説明

乗用型除草溝切機

【課題】除草と溝切りとを同時に行うことができる乗用型除草溝切機を提供する。
【解決手段】走行機体10の前方に除草ロータ33を有する除草部30が設けられ、後方に溝切板43を有する溝切部40が設けられる。除草部30と溝切部40はワイヤー52で連結されており、走行機体10の後方には、エンジン20の動力を利用して溝切板43を昇降させるシリンダーが配設されている。ワイヤー52は、走行機体10の後方に配置された第1の滑車の下方、走行機体10の前方に配置された第2の滑車の下方、第2の滑車よりも前方かつ上方に配置された第3の滑車の上方を通って、溝切部40を下方から引っ張り、除草部30を上方から引っ張るように配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、田植え後の水田において除草および溝切りを行う乗用型除草溝切機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、稲などの農作物の栽培には農薬が使用されてきているが、近年、農薬を使用しない、又は、農薬の使用量を減らした栽培方法が注目されている。こうした栽培方法では、除草剤などの農薬を用いる代わりに、例えば、除草機などにより除草が行われる。除草機としては歩行型のものがあるが、広い面積を除草するのに手間と時間がかかるために効率が悪く、あまり利用されていない。そこで、除草機として走行機体を用いた乗用型のものも開発されている(例えば、特許文献1または特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1は、田植機を利用したものであり、田植時には、田植機の後方に田植作業部を連結して作業を行い、田植えが終わった後は、田植機の後方に田植作業部に代えて除草部を連結して除草作業を行うことができるように構成されている。特許文献2は、3輪式の走行機体の前方に除草部を設けたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−300006号公報
【特許文献2】特開2006−6244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の除草機は、田植機の後方に除草部を連結するので、作業位置を見ながら走行することができない。よって、除草用の回転ロータが条上を進行して稲株を浮き上がらせたり埋没させたりして損傷してしまうという問題があった。また、特許文献1又は特許文献2に記載の除草機により除草を行った後は、回転ロータにより条間が掘り起こされてしまい、水はけが悪くなってしまうという問題もあった。水はけを良くするには、溝切機により溝切り作業を行うことが好ましいが、歩行型の場合には手間と時間がかかり、効率的ではない。一方、乗用型の場合には、除草機で田んぼの中を走行した後に、再び溝切機で田んぼの中を走行することになるので、稲に与える影響が大きく、好ましくない。
【0006】
本発明は、このような問題に基づきなされたものであり、除草と溝切りとを同時に行うことができる乗用型除草溝切機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の乗用型除草溝切機は、車輪を有する走行機体と、この走行機体に搭載され、走行機体を走行させるためのエンジンと、走行機体の前方に配設され、除草ロータを有する除草部と、走行機体の後方に配設され、溝切板を有する溝切部とを備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、乗用型の走行機体の前方に除草部を設け、後方に溝切部を設けるようにしたので、前方で除草しながら後方で溝切りを同時に行うことができる。よって、1回の走行で除草と溝切りとを行うことができ、作業効率を大幅に向上させることができると共に、稲に与える影響を小さくすることができる。
【0009】
また、除草部と溝切部とをワイヤーで連結し、エンジンの動力を利用して、除草ロータと溝切板とを同時に昇降させる昇降手段を備えるようにすれば、構造を簡素化することができると共に、車体を軽量化することができる。
【0010】
更に、エンジンの動力を利用して溝切板を昇降させるシリンダーを有し、溝切板がシリンダーにより上方に持ち上げられると、ワイヤーが溝切部の側に引っ張られるのに連動して除草ロータが上方に持ち上げられ、溝切板がシリンダーにより下方に下げられると、ワイヤーが除草部の側に引っ張られるのに連動して除草ロータが下方に下げられるように構成すれば、簡単にエンジンの動力を利用して、除草ロータと溝切板とを同時に昇降させることができる。
