説明

乳由来のタンパク質

【課題】 本発明は、大量入手可能で、ヒトでの食経験もある乳またはホエーよりカーボニックアンヒドラーゼVIを抽出、精製することを課題とした。
【解決手段】本発明は、乳またはホエーより単離された活性型カーボニックアンヒドラーゼVI、乳またはホエーを酸処理する工程を含む活性型カーボニックアンヒドラーゼVIの製造方法、上記活性型カーボニックアンヒドラーゼVIを含有する口腔用組成物を提供する。本発明の組成物は唾液の緩衝能を向上することから、う蝕の進展を阻止する効果、味覚障害を改善する効果、胃酸の中和効果から胃炎の発生を防ぐことなどが期待できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳またはホエーより単離された活性型カーボニックアンヒドラーゼVI、その製造方法並びにその組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
う蝕は、基本的には歯の石灰化組織を侵す微生物による疾患であり、微生物によって産生された酸により歯の表面の無機成分が部分的に脱灰されることで始まり、その後、有機マトリックス部分の分解により進行する(細菌因子)。従って、現在主流をなすところのう蝕治療・予防法はブラッシングを基本とし、抗菌剤、酵素、抗体等を利用することにより如何に効率的に歯垢を除去するかである。一方、食物は糖質を主原料としており、う蝕発生を決定する基本要因となる(食事因子)。また、宿主に対する固有の要因、例えば、歯質、歯形、唾液の組成と流量等は、う蝕罹患性と程度を決定する(宿主要因)。こうようにう蝕は多因性疾患とみなすことができることから、最近ではフッ素やハイドロキシアパタイトによる歯質の改善や、キシリトール等の非発酵性代替味覚料の利用が広く行われるようになってきた。しかしながら、上記の如く様々な検討が行われているにもかかわらず、う蝕治療、予防、診断法は確立されているものとは言えない。
【0003】
これに対し、唾液の緩衝能を向上させることによりう蝕誘発菌の生産する酸を積極的にしかも持続的に除去する炭酸脱水素酵素を用いたう蝕治療、予防法並びに診断法が提案されている。
【0004】
カーボニックアンヒドラーゼは、水溶液中で溶存CO2とHCO3の平衡反応を促進するはたらきをする酵素であり、特に植物中においてはルビスコへのCO2供給等、重要な役割を果たしていることが知られている。哺乳類では、6種類のアイソザイムが分離精製されている。このうち口腔内の唾液中には唯一の分泌型であるカーボニックアンヒドラーゼVIが存在する。
【0005】
唾液のpHが主に二酸化炭素−重炭酸イオン緩衝系によって制御されていること、う蝕患者又はう蝕経験者ではカーボニックアンヒドラーゼVIが減少している傾向にあること(非特許文献1)、カーボニックアンヒドラーゼVIは歯のエナメルペリクルに付着し活性を示すこと(非特許文献2)から、本酵素が唾液中、特に歯表面でう蝕誘発菌が産生する酸を中和し、歯の脱灰化を防ぐ主成分である可能性が高いと考えられている。
【0006】
唾液中に分泌されるこのカーボニックアンヒドラーゼVIは、細菌によって産生された水素イオンを速やかに重炭酸イオンと反応させ、二酸化炭素と水にしてしまう作用をもつことから、食後、間食時の酸による歯の侵食を防ぎ、う蝕の防止に役立っていると考えられている。更に、最近、唾液中に存在する亜鉛メタロプロテインであるガスチンとこのカーボニックアンヒドラーゼVIが同一であることが示された(非特許文献3)。ガスチンは味覚障害患者で減少していることが知られており、カーボニックアンヒドラーゼVI/ガスチンは味蕾の生長に関与していると考えられている(非特許文献4)。また北欧のグルーブにより唾液中の本酵素量が減少すると胃の消化性潰瘍に発生頻度が高くなると報告されており、何らかの原因によるカーボニックアンヒドラーゼVI又はその活性の減少は、う蝕のみならず、味覚障害や胃炎等の疾病の発症に関与しているものと考えられる(非特許文献5)。
【0007】
前述の様々な有用な作用を持つカーボニックアンヒドラーゼVIは、主に哺乳類の唾液中に含まれることが知られていたが、近年、ウシ乳中にその存在が確認された(非特許文献6)。
【非特許文献1】ケアリーズ リサーチ、33巻、178−184頁(1999年)
【非特許文献2】ケアリーズ リサーチ、33巻、185−190頁(1999年)
