説明

乾式ガスホルダ及びシール油供給制御方法

【課題】油ポンプの設置台数を削減し、且つシール装置へのシール油の供給量を適切に行う。
【解決手段】乾式ガスホルダ1は、油ポンプ21と、シール装置を複数の区画に分割する複数の分割堰14と、油ポンプから供給されるシール油をシール装置の各区画Aに夫々供給する共通母管23及びシール油供給管24と、各区画A内のシール油の油面高さを測定する油面測定機構15と、ピストン6高さ方向の位置を測定する複数の位置測定機構を有している。位置測定機構及び油面測定機構15の測定値は制御装置に入力され、制御装置は、位置測定機構の測定値に基づいて前記ピストンの傾斜量を求め、さらに各油面測定機構15の測定値とピストンの傾斜量に基づいて、共通母管23に接続された複数のシール油供給管24の弁体26により区画毎に配分するシール油の流量を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾式ガスホルダ及びピストンの外周縁部に配置されたシール装置へのシール油の供給制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、製鉄所においては高炉や転炉から発生する可燃性の副生ガスをエネルギー源として有効利用するために、当該副生ガスを一旦貯留する、例えばピストン昇降式の乾式ガスホルダが設置されている。図7には従来の乾式ガスホルダの概略を示す。乾式ガスホルダは、外面を基柱と回廊に支持された複数枚の側板で構成された円筒状のホルダ本体と、ホルダ本体の内部においてガス量の増減に応じて自在に昇降するピストンを備えている。このピストンの外周縁部には、ピストンが昇降する際に摺動部から内部のガスが漏洩することを防止するため、ホルダ本体の側板内面に摺接するシール部材と、シール部材と側板内面との潤滑を行うと共に水頭圧によりシール部材と側板内面との隙間をシールするシール油を用いたシール装置が設けられている(特許文献1)。
【0003】
このようなシール装置においては、当該シール装置のシール部材と側板内面との隙間からシール油が漏れ出して側板内面に沿って流下するため、ホルダ本体の底面に設置され当該シール油を貯留する油溝と、この油溝のシール油をシール装置に再度供給する油ポンプが設けられ、シール油をシール装置と油溝との間で循環させる循環系統が形成されている。そして、シール装置からのシール油の流下に伴い、油溝に貯留されたシール油の油面高さが上昇し、油面高さが所定の値に達すると、油溝のシール油が油ポンプによりピストン上部まで送られる。
【0004】
また、ピストンが昇降する際にピストンが傾斜すると、傾斜に伴いシール装置内のシール油の油面が変動するが、ガスホルダの直径は数十メートルに及ぶため、僅かな傾斜であっても、傾斜の最高点と最低点では油面高さに大きな差が生じる。そのため、通常は、図7に示すようピストン100の外周縁部に設けられたシール装置101のシール油貯留部102に所定の高さの堰103を設け、シール装置101を複数の区画に分割することで傾斜の影響を最小限に抑えるといった対応がとられている。そして、シール装置101の各区画から流下するシール油の量と、各区画に供給するシール油の量を等しく保ち、シール装置101の油面の高さを一定に保つために、通常は、図7に示すように、シール装置101の油貯留部102の区画数と同数の油ポンプ110が、ガスホルダ111の周方向に沿って設けられている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−219991号公報
【特許文献2】特開2003−214594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述のシール装置101は、油ポンプ110の故障等によりシール装置101へのシール油の供給が停止した場合、シール油の流下により、やがてシール装置101の機能が維持できなくなってしまう。シール装置101の機能が失われた場合、ガスホルダ111を一旦停止させねばならず、それにより需要先へのガスの供給が停止してしまうため、周辺設備に多大な影響を与えることとなる。したがって、そのような事態をさけるため、油ポンプ110には通常予備機が設けられている。
