説明

乳房計測装置

【課題】超音波画像と光CT画像とを同一の計測条件下で取得することが可能な乳房計測装置を提供する。
【解決手段】乳房計測装置1は、乳房Bを囲む容器3と、容器3の内側へ向けて配置され、乳房Bに検査光を照射し、乳房Bからの透過散乱光を検出するための複数の光ファイバ11と、透過散乱光の検出信号に基づいて、乳房Bに関する光CT画像を生成する画像生成部53と、容器3の内側に向けて配置され、乳房Bに向けて超音波を走査し、乳房Bからの反射波を受信する超音波探触子21と、反射波に基づいて、乳房Bに関する超音波画像を生成する画像生成部24と、容器3の内側へ液状のインターフェース剤Iを注入及び排出する機構とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳房計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、乳がん検査のために普及している一般的なX線マンモグラフィ装置では、被検者の検査対象部位にX線を照射し、透過したX線を撮像することにより当該部位の内部情報を取得して、乳がんの診断情報としている。しかし、X線照射の生体に及ぼす影響が懸念されるため、近年では、検査対象部位に光や超音波等を照射し、透過散乱光(拡散反射光)や反射超音波の強度を検出することによって当該部位の内部情報を取得する方式が臨床導入、あるいは研究されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】アロカ株式会社製品情報、超音波診断装置イメージギャラリー、平成22年9月8日検索、インターネット(http://www.aloka.co.jp/products/show_gallery.html)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、近赤外線を使用した拡散光トモグラフィー(光CT:Computed Tomography)による乳房計測装置を開発しており、次のような課題に直面した。最近の研究成果より、光CTにおいて高い解像度を有する画像が得られるようになったが、その結果として、他の画像診断装置(MRIや超音波診断装置など)によって得られる画像と光CT画像との間において、腫瘍等の位置にずれが生じることが見出された。すなわち、光CT装置では、光散乱係数等の光学係数が乳房とほぼ同等である液状のインターフェース剤を乳房の周囲に配置するが、他の画像診断装置は大気中にて測定を行うので、光CTと他の画像診断装置との間で計測条件が異なってしまうことが原因であると考えられる。したがって、光CT画像と他の画像診断装置の画像とを正確に比較することが難しく、光CT画像の評価が困難となる。
【0005】
本発明は、上述した問題点を鑑みてなされたものであり、他の画像診断装置の超音波画像と、光CT画像とを同一の計測条件下で同時取得することが可能な乳房計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明による乳房計測装置は、被検者の乳房の内部画像を取得するための乳房計測装置であって、乳房を囲む容器と、容器の内側へ向けて配置され、乳房に検査光を照射し、乳房からの透過散乱光(拡散反射光)を検出するための複数の光ファイバと、透過散乱光の検出信号に基づいて、乳房に関する第1の内部画像を生成する第1の内部画像生成部と、容器の内側に向けて配置され、乳房に向けて超音波を走査し、乳房からの反射波を受信する探触子と、反射波に基づいて、乳房に関する第2の内部画像を生成する第2の内部画像生成部と、容器の内側へ液状のインターフェース剤を注入及び排出する機構と、を備えることを特徴とする。
【0007】
この装置においては、乳房を囲む容器に、光CTのための複数の光ファイバに加え、乳房に向けて超音波を走査する探触子が配置されている。これにより、光CT画像と超音波画像とを同一の計測条件下で同時取得することが可能となる。
【0008】
また、乳房計測装置は、その容器が、超音波を透過し、且つ検査光に対する光伝播モデルの境界条件を満たす材料を含むことを特徴としてもよい。これにより、光CT計測および超音波計測の双方を一つの容器内で好適に実現できる。この場合、容器(特に内壁部分)は樹脂など超音波を透過する材料を含むことが好ましい。
