説明

乗用型水田作業機

【課題】外部操作レバーを操作して走行機体を移動させる状況で移動を迅速に停止させ得る乗用型水田作業機を構成する。
【解決手段】ブレーキペダル26を走行機体の前部位置から操作することでブレーキ機構11を操作する外部操作レバー63を備え、この外部操作レバー63を上方に操作することでエンジン5を強制的に停止させる強制停止手段Eを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの駆動力で走行する走行機体の運転部に走行速度を抑制するブレーキペダルが備えられ、このブレーキペダルを走行機体の外部の前方位置から操作するための外部操作レバーを備えている乗用型水田作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のように構成された乗用型水田作業機として特許文献1には、運転操縦部に踏み込み操作により主クラッチを切るとともに、ブレーキを制動操作するブレーキペダルを備え、このブレーキペダルに基端が固定される形態で外部操作レバーが備えられた構成が記載されている。また、この特許文献1には、走行機体の前端位置に先端が上方に向かう起立姿勢と、先端を走行機体の前方に倒させる姿勢とに切換自在な畦越アームが記載されている。
【0003】
特許文献1に記載された構成では、走行機体の畦越を行う場合には、畦越アームを倒伏姿勢に設定して作業者が走行機体の外部から操作力を作用させると共に、作業者が外部操作レバーを操作することで走行速度の制御を行うことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009‐45035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
乗用型水田作業機では、走行機体で畦を越える場合や、あゆみ板を用いて走行機体をトラックの荷台に載せる場合には、走行速度を低く設定した状態で、作業者が走行機体の外部に立ち、外部操作レバーを操作することにより走行速度の調節が実現する。
【0006】
このように走行機体を移動させている状態で、例えば、走行機体の移動を停止したい場合には、外部操作レバーを下方に操作することで走行機体の移動を停止することが可能であり、移動を確実に停止するため畦越アームにエンジン停止ボタンを備えている。
【0007】
しかしながら、移動時に走行機体が想定を越えて大きく傾斜した場合のように緊急を要する場合に、エンジン停止ボタンを操作する操作を考えると、この移動時には右手で畦越アームを握り、左手で外部操作レバーを握った姿勢にあることも多く、エンジン停止ボタンの操作を迅速に行えないことも考えられる。
【0008】
本発明の目的は、外部操作レバーを操作して走行機体を移動させる状況にあっても移動を迅速に停止させ得る乗用型水田作業機を合理的に構成する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の特徴は、エンジンの駆動力で走行する走行機体の運転部に走行速度を抑制するブレーキペダルが備えられ、このブレーキペダルを走行機体の外部の前方位置から操作するための外部操作レバーを備えている乗用型水田作業機であって、前記外部操作レバーが、前記ブレーキペダルの操作方向と異なる方向に操作された場合に、その操作を検知する検知手段を備え、この検知手段の検知に基づいて前記エンジンを停止させる強制停止手段を備えている点にある。
【0010】
この構成によると、走行機体の外部に作業者が立ち、外部操作レバーを操作することで走行機体の移動速度を制御する状況において、緊急に移動を停止したい状況に陥った場合には、外部操作レバーから手を離すことなく外部操作レバーをブレーキペダルの操作方向と異なる方向に操作するだけで、この操作を検知手段が検知し、強制停止手段がエンジンを停止することになり走行機体の移動を停止できる。
その結果、外部操作レバーを操作して走行機体を移動させる状況で移動を迅速に停止させ得る乗用型水田作業機が構成された。
【0011】
本発明は、前記検知手段が、前記操作方向と異なる方向として上側に前記外部操作レバーが操作されたことを検知するように構成されても良い。
【0012】
ブレーキペダルは踏み込み操作されるため操作方向は下側に向かうことになる。従って、操作方向と異なる方向として外部操作レバーを上側に操作すると云う簡単な操作を行うことにより、この操作を検知手段が検知してエンジン停止が実現する。
