説明

乳酸菌由来のPPAR依存的遺伝子転写活性化組成物

【課題】ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPAR)の活性化により、脂質代謝が改善され、糖尿病、高脂血症、肥満症の治療、予防、または改善に用いられる安全性の高い組成物を提供する。
【解決手段】ラクトバチルス属に属する乳酸菌、例えば、ラクトバチルス・ヘルベチカス ATCC1120株、同・アミロボルス ATCC33620株、同・ペントサス ATCC8041株、同・クルバタス ATCC25601株、同・ガゼリ ATCC33323株、同・ロイテリ ATCC23272株、同・フルクチボランス NCI9040株(FERM BP−10481)、同・アセトトレランス ATCC43578より選ばれる一種または二種以上の乳酸菌、の有機溶媒抽出物を有効成分として含有する、PPARの活性化により、脂質のβ酸化酵素群の発現を誘導して脂質代謝が改善され、肥満症などの治療、予防、または改善に用いられる組成物を開発した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌の有機溶媒抽出物を有効成分として含有してなる、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(peroxisome proliferator−activated receptor、以下PPARと称する場合もある)の活性化により治療、予防、または改善しうる疾患または症状の治療、予防、または改善に用いられる組成物に関し、さらに詳細には、乳酸菌の有機溶媒抽出物を有効成分として含有してなる、PPARの活性化によってPPAR依存的遺伝子の転写を促進し、特に脂肪酸代謝に重要なβ酸化関連酵素の遺伝子発現を促進して、体内の脂肪燃焼機能を向上させて脂肪蓄積を防ぎ、肥満症や肥満状態によって誘発される糖尿病、高血圧、高脂血症などを治療、予防または改善することができる組成物を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
肥満は体脂肪が過剰に蓄積した状態をいい、栄養の過剰摂取、運動不足などの生活習慣によって発生することが多く、肥満状態は糖尿病、高血圧、高脂血症など多くの生活習慣症の発症基盤となっていると言われ、社会問題化している。
【0003】
肥満対策の基本は食事療法と運動療法であるが、種々の理由でこれらの療法を適用するのが難しい場合には肥満治療薬などを用いた薬物療法が行われている。
【0004】
現在、肥満治療薬として用いられている薬物の中には、脂肪燃焼系において重要な役割を担っているβ酸化関連酵素の遺伝子発現を促進する因子の一つであるPPARを活性化する作用を有する化学合成薬剤が知られており、例えばフェノフィブレートやベザフィブレートといったフィブレート製剤がある。しかしながら、これらの化学合成薬剤による治療は長期間にわたって継続する必要がある上に、副作用を伴うことなどが問題となっている。
【0005】
それゆえ、副作用のリスクが少なく安全性に優れたものが期待されている中で、最近ではPPARを活性化する天然物由来成分としてカテキンやフムロン類、イソフムロン類、もしくはルプロン類などが開示されている。しかし、これらの天然物や食品素材由来のもののPPARを活性化する作用や、肥満の予防、治療、また改善の効果は充分満足できるものではなかった。
【0006】
一方、古来より食品分野で利用されてきており、安全性が高い発酵微生物である乳酸菌についても、例えば、多糖類物質を生成するラクトバシラス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)を経口摂取することによる肥満症予防・治療用製剤や(特許文献1)、また、乳酸菌培養物等を有効成分とする内臓脂肪蓄積防止用組成物又は食品(特許文献2)などが開示されている。
【0007】
しかし、これらの乳酸菌利用技術は、腸内などヒト体内における乳酸菌の活動や乳酸菌の生産する酵素類を利用しようとするものであって、PPARを活性化する作用を利用するものではなく、また乳酸菌から抽出した物質を利用するものでもなかった。
【0008】
従って、PPARを活性化する作用がより強く、また、肥満の予防、治療、または改善の効果がより強い安全性の高い物質を開発することが求められていた。
【特許文献1】特開2005−40123号公報