【0009】
さらに、取得した第2の内部画像(超音波画像)から乳房の輪郭を例えば3次元座標として抽出し、この輪郭を光CT画像再構成の際の先見情報として使用することができる。すなわち容器と乳房との間は、光学特性(例えば吸収係数、等価散乱係数、屈折率など)が既知なインターフェース剤で満たされているため、光CTの画像再構成を行う際、あらかじめ画像化の最小単位(ボクセル)に先見情報としてその光学特性を与えることができる。これにより画像化範囲がさらに限定できるため、乳房内部の画像再構成の精度の向上が期待できる。
【0010】
また、取得した超音波画像(第2の内部画像)と光CT画像(第1の内部画像)とを合成(例えばスーパーインポーズ)する画像合成部を乳房計測装置が更に備えることにより、サイズの合った解剖学的画像と機能的画像を医者が同時に観察できるため、乳がんの診断精度の向上が期待できる。
【0011】
また、乳房計測装置は、探触子と乳房との距離を可変にする機構を更に備えることを特徴としてもよい。また、乳房計測装置は、乳房を通る軸まわりに探触子を回転させる機構を更に備えることを特徴としてもよい。これらにより、容器の内部において超音波診断装置の計測領域から外れる領域を低減できる。
【0012】
また、乳房計測装置は、インターフェース剤を脱気する脱気装置を更に備えることを特徴としてもよい。これにより、インターフェース剤中における超音波の雑音の発生を抑制し、超音波計測の精度を高めることができる。一方、泡は光学計測上、インターフェース剤を伝播する計測光に光学的な歪みを与えてしまい、乳房を計測した計測光に誤りを与えてしまう為、泡の除去は光学的にも大切であり、超音波計測サイド、光計測サイドの相互に重要な働きをしている。
【発明の効果】
【0013】
本発明による乳房計測装置によれば、光CT画像と超音波画像とを同一の計測条件下で取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による乳房計測装置の一実施形態の構成を概念的に示す図である。
【図2】乳房計測装置の機能的な構成を示すブロック図である。
【図3】容器を拡大して示す斜視図である。
【図4】計測部の側面断面図である。
【図5】計測部が有する超音波探触子の動作の様子を示す図である。
【図6】超音波探触子の内部構成を示す図である。
【図7】インターフェース剤を循環および撹拌するための構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら本発明による乳房計測装置の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
図1は、本発明による乳房計測装置の一実施形態の構成を概念的に示す図である。本実施形態による乳房計測装置1は、被検者の乳房に対して光の照射および超音波の送信を行い、透過散乱光(拡散反射光)や反射超音波の受信を行うことにより乳房の内部画像を取得し、該内部画像に基づいて腫瘍などの有無を検査するための装置である。
【0017】
図1を参照すると、乳房計測装置1は、被検者Aが伏臥するためのベッド(基台)10を備えており、該ベッド10には被検者Aの垂下した乳房Bを囲む半球状の容器3が取り付けられている。容器3は、複数の光ファイバ11及び超音波探触子(プローブ)21を支持するための支持部材である。すなわち、容器3には、検査光を照射および検出するための複数の光ファイバ11の一端が容器3の内側へ向けて固定されており、また、超音波を走査(スキャン)および検出するための一つの超音波探触子21が容器3の内側へ向けて取り付けられており、これらは計測部(ガントリー)2を構成している。
【0018】
また、乳房計測装置1は、光源装置4及び計測装置5を備えている。光源装置4は、容器3内へ照射する光を発生する。計測装置5は、光源装置4から出射される検査光と計測部2から得られる信号とに基づいて、乳房Bの光CT画像(第1の内部画像)を生成する。また、計測装置5は、超音波探触子21から得られる反射波に関する受信信号に基づいて、乳房Bの超音波画像(第2の内部画像)を生成する。
【0019】
