説明

乾燥マカの製造方法

【課題】 ベンジルグルコシノレートを十分に多く含有する乾燥マカを安定的に得ることが可能な、乾燥マカの製造方法を提供すること。
【解決手段】 マカの球根を、その水分含有量が10質量%以下に至るまで、60〜100℃で乾燥させる強制乾燥工程を含み、マカの収穫後、強制乾燥工程を開始するまで、球根の水分含有量が50質量%以上に保持される、乾燥マカの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥マカの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マカ(Lepidium meyenii Walp)は、ペルーアンデス原産のアブラナ科の根菜であり、ペルーでは古来、滋養強壮剤として食されてきた。マカは、滋養強壮作用の他、催淫、性生活の活性化、月経サイクルの正常化、不妊改善、抗ストレス等、多岐に渡る薬理作用を有するといわれ、近年、諸外国においても、健康食品として注目されている(例えば、特許文献1及び2)。
【0003】
マカを飲食品材料として用いる場合、マカの球根(根及び胚軸)を乾燥させたものが用いられる。このような乾燥マカを得るために、伝統的には、2〜3か月の天日乾燥が行われていた。また、近年は、工場において洗浄、殺菌後、60〜65℃で約6時間、強制的に乾燥させる方法も採用されているが、このような方法においても、強制的な乾燥に先立って2〜3か月の天日乾燥が行われている。
【特許文献1】特開2000−316528号公報
【特許文献2】特開2001−136920号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、マカが有する上述のような薬理作用は、マカに含有されるベンジルグルコシノレートによるものと考えられる。従って、乾燥マカとしては、ベンジルグルコシノレートを十分に多く含有するものが好ましいと考えられる。
【0005】
しかしながら、2〜3か月の天日乾燥を行う従来の乾燥マカの製造方法は、天日乾燥を行う場所によって乾燥条件(温度、湿度等)が異なり、また、天候、季節等の影響を受けやすいため、ベンジルグルコシノレートを十分に多く含有する乾燥マカを安定的に得ることができないという問題を有していた。
【0006】
そこで、本発明は、ベンジルグルコシノレートを十分に多く含有する乾燥マカを安定的に得ることが可能な、乾燥マカの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究した結果、意外なことに、収穫後の生のマカの球根を、長期の天日乾燥を行わず、60〜100℃で強制的に乾燥させることによって、従来の乾燥マカよりもベンジルグルコシノレートを多く含有する乾燥マカが得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、
マカの球根を、その水分含有量が10質量%以下に至るまで、60〜100℃で乾燥させる強制乾燥工程を含み、
マカの収穫後、強制乾燥工程を開始するまで、球根の水分含有量が50質量%以上に保持される、乾燥マカの製造方法である。
【0009】
本明細書において、「マカの球根」又は「マカ球根」とは、根又は胚軸を含む、マカの部分を意味する。また、「マカの球根」又は「マカ球根」は、収穫後のマカの球根に洗浄、殺菌、裁断、乾燥、粉砕、加熱等の処理を施したものを包含する。また、「マカ」は、Lepidium meyenii Walpに属するすべての品種を包含する。
【0010】
また、球根の「水分含有量」とは、マカ球根(表面に水分が付着している場合は、当該水分が除去されたもの)を100℃で1時間加熱した場合に当該マカ球根から失われる水分の量をいうものとする。
【0011】
本発明の乾燥マカの製造方法によれば、長期の天日乾燥を行う必要がないため、場所、天候、季節等の影響を受けることなく、ベンジルグルコシノレートを十分に多く含有し、かつ従来の乾燥マカよりもベンジルグルコシノレートを多く含有する乾燥マカを安定的に得ることが可能となる。また、乾燥マカの製造に要する期間を大幅に短縮することが可能となる。更に、天日乾燥のための場所及び人手を確保する必要がないため、乾燥マカの製造コストを大幅に低減させることが可能となる。
【0012】
