説明

乾燥果実スライスの製造方法

【課題】柑橘系果実の風味及び色彩をより一層高め、パリパリとした煎餅のような食感の乾燥果実スライスを得る。
【解決手段】
柑橘系果実を冷凍固化する工程と、冷凍固化され定型保持状態下の柑橘系果実を所定の厚みにスライスする工程と、スライスされた柑橘系果実の表面又は/及び裏面にトレハロース溶液を塗布する工程と、トレハロース溶液が表面又は/及び裏面に塗布された柑橘系果実のスライス片を重合することなく夫々展開状態で静置し、80℃〜100℃の温度環境下に放置して乾燥させる工程と、乾燥した果実スライスを乾燥剤と共に気密性部材よりなる袋内に密封する工程とよりなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、柑橘の自然な熟した甘い風味が一層強調され、且つ煎餅のようなパリパリした食感を呈し、水或は湯の存在下では元のスライス果実に戻り、様々な料理にも応用可能な乾燥果実スライスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
旧来より、乾燥果実は果実をそのまま或は砂糖漬け後に乾燥機や天日干しにより乾燥して製造し、保存食として製菓材料等に利用していた。その代表例として乾しぶどう、乾し杏やザボン漬、レモンピール等が存在する。葡萄に代表される粒状果実は茎から果実を採取し、そのまま乾燥してレーズンとして利用し、林檎やマンゴー等の形状の大きい果実はスライス等により適宜大きさを調整後に乾燥処理して乾燥果実を得ている。又、これら乾燥果実の小片を結着剤を用いて結着し、ブロック状、棒状等の所望形状に形成することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
上記特許文献1に開示の発明は、複数の乾燥果実片若しくはダイス状乾燥果実を結着剤により結着し、全体形状を棒形状、ハート形状、ブロック形状等の所望形状にすることを可能にした。特許文献1に開示する製造方法で得られた食品は、1個の菓子で福数種の乾燥果実を味を提供可能で、全体としてしっとりとした食感を呈するものが得られる。しかし、本願発明が目的とする果実の風味が強調され、且つ煎餅風のパリパリした食感を呈する食品とはならない。
スライスした柑橘系果実をトレハロース液に浸漬後、減圧処理を行い、次に常圧に戻して浸漬液を果実スライスから排出し、フリーズドライを行う乾燥果実の製造方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
上記特許文献2に開示の発明は、トレハロースが充分浸透したスライス果実をフリーズドライして乾燥果実を得るものであり、水の存在下により復元力が良好であり、生鮮柑橘を常時ストックする必要性がなく、生鮮レモンがその場に無い場合に水で復元して料理に利用するという常備食品としての利便性がある。しかしながら、特許文献2に開示の製造方法により得られた乾燥レモンは水分含有率が2.8%と極めて低く、しかもフリーズドライによる乾燥であるためそのまま食用すると素材の風味が劣化しており、又、パリパリした食感に欠け美味でないという問題点があった。
【特許文献1】特開2006−136184号公報
【特許文献2】特開2009−101763号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本願発明は上記従来技術の有する問題点に鑑みて創案されたものであって、低温加熱乾燥により濃縮した豊かな風味とパリパリとした食感を呈する乾燥果実スライスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1に記載の発明は乾燥果実スライスの製造方法であって、柑橘系果実を冷凍固化する工程と、冷凍固化され定型保持状態下の柑橘系果実を所定の厚みにスライスする工程と、スライスされた柑橘系果実の表面又は/及び裏面にトレハロース溶液を塗布する工程と、トレハロース溶液が表面又は/及び裏面に塗布された柑橘系果実のスライス片を重合することなく夫々展開状態で静置し、80℃〜100℃の温度環境下に放置して乾燥させる工程と、乾燥した果実スライスを乾燥剤と共に気密性部材よりなる袋内に密封する工程とよりなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本願発明は、冷凍固化した柑橘系果実を用いるため果実形状が崩れることなくスライスできるという効果がある。
