説明

乾燥カチオン交換樹脂の製造方法およびその製造方法で製造された乾燥カチオン交換樹脂

【課題】カチオン交換樹脂由来の溶出物を低減することができる乾燥カチオン交換樹脂の製造方法およびその製造方法で製造された乾燥カチオン交換樹脂を提供する。
【解決手段】本件発明の乾燥カチオン交換樹脂の製造方法は、湿潤状態のカチオン交換樹脂をマイナス10℃以下で急速冷凍して凍結カチオン交換樹脂を得る予備凍結工程と、前記凍結カチオン交換樹脂を100Pa以下で真空乾燥して乾燥カチオン交換樹脂を得る真空乾燥工程とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、非水系の溶液からカチオンや水分を除去する際、ガスからカチオンや水分を除去する際、あるいは触媒反応用途に用いる際等に使用される乾燥カチオン交換樹脂の製造方法およびその製造方法で製造された乾燥カチオン交換樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン交換樹脂は、一般的に、乾燥によるカチオン交換能力の低下や溶出物の増加を避けるために湿潤状態で保管、利用されている。
【0003】
一方、カチオン交換樹脂は、河川水、工業用水等の被処理水中のカチオンを除去する他に、非水系の溶液やガスに含まれているカチオンや水分を除去するためにも使用されている。また、非水系で、触媒として利用される場合もある。
【0004】
その場合に、カチオン交換樹脂が湿潤状態であると水分を除去することができない。また、カチオン交換樹脂中に水分が過剰に存在していると、水分が処理側へ流入してしまう。その結果、処理品質が低下してしまう。
【0005】
そこで、乾燥カチオン交換樹脂を用いて、非水系の溶液やガスに含まれているカチオンや水分を除去する方法が採られている。また非水系でのエステル化、アルキル化、エポキシ化などのような反応の触媒としても、乾燥カチオン交換樹脂が用いられる。この乾燥カチオン交換樹脂は、湿潤状態のカチオン交換樹脂を乾燥して得られる。
【0006】
乾燥カチオン交換樹脂の具体的な製造方法としては、例えば、湿潤状態のカチオン交換樹脂を減圧乾燥する方法(特許文献1、2参照)、不活性ガスまたは空気を用いて乾燥する方法(特許文献3参照)がある。これらの方法では、カチオン交換樹脂中の水分量を一定量以下(5%以下)に下げるために、減圧乾燥の際にカチオン交換樹脂を加熱したり、空気の温度を高くしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−249238号公報
【特許文献2】特開平10−114695号公報
【特許文献3】特開2009−291676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、カチオン交換樹脂に熱を加えると、カチオン交換樹脂の母体や官能基の分解量が増大するので、得られた乾燥カチオン交換樹脂には、カチオン交換樹脂由来の溶出物が増加する。その結果、乾燥カチオン交換樹脂の初期洗浄にかかる薬液が大量に必要となるので、初期洗浄に膨大なコストがかかっていた。
【0009】
本件発明は、かかる従来の課題に鑑みてなされたものであり、カチオン交換樹脂由来の溶出物を低減することができる乾燥カチオン交換樹脂の製造方法およびその製造方法で製造された乾燥カチオン交換樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本件発明者等は、鋭意研究の結果、前記課題を解決するために以下のような乾燥カチオン交換樹脂の製造方法を見出すに至った。
【0011】
本件発明の乾燥カチオン交換樹脂の製造方法は、
湿潤状態のカチオン交換樹脂をマイナス10℃以下で急速冷凍して凍結カチオン交換樹脂を得る予備凍結工程と、
前記凍結カチオン交換樹脂を100Pa以下で真空乾燥して乾燥カチオン交換樹脂を得る真空乾燥工程と
を備えることを特徴としている。
【0012】
ここで、予備凍結工程では、湿潤状態のカチオン交換樹脂を厚みが均一な層にした状態で急速冷凍することが好ましい。
【0013】