【非特許文献3】バイオケミカル アンド バイオフィジカル リサーチ コミュニケーションズ、250巻、635−641頁(1998年)
【非特許文献4】アメリカン ジャーナル オブ メディカル ソサイエティ、318巻、392−404頁(1999年)
【非特許文献5】ダイジェスティブ ディジーズ アンド サイエンス、42巻、1013−1019頁(1997年)
【非特許文献6】コンパラティブ バイオケミストリー アンド フィジオロジー パートA、134巻、349−354頁(2003年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来見いだされた乳カーボニックアンヒドラーゼVIは、微量である上にCO2とHCO3の平衡反応の触媒活性は乳中の夾雑タンパク質の影響により不活性化されていることがわかった。
【0009】
本発明は、商品化を視野にいれ、大量入手可能で、ヒトでの食経験もある乳またはホエーより活性型カーボニックアンヒドラーゼVIを抽出、精製し、その組成物を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意検討の結果、乳またはホエーより単離された活性型カーボニックアンヒドラーゼVIを大量調製する方法を見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明が提供するのは以下のとおりである。
(1)乳またはホエーより単離された活性型カーボニックアンヒドラーゼVI。
(2)乳またはホエーが、ヒト、ウシ、ヒツジ、ヤギ、またはウマ由来の乳またはホエーであることを特徴とする(1)のタンパク質。
(3)乳またはホエーを酸処理する工程を含む活性型カーボニックアンヒドラーゼVIの製造方法。
(4)さらにイオン交換カラム、キレートカラム、または抗体吸着カラムで処理する工程を含む(3)記載の製造方法
(5)(1)の活性型カーボニックアンヒドラーゼVIを含有する口腔用組成物。
(6)口腔用組成物が歯磨剤である、(5)の組成物。
(7)口腔用組成物が洗浄用途に使用される、(5)の組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、乳またはホエーより得られる活性型カーボニックアンヒドラーゼVI、その製造方法、並びにその組成物が提供される。こうして得られた組成物は唾液の緩衝能を向上することから、う蝕の進展を阻止する効果、味覚障害を改善する効果、胃酸の中和効果から胃炎の発生を防ぐことなどが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明の活性型カーボニックアンヒドラーゼVIは、乳またはホエーより単離されたものである。本発明でいう乳とは、特にヒトの食経験のあるものであれば制限はないが、例えば、ヒト、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマなどの乳が挙げられる。またホエーとはこれらの乳からチーズ、ヨーグルト、バターなどを作る工程で得られる液状の物質のことを言い、主に乳中のカゼインを除いたほとんどのタンパク質がこれに含まれる。
【0014】
本発明における活性型カーボニックアンヒドラーゼVIとは、分泌型のカーボニックアンヒドラーゼであり、ヒトにおいては主に唾液中でCO2+H2O⇔HCO3-+H+の可逆反応に関与するタンパク質のことである。活性型であるとは、単離された状態で、上記平衡反応作用を有しているということであり、具体的には後述の実施例のようにpH調整活性を示すことで確認できる。 本発明はまた、乳またはホエーを酸処理する工程を含む活性型カーボニックアンヒドラーゼVIの製造方法を提供する。
【0015】
本発明でいう酸処理とは、特に制限はないが、乳またはホエーを、pH5.0以下、好ましくはpH3.0以下となるように処理することをいう。この際添加する物質は、酸性の物質であれば特に制限はないが、塩酸、酢酸、酪酸などの酸、もしくはグリシン緩衝液、酢酸緩衝液などの酸性で働くことのできる緩衝液がこれに含まれる。この酸処理を行うことにより、乳またはホエー中の抗体にトラップされている不活性型のカーボニックアンヒドラーゼVIを活性型の形で抽出することができる。
【0016】
