説明

乳癌サブタイプの検出方法

【課題】 乳癌患者に対して有効な治療を行うための乳癌サブタイプを検出する方法を提供すること、および該乳癌サブタイプに有効な医薬を提供することをその主な課題とする。
【解決手段】 被験者由来の癌細胞において、染色体1p13.2領域、染色体の1p32.1領域、染色体2p25.3領域、染色体10p11.22領域、および染色体16p13.3領域におけるDNAコピー数の閾値が、0.25以上の増加、あるいは染色体12q15領域、および染色体16p11.2領域におけるDNAコピー数の閾値が、0.25以下の減少を指標として選択される1以上の領域におけるDNAコピー数の異常を検出することにより、ER、PgRの状態を推定し、乳癌サブタイプの検出方法を提供する。さらに、予後不良の乳癌サブタイプに有効な医薬品として、INFγを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳癌のサブタイプの検出方法に関し、詳しくは、特定の染色体領域におけるDNAコピー数の増減によるホルモンレセプターの発現状態を指標として、乳癌のサブタイプおよび薬剤治療適応性を検出する方法、該方法の指標となる染色体領域の検出方法、および該サブタイプに有効な医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
乳癌は、先進国女性の死亡者数において大きな割合を示している。一般的に、癌は遺伝子を含むゲノムの異常の蓄積によって生じると考えられている。癌の発生や進展との関係についての概要は一部の癌では明らかとなっているものの、乳癌の生物学的特性とゲノムの異常との関係についての情報は依然として極めて乏しいのが現状である。
【0003】
乳癌は、特に早期に検出されなければ死亡率が顕著に高まる癌種である。死亡率を減少させるために、早期発見と適切な処置が必須である。それには困難を伴うが、個々の患者に最適な治療法を決定することが重要である。現在、乳癌の検診では、エストロゲンレセプター(ER)やプロゲストロンレセプター(PgR)の状態を従来の組織学的診断で検査し、一般的にエストロゲンレセプターが発現している状態(ER+)の腫瘍は、タモキシフェンなどのエストロゲン拮抗物質や、レトロゾールなどのアロマターゼ阻害物質で治療を行っている。生物学的特性は、ホルモンレセプターの発現状態と一致しない腫瘍もあるが(例えば、非特許文献1、2参照。)、乳癌の生物学的特性には、ホルモンレセプターの発現状態が影響している(例えば、非特許文献3、4参照。)。
【0004】
ERの発現状態が明らかになっている腫瘍について、2つの異なる方法により初期の発癌状況を決定した報告では、エストロゲンレセプターとプロゲストロンレセプターが発現している状態(ER+/PgR+)の腫瘍と比較して、エストロゲンレセプターとプロゲストロンレセプターが発現していない状態(ER−/PgR−)の腫瘍が、一般的に高い再発と、予後不良が認められることを確認している(例えば、非特許文献5参照。)。癌の生物学的特性は、主に癌細胞のゲノムの変異によるが、ホルモンレセプター発現状態に関連したゲノム異常の同定は、生物学的特性とホルモンレセプター状態との関係の一致が重要である。このため、ゲノム異常の網羅的分析が、乳癌のサブタイプ確認に必要とされている。
【0005】
ER−は予後のマーカーではないとされている(例えば、非特許文献5、6参照。)。特許文献1では、乳癌患者の染色体数を測定することにより、染色体不安定性(Chromosome instability :CIN)を検出し、悪性度の高い乳癌ではCINが高いと報告しているが、ERとの関連性は明確には出ていない。しかしながら、ER+は一般的に予後のマーカーと考えられる。ERの発現状態は、アジュバント タモキシフェン処理のようなホルモン療法の予測のためにも有用であり、さらに、ERと同様にPgRも、ホルモン療法への機能的なマーカーである。しかしながら、ER−/PgR−腫瘍は、ER+/PgR+腫瘍に比較して有効な治療法に乏しいのが現状である(例えば、非特許文献7参照。)。
【0006】
近年、特に乳癌の予後ならびに治療効果を予測する重要な因子として注目を集めているのが、HER2(Human Epidermal Growth Factor Receptor 2)である。HER2は、チロシンキナーゼ受容体であり、正常細胞において細胞の増殖、分化などの調節に関与しているが、何らかの理由でこのタンパクをコードするHER2遺伝子の増幅や遺伝子変異が起こると、細胞の増殖・分化の制御ができなくなり、細胞は悪性化する。乳癌においては、HER2遺伝子が高い頻度で過剰発現していることが認められ、HER2遺伝子の過剰発現は、乳癌の予後ならびに治療効果を予測する重要な指標として認識されている。
【0007】
ゲノム異常の網羅的解析に関する技術として、アレイ化した比較ゲノムハイブリダイゼーション(Array−based Comparative Genomic Hybridization:aCGH)が有力である。全ての癌細胞のゲノムについて、aCGHを用い、DNAコピー数の異常について高度な解析をした報告もあり(例えば、非特許文献8,9参照。)、特別な表現型の特徴と結びつけて、ゲノム異常の同定を容易にするという報告がある(例えば、非特許文献9,10参照。)。本発明者らは、先に、aCGHを用いて染色体異常を検出することにより、悪性上皮腫瘍(ACC)における悪性度を検出して、薬剤適応性を判定する方法、該判定の指標となる染色体領域および遺伝子の検出方法を報告した(特許文献2参照。)。乳癌の悪性度と染色体異常については、すでに報告があり、増幅したRNAから調整したcDNAのマイクロアレイを用い、ER陰性、PgR陰性の乳癌患者から遺伝子異常を見出し、異常遺伝子を乳癌のタイプを決定する方法(例えば、特許文献3参照。)、ER、PgR状態を明らかにした胸癌患者の20q13.2領域内における染色体異常を検出する方法(例えば、特許文献4参照。)が報告されている。しかし、これらの報告では、染色体異常と、ER状態、PgR状態、およびゲノム異常との関係による判定については明らかにされていない。
【0008】