【0007】
しかしながら、油ポンプ110の予備機は、複数台の油ポンプ110に対して夫々設ける必要があり、通常は使用することのない予備機を設けるために、設備設置費用が増加してしまうという問題がある。
【0008】
また、シール装置101の複数の区画に対して、例えば一台(予備機含む)の油ポンプ110を設置して、設備設置費用を削減しようとしても、区画と油ポンプ110の設置位置が一対一で対応しない場合、どの区画からのシール油の流下であるかを区別することができない。この場合、どの区画に対してシール油を供給すればよいかの判断ができず、シール装置101の油面を適正に維持するは困難である。また、各区画に油面計を設け油面計の測定結果に応じてシール油の供給を制御しようとしても、油面計の測定値はピストンの傾斜の影響を受けるためシール装置101の油量を正確に測定することができず、そのため、シール油の供給不足、あるいは供給過剰といった問題が生じてしまう。
【0009】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、油ポンプの設置台数を削減し、且つシール装置へのシール油の供給量を適切に行うことを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するための本発明は、上下方向に移動するピストンを内部に備えた乾式ガスホルダであって、前記ピストンの外周縁部に設けられたシール装置と、前記シール装置を複数の区画に分割する複数の分割堰と、前記分割堰により分割されたシール装置の各区画にそれぞれ連通する複数のシール油供給管と、シール油を循環させる油ポンプと、前記油ポンプに接続されて前記シール油供給管を分岐するように設けられた共通母管と、前記各シール油供給管に夫々設けられ、前記シール装置へのシール油の供給を制御する弁体と、前記乾式ガスホルダの底部の周方向に沿って設けられたシール油を回収する油溝と、前記油ポンプと前記油溝を連通させる吸込管と、前記各油供給管に夫々設けられ、前記シール装置の各区画に夫々設けられ、当該区画内のシール油の油面高さを測定する油面測定機構と、前記ピストンの上方に設けられ、当該ピストンの周方向に沿って少なくとも三つ以上配置された、前記ピストンの前記乾式ガスホルダ内での高さ方向の位置を測定する複数の位置測定機構と、前記各位置測定機構の測定値に基づいて前記ピストンの傾斜量を求め、前記各油面測定機構の測定値及び前記ピストンの傾斜量に基づいて、前記弁体により前記シール装置の各区画に配分するシール油の流量を制御する制御装置と、を有することを特徴としている。
【0011】
本発明者らは、シール装置の区画毎にシール油の正確な貯留量、即ち油面高さを、ピストンの傾斜の影響を受けることなく求めることができれば、この油面高さの情報に基づいて、シール装置の各区画に適正にシール油を供給することが可能となり、その場合、油ポンプを区画毎に複数設ける必要がなくなる点に着目した。本発明によれば、制御装置が位置測定機構の測定値に基づいてピストンの傾斜量を求め、油面測定機構の測定値とピストンの傾斜量との関係に基づいてシール装置へのシール油の供給の制御を行うので、油ポンプの設置台数が一台だけであっても、必要な箇所に必要な量のシール油を供給することが可能となる。このため、各区画へのシール油の供給を制御するにあたり、従来のように各区画に対して一対一で油ポンプを設ける必要がなくなり、設備の設置費用の低減を図ることができる。また、油ポンプの台数が低減されることにより、メンテナンス等に要する費用も削減することができる。
【0012】
前記複数のシール油供給管には、当該シール油供給管内を輸送されるシール油の量を測定してシール装置の異常監視をする流量計が、夫々設けられていてもよい。
【0013】
前記共通母管は、前記乾式ガスホルダの周方向に沿って設けられた環状部を有し、前記複数のシール油供給管は、前記共通母管の環状部に夫々接続されていてもよい。
【0014】