また、予備凍結工程の前に、湿潤状態のカチオン交換樹脂を純水中に分散してスラリーを生成する分散工程を設け、予備凍結工程では、このスラリーを急速冷凍して凍結カチオン交換樹脂を得るようにしても良い。さらに、スラリーを急速冷凍する場合には、スラリーを薄層にすることが好ましい。
【0014】
さらに、湿潤状態のカチオン交換樹脂の粒径は1.5mm以下であることが好ましい。
【0015】
また、本件発明の乾燥カチオン交換樹脂は、本件発明の乾燥カチオン交換樹脂の製造方法を用いて製造されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本件発明の乾燥カチオン交換樹脂の製造方法では、湿潤状態のカチオン交換樹脂を加熱せずに乾燥するようにした。これにより、カチオン交換樹脂の母体や官能基の分解量が抑えられる。よって、本件発明の乾燥カチオン交換樹脂の製造方法は、カチオン交換樹脂由来の溶出物を低減することができる。その結果、乾燥カチオン交換樹脂の初期洗浄にかかる薬液量を低減することができ、初期洗浄にかかるコストを大幅に抑えることができる。
【0017】
また、本件発明の乾燥カチオン交換樹脂は、本件発明の乾燥カチオン交換樹脂の製造方法を用いて製造されたことから、低い水分含有率を有しつつカチオン交換樹脂由来の溶出物が低減されている。よって、本件発明の乾燥カチオン交換樹脂は、高品質なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本件発明の第1の実施の形態を示す乾燥カチオン交換樹脂の製造方法の工程図である。
【図2】本件発明の第2の実施の形態を示す乾燥カチオン交換樹脂の製造方法の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本件発明の実施の形態を図にしたがって説明する。
【0020】
(第1の実施の形態)
図1は、本件発明の第1の実施の形態を示す乾燥カチオン交換樹脂の製造方法の工程図である。本実施の形態の乾燥カチオン交換樹脂の製造方法は、湿潤状態のカチオン交換樹脂を凍結乾燥法を利用して乾燥カチオン交換樹脂を得る。具体的には、例えば、湿潤状態のカチオン交換樹脂を平板プレート上や容器内に展開した後に、凍結乾燥機を用いて予備凍結工程と真空乾燥工程を順に行う。以下に各工程を説明する。
【0021】
予備凍結工程:この工程では、湿潤状態のカチオン交換樹脂を急速冷凍することにより凍結カチオン交換樹脂を得る。
【0022】
ここで、湿潤状態のカチオン交換樹脂について説明する。湿潤状態のカチオン交換樹脂とは、カチオン交換樹脂を純水で浸漬して、カチオン交換樹脂の細孔内に水分が保有された状態(飽和平衡状態)のカチオン交換樹脂のことである。言い換えると、湿潤状態のカチオン交換樹脂とは、内部に水を含んでいるが外部には水を持たない状態の樹脂である。したがって、この湿潤状態のカチオン交換樹脂をそのまま凍結乾燥するのが一番好ましい。これは、カチオン交換樹脂の水分含有量が少ない状態となっているため、凍結乾燥にかける時間が抑えられるからである。なお、湿潤状態のカチオン交換樹脂の水分含有率(重量%)は30〜60%である。
【0023】
また、原料となるカチオン交換樹脂としては、強酸性カチオン交換樹脂、弱酸性カチオン交換樹脂のいずれも使用することができる。
【0024】
また、湿潤状態のカチオン交換樹脂の粒径は1.5mm以下が好ましい。粒径が1.5mmよりも大きくなると乾燥に時間がかかる。
【0025】
さらに、湿潤状態のカチオン交換樹脂は、粒径が均一なものを使用するのが好ましく、粒子の均一係数が1.6以下であることが好ましい。より好ましくは粒子の均一係数が1.3以下であることが好ましい。粒径が均一であることにより、予備凍結時にカチオン交換樹脂内部の水分を定時間で均一に凍結することができ、急速冷凍の処理効率を高めることができる。また粒径が均一であることで、カチオン交換樹脂内部に保有する氷晶を乾燥時に定時間で安定的に昇華することができる。
【0026】
