説明

乳癌タンパク質

【解決手段】本発明は、好ましくは顕微切断されたヒトのサンプルに由来する、ヒトのサンプルのプロテオミクスを実施するプール方法であって、サンプルを2以上のプールにグループ分けし、各プールが、これらのプール間で差異が明らかであるが所与のプールの構成員に共通である少なくとも1つのタンパク質を示す方法に関する。さらに、本発明は、癌細胞、特に乳癌細胞、好ましくはホルモン結合受容体に対して陽性または陰性である乳癌細胞において、量が上昇するタンパク質に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にヒトの顕微切断されたサンプルのプロテオミクスを実施する方法、乳癌の診断および/または治療マーカーとしての種々のタンパク質の使用、および該タンパク質を調節する試薬の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
乳癌は、女性に見られる癌の最も普通の形態の1つである。2005年の米国において、新たな患者の予測数は約215,990人(32%)であり、40,000人を超える死亡者数が見込まれる。結果として、改良された診断および治療手段を開発するために、癌の根本的な分子事象をより理解することがますます要求されている。これを達成するため、細胞培養モデル等のモデルシステムがしばしば用いられる。しかしながら、このようなシステムから得られる結果がヒトの疾病、特に癌に関連した生物学をいかに良く反映するかについては、大いに疑われる。従って、初期の臨床組織からの細胞を試験することが非常に望ましい。この手段には、好適な標準的プロトコルが利用できることから、遺伝子アレイの研究が通常用いられる。しかしながら、代謝回転の変化や翻訳後の修飾等のタンパク質に基づく現象は、遺伝子アレイでは検出されない。
【0003】
プロテオミクスは、複雑な生体系におけるタンパク質の研究である。しかしながら、科学のこの分野に関連し、先行技術で知られている方法は、集めることができる物質の量がしばしば極度に限定されることから、ヒト由来の最も初期の組織サンプルの分析には不適当である。また、関連する疾病細胞は組織中の多くの他の細胞型としばしば混合されるが、これはさらなる技術、特に顕微切断技術を要し、この技術はサンプルの収率の問題を悪化し得る。サンプル量が限られていることは、タンパク質量の推定の確実性が乏しくなることに関係し得る。従って、統計的に堅固な結果に達するためには、非常に多くの繰り返しが必要であり、このことは稀有なサンプルについてはさらなる後退となる。さらに、最近のスクリーニングプログラムでは、より早期および小型の段階での腫瘍を検出することから、問題である。
【0004】
従って、本発明の目的は、癌、特に乳癌の診断および/または治療のための方法、マーカー、治療標的および適した試薬を提供することである。本方法に関して、例えばヒトのサンプルに適用される顕微切断技術で得られる、タンパク質量の信頼性のある推定を可能にする方法を提供することは、有益であろう。
【0005】
この目的を達成するため、本発明は第一に、請求項1で特定される特長を有する方法を提案する。本発明の方法のさらなる実施態様は、従属項2〜10に表される。加えて、本発明は、請求項11〜20に特許請求される通り、プロテオミクスを実施するための前記方法の使用、および、診断マーカーおよび/または治療標的としてのいくつかのタンパク質の使用を含む。また、本発明は、請求項21および24に特許請求される通り、少なくとも1つのタンパク質の発現および/または活性を調節する少なくとも1つの試薬に関する。全請求項の表現は、参照することにより本書に組み込まれる。
【0006】
第一の目的は、本発明に従って、ヒトのサンプル、特にヒトの顕微切断されたサンプルのプロテオミクスを実施する方法であって、サンプルを関心のあるパラメータに基づいて2以上のプールにグループ分けし、該プールが、これらのプール間で差異が明らかであるが所与のプールの構成員に共通である少なくとも1つのタンパク質を示す方法によって達成される。
【0007】
本書で用いる場合の「明らかな(manifest)」という用語は、「豊富な(abundant)」と同等であり、両用語は、先行技術の方法、特に出願人のいわゆるプロテオトープ分析法である2次元法で検出可能なタンパク質の発現レベルに言及する。
【0008】
本書で用いる場合の「腫瘍(tumour)」という用語は、良性または悪性の性質または傾向の全ての形態を含む、増殖細胞または組織を言う。
【0009】
本発明で用いる場合の「タンパク質(protein)」は、タンパク質の全体または部分的配列を含み、ここで部分的配列はタンパク質の活性を示す。また、「タンパク質(protein)」という用語は、そのイソ体を含む。
【0010】
一般的にプール方法の利点および不利点は、他の領域、特にメッセンジャーRNA分析の領域において考察されてきたが(ケンドジオルスキ(Kendziorski)CM、ジャン(Zhang)Y、ラン(Lan)H、アッティエ(Attie)AD。2003年。マイクロアレイ実験におけるmRNAのプール効率(The efficiency of pooling mRNA in microarray experiments)。生物統計学(Biostatistics)。4巻465-77頁。)、本発明者らは初めて、とりわけ、癌、特に乳癌の診断および/または治療のため、タンパク質の現象に関してプール方法を考え出し、試験した。
【0011】
本発明の1つの実施態様において、ヒトのサンプルは、少なくとも1つのタンパク質に対して、特に少なくとも1つの受容体に対して、好ましくは少なくとも1つのホルモン結合受容体、またはそのmRNAに対して、陽性であるか陰性であるかに基づいてプールされる。好ましくは、受容体はエストロゲン受容体(ER)および/またはプロゲステロン受容体(PR)である。
【0012】
エストロゲン受容体(ER)は、エストロゲン受容体α(ERα)およびエストロゲン受容体β(ERβ)として知られている、2つのタイプの特異的な核受容体を含む。分子分析により、ERαは、他の核受容体と同様に、DNA結合(DNA結合ドメインDBD)、ホルモン結合(ホルモン結合ドメインHBD)および転写活性化ドメインに関与する分離可能なドメインより成る。精製した受容体のN−末端活性化機能(AF−1)は構成的に活性であり、一方、C−末端部分内に位置する活性化機能(AF−2)は、その活性にホルモンが必要である。
【0013】
ERαは、乳房の腫瘍の50〜80%に見られ、ERαの状態は抗エストロゲンの内分泌療法について決定する際に必須であるが、抗エストロゲンは内因性エストロゲンの競合的阻害剤であり、乳癌におけるエストロゲンのマイトジェン(細胞分裂)活性を阻害する。分子的には、それら抗エストロゲンは、ERαの不活性構造を誘発し、その後、転写を活性化することが出来ない(シャウ(Shiau)AK、バースタッド(Barstad)D、ロリア(Loria)PM、チェン(Cheng)L、クシュナー(Kushner)PJ、アガード(Agard)DA、グリーネ(Greene)GL。1998年。エストロゲン受容体/コアクチベーター認識の構造基盤およびタモキシフェンによるこの相互作用の拮抗作用(The structural basis of estrogen receptor/coactivator recognition and the antagonism of this interaction by tamoxifen)。細胞(Cell)。95巻927-37頁。)。抗エストロゲンのタモキシフェンは、ホルモン依存性の乳癌の治療に使用され、治療5年後、患者の年齢および結節状態にかかわらず、疾病の再発を減少させ生存率を改善する(カム(Come)SE、ブズダル(Buzdar)AU、アルテアガ(Arteaga)CL、ブロディー(Brodie)AM、デビッドソン(Davidson)NE、ダウセット(Dowsett)M、イングル(Ingle)JN、ジョンストン(Johnston)SR、リー(Lee)AV、オスボルン(Osborne)CK、プリットチャード(Pritchard)KI、フォーゲル(Vogel)VG、ウィナー(Winer)EP、ハート(Hart)CS。2003年。乳癌の内分泌操作におけける最近の進展および将来の方向についての第二回国際会議(Second international conference on recent advances and future directions in endocrine manipulation of breast cancer):要旨コンセンサス・ステートメント。Clin Cancer Res。9巻443-446頁。)。ER陽性の腫瘍を有する転移性疾病の患者において、タモキシフェンは約50%の症例で有効である(フィッシャー(Fisher)B、ヨン(Jeong)J、ディグナム(Dignam)J、アンダーソン(Anderson)S、マモウナス(Mamounas)E、ウィッケルハム(Wickerham)DLおよびウォルマーク(Wolmark)N。2001年。第1期乳癌における最近の国立外科アジュバント乳および腸プロジェクトのアジュバント調査による発見(Findings from recent National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project adjuvant studies in stage I breast cancer)。J Natl Cancer Inst Monogr。30巻62-66頁。)。
【0014】