複数の光ファイバ11の他端は計測装置5に光学的に接続されており、光源装置4と計測装置5とは光ファイバ12を介して互いに光学的に接続されている。なお、光源装置4と計測装置5とは、電気ケーブルを介して互いに時間整合された形で接続されていても構わない。超音波探触子21は、信号ケーブル22を介して計測装置5に電気的に接続されている。
【0020】
図2は、乳房計測装置1の機能的な構成を示すブロック図である。なお、図2では、説明を容易にするために、複数の光ファイバ11のうち照射用及び検出用の各々1本のみ代表して図示し、他の光ファイバ11の図示を省略している。図2に示すように、乳房計測装置1は、波長可変光源41、光検出器51、信号処理部52、画像生成部53、走査制御部23、及び画像生成部24を備えている。これらのうち、光源41は、例えば光源装置4に内蔵される。また、光検出器51、信号処理部52、画像生成部53、走査制御部23、及び画像生成部24は、例えば計測装置5に内蔵される。
【0021】
光源41は、例えば検査光としての光P1を発生させる装置である。光P1としては、生体の内部情報が計測できる程度に短い時間幅のパルス光が用いられ、通常は例えば数ns以下の範囲の時間幅が選択される。光源41としては、発光ダイオード、レーザダイオード、及び各種のパルスダイオード等、様々なものを使用することができ、複数の波長を選択できる。
【0022】
光源41から入力された光P1の波長としては、生体の透過率と定量すべき吸収成分の分光吸収係数との関係等から、700〜900nm程度の近赤外線領域の波長が好ましい。光P1は、光照射用の光ファイバ11に入射される。なお、必要に応じて、光源41は複数の波長成分の光を計測光として入射可能に構成される。
【0023】
光照射用の光ファイバ11は、その入力端で光P1の入力を受け付けて、その出力端から容器3内の乳房Bに対して当該光P1を照射する。この光ファイバ11の端面は、容器3の内壁における所定の光照射位置に配置されている。また、光検出用の光ファイバ11は、乳房Bから出射された光P1の透過光をその一端面から入力し、光検出器51へ該光を出力する。この光ファイバ11の端面は、容器3の内壁における所定の光検出位置に配置されている。
【0024】
光検出器51は、光検出用の光ファイバ11から入力された光を検出するための装置である。光検出器51は、検出した光の光強度等を示す光検出信号S1を生成する。生成された光検出信号S1は信号処理部52に入力される。光検出器51としては、光電子増倍管(PMT:Photomultiplier)の他、フォトダイオード、アバランシェフォトダイオード、PINフォトダイオード等、様々なものを使用することができる。光検出器51は、光P1の波長の光を十分に検出できる分光感度特性を有していることが好ましい。また、乳房Bからの透過散乱光が微弱であるときは、高感度あるいは高利得の光検出器を使用することが好ましい。
【0025】
信号処理部52は、光検出器51及び光源41と電気的に接続されており、光検出器51により検出された光検出信号S1、及び光源41からのパルス光出射トリガ信号S2に基づいて、透過散乱光の光強度の時間変化を示す計測波形を取得する。信号処理部52は、取得した計測波形の情報を電子データとして保持し、この電子データD1を画像生成部53へ提供する。
【0026】
画像生成部53は、本実施形態における第1の内部画像生成部であり、透過散乱光に基づいて、乳房Bに関する光CT画像(第1の内部画像)を生成する。画像生成部53は、信号処理部52と電気的に接続されており、信号処理部52から電子データD1を入力して、当該電子データD1に含まれる計測波形の情報を用いて乳房Bの光CT画像を生成する。内部画像の生成は、例えば、検出光の時間分解波形を利用する時間分解計測法(TRS法:Time Resolved Spectroscopy)、あるいは、変調光を利用する位相変調計測法(PMS法:PhaseModulationSpectroscopy)等による解析演算を適用することにより行われる。また、画像生成部53は、光源41や光検出器51等、上記の各構成要素を制御する機能を更に有するとよい。
【0027】