乳腺細胞中のインターフェロンγ(INFγ)は、乳癌細胞を含む細胞株の生育を阻害する(例えば、非特許文献11参照。)。そのため内在性のINFγの欠如は、乳癌細胞の成長を促すことになると報告されている(例えば、非特許文献12参照。)。しかしながら、ホルモンレセプター状態とINFγの関係は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−88846号公報(表1)
【特許文献2】特開2006−115844号公報(表1、表2)
【特許文献3】特開2005−270093号公報(図1)
【特許文献4】特開2008−283970号公報(表4)
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Fichtner I,et al,Eur J Cancer.40:845−851,2004
【非特許文献2】Jordan VC,et al,Oncology 20:553−562,2006
【非特許文献3】Reis−Filho JS,et al,J Pathol.216:394−398,2008
【非特許文献4】Polyak K,et al,J Clin Invest.117:3155−3163,2007
【非特許文献5】Putti TC,et al,Mod Pathol.18:26−35,2005
【非特許文献6】Tsuda H,et al,Breast Cancer 15:121−132,2008
【非特許文献7】Winer EP,et al,J Clin Oncol.8:1609−a−1610,2005
【非特許文献8】Albertson DG,et al,Hum Mol Genet.12(2):R145−152,2003
【非特許文献9】Pollack J.R,et al,Nat Genet.216:394−398,2008
【非特許文献10】Shinawi M,et al,Drug Discov Today.13:760−770,2008
【非特許文献11】Garcia−tunon I,et al,BMC Cancer.7:158,2007
【非特許文献12】Doherty GM,et al,Ann Surg.233:623−629,2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、乳癌患者に対して有効な治療を行うための乳癌サブタイプを検出する方法を提供すること、および該乳癌サブタイプに有効な医薬を提供することをその主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、乳癌患者の細胞組織を材料として、アレイCGH(aCGH)法により、特定染色体領域のDNAコピー数の増減を検出し、免疫組織化学的手法で確認したER及びPgRの発現状態や、HER2遺伝子の発現状態との関連から、予後不良タイプの乳癌で特徴的に異常を示す染色体領域を見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(6)を提供する。
【0014】
(1)被験者由来の癌細胞において、染色体1p13.2領域、染色体1p32.1領域、染色体2p25.3領域、染色体10p11.22領域、染色体12q15領域、染色体16p11.2領域、および染色体16p13.3領域の中から選択される1以上の領域におけるDNAコピー数の異常を検出することを特徴とする、乳癌サブタイプの検出方法。
【0015】
(2)被験者由来の癌細胞において、染色体1p13.2領域、染色体の1p32.1領域、染色体2p25.3領域、染色体10p11.22領域、および染色体16p13.3領域におけるDNAコピー数の閾値が、0.25以上の増加、あるいは染色体12q15領域、および染色体16p11.2領域におけるDNAコピー数の閾値が、0.25以下の減少を指標として選択される1以上の領域におけるDNAコピー数の異常を検出することを特徴とする、上記(1)に記載の検出方法。
【0016】
(3)被験者由来の癌細胞において、下記いずれかの状態を推定することを特徴とする、上記(2)に記載の検出方法。
a)染色体の16p13.3領域のDNAコピー数増加が、ER+/PgR+;
b)染色体1p13.2領域、染色体1p32.1領域、染色体2p25.3領域、および染色体10p11.22領域の何れかの領域におけるDNAコピー数増加、および/または染色体16p11.2領域のコピー数減少が、ER−/PgR−;および、
c)染色体12q15領域におけるDNAコピー数の減少が、ER−/PgR−、かつHER2遺伝子発現増幅の陰性。
【0017】
(4)被験者由来の癌細胞において、染色体12q15領域におけるDNAコピー数の減少が、インターフェロンγ遺伝子のDNAコピー数の減少を推定することを特徴とする、上記(2)に記載の検出方法。
【0018】
(5)被験者由来の癌細胞が、ER−/PgR−であり、かつHER2遺伝子発現増幅が陰性である乳癌サブタイプのための治療薬であって、インターフェロンγを含有する医薬品。
【0019】
(6)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法を実施するためのキットであって、乳癌サブタイプの検出用キット。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、特定の染色体領域のDNAコピー数の増加や減少から、ホルモンレセプターの発現状態や特定の遺伝子の発現状態を推定できるため、乳癌のサブクラスを把握でき、該乳癌サブクラスに有効な治療が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】個々の染色体領域におけるDNAコピー数変化の頻度を示した図である。
【図2】乳癌患者におけるホルモンレセプターの状態と、個々の染色体領域のDNAコピー数変化を示した図である(A:28例のPgR+腫瘍、B:18例のPgR−腫瘍)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