別な観点による本発明は、乾式ガスホルダのピストンの外周縁部に設けられたシール装置へのシール油の供給量を制御するシール油供給制御方法において、前記シール装置を複数の区画に分割する複数の分割堰と、前記分割堰により分割されたシール装置の各区画に夫々連通する複数の油供給管と、シール油を循環させる油ポンプと、前記油ポンプに接続されて前記シール油供給管を分岐するように設けられた共通母管と、前記各油供給管に夫々設けられ、前記シール装置へのシール油の供給を遮断する弁体と、前記乾式ガスホルダの底部の周方向に沿って設けられたシール油を回収する油溝と、前記油ポンプと前記油溝を連通させる吸込管と、前記シール装置の各区画に夫々設けられ、当該区画内のシール油の油面高さを測定する油面測定機構と、前記ピストンの上方に設けられ、当該ピストンの周方向に沿って少なくとも三つ以上配置された、前記ピストンの前記乾式ガスホルダ内での高さ方向の位置を測定する複数の位置測定機構と、を有する乾式ガスホルダであって、前記各位置測定機構の測定値に基づき、前記ピストンの傾斜量を求め、前記各油面測定機構の測定値及び前記ピストンの傾斜量に基づいて、前記弁体により前記シール装置の各区画に配分するシール油の流量を制御することを特徴としている。
【0015】
前記複数のシール油供給管に、当該シール油供給管内を輸送されるシール油の量を測定する流量計を夫々設け、シール装置の異常監視を行ってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、油ポンプの設置台数を削減し、且つシール装置へのシール油の供給量を適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施の形態にかかる乾式ガスホルダの構成の概略を示す縦断面図である。
【図2】本実施の形態にかかる乾式ガスホルダの構成の概略を示す横断面図である。
【図3】シール装置近傍の構成の概略を示す説明図である。
【図4】ピストンが傾斜した状態における油貯留部の状態を示す縦断面図である。
【図5】ピストンの傾斜量についての説明図である。
【図6】ピストンの傾斜量についての説明図である。
【図7】従来のガスホルダの概略図である
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1に示すように乾式ガスホルダ1は、略円筒状をなすホルダ本体5と、ホルダ本体5の外面に設けられた複数の基柱Pと、ホルダ本体5の内部に設けられたピストン6と、ホルダ本体5の上端開口部を閉塞する屋根7と、後述する制御装置40を有している。ピストン6は、ホルダ本体5の内部においてガス容量に応じて上下動を行う。ホルダ本体5の内部空間は、ピストン6によって、ピストン6よりも下方の領域とピストン6よりも上方の領域とに仕切られている。基柱Pは、図2に示すように、乾式ガスホルダ1の周方向に沿って等間隔に立設されている。図示の都合上、図2では8本の基柱P1〜8を描図している。
【0019】
ホルダ本体5の内部において、ピストン6よりも下方の領域は、ガスの貯留部となっている。ホルダ本体5の下部には、ガスの流通路(図示せず)が接続されており、この流通路を通じて導入されたガスが、ホルダ本体5の内部において、ピストン6よりも下方の領域に貯留されるようになっている。
【0020】
ピストン6の外周部には、ピストン6より下方の領域とピストン6より上方の領域とを封止するためのシール装置10と、シール装置10の上方であってホルダ本体5内面の基柱Pに対応する位置に当接して設けられたガイドローラ11を備えている。ガイドローラ11は、ホルダ本体5の内面に沿って上下方向に所定の間隔で設けられた一対のローラであり、ホルダ本体5の内面を外方に押圧することで、ピストン6が上下方向に移動する際に、ピストン6の案内を行う。なお、ガイドローラ11は、ピストン6外周部の上面に配置された支持部11aを介してピストン6に支持されている。
【0021】