本発明の好ましい態様において、エストロゲン受容体は関心のあるパラメータであり、分析されるプールは、エストロゲン受容体に対して陽性であるか陰性であるかに基づいてグループ分けされる(ER+対ER−プール)。例えば、適当なプーリング・デザインを表1に表す。乳癌におけるエストロゲンの細胞分裂作用は十分に確立されており、エストロゲン受容体が保護的な抗浸潤作用を媒介することが明らかである。臨床的に、陽性のER状態(ER+)は、細胞増殖の速度が遅いことや腫瘍分化度の組織学的証拠などの、好ましい予後の特徴と関係がある。このこととは対照的に、陰性のER状態(ER−)は、実質的に患者の無病(disease-free)および全体の生存確率がより少ないことに合致する。また、ERの状態は、全体の転移性の広がりの部分について予見する。加えて、エストロゲン受容体の量が多い腫瘍(ER+腫瘍)は、骨、軟組織または生殖器官において、臨床的に明らかな転移を初期に示しがちであり、一方、エストロゲン受容体の量が少ない腫瘍(ER−腫瘍)は、脳および肝臓により一般的に転移する。幾つかの研究では、ERαの発現は、乳癌細胞系のマトリゲル(Matrigel)浸潤および転移可能性が低いことと相関する(プラテット(Platet)N、プレボステル(Prevostel)C、デロック(Derocq)D、ヨウベルト(Joubert)D、ロシュフォルト(Rochefort)H、ガルシア(Garcia)M。1998年。乳癌細胞浸潤:エストロゲン受容体陽性および陰性細胞におけるプロテインキナーゼCの活性およびホルボールエステルによる分別制御との相関(Breast cancer cell invasiveness: correlation with protein kinase C activity and differential regulation by phorbol ester in estrogen receptor-positive and -negative cells)。Int. J. Cancer。75巻、750-6頁、およびトンプソン(Thompson)EW、パイク(Paik)S、ブランナー(Brunner)N、ソマーズ(Sommers)CL、ザグメイヤー(Zugmaier)G、クラーケ(Clarke)R、シマ(Shima)TB、トッリ(Torri)J、ドナフ(Donahue)S、リップマン(Lippman)ME、マーティン(Martin)GR、ディクソン(Dixon)RB。1992年。ヒト乳癌細胞系における、エストロゲン受容体の欠損を伴う基底膜浸潤の増加とビメチン発現の関係(Association of increased basement membrane invasiveness with absence of estrogen receptor and expression of vimentin in human breast cancer cell lines)。J. Cell. Physiol.。150巻534-544頁)。
【0015】
さらに、ERα陽性細胞をヌードマウスに移植する場合、腫瘍はエストロゲンの存在下でのみ現れ、ERα陰性(ERα−)乳癌細胞系より発現したものと比較して転移が少ない(プライス(Price)JE、ポリゾス(Polyzos)A、チャン(Zhang)RD、ダニエルズ(Daniels)LM。1990年。ヌードマウスにおけるヒト乳癌細胞系の腫瘍原性および転移(Tumourigenicity and metastasis of human breast carcinoma cell lines in nude mice)。Cancer Res.。50巻717-721頁)。
【0016】
さらに、本発明は、特に顕微切断技術によって得られた、ヒトのサンプルをグループ分けするための好ましい関心のあるパラメータとして、プロゲステロン受容体(PR)を包含する。例えば、適当なプーリング・デザインを表5に表す。プロゲステロンは、正常な乳腺の発達および妊娠期間の乳腺の分化された機能の発現、および妊娠におけるウテリン分化の促進および着床準備等の、哺乳類の生殖生物学において主要な役割を演じる。プロゲステロンの効果は、プロゲステロン受容体(PR)によって媒介され、このことは、プロゲステロンの制御はプロゲステロン受容体(PR)の濃度の制御によって単独に達成されないが、エストロゲン受容体(ER)が正常乳房の内腔上皮細胞の15%〜30%に存在することに類似する。ヒトの乳房の発達におけるプロゲステロンの役割についての根拠は、プロゲステロン受容体(PR)遺伝子がノックアウトされたマウスのモデルによって提供され、このことは、エストラジオールが腺管伸長およびPR発現を刺激する一方で、プロゲステロンは肺胞小葉(lobuloalveolar)の発達を誘起することを提案する。
【0017】
特に好ましい態様によれば、好ましくは顕微切断技術によって得られるヒトのサンプルは、エストロゲン受容体(ER)に対して陽性であるか陰性であるか、およびプロゲステロン受容体(PR)に対して陽性であるか陰性であるかに基づいて、2以上のプールにグループ分けされる。
【0018】
好ましくは、特に顕微切断技術によって得られたヒトのサンプルは、エストロゲン受容体に対して陽性であり(ER+)、かつプロゲステロン受容体に対して陽性または陰性であるか(PR+またはPR−)に基づいて、2以上のプールにグループ分けされる。例えば、適当なプーリング・デザインおよびサンプルのプールの分布を表10に示す。結果として、ヒトのサンプルは、エストロゲン受容体に対して全て陽性である(ER+)が、プロゲステロン受容体に対しては陽性であるか(PR+)または陰性であるか(PR−)で異なる(ER+/PR+対ER+/PR−プール)。このことは、エストロゲン受容体に加えてプロテステロン受容体を発現する腫瘍(ER+/PR+)がタモキシフェンへの応答確率の増加に有意にかつ独立して相関し、一方でエストロゲン受容体を発現するがプロテステロン受容体は欠落している腫瘍(ER+/PR−)は、ER+/PR+の腫瘍より、アロマターゼ阻害剤アリミデックスに対してより応答することから、特に有益である。
【0019】
併せると、本発明によれば、エストロゲンおよび/または抗エストロゲン、特にタモキシフェンに反応するER+腫瘍を有する患者を、反応しないか反応の弱いER+腫瘍を有する患者から選別することが可能である。従って、上述の通り、ER+/PR+およびER+/PR−のプールに基づくヒトサンプルのタンパク質量(発現)の分析は、個人の療法方針の改善に貢献し得る。
【0020】
さらなる態様において、プール間、好ましくはエストロゲン受容体に対して陽性であるか陰性であるかに基づいたプール(ER+対ER−)間で、差異が明らかであるタンパク質はビメンチンである。本発明者らは、ビメンチン、特にそのイソ体が、癌細胞、特に乳癌細胞、好ましくはエストロゲン受容体に陰性である(ER−)かまたは実質的に無病および全体の生存確率が少ない乳癌細胞において、有意により豊富であることを発見した。
【0021】
本発明のさらに好ましい態様において、タンパク質はフィブリノーゲン、特にそのイソ体であるか、および/またはフィブリン、特に非架橋フィブリンであり、それらは、癌細胞、特に乳癌細胞、好ましくはエストロゲン受容体に陰性である(ER−)乳癌細胞において、有意により豊富である。または、フィブリノーゲン、特にそのイソ体、および/またはフィブリン、特に非架橋フィブリンは、癌細胞、特に実質的に無病および全体の生存確率が少ない乳癌細胞において、有意により豊富である。驚くべきことに、この関連性は、発明者らが、本発明の方法を、癌組織、特に乳癌組織に由来するヒトのサンプルに適用することによって発見した。発明者の研究によれば、ER+の腫瘍と比較して、ER−の腫瘍において最も大きく差異が明らかであるかまたは豊富なタンパク質は、フィブリノーゲンγA鎖であり、次にフィブリンである。フィブリノーゲンは、血小板の影響下でタンパク質分解的に開烈され、血液凝固の過程でフィブリン塊を産生する。癌に関連するフィブリンの沈着およびフィブリン分解は、正常の血液凝固において血小板に供給される機能の多くを供給する癌細胞を有する、多くの固形腫瘍の特徴である(ガーナー(Gerner)C、シュテインケルナー(Steinkellner)W、ホルツマン(Holzmann)K、グスル(Gsur)A、グリム(Grimm)R、エンシンガー(Ensinger)C、オブリスト(Obrist)P、サウアーマン(Sauermann)G。2001年。架橋フィブリノーゲンγ鎖二量体の血漿値の上昇は癌に関連したフィブリン沈着およびフィブリン分解を示す(Elevated plasma levels of cross-linked fibrinogen gamma-chain dimer indicate cancer-related fibrin deposition and fibrinolysis)。Thromb Haemost.。85巻494-50頁)。腫瘍基質(stroma)において、続くフィブリンへの変換を伴わないフィブリノーゲンの沈着は、報告によれば、乳腫瘍の顕著な特徴である。フィブリノーゲンの内因性の合成および分泌は、少なくとも部分的には、乳腺細胞癌の細胞外マトリックスにおける沈着の源である(リバルクジク(Rybarczyk)BJ、シンプソン−ハイダリス(Simpson-Haidaris)PJ。2000年。MCF−7ヒト乳癌細胞によるフィブリノーゲンの細胞外マトリックスへの集合、分泌および沈着(Fibrinogen assembly, secretion, and deposition into extracellular matrix by MCF-7 human breast carcinoma cells)。Cancer Res.。60巻2033-2039頁)。また、エストロゲンがカエルにおいてフィブリノーゲンのメッセンジャーRNAを非安定化させること(パストーリ(Pastori)RL、モスカイティス(Moskaitis)JE、スミス(Smith)LHジュニア、ショーンベルグ(Schoenberg)DR。1990年。アフリカツメガエルγ−フィブリノーゲン遺伝子発現のエストロゲン制御(Estrogen regulation of Xenopus laevis gamma-fibrinogen gene expression)。生化学 (Biochemistry)。29巻2599-605頁)、および、エストラジオールは魚においてフィブリノーゲンγメッセンジャーRNAを抑制すること(バウマン(Bowman)CJ、クロール(Kroll)KJ、グロス(Gross)TG、デンスロウ(Denslow)ND。2002年。オオクチバス、ミクロプテルス・サルモイデス(Micropterus salmoides)におけるエストラジオール誘導遺伝子の発現(Estradiol-induced gene expression in largemouth bass, Micropterus salmoides.)。Mol. Cell. Endocrinol.。196巻67-77頁)が発見された。ER+の腫瘍における上述のタンパク質のダウンレギュレーションの見地から、ER+細胞におけるフィブリノーゲンの豊富さ(発現)に対するエストロゲンの負の効果は、系統発生的に保存されるであろう。