【特許文献2】特開平10−298083号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、安全性が高く、且つ、PPAR活性化作用が強くて、PPAR依存的遺伝子の転写活性を促進し、特に脂肪酸代謝に重要なβ酸化関連酵素の遺伝子発現を促進して、体内の脂肪燃焼機能を向上させて脂肪蓄積を防ぎ、肥満症及び肥満状態により誘発される糖尿病、高血圧、高脂血症などを治療、予防または改善することができる組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、安全性に優れ、副作用のリスクが少ないPPAR活性化作用が強くて、ひいては脂肪燃焼効果が強く、より強力な肥満防止、治療、改善作用を有する物質を見つける為に、天然に存在するものを対象とし広範囲に探索を行った。
【0011】
その結果、様々な発酵食品という形で食経験を有する乳酸菌に着目し、更にその処理物について検討したところ、有機溶媒抽出物に上記活性があることをはじめて見出し、本発明の完成に至ったものである。
【0012】
すなわち本発明は、乳酸菌の有機溶媒抽出物を有効成分としてなることを特徴とするものであって、次のような態様が例示される。
【0013】
(1)乳酸菌の有機溶媒抽出物を有効成分として含有してなることを特徴とする、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体の活性化により治療、または予防、または改善しうる疾患あるいは症状の治療、または予防、または改善用組成物。
【0014】
(2)ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体の活性化により治療、または予防、または改善しうる疾患あるいは症状が、肥満であることを特徴とする上記(1)に記載の組成物。
【0015】
(3)乳酸菌が、ラクトバチルス・ヘルベチカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・アミロボルス(Lactobacillus amylovorus)、ラクトバチルス・ペントサス(Lactobacillus pentosus)、ラクトバチルス・クルバタス(Lactobacillus curvatus)、ラクトバチルス・ガゼリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・フルクチボランス(Lactobacillus fructivorans)、ラクトバチルス・アセトトレランス(Lactobacillus acetotolerans)より選ばれる一種または二種以上であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の組成物。
【0016】
(4)乳酸菌が、ラクトバチルス・ヘルベチカス ATCC1120(Lactobacillus helveticus ATCC1120)株、ラクトバチルス・アミロボルス ATCC33620(Lactobacillus amylovorus ATCC33620)株、ラクトバチルス・ペントサス ATCC8041(Lactobacillus pentosus ATCC8041)株、ラクトバチルス・クルバタス ATCC25601(Lactobacillus curvatus ATCC25601)株、ラクトバチルス・ガゼリ ATCC33323(Lactobacillus gasseri ATCC33323)株、ラクトバチルス・ロイテリ ATCC23272(Lactobacillus reuteri ATCC23272)株、ラクトバチルス・フルクチボランス NCI9040(Lactobacillus fructivorans NCI9040)株(FERM BP−10481)、ラクトバチルス・アセトトレランス ATCC43578(Lactobacillus acetotolerans ATCC43578)株より選ばれる1株または2株以上であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の組成物。
【0017】
(5)飲食品であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の組成物。
【0018】
(6)一日当り1〜30gの乳酸菌由来の有機溶媒抽出物を摂取することができるように設計されたことを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の組成物。
【0019】
(7)乳酸菌の有機溶媒抽出物が、乳酸菌の乾燥菌体に有機溶媒を加え、ホモジェナイザー処理又は超音波破砕した後の上清を濃縮乾固し、乾固物に有機溶媒を加えてなるものであって、淡黄色、水には不溶性であり、粘性は有しないものであることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の組成物。