癌患者において、予後良好とは、最初の診断から5年以内に転移が起こらない癌の状態であり、予後不良とは、5年以内に転移が起こる、もしくは、すでに転移している末期癌の状態を示す。通常の乳癌における抗癌剤の有効性は、ホルモンレセプターの有無に左右され、ホルモンレセプターが存在する場合は、抗癌剤の有用性が高い場合が多く、一般的には予後良好となる。さらに、HER2遺伝子の発現状態の有無を確認することにより、抗HER2薬剤の乳癌治療への効果を推定することができる。
【0023】
乳癌における抗癌剤の有効性を左右するホルモンレセプターとは、エストロゲンレセプター(ER)およびプロゲストロンレセプター(PgR)をあげることができる。乳癌患者の癌細胞は、免疫組織化学的に評価することによって、エストロゲンレセプターが発現している状態(ER+)、エストロゲンレセプターが発現していない状態(ER−)、プロゲストロンレセプターが発現している状態(PgR+)、プロゲストロンレセプターが発現していない状態(PgR−)を確認することができ、癌細胞のタイプは、2つのホルモンレセプターの発現状態から、ER+/PgR+(エストロゲン・プロゲストロンレセプターがともに発現している状態)、ER+/PgR−(エストロゲンレセプターが発現し、プロゲストロンレセプターが発現していない状態)、ER−/PgR+(エストロゲンレセプターが発現せず、プロゲストロンレセプターが発現している状態)、およびER−/PgR−(エストロゲン・プロゲストロンレセプターがともに発現していない状態)に分類することが出来る。本発明の乳癌サブタイプとは、上記4種のホルモンレセプターの状態を示す乳癌のタイプをいう。HER2遺伝子発現状態の有無は、乳癌サブタイプでの抗HER2薬剤の効果を推定するためのマーカーと捉えることができる。
【0024】
ERが多い患者ほど,予後は良好とされ、乳癌治療を受けている患者の約70%はER+で、このうち約60%にホルモン療法が有効であるが、ER−腫瘍の場合では、有効率は低い。PgRもERと同程度に予後因子、予測因子として重要であると考えられており、ER+/PgR+の患者には、ホルモン療法の高い効果が認められている。対して、ER−/PgR−の患者には、ホルモン療法の効果が認められないことが知られている。
【0025】
乳癌のサブタイプに分類されるERとPgRの状態を検出する方法としては、免疫組織化学的手法が好ましい手法である。免疫組織化学的手法は、抗原−抗体反応という特異的な結合反応を利用して、目的とする蛋白質の細胞内外および組織内の局在を検出する手法であり、抗原に対する特異的抗体である一次抗体に酵素や蛍光物質を直接結合させて検出する方法や、一次抗体に対する抗体である二次抗体を用いて可視化する方法等がある。本発明は、上記のどちらの手法を用いることもできる。また、ここで用いる抗体は、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であっても良い。抗体には、FITC(Fluorescein isothiocianate)等の蛍光物質や、ペルオキシダーゼ、ビオチン等の酵素標識を施すことにより、精度良く効率的な検出を行うことができる。これらの標識された抗体は、市販のキットを用いることもできる。
【0026】
免疫組織化学的手法により、ER+/PgR+、ER+/PgR−、ER−/PgR+、ER−/PgR−のサブタイプに分類した乳癌の組織について、各組織の染色体不安定性(Chromosomal Instability:CIN)や、DNA量のインデックス(DI)としてのDNA ploidy(染色体分析)を測定し、関連を解析することにより、該組織の悪性度を、各ホルモンレセプター状態と関連させて確認することができる。
【0027】
本発明は、各ホルモンレセプター状態を有する乳癌の組織について、初めに染色体DNAコピー数の増減を測定することにより、各ホルモンレセプターの状態を推定して、乳癌におけるサブタイプを検出するものである。
【0028】
乳癌は、遺伝型―表現型の関係が研究されているため感度良く検査されている。本発明における染色体DNAコピー数の異常は、染色体上の遺伝子の異常も推定することができる。
【0029】
乳癌組織のCINや、DNA ploidyを測定するためには、FISH(fluorescent in situ hybridization)法やLSC(Laser Scanning Cytometer)法を用いることができる。また被験者由来の癌細胞の染色体DNAのコピー数の増減は、染色体CGH(cCGH)、BAC(Bacterial artificial chromosome)クローンを使用したアレイCGH(aCGH)等の方法を用いることができる。
【0030】
FISH法は、各染色体に存在する特異的な塩基配列に相補的なDNAプローブを用いてハイブリダイゼーションを行い、蛍光染色によって可視化する方法である。CINの有無は、核の間のFISHスポットの数の変化の割合により判断することが出来る。この方法は、乳癌の予後因子とされるHER2遺伝子を検出する方法としても有用である。FISH法によるHER2遺伝子のコピー数異常を測定する方法は、HER2遺伝子が存在するとされている17番染色体について、正常細胞の17番染色体のセントロメア部分(CEP17)とHER2遺伝子の比を求めることによって、増幅の有無を判断することが出来る。HER2遺伝子コピー数が細胞平均2.0倍以上であるとき増幅あり、として、HER2遺伝子発現増幅は陽性、HER2遺伝子コピー数が細胞平均2.0倍未満であるとき増幅なし、として、HER2遺伝子発現増幅は陰性とする。
【0031】
前記プローブはゲノムDNA断片、オリゴマー、cDNAまたはRNAであってもよい。例えば、遺伝子とハイブリダイズするよう設計させたプローブは、ポリヌクレオチド、それに相補的なポリヌクレオチド、それらの変異体、それらにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、或いは15以上の連続した塩基を含むそれらの断片からなる群から選択することができる。
【0032】