【0022】
さらなる態様において、タンパク質は好ましくはXTP3転写活性化プロテインAである。驚くべきことに、発明者らは、このタンパク質が、ERを欠如する癌細胞、特に乳癌細胞、好ましくはエストロゲン受容体に陰性であるか(ER−)実質的に無病および全体の生存確率がより少ない乳癌細胞において、より豊富であることを発見した。
【0023】
驚くべきことに、発明者らは、Hpr6.6タンパク質、特にその2つのイソ体が、ERを欠如する癌細胞、特に乳癌細胞、好ましくはエストロゲン受容体に陰性であるか(ER−)実質的に無病および全体の生存確率がより少ない乳癌細胞において、有意により豊富であることを発見した。好ましい態様によれば、Hpr6.6のイソ体はリン酸化状態において異なる。このタンパク質は、古典的なプロゲステロン受容体には関係しない。Hpr6.6タンパク質は、N−末端にチトクロームb5ドメインへの膜貫通領域を有し、これはヘム基と相互作用せず、ステロイド結合に関与すると考えられる。このような膜結合プロゲステロン受容体は、遺伝子発現における変化に関与しない、多数の迅速な細胞効果を媒介すると考えられる。明らかに、それらは遺伝子発現に影響する可能性も有する。Hpr6.6タンパク質は、MCF−7乳癌細胞系列において酸化的損傷への反応を制御し、アポトーシスを引き起こす。
【0024】
本発明のさらに好ましい態様において、タンパク質は、レチノイン酸結合タンパク質II型(RABPII)、好ましくは細胞性レチノイン酸結合タンパク質II型(CRABPII)であるか、および/または、癌細胞において、特に乳癌細胞において、好ましくはエストロゲン受容体に陽性(ER+)かつプロゲステロン受容体に陰性(PR−)の乳癌において有意により豊富であるか、または、癌細胞において、特に実質的に無病および全体の生存確率がより少ない乳癌細胞において有意に発現される、未知の機能の分泌タンパク質(SPUF)である。
【0025】
加えて、驚くべきことに、発明者らは、タンパク質チトクロームb5が、癌細胞において、特に乳癌細胞において、好ましくはエストロゲン受容体に陽性(ER+)かつプロゲステロン受容体に陽性(PR+)であるか、または実質的に無病および全体の生存確率がより良い乳癌において、有意により豊富であることを発見した。チトクロームb5は、長鎖アシルCoA分子中への二重結合の導入に古典的に関与して不飽和脂肪酸を産生する、ヘム結合タンパク質であり、第一または第二の電子ドナーとして作用することによりチトクロームP450タンパク質が触媒する幾つかの反応を正に制御する。
【0026】
チトクロームb5、および、他の異なって発現するタンパク質、特にグルタチオンS−トランスフェラーゼおよびヘモグロビンに関与する別の可能性のあるメカニズムは、ヘム鉄電子移動に関連する代謝、および薬剤および生体異物剤の解毒に関係する。最も可能性のあるヒト乳癌の発癌物質は、複合酵素が触媒する工程を必要とし、突然変異性代謝産物中に生体内変化をもたらす。このことは、肝臓中で実施される第一の代謝工程か、または乳房での完全な代謝活性化を経る可能性がある。肝および乳房の発癌活性化の相対的寄与率を測定することは、重要かつ際立った作業課題である。乳房において、いくつかの発癌性代謝酵素が発現され、その中で多数のP450タンパク質が活性化する(基質をより反応性高い種へ代謝する)か、または解毒する(遺伝子毒性の種のDNA反応性を弱める、および/または、それらの排出を増加させる)。P450タンパク質の大部分は多数の基質を有し、いくつかのヒトチトクロームP450タンパク質は、ステロイドホルモンを修飾しかつ多数の薬剤を酸化する(ネベルト(Nebert)、D.W.およびルッセル(Russell)、D.W.。チトクロームP450の臨床的重要性(Clinical importance of the cytochromes P450)。ランセット(Lancet)360巻、1155-1162頁。(2002年);および、ウェルク−ライヒハルト(Werck-Reichhart)、Dおよびフェイレライセン(Feyereisen)、R.。チトクロームP450:成功談(cytochromes P450: a success story)。Genome Biol 1, REVIEWS3003. Epub 2000 Dec 3008. (2000年))。
【0027】
本発明の方法のさらなる態様によれば、ヒトのサンプルは、小さな組織片由来、特に腫瘍組織片由来、有利には乳癌組織片由来である。
【0028】
さらに、本発明は、特に上述の態様によれば、特にヒトのサンプル、特にヒトの顕微切断されたサンプルのプロテオミクスを実施するためのプール方法の使用であって、サンプルを関心のあるパラメータに基づいて2以上のプールに、特にプール当たり2以上のサンプルにグループ分けし、該プールが、これらのプール間で差異が明らかであるが所与のプールの構成員に共通である少なくとも1つのタンパク質を示す、使用である。さらなる詳細については、上述を参照する。
【0029】
また、本発明は、実質的に無病および全体の生存確率がより少ないかより良いことに関連する、癌、特に乳癌の診断マーカーおよび/または治療標的としての、ヒトのサンプル、特に顕微切断されたヒトのサンプルに由来する少なくとも1つのタンパク質の使用であって、サンプルを関心のあるパラメータに基づいて2以上のプールにグループ分けし、該プールが、これらのプール間で差異が明らかであるが所与のプールの構成員に共通である少なくとも1つのタンパク質を示す、使用を包含する。好ましくは、タンパク質は、ビメンチン、フィブリノーゲン、フィブリン、特に非架橋フィブリン、XTP3転移活性化プロテインA、レチノイン酸結合タンパク質II型(RABPII)、特に細胞性レチノイン酸結合タンパク質II型(CRABPII)、チトクロームb5、未知の機能の分泌タンパク質(SPUF)およびプロテステロン受容体膜成分1(Hpr6.6タンパク質)よりなる群より選択される。
【0030】
好ましくは、ビメンチン、特にそのイソ型であって、その量が、癌細胞において、特に乳癌細胞において、好ましくはエストロゲン受容体に陰性(ER−)の乳癌において有意にアップレギュレーションされるものが、実質的に無病および全体の生存確率がより少ないことに関係する癌、特に乳癌の診断マーカーおよび/または治療標的として使用される。
【0031】
本発明の別の態様において、フィブリノーゲン、特に少なくとも1つのそのイソ体、および/またはフィブリン、特に非架橋フィブリンであって、その量が、癌細胞において、特に乳癌細胞において、好ましくはエストロゲン受容体に陰性(ER−)の乳癌において有意に増加するものが、実質的に無病および全体の生存確率がより少ないことに関係する癌、特に乳癌の診断マーカーおよび/または治療標的として使用される。
【0032】
実質的に無病および全体の生存確率がより少ないことに関係する癌、特に乳癌の診断マーカーおよび/または治療標的として好ましく使用されるさらなるタンパク質は、XTP3転移活性化プロテインAであり、その量は、癌細胞において、特に乳癌細胞において、好ましくはエストロゲン受容体に陰性(ER−)の乳癌において有意に増加する。
【0033】
本発明のさらなる態様において、レチノイン酸結合タンパク質II型(RABPII)、特に細胞性レチノイン酸結合タンパク質II型(CRABPII)は、その量が、癌細胞において、特に乳癌細胞において、好ましくはエストロゲン受容体に陽性(ER+)であり、かつプロゲステロン受容体に陰性(PR−)である乳癌において有意に増加するが、実質的に無病および全体の生存確率がより少ないことに関係する癌、特に乳癌の診断マーカーおよび/または治療標的として使用される。
【0034】
本発明のさらなる様相において、チトクロームb5は、その量が、癌細胞において、特に乳癌細胞において、好ましくはエストロゲン受容体に陽性(ER+)であり、かつプロゲステロン受容体に陽性(PR+)である乳癌において有意に増加するが、実質的に無病および全体の生存確率がより良いことに関係する癌、特に乳癌の診断マーカーおよび/または治療標的として、好ましく使用される。
【0035】
本発明のさらなる態様によれば、未知の機能の分泌タンパク質(SPUF)は、その量が、癌細胞において、特に乳癌細胞において、好ましくはエストロゲン受容体に陽性(ER+)であり、かつプロゲステロン受容体に陰性(PR−)である乳癌において有意に増加するが、実質的に無病および全体の生存確率がより少ないことに関係する癌、特に乳癌の診断マーカーおよび/または治療標的として使用される。
【0036】