本発明の製造方法においては、上記酸処理後の乳またはホエーから活性型カーボニックアンヒドラーゼVIを単離・精製するために、好ましくはカラムを用いることができる。絡む処理に用いられる担体は、カーボニックアンヒドラーゼVIを吸着できるものであれば特に制限はない。吸着できるものとしては、例えば、イオン交換担体、アフィニティー担体などが挙げられる。イオン交換担体としては、DEAE(ジエチルアミノエチル)、QA(クオータナリーアンモニウム)、QAE(クオータナリーアミノエチル)などの陰イオン交換、CM(カルボキシメチル)、SP(スルホプロピル)などの陽イオン交換が挙げられ、アフィニティー担体としては亜鉛、銅、鉄などの金属キレート、特定の抗体や酵素阻害剤を固定したもの、糖タンパク質の特定の糖を認識するレクチンを固定したものが挙げられる。また、ゲルろ過クロマトグラフィーや逆相クロマトグラフィーを利用することも可能である。さらに、酸処理により分離した抗体を除去する目的などで、プロテインA、プロテインGなどの抗体に特異的に結合するタンパク質を付加した担体を用いることもできる。この抗体に特異的に結合するタンパク質は、抗体に結合できるものであれば特に限定は無い。また、カーボニックアンヒドラーゼVIの場合、乳やホエー中に抗体などのタンパク質にトラップされていない極微量に単独で存在するものを前述のカラム精製により精製することも可能である。
【0017】
単離された本発明の活性型カーボニックアンヒドラーゼVIは、一般に期待される生理作用、例えばpH調整作用、味覚改善作用、消化管などの上皮粘膜の保護作用などを目的として、飼料、食品、飲料等へ利用できる。一般に口腔内のpHが5.5以下になると歯のエナメル質が脱灰して、う蝕が進行する危険性があり、pH調整作用とはこのpH低下を軽減、または改善し、pHを中性付近に保とうとする作用のことをいう。味覚改善作用とは、様々な味物質に対する感覚が鋭敏になったり、改善することをいう。その味物質とは、例えば、甘味を感じさせる物質としてブドウ糖、ショ糖、果糖などが挙げられ、その他、苦味、旨味、辛味、渋み、酸味等を与える物質が挙げられる。これらの作用は味覚障害をもつ人、または障害をもたない人にも適用される。味覚障害の場合、他の疾患で服用している薬剤によるもの、亜鉛欠乏性によるもの、または原因不明のものなどが挙げられる。さらには、匂いに関する改善作用として臭覚改善も期待できる。このように本酵素は、口内における正常なpH調整能、味覚能を知る上で重要なファクターとなっており、このタンパク質を定量することで口内環境の評価する検査薬としても使用できる。この場合の測定方法としては、pH調整能を測定する方法、抗カーボニックアンヒドラーゼVI抗体を用いたELISA法などが挙げられる。
【0018】
また、これらの作用を目的とした場合、他の同じ作用を示す物質と併用することも可能である。特に限定はないが、pH調整作用についてはリン酸化オリゴ糖カルシウム、味覚改善については亜鉛や味覚改善作用のあるその他の薬剤、胃炎などの上皮粘膜保護には、胃腸炎に効果のあるその他の薬剤などが挙げられる。更には、pH調整作用の本来の目的であるう蝕、むし歯予防に効果のあるものとの併用も可能である。特に限定はないが、キシリトール、フッ素、抗菌・除菌用薬剤などが挙げられる。これらの作用の対象は、ヒトのみならず、犬や猫といったペットにも適用される。
【0019】
さらに、本発明の活性型カーボニックアンヒドラーゼVIは、それを含有する口腔用組成物として利用される。本発明の口腔内用組成物とは、口中で咀嚼したり、含嗽したり、もしくはエアゾールやミストの形態で噴霧したりするものをいい、具体的には、歯磨剤、洗浄用組成物の他、含嗽液(洗口剤)、飲料、チューインガム、口中清涼菓子、スプレー等がこれに含まれる。
【0020】
本発明の口腔用組成物中の、活性型カーボニックアンヒドラーゼVIの含有量は、その酵素活性を発現する範囲であれば特に限定されない。
【0021】
本発明の口腔用組成物が歯磨剤である場合、本発明の活性型カーボニックアンヒドラーゼVIの他、歯磨剤として通常使用される成分、具体的には、研磨剤、湿潤剤、水を含有するが、その剤型に応じ、上記必須成分に加えて任意成分としてその他の添加剤を配合できる。
【0022】
練歯磨の場合は、例えば研磨剤、湿潤剤、粘結剤、上記以外の界面活性剤、甘味剤、防腐剤、カーボニックアンヒドラーゼVI以外の各種有効成分、着色剤等を配合でき、これら成分と水とを混合して製造することができる。
【0023】