DNA ploidyの決定は、癌細胞のDNA量をLSC法により測定し、DNAヒストグラムを作成しDIを算出することができる。0≦D1<1.2の場合をdiploid、D1≧1.2の場合をaneuploid腫瘍として分類することができる。
【0033】
cCGH分析法では、染色体のゲノム−ワイドの細かいスキャンで、がん細胞における多くの染色体コピー数異常、例えば10Mbの低いコピー数や、2Mbの高いコピー数増幅など、DNA配列のコピー数異常(DNA sequence copy number aberration:DSCNA)について幅広い分析を行うことができる。
【0034】
aCGH法は、Pinkelら(Pinkel D,et al.Nat Genet.20:208−211,1998)により報告された方法で、CGHアレイ上のBACクローンを用いることにより、精度の高い分析が可能になる方法である。aCGH法による分析は、BACクローンをスポットした市販のものを入手して利用することも可能である。例えば、Macrogen社のMAC Array(登録商標)、SPECTRAL GENOMICS社のSpectralChip(登録商標)等がある。MAC Array(登録商標)の場合、アレイスライド上には全染色体を網羅する4030個のBACクローンがスポットされている。BACのチップ情報は、以下のサイト(http://www.macrogen.co.kr/eng/biochip/karyo_summary.jsp)から入手することができる。
これは、Macrogen’s KOGENOME Projectで作成されたDNA断片からなるBACクローンを、スライドガラス上にスポットしたアレイを用いて行うもので、BACクローンとのハイブリダイゼーションにより発生した蛍光について、癌/正常の蛍光強度比を測定するものである。
【0035】
BACクローンと反応させる試験用DNAおよび対照DNAは、ランダムプライム法などで標識するが、このような方法で蛍光標識する場合、癌細胞、正常細胞はそれぞれ別の色素による標識を行う。癌細胞由来の試験用DNAは、Cyanine5−dCTP(Cy5:PerkinElmer社)で、正常細胞由来の対照DNAはCyanine3−dCTP(Cy3:PerkinElmer社)で標識することができる。試験用DNAおよび対照DNA由来の蛍光による画像は、レーザースキャナーや、CCDカメラなどの定量的検出装置により取得し、CGH解析用ソフトウエアにより画像解析を行うことができる。
【0036】
DNAコピー数増減の判定においては、試験用DNAの蛍光強度を分子、対照DNAの蛍光強度を分母とする、すなわちCy5/Cy3値を、対数logで表した数値を用いる。癌細胞が正常の場合は、比が1であり、数値は0となる。癌細胞で増加している場合は、比は1より大きくなりlogの値は正の数を示し、減少している場合は、比は1より小さくなりlogの値は負の数を示す。DNAコピー数の増加の判定基準は、閾値を0.25とし、0.25以上の場合をDNAコピー数増加とすることが一般的であり、0.5以上の高レベルの増加の場合は、より精度の高い判定が可能になる。また、DNAコピー数の減少の判定基準は、−0.25以下とすることが一般的である。
【0037】
正常細胞と腫瘍組織の間でのクローンのコピー数の比較は、一般的にchi−square test(χ乗検定)で決定することができる。また、変化や頻度の総数での違いは、t検定、Welch’s t検定、nonparametric Mann−Whitney’s Uテストで行うことが望ましい。そこでの違いは、P値(Probability value)として算出する。P値とは、帰無仮説が正しい場合の偶然性の確率を表し、P値が1の場合は100%がそのようになる確率であり、P値が0.01の場合は、偶然にそのようになる確率は1%である、という事を表す。通常の統計解析ではP値が0.05より低い場合、2つの間では相違があると判定することができる。
【0038】
本発明は、aCGH法を用いて、染色体1p13.2領域、染色体1p32.1領域、染色体2p25.3領域、染色体10p11.22領域、および染色体16p13.3領域から選ばれる1箇所以上の染色体領域におけるDNAコピー数の増加、あるいは染色体12q15領域、および染色体16p11.2領域から選ばれる1箇所以上の染色体領域におけるDNAコピー数の減少を検出し、統計学的に正常細胞のコピー数と比較解析することにより、閾値±0.25より大きなコピー数の異常を検出した場合、新しいタイプの乳癌と判断するものである。
【0039】
染色体のDNAコピー数の異常は、染色体上に存在する遺伝子にも異常が起こっていると推定される。異常が起きた染色体上に存在する遺伝子の情報は、NCBI(National Center for Biotechnology Information)、EMBL(European Molecular Biology Laboratory)、DDBJ(DNA Data Bank of Japan)のデーターベースから得ることができる。
【0040】
染色体1p13.2領域には、CAPZA1遺伝子(capping protein (actin filament)muscle Z−line,alpha 1)、MOV10遺伝子(Moloney leukemia virus 10)、RHOC遺伝子(ras homolog gene family,member C)、PPM1J遺伝子(protein phosphatase 1J)が存在しており、DNAコピー数増加により、CAPZA1遺伝子、MOV10遺伝子、RHOC遺伝子、PPM1J遺伝子の過剰発現が起こることが推定される。CAPZA1遺伝子は、筋繊維の成長をコントロールするタンパク質をコードする遺伝子であり、RHOC遺伝子は、細胞の運動に関係し、癌細胞の増殖や転移でこの遺伝子の過剰発現が見られている。PPM1J遺伝子は、セリン・スレオニンリン酸化酵素をコードする遺伝子である。
【0041】
染色体1p32.1領域には、MYSM1遺伝子(Myb−like,SWIRM and MPN domains 1)が存在しており、DNAコピー数増加により、MYSM1遺伝子の過剰発現が起こることが推定される。
【0042】
