設するものを示したが、LED50と導光体51との位置関係はこれに限定されるものではなく、種々に変更することが可能である。例えば、LED50を導光体51の長手方向端部に配設し、LED50から導光体51の長手方向に向けて光を入射させるようにしてもよい。この場合、導光体51の長手方向両端部にLED50を配設し、導光体51の両端部から導光体51の長手方向に向けて光を入射させるようにしてもよい。これにより、案内表示部43〜49を、LED50の数量を減少させたより簡素な構造にすることができる。また、LED基板53を導光体51の下方に配設する必要がなくなるので、案内表示部43〜49の高さ寸法を低減させて薄くすることが可能となる。
【0060】
また、上記の実施形態では、運転士が操作するドア開閉スイッチによって前部乗客案内装置1及び後部乗客案内装置2が連動するものを示したが、この他の制御方法によって制御されるものであってもよい。例えば、バス10がGPSを装備し、乗客案内装置の制御部が、GPSから位置情報を取得して、停留所への接近に基いて乗客案内装置の表示状態が変化し、停留所への接近を乗客に報知するようにしてもよい。あるいは、停留所等からの無線通信信号に基いて発光状態が変化させられるものであってもよい。
【0061】
また、LEDの点灯及び消灯の制御方法は、さらに異なるパターンによる制御を行うようにしてもよく、例えば、案内表示部43〜45が同じタイミングで揃って点滅するようにしてもよいし、特に上記の実施形態に限定されるものではない。同様に、調光回路によって輝度を調整する場合にも、輝度の増減のパターンは、上記の実施形態に限定されるものではない。また、案内表示部43〜45は、動作中にLEDの発光色を変化させるようにしてもよい。例えば、輝度の変化率や発光色を変化させることによって、ターミナル駅の停留所と、その他の一般の停留所とで案内表示部の表示状態を切り換えて、乗客に停車地点をわかりやすく示すような利用方法ができる。
【符号の説明】
【0062】
1 前部乗客案内装置
2 後部乗客案内装置(乗客案内装置)
3 段差注意表示装置(乗客案内装置)
4 車室床
8 前部乗降口(乗降口)
9 後部乗降口(乗降口)
10 バス(乗合車両)
17 前部車室床(車室床)
18 後部車室床(車室床)
19 最後部車室床(車室床)
20,21 段差
22,23 ステップ(段差)
28 ステップ最上部(突出部)
29 ステップ上段(突出部)
30 ステップ下段(突出部)
36〜38 稜線部
43〜49 案内表示部
50 LED(発光ダイオード)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の乗降口を備える乗合車両における乗客案内装置であって、
車室床に設けられ、少なくとも第一の表示状態、及び該第一の表示状態よりも視覚的刺激の強い第二の表示状態を含む複数通りの表示状態に変化させることが可能であり、前記第一の表示状態から前記第二の表示状態に変化させ、降車する乗客の移動方向を示唆する案内表示部を具備することを特徴とする乗客案内装置。
【請求項2】
前記案内表示部は複数設けられており、該複数の案内表示部は、降車時に利用される乗降口に対して遠い側から近い側へと順に前記第一の表示状態から前期第二の表示状態へ変化させ、降車する乗客の移動方向を示唆することを特徴とする請求項1に記載の乗客案内装置。
【請求項3】
前記複数の案内表示部の一部または全部が、車室床の段差の突出部に設けられていることを特徴とする請求項2に記載の乗客案内装置。
【請求項4】
前記案内表示部は、前記突出部の稜線部に並行する帯状を呈することを特徴とする請求項3に記載の乗客案内装置。
【請求項5】
車室床との間に階段状のステップが設けられた複数の乗降口を備える乗合車両における乗客案内装置であって、
前記ステップの幅方向に延びる帯状を呈し、少なくとも第一の表示状態、及び該第一の表示状態よりも視覚的刺激の強い第二の表示状態に変化させることが可能であり、夫々前記ステップの各段の突出部に設けられた複数の案内表示部を具備し、
降車用の乗降口近くの前記ステップに設けられた前記複数の案内表示部は、前記ステップの上側の前記案内表示部から下側の前記案内表示部へと順に前記第一の表示状態から前期第二の表示状態へ変化させ、降車する乗客の移動方向を示唆し、
乗車用の乗降口近くの前記ステップに設けられた前記複数の案内表示部は、前記ステップの前記乗車用の乗降口側の前記案内表示部から前記車室床側の前記案内表示部へと順に前記第一の表示状態から前期第二の表示状態へ変化させ、乗車する乗客の移動方向を示唆する
ことを特徴とする乗客案内装置。
【請求項6】
前記案内表示部は、発光ダイオードを備えることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一つに記載の乗客案内装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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