【0020】
(8)乳酸菌の乾燥菌体が2以上の乳酸菌の乾燥菌体の混合物であることを特徴とする上記(7)に記載の組成物。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、乳酸菌の有機溶媒抽出物を摂取することにより、PPAR活性化作用が高まり、肝臓のβ酸化関連酵素の遺伝子発現が促進され、脂質代謝が促進される結果、肥満を予防、治療及び改善でき、さらに肥満状態に誘導される糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣症を予防し、治療及び改善しうる組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0023】
本発明で使用する乳酸菌としては、PPARの活性化能を持つ抽出物を提供可能な乳酸菌であれば全てのものが用いられるが、中でも安全性の観点からは、ラクトバチルス属(Lactobacillus)に属する乳酸菌が望ましい。
【0024】
例えば、ラクトバチルス・ヘルベチカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・アミロボルス(Lactobacillus amylovorus)、ラクトバチルス・ペントサス(Lactobacillus pentosus)、ラクトバチルス・クルバタス(Lactobacillus curvatus)、ラクトバチルス・ガゼリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・フルクチボランス(Lactobacillus fructivorans)、ラクトバチルス・アセトトレランス(Lactobacillus acetotolerans)などを挙げることができ、中でもラクトバチルス・アミロボルス(Lactobacillus amylovorus)、ラクトバチルス・フルクチボランス(Lactobacillus fructivorans)、ラクトバチルス・アセトトレランス(Lactobacillus acetotolerans)は効果が高く、適している。
【0025】
さらに具体的には、ラクトバチルス・ヘルベチカス ATCC1120(Lactobacillus helveticus ATCC1120)株、ラクトバチルス・アミロボルス ATCC33620(Lactobacillus amylovorus ATCC33620)株、ラクトバチルス・ペントサス ATCC8041(Lactobacillus pentosus ATCC8041)株、ラクトバチルス・クルバタス ATCC25601(Lactobacillus curvatus ATCC25601)株、ラクトバチルス・ガゼリ ATCC33323(Lactobacillus gasseri ATCC33323)株、ラクトバチルス・ロイテリ ATCC23272(Lactobacillus reuteri ATCC23272)株、ラクトバチルス・フルクチボランス NCI9040(Lactobacillus fructivorans NCI9040)株、ラクトバチルス・アセトトレランス NCIATCC43578(Lactobacillus acetotolerans ATCC43578)株などがあげられ、中でも、ラクトバチルス・アミロボルス ATCC33620(Lactobacillus amylovorus ATCC33620)株、ラクトバチルス・フルクチボランス NCI9040(Lactobacillus fructivorans NCI9040)株や、ラクトバチルス・アセトトレランス ATCC43578(Lactobacillus acetotolerans ATCC43578)株が好ましいものである。
【0026】
なお、これらの乳酸菌株のうち、ATCC番号が附された乳酸菌株は、ATCC(アメリカン・タイプカルチャー・コレクション)に保管されており譲受可能なものであり、また、ラクトバチルス・フルクチボランス NCI9040(Lactobacillus fructivorans NCI9040)株は、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に2005年12月27日付で寄託されており、その受託番号は、FERM BP−10481である。
【0027】