粒子の均一係数は、粒度分計を用いてカチオン交換樹脂の粒度分布を測定することにより求めることができる。具体的には、粒子の均一係数は、粒度分布計の体積の積算分布が40%となる粒子径と、体積の積算分布が90%となる粒子径の比により表される。均一係数が1に近い値になるほど、カチオン交換樹脂の粒子径がそろっていることを示す。
【0027】
また、湿潤状態のカチオン交換樹脂を急速冷凍する理由は、カチオン交換樹脂内の水分を細かな氷晶にすることが可能になるからである。したがって、急速冷凍を行うことによりカチオン交換樹脂の微細構造が維持されるので、樹脂の崩壊によるカチオン交換基の物理的な脱落を防止することができる。つまり、この予備凍結工程では、カチオン交換能力を低下させずにカチオン交換樹脂を凍結することができる。さらには、カチオン交換樹脂の構造が維持されることにより、カチオン交換樹脂の破砕が起き難く、試料を処理する際の、破損樹脂の目詰まりによる差圧の上昇も起き難くなる。
【0028】
なお、急速冷凍の際には、湿潤状態のカチオン交換樹脂を厚みが均一な層にした状態で行うのが好ましい。具体的には、深さが一定の容器内に湿潤状態のカチオン交換樹脂を入れて急速冷凍を行う方法が挙げられる。これにより、湿潤状態のカチオン交換樹脂の凍結時間の短縮を図ることが可能になる。
【0029】
また、湿潤状態のカチオン交換樹脂を急速冷凍する温度は、マイナス10℃以下に設定することが好ましい。この温度がマイナス10℃よりも高くなると、湿潤状態のカチオン交換樹脂に形成される氷晶が大きくなるおそれがある。
【0030】
さらに、カチオン交換樹脂の官能基(イオン交換基)の周囲では、官能基の化学的作用により水分子が水素結合で引き合い、強く水和している。このような水分子は、カチオン交換樹脂の母体高分子の影響を受けて融点が低下した束縛水として存在することが知られている。この束縛水は、マイナス10℃以下に冷却することで凍結することができる。
【0031】
この束縛水を除去するために、一般的には、高温加熱して真空乾燥する方法が行われているが、加熱によってカチオン交換樹脂の母体や官能基の分解が起きる点で望ましくないことは、先に述べた通りである。
【0032】
真空乾燥工程:この工程では、予備凍結工程で得られた凍結カチオン交換樹脂を真空乾燥して乾燥カチオン交換樹脂を得る。これについて説明すると、凍結カチオン交換樹脂を真空乾燥すると、凍結カチオン交換樹脂内の氷晶が昇華することにより除去されて、その結果、乾燥カチオン交換樹脂が得られる。
【0033】
なお、真空乾燥は100Pa以下で行うことが好ましい。この気圧が100Paよりも高くなると、乾燥に必要以上に時間がかかるおそれがある。
【0034】
また、真空乾燥は、真空状態で自然乾燥する方法と、真空状態で加温乾燥する方法が挙げられる。なお、加温乾燥は、凍結カチオン交換樹脂内の氷晶を昇華させるために行い、カチオン交換樹脂を加熱するものではない。したがって、この加温乾燥によってカチオン交換樹脂の溶出物が増加することはない。この加温乾燥を行うことにより昇華速度が促進されるので、自然乾燥する場合に比べて乾燥時間を短縮できる。なお、加温乾燥の温度は室温以下(20℃以下)に設定する。
【0035】
このように本実施の形態の乾燥カチオン交換樹脂の製造方法は、湿潤状態のカチオン交換樹脂を加熱せずに乾燥するので、カチオン交換樹脂の母体や官能基の分解量が抑えられる。よって、本実施の形態の乾燥カチオン交換樹脂の製造方法は、カチオン交換樹脂由来の溶出物を低減することができる。その結果、乾燥カチオン交換樹脂の初期洗浄にかかる薬液量を低減することができ、初期洗浄にかかるコストを大幅に抑えることができる。
【0036】
(第2の実施の形態)
図2は、本件発明の第2の実施の形態を示す乾燥カチオン交換樹脂の製造方法の工程図である。本実施の形態の乾燥カチオン交換樹脂の製造方法では、第1の実施の形態で説明した予備凍結工程の前に分散工程を設けている。以下に各工程について説明する。
【0037】
分散工程:この工程では、容器に純水を入れて、この純水中に湿潤状態のカチオン交換樹脂を分散させてスラリーを生成する。
【0038】