シール装置10は、図3に示すように、ピストンの外周縁部に接続された容器12と、容器12に接続され、ホルダ本体5の内面と摺動自在に設けられたシール部材17とを有し、シール部材17と容器12とによりその内部にシール油Nを貯留するシール油貯留部13が形成されている。シール装置10のシール油貯留部13内には、図2に示すように、ホルダ本体5の内側面に対して垂直に設けられた、例えば略平板状の分割堰14が所定の間隔で複数配置されている。この分割堰14は、例えば容器12により支持され、ホルダ本体5の内側面とは摺動自在になっている。この分割堰14によりシール装置10、即ち油貯留部13は複数の区画Aに分割され、夫々の区画Aが独立してシール油Nを貯留できるようになっている。このように、油貯留部13を複数の区画Aに分割することで、油貯留部13の周方向の長さが短くなるので、ピストン6が傾斜した際の油貯留部13内の油面変動が最小限に抑えられる。なお、図2においては、四つの分割堰14により四つの区画Aが形成された状態を描図しているが、分割堰14の設置数、即ち区画Aの数は任意に設定が可能である。
【0022】
分割堰14により分割された油貯留部13の各区画Aには、例えば図2に示すように、各区画内に貯留されるシール油の油面高さを測定する油面測定機構15が夫々設けられている。油面測定機構15は、図3に示すように、容器12の底面12aの法線方向に沿って容器12の底面からシール油Nの液面までの距離(以下、「油面高さL」という)を測定するように配置され、例えばピストン6の外周縁部に設けられた支持部材16により支持されている。なお、油面測定機構15としては、超音波式や静電容量式のレベル計などの、液面のレベル変動を連続的に測定できるものが用いられる。
【0023】
ホルダ本体5の底面には、図1に示すように、ホルダ本体5の内側面に沿って油溝20が設けられている。シール装置10から流下したシール油Nは、ホルダ本体5の内側面を伝ってこの油溝20に貯留される。
【0024】
ホルダ本体5の外部には、油溝20に貯留されたシール油Nを循環させる、即ちシール油Nをシール装置10に供給する油ポンプ21が設けられている。油ポンプ21の吸込口には油溝20に連通する吸込管22が接続されている。なお、油溝20に貯留されたシール油にはガス中から入った凝結水等の不純物を含むことがあるので、吸込管22と油ポンプ21との間に油水分離装置(図示せず)を設けてもよい。
【0025】
油ポンプ21の吐出口には、シール装置10にシール油を輸送する共通母管23が接続されている。共通母管23は、図1に示すように、例えばホルダ本体5の外周面に沿って鉛直上方に延伸して設けられた垂直部23aと、前記垂直部23aに接続され、図2に示すように、乾式ガスホルダ1の周方向に沿って環状に設けられた環状部23bとを有している。環状部23bには、例えばホルダ本体5の中心方向に向かって複数のシール油供給管24が当該環状部23bから分岐して設けられている。ホルダ本体5の外周面であって油貯留部13の各区画Aに対応する位置にはシール油ポット25が夫々配置されており、シール油供給管24は各シール油ポット25に連通している。シール油ポット25の高さ方向の位置は、ピストン6の上昇時の上限位置より上方となるように設定されている。そして、油ポンプ21、共通母管23及びシール油供給管24を介して各シール油ポット25に供給されたシール油Nは、シール油ポット25からオーバーフローし、ホルダ本体5の内面を伝って流下し、油貯留部13の各区画Aに供給される。なお、シール油ポット25は、シール油供給管24から供給されたシール油Nが乾式ガスホルダ1の内部に飛散することを防止するために設けるものである。したがって、シール油ポット25は必ずしも設ける必要はなく、シール油ポット25を設けない場合は、例えばシール油供給管24をホルダ本体5に連通して設け、シール油供給管24の端部をホルダ本体5の内側面に向けるようにするなどすればよい。
【0026】
各シール油供給管24には、図2に示すように、シール油ポット25、即ち油貯留部13の各区画Aへのシール油Nの供給を制御する弁体26が夫々設けられている。弁体26は流量を調節する機能があるものでもよく、また、間欠的にON−OFF制御のできるような簡単なものであってもよい。
【0027】