【0011】
加えて、第1の滑車を走行機体の後方に配置し、第2の滑車を走行機体の前方に配置し、第3の滑車を第2の滑車よりも前方かつ上方に配置して、ワイヤーを第1の滑車の下方、第2の滑車の下方、および第3の滑車の上方を通して、溝切部と除草部とを連結するようにすれば、簡単に除草ロータと溝切板とを同時に昇降させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態に係る乗用型除草溝切機の構成を表わす図である。
【図2】図1に示した除草部を前方から見た構成を表わす図である。
【図3】図1に示した除草部を上方から見た構成を表わす図である。
【図4】図1に示した溝切部を上方から見た構成を表わす図である。
【図5】図1に示した乗用型除草溝切機の昇降手段の構成を表わす図である。
【図6】図5に示した昇降手段の一部を拡大して表わす図である。
【図7】図5に示した昇降手段の動作を表わす図である。
【図8】図5に示した昇降手段の動作を表わす他の図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施の形態に係る乗用型除草溝切機の全体構成を表わすものである。この乗用型除草溝切機は、機体11の下方に車輪12が配設された走行機体10を備えている。走行機体10の中央部には座席13が設けられ、その前方にはハンドル14が設けられている。また、走行機体10には、走行機体10を走行させるためのエンジン20が搭載されており、走行機体10の前方には除草部30が配設され、走行機体10の後方には溝切部40が配設されている。これら除草部30および溝切部40は、例えば、エンジン20の動力を利用して昇降されるように構成されている。
【0015】
図2及び図3は、除草部30の構成を表わすものであり、図2は前方から見たもの、図3は上方から見たものである。除草部30は、例えば、走行機体11の前方において横方向に伸長して配設されたフレーム31と、フレーム31に対して横方向に伸長して回転可能に配設されたロータ回転軸32と、ロータ回転軸32に対して間隔を開けて固定して配設された複数の除草ロータ33とを有している。除草ロータ33は、例えば、回転することにより土を掘り起こして条間の除草をするものである。除草ロータ33の前方には、稲株の葉が除草ロータ33に巻き込まれてしまうことを防止するための稲株よけ34が配設されている。
【0016】
フレーム31の中央部には、機体11と連結するためのフレーム連結棒35が配設されている。フレーム連結棒35の機体11側の端部は、例えば、回転支持軸36に対して回転可能に配設されており、回転支持軸36は、機体11に対して回転可能に配設されている。回転支持軸36には、例えば、エンジン20の回転軸との間に回転ベルト37Aが掛け渡されると共に、フレーム31に対して回転可能に配設された回転軸38との間に回転ベルト37Bが掛け渡されている。また、回転軸38とロータ回転軸32とは、トランスミッション37Cにより連結されている。これにより、ロータ回転軸32には、回転ベルト37A、回転支持軸36、回転ベルト37B、回転軸38、およびトランスミッション37Cを介して、エンジン20の回転が伝達されるようになっている。
【0017】
また、例えば、回転ベルト37Aの近傍には、回転ベルト37Aを駆動させる駆動スイッチとしての回転ローラー37Dが移動可能に配設されている。回転ベルト37Aは、回転ローラー37Dの移動により、エンジン20の回転軸と回転支持軸36との間に張られて回転する状態と、緩んで回転しない状態とが切り替わるようになっている。
【0018】
図4は、溝切部40を上方から見た構成を表わすものである。溝切部40は、例えば、機体11に対して連結するための溝切連結棒41と、溝切連結棒41に対して横方向に伸長して配設された横棒42と、横棒に対して間隔を開けて配設された複数の溝切板43とを有している。溝切板43は、除草ロータ33により掘り起こされた条間に、水はけを良くするための溝を形成するものであり、例えば、3条に1本の割合で溝を形成するように設けられる。
【0019】