【0013】
本発明は、前記検知手段が、前記操作方向と異なる方向として、前記外部操作レバーを押し込む方向へ前記外部操作レバーが操作されたことを検知するように構成されても良い。
【0014】
これによると、外部操作レバーを押し込む方向に操作することで、この操作を検知手段が検知してエンジン停止が実現する。また、この構成では、作業者の身体に外部操作レバーの突出端が触れた状態で押し込まれる場合にもエンジンが停止することになり、例えば、作業者の身体を外部操作レバーの外端に接触させて押圧力を作用させてもエンジンを停止でき、外部操作レバーから手を離した状態でもエンジンの停止を行える。
【0015】
本発明は、前記外部操作レバーの操作端が、前記走行機体の前端から前方に突出する、又は、走行機体の前端と同じ位置に設定されても良い。
【0016】
これによると、走行機体の前端より前方側に作業者が位置する状態でも、作業者は大きく手を伸ばさずとも外部操作レバーを操作して走行機体の走行速度を制御でき、エンジン停止も容易に行える。
【0017】
本発明は、前記走行機体の車輪に制動力を作用させるブレーキ機構と、前記エンジンからの駆動力を前記車輪に伝える伝動系における伝動を断続する断続機構とが備えられ、前記ブレーキペダルが踏み込み操作されることでブレーキ機構を制動操作し、かつ、前記断続機構を遮断操作しても良い。
【0018】
これによると、外部操作レバーを操作することによりブレーキ機構を操作して走行速度の低減を行え、このブレーキ機構の操作で走行速度が低減される際には車輪に伝えられる動力を断続機構で断続することでエンジンに過剰な負荷が作用する不都合を回避して走行機体の停止を行える。
【0019】
本発明は、前記走行機体の前端位置に、前端側が上方に向かう格納姿勢と、前端側が走行機体の前方に向かう突出姿勢との切換自在となり、突出姿勢では作業者の下方への操作により前記走行機体の前部に荷重を作用させる操作アーム部材を備え、この操作アーム部材と並列する位置に前記外部操作レバーが配置されても良い。
【0020】
これによると、操作アーム部材を突出姿勢に設定した状態で作業者が下方へ操作することで、走行機体に前部に体重を作用させて、走行機体の前部の浮き上がりを抑制して走行機体の姿勢の安定化が可能となる。また、操作アーム部材と外部操作レバーとが並列する位置関係にあるため、操作アーム部材を一方の手で操作する状態で、外部操作レバーを他方の手で操作することも可能となり、走行機体の姿勢の安定化を図りながら走行機体の走行速度を制御し、必要な場合にはエンジン停止も実現する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】田植機の全体の側面図である。
【図2】田植機の全体の平面図である。
【図3】田植機の正面図である。
【図4】田植機の前部の側面図である。
【図5】ブレーキペダルと外部操作レバーとの側面図である。
【図6】ロックアームの作動形態を示す正面図である。
【図7】ブレーキペダルと外部操作レバーとの制御構成を示す図である。
【図8】苗取量調節系と植付深調節系との構成を示す図である。
【図9】別実施形態(a)の外部操作レバーを示す側面図である。
【図10】別実施形態(b)の外部操作レバーを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔田植機の全体構成〕
図1〜図3に示すように、左右一対の前車輪1と左右一対の後車輪2とを備えた走行機体Aの中央部の運転部に運転座席3を備えると共に、走行機体Aの後端に油圧シリンダ4の作動により昇降作動するリンク機構Lを介して昇降自在に苗植付装置Bを備えて乗用型水田作業機の一例としての田植機が構成されている。
【0023】
この田植機は、走行機体Aの前部位置にエンジン5と、エンジン5の駆動力がベルト伝動機構Cを介して伝えられる静油圧式の無段変速装置6と、無段変速装置6から駆動力が伝えられるミッションケース7とを備えている。走行機体Aの後部位置にはミッションケース7の駆動力が中間伝動軸8により伝えられる後車軸ケース9を備えており、ミッションケース7の駆動力は、外部出力軸10により苗植付装置Bに伝えられる。無段変速装置6は走行機体Aの走行速度を無段階に変速し、ニュートラル位置では走行系に駆動力を伝えないように構成されている。ミッションケース7には、左右の前車輪1及び左右の後車輪2に制動力を作用させるブレーキ機構11を内蔵している。