スラリーは、カチオン交換樹脂を、パイプラインを通じて搬送する際に有利な形状である。したがって、このスラリーを使用することで、カチオン交換樹脂を製造現場あるいは再生現場から連続的に次の予備凍結工程の現場に搬送することができる。また、スラリーの使用は、湿潤状態のカチオン交換樹脂をバッチで容器に移す場合に比べて、湿潤状態のカチオン交換樹脂を搬送する際の作業効率を高めることができる。
【0039】
なお、分散工程で使用する湿潤状態のカチオン交換樹脂の種類は、第1の実施の形態で説明したように特に限定されない。また、粒径も第1の実施の形態と同様に1.5mm以下が好ましい。
【0040】
また、湿潤状態のカチオン交換樹脂を分散させる溶媒として純水を用いるのは、乾燥カチオン交換樹脂に不純物が残留するのを抑えるためである。なお、不純物の残留量をより抑えることを考慮すると、超純水を使用することが好ましい。
【0041】
また、純水とカチオン交換樹脂との配合量は、スラリー中のカチオン交換樹脂の濃度が30〜80体積%になるように設定することが好ましい。スラリー中のカチオン交換樹脂の濃度が30体積%を下回った場合、つまり純水に対してカチオン交換樹脂の配合量が少なすぎる場合には、カチオン交換樹脂内の水分を効率良く凍結できず、乾燥にも時間がかかり、好ましくない。またカチオン交換樹脂の濃度が80%を上回った場合には、スラリー状態をうまく形成することができず、搬送に不利となる。
【0042】
また、湿潤状態のカチオン交換樹脂を純水中に分散させる際には攪拌を行っても良い。この攪拌を行うことにより、純水中でのカチオン交換樹脂の水分含量を一定にすることができる。その結果、次の予備凍結工程においてカチオン交換樹脂内に冷気を効率良く伝えることが可能になり、細孔内の水分を効率良く凍結することができる。
【0043】
予備凍結工程:この工程では、分散工程で生成したカチオン交換樹脂のスラリーを凍結機等を用いて急速冷凍して凍結体(凍結カチオン交換樹脂)を得る。なお、スラリーを急速冷凍する温度は、第1の実施の形態と同様にマイナス10℃以下に設定することが好ましい。
【0044】
また、スラリーを急速冷凍する時間は、スラリー1Lあたり5分以上が好ましい。この時間が5分よりも短いと、カチオン交換樹脂内の水分を十分に凍結できないおそれがある。
【0045】
また、スラリーを急速冷凍する場合には、スラリーを薄層の状態にして行うことが好ましい。これにより、スラリーの凍結時間の短縮化を図ることができる。また、スラリーを薄層の状態にして急速冷凍する場合は、スラリーが入った容器を回転させてスラリーを容器壁面上に均一に氷結させてもよい。
【0046】
なお、スラリーの薄層の厚さは10cm以内が好ましい。この厚さが10cmよりも大きくなるとカチオン交換樹脂内の水分を十分に凍結できないおそれがある。
【0047】
真空乾燥工程:この工程では、予備凍結工程で得られた凍結体を凍結乾燥機を用いて真空乾燥して乾燥カチオン交換樹脂を得る。第1の実施の形態で説明したように、凍結体を真空乾燥すると、凍結体(凍結カチオン交換樹脂内)の氷晶が昇華することにより除去されて、その結果、乾燥カチオン交換樹脂が得られる。なお、凍結体を真空乾燥する場合も、第1の実施の形態と同様に100Pa以下で行うことが好ましい。
【0048】
このように本実施の形態の乾燥カチオン交換樹脂の製造方法においても、第1の実施の形態と同様に湿潤状態のカチオン交換樹脂を加熱せずに乾燥するので、カチオン交換樹脂由来の溶出物を低減することができる。その結果、乾燥カチオン交換樹脂の初期洗浄にかかる薬液量を低減することができ、初期洗浄にかかるコストを大幅に抑えることができる。
【0049】
そして、以上説明した実施の形態の製造方法で製造される乾燥カチオン交換樹脂は以下のような特性を備える。
【0050】
水分含有量:0.1〜5%(重量%)
TOC濃度:200μg/g−樹脂以下
無機硫酸イオン濃度:200μg/g−樹脂以下
有機硫酸イオン濃度:50μg/g−樹脂以下
【0051】
本実施の形態の乾燥カチオン交換樹脂では、水分含有量が0.1〜5%であることから、非水系の溶液やガスに含まれている水分やカチオンを効率良く除去することができる。また非水系で触媒として用いる場合には、反応生成物中への水分の混入を最小に抑えられる。
