説明

乗用型草刈機

【課題】モーアとその後方に位置するミッションケースとの間に、簡単な機構を追加構成することによって、モーアにより排出された刈草がミッションケースと機体フレームとの間に入り込むことを阻止できる乗用型草刈機を提供する。
【解決手段】モーアの後方において、ミッションケース22を配置するとともに、ミッションケース22の両横側方にミッションケース22を取り付け支持する左右の機体フレーム10を配置してある。モーアを後端開口部より刈草を排出するリアーディスチャージ型に構成し、モーアの後端開口部の後方に、ミッションケース22と左右の機体フレーム10との間に刈草が入り込むのを防止するカバー体26を設けてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モーアの後方において、ミッションケースを配置するとともに、前記ミッションケースの両横側方に前記ミッションケースを取り付け支持する左右の機体フレームを配置し、前記モーアを後端開口部より刈草を排出するリアーディスチャージ型に構成してある乗用型草刈機に関する。
【背景技術】
【0002】
前後車輪間にモーアを配置するミッドマウント型モーアにおいては、モーアの後方側にミッションケースが配置してある。モーアデッキ内において回転ブレードによって細断処理された刈草を早期にモーアデッキ空間より排出すべくリアーディスチャージ形態を採っている(特許文献1参照)。
【0003】
上記したリアーディスチャージ形態を採るモーアを、次のような構成のものに、適用したものがある。つまり、リアーディスチャージ式のモーアの後方にミッションケースを配置し、このミッションケースをそのミッションケースの左右両側方に配置した機体フレームに取付固定するものがある(非特許文献1参照:本件の出願人による出願)。
【0004】
【特許文献1】特許2760708号(段落〔0008〕、図5)
【非特許文献1】特願2008−151892号(図1、及び、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記構成においては、モーアより排出された刈草が後方のミッションケースの両側面と機体フレームとの間に入り込んで滞留したり、滞留した刈草が塊となって落下し刈跡を乱す等の事態が発生することがあり、刈草の処理に苦慮する虞もあった。
【0006】
本発明の目的は、モーアとその後方に位置するミッションケースとの間に、簡単な機構を追加構成することによって、モーアより排出された刈草がミッションケースと機体フレームとの間に入り込むことを阻止できる乗用型草刈機を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
〔構成〕
請求項1に係る発明の特徴構成は、前記モーアの後端開口部の後方に、前記ミッションケースと前記左右の機体フレームとの間に刈草が入り込むのを防止するカバー体を設けてある点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0008】
〔作用及び効果〕
カバー体を設けることによって、ミッションケース両側方と機体フレームとの間に刈草が侵入することを阻止でき、これらの間に刈草が滞留したり、滞留した刈草が塊となって圃場に落下し刈跡を乱す等の事態を未然に回避できる。
【0009】
〔構成〕
請求項2に係る発明の特徴構成は、前記カバー体を、前記ミッションケースとそのミッションケースの左右両側方に位置する機体フレームとの間に位置する上部カバー体部と、左右の上部カバー体部の下端部同士を連結する下部カバー体部とで構成してある点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0010】
〔作用及び効果〕
すなわち、上部カバー体部によって、機体フレームとミッションケースとの間に刈草が侵入することを防止できるとともに、下部カバー体部をミッションケースの前方にも配置して、ミッションケースの下方に刈草が侵入することを防止しつつ、ミッションケースの表面に刈草が吹き付けられることを阻止できる。
【0011】
〔構成〕
請求項3に係る発明の特徴構成は、前記カバー体の上端部を、前方上向きの傾斜姿勢に形成してある点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0012】