【0024】
苗植付装置Bは、複数の整地フロート12を備え、マット状苗Wを載置する苗載台13を備え、この苗載台13のマット状苗Wを切り出して圃場面に植え付ける植付機構Bpとを備えている。この苗植付装置Bの詳細は後述する。
【0025】
走行機体Aの前部には、エンジン5を収容するエンジンボンネット21を備え、このエンジンボンネット21の両側部から運転座席3の下方位置に亘ってステップ22を形成し、運転座席3の前方位置には前車輪1を操向操作するステアリングホイール23を備え、ステアリングホイール23の左側部位置に主変速レバー24を備え、運転座席3の右側部に昇降レバー25を備え、ステップ22の右側部には走行速度を抑制するブレーキペダル26を備えている。
【0026】
ステップ22は、走行機体Aの前方位置から作業者の乗降を可能にするように平坦に形成されている。主変速レバー24は、前後方向への操作により無段変速装置6を変速操作して前進速度と後進速度を無段階に変速する。昇降レバー25は苗植付装置Bの油圧シリンダ4に対する作動油の給排を行う昇降制御弁17(図7を参照)と連係すると共に、ミッションケース7に内蔵された植付クラッチ(図示せず)と連係している。このような構成から昇降レバー25を操作することにより、苗植付装置Bの昇降制御と、苗植付装置Bに対する動力の断続とが行われる。
【0027】
図4、図5、図7に示すように、ブレーキペダル26は、横向き姿勢のペダル軸芯Xを中心にして揺動自在に構成されるアーム部26Aの延出側の端部に備えられると共に、ミッションケース7に内蔵したブレーキ機構11と、無段変速装置6をニュートラル位置に操作する断続機構20とに機械的に連係している。断続機構20の構成は図面に示していないが、無段変速装置6の変速操作軸が変速位置(ニュートラル以外の位置)にある状態でブレーキペダル26が踏み込み操作された場合には、変速操作軸を強制的に中立位置に操作するカム機構等を備えて構成されている。
【0028】
また、ブレーキペダル26は非操作状態においてステップ22から上方に持ち上がるようにバネ付勢され、この非操作状態においてブレーキ機構11は非制動状態に維持される。これとは逆にブレーキペダル26が踏み込み操作された場合にはブレーキ機構11を制動操作して減速や停止を実現すると共に、断続機構20が無段変速装置6をニュートラル位置に操作することでエンジン5に作用する負荷を軽減して停止を招かないように構成されている。
【0029】
この構成では、断続機構20により無段変速装置6をニュートラル位置に操作することにより前車輪1と後車輪2とに伝えられる駆動力を遮断するが、例えば、主クラッチ機構を備える田植機では、ブレーキペダル26の操作と連係して主クラッチ機構を遮断操作するように操作系を構成しても良い。
【0030】
ブレーキペダル26の近傍位置には、ブレーキペダル26を踏み込んだ状態に保持するロックアーム27を備えており、このロックアーム27によりブレーキペダル26を駐車ブレーキと同様に制動状態に維持できるように構成されている。図5、図6に示すように、ブレーキペダル26には係合片26Tが一体的に形成され、ロックアーム27は、係合片26Tと係脱する鋸歯状となる複数のロック部27Aが形成されている。このロックアーム27は、ステップ22の上面のブラケット28に対して軸体28Aを中心にして揺動自在に支持さると共に、ブラケット28とロックアーム27との間にトグルバネ29の付勢力を作用させることで図6(a)に示す作用姿勢と、図6(b)に示す格納姿勢とに切換自在に支持されている。
【0031】
これにより、ロックアーム27を格納姿勢に設定しておくことで、作業時にブレーキペダル26を踏み込み操作した場合に係合片26Tがロックアーム27のロック部27Aに接触することはなくロック状態に陥らない。これとは逆に、ロックアーム27を作用姿勢に設定した場合には、ブレーキペダル26を踏み込むことにより、ブレーキペダル26の係合片26Tがロックアーム27のロック部27Aに係合してロック状態に達し、ブレーキペダル26を踏み込んだ状態に維持する。
【0032】
このロック状態にある場合に、ロック状態を解除する場合には、作業者が靴14によりブレーキペダル26を踏み込みながら、靴14を外方に移動させロックアーム27の上端に機体外側に変位させることでロック解除が実現する。このロック解除時には作業者が手によってロックアーム27を操作する必要はなく、作業者の手を汚すこともない。また、ロックアーム27を大きく揺動させることで格納姿勢に達し、格納姿勢に切り換える操作も実現する。