染色体2p25.3領域には、TPO遺伝子(thyroid peroxidase)が存在しており、DNAコピー数増加により、TPO遺伝子の過剰発現が起こることが推定される。TPO遺伝子は、膜結合グリコプロテインをコードする遺伝子であって、チロシン残基のヨード化など甲状腺機能では中心的に働くタンパクをコードする遺伝子である。この遺伝子の変異は、甲状腺ホルモン生成に異常をきたすとされている。
【0043】
染色体10p11.22領域には、NRP1遺伝子(neuropilin 1)が存在しており、DNAコピー数増加により、NRP1遺伝子の過剰発現が起こることが推定される。NRP1遺伝子は、血管内皮成長因子に関与するチロシンキナーゼ受容体への膜結合副受容体である。NRP1遺伝子は、脈管形成や神経網の発達、細胞生存、細胞の遊走、細胞の浸入に対し、鋭敏なルールによる働きをすることが知られている。
【0044】
上記MYSM1遺伝子、TPO遺伝子、NRP1遺伝子は、一般的に細胞の増殖や分化に関わるとされており、NRP1遺伝子の高い発現レベルはいろいろな種類の癌で観察され、癌細胞の未分化の表現型を維持していると報告されている(Cao Y,et al.Cancer Res.68:8667−8672,2008)。
【0045】
染色体16p13.3領域には、SOX8をコードする遺伝子が存在しており、DNAコピー数増加により、SOX8遺伝子の過剰発現が起こることが推定される。SOX8遺伝子は、胚生育の制御や細胞死の決定に関与する転写因子のペプチドをコードする遺伝子である。
【0046】
染色体12q15領域には、INFγ遺伝子が存在しており、DNAコピー数減少により、INFγ遺伝子の発現低下が起こることが推定される。INFγ遺伝子は、タイプIIのインターフェロンで、ウイルスや細胞内細菌感染、あるいは癌の先天的あるいは後天的免疫制御のためのサイトカインである。INFγ遺伝子の増殖による染色体異常は、自己炎症性症候群や自己免疫疾患で見られる。INFγ遺伝子の重要性は、ウイルス防御における免疫システムもあるが、より重要な点は、免疫賦活や免疫抑制効果である。INFγ遺伝子は、主にナチュラルキラー(NK)細胞やナチュラルキラーT(NKT)細胞で生産される。
【0047】
ヒトHER2をコードする遺伝子は、ゲノム配列上17番染色体長腕(17q11.2−q12、17q21.1)に存在する。HER2遺伝子を過剰発現する乳癌・卵巣癌は、予後不良であるとされている。そのため、HER2を標的として開発された分子標的治療薬のトラスツズマブは、HER2遺伝子の増幅が確認された乳癌患者に対し有効とされている。本発明は、トラスツズマブを処方できない乳癌患者を検出し、新たな処置を行うための方法である。
【0048】
本発明のINFγを含む医薬品は、治療すべき患者の健康および治療に対する反応、乳癌組織の形態、重症度および経過について判断することによって、最も有効な投与形態および投与量が決められる。本発明のINFγを含む医薬品による乳癌治療に有効な量は、約0.01〜約100mg/kg(患者の体重)とすることができ、より好ましい投与量は、約0.1〜10mg/kg(患者の体重)とすることができる。
【0049】
本発明はまた、染色体1p13.2領域、染色体1p32.1領域、染色体2p25.3領域、染色体10p11.22領域、および染色体16p13.3領域から選ばれる1箇所以上の染色体領域におけるDNAコピー数の増加、あるいは染色体12q15領域、および染色体16p11.2領域から選ばれる1箇所以上の染色体領域におけるDNAコピー数の減少を検出するためのキットであって、このキットを用いて乳癌サブタイプを検出することができる。
【0050】
以下、本発明を更に詳しく説明するため、実施例を挙げるが本発明はこれに限定されない。
【実施例1】
【0051】
<乳癌組織と組織切片作成>
山口大学病院外科から得られた、46人の初期潜侵乳癌患者を被検体とした。全ての癌は散在性と考えられた。31才から75才までの患者の平均年齢は57.6才であった。被検体の患者は外科での化学療法も放射線治療も受けていなかった。山口大学医学部倫理委員会にて承認され、全ての患者からインフォームドコンセントが得られた。癌組織から外科的に取り除いた標本部分を固定する前にタッチ−スメア標本を作製した。その後、癌組織を10%ホルマリンに1日で固定し、免疫組織化学的手法を含む組織学的な検査を行った。タッチ−スメア標本は、FISHやLSCでの分析用に供した。
【0052】
<免疫組織化学的手法>
ERとPgRの発現状態は、先に報告した方法(Ikemoto K,et al.J Jpn Soc Clin Cytol 46:332−337,2007)に準じて行った。すなわち、ER、PgRの抗体と、ER(1D5:Dako社製)、PgR(PR88:BioGenex社製)とをホルマリン固定、パラフイン封埋した後、協和ステインキット(協和メデックス社製)を用いた免疫組織化学的手法により評価した。「日本乳癌学会」の臨床的判定(Umemura S,et al.Breast Cancer 13:232−235,2006)により、10%以上の陽性細胞がみられる症例をそれぞれER(+),PgR(+)とし、各ホルモンレセプターが発現しているとした。
【0053】
<結果>
ERとPGRの発現は、各々37例(80.4%)と28例(60.9%)であった。この中で25例(54.3%)では、両方の発現があった。しかし6例(13.0%)では、ER、PgRの発現が無かった(表1)。ER−/PgR−腫瘍は組織学的にHIGH−GRADEタイプに分類された。
【実施例2】
【0054】
<DNAploidyとCINの決定>
実施例1で調整した標本を用い、染色体不安定性(Chromosomal Instability:CIN)とDNA ploidyを決定した。
【0055】
<FISH法を用いたCINとHER2遺伝子の測定>