屋根7には、図1に示すように、ピストン6の外周部近傍の高さ方向の位置Hを測定する位置測定機構30が設けられている。位置測定機構30は、屋根7の周方向に沿って、例えば90度のピッチで4箇所に配置されている。位置測定機構30としては、例えばワイヤ式あるいは超音波式のレベル計などを用いることができる。
【0028】
各位置測定機構30及び各油面測定機構15は、図3に示す通り、制御装置40に電気的に接続されており、測定結果は制御装置40に夫々入力される。制御装置40には、位置測定機構30と各油面測定機構15の測定結果に基づき、油貯留部13の各区画Aに貯留されているシール油Nの油面高さLを演算により求める演算部41と、油貯留部13の各区画A内のシール油Nの油面高さ設定する設定部42が設けられている。そして、制御装置40は、演算部41により求められた各区画Aのシール油Nの油面高さLを、設定部42に予め所定の幅を持って設定された設定値と比較して油面高さLが設定値の範囲内に収まっているか否かを判断し、その結果に基づいて各区画A内のシール油Nの油面高さLが設定値の範囲内に収まるように油ポンプ21と各弁体26の動作を制御する。
【0029】
次に、演算部41が行う演算について説明する。油貯留部13の各区画Aに貯留されているシール油Nの油面高さLを測定する際、ピストン6の傾斜量が無い状態、即ちピストン6が水平な状態に保たれていれば、油面測定機構15による測定値と、区画A内の実際の油面高さLの値とは、当然等しくなる。したがって、ピストン6が水平な状態(以下、「基準状態」という)においては、測定された油面高さLの値と設定部42に予め設定されている設定値を制御装置40内で比較することで、容易に区画A内のシール油Nの過不足を確認することができる。一方、ピストン6が傾斜した状態(以下、「傾斜状態」という)では、図4に示すように、油面測定機構15の測定値がピストン6の傾斜に応じて変動するため、傾斜状態で測定された油面高さMは、基準状態で測定されたものとは異なる値を示す。したがって、傾斜状態で測定された油面高さMの値をそのまま設定部42の設定値と比較しても、比較の結果は、区画A内に貯留される実際の油量を反映していないものとなる。その結果、油面高さMに基づいて油ポンプ21などの制御を行うと、シール装置10へのシール油Nの供給量が過剰となったり不足したりといった問題が生じるため、シール装置10へのシール油Nの供給を適切に制御するためには、この油面高さMからシール油Nの実際の貯留量を求め、基準状態での測定値、即ちシール油Nの実際の油面高さに換算してやる必要がある。そのため、演算部41では、例えば位置測定機構が周方向等間隔に4つある場合以下の演算が行われる。
【0030】
傾斜状態での油面高さMの値からシール装置10におけるシール油Nの実際の貯留量を求めるにあたっては、先ず、ピストン6の傾斜量の測定が行われる。ピストン6の傾斜量は、各位置測定機構30によりピストン6の高さ方向の位置Hを夫々求め、次いで、各位置測定機構30の測定値を平均し、その値をピストン6の中心点における高さ方向の位置として求める。ピストン6が傾斜している場合は、4つの測定点のうち、隣り合う2点が上述の平均値より大きく、他の隣り合う2点が平均値より小さくなる。そして、ピストン6の周方向において、外周縁部の高さ方向の位置Hが最も高くなる最大傾斜点Sは、図5に示すように、ピストン6の高さ方向の位置Hが4点の平均値より大きい2点を夫々T点及びU点とすると、このT点とU点との間に存在する。そして、たとえば点Tと最大傾斜点Sとの間の平面視における角度をθ、最大傾斜点Sの傾斜量をY、点T及び点Uにおける傾斜量をそれぞれY1、Y2とすると、図5からは下記式(1)及び下記式(2)の関係が導かれる。
【数1】

【数2】

【0031】
上記式(1)において、Y1及びY2の値は位置測定機構30による測定値であり自明であるため、上記式(1)から角度θ、即ちピストン6の周方向における最大傾斜点Sの位置を求めることができ、また上記式(2)からは、ピストン6の最大傾斜点Sにおける傾斜量Yを求めることができる。
【0032】