【0033】
図7に示すように、エンジン5で駆動される油圧ポンプ16の作動油を昇降制御弁17から油圧シリンダ4に供給する油路に開閉弁18を備えている。昇降制御弁17は前述した昇降レバー25で操作されるように構成され、開閉弁18は切換ワイヤ19を介してブレーキペダル26と連係している。
【0034】
つまり、ブレーキペダル26をロック状態に保持する状態は長期間に及ぶことも多く、このような状態で苗植付装置Bを上昇させている場合には、油圧シリンダ4の油路系の作動油がリークすることにより苗植付装置Bが下降することも考えられるため、ブレーキペダル26をロック状態に保持した場合には開閉弁18を閉塞操作する構成を備えている。これにより、開閉弁18を別途操作しなくとも、油圧シリンダ4に接続する油路からの作動油のリークを抑制して苗植付装置Bが下降する不都合を抑制する。
【0035】
同図に示すように、ブレーキペダル26の踏み込み操作を検知してエンジン5の回転速度を減ずるスロットル制御手段Dを備えている。このスロットル制御手段Dを備えることにより、走行時にブレーキペダル26を踏み込んで減速を行った場合には、必ずエンジン5の回転速度が減じられ、燃料の無駄を抑制すると共に、断続機構20が無段変速装置6の変速操作軸をニュートラルに設定する。尚、このスロットル制御手段Dは、ブレーキペダル26の踏み込み量を検知するポテンショメータを備え、このポテンショメータの検知に基づいてスロットルを制御するアクチュエータを備えているが、ブレーキペダル26が設定位置まで踏み込まれたことを検知するスイッチを備え、このスイッチの検知に基づいてエンジン5の回転速度を決まった値に設定する制御を行うように構成しても良い。また、ブレーキペダル26の踏み込みを解除してブレーキペダル26が非操作位置に復帰した場合には、無段変速装置6の変速操作軸をを中立位置に保持したままエンジン5の回転速度が元の速度まで復帰する。
【0036】
〔苗植付装置〕
図8に示すように苗載台13の前部下側位置に外部出力軸10からの駆動力が伝えられるフィードケース31を備え、このフィードケース31からの駆動力が伝えられる複数の植付ケース32を苗載台13の下部から後方に亘る位置に備え、この植付ケース32の後端に植付アーム34を備えている。この植付アーム34には植付爪34Aを備えており、植付爪34Aが作動軌跡Tに沿って作動することで苗載台13のマット状苗Wから植付爪34Aが苗を切り出して圃場面に植え付ける作動を行う。この回転ケース33と植付アーム34とで植付機構Bpが構成されている。
【0037】
苗載台13は、複数の植付ケース32の上面において上下に移動自在に支持される横長姿勢の摺動レール35の長手方向(横方向)に沿って移動自在に支持され、この摺動レール35は支持ロッド36を介し植付ケース32に対して上下方向に移動自在に支持されている。
【0038】
植付ケース32の上面に横向き姿勢で長手方向の軸芯を中心にして回動自在に支持される調節軸37を備え、この調節軸37に連結する当接アーム38の揺動端を摺動レール35の下面側の部材に当接させ、この調節軸37に連結する調節アーム39を苗植付装置Bの前方側に延出している。この構成から調節アーム39の操作で調節軸37を回動させ、この回動により当接アーム38を上下方向に変位させることにより摺動レール35の上下方向の位置調節が可能となる。そして、この位置調節により植付爪34Aの作動軌跡Tと苗載台13との相対的な位置関係を変更してマット状苗Wから切り出される1株あたりの苗の量を調節する苗取量調節が実現する。
【0039】
調節アーム39の前端側には、この調節アーム39を操作する調節ワイヤ40の一端側が連結しており、この調節ワイヤ40の他端側が運転座席3の前方位置の取量調節レバー41に連結している。この取量調節レバー41は取量ガイド板42の複数の係止凹部に係合する形態で操作位置の保持を行えるように構成され、取量調節レバー41の操作により運転座席3(運転部)の位置から苗取量調節を行える。
【0040】
植付ケース32の下部に横長姿勢で、横向き姿勢の軸芯を中心に回転自在に支持した筒状軸45に支持アーム46を連結している。この支持アーム46の揺動端に整地フロート12が支持され、筒状軸45には前方に突出形態で操作アーム47が連結している。この構成から支持アーム46の操作で筒状軸45を回動させることにより、整地フロート12の上下位置を調節し、この調節により植付爪34Aの作動軌跡Tの圃場面との相対的な位置関係を上下方向に変更して植付アーム34による苗の植付け深さを調節する植付深調節が実現する。