マカの収穫後、強制乾燥工程を開始するまで、球根の水分含有量は50質量%以上に保持されるが、より多くのベンジルグルコシノレートを含有する乾燥マカを得るために、球根の水分含有量は、50〜90質量%に保持されるのが好ましく、60〜90質量%に保持されるのがより好ましい。
【0013】
強制乾燥工程においては、マカ球根の水分含有量に応じてマカ球根を60〜100℃で乾燥させるが、より多くのベンジルグルコシノレートを含有する乾燥マカを得るために、一般には、乾燥温度としては60〜80℃が好ましく、60〜75℃がより好ましく、60〜70℃が更に好ましい。なお、強制乾燥工程における乾燥は、必ずしも、マカ球根の水分含有量が10質量%に到達した時点で停止する必要はなく、例えば、水分含有量が4質量%以下に到達するまで継続してもよい。
【0014】
本発明の乾燥マカの製造方法では、強制乾燥工程の前に、3日を超える天日乾燥を行わないのが好ましい。3日を超える天日乾燥を行うと、これを行わない場合と比較して、強制乾燥工程の開始までにマカ球根の水分含有量が低減し、その結果、得られる乾燥マカのベンジルグルコシノレート含有量が少なくなる傾向がある。但し、必ずしも天日乾燥自体が排除されるわけではなく、例えば、収穫直後にマカ球根を水で洗浄した場合に、マカ球根の表面を乾燥させるために1〜2日の天日乾燥を行ってもよい。
【0015】
強制乾燥工程は、より多くのベンジルグルコシノレートを含有する乾燥マカを得るために、マカの収穫後78時間以内に開始するのが好ましく、72時間以内に開始するのがより好ましい。
【0016】
強制乾燥工程の前には、収穫したマカの球根を洗浄する洗浄工程を実施するのが好ましい。洗浄工程を実施することにより、マカ球根に付着している異物(土、枯葉、虫、埃、殺菌剤等)が確実に除去され、飲食品材料としてより適した乾燥マカを得ることが可能となる。また、後に殺菌工程を行う場合には、より効率的に殺菌を行うことが可能となる。
【0017】
また、強制乾燥工程の前には、マカ球根を殺菌する殺菌工程を実施するのが好ましい。殺菌工程を実施することにより、マカ球根に付着している微生物(細菌、真菌等)が除去され、飲食品材料としてより適した乾燥マカを得ることが可能となる。
【0018】
殺菌工程における好適な殺菌方法としては、マカ球根を殺菌剤(例えば、次亜塩素酸ナトリウム)で殺菌し、次いで、殺菌剤を洗い流す方法が挙げられる。
【0019】
強制乾燥工程の前には、マカ球根を裁断する裁断工程を実施するのが好ましい。裁断工程を実施すると、マカ球根の乾燥をより効率的に行うことが可能となる。
【0020】
洗浄工程、殺菌工程及び裁断工程のうちの少なくとも二つの工程を実施する場合には、乾燥マカの製造工程の効率化のために、ここに記載の順に行うのが好ましい。
【0021】
強制乾燥工程の後には、乾燥させたマカ球根を粉砕する粉砕工程を更に実施するのが好ましい。粉砕工程を実施することにより、乾燥マカの取扱い、運搬等が容易になる。また、乾燥マカを抽出してマカエキスを得る場合には、より効率的な抽出が可能となる。
【0022】
また、強制乾燥工程の後には、乾燥させたマカ球根を90〜100℃で10〜16時間加熱する加熱工程を更に実施するのが好ましい。粉砕工程を実施する場合には、加熱工程は、粉砕工程の後に実施するのが効率性の点で好ましい。加熱工程を実施することにより、ベンジルグルコシノレートの含有量を保持したまま、マカ球根から辛味成分のイソチオシアネートを除去して、飲食品材料としてより適した乾燥マカを得ることが可能となる。また、微生物がマカ球根中に残存している場合には、その全部又は一部を死滅させることも可能となる。イソチオシアネートを確実に除去するために、加熱は、95〜100℃で12〜16時間行うのが好ましい。
【0023】
なお、従来は、強制乾燥を行う場合にも、それに先立って2〜3か月の天日乾燥を行って、マカ球根の水分含有量を15〜30質量%まで低減させるのが当業者の技術常識であった。従って、本発明の製造方法のように、乾燥マカの製造において、長期の天日乾燥を行わず、強制乾燥の開始までマカ球根の水分含有量を一定の範囲に保持することに想到することは、従来、当業者にとって極めて困難であったということができる。また、当然のことながら、強制乾燥の開始までマカ球根の水分含有量が50質量%以上に保持されることによって、従来の乾燥マカよりもベンジルグルコシノレートを多く含有する乾燥マカを得ることが可能になることは、本発明者らが初めて見出した知見である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ベンジルグルコシノレートを十分に多く含有し、かつ従来の乾燥マカよりもベンジルグルコシノレートを多く含有する乾燥マカを安定的に得ることが可能な、乾燥マカの製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0026】