次に、例えば図4に示される区画Aを、図6に示すように上方から見た際に、この任意の区画Aに設置されている油面測定機構15が、最大傾斜点Sからピストン6の周方向に沿って所定の角度θj離れた点Jに設置されているものと仮定する。その場合、当該区画Aにおいて、油面測定機構15の両側に配置された分離堰14a、14bと最大傾斜点Sとの間の角度をそれぞれθa、θbとし、さらに、分離堰14aと分離堰14bとの間の任意の点Xと最大傾斜点Sとの間の角度をθxとすると、点Xにおけるシール油の油面高さMxは、下記式(3)のように表される。
【数3】

ここで、Mjは、点Jにおける油面測定機構15の測定値である。また、Hx及びHjは、夫々点Xと点Jにおけるピストンの高さ方向の位置であるが、図6に示すように、点Xにおける容器11の高さと点Jにおける容器11の高さとの差分は、HxとHjとの差分である(Hx−Hj)に等しい。そして、Hx及びHjは、上記式(2)より、夫々下記式(4)及び下記式(5)のように表される。
【数4】

【数5】

したがって、位置測定機構30の測定値、上記式(4)及び上記式(5)から上記式(2)の値を求めることができる。
【0033】
そして、区画A内におけるシール油Nの貯留量は油面高さMxの値を分割堰14aから分割堰14bの間の区間、つまりθaからθbの範囲で積分することにより求まる。したがって、積分により求めたシール油Nの貯留量を当該区画の弧の長さBsで割ることによりシール油Nの実際の油面高さ、即ち基準状態における油面高さLに相当する値を求めることができ、その式は、下記式(6)のように表される。
【数6】

したがって、上述の演算により、ピストン6の傾斜の有無によらず所定の区画A内のシール油Nの実際の油面高さ、即ち基準状態における油面高さLを求めることができる。
【0034】
本実施の形態にかかる乾式ガスホルダ1は以上のように構成されており、次にこの乾式ガスホルダ1の動作について説明する。
【0035】
乾式ガスホルダ1の運転に先立ち、先ず、油ポンプ21により、吸込管22、共通母管23、シール油供給管24及び弁体26を経由して、シール装置10の油貯留部13の各区画Aにそれぞれシール油Nが供給される。次いで、流通路(図示せず)から副生ガスが乾式ガスホルダ1内に流入し、それに伴いピストン6が上昇する。その際、各位置測定機構30によりピストン6の外周縁部の各点における高さ方向の位置Hが、各油面測定機構15により油貯留部13の各区画Aの油面高さMがそれぞれ測定される。そして、高さ方向の位置H及び油面高さMは、それぞれ制御装置40に入力される。次いで、制御装置40の演算部41は、位置測定機構30の測定結果に基づいてピストン6の最大傾斜点Sの位置及び最大傾斜点Sにおける傾斜量Yを求め、このピストン6の傾斜量Y及び最大傾斜点Sと、傾斜状態における各区画内Aシール油Nの油面高さMとの関係から、基準状態の油面高さLに換算する。
【0036】
そして、制御装置40において、演算部41により求められた各区画Aの油面高さLと、設定部42に予め設定された油面高さの設定値との比較が行われ、油面高さLが設定値の範囲内に収まっているか、あるいは設定値の範囲を上回っていれば、制御装置40は当該区画へのシール油Nの供給は不要と判断し、当該区画に対応する弁体26の閉操作を行う。一方、油面高さLが設定値の範囲を下回っていれば、区画内Aのシール油Nが不足していると判断し、当該区画に対応する弁体26の開操作が行われる。なお、制御装置40による弁体26の動作の制御には、間欠的に全閉と全開を繰り返すON−OFF制御を用いてもよいし、また、設定値と実際の油面高さとの偏差に応じて弁体26の開度を調整する、例えばPID制御などを用いてもよい。また、制御装置40は、全ての弁体26が閉状態となった場合に、シール装置10へのシール油Nの供給が不要と判断し、シール油ポンプ21を停止させ、その後、いずれかの弁体26が再び開状態となった際には、再び油ポンプ21を起動させる制御も同時に行っている。
【0037】
そして、ガスホルダ1内のガス量の変化に応じてピストン6の高さが変化する際、引き続き制御装置40により油ポンプ21と各弁体26の動作が制御される。