CINは、以前報告された文献(Miyazaki M,et al.Cancer Research 59:5283−5285,1999、Furuya T,et al.Clinical Cancer Research 6:2815−2820,2000、Yamamoto Y,et al.Clinical Cancer Research 12:2752−2758,2006)に準じて行った。すなわち、46例中36例のタッチ−スメア標本に、7番、11番、17番、18番の4つの染色体の各セントロメア部分用のプローブ(D7Z1,D11Z1,D17Z1,D18Z1:Abbott社製)の混合液を添加し、73℃2分間変性処理を行った。ハイブリダイゼーションは37℃で12時間行った。0.4xSSC/0.1%NP−40で73℃2分間処理後、0.4xSSC/0.1%NP−40で洗浄した。対比染色は、DAPI−II(4,6−diamidino−2−phenylindole−II:Abbott社製)で染色し、蛍光顕微鏡(オリンパス社製)で、各標本の100個以上発光した癌細胞を観察し、それぞれのプローブにおけるシグナル数をカウントした。CINの有無は、細胞での各プローブのシグナル数の細胞間較差により決定した。シグナル数より、各細胞における染色体が、上記4つの染色体の通常75%以下であるとき、CINは陽性と考えた。
【0056】
また、HER2遺伝子のコピー数の検出は、上記タッチ−スメア標本を用いて、HER2DNAプローブキット(Abbott社製)を利用したFISH法で行った。17番染色体上のセントロメア部位の遺伝子コピー数と比較して、HER2遺伝子コピー数が細胞平均2.0倍以上であるとき増幅あり(HER2+)と判定した。
【0057】
<LSCによるDNA ploidyの決定>
DNA ploidyの決定は、LSCを用いて行った。サンプルの調整やDNA ploidyの決定は先の論文の方法(Miyazaki M,et al.Cancer Research 59:5283−5285,1999、Furuya T,et al.Clinical Cancer Research 6:2815−2820,2000)に準じた。すなわち、70%のエタノールで固定されたタッチ−スメア標本を、0.1%RNase(Sigma社製)を含むヨウ化プロピジウム溶液(PBSに25μg/ml)に浸した。DNA量はLSC101(オリンパス社製)で測定した。通常個々の標本には、5000個以上の細胞を存在させた。DNAヒストグラムを作成し、DNA ploidy(染色体コピー数)を決定した。DNA ploidyはDNA index(DI)で表し、1.0≦DI<1.2の場合をdiploid、DI≧1.2の場合をaneuploid腫瘍として分類した。
【0058】
<結果>
DNAヒストグラムから、diploidとaneuploidのカテゴリーに分類し、15例(32.6%)がdiploidで、31例(67.4%)がaneuploid腫瘍であった。CINはFISHにより24例で評価した。その結果、10例(27.8%)はdiploid/CIN陰性であったが、23例(64.9%)は、aneuploid/CIN陽性であった。diploid/CIN陽性腫瘍、aneuploid/CIN陰性腫瘍はまれであった。Diploid腫瘍はER及び/またはPgRを発現し、特に全てのDiploid腫瘍はER+であった。全てのER−/PgR−腫瘍は、aneuploid/CIN陽性であった。表1にホルモンレセプター状態と、Ploidy,染色体不安定性、HER2遺伝子増殖との関係を被検体数で示した。
【0059】
【表1】

【0060】
上記表において、CIN+は染色体不安定性有り、CIN−は染色体不安定性無し、を表し、HER2+は増幅有り、HER2−は増幅無し、を表した。
【実施例3】
【0061】
<aCGH法によるDNAコピー数異常の検出>
aCGHは、実施例1と同じ46人の癌患者の組織を用いた。組織切片にヘマトキシリン・エオジン染色を行い、顕微鏡下にて注射針(26G)を用いて選択的に癌細胞のみ採取する手法(microdissection)を用いて、先の文献(Hashimoto Y,et al.Cytometry 40:161−166,2000)に従い、aCGHによる解析のために通常組織のサンプルの混じりを減じた。結果として、サンプルの通常細胞の混じりは可能な限り縮小し、10%以下になった。高分子重量のDNAは、各microdissected 腫瘍標本からDNA抽出キット(SepaGene,三光純薬社製)を用いて、前記Hashimotoらの方法に記載の実験に従い抽出した。この研究に使った、BAC DNA アレイ(Macrogen社製)は、4030個のヒト由来大腸菌の人工的な染色体クローンで、全ゲノムに対して、ほぼ0.83Mbp毎に1クローン存在しており、そのうちの356個は癌関連遺伝子を含む。実験は、先の文献(Ohgucri T,et al.J Clin Pathol 59:978−983,2006,Chochi Y,et al.J Pathol 217:677−684,2009,Furuya T,et al.BMC Cancer 8:393,2008,Nakao M,et al.Cancer Genet Cytogenet 181:70−76,2009)に準じて行った。すなわち、500ngの腫瘍DNAと性一致対照DNA(Promega社製)は、ランダムにプライマーを標識したキット(BioPrine(登録商標)DNA Labeling System、Invitrogen社製)で、Cy5−dCTP、Cy3−dCTP(PerkinElmer Life Science社製)を各々標識した。融合のために、標識DNAは50mg のCot−1 DNA(Gibco BRL社製)と混合し、75℃で変性させたプローブ混合物をアレイへ供した。
【0062】
<蛍光スキャナーによる読み取り>
37℃にて72時間ハイブリダイゼーションを行ったマイクロアレイを45℃の50%ホルムアミド溶液、2xSSC溶液で洗浄し、常温でリン酸緩衝液、2xSSC溶液でさらに洗浄を行った。なお、マイクロアレイのバックグランドが高いときにはエタノール洗浄を行った。マイクロアレイを完全に乾燥させた後に、GenePix 4000Aスキャナー(Axon Instrument社製)でスキャンし、16ビットTIFFイメージをGenePix Pro5.0 ソフトウエアでとらえた。蛍光イメージは、アレイの分析のために可視化して、MAC Viewer(登録商標)ソフトウエア(マクロゲン社製)で解析した。蛍光スポットは自動的に決定した。各クローンの赤/緑の割合はlogRatioとして算出した。まったく変化がない場合の割合は、log1=0となる。割合は少なくとも±0.25より大きい場合は、コピー数の増加や減少が考えられる。log値が1以上を増幅とした。このlogの値が閾値より大きくなった場合に、DNAコピー数の異常を判断した。