走査制御部23は、超音波探触子21における超音波の走査(スキャン)を制御する。一例では、走査制御部23は、超音波の出射方向及び反射波の検出方向を設定する。また、走査制御部23は、超音波探触子21から出射される超音波の周波数を設定し、超音波探触子21が有する複数の超音波送受信子への駆動電圧(すなわち、超音波のパワー)を制御する。また、走査制御部23は、複数の超音波送受信子を制御する。
【0028】
画像生成部24は、本実施形態における第2の内部画像生成部であり、超音波の反射波に基づいて、乳房Bに関する超音波画像(第2の内部画像)を算出する。画像生成部24は、超音波探触子21と電気的に接続されており、超音波探触子21から受信信号S3を入力し、受信信号S3に基づいて乳房Bの超音波画像を生成する。画像生成部24は、例えば、受信回路と、アナログ/ディジタル変換器(A/D)と、画像データ生成部とを含む。受信回路は、複数の超音波送受信子からそれぞれ出力される複数の検出信号を増幅し、A/D変換器は、受信回路によって増幅されたアナログの検出信号をディジタルの検出信号(RFデータ)に変換する。画像データ生成部は、このRFデータに基づいて、超音波画像を生成する。
【0029】
なお、上述したような画像生成部53及び23は、例えば、CPU(CentralProcessingUnit)といった演算手段およびメモリ等の記憶手段を有するコンピュータによって実現される。
【0030】
図2に示すように、容器3の内壁と乳房Bとの隙間は、インターフェース剤Iで満たされている。インターフェース剤Iは、光散乱係数等の光学係数が生体組織(乳房B)とほぼ同等に調整された液体である。このインターフェース剤Iは、予め乳房Bの光学係数を計測して調合されるとよい。一実施例では、インターフェース剤Iとして、イントラリビッド溶液に着色インクを加えて光学係数を乳房Bに整合させたものを用いるとよい。また、このインターフェース剤Iは、超音波探触子21からの超音波を乳房Bに効率よく伝播させる為に、音響的な特性も考慮されている。すなわち、インターフェース剤Iは、生体に最も多く含まれる水(HO)をベースとした液体であり、より好ましくは、雑音の発生原因となる泡の発生を極力抑えるために脱気された水をベースとした液体である。これにより、超音波探触子21からの超音波が乳房Bに効率良く伝播し、乳房Bからの反射波も効率よく収集されて超音波探触子21に戻る。一方、泡の発生は光学計測上、インターフェース剤を伝播する計測光に光学的な歪みを与えてしまい、乳房を計測した計測光に誤りを与えてしまう為、泡の発生を極力抑える事が出来る脱気水は、超音波計測サイド、光計測サイドの相互に重要な働きをしている。
【0031】
図3は、容器3を拡大して示す斜視図である。前述した図2では、光照射用の光ファイバ11および光検出用の光ファイバ11をそれぞれ1本ずつ代表して説明したが、本実施形態の乳房計測装置1においては、例えば20本以上の多数の光ファイバ11が用いられており、それらの一端面11aが、図3に示すように容器3の内壁における所定位置にそれぞれ配置されている。そして、一部の光ファイバ11が光照射用として用いられ、他の光ファイバ11が光検出用として用いられる。或いは、各光ファイバ11が、光照射用および光検出用の双方を兼ねてもよい。例えば、各光ファイバ11は照射用の光ファイバの周囲に検出用のファイバをバンドルした同軸構造を有しており、任意の点に入射点及び受光点を設定することにより、このような光ファイバ11を好適に実現できる。
【0032】
また、図3に示すように、超音波探触子21は、容器3の中央底部に配置されている。超音波探触子21の先端は半球状を呈しており、超音波は容器3の内側へ向けて放射される様に設置している。
【0033】
図4は、計測部2の側面断面図である。また、図5(a)及び図5(b)は、計測部2が有する超音波探触子21の動作の様子を示す図である。図4及び図5を参照しつつ、計測部2の構成について更に詳しく説明する。
【0034】
計測部2の容器3は、図4に示すように、内側容器31および外側容器32を有している。内側容器31は、半球形を呈しており、被検者の垂下した乳房Bを囲むように開口部を上方に向けて配置されている。また、外側容器32は、内側容器31よりも大きい半球形を呈しており、内側容器31の外側を覆うように配置されている。外側容器32は内側容器31との間に隙間34を構成している。