これらの微生物の培養方法は、通常用いられる方法であれば、液体培養法、固体培養法などのいずれの方法でも良い。すなわち培養する微生物に適した炭素源、窒素源、無機物、その他の栄養素を適切な割合で含有した合成培地又は天然培地のいずれでも使用できる。これを任意の培養条件で培養し、遠心分離装置により集菌する。
【0028】
集菌された乳酸菌について極性溶媒による抽出を行い、抽出物を得る。ここでいう抽出とは、乳酸菌を極性溶媒で抽出して得られる抽出液、その希釈液、濃縮液、エキス、これを乾燥して得られる乾燥物、及び分離精製された化合物を意味する。
【0029】
また、ここで極性溶媒とは、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール等のアルコール類、1,4−ジオキサン等のエーテル類、アセトン等のケトン類、アセトニトリル等のニトリル類が挙げられ、好ましくは、メタノール、エタノール等の低級アルコールが挙げられる。
【0030】
抽出物としては、乳酸菌の極性溶媒抽出物であれば広く使用することができ、例えば次のようにして製造することができる。先ず、集菌された乳酸菌体に極性溶媒を加え、0℃〜室温(例えば15〜35℃)で10〜90分、好ましくは30〜60分攪拌し、必要に応じて濾過又は遠心分離等の操作により不溶物を除き、溶媒を除去して濃縮することにより、乳酸菌有機溶媒抽出物を得ることができる。なお、乳酸菌体は破砕することなくそのまま極性溶媒抽出するほか、破砕した菌体を抽出処理に付したり、破砕しながら抽出処理したりしてもよい。破砕処理としては、乳鉢等ですりつぶしたり、超音波処理したり、ホモジェナイザー処理したり、菌体破砕処理の常法が適宜使用される。
【0031】
更に具体的には、次のようにして乳酸菌の有機溶媒抽出物を製造することができる。先ず、乳酸菌を培養した後、培養液を遠心分離等の固液分離処理に供して集菌し、凍結乾燥する。
【0032】
乾燥菌体1gに1〜10ml、好ましくは2〜8mlの有機溶媒(エタノール、メタノール、プロパノール等)を加え、超音波破砕機により0.5〜5分間処理して、超音波破砕処理する。所望する場合、菌体を破砕できるのであれば他の手段も利用可能である。次いで、固液分離処理によって上清を回収する。例えば、5,000〜10,000×g、4℃、5〜30分間、遠心分離すればよい。この処理は、上清を分離回収する目的で行うものであるから、遠心分離の条件は上記範囲内で適宜定めればよい。場合によっては上記範囲を逸脱してもよい。また、遠心分離以外の濾過といった既知の各種固液分離処理も可能である。得られた上清を蒸発乾固する。所望する場合、乾固物に0.1〜5ml、好ましくは0.5〜2ml有機溶媒を加え、これを乳酸菌の有機溶媒抽出物としてもよい。
【0033】
本発明の組成物は、乳酸菌の有機溶媒抽出物を有効成分とし含有するものであって、医薬品として使用されるほか、通常の飲食品はもとより、機能性食品、特定健康保健用食品や健康補助食品としても使用することができる。したがって、本発明は特定の用途に関する用途発明ということができる。
【0034】
本発明に係る組成物の形態は特に制限されず、例えば医薬として使用する場合は(例えば、抗肥満剤、抗糖尿病剤、抗高脂血症剤、ダイエット剤、PPAR活性化剤等)、経口投与剤、非経口投与剤(例えば、乳剤や注射剤等の静脈注射剤その他)として投与することができる。
【0035】
経口投与剤としては、医薬品も飲食品の場合も同様であるが、例えば錠剤、顆粒剤、細粒剤、スティック状剤、カプセル剤、トローチ剤、などの経口固形製剤、およびシロップ剤などの経口液剤などでもよい。食品の場合はドリンク剤であっても良い。医薬品の場合は、非経口投与剤、例えば乳剤、注射剤などの静脈注射剤でも良く、さらに、組成物の種類に応じて各種賦形剤や保存剤や溶剤等の担体成分を用いることができ、必要に応じて、他の生理活性成分などを併用することもできる。
【0036】
また、飲食品とする場合には、例えば、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPAR)の活性化機能を有する旨の表示を付した、又は、脂肪燃焼効果を有する旨の表示を付した、さらにはペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPAR)の活性化により治療、予防、または改善しうる疾患または症状、例えば、肥満、糖尿病、高脂血症などの治療、予防、または改善する旨の表示を付した、特定保健用食品(健康食品)などが挙げられる。
【0037】