図5は、除草部30および溝切部40を昇降させる昇降手段50の構成を表わすものであり、図6は、その一部を拡大して表すものである。この乗用型除草溝切機は、除草ロータ33と溝切板43とを同時に昇降させる昇降手段50を備えている。昇降手段50は、例えば、エンジン20の動力を利用して溝切板43を昇降させるシリンダー51を有している。シリンダー51は、例えば、シリンダー駆動部51Aが機体11の後斜め上方に向かって伸長するように機体11に対して配設されており、シリンダー駆動部51Aには溝切部40が連結されている。
【0020】
溝切部40は、溝切連結棒41が機体11の後方に向かって伸長され、後方に溝切板43が位置するように配設されている。溝切連結棒41の前方側はシリンダー51の上方に位置し、機体11に対して回動可能に配設されている。溝切連結棒41の前方側には、また、溝切連結棒41から下方に向かってシリンダー連結部44が伸長されている。シリンダー連結部44の下方側はシリンダー駆動部51Aに結合されており、シリンダー連結部44は、シリンダー駆動部51Aに対して回動可能かつシリンダー連結部44の長さ方向に移動可能とされている。例えば、図6に示したように、シリンダー駆動部51Aに一対の突起部51Bを設けると共に、この突起部51Bを挟むようにシリンダー連結部44の下方に一対の挟持部44Aを設け、かつ、挟持部44Aに突起部51Bを嵌合するための孔44Bまたは溝をシリンダー連結部44の長さ方向に伸長して形成し、突起部51Bを嵌合するようにしてもよい。これにより、シリンダー駆動部51Aの直線方向の動きが、溝切連結棒41の前方側を中心とした回転運動に変換されるようになっている。
【0021】
昇降手段50は、また、図5に示したように、除草部30と溝切部40とをワイヤー52で連結しており、ワイヤー52を案内する第1の滑車53、第2の滑車54および第3の滑車55を有している。ワイヤー52の一方の端部は、溝切連結棒41の後方側に結合されており、他方の端部は、フレーム31の中央部に結合されている。第1の滑車53は、機体11の後方においてシリンダー連結部44の下方に配置され、溝切連結棒41の動きを伝達するためのものである。第2の滑車54は、機体11の前方に配置され、ワイヤー52を機体11の後方から前方に案内するものである。第3の滑車55は、第2の滑車54よりも前方かつ上方においてフレーム連結棒35の回転中心よりも上方に配置され、ワイヤー52の移動により除草ロータ33を昇降させるためのものである。
【0022】
ワイヤー52は、第1の滑車53の下方、第2の滑車54の下方、および第3の滑車55の上方を通って、溝切連結棒41とフレーム31とを連結している。すなわち、ワイヤー52は、溝切連結棒41を下方から引っ張り、フレーム31を上方から引っ張るように配設されている。
【0023】
図7および図8は、昇降手段50の動作を表わすものである。まず、図7に示したように、シリンダー駆動部51Aが伸長して溝切連結棒41の後方が上方に持ち上げられ、溝切板43が上方に持ち上げられると、ワイヤー52が溝切部40の側に引っ張られ、これに連動してフレーム31および除草ロータ33が上方に持ち上げられる。また、図8に示したように、シリンダー駆動部51Aが収縮して溝切連結棒41の後方が下方に下げられ、溝切板43が下方に下げられると、ワイヤー52が除草部30の側に引っ張られ、これに連動してフレーム31および除草ロータ33が下方に下げられる。田植え後の水田において除草および溝切りを行う際には、図8に示したように、除草ロータ33および溝切板43を下方に下げて水田の中を走行することにより、走行機体10の前方で除草しつつ、後方で溝切りが行われる。また、除草および溝切りを行わない時には、図7に示したように、除草ロータ33および溝切板43を上方に持ち上げる。
【0024】
このように、本実施の形態によれば、乗用型の走行機体10の前方に除草部30を設け、後方に溝切部40を設けるようにしたので、前方で除草しながら後方で溝切りを同時に行うことができる。よって、1回の走行で除草と溝切りとを行うことができ、作業効率を大幅に向上させることができると共に、稲に与える影響を小さくすることができる。
【0025】
また、除草部30と溝切部40とをワイヤー52で連結し、エンジン20の動力を利用して、除草ロータ33と溝切板43とを同時に昇降させる昇降手段50を備えるようにすれば、構造を簡素化することができると共に、車体を軽量化することができる。
【0026】
