説明

乗客輸送システム、特にエスカレータまたは動く歩道

【課題】制御システムの構成部品の標準化によって、従来の構成部品の製造費用節減を実現可能な乗客輸送システムを創出する。
【解決手段】乗客輸送システム、特にエスカレータ(1)または動く歩道が、循環するバンド(10)と駆動装置(20)と逆転装置(50)とを備えている。駆動装置は、乗客輸送システムの第1端部(2)に配置されるとともにスレーブ制御ユニット(30)を有している。乗客輸送システムの第2端部(3)にある逆転装置は、マスタ制御ユニット(60)を有している。マスタ制御ユニットとスレーブ制御ユニットとは、データバス(80)によって相互に接続されている。スレーブ制御ユニットは、乗客輸送システムの機能に関するデータをマスタ制御ユニットに伝送する、第1のプリント配線板(40)を有している。マスタ制御ユニットは、乗客輸送システムのデータおよび制御を解析する、第2のプリント配線板(70)を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、循環するバンドと、駆動装置と、逆転装置とを備えた乗客輸送システム、特にエスカレータまたは動く歩道に関する。駆動装置は乗客輸送システムの第1端部の領域内に配置されるとともにスレーブ制御ユニットを有しており、他方、逆転装置は乗客輸送システムの第2端部の領域内に配置されるとともにマスタ制御ユニットを有している。データ交換のため、マスタ制御ユニットとスレーブ制御ユニットとは、データバスによって相互に接続されている。スレーブ制御ユニットは、電子部品の第1の組が実装され、乗客輸送システムの機能に関するデータをマスタ制御ユニットに伝送するように作用する、第1のプリント配線板をさらに有している。マスタ制御ユニットは、電子部品の第2の組が実装され、乗客輸送システムのデータおよび制御を解析するように作用する、第2のプリント配線板を有している。
【0002】
1基のエスカレータについて、いくつかのスレーブを使用することも可能である。
【0003】
マスタの位置は下部の階段先端(stairhead)に限られない。外部制御キャビネットを備えたシステムでは、マスタは外部制御キャビネット内に配置される。下部および上部の階段先端の各々に1つのスレーブが配置される。
【背景技術】
【0004】
従来のエスカレータの運転および監視のため、駆動装置の領域内のいわゆるスレーブ制御ユニットと、逆転装置の領域内のいわゆるマスタ制御ユニットとを備える、制御システムを装備することが知られている。「マスタ」または「スレーブ」としての定義から、例えばセンサのようなスレーブ制御ユニットに接続された周辺機器からのデータを収集してマスタ制御ユニットに伝送することを、スレーブ制御ユニットの主目的としていることは明らかである。またスレーブ制御ユニットは、例えばスレーブ制御ユニットに接続された移動方向指示器のリレーを制御可能な制御信号の形で、マスタ制御ユニットにより発せられた制御コマンドを受信して、周辺機器に伝送するように設計されている。マスタ制御ユニットは主として、スレーブ制御ユニットにより伝送されたデータを受信して解析するとともに、エスカレータ全体、具体的にはマスタ制御ユニットおよびスレーブ制御ユニットに接続された周辺機器を制御するために使用される。マスタ制御ユニットおよびスレーブ制御ユニットの機能および使用領域がこのように異なる結果、それらの構成要素の必要条件も必然的に異なる。これは特に、電子部品を搭載するマスタ制御ユニットおよびスレーブ制御ユニットのプリント配線板に関係しており、異なる必要条件プロフィールをもったスレーブ制御ユニットが使用される場合、特に不都合であることが分かる。特にプリント配線板の大量生産に関して、支出費用が比較的高くなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、制御システムの構成部品の標準化によってこれら構成部品の製造費用節減を実現可能な、乗客輸送システムを創出することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するため、本発明による乗客輸送システムは最初に述べた特徴を備えており、請求項1によれば、第1プリント配線板と第2プリント配線板とが同一に構成されていることを特徴とする。本発明による乗客輸送システムは、同一のプリント配線板を、例えば駆動装置内に配置されたスレーブ制御ユニットにも、例えば逆転装置内に配置されたマスタ制御ユニットにも使用できるという発想に基づいている。