研磨剤としては、シリカゲル、沈降シリカ、アルミノシリケート、ジルコノシリケート等のシリカ系研磨剤、第2リン酸カルシウム2水和物及び無水和物、ピロリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、炭酸マグネシウム、第3リン酸マグネシウム、ゼオライト、ケイ酸ジルコニウム、第3リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト、第4リン酸カルシウム、合成樹脂系研磨剤等が挙げられるが、特にシリカゲル、沈降シリカ、アルミノシリケート、ジルコノシリケート等のシリカ系研磨剤が好ましい。
これらの研磨剤の配合量は、歯磨剤全体の2〜40質量%、特に10〜30質量%とすることが好ましい。
【0024】
湿潤剤としては、ソルビット、グリセリン、プロピレングリコール、キシリット、マルチット、ラクチット等が挙げられるが、特にソルビット、キシリットが好ましい。
これらの配合量は、歯磨剤全体の5〜50質量%、特に20〜45質量%とすることが好ましい。
【0025】
粘結剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、カラギーナン、グアガム、アルギン酸ナトリウム、カチオン化セルロース、モンモリロナイト、ゼラチン、ポリアクリル酸ナトリウム等が挙げられる。
これらの配合量は、本発明の効果を妨げない範囲で通常量配合することができる。
【0026】
界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、上記成分(c)以外の非イオン性界面活性剤等を配合し得、具体的にはラウリル硫酸ナトリウム、α−オレフィンスルホン酸ナトリウム、N−アシルサルコシネート、N−アシルグルタメート、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリウムベタイン、N−アシルタウレート、ショ糖脂肪酸エステル、アルキロールアマイド、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、プルロニック等が挙げられ、特に歯磨剤の発泡性の点からラウリル硫酸ナトリウムが好ましい。これら界面活性剤の配合量は、歯磨剤全体の0.4〜3質量%、特に0.6〜2質量%の範囲であることが好ましい。
【0027】
甘味剤としては、サッカリンナトリウム、アスパラテーム、ステビオサイド、ステビアエキス、パラメトキシシンナミックアルデヒド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、ぺリラルチン等、防腐剤としては、ブチルパラベン、エチルパラベン等のパラベン類、パラオキシ安息香酸エステル、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。
【0028】
香料としては、ペパーミント油、スペアミント油、アニス油、ユーカリ油、ウィンターグリーン油、カシア油、クローブ油、タイム油、セージ油、レモン油、オレンジ油、ハッカ油、カルダモン油、コリアンダー油、マンダリン油、ライム油、ラベンダー油、ローズマリー油、ローレル油、カモミル油、キャラウェイ油、マジョラム油、ベイ油、レモングラス油、オリガナム油、パインニードル油、ネロリ油、ローズ油、ジャスミン油、イリスコンクリート、アブソリュートペパーミント、アブソリュートローズ、オレンジフラワー等の天然香料、及び、これら天然香料の加工処理(前留部カット、後留部カット、分留、液液抽出、エッセンス化、粉末香料化等)した香料、及び、メントール、カルボン、アネトール、シネオール、サリチル酸メチル、シンナミックアルデヒド、オイゲノール、3−l−メントキシプロパン−1,2−ジオール、チモール、リナロール、リナリールアセテート、リモネン、メントン、メンチルアセテート、N−置換−パラメンタン−3−カルボキサミド、ピネン、オクチルアルデヒド、シトラール、プレゴン、カルビールアセテート、アニスアルデヒド、エチルアセテート、エチルブチレート、アリルシクロヘキサンプロピオネート、メチルアンスラニレート、エチルメチルフェニルグリシデート、バニリン、ウンデカラクトン、ヘキサナール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブタノール、イソアミルアルコール、ヘキセノール、ジメチルサルファイド、シクロテン、フルフラール、トリメチルピラジン、エチルラクテート、メチルラクテート、エチルチオアセテート等の単品香料、更に、ストロベリーフレーバー、アップルフレーバー、バナナフレーバー、パイナップルフレーバー、グレープフレーバー、マンゴーフレーバー、バターフレーバー、ミルクフレーバー、フルーツミックスフレーバー、トロピカルフルーツフレーバー等の調合香料等、歯磨剤組成物に用いられる公知の香料素材を使用することができ、実施例の香料に限定されない。