また、本発明は、プロゲステロン受容体膜成分1(Hpr6.6タンパク質)の3つのイソ体の少なくとも1つであって、その量が、癌細胞において、特に乳癌細胞において、好ましくはエストロゲン受容体に陰性(ER−)である乳癌において有意に増加するものの、実質的に無病および全体の生存確率がより少ないことに関係する癌、特に乳癌の診断マーカーおよび/または治療標的としての使用を包含する。
【0037】
本発明のさらなる態様において、タンパク質、特に上述のタンパク質またはそのイソ体の組み合わせを、実質的に無病および全体の生存確率がより少ないかまたはより良いことに関連する癌、特に乳癌の診断マーカーおよび/または治療標的として使用することは有益であり、ここで、サンプルは関心のあるパラメータに基づいて2以上のプールにグループ分けされ、該プールは、これらのプール間で差異が明らかであるが所与のプールの構成員に共通である少なくとも1つのタンパク質を示す。
【0038】
本発明の別の様相において、表2、表6、表8および表9から選択される少なくとも1つの表に表される相対的タンパク質量の幾つかまたは全てを、実質的に無病および全体の生存確率がより少ないかまたはより良いことに関連する癌、特に乳癌の診断マーカーおよび/または治療標的として使用することは、有利であり得る。タンパク質同定の結果を表3および7に表す。
【0039】
最後に、本発明は、実質的に無病および全体の生存確率がより少ないかまたはより良いことに関連する癌、特に乳癌の診断および/または治療用の薬剤を製造するための、ヒトのサンプル、好ましくはヒトの顕微切断されたサンプルに由来する少なくとも1つのタンパク質またはそのイソ体の量および/または活性を調節する、少なくとも1つの試薬の使用を包含し、ここで、サンプルは関心のあるパラメータに基づいて2以上のプールにグループ分けされ、該プールは、これらのプール間で差異が明らかであるが所与のプールの構成員に共通である該タンパク質を示す。
【0040】
さらに、本発明は、実質的に無病および全体の生存確率がより少ないかまたはより良いことに関連する癌、特に乳癌の診断および/または治療のための、ヒトのサンプル、好ましくはヒトの顕微切断されたサンプルに由来する少なくとも1つのタンパク質またはそのイソ体の量および/または活性を調節する、少なくとも1つの試薬の使用を包含し、ここで、サンプルは関心のあるパラメータに基づいて2以上のプールにグループ分けされ、該プールは、これらのプール間で差異が明らかであるが所与のプールの構成員に共通である該タンパク質を示す。
【0041】
好ましくは、最後の2つの態様のプールは、エストロゲン受容体に対して陽性であるか陰性であるかのパラメータ(ER+対ER−)に基づいている。本発明のさらに好ましい態様によれば、プールは、エストロゲン受容体に対して陽性であり、プロゲステロン受容体に対して陽性であるか陰性であるかのパラメータ(ER+/PR+対ER+/PR−)に基づいている。このプール計画は、エストロゲン受容体には陽性であるが、療法、特にホルモン療法の成功に関して異なる予後像を有する癌患者、特に乳癌患者の識別を可能にすることから、特に有利である。量および/または活性が調節されるタンパク質および/またはそのイソ体に関しては、上述を参照する。好ましくは、量および/または活性が調節されるタンパク質は、XTP3転移活性化プロテインA、レチノイン酸結合タンパク質II型(RABPII)、特に細胞性レチノイン酸結合タンパク質II型(CRABPII)、チトクロームb5(Cyt−b5)、未知の機能の分泌タンパク質(SPUF)およびプロゲステロン受容体膜成分1(Hpr6.6プロテイン)よりなる群の少なくとも1つの構成員である。
【0042】
本発明のさらに特に好ましい態様において、試薬は、タンパク質の活性、特に上述のタンパク質の少なくとも1つの活性、好ましくはHpr6.6またはそのイソ体の少なくとも1つの活性を、タンパク質のリン酸化の程度に影響を与えることによって、特に増加または減少させることによって、調節する。
【0043】
表および図面は以下を示す:
【0044】
表1:ER+/ER−の実験についてのプール計画。
【0045】
表2:ER+およびER−のサンプルを比較する、乳癌サンプル(プールの腫瘍薄片)のタンパク質スポット定量。ER+およびER−のスポット画分を、標準誤差と共に、全スポット容量(ER+プラスER−)のパーセントとして示す;これらの値は、全ての反復に基づくモデルの最小二乗適合を用い、患者のプールをランダム効果として説明して測定した;このモデルのp値も示す;p値<0.01を有するスポットは太字で表す。スポット18番はp>0.05であるが、スポット28および31と同一の遺伝子産物であるので包含される。
【0046】
表3:表2のタンパク質の同定の詳細。番号=表2のスポット番号。PI=等電点。MW=分子量。Exp.=実験値。AccNo=受入れ番号。
【0047】
表4:表2および表3で同定されたタンパク質、および、それらについて、1を超えるタンパク質スポットイソ体をER+対ER−乳癌腫瘍の2D−PAGEゲルにおいて同定した。それぞれ指定したスポットについて異なる実験値のPIおよびMWが観察された。表示は表3に従う。
【0048】
表5:顕微切断したPR+対PR−の実験についてのプール計画。
【0049】
表6:PR+およびPR−のサンプルを比較する、乳癌サンプルのタンパク質スポット定量;PR+およびER+/PR−のスポット画分を、標準誤差と共に、全スポット容量(ER+プラスER−)のパーセントとして示す;これらの値は、全ての反復およびサンプルプールに基づくモデルの最小二乗適合を用いて評価した;このモデルのp値も示す;一般に、p値が0.01未満の場合にスポットを選択した。
【0050】
表7:表6のスポットとコンジェニックのER+/PR+対ER+/PR−の腫瘍に由来する全てのスポットの質量分析による同定。
【0051】
表8:ER陽性およびER陰性のサンプルを比較する、乳癌サンプル(全体の腫瘍薄片)のタンパク質スポット定量および同定。n.i.=同定されず。遺伝子バンクの同定は、NCBIデータベースの2004年4月4日のバージョンである。MALDI−TOFペプチド質量フィンガープリント法(PMF)のスコアは、MASCOTより得た。ER+およびER−の平均スポット画分は、示された最も顕著なタンパク質スポットの二色プロテオトープ分析に基づいて、全ての患者のプールにわたって、各スポットの正規化した全スポット容量のパーセント(=(ER+×100%)/(ER++ER−))として示す。これらの値は、全ての反復に基づくモデルの最小二乗適合を用い、ランダム効果がプールの変動によるとして得られた。このモデルのt試験のp値も示す。p値<0.001は太字であり、p値<0.001のように示す。右の線は、線を有する上述のカラムで示したとおりの(0%−50%−100%)、ER+(濃い青)およびER−(明るいオレンジ)のプールにわたる各タンパク質の平均パーセント量を示す。エラーの線は、平均の標準誤差を示す。37番と38番の間のタンパク質スポット(灰色の面で示す)は示されず、量の差の割合1.5または有意差5%の選択標準を誤った。
【0052】
表9:LCMによるPR陽性およびPR陰性サンプルを比較する、乳癌サンプルのタンパク質スポット定量であり、平均で1.5倍を超える有意差で異なるスポットを示す。ER+/PR+(より濃い青)およびER+/PR−(より明るいオレンジ)のスポット画分を、標準誤差と共に、全スポット容量(PR++PR−)のパーセントで示す。n.i.=同定されず。遺伝子バンクの同定は、NCBIデータベースの2004年4月4日のバージョンである。MALDI−TOFペプチド質量フィンガープリント法(PMF)のスコアは、MASCOTより得る。ER+/PR−(より明るいオレンジ)およびER+/PR+(より濃い青)の平均スポット画分は、示された最も顕著なタンパク質スポットの二色プロテオトープ分析に基づいて、全ての患者のプールにわたって、各スポットの正規化した全スポット容量のパーセント(例えば、=(PR+×100%)/(PR++PR−))として示す。これらの値は、全ての反復に基づくモデルの最小二乗適合を用い、ランダム効果がプールの変動によるとして得られた。このモデルのt試験のp値も示す。p値<0.001は太字であり、p値<0.001のように示す。右の線は、線と共に上述で示したとおりの(0%−50%−100%)、ER+(濃い青)およびER−(明るいオレンジ)のプールにわたる各タンパク質の平均パーセント量を示す。エラーの線は、平均の標準誤差を示す。2-18番と1-05番の間のタンパク質スポット(灰色の面で示す)は示されず、平均の量の差の割合1.5(60%:40%)または有意差5%の選択標準を誤った。
【0053】
表10:この研究に用いたサンプル、およびサンプルのプールへの分布。ER+/PR−の12の腫瘍およびER+/PR+の12の腫瘍を、示したとおり、4つのプールにそれぞれ3つの腫瘍をグループ分けする。全ての腫瘍は、10,000レーザーショット(レーザービーム:直径30μm。臨床データは以下を含む:腫瘍の状態Tp1(腫瘍が最大方向で2cm未満)からpT3(腫瘍>5cm);リンパ節の状態pN0(所属リンパ節転移なし)からpN3(同側の内胸リンパ節への転移)およびpNx(所属リンパ節が判断できず);腫瘍グレード2(中分化)から3(低分化);ERおよびPRの組織病理学的データ(0:検知されず、1〜3:弱陽性、4〜7:中陽性、8〜12:強陽性);およびHER2/neu状態(0=陰性、陽性+1〜+3)。各腫瘍由来の調製タンパク質同定のための10μmの全体の腫瘍薄片の数および各試験条件の全ての混合調製薄片由来のタンパク質の全量も、右側のカラムに示す。
【0054】
図1は、プロテオトープゲルの分析スキームである:プロテオトープ技術を用いて、各ゲルより2つの画像、即ち2つのサンプルそれぞれより1つを抽出し得る。画像1および画像2は、サンプル1の標識に用いたアイソトープのみ異なり、同様に画像3および画像4はサンプル2について抽出し得る画像である。
【0055】
