説明

乾燥納豆食品の製造方法

【課題】本発明は、遊離アミノ酸や大豆イソフラボンアグリコンの含有量を増加した乾燥納豆食品の製造方法および該製造方法により製造された乾燥納豆食品の提供を課題とする。
【解決手段】大豆を粉末状またはフレーク状にして、納豆菌および乳酸菌を複合的に植え付けて発酵させた後、乾燥させる。発酵させるに際して、常温で一定期間発酵させた後、さらに低温で一定期間発酵させる。発酵させた後に乾燥させるに際して、40℃〜80℃の温風により水分10%以下になるまで乾燥させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末状またはフレーク状の乾燥した乾燥納豆食品の製造方法と、該製造方法により製造された乾燥納豆食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、納豆の原料となる大豆は畑の肉とも呼ばれ、タンパク質を豊富に含むことが特徴であるが、同時に糖質や食物繊維、脂質等の他の重要な栄養成分もバランス良く含有されている栄養食品である。
【0003】
この大豆中に豊富に含まれるタンパク質についてその機能性の向上について考察すると、タンパク質は栄養成分として体内に吸収される場合、胃や腸で分解され、アミノ酸になった後、小腸壁の微絨毛から吸収される。よってタンパク質を構成するアミノ酸への分解(遊離)が促進されれば、より一層吸収性に優れた食品となる。
【0004】
これら種々の遊離アミノ酸の中には、γ-アミノ酪酸(GABA)の血圧降下作用やオルニチンの疲労回復効果など特異的な機能性を持つものがあることが報告されており、それらの特徴により特定保健用食品として認可されたり、サプリメントなどの健康食品に利用されている。
【0005】
また、近年、大豆のイソフラボン等の機能性成分が注目されている。大豆イソフラボンは女性ホルモンのエストロゲンに似た働きをするとされ、骨粗鬆症や更年期障害の緩和に効果があるという報告がされている。
【0006】
大豆に含まれる大豆イソフラボンは、ゲニステイン、ダイゼイン、グリシテインの3種類の大豆イソフラボンアグリコンとゲニスチン、ダイジン、グリシチンをはじめとする配糖体が合計12種類存在することが知られている。大豆中ではそのほとんどが配糖体として存在しているが、配糖体は腸内細菌により糖が切り離されてアグリコンに変換された後、腸管から体内に吸収される。配糖体としてではなく、アグリコンの形で摂取することにより、体内への吸収性が優れていることが報告されている。
【0007】
ところで、このように種々の機能が知られている大豆であるが、その大豆を加工した食品として代表的なものに納豆がある。納豆は、大豆を原料として納豆菌を作用させて発酵させたものである。最近では、納豆の整腸作用等が注目され、広く社会的に健康に良い食品として認知されている。
【0008】
本出願人も、大豆を粉末状又はフレーク状にして納豆菌を植え付け発酵させたあとに乾燥させた納豆食品を提案している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−65032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この粉末状またはフレーク状の乾燥納豆食品は、一般の納豆のような匂いがほとんどなく、栄養価および保存性の高いものとなるが、さらに上述のように遊離アミノ酸や大豆イソフラボンアグリコンの含有量をさらに増加した乾燥納豆食品が望まれるところである。
【0011】
本発明は上述の背景技術に鑑みてなされたものであって、遊離アミノ酸や大豆イソフラボンアグリコンの含有量を増加した乾燥納豆食品の製造方法および該製造方法により製造された乾燥納豆食品の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る乾燥納豆食品の製造方法は、上述の課題を解決するために、大豆を粉末状またはフレーク状にして、納豆菌および乳酸菌を複合的に植え付けて発酵させた後、乾燥させることを特徴とする。これによれば遊離アミノ酸や大豆イソフラボンアグリコンの含有量を増加した乾燥納豆食品を製造することができる。
【0013】
納豆菌および乳酸菌を複合的に植え付けて発酵するに際しては、例えば納豆菌を植え付けて発酵させた後に乳酸菌を植え付けて発酵させたり、あるいは納豆菌および乳酸菌を同時に植え付けて発酵させたりしてもよい。要は納豆菌および乳酸菌が複合的に順次または同時に植え付けて発酵すればよい。
【0014】