【0038】
以上の実施の形態によれば、位置測定機構30の測定値に基づいて制御装置40がピストン6の傾斜量を求め、油貯留部13の各区画の油面高さMを当該傾斜量に基づき実際の油面高さに換算するので、ピストン6が傾いた状態においても、油貯留部13の各区画Aに貯留されるシール油Nの油量を正確に把握することができる。そして、シール油Nの油量の過不足を区画A毎に判断し、それに基づいて弁体26を制御し、シール油Nが不足している区画にはシール油Nの供給を行い、そうでない区画ではシール油Nの供給を遮断することにより、一台の油ポンプ21だけであっても、必要な箇所に必要な量のシール油Nを供給することが可能となる。このため、各区画Aへのシール油Nの供給を制御するにあたり、従来のように各区画Aに対して一対一で油ポンプ21を設ける必要がなくなり、設備の設置費用の低減を図ることができる。また、油ポンプ21の台数が低減されることにより、メンテナンス等に要する費用も削減することができる。
【0039】
なお、以上の実施の形態においては、シール油供給管24には、弁体26のみを設けていたが、例えば図2に破線で示すように、シール油供給管24の弁体26の上流部に流量計50を設け、シール油供給管供給部24の内部を流れるシール油Nの流量、即ち油貯留部13へのシール油Nの供給量を測定してもよい。油貯留部13へのシール油Nの供給量は、シール装置10からのシール油Nの流下量と等しく、また、一般的にシール装置10になんらかの異常が発生した場合はシール油Nの流下量が増加するため、流量計50によりシール油Nの供給量増加の有無を監視することで、シール装置10の異常監視を行うことができる。なお、例えば弁体26の開閉時間を制御装置40で監視し、弁体26が開となっている時間からシール装置10へのシール油Nの供給量を推測することが可能であるが、各シール油供給管24を流れるシール油Nの量は、開となっている弁体26の数量の影響を受けるため、シール装置10の異常監視を精度よく行うためには、流量計50を設けることが好ましい。また、図2においては、弁体26の上流部に流量計50を設けた状態を描図しているが、流量計50は弁体26の下流部に設けてもよい。
【0040】
さらには、油貯留部13の区画数を増やして各区画Aをより小さくすることで、異常発生箇所の特定がより容易となるが、この点について本発明によれば、シール油供給管24及び弁体26を追加することで区画数を増やすことができるので、区画数を増やすにあたって従来のように油ポンプ21を増設する必要がない。したがって、従来よりも低コストで設備の信頼性を向上させることが可能となる。なお、以上の実施の形態においては、油ポンプ21の設置台数は一台であったが、設備の信頼性向上のために、予備の油ポンプ21をさらに一台設けることが望ましい。
【0041】
また、以上の実施の形態においては、共通母管23には、環状部23bが設けられていたが、共通母管23の形状は、本実施の形態に限定されるものではなく、例えば垂直部23aにおいてシール油供給管24を複数に分岐して、油貯留部13の各区画Aに供給するようにしてもよい。
【0042】
以上の実施の形態においては、四つの位置測定機構30を用いてピストン6の傾斜量を求めたが、演算により傾斜量を求める場合、同一平面内において三点以上の高さ方向の位置が決定すればよいので、位置測定機構30は三つ以上であれば任意の数を設置可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、乾式ガスホルダのシール装置へシール油を供給する際に有用である。
【符号の説明】
【0044】
1 ガスホルダ
5 ホルダ本体
6 ピストン
7 屋根
10 シール装置
11 ガイドローラ
11a 支持部
12 容器
12a 底面
13 油貯留部
14 分割堰
15 油面測定機構
16 支持部材
17 シール部材
20 油溝
21 油ポンプ
22 吸込管
23 共通母管
23a 垂直部
23b 環状部
24 シール油供給管
25 シール油ポット
26 弁体
30 位置測定機構