柑橘系果実を冷凍することで果実中の水分が固化し果実組織内に氷の結晶を生成し、解凍後は果実組織中の氷が解け、水となり果実の外部に流失し、果実組織中には固化した氷と同形状の空洞部を形成するため、トレハロースを果実スライスの表面に塗布するだけの作業でトレハロースがスピーディーに空洞部内に入り込み、トレハロースが解凍された果実スライスの組織内に均等に存在するようになるという効果がある。そのため、長時間果実スライスをトレハロース液に浸漬する必要がなく、型崩れが生じないという効果がある。
トレハロースを使用することで、果実スライスの変色を抑制し鮮度を長期間保持するという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
冷凍果実を使用することで、果実スライス作業の向上を図ると共に、解凍後には果実組織内に微細孔が形成され、該微細孔にトレハロース溶液が入り込むことでトレハロースの組織内への高浸透性を実現した。又、トレハロース溶液が塗布された果実スライスを低温乾燥することで、表面の色彩の劣化を防止し、パリパリとした食感を呈することを実現した。
【実施例1】
【0007】
柑橘系果実として温州みかんを例にして乾燥スライス果実の製造方法の1実施例を説明する。
温州みかんを−15℃以下の温度環境下に放置し、中心部が固化するまで冷凍する。得られた冷凍温州みかんを、ヘタとヘソを結ぶ線に対して直交した切断面を有し、肉厚が約1.5〜3.0mm程度の輪切りにして温州みかんスライス片を得る。スライス片を互いに重合しないように展開して金属板上に並べて載置する。水100ccに対してトレハロース30gを混合し、該混合液を沸騰させた後、常温環境下に放置し、液温を常温に戻しトレハロース濃度が30%のトレハロース溶液を得る。トレハロースは、α,αトレハロース、α,βトレハロースの何れを用いてもよい。得られたトレハロース溶液を、金属板上に載置された温州みかんスライス片の表面に塗布する。本実施例では、塗布方法は刷毛で各スライス片の表面に塗布する方法を採っているが、本願発明は刷毛による塗布方法に限定しない。金属板上に並設された多数の温州みかんスライス片にトレハロース溶液をスプレーして温州みかんスライス片表面にトレハロース溶液を塗着する方法も本願発明に包含される。トレハロース溶液が表面に塗着された温州みかんスライスを100℃の温度環境下に約4時間静置し加熱乾燥する。加熱後に常温環境下に静置して常温冷却し、気密性樹脂製フィルムにて形成された袋内に乾燥剤と共に密封して製品を得る。
【0008】
得られた乾燥果実スライスは、全体が鮮やかなオレンジ色を呈し、熟した濃厚な風味を有し、且つパリパリとした煎餅のような食感を呈するものであった。そのまま食すると、温州みかんが高糖度の清美タンゴールのような濃厚な風味とパリパリした食感で極めて美味であり、洋菓子に使用しても鮮やかなオレンジ色は映え、風味が増すという効果がある。
本願発明はトレハロース溶液を温州みかんスライス片の表面(片面)に塗布するため、特許文献2のように長時間トレハロース溶液に浸漬する必要性がなく、温州みかんスライス片が型崩れせず、均一な肉厚形状の乾燥果実スライスを得ることができる。又、柑橘系果実を冷凍するため柑橘系果実の水分が氷となって固化し温州みかんの組織内に氷の結晶を生成する。解凍後の温州みかんスライスは、氷が水となりスライス片の外部へ流出した結果、果汁濃度が高まり、且つ組織内に無数の微細孔が形成され、これら無数の微細孔にトレハロース溶液が速やかに入り込んで温州みかんの果肉部分は濃縮された果汁とトレハロースの甘みが混合する。果肉以外の皮や皮下の白い部分も組織内に形成された微細孔に入り込んだトレハロース溶液により糖度が増し、スライス片全体がみかんの風味が濃縮された苦みの無い美味を呈するという効果がある。
尚、本実施例では温州みかんを例に説明したが、本願発明はこれに限定するものではない。清美タンゴール、不知火等の柑橘や林檎、メロンを材料となる果実とすることは本願発明に包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柑橘系果実を冷凍固化する工程と、
冷凍固化され定型保持状態下の柑橘系果実を所定の厚みにスライスする工程と、
スライスされた柑橘系果実の表面又は/及び裏面にトレハロース溶液を塗布する工程と、
トレハロース溶液が表面又は/及び裏面に塗布された柑橘系果実のスライス片を重合することなく夫々展開状態で静置し、80℃〜100℃の温度環境下に放置して乾燥させる工程と
乾燥した果実スライスを乾燥剤と共に気密性部材よりなる袋内に密封する工程とよりなる乾燥果実スライスの製造方法。