図2は、1.54cmの差分プロテオトープ解析である。パネルは、1組のサンプル対についての、逆複製標識したプロテオトープ実験による実像を示す。A.I−125で標識した、表12のプールしたサンプルER+1(ERpos1)の分析であり、I−131で標識した、プールしたサンプルER−1(ERneg1)と個別に比較する。下部パネルは各同位体について検出されたシグナルを示し、スペクトルの偽色で表す。各同位体のシグナルは、上部の2チャンネル画像において全相対強度について互いに正規化され、ここでI−125のシグナルは青であり、I−131のシグナルはオレンジであり、両シグナルの等量は灰色または黒のシグナルとなる。I−131とI−125の2つの純粋な原料は、両同位体の50%混合物と同様、画像対照として、各ゲルに隣接して位置する円形の2mm片の濾紙上で測定する。各同位体由来のシグナルの間のクロストークは<1%である。連続IEFに使用される18cmのIPG(固定化pH勾配)のpH範囲はパネル上部に示し、各パネルに表された放射性ヨウ素同位体シグナルは右側に示す。この実験において、全てのヨウ素化反応は、60μgのタンパク質について実施した。示した実施例において、I−125のシグナルは全てのゲルにおいて体系的により強い(個々の同位体について下部パネルと比較)。B:上部のパネルは、Aの逆複製実験を示し、ここでサンプルER+1はI−131で標識し、ER−1はI−125で標識する。下部のパネルは表したとおり、ゲル画像の拡大部分を示す。同様のゲルを、表1に表した全ての対応する差分解析について製造した。
【0056】
図3は、総合的平均複合体ゲルのpH5〜6の分析の代表例であり、表8のこのpH範囲における研究において全てのゲルにわたってスポットが一致することを示す。平均のER+のシグナルは青で示し、平均のER−のシグナルはオレンジで示し、両シグナルの等強度は灰色または黒のピクセルとなる。スポット番号は表8に対応する。番号のない、いくつかのオレンジまたは青のスポット(例えば、「X」と付記されたもの)は、分取銀染色トレーサーゲルで現れなかったものであり、分析から除外した。この画像はGREGソフトウェアで作成した。ラベルはマニュアルで付加した。
【0057】
図4は、実験的プロテオトープ逆複製およびトレーサーゲル・デザインである。A)全ての腫瘍に由来するRNAの質は、初めにアギレント・バイオアナライザー(Agilent Bioanalyzer)によって検証する。鋭い18Sおよび28SのリボゾームRNAを有するサンプルのみを使用する。B)一組のLCMサンプルプールの差分解析の分析的プロテオトープ・マルチプレックス。3種のLCM−採取したER+/PR−(PR−)またはER+/PR+(PR+)腫瘍由来のサンプルをそれぞれ混合し、プールしたサンプルの一部を、2種の放射性ヨウ素同位体:I−125(青)およびI−131(オレンジ)のそれぞれで別個にヨウ素化する。放射標識したタンパク質を1つに混合し、示した通り、逆標識した複製2D−PAGEゲル上で共電気泳動する。それぞれの放射性同位体の個々のシグナルをプロテオトープで測定し、相互にキャリブレーションする。双頭の矢印は、多重画像分析を示す。この研究は、それぞれの条件(PR−、PR+)について3つの腫瘍それぞれの当該4プール、および示したデザインの4組の分析に関連した。C)実験量のタンパク質は、LCMに使用し、示した通りPR−およびPR+のプールにプールした、それぞれの条件について、12の同一の腫瘍全てに由来する35〜45の異なる低温薄片(表10)より得た。予備的にプールされたタンパク質は、別個に冷ヨウ素化し、Bのそれらに対応する、全ての4つのサンプルの125Iでラベルしたプールのうちの1つのプールからの微量の放射標識したタンパク質と混合し、2D−PAGEで共電気泳動する。放射性の2D−PAGE画像はBの画像と一致し、トレーサーゲルにおいて感心のある放射標識したタンパク質と共に移動する銀染色スポットを、質量分析により同定する。本研究は、示したデザインの複製に対応するトレーサーゲルの製造に関連した。
【0058】
図5は、レーザー顕微切断によって単離した癌細胞である。乳癌組織の凍結切片を慣用のヘマトキシリン−エオシン(HE)染色で染色した(左パネル)。隣接する切片はヘマトキシリンで染色し(中央のパネル)、腫瘍細胞は、レーザー・キャプチャー・マイクロダイセクション(顕微切断)によってその切片より回収した(右パネル)。
【0059】
図6は、プールしたLCM(レーザー・キャプチャー・マイクロダイセクション)サンプルの54cmのデージーチェーンIEF(等電点電気泳動)差分プロテオトープ解析である。パネルは、1組のプールしたサンプル対についての逆複製標識したプロテオトープ実験による実像を示す。
【0060】
A)I−125で標識した、プールしたサンプルPR−1(ER+/PR−プール1)の分析であり、I−131で標識した、プールしたサンプルPR+1(ER+/PR+プール2)と個別に比較する。上部パネルは、各同位体について検出されたシグナルを示し、スペクトルの偽色で示す。各同位体のシグナルは、より低い2チャンネル画像において全相対強度について互いに正規化され、ここでI−125のシグナルは青であり、I−131のシグナルはオレンジであり、両シグナルの等量は、色または黒のシグナルとなる。I−131およびI−125それぞれの2つの純粋な原料は、両同位体の50%混合物と同様、画像対照として、各ゲルに隣接して位置する円形の2mm片の濾紙上で測定する。各同位体由来のシグナル間のクロストークは<1%である。連続IEFに使用される18cmのIPG(等電点プロテオ・ゲル)のpHの範囲はパネル上部に示し、各パネルに表された放射性ヨウ素同位体のシグナルは右側に示す。この実験において、それぞれプールされたサンプルから約180ngのタンパク質を各ゲルに負荷し、それぞれプールされたサンプルから約3.6μgのタンパク質を標識することによって上記の結果を得た。
B)上部パネルは、Aの逆複製実験を示し、ここでプールされたサンプルPR−1はI−131で標識し、プールされたサンプルPR+1はI−125で標識する。同様のゲルを、全ての対応するプールされたサンプル対1〜4について製造した。
【0061】
図7は、タンパク質同定のための総合的平均および分取トレーサーゲルである。上部パネルは、図3の全てのゲルについてそれぞれのpH範囲で検出された、ER+/PR−(青)およびER+/PR+(オレンジ)のスポットを示す、総合的平均デイジーチェーン・プロテオトープゲルを示す。赤丸のスポットのMALDI−TOF−MS PMF同定および対数確率の統計的有意性を図6に示す。下部の2つのパネルは、ER+/PR−(中央のパネル)またはER+/PR+(下部パネル)の組織から240μgの低温標識したタンパク質を負荷した、銀染色した分取トレーサーゲル上での、これらの個別に同定されたタンパク質の位置を示す。銀染色したゲルは、定量化には使用されないが、プラスチックフィルムでカバーして、光学的にスキャンし、カバーはいくつかの画像に現れている。
【0062】
本発明のさらなる有利点、特徴および可能な用途を、上述した表および図を参照して実験的具体例によって以下に記載する。これに関連して、種々の特徴は、それぞれの場合で、それら独自または互いに組み合わせて実行され得る。
【実施例】
【0063】
材料および方法
患者および組織サンプル。最初に、乳癌試料を、チュービンゲン(Tubingen)大学病院産婦人科(Ethikkommission Med. Fakultat AZ.266/98)で治療を受けた患者より、インフォームド・コンセントの上で得た。サンプルは、熟達した病理学者が特性化し、採取した。患者から乳癌を除去した後、組織サンプルをO.C.T.化合物(ライカ(Leica))中に包埋し、次に、腫瘍除去後15分以内に液体窒素中で素早く凍結し、腫瘍組織バンクで−196℃で保存した。サンプルの採取は、倫理委員会および患者の同意を得た。腫瘍のデータは、電気電子規格協会(the Institute of Electrical and Electronics Standards Association (IEEE-SA))で認められた慣行に従って、オラクル(Oracle)製品を基にしたデータベースに保存した。臨床情報は医療記録より得、各腫瘍は、組織病理学的亜型および悪性度に従って、病理学者が診断した。各腫瘍の組織品質は、アギレント(Agilent)2001バイオアナライザーで1以上の切片のRNAの完全性を測定することによって検証した。はっきりと識別できる18Sおよび28SのリボゾームRNAのバンドがない腫瘍は、本研究から除外した。各腫瘍のER、PRおよびHER−2/neuの状態を、免疫組織化学により規定どおりに測定した。HER(ヘレグリン)/neu(ニューレグリン)が+2および+3である状態(表10)は、in situハイブリッド形成法で蛍光によって追加的に確認した。各患者の臨床および病理情報および臨床データを表10に要約する。
【0064】
低温切片の調製
腫瘍サンプルは、データベースを用いて選択し、凍結CO2上で組織バンクより取り出し、−23℃でクリオトーム(cryotome)(ライカ(Leica))に移した。続いて、低温の切片(10μm)をスライスし、スーパーフロスト+(SuperFrost+)スライド(マルチメッド(Multimed))に乗せ、次の使用まで−80℃で保存した。免疫病理学的特性の決定のため、熟達した病理学者によって、1つの切片をヘマトキシリン/エオシンで染色し、レーザー顕微切断に好適な腫瘍細胞を同定した。
【0065】
二次元プロテオトープ分析