40 制御装置
41 演算部
42 設定部
50 流量計
A 区画
N シール油
M 油面高さ
L 油面高さ
H ピストンの高さ方向の位置
S 最大傾斜点
P 基柱
Y 傾斜量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に移動するピストンを内部に備えた乾式ガスホルダであって、
前記ピストンの外周縁部に設けられたシール装置と、
前記シール装置を複数の区画に分割する複数の分割堰と、
前記分割堰により分割されたシール装置の各区画にそれぞれ連通する複数のシール油供給管と、
シール油を循環させる油ポンプと、
前記油ポンプに接続されて前記シール油供給管を分岐するように設けられた共通母管と、
前記各シール油供給管に夫々設けられ、前記シール装置へのシール油の供給を制御する弁体と、
前記乾式ガスホルダの底部の周方向に沿って設けられたシール油を回収する油溝と、
前記油ポンプと前記油溝を連通させる吸込管と、
前記シール装置の各区画に夫々設けられ、当該区画内のシール油の油面高さを測定する油面測定機構と、
前記ピストンの上方に設けられ、当該ピストンの周方向に沿って少なくとも三つ以上配置された、前記ピストンの前記乾式ガスホルダ内での高さ方向の位置を測定する複数の位置測定機構と、
前記各位置測定機構の測定値に基づいて前記ピストンの傾斜量を求め、
前記各油面測定機構の測定値及び前記ピストンの傾斜量に基づいて、前記弁体により前記シール装置の各区画に配分するシール油の流量を制御する制御装置と、を有することを特徴とする、乾式ガスホルダ。
【請求項2】
前記複数のシール油供給管には、当該シール油供給管内を輸送されるシール油の量を測定してシール装置の異常監視をする流量計が夫々設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の乾式ガスホルダ。
【請求項3】
前記共通母管は、前記乾式ガスホルダの周方向に沿って設けられた環状部を有し、
前記複数のシール油供給管は、前記共通母管の環状部に夫々接続されていることを特徴とする、請求項1または請求項2のいずれかに記載の乾式ガスホルダ。
【請求項4】
乾式ガスホルダのピストンの外周縁部に設けられたシール装置へのシール油の供給量を制御するシール油供給制御方法において、
前記シール装置を複数の区画に分割する複数の分割堰と、
前記分割堰により分割されたシール装置の各区画に夫々連通する複数の油供給管と、
シール油を循環させる油ポンプと、
前記油ポンプに接続されて前記シール油供給管を分岐するように設けられた共通母管と、
前記各シール油供給管に夫々設けられ、前記シール装置へのシール油の供給を制御する弁体と、
前記乾式ガスホルダの底部の周方向に沿って設けられたシール油を回収する油溝と、
前記油ポンプと前記油溝を連通させる吸込管と、
前記シール装置の各区画に夫々設けられ、当該区画内のシール油の油面高さを測定する油面測定機構と、
前記ピストンの上方に設けられ、当該ピストンの周方向に沿って少なくとも三つ以上配置された、前記ピストンの前記乾式ガスホルダ内での高さ方向の位置を測定する複数の位置測定機構と、を有する乾式ガスホルダであって、
前記各位置測定機構の測定値に基づき、前記ピストンの傾斜量を求め、
前記各油面測定機構の測定値及び前記ピストンの傾斜量に基づいて、前記弁体により前記シール装置の各区画に配分するシール油の流量を制御することを特徴とする、シール油供給制御方法。
【請求項5】
前記複数のシール油供給管に、当該シール油供給管内を輸送されるシール油の量を測定する流量計を夫々設け、シール装置の異常監視を行うことを特徴とする、請求項3に記載のシール油供給制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−79553(P2011−79553A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234093(P2009−234093)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】