また、乳酸菌としては、特にラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)、またはラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)が好適に用いられる。これらの乳酸菌によると、本乾燥納豆食品中に含まれるγ−アミノ酪酸(GABA)の濃度をさらに高くすることができるとともに、大豆イソフラボンアグリコンへの変換量をさらに多くすることができる。
【0015】
また、乳酸菌は、液体窒素で急速に凍結したものであってもよい。これによれば乳酸菌を保存しやすくなり、適宜、乾燥納豆食品の製造に使用することができる。
【0016】
また、発酵させるに際しては、常温で一定期間発酵させたあと、さらに低温で一定期間発酵させるのが好ましい。常温とは例えば30℃〜40℃の範囲内、より好ましくは35℃程である。また低温とは、1℃〜10℃の範囲内、より好ましくは4℃程である。また、常温の一定期間は例えば3日〜5日、より好ましくは4日程である。低温の一定期間は例えば5日〜7日、より好ましくは6日程である。これによれば通常の発酵に比べて、乾燥納豆食品に含まれるγ−アミノ酪酸(GABA)の濃度を高くすることができるとともに、大豆イソフラボンアグリコンへの変換量を多くすることができる。
【0017】
また、発酵を開始したときの水分含有量を60%〜65%にするのが好ましい。これによれば、発酵後の乾燥を効率的に行うことができる。
【0018】
また、発酵させた後に乾燥させるときに際して、40℃〜80℃の温風により水分10%以下になるまで乾燥させるのが好ましい。この場合、40℃以下では風乾の効率が低くなり、また80℃以上では分解が生じ易いので、40℃〜80℃の範囲内、より好ましくは40℃〜50℃の温風で乾燥させる。また、乾燥させることにより大豆の分解を止めて芽胞に代わり、芽胞の密度を増加するため、水分10%以下、より好ましくは5%以下にする。
【0019】
また、乾燥は温風乾燥機を用いることが簡便であるが、温風乾燥機を用いることなく、空気を別途温めて温風として吹き付けて乾燥させてもよいし、その他の手段で乾燥させてもよい。なお、乾燥時における温風は均一乾燥の観点から可及的均一であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、納豆菌および乳酸菌を複合的に植え付けて発酵させるため、γ−アミノ酪酸(GABA)をはじめとする各種の遊離アミノ酸を豊富に含ませるとともに、原料の大豆には少量しか含まれていない大豆イソフラボンアグリコンを豊富に含ませることができる。このため人体への吸収性に優れる大豆由来のこれらの機能性成分の増強により、優れた栄養食品としての乾燥納豆食品を製造することができる。
【0021】
また、発酵させた後に乾燥させるため、納豆特有のアンモニア臭が少なくなり、また保管にも適したものとなる。
【0022】
さらに粉末状またはフレーク状にしているため、様々な料理や飲料に入れることができ、遊離アミノ酸や大豆イソフラボンアグリコンなどの機能性成分を手軽に摂取することが可能となる上に、納豆菌を多く含んでいるために整腸作用も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】粉末納豆(従来品)から水抽出されたアミノ酸の抽出量に関するグラフ
【図2】各乳酸菌培養液中のγ−アミノ酪酸(GABA)の濃度に関するグラフ
【図3】原料大豆粉末、粉末納豆(従来品)、乳酸菌(13951)処理した本乾燥納豆食品の遊離アミノ酸の抽出量に関するグラフ
【発明を実施するための形態】
【0024】
次の本発明の実施例について図1〜図3及び表1〜6を参照しつつ説明する。
【実施例】
【0025】
<乾燥納豆食品の製造に適した乳酸菌の検索>
粉末状またはフレーク状に加工した大豆に納豆菌を植え付け、40℃〜50℃、湿度60%〜85%の雰囲気下で15〜20時間保持して発酵させた後、これを好気環境で35℃〜50℃の温風により風乾し、水分含量を10%以下とした粉末納豆を原料とする。
【0026】
この粉末納豆を水抽出(1gあたり50mlの蒸留水で10分間放置)し、抽出液のアミノ酸組成を測定した結果、図1に示すように、他のアミノ酸に比べ、著量のグルタミン酸(Glu)が検出された。
【0027】
そこで、グルタミン酸(Glu)を原料としてグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)の作用により、γ−アミノ酪酸(GABA)を効率よく生成する乳酸菌の検索を行った。乳酸菌は表1(供試乳酸菌リスト)に示す菌株(丸数字1〜8)を使用した。
【表1】