2D−PAGEを、pH4〜7の18cmの市販のIPG(アマルシャム(Amersham))および20cmのSDS−PAGEゲル(ホエファー(Hoefer)ISO−DALT)を用いて実施するか、または、プロテオシス(ProteoSys)社が開発した方法の組み合わせであって、放射性ヨウ素化、2D−PAGE、および高感度放射性画像化を含む、記載されたとおりの、ISO−DALTにおける3×18cmのIPGとしてSDS−PAGE相において実施された、自身で構築した54cmのpH4〜9のIPGを用いて実施した(ポズナノヴィック(Poznanovic)S、シュウォール(Schwall)G、ツェンゲルリング(Zengerling)H、ケイヒル(Cahill)MA。2005年。プロテオーム解析におけるタンパク質分離向上のための、連続的固定化pH勾配ゲルにおける等電点電気泳動法(Isoelectric focusing in serial immobilized pH gradient gels to improve protein separation in proteomic analysis)。電気泳動(Electrophoresis)。26巻:3185-90頁;プロテオシス(ProteoSys)独自仕様のプロテオトープ・プラットフォーム(ケイヒル(Cahill)MA、ウォズニィ(Wozny)W、シュウォール(Schwall)G、シュロエル(Schroer)K、ホルツァー(Holzer)K、ポズナノヴィック(Poznanovic)S、フンヅィンゲル(Hunzinger)C、フォグト(Vogt)JA、シュテッグマン(Stegmann)W、マッティス(Matthies)H、シュラッテンホルツ(Schrattenholz)A。2003年。アクリルアミド/D3−アクリルアミドアルキル化タグシステムで標識した複合タンパク質混合物の定量的プロファイリングのための相対的アイソトポロジー量分析(Analysis of relative isotopologue abundances for quantitative profiling of complex protein mixtures labelled with the acrylamide/D3-acrylamide alkylation tag system)。質量分析速報(Rapid Communications in Mass Spectrometry)、2003年、17巻:1283-1290頁。)プロテオトープは、独自仕様の放射性画像化を含み、これは1つの2D−PAGEゲルにおいて125Iと131Iシグナルを識別することができ、異なるヨウ素同位体で標識した種々のサンプルからタンパク質の定量的な多色の差異を表す。
【0066】
プロテオトープゲルは、プロテオトープ技術が最も正確な定量を可能にすることから、定量のために製造される。シグナルが放射性であるので、エラーは検出されるシグナル数の平方根に比例する。非常に弱いシグナル以外について、測定誤差はその後の示差定量化で無視できる。1つのゲルから得られる2つのサンプル画像について、画像レジストレーション(スポットの調節)は不要である。従って、1つのゲル上で実施されるサンプルについて統合スポット強度(integrated spot intensities)の直接比較は、さらなる分析に使用することができる。ゲル1の画像対とゲル2のそれらとを比較するために、合成参照を導入しなければならない(図1参照)。
【0067】
プロテオトープゲルでは、比較する2つのサンプルが1つのゲル上で実施されるので、発現分析は、銀染色ゲル分析で起こるような、内部ゲルの変化に影響されない。エラーの主な原因は、一方または他方の同位体の標識の化学量論に対する潜在的バイアスである。これは、逆対応した交差標識二重法(inverse matched cross labelled duplicate fashion)においてゲルを製造することによってモニターすることができる。2つの同位体でそれぞれ標識された1つのサンプルの画像が一致しない場合、品質基準に合致せず、分析を繰り返す。
【0068】
プロテオトープ・ゲルには、2つのサンプル間の差を際立たせるための計算量で、二元色のオーバーレイを作ることができる。サンプル間の一貫した差は、代わりのチャネルにおける両画像において現れるであろう。
【0069】
トレーサー制御濃縮ゲル
分析的2色プロテオトープゲルは、極微量のサンプル(タンパク質<1μg)を負荷して、現行法でタンパク質同定が可能である。分取タンパク質同定には、トレーサー制御濃縮ゲル(トレーサーゲル)を使用し、ここでは、分析的二色ゲルに使用したサンプルに対応する、微量の放射標識したタンパク質サンプルを、大過剰の非放射標識タンパク質(約200μg)と共電気泳動して、同定のための実験量のタンパク質を提供する。銀染色ゲル画像のオーバーレイおよびプロテオトープ放射性ゲル画像により、スポット・ピッキングのために銀染色したゲル上でプロテオトープ検出されたタンパク質の配置が可能になる。これらの画像は定量には使用されない。各ゲル上に、200μgのタンパク質を適用し、プロテオトープ・ゲルについて以前に記載されたとおりに実施する(ポズナノヴィック(Poznanovic)S、シュウォール(Schwall)G、ツェンゲルリング(Zengerling)H、ケイヒル(Cahill)MA。2005年。プロテオーム解析におけるタンパク質分離向上のための、連続的固定化pH勾配ゲルにおける等電点電気泳動法(Isoelectric focusing in serial immobilized pH gradient gels to improve protein separation in proteomic analysis)。電気泳動(Electrophoresis)。26巻:3185-90頁;(Cahill)MA、ウォズニィ(Wozny)W、シュウォール(Schwall)G、シュロエル(Schroer)K、ホルツァー(Holzer)K、ポズナノヴィック(Poznanovic)S、フンヅィンゲル(Hunzinger)C、フォグト(Vogt)JA、シュテッグマン(Stegmann)W、マッティス(Matthies)H、シュラッテンホルツ(Schrattenholz)A。2003年。プロテオシス(ProteoSys)独自仕様のプロテオトープ・プラットフォーム(アクリルアミド/D3−アクリルアミドアルキル化タグシステムで標識した複合タンパク質混合物の定量的プロファイリングのための相対的アイソトポロジー量分析(Analysis of relative isotopologue abundances for quantitative profiling of complex protein mixtures labelled with the acrylamide/D3-acrylamide alkylation tag system)。質量分析速報(Rapid Communications in Mass Spectrometry)、2003年、17巻:1283-1290頁。)電気泳動後、シェブチェンコ(Shevchenko)らに従って、ゲルを銀染する(シェブチェンコ(Shevchenko)A、ウィルム(Wilm)M、ヴォルム(Vorm)O、マン(Mann)M。1996年。タンパク質銀染ポリアクリルアミドゲルの質量分析シークエンシング(Mass spectrometric sequencing of proteins silver-stained polyacrylamide gels)。分析化学(Analytical Chemistry)。1996年; 68巻850-858頁)。
【0070】
画像解析
差分タンパク質発現解析は、プロテオトープゲル上のタンパク質スポットの信頼性のある差分定量化に基づく。定量的画像解析には、フォレティクス2Dアドバンスト・ソフトウェア(Phoretix 2D Advanced software)(ノンリニア・ダイナミクス(Nonlinear Dynamics))、デルタ2D(デコドン(Decodon)社)およびGREG(Fraunhofer-Institut fur Angewandte Informationstechnik)を使用した。プロテオシス(ProteoSys)は、自動データ抽出、統計分析、および報告書作成のためのさらなるツールを有している。
【0071】
画像定量化プロトコル
プロテオトープおよび銀染ゲルの分析は、代表的には以下のプロトコル(例えば、フォレティクス2Dによる)に従って実施する。
【0072】
各画像のスポット検出
画像強度算出のキャリブレーション(プロテオトープ画像のみ)
検出パラメータのマニュアル調節での自動スポット検出(フォレティクス2D用、これらのパラメータは感度、ノイズ、オペレータサイズ、およびバックグラウンドと称する)
要すれば、スポットのマニュアル分割または併合
バックグラウンドを定量するあらゆる他のスポットの一部ではない、各スポット周囲の多数のピクセルを用いる、非スポットの形態のバックグラウンド減算
【0073】
対照ゲルに対する画像の照合
マニュアルで規定するユーザー種を照合スポットの最初の一組とする
対照ゲルに対する全画像中の全スポットの自動照合
要すれば、非照合スポットのマニュアル補正
【0074】
スポットの選択
スポットの選択は、ゲル画像品質およびスポット検出品質に加えて、定量的基準に基づく。統計的計算のため、ゲルに適用した2つのサンプルの強度比の基数2の対数、即ち、log2(Iサンプル1/Iサンプル2)を使用する。得られる量は通常ログオッド(logodd)と呼ばれる。平均値および標準誤差は、ゲルの複製を活用し、ランダム効果として患者を用いる、ログオッド値からかたどられる。このことから、モデルに基づくt検定を用いたp値の計算が可能になる。スポット強度の1つが異常値である、例えば、ストライプまたは他のひずみが起こるゲル画像から良好な証拠がある場合、この1つのスポットの強度は切り捨ててもよい。1つの画像上に1つのスポットが検出されない場合、その強度は、異常値として明らかに同定できない限り−異常値と同定できる場合は切り捨てられるが−、その画像のゼロに設定する。
【0075】