【0052】
また、TOC濃度、無機硫酸イオン濃度、有機硫酸イオン濃度は、カチオン交換樹脂由来の溶出物の指標となるものである。
【0053】
TOC濃度とは、乾燥カチオン交換樹脂に超純水を添加し、60℃で18時間浸漬させた後にフィルタでろ過して得られるろ液中の全有機炭素濃度である。従来の乾燥カチオン交換樹脂のTOC濃度は、一般的に200〜500μg/g−樹脂である。本実施の形態の乾燥カチオン交換樹脂では、TOC濃度が200μg/g−樹脂以下であることから従来の最小値と同じかそれよりも低くなる。
【0054】
無機硫酸イオン濃度とは、ろ液中の硫酸イオン濃度である。従来の無機硫酸イオン濃度は、一般的に1000〜4000μg/g−樹脂である。本実施の形態の乾燥カチオン交換樹脂では、無機硫酸イオン濃度が200μg/g−樹脂以下であることから従来よりも低くなる。
【0055】
有機硫酸イオン濃度とは、ろ液を紫外線で分解した後の硫酸イオン濃度から、分解前の硫酸イオン濃度を差し引いたものである。従来の有機硫酸イオン濃度は、一般的に60〜100μg/g−樹脂である。本実施の形態の乾燥カチオン交換樹脂では、有機硫酸イオン濃度が50μg/g−樹脂以下であることから従来よりも低くなる。
【0056】
このように、本実施の形態の乾燥カチオン交換樹脂では、TOC濃度、無機硫酸イオン濃度、有機硫酸イオン濃度が従来よりも低い値になるので、カチオン交換樹脂由来の溶出物が低減されている。したがって、本実施の形態の乾燥カチオン交換樹脂は、従来よりも高品質なものとなる。
【0057】
以上、本件発明にかかる実施の形態を例示したが、この実施の形態は本件発明の内容を限定するものではない。また、本件発明の請求項の範囲を逸脱しない範囲であれば、各種の変更等は可能である。
【0058】
例えば、乾燥カチオン交換樹脂の製造に際し、前処理として、原料となるカチオン交換樹脂を純水等で洗浄しても良い。これにより製造開始前のカチオン交換樹脂に存在している不純物を除去できる。したがって、洗浄したカチオン交換樹脂を原料として乾燥カチオン交換樹脂を製造した場合には、洗浄しないカチオン交換樹脂を原料とした場合に比べて、カチオン交換樹脂由来の溶出物を低減することができる。
【0059】
また、乾燥カチオン交換樹脂の製造に際して予備凍結工程→真空乾燥工程を用いる場合には、前処理として湿潤状態のカチオン交換樹脂を冷風乾燥しても良い。冷風乾燥を行うことにより、カチオン交換樹脂の母体や官能基の分解を抑えつつ、カチオン交換樹脂内の水分を予め除去しておくことができる。その結果、その後の予備凍結工程と真空乾燥工程にかける時間を短縮することができる。なお冷風乾燥の具体的な方法は、冷風乾燥機や流動層乾燥機が挙げられる。また、冷風の温度は、40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。
【0060】
次に、実施例および比較例を示して本件発明を具体的に説明する。なお、ここで説明する実施例は、単に例示であって、本件発明を限定するものではない。
【0061】
実施例および比較例では、ロームアンドハース社製の強酸性カチオン交換樹脂であるアンバーライト200CT(H)を純水に浸漬して湿潤状態にしたものを使用した。この湿潤状態のカチオン交換樹脂の粒径は0.47〜0.61mmであり、水分含有率は46〜51%である。また、粒子の均一係数は1.6である。
【実施例1】
【0062】
<乾燥カチオン交換樹脂の製造>
実施例1では、湿潤状態のカチオン交換樹脂を、予備凍結工程→真空乾燥工程の順で乾燥カチオン交換樹脂に調製した。
【0063】
(1)予備凍結工程
まず最初に、湿潤状態のカチオン交換樹脂100mlを、開き目の大きさが0.2mmであるステンレス製のバスケットに入れた。次に、このバスケットを、液体窒素500mlが充填された容量1000mlのジュワー瓶に1分間投入し、バスケット内に凍結カチオン交換樹脂層を形成した。
(2)真空乾燥工程