〔作用及び効果〕
カバー体の上端部を、前方上向きの傾斜姿勢に形成して、カバー体の上端部をモーアの刈草排出用の開口部の上方に位置させることができ、その開口部から排出された刈草が上方に舞い上がってくるのを阻止することができる。
これによって、ミッションケースの上面に刈草が堆積することを阻止し、ミッションケース以外のラジエータ等に刈草が付着すること等を回避できる。
【0013】
〔構成〕
請求項4に係る発明の特徴構成は、カバー体の下端部を、後向き姿勢に又は後方下向き傾斜姿勢に形成してある点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0014】
〔作用及び効果〕
カバー体の下端部を、後向き姿勢に又は後方下向き傾斜姿勢に形成してあるので、カバー体の下端部に接触する刈草は、後向き又は後方下向きに誘導されて、上方に刈草が舞い上がることがなく、地面上に誘導される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
〔乗用型草刈機の全体構成〕
図1に、本発明に係る乗用型草刈機の全体側面が、また、図2にその全体平面がそれぞれ示されている。この乗用型草刈機は、機体フレーム10の前端側にキャスタ式の遊転輪に構成された左右一対の前輪11を備え、機体フレーム10の後端側に左右一対の駆動輪で構成された後輪12を備えて走行機体1を構成し、この走行機体1の前後輪間に、バーブレード型のモーア4が昇降自在に吊り下げ支持された、いわゆるミッドマウント仕様に構成されている。
【0016】
走行機体1の後部にはエンジンボンネット20内に水冷ディーゼル式のエンジン21及びラジエータ27を収容した原動部2が、機体フレーム10の後側フレーム部分に配備されるとともに、走行機体1の前後中間部位には運転座席13が配備されている。
運転座席13の後部には門形のロプス14が略鉛直に立設固定されている。ロプス14は、その上下中間部位で支点x1周りに後方に折り畳み可能に構成されており、樹木の幹回りの草刈り時にロプス14を折り畳むことで、ロプス14を張出した枝に引っ掛かけることなく作業ができるよう構成されている。
機体フレーム10における前側フレーム部分には、運転座席13の足元に位置するステップ15が搭載装着されるとともに、運転座席13の左右にはフェンダ16が配備されている。
【0017】
伝動系の構造は周知のものであるため詳細な構造の説明は省略するが、図1及び図5に示すように、エンジン21の出力はミッションケース22に入力されて走行系と作業系とに分岐され、走行系の動力はミッションケース22の左右両側に配備された左右一対の静油圧式無段変速装置(HST)25に入力され、その変速出力が車輪ケース23を介して左右の後輪12に伝達されるようになっている。
【0018】
ミッションケース22の両側面に夫々静油圧式無段変速装置25が取り付けてあり、左右の静油圧式無段変速装置25の横外側面に、油圧ブロック28を介して夫々車輪ケース23が取り付けてあり、車輪ケース23のミッションケース22に向かう内向き面が機体フレーム10に油圧ブロック28を介して取付固定してある。
【0019】
左右の後輪12を駆動する静油圧式無段変速装置25は、運転座席13の左右両脇に前後揺動操作可能に配備された左右一対の走行レバー17を各別に揺動操作することで、左右の後輪12をそれぞれ独立して無段階に前後進変速するよう構成されている。図1に示す中立停止の状態から、左右の走行レバー17の同時同方向の操作で直進前後進、左右各別の操作でピボットターン、および、スピンターンを任意に行うことができるようになっている。
【0020】
〔モーアの構成〕
モーア4は、四連リンク構造のリンク機構18を介して吊り下げ支持された構造となっている。リンク機構18は、図1及び図3に示すように、そのリンク機構18の一部に連結された油圧シリンダ19の伸縮作動によって昇降操作され、モーア4を略平行に昇降作動させるよう構成してある。
このモーア4への動力伝達は、前記ミッションケース22で分岐された作業系の動力が、ミッションケース22の前面下部に突設された、走行機体1側からの出力軸であるPTO軸24から機体前方に向けて出力され、このPTO軸24及び伝動軸3を介してモーア4にエンジン動力を軸伝達するように構成してある。