【0041】
操作アーム47の前端位置に操作ワイヤ48の一端側が連結しており、この操作ワイヤ48の他端側が運転座席3の前方位置の植深調節レバー49に連結している。この植深調節レバー49は植深調節ガイド板50の複数の係合凹部に係合する形態で操作位置の保持を行えるように構成され、植深調節レバー49の操作により運転座席3の位置から植付深調節を行える。
【0042】
尚、苗取量調節と植付深調節とを運転座席3の前方位置から行えるように、調節軸37を電動モータの駆動力により回動させる駆動機構を備え、また、前述した筒状軸45を電動モータの駆動力により回動させる駆動機構を備えても良い。このように構成したものでは、夫々の電動モータを制御するスイッチ類と運転座席3の前方位置に配置することで運転座席3の位置から、苗取量調節と植付深調節とが可能となる。
【0043】
〔操作アーム部材と外部操作レバー〕
図1、図3、図4に示すように、エンジンボンネット21の前部位置で、走行機体Aの前端位置の機体フレーム55に対して横向き姿勢の揺動軸芯Pと同軸芯上に配置した支軸56を中心にして図1に実線示す格納姿勢と、図4に仮想線で示す如く揺動端が前方に突出する突出姿勢とに切換自在にアーチ状の操作アーム部材57を備えている。この操作アーム部材57の揺動端に、横向き姿勢の切換軸芯Qを中心にして揺動自在にセンターマスコット58が支持され、操作アーム部材57を突出姿勢に設定した状態で操作アーム部材57の下方への揺動を規制する規制部材59が機体フレーム55に備えられている。尚、操作アーム部材57は、揺動軸芯Pを中心にした揺動を摩擦式に保持するように支軸56と機体フレーム55との間に摩擦保持機構(図示せず)を備えており、作業時には操作アーム部材57が格納姿勢に維持されるように構成されている。
【0044】
これにより、この操作アーム部材57を格納姿勢に設定した状態でセンターマスコット58を起立姿勢に設定することで、このセンターマスコット58を走行機体Aの走行方向を定める照準器と同様に使用することが可能となる。また、操作アーム部材57を突出姿勢に設定した状態で、この操作アーム部材57に作業者の体重を掛けることにより前車輪1の浮き上がりを抑制して走行機体Aの姿勢の安定化を図ることも可能となる。
【0045】
図4、図5に示すように、ブレーキペダル26のアーム部26Aの上端近くに中間プレート61を備え、この中間プレート61に備えた横向き姿勢の枢支軸62に対して揺動自在に外部操作レバー63を支持している。この外部操作レバー63は、中間プレート61に備えた2つのストッパー64により上下方向への揺動限界が設定され、2つのストッパー64のうち下降限界を決めるストッパー64に外部操作レバー63を接当させるトーションバネ66を備えている。中間プレート61には外部操作レバー63の前端側の上方への操作を検知する検知手段としての検知スイッチ65を備え、この検知スイッチ65はエンジン5を強制的に停止させるように図7に示す強制停止手段Eに接続している。また、この外部操作レバー63のグリップ63Aの先端は、非操作状態で走行機体Aの前端から突出する位置、又は、同じ位置に備えられ、走行機体Aの前端側に作業者が立って容易に操作できるように構成されている。
【0046】
ブレーキペダル26は、非操作状態から踏み込み操作されることで操作領域Sにおいて操作される。また、外部操作レバー63のグリップ63Aを押下げ方向に操作することでブレーキペダル26を操作領域Sにおいて操作可能となる。この外部操作レバー63のグリップ63Aを上方に持ち上げる操作を行った場合には、トーションバネ66の付勢力に抗して外部操作レバー63を枢支軸62を中心にして揺動させ、この操作(揺動)を検知スイッチ65で検知して強制停止手段Eがエンジン5を停止する。つまり、外部操作レバー63の操作端に形成されたグリップ63Aから手を離さずにエンジン5の強制停止を実現する。
【0047】
この構成から、操作端のグリップ63Aを下方に操作した場合には、外部操作レバー63の基端側が一方のストッパー64に当接するため、踏み込み方向にブレーキペダル26を下方に操作し、ブレーキ機構11による制動により走行機体Aの移動速度の低減が実現する。これとは逆に、グリップ63Aを上方に操作した場合には、ブレーキペダル26が上方の非操作位置に達した状態で、外部操作レバー63が枢支軸62を中心にして揺動する形態で上側に揺動することになり、この操作を検知スイッチ65が検知することからエンジン5の強制停止が実現する。