一般に、p値が1%未満でありプロテオトープの絶対ログオッド値が比1.5に対応する0.6より高い場合、スポットをさらなる分析に選択する。その時点で、画質がチェックされて、スポットが全ての画像で一貫して検出されたことが確約される。p値が1%より若干高い場合であっても:例えば、発現比が高い場合、スポットが有意に異なるスポットに接近している場合、または有意に異なるスポットがないか殆どない場合であっても、さらなるスポットを選択してもよい。あらゆる場合で、定量分析を有する表は修正せずに示し、差が統計的観点からいかに信頼できるかの推定を可能にする。プロテオトープの逆標識の交差複製データ構造は、確立された統計法が普及している、複製マイクロアレイ実験に類似する(パン(Pan)W。2002年。複製マイクロアレイ実験における異形発現遺伝子の統計的発見方法の比較検討(A comparative review of statistical methods for discovering differentially expressed genes in replicated microarray experiments)。バイオ情報科学(Bioinformatics)。18巻546-554頁)。
【0076】
質量分析によるタンパク質同定
タンパク質の同定は、種々の質量分析法:より多量のタンパク質の非常に迅速で信頼性のある同定が可能な自動化方法(MALDI-TOF-MSによるペプチド質量フィンガープリント)に基づくが、より時間のかかる方法(LC-ESI-IonTrap-MS/MS、またはMALDI TOF-TOF)により非常に少量のタンパク質の同定も可能である。簡潔に言うと、選択されたタンパク質スポットのゲルプラグを切り取り、ゲルプラグに含有されるタンパク質をトリプシンを用いて消化する。得られる溶液は、先ずMALDI-TOF-MSに基づくハイスループット・ペプチド質量フィンガープリント法で分析する。これらのスポットについて同定が不明瞭であった場合のみ、MALDI TOF-TOFまたはLC-ESI-IonTrap-MS/MSに基づいた断片イオン分析を追加した。代表的なMALDI-TOF-MS法の詳細な記述が公開されている(フォグト(Vogt)JA、シュロエル(Schroer)K、ホルツァー(Holzer)K、フンヅィンゲル(Hunzinger)C、クレム(Klemm)M、ビーファング−アルンド(Biefang-Arndt)K、スチッロ(Schillo)S、ケイヒル(Cahill)MA、シュラッテンホルツ(Schrattenholz)A、マッティス(Matthies)H、シュテッグマン(Stegmann)W。2003年。15Nアミノ酸による不完全代謝標識、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間形質量分析法、およびペプチドの相対的アイソトポロジー量分析を用いた、胚幹細胞におけるタンパク質量の定量(Protein abundance quantification in embryonic stem cells using incomplete metabolic labelling with 15N amino acids, matrix-assisted laser desorption/ionisation time-of-flight mass spectrometry, and analysis of relative isotopologue abundances of peptides)。質量分析速報(Rapid Communications in Mass Spectrometry)、2003年;17巻1273-1282頁)。
【0077】
データベース検索
タンパク質の同定のため、マススペクトルから抽出されたペプチド質量を、MASCOTソフトウェア・バージョン1.9(マトリックス・サイエンス(Matrix Science)、ロンドン、詳細はhttp://www.matrixscience.com)を用いて、NCBI非冗長(non-redundant)タンパク質データベース(www.ncbi.nlm.nih.gov)で検索した。
【0078】
レーザー顕微切断およびサンプル・プール化
レーザー・キャプチャー顕微鏡(アークチュラス−ピクセル−リー(Arcturus-PixCell-IIe))を用いて、腫瘍細胞を単離し、チューブに移し、製造元の指示に従って−80℃で保存し、その後凍結CO2の存在下で輸送した。レーザー値30μmを用いて、各腫瘍から10,000LCMショットが得られた。3例の患者より、溶解されたタンパク質サンプルのプールを作成した。各プール当たり得られた30,000LCMショットの等価物のうち、10,000ショットの等価物を125Iで標識し、10,000ショットの等価物を131Iで標識し、10,000ショットの等価物を各条件について12例の患者全てをあわせたプールの構築に用いた。後者のあわせたプールは、125Iでヨウ素化し、分取ゲルで放射性トレーサーとして使用した。
【0079】
プロテオミクス分析
プロテオトープ分析を、ヨウ素化の前にシステインのアルキル化を実施しなかった以外は、基本的には記述の通り実施した(シュラッテンホルツ(Schrattenholz)A、ウォズニィ(Wozny)W、クレム(Klemm)M、シュロエル(Schroer)K、シュテッグマン(Stegmann)W、ケイヒル(Cahill)MA。2005年。神経系胚幹細胞モデルを用いたタンパク質の同位体標識による虚血複雑性低減の差分および定量分子分析(Differntial and quantitative molecular analysis of ischemia complexity reduction by isotopic labelling of proteins using a neural embryonic stem cell model)。J Neurol Sci. 229-230:261-7)。簡潔に言えば、LCMキャップ上で−80℃で保存された顕微切断サンプルを、25℃で8M尿素、4%CHAPS、0.1MトリスpH7.4中で可溶化し、その後、サンプルをサーモミキサー・コンフィート(Thermomixer comfirt)(エッペンドルフ(Eppendorf))で1000rpmで振とうしながら室温で30分間インキュベーションした。サンプルを12,000rcf、25℃で5分間遠心分離し、上澄を除くことによって可溶性抽出物を採取した。容量を20μLに調節し、一定分量を取って、プール当たり3つの腫瘍のプールされたサンプルを構築した(上記参照)。プールされたサンプル分割量3.6μg当たり、各同位体約6MBqを用い、記載された通りの(31)イオドーゲン(iodogen)法によって25μLの反応容量において同一の化学的条件下で、これらの分割量をそれぞれ125Iまたは131Iでヨウ素化した。放射性ヨウ素をアマルシャム・バイオサイエンシーズ(Amersham Biosciences)(フライブルグ(Freiburg))で追跡した。ホエファー(Hoefer)ISO−DALTにおける3×18cmのIPGとしてSDS−PAGE相において実施された、pH4〜9(pH4〜5;pH5〜6;pH6〜9)にわたる連続的な54cmのIPG−IEFにおいて、18cmの市販の固定化pH勾配(IPG)を用いて、2D−PAGEを実施した。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】表1:ER+/ER−の実験についてのプール計画。
【図2】表2:ER+およびER−のサンプルを比較する、乳癌サンプル(プールの腫瘍薄片)のタンパク質スポット定量。
【図3】表3:表2のタンパク質の同定の詳細。
【図4】表4:表2および表3で同定されたタンパク質、および、それらについて、1を超えるタンパク質スポットイソ体をER+対ER−乳癌腫瘍の2D−PAGEゲルにおいて同定した。
【図5】表5:顕微切断したPR+対PR−の実験についてのプール計画。
【図6】表6:PR+およびPR−のサンプルを比較する、乳癌サンプルのタンパク質スポット定量。
【図7】表7:表6のスポットとコンジェニックのER+/PR+対ER+/PR−の腫瘍に由来する全てのスポットの質量分析による同定。
【図8】表8:ER陽性およびER陰性のサンプルを比較する、乳癌サンプル(全体の腫瘍薄片)のタンパク質スポット定量および同定。
【図9】表9:LCMによるPR陽性およびPR陰性サンプルを比較する、乳癌サンプルのタンパク質スポット定量であり、平均で1.5倍を超える有意差で異なるスポットを示す。
【図10】表10:この研究に用いたサンプル、およびサンプルのプールへの分布。
【図11】図1は、プロテオトープゲルの分析スキームである。
【図12A】図2は、1.54cmの差分プロテオトープ解析である。
【図12B】図2は、1.54cmの差分プロテオトープ解析である。
【図13】図3は、総合的平均複合体ゲルのpH5〜6の分析の代表例であり、表8のこのpH範囲における研究において全てのゲルにわたってスポットが一致することを示す。
【図14】図4は、実験的プロテオトープ逆複製およびトレーサーゲル・デザインである。
【図15】図5は、レーザー顕微切断によって単離した癌細胞である。
【図16A】図6は、プールしたLCM(レーザー・キャプチャー・マイクロダイセクション)サンプルの54cmのデージーチェーンIEF(等電点電気泳動)差分プロテオトープ解析である。
【図16B】図6は、プールしたLCM(レーザー・キャプチャー・マイクロダイセクション)サンプルの54cmのデージーチェーンIEF(等電点電気泳動)差分プロテオトープ解析である。