【0063】
<統計解析>
クローンのコピー数の比較は、正常細胞と腫瘍組織の間で行った。2つのグループ間での増加や減少の違いは、一般的なchi−square test(χ乗検定)で決定した。変化や頻度の総数での違いは、t検定、Welch’s t検定、nonparametric Mann−Whitney’s Uテストで行った。違いはP値として算出し、P値が0.05より低い場合に違いを認めるものとした。
【0064】
<DNAコピー数異常の頻度>
DNAコピー数の増加及び減少の平均数値は、各々405±211と、495±303であった。ER−/PgR−腫瘍は増加と減少の高い数値を有する傾向があり、6例のER−/PgR−腫瘍で、541.7と643.2であったのに対し、他は各々375.5と461.2であった。染色体1qと染色体8qのコピー数増加と、染色体8p、染色体16q、染色体17pのコピー数減少を腫瘍の50%で確認した(図1)。マップ化されたクローンでは、染色体1q23−1q44の広い領域でコピー数増加が高い頻度で見られ、表2に示すように、特に染色体1q32.1領域(クローンNo.2893)のコピー数増加は、46例の78.3%で頻度を確認した。染色体8q23.3領域(クローンNo.1394)のコピー数増加は30例(66.7%)で確認し、染色体8p23.1領域(クローンNo.4589)のコピー数減少は37例(80.4%)で、染色体8p23.3領域(クローンNo.5579と923)のコピー数減少は28例(60.9%)で確認した。
【0065】
【表2】

【0066】
<DNAの増幅>
DNAの増幅、DNAの高度増加(log>1.0)はまれであるが、例外的に染色体17q12領域に位置するBACクローンの224,2261,227で確認した。BACクローンの224はDNA増幅の頻度が最も高く見られ、9例(19.6%)で確認し、BACクローンの2261のERBB2を含むDNAの増幅は、8例(17.4%)で確認した(表3)。BACクローンの2261には、HER2遺伝子が存在しているので、乳癌患者におけるHER2遺伝子の増幅との関連が確認された。他の染色体部位の増幅は不確定に見られた。DNAコピー数の確実な減少(log<−1.0)は、コピー数の減少を8例で確認した染色体8p23領域を例外として、乳癌でまれにしか起こらなかった。
【0067】
【表3】

【0068】
<DNAコピー数異常とERとPgRの発現状態>
DNAコピー数が増加したクローンと、ERとPgRの発現状態との関連を表4に示した。
【0069】
染色体10p11.22領域(クローンNo.1276、NRP1遺伝子を含む)の頻繁なコピー数増加は8例で確認した。ERとPgRの発現状態との関わりでは、ER+とER−腫瘍の間で 2/37vs6/9,p=1.37×10−5、PgR+とPgR−腫瘍の間で1/28vs7/18,p=0.00112、ER−/PgR−腫瘍と他腫瘍の間で6/6vs2/40,p=1.03×10−8と確かな違いを示した。
【0070】
染色体1p32領域におけるクローンのコピー数増加は、しばしばER−腫瘍で確認したが、ER+腫瘍では確認できなかった。特に染色体1p32.1領域(クローンNo.2161、MYSM1遺伝子を含む)のコピー数増加の頻度は、ER+とER−腫瘍の間で0/37vs4/9,P=2.2×10−5、PgR+とPgR−腫瘍の間で0/28vs4/18,P=0.00626、ER+/PgR+腫瘍と他の腫瘍の間で0/25vs4/21,P=0.0224、ER−/PgR−腫瘍と他の腫瘍の間で4/6vs0/40,P=6.51×10−8と顕著であった。
【0071】
染色体1p13.2領域(クローンNo.2134)のコピー数増加は、ER−とPgR−腫瘍の4例のみで確認し、ER−/PgR−腫瘍と他の腫瘍の間でP=6.51×10−8であった。
【0072】
染色体2p25.3領域(クローンNo.2069 TPO遺伝子を含む)のコピー数増加は10例で確認した。それは、ER+とER−腫瘍の間で4/37vs6/9,P=2.69×10−5、PgR+とPgR−腫瘍の間で0/28vs10/18,P=3.03×10−6、ER+/PgR+腫瘍と他の腫瘍の間で0/25vs10/21,P=9.61×10−5、ER−/PgR−腫瘍と他の腫瘍の間で6/6vs4/40,P=6.23×10−7と強い違いがあった。
【0073】
染色体16p13.3領域(クローンNo.5885)のコピー数増加はER+/PgR+腫瘍で顕著に見られた(12/25vs1/21,P=0.00118)。
【0074】
【表4】

【0075】
染色体5p21.3−p22.1領域(クローンNo.4103)のコピー数減少の頻度は、ER+とER−腫瘍の間で特に顕著であった(1/37vs6/9,P=1.65×10−6)。染色体8p23.2領域(クローンNo.809)のコピー数減少の頻度は、17例(40.0%)で確認し、特にPgR+とPgR−腫瘍の間で顕著な違いがあった(4/29vs13/17,p=2.12×10−5)。7例で確認した染色体16p11.2領域(クローンNo.2591)のコピー数減少は、ホルモンレセプターの状態と緊密に関連し、その頻度はER+とER−腫瘍の間で2/37vs5/9,P=0.000172、PgR+とPgR−腫瘍の間で0/28vs7/18,P=0.000174、ER+/PgR+腫瘍と他の腫瘍の間で0/25vs7/21,P=0.00172、ER−/PgR−腫瘍と他の腫瘍の間で5/6vs2/40,P=6.13×10−7であり、ER−/PgR−腫瘍と他の腫瘍の間で顕著な違いがあった。
【0076】
<DNAコピー数異常と、ER−/PgR−腫瘍、DNA ploidyおよびCINの関連>