バスケットをジュワー瓶から引き上げた後、ただちに凍結乾燥瓶(容量500ml)に投入した。次に、この凍結乾燥瓶を、イワキ社製の凍結乾燥機FRD−51にセットし、20Pa以下の真空下で24時間乾燥して乾燥カチオン交換樹脂を得た。
【0064】
<乾燥カチオン交換樹脂の水分含有率の測定>
上記の製造方法によって得られた乾燥カチオン交換樹脂の含水率を、エー・アンド・デイ社製の水分測定器MX−50を用いて測定した。測定結果を下記の表1に示す。
【0065】
<乾燥カチオン交換樹脂の溶出物の評価測定>
(1)上記の製造方法によって得られた乾燥カチオン交換樹脂3gに超純水100mlを添加し、60℃にて18時間浸漬させた。次に、このカチオン交換樹脂を0.45μmのフィルタを用いてろ過し、ろ液を得た。
(2)次に、ろ液中の全有機炭素(TOC)濃度およびUV分解前後での無機硫酸イオン濃度・有機硫酸イオン濃度を測定した。このTOC濃度、無機硫酸イオン濃度、有機硫酸イオン濃度を溶出物の指標とした。
【0066】
TOC濃度は、シーバース社製のSIEVERS900型のTOC計を用いて測定した。測定結果を下記の表1に示す。
【0067】
無機硫酸イオン濃度・有機硫酸イオン濃度は、185nmの波長を有するUVランプを用いて、ろ液のUV分解前後の硫酸イオン濃度をイオンクロマトグラフで測定した。そして、UV分解前の硫酸イオン濃度を無機硫酸濃度とし、UV分解後の硫酸イオン濃度−UV分解前の硫酸イオン濃度=有機硫酸イオン濃度とした。測定結果を下記の表1に示す。
【0068】
なお、TOC濃度、無機硫酸イオン濃度、有機硫酸イオン濃度の測定結果に用いた単位樹脂量は、それぞれカチオン交換樹脂中の水分(表1で測定した水分含有率分)を完全に除去した状態での値に換算したものである。
【実施例2】
【0069】
<乾燥カチオン交換樹脂の製造>
実施例2では、湿潤状態のカチオン交換樹脂を、分散工程→予備凍結工程→真空乾燥工程の順で乾燥カチオン交換樹脂に調製した。
【0070】
(1)分散工程
湿潤状態のカチオン交換樹脂100mlを純水に分散してスラリーとし、このスラリーを凍結乾燥瓶(容量500ml)に入れた。このスラリー中のカチオン交換樹脂の濃度は70体積%もしくは30重量%である。
(2)予備凍結工程
エタノールをドライアイスに入れた氷浴を用意し、この氷浴に凍結乾燥瓶を傾けた状態で浸漬しながら3分間回転させ、凍結乾燥瓶の壁面に凍結カチオン交換樹脂層を形成した。
(3)真空乾燥工程
凍結カチオン交換樹脂層が形成された凍結乾燥瓶を、実施例1と同様な方法で真空乾燥を行って乾燥カチオン交換樹脂を得た。
【0071】
<乾燥カチオン交換樹脂の水分含有率の測定>
上記の製造方法によって得られた乾燥カチオン交換樹脂の含水率は、実施例1と同様な方法を用いて測定した。測定結果を下記の表1に示す。
【0072】
<乾燥カチオン交換樹脂の溶出物の評価測定>
上記の製造方法によって得られた乾燥カチオン交換樹脂の溶出物の評価測定については、実施例1と同様な方法で、TOC濃度、無機硫酸イオン濃度、有機硫酸イオン濃度を測定した。測定結果を下記の表1に示す。
【0073】
<比較例1、2>
比較例1、2では、湿潤状態のカチオン交換樹脂を、予備凍結工程を行わずにそのまま真空乾燥工程を行って乾燥カチオン交換樹脂に調製した。なお、真空乾燥工程では加熱真空乾燥法を用いた。
【0074】
具体的には、湿潤状態のカチオン交換樹脂を、EYELA社製の真空乾燥機VOC−300Dにセットし、20Pa以下の真空下、加熱温度100℃で乾燥した。加熱時間は、比較例1では16時間、比較例2では6時間とした。そして、実施例と同様の方法で乾燥カチオン交換樹脂の水分含有率、TOC濃度、無機硫酸イオン濃度、有機硫酸イオン濃度を測定した。測定結果を下記の表1に示す。
【0075】
<参考例>
参考例では、実施例と同じ強酸性カチオン交換樹脂を使用し、湿潤状態にて5.77g(水分を完全に除去した状態で3g相当)を量りとり、実施例や比較例のような乾燥処理を行わず、実施例と同様の溶出物の評価測定を行った。測定結果を下記の表1に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