本発明による有効成分の投与量または摂取量は、受容者の性別、年齢、体重、および症状や投与時間、剤形、投与方法、薬剤の組み合わせ等に依存して決定すればよいが、例えば、1日に一人あたり、1〜30gの乳酸菌から抽出した有機溶媒抽出物を投与するのが好ましく、さらに好ましくは10〜30gの乳酸菌相当量を摂取することができる。
この場合、1日あたりの摂取回数は一回に限定される必要もなく、一日の中で数回に分けて摂取することもできる。
【0038】
ちなみに、本発明においては、マウスにおいて0.1〜0.3gの乳酸菌から抽出した有機溶媒抽出物を投与することで効果が見られた。この結果をヒトに換算する場合は一般的に10〜100倍とする方法が採用されているため、1日に一人あたり、1〜30gの乳酸菌から抽出した有機溶媒抽出物を、好ましくは10〜30gの乳酸菌から抽出した有機溶媒抽出物を摂取することで効果があると考えられる。本発明に係る組成物の有効成分は、天然物でありしかも食経験もある乳酸菌由来物であるので、安全性に格別の問題はなく、現にマウスを用いた10日間の急性毒性試験の結果、1000mg/Kgの経口投与でも死亡例は認められなかった。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例等を挙げて本発明を更に詳細に述べるが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0040】
(実施例1) 乳酸菌の有機溶媒抽出物の製造
5mlのMRS培地(1リッターあたり、ポリペプトン10.0g、肉エキス8.0g、酵母エキス4.0g、グルコース20g、「ツイーン80」1.0g、リン酸水素二カリウム2.0g、クエン酸水素二アンモニウム2.0g、酢酸ナトリウム三水和物5.0g、硫酸マグネシウム七水和物0.2g、硫酸マンガン四水和物0.05g)をオートクレーブ中121℃で15分間滅菌したものに、表1に示した各乳酸菌を接種して30℃で12時間培養した。この全量を500mlのMRS培地に加えて30℃でさらに24時間培養した。
【0041】
なお、表1中のラクトバチルス・フルクチボランス NCI9040(Lactobacillus fructivorans NCI9040)株は、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に2005年12月27日付で寄託されており、その受託番号は、FERM BP−10481である。
【0042】
【表1】

【0043】
培養終了後、500mlの培養液を遠心分離(7500×g、4℃、15分間)により集菌し、さらに凍結乾燥した。得られた各乳酸菌の500ml培養物あたりの乾燥菌体重量を表2に示した。
【0044】
【表2】

【0045】
これらの乾燥菌体1gが入った15mlの試験管に5mlのエタノールを加え、超音波破砕機(ブランソン社製 ソニファイアー450)を用いてOutput control:7、Duty cycle:60%の条件で2分間超音波破砕を行った。これを再び遠心分離(7500×g、4℃、15分間)することによって上清を回収し、得られた上清をロータリーエバポレーターで濃縮乾固し、乾固物に1mlのエタノールを加えて各乳酸菌の抽出物を得た。
得られた抽出物は淡黄色、水には不溶で脂溶性であり、粘性は無かった。
【0046】
(実施例2) PPAR依存的遺伝子転写活性の試験
ヒト肝臓ガン由来細胞HepG2を24穴プレートにまき、5%FBSを含んだDMEM中で24時間培養する。
【0047】
一方、PPAR応答配列(PPAR responsive element)TGACCTTTGTBBTの繰り返し配列を含んだDNA鎖を、SV40プロモーター遺伝子、蛍ルシフェラーゼ遺伝子を含むレポーターベクターpGL3−promoter vector(Promega社製)に挿入した。以上のプラスミドをコントロールプラスミドであるウミシイタケルシフェラーゼレポーターベクターpRL−TK Vectorと共にHepG2細胞にFugene6(Roche Diagnostics社製)を用いてトランスフェクションした。
【0048】
トランスフェクションから12時間後、培養液を、被検物質を含んだD−MEM(5% FBS)に交換し、更に24時間37℃、5%CO2条件下でインキュベートした。
【0049】
インキュベート後、細胞をPBSで洗浄した後に細胞を回収し、Dual−Luciferase Reporter Assay System(Promega製)を用いて細胞を溶解し、溶解液にルシフェリンを含む基質溶液を加え、ホタルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ活性をルミノメーターで測定した。ホタルルシフェラーゼ活性をウミシイタケルシフェラーゼ活性で割った値をルシフェラーゼ活性値とした。