これにより乗客輸送システムに関するプリント配線板の製造が簡略化され、その結果、費用節減を達成することができる。またその結果、異なるプリント配線板を使用する必要がなく、結果的にプリント配線板の混同が防止されるので、マスタ制御ユニットおよびスレーブ制御ユニットの構成が簡略化される。さらに間違った交換の可能性もなくなり、さまざまな種類のプリント配線板を準備しておく必要もないので、修理法も同程度に簡略化される。交換を行なう際、他方の制御ユニットのプリント配線板に記憶されたデータを、スレーブ制御ユニットの新規に実装されたプリント配線板にデータバスを介して伝送可能であるという点で、記憶ユニットを備えたプリント配線板に乗客輸送システムの運転データを迅速に、かつ簡易な手段でロードすることができるのは、特に有利である。別の結果として、付加的な安全対策がもたらされる。
【0007】
本発明による乗客輸送システムの有利な実施形態が、請求項2から9に記述されている。
【0008】
ある好ましい実施形態は、少なくとも部分的には同一に構成されている第1の組の電子部品と第2の組の電子部品とからなる。言い換えれば、第1および第2のプリント配線板の構成が同一であるだけでなく、少なくとも2つのプリント配線板の事実上すべての電子部品を同じものとすることができ、それにより乗客輸送システムの制御システムの構成部品についてさらなる標準化を実現することができる。これにより、製造を簡略化し費用を節減することができる。例えば、第1および第2のプリント配線板内の一定数の構成部品を同一に構成し、同一に構成された第1および第2のプリント配線板の同じコネクタ位置にそれら構成部品を実装する構成とすることが可能である。
【0009】
さらなる好ましい実施形態では、プリント配線板はスイッチを備えており、スイッチの位置によってマスタ制御ユニットまたはスレーブ制御ユニットとして構成可能である。このスイッチは手動で現場において、すなわち据付け中または修理中に、操作することが好ましい。
【0010】
プリント配線板はマスタ制御ユニットまたはスレーブ制御ユニットとしての構成を表示するため、第1の光学式表示ユニットを有すると好都合である。覗き込むことが困難あるいは照明が不十分な場所では、第1の光学式表示ユニットによりスイッチの位置を認識することが簡単になり、スイッチの近傍にある付加的な認識手段として第1の光学式表示ユニットが機能することができる。
【0011】
またプリント配線板は、データ、特にエラーメッセージを表示するため第2の光学式表示ユニットを有することが好ましい。具体的には、LCDが表示ユニットとして用いられる。これにより、例えばラップトップコンピュータのような診断機器を接続しなくても、エラーメッセージまたは故障コードを認識することができる。エラーメッセージと同様に、例えば運転状態のような他のデータを表示することも可能である。表示ユニットは実時間時計として機能することもできる。
【0012】
さらなる好ましい実施形態によれば、プリント配線板は周辺機器、具体的にはラップトップの接続のため、少なくとも1個のインタフェースを有している。特に保守目的に関して、これにより故障原因の迅速な特定が可能になる。さらに、一定の状況では、特定された故障を、接続されたラップトップを使用してソフトウェア手段により直すことも可能な場合がある。
【0013】
スレーブ制御ユニットおよび/またはマスタ制御ユニットは、バンドの移動速度、移動方向、安全スイッチ、および/または制動距離を監視するために使用可能である。乗客輸送システムのさらなる機能として、手すりの同期運転、階段またはパレットの存在、安全回路の機能、接点ドロップアウト制御、および光障壁の機能を監視することができる。
【0014】
さらなる実施形態によれば、駆動装置は駆動ユニットを有しており、スレーブ制御ユニットまたはマスタ制御ユニットが故障を検出すると、マスタ制御ユニットが駆動ユニットに対して制動信号を伝送する。マスタ制御ユニットが、データバスの機能を確認するため所定の時間間隔を置いて確認信号を発すると有利である。
【0015】
以下、図面を参照して本発明をより詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、第1のレベル5から第2のレベル6またはその逆に(矢印参照)人間を輸送するための、循環ステップバンド10を備えたエスカレータ1の形式による乗客輸送システムを概略的に示している。
【0017】