更に、エンジン20の動力を利用して溝切板43を昇降させるシリンダー51を有し、溝切板34がシリンダー51により上方に持ち上げられると、ワイヤー52が溝切部40の側に引っ張られるのに連動して除草ロータ33が上方に持ち上げられ、溝切板43がシリンダー51により下方に下げられると、ワイヤー52が除草部30の側に引っ張られるのに連動して除草ロータ33が下方に下げられるように構成すれば、簡単にエンジン20の動力を利用して、除草ロータ33と溝切板43とを同時に昇降させることができる。
【0027】
加えて、第1の滑車53を走行機体10の後方に配置し、第2の滑車54を走行機体10の前方に配置し、第3の滑車55を第2の滑車54よりも前方かつ上方に配置して、ワイヤー52を第1の滑車53の下方、第2の滑車54の下方、および第3の滑車55の上方を通して、溝切部40と除草部30とを連結するようにすれば、簡単に除草ロータ33と溝切板43とを同時に昇降させることができる。
【0028】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態では、除草部30、溝切部40および昇降手段50の構成について具体的に説明したが、他の構成を有していてもよい。例えば、上記実施の形態では、シリンダー連結部44をシリンダー駆動部51Aに対して回動可能かつ長さ方向に移動可能とするようにしたが、シリンダー連結部44をシリンダー駆動部51Aに対して回動可能に結合すると共に、シリンダー51の配設角度(水平方向に対する角度)が変化するようにシリンダー51を機体11に対して回動可能に配設するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0029】
水田の除草および溝切に用いることができる。
【符号の説明】
【0030】
10…走行機体、11…機体、12…車輪、20…エンジン、30…除草部、31…フレーム、32…ロータ回転軸、33…除草ロータ、34…稲株よけ、35…フレーム連結棒、36…回転支持軸、37A,37B…回転ベルト、37C…トランスミッション、37D…回転ローラー、38…回転軸、40…溝切部、41…溝切連結棒、42…横棒、43…溝切板、44…シリンダー連結部、44A…挟持部、44B…孔、50…昇降手段、51…シリンダー、51A…シリンダー駆動部、51B…突起部、52…ワイヤー、53…第1の滑車、54…第2の滑車、55…第3の滑車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を有する走行機体と、
この走行機体に搭載され、前記走行機体を走行させるためのエンジンと、
前記走行機体の前方に配設され、除草ロータを有する除草部と、
前記走行機体の後方に配設され、溝切板を有する溝切部と
を備えたことを特徴とする乗用型除草溝切機。
【請求項2】
前記除草部と前記溝切部とをワイヤーで連結し、前記エンジンの動力を利用して、前記除草ロータと前記溝切板とを同時に昇降させる昇降手段を備えたことを特徴とする請求項1記載の乗用型除草溝切機。
【請求項3】
前記昇降手段は、前記エンジンの動力を利用して前記溝切板を昇降させるシリンダーを有し、
前記除草ロータは、前記溝切板が前記シリンダーにより上方に持ち上げられると、前記ワイヤーが前記溝切部の側に引っ張られるのに連動して上方に持ち上げられ、前記溝切板が前記シリンダーにより下方に下げられると、前記ワイヤーが前記除草部の側に引っ張られるのに連動して下方に下げられる
ことを特徴とする請求項2記載の乗用型除草溝切機。
【請求項4】
前記昇降手段は、前記走行機体の後方に配置され、前記ワイヤーを案内するための第1の滑車と、前記走行機体の前方に配置され、前記ワイヤーを前記走行機体の後方から前方に案内するための第2の滑車と、この第2の滑車よりも前方かつ上方に配置され、前記ワイヤーの移動により前記除草ロータを昇降させるための第3の滑車とを有し、
前記ワイヤーは、前記第1の滑車の下方、前記第2の滑車の下方、および前記第3の滑車の上方を通って、前記溝切部と前記除草部とを連結する
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の乗用型除草溝切機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−67152(P2011−67152A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222137(P2009−222137)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(509269182)
【Fターム(参考)】