【0050】
HepG2における各被検物質によるPPAR依存的遺伝子転写活性能を表3に示す。なお、結果は陰性対照の値を1としたときの活性相対値で表記した。また、陽性対照はシプロフィブレート(ciprofibrate)を用いた。
【0051】
【表3】

【0052】
表3の結果から、ラクトバチルス・ヘルベチカス ATCC1120(Lactobacillus helveticus ATCC1120)株、ラクトバチルス・アミロボルス ATCC33620(Lactobacillus amylovorus ATCC33620)株、ラクトバチルス・ペントサス ATCC8041(Lactobacillus pentosus ATCC8041)株、ラクトバチルス・クルバタス ATCC25601(Lactobacillus curvatus ATCC25601)株、ラクトバチルス・ガゼリ ATCC33323(Lactobacillus gasseri ATCC33323)株、ラクトバチルス・ロイテリ ATCC23272(Lactobacillus reuteri ATCC23272)株、ラクトバチルス・フルクチボランス NCI9040(Lactobacillus fructivorans NCI9040)株、ラクトバチルス・アセトトレランス ATCC43578(Lactobacillus acetotolerans ATCC43578)株などの乳酸菌のエタノール抽出物にPPAR依存的遺伝子転写活性が認められた。
【0053】
中でも、ラクトバチルス・アミロボルス ATCC33620(Lactobacillus amylovorus ATCC33620)株、ラクトバチルス・フルクチボランス NCI9040(Lactobacillus fructivorans NCI9040)株や、ラクトバチルス・アセトトレランス ATCC43578(Lactobacillus acetotolerans ATCC43578)株のエタノール抽出物には、シプロフィブレート(ciprofibrate)を用いた陽性対照区よりも強い活性を有することが確認された。
【0054】
(実施例3) 体重増加及びエネルギー効率に及ぼす効果
(1)乳酸菌乾燥物の投与による効果
乳酸菌乾燥物の投与効果について、以下の試験条件で試験した。
【0055】
まず、表5に示した3種類の乳酸菌株を、それぞれ以下の方法で培養した。すなわち、5mlのMRS培地をオートクレーブ中121℃で15分間滅菌したものに、各乳酸菌株を接種し、30℃で12時間培養した。その後、各培養液全量を、それぞれ500mlのMRS培地に加えて30℃でさらに24時間培養した。さらに、各培養液全量を10リッターのMRS培地に加え、さらに30℃で48時間培養した。
【0056】
培養終了後、各培養液をそれぞれ遠心分離(7500×g、4℃、15分間)して集菌した。その後、これらを水2リッターに懸濁した後、凍結乾燥することにより各乳酸菌の乾燥菌体を得た。
【0057】
<試験条件>
(使用動物)4週齢、KKAy/Ta Jclマウス 雌 (日本クレア)
(飼料・水)表4に示すAIN−93G精製飼料(粉末)および水を自由摂取させて1週間馴化飼育を行った。試験飼料は自由摂食させ、飲料水は水道水を与えた。なお、表4中において、*を付したMineral Mixture AIN93G、及び、Vitamin Mixture AIN93Gの組成は、「ジャーナル・オブ・ニュートリッション(J.Nutr.)」、123巻、p.1939−1951、1993年に従った。
【0058】
(実験群)AIN−93Gを摂食させた群(対照群、n=5)、および表5に示した乳酸菌乾燥物を5重量%添加したAIN−93Gを摂食させた群(乳酸菌乾燥物群、n=5)を設定した。
【0059】
【表4】

【0060】
【表5】

【0061】
以上の結果を表6に示す。
【0062】
【表6】

【0063】
表6の結果では、乳酸菌乾燥物を摂取しても、体重やエネルギー効率に関して、有意な効果は見られなかった。
【0064】
(2)乳酸菌抽出物の投与による効果
乳酸菌抽出物の投与効果について、以下の試験条件で試験した。
【0065】
まず、表7に示した3種類の乳酸菌株を、それぞれ以下の方法で培養した。すなわち、5mlのMRS培地をオートクレーブ中121℃で15分間滅菌したものに、各乳酸菌株を接種し、30℃で12時間培養した。その後、各培養液全量を、それぞれ500mlのMRS培地に加え、30℃でさらに24時間培養した。さらに、各培養液全量をそれぞれ10リッターのMRS培地に加え、30℃で48時間培養した。