第2のレベル6の領域における第1端部2の領域において、エスカレータ1は、モータと駆動軸とを含む駆動ユニットを備えた、駆動装置20を有している。第1のレベル5の領域におけるエスカレータ1の第2端部3の領域には、逆転装置50が配置されている。駆動装置20は、第1のプリント配線板40を備えたスレーブ制御ユニット30を有している。逆転装置50は、第2のプリント配線板70を備えたマスタユニット60を包含している。データ交換のため、スレーブ制御ユニット30とマスタ制御ユニット60とは、データ導線80の形態のデータバスによって相互に接続されている。第1プリント配線板40と第2プリント配線板70とは同一に構成されている。言い換えれば、プリント配線板40、70の取付ボードは同一のパターンを有しており、かつ同一の接続を備えている。
【0018】
第1プリント配線板40上および第2プリント配線板70上に配置された構成部品について、図2を参照して以下に説明する。プリント配線板40と70との相違は、プリント配線板40、70の電子部品があくまで原則的に同一であること、すなわちいくつかの部品がプリント配線板の一方に存在することにより生ずることに留意されたい。したがって一定の状況下では、プリント配線板40、70の一方において、提供される接続可能性がゼロであり続ける可能性がある。
【0019】
図2から明らかなように、図示の例示的実施形態において、2枚のプリント配線板40、70は、マイクロプロセッサ100と、数個の構成要素に細分化されたACアダプタ101と、エラーメッセージを表示するための液晶ディスプレイ形式の第1の光学式表示ユニット103と、特にエスカレータ1の機能障害の場合に操作される数個の操作キー105とを備えている。
【0020】
さらに、例えばデータバス制御または周波数変換器のためのRS485インタフェース106と、保守目的によるラップトップコンピュータ接続のためのRS232インタフェース107とが存在する。
【0021】
オプトカプラユニット108は電気的分離の機能を果たす。さらに、電圧供給コネクタ109と、制御および信号送信のための出力コネクタ110と、制御のための入力コネクタ113と、バンド10の速度を監視するための入力コネクタ112と、マスタ制御ユニット60およびスレーブ制御ユニット30の間でデータ交換を行なうためのコネクタ111とが存在する。入力コネクタ114はモータ温度センサを接続する機能を果たす。出力115はデジタルディスプレイを接続する機能を果たす。複数の構成要素116はマイクロプロセッサ100と特にプラグ接続109から114との間のオン/オフ切替えのために機能する。入力118は別の温度センサを接続する機能を果たす。数個の構成要素119はA/Dコンバータのための増幅器回路を形成する。またRAM120およびフラッシュメモリ121は記憶ユニットとして設けられている。
【0022】
マスタ制御ユニット60として、またはスレーブ制御ユニット30としての、プリント配線板40、70の構成を設定する機能を果たしているのが、スイッチ122である。第2の光学式表示ユニット104はプリント配線板40、70の上記構成を表示する機能を果たす。上記インタフェースおよび接続部には、エスカレータ1の移動速度、移動方向、および/またはバンド10の制動距離を監視するためのセンサを接続することもできる。
【0023】
特に図2を参照して記述されたプリント配線板40、70の実施形態は1つの可能な実施形態に過ぎず、したがってプリント配線板に関する個々の選択された構成要素を用いたさらなる実施形態も考案可能であることは、明白である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】エスカレータ形式の、本発明による乗客輸送システムの概略的な縦断面図である。
【図2】図1のエスカレータのプリント配線板を上方から見た図である。
【符号の説明】
【0025】
1 エスカレータ
2 第1端部
3 第2端部
5 第1のレベル
6 第2のレベル
10 循環ステップバンド
20 駆動装置
30 スレーブ制御ユニット
40 第1のプリント配線板
50 逆転装置
60 マスタユニット
70 第2のプリント配線板
80 データ導線
100 マイクロプロセッサ
101 ACアダプタ
103 第1の光学式表示ユニット
104 第2の光学式表示ユニット
105 操作キー
106 RS485インタフェース
107 RS232インタフェース
108 オプトカプラユニット
109 電圧供給コネクタ
110 出力コネクタ
111 コネクタ
112、113、114 入力コネクタ
115 出力
116、119 構成要素
118 入力