【0028】
また、乳酸菌の培養には、表2(乳酸菌用培地組成 g/100ml)に示す乳酸菌用培地AあるいはBのいずれかを使用した。
【表2】

【0029】
100mlの乳酸菌用液体培地Aに1gの粉末納豆を添加し、これに各乳酸菌株を接種して30℃で3日間静置培養後、培養液上清をアミノ酸分析用クエン酸緩衝液で2倍希釈してアミノ酸分析を行い、γ−アミノ酪酸(GABA)の含有量を測定した。
【0030】
すると、図2に示すように乳酸菌3、4および5に相当するLactobacillus brevis (NBRC12005)、Lactococcus lactis subsp.lactis(NBRC12007)およびLactobacillus acidophilus(NBRC 13951)を添加した培養液中のγ−アミノ酪酸(GABA)の濃度が高かった。以後はこれら3菌株に絞って粉末納豆を原料とするGABAの生成試験を実施した。
【0031】
乳酸菌の保存は、液体培地で培養した菌体を遠心分離により集菌後、滅菌した15%グリセリン溶液に懸濁し、液体窒素で急速に凍結して−75℃の冷凍庫で保存した。
【0032】
<乳酸菌3菌株による粉末納豆を原料とするγ−アミノ酪酸(GABA)の生成試験>
粉末納豆を原料とするγ−アミノ酪酸(GABA)の生成試験に使用する3種類の乳酸菌3,4,5は表2の培地Aを用いて30℃で2日間培養後、遠心分離(7000rpm、20分、4℃)により集め、菌体を蒸溜水で2回洗浄し、少量の蒸留水に懸濁後、真空凍結乾燥した。γ−アミノ酪酸(GABA)の生成試験の菌体使用量は基質となる粉末納豆100gあたり50mlの培養液から得られた凍結乾燥乳酸菌粉末を用いた。
【0033】
粉末納豆と3種類の凍結乾燥乳酸菌粉末3,4,5によるγ−アミノ酪酸(GABA)の生成試験の実施例を以下に示す。
【0034】
100gの粉末納豆にLactobacillus brevis (NBRC12005)、Lactococcus lactis subsp. Lactis (NBRC12007)および Lactobacillus acidophilus (NBRC13951)の3種類の凍結乾燥乳酸菌粉末3,4,5を懸濁した150mlの水道水をよく混和し、35℃で4日間発酵後、さらに4℃で6日間発酵した。なお、発酵開始時の水分は多いほど発酵経過が良好であるが、後の乾燥工程を考慮して発酵開始時の水分含量は60〜65%程度とした。
【0035】
発酵後の試料は、40〜80℃の温風により水分10%以下まで乾燥し、ブレンダーで破砕して粉末状に加工し、乳酸菌複発酵納豆粉末とした。0.4gの乳酸菌複発酵納豆粉末と10mlの8%トリクロロ酢酸(TCA)溶液をよく混和後、20℃で2時間振とうしてγ−アミノ酪酸(GABA)を抽出した。抽出液中の遊離アミノ酸をアミノ酸分析計で分析した。
【0036】
分析の結果、表3(TCA抽出されたγ−アミノ酪酸(GABA)の量 mg/100g)に示すように試験した3種類のいずれの乳酸菌においてもGABAの生成が認められ、35℃での発酵後、4℃の環境下で放置することでさらにγ−アミノ酪酸(GABA)の濃度が増加することが判明した。粉末納豆の原料大豆と粉末納豆のγ−アミノ酪酸(GABA)の含有量の結果では、原料大豆粉末中には0.1mg/100g以下、粉末納豆中には24.1mg/100gであることから、本方法により、大豆由来以外のγ−アミノ酪酸(GABA)の基質を全く添加することなく、納豆菌と乳酸菌の複合的な発酵により、著量のγ−アミノ酪酸(GABA)の生成が可能であることが判明した。
【表3】