【0066】
培養終了後、各培養液をそれぞれ遠心分離(7500×g、4℃、15分間)して集菌した。その後、集菌した菌体を2リッターの水に懸濁した後、凍結乾燥して、各乳酸菌の乾燥物を得た。
【0067】
得られた各乳酸菌の乾燥物を表7に示した混合比で混合し、総菌体重量の10倍重量のエタノールを加えてホジェナイザーで攪拌抽出した。これを再び遠心分離(7500×g、4℃、15分間)することによって上清を回収し、得られた上清をロータリエバポレーターで濃縮乾固し、乾固物に10mlのエタノールを加えて乳酸菌抽出物を得た。
得られた抽出物は淡黄色、水には不溶で脂溶性であり、粘性は無かった。
【0068】
【表7】

【0069】
<試験条件>
(使用動物)4週齢、KKAy/Ta Jclマウス 雌 (日本クレア)
飼料・水:表4に示すAIN−93G精製飼料(粉末)および水を自由摂取させて1週間馴化飼育を行った。試験飼料は自由摂食させ、飲料水は水道水を与えた。
【0070】
(実験群)AIN−93Gを摂食させた群(対照群、n=5)、および表7に示した混合比で調製した上記の乳酸菌抽出物を3重量%添加したAIN−93Gを摂食させた群(乳酸菌エタノール抽出物群、n=5)を設定した。
【0071】
以上の結果を表8に示した。
【0072】
【表8】

【0073】
以上の結果、乳酸菌抽出物を摂取することによって、体重自体には有意な差はみとめられなかったが、エネルギー効率において有意な低下が認められ、肥満を予防する効果が確認された。
【0074】
(実施例4) 乳酸菌抽出物によるβ酸化酵素遺伝子の発現促進
以下の方法で解析した。
【0075】
<試験条件>
(使用動物)4週齢、KKAy/Ta Jclマウス 雌 (日本クレア)
飼料・水:表4に示すAIN−93G精製飼料(粉末)および水を自由摂取させて1週間馴化飼育を行った。試験飼料は自由摂食させ、飲料水は水道水を与えた。
【0076】
(実験群)AIN−93Gを摂食させた群(対照群、n=5)、および実施例3で調製した乳酸菌抽出物を3重量%添加したAIN−93Gを摂食させた群(乳酸菌抽出物群、n=5)を設定した。
【0077】
<解析条件>
肝臓からの採集:試験飼料を与えて4週間飼育した後、5時間絶食させたマウスをエーテル麻酔下で直ちに断頭により血液を採集した。さらに開腹をして肝臓を採集し、重量測定後、液体窒素にて凍結し−80℃で保存した。また遺伝子解析用に、肝臓組織の一部を直ちにRNAlater(Ambion社製)中に保存した。
【0078】
肝臓からのRNAの採取と肝臓β酸化遺伝子発現の測定:total RNAはRneasy(QIAGEN社製)を用いて精製した。分光光度計を用いてRNA量の測定を行った後に、Taqman Reverse Transcription reagent(Applied Bio Systems社製)を用いてcDNAを取得した。得られたcDNAに対し、TaqMan プローブとしてACOについてはMm00443579 m1(Applied Bio Systems社製)、MCADについてはMm00431611 m1(Applied Bio Systems社製)を使用した。内部標準遺伝子としてはacidic ribosomal phosphoprotein P0(酸性リボソーム蛋白質 36B4) 遺伝子Mm01974474 gH(Applied Bio Systems社製)を用いた。TaqManPCRはApplied Bio Systems社製のPRISM7000を用いて増幅・検出を行った。
【0079】
以上の実験において、β酸化酵素であるacyl−CoA oxidase(ACO) mRNA、およびmedium−chain acyl−CoA dehydorogenase(MCAD) mRNAの発現量を解析し、その結果を表9に示した。
【0080】
なお、表中の*は、有意差検定の結果、対照群に対して危険率P<0.01で有意差が認められたことを示す。
【0081】
【表9】

【0082】
以上の結果、乳酸菌体抽出物を摂取することによって肝臓の乳酸菌抽出物によるβ酸化酵素遺伝子の発現が有意に誘導されることが確認され、脂質代謝が活性化されることが期待できることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸菌の有機溶媒抽出物を有効成分として含有してなることを特徴とする、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体の活性化により治療、または予防、または改善しうる疾患あるいは症状の治療、または予防、または改善用組成物。