【0035】
複数の光ファイバ11のそれぞれは、内側容器31の内側へ向けて配置され、外側容器32に固定されている。具体的には、各光ファイバ11は、外側容器32の所定の位置に形成された孔に挿通され、インターフェース剤Iの漏洩を防止するためのシール構造を有する図示しない保持機構(フォルダ)によって外側容器32に固定されている。内側容器31には、複数の光ファイバ11を通すための複数の孔が形成されており、これら複数の孔は、その内径が対応する光ファイバ11の径よりも大きくなるように形成されている。
【0036】
また、超音波探触子21は、内側容器31の内側へ向けて配置され、外側容器32に取り付けられている。超音波探触子21は、外側容器32の所定の位置(本実施形態では外側容器32の中央底部)に形成された孔に挿通されている。また、超音波探触子21は、インターフェース剤Iの漏洩を防止し、且つ超音波のスキャン放射角を妨げないように、円筒状の筒28に挿入され、この筒28の内面に密着している。筒28と超音波探触子21との間には、インターフェース剤Iの漏洩を防止するためのシール25が設けられている。筒28と外側容器32との間には、インターフェース剤Iの漏洩を防止するためのシール29が設けられている。
【0037】
また、超音波探触子21の筒28の周囲には、超音波探触子21と乳房Bとの距離を可変にするための機構として、上下動作用回転リング26が設けられている。この上下動作用回転リング26によって、図5(a)及び図5(b)に示されるように、超音波探触子21が上下に移動する。なお、図5(a)は超音波探触子21が下がった状態(乳房Bから離れた状態)を示しており、図5(b)は超音波探触子21が上がった状態(乳房Bに接近した状態)を示している。超音波探触子21は、最も下がった状態では内側容器31の内面より外側に位置し、最も上がった状態では内側容器31の内面より内側に位置する。
【0038】
更に、超音波探触子21の筒28の周囲には、回転動作用リング27が設けられている。この回転動作用リング27は、乳房Bを通る軸まわりに超音波探触子21を回転させるための機構である。
【0039】
内側容器31と外側容器32との隙間34には、隔壁33が設けられている。隔壁33は、隙間34を分割するための部材であり、例えば内側容器31の外面および外側容器32の内面の双方に対して垂直な面を有する環状の部材によって構成される。隔壁33の内周面と外周面との幅は、内側容器31の外面と外側容器32の内面との間隔と略等しく、隙間34を完全に仕切るしくみになっている。
【0040】
隙間34は、隔壁33によって上側の分配室35及び下側の集排室36に分割されている。分配室35には配管13eが接続されており、集排室36には配管13aが接続されている。配管13eは、分配室35へインターフェース剤Iを注入するための第1の配管である。また、配管13aは、集排室36からインターフェース剤Iを排出するための第2の配管である。インターフェース剤Iは、配管13eを通って分配室35へ流れ込んだのち、内側容器31と光ファイバ11との隙間を通って内側容器31の内側へ滲み出す。そして、インターフェース剤Iは、内側容器31の内側を移動し、内側容器31と光ファイバ11との隙間を通って集排室36へ流れ込み、配管13aを通って排出される。
【0041】
なお、本実施形態では、外側容器32の開口部の外側にも配管13fが配置されている。この配管13fは、内側容器31から溢れたインターフェース剤Iを排出するために設けられている。
【0042】
また、光ファイバ11による光CT計測と超音波探触子21による超音波計測とを内側容器31の内側で行う為に、内側容器31は、超音波を透過し、且つ検査光に対する光伝播モデルの境界条件(例えば吸収・反射・拡散など)を満たす材料を含むことが望ましい。本実施形態では、このような理由から、内側容器31が黒色樹脂によって構成されている。
【0043】