【0037】
さらに、同様に原料大豆粉末、粉末納豆、及び本方法で処理した粉末(乳酸菌株NBRC13951を使用し、常温35℃で4日発酵、さらに低温4℃で6日発酵したもの)から抽出されたγ−アミノ酪酸(GABA)を含む遊離アミノ酸を比較した結果を図3に示した。本方法で処理することにより、γ−アミノ酪酸(GABA)以外の遊離アミノ酸も増加しており、体内へのアミノ酸の吸収性に優れた栄養価値の高い加工品となっていることが結論づけられる。なお、他の2株の乳酸菌においても、同様の傾向が認められた。
【0038】
<大豆イソフラボンのアグリコンへの変換量の測定>
大豆中においてイソフラボンはその多くが配糖体として存在していることが知られているが、本技術による納豆菌と乳酸菌の複合的な発酵の過程で配糖体の糖が切り離されてアグリコンの形に変換できるか否かを検討した。
【0039】
原料大豆、納豆粉末及び各種条件で発酵した試作品より80%メタノールによってイソフラボンを抽出し、代表的な配糖体であるダイジン、グリシチンおよびゲニスチンと各々のアグリコンであるダイゼイン、グリシテインおよびゲニステインを測定した。
【0040】
その結果、表4(大豆イソフラボン含有量の比較 mg/100g)に示すように、原料の大豆中にはアグリコンとして存在するイソフラボンは3種類の合計で0.8mg/100gであったのに対して納豆菌により20時間発酵した粉末納豆(従来品)は、23.0mg/100gに増加していた。さらに、本技術により、乳酸菌5(NBRC13951)を添加し、35℃で4日間、4℃で6日間発酵したものは121.8mg/100gに増加していた。
【表4】

【0041】
一方、乳酸菌を添加することなく35℃で4日間発酵、4℃で6日間放置したものは96.6mg/100gまで増加しており、長い時間の納豆菌発酵により、アグリコンが増加する傾向が見られたが、乳酸菌を添加した場合においてアグリコンへの変換量が多いことが確認された。
【0042】
以上の結果より、本技術の納豆菌と乳酸菌の複合的な発酵の過程で配糖体がアグリコンに変換され、種々の機能性が期待されるイソフラボンの体内への吸収性が高められた乾燥納豆食品が試作できた。
【0043】
なお、参考までに乾燥納豆として市販されている既製品のイソフラボン含有量を表5(市販の乾燥納豆のイソフラボン含有量の比較 mg/100g)に示すが、いずれもアグリコンの含有量は本技術による試作品に比べてかなり少ない。
【表5】

【0044】
<納豆菌と乳酸菌の挙動>
乳酸菌(NBRC13951使用の場合)との複合発酵前の粉末納豆、複合発酵過程の試作品、乾燥後の試作品の納豆菌と乳酸菌を測定した。
【0045】
その結果、表6(納豆菌と乳酸菌の菌数の推移)に示すように、納豆菌は乾燥粉末状態においても、加水し、乳酸菌との複合発酵状況下においても、終始1g当たり108以上の菌数を維持し、乳酸菌は発酵過程においては1g当たり108以上の菌数となっているが、乾燥して粉末とした場合には検出されなかった。
【0046】
よって、今回の試作で行った乾燥方法では、乳酸菌は死滅していると考えられる。凍結乾燥を行えば、生菌としての乳酸菌のプロバイオティクス効果も期待できる。
【表6】

【0047】
<分析方法>
以上のアミノ酸の分析には、日本電子(株)製JLC-500/V2型全自動アミノ酸分析機を使用して常法により行った。
【0048】
また、大豆イソフラボンの分析条件は下記のとおりである。
・カラム:HIKARISIL-C-18(4.6mmID×250mm)
・移動相:MeOH/H2O(30%/70%)→MeOH/H2O(70%/30%)(開始から40分間かけて直線グラジエント)
・カラム温度:40℃
・流速:1.0ml/min
・検出:UV 254nm


【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆を粉末状またはフレーク状にして、納豆菌および乳酸菌を複合的に植え付けて発酵させた後、乾燥させることを特徴とする乾燥納豆食品の製造方法。
【請求項2】
前記乳酸菌は、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)、またはラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)のいずれかである請求項1に記載の乾燥納豆食品の製造方法。
【請求項3】
前記乳酸菌は、液体窒素で急速に凍結したものである請求項1または請求項2に記載の乾燥納豆食品の製造方法。
【請求項4】
発酵させるに際して、常温で一定期間発酵させた後、さらに低温で一定期間発酵させる請求項1から請求項3のいずれかに記載の乾燥納豆食品の製造方法。
【請求項5】
発酵を開始したときの水分含有量を60%〜65%にする請求項1から請求項4のいずれかに記載の乾燥納豆食品の製造方法。
【請求項6】
発酵させた後に乾燥させるに際して、40℃〜80℃の温風により水分10%以下になるまで乾燥させる請求項1から請求項5のいずれかに記載の乾燥納豆食品の製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の製造方法により製造された乾燥納豆食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−226961(P2010−226961A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74867(P2009−74867)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(592197108)徳島県 (30)
【出願人】(502280728)有限会社 ハス商会 (1)
【Fターム(参考)】