【図17】図7は、タンパク質同定のための総合的平均および分取トレーサーゲルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特にヒトの顕微切断されたサンプルのプロテオミクスを実施する方法であって、サンプルを関心のあるパラメータに基づいて2以上のプールにグループ分けし、該プールが、これらのプール間で差異が明らかであるが所与のプールの構成員に共通である少なくとも1つのタンパク質を示すことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、ヒトのサンプルが、少なくとも1つのタンパク質に対して、特に少なくとも1つの受容体に対して、好ましくは少なくとも1つのホルモン結合受容体、またはそのmRNAに対して、陽性であるか陰性であるかに基づいてプールされることを特徴とする、方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、受容体がエストロゲン受容体(ER)および/またはプロゲステロン受容体(PR)であることを特徴とする、方法。
【請求項4】
前記の請求項の1つに記載の方法であって、タンパク質が、癌細胞、特に乳癌細胞、好ましくは、エストロゲン受容体に陰性(ER−)であるか、実質的に無病および全体の生存確率がより少ない乳癌細胞に、有意により豊富である、ビメンチン、特にそのイソ型であることを特徴とする、方法。
【請求項5】
前記の請求項の1つに記載の方法であって、タンパク質が、癌細胞、特に乳癌細胞、好ましくは、エストロゲン受容体に陰性(ER−)であるか、実質的に無病および全体の生存確率がより少ない乳癌細胞に、有意により豊富である、フィブリノーゲン、特にそのイソ型、および/またはフィブリンであることを特徴とする、方法。
【請求項6】
前記の請求項の1つに記載の方法であって、タンパク質が、癌細胞、特に乳癌細胞、好ましくは、エストロゲン受容体に陰性(ER−)であるか、実質的に無病および全体の生存確率がより少ない乳癌細胞に、有意により豊富である、XTP3転写活性化プロテインAであることを特徴とする、方法。
【請求項7】
前記の請求項の1つに記載の方法であって、タンパク質が、癌細胞、特に乳癌細胞、好ましくは、エストロゲン受容体に陰性(ER−)であるか、実質的に無病および全体の生存確率がより少ない乳癌細胞に、有意により豊富である、プロゲステロン受容体膜成分1(Hpr6.6プロテイン)、特にその2つのイソ型であることを特徴とする、方法。
【請求項8】
前記の請求項の1つに記載の方法であって、タンパク質が、癌細胞、特に乳癌細胞、好ましくは、エストロゲン受容体に陽性(ER+)であり、かつプロゲステロン受容体に陰性(PR−)であるか、実質的に無病および全体の生存確率がより少ない乳癌細胞に、有意により豊富である、レチノイン酸結合タンパク質II型(RABPII)、好ましくは細胞性レチノイン酸結合タンパク質II型(CRABPII)および/または未知の機能の分泌タンパク質(SPUF)であることを特徴とする、方法。
【請求項9】
前記の請求項の1つに記載の方法であって、タンパク質が、癌細胞、特に乳癌細胞、好ましくは、エストロゲン受容体に陽性(ER+)であり、かつプロゲステロン受容体に陽性(PR+)であるか、実質的に無病および全体の生存確率がより良い乳癌細胞に、有意により豊富である、チトクロームb5であることを特徴とする、方法。
【請求項10】
前記の請求項の1つに記載の方法であって、ヒトのサンプルが、小さな組織片由来、特に腫瘍組織片由来、有利には乳癌組織片由来であることを特徴とする、方法。
【請求項11】
特にヒトの顕微切断されたサンプルのプロテオミクスを実施するためのプール方法の使用であって、サンプルを関心のあるパラメータに基づいて2以上のプールにグループ分けし、該プールが、これらのプール間で差異が明らかであるが所与のプールの構成員に共通である少なくとも1つのタンパク質を示すことを特徴とする、使用。
【請求項12】
実質的により少ないかまたはより良い無病および全体の生存確率に関連する、癌、特に乳癌の診断マーカーおよび/または治療標的としての、顕微切断されたヒトのサンプルに由来する少なくとも1つのタンパク質の使用であって、サンプルを関心のあるパラメータに基づいて2以上のプールにグループ分けし、該プールが、これらのプール間で差異が明らかであるが所与のプールの構成員に共通である少なくとも1つのタンパク質を示すことを特徴とする、使用。
【請求項13】
その量が癌細胞において、特に乳癌細胞において、好ましくはエストロゲン受容体に陰性(ER−)の乳癌において有意に増加する、ビメンチンのイソ型の、実質的により少ない無病および全体の生存確率に関連する癌、特に乳癌の診断マーカーおよび/または治療標的としての、使用。
【請求項14】
その量が癌細胞において、特に乳癌細胞において、好ましくはエストロゲン受容体に陰性(ER−)の乳癌において有意に増加する、フィブリノーゲン、特に少なくとも一つのそのイソ型、および/またはフィブリンの、実質的により少ない無病および全体の生存確率に関連する癌、特に乳癌の診断マーカーおよび/または治療標的としての、使用。
【請求項15】
その量が癌細胞において、特に乳癌細胞において、好ましくはエストロゲン受容体に陰性(ER−)の乳癌において有意に増加する、XTP3転移活性化プロテインAの、実質的により少ない無病および全体の生存確率に関連する癌、特に乳癌の診断マーカーおよび/または治療標的としての、使用。
【請求項16】
その量が癌細胞において、特に乳癌細胞において、好ましくはエストロゲン受容体に陽性(ER+)かつプロゲステロン受容体に陰性(PR−)の乳癌において有意に増加する、レチノイン酸結合タンパク質II型(RABPII)、特に細胞性レチノイン酸結合タンパク質II型(CRABPII)の、実質的により少ない無病および全体の生存確率に関連する癌、特に乳癌の診断マーカーおよび/または治療標的としての、使用。
【請求項17】
その量が癌細胞において、特に乳癌細胞において、好ましくはエストロゲン受容体に陽性(ER+)かつプロゲステロン受容体に陰性(PR+)の乳癌において有意に増加する、チトクロームb5の、実質的により良い無病および全体の生存確率に関連する癌、特に乳癌の診断マーカーおよび/または治療標的としての、使用。
【請求項18】
その量が癌細胞において、特に乳癌細胞において、好ましくはエストロゲン受容体に陽性(ER+)かつプロゲステロン受容体に陰性(PR−)の乳癌において有意に増加する、未知の機能の分泌タンパク質(SPUF)の、実質的により少ない無病および全体の生存確率に関連する癌、特に乳癌の診断マーカーおよび/または治療標的としての、使用。
【請求項19】
プロゲステロン受容体膜成分1(Hpr6.6プロテイン)の3つのイソ型の少なくとも1つ、特に、その量が癌細胞において、特に乳癌細胞において、好ましくはエストロゲン受容体に陰性(ER−)の乳癌において有意に増加するようなイソ型の使用であって、実質的により少ない無病および全体の生存確率に関連する癌、特に乳癌の診断マーカーおよび/または治療標的としての、使用。
【請求項20】
実質的により少ないかまたはより良い無病および全体の生存確率に関連する癌、特に乳癌の診断マーカーおよび/または治療標的としての、表2、表6、表8および表9より選択される少なくとも1つの表からの、いくつかまたは全ての関連タンパク質量の使用。
【請求項21】
実質的により少ないかまたはより良い無病および全体の生存確率に関連する癌、特に乳癌の診断および/または治療のための、顕微切断されたヒトのサンプルに由来する少なくとも1つのタンパク質の量および/または活性を調節する少なくとも1つの試薬の使用であって、サンプルを関心のあるパラメータに基づいて2以上のプールにグループ分けし、該プールが、これらのプール間で差異が明らかであるが所与のプールの構成員に共通である該タンパク質を示すことを特徴とする、使用。
【請求項22】
実質的により少ないかまたはより良い無病および全体の生存確率に関連する癌、特に乳癌の診断および/または治療用の薬剤を製造するための、顕微切断されたヒトのサンプルに由来する少なくとも1つのタンパク質の量および/または活性を調節する少なくとも1つの試薬の使用であって、サンプルを関心のあるパラメータに基づいて2以上のプールにグループ分けし、該プールが、これらのプール間で差異が明らかであるが所与のプールの構成員に共通である該タンパク質を示すことを特徴とする、使用。
【請求項23】
請求項21に記載の使用であって、タンパク質が、XTP3転移活性化プロテインA、レチノイン酸結合タンパク質II型(RABPII)、特に細胞性レチノイン酸結合タンパク質II型(CRABPII)、チトクロームb5、未知の機能の分泌タンパク質(SPUF)およびプロゲステロン受容体膜成分1(Hpr6.6プロテイン)よりなる群の少なくとも1つの構成員であることを特徴とする、使用。
【請求項24】
請求項21〜23のうちの1つに記載の使用であって、試薬が、タンパク質のリン酸化の程度に影響を与えること、特に増加または減少させることによって、タンパク質の活性を調節することを特徴とする、使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17】
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【公表番号】特表2008−513735(P2008−513735A)
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−530675(P2007−530675)
【出願日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【国際出願番号】PCT/EP2005/009871
【国際公開番号】WO2006/029836
【国際公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(504385384)プロテオジス アクチェンゲゼルシャフト (5)
【Fターム(参考)】