【0029】
また、配合量も特に限定されないが、上記の香料素材は、製剤組成中に0.000001〜1質量%使用するのが好ましい。また、上記香料素材を使用した賦香用香料としては、製剤組成中に0.1〜2.0質量%使用するのが好ましい。
【0030】
カーボニックアンヒドラーゼVI以外の各種有効成分としては、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化第一錫、フッ化ストロンチウム、モノフルオロリン酸ナトリウム等のフッ化物、正リン酸のカリウム塩、ナトリウム塩等の水溶性リン酸化合物、アラントインクロルヒドロキシアルミニウム、ヒノキチオール、アスコルビン酸、塩化リゾチーム、グリチルリチン酸及びその塩類、塩化ナトリウム、トラネキサム酸、イプシロンアミノカプロン酸、酢酸dl−トコフェノール、α−ビサボロール、イソプロピルメチルフェノール、クロロヘキシジン塩類、塩化セチルピリジニウム、アズレン、グリチルレチン酸、銅クロロフィリンナトリウム、グルコン酸銅等の銅化合物、乳酸アルミニウム、塩化ストロンチウム、硝酸カリウム、ベルベリン、ヒドロキサム酸及びその誘導体、トリポリリン酸ナトリウム、ゼオライト、アミラーゼ、メトキシエチレン、無水マレイン酸共重合体、ポリビニルピロリドン、エピジヒドロコレステリン、塩化ベンゼトニウム、ジヒドロコレステロール、トリクロロカルバニリド、クエン酸亜鉛、トウキ軟エキス、オウバクエキス、チョウジ、ローズマリー、オウゴン、ベニバナ等の抽出物が挙げられる。なお、上記有効成分は、本発明の効果を妨げない範囲で有効量配合することができる。
【0031】
着色剤としては、青色1号、黄色4号、二酸化チタン等を通常量で配合することができる。
【0032】
また、本発明の口腔用組成物は洗浄用途の組成物としても利用できる。洗浄用途としては、口腔内に関係するものであれば、特に限定は無いが、義歯用洗浄剤や口臭成分洗浄組成物が含まれる。
【0033】
本発明の口腔用組成物には、その用途に応じ、既に上記記載した成分以外に、分散媒に溶解する通常の口腔用組成物に使用可能な任意成分を添加することができる。任意成分としては、下記に示す界面活性剤、糖分、唾液分泌促進剤等が挙げられ、これらを1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。唾液分泌促進剤は、カーボニックアンヒドラーゼVIがその中に含まれていることからもさらなる作用の増進が期待される。
【0034】
界面活性剤としては、具体的には、アルキル鎖長がC12〜C18からなるα−スルホ脂肪酸アルキルエステル又はその水溶性塩、アルキル硫酸エステル塩、N?アシルアミノ酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルリン酸塩等のアニオン性界面活性剤、アルキル鎖長がC12〜C18からなるアルキルアンモニウム塩、アルキルベンジルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩等のカチオン性界面活性剤、アルキルアミノオキサイド等の半極性界面活性剤等が挙げられる。
【0035】
糖分は基本的に何を用いてもよいが、糖アルコールでう蝕性のないもしくは低いものを用いることが好ましい。具体的には、キシリトール、エリスリトール、マンニトール、マルチトール糖が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0036】
糖分量は、70質量%以下が好ましく、より好ましくは3〜60質量%、さらに好ましくは4〜50質量%である。
【0037】
唾液分泌促進剤は、口腔衛生及び口腔湿潤を目的として添加するものであり、具体的には味覚刺激成分、口内粘膜刺激成分、唾液腺活性化成分等が挙げられる。
【0038】