【0048】
つまり、この田植機で畦越を行う場合や、あゆみ板を用いてトラックの荷台に積載する場合には、走行速度を最低速に設定した状態で走行を行うと共に、作業者が走行機体Aから降りて走行機体Aの前端に近い位置に立ち、操作アーム部材57を突出姿勢に設定する。この状態で作業者が操作アーム部材57に作用させる体重の加減により前車輪1の浮き上がりを抑制して走行機体Aの姿勢を安定させる。また、外部操作レバー63のグリップ63Aを下方に操作することでブレーキ機構11を制動操作して走行速度を低減したり停止させることが可能となり、しかも、外部操作レバー63を上方に操作することでエンジン5の強制停止も可能となり、走行機体Aに作業者が搭乗しなくともエンジン5の停止が実現する。
【0049】
〔実施形態の作用・効果〕
運転座席3の前方位置に取量調節レバー41と植深調節レバー49とを配置しているので、苗植付装置Bの近傍まで作業者が移動しなくとも、運転座席3(運転部)の近傍から苗取量調節と植付深調節とが実現する。
【0050】
ブレーキペダル26を踏み込み操作した場合には、エンジン5の回転数を減ずることになるので、エンジン5を無駄に駆動することがなく燃費の良い作業を実現する。また、ブレーキペダル26をロックアーム27によるロック状態に保持することにより、駐車ブレーキと同様に制動状態を維持できることになり、このロック状態では開閉弁18を閉じ状態に操作することにより油圧シリンダ4に接続する油路から作動油がリークする不都合を抑制して苗植付装置Bが不測に下降する不都合を解消し、また、ブレーキペダル26をロック状態から開放することで開閉弁18を開放状態(連通状態)に切り換えることになり、この開閉弁18を別途操作する不都合を解消する。
【0051】
また、ロックアーム27でロック状態に維持した状態において、ロック状態を解除する場合にも、ブレーキペダル26を靴14で踏み込んだ状態で、靴14を横方向に移動させるだけでロックアーム27のロック解除を容易に行える。
【0052】
走行機体Aで畦越を行う場合やトラックの荷台に積載する場合には、操作アーム部材57を突出姿勢に設定して作業者が体重を作用させることで走行機体Aの姿勢を安定させて走行機体Aを走行(移動)させることができ、この走行時に外部操作レバー63を操作することでブレーキ機構11を操作して移動速度を低減する制御を行える。このように移動速度を低減する場合には断続機構20が無段変速装置6の変速操作軸を中立位置に戻すためエンジン5に過剰な負荷を作用させない。また、エンジン5を停止させる必要がある場合には、外部操作レバー63から手を離さず上方に操作することで、この操作を検知手段としての検知スイッチ65が検知し強制停止手段がエンジン5を停止させるため簡単な操作でエンジン5を停止できる。
【0053】
〔別実施形態〕
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い。
【0054】
(a)図9に示すように、ブレーキペダル26のアーム部26Aに外部操作レバー63の基端を固設し、ブレーキペダル26の操作方向と異なる方向として上側に外部操作レバー63が操作された際にアーム部26Aに当接して、この操作を検知するように検知手段としての検知スイッチ65を備えている。この別実施形態では、ブレーキペダル26が、ペダル軸芯Xを中心にして揺動自在に支持され、非操作位置に復帰バネ(図示せず)で付勢され、当接部材71によってブレーキペダル26の上限を決めている。
【0055】
また、当接部材71は規制バネ72で突出方向に付勢され、この規制バネ72が、復帰バネの付勢力に抗してブレーキペダル26を非操作位置に維持すると共に、外部操作レバー63の上方への操作によりブレーキペダル26の上方へ揺動を許容するように付勢力が設定されている。これにより、ブレーキペダル26は、規制バネ72の弾性変形可能な範囲で非操作状態の位置を基準にして上方に移動可能となり、ブレーキ機構11を制動操作する操作領域Sを超えて外部操作レバー63が上方に操作された場合に、この操作を検知スイッチ65で検知してエンジン5の強制的停止が可能となる。
【0056】