〔乾燥マカの製造方法〕
本発明の乾燥マカの製造方法は、マカの球根を、その水分含有量が10質量%以下に至るまで、60〜100℃で乾燥させる強制乾燥工程を含み、マカの収穫後、強制乾燥工程を開始するまで、球根の水分含有量が50質量%以上に保持されることを特徴とする。
【0027】
乾燥マカの製造の原料として使用するマカとしては、ベンジルグルコシノレートの含有量が特に多いことから、海抜4000m以上の高地(例えば、フニン県(ペルー))で栽培されたものが好ましい。また、人体への有害な影響をより少なくするために、農薬又は化学肥料を用いずに栽培されたものが好ましい。また、飲食品材料としてより適した乾燥マカを得るために、傷み、虫食い等の欠陥のないものが好ましい。
【0028】
図1は、本発明の乾燥マカの製造方法の好適な一実施形態の概略を示すフローチャートである。図1に示される実施形態に係る製造方法は、以下に説明する洗浄工程S1、殺菌工程S2、裁断工程S3、強制乾燥工程S4、粉砕工程S5及び加熱工程S6をこの順に含む。
【0029】
マカの収穫後、強制乾燥工程S4が開始されるまで、球根の水分含有量は50質量%以上に保持されるが、より多くのベンジルグルコシノレートを含有する乾燥マカを得るために、球根の水分含有量は、50〜90質量%に保持されるのが好ましく、60〜90質量%に保持されるのがより好ましい。
【0030】
(洗浄工程S1)
洗浄工程S1は、マカの球根を適当な液体で洗浄する工程である。洗浄工程S1を実施することにより、マカ球根に付着している異物(土、枯葉、虫、埃等)が確実に除去され、飲食品材料としてより適した乾燥マカを得ることが可能となる。また、次の殺菌工程S2をより効率的に実施することが可能となる。
【0031】
マカ球根の洗浄に用いる液体としては、例えば、純水が挙げられる。マカ球根を洗浄する方法としては、マカ球根を液体に接触させた状態でマカ球根の表面を手又はブラシで擦る方法、マカ球根の表面に高圧水を噴射する方法、等が挙げられる。
【0032】
洗浄工程S1は、2〜3回実施するのが好ましい。例えば、マカの収穫直後に、収穫現場で、土、枯葉等を除去するために、1回目の洗浄を行い、更に、工場等に運搬した後、改めて2回目の洗浄を行うのが好ましい。
【0033】
(殺菌工程S2)
殺菌工程S2は、マカの球根を殺菌する工程である。殺菌工程S2を実施することにより、マカ球根に付着している微生物(細菌、真菌等)が除去され、飲食品材料としてより適した乾燥マカを得ることが可能となる。
【0034】
マカ球根を殺菌する方法としては、マカ球根を殺菌剤で殺菌する方法、紫外線、マイクロ波又は放射線をマカ球根に照射して殺菌する方法、オートクレーブ中にマカ球根を置いて殺菌する方法、等が挙げられる。これらの中では、より広範な微生物を死滅させることが可能なことから、殺菌剤で殺菌する方法が好ましい。
【0035】
殺菌剤を用いる場合には、殺菌剤の溶液中にマカ球根を一定時間浸漬させた後、当該溶液を純水等で洗い流す。殺菌剤としては、次亜塩素酸ナトリウム、アルコール等、公知の食品用殺菌剤が挙げられるが、殺菌力、入手容易性等の点で、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。例えば、次亜塩素酸ナトリウムを用いる場合、溶液の溶媒としては水が好ましく、溶液の濃度は、好ましくは50〜1000ppm、更に好ましくは400〜600ppmであり、マカ球根の浸漬時間は、好ましくは5〜30分である。
【0036】
(裁断工程S3)
裁断工程S3は、マカの球根を裁断する工程である。裁断工程S3を実施することにより、次の強制乾燥工程S4をより効率的に実施することが可能となる。
【0037】
マカ球根を裁断するには、裁断機、包丁等で輪切り、千切り、みじん切り等にすればよいが、均一な厚みの裁断物を得るために、回転刃式裁断機で輪切りにするのが特に好ましい。次の強制乾燥工程S4においてマカ球根を均一に乾燥させるために、裁断後の厚みとしては1〜5mmが好ましい。