味覚刺激成分としては、架橋剤としても利用できる有機酸類の他、旨味物質等が挙げられる。有機酸類としては、クエン酸、イソクエン酸、リンゴ酸、酢酸、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタール酸、マレイン酸、フマル酸、アコニット酸、乳酸、酒石酸、ピルビン酸、アスコルビン酸、アルドン酸、ウロン酸等の有機酸、これらを含有する梅酢、リンゴ酢、レモン、オレンジ、ユズ、夏ミカン等の柑橘類のチップ、粉末、エキス等が挙げられる。旨味物質としては、アミノ酸(塩)、核酸、ジペプチド、トリペプチド、オリゴペプチド等が挙げられ、具体的には、グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸、グアニル酸等が挙げられる。
【0039】
口内粘膜刺激成分としては、イソチオシアネート類、アミド系辛味成分、バニリルケトン類等が挙げられ、具体的には、アリルイソチオシアネート、カプサイシン、ピペリン、サンショオール、ジンゲロール等が挙げられる。
【0040】
唾液腺活性化成分としては、副交換神経興奮剤、コリンエステラーゼ阻害剤、カルシウムイオン遊離放出剤等が挙げられる。具体的には、ポリグルタミン酸(PGA)、ピロカルビン、ムスカリン、アセチルコリン、リアノジン、カフェイン等、コラ・アクミナタ、コラ・ニティダ、ヤボランジ、シラカバ、スイカズラ、セイヨウニンジン、ドクダミ、ニンニク、ハイビスカス、ホップ、マタタビ、リンデン、ローズヒップ、ボウイ、メリッサ、コレウス・フォルスコリ、ペパーミント、チンピ、オレンジ、カンゾウ、バジル等の植物及びこれらの抽出物、ガジュツ水分画抽出物、アオギリ科コーラノキ種子粉末抽出物、羅漢果チップ等が挙げられる。
【0041】
本発明の口腔用組成物には、上記唾液分泌促進剤以外にも、香気による臭覚刺激を介した唾液促進機能を持つ香料を配合してもよい。具体的にはウメ調、グレープフルーツ調、ベリー調、レモン調等の酸味を連想させるようなものが挙げられる。
【0042】
その他、ピロリン酸塩、トリポリリン酸塩、ヘキサメタリン酸塩等の可溶性縮合リン酸塩、炭酸水素ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、リン酸水素カリウム等の炭酸水素化合物、硫酸水素化合物及び水溶性リン酸水素化合物が挙げられる。また、グリセリン、ソルビット、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の多価アルコール等の保湿剤、フッ化ナトリウム、クロルヘキシジン塩類、第4級アンモニウム塩型カチオン殺菌剤、トリクロサン等のノニオン殺菌剤、トラネキサム酸、ε−アミノカプロン酸、アラントイネート、グリチルリチン酸ジカリウム等の抗炎症剤、デキストラナーゼ等の酵素、スペアミント、ウインターグリーン、チョウジ、ローズマリー、タイム、オウゴン等の植物抽出物、カテキン、イソフラボン、タンニン、アントシアニン、ケルセチン、ルチン等のポリフェノール類等の有効成分、安息香酸、安息香酸塩、パラベン類、ポリリジン等の防腐剤を例示することができる。なお、これら成分の配合量は、本発明の目的を妨げない範囲で通常量とすることができる。
【0043】
本発明の口腔用組成物として、チューインガム形態の場合、チューインガムは、味ガム及び風船ガムのいずれのチューインガムであってもよい。本発明のチューインガムにおけるガムベースの配合とガム配合は、従来の配合方法に準ずればよい。ガムベースの配合原料としては、天然樹脂、酢酸ビニル樹脂、エステルガム、合成ガム、天然ワックス、乳化剤、及び炭酸カルシウム等が挙げられ、これらを上記チューインガムの種類に応じて選択し配合する。
【0044】
ガムベースの配合例は、例えば次の通りである。味ガムベースでは、天然樹脂10〜30質量%、酢酸ビニル樹脂10〜30質量%、合成ゴム10〜30質量%、エステルガム5〜20質量%、ワックス類10〜40質量%、乳化剤1〜10質量%及び充填剤5〜20質量%等の割合で配合される。風船ガムベースでは、酢酸ビニル樹脂10〜40質量%、合成ゴム10〜30質量%、エステルガム5〜20質量%、ワックス類10〜40質量%、乳化剤5〜20質量%、充填剤5〜20質量%等の割合で配合される。
【0045】
本発明のチューインガムは、上記のようなガムベースに、本発明のカーボニックアンヒドラーゼVI、砂糖、ブドウ糖、水飴等の糖類、栄養素及び香料などを加え、常法により混合される。
【0046】