従来の光CTにおいては、外乱光の侵入や容器内での反射を低減する為に、アルミ材などの表面に艶消しのためのアルマイト処理を施した金属材料が内側容器に用いられていた。しかしながら、本実施形態では、超音波計測において、超音波探触子21から放射された超音波、或いは乳房Bから反射して戻される超音波の散乱や反射による雑音が極力低減されることが望まれる。従って、内側容器31の材質として、金属と比較して音の反射が少ない樹脂が採用されている。また、光学的な遮光性と近赤外光に対する吸収性を実現する為に、内側容器31は、黒色に着色され、適度な厚さ(例えば概ね5mm〜20mm程度)を有する。なお、一実施例では、内側容器31は15mm厚さの黒色ポリアセタールからなる。
【0044】
図6(a)及び図6(b)は、超音波探触子21の内部構成を示す図である。本実施形態の超音波探触子21は、いわゆるコンベックス型の探触子である。図6(a)及び図6(b)に示すように、超音波探触子21は、載置面21a上に設けられた半球形のカバー21bと、該カバー21b内において、載置面21aに沿った軸まわりに回動可能に支持された半円板状の支持部材21cと、支持部材21cの外周面上に並んで配置された複数の送受信子21dとを有する。なお、図6(a)は、支持部材21cの回動軸の方向から見た超音波探触子21の構成を示しており、図6(b)は、支持部材21cの回動軸と直交する方向から見た超音波探触子21の構成を示している。また、図6(a)及び図6(b)において、矢印A1は、支持部材21cの動作範囲(すなわち、支持部材21cの回動軸に垂直な平面内でのスキャン範囲)を示している。
【0045】
複数の送受信子21dは、支持部材21cの周方向に一列に並んで配置されており、扇状に拡がった超音波を発信するとともに、反射波を受信する。図6(b)の矢印A2は、複数の送受信子21dによって発信される超音波の放射角(すなわち、支持部材21cの回動軸を含む面内でのスキャン範囲)を示している。超音波探触子21が超音波を出力する際には、最端部に位置する送受信子21dから順に、超音波の発信および受信を行う。或いは、全ての送受信子21dが同時に発信および受信を行う、いわゆる電子セクタ方式を採用してもよい。
【0046】
続いて、インターフェース剤Iの循環システムについて説明する。図4に示したように、容器3の内壁と乳房Bとの隙間は、インターフェース剤Iで満たされる。このインターフェース剤Iにより、乳房Bの内外における光学係数を一致させて、画像生成部53による演算時の境界条件を乳房Bの大きさによらず固定することができるので、乳房Bの内部情報をより容易に算出できる。また、超音波探触子21からの超音波が乳房Bの表面で反射することを抑制して、超音波探触子21の乳房Bへの接触を不要とし、また乳房Bからの反射波の減衰を抑えることができる。このようなインターフェース剤Iとしては、例えば、光散乱係数を生体と一致させるために光散乱物質(例えば、静脈注射用脂肪乳剤であるイントラリピッド(登録商標)など)を純水(例えば蒸留水)に適量混合し、また、光吸収係数を生体と一致させるために光吸収物質(例えばカーボンインクなど)を更に適量混合してなる液体が好適に用いられる。また、インターフェース剤Iを構成する純水は、脱気装置等によって気泡が除去されたものであることが望ましい。これにより、インターフェース剤Iにおける超音波の雑音の発生を抑制し、超音波計測の精度を高めることができる。
【0047】
イントラリピッドやカーボンインクは疎水性である。インターフェース剤Iに含まれるこれらの光散乱物質や光吸収物質が疎水性である場合、容器3内のインターフェース剤Iにおいては、時間の経過にしたがって光散乱物質や光吸収物質が沈降し易い。これらの物質が沈降すると、インターフェース剤Iの光学係数が不均一となり、透過散乱光の検出精度が低下してしまう。従って、本実施形態の乳房計測装置1は、このような光散乱物質や光吸収物質の沈降を防ぐため、容器3の内外でインターフェース剤Iを循環させつつ容器3の外部でインターフェース剤Iを撹拌するための構成を更に備えている。
【0048】