【0038】
(強制乾燥工程S4)
強制乾燥工程S4は、マカの球根を、その水分含有量が10質量%以下に至るまで、60〜100℃で乾燥させる工程である。
【0039】
マカ球根を乾燥させる方法としては、所定温度の空気流を作り出し、マカ球根を当該空気流中に置く方法、所定温度に保持された閉鎖空間(乾燥室、乾燥箱等)内にマカ球根を置く方法、等が挙げられる。より具体的には、例えば、大型トンネル式扇風機を稼動させ、所定温度に保持された乾燥室内にマカ球根を置いて乾燥させることができる。乾燥温度は、マカ球根の水分含有量に応じて60〜100℃の範囲で適宜調整するが、より多くのベンジルグルコシノレートを含有する乾燥マカを得るために、一般には60〜80℃が好ましく、60〜75℃がより好ましく、60〜70℃が更に好ましい。
【0040】
強制乾燥工程S4は、マカ球根の水分含有量が10質量%以下に至るまで行う。水分含有量の測定は、測定対象のマカ球根の重さを測定し、次いで、当該マカ球根を100℃で1時間更に加熱してその重さを測定し、加熱前後の重さの差を求めることによって行う。なお、強制乾燥工程S4における乾燥は、必ずしも、マカ球根の水分含有量が10質量%に到達した時点で停止する必要はなく、例えば、水分含有量が4質量%以下に到達するまで継続してもよい。
【0041】
(粉砕工程S5)
粉砕工程S5は、マカの球根を粉砕する工程である。粉砕工程S5を実施することにより、乾燥マカの取扱い、運搬等が容易になる。また、乾燥マカを抽出してマカエキスを得る場合には、より効率的な抽出が可能となる。
【0042】
マカ球根を粉砕させる方法としては、回転粉砕機を用いる方法、等が挙げられる。粉砕されたマカ球根(粉砕物)は、篩にかけてサイズを適当な範囲に調整するのが好ましい。なお、粉砕工程S5には、必要に応じて、粉砕されたマカ球根を篩にかけて、サイズが一定の範囲内にないマカ球根(粉砕物)を取り除くことも含まれる。
【0043】
(加熱工程S6)
加熱工程S6は、マカの球根を90〜100℃で10〜16時間加熱する工程である。加熱工程S6を実施することにより、ベンジルグルコシノレートの含有量を保持したまま、マカ球根から辛味成分のイソチオシアネートを除去して、飲食品材料としてより適した乾燥マカを得ることが可能となる。また、微生物がマカ球根中に残存している場合には、その全部又は一部を死滅させることも可能となる。イソチオシアネートを確実に除去するために、加熱は、95〜100℃で12〜16時間行うのが好ましい。
【0044】
マカ球根を加熱する方法としては、所定温度に保持された閉鎖空間(乾燥室、乾燥箱等)内にマカ球根を所定時間置く方法、等が挙げられる。
【0045】
上述の実施形態において、強制乾燥工程S4の前には、3日を超える天日乾燥を行わないのが好ましい。3日を超える天日乾燥を行うと、これを行わない場合と比較して、強制乾燥工程S4の開始までにマカ球根の水分含有量が低減し、その結果、得られる乾燥マカのベンジルグルコシノレート含有量が少なくなる傾向がある。
【0046】
また、強制乾燥工程S4は、より多くのベンジルグルコシノレートを含有する乾燥マカを得るために、マカの収穫後78時間以内に開始するのが好ましく、72時間以内に開始するのがより好ましい。
【0047】
上述の実施形態に係る製造方法は、洗浄工程S1、殺菌工程S2、裁断工程S3、強制乾燥工程S4、粉砕工程S5及び加熱工程S6をこの順に含むが、本発明の乾燥マカの製造方法は、これらの工程を必ずしもその順に含まなくてもよい。例えば、殺菌工程S2は、紫外線等をマカ球根に照射して殺菌する方法、又はオートクレーブ中にマカ球根を置いて殺菌する方法を用いれば、強制乾燥工程S4の後に実施してもよい。また、必ずしも洗浄工程S1、殺菌工程S2、裁断工程S3、粉砕工程S5及び加熱工程S6の一部又は全部を含まなくてもよい。
【0048】
〔乾燥マカの使用方法〕
本発明の乾燥マカの製造方法によれば、従来の製造方法で得られる乾燥マカよりもベンジルグルコシノレートを多く含有する乾燥マカを安定的に得ることが可能となる。
【0049】
また、本発明の製造方法により得られる乾燥マカを抽出することによって、従来の乾燥マカ由来のマカエキスよりもベンジルグルコシノレートを多く含有するマカエキスを得ることが可能となる。マカエキスは、例えば、次のようにして得ることができる。
【0050】