<実施例、比較例、参考例との比較>
表1に示すように、実施例1、2では、比較例1と同程度の水分含有率を有していても、加熱操作を行わなかったことにより、TOC濃度、無機硫酸イオン濃度、有機硫酸イオン濃度が比較例1、2よりも大幅に減少している。
【0078】
特に、実施例1では、湿潤状態のカチオン交換樹脂をスラリーを形成することなく、直接凍結乾燥処理したのでカチオン交換樹脂の損傷が少なく、実施例2に比べて優良な結果となっている。したがって、乾燥カチオン交換樹脂の製造に際しては、湿潤状態のカチオン交換樹脂を直接急速冷凍して真空乾燥することが好ましく、パイプラインによるカチオン交換樹脂の輸送など、スラリーを利用する方が有利な場合に、スラリーを形成するのが良い。
【0079】
比較例1では、加熱操作を行ったことにより、カチオン交換樹脂の母体や官能基が分解して溶出し、TOC濃度、無機硫酸イオン濃度、有機硫酸イオン濃度が大幅に増加している。
【0080】
比較例2では、実施例よりも水分含有率が高く、比較例1よりも乾燥時間が短いにも関わらず、加熱操作を行ったことにより、TOC濃度、無機硫酸イオン濃度、有機硫酸イオン濃度が実施例よりも大幅に増加している。
【0081】
参考例では、TOC濃度、無機硫酸イオン濃度、有機硫酸イオン濃度が、実施例と同程度である。このことから、実施例1、2に用いた凍結乾燥法は、カチオン交換樹脂由来の溶出物を増加させること無く、カチオン交換樹脂中の水分含有量を低減することが可能であるといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿潤状態のカチオン交換樹脂をマイナス10℃以下で急速冷凍して凍結カチオン交換樹脂を得る予備凍結工程と、
前記凍結カチオン交換樹脂を100Pa以下で真空乾燥して乾燥カチオン交換樹脂を得る真空乾燥工程と
を備えることを特徴とする乾燥カチオン交換樹脂の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の乾燥カチオン交換樹脂の製造方法において、
前記予備凍結工程では、前記湿潤状態のカチオン交換樹脂を厚みが均一な層にした状態で急速冷凍することを特徴とする乾燥カチオン交換樹脂の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の乾燥カチオン交換樹脂の製造方法において、
前記予備凍結工程の前に、前記湿潤状態のカチオン交換樹脂を純水中に分散してスラリーを生成する分散工程を設け、前記予備凍結工程では、このスラリーを急速冷凍して前記凍結カチオン交換樹脂を得ることを特徴とする乾燥カチオン交換樹脂の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の乾燥カチオン交換樹脂の製造方法において、
前記予備凍結工程では、前記スラリーを薄層にした状態で急速冷凍することを特徴とする乾燥カチオン交換樹脂の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の乾燥カチオン交換樹脂の製造方法において、
前記湿潤状態のカチオン交換樹脂の粒径は1.5mm以下であることを特徴とする乾燥カチオン交換樹脂の製造方法。
【請求項6】
湿潤状態のカチオン交換樹脂から、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の乾燥カチオン交換樹脂の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする乾燥カチオン交換樹脂。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−224453(P2011−224453A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95916(P2010−95916)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】