【請求項2】
ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体の活性化により治療、または予防、または改善しうる疾患あるいは症状が、肥満であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
乳酸菌が、ラクトバチルス・ヘルベチカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・アミロボルス(Lactobacillus amylovorus)、ラクトバチルス・ペントサス(Lactobacillus pentosus)、ラクトバチルス・クルバタス(Lactobacillus curvatus)、ラクトバチルス・ガゼリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・フルクチボランス(Lactobacillus fructivorans)、ラクトバチルス・アセトトレランス(Lactobacillus acetotolerans)より選ばれる一種または二種以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
乳酸菌が、ラクトバチルス・ヘルベチカス ATCC1120(Lactobacillus helveticus ATCC1120)株、ラクトバチルス・アミロボルス ATCC33620(Lactobacillus amylovorus ATCC33620)株、ラクトバチルス・ペントサス ATCC8041(Lactobacillus pentosus ATCC8041)株、ラクトバチルス・クルバタス ATCC25601(Lactobacillus curvatus ATCC25601)株、ラクトバチルス・ガゼリ ATCC33323(Lactobacillus gasseri ATCC33323)株、ラクトバチルス・ロイテリ ATCC23272(Lactobacillus reuteri ATCC23272)株、ラクトバチルス・フルクチボランス NCI9040(Lactobacillus fructivorans NCI9040)株(FERM BP−10481)、ラクトバチルス・アセトトレランス ATCC43578(Lactobacillus acetotolerans ATCC43578)株より選ばれる1株または2株以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の記載の組成物。
【請求項5】
飲食品であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
一日当り1〜30gの乳酸菌由来の有機溶媒抽出物を摂取することができるように設計されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
乳酸菌の有機溶媒抽出物が、乳酸菌の乾燥菌体に有機溶媒を加え、超音波破砕した後の上清を濃縮乾固し、乾固物に有機溶媒を加えてなるものであって、淡黄色、水には不溶性であり、粘性は有しないものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
乳酸菌の乾燥菌体が2以上の乳酸菌の乾燥菌体の混合物であることを特徴とする請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
乳酸菌の有機溶媒抽出物が、乾燥乳酸菌菌体1gに1〜10mlの有機溶媒(メタノール、エタノール、プロパノールから選ばれる少なくともひとつ)を加え、0.5〜5分間の超音波破砕処理を行い、5,000〜10,000×g、5〜30分間の遠心分離処理を行い、得られた上清をロータリーエバポレーターによって蒸発乾固し、乾固物に上記有機溶媒を0.1〜5ml添加してなるものであること、を特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。

【公開番号】特開2007−284360(P2007−284360A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−110599(P2006−110599)
【出願日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(398065531)株式会社ミツカングループ本社 (157)
【Fターム(参考)】