乾燥マカをそのままの状態で、又は好ましくは、適当なサイズ(例えば、粒径0.85〜6mm)に粉砕した後、60〜80℃で4〜12時間、アルコール又は含水アルコールに浸漬させる。得られた抽出液を濾過して、不溶物を除去し、抽出液を減圧濃縮する。濃縮物に乾燥助剤(デキストリン、ソルビトール等)を添加して乾燥させた後、ブレンダー等で粉砕して粉末状マカエキスを得る。アルコール(含水アルコール中のアルコールを含む。)としては、エタノール、プロパノール等の低級アルコールが好ましく、エタノールが特に好ましい。含水アルコール中のアルコールの量は、例えば、エタノールの場合は、抽出効率の点で、好ましくは75質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、特に好ましくは99質量%以上である。濃縮物の乾燥方法としては、凍結乾燥、真空乾燥、噴霧乾燥等が挙げられる。なお、乾燥後、再度水に溶解し、活性炭、イオン交換樹脂等で更に精製してもよい。
【0051】
乾燥マカ又はマカエキスは、食品、飲食品添加物又は薬剤として使用することができる。例えば、飲食品添加物として、水、清涼飲料水、果汁飲料、乳飲料、アルコール飲料等の飲料や、パン類、麺類、米類、豆腐、乳製品、醤油、味噌、菓子類等の食品に添加して使用することができる。
【0052】
また、乾燥マカ又はマカエキスは、そのままの形状で、又は一定の剤形に製剤化して使用することができる。そのような製剤としては、散剤、顆粒剤、錠剤、トローチ剤、カプセル剤、液剤、シロップ剤等が挙げられる。これらの製剤は、乾燥マカ又はマカエキスを、薬学的に許容される添加剤(賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、乳化剤、界面活性剤、基剤、溶解補助剤、懸濁化剤等)と混和することによって調製することができる。例えば、顆粒剤又は錠剤は、粉末状の乾燥マカ又はマカエキスを賦形剤(乳糖、白糖、デンプン、デキストリン等)と混和することによって調製することができる。
【0053】
乾燥マカ又はマカエキスは、ヒトに摂取されても、非ヒト哺乳動物に摂取されてもよい。ヒトが摂取する場合、十分な薬理効果を得るために、乾燥マカ又はマカエキスの摂取量としては、ベンジルグルコシノレートが0.9〜2.4mg/日摂取される量が好ましく、1.8〜2.4mg/日摂取される量が更に好ましい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
〔実施例1〕
(マカ球根の収穫)
ペルーアンデスの標高4000m以上の高地において、6月から7月にかけてマカの収穫を行った。このマカは、前年10月〜11月に植えたマカの種から生じたものである。マカの収穫は手作業で行った。
【0056】
収穫したマカの球根を純水で洗浄し、更に表面の水分を除去した後、サイズ毎に選別・袋詰めし、リマ市内の加工工場に運搬した。この時点で、マカ球根の重さを測定し、更に、これを100℃で1時間加熱した後、その重さを測定し、両者を比較して水分含有量を算出した。水分含有量は60〜80質量%であった。
【0057】
(マカ球根の洗浄、殺菌、裁断、強制乾燥及び粉砕)
次に、加工工場において、マカ球根を検査して、傷み、虫食い等のない球根を選別し、これを純水で洗浄した。そして、マカ球根を500ppmの次亜塩素酸ナトリウムの水溶液に10〜15分間浸漬させて殺菌した。殺菌後、次亜塩素酸ナトリウムを純水で洗い流し、更に表面の水分を除去した後、マカ球根を回転刃式裁断機で厚さ3〜4mmに裁断した。この時点で、20〜35gのマカ球根(裁断物)を採取して、その重さを測定し、更に、これを100℃で1時間加熱した後、その重さを測定し、両者を比較して水分含有量を算出した。水分含有量は62〜78質量%であった。
【0058】
次に、60〜65℃、約14時間の強制乾燥を行った。具体的には、大型トンネル式扇風機を稼動させた状態で乾燥室内を60〜65℃に保持し、裁断後のマカ球根(裁断物)を乾燥室内に約14時間置いた。なお、強制乾燥の開始は、収穫から48〜72時間後であった。
【0059】
強制乾燥の開始から約12時間半後に、バッチ1個(マカ球根300kg)当たり20〜35gのマカ球根(裁断物)を採取して、その重さを測定した。更に、これを100℃で1時間加熱した後、その重さを測定し、加熱前後の重さを比較して水分含有量を算出した。水分含有量は4質量%以下であった。
【0060】