図7は、インターフェース剤Iを循環および撹拌するための構成の一例を示す図である。図7に示すように、乳房計測装置1は、インターフェース剤Iを循環させるための循環用ポンプ16と、インターフェース剤Iを貯留すると共に撹拌するタンク17と、インターフェース剤Iに溶け込んだ空気や泡を取り除く脱気(脱泡)装置18と、インターフェース剤Iを加温する加温装置19とを更に備えている。インターフェース剤Iは、これらの装置によって加温、循環され、ガントリー内で沈殿、不均一化されてしまうことを防止できる。また、脱気装置18によってインターフェース剤Iの気泡が除去されるので、インターフェース剤Iにおける超音波の雑音の発生を抑制し、超音波計測の精度を高めることができる。一方、泡は光学計測上、インターフェース剤を伝播する計測光に光学的な歪みを与えてしまい、乳房を計測した計測光に誤りを与えてしまう為、泡の除去は光学的にも大切であり、超音波計測サイド、光計測サイドの相互に重要な働きをしている。
【0049】
循環用ポンプ16は配管13aを介して容器3と接続されており、インターフェース剤Iは容器3から配管13aを通して循環用ポンプ16に吸い込まれる。また、循環用ポンプ16は配管13bを介してタンク17と接続されており、インターフェース剤Iは配管13bを通してタンク17へ送り出される。タンク17の内部には図示しない撹拌器が取り付けられており、貯留されたインターフェース剤Iが撹拌される。タンク17は配管13cを介して脱気装置18と接続されており、撹拌されたインターフェース剤Iは配管13cを通って脱気装置18へ送られる。インターフェース剤Iは脱気装置18において減圧され、気泡および溶け込んだ気体成分が取り除かれる。脱気装置18は配管13dを介して加温装置19と接続されており、脱泡(および脱気)されたインターフェース剤Iは配管13dを通って加温装置19へ送られる。インターフェース剤Iが過度に冷たいと被検者Aに不快感を与えるので、インターフェース剤Iは加温装置19において体温程度まで加温される。加温装置19は配管13eを介して容器3と接続されており、インターフェース剤Iは配管13eを通って再び容器3へ送られる。このようにして、インターフェース剤Iは、撹拌されつつ容器3の内外を循環する。なお、循環ポンプ6、タンク7、脱気装置8、及び加温装置に関しては、必要に応じて接続の順番を変更し、最適化することができる。
【0050】
本実施形態による乳房計測装置1の作用および効果は次のとおりである。この乳房計測装置1においては、乳房Bを囲む容器3に、光CTのための複数の光ファイバ11に加え、乳房Bに向けて超音波を走査(スキャン)する超音波探触子21が配置されている。これにより、光CT画像と超音波画像とを同一の計測条件下で取得することが可能となるので、光CT画像と超音波画像とを正確に比較することができ、光CT画像の評価を的確に行うことができる。また、乳房計測装置1が、光CT画像と超音波画像とを合成(例えばスーパーインポーズなど)する画像合成部を更に備えることにより、乳がん等の診断のために更に有用な乳房計測装置を提供できる。
【0051】
また、本実施形態のように、インターフェース剤Iを介して超音波を乳房Bに照射することによって、超音波が乳房Bの表面で反射することを抑制できる。これにより、超音波探触子21の乳房Bへの接触を不要とし、被検者の不快感を抑制するとともに、計測時の乳房Bの変形を少なくすることができる。また、乳房Bからの反射波の減衰を抑えることができる。
【0052】
また、本実施形態のように、容器3の内側容器31は、検査光及び超音波を吸収し、且つ外部からの光を遮る材料を含むことが好ましい。これにより、光CT計測および超音波計測の双方を一つの容器3内で好適に実現できる。
【0053】
また、本実施形態のように、超音波探触子21と乳房Bとの距離を可変にする機構(上下動作用回転リング26)が設けられることが好ましい。また、本実施形態のように、乳房Bを通る軸まわりに超音波探触子21を回転させる機構(回転動作用リング27)が設けられることが好ましい。
【0054】
例えば本実施形態のように、容器3の中央底部に超音波探触子21が配置される場合、扇状の超音波を或る軸周りに回動させることにより超音波のスキャンを行うと、容器3の内側において超音波計測の計測領域から外れる領域が生じてしまう。上下動作用回転リング26や回転動作用リング27を設けることによって、このような領域を小さくすることができる。
【0055】
本発明による乳房計測装置は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では、超音波探触子としてコンベックス型の探触子を採用しているが、本発明における探触子としては、これに限らず様々なタイプのものを用いることができる。