【0021】
モーア4は、下向きに開放されたモーアデッキ40の内部に、縦軸心周りに回転駆動される3枚の回転ブレード41L,41C,41Rが、中央の回転ブレード41Cが少し前方に偏位するよう平面視で三角配置されて軸支された構造となっており、走行機体1が直進移動した際に、隣接する回転ブレード41L,41C,41R同士の先端回動軌跡の左右端が部分的に重複して、刈残しの無い草刈が行えるようになっている。
【0022】
モーアデッキ40は、図3及び図4に示すように、天板高さが全体的に同高さに設定されたフラットデッキに構成されているとともに、このモーアデッキ40の上面中央位置に、前記PTO軸24から取り出された作業用動力が伝達されるベベルギヤケース42を設けてある。
このベベルギヤケース42では、伝動軸3を介して伝達された水平方向の回転動力を、内部のベベルギヤ機構(図示せず)を介して縦軸回転に変換し、中央の回転ブレード41Cの回転軸43Cに伝達するように構成されている。
中央の回転軸43Cと左右の回転ブレード41L,41Rの回転軸43L,43Rとは、それぞれの軸端に設けた伝動プーリ44,44,44にベルト45を巻き掛けて連動され、各回転ブレード41L,41C,41Rが同じ方向(平面視で時計回り)に等速で回転駆動されるようになっている。
【0023】
モーアデッキ40の周囲には障害物乗り越え用の遊転輪(アンチスキャルプローラ)47が配備されており、上方への移動融通をもってリンク機構18に吊り下げ支持されたモーア4に地上の斜面や隆起部などに接近すると、遊転輪47のいずれかが隆起部などに乗り上がることでモーア4が相対的に持ち上げられて、モーアデッキ40が直接に接触して地面を削ることが回避されるようになっている。
【0024】
図3及び図4に示すように、モーアデッキ40自体は前端から両側端に掛けて縦向き姿勢の壁40Bによってブレード41による刈草細断空間を有し、後端に後方斜め下向きの後端傾斜壁40Aを有している。後端傾斜壁40Aの下端位置を縦向き姿勢の壁40Bより上方に位置させて、後端傾斜壁40Aの下端下方に後端開口部40aを形成し、この後端開口部40aより後方に刈草を放出すべく、モーア4をリアーディスチャージ型に構成してある。
【0025】
機体フレーム10とミッションケース22との間を塞ぐ板金製で板状のカバー体26を設けてあり、以下説明する。図4及び図5に示すように、モーア4の後端傾斜壁40Aの下端下方の後端開口部40aの後方側で、左右の機体フレーム10に亘って板状のカバー体26を張設してある。
なお、カバー体26を、樹脂又はゴム板等の異なる材質で弾性変形し易くなるように構成してもよい。
【0026】
図5及び図6に示すように、板状のカバー体26は、ミッションケース22とそのミッションケース22の左右両側方に位置する機体フレーム10との間でかつ静油圧式無段変速装置25の前方に位置する上部カバー体部26Aと、左右の上部カバー体部26Aの下端部同士を連結する下部カバー体部26Bとを、一体板で正面視略Uの字状に構成してある。
【0027】
板状のカバー体26は、上部カバー体部26Aの側端に折り返しブラケット部26cを形成し、そのブラケット部26cを介して機体フレーム10に取り付けられている。ブラケット26cには内側にナット26dが溶接固定してあり、ボルトを外側から取り付けるのに、容易な構成を採っている。
【0028】
板状のカバー体26の上部カバー体部26Aの上端部26aを、前方上向きの傾斜姿勢に形成してある。このような構成によって、モーアデッキ40の後端傾斜壁40Aの下方に形成されて後端開口部40aを通して吹き上がってくる刈草や塵埃をモーア側に戻してエンジン21やラジエータ27側に移動しにくい構成を採っている。
このような構成によって、エンジン21やラジエータ27に刈草の影響がでることは少ない。
【0029】
板状のカバー体26の下部カバー体部26Bの下端部26bを、後向き姿勢に形成してある。このような構成によって、下部カバー体部26Bの下端部26bを迂回する刈草や塵埃が上昇するのを抑制し、後方に移動するようにし、ラジエータ27等への影響が及ばないように構成してある。