強制乾燥後、回転粉砕機でマカ球根を粉砕させた。粉砕されたマカ球根を篩にかけて、6mmを超えるサイズの粉砕物を取り除いた。そして、18メッシュの篩にかけて、0.85mm未満の微粉末を取り除き、0.85〜6mmのサイズのマカ球根(粉砕物)を得た。
【0061】
〔実施例2〕
マカ球根の粉砕後、0.355mmを超えるサイズの粉砕物を取り除いて、0.355mm以下のサイズのマカ球根(粉砕物)を得たこと以外は、実施例1と同様にして乾燥マカを製造した。
【0062】
加工工場への運搬直後のマカ球根の水分含有量は60〜80質量%であり、裁断直後のマカ球根(裁断物)の水分含有量は62〜78質量%であった。また、強制乾燥の開始から約12時間半後に採取したマカ球根(裁断物)の水分含有量は4質量%以下であった。
【0063】
〔比較例1〕
(マカ球根の収穫及び天日乾燥)
ペルーアンデスの標高4000m以上の高地において、6月から7月にかけてマカの収穫を行った。このマカは、前年10月〜11月に植えたマカの種から生じたものである。マカの収穫は手作業で行った。
【0064】
収穫したマカの球根を純水で洗浄し、乾燥場所に運び、ビニールシートの上に広げて、約8週間、天日乾燥を行った。マカ球根を満遍なく乾燥させるために、天日乾燥の間、週に1回の頻度でマカ球根を掻き混ぜた。悪天候時及び夜間は、球根の上をビニールシートで覆った。盗難の防止、悪天候への対応等のために、乾燥場所の近辺には常に人員を配置した。天日乾燥の終了直後にマカ球根の重さを測定し、更に、これを100℃で1時間加熱した後、その重さを測定し、両者を比較して水分含有量を算出した。水分含有量は25〜30質量%であった。
【0065】
天日乾燥したマカ球根をサイズ毎に選別・袋詰めし、温度12℃、湿度25〜35%に保持された倉庫に一時保管した後、リマ市内の加工工場に運搬した。
【0066】
(マカ球根の洗浄、殺菌、裁断、強制乾燥及び粉砕)
加工工場では、実施例1におけるマカ球根の洗浄、殺菌、裁断、強制乾燥及び粉砕と同様の操作を行った。但し、強制乾燥の時間は約6時間であった。裁断直後のマカ球根(裁断物)の水分含有量は15〜18質量%であり、強制乾燥の開始から約4時間半後に採取したマカ球根(裁断物)の水分含有量は4質量%以下であった。
【0067】
〔比較例2〕
マカ球根の粉砕後、0.355mmを超えるサイズの粉砕物を取り除いて、0.355mm以下のサイズのマカ球根(粉砕物)を得たこと以外は、比較例1と同様にして乾燥マカを製造した。
【0068】
天日乾燥の終了直後のマカ球根の水分含有量は25〜30質量%であり、裁断直後のマカ球根(裁断物)の水分含有量は15〜18質量%であった。また、強制乾燥の開始から約4時間半後に採取したマカ球根(裁断物)の水分含有量は4質量%以下であった。
【0069】
〔グルコシノレート含有量の測定〕
実施例1〜2及び比較例1〜2で得られた乾燥マカについて、グルコシノレート含有量(ベンジルグルコシノレート量に換算したグルコシノレート類の総含有量)の測定を行った(n=3)。グルコシノレート含有量の測定は、次のように、試料中のグルコシノレートをミロシナーゼ(チオグルコシダーゼ)で完全加水分解し、遊離したグルコースを定量することによって行った。なお、グルコシノレートは、ミロシナーゼにより加水分解されて、グルコース及びイソチオシアネートを生成する。
【0070】
先ず、試料300mgをエッペンドルフチューブに分取した。そして、内在性のミロシナーゼを失活させるために、3倍量の熱湯を加え、更に5分間加熱して沸騰させた。その後、チューブが常温になるまで放置して植物残留物及び植物繊維を沈殿させ、上清0.5mLを分取した。分取した上清0.5mLに、Pb(OCOCH 11.3g、Ba(OCOCH 7.65g及び酢酸0.29mLを水100mLに溶解した溶液0.5mLを30分かけて添加し、4000×gで10分間遠心分離した。遠心分離で得られた上清0.4mLをカラム(DEAE Sephadex A−25、1mL)に通液した後、カラムを4M酢酸2mL及び水6mLで洗浄した。このカラムにミロシナーゼ溶液(3mg/mL)500μLを導入して常温で一晩静置後、水3mLで溶出し、溶出液のグルコース濃度をヘキソキナーゼ法で測定した。他方、ミロシナーゼ溶液の代わりに、ミロシナーゼを含有しない溶液を用いたこと以外は同様の操作を行って得た溶出液についても、同様にグルコース濃度を測定した。このグルコース濃度を、先に求めたグルコース濃度から差し引いて得られる値が、ミロシナーゼ処理により遊離したグルコースの量に相当する。