染色体2p25.3領域でコピー数増加があり、かつ、PgR−腫瘍の10例のケースについて、DNAコピー数の異常、ホルモンレセプターの状態、DNA ploidy、CIN、HER2発現状態との関連結果を表5に示した。この中に、6例の染色体2p25.3領域と、染色体10p11.22領域の両方でコピー数増加を示すER−/PgR−腫瘍があった。さらに、染色体12q15領域(クローンNo.2764 IFNγ遺伝子を含む)のコピー数減少は、ER−/PgR−腫瘍の3例のみで見られ、他では見られなかった(3/3vs0/42,P=1.97×10−11)。これらER−/PgR−腫瘍の3例は、HER2増幅無しで、かつ染色体12q15領域のコピー数減少の腫瘍であった。そのため、これらを、いわゆる‘トリプルネガティブ’腫瘍に分類した。染色体12q15領域のコピー数減少以外のER−/PgR−腫瘍はHER2の増幅を示した。染色体2p25.3領域でコピー数増加があり、かつ、PgR−腫瘍の10例のケースは、全てDNA ploidy が、aneuploidで、CINが染色体不安定性ありと確認された。
【0077】
【表5】

【0078】
上記表において、染色体領域については、↑はコピー数増加、−は変化無し、↓はコピー数減少を表した。ERとPgRについて、+は発現有り、−は発現無し、を表し、HER2について、+は増幅有り、−は増幅無し、を表し、CINについて、+は染色体不安定性有り、−は染色体不安定性無し、を表した。Ploidyについては、Aがaneuploidyを表し、BRCA1とBRCA2について、↓はコピー数減少を、−は変化無し、を表した。
【0079】
<乳癌悪性度の判断>
染色体1p13.2領域、染色体1p32.1領域、染色体2p25.3領域、染色体10p11.22領域、16p13.3のコピー数増加と、染色体12q15領域のコピー数減少は、図2に示したようにER、PgRの状態と高い関連性を持った。これらのコピー数の異常は、ER―/PgR−の腫瘍で特異的に確認された。染色体2p25.3領域のコピー数増加は、PgR−腫瘍の55.6%と、ER−/PgR−腫瘍の全てで確認した。ER−/PgR−腫瘍では、染色体10p11.22領域の増加が見られ、さらに、染色体16p11.2領域のコピー数減少、染色体1p13.2領域および染色体1p32.1領域のコピー数増加が頻繁に見られた。ER−/PgR−とHER2増幅の欠如した腫瘍、いわゆる‘トリプルネガティブ’腫瘍は、遺伝子IFNGを含む染色体12q15領域のコピー数減少というゲノム変化を伴うことが明らかになった。ゲノム変異と、ER−/PgR−腫瘍を含むグループとの間に明らかな関係があることから、乳癌の表現型や遺伝子型に関し、ゲノム変化に基づいた新たな分類を考慮する必要性があることが分った。乳癌の一般的な治療が困難な特別のタイプである、いわゆる‘トリプルネガティブ’腫瘍への処置の手がかりとして、染色体12q15領域に存在するIFNγ遺伝子のコピー数減少から、INFγが効果的であると推察された。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の乳癌サブクラスの検出法により、分子標的治療薬のトラスツズマブでは効果のない乳癌患者を見出すことができ、該サブクラスに効果的な治療方法を処置することができる。また、IFNγを含む医薬品は、該サブクラスの乳癌患者に効果的であると推定され、重要な医薬品となる可能性が高い。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者由来の癌細胞において、染色体1p13.2領域、染色体の1p32.1領域、染色体2p25.3領域、染色体10p11.22領域、染色体12q15領域、染色体16p11.2領域、および染色体16p13.3領域の中から選択される1以上の領域におけるDNAコピー数の異常を検出することを特徴とする、乳癌サブタイプの検出方法。
【請求項2】
被験者由来の癌細胞において、染色体1p13.2領域、染色体の1p32.1領域、染色体2p25.3領域、染色体10p11.22領域、および染色体16p13.3領域におけるDNAコピー数の閾値が、0.25以上の増加、あるいは染色体12q15領域、および染色体16p11.2領域におけるDNAコピー数の閾値が、0.25以下の減少を指標として選択される1以上の領域におけるDNAコピー数の異常を検出することを特徴とする、請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
被験者由来の癌細胞において、下記のいずれかの状態を推定することを特徴とする、請求項2に記載の検出方法。
a)染色体の16p13.3領域のDNAコピー数増加が、ER+/PgR+;
b)染色体1p13.2領域、染色体1p32.1領域、染色体2p25.3領域、および染色体10p11.22領域の何れかの領域におけるDNAコピー数増加、および/または染色体16p11.2領域のコピー数減少が、ER−/PgR−;および、
c)染色体12q15領域におけるDNAコピー数の減少が、ER−/PgR−、かつHER2遺伝子発現増幅が陰性。
【請求項4】
被験者由来の癌細胞において、染色体12q15領域におけるDNAコピー数の減少が、インターフェロンγ遺伝子のDNAコピー数の減少を推定することを特徴とする、請求項2に記載の検出方法。
【請求項5】
被験者由来の癌細胞が、ER−/PgR−であり、かつHER2遺伝子発現増幅が陰性である乳癌サブタイプのための治療薬であって、インターフェロンγを含有する医薬品。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法を実施するためのキットであって、乳癌サブタイプの検出用キット。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−284138(P2010−284138A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−142383(P2009−142383)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】