120 RAM
121 フラッシュメモリ
122 スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
循環するバンド(10)と、マスタ制御ユニット(60)と、少なくとも1つのスレーブ制御ユニット(30)と、乗客輸送システムの第1端部(2)の領域内に配置された駆動装置(20)と、乗客輸送システムの第2端部(3)の領域内に配置された逆転装置(50)とを備える、乗客輸送システム、特にエスカレータ(1)または動く歩道であり、マスタ制御ユニット(60)とスレーブ制御ユニット(30)とが、データ交換のためデータバス(80)を介して相互に接続されており、スレーブ制御ユニット(30)が、電子部品の第1の組を備えるとともに乗客輸送システムの機能に関するデータをマスタ制御ユニット(60)に伝送するように作用する、第1のプリント配線板(40)を有しており、マスタ制御ユニット(60)が、電子部品の第2の組を備えるとともにデータを解析して乗客輸送システムを制御するように作用する、第2のプリント配線板(70)を有する、乗客輸送システムであって、第1のプリント配線板(40)と第2のプリント配線板(70)とが同一に構成されていることを特徴とする、乗客輸送システム。
【請求項2】
電子部品の第1の組と電子部品の第2の組とが同一に構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の乗客輸送システム。
【請求項3】
プリント配線板(40、70)がスイッチ(122)を備えており、プリント配線板(40、70)が、スイッチ(122)の位置によってマスタ制御ユニット(60)またはスレーブ制御ユニット(30)として構成可能であることを特徴とする、請求項1または2に記載の乗客輸送システム。
【請求項4】
プリント配線板(40、70)が、マスタ制御ユニット(60)またはスレーブ制御ユニット(30)としてのそれらの構成を表示するため、第1の光学式表示ユニット(104)を有することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の乗客輸送システム。
【請求項5】
プリント配線板(40、70)が、データ、特に故障メッセージを表示するため、第2の光学式表示ユニット(103)を有することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の乗客輸送システム。
【請求項6】
プリント配線板(40、70)が、周辺機器、特にラップトップコンピュータの接続のため、少なくとも1個のインタフェース(106、107)を有することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の乗客輸送システム。
【請求項7】
スレーブ制御ユニット(30)および/またはマスタ制御ユニット(60)が、バンド(10)の移動速度、移動方向、安全スイッチ、および/または制動距離を監視することを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の乗客輸送システム。
【請求項8】
駆動装置(20)が駆動ユニットを有しており、スレーブ制御ユニット(30)またはマスタ制御ユニット(60)が故障を検出すると、マスタ制御ユニット(60)が駆動ユニット(20)に対して制動信号を伝送することを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の乗客輸送システム。
【請求項9】
マスタ制御ユニット(60)が、データバス(80)の機能を確認するため所定の時間間隔を置いて確認信号を発することを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の乗客輸送システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−112628(P2007−112628A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−278343(P2006−278343)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(390040729)インベンテイオ・アクテイエンゲゼルシヤフト (166)
【氏名又は名称原語表記】INVENTIO AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】