【0071】
乾燥マカのグルコシノレート含有量(平均±標準偏差)を表1及び図2に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
表1及び図2から明らかなように、実施例1及び2で得られた乾燥マカは、それぞれ、比較例1及び2で得られた乾燥マカと比較して、グルコシノレート含有量が顕著に多かった。
【0074】
〔グルコシノレート含有量とベンジルグルコシノレート含有量との相関関係〕
グルコシノレート含有量(ベンジルグルコシノレート量に換算したグルコシノレート類の総含有量)とベンジルグルコシノレート含有量との相関関係の有無を確認するために、市販の4種のマカエキスA、B、C及びDについて、グルコシノレート含有量及びベンジルグルコシノレート含有量を測定した。
【0075】
グルコシノレート含有量の測定は、上述と同様にミロシナーゼを用いて行った。他方、ミロシナーゼ処理後の試料について、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によりベンジルイソチオシアネート量を測定した。そして、得られたベンジルイソチオシアネート量から、当該マカエキスのベンジルグルコシノレート含有量を算出した。なお、ベンジルイソチオシアネートは、ベンジルグルコシノレートのミロシナーゼ分解産物である。
【0076】
HPLCの条件は次の通りである。
カラム:SHISEIDO CAPCELLPAK C18 4.6mmID×250mm
溶媒:N(C17)Br 1.006gをメタノール600mLに溶解させた溶液と、NaHPO 1.137gを水400mLに溶解させた溶液と、を混合し、50%HPOでpH7に調整した混合溶液
流速:1mL/分
温度:35℃
検出:235nm
注入量:10μL
【0077】
結果を表2及び図3に示す。図3は、表2に示される4組のデータの散布図及び回帰直線である。
【0078】
【表2】

【0079】
表2及び図3から明らかなように、マカエキスにおいて、グルコシノレート含有量とベンジルグルコシノレート含有量との間には極めて強い正の相関がある(相関係数:0.964)。このことから、乾燥マカにおいても、グルコシノレート含有量とベンジルグルコシノレート含有量との間に正の相関があると推定される。従って、表1及び図2に示される結果より、実施例1及び2で得られた乾燥マカの方が、それぞれ、比較例1及び2で得られた乾燥マカと比較して、ベンジルグルコシノレートを多く含有すると推定される。
【0080】
〔ベンジルグルコシノレート含有量の測定〕
実施例1及び比較例1で得られた乾燥マカからマカエキスを調製し、表3に示す項目について試験した。
【0081】
具体的には、先ず、乾燥マカ10gを室温下、75%(v/v)エタノール80mLで攪拌抽出した。そして、抽出液を濾過して不溶物を除去し、抽出液を減圧濃縮した。濃縮物にデキストリンを添加し、凍結乾燥した後、粉砕して粉末状マカエキスを得た。
【0082】
次に、得られたマカエキスを、表3に示す項目について試験した。ベンジルグルコシノレート含有量の測定は、上述と同様に、試料をミロシナーゼで処理し、遊離したベンジルイソチオシアネートをHPLCにより定量することによって行った(HPLCの条件は上述と同様)。
【0083】
その他の項目は、下記試験法により測定した。
重金属:硫化ナトリウム比色法
ヒ素:DDTC−AG吸光光度法
一般生菌数:標準平板菌数測定法
真菌数:標準平板菌数測定法
大腸菌群:液体培地法(BGLB)
水分:減圧加熱乾燥法
灰分:直接灰化法
【0084】
結果を表3及び図4に示す。図4は、実施例1で得られた乾燥マカに由来するマカエキスのHPLCチャートである。
【0085】
【表3】

【0086】
表3から明らかなように、実施例1及び比較例1で得られた乾燥マカに由来するマカエキスはいずれも、性状、安全性等に関する所定の規格に適合した良質のマカエキスであった。しかし、実施例1で得られた乾燥マカに由来するマカエキスは、比較例1で得られた乾燥マカに由来するマカエキスと比較して、ベンジルグルコシノレート含有量が顕著に多かった。
【0087】
〔乾燥マカの加熱処理〕