香料としては、天然香料、合成香料などの油脂香料が適当であるが、特に限定されない。例えば、ミント系香料(ペパーミント、スペアミント、メントール等)、フルーツ系香料(シトラス、ミックスフルーツ、ストロベリー、グレープ等)、スパイス系香料(シナモン、クローブ、アネトール、リコリス他)等が挙げられる。
【0047】
本発明の口腔用組成物として、口中清涼菓子形態の場合、口中清涼菓子は、キャンディーや錠菓などその剤型に応じて、一般的な製法に準じて製造することができる。すなわち、本発明のキャンディーは、本発明のカーボニックアンヒドラーゼVIを含有するキャンディー生地を成型したものであり、キャンディー生地とは糖分に所望により乳製品、油脂、果実、種実、デンプン、小麦粉、酸味料、着香料を配合したものを原料として、飴状に煮詰めたものである。
【0048】
本発明のキャンディーには、ハードキャンディー、ソフトキャンディーがあり、さらにハードキャンディーには、生地アメ、ドロップ、引きアメ等があり、ソフトキャンディーには、キャラメル、ヌガー等がある。
【0049】
一方、本発明のカーボニックアンヒドラーゼVIを含有する錠菓は、ブドウ糖、果糖、乳糖、などの糖類や還元麦芽糖水飴(マルチトール)、キシリトール、ソルビトール、ラクチトール、パラチニット、マンニトールなどの糖アルコール類をアラビアガムなどの乳化剤と共にデキストリンやデンプンなどの賦形剤で粉末あるいは顆粒にしたものと滑沢剤としてショ糖脂肪酸エステル、及び前記カーボニックアンヒドラーゼVIを加えて打錠機にて錠剤とすることで製造できる。
【0050】
本発明の口腔用組成物を飼料として用いる場合は、飼料とは、ウマ、ウシ、豚、ヤギ、ヒツジ、さらにはニワトリ等の鳥類などの家畜を対象とした餌がそれにあたり、本発明の口腔用組成物を食品、飲料として用いる場合は、食品、飲料は、ヒトのみならず、犬や猫といったペットもその対象に含む。
【実施例】
【0051】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。この実施例は、本発明を限定するものではない。
【0052】
(実施例1)ホエーからのカーボニックアンヒドラーゼVI調製。
【0053】
(1)ホエーの前処理
3kgの牛乳より調製されたホエー(日高乳業社製)を10,000×g、15分間遠心し、その上清(約2.5L)を回収した。その上清をポリエチレングリコール20,000(和光純薬社製)を用いて約600mlまで濃縮し、硫酸アンモニウムを60%飽和になるように溶解させて、タンパク質を沈殿させた。この沈殿したタンパク質を10,000×g、15分間遠心することにより回収し、300mlの緩衝液A(20mMトリス緩衝液pH7.5、1mM塩化亜鉛)に溶解した。その後、緩衝液Aで透析を行ないサンプルを回収した。
【0054】
(2)胃酸条件での処理と精製
(1)のうち75ml分を酸溶液(100ml当たり、1N塩酸1.2ml、塩化ナトリウム0.1g添加)で透析を行った(4℃、6時間)。その後、緩衝液Aで一晩透析を行い、プロテインAカラム(プロテインAセファロースCL−4B、アマシャムバイオサイエンス社製。容積2ml)にアプライした。非吸着画分を限外ろ過(マイクロコンYM−10、アミコン社製)を用いて約600μlまで濃縮し、これをサンプルAとした。
【0055】
(3)グリシン塩酸緩衝液処理と精製
(1)のうち74mlをグリシン緩衝液(50mMグリシン塩酸(pH2.5)、0.5M塩化ナトリウム)で透析を行った(4℃、6時間)。その後、緩衝液Aで一晩透析を行い、プロテインAカラム(プロテインAセファロースCL4B、アマシャムバイオサイエンス社製、容積2ml)にアプライした。非吸着画分を限外ろ過(マイクロコンYM−10、アミコン社製)を用いて約600μlまで濃縮し、これをサンプルBとした。
【0056】
(5)pH調整活性の測定
氷上において二酸化炭素ガスを通気させたフェノールレッド溶液(12.5mgフェノールレッドを1Lの炭酸水素ナトリウムに溶解。赤色)500μlに、20μlの緩衝液(1Mの炭酸ナトリウムを20.6mlの1Mの炭酸水素ナトリウムに加え、100μlにしてもの)及び20μlのサンプル溶液を加えて、氷上で反応を開始した(緩衝液を加えた時点で反応液は赤色になる)。その後、黄色に変色するまでの時間を測定し、pH調整活性を判定した。赤→黄色への変色が早ければ早いほどpH調整活性が高いことが考えられる(なお緩衝液のみをコントロールとした)。