【0030】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、ミッションケース22の後方にラジエータ27とエンジン21とを配置してあるが、エンジン21は機体前部に配置してもよい。
【0031】
(2)上記実施形態では、ミッションケース22と機体フレーム10とを、静油圧式無段変速装置25と減速ケース23とを介して取り付け固定してあるが、静油圧式無段変速装置25と減速ケース23との一方は省略してもよい。
【0032】
(3)上記実施形態では、カバー体26の上端部26aを、前方上向きの傾斜姿勢に形成し、カバー体26の下端部26bを、後向き姿勢に又は後方下向き傾斜姿勢に形成したものを示した。しかし、カバー体26の上端部26aを、前方上向きの傾斜姿勢に形成する必要はなく、カバー体26の下端部26bを、後向き姿勢に又は後方下向き傾斜姿勢に形成する必要はない。
具体的には、カバー体26の上端部26aは、前方に突出した姿勢であれば、例えば前向き姿勢又は前方下向き姿勢に形成してもよく、カバー体26の下端部26bは、後方に突出した姿勢であれば、例えば後方上向き姿勢に形成してもよい。
【0033】
(4)上記実施形態では、カバー体26の上端部26a及び下端部26bを直線状に形成した例を示したが、カバー体26の上端部26a及び下端部26bの形状として異なる形状を採用してもよく、例えば湾曲又は屈曲した形状を採用してもよい。
また、上記実施形態では、カバー体26の上端部26a及び下端部26bを、カバー体26に一体形成した例を示したが、カバー体26の一部を異なる材質でカバー体26本体とは別体で構成してよい。具体的には、例えばカバー体26の上端部26a又は下端部26bを、金属、樹脂、又はゴムでカバー体26本体とは別体で構成し、カバー体26本体に着脱可能に装着する構成を採用してもよく、カバー体26の下端部26bを例えばゴム板で着脱可能に構成した場合には、カバー体26本体からゴム板を上下向きに垂下させて前進時にゴム板が弾性変形して後方に突出した姿勢となるように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】乗用型草刈機の全体側面図
【図2】乗用型草刈機の全体平面図
【図3】モーア部分を示す平面図
【図4】モーアとミッションケースからモーアへの伝動構造を示す縦断側面図
【図5】カバー体とミッションケース等を示す正面図
【図6】カバー体を示す斜視図
【符号の説明】
【0035】
4 モーア
10 機体フレーム
22 ミッションケース
26 板状のカバー体
26A 上部カバー体部
26B 下部カバー体部
26a 上端部
26b 下端部
40a 後端開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モーアの後方にミッションケースを配置するとともに、前記ミッションケースの両横側方に前記ミッションケースを取り付け支持する左右の機体フレームを配置し、前記モーアを後端開口部より刈草を排出するリアーディスチャージ型に構成してある乗用型草刈機であって、
前記モーアの後端開口部の後方に、前記ミッションケースと前記左右の機体フレームとの間に刈草が入り込むのを防止するカバー体を設けてある乗用型草刈機。
【請求項2】
前記カバー体を、前記ミッションケースとそのミッションケースの左右両側方に位置する機体フレームとの間に位置する上部カバー体部と、左右の上部カバー体部の下端部同士を連結する下部カバー体部とで構成してある請求項1記載の乗用型草刈機。
【請求項3】
前記カバー体の上端部を、前方上向きの傾斜姿勢に形成してある請求項1又は2記載の乗用型草刈機。
【請求項4】
前記カバー体の下端部を、後向き姿勢に又は後方下向き傾斜姿勢に形成してある請求項1〜3のうちのいずれかひとつに記載の乗用型草刈機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−51278(P2010−51278A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221875(P2008−221875)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】