(b)図10に示すように、外部操作レバー63のグリップ63Aの内部に、ブレーキペダル26の操作方向と異なる方向の一例として、このグリップ63Aの先端に突出する操作部63Sを押し込み方向に操作したことを検知する検知手段として検知スイッチ65を備える。このような構成から、外部操作レバー63の操作部63Sを押し込む方向に操作した場合に、この操作を検知スイッチ65で検知してエンジン5の強制的停止が可能となる。
【0057】
尚、この検知スイッチ65を備える場合に、外部操作レバー63を伸縮自在に長手方向に沿って変位自在に構成すると共に、伸長方向(突出方向)にバネ付勢し、押し込む方向に操作されたことを検知するように検知スイッチ65を備えても良い。このような構成によっても外部操作レバー63の押し込み方向への操作でエンジン5の強制停止が可能となる。
【0058】
(c)外部操作レバー63が、ブレーキペダル26の操作方向と異なる方向として、操作領域Sに対して横方向に直交する方向に操作されたことを検知するように検知スイッチ65を備える。このように構成したものでも、外部操作レバー63の操作によりエンジン5の強制的停止が可能となる。
【0059】
(d)実施形態や別実施形態に記載される検知手段はリミットスイッチのように部材の変位を検知するものを想定しているが、この検知スイッチとして感圧センサや歪みゲージのように圧力の変化や歪みを検知するものを用いても良い。このように検知手段を構成することにより外部操作レバー63に可動部分を形成することや、可動部材を備えずに済み、構成が単純化する。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、外部操作レバーを備えた乗用型水田作業機全般に利用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1、2 車輪(前車輪、後車輪)
5 エンジン
11 ブレーキ機構
20 断続機構
26 ブレーキペダル
57 操作アーム部材
63 外部操作レバー
65 検知手段(検知スイッチ)
A 走行機体
E 強制停止手段
S 操作領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの駆動力で走行する走行機体の運転部に走行速度を抑制するブレーキペダルが備えられ、このブレーキペダルを走行機体の外部の前方位置から操作するための外部操作レバーを備えている乗用型水田作業機であって、
前記外部操作レバーが、前記ブレーキペダルの操作方向と異なる方向に操作された場合に、その操作を検知する検知手段を備え、この検知手段の検知に基づいて前記エンジンを停止させる強制停止手段を備えている乗用型水田作業機。
【請求項2】
前記検知手段が、前記操作方向と異なる方向として上側に前記外部操作レバーが操作されたことを検知するように構成されている請求項1記載の乗用型水田作業機。
【請求項3】
前記検知手段が、前記操作方向と異なる方向として、前記外部操作レバーを押し込む方向へ前記外部操作レバーが操作されたことを検知するように構成されている請求項1記載の乗用型水田作業機。
【請求項4】
前記外部操作レバーの操作端が、前記走行機体の前端から前方に突出する、又は、走行機体の前端と同じ位置に設定されている請求項1〜3の何れか一項に記載の乗用型水田作業機。
【請求項5】
前記走行機体の車輪に制動力を作用させるブレーキ機構と、前記エンジンからの駆動力を前記車輪に伝える伝動系における伝動を断続する断続機構とが備えられ、前記ブレーキペダルが踏み込み操作されることでブレーキ機構を制動操作し、かつ、前記断続機構を遮断操作する請求項1〜4の何れか一項に記載の乗用型水田作業機。
【請求項6】
前記走行機体の前端位置に、前端側が上方に向かう格納姿勢と、前端側が走行機体の前方に向かう突出姿勢との切換自在となり、突出姿勢では作業者の下方への操作により前記走行機体の前部に荷重を作用させる操作アーム部材を備え、この操作アーム部材と並列する位置に前記外部操作レバーが配置されている請求項1〜5の何れか一項に記載の乗用型水田作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−5747(P2013−5747A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139871(P2011−139871)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】