【0056】
また、上記実施形態では、内側容器と外側容器との隙間を上下に分割し、上側の隙間を分配室とし、下側の隙間を集排室としているが、これとは逆に、上側の隙間を集排室とし、下側の隙間を分配室としてもよい。このような構成は、例えば容器内で浮き上がる気泡を除去したい場合などに好適である。また、内側容器と外側容器との隙間を上下方向に限らず他の方向に分割してもよく、分配室及び集排室の双方または一方を複数の室に分割してもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、内側容器および外側容器の形態として半球状のものを例示したが、内側容器および外側容器の形状には、これ以外にも例えば円柱や円錐といった他の様々な形状を適用できる。
【符号の説明】
【0058】
1…乳房計測装置、2…計測部、3…容器、4…光源装置、5…計測装置、10…ベッド、11,12…光ファイバ、13a〜13f…配管、16…循環用ポンプ、17…タンク、18…脱気装置、19…加温装置、21…超音波探触子、31…内側容器、32…外側容器、33…隔壁、34…隙間、35…分配室、36…集排室、I…インターフェース剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の乳房の内部画像を取得するための乳房計測装置であって、
前記乳房を囲む容器と、
前記容器の内側へ向けて配置され、前記乳房に検査光を照射し、前記乳房からの透過散乱光を検出するための複数の光ファイバと、
前記透過散乱光の検出信号に基づいて、前記乳房に関する第1の内部画像を生成する第1の内部画像生成部と、
前記容器の内側に向けて配置され、前記乳房に向けて超音波を走査し、前記乳房からの反射波を受信する探触子と、
前記反射波に基づいて、前記乳房に関する第2の内部画像を算出する第2の内部画像生成部と、
前記容器の内側へ液状のインターフェース剤を注入及び排出する機構と、
を備えることを特徴とする乳房計測装置。
【請求項2】
前記容器は、前記超音波を透過し、且つ前記検査光に対する光伝播モデルの境界条件を満たす材料を含むことを特徴とする、請求項1に記載の乳房計測装置。
【請求項3】
前記容器は樹脂を含むことを特徴とする、請求項2に記載の乳房計測装置。
【請求項4】
前記探触子と前記乳房との距離を可変にする機構を更に備えることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の乳房計測装置。
【請求項5】
前記乳房を通る軸まわりに前記探触子を回転させる機構を更に備えることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の乳房計測装置。
【請求項6】
前記インターフェース剤を脱気する脱気装置を更に備えることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の乳房計測装置。
【請求項7】
前記第2の内部画像より抽出された前記乳房の輪郭を前記第1の内部画像の先見情報として使用することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の乳房計測装置。
【請求項8】
前記第2の内部画像に前記第1の内部画像を合成する画像合成部を更に備えることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の乳房計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−85965(P2012−85965A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237726(P2010−237726)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)独立行政法人科学技術振興機構、先端計測分析技術・機器開発事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【出願人】(504300181)国立大学法人浜松医科大学 (96)
【Fターム(参考)】