【0057】
その結果を表1に示す
【0058】
【表1】

これにより、(2)、(3)で酸処理したカーボニックアンヒドラーゼVIはpH調整活性を示すことが明らかとなった。
【0059】
(実施例2)生乳からのカーボニックアンヒドラーゼVI精製。
【0060】
(1)生乳の前処理
10L生乳を遠心分離処理(10,000 ×g、15分間)し、脂肪分を除去した乳上清を回収し、ポリエチレングリコール20,000(和光純薬社製)によって、約2.9Lまで濃縮した。次に、乳上清に硫酸アンモニウムを34%飽和になるように添加し、遠心分離処理(12,000×g、20分間)により上清部分を回収した。この上清(約1.5L)にさらに硫酸アンモニウムを60%になるように添加し、カーボニックアンヒドラーゼVIを含有する沈殿として回収した。回収した沈殿画分は少量の20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)により懸濁し、さらに20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)によって透析を行ない、約120mlの溶液を得た。
【0061】
(2)プロテインAカラムによる精製
(1)の溶液のpHを5N塩酸によりpH2.53に調整し、遠心処理(9,000×g、10分間)により上清を回収した。その後、0.5M塩化ナトリウムを含む50mMグリシン-水酸化ナトリウム緩衝液(pH2.5)で十分に透析し、再度、遠心分離処理(14,000×g、10分間)後、1 M トリス塩酸緩衝液(pH7.5)によりホエー溶液を中和した。
【0062】
プロテインAカラム(プロテインAセファロースCL4B、アマシャムバイオサイエンス社製、容積7ml)を20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)で平衡化後、前記ホエー溶液20mlをアプライした。その後、20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)でカラムを洗浄し、その洗浄液、約40mlを回収した。その後、40mlを緩衝液A(実施例1(1)参照)で透析し、ポリエチレングリコールによる濃縮と限外ろ過膜(マイクロコンYM-10、アミコン社製)により約900μlまで濃縮した。これをサンプルDとした。
【0063】
(4)タンパク質の定量
溶液中のタンパク質量は、マイクロBCAプロテインアッセイキット(ピアース社製)を利用し、操作方法はそのプロトコルに従った。検量線にはキット添付の牛血清アルブミン(BSA)を使用し、溶液中のタンパク質濃度はBSA換算値として算出した。
【0064】
(5)pH調整活性の測定
実施例1(5)と同様の方法でpH調整活性を測定した。その結果を表2に示す。なお、この際のサンプルのタンパク質濃度は5mg/mlである。
【0065】
【表2】

これにより、(2)で酸処理後カラム処理したカーボニックアンヒドラーゼVIはpH調整活性を示すことが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳またはホエーより単離された活性型カーボニックアンヒドラーゼVI。
【請求項2】
乳またはホエーが、ヒト、ウシ、ヒツジ、ヤギ、またはウマ由来の乳またはホエーであることを特徴とする請求項1記載のタンパク質。
【請求項3】
乳またはホエーを酸処理する工程を含む活性型カーボニックアンヒドラーゼVIの製造方法。
【請求項4】
さらにイオン交換カラム、キレートカラム、または抗体吸着カラムで処理する工程を含む請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1記載の活性型カーボニックアンヒドラーゼVIを含有する口腔用組成物。
【請求項6】
口腔用組成物が歯磨剤である、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
口腔用組成物が洗浄用途に使用される、請求項5記載の組成物。

【公開番号】特開2007−167022(P2007−167022A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−371628(P2005−371628)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】