実施例1及び2で得られた乾燥マカを、表4に示す4種の条件で加熱し、グルコシノレート含有量(ベンジルグルコシノレート量に換算したグルコシノレート類の総含有量)の変化の有無、及び辛味の有無を検査した。グルコシノレート含有量の変化については、加熱処理の前後でグルコシノレート含有量を測定して、測定値を比較した。グルコシノレート含有量の測定は、上述と同様にミロシナーゼを用いて行った。
【0088】
実施例1及び2で得られた乾燥マカをいずれの条件で加熱しても、グルコシノレート含有量には実質的な変化が見られなかった。他方、表4に示すように、実施例1及び2で得られた乾燥マカのいずれについても、100℃、12時間の条件で加熱した場合に辛味がなくなっていた。なお、表4において、「+」は「辛味あり」を、「−」は「辛味なし」を表す。
【0089】
【表4】

【0090】
以上より、本発明の乾燥マカの製造方法によれば、ベンジルグルコシノレートを十分に多く含有し、かつ従来の乾燥マカよりもベンジルグルコシノレートを多く含有する乾燥マカを安定的に得ることが可能となることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の乾燥マカの製造方法は、ベンジルグルコシノレートを有効成分として含有する機能性食品の製造に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】乾燥マカの製造方法の好適な一実施形態の概略を示すフローチャートである。
【図2】乾燥マカのグルコシノレート含有量を示すグラフである。
【図3】マカエキスのグルコシノレート含有量及びベンジルグルコシノレート含有量の散布図及び回帰直線である。
【図4】マカエキスのHPLCチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マカの球根を、その水分含有量が10質量%以下に至るまで、60〜100℃で乾燥させる強制乾燥工程を含み、
マカの収穫後、強制乾燥工程を開始するまで、球根の水分含有量が50質量%以上に保持される、乾燥マカの製造方法。
【請求項2】
強制乾燥工程において、球根を60〜80℃で乾燥させる、請求項1に記載の乾燥マカの製造方法。
【請求項3】
マカの収穫後、強制乾燥工程を開始するまで、3日を超える天日乾燥が行われない、請求項1又は2に記載の乾燥マカの製造方法。
【請求項4】
マカの収穫から78時間以内に強制乾燥工程を開始する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の乾燥マカの製造方法。
【請求項5】
強制乾燥工程の前に、更に、
球根を洗浄する洗浄工程、球根を殺菌する殺菌工程、及び球根を裁断する裁断工程、のうちの少なくとも一つの工程を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の乾燥マカの製造方法。
【請求項6】
殺菌工程が、球根を殺菌剤で殺菌し、次いで、殺菌剤を洗い流す工程である、請求項5に記載の乾燥マカの製造方法。
【請求項7】
洗浄工程、殺菌工程及び強制乾燥工程をこの順に含む、請求項5又は6に記載の乾燥マカの製造方法。
【請求項8】
洗浄工程、殺菌工程、裁断工程及び強制乾燥工程をこの順に含む、請求項5又は6に記載の乾燥マカの製造方法。
【請求項9】
強制乾燥工程の後に、更に、
球根を粉砕する粉砕工程を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の乾燥マカの製造方法。
【請求項10】
強制乾燥工程の後に、更に、
球根を90〜100℃で10〜16時間加熱する加熱工程を含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の乾燥マカの製造方法。
【請求項11】
強制乾燥工程の後に、更に、
球根を粉砕する粉砕工程、及び球根を90〜100℃で10〜16時間加熱する加熱工程、をこの順に含む、請求項8に記載の乾燥マカの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−39(P2009−39A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−162978(P2007−162978)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(504054516)株式会社キノス (8)
【Fターム(参考)】